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モバP「いつものあいつらに問題児を任せてみる」


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1:
P「ウチの事務所もだいぶアイドルが揃ってきた」
P「だが、人数が多くなると自然と俺の目も届かなくなってくる」
P「当然、何人か手を焼いているアイドルがいるのも否めない」
P「だからといって、そこにかかりきりになる訳にはいかない」
P「……ここはあいつらの手を借りるか」
2:
――――――――――――事務所
夏樹「こんな朝早くに呼び出しってなんだよ?」
木村夏樹(18)
涼「アタシ、昨日の晩に新作ホラー見まくって眠いんだけど」
松永涼(18)
拓海「つまんねー話だったら承知しねえぞ」
向井拓海(18)
P「うむ。お前たちを呼んだのは他でもない。ちょっと手伝ってほしいことがあってな」
夏樹「手伝ってほしいこと?」
涼「プロデュースなんてやったことないよ」
P「そうじゃない。ウチの事務所もだいぶ人が増えてきただろ?」
拓海「まあ、昔に比べたらな」
P「その中には俺の目が届かなくて、練習や普段のレッスンを疎かにしている連中も多い」
涼「うーん、そうかもね」
P「そこでお前たちに、その問題児たちがマジメに練習するよう説き伏せてほしい」
夏樹「問題児?」
3:
P「とりあえず、ここに三人ほどリストアップしてみた。お前らでそれぞれ個別に対応してくれ」
拓海「は? ジョーダンやめろ。なんでアタシらが、そんな先公みたいな真似しなきゃなんねーんだよ?」
P「頼むよ。本来なら俺が対応したいところだが、今はイベントや新人の対応で物理的な時間が取れなくなってるんだ」
夏樹「それはわかるけどさ……」
涼「アタシらだって自分のことあるのに」
P「もちろん、タダとは言わない。うまくやってくれたら、お前らのいうことを一つ聞くから」
拓海「ほう……それは何でもいいんだな?」
P「もちろん、可能な範囲だぞ。ギャラを上げろとか今すぐCDデビューさせろとかそういうのは無しな」
夏樹「まあ、しょうがないか……断る理由もなさそうだし」
涼「アタシら今ヒマだしねー」
拓海「それを言うんじゃねーよ」
4:
『木村夏樹の場合』
――――――――――――応接室
夏樹「さてと……このへんに入ると思うんだけど」
夏樹「おっ? いたいた」
夏樹「よう、元気か?」
乃々「!!」
森久保乃々(14)
夏樹「わりーわりー、驚かすつもりはなかったんだ。勘弁な」
乃々「……あ、あの……」
夏樹「ん?」
乃々「な、なにか……その……」
夏樹「うん」
乃々「……よ、用ですか?」
夏樹「まあ、用ってほどでもねーけどさ。たまには乃々と話してみたいと思ってな」
乃々「は、はあ……」
5:
夏樹「どうした? 迷惑だったかな?」
乃々「い、いや……その……あの……」
夏樹「うん」
乃々「迷惑じゃ……ないですけど」
夏樹「だったらよかった」
乃々「……」
夏樹「なあ?」
乃々「!……は、はい」
夏樹「今日レッスンだよな?」
乃々「……はい……」
夏樹「受けてくるか?」
乃々「歌のレッスン……苦手……むーりぃー……」
夏樹「無理なのか?」
乃々「え?……あ、はい……」
夏樹「うーん。じゃあ、しょうがねえな」
乃々「あ……」
6:
夏樹「ほら、メット」
乃々「え?……」
夏樹「帰るんだろ? 送ってやるよ。ルキさんにはアタシが言っとくよ」
乃々「で、でも……受けなくていいんですか?……その……」
夏樹「だって、今、無理って言ったじゃん」
乃々「言いましたけど……」
夏樹「じゃあ、ここにいてもしょうがねーよ。帰ろうぜ」
乃々「はい……」
乃々(怒ってるんですかね?……表情に出ないのが怖いんですけど)
7:
夏樹「なあ?」
乃々「は、はい!」
夏樹「今日はこの後、何か予定あるか?」
乃々「えっ?……べ、べつに何もないですけど……」
夏樹「ちょっと寄り道していいか?」
乃々「え? あ、あの……」
夏樹「……」
乃々「だ、大丈夫ですけど……」
夏樹「けど?」
乃々「い、いえ……大丈夫……です」
夏樹「そっか。じゃあ、行こうぜ」
乃々「……」
8:
――――――――――――ゲームセンター
夏樹「ここだここ。来たことあるか?」
乃々「えっと……は、はい」
夏樹「じゃあ、やろう。さーって、なにやっかな?」
夏樹「よし! あれにしようぜ」
乃々「UFOキャッチャー……ですか?」
夏樹「前に穂乃香と忍に聞いててな。ちょっと気になってさ」
乃々「木村さんが……ぬいぐるみを……」
夏樹「あっ! 今、似合わねーって思っただろ!」
乃々「ち、ちがいます!……そんなこと……」
夏樹「あはは、冗談だよ。まあ、こんなカッコした女がやってたら変かもな」
乃々「あ、あの……」
夏樹「ん?」
乃々「いえ……や、やりましょう」
夏樹「そっか、じゃあやろうぜ」
10:
――――――――――――30分後
夏樹「乃々すげーな! 大漁じゃん?」
乃々「えっ……そんなこと……」
夏樹「アタシだめだったもんなー」
乃々「あの……どれか、あげます……」
夏樹「いいのか?」
乃々「もう、たくさんあるし……」
夏樹「そっか、サンキュー。どれがいいかな?」
乃々「じゃあ、これで……」
夏樹「え? このクマでいいのか? 残りはそのブサイクな緑の奴だぞ?」
乃々「あ、はい……いいです」
夏樹「ありがとな。乃々」
乃々「はい……へへへ……」
11:
夏樹「今度はこれやろーぜ」
乃々「……ぎたー……げーむ?」
夏樹「そうそう。アタシこの音ゲー好きなんだよ」
乃々「なんか……すごそうです……」
夏樹「まあ、見てなって」
♪?
乃々(すごい……全部ピッタリ)
12:
――――――――――――30分後、ファーストフード
夏樹「ふーっ、スッキリした! やっぱゲームでもギターは最高だな」
乃々「あ、あの……ジュース……おごってくれてありがとうです」
夏樹「ああ、いいんだよ。気にすんな。付き合ってくれたお礼だよ」
乃々「そんな……でも、ギターゲーム……すごかったです」
夏樹「そうか?」
乃々「木村さんの後ろ……たくさんお客さん見てました」
夏樹「あー、そうだったな」
乃々「あの……」
夏樹「ん?」
乃々「その……」
夏樹「……」
乃々「き、木村さんは……あんなにお客さんに見られて……恥ずかしいとおもったことありますか?」
夏樹「んー、特に思ったことないな」
13:
乃々「もりくぼは苦手ですから……みんな、もりくぼのことダサいとか暗いとか思ってそうですし……」
夏樹「そんなことないと思うけどなー」
乃々「そうですか?」
夏樹「まあ、そりゃあさ、個人が何を思おうと自由だよ」
夏樹「多分アタシを見てた奴の中には男なんじゃね?とか思ってた奴もいるだろうし」
乃々「……」
夏樹「でもさ、アタシはアタシだ。誰がどう思っていようが自分は変わらない」
夏樹「いつものように歌ったり演奏したり、今日みたいにゲームしたりするだけ」
乃々「……自分は……自分」
14:
夏樹「今日は乃々といっぱい話せてよかったぜ。普段から話しておくんだった」
乃々「……その」
夏樹「うん」
乃々「もりくぼは……木村さんとお話するの……楽しいです」
夏樹「ありがと。アタシも楽しいよ」
乃々「今まで……もりくぼとお話する人……イライラしてました」
夏樹「そうなのか?」
乃々「はい……もりくぼは話がおそくて……何が言いたいかわからないって」
夏樹「……」
乃々「だけど、木村さんは……必ずもりくぼが言い終わるまで……待ってくれて」
乃々「すごくうれしかったです」
15:
夏樹「別に特別なことしてないよ。アタシは乃々がどう思ってるか聞きたかっただけ」
乃々「もりくぼが……?」
夏樹「バンドとかやってっとさ、よくあるんだよ。メンバーでもハードなロックがいい!メタルは嫌だ!とかさ」
乃々「……」
夏樹「そりゃさ、うるせー黙ってやれ!って言えば、簡単だけど何も進まない。嫌々やるから大したパフォーマンスはできない」
夏樹「それよりじっくりお互い話し合って、納得した上でやるほうがいいんだ。時間はかかって、練習も大変だけどさ」
乃々「涼さんや……拓海さんも、そうですか?」
夏樹「あいつら? んー……まあ、あいつらもケンカばっかして大変だけど」
乃々「…ですか」
夏樹「でも、あいつらも根っこは同じだからな。話しあえばちゃんとわかってくれるよ」
乃々「……」
夏樹「別に乃々がレッスン受けたくないならそれでもいいと思う。誰にでもキツイときはあるしな」
乃々「……」
16:
夏樹「色々、付きあわせて悪かったな。家まで送るから帰ろうぜ」
乃々「今日は……一人で帰ります……その……」
夏樹「ん?」
乃々「よ、よかったら……明日……」
夏樹「うん」
乃々「い、一緒に……事務所……行きませんか?」
夏樹「おう! お安いご用だ」
乃々「えへへ……」
17:
『松永涼の場合』
――――――――――――事務所
涼「んと……この辺りだと思うんだけど……」
涼「おお、いたいた。やっぱ机の下か」
涼「よう、元気か?」
輝子「…………フヒ?」
星輝子(15)
涼「なんか久々だな。最近どうしてた?」
輝子「……き、キノコ育ててた……フヒ」
涼「おー、そうだったのか。どう、あれから増えた?」
輝子「増えた……はっ!」
ささっ
涼「なんで隠すんだよ?」
輝子「マイフレンズ……食べない?」
涼「大丈夫だよ。今日はフェイフェイいねーし、食わねーから」
輝子「よ、よかった……」
18:
涼「なあ、そろそろレッスンだろ? 行かないのか?」
輝子「……」
涼「ん? どした?」
輝子「こ、この子たち……心配……」
涼「キノコって放置してるだけじゃダメなのか?」
輝子「……う、うん」
涼「じゃあ、アタシも一緒にいるわ。ちょっと詰めてくれるか?」
輝子「え?……え?……え?」
涼「よいしょっ……と。さすがに二人じゃ狭いか?」
輝子「フヒ……だいじょうぶ」
19:
涼「なあ?」
輝子「?」
涼「キノコ育てるのって楽しいのか?」
輝子「…………」
涼「あー、聞き方悪かったな。ごめん。別に貶してるわけじゃないんだ」
涼「どういうところが一番楽しいのかな、って単純に思っただけだよ」
輝子「……この子」
涼「ん?」
輝子「こ、この子たち……毎日、違う顔見せてくれる……」
輝子「おおきくなったり……形が変わったり……楽しい……フヒ」
涼「なるほどな……ん? このラジカセはなんなんだ?」
輝子「音楽聞かせてる……フヒ」
涼「キノコも音楽わかるのか?」
輝子「シイタケ農家の人も……ハウスでクラシック聞かせてる人もいるって……」
涼「へえ、不思議なもんだな」
20:
輝子「この子たち……ヘヴィメタル聞いてるから……元気、フヒ」
涼「はははっ、そりゃいいや。今日は何を聴かせるんだ?」
輝子「これ……」
涼「あれ? これって?」
輝子「し、しってる?」
涼「ロンドン出身のあのバンドだよな? ボーカルはハードロックのバンド組んでたんだけど、脱退して今のバンド組んだとか」
輝子「そ、そう!……昔のバンドが自分の原点って言ってた」
涼「そうそう、いい曲出してたんだけどな」
輝子「もう聞けない……廃盤になって……権利関係でもう出せないって」
涼「アタシ、CD持ってるぞ」
輝子「えっ?!」
涼「聞きたい?」
輝子「うん……聞いてみたい……フヒヒ」
涼「じゃあ、うちに来なよ」
輝子「えっ?」
涼「なんか用事あんの?」
輝子「べ、別にないけど……いいの?」
涼「おう、ついでにキノコにも聞かせてやろうぜ」
輝子「フヒ……この子も一緒に……ありがとう」
21:
――――――――――――涼の部屋
涼「さあ、どうぞ。ちょっと片付いてないけどあがってくれ」
輝子「お、お邪魔します……」
涼「今、お茶入れるよ。その辺でくつろいでてくれ」
輝子「ありがとう……」
輝子(涼さんの部屋……きれい)
輝子(アーティストのポスターに映画?……なんか、女の子の部屋っぽくない)
22:
涼「お待たせ。烏龍茶でいいかな?」
輝子「あ、ありがとうございます」
涼「なあ、輝子はいつも何飲んでるんだ?」
輝子「紅茶キノコ……自分で育ててる」
涼「ああ、なんか聞いたことあるな。美味いのか?」
輝子「健康に良い……」
涼「へえ、アタシもやってみようかな?」
輝子「!!……それなら、私の分けてあげる……」
涼「お? マジで? サンキュー」
輝子「フヒ」
23:
涼「はいよ、これが言ってたCDな」
輝子「おおお……感激……」
涼「聞いてみるか?」
輝子「う、うん!」
?♪
涼「どうだった?」
輝子「ところどころ、それっぽさが残ってる……聞いてよかった」
涼「ははは、そりゃよかった。キノコも喜んでるか?」
輝子「うん……この子、うれしそう」
涼「さすが輝子の友達だな。よくわかってる」
24:
輝子「キノコノコ? ボッチノコ? ♪」
涼「なあ」
輝子「はい?」
涼「その『ぼっち』って、一人ぼっちって意味なのか?」
輝子「……」
涼「ああ、聞いちゃいけなかったかな? 無神経でゴメンな」
輝子「いや……大丈夫……」
輝子「私……こんな姿だし……キノコに話してたりするから……誰も相手してくれなくて」
輝子「が、学校とかでも……体育館の裏とか……そういうところいるの……すき」
涼「……」
輝子「あ、あ、で……でも……寂しくない……マイフレンド……この子たちいるから」
輝子「ごめん……暗くなっちった……フヒ」
涼「……」
25:
涼「輝子」
輝子「ん?」
涼「アタシもキノコ育ててみていいか?」
輝子「……涼さんも? どうして?」
涼「この子たちってさ、音楽聞いたりするんだろ?」
輝子「う、うん」
涼「じゃあさ、アタシの好きなホラー映画見せたらどうなるかな?」
輝子「わかんない……試したことない」
涼「なんか初心者向けの育成キット?そんなのあればだけどさ」
輝子「……」
涼「どうかな?」
26:
輝子「じゃ、じゃあ……この子、貸してあげる」
涼「いいのか? これって輝子の大切な友人だろ?」
輝子「大丈夫……他の子たちのお世話もあるし……たまにはお出かけしたいと思うし、それに」
涼「それに?」
輝子「涼さんなら…この子たちも…安心」
涼「そっか。ありがと。大事に育てるよ」
輝子「フヒ……」
涼「なあ、この鉢にいるキノコで、輝子はどれになるんだ?」
輝子「わ、私?」
涼「そう。それに向かって見せてやろうと思ってさ」
輝子「ふ、ふふふ……じゃあ…こ、これ……この小さいやつ」
涼「オッケー。じゃあ、今夜こいつにあたしの好きな映画見せて、好きなロックを聞かせてやるよ」
輝子「う、うん……」
輝子(あの子たちと離れるのは……寂しいけど……涼さんなら)
27:
――――――――――――翌日、事務所
輝子「今日も……お世話の時間……」
輝子「あの子たち……大丈夫かな……」
ばあん
涼「輝子! 輝子! いるか?!」
輝子「こ、ここ……どうしたの?」
涼「おおっ! 見ろよ、これ!」
輝子「マイフレンドのいる鉢……?」
涼「ほら、ここ! このキノコの根元見てみ?」
輝子「!……一本生えてる」
28:
涼「だろ?! 昨日さ、あれからテレビの前にこれ置いてホラー映画再生させたあと、寝るときもアタシの好きなロックかけてたんだ」
涼「そしたら、今朝見たら出てきてた!!」
輝子「すごい……キノコ……成長度早いけど……こんな早いの珍しい」
涼「あと、気づかないか?」
輝子「??」
涼「これさ、昨日輝子が自分だって言ってたやつだぜ」
輝子「あ……そうだ」
涼「じゃあさ、これがアタシだな」
輝子「え?」
29:
涼「ホラー見せてロック聞かせて生えてきたんだ。これがアタシでもおかしくないよな?」
輝子「うん……涼さんも……フヒ……」
涼「これで、もうぼっちじゃないよな」
輝子「!!」
涼「一人きりだってさ、アタシがいるだろ?」
輝子「……涼さん」
涼「いやー、よかった。キノコ育てるのって楽しいな」
輝子「うん……」
涼「誰かに自慢したくなってきたぞ。見せびらかしに行ってこよっと」
輝子(涼さん……ありがと……)
30:
『向井拓海の場合』
――――――――――――とある民家の前
拓海「地図によると……ここだな」
拓海「っしゃ!! 行くぜ!!」
ピンポーン
31:
――――――――――――家の中
杏「あつーい……だるーい……」
双葉杏(17)
ぴんぽーん
杏「おかーさーん、誰かきたよ?」
ぴんぽーん
杏「いないのか……こんな時にだれ? ドアモニターはと……」
ぴっ
杏「げっ!! 向井拓海!! 何しに来たんだよ?……めんどくさいな」
32:
ぴんぽーん
杏「あーもう、うるさい」
かちゃ
拓海『あ! あ、あのすいま』
杏「おかけになった番号は現在電源が入ってないか、電波が届かないためおつなぎできません」
拓海『は? なn』
がちゃ
杏「まったく、何しに来たんだか」
33:
杏「ふうぅ……さてと、二度寝するかな……」
ばあんっ
拓海「おらっ!! てめえ!!」
杏「ぎゃーっ! な、なんで勝手に入ってくんのさ!!」
拓海「さっき、外でお前のおふくろさんに会ったんだよ。事情話したら是非連れてってくれってな」
杏「ぐぬぬ……」
拓海「おし、出かけるぞ。準備しろ」
杏「は? どこに?」
拓海「事務所だよ。レッスン行くぞ」
杏「えーやだー。めんどくさーい」
拓海「うっせ! そういう決まりだろ!」
34:
杏「杏、レッスンするとお腹が痛くなる『レッスンだめだめ病』にかかってるんだ。お医者さんに止められてる」
拓海「ねーよ、そんな病気!!」
杏「歩きたくなーい」
拓海「バイクで来たから送ってやる」
杏「なんであんたがそこまですんのさ? Pから頼まれたの?」
拓海「べ、別に! そんなんじゃねえよ……」
杏「赤くなってる。わっかりやすー」
拓海「うるっせえ!! メットかぶれ! すぐ行くぞ!」
杏「あー……もう……」
35:
――――――――――――事務所前
拓海「おら、ついたぞ。降りろ」
杏「めんどくさいなあ」
拓海「黙れ。ちゃっちゃと歩け」
杏「わかったから、手引っ張るなよー」
36:
――――――――――――事務所
ばあんっ
拓海「おらっ! P!」
P「おう、拓海。どうした?」
拓海「どうしたじゃねーよ。連れてきたぞ」
P「連れてきた? 誰を?」
拓海「誰って、そりゃあ……」
拓海「あいつは忍者かっ!」
がらっ
あやめ「忍者?!」
浜口あやめ(15)
拓海「呼んでねえよっ!! 天井からいきなり出てくんな!!」
37:
――――――――――――応接室
杏「あー涼しい……このまま、静かにソファでゆっくりしたいねえ」
ばあんっ
拓海「てめえ……やっぱここにいやがったな」
杏「あー、うるさいのが来た」
拓海「うっせえ! 今度は離さねえからなっ!!」
杏「あーわかった、わかった。行くから」
拓海「マジだろうな?」
杏「マジ、マジ。それよりさ、先にシャワー浴びさせてよ。杏、服ベタベタだよ」
拓海「また逃げる気だろ?」
杏「逃げないってば」
拓海「どうも信用できねぇな」
38:
――――――――――――シャワー室
杏「どこまでついてくんのさ?」
拓海「目の前までだ」
杏「一緒に入る気? そういう趣味?」
拓海「誰がだ!? シャワー個室の目の前で見張ってる。逃げられないようにな」
杏「信用ないんだね。杏、悲しい」
拓海「今までのお前の行動のどこが信用出来んだよ!?」
杏「ちっ、おせっかいめ」
拓海「なんか言ったか?」
杏「なーんにも」
39:
しゃー
杏「あのさ」
拓海「あんだよ?」
杏「一つ聞いていい?」
拓海「おう」
杏「アンタ、どうしてアイドルなんてやろうと思ったの?」
拓海「……」
杏「バリバリのヤンキーが、なんの気の迷いでアイドルなんかに?」
拓海「特に……意味はねーよ」
杏「嘘だね。杏にはわかる」
拓海「は?……言ってみろよ」
杏「Pだね。アイツにコロっといっちゃっただろ?」
拓海「ち、ち、ちげーよっ!!!」
杏「……」
40:
拓海「むしろアイツにはムカついてんだ! 嫌だって言ってんのに強引に引っ張り込みやがって……」
杏「……」
拓海「アタシだって、本当はすぐ辞めてやるつもりだったさ。だけど……」
拓海「でも、アタシの仕事にみんな喜んでくれた……夏樹や涼も、ファンも、Pも……」
拓海「だったら……少しくらいならやっても……」
拓海「…………」
拓海「……ん?」
しゃっ
拓海「あのガキ! どうやって逃げやがった!? エスパーかよ!?」
裕子「エスパー!?」
堀裕子(16)
拓海「呼んでねえってんだろ!!」
41:
――――――――――――通風口
杏「ふふふ、杏を甘く見たね。シャワー室の天井には通風口があるんだよ」
杏「ここを抜けるとトイレから外に出られる」
杏「脳筋女を騙すなんてチョロいチョロい」
42:
――――――――――――トイレ
杏「よし、ここだな」
がたっ
杏「とうっ」
すたっ
杏「着地成功。さて、どうやって……」
???「にょわー☆」
杏「へ?」
きらり「空からあんずちゃんが降ってきたにぃ! なにそれすごーい☆」
諸星きらり(17)
杏「げえっ! きらりっ!!」
きらり「きらり、さいきんおりこうにしてたから、神様がご褒美くれてんのー! うきゃー!」
杏「違うっ! と、とりあえず、離せっ!!」
ばあんっ
拓海「ようやく見つけたぜっ!!」
杏「あぁ……」
43:
――――――――――――廊下
拓海「なんでいつも逃げようとすんだよ?」
杏「なんでいつも追いかけてくんのさ?」
拓海「とりあえず、レッスンいくぞ」
杏「うげえ……あのさ」
拓海「あんだよ?」
杏「肩車やめてよ。自分で歩くからさ」
拓海「ダメだ。また逃げられたら面倒だ。こうやって足を掴んでれば逃げらんないだろ」
杏「ちぇ」
44:
拓海「お前さ……」
杏「ん?」
拓海「なんでそんなにアイドル辞めたいんだ?」
杏「決まってんじゃん。面倒くさいから」
拓海「そもそも、アイドルになろうと思ったのはなんでだよ?」
杏「愚問だね。CDが売れたり、本や写真集売れたりすれば印税が入るじゃん。働かなくても儲かるし楽々だよ」
拓海「……嘘つけ」
杏「なんでよ?」
45:
拓海「お前はだらしねえ奴だが、頭は切れる。単純に金を儲けるなら他の方法でも良かったはずだ」
拓海「それこそ、アイドルなんて当たり外れの多い職業だ。売れるために必死こいて努力する仕事なんて選ぶはずねえ」
杏「……」
拓海「結局、お前もアタシと同じなんだろ?」
杏「どういう意味さ?」
拓海「嫌々入ったアイドルの世界でも、いつの間にかやりがいを見つけちまって……結局抜けられなくなっちまった」
杏「……ふん」
46:
拓海「さっき、何であたしがアイドルやってるか聞いたろ?」
杏「うん」
拓海「簡単なことさ。見たことねえてっぺんが待ってるなら、そこにたどり着いてみたくなっただけだ」
杏「てっぺんねえ……」
拓海「お前はクソムカつく嫌なガキだけど……正直、あたしは嫉妬してるのかもしんねえな」
杏「は?」
拓海「認めたくねえけど、お前は歌もダンスもあたしより断然上だ」
拓海「あたしが目指すてっぺんまで手が届く所まで来てる」
拓海「やれば出来るのにやらねえのは、ムカついてな」
杏「……」
47:
拓海「まあ……でも、よく考えたらあたしの押し付けなのかもな」
拓海「お前はお前のペースでやるのが、合ってるのかもしれねえな」
杏「……あのさ」
拓海「あんだよ?」
杏「そんなにてっぺんに行きたいの?」
拓海「あたりめーだろ」
杏「じゃあ、コーチしてやろうか?」
拓海「は?」
49:
杏「トレーナーさん達がいるとはいえ、個人一人一人にみっちり教えるには時間足りないでしょ?」
拓海「そうだけどよ……マジか?」
杏「杏は天才だからね。コーチ料は飴でいいや」
拓海「なんだそりゃ。それで、てっぺんとれなきゃどうすんだよ」
杏「あんたと一緒に腹でも切るか」
拓海「ははは。武士かよ」
杏「呼んでないよ」
拓海「は? 誰に言ってんだ?」
杏「べつにー。誰か隠れてると思ってさ」
仁美「…………」グスン
丹羽仁美(18)
50:
――――――――――――数日後、事務所
P「こいつは驚いた……こんな短期間であいつらをレッスンに出させるなんて」
P「お前たち、やっぱりすごいな。一体何やったんだ?」
夏樹「さあね」
涼「大したことやってないよ」
拓海「あたしらもよくわかってねえけどな」
P「とにかくよかった。それで約束の件だが……」
夏樹「ああ、その事だけどさ、あたしら三人で全員同じなんだ」
P「マジか。それでもいいけど、あんまり高いのは勘弁してくれよ。給料多いわけじゃないんだから」
拓海「別にメシをたかるなんて言ってねーだろ?」
P「そうなのか?」
涼「簡単なことだよ」
P「?」
夏樹・涼・拓海「あたしら三人、あいつらと一緒に同じレッスンを受けさせてくれ」
おわり
5

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