エルフ「私の前に道はない 私の後ろに道は出来る」back

エルフ「私の前に道はない 私の後ろに道は出来る」


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1:
「むかしむかし、ある、ところに…」
少女はそう呟きながら、苦心の末、ようやくその一文を翻訳した。
しかしそれは、彼女が手にしたその書物の、
ほんの冒頭、書き出しの部分でしかなかった。
5:
昼下がりの大通りを人々の波が行ったり来たり。
その格好は和装に洋服、下駄にブーツ、誰も彼も入り乱れて、
行きかう馬車と人力車、時たま自動車が走るところをみると、
社会全体が、未だ一つの過渡期にあることが見てわかった。
その通りから、一本も二本も道を外れて煉瓦とコンクリから遠ざかった先に
河川敷沿いの広場があって、そこで男子達が元気に野球に興じていた。
そんな男たちの群れの中、一際小さい少女の影が、バットなんぞ構えてボックスにつく。
髪は金髪、肌は繊細、顔の作りも悪くない。
女袴にハイヒール、上に洋物のコートを羽織って、
なんとも、混然する社会の様を表したかのような有様だった。
少年「女のクセに、男の遊びに混ざろうなんていう阿呆め、身の程を分からせてやる!」
マウンドに立つ投手然とした少年が、誰に聞かせるわけでもなく言った。
そうして振りかぶり、一球思いっきり投げた。
女相手ということで多少の手心があったとはいえ、なかなかの球である。
ボールが迫る中、その少女はニヤリと口角をあげだ。
突如、にょきりと耳が伸びたかと思うと、少女は
女の体とは思えぬ力強さでバットを振った。
6:
かつて、"英流婦(えるふ)"と呼ばれていたその少女の力が、ちょうど良く真芯をとらえて、
爽快な打球音とともに、そのボールを空高く弾き飛ばした。
エルフ「あっはっは!身の程をわきまえるのはそっちだったな、人間!」
少年「なっ、なあっ!?」
男どもが空を見上げる中、
少女は快音の行方を見届けることもなく、悠々と一塁へと走っていった。
エルフ「はっはっはっはうわっ!?」
その途中で、彼女はハイヒールの先がつんのめって、綺麗なおべべのまま土の上に転んだ。
しかも、とんだ打球はレフトフライで、一死という結果に終わったのだった。
エルフ「うぅ……ぐぬぬ、くそぅ」
彼女の目論見は、どうやら失敗したようであった。
プロローグ終わり。
7:
イチャとエロを期待する人は回れ右で
10:
かつて彼女には仲間がいた。両親もいた。
里の中で生きる、ごく普通のエルフだった。
母「さて、今日は貴女の好物のシカ肉をいただく日ですから、楽しみにしていなさいね」
父「いつかはお前も、自分で狩りができるようにならないとな、うむ」
優しい柔和な母と、厳格ながら思いやりのある父に育てられて、彼女はのびのびと育っていった。
エルフ「はい、お父様、お母様」
しかし思えば、もうすでにこの頃から、彼女の生き方は他と違っていたように思える。
11:
エルフ兵士「今日はあなた達に弓の鍛錬を課します、これは里で生きるものとして必要不可欠のものです、皆一層励むように!」
「「はい!」」
子供エルフ「お前は下手くそだなぁ、弓の扱いがなってない」
子供エルフ「こっちに来るなよ、下手か映るからなっ」
エルフ「………むぅ…」
彼女は弓が不得手であった。
そのせいで周囲に小馬鹿にされることもあり、少々内にこもりがちな幼少期であった。
母「そう落ち込まないで、ゆっくりやっていけばいいのだからね」
エルフ「………はい」
そんな彼女のことを、母はいつも優しく慰めてくれていた。
その言葉がいちいち彼女の心に突き刺さることも知らずに。
エルフ「………」
落ち込んだとき、彼女はよく野山を駆けていた。
木々の間を移り飛び、低い茂みを飛び越えて、里の外まで出歩くこともあった。
エルフ「……わぁ」
そんな彼女はある日、その光景を目の当たりにした。
それは一人の狩人だった。
狩人は棒の先に弓を取り付けたような道具、いわゆるクロスボウを構えて、目の前の熊と対峙していた。
狩人「……ふぅ」
12:
狩人が引き金を引くと、留め具が外れて、道具から矢が勢いよく発射された。
矢は一直線に熊の頬を裂き、骨を砕いて、脳天まで深々と刺し貫いた。
エルフ「……っ」
彼女はその様子を、木の枝の隙間から見ていて思った。なんて恐ろしい道具なのだろう、と。
しかし同時に、彼女は初めて、矢が風を巻き起こすことを知ったのだった。
早彼女は家に帰ると、里の文献を読み漁り、樫の材木を削って、見よう見まねでそのクロスボウを作ってみた。
最初のうちは失敗もしたけれど、改良を重ねるうちに、いつの間にか自分で見た道具よりも、上等なものをこさえていた。
エルフ兵士「それでは、今日も皆さんと弓の鍛錬を行います!」
そうして、完成してから初めての鍛錬の日がやって来た。
子供「おい、今日はちゃんと的に当てられるのか?お前」
そんな小言や嘲笑も、今の彼女にはまるきり届かなかった。
早くこの、彼女の発明を披露したくてウズウズしていたからだ。
13:
皆が一様に並んで的に向かって弓矢の狙いをつける中、彼女だけはその三倍の距離をとって立っていた。
エルフ兵士「…おい!お前はそこで何をしている!鍛錬を怠る気か?」
子供エルフ「どうせ下手くそだから、サボってくれた方がこっちは楽だけどな」
叱責と陰口の向こうで、彼女は一人、棒の立てて、テコの原理でもって、その弓を引いていた。
子供用はもとより、大人用よりもずっとキツく弦を張っているので、こうしないと弓が引けないのだ。
エルフ「…ふう、さぁて」
クロスボウを構えて、照準を覗くと
遥か先に、子供達の背中の隙間から的が見えた。
高ぶりを感じた。汗ばむ手で、引き金に指をかけると、心臓が跳ね上がった。
息を吸い、風の音が止んだとき、私は引き金を引いた。
14:
エルフ「………」
エルフ長「…これはどういうことなのか、貴様の口から説明してもらおうか……」
彼女は、父親とともに里の長の前に引き立てられていた。
目の前には、粉々に壊された彼女の発明品があった。
エルフ「これは、わたしの作った、道具です…」
エルフ長「ああ、だがこれはエルフの技術ではない……そうだな?」
エルフ「……は、はい…これは、人間の…技術、です」
彼女には見なくてもわかった。父が酷く怒ったような、悲しげな顔をしていた。
ただその理由だけは、わからなかった。
エルフ長「里の掟を知らぬことでもあるまい、貴様は、人間と交流をもったというのか?」
エルフ「ち、違います!ただ、遠くから見ていただけです!これも、見よう見まねで作っただけで」
エルフ長「同じことだ、貴様が人間の技に手を染めたことには変わらんのだ!」
エルフ「ひっ!?…」
彼女はこの日、酷い言葉を浴びせかけられ、その誇りも、精神をも邪悪であると非難された。
家に帰ってからも父親にすら散々に冷たく言われ、母親もとうとうその姿を見せなかった。
15:
しかし彼女は、ことここに至っても自らが悪いのかどうか、理解していなかった。
どうして皆は、この素晴らしさが分からないのか
自室に隠しておいた試作品を眺めながら、ただそう思った。
次の日から、分かりやすいくらい、里の皆が彼女を避けるようになった。
子供エルフ「あっ!お前、掟をやぶったやつだな!」
子供エルフ「こいつめーっ!」
同じくらいの子供なんぞは石まで投げるくらいで、自然と彼女の足は遠くへ追いやられていった。
不思議と悲しくはなかったが、母の姿を見られないことだけは気がかりだった。
エルフ「……あれ?」
森を散歩する中で彼女は、今度は背が低く、荷物を抱えた男の死体を見つけた。
それはドワーフの死体だった。苦しみもがいた跡がある。
森に迷い込んできて、里の兵士にでも見つかったのだろう、体に矢を受けて、動けなくなって衰弱死していた。
里の皆はドワーフを嫌っているようだったが、彼女にはそのような観念もないので、
何も思うこともなく、そいつのためにと墓を掘って、墓標を立ててやった。
エルフ「…さてと」
その代わりにと言わんばかりに
彼女は、遺されたそのドワーフの鞄を漁って、羊皮紙の束を見つけた。
16:
そこには、これまで彼女が見たことのないドワーフ族の文化の一端が記されていた。
鍛治や彫金、錬金に精製術と、その羊皮紙からはドワーフが高い技術を持っていたことがうかがい知れた。
どういういきさつかは知らないが、この死んだ彼には感謝しなければな、と彼女は指先まで震わせて、そう思った。
エルフ「…竈を用意して、木を切り倒して、石を集めて、そして……く、ふふ」
やれることが沢山できた。
彼女の目の前に多くの道が光に照らされて拓けたような気がした。
まず始めに、石を切り出し、粘土を集めて里の外れに自分用の窯を作った。
そうしたら薪を集めて、窯に火を入れた。
少しづつ熱に慣らしていき、釜が段々と熟していくのを、一人で静かに眺めていた。
その頃には、彼女の周りにはますます
他のエルフは近づかないようになっていた。
しかし、そんなこと一向に気にする様子はなかった。
最初にまずは陶芸を始めた。
土を捏ねて形作り、幾つも皿や陶器を作っていった。
次はガラスを作った、珪砂を含む砂を集めて溶かし、細工品を作っては砕いて、また溶かすのを繰り返した。
エルフ「…くふふ、ふっふっふ、あぁ…楽しくて仕方がない」
19:
その頃になると、エルフの少女は自分がどうも火の扱いに長けていることに気が付いた。
窯の火力を強くしすぎたと思った瞬間、手をかざしたら火が途端に消えたのだ。
教わったことはなかったが、エルフ族の"魔法"というやつだろうか?
疑問に思うことはあったが、深く考える気はならなかった。
ただ、今の私にとってひどく都合がいいな、そう歓喜した。
練習の末、火を消して再度点けることも、火力の微調整まで可能になっていた。
慣れてきたら別の窯を作って、そこでは食べ物を焼けるようにしてみた。
群生する野生の小麦を集めて粉にし、パンを焼いた。
エルフ「…ごふっ熱?!…でも、美味しい」
初めて窯で焼いたパンは少し焦げてススを被っていたけれど、これまでにない味がした。
彼女がこの後、遠赤外線なんて科学を知るのは、まだまだ当分先であった。
20:
もう里のエルフは、火を操り、黒い煙をあげる少女のことをすっかり邪悪なものとして扱っていた。
ススにまみれて、髪も肌も服も真っ黒になって生活する彼女のことを
揃って悪魔だの、"暗闇(ダーク)に堕ちた者(エルフ)"だのとそしった。
出掛けている間に陶器やガラスを割っていったり、窯に泥水を流したり、
果ては、首から血の滴るニワトリの屠殺体を置いて行ったりした。
それを見て、少女の方も
エルフ「これは丁度いい、うん」
何も気にするそぶりもなく、その羽根をむしって産毛を焼いて、
内臓を取り除いて中にスパイスと野菜と米を詰めて窯で丸焼きにして食べた。
それを見て、里の皆はいっそう彼女のことを気味悪がることになった。
エルフ「うん、美味い…!」
全く呑気なものだった。
今は誰も彼も理解していないようだけれど、あと何十年かもすればイヤでも考えが変わるだろう
またみんなとも暮らせるだろう。なんならあっちか自分に頭を下げるかもしれない
そんな気の長い期間かつ、浅はかなモノの考え方をしていた。
21:
そんな日は来ることもないまま、五十とも百年ともつかない年月が経っていった。
その間、ずっと彼女は誰とも接することなく、一人で窯の火に没頭する日々を過ごしていた。
そんな折、人の時代は産業革命を目の前にした頃。
不意に、その変化の日は訪れた。
24:
少女はその日、手に入れた人間の文書の翻訳をしていた。
この頃になると彼女は時折、森を抜け出て人の街まで行き、
新聞の切れ端や捨てられた本なんかを拾って、その文章の翻訳に注力していた。
エルフ「……紡績、蒸気機関…ふんふん」
人間の社会はここ十年でめざましい発展を遂げていた。
このまま勢力が拡大すれば、近い将来この森も危ういな、そう彼女は考えていた。
その予見は、思わぬ形で里に脅威を及ぼすのだった。
エルフ「…っ!?」
突如として、地鳴りとともに木々のへし折れる音と地面に倒れこむ轟音が響いた。
その方角は里の方向だった。
エルフ「な、なに?」
いきなりのことだったので、彼女には事態がまるきり飲み込めず、
また、何をすべきなのかはわからなかった。
ただ、頭の中に浮かんだのは、もうずいぶん昔に見た、母の後ろ姿だけだった。
散らかるのも構わず、慌ただしく家を飛び出して、里の方に振り返る。
もうもうと、土煙が上がっているのが遠くからでも見えた。
25:
エルフ長「抑え込め!何としてもこれ以上、里を荒らされるわけにはいかぬ!」
「「はっ!」」
里に着くと、かの懐かしい面々が、何か巨大な影を相手に格闘していた。
剛毛に覆われた体躯が四つ足で駆け、大樹の太枝のような角を振り回す。
言うなれば、オオジカの化け物のようだった。
それが身体中の傷から血を流しながら里を蹂躙している。
それと里のエルフ達が、手に縄や長槍を持って撃退しようと奮闘していた。
エルフ兵士「ぐっ!?ぬあっ!!」
しかしそのかいもなく、縄を引きちぎり、槍を砕いて
なおも化け物は暴れ回った。
もはやお手上げというのが、誰の目にも明らかだった。
エルフ「……こんな、の」
少女の目に、傷を負って倒れたかつての仲間が見えた。
自分を馬鹿にした者、揶揄して嘲笑して、卑下した者、拒絶した者
全てが血を流して、動けなくなっていた。
エルフ「…………」
それを見て彼女は
足元に転がる、石を一つ手に取った。
26:
飛来した石が、化け物の瞼の上に当たって、その体が怯ませた。
そいつがその方向をかえりみると、坂の上に一人、少女が立っていた。
エルフ「……」
その黒は、インクだろうか。
相変わらず、手や頬を黒く汚した、はみ出し者のエルフの少女が、眼下の化け物を睨みつけていた。
エルフ「…こ、こっちだ!この化け物ォ!!」
その呼びかけに、化け物が吠え、突進した。
その叫びと威圧に今度は怯まされながらも、少女は引き付けるようにして化け物の目の前を走った。
茂みの陰を通り、木々の隙間を縫うように走ったが、化け物はどれも構わずなぎ倒すようにして追ってきた。
その重圧に轢かれれば、彼女の体なんぞ跡形も無くなってしまうだろう。
エルフ「怖い…で、でも!」
もしかしたら死ぬかもしれない、そんな緊張感で胸が裂けそうになる。
それでも走った。何故か
ただ、心の中でいつも背中を向けている、母の笑顔が見たかったからなのかもしれない、そう思った。
そうこうしているうちに、両者は少女の住処の近くまで到達してきた。
27:
あとわずかで、その住処まで辿り着く
その寸前で、化け物の体が急停止した。
しかし、自らの意思で止まったわけではなく、その四つの足は未だもがいている。
エルフ「…よ、よしっ!成功」
原因は、彼女の用意した"糸"だった。
彼女が精製したその糸は、絹糸ほどの細さにも関わらず、麻縄よりも丈夫であり。
それが何十本も木々の間に張り巡らされていて、さながら蜘蛛糸のように敵を絡め取っていた。
エルフ「観念しろ、この化け物!」
少女は何事か操作するように握った数本の糸を手繰り、
そして、叫びとともにその内の一本を思いきり引いた。
事情を知らない里の皆には、晴天の中、山に幾度も雷が落ちたと思っただろう。
それほどの爆音が鳴り響き、そして、化け物の悲鳴が湧き上がった。
28:
彼女は、何年もの歳月の間に、人間の武器
"鉄砲"まで作り上げていた。
いくつもの小銃が枝の影に隠されていて、彼女の操作するままに照準を合わせて一斉に引き金が引かれたのだ。
いつかくるであろう、侵してくる脅威に対しての彼女なりの備えだった。
それが思わぬ形で役に立ち、敵を瀕死にまで追いつめた。
荒い息を吐く、その化け物の面前にまで立ち
少女は、自らも銃を構えて、
エルフ「…じゃあね」
その脳天に、最期の銃弾を撃ち込んだ。
29:
暫くして、ようやくやって来た里の民らによって、
彼女は、感謝の言葉を貰うでもなく
ただ、すぐさま地に組み伏せられ
また怒りと嘆きの言葉を浴びせかけられた。
エルフ「な、なん、で…?」
拘束されたときに擦りむいた擦り傷が、ジワリと痛んだ。
向こうでは、皆が化け物の死骸を前にして悲しみの声をあげている。
エルフ長「貴様、自分が何をしでかしたか分かっていないようだな…!」
里の長も、彼女の前に立ちながら、静かな悲しみの中で、確かな怒りの思いを内包していた。
エルフ「…なんだよ、なんでこんな、わたしがこんな目に…」
化け物だと思っていたのは、実はエルフと共存する古き森の住人というらしく。
長たちにとっては遥か昔からの友人だったという。
たまたま遭遇した人間に傷つけられ、怒りに荒ぶっていた。
それだけだった。
里の住人たちは、総出で彼のことを鎮めようとしたのだが、それを彼女が全てぶち壊した。
皆にとって、事実とはそれだけで
彼女の親切心など知るよしもなかった。
エルフ長「貴様は、私達の友人を殺した…何故だ?」
エルフ「わ、わたしは、別にそんなつもりもなくて…ただ」
30:
彼女の周りには、積み上げられた銃と
砕かれた食器類、
そして、破り捨てられた紙の束があった。
エルフ兵士「これはなんだ、答えてみろ!」
エルフ「こ、これは…その」
エルフ長「これは人間の文字だ!もちろん知っているのだろう?…邪悪な者よ」
エルフ「……はい」
言い逃れは出来なかった。
エルフにとって、自然を破壊する人間はいむべき存在だった。
その文字を読み、武器をもって生命を奪った彼女もまた、忌むべき存在となった。
もはやエルフ族にとっては敵であり、看過も出来ない相手になった。
エルフ長「貴様はもう、死ぬべきだ…死をもって神に償うべき時がきたのだ!」
彼女の眼前に、何本も鋭い刃が並んだ。
化け物に追われた時よりも、もっと確かで具体的な恐怖が目の前に晒さられた。
エルフ「い、いやだっ!…なんでそんな、あがっ!?」
悲痛な声とともに顔を上げようとすると、頭の上に誰かの足裏が乗った。
父「……私がやろう、私が、トドメをさしてやらなければ」
その足の主から、父の声がした。
その言葉で、少女の心にヒビがはいった。
エルフ「いやっ!ごめんなさい!た、助けて!殺さないで!!」
父「うるさい!」
生きてきて初めて、少女は必死の命乞いをした。
31:
エルフ「お母様!たすけて!…お母様!!」
いくら叫んでも、応えるものはない
代わりに踏みつけられる力が増すばかり。
涙はひたすら流れて、濡れているのに、目の周りが燃えるように熱くなる。
エルフ「ぐぅ、ぅぅ、うぁぁぁああああああああああっ!!がぁああぁぁああっ!!」
父「死ぬ時ぐらい、おとなしく逝け…恥ずべき、かつての我が娘よ…」
エルフ「…ああそうだ!…娘でもなんでもない!!おまえなんてもう、父親でもなんでもないんだ!!」
感情の昂るまま、私は叫んだ!
すると、私がまばたきをした途端、視界に炎が写り込んだ。
父「なっ!?…」
エルフ長「き、貴様…それは」
彼らのたじろぐ気配がした。
まばたきをする度に、目蓋が火打石のように火花を散らし、
まなじりから、火炎の蛇が産まれる。
蛇は土を焦がしながら這い回り、隙間から窯の中に潜り込んだ。
エルフ長「な、何をした!その力は一体なんだ!」
エルフ「……なんだ、知らないのか、そうか」
窯が震え、中で何かが大きくなっていく。まるで胎動だった。
エルフ「……だったらよく見ておくんだな、腰抜け」
その言葉が終わるのと同時に、
私の窯が崩壊した。
32:
中から産声をあげたのは、今度こそ本物の化け物、
炎の鱗をもった大蛇だった。
私の怒りの火を種に、そして窯という卵から産まれたソイツは
私の言葉を代弁するように周囲を燃やし尽くしながらトグロを巻いた。
父も誰も、恐怖の色を浮かべて私から離れていく
エルフ「ああそうだな、死にたくなければ私から離れろ!私に構うな!かつての同胞たちよ!」
もうこうなっては、この地では生きてはいけない。
そんな諦めの気持ちをこめて、力をふるった。
操るままに大蛇はのたうち回り、吠え声を響かせる。
木々は幹も葉も、根まで焼き尽くして、
私の住処も消え去った。
「あなたは、化け物…そして」
燃え盛る轟音の中で、私はそんな呟きを聞いた。
私を繋ぎとめていた糸が千切れて、心が底まで落ちていき、
粉々に砕けた。
34:
エルフ「こうして私は森を出て、どこへともなく放浪の旅に出た……これで、大体の話はお終い」
少女はそこで、これまでの人生の全てを話し終えた。
神に祈るように手を組んで、一人の牧師の前にひざまずいていた。
エルフ「あとは、貴方方もお分かりの通りだよ…話す必要はない」
牧師「……なるほど、な、実に興味深い話だった、私も長年生きてきて聞いたこともないよ」
牧師は胸に聖書を抱いたまま、深く息を吸うと、
彼女の話を引き継ぐように、言葉を続けた。
牧師「そうして君は、この村で行き倒れて、ある老婦人のもとに拾われた、そうだな?」
エルフ「……はい」
牧師「彼女は心優しい我らの隣人だった、君のことを手厚く看護して、自らの家に住まわせてやった、そうだな?」
エルフ「…はい」
彼女は、牧師の弁がだんだんと熱を帯びていくことを感じ取った。
牧師「それが今から何年前のことか、君には分かるかい?」
エルフ「さあ、日にちの数え方なんて教わったこともなかったので…」
牧師「20年だ!かれこれもう20年も前になるんだよ!分かるか?この意味が」
途端、牧師が堰を切ったようにまくし立て始めた。
少女はそれを、黙って俯いたまま聞いていた。
35:
牧師「そんなに年月が経ったのだよ、私も老いて、婦人も老いたさ…だが君はどうだ?いつまでそんな子供の姿でいるつもりなんだ?」
エルフ「……さぁ、まさかこんなに寿命が長いなんて、知らなくてね」
牧師「だから私達は気づいたよ、君は魔女なんだってね!魔女、だから私は言い続けてきたんだ!魔女はこの世に絶対にいると!」
エルフ「………」
この頃、人の世でも魔女裁判なんてものは随分と下火になっていたはずなのだが
こうして森の近く、田舎の外れまで来てみると、まだ風習として根強く残っているようで
エルフの少女は、運悪くそこに長居しすぎたらしい。
エルフ「ああ、そうかい…もう聞き飽きたよ、魔女だっていうんなら、私はその魔女なんだろうよ、うん」
彼女はうっとおしげに、そう吐き捨てた。
牧師「思い切りがいいな、そうか…ではもう話は十分だ、外へ行こうか」
少女が睨みをきかせる中、周りにいた屈強な男たちが彼女のことを、
捕らえた檻ごと持ち上げて、外へと運び出した。
エルフ「……あぁ、太陽が眩しいよ、ほんと」
外の広場には大勢の人がいて、一様に彼女のことを恐怖の眼差しで見つめていた。
またか、彼女は素直にそう思った。
36:
広場にはもう既に、何かを焼き焦がした跡があった。
藁と木材、そして十字架に貼り付けられた人間の焼死体があった。
牧師「…彼女も、君を匿ったことで魔力に毒されていただろうから、もう既に葬ったのだよ、ああ、君のせいだ」
エルフ「……そうか」
別に言わなくていいことだった。彼女も全部聞いていたのだから。
婦人を罵る皆の怒声と、身を焼かれる彼女の断末魔が、聞きながら、悔しくて涙がこぼれた。
自分に親切にしたから、彼女は死んだのだ、だから牧師の言うことは正しい。そう思った。
檻を広場の真ん中、材木と藁を盛った山の上に置いた。
次に、牧師が眠たい聖書の言葉を並べながら、小瓶の中の聖水を撒き
最後に、粉を全体に万遍なく振りかけた。
牧師「これは浄化の青い炎を呼び起こす聖なる粉だ、貴様のような魔女とてこれには耐えられまい…!」
エルフ「ばーか、それはただの炎色反応で、そう見えるだけだよ、炎には変わらない」
牧師「ふん、負け惜しみを、体に火がついてからでもそんな口が聞けるといいな」
牧師がそう勝ち誇ったように言うと、周りの人々が藁の中へと次々松明を投げ入れた。
青緑の火花が巻き起こり、
やがて檻は炎に包まれた。
牧師「ああ、私はようやく、貴方のために魔女を殺しました。神よ…」
38:
その牧師から逃げのびてまた数十年後、
彼女は今度はとある地方の金持ちの所にいた。
エルフ「それで言ってやったよ、死にたくない奴は私から離れていろと…」
金持ち「へえ、そうなの…」
その金持ちのオヤジは目の前の少女の肢体を眺めながら、聞いているだがいないだかの返事をした。
エルフ「檻を溶かそうと思うと、どうしても周りに被害が出てしまうからな…うん」
金持ち「……ふぅん」
エルフ「………」
下卑たオヤジの指が、爪先から臀部まで、ゆっくりと
ナメクジのように這い回り、舌舐めずりの音が、部屋の中に響いた。
彼女は、豪華な装飾の施された金持ちらしい一室の
天蓋付きベッドの柱に手足を縄で拘束されて、身動きがとれないでいた。
脚などは開かれたまま固定されて、いやでも閉じれないようになっていた。
金持ち「君は架空の物語を作るのが得意なんだねぇ、いひひひひっ、本当に」
エルフ「…そうか?」
金持ち「ああ、もしなんだったら今度ワシの元で本でも出すかい?なんてね…いひっ」
スカートをめくり上げると、飾り気のない下着の向こうに、柔らかな肉の膨らみが見えた。
口の端からよだれが溢れでて、もう我慢ができないとばかりに、ズボンのベルトを外し始めた。
金持ち「だ、大丈夫だよ?初めは誰も痛いものだから…そこだけガマンしようねぇ!」
エルフ「なんだ…話聞いてなかったのか…?」
金持ち「ふ、ふひひっ、こんな可愛い娘と仲良くできるなんて、久し振りだよ…っ!もう我慢できなくて出来なくてぇ!」
少女は、もう何度目だろうかという溜息を、長々ともらした。
39:
そいつが下着までズリ下ろし、ご自慢の怒張したペニスを露わにすると、
今度は少女の下着を脱がそうとして、脇の紐に指をかけた。
金持ち「で、では…君のxxxxを見せてもらうよぉ??」
エルフ「…馬鹿」
少女はその前に身を起こすと、目の前にいきり立った男性器に向かって唾を吐きつけた。
可愛らしい反抗をしてくれる女の子だなぁ、そうオヤジが思った瞬間。
金持ち「ぎぃぃあやぁぁあああがぉぁあおああああっ!?!?」
まるで煮え湯をかけられたかのように、猛烈な熱さが敏感なソコを襲った。
見れば、先端から火傷したように、焼け爛れてミミズ腫れになっている。
少女が話の間にあらかじめ口の中で唾を沸騰させていたのだった。
エルフ「だから、話を聞いた時点でやめればいいものを…まったく」
金持ち「がっ!?なん、なんでぇ?!なんでぇえっ!?なんでなのぉぉお??」
少女を拘束していた縄が焦げて焼き切れる。
手足が自由になると、すぐさまベッドの上で立ち上がった。
エルフ「まあ、私を買ったのが運の尽きだったな、服は良さげだから貰ってやろう、ありがたく思えよ」
それだけ言うと、ベッド脇のボウルから葡萄を一房いただいて、白目を向いて泡を吹いている男を尻目に
少女は、窓から外へと飛び出した。
40:
こんな風に、彼女は時折、その容姿からして奴隷として捕まり売られることもしばしばあった。
だが、何度も捕まっては逃げるのを繰り返しているうちに、そんなことにも慣れてきてしまい。
逆に生きるための知恵として、活用する場合も少なくなかった。
そんなことをしているうちに、故郷から遠く遠く離れて、大陸を横断するように渡り歩いて
その果ての岸から、船に乗せられて海を渡ることになったのだった。
41:
奴隷「…へえ、大変だったんだね、あなた」
エルフ「そう、なのかな…死にものぐるいだったから、自分では実感がないよ」
薄暗い船倉の奥で鋼鉄の枷と鎖に繋がれて、
私は、隣に座って同じようなボロを着た奴隷の子に、また長々と自分の話をしていた。
奴隷「……人に買われるのって、そんなに大変なこと、なのかな…」
逃げ出そうにも、海の上では空気が湿気っていて、燃やすものも少ないため、
鉄を切断するだけの力を発揮できないでいた。
正直、行き止まりだと感じた。
エルフ「……さてね、まあせいぜい良い人に買われるよう、願うことだよ、ホント」
そんな人がいればな、と余計な言葉は飲み込んで、私は、船が目的地に着くのをただ待つのみだった。
到着したらしたで、もうその子とは会うこともなく、早々に商人に安値で買い叩かれた。
私は、いわゆる問題の多い、曰く付き商品だったのだから、当然だ。
42:
東方の最果ての、その島国が、私の終着点のような気がした。
逃げる自信もなかったが、それ以上にもう、気力がなかった。
私はボロっちい犬のように商人に鎖に繋がれて、
その場末の薄暗く、汚らしい港の陰から、夜空を仰ぎ見た。
エルフ「………ぅぁ」
そこには、いつも星があった。
こんなどうしようもない異国の地だというのに、星だけはいつもと同じように輝いていて
どういうわけか、こんな夜に、吉兆の光を放っていた。
エルフの占星術をこんな時に信じるつもりもなかった、はずなのに。
商人「ちっ、こんな辛気臭い夜は誰も寄り付きはしねえな、ったくよォ」
商人が不機嫌そうに口を尖らせて、不満を垂れている。
どうやら、私に対して、やっかみのごとく愚痴を言っているらしい。勝手なものだった。
43:
私は、それも気にすることなく、路地の向こうの暗がり
星の光が指し示す先に、顔を上げることなく意識を向けていた。
エルフ「………?」
誰かが来る、一人分の足音がした。
それは男性の、荒々しい上に酒に酔った歩みだった。
千鳥足もさる事ながら、それを勘案しても男の歩きはどこかイビツで
まるで、右足を庇うような不恰好な歩きであった。
44:
今夜の晩酌の席での話は、随分と長々としてじったように思える。
結局、話の顛末としては、少女はその訪れた男の元に転がり込み、
色々あったのちに、こうしてまだ、そいつの家に居着いたままであった。
エルフ「…あぁ、だいぶ話し込んでしまったな、冗長すぎた、すまない」
少女は、空になったコオラの瓶を置いて、目の前の男にそう呟いた。
男「いいさ、今夜はお前の貴重な話が聞けたよ」
男はどうやら未だ下戸であるようで、お猪口の酒を舐めるようにチビチビと飲んでいた。
エルフ「……どうも、女というのはお喋りな性分でな、人に話したくてしょうがないらしい、ふっ」
男「…そうだな」
男は憂うように、そう呟いた。
それは彼女の人生についてだろうか、
それとも別のことにだろうか
表からはそれは、とうてい判別できないことであった。
エルフ「お前さんには、感謝しているよ…どうやら私はようやく、良い人に巡り合ったらしい…」
男「よせやい、俺はただ、お前の口八丁に騙されただけで、感謝されるのは筋違いだ」
エルフ「そうか、ではまあ勝手に言わせてもらうがな、うん」
男「……」
エルフ「こんな私を拾ってくれて、ありがとう…なんてな」
4

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