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ちなつ「なんだか私たち、家族みたいですね」


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3:
なんだか体調が悪い。
土日明けの体育で疲れただけ、
と思っていたもののどうやら違ったらしい。
今日の部活はやめとこうかな…
せっかくの月曜日に結衣先輩と会えないのは寂しいけど…
そう思いながら窓の外に目をやる。放課後の教室。
きれいな青空と白い雲がどこか煩わしく思えて、
ふぅとため息をつく。
4:
あかり「ちなつちゃん?」
ふと声がして振り向く。
あかりちゃんのいつもの笑顔が
心なしか心配そうに、こっちを見ていた。
ちなつ「…あ、ごめん、ぼうっとしてた」
あかり「大丈夫?ちなつちゃん、疲れてそうだけど…」
ちなつ「ううん。大丈夫」
そんなに体調が悪いわけでもなさそうなので
変に心配させるのも、と思って返事をする。
7:
あかり「そっか、よかったぁ?」
あかり「前みたいに無理してるのかなって」
その言葉にちょっぴりドキッとなった。
大丈夫と言った手前、体調が悪いとは言いづらい。
あかり「でね、部活なんだけど」
あかり「あかり、プリント出してくるから先に部室行っててねって言おうと思って」
ちなつ「…うん」
どう切り出そうかと迷っているうちに
あかりちゃんは背を向けて歩き出す。
9:
あかり「あ、それから…」
と言って振り向くあかりちゃん。
「あのね、今日の部活…」と喉まで出かかった言葉が力なくこぼれる。
あかり「昼休みに京子ちゃんに会ったんだけど」
あかり「今日のミラクるんの映画すごく楽しみにしてたよぉ?」
うぅ、そういえば。
今日は部室でミラクるんの映画をみんなで観るんだっけ。
先週、京子先輩が嬉しそうに言っていたことを思い出す。
あかり「それじゃ、先に部室行っててね、ちなつちゃん」
そう言うと、あかりちゃんの姿は扉の向こうに行ってしまった。
10:
どうしようもなくなって机につっぷする。
余計に頭が痛くなった気がした。
向日葵「…吉川さん?大丈夫ですの?」
ちなつ「あ、向日葵ちゃん…」
ゆっくり顔を上げると
心配そうな向日葵ちゃんの顔が見えた。
ちなつ「実はね…ちょっと体調が悪いみたい」
12:
向日葵「…顔色はそんなに悪くなさそうですけど」
よかった。
それなら部活出ても大丈夫かも。
向日葵「でもあんまり無理しない方がいいですわよ」
向日葵「吉川さん、前にも無理してたって赤座さんから聞きましたわ」
ちなつ「あかりちゃんが…?」
そっか、みんな心配してくれてたんだ。
『風邪の時はちゃんと休まなきゃ駄目だよ』
頭によぎる結衣先輩の言葉。
間違っても結衣先輩の前で倒れるわけにはいかないし、
京子先輩には悪いけど…やっぱり部活は休んだ方が良いかもしれない。
そう思っていると遠くから聞こえる元気な声。
13:
櫻子「あー!向日葵ー!」
櫻子「探してたんだぞ!どこ行ってたんだよ、まったく」
向日葵「うるさいですわ、櫻子」
向日葵「先生に宿題のプリント出しに行ってただけですのに」
きっと京子先輩は今頃はりきって準備しているんだろう。
不思議と目の前の櫻子ちゃんが京子先輩と重なる。
櫻子「あ、そうだ、ちなつちゃん」
櫻子「さっき生徒会室で歳納先輩に伝言を頼まれて」
櫻子「『早く部室来てね、待ってるよちなちゅ?』だってー」
14:
ちなつ「もう、京子先輩…」
ちなつ「人の気も知らないで…」
二人が帰った後の誰もいない教室で、一人呟く。
本格的に熱でもでてきたのか、
居るはずのない結衣先輩が扉の間に見えた気がした。
ちなつ「結衣先輩…私どうすれば…」
結衣「あれ、やっぱりちなつちゃんまだ教室に居たんだ」
ちなつ「…って、ゆ、結衣先輩!?」
15:
結衣「京子が二人が来ないってうるさくて」
結衣「それで、あかりは…」
ちなつ「あ、あかりちゃんなら提出物を渡しに…」
結衣先輩がちらとあかりちゃんの置きっぱなしの鞄を見る。
結衣「…そっか、じゃあ待ってよっか」
結衣「……でもあんまり京子を一人にしたくないな」
ちなつ「えっ…?」
結衣「あ、いや…実は今日パン焼いてきたんだけど」
結衣「ほら、前に京子が全部食べちゃって」
結衣「ちなつちゃんたち食べられなかったって聞いたから」
ちなつ「結衣先輩…」
見上げる結衣先輩の優しい笑顔。
17:
あかり「あれっ、結衣ちゃん?」
あかり「…と、ちなつちゃん!?ごめんね、待っててくれたの?」
結衣「あ、来た来た」
結衣「それじゃ、あかり、ちなつちゃん、急ごう」
そう言って結衣先輩は走り出す。
もちろんです。結衣先輩。
立ち上がって結衣先輩を追いかける。
前を走るその背が、いつもより大きく見えた。
あかり「えっ、二人とも待ってよ?」
18:
京子「待ってたよ、ちなちゅ?」
ちなつ「ちょ、やめてください」
部室につくといつもの京子先輩。
今日ばかりはなんだかそれで安心する。
ちなつ「それより京子先輩、結衣先輩のパン食べてないですよね」
結衣「うん、ちゃんとあるよ、ちなつちゃん」
京子「そんなー、全部食べるわけないのに」
結衣「どの口が言う」
19:
京子「まあまあ、それよりちなつちゃんも来たことだし…」
京子「じゃじゃーん!新作BD&DVD!」
そう言って京子先輩は嬉しそうに立ち上がる。
ちなつ「なんでわざわざ2つも…」
京子「いやー、映画館で見たんだけど」
京子「良かったんだよこれが、ほんとに、うん」
京子「今回のテーマはずばり『家族』!」
ちなつ「はぁ…『家族』ですか?」
21:
京子「…突如地球に襲い掛かる宇宙人集団」
京子「その名もギンガギンガ団!」
京子「圧倒的な力にミラクるんも及ばず絶体絶命のピンチ!」
京子「そこに颯爽と現れる我らがギガギガ団!」
京子「傷ついたミラクるんが絞り出す『ライカちゃん、どうして…』に」
京子「『私たちはこの地球に住む“家族”だからっ──』」
京子「いやー、感動、感動」
京子「…って、あれ、これってネタバレ?」
結衣「おい」
22:
忘れてくれ、と言いつつ準備を始める京子先輩の隣で
結衣先輩があきれたように微笑む。
そんな結衣先輩の横顔を見ているだけで、
心も体も温まっていく様な気がする。
もし結衣先輩と家族になれたら…
きっと毎日が楽しくてしょうがなくて
目が覚めた時から、朝も昼も、そして夜も…
ずっと結衣先輩と一緒。
そう、ずっと一緒に──
23:
結衣「ちなつちゃん?」
その声ではっとする。
ちなつ「…あっ、結衣先輩、私」
結衣先輩の後ろにはリモコンを持ったままの京子先輩、
どうやら一瞬寝てしまったらしい。
京子「ひょっとして、ちなつちゃん…」
京子「ミラクるん嫌いに…うっ…」
結衣「…ちなつちゃん、大丈夫?」
結衣先輩の声が近づく。
ここまできて気付かれるわけにはいかない。
24:
ちなつ「もちろん、大丈夫ですよ」
ちなつ「ちょっと、体育で疲れただけですから」
結衣「うん、それならいいけど…」
とにかくこの場をどうにかしないと、
ちなつ「そうだ、私、紅茶入れてきますからっ」
えいやっと立ち上がって言う。
その瞬間、目の前の景色がぐるりと回った。
「ちなつちゃん!?」
どこか遠くで、私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
25:
──

体が、ふわふわする。
それに甘い匂い。
…どこか懐かしいこの感覚。
そういえば小さいころ、
お姉ちゃんによくおんぶしてもらったっけ。
これは…夢?
ぼんやりと揺れる黒い髪。
そっか、私、
夢を見ているのかな。
ちなつ「…結衣先輩」
26:
ちなつ「……痛っ」
鈍い痛みで目が覚める。
顔を上げると、帰り慣れた道の風景が流れていく。
結衣「あ、ちなつちゃん」
結衣「ごめんね、起こしちゃった?」
結衣先輩の声が耳元ではっきりと響いた。
あかり「ちなつちゃん、大丈夫?」
声が聞こえて後ろを見ると
そこにはあかりちゃん…と京子先輩の姿があった。
ちなつ「…うん、大丈夫」
本当に心配そうな顔のあかりちゃん。
その横の京子先輩はいつもと違って妙に静かだ。
ちなつ「京子先輩、私…」
28:
京子「ごめん!ちなつちゃん」
突然、手を合わせて頭を下げる京子先輩。
思いもかけない行動に困惑したのもつかの間、
結衣先輩がちょっぴりあきれたような笑顔で振り向いた。
結衣「…京子、ちなつちゃんが倒れたとき」
結衣「真っ先に『私がちなつちゃんを助ける』ってちなつちゃん抱えたはいいんだけど」
結衣「慌ててたからそのあと転んで…」
京子「あーそれ以上言うなよ、もー」
恥ずかしそうに横を向く京子先輩の隣であかりちゃんが笑う。
30:
あかり「それはそうと、ちなつちゃん、やっぱり無理してたの?」
ちなつ「あ…、うん…」
ちなつ「ごめんね、ちょっと言い出せなくて──」
あ、そうだった。
そこまで言って思い出す。
ちなつ「そもそも京子先輩が今日──」
京子「…え?」
ちなつ「……」
京子「……あ」
31:
京子「ち、ちなちゅ?」
いつものようにこっちに向かってくる京子先輩。
「こら、京子」と言いつつ結衣先輩が京子先輩の方を向く。
京子先輩は不満げに顔を膨らませる。
京子「結衣?、私のちなつちゃんとらないでよー」
京子「ほら、私ら家族だろ?」
結衣「うん家族…って、え?」
京子「そう、ミラクるんのように…って、あー!」
誇らしげな顔をしていた京子先輩が突然大声をあげた。
京子「そういえば、無理言って生徒会から借りた機材、置いたままだった」
京子「それに、DVDも…」
ちょっと取ってくると言って、京子先輩は走り出す。
あかり「あっ、京子ちゃん、あかりも手伝うよぉ」
32:
ちなつ「二人とも、行っちゃいましたね…」
二人きりになった帰り道で呟く。
静まりかえった帰り道は夕暮れのせいもあるのか、
どことなく寂しくて、ただ結衣先輩の首に回された手を握りしめた。
結衣「ごめんね、ちなつちゃん」
ぽつり、結衣先輩が言った。
慌ててそれに答える。
ちなつ「そんなっ、結衣先輩があやまらなくても」
ちなつ「私が勝手に……」
ちなつ「…あ、ごめん…なさい」
そっか、私、勝手に無理して迷惑かけてたのかな。
変に思いがこみ上げてくる。
33:
結衣「っと、ごめんごめん、そういう意味じゃなくて」
ちなつ「…え?」
結衣「いや、うん、私がちなつちゃんのこと」
結衣「ちゃんと分かってあげられなかったから」
ちなつ「結衣先輩…」
ゆっくりと前を向く結衣先輩。
やっぱり結衣先輩は優しい、そう思った。
34:
ちなつ「そういえば結局、結衣先輩のパン食べられませんでした」
結衣「ちなつちゃんが食べたいなら、また焼いてあげるよ」
結衣「どうせまた京子が、みんなで映画見ようって言い出すだろうし」
ちなつ「ふふっ、そうですね」
ちなつ「あれ…これって」
映画を見て、
手作りの料理を食べて、
そして、時には支えてくれる。
ちなつ「…別に京子先輩じゃないですけど」
ちなつ「なんだか私たち、家族みたいですね」
35:
結衣「…うん、そうだね」
結衣先輩の髪が私の頬をくすぐる。
目を閉じれば、これがまるで夢みたいに思えて、
でも不思議と安心できる、そんな気持ちがした。
結衣「だから、ちなつちゃん」
ちなつ「…結衣先輩?」
結衣「もう少し、頼ってくれてもいいからね」
ちなつ「……はい」
体が、暖かい。
まるで本当の夢みたいに。
──大好きです、結衣先輩。
36:

あかり「ちなつちゃん、おはようっ」
ちなつ「おはよう、あかりちゃん」
朝の日差しをうけた通学路に、
いつものように明るいあかりちゃん。
あかり「もう大丈夫なの?ちなつちゃん」
あかり「ちなつちゃんだったら、何でも相談にのるからね」
ちなつ「うん、ありがと、あかりちゃん」
嘘をつけなさそうなほど眩しい、あかりちゃんの笑顔。
その笑顔が、何かに気づいて前を向く。
あかり「あっ、結衣ちゃん、京子ちゃん」
3

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