衣「耳が聞こえなくなった」back

衣「耳が聞こえなくなった」


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1:
衣「……ん」
衣(朝か……やけに静かな朝だな)
ガチャ
透華「衣、朝ですわよ。って起きてましたの」
衣「ふああ……」
衣(寒いけど仕方ないか。着替えよう)
透華「衣、聞いてますの?」
衣「よいしょ……ん?」
衣(耳が……)
透華「衣?」ユサユサ
衣「うわあああっ!」ガタンッ
3:
透華「だ、大丈夫ですの!?」
衣「いたた……」
衣(なんだ、透華か……いきなり背後から肩をゆすられてビックリしたぞ)
衣(いや、それよりも……)
透華「衣、怪我はありませんか?」
衣(透華が何か喋っているのはわかるがそれが聞こえない……)
衣(なんだこれは……)カタカタ
透華「衣? どうしたんですの衣?」
衣「と、とうか……」
4:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
一「衣の耳が聞こえなくなった!?」
透華「ええ……」
一「そんな……なんで突然」
透華「わかりませんわ。衣が言うには朝起きたときにはすでに……」
純「衣はどうしてんだよ」
透華「部屋で寝ていますわ。もう医者は呼んであります」
智紀「私たちも行く」
透華「よしなさい。衣は誰とも会いたくないと言っていますわ」
純「くっ……」
5:
衣の部屋
衣「……」
衣(聞こえない……鳥の鳴き声も、葉が揺れる音も、布擦れの音も)
衣(……透華の声も)
衣(音のない世界がこんなにもさびしいものだったとは……)
衣「……」カタカタ
衣(ころもはどうなってしまうんだ……)
衣(もし、このまま耳が聞こえないままだったら……)
衣(……やめよう。透華が医者を呼んだんだ。きっとなんとかしてくれる)
6:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
憩「……」
衣「……」
透華「どうですか、先生」
憩「ちょっとこちらへ」
透華「え、ええ」
衣「ど、どこへ行く」
透華「ちょっと先生の話を聞いてくるだけですわ」
憩「……龍門渕さん、天江さんの耳は」
透華「あ、そ、そうでしたわね……」カキカキ
衣(話? いったいなんだ……ここでは話せないことなのか?)
衣(……どちらにせよ今の衣では聞こえないというのに)
透華「すぐ戻ってきますわ」
バタン
11:
透華「先生、衣はどういった病気ですの?」
憩「衣さんは全聾です」
透華「ぜん、ろう……?」
憩「全く耳が聞こえない障害です」
透華「そんな……昨日までなんともありませんでしたのよ!?」
憩「それが不思議なんです」
透華「な、治るんですの?」
憩「……今の医療では不可能です」
透華「そんな……」ガクッ
透華(衣に……衣になんと伝えたら……)
13:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
衣「……」
透華「……」グスッ
衣(ぜんろうとはなんだ……)
衣(ころもの耳が治らないだと……? ふざけるな……)ワナワナ
衣「おい、やぶいしゃ! なおらないとはどうぃことだ!」
憩「……申し訳ありません」
透華「こ、衣……」
衣「はなせ、とうか! ころもはこいつにようがある!」
憩「……」
衣「なおせ! いますぐなおせ!」ジタバタ
衣(いやだ……このまま一生耳が聞こえないなんて御免だ!!)
衣「なおせえええええ!!」
15:
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
純「……衣は」
透華「部屋に籠っていますわ」
純「飯も食ってないんだろあいつ」
透華「ええ」
一「本当にどうしようもないの? もっといい医者に見せてもらえばもしかしたら……」
透華「あの方はかの有名な荒川病院の名医師ですわ。あれ以上の方なんてとても……」
純「ちくしょう……原因もわからないなんて、理不尽ったらないぜ」
透華「……」
一「……衣、本当に一人にしておいていいのかな」
透華「ど、どういう意味ですの?」
智紀「……自殺、とか」
透華「!!」
17:
純「おい智紀!! なんてこと言いやがる!!」
智紀「可能性を示唆しただけ……私も衣が心配」
純「……っ」
一「うん、僕もだよ。やっぱり誰かついてあげた方がいいと思う」
純「……俺が行く」
透華「ですが、衣は頑なに入室を拒んで……」
純「蹴破ってでも入ってやる!」
透華「そんな、乱暴はやめてくださいまし!! 衣は今とても傷ついてるんですのよ!?」
純「うるせえ!」
ドタドタ
一「透華、僕たちも行こう」
透華「ええ……」
純(衣……! 死ぬとか馬鹿なこと考えてねえだろうな!?)
20:
ビュウウ...
衣「……」
衣(もういやだ……)
衣(ころもがなにをしたというんだ……)
衣(音のない世界をこれから何十年も生きていくなんて……衣には耐えられない)
衣「……」ゴクリ
衣(ここから落ちたら、衣も……)
ガチャ...ドタドタ
純「衣っ!!」ガシッ
衣「!」ビクッ
純「なにしてんだ!!」
衣「っ! はなせ!」
純「離すかバカヤロウ!!」
33:
衣「はなせ、はなせ!」ジタバタ
衣(もうころものことは放っておいてくれ!)
純「いいや、はなさねえ!」ギュ
衣「……っ」
純「怖いよな……突然こんなことになって」
衣(……やめろ、なにを言ってるのかしらんが、お前に衣の気持ちなんぞ)
純「でも死ぬなんて考えるな……だって死んだら悲しいじゃねえか」
衣(くそう……純の胸、あったかい……なんでこんなに安心するんだ……)グスッ
純「俺がついててやるから……もう少し頑張れ」
衣(……や、やっぱり……)
衣(やっぱり死ぬのはこわい……)
衣「うぅうう……うぅっ、う……うう……」ポロポロ
40:
ドタドタ
透華「純!」
純「大丈夫だ、衣は無事だ」
透華「よ、よかったですわ……」
衣「……っ」グスッ
衣(みんな……心配してきてくれたのか)
一「衣、……あ、えっと」カキカキ
『衣、僕たちができることなら何でもするよ。だから泣かないで』
衣「はじめ……」
智紀「……」カキカキ
『衣、手話の練習をしよう。私も一緒に勉強する』
衣「ともき……」
56:
透華「衣!」ダキッ
衣「とうか……」
透華「ごめんなさい、衣……ごめんなさい」ポロポロ
純「なに謝ってんだ。そんな言葉、衣だって望んでねえぞ」
透華「そ、そうですわね……」フキフキ
透華「……」カキカキ
『衣、私たちが全力であなたを支えますわ。だって衣は大事な家族ですもの。だから生きてちょうだい』
衣「あ、ありがとう……とうか……」ポロポロ
衣(ころもはなんて愚かなことをしようとしていたんだ……)
衣(こんなにも自分を想ってくれる友人たちに囲まれながら、後ろ向きなことしか頭に浮かんでこなかったなんて……)
衣(本当にころもは幸せ者だ……)
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ベランダ下の中庭
ハギヨシ(私の出番は必要なさそうですね……)
ハギヨシ(あの方たちならきっとこの苦難も乗り越えていけます……がんばってください、衣様)
5

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