傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【後編】back

傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」【後編】


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6:
傭兵「」パチ
傭兵「……ん? ここは……」
傭兵(広い部屋だ……少なくとも俺の部屋じゃあない)
傭兵(っていうか、あれ……? 無駄に豪華なような……)
傭兵「…………」
傭兵(……ん〜……?)
傭兵(なんだ……なんで俺、こんなところで寝てるんだ……?)
傭兵(そもそも寝る前まで何してたっけか……?)
傭兵(……なぁんか……頭がボーっとするなぁ……思い出せん)
傭兵「……ん」
傭兵(足の指も手の指も力が入る……)
傭兵(立てる……か?)
ガチャ
傭兵「っ!」
メイド「あ」
傭兵「あれ……?」
メイド「どうも、おはようございます」
傭兵「メイド、さん……?」
メイド「はい」
傭兵「どうして、ここに……?」
メイド「どうしても何も、ここはお城の中の客室ですよ」
傭兵「…………」
傭兵「……………………え?」
357:
傭兵「えっと……なんでまた俺は、こんなところに……?」
メイド「覚えてらっしゃらないんですか?」
傭兵「それが……さっぱり」
メイド「傭兵さまは、あの子を救ってくださったのです」
傭兵「あの子……?」
メイド「はい」
メイド「誘拐犯に攫われたあの子を、無関係に等しい貴方が、身を犠牲にして救ってくれた……」
メイド「私はそう、窺っております」
傭兵「…………………………………………あ」
傭兵「そうだ……そういえば、そうだ……」
傭兵(敵のアジトを突き止めて、古い建物だったから魔法で崩して生き埋めにして……朦朧とする意識の中必死に瓦礫を素手でどかして……)
傭兵(相手の神官が立っていた場所を掘り返して、加護契約書を引っ張り出して握り締めて……)
傭兵(帰ろうとして気が抜けたときに……倒れてしまったんだ……)
メイド「思い出されましたか?」
傭兵「……はい」
358:
傭兵「それで、俺はどうやってここに運ばれたんですか?」
メイド「女騎士さんとあの子が連れて帰ってきましたよ」
傭兵「あれ……? 確か俺、二人を殺して突っ返したような……」
メイド「そのようだったようですが、二人とも、あなたが心配ですぐさま戻ったようです」
傭兵「そっか……」
メイド「せっかくお二人を心配して戻して下ったのに、申し訳ございません」
傭兵「ああ、いや。それは別に」
傭兵「どうせ拷問してるのを見せるがイヤだったから返しただけですし」
傭兵「深い理由もなかったので、まぁそれは良いんです」
メイド「そうなのですか? お二人とも、自分たちのことを考えて一度帰してくれた、と嬉々としてお話されてましたが……」
傭兵「そんな意図は無いって。本当に」
傭兵「それよりも、わざわざ誘拐犯の一味かもしれない俺を心配して戻ってきてくれるとは……今度お礼を言わないとな……」
359:
メイド「誘拐犯の一味……? まさかそ。んなことは無いでしょう。傭兵さまに限って」
傭兵「こうして信用させるまでが手かもしれませんよ?」
メイド「ん〜……話を聞いただけなのですが、あの子と一瞬だけとは言え二人きりになれたそうですね?」
傭兵「あ……ん……? ……ああ、はい。そういえばありましたね……」
傭兵(お姫さまを殺すまでの一瞬か……)
メイド「その時に素直に手放した段階で、私はあなたが、少なくともあの子の敵ではないことぐらい、分かりましたよ」
メイド「ですから少なくとも、あの子に関してのあなたの行動だけは、私は信用しています」
メイド「おそらく女騎士さまもあの子も、同じでしょうけれどね」
傭兵「……そう言ってもらえただけで、無理して頑張った甲斐がありますよ」
360:
傭兵「そういえば、俺はどれぐらい眠っていたんですか?」
メイド「運ばれたのが早朝で……それから丸々二日ほどでしょうか」
傭兵「え!? そんなに!?」
メイド「はい」
メイド「傭兵さまを看て下さった宮廷魔法使いさんのお話では、全ての魔力が切れ、緊張も絶え、集中の糸も失せた状態だったとか」
傭兵「……本当、女騎士とお姫さまにはお礼を言っておかないとな……」
傭兵「もしそのままだったらどうなっていたことか……」
メイド「まあ、お二人とも自分の方が助けてもらったと思っているでしょうから、お礼なんて言われても戸惑うだけでしょうけれどね」
傭兵「それでも――っと、そういえば、家庭教師の方はどうなりました?」
メイド「傭兵さまのおかげで無事捕まえ、口を割らせることに成功いたしました」
メイド「首謀者である貴族も取り締まることが出来、国外追放を言い渡すことも出来ました」
メイド「まだ実行は出来てませんが……それでも、通達は出来たのです」
メイド「あとは他の貴族に同意をもらうだけですが……この調子だと飛び火を恐れて庇うこともなく、素直に王に同意をしてくれるでしょう」
メイド「たった二日足らずでですよ? たったそれだけで、それだけのことが出来ました」
メイド「そこまでの証拠と証言を得ることが出来ました」
メイド「本当、あなたのおかげです」
361:
傭兵「いや、それはどう考えても、加護契約書だけでそこまでこじつけた人たちのおかげですよ」
傭兵「俺にそこまでの功績はありませんって」
傭兵「それよりも、ここにい――」
傭兵(……いや待て、もしかして潜入してた使用人ってのは、メイドさんじゃないのか……?)
傭兵「――いえ、どうもしませんよ」
メイド「……ふふ」
傭兵「え?」
メイド「傭兵さまの考え、当てましょうか?」
メイド「私がもう一人のスパイだったのでは? と疑っていらっしゃるのでしょう?」
傭兵「……っ」
362:
メイド「結論から言うと、違いますよ」
メイド「まあ傭兵さまに言わせると、この言葉だけでは信用できないのでしょうけれど」
メイド「ですが実は、傭兵さまが確保してくれた加護契約書。あの中に一枚、復活の儀を行っても蘇ってこなかった物があったのです」
傭兵「え?」
メイド「基本、蘇ってきたのは言うまでもなく、あなたが倒してくれた男たちです」
メイド「ではこの蘇らなかった契約書は?」
メイド「神官長に調べてもらった結果、誰かを突き止めることに成功いたしました」
メイド「敵がどうして持って来ていたのかは分かりませんが、おそらくは例の貴族に協力してくれた神官が彼一人だけだったのでしょう」
メイド「ですので保護しておく意味でも、肌身離さず持っておくしかなかった」
メイド「たぶん、そんなところでしょう」
傭兵「そう、なんですか……」
傭兵「すいません……疑ってしまって」
メイド「いえいえ。むしろ私、少し嬉しいぐらいです」
傭兵「え? 嬉しい……?」
363:
メイド「はい。だってここで私を疑うということは、それだけあの子のことを真剣に考えていてくれていると言うことですからね」
メイド「この一件で犯人を捕まえることに全力を挙げてくれている」
メイド「それだけで嬉しいんですよ」
傭兵「はぁ……」
メイド「それに傭兵さま、これだけ話してもまだ、私の言葉を完全には信用していないでしょうし」
傭兵「いえ、そんなことは……」
メイド「ま、そうして疑ってくれた方が、本当にいいんですよ」
メイド「……やはりあなたは、推薦するに値する人物ですよ」
傭兵「推薦?」
メイド「はい。ま、後で分かることですよ」
傭兵「?」
364:
メイド「それよりも、私の用事を済ませてもよろしいでしょうか?」
傭兵「用事ですか?」
メイド「はい」
傭兵「まぁ、別に構いませんよ」
傭兵「部屋の掃除ですか? では俺はそろそろ家に――」
メイド「いえ。傭兵さまに用事です」
傭兵「――え?」
メイド「丸二日、眠られていたと言いましたよ」
傭兵「はぁ……」
メイド「では、身体を拭かせてももらいましょうか」
傭兵「はいっ!?」
メイド「お二人が連れて帰ってきた時はすぐ宮廷魔法使いさまに看てもらったせいで、服を脱がせるだけで終わってしまいましたからね」
傭兵「あっ! そういえば俺の服はっ!?」
傭兵(今更だけどなんか日頃の俺の服より高そうなゆったりしたもの着せられてるっ!?)
メイド「大丈夫ですよ。ちゃんと洗って持ってきましたので」
傭兵「じゃ、じゃあそれさえ渡してもらえれば……身体なんて拭かなくても……」
メイド「いえいえ、そういう訳にはいきませんよ」
メイド「せっかく綺麗にした服に袖を通すわけですし」
メイド「身体も綺麗になさらないと」
傭兵「だ、だったら一人で出来ますし……」
メイド「まだ起きたばかりで満足に力も入らないでしょう?」
メイド「大丈夫。私に任せてください」
365:
傭兵「いえいえそんな……メイドさんの手を煩わせるほどのことじゃあ……」
メイド「そう遠慮なさらずに……ニヘ」
傭兵「っ!」
傭兵(え!? 何今の寒気っ!?)
――メイド「では、失礼して」サワッ――
――メイド「おぉ〜……ちゃんと鍛えていらっしゃいますね……」グッ、グッ――
――メイド「刻印を確認しませんでしたが……まあ良いでしょう」ボソッ――
傭兵(……っ!? なんで今出会ったときのことを思い出した俺っ……!!)
メイド「さあさあさあ……まずは上を脱いで下さい」
傭兵「い、いやいやいやいやいや……本当、大丈夫なんで……」
メイド「いえいえいえいえいえ……本当、遠慮なさらずに」
傭兵「いやいやいやいやいやいやいやいや」
メイド「いえいえいえいえいえいえいえいえ」
メイド「まあもう無理矢理剥ぎますけどねっ!」
ガバッ
傭兵「ちょっ、止め――」
メイド「止めませんよ〜……さあ、無防備に晒してくださいね〜……ちゃんと綺麗にしてさしあげますから」
傭兵「――いやちょっ、本当……!」
傭兵「って本当に力入らない!」
傭兵「なんでこんなバッチリなタイミングで来たんだこの人!?」
傭兵「さては狙ったなおい!」
メイド「さあ……どうでしょうかねぇ〜……」
メイド「まあ、ともかく力が入らないなら……観念してくださいね〜……」
メイド「……エヘッ」
傭兵「っ……!」
366:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
メイド「では後ほど、消化に良いお食事を持って参りますので」
傭兵「いや普通に帰ろうとしすぎでしょう!」
メイド「まあまあ。胸筋を触られただけじゃないですか。気にしてないですよ」
傭兵「俺も実際気にしてないけれども! それでもそれはたぶんメイドさんが言うセリフじゃあないっ!」
傭兵「っていうか筋肉なんて俺より鍛えてるヤツなんて沢山いるでしょう!」
傭兵「ここの兵士ならたぶん俺より立派ですよっ!!」
メイド「そう言われましても……私、城の中で気兼ねなく話せるのが、あの子と女騎士さんぐらいなんですよ」
メイド「その二人に筋肉はありませんし……なんだか、珍しいんですよ」
傭兵(だからってあそこまで触るか……?)
傭兵(……って、お姫さまと女騎士の二人だけ……? メイドなのに同僚とかと会話しないのか……?)
傭兵(……ああ、そういえばお姫さま専属としてずっと一緒だったんだっけ……ほかの使用人とは違って微妙に距離感があるのかもしれないな……)
傭兵(そのせいで兵士にも話しかけ辛いとか……?)
メイド「出来ればこれからは傭兵さまとも、気兼ねなく話せるようになれれば良いんですけどね」
傭兵「……えっ?」
メイド「いえ、なんでもありませんよ」
メイド「ではお食事、お持ちしますね」
ギィ…
…パタン
傭兵(しまった……考え事をしていたせいで聞き逃してしまったな……)
傭兵(まぁ、たぶんどうでもいいことだろう。うん)
368:
乙!
メイドかわいい
371:
乙でした
このメイド、只者ではないな
376:
ガチャ
傭兵「?」
ギィ…
女騎士「やあ」
傭兵「あ、女騎士……」
女騎士「出てきたメイドさんから目が覚めたって聞いてさ。……どう? 容態は」
傭兵「お前のおかげでほとんど万全だ」
傭兵「ありがとな。ここまで運んでくれて」
女騎士「いやいや、何言ってんの。姫さんのために尽力してくれたのは傭兵だろ?」
女騎士「お礼を言うのはボクたちのほうだ。ありがとう」
女騎士「お前のおかげで姫さんを救えた。敵対していた貴族も一つ潰せた」
女騎士「本当に、助かった」
傭兵「お姫さまを救えたって……俺は危うく間違えた推理をして、彼女を見殺しにしてしまうところだったんだぞ?」
傭兵「力を尽くすのだって、お前には一度言ってしまったけど大人として当たり前のことだし」
傭兵「貴族を潰せたのなんてそれこそここに勤めている人の力そのものじゃないか」
傭兵「俺は本当、そんな大したことはしてないんだって」
女騎士「お前で大したことをしてなかったんなら、ボクなんて何もして無いことになるよ」
女騎士「戦いも全部任せちゃったし」
傭兵「そうしないと、助けに行ったお姫さまを犠牲にしてしまうところだったんだから、当然だろ?」
377:
傭兵「それに女騎士は、誘拐犯の一味かもしれない俺を心配して、戻ってきてくれた」
傭兵「あんなに離れた場所にいた俺を探して、見つけてくれた」
傭兵「それだけで、俺にとっちゃあ十分さ」
女騎士「誘拐犯の一味かもしれないって……姫さんと二人きりになったのに手を出さなかった時点で、その可能性はないでしょ」
傭兵「フラフラだったからそのチャンスを棒に振って、今は懐に潜るためにこうしてるのかもしれないぞ?」
女騎士「それでも、姫さんを殺して一度突っ返すのは効率が悪いだろ」
女騎士「あれだけの魔法が使えるんなら、フラフラだったとしても姫さんを無力化するなんて容易かったはず」
女騎士「ましてあの時の姫さん、魔法を目の前に突き出されても動けなかっただろうしさ」
女騎士「でもそれをせずに殺して突っ返した時点で、姫さんを裏切ることは無い」
女騎士「それぐらい、バカでも分かる」
傭兵「そうでもないだろ」
傭兵「そう思わせるために実は……かもしれないぞ?」
女騎士「……はぁ……どうも、傭兵は謙虚が過ぎるね。そこまで疑い始めてたら、それはもう一味だって決め付けてるようなもんだろ?」
女騎士「なんというか……妙に捻くれてるっていうか……これだけ褒めても素直に受け止めてくれないなんてさ」
女騎士「なんか心に闇でも抱えてるんじゃないのか?」
379:
傭兵「いや、さすがにそれはないと思いたいが……」
女騎士「ま、傭兵がどう思っていようとも、少なくともボクはお前のおかげで姫さんを救えたと思ってるし、貴族を潰せたと思ってる」
女騎士「だからま、このお礼は勝手に言ってるだけだと思っててよ」
傭兵「んじゃあ俺のも、勝手に素直に受け止めることが出来ていないだけだと思っててくれ」
女騎士「全く……どうしてそう素直に受け入れてくれないのか……」
女騎士「お礼の言い甲斐がないだろ?」
傭兵「言い甲斐ってなんだよ。別にそんな感謝して気を遣うことが無いってことだぞ?」
傭兵「もっと気楽に『あ、そう? じゃあまぁいっか』ってぐらいに考えてくれよ」
女騎士「それで本当にお礼を言わなかったら『お礼の言葉だけでもくれたら良いのに』とか考える性質じゃないの? 傭兵って」
傭兵「いやいや、そんなことは――……」
傭兵(……あれ? 意外にある、か……?)
傭兵(なんだかんだでこういったやり取りするのが楽しいと思ってる俺がいたりするしな……あれ?)
傭兵「……――ん〜……?」
女騎士「はぁ〜……なんというかもう……無理矢理自分を悪人に見せようとするところとか、そう素直に好意を受け入れるのが下手なところとか……さっきも言ったけど、本当に妙に捻くれてる」
女騎士「なんか、信頼されることを恐怖しているようにも見える」
傭兵「そんなつもりは無かったんだがな……」
女騎士「感謝されて信頼もされるのがイヤで、けれども感謝だけはされたいって……謙虚とは真反対で、むしろ図々しいよね」
傭兵「そうやって抜き出されるとまるっきり面倒な男だな……俺って」
女騎士「まあでも、それが傭兵ってことでしょ? 無自覚であれなんであれさ」
女騎士「今まで知らなかった一面だったんだと思うと気にはならないし。むしろそんな性格だったんだって、やっと内面が見えただけ」
女騎士「だからボクはそんな傭兵でも、十分に受け入れられるかな」
380:
女騎士「あ〜……それよりも、さ。傭兵」
傭兵「ん?」
女騎士「ん〜……あ〜……その、うん……」
傭兵「……なに? 喉でも痛い?」
女騎士「なんでそうなるっ! じゃなくて……えと……ほら、あれだ……」
傭兵「…………どれ?」
女騎士「……お前は弱い!」
傭兵「いきなり何!?」
381:
女騎士「あ、いや……うんと、ああ……いや、間違えた間違えた……」
傭兵「間違えたのか……いやまぁ、弱いことに違いは無いけど……」
女騎士「そんなことはない!」
傭兵「うおっ!?」
女騎士「アレだけの数を相手に有利に動けるのはむしろ誇っても良いと思う!」
女騎士「確かに一対一では弱かったけど! 模擬戦でのあの動きでそれは認めざるを得ないけどっ!!」
女騎士「でも複数を相手に戦った時のあの動きっ! アレは誰にも真似できないっ! まさに集中力が分散している傭兵だからこそのものだっ!!」
女騎士「だからお前は弱くないっ!!」
女騎士「あの特別な強さは、唯一無二の傭兵自身だと思う!」
傭兵「……いや……弱いって言ったのは女騎士なんだけどさ……」
女騎士「あっ!」
女騎士「……あ、いやだからそれは間違えたんだとあれほど……!」
382:
傭兵「……それで? 結局何が言いたいんだ?」
女騎士「いや、その……あ〜……だから……うん」
傭兵「……本当、さっきから歯切れが悪いな……」
女騎士「ああ、うん。ごめん……」
女騎士「実はその……ほら……模擬戦!」
傭兵「模擬戦……?」
女騎士「ほら一度、手合わせしたよね? あれをまたやらないか?」
傭兵「……なんでまた? どうせ俺が負けるのに……」
傭兵「一度やったし、近くで見たしで、実力差は十二分に分かっただろ」
女騎士「そうだけど……ほら……なんというか……魔法がさ……」
傭兵「魔法?」
女騎士「そう! あの手合わせは魔法使用禁止でやっただろ? でも今度は魔法を使っていいからさ」
女騎士「あの時は一度見せてもらっていただけで、まさかあそこまで魔法を重きに置いた戦い方をすると思っていなかったんだ」
傭兵「ああ……なるほど」
女騎士「ボクも、あれだけの魔法を使える人を相手に、どれだけ戦えるのかを確認したいからさ」
女騎士「ここの宮廷魔法使いに頼みたいんだけど、ほら、彼等も忙しいし」
女騎士「魔法を絡めた戦い方においては遜色ないだろうお前に、お願いしたいんだよ」
傭兵「ん〜……まぁ、お姫さまの副作用が出ないんなら、一回ぐらいは良いか……」
383:
女騎士「副作用……?」
傭兵「いやいや、マジで不思議そうな顔するなよ……」
傭兵「俺が雇われたのは、お姫さまの副作用を解消するためだぞ?」
女騎士「……あ、そうだったっけ……そういえば……」
傭兵「なんで忘れてんだよ……」
傭兵「ま、だから副作用を発症していない間は休みだからさ、本当は極力休むたいし、あの場所での戦いの仕掛けも改めたいんだが……」
傭兵「でもま、助けてもらったお礼に、一日ぐらいなら相手してもいいぞ――」
女騎士「でも姫さん、もう副作用発症しないと思うんだけど……」
傭兵「――って聞いてんのか?」
女騎士「これは王にも話しておいてもらった方が――ってああ! ごめんごめん」
女騎士「聞いてた聞いてた」
傭兵「本当かよ……」
女騎士「休みの日は毎日暇だから相手してくれるんだよね?」
傭兵「マジで聞いてねぇなお前!!」
384:
女騎士「ははっ、冗談だよ。冗談」
女騎士「それにボクにも仕事があるしさ」
女騎士「分かった。それじゃあ一日だけ、頼むね」
傭兵「ああ。日取りはそっちで決めてくれ」
傭兵「……ま、誘拐なんてされたからな……明日からいきなり副作用、の可能性もあるけどよ」
女騎士「いや、それはないだろう」
傭兵「ん? なんで言い切れるんだ?」
女騎士「ん〜……なんとなく、かな」
女騎士「ともかく手合わせの件、忘れないでよ」
傭兵「ああ。分かったよ」
傭兵(ったくまぁ、嬉しそうにしやがって……)
傭兵(どんだけ自分の力を試したいんだよ……)
女騎士「それじゃあ予定確認してから、また暇を見つけて来るから」
傭兵「はいはい」
ギィ…
…バタン
385:
――ああ……結局謝れなかった……――
――あれだけ疑って悪かったって言えなかった……――
――どうせ疑われて当然だったからとか言われるんだろうけど……それでも一回は謝っときたい……――
――このまま流れでスルーしちゃいけないことだし……うん……いつか絶対に……うん……――
――それに……その代わりに、手合わせの約束が出来たし……――
――その時にでも……うん――
傭兵(……ドアの前でデカい独り言は止めろよ……普通に聞こえてきてるし)
傭兵(でもまぁ、謝りたかったのか……本当、気にすること無いのに)
傭兵(……今日の帰りにでも、それとなく気にするなって言っておくか)
――情けないですね――
傭兵(あれ? メイドさん? まさか女騎士が出るまで待ってたのか……?)
――〜〜〜〜〜〜〜っ! ――
――――――
傭兵(……声が遠ざかったか……俺に用事、ってわけでもなかったのか……)
傭兵(ま、女騎士って騎士長だしな。お姫さまに関して何か話しておくことでもあったんだろう)
398:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「ごちそう様でした」
メイド「お味のほうはどうでしたか?」
傭兵「えっと……とてもおいしかったです」
メイド「では、シェフに喜んでいたとお伝えしておきますね」
傭兵「はぁ……」
傭兵(っていうかずっと部屋の隅っこに立たれるとか……気になるってレベルじゃねぇぞ)
傭兵(正直、味なんて分かんなかった……)
傭兵(そもそも日頃食ってるものと次元が違いすぎて……もう何がなんだか)
メイド「それと申し訳ないのですが」
傭兵「はい?」
メイド「まだしばらく、この部屋の中にいていただいてもよろしいですか?」
傭兵「え? 正直もう帰っても良いかと思ってたんですが……」
メイド「ちょっと、会っていただきたい方がいまして……」
傭兵「はぁ……」
メイド「会いたいと言っているのに、こちらの勝手で恐縮ですが、まだちょっと時間の都合がつきそうにないんですよ」
傭兵「まぁ、そういうことなら」
メイド「ありがとうございます」
399:
メイド「本当は城の中でも散策してもらえれば、ちょうど良い暇つぶしになるのですが……」
傭兵「分かってますよ。部外者の俺が一人でそこまでのことをするのはいけないんでしょう?」
メイド「申し訳ありません」
傭兵「いえいえ。むしろ当たり前のことですから」
メイド「そう言っていただけると、助かります」
メイド「ただ、この何も無い部屋で一人と言うのも退屈でしょうから、暇つぶしに会話の相手を」
傭兵「メイドさんが?」
メイド「いえ。あの子が」
傭兵「お姫さまがっ!?」
メイド「ま、無いとは思いますが、もし誰かが襲ってきたら守ってあげてください」
傭兵「……え〜……?」
メイド「食事を終えたら来るそうですので――」
コンコン
メイド「――と言っている間にも、来たようですね」
ガチャ
400:
姫「あ、おねえちゃん」
姫「食器持っていくの、手伝いましょうか?」
メイド「構いませんよ。それよりも、訓練をサボる口実を無理矢理見つけてまで話し相手を買って出たんですから」
姫「ちょっ! そ、そんなの本人前にして言わないでくださいっ!」
メイド「あら、すいません」
メイド「ともかくそういうわけなんですから、私なんかよりも会話の相手、お願いしますね」
姫「む〜……分かりましたよ」
メイド「では、お願いします」
キィ…
…バタン
姫「……ん、と……」
傭兵「どうも、お姫さま」
姫「は、ふぁい! 傭兵さま!」
傭兵「……どうしてそんなに緊張してるのですか?」
姫「あ、えと……なんと言いますか……その……」
姫「なんだか、改めて助けてもらったんだなぁ、と思うと、何故か……」
傭兵「助けてもらったのはこちらも同じです」
姫「え?」
401:
傭兵「あの瓦礫の山から連れて帰ってくれました」
傭兵「本当、ありがとうございました」
姫「そ、そんなことでお礼を言わないで下さいっ」
姫「大体そんなの、わたくしが助けてもらったことを思えば些細なことですし……」
姫「むしろお礼を言わないといけないのはこちらの方です」
姫「本当、助けていただき、ありがとうございました」
傭兵「いやいやいや……王女が頭を下げないで下さい」
姫「本当は何か、地位とか色々なお礼を差し上げるべきなのでしょうが……」
傭兵「気にしないで下さい。さっきので十分ですよ」
傭兵「あとはまぁ、給料に多少色をつけてもらえればそれで」
姫「えっ? たったそれだけで良いのですか?」
姫「何か大きな請求をされても、大体のものは叶えて差し上げられますが……」
傭兵「俺は、して当然のことをしただけです」
傭兵「それに対してお礼をせびるのは、違いすぎるでしょう」
姫「……女騎士さんの言っていた通りですね」
傭兵「え?」
姫「大人だから子供を助けるのは当たり前と言っていたと、女騎士さんは言っていました」
402:
姫「……思えばわたくし、傭兵さまのことを何も知りません」
姫「副作用を解消してくれて、解消するまでに何回もわたくしが殺していたのに、です」
傭兵「でも、それは仕方のないことでしょう」
傭兵「俺が副作用をどうにかしようとしている間、お姫さまは意識が無いようなものなんですし」
姫「それでもわたくし、あなたを殺してから、死んでいるあなたを見たことなら何度だってあります」
姫「それなのに、知ろうともせず、その日の予定で頭がいっぱいになって……まるで当然のように受け入れていました」
傭兵「それで良いんですよ。それがコチラの仕事なんですから」
姫「あっ、そういえば一度、身体をバラバラにしていたこともありました」
姫「その節は苦しめてしまったようで……どうも、ああいうことをしてしまうと生き返っても感覚が残っているようですし……ご迷惑をおかけしました」
傭兵「ですからそれが仕事なんですよ。本当、気にしないでください」
姫「大人だから当たり前、ですか?」
傭兵「この場合はどちらかと言うと、仕事だから当たり前、ですかね」
姫「……それでも、やっぱり少し、気にしてしまいます」
姫「だってわたくし、副作用をどうにかしようとしてくれていた他方々にも、同じことをして苦しめていたのかと思うと……」
傭兵「それも向こうからしてみれば仕事だから当然だって思ってますよ」
傭兵「殺されるって分かって仕事請けといて、生き返ってしばらくの間だけ後遺症が残るような殺され方をされて不快極まりない、なんてこと言ってんだったら、最初から仕事請けるなって話になりますからね」
姫「……そうでしょうか?」
傭兵「そうですよ」
姫「……そうですか。……そう励ましていただけると、少し心が楽になります」
傭兵「……と言いますか、お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「その頃の話をしていて思い出したのですが……なんか、大人しくありません」
姫「えっ!? えあ〜……そんなこと……ないと思いますよ……?」
傭兵「いや、そんなことあると思いますけど……」
403:
傭兵「初めて会いに来てくれた時はもっとこう、活発な女の子っぽかったんですが……」
傭兵「さっきメイドさんにしてたような態度をそのまま明るくして、口調だけ今のように丁寧だったような……」
姫「あ〜……ほら、あの時はなんと言いますか……」
姫「副作用が解けたばかりで、テンションが上がっていたと言いますか……まあそんなところです、はい」
傭兵「はぁ……なるほど……?」
姫「……と、時に傭兵さま」
傭兵「ん?」
姫「男性はお淑やかで物静かな女性が好きだと、礼儀作法の先生が仰っていたのですが……そういうものなのですか?」
傭兵「え……? ……まあ、世間一般的にはそうみたいですね」
姫「……傭兵さまはどうなのですか?」
傭兵「俺? 俺もまぁ……そうですね」
傭兵(そう言っといた方が先生の言葉を信用して、礼儀作法を身に付けるだろう)
傭兵(たぶん、その先生もその方が助かるはずだ)
傭兵「どちらかというと、お淑やかな女性の方が……」
姫「そ、そうですか……そうですよね……」
姫「……っしゃ」グッ
傭兵(……今すっげぇ淑女らしからぬコッソリガッツポーズが見えたけど……まぁ指摘してやらぬ優しさか)
404:
傭兵「そういえば、あの家庭教師だった男以外にも先生はいるんですね」
傭兵(……って、王族だったら当然か……)
姫「…………」
傭兵「…………? どうかした?」
姫「え、ええ……いえ、別に」
姫「それはまあ、当然ですよ」
姫「ただ完全に信用していたのは、男さまだけでしたけれど」
傭兵「あ……すいません」
姫「……どうして謝るのですか?」
傭兵「いや……裏切られて辛いだろうに、思い出させてしまって……」
傭兵「普通に、失言でした……」
姫「別に、大丈夫ですよ」
姫「それに、あの方から情報を聞き出すために拷問したのはわたくしです」
姫「とっくに鬱憤は晴れていますよ」
傭兵「拷問って……」
姫「ですからあの時、殺してまで無理に城に帰すこともなかったんですよ。実は」
姫「……なぁんて、ウソですよ」
姫「一度死んだからこそ、冷静になれた部分はありました」
姫「だからたぶん、あの時は一度殺してもらって正解だったのでしょう」
姫「ですから本当、ありがとうございます」
傭兵「…………」
405:
姫「これは、あの人を信用しきっていた、わたくしが悪いのです」
姫「傭兵さまは、気になさらないで下さい」
姫「まして、わたくしの立場で好きになるだなんてことが、そもそもはダメだったんですし……」
傭兵「…………」
姫「……ねえ、傭兵さま」
姫「わたくし、何を信じていたら良かったのでしょう?」
姫「男さまを信じず、今の礼儀作法の先生も信じず、女騎士さんやおねえちゃんやお父さんだけを信じていれば、良かったのでしょうか?」
姫「それとも……これからは男さまの代わりに、傭兵さまのことを信じていけば良いのでしょうか……?」
傭兵「……俺には、わかりません」
傭兵「ただ少なくとも、その辺にいる雇われの俺を信じるのはダメでしょう」
傭兵「もしかしたら俺は、お姫さまのいるこの国とはまた別の国の人間で、お姫さまのことを狙っている人間かもしれませんよ?」
傭兵「助けたのだって本当は、大人らしいイヤらしい理由があるのかもしれませんし」
姫「……じゃあ、わたくしは、どうしたら……」
傭兵「それは……自分で考えないといけないことなんですよ」
傭兵「考えて、自分なりの他人との距離の掴み方を見つける……たぶん、それしかないんだと思います」
406:
傭兵「俺のように、何もかもを信じず、誰にも信用されないように生きていくのか……」
傭兵「それとも自分が信じられるものを見つけて、裏切られるかもしれない恐怖の中付き合っていくのか……」
傭兵「もしくはその恐怖を押し潰すか見て見ぬふりをして、何も知らない無垢のフリを続けていくのか……」
傭兵「……一度裏切られ、その辛さを知ったお姫さまに残された選択肢は、たぶん、これぐらいです」
姫「…………」
傭兵「俺が出来るのは、たぶんこれぐらいしか選べるものはありませんよ、と例を挙げてあげることだけです」
傭兵「この例の中から選んでもいいですし、もちろん別の選択肢を選んでもいい」
傭兵「それを考えて、自分で選ぶ」
傭兵「酷いですけれど、俺はお姫さまの手を引いてあげられるほど、強くはありませんからね」
傭兵「そうして後ろから、声をかけてあげることしか出来ません」
傭兵「お姫さま自身の足でこれからも前へ向かって進んで欲しい、と無責任に声をかけることしか、ね」
姫「…………」
傭兵「……ただ」
姫「……?」
傭兵「俺のように、何も信じずに生きていくのは、ただの臆病者の生き方です」
407:
傭兵「騙された後が怖いから、周りを疑い続ける」
傭兵「信じてしまった後の裏切りで傷つきたくないから、誰も信じない」
傭兵「期待された通りの事が出来なかった自分を想像するだけで震えてしまうから、信用されないようにする」
傭兵「俺も含めてそういう生き方をする人は、ただの臆病者なんです」
傭兵「そうしないと生きていけない社会で……大人はこうして生きていかないと身を滅ぼしてしまうとしても、ね」
傭兵「……確かに、お姫さまの純粋無垢で真っ白な生き方は危ういです」
傭兵「騙されやすいし裏切られやすい、立場上勝手に期待されて望みどおりのことが出来ていないと非難されるでしょう」
傭兵「それでも俺は……お姫さまの生き方は、素晴らしかったと思います」
傭兵「それに今も……凄いと、思っています」
姫「え……?」
傭兵「だってあれだけ裏切られたのに、すぐに臆病者になることなく、まだ誰かを信用したいと想っている」
傭兵「ともすれば、今まで信用していた全ての人を疑い始めてもおかしくは無いのに、そうならなかった」
傭兵「それは本当に、凄いことですよ」
姫「…………」
408:
傭兵「怖いのに信じて、裏切られるかもしれないのに信用して、騙され傷つけられこうして痛みを負ってもまだ、誰かを信じたいと願っている」
傭兵「……俺には到底、真似できませんよ」
姫「……傭兵さまも……」
傭兵「ん?」
姫「傭兵さまも……誰かに裏切られたことが、あるのですか……?」
傭兵「……いや。俺は無いです」
傭兵「むしろ俺は……裏切った方ですから」
姫「……どういうことですか……?」
傭兵「大切な幼馴染を裏切った……裏切らざるを得なかったとはいえ、大切な人を傷つけた……」
傭兵「だから俺はもう、誰にも信用されたくないと思っているんです」
傭兵「あの時の辛い想いは、もうしたくない」
傭兵「信用されてしまったせいで、傷つけてくれと頼まれて……」
傭兵「そうやって……辛い気持ちを背負わされるぐらいなら……最初から……」
姫「傭兵さま……」
傭兵「……話が逸れましたね」
傭兵「すいません」
姫「それは……昔一緒にいたと言う、仲間のことですか……?」
傭兵「……まぁ、はい……そう、ですね……」
姫「……くすっ」
傭兵「えっ?」
409:
姫「あ、すいません」
姫「落ち込んでいるときに、笑ってしまうだなんて……酷い女ですね」
傭兵「いえ、そんなことは……」
姫「いえ。酷いですよ」
姫「でも何故か、おかしいと思ったんです。今の状況が」
傭兵「おかしい、ですか?」
姫「はい」
姫「好きな人に裏切られて、気持ちは吹っ切れたのに何故かモヤモヤとしていて、話題を出されるとなんだかとても悲しくて……苦しくて……」
傭兵「…………」
姫「それなのに話をしていると、さっきまで気を遣ってくれていた傭兵さまの方が、今はわたくし以上に悲しそうな顔をしていたのが……なんだかおかしくて」
傭兵「……そんな顔してました? 俺」
姫「はい。してましたよ」
姫「よほど思い出したくないことなんだろうなぁ、って思いました」
傭兵「…………」
姫「……わたくし、もう少し考えてみます」
姫「今までみたいにすぐに誰かを信用してはいけないことが分かりました」
姫「ですが、誰も彼も信用しないよう、臆病者にはならないように致します」
姫「前までみたいに、極端に人を信用はしませんが……だからと、極端に人を拒絶もしません」
姫「傭兵さまが、凄いことだって、って言ってくれましたからね」
410:
傭兵「……そんなに、俺の言葉を信じて良いんですか?」
姫「良いんですよ。だってわたくし、傭兵さまのこと――……」
傭兵「……?」
姫「……――い、いえ! 今言うことではありませんでしたっ! す、すいません……!」
傭兵「は、はぁ……?」
姫「そ、その……決して嫌いだとかそういうのではなくて……今言ってしまいますと……その……心変わりばかりしている男好きだと思われてしまいそうで……はしたないですから」
傭兵「そ、そうですか……?」
傭兵「でもお姫さまの年齢なら、普通じゃないですか?」
姫「え、えぇ!? ま、まさか言いたいことがバレて……!?」
傭兵「俺のことを信用している、と言いたかったんじゃないんですか?」
姫「…………………………………………」
傭兵「……あ、あれ……?」
姫「そ、その通りです! はい全くもってその通りです! えぇ!!」
傭兵「?」
412:
傭兵「まぁだから、お姫さまぐらいなら普通だと思うんですよ。誰かをすぐに信用してしまうのは」
傭兵「まだまだ子供なんですから」
姫「こ、子供……」
姫「……ま、まあそうですね……そう思われても仕方ないですよね……」
姫「まだまだ小さいですし……色々とちんちくりんですし……えぇえぇ、仕方のないことです……」
傭兵「優しい言葉をかけてくる大人は、頼もしく見えますからね」
傭兵「ただそれでもやっぱり、俺のことはあまり信用しない方が良いですけれど」
傭兵「……いつ裏切るか、分かりませんからね……」
姫「……傭兵さまは、わたくしを裏切るご予定でも?」
姫「……って、この質問は無意味ですね」
姫「あろうとなかろうと、無い、と答えるのが当然の質問ですし」
姫「……いえ、だからこそ、ですね」
姫「傭兵さまに何を聞こうと、わたくしの答えも変わらないです」
姫「例え、裏切るつもりがあると、そう言われようとも……いくら傭兵さまが拒絶しようと、わたくしは傭兵さまを信じてみようと、そう思います」
姫「また、裏切られてしまうかもしれない恐怖と共に」
姫「目を逸らしながらも、共に歩むように」
傭兵「……それが、お姫さまの選択なら、それで良いと思いますよ」
姫「傭兵さま限定、ですけれどね」
傭兵「え?」
姫「人付き合い全般に関しては、まだまだ沢山考えますよ」
姫「そのためにもまずは、色々と案を出してくれて傭兵さまを信用しようと……そういうことです」
413:
姫「本当、今日は傭兵さまと話せてよかったです」
姫「……実を言うと、もっと沢山、傭兵さまのことを聞きたかったんですけれどね」
姫「わたくしのことばかり話してしまいました」
傭兵「ははっ……俺の話なんて、つまらないですよ」
姫「そんなこと無いですよ」
姫「もしかしたら、少し弱みを見せてくれたおかげで、わたくしは傭兵さまを信用しようと思えたのかもしれませんし」
姫「そうじゃなかったら……たぶん勘違いして、男さまにしていたように、もたれかかる依存に近い信用を寄せてしまっていたかもしれませんし……ね」
傭兵「勘違い……?」
姫「わたくしを裏切らない、ずっと傍にいてくれる絶対無敵の勇者のような存在だと勝手に期待してしまっていた、ってことですよ」
傭兵「それは――」
コンコン
メイド「失礼します」
ガチャ
メイド「傭兵さま、こちらの準備が出来ましたので、お願いいたします」
姫「あっ、もうそんな時間ですか……」
傭兵「――っと、もっとお話しても良かったんですけれどね」
傭兵「色々と、訂正しないといけないこともありそうでしたし……」
姫「まあ、これからはその時間ぐらい沢山取れるでしょうから。その時で構わないですよ」
傭兵「え?」
姫「いえ。なんでも」
414:
キィ…
女騎士「やあ」
姫「げ」
女騎士「げ、とはどういうこと? 姫さん」
姫「い、いえ……別に……」
女騎士「ま、傭兵と話したいからって訓練をサボったことは、あえて責めないよ」
姫「ぐっ……」
女騎士「攫われた自覚と自らの無力さを噛み締める時間も、必要だろうからね」
姫「そ、それは仕方が無いと女騎士さんも……!」
女騎士「うん。仕方が無いと思う」
女騎士「でもそこからダラダラとするのは違うんじゃないかなぁ……?」
女騎士「反省して強くなって油断していてもある程度は対応できるようにならないと……」
女騎士「って、あ、いや。別にダラダラしてた訳じゃないし、そうしないといけないって分かってるけど少し休みたかっただけだよね、うん」
姫「ぐうううぅぅぅぅぅぅ……!」
姫「い、いえ……ここはお淑やかに……淑女の嗜みを思い出して……堪えて堪えて……!」
415:
姫「そ、それよりも女騎士さん……? どうしてここにいらっしゃるのですか?」
女騎士「何を言ってるの? 姫さんを護衛するために決まってるじゃないか」
女騎士「あ、今日は訓練がないから、ノンビリと傍についていてあげるだけにするから、安心して」
姫「そ、そんなに休んだのが許せませんか……?」
姫「先ほどから少しばかり、言葉に棘があるように思えるのですが……」
女騎士「いやいやそんな。好きな人に裏切られて、あれだけのことをされたんなら、傷ついて当然だからね」
女騎士「ボクとしても、姫さんには元気になって欲しいし」
女騎士「そのために必要なことだって言うんなら休んで欲しいよ、当然」
姫「でしたらその嫌味っぽいのはどういうことですか……?」
女騎士「嫌味っぽく聞こえるのはやましい気持ちがあるからじゃないかなぁ?」
姫「ぐ、おおおぉぉぉぉぉ……!」
姫「せめて……せめて傭兵さまの前だけでも……!」
メイド「…………」
416:
メイド「ええ〜……では女騎士さん、この子の事、お願いします」
女騎士「うん。任されたよ」
メイド「それでは傭兵さま、行きましょうか」
傭兵「え、その……二人は?」
メイド「いつものことです」
メイド「それにどういうわけか、この子は傭兵さまが早くいなくなって欲しいようですし」
姫「それは語弊があると思いますおねえちゃん!!」
メイド「ともかく、あまりらしくないまま我慢させるのもアレですしね……私達は行きましょうか」
傭兵「あ、はい」
カツカツカツ…
417:
メイド「時に傭兵さま」
傭兵「はい?」
メイド「子供は、活発な子と大人し子、どちらが好きですか?」
傭兵「子供? どうしたんですいきなり」
メイド「ちょっとした興味ですよ。気兼ねなく答えて頂ければ」
傭兵「そうですね……まぁ、子供は元気な方が良いですね」
メイド「そうですか」
傭兵「まぁ、子供が大人ぶろうと頑張ってるのも可愛くは思いますが……やはり子供らしく元気な方が安心しますね」
メイド「……思うのですが、傭兵さまってロリコンですか?」
傭兵「違うっ!」
メイド「そうなのですか? 子供のためにと言って全身全霊をかけるのでてっきり……」
メイド「ま、ともかくそう伝えておきますね」
傭兵「誰にっ!?」
メイド「え? これから誰に会うかですか?」
傭兵「言ってない! いやでも気にはなりますけれどっ!!」
メイド「これから、王に会っていただきます」
傭兵「ああ、なるほど……」
傭兵「…………………………………………」
メイド「…………」
傭兵「……え!? なんでっ!?」
422:

女騎士、デレてもウザイとはこれ如何に
だがそれがいい
424:

ますます面白くなってきたな
432:
メイド「? なにがですか?」
傭兵「いやちょっと理解するのに時間掛かってる間に話が終わったみたいなの止めて下さい!」
傭兵「どうして王様と会うことになってるんです!?」
メイド「それは、当然じゃないですか」
メイド「娘を救ってくれた方ですよ」
メイド「直接お礼を言いたいんだそうです」
メイド「まあ、公務が立て込んでいるせいで、あまり時間が取れないようですが……」
傭兵「……別に王様直々にお礼言わなくても……」
メイド「本人がそうしたいと言ったんですよ」
メイド「あと、直接会って確かめたいとも」
傭兵「? なにを?」
メイド「それは――」
…カツン
メイド「――着いてしまったので、王本人に聞いてください」
傭兵「あぁ……早い」
433:
傭兵「って、王座とかじゃないんですね」
メイド「公務を行う部屋で申し訳ありません」
メイド「ですが、移動する時間も惜しいとのことでしたので」
傭兵「……良いんですか? 王様なんていう要人の部屋を俺なんかに教えて……」
メイド「王自身が言ったことですからね」
メイド「私に反対する権限はありませんよ」
コンコン
メイド「失礼します。傭兵さまをお連れしました」
「入ってもらえ」
ガチャ
434:
メイド「失礼します」
傭兵「し、失礼します……」
カツカツカツ…
王「よく来てくれたな、傭兵とやら」
傭兵(髭の生えた渋いおじさんだな……)
傭兵(いや、おじさんは失礼だ……というか、そんな安っぽい言葉で例えた自分が恥ずかしくなる)
傭兵(威厳と威圧感が、机を挟んで座っているこの人から感じられる……)
傭兵(……俺……場違い過ぎるだろ……)
傭兵(なんで普通に生きてきたら会うはずも無い人とこうやって会ってんだよ……)
王「そう緊張するな。楽にしてくれ」
傭兵(無茶言うなっ!)
メイド「…………」
傭兵(……メイドさんは入り口に立ったまま……王様の傍らには、なんか長身の美女が立ってる……秘書か……?)
傭兵(いや、王様の護衛かも……なんか立ち方に隙が無い)
傭兵(細身のレイピアを腰に刺してるが……装飾品と同じ匂いがする)
傭兵(……魔法使い……か……?)
「…………」チラ
傭兵「っ……!」
傭兵(ちょっと注目し過ぎたか……失礼な行動を取ってしまったな……)
435:
王「さて、今回呼んだのは他でもない」
王「実はキミに、頼みたいことがあるんだ」
傭兵「頼みごと、ですか……?」
王「ああ。ま、とはいえ何か別の国へとスパイに行ってくれとか、貴族の屋敷を一つ潰してくれとか、そんな物騒なものじゃあない」
王「極々平和的なものだよ」
傭兵「は、はぁ……」
王「なぁに。簡単なことだ」
王「キミは確か、姫の副作用を抑えるために雇われたのだろう? 契約書を見せてもらった」
傭兵「あ、はい」
王「その中にほら、正規登用の項目があっただろ? 実はソレを頼みたい」
傭兵「え……? つまり、城に仕えろ、と……?」
王「ま、簡単に言うとそういうことだ」
傭兵(……まさか、その話をするためだけに、王様と直接会ってるのか……?)
王「ただその登用の際に、ついでにしてもらいたいことがある」
傭兵(ですよねー)
王「姫に、魔法の勉強を教えて欲しい」
傭兵「……勉強……?」
436:
王「ああ。ま、家庭教師、というやつだな」
傭兵「そ、それは……お姫さま自身が、あまり快く思わないのでは……?」
傭兵(つい今しがたといっても遜色ないほどの時間に、その家庭教師の役職に就いてたヤツに裏切られたばっかりだったのに……)
傭兵(それと同じ役職に、今までただの傭兵だった俺を登用なんて……不安を与えるだけだろ)
王「そんなことはないだろう」
王「むしろキミを信用できると一番に推薦したのはあの子だ」
傭兵「えっ!?」
王「何を驚く」
王「身を挺して救ったのだろう? 信頼しない方がおかしい」
傭兵「は、はぁ……」
傭兵「ですが、その……そんな簡単に決めて良いんですか……?」
傭兵「その、もうちょっと俺――いや、自分のことを疑った方が……」
王「あの子が信用したんだ」
王「なら、あの子の責任だろう」
傭兵(……それで良いのか……? 王として父親として)
437:
王「それに、そこにいるメイドも、あの女騎士までも、お前は信用出来ると言っていた」
傭兵「えぇっ!?」バッ
メイド「…………」シレッ
王「ならば、一度敵を出してしまった家庭教師という役職、任せてみてもいいかと考えるのは必然だろう」
王「本来ならそんな危ないことが起きた役職なんてものは廃止すべきなのだろうが……姫自身がキミを家庭教師として雇って欲しいと話したんだ」
王「被害に遭った本人がだ」
王「となれば、叶えてやりたいだろう? 親としては」
王「それに、お前は魔法が達者と聞く」
王「あの子に魔法を教えたい親心としても、またとない機会だと思える」
王「勉学は本人のモチベーションに拠るところが大きいからな」
王「あの子自身がキミに学びたいと言っているのなら、成果も十二分に期待できるだろう」
傭兵(……そういえばあの子、魔法がまだ使えないんだっけ……? それをなんとかさせたいのか……?)
傭兵(でもそれって年齢的なものであって、どうにか出来るようなもんでもないと思うが……)
438:
王「どうだ? 傭兵。頼まれてくれるか?」
傭兵「その……自分じゃあ、大したことは教えることは出来ませんし……」
王「ふむ……待遇が悪いのか?」
王「もちろん、給料の方も上乗せするつもりだが……?」
傭兵「そ、そうではなくて……!」
傭兵「それにその、それってつまり、家庭教師としている時、万一敵に襲われた際、自分がお姫さまを守るってことですよね?」
王「ま、そうなるな」
傭兵「自分、そこまで強くありませんよ? 正直守りきれる自身は無いです」
傭兵「そんな重たい責任、背負えませんよ」
王「それでも、一度彼女を救い出した実績がある」
傭兵「それは……偶然、自分に適していただけの話で……」
王「それに、大抵の敵は姫自身が倒してくれるだろう」
王「ただ、不意を衝かれないよう警戒してやれば良い」
王「後は援護とかしてやれれば言うことが無いぐらいだな」
439:
傭兵「そ、それと……それは、副作用の解除も兼ねているんですよね……?」
傭兵「もし俺がその日、副作用の解除を失敗した場合と言うのは……」
王「ふむ……いや実を言うと、副作用の心配はいらないんだよ」
傭兵「……え?」
王「副作用が出るのは、加護を受けたことを後悔した時だろう?」
王「だからおそらくは、副作用なんて起きないんだよ」
傭兵「……どうして、そう思うのですか?」
王「ははっ。それは姫本人にでも聞いてくれ」
王「父である私の口から言うべきことではない」
傭兵「はぁ……」
440:
王「で、どうだ? やってくれるか?」
傭兵「……そもそもこれ、拒否権はあるんですか?」
王「あるにはある」
王「が、出来れば使わないでもらいたいと思っている」
傭兵「でも何も、俺が無理に魔法を教えなくても……」
王「そう言われると返す言葉も無いが……ま、ただ娘の我侭を叶えてやりたい親心なんだよ」
傭兵「我侭……?」
王「あの子には、辛い役目を押し付けている。身分不相応に不自由な世界で生きてもらっている」
王「それならせめて、その狭い身の回りの世界だけでも、あの子が望む人間で固めてあげたいと思ってね」
傭兵「…………」
王「それは親として、救ってもらった人をいきなり家庭教師兼護衛人にすることに抵抗が無いと言えば嘘になる」
王「だが他に二人も、あの子のためにと信用できると言ってきた」
王「だから、信じてもいいかと思えたから、こうして声をかけたんだ」
王「……ま、それに見た感じ、キミは臆病者のようだからね」
王「あの前回の家庭教師とは違い、人を傷つける何かを企める人間でも無いだろう」
傭兵「ぐっ」
王「ははっ、気を悪くしたなら謝るよ」
王「だが、大丈夫かなと思えるには、思えるんだよ」
王「親として。王として」
441:
傭兵「……分かりました」
傭兵「そこまで考えているのなら良いでしょう」
傭兵「お引き受けしましょう」
王「そうか。ありがとう」
王「面倒事も増えるが、よろしく頼む」
傭兵「構いませんよ」
傭兵「ただ、この城には住みたくないですけれどね」
王「それはまた……珍しいな……」
傭兵「ちょっとした事情がありまして……構いませんか?」
王「まあ、構わんだろう」
王「姫も住み込みでとは頼んでこなかったしな」
王「前までのような形だけが残った家庭教師ではなくても良いだろう」
傭兵「……自分、情報を外に漏らすかもしれませんよ……?」
王「それは大変だ」
王「ま、皆に信頼された臆病者のキミが、そこまでのことはしないだろう」
王「しかしまあ……そうやって信頼されぬよう振舞うと聞いていたが、本当に聞いてくるとはな」
傭兵(……なんか、先手を取られたみたいで悔しいな……くそっ)
442:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「では失礼します」
メイド「失礼いたしました」
…バタン
傭兵「…………はぁ〜……とんでもない緊張感だった……」
メイド「お疲れ様でした」
傭兵「……っていうかメイドさん……いや、お姫さまも女騎士も、俺をこうして雇うつもりだったんですね?」
メイド「さあ?」
傭兵「しらばっくれないで下さいよ……今日一日の会話で何回かそれっぽいことを言われてたような気がしたのを思い出したんですけど」
メイド「他のお二方は知りませんが、少なくとも私は言っていましたね」
傭兵「やっぱり……」
メイド「ま、引き受けてくれて助かりました」
メイド「あの子の副作用も収まりますし……新しい護衛役を立てることも出来ましたし……ね」
傭兵「とは言っても、四六時中はいませんよ?」
メイド「構いませんよ」
メイド「元々あの子だって気配察知能力は高いのですし」
メイド「あれでも女騎士さんに鍛えられている子なんですから」
傭兵「まぁ、確かにそうか……」
443:
メイド「ただ信頼できる誰かといると油断してしまう、子供っぽいところがあるだけです」
メイド「ですから、あなたが適任なんですよ」
傭兵「……信頼されてる俺自身の気配察知能力が高いから、不意を衝かれても対処できるってことですか?」
メイド「そういうことです」
メイド「それに今までと違い、家庭教師がいる時に兵を置いておかなくて済むのも大きいです」
メイド「私も信頼しているあなたとなら、二人きりにしても大丈夫でしょう」
メイド「なんせ、二人きりになって連れ出せる状況になっても、あの子を殺したほどの人ですからね」
傭兵「お見通しのようで……」
傭兵「でも俺、あの男がしていたであろう普通の授業は出来ませんよ?」
メイド「元々、あまり必要はありませんでしたから」
傭兵「えっ?」
メイド「あの子があの家庭教師のことを好いていたから、解雇出来なかっただけです」
メイド「家庭教師としていた授業はあの子にとっては全てが復習」
メイド「好かれるためにと予習していたのが行き過ぎてしまって、とっくに学ぶことがなくなっていたんですよ、あの子」
傭兵「それは……確かに必要ないですね」
メイド「ええ」
メイド「ですから必要なのは、魔法の知識と、その訓練方法」
メイド「それを教えてくださるのですから、十分ですよ」
メイド「……ま、それでも本命は、あの子の副作用が止まってくれる事なんですけれどね」
傭兵「家庭教師も護衛も、そのついで、と」
メイド「そうですね」
444:
メイド「あの子が苦しんでいた副作用がもう起きないのなら、それに越したことはありませんから」
メイド「他の二つはまぁ、喜ばせるためのオプションみたいなものです」
傭兵「………………………………………………………………ん?」
傭兵「……もしかして、ですけれど……」
傭兵「副作用さえどうにかできれば良かったってことは……」
傭兵「本当は俺が定期的に城に通ってお姫さまと話しさえすれば良かったってことであって……」
傭兵「家庭教師も護衛も、断られること前提で要求してました?」
傭兵「俺が本当に断って欲しくない、その要求を呑ませるために……あえて最初は難しいと思われる要求からしてきていた、とか……?」
メイド「…………」
傭兵「…………」
メイド「……さて、では書類の作成を別室で行いましょう」
傭兵「ハメられたっ!!」
メイド「そんなことはありませんよ。人聞きの悪い」
メイド「ただ傭兵さまは優しいなぁ、ってだけのことですよ」
458:
〜〜〜〜〜〜
 翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
姫の勉強部屋
◇ ◇ ◇
傭兵「え〜……どうも。本日からお姫さまに魔法を教えることになった、傭兵です」
傭兵「改めてよろしくお願いします」
姫「よろしくお願いいたします! 先生っ!!」
傭兵「いや先生はちょっと……そんな器じゃないですし……今まで通りでお願いします」
姫「え〜? ですがそれですと、雰囲気出ないじゃないですか」
傭兵「出なくてもいいですから……本当に」
姫「ん〜……では、交換条件です」
傭兵「はい?」
姫「わたくしが傭兵さまのことを先生と呼ばない代わりに、傭兵さまもわたくしに敬語を使うのを止めて頂けますか?」
傭兵「いやさすがにそれは……王族相手に普通に接するのは……」
姫「ではわたくしも先生と呼び続けます」
傭兵「ぐっ」
459:
傭兵「でも……さすがに俺が敬語を解いて、お姫さまがそのままだと立場が逆転したような感じになって違和感が……」
姫「そこまで複雑に考える必要はありませんよ」
姫「女騎士さんがわたくしにしているような態度で良いんですよ」
傭兵「む〜……」
姫「王女本人が構わないと言っているのですから。気にしないでください」
傭兵「そうは言いますが……」
姫「まあ、無理にとは言いませんよ。先生」
傭兵「ぐっ……やっぱり慣れないな……」
傭兵「……分かりました」
傭兵「ただいきなりは難しいので、徐々にということで」
傭兵「あと、お姫さまのことはお姫さまでお願いします」
傭兵「さすがに呼び捨てまでは俺でも無理ですので」
姫「……仕方ないですね」
姫「それで手を打ちましょう、先生」
傭兵「……認めてくれるまではその呼び方ですか……」
姫「はい♪」
傭兵(うっわ満面の笑み……俺に敬語を使われないことのなにがそんなに良いのか……)
460:
傭兵「というか、お姫さまも敬語を止めてくれれば、こちらとしてももうちょっと楽になるのですが……」
姫「これはもう癖みたいなものですからね……」
姫「完璧でなくともそれっぽく丁寧なら、バカ共も混乱して揚げ足を取ってこないから日頃から心がけなさい、とお父さんに言われてきましたので」
傭兵「……俺の敬語もその類だと思ってくれませんか……?」
姫「先生、女騎士さんに敬語で話していないじゃないですか」
姫「つまり、敬語で無いほうが楽ということですよね?」
傭兵「話す相手によって楽かどうかが変わるのですが……」
姫「……わたくしの方が女騎士さんより距離を感じると?」
傭兵「いや、そりゃ王族相手に距離を感じるなってのが無理かと……」
姫「む〜……ですが、女騎士さんはわたくしに対して普通に接してくれますよ?」
傭兵「正直あの人ちょっとおかしいでしょ」
姫「え、えぇ〜……? それキッパリと言うんですか……?」
461:
姫「で、ですがほら、授業中においては先生の方が立場は上な訳ですし……何も違和感を抱くことは無いですよ」
姫「たぶん女騎士さんも、わたくしに戦い方を教えてくれている時は上だから、その癖がそのまま引きずって他でも普通に接してくるのでしょうし」
姫「ですから先生も、遠慮しないで下さい」
姫「別におかしなことではないのですから。本当に」
傭兵「……つまりお姫さまは、教え教わる立場をキッチリとしておきたいと、そういうことですか?」
姫「え、えぇ……まあ、そうですね……はい」
傭兵(真面目だなぁ……この子は)
傭兵(つまり敬語で教わっていると遠慮されている感じがしてしまうと、そういうことだろう)
傭兵(立場を入れ替えてでもちゃんと、遠慮なく、間違えていない知識を沢山教えて欲しいのだろう)
傭兵(敬語で教えられると、その感じがしないからイヤってところか……)
傭兵(……遠慮されている時間が勿体無いって考えもあろうのだろうけど)
傭兵「……分かった」
傭兵「もうちょっとだけ頑張って、敬語を止めていくようにしま――する……よ……?」
姫「……すごい無理してますね……」
傭兵「度々言葉に詰まるかもしれませんが……今日中にはなんとかしてみます」
462:
傭兵「え〜……まぁ、言葉遣いに関してはこの辺にして……」
傭兵「ともかく、授業っぽいことを始めます」
姫「はい先生!」
傭兵「…………時にお姫さまは、字の読み書きは当然出来るんですよね?」
姫「はい」
傭兵「実は俺……こうして先生役を頼まれましたけれど、自分の名前以外の字の書きが出来ないんですよ」
姫「……え?」
傭兵「だから本当は家庭教師なんて引き受けたく無かったんですよ……」
姫「で、ですがそれだと、どうしてわたくしの副作用を止める依頼を請けることが出来たのですか……?」
姫「確か依頼は文章での契約書だったように思うのですが……」
傭兵「読むことは出来るからですよ」
傭兵「だから俺が出来る授業というのは、俺が蓄えた魔法に関する知識を口頭で伝えること……」
傭兵「後は、本に書いてることの解説ぐらいですかね」
傭兵「とは言っても、書いてあること全てを俺も理解しているわけじゃないですけど」
姫「え? 理解していないんですか?」
傭兵「恥ずかしながら」
傭兵「でも全てを知らなくても、魔法は使えますから」
姫「それで、あれだけの人数を一人で倒せるほどの魔法を……?」
傭兵「知識よりも経験が勝ることがあるんですよ」
傭兵「まぁ、知識に裏づけされている方が効率が良いのは事実ですけれど」
463:
傭兵「と、あれこれ言ってはいますが、まだお姫さまは魔法が使えないんですよね?」
姫「え?」
傭兵「となると……まだ基礎知識に留めておく方が良いかもな……」
傭兵「使えないなら集中力の磨がし方と魔力の固め方を説明しても仕方が無いし……」
傭兵「属性も分からない以上、下手な手を打たないほうが良いのも事実だからな」
姫「あの……」
傭兵「あ、ではとりあえず、本に書かれていることでも……」
姫「いえその前に」
傭兵「はい?」
姫「わたくし、魔法使えますけど」
傭兵「……………………え?」
465:
傭兵「でも確か、女騎士は『お姫さまは魔法が使えない』って言ってたような……」
傭兵(アレは確か……お姫さまが一人で城を抜け出したのでは? って推理した時だったっけ)
姫「ああ、だってわたくし、あまり明るみに出てはいけない人間ですし」
傭兵「え?」
姫「一応わたくし、表向きは戦闘が出来ない魔法も使えない、お人形のような王女ということになっています」
姫「ただ副作用が出た段階で戦闘が出来ないというウソは通じなくなっておりますので、こと戦闘に関しては開き直っていますけれど」
傭兵「明るみに出てはいけないって……それって誰に対しての隠し事なんですか?」
姫「先ほどバカ共と貶した貴族達ですよ」
傭兵「貴族達……」
姫「……先生は、この国出身の方では無いのですね?」
傭兵「えっ? どうして分かったんだ?」
姫「もし出身なら、すぐに分かったことだからですよ」
姫「わたくしのお父さんが、何をしたのか」
姫「いつ、何をして、王に成られたのか」
姫「その結果どうして今、貴族達に疎まれ狙われる存在になっているのか」
466:
姫「お父さんが王になったのは、つい最近のことです」
姫「まだ十年も経っておりません」
傭兵「えっ!? それにしては……」
姫「地盤がしっかりとしている、ですか?」
姫「まあ、お父さんのお父さん……つまりおじいさまから玉座を奪い取り、その地盤をそのまま利用しているのです」
姫「ですから民の皆様には正当な引継ぎにしか思われていないでしょう。ちょうどおじいさまもご病気とされていましたので」
傭兵「……されていた?」
姫「奪い取ったと言ったじゃないですか」
姫「今は、加護契約書を厳重に管理し、城の地下に死体としているはずですよ」
傭兵「……おじいさんのことなのに、淡々と話すんですね……」
姫「ええ。だって、大嫌いでしたから」
傭兵(あのお姫さまが大嫌いって……)
姫「あの人は、民衆をダメにしていました」
姫「自らの贅沢のために税率を上げ、王のために民がいると本気で信じ疑っておりませんでした」
姫「ですからわたくしは、大嫌いなのです」
467:
姫「そんなおじいさまが、お父さんも大嫌いでした」
姫「ですから民から貪った税で贅沢をしているおじいさまに近付き、従順なフリをして親しくなり……」
姫「油断したところで誰にも気付かれることなく、お父さまはその立場を奪うための反旗を翻したのです」
姫「その結果が、今のこの国です」
姫「おじいさまに押し潰され、けれども外面だけは良かった都市は……内面も改善され始めました」
姫「民の皆様はとても喜んでいました」
姫「最初は、おじいさまの息子が跡を継いだことに不安があったようですが……裏での手回し工作と準備、さらにはおじいさまを支持して同じく甘い汁を吸っていた貴族達の中で、一際大きなものをいくつかを潰したのもあって、今では善き王として迎え入れてくれています」
傭兵「……もしかしてお姫さまが貴族達に隠し事をしているのって……」
姫「はい。今でもおじいさまを支持する、旧貴族派閥からの手から逃れるためです」
姫「お父さんがクーデターを起こした時、向こうも大層油断していたのでしょう」
姫「まさか甘い汁を吸って生きている貴族達の中から反乱分子が――それも甘い汁をばら撒いている元凶の息子から発生するとは、思ってもいなかったのでしょう」
姫「故に、こちらの家族構成も正確には把握しておりませんでした」
姫「ですから、そこを利用しようとしたのです」
姫「そのまま極力貴族達を油断させ、わたくしが狙われても、わたくし自身の手で打倒し、隙を広げられるようにと」
傭兵「魔法が使えない、戦闘も出来ないってウソも、その隙を広げるためのものってことか……」
姫「そういうことです」
傭兵(だからお姫さま自身が貴族に狙われてしまって……)
傭兵(そうなった時に王女自身が対抗できるように、王女でありながらも戦闘訓練を受けているのか……)
468:
姫「それに、わたくしの魔法の属性は『探索』です」
傭兵「『探索』……また希少な属性ですね」
姫「はい」
傭兵「それに、戦闘にも利用できない」
傭兵「……もしかして、副作用のせいで戦闘が出来るとバレているのに、それでも表向きは隠し続けているのって……」
姫「さすが傭兵さまですね。その通りです」
姫「戦闘能力があるとバレている以上、さらに魔法が戦闘では使い物にならないという事実までバレてしまうと、魔法が使えないことを前提とした作戦を立てられてしまいます」
姫「だからこそせめて、魔法が戦闘で使い物にならないということはバレないよう、目を逸らすために今でも戦闘に関しても隠し続けているのです」
傭兵「戦闘で使えないってのがバレるだけで相当狭めてしまうからな……」
傭兵「それならいっそ全て――バレてしまっていることを知らないという体でい続け、“魔法ももしかしたら使えるかもしれない。けれども使えたとして属性が分からない”という風に持って行こうと……そういうことか」
姫「戦闘が出来ないと信じていれば油断という大きな隙が……」
姫「戦闘が出来ると分かっていれば、戦闘用の魔法も使えるだろうという体で作戦を立てようとする結果生まれる隙が……」
姫「その二段構えを意図しての、自分の身を表に出さないという行為なのです」
傭兵「なるほど……魔法を使える体で作戦を立てるなら、最も数の多い基本属性で作戦を立てるのが普通だからな……」
姫「そういった形で警戒された方が、都合良くなるかもしれませんからね」
469:
傭兵(なるほど……だからこそのあの密室空間での副作用解除のための戦いか……)
傭兵(外で戦うときに女騎士にとって信頼できる兵で見張らせたのも、少しでも“戦闘用の魔法が使えないかも”と思わせないため、と……)
傭兵「ということは、外での魔法の実践はしないほうが良いな……」
姫「出来ればお願いします」
傭兵「……まぁでも、お姫さまの副作用を解除していたあの部屋。あそこでも魔法を使おうと思ったら使えますから」
傭兵「『探索』の属性なら、密室空間だと外にバレずに練習も出来そうですし、イザとなればあそこを使いましょう」
姫「え? ですが地面と空の下で無ければ魔法は……」
傭兵「実はあの部屋、一部だけ地面が掘りひっくり返るよう、細工がしてあるんです」
姫「えぇっ!?」
傭兵「次、お姫さまの副作用を止めることになった際のための準備ですよ」
傭兵「天井も、その地面の直線上に、小さいながら穴を開けてますし」
傭兵「……まぁ、あの空間内で破壊されることのない魔法を使っているとなると、もしかしたら勘付かれてしまうかもしれないので、あまり積極的には使えませんがね」
姫「そんな下準備を……わたくしのために……」
傭兵「また外に出して戦うのはどうも不都合っぽかったので」
傭兵「勝手に改造したのは謝りますよ。本当に」
470:
傭兵「というわけで今回は、魔法についてどのぐらい知っているのかをお姫さまに教えてもらおうかな」
姫「あ、はいっ」
傭兵「じゃあまず、地面と空が必要なのは理解しているようですけれど、どうしてその二つが必要なのかは分かります?」
姫「魔法とは、大地のエネルギーを天へと放出する際の余波エネルギーを用いて発動させるものだからです」
傭兵「さすが。使っている以上これぐらいは分かるか」
傭兵「ちなみにそれぞれの属性が付与されて発動されるのは、そうして一度人を介しているからってのは……まぁ分かってるか」
姫「その辺は大丈夫です」
傭兵「それじゃあとりあえず今日は……『結界』の属性についてと、魔法を使用できる年齢について教えとこうか」
傭兵「専門的な魔力の磨ぎ方とか、実際に身体を動かしてもらうのは明日ってことで」
傭兵「今日は基礎知識の方を話そうか」
姫「はいっ。お願いします」
471:
傭兵「じゃあ早だけど、『結界』の属性についてはどれぐらい知ってる?」
姫「えと……言葉通り、何かを守る属性なのかと……」
傭兵「ま、確かにその通りなんだけど」
傭兵「そうだなぁ……属性ってのは五つの基本属性を除くと、人それぞれある程度違うのは分かるよね? 『探索』なんて希少な属性持ちなんだからさ」
姫「まあ、それぐらいなら……」
傭兵「実は五つの基本属性も含めて、人それぞれの属性が実は本質的には違っているものだって説もある」
傭兵「ほぼ瓜二つで似ているだけで、一つ一つ深く深く調べていけば、全く同じものは一つとして無いってやつね」
傭兵「ま、あくまで一説で、それが証明されてるわけじゃない」
傭兵「ただこの説と復活魔法収得術を応用して、万人を全く同じ属性に出来ないかという学術的研究がされた」
傭兵「その結果こそが『結界』の属性なんだ」
姫「え? ということはもしかして、『結界』の属性って……」
傭兵「うん。人類初の、人工的な魔法の属性ってことになる」
472:
姫「ということはわたくしも、『探索』以外にも『結界』の属性を付与すればあるいは戦闘でも……」
傭兵「あぁ、いや。実はそれが無理なんだ」
傭兵「困ったことにこの『結界』の属性、自分の才能ともいえる既存の属性を破棄しなければ付与できないんだ」
傭兵「だからお姫さまが『結界』の属性にしようってなったら、その珍しい『探索』の属性を無くさないといけない」
姫「それは……イザ無くなるとなると、迷いますね」
傭兵「だろ? それにそれは、他の属性でも同じだ」
傭兵「戦闘に応用が利く属性っていうのは得てして、守りの魔法へと応用して使うことも出来る」
傭兵「あえて守りに特化させる必要性ってのは少ないんだ」
傭兵「そういう意味では、自分の個性を捨ててまで城を守ってくれている『結界』持ちの宮廷魔法使いさんたちってのは、かなり重宝される存在なんだよ」
姫「なるほど……」
傭兵「まぁでもお姫さまの場合、『探索』なんてのは本当に戦闘で使えそうにはないからな……」
傭兵「……ま、自己判断に任せるけれど」
傭兵「ただ俺としては、そんな珍しい属性を捨てるのは勿体無いと思うけどね」
姫「そうですか……」
姫「傭兵さまがそう仰るのなら……わたくし、このままでいてみます」
傭兵「とは言っても、俺なんて基本属性使いだからさ」
傭兵「その特別な属性について教えて上げられることなんて何一つ無いから、本当に不便利だと思ったら変えるのもアリだとは思うよ」
473:
姫「そういえば、一つ気になったのですが……」
傭兵「ん?」
姫「基本属性というのは、火・水・土・金属・樹、の五つですよね?」
傭兵「ああ」
姫「もしかしてなのですが、神官さま等が使う復活の儀や契約死体転送法などの復活魔法収得術も、その人工的に生み出された属性の一つなのですか?」
傭兵「あ〜……いや、あれは別」
傭兵「あれは本当、一つの現象みたいなもの」
傭兵「一種の奇跡……いや、神との契約、かな」
姫「契約、ですか?」
傭兵「ん〜……方法としては、他人への奉仕の精神が神に認められればその魔法が使えるようになる、とされている」
姫「奉仕の精神……もしかして、加護契約と同じで金銭さえ積めば学べるものなのですか?」
傭兵「いや、そうじゃない」
傭兵「奉仕の精神はそういうのじゃなくて……」
姫「では、人々を無償で救うような清い魂を持った者がいつの間にか使えるようになっているのですか?」
傭兵「そんなアヤフヤな判断基準でも無い」
傭兵「アレはまぁ……これから先、自分の知る人を殺さないための契約、の結果の力なんだ」
傭兵「もしかしたら悪魔の契約に等しいかもしれない」
傭兵「なんせ、自分の肉体を走るだけで息切れしてしまう程度まで衰弱させることで使えるようになる力なんだから」
474:
傭兵「自分の肉体を劣化させてまで、誰かを死なないようにする契約を結び、実際にその人を助けられる力を得る」
傭兵「自らを犠牲に他人を助ける。それこそが奉仕の精神。……っていう認識らしい。神様曰くね」
姫「ということは、城にいる神官長さまも……」
傭兵「ま、そういうこと」
傭兵「だから寄付とかでお金を募っているのは、その力を使って儲けたいだけの考え、ってことじゃあない」
傭兵「満足に運動もできなくなるから、せめて食べていけるだけのお金は欲しい」
傭兵「そのために徴収しているお金」
傭兵「……と、最初はなってたけど……今はどうなんだろうな……」
姫「そうだったのですか……」
傭兵「だからこれは、お姫さまは覚えない方が良いものですね」
傭兵「狙われてしまえば、本当に殺されるしかなくなりますから」
姫「確かに……そうですね」
傭兵「……ま、方法としては絶対にそうしないといけないってことも無いんですが……」
姫「そうなのですか?」
傭兵「まぁどちらにせよ、戦いばかりになるお姫さまには教えられないことなんですが」
475:
傭兵「では次の話に移りましょうか」
傭兵「魔法を使用できる年齢について」
姫「あっ、これはわたくし調べたことがあるので分かっています」
傭兵「お、さすが」
姫「魔法を使っていく上で、魔力を磨ぐのに必要な情報でしたので」
傭兵「じゃあ、答えを」
姫「はいっ」
姫「魔法を使用できる年齢は、大地から吸い上げたエネルギーが体内を直撃しても傷つかないほどに強くなった年齢、ですよね」
傭兵「その通り」
傭兵「ちなみに、その判断はどうやってなされるかは?」
姫「身体の中にある自己防衛本能、ですよね」
姫「飛んできた物を咄嗟に避けてしまうのと同じで、自己を保身するために自然と行ってしまう本能的な行動根幹部分です」
傭兵「なるほど……これは、俺が教えることは何も無いな」
476:
傭兵「そこまで知ってるってことは、魔力が“地面から吸い上げ天へと放出するまでのエネルギーが、体内を通る際の道なりにある柵と同じ役割”ってのも分かってるよね?」
姫「はいっ。大丈夫です」
姫「集中し、魔力を磨ぐとはつまり、体内を通る大地のエネルギーを如何に効率良く天へと送り届けるか、また体内を傷つけないように守り覆うことが出来るのか、ですよね」
傭兵「あとは余波エネルギーを自分のイメージしている使いたい魔法効果と同率のものへと変換できるか、ってのもある」
傭兵「大地からのエネルギーってのは一定量以上は吸収できない。つまり、生み出せる余波エネルギーも一定だってことだ」
傭兵「その一定量を如何に効率よく運用できるのかは、まさしく魔力の磨ぎ方に懸かってるからね」
姫「それは分かっているのですが……」
傭兵「んまぁ、確かにそんな希少属性じゃあその磨ぎ方を自分で見つけないといけない分、大変なんだろうけど」
姫「基本属性や他の属性の場合、磨ぐ上での意識の向け方などが書いてあるのですが……」
傭兵「そうだね……ま、その辺は俺も協力して、明日から一緒に模索していこうか」
姫「はいっ」
477:
傭兵「んじゃ、今日の授業はここまでにするか」
傭兵「と言っても、本当に口頭で説明しただけで、授業も何も無かったけど」
傭兵「ま、初日だし、これぐらい短い時間で良いだろう」
姫「ありがとうございました」
傭兵「お礼を言われるほどのことはしてないって」
傭兵「っていうか後半に関してはお姫さま、自分でとっくに学んでたことだったし」
姫「……あ」
傭兵「ん?」
姫「いえ、今気付いたのですが……傭兵さま、いつの間にか敬語が取れてますよ」
傭兵「あ、確かに……すいません」
姫「あっ! 戻さないで下さいよ! せっかくお願いしていた通りになったのですから」
傭兵「あ、そっか……そうでしたね」
姫「また戻ってます!」
傭兵「ぐ……改めて意識してしまうとまた……」
姫「これは……また先生と呼ばないといけなくなりますね……」
傭兵「あ〜……! むず痒い……っ! 魔法の説明しているときは大丈夫だったのに……!」
姫「その様子ですと、授業になれば大丈夫みたいですね」
傭兵「おそらくはですが……」
姫「なら、授業を重ねていけば大丈夫ですかね」
姫「それで段々と慣れていってもらいましょうか」
姫「どうせこれからは、ほとんど毎日あるのですしね」
姫「先生」
傭兵「ぐっ……!」
478:
傭兵「……そういえば、お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「ほぼ毎日来ることには何の意見も無いのですが……そうすれば副作用が発症することも無いだろうと王に言われたのですが……」
姫「あぐっ……!」
傭兵「それって、どういうことですか?」
傭兵「お姫さま本人に聞いてくれと言われたのですが」
姫「そ、それは……まあ……なんと言いますか……」
傭兵「…………」
姫「ほら、その……アレですよ」
傭兵「あれ?」
姫「そう、アレです」
傭兵「……どれです?」
姫「えと……あの……んと……」
傭兵「…………」
姫「……傭兵さまと出会えたのが、加護のおかげだからです……」
傭兵「っ……!」
479:
傭兵(くっ……! そんなに照れるなら誤魔化してくれ……! 見てるコッチが恥ずかしくなるっ!!)
傭兵(っていうかそんな理由だったのか……! こんな聞いてる方まで照れ臭くなるなら聞かなきゃ良かった……っ!!)
姫「だから……その……加護を受けたことが、もうイヤだとか……そんなことは、思わないといいますか……」
姫「むしろ加護のおかげで、傭兵さまと知り合えたと、言いますか……」
傭兵「あ、ああ〜……そうですか……」
姫「はい……そうなんです……はい」
傭兵「…………」
姫「…………」
傭兵(気まずい……!)
姫(気まずい……!)
傭兵「え、えと……んじゃあこれからは、極力授業が無い日も、来るようにしますね」
傭兵「その方が副作用を発症しないのなら、その方が良いでしょうし」
姫「っ! 本当ですかっ!?」
傭兵「え、うん……」
姫「う、嬉しいです! ありがとうございますっ!!」
傭兵「あ、ああ〜……いや〜……ははっ、うん」
傭兵「そこまで喜んでもらえるなら、良いかな」
傭兵(……こりゃ、授業が無い日のほとんどは女騎士との手合わせになりそうだな……)
傭兵(用事も無く城に来るのはさすがに気が引けるし……それぐらいの用事は作っておかないとダメだろうしな……)
姫「で、では明日の授業も! よろしくお願いしますっ!」
傭兵「あ〜……うん」
傭兵「これからよろしくね、お姫さま」
480:
〜〜〜〜〜〜
 そうして、わたくしの新たな生活が始まりました。
 知っていたことを知らないフリして授業を受けていた日々から、本当に知らないことを教えてもらう日々に。
 悩んでいた魔力の磨ぎ澄まし方について一緒に考え、実践し、扱い辛かった魔法を扱えるようにしたり。
 それはとても、充実した毎日でした。
 時には、女騎士さんと傭兵さんの取り合いになったりもしましたが、それもまた思い出の一つです。
 その七日間は、わたくしにとって、とても輝いたものでした。
 男さまのことを好きだった頃抱いていたあの輝きが、また戻ってきたようでした。
 男さま自身が濁らせ曇らせ真っ暗にしたあの輝きが……また……。
 ……ただ、それを意識してしまう度に、思ってしまうのです。
 わたくしはただ男さまの代わりに、傭兵さまを利用しているだけなのではと。
 自らの傷を癒すために、傭兵さまを傍にいさせているだけなのではと。
 好きだった人を上塗りするために、傭兵さまを見ているだけなのではと。
 そう、悩んでいました。
 ただそれは……すぐさま解消されるのですが。
 悲しいことに。
 嬉しいことに。
 わたくしは、傭兵さまでないといけないことを、知ることになるのです。
 八日目……傭兵さまが、やってこなくなりました。
 そしてさらに、五日経った、今日……。
 あっさりと捨てることが出来た男さまへの気持ちとは違い、傭兵さまだけは……この気持ちを捨てることが出来ないことに、わたくしは気付けたのです。
 気持ちはただ、募るだけで……悲しさだけが、心の中に広がって……。
 いなくなって、こなくなって……ようやく、初めて……知ったのでした。自分の気持ちが、傭兵さま一人に向いていることに。
486:
傭兵もげろって思ってたらこの展開…
502:
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  城内
◇ ◇ ◇
姫「今日で五日目」
姫「傭兵さまが来なくなって、かなり経の時間が経ったような気がしてしまいます……」
女騎士「そうだねぇ」
姫「……わたくし、何か気に障るようなことでもしてしまったのでしょうか?」
女騎士「いや〜……それはないでしょう」
女騎士「あるとしたらボクじゃないかな? なんとなくだけど」
姫「……明るく言ってますけど女騎士さん、結構ヘコんでます?」
女騎士「ボクだったんだ、って確定した瞬間に倒れられる自信がある程度には」
姫「はぁ……どうしてなんでしょうか……」
女騎士「結構キツく当たってたような気もするしなぁ……ボクの場合」
女騎士「嫌われてても仕方ないかも」
姫「はぁ……」
女騎士「はぁ……」
姫「…………」
女騎士「…………」
503:
女騎士「……よしっ、決めた」
姫「え?」
女騎士「ちょっと本人に直接確かめてくる」
女騎士「今日ちょうど非番だし」
姫「あ、それならわたくしもっ!」
女騎士「一国の王女がなに言ってるの」
姫「わ、わたくしの魔法があればすぐに居場所が分かりますよ!?」
女騎士「そんな目立つ使い方しちゃいけない代物でしょうに……」
女騎士「それにボク、傭兵の家一度行ったから知ってるし」
姫「えっ!? 一度行ったってどういうことですかっ!?」
女騎士「……姫さんを攫ったのが傭兵だと勘違いしたときに……押しかける形で……」
姫「……なんだか……ごめんなさい」
女騎士「謝らないで!」
姫「勝手にロマンチックな出来事があったのだと勘違いしてました……」
女騎士「ボクだってその方が良かったよ!」
504:
女騎士「ともかく、家を知ってるんだから、行って確かめてくるよ」
姫「そうですね。行きましょう」
女騎士「いやだから姫さんは城にいてって」
姫「傭兵さまが来ない城の中なんていても仕方ありません」
女騎士「魔力を磨ぐ練習でもしてなよ」
女騎士「せっかく傭兵と一緒に掴みかけたコツを掴まないと」
姫「そのためにも本人が必要ですよね」
姫「さあ。行きましょうか」
女騎士「いやだからダメだって」
姫「どうしてですかっ!?」
女騎士「王女だからだよっ!」
505:
女騎士「お願いだから自分の立場を理解してよ……頼むから」
姫「自分の立場……」
姫「……分かりました」
姫「では王女らしく、大勢の兵を引き連れて行きましょう」
女騎士「おいっ!」
姫「それなら危なくないですし……いいじゃないですか」
女騎士「いやよくないよっ!?」
女騎士「民家訪れるのに護衛として軍勢を連れて行くなんてしたら悪目立ちしすぎるから!」
姫「それでは数人見繕って……」
女騎士「そもそも姫さんより強い兵がいないんだからさ、数が少なくなったら本当に必要ないよね?」
姫「それならやはり女騎士さんがわたくしを連れて行くしかないですね」
女騎士「……ああもう! ちょっとメイドさんに話してくる」
姫「お願いします♪」
女騎士「……いややっぱり姫さん自身で言って来て」
姫「えっ?」
女騎士「ボクが説教されたら腑に落ちない」
女騎士「自分のことなんだから自分で」
姫「……そうですね」
姫「これはわたくしの我侭……」
女騎士「あ、自覚あったんだ」
姫「……ごほん!」
姫「ともかく、わたくし自身の問題です」
姫「ならば、わたくし自身がおねえちゃんを説得してみせましょうっ!」
506:
〜〜〜〜〜〜
姫「まさか一時間も時間を食うことになるとは……」
女騎士「っていうかなんでボクまで……」
姫「わたくしをお姉ちゃんに押し付けて一人で行こうとするからですよ」
女騎士「巻き込まれた……!」
姫「しかしその甲斐あって、了承は得ましたから」
女騎士「神官長に定期的に復活の儀をお願いしておく手配と」
女騎士「姫さんの武器とボクの武器の帯剣許可申請書」
女騎士「そのおかげでさらに時間を食ったけどね」
姫「ですが今から出発してもまだ日は沈みませんし」
女騎士「説教と書類の準備で日が暮れたら笑い話そのままだよ……」
姫「では、向かいましょうか!」
女騎士「軽く変装して行かないといけないからもうちょっとだけ無理」
姫「ぐ……」
女騎士「それに、お忍びだから馬を借りれないし、歩きやすい格好して行かないとね」
姫「……なんだか、面倒なことが多いですね」
女騎士「じゃあ止めます?」
女騎士「姫さんが止めてくれるならボク一人ですぐに向かえるんだけど」
姫「何を言っているのですか! 早く変装しますよっ!」
女騎士「ですよね〜」
507:
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
コンコン
傭兵「はい?」
女騎士「傭兵。ボクだ」
傭兵「……女騎士か」
女騎士「ここを開けてくれないか?」
傭兵「……なんだ? 無断欠勤が長過ぎて解雇通告にでも来たのか?」
女騎士「その辺の事情を聞くためにわざわざ休みの日の時間を割いてやってきてやったんだ」
女騎士「騎士長様が直々にな」
傭兵「そうか……分かった」
ガチャ
姫「…………」
傭兵「……ん?」
姫「お久しぶりです、傭兵さま」
傭兵「……って、えっ!? お姫さまっ!?」
508:
女騎士「というわけで、事情はこの子に教えてやってくれ」
女騎士「休みの日でお忍びとは言え王女を連れてきたんだ。ボクは外を見張ってるよ」
女騎士「ここは正直、あまり治安のいい場所では無いからね」
女騎士「それじゃあ姫さん、ボクの代わりに頼んだよ」
キィ…
…パタン
傭兵「…………」
姫「…………」キョロキョロ
傭兵「……あ〜……その……」
姫「キレイにしてらっしゃいますね。このお部屋」
傭兵「……そりゃどうも」
傭兵「とは言っても、魔法の練習をしているあの場所よりも狭い家ですけれどね」
傭兵「っていうか、もっと広い客間に案内しろ、とか言わないんですか?」
姫「そこまで鳥篭の中の鳥になってるつもりはありませんよ」
姫「わたくしとて、これでも王女なのですから」
傭兵「でも、その王女が来る場所じゃないですよ、この家は。とてもじゃないですけど」
傭兵「……どうして来たんですか? わざわざ変装までして」
姫「似合いますか?」
傭兵「そうですね……髪を隠して修道女のような格好をするだけで、割りと見間違いますね」
傭兵「声を聞いていないと気付けませんでした」
姫「似合っているかどうかを聞いたのですが……もういいです」
傭兵「?」
509:
傭兵「それで、どうして来たんですか?」
姫「生徒が、やってこない先生を心配したらいけませんか?」
傭兵「とんでもない空気感染率を誇る病気を患ってたりしたら、大変じゃないですか」
姫「その場合は、先程女騎士さんが来た時から家を開けなかったでしょう?」
姫「傭兵さんがそれぐらいの良識を持っていることぐらい分かっています」
傭兵「……そうですか……」
姫「……いつの間にか、また敬語に戻ってしまってますね」
傭兵「あっ」
姫「ま、態度がよそよそしくないので、そのままでも良いです」
姫「それとも……前までのように話したくないほど、わたくしのことが嫌いになりましたか?」
姫「その態度も全て、傭兵さまが嫌うようなことをしたわたくしを庇うための、優しい傭兵さまの残酷な所業なのでしょうか?」
傭兵「……違いますよ」
傭兵「俺は、お姫さまを嫌ってなんていません」
姫「……そうですか……」
姫「……………………」
姫「……はあぁ〜……」
傭兵「え?」
姫「ああ、いえ。ちょっと、安心しまして」
姫「本当に嫌われていたらどうしようかと、これでも真剣に悩んでいたんです」
姫「訊ねる時だってかなり緊張しましたし……」
510:
傭兵「……俺が嘘を吐いているとは?」
姫「傭兵さまが相手の時は、わたくしにとって都合の良いことは裏があるかもと疑わないようにしてします」
姫「まして、そうやって訊ね返してくるときは絶対に違うだろうとも知っています」
姫「それが傭兵さまで、それが傭兵さまとの付き合い方だと思っておりますので」
傭兵「…………」
姫「……では、改めてお訊ねいたします」
姫「傭兵さまはどうして、お城に来てくれないのですか?」
傭兵「……行けないんですよ、俺。あの城に」
姫「それは……どういうことですか?」
姫「……道を忘れてしまったとか?」
傭兵「いやさすがにソレは……」
姫「では、どういうことですか?」
姫「ちゃんと納得にいく説明をしていただかないと、今日は帰れません」
傭兵「……時期に陽が沈みますよ?」
姫「それでもです」
傭兵「…………」
姫「…………」
傭兵「……分かりました」
傭兵「俺が城にいけない理由……それは、何度も何度も、殺されているからです」
姫「……えっ?」
511:
姫「それは……どういうことですか?」
傭兵「そのままの意味ですよ」
傭兵「城に向かおうとしたら殺されてしまう」
傭兵「だから城へと行けない。それだけです」
姫「それだけって……どうして傭兵さまが殺されなくちゃいけないんですかっ!?」
傭兵「俺が幸せなのが許せないんだよ。彼にとってはね」
傭兵「そう思われないよう城に住まずに家に帰っていたのに……わざわざ自殺までして自作自演していたんだけど、全部無駄でした」
姫「自作自演って……」
傭兵「毎日お姫さまの副作用解除のために殺されている、ってフリをしてたんですよ」
傭兵「彼は俺がその依頼を請けたのを知っている。それで苦しんでいるよう見せかけていた」
傭兵「そうでもしておかないと、城に仕えることが出来なさそうだったんで」
姫「……そこまでして、毎日来てくれていたんですか……?」
傭兵「うん。俺自身、俺が不幸で無いといけないとも思ってましたし、少なくともそう思われるようにならないといけないと思ってましたけれど……」
傭兵「それでも、お姫さまに慕われ、女騎士に気を遣ってもらうのは嬉しかったんです」
傭兵「そうして幸福を維持しようと偽り、うつつを抜かしていた結果がバレてしまって、このザマです」
傭兵「彼にバレた以上、せめて城に辞めることだけでも伝えに行こうとも思ったのですが……それすらも許されませんでした」
傭兵「もし城に着いて辞める旨を話せば、辞めないで欲しいと止められる幸福があるだろうと言われました」
傭兵「だから俺に相応しいのは、皆にバレることなく、いつの間にかココを去ること……それが彼の考えです」
傭兵「……現在、そうなるよう手を尽くされているはずです」
傭兵「たぶん、今日にはもう……」
512:
姫「そんな……どうして!? どうして傭兵さまが不幸で無いといけないんですかっ!?」
姫「いえそれよりも……そんなことをしてくる輩は誰なのですかっ!?」
姫「なんならわたくしと女騎士さんの二人でその人を倒してしまえば……それで……!」
傭兵「……倒せば、か……」
傭兵「まぁ確かに、俺が勝てないからって、二人が勝てないとは言わないです」
傭兵「これでも俺だって、せめて伝えるだけのことはしないとと必至に抵抗はしたんですけど……分かっていたことでしたが、勝てませんでした」
傭兵「ま、そもそも一対一じゃあ弱い俺じゃ手も足も出ないのは、戦う前から分かりきってましたが」
傭兵「それでもやっぱり、万が一ということも考えたんですが……」
姫「だから……それは誰なのですかっ!?」
傭兵「……昔、俺が勇者候補者だった頃、三人で旅をしていたと話をしたのを、覚えてくれていますか?」
姫「……もしかして……!」
傭兵「そう。……その頃の一人が、俺を殺している相手です」
513:
姫「そんな……! 昔の仲間だった人が……っ!?」
傭兵「ま、理由は分かってますよ。俺自身のことですから」
傭兵「むしろ、俺が不幸でないといけないのは当然の報いだとも、思ってます」
姫「……なにがあったのか……話していただけますか?」
傭兵「……そんなに難しい話じゃないです」
傭兵「俺がソイツの大好きで大切なものを奪った」
姫「大好きで、大切な……」
傭兵「俺とソイツが二人になった原因が、俺なだけ」
傭兵「俺が……もう一人の仲間を、殺した」
傭兵「それだけです」
姫「っ」
傭兵「ソイツが好きだった……もう一人の、幼馴染を……」
姫「……え? 殺して……? 殺してって……どうやって、ですか……?」
姫「だって、勇者候補者になっていたということは、さすがに加護を受けていたのでしょう? それなのに死ぬはずが……」
傭兵「病気であれ毒であれ、加護を受けていたら、一度死ねば治療される」
傭兵「でもそれはあくまで、後々付加された場合のみ」
傭兵「生まれつき身体が弱かったり、加護を受ける前から病気が体内に潜伏していたりしたら……加護ではどうすることも出来ない」
傭兵「……いや、生かしていくことは出来る」
傭兵「苦しみの中生きて、果てて死ねば蘇らせてもらって……そしてまた苦しみの中に生き続ける……」
傭兵「それを繰り返していけるのなら、生きていくこと“だけ”は出来る」
傭兵「ただ俺は、ソレを見ていくことが……耐えられなかった」
514:
傭兵「……教会でも、基本的に加護を取り消すことは出来ない」
傭兵「だがそうした事情があった場合のみ、二度と復活の儀を行わないよう約束してもらうことは出来る」
傭兵「加護契約書を破り捨て、他の教会での復活をさせないようにし……その教会に転送されてきた死体に対し、蘇りの魔法をかけないようにしてくれることがね」
姫「加護契約書がなくなっても、最後に契約書を置いた教会施設での蘇りは可能……」
傭兵「そう。それすらも禁じてくれる方法」
傭兵「封印指定、とも呼ばれている」
傭兵「俺はそれを、アイツに内緒で執り行ってもらったんだ」
傭兵「もちろん封印指定には、封印される本人の契約も必要となる。もちろん彼女は契約した」
傭兵「そして……苦しんでいるあの子の心臓に、俺が刃を刺して、最後の殺しを行った」
姫「…………」
傭兵「……アイツ、彼女のためにさ、自分も神官になろうとしててさ……」
傭兵「でも神官になったら、身体が衰弱するから旅には出られないだろ?」
傭兵「だから、転送の法と加護契約の儀は無理でも、復活の儀だけでも出来て、身体が動けば良いってことで……必至にその方法を模索してたんだ」
傭兵「それが出来るようになって帰ってきたら……俺が彼女を、殺してた」
傭兵「二度と蘇らない形で」
姫「……っ」
傭兵「……分かるだろ? 俺は、アイツが好きな人のためにしてきた努力を、全てフイにしたんだ」
傭兵「きっと血の滲む努力をしたんだろう」
傭兵「実際に、利き腕が動かないようになったけれど、それでも身体能力は衰えることなく、復活の儀は出来るようになっていた」
傭兵「彼女のためだけにそこまでのことをして……彼女とずっと一緒にいたいからと足掻いて見つけて手繰り寄せたソレを……俺が、切り捨てた」
515:
傭兵「だから俺は、不幸でないといけない」
傭兵「それがアイツの望みだから」
傭兵「俺が不幸で、何度も死んで、それをアイツが蘇らせる」
傭兵「苦しんでいる俺を見て、復讐心が満たされる」
傭兵「自分の愛した人を殺した人間」
傭兵「幼馴染を殺して平然と生きている人間」
傭兵「努力をフイにしておいて生きている俺を苦しめ、辛い想いをさせる」
傭兵「それがアイツの望みだ」
傭兵「にも関わらず……俺は他人が見ても幸せな分類な目に遭っていた」
傭兵「自分の愛する人を殺して幸せを謳歌している」
傭兵「そんなこと、許されるはずが無い」
傭兵「他人を不幸のどん底に突き落としておいて自分だけ幸せになるだなんてあり得ない」
傭兵「許されない」
傭兵「だから俺は……ここから離されるんだよ」
姫「そんな……! でもそれは、そのもう一人のお仲間が望んだことっ!」
姫「傭兵さまはそれを叶えただけではありませんかっ!!」
姫「それなのに……! 傭兵さまは! それで良いのですかっ!?」
傭兵「良いも何も……アイツに復讐されることを――恨まれることを覚悟していたのさ、俺は」
傭兵「いや……違うな」
傭兵「復讐心でもなければ、アイツが生きていく希望が無いだろうことは、あの子を殺す前から分かっていた」
傭兵「アイツにとってあの子は……人生そのものだったからな」
516:
傭兵「ソレを殺すんだ……だったら、代わりのものを用意するのは、幼馴染として当たり前だ」
傭兵「ならどうしてやれるのか? ……俺が考え付くのは、これしかなかった」
傭兵「俺の不幸で惨めで苦しんでいる姿を、見せ続けてやることしかな」
姫「そんな……!」
傭兵「……俺にとって、アイツは大切な親友だ」
傭兵「一緒の村で育った、唯一になった大事な幼馴染だ」
傭兵「だから、アイツを生かしておいてやりたい」
傭兵「殺したくない」
傭兵「死にたいと願いながらの一生を迎えさせたくない」
傭兵「だから俺は……これでも、こんな人生でも、楽しく生きていけてるんだ」
傭兵「俺が不幸であることで、アイツが生きてくれている」
傭兵「それだけで俺は……十分だったんだ」
傭兵「……お姫さまや女騎士みたいに、傍に誰かがいてくれることを望んじゃ、いけなかったんだ」
姫「っ……!」
傭兵「俺たちは三人とも、互いが互いのことを信用し、信頼していた」
傭兵「俺はあの子が苦しんでいるのを見ているだけで苦しかったけれど……それでも、アイツならなんとかしてくれるんじゃないかと思っていた。信じていた」
傭兵「でも、あの子に殺してくれと頼まれた時、“あぁ、苦しんでいるのは俺だけじゃなかったんだな……”って思った」
傭兵「俺以上にコイツは、苦しんでいるんだなって思った」
傭兵「だから、殺したんだ」
517:
傭兵「信用し、信頼しているからこそ、あの子は俺に殺すのを頼んできて……」
傭兵「信用し、信頼されているからこそ、俺はあの子を殺さないといけないと思った」
傭兵「その後を……アイツを助け、支えられることを、信じられている、俺だからこそ……俺がやらないといけないと思った」
傭兵「でも……だからって、“ごめんね”はないよなぁ……」
傭兵「何が“卑怯なことを言って”だよ……そんな言葉、聞きたくなかったよ……」
傭兵「“ありがとう”って……言ってくれてたら……もっと……俺は……!」
姫「傭兵さま……」
傭兵「……いや、ごめん」
姫「……傭兵さまは、その方のことが、好きだったのですか?」
傭兵「幼馴染としては、ね」
傭兵「俺からしてみれば、ずっと傍にいた人を……姉のように慕っていた人を好きになる方が、無理だった」
傭兵「アイツはそれが可能で、あの子もそれが出来た」
傭兵「でも……結局アイツ、死ぬまであの子に気持ちを打ち明けてなくてさ……」
傭兵「本当……止めてくれよ……」
傭兵「あんなに露骨に、二人とも互いに好きなのが分かってたのに……本当……とっくに気持ちを打ち明けあってるのかと思ってたよ」
傭兵「……謝られた時にさ、なんとなく、まだ互いに告白して無いことが分かって……本当、辛かった……あの時が。人生で一番」
姫「…………」
518:
 その時わたくしは、なんとなく、傭兵さまが言っていた「子供を守り助けるのが大人の役目だ」の言葉の裏側が、見えた気がしました。
 コレは正に、茨の道。
 つまり彼の望む、不幸そのものです。
 そもそも、ソレを教え・態度で示してくれていたという村の方々。
 彼等のソレはおそらく、決して一人ではなく、村の人全員が子供を守ると言う、いわば「次世代への投資」的な意味合いがあったように思えます。
 いわば、村全てが家族、のような考えです。
 ですが傭兵さまの行いは、一人で全てを守ろうという、自己犠牲を伴う、歩くだけで傷つく茨の道。
 茨を切り開く己の手だけを傷つけて、他人のための道を開いていく。
 同胞を伴わない、己を傷つけ苦しめながら他人のために頑張るという、自己犠牲精神だけの行動そのもの。
519:
 なぜそのような道を進めるのか……村の人に教えてもらっていたから、では、どうにも腑に落ちませんでした。
 ですが結局のところ、その幼馴染に、自分が本当に苦しんでいるところを見せたいからこそ、進めていたのでしょう。
 進めば進むほど傷つく茨の道……それはまさに、その幼馴染の復讐心を満たすのに、ちょうど良かったのだと思います。
 共通の幼馴染を殺した自分に復讐したい件の彼は、傭兵さまを苦しめたいと思っている。
 その彼の気持ちが傭兵さまには理解できる。
 そして、そう思われ・その想いを背負うことを、覚悟している。
 だから苦しんでいる共通の幼馴染を殺したその時から、こうして辛い道を進まないといけないという想いが、その根幹に生まれたのでしょう。
 そしてそのせいで、誰かに褒められたり功績を讃えられようとも、自分にはそれだけの力は無い、と強く否定してしまっている。
 何かを疑われても「当然だ」「仕方が無い」とすぐに受け入れてしまっている。
 その冤罪の結果どんな酷いことをされようとも、仕返しをしようと思えなくなってしまっている。
 何故なら、罪を犯していないのに疑われるのは辛いことで、だからこれで幼馴染の復讐心を満たすことが出来ると、考えてしまっているからです。
 だから彼の本音を明かすのなら……「子供を守り助けるのが大人の役目だ」……ではないのです。
 「子供を守り助けるのを名目にし行動を起こすから、俺を次々と苦しめ不幸にしてくれ」
 ……おそらくは、そんなところになるでしょう。
520:
 ……と不意に――
 バァンッ!
 ――という轟音が鳴り響きました。
 椅子に座り話を聞いていたわたくしは、大きく飛び上がり、構えながら、その音が鳴ったドアの方へと視線を向けます。
 そこに立っていたのは……町にある民間用教会の神官服を着崩した、無精ひげを生やした男の方でした。
「…………」
 その男の方は無言で、傭兵さまとわたくしを見た後、納得したように大きな舌打ちをしました。
「……やっぱりテメェは……こんなに幸福になってるじゃねぇか……!」
 その言葉で、分かりました。
 傭兵さまを殺しているのは、彼だと言うことが。
 緊張感が身体を支配します。
「神官……」
「やっぱりもう、この街にお前は置けねぇな……思っていた通りだ……こうして心配して、城の使いがやってくるほどなんだからよぉ!!」
 怒号が家を震わせます。
 ですが、身体を震わせるわけにはいきません。
 戦いは、既に始まっているのですから。
521:
 腰に差していた剣に手を掛けます。
 わたくしの身長に比べれば大きなソレはしかし、この室内で使う分には不利にはなり得ない大きさのものでした。
「……分かってる。神官。もう事情は全て話した。これで俺がしたかったことは終わった」
「お前ももう、神官職を辞める手続きを済ましてきたんだろ? だったら……街を出よう」
「なっ……!」
 その言葉に驚いたのは、わたくしでした。
「ど、どうしてそうなるのですか傭兵さま!」
「どうしても何も、ここで争ったところで、お姫さまを傷つけるだけだから」
 その顔は、諦めたようなものではありません。
 ただ現実を受け入れている、それが当然の流れだったとばかりなものでした。
 別れる事に悲しみも何も無い……その態度に少しだけ、胸がチクりと痛みました。
 それでも……ご本人が望んでいなかったとしても……わたくしは……!
「そんなことはありません! わたくしがあの人よりも強いと証明して見せます!」
「そうすれば! あの方が傭兵さまを不幸にしようとしていても! あなたを守れますっ!!」
「……俺は、俺自身が不幸であることを望んでいる。だから――」
「だったら! それすらもわたくしの強さで捩じ伏せます!」
「わたくしが彼よりも強ければ、傭兵さまよりも強いと言うことになります!」
「その恐怖で! あなたが不幸であり続けようとするのを、否定しますっ!!」
「――…………」
「……随分勝手なこと言うじゃねぇか、おい……」
522:
「お前みたいなガキが俺を倒す? 倒せるのかオイ」
「倒してみせますっ!」
「へっ……そういや、外にいたあのちっせぇ女。あれはお前の仲間か?」
「え?」
 その言葉で、今更ながらに思い出しました。
 女騎士さんが、外で見張ってくれていたことを。
「お前……あの女より強いのか?」
「もし弱いんなら……お前、勝てないぞ」
 その言葉の後、改めて……その男の足元……その後ろを見てみれば……そこには、血の跡がありました。
「っ……!」
 これには、言葉を失いました。
 女騎士さんが……負けた……?
 そう、受け入れられない自分がいました。
 ですが、あの出血量は……間違いなく……。
「で、どうなんだ?」
「…………」
 言葉を返せませんでした。
 そう……わたくしは思ってしまっていました。
 この人には、勝てないと。
 女騎士さんに勝った人を相手に……わたくしが勝てるはずが無いと。
523:
 その弱気な心はすぐに打ち払いましたが……もう遅いです。
 その動揺は、すぐに敵に気取られてしまいました。
「へっ、分かったら大人しくしてるんだな」
「だったらま、殺さないでおいてやるよ」
「そう言われて……大人しく引き下がれますかっ!」
 剣を抜いて、構えます。
 恐怖を吹き飛ばすために声を荒げながら。
 女騎士さんに教えてもらっていた戦い方。
 傭兵さまを打倒した剣の腕。
 その全てをぶつけるつもりです。
 ……そう。女騎士さんとは違い、ここは室内。
 となれば、相手にとって不利になる得物を相手が持っている可能性があります。
 そのことに気付かせないために、あんなことを言って動揺を誘い、わたくしに戦いを諦めさせるつもりなのかもしれません。
 ですから、まだ勝てる可能性はあります。
 戦って、勝って、傭兵さまを――
「っ!!!!!!」
 ――そこで、わたくしの思考は途切れました。
 彼がその場で、腕を下から上へと振り上げた瞬間……視界が突然真っ暗になって――
 ――何をされたのか分かる間もなく、殺されてしまいました。
524:
 気がつけば、城の中の教会。
 女騎士さんと一緒に転送され、一緒に目覚めさせられ……心配し、事情を聞いてきたお姉ちゃんを置いて、わたくしと女騎士さんの二人は、急いで馬を走らせました。
 お忍びも何も、頭から抜け落ちていました。
 ただ今は、傭兵さまの家へと急いで向かっていました。
 とっくに、夕陽が差し込む時間になっていることすら気付かずに、一心不乱に。
 しかし……彼の家に着いたときにはもう……傭兵さまも、あの男も、いませんでした。
 わたくし達は負け……傭兵さまはこの街から、いなくなりました。
第三部・終了
525:
というわけで第三部終わり
明日はちょっと四部書き溜めるから止めとく
また明後日でお願いします
527:
乙です
いつも楽しんでます
541:
〜〜〜〜〜〜
  三年後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 田舎の村
 傭兵の家
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……と……」
傭兵(随分この村にも慣れたけど……やっぱ物足りないな……)
傭兵(ずっと農作業と一人訓練ばっかってのもな……さすがに)
傭兵(つい最近税を増やそうとした貴族を神官と一緒に脅しに行ったときは久しぶりに楽しかったな……)
傭兵(……なんだかんだで俺、弱いくせに戦うのが好きなんだな……)
傭兵(……ま、腕が錆び付いて無くて良かったと思うしかないか)
傭兵(……こんなことならまた東の大陸に行って、勇者候補者として復活すればいいのに……)
少年「おじちゃん!」
傭兵「おっ」
少年「きょうも剣のけいこつけてくれるのっ?」
傭兵「ああ、そうだな……」
傭兵「……ま、今日も特に作業が大変でも無いし、やってやるよ」
少年「やったぁ!」
542:
傭兵(剣の稽古……か……)
傭兵(俺みたいなのでも教えられることがあるとはな……)
傭兵「…………」
傭兵(でも……そろそろ辞めないとな……)
傭兵(この前の貴族への脅しのせいで、俺も神官も、村の人から避けられるようになっちまったし……)
傭兵(ここじゃあ争いも無いから神官がいてもありがたいと思われないのも大きい)
傭兵(そろそろ村を離れるべきかと話している以上、この子をあまり俺たち二人に近づけないようにしていかないとな)
少年「?」
少年「どうしたの? おじちゃん」
傭兵「……いや。なんでも」
傭兵「ただお前も、そろそろ一人前かな、って思って」
少年「えっ!?」
傭兵「俺がこれ以上剣術を教えると、変な癖をつけてしまうかもしれないからな」
傭兵「俺の戦い方は、俺にしか出来ないぐらい“おかしい”ってのは最初に話しただろ?」
傭兵「だから誰しもが歩く基本しか、教えられないんだよ」
傭兵「で、お前はそろそろソレを終えようとしている。だからな」
少年「どういうこと? おじちゃん、ここからいなくなるのっ?」
傭兵「いや、いなくはならないよ」
傭兵(すぐには、な……)
少年「じゃあどういうこと!? ボク、分からないよっ!」
傭兵「そうだな……そうだよな……どう説明したもんかな……」
??「もし」
傭兵「ん?」
543:
??「傭兵さま、でいらっしゃいますね」
傭兵「……ああ」
傭兵(誰だ……? 黒いローブを羽織った……全身鎧……?)
傭兵(……まさか……!)
傭兵「……ちょっと待ってくれ」
??「どうぞ」
傭兵「少年、お母さん達のところに行ってるんだ」
少年「えっ?」
傭兵「……もしかしたら今日は、もう訓練をつけてやれないかもしれない」
少年「そんな……! ねえどうして!? ねぇっ!」
傭兵「それは……また会えたら、答えるよ」
少年「っ!」
少年「そんな! そんなの、もう会えないみたいじゃ――」
傭兵「聞け」
少年「っ!」
傭兵「……いいか? ちゃんと、お母さんのお手伝いをするんだぞ」
傭兵「強くなりたかったら、教えたことを復習して……そして、俺じゃない強い人を見つけろ」
傭兵「その人に弟子入りをしろ」
傭兵「それが……一番早く、強くなる道だ」
少年「……おじちゃん……」
傭兵「俺が教えられることはもう、無くなったんだ」
傭兵「卒業、おめでとう」
傭兵「お前はもう、立派な剣士への一歩を踏み出したんだ」
傭兵「俺に認められたこと、誇りに思え」
傭兵「その思いと共に、強くなれ」
少年「……うん……!」
544:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「……さて」
傭兵「これで、あの子は巻き込まないでくれるんだろ?」
??「…………」
傭兵「……だんまり、か」
傭兵(大方、この前脅しをかけた貴族の差し金だろう)
傭兵「で、なんの用だ?」
??「あなたを……不幸にするものですよ……」スッ
ザッ、ザッ
傭兵「っ……!」
傭兵(人の気配が森の中からするかと思っていたが……まさか、村側にまでいたとはな……)
傭兵(……囲まれていた、か……)
545:
 そのことを理解すると同時、腰に差しておいた中剣を二本共、抜く。
 相手の総数は目の前に立つ全身鎧を含めて十一人。
 今までのように一本を操り一本を予備にしている戦い方では無理だ。
 右手に順手で一本。
 そして……同じく右手に、逆手で一本。
 左手は魔法を精度良く扱えるよう空手。
 周囲にいる人間は鎧を纏っているのかどうか分からない。
 全身覆う黒ローブの奥がどうなっているのかまでは見えない。
 だからこそ、剣だけではダメージを与えられないことを前提にしなければならない。
 それ故の、魔法主体の戦い方だ。
 そう……足からのエネルギー吸収でも、精度を上げて魔法を使えるように特訓し、可能となったこの戦闘方法。
 片手空手の二刀流。
 その、珍しい構えが意外だったのか――
「…………」
 ――声をかけてきた全身鎧が、黙したまま俺を見ていた。
546:
 この隙に仕掛けるか……?
 そう算段を立て、実行に移そうとしたその時、相手が先に動いた。
「行けっ!」
 号令一家。
 単純な一言の命令を下すと同時、当の本人は後ろに飛び退き俺と距離を取る。
 そして周囲を囲っていた十人が、一斉に襲い掛かってきた。
 ……俺はその姿を一度、全て視界に収めた後……足を振り上げ地面を鳴らす。
 大地から吸い上げたエネルギーを、天へと掲げた左手から放出する。
 余波エネルギーを精度良く体内に残し、実行したい魔法をイメージ。
 そして、余波エネルギーを解放。
 俺を中心として、水の刃が広がるように放たれた。
 ……この敵は必ずしも、殺さない方がいいということはない。
 こうして一斉に襲いかかれるタイミングなんて早々作り出せない以上、次来るとなってもだいぶ間が開くことだろう。
 それに……だ。
 何度も来てもらった方が、こちらの暇つぶしにもなる。
 段々と人数を増やしてくれるのなら尚更だ。
 どうせ俺が殺されたところで神官が復活させてくれるし、拷問されてしまったとしても、俺の苦しむ姿を見るために神官が駆けつけてくれる。
 だからこのまま、敵を殺してしまっても問題が無かった。
 放たれたこの高水圧の水の刃は、そのまま敵を真っ二つにする。
 ……はずだった。
547:
 どういうわけか、一斉にコチラへと駆け出していた中の一人がその場にしゃがみ込み、地面を叩いて反対側の手を天へと掲げていた。
 その魔法動作。
 それによって俺の魔法が全て、敵に当たる直前で防がれてしまった。
 ……『結界』の魔法……!
 見えない壁に当たると同時、ただの水になったかのように、ただ相手のローブを塗らしただけに終わってしまった。
「っ!」
 驚きを隠せた自信は無い。
 そう……まるでこちらが『水』属性の魔法を使うのが分かっていたようなその対応……。
 ……いやそれ以上に、“こうして一斉に襲い掛かれば俺が魔法を使って対抗してくる”ことを知っていたようだった。
 ……やはり、前回襲った貴族の差し金なのだろう。
 それ故の情報能力で対抗してきている。
 前に戦った時の俺の情報を分析し、戦術として組み込んで挑んできた……。
 これは、相当に厄介な敵になる。
 ……が、勝てないということは無い。
 何故なら敵の数が、これだけいるのだから。
 いればいるほど強くなる俺だからこそ、まだまだこれだけでは負ける要素にはなり得ない。
 戦い方? 戦術? 弱点?
 ……その全ては、俺が長年かけて身に付けたものだ。
 一瞬で敵全ての戦い方を見抜き、隙を作り出す戦術を組み立て、弱点を作り上げる。
 ソレを行ってきた俺が……負けるわけが無い。
 単純な戦闘能力では弱い俺でも……これだけは弱いと、認めるわけにはいかなかった。
 だから負けるわけが無いと、自分の中で言い聞かせた。
548:
 得物を抜いて襲い掛かってくる敵。
 その手には王国正式採用の剣。
 貴族が雇っている傭兵ではなく、貴族が呼び寄せたお抱えの兵士なのだろう。
 だからこその、リズムの違う完璧な連携攻撃。
 互いの隙を埋めるよう訓練された、四方八方からの連続攻撃。
 何人かは俺に近付くことなく散らばり魔法攻撃に専念する、その役割分担。
 それを認識しながら、まずは近付いてきた敵からの攻撃に対処する。
 全てを躱し、順手に持った中剣で受け止め、逸らし、逸らした先で攻撃の邪魔になるようにし、しゃがみ、避けていく。
 だがさすがにこれだけでは限界が来る。
 このままだと魔法による攻撃も来るだろう。
 だからこちらも魔法を発動する。
 しゃがんだ拍子に左手で地面を叩き、発動。
 空手の左掌の中に、高圧縮の水球を作り出す。
 そうしてしゃがんだ俺に背後から攻撃をしようとしてくる敵に向け、逆手に持った中剣を投げて牽制。
 だが当然のように、その単調な攻撃は避けられる。
 しかし避けられるのとほぼ同時、足を軽く鳴らして左手の中にある水球を操作。
 そこから水の鞭を作り出し、避けられたナイフを掴ませ、投げ返させる。
「っ!」
 後ろからの攻撃なのに、驚きながらもその攻撃をしっかりと避ける敵。
 が、こちらとて無駄に投げ返した訳ではない。
 その避けた先には別の敵がいて、その敵へと突き刺さる軌道となっている。
549:
 もちろんこちらとて、その結果をただ傍観していたわけではない。
 足を何度も鳴らし、左手の中にある水球から鞭を伸ばし、敵を牽制し、時には隙を見せてそこへと誘導し、反撃し、一度躱して同士討ちを狙わせて……。
 そうして一人で、踊るような足音共に、敵を次々と戦闘不能へと追い込んでいく。
 ただ、敵はまだ一人も死んでいない。
 傷つき、動きは鈍くなっているが、そこまでだ。
 殺してもいい敵なのに、殺せない……。
 そう……こちらは数が減れば減るほど不利になるのだ。
 こうして複数相手に戦ってみて分かった。
 この敵全て、誰一人漏れることなく、全力の俺よりも強い。
 『結界』の魔法を使って援護をしているヤツ。
 他の属性の魔法を使おうとして俺に妨害されているヤツ。
 その全員がおそらく、近接戦闘も遠距離戦闘も、俺より強い実力をもっている。
 だから極力傷つけて、全力を出せないようにもっていく。
 そこまでしてからようやく、相手の数を減らしていける。
550:
 その考えの元動き、段々と敵の動きも鈍くなってきて……そろそろかと思い始めたとき。
「もういい!」
 例の、司令塔と思われる全身鎧の命令が飛んだ。
 その命令に応えるように、俺を武器で攻撃してきていた敵が一斉に飛び退いた。
 ただそれは命令というよりかは「お願い」に近い形の声だった。
 その思ってもいなかった声に、思わず身体が強張ってしまい、追いかけることが出来なかった。
「……やはり、複数で襲っては勝てない、か……」
「……昔と同じ強さのままで、安心しました」
「?」
 その、風に乗って届いた呟きに……懐かしさが込み上げる。
「ただ……わたくしは、昔のままではありませんが」
 込み上げてきて、分かる。
 その鎧によって曇っていた声が、女性のものであることに。
 そう、認識して都合が良くなったのか……その言葉遣いに、さらに懐かしい顔がよぎる。
「少し……お見せします」
551:
 記憶にある身長とは違う。
 声も、体格も、その全てが合わない。
 ただ……ああ、そうだ。当たり前だ。
 だってあれから……三年も経っているんだ。
 成長していない方が、おかしい。
「……まさか……」
 己の口から出た声は掠れ、自分のものとは思えないほどだった。
 だから、聞こえなかったのだろう。
 その全身鎧は、背中に引っ掛け隠し持っていたソレを取り出し、勢いよく振るう。
 折り畳み式の中刃槍。
 昔は正式採用剣で身の丈に合っていなかったのに、今はその長さの三分の一が刃となっている、槍とほぼ同じ長さを誇る武器で、同じ長さほど身の丈に合っていなかった。
 ああ……そうだ。彼女の戦い方は、そうした武器じゃないと行えない。
 ……女騎士から教わっていた、あの戦い方は……。
「では……いきます」
 構える。
 尾の近くを持ち、片手で持つ形。
 迫る。
 一息に間合いを詰められて。
 ……突きつけられる。
 あまりにも突然で、いきなりで……頭の中がこんがらがって……。
 感動とか動揺とか疑問とか、色々な感情が入り混じってしまっていて……動くことが、出来なかった。
552:
「…………」
 首元に突きつけられた刃。
 あと一押しで死んでしまうその状況を……何故か、少し喜ばしい感情で迎え入れている、自分がいた。
 ……追ってきて欲しかった訳ではない。
 会いたかった訳でもない。
 それなのに……その姿を見て……何故か、自分は……。
 自分から、離れたくせに……図々しくも、俺は……。
「……避けないのですか?」
「……避けられなかった」
 言葉を口にした途端、内側にあった感情すらも、表に一緒に出てきてしまって……自分でも分かるぐらい、笑ってしまっていた。
「……もう俺じゃあ、動くことも出来なくなったよ……その攻撃」
「前から強かったけど……さらに強くなったな――」
「――お姫さまは」
「……ふふっ、ありがとうございます」
 突きつけた刃を下ろし、地面に突き立てて、その顔を覆っていた鉄の面を外す。
 その向こうには……昔の面影を残しながらも、確かに成長した、お姫さまの顔があった。
「お久しぶりです。……傭兵さま」
560:
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
傭兵「本当に貴族の差し金じゃあないのか?」
姫「違いますよ。当たり前じゃないですか」
姫「わたくし達は貴族達と敵対しているのですし」
姫「というか、何をしたんですか? そこまで警戒するなんて」
傭兵「いや〜……ちょっと、この村の収穫率に対しての税率がおかしいから暴力的文句を言いに……ね」
姫「ああ……なるほど」
姫「だから兵を連れて一応の挨拶に言った時、いつも以上に怯えていたんですね……」
傭兵「挨拶……?」
姫「村の中に兵を招き入れるわけですからね。一応の礼儀です」
姫「その時にいつもとは違って動揺露だったのが気になっていたのですが……そういうことだったんですね」
姫「おそらく、あなたが国に告げ口をして、その調査に来られたとでも思ったのでしょう」
傭兵「それじゃあ、あの貴族だけ特別に親しい相手だったとかでは……」
姫「全く無いですね」
561:
姫「それにしても、村のためにそんなことまでしてあげてるんですね」
傭兵「俺とか神官ぐらいしか出来ないからな。この村だと」
傭兵「あの貴族達、連れてる兵士を使って脅して、こっちが反抗できないのをいいことに好き放題やってたから我慢できなくなってさ」
傭兵「せっかく受け入れてくれたんだから恩返しでも、と思って」
傭兵「……ま、そのせいで貴族からの仕返しを恐れてる村の人たちが、俺たちを遠ざけるようにはなっちまったけど……」
傭兵「仕方ないかな、って思ってる」
姫「傭兵さまたちに怯えているのではないですか?」
傭兵「ああ……それもあるだろうなぁ……たぶん」
562:
傭兵「……って、こんな話をしに来たんじゃないんだろ?」
傭兵「どうしてこんなところに?」
傭兵「まさかこんな辺鄙なところに、王女が出向かないと行けないほどの何かがあったわけでも無いだろ?」
傭兵「わざわざ兵士まで引き連れてるんだ。一体どうしたんだ?」
姫「……言わずとも、わかっておられるでしょう?」
傭兵「……………………」
傭兵「……さあ?」
姫「そうですか? てっきり誤魔化すために、饒舌になっておられるのかと思ったのですが」
傭兵「…………」
姫「……兵を連れてきたのは、傭兵さまの腕が鈍っていないのかどうかの確認です」
姫「わたくし一人では確認しようがありませんからね。傭兵さまの場合」
姫「それにしても、昔は見えてくれなかった戦い方をしてましたね?」
傭兵「ああ……あれはつい最近出来た戦い方なんだ」
傭兵「……お姫さまと魔法を勉強しているときに、ヒントを得てな……」
姫「そうですか……少し、ビックリしました」
傭兵「…………」
姫「それで……改めて、言う必要はありますか? ここを訪れた理由」
傭兵「……いや……」
傭兵「……図々しいことかもしれないけど……もしかして、俺を城へと連れ戻すために、とか?」
姫「はい」
姫「もう無断欠勤が三年ほど続いてますよ?」
姫「そろそろ、仕事に復帰していただこうかと思いまして」
傭兵「それは……」
姫「無理、ですか?」
傭兵「……はい」
563:
姫「……どうして、ここが分かったか。分かりますか?」
傭兵「えっ?」
傭兵「それはもちろん……俺が貴族の屋敷を襲ったから、とか……?」
姫「それはあり得ませんよ」
姫「もし屋敷を襲った人がいたと報告が上がった場合、国の兵が直接赴くことになります」
姫「そうなると、貴族達にとって害とも呼べるわたくし達に、屋敷に手を付ける絶好の機会を与えてしまうことになる」
姫「そんな報告、私設兵を雇っている以上、するわけが無いんですよ」
傭兵「じゃあ……?」
姫「わたくしの魔法です」
傭兵「え……? でも確か、お姫さまの魔法は……」
姫「……わたくしだって、魔法ぐらい鍛えますよ」
姫「傭兵さまがいなくなってからもずっと、魔力の磨ぎ方を学び続けました」
姫「その結果、傭兵さまも『探索』出来るほどの魔法が、使えるようになったのです」
姫「もし国外に出られていたとしても、見つけられる自信がありますよ」
傭兵「それで……」
傭兵「……でも、それをどうしていきなり?」
姫「分かりませんか?」
姫「逃げても無駄、ということです」
564:
姫「これは要求ではありません」
姫「脅迫です」
姫「わたくし達は、傭兵さまを制圧できる力がある」
姫「逃げても逃げても追いかけ、捕まえるという術もある」
姫「だから、大人しくついてきて下さいという、そういう脅しなんです」
傭兵「っ……!」
姫「ですのでもし、城に戻ってくるのを拒絶されるというのでしたら……わたくし達は、実力行使に出ます」
姫「傭兵さまを拘束し、連れ戻します」
姫「それだけです」
傭兵「……随分と、手荒くなりましたね」
姫「言ったじゃないですか」
姫「わたくしは、傭兵さまを不幸にしに来た、と」
565:
姫「ただ……わたくしの本心を告げるのなら、傭兵さまには自分から戻ってきて欲しいのですけれど」
傭兵「……拒否しても連れて帰るのに?」
姫「そうですね……出来れば、無理矢理支えるような形は取りたくないですので」
傭兵「支える……?」
姫「昔、傭兵さまは言っておりました。子供を助けるのが大人の役目だと」
傭兵「ああ……」
姫「今もきっとそうなのでしょう。それは分かります」
姫「それが不幸を呼び込む上での言葉だとしても、わたくしは立派だと思います」
傭兵「…………」
姫「ですがそれで、その大人を支えることをしてはいけないということはないはずです」
姫「わたくしは、その支える人になりたい」
姫「まだまだ未熟で半人前ではありますが、守られてばかりの子供ではなくなったのです」
姫「そのためにここまで強くなりました」
姫「それならせめて、支えるぐらいはしたいじゃないですか」
姫「無理矢理に、ではなく。望まれる形で」
傭兵「……………………」
566:
傭兵「……一国の王女に、そこまでのことはさせられませんよ」
傭兵「お姫さま……あなたはその考えを、国民に向けるべきですよ」
傭兵「もう、立派な大人になろうというのなら、尚更です」
姫「わたくしの役目は、ただ表に立ち続けることだけです」
姫「ですから尚のこと、傭兵さまを支え、傭兵さまに支えられたいのです」
傭兵「表に立ち続ける……? それは……どういうことですか?」
姫「……傭兵さま。もしわたくしが第一王女だったとして、既に成人の儀を終えて一年経ち、十六歳になった今、こうして田舎に兵を引き連れてやってこれると思いますか?」
傭兵「それは……」
傭兵「……っ! それじゃあお姫さまは……もしかして……王女じゃ、ない……?」
姫「いえ。わたくしはれっきとした、この国の王女です」
姫「王である父上から生まれた、子供です」
姫「ただ……“第一”ではないだけ」
傭兵「……え?」
姫「わたくしは妹」
姫「……第二王女なんです」
567:
傭兵「第……二……?」
姫「はい」
姫「わたくしは第一王女の影であり光」
姫「政(まつりごと)を行う姉に代わり、表に立ってあらゆる危険を引き付ける」
姫「暗殺者に狙われるのも、民衆の前に立って顔になるのも。全てがわたくし」
姫「いわば、影武者です」
傭兵「なっ……!」
姫「ですからこうして、わたくし本人が、足を運ぶことも出来たのです」
姫「本当の第一王女ではありませんからね」
姫「まぁ、偽りとはいえ第一王女ですから、お忍びではありますが」
姫「第一王女として表に出る前の最後の我侭、と言うことにして、なんとか」
傭兵「そんな大事なこと……なんで俺にっ!?」
傭兵「その口ぶりだと、外に待機させたままの兵士も――」
姫「はい。わたくしが第一王女だと思っております」
傭兵「――っ」
姫「先程傭兵さまに見せた一瞬の戦いも、本当はしてはいけない約束だったんですけれどね……」
姫「第一王女は武術も魔法もからっきし、という設定でしたから」
姫「まあ、傭兵さまがいなくなってからの三年間、あなたを支えるためにと行っていた特訓で、限界を迎えた設定ですけれど」
傭兵「設定って……いや、それよりもだから、どうして俺に教えたんですっ!」
姫「傭兵さまを、不幸にするためですよ」
傭兵「えっ!?」
姫「傭兵さまは、信頼されることを避けていらっしゃるようでしたから」
568:
姫「まあ、それは当然ですよね……幼馴染を殺すことになってしまったのは、いわば自分が信頼されていたから」
姫「もう同じ目に遭いたくない。同じことをしたく無い」
姫「だから誰にも信頼されたくない」
姫「だからあんなにも、自分を信じさせまいと振舞ってきたのですよね?」
傭兵「っ」
姫「だからわたくしは、傭兵さまを信頼し、国の秘密を打ち明けます」
傭兵「なっ……! それがどうして“だから”につながるんですかっ!!」
姫「傭兵さまを信頼し、その重圧による不幸を与える」
姫「城にいればさらにその不幸が待っている」
姫「そのことを、あなたを連れ去った神官さまにお教えすれば、あなたを城に置いてもらえるかもしれない」
姫「そんな、あなたを傍に置いておきたい、独り善がりな考えですよ」
傭兵「それで無理だったら……無駄に俺に……!」
姫「ええ。国家機密を教えたことになりますね」
傭兵「だったら!」
姫「ですが、お教えしたら傭兵さま、一度は城に戻ってきてくれるのではないですか?」
傭兵「っ!」
姫「……その優しいところが、傭兵さまの良いところです」
姫「何も、責任を感じることなんてないですのに……」
569:
姫「……では、傭兵さまを信頼し、さらに追い詰めるために、これから国家機密を全て、お話ししていきます」
傭兵「……いや、別にいいよ」
傭兵「そこまでされるぐらいなら、もう戻ろうと思うから」
姫「ですが、これだと脅迫みたいじゃないですか」
傭兵「いや、十分脅迫されてるんだけど……」
姫「それにわたくし、本当に傭兵さまのことを信用しておりますので」
傭兵「それも……俺にとっては酷いぐらいの脅迫だから」
傭兵「ここで止めてもらえると助かるんだけど……」
姫「三年間、無断欠勤された報いですよ」
姫「それに、気になりません? 第一王女が誰なのか」
傭兵「俺の会ったこと無い人だろ?」
姫「いえ。わたくしが姉と呼んでいた方ですよ」
傭兵「……………………」
傭兵「…………えっ!? メイドさんっ!?」
姫「はい」
姫「ちなみに女騎士さんは、騎士長であると同時に、姉の専属の護衛も務めている方です」
傭兵「そんな……そんな気配は、微塵も……」
姫「そうですか?」
姫「では逆に聞きますが、姉が召使いの格好をして、その仕事をしているところを見たことはありました?」
傭兵「そういえば……無い……いや、確か魔力も集中力も切れた俺を看病をしてくれていたような……」
姫「あれはかなり特殊でしたよ」
姫「いつもはほとんどの時間、父上の傍にいる姉が、その時だけは傭兵さまの傍にいたのですから」
570:
姫「いつも姉は、父上の公務を手伝っていました。そうすることで、将来国を動かすときのための知識を蓄えていたんです」
姫「その間姉のことは、父の護衛である宮廷魔法使いさんが一緒に守ってくれておりました」
姫「そしてその姉が父の傍にいる時間こそ、女騎士さんが表向きの第一王女であるわたくしを守ってくれていた時間なのです」
傭兵「適度な隙を見せることで敵に仕留める為の計画を練らせると、そういうことですか」
姫「その通りです」
姫「ちなみにこれは、わたくしの提案です」
姫「影武者をすると手を挙げたのも、戦闘兵器の噂をワザと流したのも、ですが」
傭兵「戦闘兵器の噂……そういえばあったな……」
傭兵「あれ……? でもそれって昔話してくれた、魔法を使えることに目を向けさせないためのものと矛盾してません?」
姫「はい。明らかに矛盾しております」
姫「ですが噂話など、色々と飛び交うものではないですか」
姫「それにこの戦闘兵器としての噂が広まれば、周りから恐怖されている姫、となって、女騎士さんが傍にいなくても違和感が少なくなります」
姫「もちろんこれもまた、敵を誘き寄せるために嘘を吐いていたことと、矛盾します」
姫「ですがそうしてあらゆる情報を織り交ぜ・絡ませ・流すことによって、姉が本当の第一王女かも、と別の方向へと目を向け疑うことすらさせないようにしておりました」
傭兵「その中には当然、戦闘が行えないという噂も広げ続けてある……」
傭兵「……でもそれ失敗すれば最悪、お姫さまが魔法を使えることを隠している、ということはバレていたように思うんですが……」
姫「あの時も話しましたが、別に魔法が使えることはバレても良いのです」
姫「バレてはいけないのはあくまで、戦闘用の魔法が使えないということ」
姫「戦闘兵器としての噂があって、魔法を使えることを隠しているのでは、と疑われれば、まず攻撃魔法だろうと繋げるでしょう? 一番の狙いは、実はそれだったのです」
傭兵「なるほど……」
571:
姫「それにしても……嬉しいものですね」
傭兵「?」
姫「傭兵さまが、三年経ってもわたくしの話を覚えていてくれているというのは」
傭兵「っ……! それは――」
姫「ああ、言い訳は止めて下さい。ちょっとこの幸せを噛み締めたままでいたいので」
姫「それに昔も話しましたが、その言い訳をされたところで、わたくしは自分に都合のいいことを信じたままですよ」
傭兵「――っ……そういえば……そんなことも話していましたね……」
姫「はい……」
傭兵「……そういえば、女騎士がメイドさんの専属護衛ということは……お姫さまの副作用が女騎士さんの手で中々解除されていなかったのって……」
姫「はい。暇が中々無かった、というのが本音ですね」
姫「わたくしが人間兵器の噂の元孤立していたので、姉は守れたのですが……そのせいでわたくしに近付く理由も中々作り辛かったのです」
姫「まして、姉の専属護衛を、コッソリと務めていたのですからね」
傭兵「そうか……専属護衛なのがバレたら、メイドさんに何かあるのがすぐに分かるからな……」
姫「そういうことです」
姫「ですから実は城内での女騎士さんの評判、凄く悪いんです」
傭兵「えぇっ!?」
姫「サボって知人の召使いと駄弁ってばかりの給金泥棒」
姫「何も無いところでボーっと外を眺めているサボリ魔」
姫「そんなことを言われてました」
姫「……まあ、実力はあったし、親戚筋なだけではない上に、ちゃんと騎士長としての公務も行っていたので、面と向かっては訴えられなかったそうですが」
姫「本当、迷惑をかけっぱなしでした……宮廷魔法使いさんにもお暇を与えないといけない都合とか、色々と頑張ってくれましたし……」
姫「女騎士さんがいなければ、この方法は取れていなかったでしょう」
572:
姫「それに、わたくしが強くなれることもありませんでした」
姫「わたくしを鍛えるのもコッソリとでないといけませんでしたからね」
傭兵「……大変な役割だったんだな……あんな小柄な体型で……」
姫「そうですね……実は一番楽な役回りは、わたくしですしね」
姫「姉もいずれ、跡継ぎのために隠れて結婚することになる日が来るでしょう」
姫「その時、その結婚相手に国を取り仕切らせないようにするために、必死に勉強してくれていたのですから」
傭兵「……結婚相手が貴族の差し金で、また国を腐敗させられたらいけないから、か……」
姫「結婚しても政は自分でする」
姫「そのために姉は一人、頑張ってくれていました」
姫「わたくしは、勉強も礼儀作法もそこまで好きではありませんでしたので。今のような役割を引き受けました」
傭兵「……でもそれだって、戦闘訓練を受けたり、毎日命の危険に晒されたりと、大変なことには変わり無いでしょ」
傭兵「お姫さまが日常の一部だと思っているほど溶かし込んでいるだけの話で、それが楽だってことはありませんよ」
姫「……そうでしょうか?」
傭兵「そうですよ」
姫「……でしたら、そんな大変なわたくしを、少しでも助けてくれませんか?」
姫「お願いします」
姫「独り善がりなお願いですが……どうか……」
姫「城に……戻ってきてください」
傭兵「…………」
573:
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 王城
姫の自室
◇ ◇ ◇
姫「予定通り、傭兵さまをお連れ出来ました」
女騎士「っし!」グッ
メイド「……城の内情も、ちゃんと説明しました?」
姫「はい。……あ」
女騎士「ん?」
姫「わたくしが影武者だと知っている人が誰なのかを教えるのを忘れてた……」
女騎士「ま、それぐらいなら良いんじゃない?」
女騎士「たぶん、本人もなんとなく察しがついてるだろ」
メイド「宮廷魔法使いさんは知ってそうですが……さすがに、城に仕えている神官長も、とは気付いていないかもしれませんね……」
女騎士「だったら、後で話せばいい」
女騎士「どうせ今回の作戦に、その件は――っていうか、アイツ自体あんま絡んでこないんだからさ」
姫「……それもそうですね」
574:
女騎士「で、姫さん。ちゃんと置手紙は残してきてくれた?」
姫「もちろん。家も傭兵さまに聞いて、ちゃんと置いてきましたよ。ここに連れ戻すと言う内容のものを」
姫「すぐに出発したとして、おそらく本日の真夜中には来るかと」
女騎士「本来なら、すぐに来てくれるとは限らないが……」
メイド「相手が相手ですし、来てくれると見て作戦を立てておくべきでしょう」
姫「その辺、女騎士さんはどう?」
女騎士「任せてくれ」
女騎士「兵にも指示を出してある」
女騎士「一人の賊が忍び込んだら、ちゃんと訓練場に誘導してもらえるようになってある」
メイド「……どうやって誘導するつもりですか?」
女騎士「小隊を組んで見回りをしているフリをさせる」
女騎士「さすがに、五人ほどが固まっているのを相手取ろうとは思わないだろう」
女騎士「正面入口以外は『結界』の威力を高めてもらうようにしているし、魔法を使える補助の兵も渡しておくつもりだ」
女騎士「だから後はルート通りに移動させることが出来れば……」
メイド「それなら……大丈夫そうですね」
女騎士「ああ」
女騎士「そして訓練場で……このボクが、傭兵を連れ出したアイツの相手をしてやる」
583:
〜〜〜〜〜〜
 静かな……夜の空気の中を割く声。
 侵入者がやってきたことを知らせる兵の声。
 ボクは立ち上がり、傍に置いてあった剣を手に取り、腰に差す。
 ついに……時が来た。
 約三年前……自分を殺した相手との再戦。
 ……あれから、特別なことをしてきたつもりは無い。
 今まで通りの訓練を、今まで通りこなしていただけ。
 強さはあの頃より変わっていないと思う。
 だからこそ……再戦することに意味がある。
 ……不意打ちで殺されてしまったあの情け無い自分と、決別するために……。
 真正面から戦い、勝ってみせる。
「…………」
 自然、鞘を握る手にも力がこもる。
 ……不自然な力は動きを鈍らせる。
 それを自覚していながらも……力が、入ってしまう。
 ……けれども、例の男が走ってこの訓練場へとやってきたのを見た瞬間……。
 闘いの時の力に、自然と戻っていた。
584:
「ちっ……どうにも誘導されている気がしたが……なるほどな。誘き寄せられたってわけだ」
 抜き身の剣を肩に担ぎながら、男はボクの姿を見据える。
「で……どうも周りの気配が遠ざかってんだが……お前を倒せば仕舞い、ってわけじゃねぇんだろ?」
「いや……ボクを倒せばそれでいい」
「だってそこの中に、お前のゴールがあるんだから」
 そう言って、昔道具を仕舞っていた倉庫――姫さんが魔法の訓練で使っていた場所を顎で示す。
「へぇ〜……なんだ? どういうことだ?」
「なんのワナを仕掛けてやがるんだ?」
「ワナなんてものはない」
「あるのはただ、納得のいっていない決着を付けたいという、ボクの我侭だけさ」
「納得のいってない?」
「……そうか……」
 その反応で、分かった。
 アイツは三年前、ボクを不意打ちで殺したことを、覚えていないんだ。
 ……それだけ軽く見られていることに、少なからずのショックが積み重なる。
586:
「……お前は、この城にいる傭兵を連れ戻しに来たんだろ?」
「ああ……」
「……そうか……お前あの時、傭兵の家にまで来て連れ戻そうとしていたヤツの一人か……」
「思い出してもらえて光栄だ」
「あれから三回ほど街か村に移動していたからな。忘れちまってた」
「すぐにこの国から出なかったのは、訪れたボク達が城からの使いと知っていて警戒していたからか?」
「その通り。アイツが城で働いてたのは知ってたからな。となれば、すぐに国を出ようとしたところで、関所に連絡が行っていれば出られないよう足止めされる可能性が大きかったからな」
「だから、大人しく国の中に留まって、年数が過ぎれば出るつもりだった」
「そろそろ忘れられてそうだから出られると思ってたんだがな……まさかこうして、また城に戻ってくることになるとはな」
「そこまでアイツに執着して……何の利益がある?」
「別に、お前はそんなことを聞きたいわけじゃないだろ?」
「ただ傭兵が連れ戻されるほど幸福なのが許されない……そうだろ?」
「はっ……分かってんじゃねぇか」
「それで? 俺に一撃で殺されたお前が、俺に勝てるのか?」
「確かに……このボクが不意打ちをされた。それだけで、お前が相当な実力者なのは裏づけされている」
「だが、それでもお前に、ボクの実力が証明されていないのが、ボクは納得できていない」
「ボクをザコだと思っている評価を上げてもらう」
「そのための戦いだ。これは」
「へっ……だからこその一対一、か」
「そういうことだ」
 そう言ってボクは、剣を抜く。
 身の丈に合っていない、国の正式採用剣・長剣型を。
587:
「勝てばあの空間へと一直線」
「悪い話じゃないだろ?」
「勝負を受ける条件としては上等だと思うけど」
「確かにな……いいだろう。来な」
「負けたときに油断していた……なんて言い訳、通じないよ?」
「油断? するわけねぇだろ。一撃で終わらせてやるよ」
 肩に担いでいた剣を片手に持ち、構える。
 その構えを見たと同時、ボクは一気に間合いを詰めた。
588:
 大振りの振り上げる一撃。
 そのバレバレの攻撃は当然とばかりに躱される。
 がら空きになった腹に向けて斬撃。
 それでこの戦いは終わり。
 ……素人なら、そう思って攻撃してきたことだろう。
 だが相手はその隙を衝いてくることなく、こちらに向けて牽制の素早い攻撃をしてくるだけ。
 その攻撃を、攻撃後の隙を物ともしない動きでボクも躱す。
 両者共に、あえて隙を見せた攻撃を行い、相手を誘い込みながらも、互いにその誘いには乗らず、ただただ牽制の攻撃を繰り返す。
 互いに一撃も当てることが出来ず、全ての攻撃を躱し続けていく。
 刃を刃で受け止めることもせず、避けて躱して攻撃に転じての攻守逆転ばかり。
 ……やはり強い。ここまでボクの動きについてきた人は初めてだ。
 左腕が使えないことは姫さんから聞いている。
 だからこの男の攻撃は全て、右手一本で握られた武器から放たれている。
 評価すべきは、左腕が動かないというハンデを物ともしないその動き方。
 後天的に左腕が動かなくなった人間とは思えないほどの滑らかさだ。
 ……血の滲むような特訓をしてきたのだろう。
 もちろん、持ち前のセンスもあるに違いない。
 もし両腕が使えたとしたら、武器による戦いでは負けていたかもしれない。
 そんなことを考えてしまうほど、相手は強かった。
589:
 ボクの戦い方は、基本大振りによる一撃必殺を主体としている。
 だがこの基本的な大振りは、あくまでオトリ。
 そうしてどうしても生まれる隙を衝いてくる敵を狩り取る。
 それが“本当の”狙いだ。
 ボクは見た目が細く見える。
 だがその中にある筋肉は、女性特有のしなやかさと見えざる太さがある。
 残念なことに、そのせいで小柄なまま成長してしまったとも言える。
 子供の頃から鍛えてきてしまっていたせいで、筋肉による重みで身長が伸びなかった。
 ……ただでさえ母親の遺伝子的に背が低いのが確定したのに、さらに低くなってしまった。
 でも、だからこその戦い方とも言える。
 もし背が高くなれば、姫さんのように特注の武器を作ってもらわなければいけなくなった。
 今の騎士長の立場なら可能だろうが、もし一般兵のままならそれも叶わなかったことを思うと、普通の長剣を持つだけで振り回されているように見えるのはかなり良かった点だ。
 その筋力によって振り回す剣の威力は約七割。
 そして隙を衝いてきた敵の攻撃をあっさりと避けるため、一度剣を手から放し、再び掴んで再び振るう際に十割の力を使う。
 もしそれすら避けられたとしても、武器を手放し逃げればいい。
 振り回した武器を離す反射神経と筋力。
 再び掴む握力としなやかさ。
 その二つがあってこそ、この戦い方は出来るのだ。
590:
 だがこのままでは、埒が明かない。
 変化が必要だ。
 ……仕方が無い。
 魔法を使おう。
 ダンッ! と足を踏み鳴らす
 手を地面へと着けない分、簡単なものしか使えないが……この互角の状況なら、その小さな変化でも十分だ。
「っ!」
 魔法を使われたことを悟り男は足元を警戒する。
 なるほど。さすが傭兵と一緒に勇者候補者をしていただけのことはある。
 その読みは当たりだ。
 ボクがしたことは単純。足元の一部を、広範囲に、バラバラに、あらゆる場所を金属へと変えただけだ。
 それに何の意味があるのかと問われれば、ほとんど意味は無い。
 ただ踏み込んだ際に違和感が生まれてしまうだけだ。
 しかしこの所々の変化によって何かがあるかもと敵は警戒しなければいけない。
 そこの隙を衝いて、少しでも傷を付けられれば、それでいい。
 そこから先は、段々と差は広がっていく一方だ。
 互角な戦いは、ほんの少しの行動で崩れる。
 崩れた先は、ただただ滑り落ちていくだけ。
 その証拠に男の左肩を浅く斬ってからは……こちらにとって有利な状況が続いた。
 段々と相手が完璧に避けられなくなってきて……右腕に、脚に、腹に、頬に、胸に……浅いながらも傷を増やしていく。
591:
「くっ……!」
 このままだと負けてしまうと悟ったのだろう。
 相手は飛び退いてボクと距離を置く
 だがせっかく掴んだ流れだ。そう安々とは手放さない。
 こちらもすぐに距離を詰め――
 ――ようとするボクの行動を読んでか、剣を地面に突き刺して手を天へと掲げ、その場で足を踏み鳴らした。
 魔法を使われる……!
 このまま距離を詰めるのは危険と判断して、足を止めてこちらも距離を取る。
 せっかく掴んだ流れが、相手に掴まれてしまった……だがここで相手の魔法を避けることが出来れば、さらに強く、勝負の流れを掴むことができる。
 ……相手の魔法は分からない。
 だが……避けるしかない……!
 ここで避けられないのならどちらにせよ……負けることは決まっている……!
 そう覚悟して、相手を見据える。
 向こうもこちらの意図を理解したのだろう。
 それでも攻撃を止める気配は無い。
 魔法に対して圧倒的な自信がある故だろう。
「…………」
 ……姫さんの話で、腕を振り上げられただけで死んだって話だったけど……一体……。
 その答えに辿り着くよりもく、敵が動きを見せた。
 地面に突き刺した剣を抜き、上体を曲げて振り上げる前の体勢を取る。
 全身を身体の中心に丸めるように力を込め……。
 そして……その身体の中心へと集めたバネを解放するかのように、その場で剣を振り上げた――
 ――刹那、ボクの左腕が文字通り、吹き飛んだ。
592:
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!!!!!!」
 上がりそうになった悲鳴を噛み殺す。
 唇を閉ざし必死に堪える。
 言葉では表せられないほどの激痛を、どんな言葉でも軽々しくなるほどの痛みを、ただただ意識から外すことに集中する。
 何があるのか分からない。
 ただ構えから、刃の直線上に立つのは危険と判断し、横へと跳ぼうとした。
 それが少しだけ遅かった。
 それだけで……左肩から先の片腕全てが、切断された。
 ……相手の属性が、なんとなくだけれど分かった。
 切断された時に耳についた大きな風の音。
 おそらくは『風刃』。
 間違いなく五属性外のものだろう。
 基本五属性ではないものの、数が多い『風』属性の亜種。
 『風』属性は人を傷つける際、ここまでの攻撃力は持てないと聞く。
 そしてこの切断面。吹き出る血と鋭い切れ口は間違いなく、刃で斬られたもの。
 骨と肉がむき出しのソレは、痛いからと残った片腕で押さえるのすら躊躇うほどのものだった。
 ここまでのものとなれば、見えざる刃で腕を切断された、と考えるのが妥当だろう。
 故に『風刃』だと当たりをつけた。
「ぐっ……!」
 足をつき、何とか踏ん張る。
 そう……避け切る事は出来なかったが、一撃で死ぬことも無かった。
 ならここから、反撃すべきだ。
 血が抜け切って、死んでしまう……その前に……!
 それに相手も、魔法を放ってから膝をついている。
 ……復活の儀を修得する際、利き腕を犠牲にしたのだと思う、と姫さんから聞いた。
 だが実際は、その体内もほとんどボロボロになっていたのかもしれない。
 大地のエネルギーを通すために魔力で覆っても傷ついてしまうぐらい、その中身は既に……。
593:
 たぶん、魔法を使うのにダメージを受けない身体だったなら、目測よりも武器の射程を長くして、相手を翻弄する戦いをしたのだろう。
 その使い方こそ、あの魔法の正しい使い方だったに違いない。
 それが出来ないのに、ボクをここまで追い詰めるほどの強さ……。
 ……つくづく、その強さに感服する。
 だからこそこちらも、本来出来る自分の戦い方を見せてやりたかった。
 ……負けず嫌いなんだ。ボクは。
 だから……例え五体満足だったとしてもボクには敵わない――最悪互角だったと、思わせてやりたい。
「はああぁぁぁぁぁーーーーー……!」
 気合を入れ、痛みを気合で誤魔化し、イタイイタイと訴える情け無い自分を殺しながら、走り、相手との間合いを詰める。
 武器を手放し空手にし、残った右手を天に掲げ、大地を踏み締める一歩一歩で魔法を発動させていく。
 相手に近付けば近付くほど、相手は追い込まれていく。
 地面から生えてくるように、背中に、左手側に、右手側に、天に、地面に……次々と鉄の板が現れていく。
 そうして相手を閉じ込めてからは、こちらとあちらの一本道を作るように、壁を作り上げていく。
 そう……鉄の板を生み出して、細い路地を作り上げていくような形。
 これでもう……逃げることは敵わない。
 そうして追い詰められながら、フラフラとしながらも何とか抵抗しようとしている男の心臓目掛けて、ボクは最後の踏み込みをする前に生み出した槍を手にし、突き刺――
 ――さずに、寸でて止めていた。
594:
神官「……なんで、止めたんだ……?」
神官「そのまま一突きすりゃ、俺を殺せただろ?」
女騎士「……お前は、ボクに勝てないと思うか?」
神官「あん?」
女騎士「もし、そんな身体になっていなかったとして、ボクに勝てなかったと……そう思う?」
神官「…………」
神官「……さあ、どうだろうな?」
神官「正直、ここまでのことをされるとな……戦う前の評価は覆った」
神官「少なくとも、いい勝負はしたんじゃねぇの?」
神官「お前だって、手加減してたみたいだし」
神官「こんな走りながら俺を閉じ込めていくことが出来るんなら、いきなり地面から金属の槍を生み出して突き刺すことも出来るんだろ?」
神官「それをされなかっただけで……されてたらどうなってたことか……」
女騎士「ははっ……そっか」
女騎士「その答えを聞けただけで、うん。もう十分」
タンッ
ザバァ…
女騎士「……行って」
神官「は?」
女騎士「お前がボクの評価を改めてくれた」
女騎士「それだけで、十分」
神官「……なに?」
595:
神官「俺を殺して、傭兵を匿うつもりじゃなかったのか?」
女騎士「そんなつもりはないよ」
女騎士「最初に言っただろ? これはボクの我侭だって」
女騎士「ここでお前を殺したら……姫さんのしたいことを、させてあげられなくなる」
女騎士「本当は……こんな負けず嫌いもしないで欲しかったみたいなんだけど……どうしてもやりたくってさ」
女騎士「お前が城に残った時のことも考えて、ね」
神官「俺が……城に残る……?」
女騎士「その辺の疑問は、中で聞いて」
女騎士「姫さんが待ってるから」
596:
ギィ…
ガラガラガラ…
神官「…………」
姫「……よく来てくださいました。神官さま」
神官「……傭兵はいないのか」
姫「ここにはおりません」
神官「ちっ……なら用はねぇな」
姫「少し、お話を聞いていきませんか?」
神官「用はねぇって言ってるだろ」
姫「この城は広いですよ」
姫「もしわたくしの話を全て聞いてくれたのなら、傭兵さまの場所までご案内致します」
神官「しらみつぶしに探せば見つかるだろ」
姫「……今頃、先程戦った女騎士さんが復活している頃でしょうか」
神官「は?」
姫「その傷だらけの身体で、五体満足になった女騎士さんと戦って、勝てますか?」
神官「…………」
姫「次、この城へと来た時は、そう易々と入れることはなくなりますが……それでも構いませんか?」
神官「……………………ちっ」
姫「賢明な判断です」
597:
姫「ですが本当は……こんな脅しみたいな方法、取りたくありませんでしたけれどね」
姫「あなたとは、話し合いで解決できると思っていますので」
神官「はん! おめでたい頭してんな、おい。そうやって脅してなけりゃ今頃、お前の首を刎ねてるかすぐ外に出てアイツを探してるところだぜ」
神官「感謝しろよ? そうやって交渉材料があることをな」
姫「…………」
神官「それで、そのおめでたい頭で話したことってのはなんだ? 聞いてやるよ」
姫「……傭兵さまを、城に置いていて欲しいという話です」
神官「なら却下だ」
神官「俺はアイツの不幸を望んでる」
神官「だからココにはいさせられない」
姫「どうしてですか?」
神官「ココは、アイツにとって幸福が溢れてる」
神官「お前、昔傭兵が借りてた家で俺に殺されたガキだろ?」
神官「三年経っても傭兵を連れて行こうとするほど好いているヤツがいる場所に、アイツを置けねぇ」
姫「……本当に、そうでしょうか?」
神官「あん?」
姫「確かにわたくしは、傭兵さまに対して好意を抱いております」
姫「ですがそれが、本当に幸福なのでしょうか?」
神官「……何が言いたい?」
姫「信頼されている。信用されている。愛されている」
姫「……あなたはそれが、傭兵さまにとって幸福だとおっしゃいます」
姫「ですが、本当にそうでしょうか?」
神官「……なに?」
598:
姫「傭兵さまは昔から、自分が本当に信頼されないように振舞ってきました」
姫「それは確かに、幸福から逃げているように見えるでしょう」
姫「ですが傭兵さまは、信頼されていたからこそ、お仲間を殺すことになってしまったのでしょう?」
神官「…………」
姫「その時のことをお話されたとき、思い出しているだけで辛そうでした」
姫「それだけの辛い出来事があって、本当に信頼されることが幸福だと思われているでしょうか?」
姫「……わたくしはこう思うのです」
姫「自らを不幸に見せるため、というのを盾にして、本当に自分が不幸になることを遠ざけていただけなのでは、と」
神官「……………………」
姫「傭兵さまは、信頼されるという重圧から逃れようとしていたのです」
姫「信頼された結果、幼馴染を失ってしまったのですからね」
姫「当然です」
姫「ですから、本当に傭兵さまの不幸を望むのなら、沢山の人に信頼されなければいけません」
姫「現状の傭兵さまの言動は全て、神官さまを騙し欺き、自分にとって本当に不幸となることを気付かせないようにしているだけに過ぎません」
姫「本当に傭兵さまに与えなければいけない環境は、沢山の人に信頼され、頼まれ事ばかりをされて、一つのミスで信頼を失うかもしれないと言う恐怖の元、何かを行い続けることじゃないですか」
姫「それこそが、傭兵さまにとって一番の不幸な環境です」
姫「あなたの望みは、傭兵さまの不幸ですよね?」
姫「だったら傭兵さまをこの城に置いておくのが、一番だと思いませんか?」
姫「ここにはわたくしも含めて少なく見積もっても三人、彼に全幅の信頼を寄せている人がいます」
姫「あらゆることを頼まれて・苦労して・悩んで・辛そうになる彼を見ることが出来る」
姫「不幸を見たいというのなら、これ以上無い条件ではないですか」
姫「ですから、提案します」
姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」
599:
神官「お前……何を、言ってるんだ……?」
姫「何を? そうですね……スカウト、ですかね」
姫「戦いもこなせ、復活の儀だけとはいえ行える」
姫「これだけの逸材が城にいれば、助かるじゃないですか」
姫「確かに敵対していた人を勧誘するのはおかしいかもしれませんが――」
神官「違う……そうじゃねぇ……それじゃねぇだろ……」
姫「――それではない?」
姫「では、傭兵さまのことでしょうか」
神官「どう考えてもそうだろうが……!」
神官「お前……傭兵のことが好きなんだろっ……?」
姫「はい。大好きです」
姫「ですからこうして、傭兵さまを城に残せるよう、手を打とうとしています」
神官「それがおかしいっつってんだよ!」
神官「好きならそんな……! アイツがさらに不幸になるような提案を――」
姫「あれ? おかしいですね」
姫「神官さまも、傭兵さまを不幸にすることを望んでいるのでしょう?」
姫「それなのにそんな……“本当の傭兵さまの不幸を望んでいない”と仰るのですか?」
神官「――っ!!」
600:
姫「……傭兵さまのことを好きなヤツが、傭兵さまをさらに不幸にするようなことを提案をするのはおかしい……」
姫「そう、言いたいのでしょう? 神官さまは」
神官「…………」
姫「……本当は神官さまも、気付いていらしたのでしょう?」
姫「傭兵さまが“自分のために不幸なフリを続けてくれているだけに過ぎない”と」
姫「そしてあなたも、傭兵さまに本当の辛い目に遭わせたくないから気付いていないフリをしているだけ」
姫「本当は、信頼され始めて、辛くなる傭兵さまから離すために、わたくし達の前から傭兵さまを連れ去ったのでしょう?」
神官「……俺が、そんなお人よしに見えるのか……?」
姫「正直、見えません」
姫「ですが、傭兵さまが大好きだといった方です」
姫「自分の身を犠牲にしてまで、あなたを生かし続けようとした方です」
姫「そんな方が……本当に傭兵さまを不幸にしたいと思えるかと問われると……ちょっとおかしいなと、思っただけです」
神官「…………」
姫「最初、傭兵さまを連れ去られたときは、神官さまのことを酷い人だと思っていました」
姫「ですが、わたくしの大好きな傭兵さまが大好きと言った方が、本当に傭兵さまの不幸のために、こんなことをしたのかと、一年ほど経ってから疑問に思いました」
姫「それまでは本当、酷い人だと思い続けていましたが……」
姫「……たぶん、神官さまも最初はそうだったのでしょう」
姫「本当に、生きる希望を傭兵さまに殺されたときは、傭兵さまを恨んで、傭兵さまの不幸を望んでいたのだと思います」
姫「それが無ければきっと、傭兵さまの言っていた通り、本当に死んでいたのだと思います」
神官「……………………」
601:
姫「ですがわたくしと一緒で、年数が経って、ふと気付いたのではないですか?」
姫「彼は自分のために不幸のフリを続けてくれている、と」
姫「そして、彼が避けている本当の不幸にも気付いて……今まで救ってもらった恩に報いるためにも、その不幸から遠ざけてやらないと、と」
姫「そう……」
神官「…………んなわけ……ねぇだろうが……」
姫「……お互いがお互いのためを想って行動している」
姫「ですがそれは……本当の、互いのためにはなっていないと、そう思います」
姫「ちゃんとした仲直りをすべきだと……そう、思います」
姫「ですからこれは、提案です」
姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」
姫「そしてこれを……お二人の仲直りのキッカケに、してください」
神官「…………」
602:
神官「……ガキ」
神官「俺と、殴り合いの喧嘩をしよう」
姫「…………えっ?」
神官「殴り合いだ」
神官「武器の使用は禁止。魔法は……この建物の中なら使えないだろう」
神官「ルールはそんなところで、どうだ?」
姫「…………」
神官「お前が勝ったら、お前の条件を呑んでやる」
神官「俺が勝ったら……アイツを連れて行く」
神官「それで、どうだ?」
姫(……ああ、なるほど……)
姫「……いいでしょう。引き受けます」
神官「そうか……分かった」
姫(片腕が使えないのに……勝てるわけないじゃないですか。あなたが)
姫(……素直じゃないですね)
姫(ですが……構いませんよ)
姫(負けて、言うことを聞かされたという形を取らないと、踏ん切りがつかないと言うのなら……引き受けましょう)
神官「それじゃあ……始めるか」
姫「……はいっ」
姫(殴り合いの喧嘩なんて……生まれて初めてですが……勝ってあげましょう)
第四部・終了
603:
エピローグ
◇ ◇ ◇
 牢屋
◇ ◇ ◇
姫「傭兵さま……」
傭兵「ああ、お姫さま」
姫「すいません。犯罪者、という形で連行するしかなくて……」
傭兵「いえ、構いませんよ」
傭兵「それで、どうしました?」
姫「決着が、着きましたよ」
傭兵「……そうですか……」
姫「傭兵さまも神官さまも、この城に残ることになりました」
傭兵「っ! アイツが……!」
姫「えぇ」
傭兵「説得するとだけしか聞いてなかったけど……一体……どうやって……」
姫「ここで傭兵さまを苦しめるという話をしただけです」
姫「それで、納得していただけました」
604:
姫「これで傭兵さまも、遠慮なく城に仕えることになりますね」
傭兵「……そう、ですね……」
姫「……信頼されるのは、怖いですか?」
傭兵「…………」
姫「……大丈夫です。わたくしがちゃんと、支えますから」
姫「ただ……言ってくださいね?」
姫「本当に辛くなった時や……もう、信頼されても苦痛じゃなくなったら……」
姫(神官さまと、仲直りが出来たら……)
傭兵「……お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「お姫さまは、どうしてそこまでするんですか?」
傭兵「もう魔法でそこまでのことが出来るようになったんなら、無理に俺を雇う必要も無いでしょう?」
傭兵「俺なんて、お姫さまの足元にも及ばない強さです」
傭兵「隣に立ったところで、守れるほどの人間じゃない」
傭兵「それなのに……――」
姫「好きだからですよ」
傭兵「――……えっ?」
姫「わたくしが傭兵さまのこと、大好きだからです」
姫「ですから、傭兵さまが不幸になることであっても、自分の傍に置きたい」
姫「そう、独り善がりな想いで、ここまでのことをしました」
605:
姫「昔、五日間来てくれなかっただけで、男さまの代わりに傭兵さまのことを好きになったんじゃない、と思って安堵しました」
姫「だからこそ、傭兵さまを連れ出されそうになったとき、神官さまに戦いを挑みました」
姫「ですが、負けてしまって……傭兵さまは、本当に遠くに行ってしまいました」
姫「それから、何週間も塞ぎ込んでしまって……けれどもふと、副作用が一度も訪れていないことに気付きました」
姫「自分はまだ、やっぱり傭兵さまに出会えたことを後悔していないんだなと、その時自覚しました」
姫「そして、思ったのです」
姫「これから必死に修行をして、魔力も武術も磨き上げ、その過程をずっと続けることが出来たなら、自分は本当に傭兵さまのことが大好きだったんだと証明できるな、と」
姫「苦しい中でも、傭兵さまを取り戻すため、という目標だけで頑張れたのなら……辛い中でも、足掻き続けることが出来たのなら……それは確かな気持ちがあるのだろうと、そう思えました」
姫「もし本当は代わりとして見ていたのなら、そこまでのことは出来ないだろうと、そう……」
姫「……それから三年間、修行して、それまでの挫けそうな全てを、ぶち当たってきた壁を、その全てを傭兵さまのために頑張れて、自分はここまで来れました」
姫「……ですからわたくしは、自信を持って言えます」
姫「恥ずかしいですけれど……自分は、傭兵さまのことが大好きだと、そう……確かに言えるのです」
姫「ですから、もう一度言います」
姫「わたくしは傭兵さまのことが……大好きです」
606:
傭兵「そ……それは……――」
姫「いえ、今すぐ答えを言わなくても構いません」
傭兵「――……えっ……?」
姫「今はただ、辛い出来事を乗り越えることだけを考えてください」
姫「信頼されることの辛さを、克服してください」
姫「この告白だって、そのための試練だと思ってください」
姫「そして……克服してから改めて、考えてください」
姫「それで、構いません」
傭兵「…………」
姫「わたくしの言う“支える”とは、そういうことですから」
姫(それに……わたくしだけ告白して、女騎士さんが何も言っていないままなのは……平等じゃありませんから)
607:
姫「ただ……これだけは、言わせてください」
姫「わたくしはただ、あなたに守ってもらえる――姉を守ると誓った自分を守ってくれる……それが、とてつもなく嬉しかったのだ、と」
姫「だからその気持ちを、あなたにも与えてあげたいのです」
姫「あなたの過去を聞いて、わたくしがその時抱いた気持ちと同じものを、与えたいと思った」
姫「それこそが……あの時言った、支え合いの持論です」
姫「ですから、ちゃんと教えてくださいね?」
姫「不幸でなくなったら」
姫「不幸の中で生きていかないといけない今は、ちゃんと支えますけれど……もう、その必要がなくなったら……」
姫「その手を引っ張って、幸せに連れて行ってあげますからっ」
終わり
633:
この>>1からの>>607
すげえ!
乙です!
608:
乙〜〜〜〜!
610:
というわけで終わりです
中途半端ですか? 曖昧なままですよね
でもしょうがない
そもそもの予定では姫は○されて病んでたんだもの
それを癒していく傭兵の物語の予定だった
だから当初は傭兵と姫はちゃんとくっついたけど…なんかくっつけるところまで書けなかった
というか書いたら不自然かなと思っちゃった
第三部から路線変更したらこうなった
まぁでも満足です
第一部〜第二部

第三部〜第四部
でやってることが同じだけど気にしない
質問などがあれば明日にでも答えます
それでは本当
約一ヶ月半、こんな駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました
611:
乙〜♪
613:
乙〜
半年後くらいの更にエピローグがあってもいいんじゃないか、と思うのは我が侭だろうか?
神官が傭兵に対して、どれだけデレたのか気になって……
614:
おつでした 面白かった
確かにその後のおまけは欲しいかもしれない
616:
乙。面白かった。
617:
おつ
面白かった。とても面白かった
619:
乙!
本当に面白かった!
620:
復活が一般的になってしまったという世界の戦い方に、非常に興味を覚えた。
闘い方がより複雑化するだろうこの設定で、ヒマが出来たら戦闘(戦術?)重視のSSを
1本でも書いてもらえたら嬉しい。ま、ヒマなときにでも。
637:
返信
>>620さん
正直書けるほどの自信が無い
ただ設定的には、神官をどこに据えるかを重要視し、またいかにして敵の目を掻い潜り神官を無力化出来るのかを重点的に置いた戦いとなっている
戦争はほとんど起きず、起きるそのほとんどは暗殺や加護契約書の奪取のみ
戦争を仕掛けても、仕掛けた側が負けるのが必然となっている世界故
(戦争を仕掛けるということは、必然加護契約書を持った神官職が前線に出なければ、兵の補充度で負けてしまうが故)
(だからと神官職だけを下げていても、兵が少なくなった城に暗殺者が数人来られ、保管してある加護契約書を奪われてしまえば負けてしまうからである)
(この世界の魔法は基本的にかなりの高威力となっているので、人一人が地面と空が開いてある場所に立つだけで、実はかなりヤバイ。女騎士が神官に仕掛けなかった「何も無いところから突然刃を生やして攻撃」が、基本属性で当たり前のように行えることからも、分かってもらえると嬉しい)
というわけで、そんな密度のあるものを書ける自信が、自分には、無い!!
621:
確かに、主要キャラのその後の話を、後日談って感じで補足してほしい( ´∀`)
しかし、ホント面白かったよ、乙でした
624:

確かに後日談は欲しいな
632:
乙!いやあ、良い話だった。
久々に読みモノでワッフルしました。
635:

当初のルートも読んでみたいなーなんて
637:
>>635さん
当初のルートだと
姫はあのまま集団で○姦され、その途中で傭兵を含めた女騎士が現れて、壊滅させながらも姫を救出
姫の心には強い傷が残る
副作用を残しながらのそれを、傭兵が必死に傍に着き従って看病する
男性を怖くなった姫は彼のことを遠ざけ続ける
それでも自分の副作用のために毎日進んで死に続けてくれる彼に感謝はするようになる
それでもやっぱり男性が怖い
それでも傭兵はずっとずっと彼女と一緒にいて、彼女を支え続ける
ってな感じの話でした
本当に「子供を救うのは大人の役目」を地でいく傭兵を描く予定でした
…今にして思えば何が面白そうなのか分からんな…うん
そして後日談を望まれてる皆さん
とても嬉しいです
まさかそんな言葉をもらえるとは思ってもいませんでした
というわけで、明日にでも投下します
具体的にはこれから考えて仕事中も考えて、帰ってきてから必死に書き溜める形
とはいえあまり期待しないでね
本当数レスの予定だから
時間も無いし全く思いつかないし
そんなわけでまた明日
641:
後日談、期待してます
乙でした
650:
なんか無駄に期待値高くて困る数レスの後日談投下します
これで本当に終わり
651:
〜〜〜〜〜〜
 三ヵ月後
〜〜〜〜〜〜
神官「傭兵を楽にしてあげたい」
メイド「……はあ」
652:
神官「最近、どうも疲れすぎているように見えてな……」
神官「やはり、信頼が重過ぎるように思うんだ……」
メイド「…………」
神官「……なあ、どうしたら良いと思う?」
メイド「……それを私に聞きますか?」
神官「お前だから聞いてんだよ」
神官「書類受け取りに来たついでだし、女騎士には話せないし、あの姫なんてもっと話せない」
神官「となったら、俺が話せる中だと後はお前と神官長と宮廷魔法使いだけだろ?」
神官「だからって宮廷魔法使いは王の護衛で忙しいし……」
メイド「一般兵にも知り合いぐらいいるでしょう?」
神官「嫌味が過ぎるだろオイ……」
神官「こちとら二月で今の立場だぞ」
神官「傭兵とは違って満足に実力を披露したわけでも無いんだ」
神官「どっかの貴族が復活の儀の力を得て調子乗って上の立場に居ついてる」
神官「なんて噂されてるんだからよ」
神官「……貴族を倒してる時だって、割りと前線に立ってても俺のところまで敵がこねぇしな……」
神官「つうかここの兵が真面目過ぎんだよ」
神官「俺のことなんて放っておけばいいのにわざわざ守ってくれやがるから……これじゃあ馬鹿な貴族が自分の実力も知らず無謀に前線に立っていて守るのに苦労するって言われるだけじゃねぇか――」
神官「――って兵への愚痴を言いに来たんじゃねぇんだよっ!!」
メイド「……はぁ……」
653:
メイド「あのですね、私これでも公務で忙しいんですけれど?」
メイド「今もほら、書類を書いているの、見えません?」
神官「俺の目を見てくれてないのは分かる」
メイド「だったら愚痴に対しての一人突っ込みなんて見せに来ないでください」
神官「そんなつもりはねぇってこっちは!」
神官「割りと真剣にアイツのことを心配して――」
メイド「それなら尚のこと、そんなくだらないことを訊かないで下さい」
神官「――く、くだらないって……」
メイド「くだらないでしょう?」
メイド「だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか」
654:
神官さんデレッデレじゃないッスか
655:
神官「それが出来ないから相談してんだろうがよ〜……」
メイド「出来ないことでもしてください」
メイド「私にこれ以上仕事を増やさないで下さい」
メイド「以上、私から神官さまに送れるありがたいアドバイスです」
神官「くっ……!」
神官「……はあ〜あ……こりゃもう、城を出て行くしかねぇかなぁ……」
メイド「出て行きます?」
神官「え? いいの?」
メイド「ま、あなたは出て行かないでしょうけれど」
メイド「もし本当に出て行く気なら、私に話をしないでしょう?」
神官「……ごもっともで」
メイド「それに、あなたも分かっているはずですよ」
メイド「これだけ恵まれた仲直りの機会をフイにして、これから先仲直りできる機会なんてないってことぐらい」
神官「…………」
656:
メイド「よしっ、と」
メイド「終わりましたよ」
神官「……おう」
メイド「……はぁ……そう落ち込まないで下さい」
メイド「傭兵さまのことが心配なのは分かりますけれど、私の妹が彼をしっかりと支えてくれてるでしょう?」
メイド「それでも崩れそうだって不安なら、本当……あなたがどうにかするしかないんですよ?」
神官「……分かってるよ」
メイド「……ま、二人きりになれる機会を作るしかないですね」
メイド「もしくは、下手にかしこまらないように謝るか、ですよ」
神官「下手にかしこまらずに……」
メイド「まずは、気軽にでも良いんです」
メイド「そうするだけで傭兵さまも、きっと安心してくれます」
メイド「それだけで十分、助かるはずですから」
657:
ガチャ
キィ…
メイド「おまたせしました、女騎士さん」
女騎士「ああ」
神官「…………」
女騎士「……なんだ? なんか書類持って来た時より暗くなってないか?」
メイド「さあ? なんでしょうね」
メイド「それではあの子のところに行きましょう」
…パタン
カツカツカツ…
女騎士「あ、ああ……」
神官「…………」
658:
女騎士「……おいお前、どうしたんだ?」
神官「……いや、別に」
女騎士「別にじゃないだろ」
女騎士「ボクを追い出してまでメイドさんに相談事を持ち掛けたんだ」
女騎士「何を悩んでるんだ? ボクにも話してみろよ」
神官「……お前に話したら、傭兵の耳にも入るだろ?」
神官「なんのためにお前を追い出したのか考えろよ……」
女騎士「はあ!? せっかくこっちは相談に乗ってやろうと気を――」
女騎士「――って、はは〜ん……なるほどなるほど」
女騎士「傭兵絡みのことか」
神官「っ! なんでっ……!」
女騎士「いや、分からない方が難しいっていうか……普通に言ってるようなもんだろ、アレは」
女騎士「お前、今自分が思ってるより冷静じゃないぞ」
神官「くっ……」
女騎士「でも……ああ……なるほど、ね」
神官「……なんだ?」
女騎士「ま、確かにボク達が傭兵に頼っている部分が多いのは確かで、その信頼が重圧になって彼を苦しめてるのも確かだからね」
女騎士「それがイヤなんだろ?」
神官「なっ……!」
659:
神官「ど、どうしてそれをっ!?」
女騎士「いや、それも考えなくても分かるだろ」
女騎士「お前と傭兵のトラブルなんて今のところ、城に正規雇用される前からズルズルひきずってるものしかないだろ?」
女騎士「それ以外がもしあるってんなら、それはまさしくめでたい出来事だよ」
神官「…………」
…カツン
メイド「ではお二人とも、私は少しあの子と話してきますので」
女騎士「ん? 誤魔化すためにボクも入らなくていいのか?」
メイド「外の警備を任せます。中に傭兵さまもいらっしゃいますし、次は執務室で用事がありますので」
メイド「それを呼びに来た、という形ですし」
女騎士「ああ、なるほど。了解」
女騎士「ま、中は傭兵も姫さんもいるからな。大丈夫か」
メイド「そうですね。おそらくこの城の中で一番の安全地帯でしょうし」
メイド「では」
コンコン
メイド「失礼致します」
ガチャ
メイド「執務室で王がお呼びです。お支度のほどお願いいたします、姫様」
キィ…
…パタン
神官「…………」
女騎士「…………」
神官「……………………で」
女騎士「で?」
神官「どうすれば良いと思う?」
660:
女騎士「どうすればって……そんなもの、早く仲直りすれば良いだけじゃない」
神官「それが出来たらこんなに悩んでねぇっての……」
女騎士「なに? 謝れないの?」
神官「謝れないだろ……あんなに重く受け止めて、今まで必死に俺のためにと犠牲になってくれてたんだ……」
神官「そんな軽い言葉だけで許してもらおうなんて、図々しいだろ……」
女騎士「そうかな?」
神官「は?」
女騎士「傭兵なら、許してくれると思うけど」
神官「なんだ? そりゃ」
神官「なんの根拠があって言ってんだ?」
女騎士「根拠……根拠ねぇ……」
女騎士「ま、なんとなく、かな」
神官「なんとなく……」
女騎士「そ。なんとなく」
女騎士「なんとなく傭兵なら、謝るだけでお前のことを許しそうな気がする」
女騎士「だって、幼馴染で、大親友だったんでしょ?」
神官「それは……昔の話だ」
女騎士「傭兵は、そうは思ってないよ。たぶん」
神官「なんとなくの次はたぶんかよ……」
661:
女騎士「でも、もしお前の言うとおり、傭兵が幼馴染も大親友も昔の関係だって思ってるんなら、お前に付き添ってこの城には勤めてない」
女騎士「アイツだって気付いてるよ」
女騎士「この場が、お前との仲直りの場だってね」
神官「…………」
女騎士「それにさ……謝った後、それっきりって訳でも無いだろうしさ」
女騎士「お前たち二人は、ずっとこの城にいるんだ」
女騎士「だからこの城で、すれ違っていた時間を取り戻せばいい」
女騎士「それがたぶん傭兵にとっても、一番の嬉しい贈り物のはずだよ」
神官「……………………」
女騎士「ま、男らしく酒にでも誘って、その流れで謝ればいいだろ」
神官「……傭兵、酒飲めないんだよ」
女騎士「ああ〜……そっか……そういえばそうだったな……」
女騎士「ボクが誘っても全く来てくれなかったし」
神官「だからキッカケがな……」
女騎士「キッカケね……」
女騎士「だったらもう、アレしかない」
神官「アレ?」
女騎士「出てきたら腕でも引っ張って、人気の無いところに無理矢理連れて行け」
662:
〜〜〜〜〜〜
ガチャ
メイド「お待たせいたしました」
女騎士「で、これからどこに行くの?」
姫「とりあえずは、父上の元へ」
姫「そこでこの貴族の処遇を決めます」
姫「決断されるのでしたら、神官長補佐の神官さまも来てくれますし、その書類も出来ましたので、その辺も大丈夫でしょう」
ガシッ
傭兵「え?」
神官「ちょっと来い」
傭兵「えっ? ちょっ、神官!?」
神官「女騎士! 少し二人のことを頼むっ!」
女騎士「ああ! 頼まれたよっ!!」
傭兵「ちょっ、なんだよ、おい!」
神官「うるせえ! いいから大人しくついてこりゃ良いんだよ!」
663:
姫「…………」
メイド「……ふぅ〜ん……」
メイド「やっと仲直りをする、ということですか……」
姫「もしかして女騎士さん、焚き付けたんですか?」
女騎士「まさか」
女騎士「ただ方法に悩んでたみたいだから、フォローしてやるから無理矢理連れ出せ、って話しただけ」
姫「なるほど……」
メイド「……まぁ、これで傭兵さまも、少し気が楽になると良いのですけれど……」
女騎士「ま、大丈夫でしょ」
664:
女騎士「にしても、これでようやく傭兵にアプローチ出来るなぁ〜……」
姫「えっ!? アレだけのことをしておいて、まだしてないつもりだったんですか!?」
女騎士「いや、してないって」
女騎士「だってまだ結婚すら申し込んで無いし」
姫「ちょっ、ちょっと女騎士さん……!」
姫「それはいくらなんでも話が飛びすぎではないですか……?」
女騎士「いやいや姫さん」
女騎士「あなたこそちょっとノンビリしすぎでしょう」
女騎士「え? もしかしてアレですか?」
女騎士「ちょっと自分専属の護衛に出来たからって、安心に胡坐かいてました?」
姫「わたくしは! 傭兵さまの負担にならぬように配慮していただけです!」
女騎士「ほほ〜ん。自分の消極性を傭兵のせいにすると」
女騎士「だからまぁだなんです。本当」
姫「ぐぬぬ……」
姫「この行き遅れが!」
女騎士「はぁっ!? まだ二十一だし! この国の成人の儀がちょっと早すぎるだけだし!」
女騎士「だいたい若けりゃいいってもんじゃ――」
メイド「そこまでです、お二方」
メイド「良いですか? あの二人が今から仲直りしようとも、今手をつけている仕事は勝手に無くなってはくれないんですからね?」
メイド「まずは、これを片付けてください」
メイド「というか、廊下ということを忘れて大声上げ過ぎです」
メイド「もうちょっとレディとしての慎みを――」
女騎士「……神官がフリーだからって他人事みたいに……」
メイド「――あん?」
女騎士「いえ別に」
665:
姫「でも神官さまって、確実に死んだ幼馴染のこと好きなままですよね?」
女騎士「あ〜、確かに」
姫「アレを超えるのは……大変そうですね」
女騎士「死んだ人は高いよ、本当」
メイド「……あなた方が何を言っているのか分かりませんね」
女騎士「……そういえば宮廷魔法使いさんが言ってたんですが」
女騎士「メイドさん、神官さまのような人がタイプだと仰っていたとか」
メイド「…………なんのことやら」
姫「あ、わたくしは神官長に聞きました」
姫「死んでも一途に思ってくれるような人と結婚したいと話していたそうな」
メイド「……………………」
スタスタスタ…
女騎士「あ、無視っ!?」
メイド「これ以上の無駄話に付き合っていられないだけですよ」
メイド「姫様も、王を待たせているのをお忘れですか?」
メイド「早く移動しますよ」
666:
◇ ◇ ◇
訓練所・倉庫
◇ ◇ ◇
神官「……よしっ、ここなら大丈夫か」
傭兵「……なんだ? こんなところに呼び出して」
神官「あ〜……その、だな……」
傭兵「仕事があるんだ……分かるだろ?」
神官「分かるが……まぁ聞けよ」
傭兵「……なんだ?」
神官「その……なんだ……」
神官(くそっ……! 改めると、やっぱり辛い……!)
神官(すっげぇ言い辛い……!)
神官(今まで傭兵を苦しめてたのが分かるだけに……それ以上に――いや、それよりは下だろうけれど、それでも苦しさが、胸の中に広がってきやがる……!)
神官(なんだよ……謝るって、こんなに辛いのかよ……!)
神官(軽くすら……言葉に、できねぇ……!)
神官(ここは誤魔化して一旦……――)
667:
――だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか――
神官(――……いや、違う。そうじゃない)
神官(それ“だけ”のことが出来ないで、どうするんだ……俺は……!)
神官(これから先……また……昔みたいに……傭兵と仲良く、なりたかったら……!)
神官(せめてこれぐらい出来ないと、昔みたいにコイツと肩を並べることなんて、出来ねぇじゃねぇか……っ!!)
神官「……傭兵!」
傭兵「……ん?」
神官「……すまなかった」
668:
――今まで、お前一人に、責任を押し付け過ぎた――
――だから……ありがとう――
――俺を、支えてくれて――
――あの子の願いを、聞いてくれて――
――だからこれからは……俺にも、持たせてくれ――
――あの子がお前に持たせた……その願いを――
――好きなあの子の、お願いを……――
669:
 〜〜〜〜〜〜
さらに、三ヵ月後
 〜〜〜〜〜〜
姫「……傭兵さまと神官さまの二人が、ホ○かと思われるほど仲が良くなってしまった……」
女騎士「どうしたら良いと思うっ!?」
メイド「……さあ」
670:
姫「さあって!」
女騎士「さあって!」
メイド「仲直り出来たんですから、良いじゃないですか」
女騎士「そうなんだけど……そうなんだけど……!」
姫「ですがさすがに休みを合わせてお二人で出かけられるなんて……!」
女騎士「こりゃもうカップルだよ本当っ!」
女騎士「ボクだって告白したのになんか困った表情浮かべられたままだし!」
女騎士「っていうか姫さんに邪魔されたしっ!」
姫「わたくしだって返事を聞いてなかったんですから当然ですよ!」
姫「何勝手に一人だけ返事もらおうとしてるんですか! 図々しいですよっ!!」
ギャアギャアギャア…!
メイド「……はぁ……」
メイド「騒がしくするなら、せめて私の執務室外でしてくれませんかねぇ……」
メイド「まぁ、王女であるあなたがココいることに違和感は無いのですが……ちょっと五月蝿過ぎますよ」
姫「傭兵さまが神官さまと出かけられて、わたくしはここで女騎士さんに守ってもらわないといけないんですよっ!」
女騎士「ボクだって二人を守るために仕方なくここにいるだけだって!」
メイド「ああ……もう、そうでしたね。すいません」
メイド「ですがせめて、もう少しお静かにお願いします」
メイド(まあおそらく、あの二人は私達に対して、お礼の品でも買いに行ったのでしょうが……)
ギャアギャアギャア…!
メイド(……今お二人に言ったところで、無駄でしょうね……)
メイド(それに、あの二人が今まで一緒の休みが取れないぐらい立て込んでいて、あの仲直りから期間が開いていた以上、気付けという方が難しいですか……)
メイド(進んで前線に立っていてさらに忙しかった二人なら、尚更でしょう)
メイド(というか二人とも、嬉し過ぎてテンションがおかしいんですよ……)
メイド(自分のことのように、二人が仲良くなったのを喜んで……肩を並べて戦ってる姿に喜んで……)
メイド(ですがまあ……悪い気は、しませんね)
メイド(私だってきっと、その姿を見れたら……同じぐらい高揚していたでしょうしね……)
女騎士「だいたい姫さんは――」
姫「それでしたら女騎士だって――」
メイド(それにしても……)
メイド(死ぬだけの簡単なお仕事……では、無くなってしまいましたね。傭兵さん)
メイド(あなたにはこれからも、まだまだ頑張っていただかないと……ね)
671:
終わり
「終わり」の一行が入らないぐらい改行しすぎた
急ごしらえだから矛盾出てるかも…まぁ仕方ないよね
ということで今度こそ終わり
傭兵はこのまま三角関係で苦しめばいいよ
この年齢になってやっと青春が遅れてきたと思えばそれで
672:
おつ
673:

うん、デレたな
674:
乙でした。面白かった
677:
乙でした!
68

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