キョン「俺も歳をとったなあ」back

キョン「俺も歳をとったなあ」


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1:
会社を出て、騒がしいネオン街を歩く。
今日は友人と飲む予定だったので、なるべく仕事を長引かせないように前日からできることはやっておいた。
そのおかげで、久しぶりに残業せずに退社することができた。
女子社員達がさっそうと帰宅する中、痛む腰を叩きながら仕事をしなくてもいいのだ。
会社から100メートルほど歩くと、よく使用するコンビニがある。
ここのホットメニューは中々気に入っているのだが、若者がたむろしているので夜に入店しようとは思わない。
今日もまた、大きな声で笑う茶髪の集団がいる。
チャラチャラとアクセサリーを鳴らし、聞き慣れない若者言葉を交えながらしゃべっている。
「そんなとこにいないで親孝行の一つでもしろ」
などと、心の中で吐き捨てるのだが、実際はなるべく目を合わせないように恐る恐る側を通る自分がいた。
そんな時に俺は、「大人が子供に委縮する時代になってしまったんだなぁ」なんて、
いかにもおじさんが言いそうなことを考えてしまう。
そして同時に、俺もそんな年齢になったんだな、と苦笑いするのだ。
2:
ネオン街を抜け、落ち着いた雰囲気の道をしばらく歩くと、目的の店が見えてくる。
この辺りにくると、目に着くのは若者ではなく酔っ払いの方だ。
ここでも俺は絡まれると面倒なので、人々を避けて通る。
酔っ払いというのは、時に若者よりもタチが悪い。
思えば、大人になるにつれて我慢することが増えたなあと、しみじみ感じるのであった。
 赤いちょうちんに書かれた『焼鳥』という言葉を目印に、俺はのれんをくぐる。
後ろ手に扉を閉めながら約束していた友人の姿を探していると、ものの2秒で店の奥のカウンター席にその姿を発見した。
歳をとっても整ったままの顔立ちが、笑顔で手を振っている。
俺は上着を脱ぎながらその隣に座った。
「よう、待ったか? 古泉」
久しぶりに見る級友の顔が、嬉しそうにほころんだ。
3:
「とりあえず生を」
と、もはや常套句となったセリフを言いながら、俺はおしぼりで手を拭いた。
「なんだ、俺が来るまで注文待ってたのか?」
という俺の質問に対して古泉は、
「ええ、やはり乾杯は一人ではできませんから」
と、笑って応えた。
それから少しして、俺と古泉の前に生ビールが運ばれてきた。
それを見て、ついうっかり「おっ、きたか」と、これまたおじさんくさい事を言ってしまった。
「久しぶりの再会だ。言うまでもないが、楽しく飲もう。乾杯」
そうして、俺と古泉の飲み会が、ひっそりと始まった。
4:
「それにしても、あなたはいくつになっても変わりませんね」
ジョッキにつけた口を離すと同時に、古泉がそう言ってきた。
それに対して、俺は、
「そんなことはない」
と、苦笑いしながら返した。
そんなことはない、俺は変わった。
確かに、表面的に見れば俺は何も変化がないのかもしれない。
しかし、人生で一番といっていいだろう。俺が楽しんでいたあの時期に感じていた胸の高鳴りは、もう俺の中にはない。
今は、朝起きて会社に行き、部下の面倒を見ながら仕事をし、腰の痛みに耐えながら電車に揺られて帰る。
これの繰り返しだった。以前、会社の部下に、
「先輩って趣味とかあるんですか?」
と聞かれ、『晩酌』と答えたことがある。これには我ながら呆れてしまった。
晩酌など、ないも同然だ。考えてみると、俺には趣味という趣味があったためしがない。
部長に釣りでも行かないかと誘われたこともあるが、適当に理由をつけて断ってしまった。
「古泉、なんか趣味とかあるか?」
以前部下にされた質問を、そのまま古泉に投げ掛けてみた。
6:
すると古泉は、あっさりとこう答えた。
「趣味ですか? ええ、ありますよ」
聞けば、高校生時代に碌に遊ぶことができなかった反動で、様々なものに手を出しているらしい。
それはマウンテンバイクから始まり、ソフトテニス、さらにはシュノーケリングに至るまで、色々な趣味を羅列していった。
なんとまあ元気な中年がいたもんだと感心したのだが、こいつはどちらかというと、
「中年」という表現よりも「かっこいいお父さん」と言った感じだ。
なんとも羨ましい。それに、こいつには美人な奥さんまでいやがる。
「僕の中では、嫁というより今でも上司といった感じですけどね」
と苦笑いする古泉に、一日でもいいから嫁を交換してくれと言ったら、やつは笑っていた。
割と、真剣に言ったつもりだったんだがな。
7:
「あなたは苦労していそうですもんね」
全く、その通りだ。反論する意味もないほど、お前の言う通りだ。
「あれは鬼嫁なんてもんじゃない。もっと違う何かだな」
「しかし、優しい一面もあるでしょう?」
「子供が生まれるまではな。できてからは、もうな」
そう言いながら、ビールをグビッと飲む。喉を通る冷たい感触が、妙に染みた。
「しかし、もうそろそろ40歳ですか……早いもんですね」
本当に、早い。時の流れとは、俺の意思とは無関係に颯爽と過ぎていってしまう。
いつの間にか思い出となってしまっていたあの日々が、今ではとても貴重に思える。
毎日毎日馬鹿をやっていた。古泉はそういう訳にもいかなかっただろうが、
俺は――この言い方自体も懐かしいのだが――極めて普通の人間だったので、過ぎていく日々を呑気に過ごしていた。
忙しなかったと言えば忙しなかったかもしれないが、不思議なことに、深く記憶に残っているのは
あり得ない超常現象やヘンテコな映画撮影などではなく、何のことのない、普通の日々の方だった。
8:
「朝比奈さんは、元気にしてるだろうか」
俺がボソッとそう呟くと、古泉も感慨深くなったのか、妙にしんみりとしてしまった。
まだ生まれてもいないだろう未来人に向かって、「元気にしてるのか」なんて意味のない言葉だが、
俺達二人が昔を振り返るキッカケとしては、十分な要素を持っていた。
SOS団の結成、宇宙人・未来人・超能力者の存在、巨大な閉鎖空間。
映画撮影、繰り返す夏休み、学祭、長門の世界、雪山、佐々木達、誘拐事件……。
挙げきれないほど、たくさんのことがあった。
「卒業式の日は、昨日のことのように思い出せますよ」
指を組み、その上に顎を置く古泉。確かに、俺も卒業式は鮮明に覚えている。
「まさか、あいつがあんなに泣くとはなあ」
俺のその言葉に、古泉が相槌を打った。
「僕も、驚きました」
9:
あれは、長い長い卒業式が終わってからのことだった。
俺達は、まるで明日もここに集まるかのように、自然と文芸部室へ集まった。
古泉とボードゲームをし、長門が本を読み、急遽駆け付けてくれた朝比奈さんのお茶を飲み、ハルヒが来るのを待っていた。
30分くらい経ってからだろうか、いつものように勢いよく扉が開き、ついに俺達の団長が現れた。
その手には卒業証書の入った筒が握られ、興奮気味に息を切らしていた。
「全員いるわね! じゃあ、今からSOS団の卒業式を行います!」
今でも忘れない。内容は、とても単純だった。
ただ、一人ずつ、思いを吐き出すだけというもの。
これまで3年間、このメンバーで過ごしてきて、どうだったか。今、何を思っているのか。
それを、各々発表していった。
そうして、最後に、ハルヒの順番が回ってきた。
「あたしは、何があっても皆のことは忘れないわ。今までたくさん、ありがとね。
 只今をもって、SOS団を、解散します」
そう宣言するハルヒの頬は、何重にも重なる涙の後で、キラキラと光っていた。
その後、わんわんと泣きながらハルヒにしがみつく朝比奈さんの頭を撫でながら、
ハルヒは笑っていた。依然涙は枯れていなかったが、ハルヒは確かに笑っていた。
11:
そしてこの後のことは……できれば割愛させていただきたい。
のだが、隣に居る古泉がどうもそれを許してくれそうにないので、仕方なく話すこととする。
 朝比奈さんがひとしきり泣いた後、谷口や国木田を含む全員で打ち上げに行くことになった。
お店に入り、ほどよく盛り上がってきたところで、俺はハルヒを店の外に呼び出したのだ。
これまでの人生で、あれほど緊張したことはなかったように思う。
緊張をほぐすために、会社の面接の前に思い出したくらいだ。
まあ、顔が火照ってしまい逆効果だったのだが。
 雪はもう地面に残ってはいないが、まだまだ肌寒かった。
緊張し、中々顔を上げることのできない俺に、ハルヒは
「なんなのよ、早く言いなさいよ」
と、呑気に言った。
その言葉で、そんなに急いでほしいのなら、いいさ。言ってやる。と意気込んだ俺は、
火照る頬をなるべく無視しながら、できるだけ勢いよく言った。
「好きだハルヒ! 付き合ってくれ!!」
自然とお辞儀していた俺は、下げた頭を上げようともせず、ただただ目をぎゅっと瞑った。
しかし、いくら待っても返事がない。不審に思った俺は、ゆっくりと顔をあげた。
そこには、俺と同じくらい……いや、俺以上に真っ赤になったハルヒがいた。
12:
「キョ、キョン……あ、ああんた、何を……」
体を後ろに引き、あからさまに驚いているハルヒ。そんなにも、俺が告白することがおかしいのだろうか。
「もう一度言うか? ハルヒ、俺はだな」
少しヤケになっていた。玉砕覚悟でもう一度繰り返そうと思ったのだが、ハルヒの必死な身振り手振りにより、俺の発言は制止させられた。
「……どうなんだ? やっぱり、ダメか?」
ならばと、尋ね方を変えてみたのだが、この問いかけに対してハルヒは、
「ダメな訳……ないじゃない」
と、小さな声で、俯きがちに応えてくれた。
その言葉があんまり嬉しくて、俺は反射的にハルヒを抱きしめていた。
13:
「やった! やったぞ! ハルヒ!!」
しかし、俺はこの行動を未だに後悔している。
というのも、その瞬間、店の扉から束になった谷口達が流れ落ちてきたのだ。
なんと、人の告白を盗み聞きしていやがった。
「いやーハハハ……O、O、O、おめでとう?……なんつって
 ……ひいぃ! すまん! すまんキョン!!」
谷口のセリフから、粗方分かってしまうだろうが、その後のことはご想像にお任せする。
14:
「あはははは! 本当に懐かしいですね!」
「笑いごとじゃねぇ! お前も共犯なんだぞ古泉」
「いやーははは、すいません。でも、どうしても気になってしまって」
そう言いながら困ったように後ろ髪を掻く古泉を見て、俺は呟いた。
「しかし、本当に楽しかったなぁ」
その俺の言葉に、古泉も頷く。
「ええ、今でも戻りたくなりますよ。あの時に」
「お、まだ神人と闘う元気が残ってやがったか」
さっきの仕返しのつもりで、冗談っぽく笑ってやった。
15:
「あなたの告白がキッカケでしたね。涼宮さんの能力が無くなったのは」
「ああ、そうらしいな」
これは後から聞いた話なのだが、先程古泉が言った通り、どうも俺の告白がキッカケで
ハルヒはその願望実現能力を失うことになったらしい。
どうやら、『ハルヒの願望が全て実現されてしまったから』とのことだった。
「いやしかし、今でも家内は……いえ、森さんはその時の話をしますよ。
 本当に、あなたには感謝しているって、ね」
「そうか。別に俺は何もしちゃいないんだがな」
「あなたらしいですね」
「俺は好きなやつに告白しただけだ。何もお前らを助けようとした訳じゃない。
 それを『俺のおかげだ』なんて、いちいち言えないだろう?」
正直な気持ちだった。
俺は未だに、町で突然見知らぬ人にお礼を言われることがある。
それは決まって以前機関に所属していた人間なのだが、俺の方は何もしたつもりがないので、正直困ってしまうのだ。
「それでも、我々の感謝の気持ちを受け取ってくださると嬉しいです。
 こちら側としては、あなたを鍵として重要視していた訳ですから、自然とそういう感情になってしまうのですよ」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんなんです」
16:
それからも、俺達はたくさん話をした。現状や、尽きない昔話。
古泉は、参観日の作文に息子が自分のことについて書いてくれたのを特に喜んでいた。
そうしていくらか時間が経った後、古泉が唐突にこんなことを言い出した。
「いや、今日は楽しい! 本当に!」
立ち上がる古泉を抑制し、俺は呆れながら言った。
「よせ、恥ずかしいだろ」
「いいじゃないですか、たまには。普段ため込むことの方が多いんです。
 こんな時くらいは、正直に思いをぶちまけましょうよ」
そう言いながら、古泉は笑った。
雰囲気に飲まれたのかもしれない。昔話に花が咲き、いつもより酔いがまわってしまったのかもしれない。
俺は「そうだな、たまにはな」と頷くと、その手に3杯目になるであろう生ビールを持ち、
勢いよく立ちあがった。
「今日は最高だ! 本当におもしろい!!」
店中の注目を集めたのだが、今の俺はそんなことを気にしなかった。
なぜなら、古泉が続いてくれたからだ。
「ええ、本当に! 素晴らしい夜です!!」
店主の面倒そうな顔と、他の客の迷惑そうな視線を背中に受けながら、
俺と古泉は肩を組んでその店を後にした。
18:
外の風を受け、少しだけ落ち着いた俺は、今や涙を流している古泉を支えながら歩いていた。
「本当に……良かったですよ……うぐっ……あなた達に出会えて……」
「ああ、そうだな。そうだよなぁ」
フラつくその足を地面と闘わせながら、古泉の言葉に頷く。
「感謝しているのですよ……僕は。
 ひぐっ……高校生の時は恥ずかしくて言えませんでしたけど、……あなたのことを
 ……うぐっ……ゆ、唯一無二の親ゆ、ひぐっ……親友だと……思っていたのですよ」
「そうか、嬉しいぞ、古泉」
「あな、あなたは……あなたも……」
「ああ、もちろんお前と同じことを思っていたさ。感謝してる」
「あはは……本当に、最高だぁ!! 今日は、良い日だなぁ!!」
真っ赤な顔でそう叫ぶ古泉を見て、俺は呆れながら笑った。
でも、胸の奥のどこかには、確かに温かい感情が湧きでていた。
俺は、本当に良い友人を持ったなあ、と感じていた。
19:
俺と古泉が駅に着くころには、もう電車が残っていなかった。
仕方なくタクシーで帰ることにした俺達は、駅前で止まっているタクシーに声を掛けた。
「それじゃあ……またな、古泉」
「はぁい! 絶対に、また飲みましょう! 今度は嫁込みで!! なんちゃって!」
まだ酔いが全開な古泉に苦笑しながら、俺はタクシーの運転手に古泉の家のある場所を伝えた。
そして、古泉を車に乗せると、「お願いします」と一声かけ、車を出してもらった。
古泉がフラフラな状態だったせいで、十分な別れのあいさつができなかったので、
俺は携帯電話を取り出し、メールを送信しておいた。
『また飲もう』とか、そんな感じだ。
20:
そうして俺もタクシーに乗り込み、自宅へと帰宅した。
時刻は0時45分を過ぎたところだ。我が家の明かりは、点いていない。
当たり前か。
チャリッと音を鳴らせ、スーツのポケットから自宅の鍵を取り出す。
玄関の扉を開け、「ただいま」と小さな声で呟き、足を踏み入れた。
テーブルの上には、「あたためて食べてね」と書かれた紙と一緒に、簡単な食事が用意されていた。
今日は飲みに行くと伝えたはずなのだが、忘れていたのだろうか。
俺はクスッと笑うと、なるべく音をたてないように寝室へ向かった。
 扉を開けると、静かに上下に動く2つの身体が見えた。たまらず、顔を覗き込む。
「良い顔してるよなあ」
娘と妻の寝顔は、とても似ている。俺に似なくてよかったと、本当にそう思う。
「あなた、帰ってきたの?」
「おっと、起こしたか、すまんな」
「ううん」
薄いピンクのパジャマの上に羽織ったカーディガンをなおしながら、妻がベッドからおりてきた。
21:
「ご飯あるけど、どう?」
「いや、いいよ。今日は飲みに行くって言ってなかったか?」
「いつもの接待じゃないの? 満足に食べられないと思ったのよ」
「違う、今日は古泉と飲んできたんだ。久しぶりにな。
 あれ、言ってなかったか?」
俺のその言葉に、妻の表情はみるみると変化した。
「なんですってぇ!? 早く言いなさいよ!! なんであたしを呼ばないのよ!!」
眠そうな顔から一瞬で鬼の形相へと変化した。本当に、恐ろしい。
22:
「お、おい。子供が起きちまうだろうが」
「ったく!! こんのバカキョン!!
 …………まあ、でも、いいわ。たまには男同士で飲みたいでしょ」
「ああ、すまんな」
「またそれ」
妻は、俺が謝るたびに訂正させようとする。
というのも、本来お礼を言うタイミングなのにも関わらず、俺は謝るらしいのだ。
そんなことを言われても困る。第一、俺の中では謝罪とお礼は同義語なのだ。
「屁理屈はいいから、ほら。言い直しなさい」
「ああ、わかったよ」
「はい、せーのっ」
「…………ありがとな、ハルヒ」
―終わり―
23:
予想以上に短かった
仲の良い古泉とキョンが書きたかった
一人で満足した。ありがとう
48:
乙 なんか面白かった
49:

50:

5

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