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傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」


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1:
◇ ◇ ◇
傭兵ギルド
◇ ◇ ◇
傭兵「なんて依頼文だ……興味を惹かれるぜ。えっと内容は、っと……」
傭兵「……っ! おい……なんだこの高待遇はっ……!」
傭兵「給料も申し分ないし、働き次第では一週間連続の休みももらえる……」
傭兵「なにより正規登用してそのまま働かしてくれる……だと……!?」
傭兵「よしっ! おじさん! この依頼を受領してくれっ!」
元スレ
SS報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363601723/
 
2:
ギルド長「あ〜……これな。本当にいいのか?」
傭兵「ん? 俺が受けたらダメな理由でもあるのか? ここには『教会の加護さえ受けてればそれで良い』としか書いてないけど」
ギルド長「いや、そうじゃねぇんだが……もう十一人ほど途中で辞めちまってるんだよ、この依頼」
傭兵「俺は大丈夫だって」
ギルド長「そう言って辞めてった奴らが八人だけどな……まあ、良いか。向こうも辞めてもらう前提だって言ってたしな」
傭兵「え? 向こうもそう言ってんの……? まさかそんなにキツいとは……」
ギルド長「止めとくか?」
傭兵「いや、やるけどね」
ギルド長「物好きだな……まあ分かったよ。オレは一応止めたからな」
傭兵「俺が最初の長続きする人になるかと思うとワクワクするぜ……」
ギルド長「続けばな」
ギルド長「それじゃあ、向こうに連絡しておいてやるよ」
ギルド長「えっと、事前の連絡だと……おっ、ちょうど明後日、勤務先に直接面接に行けるぜ。どうする?」
傭兵「んじゃそれで」
ギルド長「分かったよ」
傭兵「っていうか、勤務先ってどこ?」
ギルド長「お前……ちゃんと読めよ……この国の城だよ、お・し・ろ」
傭兵「ほ〜……お城ねぇ〜……」
傭兵「…………」
傭兵「……んっ!?」
4:
〜〜〜〜〜〜
  翌々日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  城前
◇ ◇ ◇
傭兵(まさか……この国からの依頼とは思いもしなかった……)
傭兵(っていうか、国直々に「死んでくれ」って依頼はどうなんだ……?)
傭兵(まあ、実際に死ぬことは無いんだけど……)
傭兵(それでも死ぬほど辛いことをさせられることに変わりはないわけで……)
傭兵(……なにをさせられるんだ……? こうやって城の前に来て今更ながらに不安になってきた……)
受付嬢「お待たせいたしました」
傭兵「はいっ!?」
受付嬢「?」
傭兵(しまった……声が上擦った……)
傭兵「……ごほん……すいません。えと……」
受付嬢「あ、はい。本日、傭兵ギルドからの面接があると確認が取れましたので。担当者がいますお部屋にご案内致します」
傭兵「あ、それはすいません。ありがとうございます」
受付嬢「では、私についてきて下さい」
5:
門番兵達「「ご苦労様です」」
受け付け嬢「はい。ご苦労様です」ニコッ
傭兵(門番の詰め所のすぐ後ろに受け付け用の部屋、か……)
傭兵(城の中に簡単に入らせてもらえないところを見ると、警備は厳重な方なのか……?)
傭兵(魔物はこの大陸からいなくなったのに、こうなってるところをみると……警戒しているのは人、か……)
傭兵(……死ぬ依頼を出すのと何か関係があるのかね……)
6:
◇ ◇ ◇
  城内
◇ ◇ ◇
コツコツコツ…
傭兵(ほ〜……やっぱ、城の中はキレイだな……)
傭兵(内装も凝ってるし、靴越しの絨毯の感触がハンパなく柔い)
傭兵(……柔いって表現しか出来ない自分の育ちの悪さよな)
受付嬢「こちらになります」
傭兵「えっ、あ、はい。どうも」
コンコン
受付嬢「失礼します」
???「どうぞ」
ガチャ
受付嬢「面接をお受けになる傭兵さまをお連れしました」
???「ありがとうございます。受付嬢さんは、お仕事に戻って頂いて構いませんよ」
受付嬢「では、失礼致します」
受付嬢「どうぞ、傭兵さん」
傭兵「あ、はい。失礼します」
パタン
7:
???「では、早面接を行います。とは言いましても、傭兵ギルドの紹介で来られた以上、特別何かを訊ねることはありませんがね」
傭兵「えっ……と……」
???「どうかされましたか?」
傭兵「いえ、その……失礼ですけど、メイドさん、ですよね?」
メイド「? ああ……面接をするのがただのメイドとはどういうことなのか、といったところですか」
傭兵「まあ……」
メイド「ご安心ください。ただの趣味ですので」
傭兵「趣味……?」
メイド「はい。趣味です」
傭兵「…………」
メイド「…………」
傭兵「…………」
メイド「……では他に質問は無いようですので、早移りましょう」
傭兵(え? あれ? スルー?? もしかしてボケか何かだったのか??)
8:
メイド「まず確認からさせていただきますが……あなた、その腰に差してある二本の剣で戦えますか?」
傭兵「まあ、はい」
メイド「傭兵ギルドからの紹介ですから当然ですよね……なら結構です」
傭兵「えっ? それだけですか?」
メイド「はい。それだけで十分ですよ」
傭兵(え〜……? そんなもんで良いのか……?)
メイド「では、教会の加護を受けていると証明できる書面を見せていただけますか?」
傭兵「あ、すいません。俺、ちょっと加護証明書ってのを持ってなくて……」
メイド「持っていない……」
傭兵「あの……もしかして、ダメですか……?」
メイド「いえ……では、服を脱いで、胸にある刻印を見せていただけますか?」
メイド「それで結構ですよ」
傭兵「では、失礼して」
10:
メイド「……やはり、ちゃんと鍛えているのですね」
傭兵「え?」
メイド「触ってもよろしいですか?」
傭兵「えと……なんのために?」
メイド「刻印が本物かどうかの確認ですよ」
傭兵「まぁ……」
傭兵(なんか胡散臭いけど……)
傭兵「……構いませんよ」
メイド「では、失礼して」サワッ
傭兵「っ……!」
メイド「おぉ〜……ちゃんと鍛えていらっしゃいますね……」グッ、グッ
傭兵「その……もういいですか?」
メイド「はい。構いませんよ」
傭兵「…………」
メイド「……あっ」
傭兵「え?」
メイド「……いえ、別に」
メイド「刻印を確認しませんでしたが……まあ良いでしょう」ボソッ
傭兵「いやものっそい聞こえてますからね」
11:
メイド「え〜……ごほん。では、しっかりと加護を受けているのも分かりましたので――」
傭兵(なんか二度手間だったな……もうすでにちょっと疲れてるんだが……)
メイド「――早、あなたに何をしてもらうのかの説明に移りましょう」
傭兵「はい。お願いします」
メイド「……少し、落ち着かれましたね」
傭兵「え?」
メイド「なにやら、緊張していらっしゃったようでしたので。もう少し肩の力を抜いてもらえないかと思っていたのです」
傭兵「あ……」
傭兵(もしかしてこの人は……俺が緊張してるのを知ってわざわざあんなことを――)
メイド「とでも言っておけば良い話しっぽくなるでしょう」ボソッ
傭兵「――そうして考えを口に出すの、止めた方が良いと思いますよ」
メイド「いやですね。冗談ですよ」
傭兵(……もう何がホントで何がウソか分かんなくなってきたな……)
12:
メイド「で、何をしてもらうのか、ですけれど……」
メイド「あなたには、ある人と戦ってもらいたいのです」
傭兵「ある人?」
メイド「その人が誰かは詳しく説明できないのですが……」
メイド「ただその人も加護を受けているので殺してしまっても大丈夫、だということです」
傭兵「はあ……」
傭兵(わざわざ城に招くってことは……どこかの貴族か誰かか……?)
傭兵(……もしかして、貴族殺しの罪でも着せられるか……? って、加護を受けてるって話だからそれは無いか……)
メイド「殺して欲しい理由はただ一つ。その人に加護の副作用が出ているからです」
傭兵「副作用……」
メイド「あなたも加護を受けた人なら、一度説明は受けていらっしゃると思いますが……その副作用とは、人によって様々です」
傭兵(俺は一度もなったことがないから分からんが……確か、加護を受けたことを後悔したり恨んだりして、長い間一度も死なないと発症するんだったか……)
メイド「『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』……それが、その殺して欲しい人の副作用です」
傭兵「ああ……だから『死ぬだけの簡単なお仕事です』ってこと」
メイド「そういうことです」
13:
ああ、死んでも生き返るのか
20:
>>13 イメージとしてはドラ○エ。全滅させられたら教会に戻される感じで
14:
傭兵「でもそれなら、どうして戦って欲しいってことになるんです?」
傭兵「要はワザと、一日に一回殺されれば良いんでしょう?」
メイド「それはそうなのですが、出来ればあの人を一度殺して欲しいのです」
メイド「そうすればしばらくの間、副作用による殺人衝動は収まってくれますので」
傭兵「なるほどね……」
傭兵(つまり、殺されても殺してくれても、どちらでも構わない、と……)
傭兵(雇われてる俺が殺されれば、その人は一日正常で――)
傭兵(――俺がその人を殺せば、約十日ほどもその人は正常でいてくれる、と……)
メイド「と、言いますか」
傭兵「はい?」
メイド「あの人を殺して、あの人がしばらく正常でいてくれている間しか、あなたのお休みはありませんよ?」
傭兵「えっ!? あっ、最長一週間のお休みってそういうこと!?」
メイド「はい」
傭兵「ってことは、殺されている間は休み無しってことか……」
メイド「そういうことです」
メイド「ですが依頼書にも記載した通り、お休みの間もちゃんとお給金は発生いたします」
メイド「ですのでぶっちゃけ、そのあたりでお休みに関してはイーブンだとお考えいただければ幸いです」
傭兵「っつーことはつまり、その人に勝ち続けるのなら月に三回ほど戦うだけであの依頼料が毎月入ると、そういうことですか」
メイド「そういうことです」
傭兵(なるほど……そういうカラクリだったのか……)
傭兵(……まぁこれだけの高待遇ならある意味納得か……)
傭兵(それに毎日休み無しで殺されたとしても、普通に働くほどの給料はあるしな……)
15:
メイド「他は……そうですね。特に説明しておくことも無いでしょう」
メイド「何か質問はありますか?」
傭兵「いや、特にはないです」
傭兵「強いて挙げれば、どこで・どれぐらいの広さで戦うのかを教えて欲しいぐらいです」
メイド「それはこれからご案内致します」
メイド「というか、出来れば今日からでもお願いしたいのですが」
傭兵「早今日から、ですか……」
傭兵(ふむ……まあ、相手の実力を測るって意味でも、構わない、か……)
傭兵「良いですよ、大丈夫です」
メイド「それは良かったです」
メイド「ではこちらを」スッ
傭兵「これは?」
メイド「通行証みたいなものです」
メイド「本日は面接があったのでお昼からにしていただきましたが、明日からは依頼書通り、城での受け付けが始まって〜正午の鐘がなるまでに来ていただきます」
メイド「ですので、その通行証を見せていただければ、門番はあなたを通してくれますよ」
傭兵「……いきなりこんなの渡して……危なくないですか?」
メイド「ご安心を」
メイド「それで行けるのは、兵の訓練施設だけです」
傭兵「は?」
メイド「これから一度入り口に向かい、そこから一本道で訓練所へと向かう道を教えます」
メイド「その通行証はその道へ向かうのでしか使えませんので」
メイド「もし城内に入ろうものなら、すぐさま城前にいた兵に斬り捨てられると思っておいてください」
傭兵(なんでそんなことを笑顔で言えるのか……)
16:
コツコツコツ…
傭兵「…………」
メイド「…………」
傭兵(お昼までには、か……依頼書を見た時は特に気にもならなかったが……話を聞いてから改めて考えると……)
傭兵(それってつまり、例の「その人」に“極力普通に過ごせる時間を与えたい”、ってことだよな……)
傭兵(倒して欲しい、ってのもつまり、そういうことだろうし……)
傭兵(……やっぱ、貴族様とかなのかね……)
メイド「そういえば」
傭兵「はい?」
メイド「傭兵さまは、どちらにお住まいですか?」
傭兵「あ〜……恥ずかしながら、西の下町です」
メイド「なるほど……」
傭兵「すいません……柄が悪い場所で」
メイド「? どうして謝るのですか?」
傭兵「えっ?」
メイド「図々しくもあなたがその住んでいる場所の柄を悪くしているとでも?」
傭兵「いえ、そんなつもりは……」
メイド「でしたら謝らなくても良いじゃないですか」
傭兵「あ、ああ……まぁ、そう……なの、かな……?」
傭兵(俺が言うのもなんか変な感じだけど……)
メイド「それよりも、その場所からだと結構城から遠いですね」
メイド「朝は苦労してしまうかもしれません」
傭兵(……なんか、変なところで純粋だな……この人……)
傭兵(ま、このメイドさんも育ちが良いってことか……)
17:
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
メイド「では、道は覚えていただけましたか?」
傭兵「はい。正面から横に逸れて……ってな具合ですよね」
メイド「それなら結構です」
傭兵「……で、もしかしてこの目の前の建物が……」
メイド「はい。あなたに倒してもらいたい人がいる場所です」
傭兵(訓練場の片隅……円形に建てられた倉庫のような、石造りの建物)
傭兵(広さは……結構あるな。障害物の無い場所での戦いになるか……?)
傭兵(それとも中は結構複雑になってたりとか……?)
メイド「ここは、兵達の訓練用道具を仕舞う倉庫を改装した場所です」
メイド「中の武器も抜いて別の場所に移動させておりますので、かなり広く戦えると思いますよ」
傭兵「あ、どうも」
傭兵(倉庫の流用……ってことは、二階部分もあるか……?)
傭兵(……いや、そこまでの高さは無い、か……)
メイド「本日はこの中で戦った後、そのまま教会で復活させて頂ければ、そのままご自宅に帰ってください」
メイド「また城に戻ってくる必要はありませんよ」
傭兵「分かりました」
メイド「もちろん、明日以降も同様です。戦い終えればそのままご自由にしてくださって構いません」
メイド「では、ご武運を」
18:
ギィ…
ガラガラガラ…
傭兵(ほぉ……真っ暗、ってわけじゃないのか)
傭兵(ちゃんと壁に沿うように灯ったランプがかけられてるからか、十二分に明るい)
コツ…
傭兵(……って、ん? 中には誰も――)
…コツ―
―ザクッ…
19:
おらワクワクしてきたぞ
23:
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵「」パチ
神官「お、目ぇ覚めたか?」
傭兵「ここは……教会……?」
神官「ご名答」
傭兵「…………」
傭兵(……あ〜……不意を衝かれて一撃で殺されたのか……)
傭兵(あのザクッとした感触の後の力の抜け方……間違いなく後ろから首を切られた)
傭兵(……あのメイドが……? ……いやいや、さすがにあの人が動けば気配で気付く)
傭兵(ってことは、あれか。入ってすぐの入り口上で待機してたってことか……)
傭兵(油断してたつもりはないんだけど……まさか一撃とはなぁ……)
24:
神官「にしても久しぶりだな。お前が殺されるのは」
傭兵「新しい仕事を請けたんだよ」
神官「なんだ? 東の大陸にまで行ってたのか?」
傭兵「この街の中に決まってんだろ」
神官「はっ、オマエも相当怠けてんだな。こんな平和ボケした街で殺されるなんてよ」
傭兵「……返す言葉もねぇな、本当」
神官「で、どんな仕事だったんだ? 裏組織の一つや二つをぶっ潰せとか、そういうのか?」
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事だよ」
神官「は……? ……なんじゃそりゃ?」
傭兵「そのまんまの意味だよ」
傭兵「っつーことで、これからほとんど毎日、お前に蘇らせてもらうことになると思うわ」
神官「ふ〜ん……ま、よくは分かんねぇが……お前が不幸になってんなら、それで良いや」
25:
 “加護”を受けるとは、不死になることと同義だ。
 寿命や病気による死は避けられぬが、怪我や毒による死は避けることが出来るようになる。
 その癖必要なものは教会への多大な寄付のみだというのだから驚きだ。
 あとはただ契約の儀を交わせば終わりとなる。
 契約した教会が特定の祈りを捧げれば、契約を交わし死んでしまった人物全員が、教会へと「生き返る一歩手前」の状態で転送される。
 仕組みは分からない。
 曰く、神の奇跡だそうだ。
 あとはその「生き返る一歩手前」の肉体に向け、また別の祈りを捧げれば、その人間は蘇るということだ。
 この転送と復活の祈りは、どこの教会でも一日に何度か、定期的に捧げられている。
 だから人間は、金さえあればほぼ死なないでいられるようになったというこだ。
26:
 だがもちろん、欠点はある。
 まず一つ目は契約の場所。
 契約の際発行される契約書、これを使えば一度だけ、復活させてもらえる教会を変えることが出来る。
 だが、あくまで一度だけだ。
 変えたり、変えずともその契約書を失くしてしまった場合、同じ教会でしか生き返れなくなってしまう。
 ……もっとも、神官と親密な関係であるのならこの限りではないのだが……。
 そして二つ目に、一度この加護を受けると、解除が出来なくなる。
 つまり天寿を全うするまでは死ねないということだ。
 あらゆる薬物も毒とみなされてしまう以上、後戻りが出来なくなるということになる。
 それが例え病気であろうとも、死んで生き返れば元通りというわけだ。
 ……ま、例外はあるにはあるが……。
 そして最後に……副作用。
 コレは最早言うまでも無い。
 俺が今依頼を請けていることそのままだ。
 しかし逆に考えれば、この三つだけの欠点と大量のお金だけで、死なないでいられるということでもある。
 魔物に殺されても生き返ることが出来、人間に恨まれ刺されても助かり、毒を盛られ苦しんでも死ぬことは無い身体になれるということ。
 だからか……傭兵業を営む者や冒険者といった人、東の大陸の魔物を駆逐するために派遣される「勇者候補者」のそのほぼ全てが、加護を受けている。
27:
〜〜〜〜〜〜
 翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(昨日は不意打ちでやられたからな……)スッ
傭兵(今回は、最初っから剣を抜いて入るとするか)
傭兵「…………」
傭兵(昨日と違って鍵はとっくに外されてる……準備は万端ってことか)
傭兵「……では、と」
ガラガラガラ…
28:
傭兵「……へぇ」
傭兵(今日はちゃんと、不意打ちせずにいてくれるってか)
コツ、コツ、コツ…
傭兵(反対側の壁際……アレは……ベッド、か……?)
傭兵(……なるほど……寝て起きれば副作用の状態になるから、寝るときは必然この部屋になってしまうか)
…ガラガラガラ…ダン
???「…………」
傭兵(もしかして……副作用を受けてるのは、女の子なのか……?)
傭兵(あんなに小顔で小柄で可愛いのに男、ってことはないよな……?)
傭兵(……って、そうやって油断したらダメだ)
傭兵(昨日はアイツに不意打ちで殺されたんだ)
傭兵(見かけでの判断をしてはいけない)
29:
???「…………」スッ
傭兵(一般的な長さの剣……この国の正式採用剣だろう。確か門番の兵も腰にぶら下げてた)
傭兵(あれだけ小柄だと扱い辛そうなものだが……)
傭兵「…………」スッ
傭兵(なんにせよ、リーチの差を埋められるかどうか……)
傭兵(俺の剣はあの一般的な剣よりも短く、短剣よりは長い中途半端なもの)
傭兵(予備の一振りを使っての二刀流、なんて器用な真似が出来ない以上、不利なことに変わりは無い)
???「…………」
コツコツコツ…
ギャリギャリギャリ…!
???「…………」
傭兵(切っ先を引きずり歩いてくるその瞳から、感情は読み取れない……)
傭兵(……目線もどこに向いてるか分からないな……これじゃあ攻撃の軌道が読み辛くなるな……)
傭兵(……まぁ、仕方が無いか。本人も副作用のせいで動いてるだけだしな)
傭兵(ったく……見れば見るほど、考えれば考えるほど不利でしかないな……)
傭兵「だがまぁ、とりあえずは……」
傭兵(今日はその実力……不意打ちじゃなく正面からぶつかった場合のものを、測らせてもらおうか……!)
35:
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
神官「よぉ。昨日言ってた通り、また来たな」
傭兵「…………」
傭兵(昨日不意を衝かれた時点で強いのは分かってたが……まさかここまでとはな……)
傭兵(あの子の実力を測るために手加減をしていたが……それを差っ引いても強かった)
傭兵(……でも、圧倒されるほどじゃなかった)
傭兵(明日、本気を出したら……勝てる……!)
神官「おいこら。無視してんじゃねぇぞオイ」
36:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
三回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵(あっれ〜? 昨日の目測だと本気出せたら勝てると思ったのになぁ〜……)
傭兵(まさかまた負けるとは……)
傭兵(……いやでも、戦い方に工夫を凝らせば勝てる)
傭兵(明日こそは……!)
37:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
四回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵(おかしい……あっれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????)
傭兵(あそこでの攻撃の隙が無くなってた……?)
傭兵(なんか、また強くなってなかったか……? あの子?)
傭兵(いやでも、攻撃に重きを置いてるのが分かった)
傭兵(アレはたぶん、リズムを掴めば掴むほど強くなるタイプだ)
傭兵(だったらこっちは防御に重きを置いて……隙を見つけて、リズムを狂わせる一撃で、そのまま畳み掛ければなんとか……)
傭兵(……よしっ!)
38:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
五回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵(つえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)
傭兵(アレ絶対強くなってる! なんか段々と手ごわくなってきてるんですけどっ!?)
傭兵(やっぱアレか! 成長率かっ!!)
傭兵(あれぐらいの年齢だとむしろこっちの小手先なんてすぐに適応してくると!)
傭兵(自分が作ってた隙なんてすぐさま塗り替えてしまうとっ!)
傭兵(そういうことですかっ!!)
傭兵(……ちっ……仕方が無い)
傭兵(段々と弱点が無くなっていってるっていっても、また次の弱点は出てきてる……)
傭兵(それを衝き続けて……最終的には適応出来ない隙を作り出して……打倒する!!)
39:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
十回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵(いやムリ……アレ勝てねぇわ)
傭兵(かれこれもう九回目……いや、初日の不意打ち一撃死を含めりゃ十回目だ)
傭兵(夢の大台二桁目!! ってかオイ)
傭兵(こりゃ十一人が挫折してるってのも納得だわ……)
傭兵(全力を出してやられ、まだこちらも裏の手があると挑んでやられ……)
傭兵(本気出せてなかったんだと自分に言い聞かせて挑んでもやられ)
傭兵(やられ、やられ、やられ続けて……並みの戦士ならプライドがボロボロになって戦意喪失するわ、ホント)
傭兵(自分の本気はこんなもんじゃない……とか奮い立たせて己に言い聞かせるその心を折ってくる)
傭兵(なまじ相手がいつも自分の少し上の実力でぶつかってくるだけに、あと少しで勝てるって気持ちにずっとさせられる)
傭兵(あと少しで傷を付けられるって思わせてくる)
傭兵(でも実際は、そんなことはない。一向に傷つけられず、有効となる一撃もぶつけられない状態が続いてしまう)
傭兵(……こりゃ、普通なら諦めるわ)
傭兵(でもまぁ、そこは俺よ)
傭兵(やられることには慣れている)
傭兵(敵わない壁に打ち負けてきてばかりで、自分の実力と畑を理解している俺だからこそ、そんなことで心は折れない)
傭兵(というかそもそもの依頼内容は、あの子に殺されること、だ)
傭兵(出来ればあの子を倒して副作用を一時的にでも止めて欲しい、ってのは、いわばオプションみたいなもの)
傭兵(俺もそれを叶えてやりたかったが……生憎と、あの戦場で普通に剣を突きつけ合うだけじゃ無理だ)
傭兵(だったらまぁ、答えは簡単……)
傭兵(……負け続けてやればいいんだよ。そしたらお金は入る)
傭兵(どうせ死なないんだ。死んで死んで死んで、殺され続けてやってやろうじゃないか)
40:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
十一回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  教会
◇ ◇ ◇
傭兵「っ!」バッ!!
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……!」
傭兵(おいおいおいおいおいおい……マジかマジかマジかマジかマジか……!)
傭兵(手を抜いただけで……あそこまでするか……!?)
傭兵(どうせ勝てないからと諦めて、死んでやるだけでいいんだろと開き直った途端……戦いを止めて拷問に移るとか聞いて無いぞ……!)
傭兵(指先から肩まで細切れにして、気を失いそうになったらまた痛みを与えてきて、足を切って脛を折って膝を砕いて腿を裂くとか、尋常じゃないだろオイ……!)
傭兵「ぐっ……!」
傭兵(くっそ……まだ痛みが身体に残ってる……!)
傭兵(気を失えないギリギリ、失血死する限界まで痛めつけやがって……!)
神官「おいおい……大丈夫かぁ?」
傭兵(うっせぇ……ニヤニヤして心にもない言葉かけてくるな!)
神官「おぉ……怖い怖い。そんな睨むなよ。オレは生き返らせてやってる恩人だぞ?」
傭兵「…………」
神官「しっかしまぁ、どうもオマエは不幸そうだな。こりゃたまらなく嬉しいわ、マジで」
神官「その依頼、続けろよ?」
傭兵「っ!」
バンッ!!
41:
◇ ◇ ◇
 街中
◇ ◇ ◇
傭兵「くっ……!」
傭兵(ちっ……! まだあの痛みが残ってるような気がするってのに飛び出して来てしまった……!)
傭兵(……いや、今はアイツの近くにいる方が不快だ。飛び出してきて正解だ、うん)
傭兵「くっそ……!」
傭兵(なんか、腕とか足がくっついてないか不安になってくる。見るとちゃんとくっついてるし、それも理解できてるんだが……どうも不安になる)
傭兵(ったく……まさか手を抜いただけでこんなことになるとはな……)
傭兵(これじゃあ死ぬだけの簡単なお仕事じゃあねぇだろ)
傭兵(なぁにが『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』副作用だ)
傭兵(あれは『一日に一回、誰かと戦わないと気が済まない』って感じなだけじゃねぇか)
傭兵(まるで遊び相手が欲しい子供そのもの――)
傭兵「――子供……?」
傭兵(そうだ……アレはまさに子供なんだ。“戦闘”という遊びをしているだけの)
傭兵(だから手を抜いて怒ったから、あんなことをしてきた)
傭兵(手を抜いたらこうなるから全力で来い、と示してきた)
傭兵(真剣に遊んでくれないから、おもちゃを投げつけてきた)
傭兵(本当に、ただの駄々っ子のような――)
傭兵「――いや、違う……」
傭兵(そうじゃない……引っ掛かったのは、そうじゃない……)
傭兵(……いや、別にその考えが間違えていると思うつもりは無い)
傭兵(でも今、違和感を覚えたのは、それじゃない)
傭兵(それじゃなくて……! 俺はっ……!)
傭兵(あの子がまだ子供だってことを、見落としていた……!)
42:
傭兵(あの子が子供だって思っていたのに……ずっとずっと忘れていた)
傭兵(すぐに勝てるからと思っていた油断なのか……勝てないと諦めて、負け続けてやればいいと思うようになってしまったせいなのか……ともかく、忘れてしまっていた)
傭兵(俺はそもそも、あんな小さな女の子が、あんな薄暗いところで眠ってしまっている現状をどうにかするべきだと、考えないといけなかったんだ)
傭兵(すぐに勝てるから良いとかじゃなくて……)
傭兵(負け続けてやれば良いなんて考えは論外で……)
傭兵(報酬なんてものは、二の次にして……)
傭兵(あの子があそこに囚われていると知った瞬間には、あの子を救うために頑張ってやらないと、いけなかったんだ)
 ――大人は子供の前に立ち、後ろを歩く子を守り、時には転ぶであろう子供に手を差し伸べてやる――
傭兵(……俺の生まれた村で、俺の前に立っていた大人全員が身をもって教えてくれたそれを……)
傭兵(俺は守るために、誇りとして胸に秘め、燃やし、実行していこうと誓っていたはずだ)
傭兵(それなのに……俺は……!)
傭兵「くっそ……!」
傭兵(負けるのには慣れている……? 何を言ってるんだ大バカ野郎っ!)
傭兵(んなこと今は関係ねぇ! 重要なのは……あの子のために、なんとしても勝つことだ……!)
傭兵(あの女の子のために……! あの子に手を差し伸べてやるために……!)
傭兵(俺が己の内に宿した、誇りのために……!)
43:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
十二回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 街の中
◇ ◇ ◇
傭兵(とかなんとか昨日は息巻いていたのになぁ……)
傭兵(結局今日も負けてしまった)
傭兵(全力で戦ったのに呆気なく)
傭兵(……これじゃあいつになったらあの子を救えるのやら……)
傭兵(というかどうもあの子、ただ単に相手の少し上の実力を出してくるだけじゃないらしい)
傭兵(……正直、今日は自分でも集中力が散漫になっているのが分かった)
傭兵(救うための方法に意識が向きすぎていたせいだ)
傭兵(でも、そのおかげで気付けた)
傭兵(あの子はたぶん……一度上がった実力を、元に戻せていない)
傭兵(アレはたぶん、今日みたいに集中力が乱れる前の俺の、少し上だ)
傭兵(……その日の全力を出してさえいれば、拷問される心配は無いってことか……)
傭兵「…………」
傭兵(……いや、思考に耽るのは家に帰ってからの夜でも出来る)
傭兵(今はともかく、勝てるための手段を講じないといけない)
傭兵(そのために、まずは……!)
52:
◇ ◇ ◇
  王城
◇ ◇ ◇
傭兵(ま、普通に戦場視察だわな。息巻いておいて地味過ぎるが)
傭兵(でもあの空間に何か仕掛けでも出来ればあるいは……)
門番「あれ? お疲れさん」
傭兵「おう。むしろそっちの方がお疲れさん」
門番「今日はもう中に入ったよな?」
傭兵「まぁ、な。ついでにいうと、今日はとっくに一度殺されたよ」
門番「いきなり外からやって来たってことはそうだろうな」
門番「で、じゃあどうしたんだよ?
傭兵「もう一度入って、ちょっと中を見ておきたくてさ」
傭兵「そろそろ、本気で勝ちに行こうかと思って」
門番「へ〜……今まで依頼請けた奴らの中で、そこまで真剣に戦おうとしたやつなんていなかったな……」
門番「ま、兵の訓練はまだだし、それまでなら入ってもいいぜ」
傭兵「そりゃありがたい」
傭兵「もしかしたら『一日一回だけの通行だ』って突っぱねられるかもと思ってたところだったんだ」
門番「まだ昼前だろ? それまでなら入れていいって話しだし、回数の制限も無いからいいだろ」
傭兵「知り合いになったアンタが融通の利くやつで助かったよ」
53:
門番「にしても、よくあの姫相手に何度も戦えるな」
傭兵「姫?」
門番「あっ……」
傭兵「……あ〜……口滑らせちまった感じか」
傭兵「良いよ。聞かなかったことにしておく。融通利かせてくれたしな」
門番「わりぃな……ちっ、やっちまったぜ……」
傭兵「それよりもその口ぶり、まるであの子と一度戦ったことがあるみたいだな」
門番「まるで、じゃなくて実際にあるんだよ」
門番「っていうか、ここに勤める兵士は全員最低一度は戦ってる」
門番「本当は何度も戦っていいことになってるんだが、あの勝てそうで勝てない感じが続くとな……みんな五回目ぐらいでリタイアしてるんだよ」
門番「だからお前とか、今まで依頼を請けてたやつとか、よく何十回もチャレンジ出来るなって思うわけよ」
門番「尊敬するわ、ホント」
傭兵「なるほどね……」
傭兵(訓練の一環、みたいな感じか)
傭兵「……で、その兵士達の中で勝てた奴はいるのか?」
門番「騎士長だけだよ。俺も含めて他は全然。途中で心折れるし」
門番「だからって訓練して強くなっても再挑戦する気は起きないしな」
傭兵「なんで再挑戦しないんだ? 強くなってる実感があるんなら試してみたくなるだろ」
門番「なるにはなるんだが……あの子相手にはどうもな」
門番「それになんていうか……あの子に対して、ある噂があるんだ」
門番「そのせいでどうにもな……勝てない気しか起きなくなっちまう」
傭兵「噂?」
門番「なんでもあの子は、王が作り上げてる人間兵器らしいんだよ」
54:
傭兵「人間兵器?」
傭兵「なんか、えらく突拍子もない話だな」
門番「そうかもしれないけど、でもよく考えてもみろよ」
門番「死んでも蘇ることができる、一対一の戦いで無敗を誇る強さを持った人間」
門番「人間兵器ってのはつまりそういうことだぞ」
門番「もし戦争になって城攻めにあった場合、あの子と城の中にいる神父と一緒に逃げてれば、何度もその強い人間兵器を戦わせることが出来るだろ?」
傭兵「なるほど……つまり、人間自身を使っての堅牢な盾、ってことか」
傭兵(それも、相手を傷つけることが出来る、剣も併せ持った攻撃的で強力な盾)
門番「そういういこと。だからま、そもそも兵器として育てられてるのが相手だと勝てないだろう、って思っちまって、挑めねぇんだよ」
55:
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(戦場となる部屋はとっくに鍵がかけられてる、か……)
傭兵(ふむ……ま、ぶっちゃけ中には何も無いことは知ってるからな。用は無い)
傭兵(伊達に、何度も中で戦っちゃいない)
傭兵(仕掛けが施せるかどうかの確認をジックリとしたかったが……仕方が無い)
傭兵(この周りからどうにか出来ないか調べるか……穴でも開けれたら言うこと無いんだが)
ザッ、ザッ、ザッ…
傭兵(にしても……人間兵器、か……)
傭兵(もしその噂が本当なら……俺や兵士が戦わされてるのって、実は彼女を強くするためだけだったりするのか……?)
傭兵(この依頼を含めたその全てが……上手く使われてしまってるだけ、だったり……?)
傭兵(それに……あの門番が口を滑らした内容……)
傭兵(姫……っていうのが、もし王女のことを指すのだとすれば……)
傭兵(この国の王が、自分の子供を盾にしようとしていることに他ならない、ってことになる)
傭兵(……まぁ、姫って言葉だけでそこまで考えるのは早計か……)
傭兵(当初の推理どおり、どっかの貴族の娘さんかもしれない)
傭兵(日頃の雰囲気がお姫様みたいにキレイだから、とかそんなかもしれないし)
傭兵(口止めだってまぁ、貴族だとバレたくないから、ってだけの理由かもしれないし)
傭兵(……それにまぁ、人間兵器にせよ王女にせよ、今はあの副作用からあの子を助けてやるのが先であることに変わりは無い)
傭兵(加護を受けたことを後悔してるからこその副作用なわけだから、副作用を一時的に解除してやってもなんの解決にもならないが……)
傭兵(解除させればもしかしたら、正常な状態のあの子と話が出来るかもしれないし)
傭兵(そこから後悔している理由も聞き出して、助けてやればいい)
56:
???「……本当にいらっしゃるとは……」
傭兵「えっ?」
メイド「どうも」
傭兵「あ、これはどうも。初日以来ですね、メイドさん」
メイド「そうですね」
傭兵「で、どうかしましたか?」
メイド「どうしたもこうしたも……門番からあなたがやって来たと報告を受けたので、様子を見に来たのです」
傭兵「あれ? もしかして追い出される感じですか?」
メイド「いえ。あの子を倒してくれるための視察という話ですし、そんなことはしません」
メイド「むしろ、そこまで真剣になってくれて、感謝しているぐらいです」
傭兵「そうですか。それは良かった」
メイド「とはいっても、兵の訓練の邪魔にはならないで欲しいので、時間は厳守してもらいますが」
傭兵「分かってますよ」
57:
メイド「…………」
傭兵(さて……メイドさんも来たことだし、余計な思考ばっかりしてないで、なんとか勝つための方法を見つけ出さないとな……)
傭兵(……いやでも、今の内にあの子の副作用について気付いたことを話しておくべきか……?)
メイド「その……」
傭兵「あ、はい?」
メイド「お忙しいところすいません。ですが、訊かせていただいてもよろしいですか?」
傭兵「え? なんですか?」
メイド「どうして、そこまでしてくれるのですか?」
傭兵「そこまで?」
メイド「今まで依頼を請けてくれた方は、そこまではしてくれませんでした」
メイド「戦って負けて、負け続けて折れて、そのまま辞めていった……」
メイド「それなのにあなたは、その人たちと同じぐらい負けているのに、折れるどころかさらに必死になってくれています」
メイド「それは、どうしてですか?」
58:
傭兵(どうして、か……)
傭兵(……この場合、大人だから当たり前、って返したところで、あんま理解してもらえないんだよなぁ……)
傭兵(なんか、見知らぬ誰かのために頑張る、ってのは、例えその対象が子供のみであったとしても、どうも裏があるように思われるみたいだし)
傭兵(……俺の村って特殊だったのかなぁ……世界を見てた時もなんとなく思ってたけど……)
傭兵「……まぁ、理由は色々ありますよ」
傭兵「ただ、子供が副作用を想定して、寝るときからあんな薄暗いところに行って眠って、起きてその日の副作用を終えて意識を取り戻したら誰かの死体が転がってる……」
傭兵「なんて、不幸な出来事に見舞われ続けるのは、あまりにも可哀想だからですよ」
メイド「ですが……あの子はあなたにとって、この依頼を請けるまではなんの関係もなかった人でしょ? それなのに……」
傭兵「確かにそうだけど……だから、それだけが理由じゃないんですよ。色々あるんですよ、色々」
傭兵「それこそほら、傭兵としての報酬とか、ね」
メイド「…………」
メイド「……そう、ですか……」
傭兵「そうなんです」
メイド「……ありがとうございます」
傭兵「いえ、ですからその……頭を下げる理由なんて無いんですよ? 報酬が出るからやってるだけで……」
メイド「そういうことにしておきます」
傭兵「そういうことにって……」
メイド「ですが、そういうことにする前に……一言だけお礼を言っておきたかったのです」
メイド「見知らぬあの子の為に頑張ってくれて、本当、ありがとうございました」
傭兵「ですから――」
メイド「いえいえ、これは私の勝手な勘違いです」
メイド「勘違いで勝手にお礼を言ってきただけのバカ女、とでも思って、てきとうに受け止めておいてください」
傭兵「――…………」
傭兵「……はぁ……」
傭兵「分かりました。では互いに、そういうことにしておきましょう」
59:
傭兵「それよりも、ここ最近戦っていて、あの子の副作用について気付いたことがあるのですが」
メイド「副作用について……? どうされました?」
傭兵「あの子、『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』って副作用ではないみたいです」
メイド「えっ?」
傭兵「アレはどちらかというと、『一日に一回、戦わないと気が済まない』――いや、『一日に一回、“戦い”という遊びをしたい』って方が正しいかもしれません」
メイド「それは……! でも……。……いえ……どうしてそう思われるのですか?」
傭兵「こちらが手を抜いた時、いたぶるような、拷問じみたことをされたんです」
傭兵「まるで手を抜くなって叱ってるみたいに」
メイド「そういえば……勝手に辞めて行った人がいたことがありましたが……まさか……」
傭兵「たぶん、それのせいでトラウマにでもなったんでしょう」
メイド「ですが、それだけでそう決め付けるのは早計なような……」
傭兵「でも『誰かを殺さないと理性が切れる』っていうんなら、手を抜いた瞬間に俺を殺してないとおかしいですし」
傭兵「だって殺していないと理性が切れている、ってことはつまり、戦っている段階では理性が切れてるってことですよね?」
傭兵「となったら、そんな手加減じみたことが出来るはずもありません」
傭兵「それと他にも、あの子の力加減もそう思わせる要素の一つです」
メイド「力加減?」
60:
傭兵「最初は、段々とあの子が強くなっているのかと思ってましたけど……冷静になって考えてみれば、それはあり得ないんです」
傭兵「あれは段々と、抜いていた手を加えていっていただけだと思います」
メイド「それはまた……どうしてですか?」
傭兵「俺の前に十一人、この依頼を請けて辞めている人がいたからです」
メイド「……どういうことです?」
傭兵「単純に、俺が弱いってことですよ」
傭兵「段々と強くなっていってるから勝てない、っていうんなら、そもそもその十一人の傭兵が俺より弱くないと話しにならない」
傭兵「それは絶対にありえない」
傭兵「まさか十一人もいてそんなことがあるはずもない」
傭兵「となると、あの子自身が最初は力を加減し手を抜いていることになる」
メイド「だから……手加減をしていたのは、出来るだけ長く戦っていたいから……と、そういうことですか」
傭兵「そうだと思います」
傭兵「相手より少し強くなるように加減しているのはまぁ、子供だからでしょう」
傭兵「遊びだと思っていても負けたくないんだと思います」
メイド「ですが……それこそどうして、今までの十一人の傭兵は気付いてくれなかったのでしょうか……」
メイド「副作用に関しては仕方ないにしても、せめて手加減されていることぐらいは気付いても良さそうなものですが……」
傭兵「そりゃまぁ、俺みたいに『自分は弱い』なんて認めてる傭兵のほうが少ないですし」
傭兵「まして、女の子に手加減されているなんて認めたくないでしょう」
傭兵「よしんば認めていたとしても、それは結局あの子に勝てないって形にしか作用しない」
傭兵「で、作用したらしたで、報酬のために手を抜いて戦って、それにあの子が怒って拷問されて恐怖して逃げ出して……ってなってりゃ、まぁ気付かないでしょう」
61:
傭兵「それでまぁ、あの子が手加減してくれてるなら、ってことで、一つ俺みたいなザコでも勝つ方法を一つ思いついて、こうしてココにやってきたのですが……」
傭兵「……ちょっと確認ですが、ココで戦うことって出来ないですか?」
メイド「ココって……訓練場で、ってことですか?」
傭兵「はい」
メイド「それは……ちょっと、難しいかと思います」
メイド「そもそもあの子をこの中で戦わせているのは、外に見られたくないからなんです」
傭兵「見られたくない?」
メイド「はい……その、少々事情がありまして……あまり明るみにはしたくないのです。あの子の存在は」
傭兵(人間兵器としてか……それか、姫として、か……)
メイド「ですので、あの外で戦うのはちょっと……」
傭兵「そうですか……じゃあまた、別の方法を考えないとな……」
傭兵(やっぱ壁か床に小さな穴開けるしかないか……なんとか違和感なく開けれる場所は無いものか)
メイド「…………」
メイド「……ですが……」
傭兵「ん?」
メイド「もし、なんとかなるのなら、絶対に勝っていただけますか?」
メイド「あの子を、少しの間だけでも、副作用から救ってくれますか?」
傭兵「……もちろん」
メイド「そうですか…………」
メイド「…………少々、お待ちください」
62:
〜〜〜〜〜〜
メイド「お待たせいたしました」
女騎士「どうしたのさメイドさん。ボクをこんなところに連れてきて」
女騎士「っていうか、コイツ誰?」
メイド「お忙しいところすいません。こちら、今あの子の相手をしてくださっている、傭兵さんです」
メイド「それで傭兵さん、こちら、この国の騎士長をしている、女騎士さんです」
女騎士「ふ〜ん……」
傭兵「どうも」
女騎士「……で、コイツがどうしたの?」
メイド「実は彼が、この訓練場であの子と戦わせていただけないかとおっしゃってまして……」
女騎士「はぁ!? なんでまた」
傭兵「それは――」
女騎士「どうせ外に出たって勝てないんだからさ、面倒なことさせないでくれない?」
傭兵「――…………」
女騎士「アンタは知らないのかもしれないけどさ、あの子はあんまり明るみに出したくない子なの」
女騎士「あ、なんで? とかは聞かないでね。説明するのも面倒だから」
女騎士「でね、その子を外に出して戦わせるってことは、あの子と戦ったことがある信用できる兵だけで、訓練場に誰も近付かないように見張らないといけないの」
女騎士「そこまでのことをさぁ……勝つ見込みのないアンタのためにするのって、正直やってられないのよ」
女騎士「環境が変われば勝てるとか、そんなことないんだからさ」
63:
傭兵「…………」
女騎士「分かった? 分かったらこの話はおしまいっ」
傭兵「……………………」
女騎士「っていうかアンタ、見ただけで分かるよ。あんまり強くないよね」
女騎士「ある程度は鍛えてるみたいだけど、そもそもそんなに才能ないんじゃない?」
女騎士「大人しく魔導書でも読んで細々と魔法の勉強してた方が強くなれてたんじゃない?」
傭兵「………………………………」
女騎士「あ、それとも魔法覚えられるほどの頭も魔力もないとか? だから仕方なしにそんな肉付きで傭兵なんてやってるの?」
女騎士「だったらもう辞めて畑でも耕してなって。才能無いやつが加護を受けて無理して戦ってても、悲しいだけだよ?」
傭兵「…………………………………………」
傭兵(………………………………………………うっぜぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
傭兵(なんだこのチビは……! ちゃんと成長しきった顔してるからコレもう絶対成長止まってるだろっ!!)
傭兵(なんでテメェみたいなお子ちゃま体型にそんな全存在否定みたいなこと言われねぇといけねぇんだよクソがっ!!)
傭兵(死ねっ! 無残に死ねっ!! 溝にハマって抜けなくなってそのまま餓死しろっ!!!! 巨人にでも踏みつけられてしまえこのガキがああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
64:
傭兵「…………」
ス〜…ハ〜……
傭兵(……いやいや、仮にも騎士長だぞ?)
傭兵(落ち着こう、落ち着こう)
傭兵(俺みたいなザコが見ても隙が無いのは分かってるぐらいには強いわけだし)
傭兵(っていうか今もいつでも腰の剣に腕を伸ばせる自然体だし)
傭兵(確実に戦ったら負けるだろうし)
傭兵(そんな相手から見たら確かに俺はザコな訳だし)
傭兵(本当のことしか言われて無いわけだし)
傭兵(……うん……そうだ。そうだよそうだよ)
傭兵(だから、落ち着け……落ち着け…………)
傭兵(言ってることも間違ってないんだ)
傭兵(確かに俺には接近戦の才能はほとんど無い)
傭兵(だから、言われても仕方がない……仕方がないことなんだ……うん)
傭兵(本当のことを言われて図星を突かれただけでキレて襲って反撃されて殺されたら話しにならないからな……うん)
傭兵(今必要なのは……そうしてキレることじゃなくて……)
傭兵(冷静に……冷静に……)
傭兵「女騎士、一つ聞いていいか?」
女騎士「は? 呼び捨て?」
傭兵「テメェなんて呼び捨てで十分じゃこらぁっ!!」
69:
傭兵「……ごほん。え〜……一瞬取り乱した、ごめんごめん」
女騎士「いや、許さないけどね」
傭兵「じゃあ無視する」
傭兵「んで、聞きたいんだけど」
女騎士「え? まさか答えてもらえると思ってるの? ボクはまだ許してないんだけど??」
傭兵「オマエって、あの子に勝てたことあるのか?」
傭兵「あ、無様に負けたんなら答えなくていいよ。答えるのも恥ずかしいもんね。まさかこの国の騎士の長が一人の女の子にも勝て無いってなるとさすがに――」
女騎士「勝てたわよっ! 何勝手に決めつけてんのっ!?」
傭兵「そっか勝てたか……で、どうやって勝ったの?」
女騎士「ふんっ。それは答えないわよ」
傭兵「まぁ大方、あの子が合わせられないほど強いから勝てたんだろうけど」
女騎士「合わせる……? なんのこと……??」
傭兵「力バカらしい勝ち方だってこと」
女騎士「おいこら殺すぞ」
70:
傭兵「でまぁ、俺の場合はその力が無いから勝てないと見込んで協力できないってことだろ?」
女騎士「ちょっと、ちゃんと謝れってよさっきから」
傭兵「でもさ、そんな力任せじゃない別の方法で勝てるとしたら、どう?」
女騎士「え? んな方法あるわけないじゃん。バカじゃないの?」
傭兵「それがあるんだよ」
傭兵「で、それを今から証明する」
女騎士「さっきから都合のいい部分ばっかで返事しないでよちょっと」
女騎士「っていうか証明なんてどうやるつもり? 出来るわけないじゃん」
傭兵「じゃあ、出来たら協力しろよ?」
女騎士「ふんっ。出来たらね。見張りぐらいやってやろうじゃないの」
傭兵「というわけでメイドさん、聞いていましたよね?」
メイド「あ、はい」
傭兵「では、これから証明します」
傭兵「ですので、女騎士が言葉を覆した場合の証人、お願いしますね」
メイド「分かりました」
傭兵「では、いきます――」
71:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「――とまぁ、こんな具合でどうだろう?」
女騎士「…………」
メイド「…………」
傭兵「今まで接近戦しかしてこなかったのに、突然これだけの威力を持った魔法も絡めれば、さすがに対応できないだろ?」
傭兵「といっても実際はこれほどの威力をぶつけるつもりはないけどさ
傭兵「でもまぁ、あの子を打倒できる証明にはなるだろ?」
女騎士「……ふんっ。……つまり、力で超えられないから魔法を使おうってこと?」
傭兵「厳密にはちょっと違うけど、ま、そういうことだ」
女騎士「……分かった。いいよ。そういうことなら協力してあげる」
傭兵「やけにあっさりだな……てっきり駄々をこねられるかと……」
女騎士「アンタはボクのことをなんだと思ってるんだよ……さすがに、こんなに訓練場をメチャクチャにされるほどの魔法を見せられたら納得もするよ」
女騎士「アンタの力をある程度認めるしかないかな、ってさ」
女騎士「それにボクだって、出来ればあの子の副作用をどうにかしてあげたいんだし」
女騎士「仕事さえなかったらボク自身がするってのに……」
傭兵(……周りに愛されてるんだな……あの子)
傭兵「……ま、ともかく協力してくれるんならありがたい」
女騎士「といっても、これだけ出来てもボクには勝てないだろうけどねっ」
傭兵「そのドヤ顔止めろ」
傭兵(とはツッコむけど……俺もそんな気はしている)
傭兵(例え魔法を使っての総合力で戦っても、一対一で戦ったら負ける)
傭兵(そんな雰囲気が彼女にはある)
傭兵(間違いなく彼女は……強い)
傭兵(子供みたいな見た目に反して相当な実力があるのが分かる)
傭兵(あの子に勝ったという話も納得だ)
傭兵(……っていうか実際にはいくつなんだ……? こんなガキっぽいのに騎士長なんて位の高さだから結構な年齢なのか……??)
傭兵(……って、今はそんなこと関係ないな)
傭兵(重要なのは、明日だ)
傭兵(明日……本当にあの子に勝てるかどうか……)
傭兵(そこに全てが、懸かってる)
72:
〜〜〜〜〜〜
 依頼挑戦
 十二回目
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(ギャラリーはこれといっていないように見えるが……どうも囲まれている感じがする)
傭兵(ちゃんと見張りはいてくれてるってことか……)
傭兵「……よしっ」
傭兵「それじゃあ、今日で終わりといこうか」
ガラガラガラ…
…コツ
傭兵(ともかく、まずは当初の予定通り外へと出さないと――)
傭兵「――っ!」ザッ!
ヒュンッ…!
ダンッ!!
???「…………」
傭兵(っぶねぇ……入ってすぐ上から一撃とか……初日にされた攻撃の再現かよ……!)
傭兵(……まぁ、決着をつけるには相応しいか……)
傭兵(それにこの方が――)
ザッ!
傭兵(――外へと誘き出しやすいっ!!)
73:
傭兵「さぁ――」スッ…
傭兵「――来い」ジャキ
???「……っ」ザザザ…!
キィン!
傭兵(かかった……!)グググ…!
傭兵「さぁ……差を、広げようかっ……!」ギィィ…ン!
74:
 鈍い音と共に、あの子の剣が俺の剣から離れる。
 何十回もの戦いで分かっていた。
 単純な力だと、瞬間的にはこちらが上回れると。
 だからこうして相手との鍔迫り合いを中断し、バックステップを繰り返し大きく距離を取り――
 ――あの子が再び距離をつめるよりも早く、こちらは剣を上へと投げ、力強く地面を踏みつけた。
75:
 魔法とは、大地の力を天へと届かせる際に発生するもの。
 大地のエネルギーを天へと放出する際に発生する余波エネルギー。
 それこそが魔力の正体だ。
 
 だからこそあの『倉庫の中(けっとうじょう)』では使えなかった。
 こうした屋外でしか、魔法は使えないのだ。
 ダァン! と響く足音と共に、その踏み締めた箇所から円形に、泥沼のような水溜りが広範囲に出来上がる。
 その範囲は俺の周囲からこの訓練場の果てまで。
 これで高に動くあの子の足を、確実に遅くできる。
 戦場が広くなったからと不利になることもなくなる。
 これが俺の第一の狙い。
 そう、第一だ。当然これだけで勝てるとは思っていない。
 これはあくまでも、昨日まで戦っていた場所とイーブンにするための手段でしかない。
 広さは素早い向こうが有利だろう。
 だが足を捕らわれるこの場所は不利になるだろう。
 そうすることで一対にしようという考えだ。
 だから、次の手を打つ。プラスマイナスゼロで終わらせないための手を。
 俺は目の前を通り過ぎ、重力に導かれ泥沼へと落ちる剣をそのまま見送り、次の魔法を発動するためにしゃがみ込む。
 先ほどのように、足で魔法を発動させることは出来る。
 が、一番良いのはやはり手で触れること。
 広範囲に大雑把に効果を及ぼすことしか、足では出来ない。
 細やかな指示を送るのは、やはり直接地面に手を触れさせ、天高くと手を掲げるのが一番だ。
 ……俺の属性は水だ。
 属性とは、その人が使える魔法の系統。
 天へと打ち上げた際の余波エネルギーは、この属性へと姿を変える。
 そして人は、この属性のみを自由に操れる。
 それこそが魔法だ。
 伝承に残る勇者は複数の属性を使いこなせ、さらには勇者限定の属性まで使っていたようだが、俺のような一般人は基本五属性のうち一つだけが当たり前となる。
 しかし、こんなものは応用でどうとでもなる。
 水しか製造・操作できないからといって、勝てないことにはならない。
 俺は自らの周囲に水の触手を五本生み出し、自らの左右に一本ずつと、背後に三本配置した。
77:
 触手……といっても、ウネウネとは動かない。
 いや、動かすほどの腕が俺には無い
 故に、直立不動の柱と同等。
 だが俺の意思で動かし、突進させることは出来る。
 それは矢を超える度で、槍を上回る威力を誇る。
 水の塊でありながら、人を壊せるほどの力を発揮させられる。
 ……が、当然欠点はある。
 大きな理由としては自動で動いてくれないこと。
 だから自分の身体を動かしながら、この柱触手へと指示を出すよう並列して脳を動かさなければならない。
 つまり、かなりの集中力が必要だということ。
(……短期決戦だな……)
 いつもは三本で戦っている。
 だがそれよりも二本増やしている。
 全盛期の頃の自分の全力に等しい。
 鈍った集中力でやるには持て余してしまうかもしれない。
 だがそれでも、昔のように扱いこなせないと、彼女には勝てない。
 それは何十回も死んだ俺だからこそ、一番分かっている。
79:
 先ほどは見送り、泥へと半分以上沈んでいる剣を抜いて、立ち上がる。
 ……俺は女騎士のように、単純な力ではあの子に勝てない。
 こうして昔の全力を出して、おそらくはようやくといったところ。
 それほどまでに俺は弱い。
 一対一の戦いに圧倒的に向かないのだ。俺は。
 だがそんな俺でも、勝てる方法を見つけ出した。
 ……あの子は、こちらといい勝負をしながらも勝てるような手加減をしている。
 だがもしその目測よりも圧倒的に強い力を、突然俺が出してきたなら?
 それは確実に、対応が出来ない攻撃となる。
 それがこの魔法なのだ。
 俺は今まで、魔法を使わずにあの子と戦ってきた。
 そんな俺に合わせていたあの子が、突然魔法を使えるようになった俺に合わせられるはずも無い。
 ……いや、きっとすぐには合わせてくる。
 だが合わせるにも時間は掛かる。
 その時間こそが、勝負。
 その間ならば、俺でもあの子に勝つことが出来る。
 だから、一瞬でもいいのだ。俺が全力を出せるのは。
 その一瞬で、あの子を仕留める事が出来るのなら……それで……。
80:
 そう……勝てる方法は、二つ。
 女騎士のように、あの子に合わせられないほど強い力で立ち向かうか……。
 俺が今やろうとしているように、瞬間的にでも彼女の目測を超えるか……。
 その二つだ。
「……さぁ……勝負だ。……俺が一度でも、殺してやるよ」
81:
〜〜〜〜〜〜
???「」
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
傭兵(勝てた……)
傭兵(……っていうかおい……勝てたのが奇跡に感じるって……本当、ただの偶然の産物にしか思えないって……あの子、どんだけ強いんだよ……)
傭兵(まさか全力を出したってのに、腹を貫かれるとは思いもしなかった)
傭兵(本当に、一瞬だった)
傭兵(真正面から一本・上空から二本・背後に回って一本……)
傭兵(その攻撃の包囲網をすり抜け迫る彼女に攻撃されながらも、なんとか足止めして……)
傭兵(こっちの攻撃を避けられた瞬間、カウンターで刺されて……)
傭兵(でもなんとか、その攻撃で腕を掴んでいる隙に、最後の一本を頭上から落として……)
傭兵(……ったく……相打ちじゃねぇか、これじゃあ)
メイド「……お疲れ様です」
傭兵「……あぁ……どうも……」
メイド「……勝っていただき、ありがとうございました」
傭兵『いえいえ、どういたしまして』パクパク
傭兵(っ……! くっそ……もう声が出ないか……)
傭兵(っていうか、もう……瞼がすっげぇ重いし……)
傭兵(力も……抜けてきてるし……)
メイド「……また、明日で構いません」
メイド「本日は本当に……ありがとう、ございました」ペコ
傭兵(ああ……そうかい)
傭兵(それはありがたい)
傭兵(こんなもん。蘇らせてもらっても、すぐに戻ってこれるほどの体力がねぇからな)
傭兵(明日で良いってんなら……相打ちだってのは、明日言わせてもらおうか……)
メイド「これであの子は……少しの間でも、救われます」
メイド「本当、あなたのおかげです」
メイド「できればまた……よろしくお願いいたします」
傭兵(ああ……当たり前だろ。むしろこちらからお願いしたいぐらいだ)
傭兵(何より、そういう契約だろ? 大事な大事な、食い扶持さ……)
傭兵(だから……明日からもまた、任されたよ……――)
第一部・終了
82:
キリが良いので今日はここまで
第一部終了です
本当はプロローグにしようと思ったけど長かったのでもう第一部ってことで
前回戦闘シーンがセリフと音だけでよく分からなかったのでそこだけ実験的に文章形式にしてみた
でも俺ド下手だから、あんまり文章形式はやりたくないんだ…
だから次もまたこうするかどうかは分からない
というわけでまた明日
83:
おつ
84:

87:
こんだけやってプロローグかよ...
壮大なはなしになる予感
89:
〜〜〜〜〜〜
 翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 城門前
◇ ◇ ◇
傭兵「あれ?」
メイド「どうも。お待ちしておりました」
傭兵「どうしたんです? 一体」
メイド「休暇についてのお話をしようかと思いまして」
メイド「他にもお給料の話とか、色々と積もる話でもしようかと」
メイド「今日も一応は来てくださると思い、待っておりました」
傭兵「ああ、そういうこと」
メイド「では、お話しするためのお部屋にご案内致します」
傭兵「あ〜……ちょっと待って」
メイド「はい?」
傭兵「あの子と戦った場所って、今もまだ見せてもらうことって出来ます?」
メイド「それは……まあ……」
傭兵「それじゃあ、そこで話をしませんか?」
メイド「え?」
傭兵「このままだと、結局一人では勝てそうにありませんからね。また兵達に訓練場を見張らせるのも悪いですし」
傭兵「ですから、これからしばらくは時間があるわけですし、ちょっと細工でも出来る場所でも見つけようかな、と思いまして」
傭兵(それにま、あの差を埋めさせない戦い方は、次は使えないだろうし)
90:
コツコツコツ…
メイド「まさか、もう次のことを考えてくださるとは……」
傭兵「そうでもしないと、ありゃ勝てませんよ」
傭兵「さすがにまた何十回も殺されてからようやく対策を見つけるのは勘弁だからな……」
傭兵「今の内に、不意を衝ける場所を見つけて準備しておけば、その回数を大きく減らせるって訳ですよ」
メイド「……本当、ありがとうございます」
傭兵「いやいや、これが依頼されたお仕事ですから」
メイド「それでもですよ。って、このやり取り、前もやりましたね」
傭兵「そうですね。もうしつこいってぐらいやってる気がします」
メイド「……でも、それだけ本当に感謝しているんです」
メイド「昨日のことといい、まだ引き受けてくれることといい……ね」
傭兵「…………」
メイド「……まぁ言葉はタダですから。気が済むまでかけさせてくださいよ」
メイド「お礼の言葉でお茶を濁してお給料を払わない、なんてことはないんですから」
メイド「いえむしろ、このお礼を聞くのもお給料の内と思っておいてください」
傭兵「……そう言われたら反論できなくなるなぁ……」
メイド「ふふっ……ええ。ですから、反論しないで、受け止めてください」
91:
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
ギィ…
ガラガラガラ…
メイド「ではどうぞ。私の話はながら聞きで結構ですよ。それがあの子の為になることですし」
傭兵「あ、はい」
メイド「さて……では休暇についてですが……まぁこちらは説明するまでも無いでしょう」
メイド「あの子がまた副作用を発症するまでの間、基本的には休んでもらっていて大丈夫です」
メイド「もちろん今まで通りなら、今日のように訓練所になら来て頂いても構いません」
メイド「そして依頼書に書いておいた通り、この休暇中もお給料は発生いたします」
メイド「ですので、十分にお休みになるのもご自由です。ご安心ください」
傭兵「……あの」
メイド「はい?」
傭兵「あの子はさ、副作用を発症していない時はどこで寝てるんです?」
傭兵「まさか、発症している時と同じでココ?」
メイド「いえ。さすがに城内にあるご自分のお部屋でお休みになられております」
メイド「それがどうされました?」
傭兵「いや、発症したその朝に呼び出されるのかなぁ、って思いまして」
メイド「いえ。その日は女騎士様がなんとかしてくださいます」
メイド「ですので傭兵様の手をお借りするのは、その翌日からですね」
傭兵「…………」
92:
傭兵「……ん〜……」
メイド「何か他に、気になることが?」
傭兵「……あの子が誰なのかは、教えてもらえないんですよね?」
メイド「……申し訳ありません」
メイド「あの子を助けてくれたあなたに教えないのは、本当に悪いと思っているのですが……」
傭兵「ああ、いやいや。所詮俺は雇われの身分ですから。信用しないのが正しいんです」
傭兵「そうして教えないことのほうがむしろ納得できる」
傭兵「ちょっと一つ依頼をこなしてもらったからって秘密をあっさりと明かすのは、あまりにも素直で、迂闊過ぎで……」
傭兵「逆に、疑ってしまいますよ」
メイド「そう言って頂けると、助かります」
傭兵「ただ……まぁほら、アレですよ」
傭兵「少なくとも外部の人間には、あの子が誰なのかを教えられない程度には上の身分ってことですよね?」
メイド「……そう、ですね……はい」
傭兵「そんな子が加護を受けるってことは、命を狙われてるってことで……」
傭兵「それも、あの子自身も殺されるかもしれないと自覚している、ってことになります」
傭兵「……そんな子がどうして、加護を受けたことを後悔しているのかなぁ、と思いまして」
メイド「…………」
93:
傭兵「一定期間殺されないことはあくまでも発動条件でしかなく、前提条件はあくまで加護を受けたことを後悔することです」
傭兵「もしそれさえ克服できるなら……わざわざ俺みたいなのを雇う必要も無いんじゃないですか?」
メイド「ですがそれですと、あなたの仕事がなくなりますよ?」
傭兵「女の子一人をちゃんとした意味で救えない仕事なんて、無くなっても構いませんよ」
メイド「…………」
傭兵「? どうしました?」
メイド「いえ……実は、とっくに試したんですよ」
傭兵「え?」
メイド「克服。出来るかどうかを」
メイド「ですがまぁ本当……それが出来れば苦労はしないんですけどね〜……って感じです」
傭兵「? 失敗したってことですか?」
メイド「失敗……と言って良いものかどうか……」
メイド「そうですね……全部は言えないので、とてももどかしいですが……まぁ、アレですよ」
メイド「加護を受けていない人が好き、って人を好きになってしまったが故、ですかね」
傭兵「???」
メイド「恋をしたんですよ、ある人に」
メイド「その人が、加護を受けていない人がタイプ、なんだとか」
メイド「今時の若者にしては珍しく、純正人間が好きな人だったんですよ」
傭兵「……あ〜……」
メイド「本当、恋とは本当に厄介なものですね……はい」
94:
〜〜〜〜〜〜
 翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵(整理をすると、だ)
傭兵(“あの子”には好きな人がいて……)
傭兵(その好きな人が、加護を受けていない人が好きとかいう古い考えを持っている人だから……)
傭兵(加護なんて無ければいいのに! と考えて、副作用を発症させてしまっている、と……)
傭兵「…………」
傭兵(……まぁ、そこまでは家に帰ってから何度も考えていたことで……)
傭兵(惚れてしまった相手が誰なんだとか、その程度で加護を拒絶するなんて本当に子供だなとか)
傭兵(そういうのも気にはなるけれども、それ以上に……だ)
傭兵(そもそもどうして加護を受けることになったのか、だ)
傭兵(……やっぱり俺のように、受けさせられた、って考えるのが妥当か……)
傭兵(この城に住むぐらいのお嬢様だしな……誰かに襲われても最悪死なないために、って考えで子供の頃に受けさせられたのかもしれない)
傭兵(だからこそ、心の底からの実感が無くて、好きな人の好みってだけで後悔してしまっているのかもしれない)
傭兵(でないと、自分の意思と覚悟をもって受けたのに後悔している、なんておかしなことになる)
傭兵(まだちゃんと理解していない頃に受けさせられたか、それとも勝手に受けさせられたか、のどちらかだろう)
傭兵(……やっぱり、生物兵器――というよりかは人間兵器として運用するために死なないようにされているとか……か?)
傭兵(それならムリヤリな加護の理由にもなるし、好きな人に受け入れられない自分を嘆くのも説明がつく。アレだけ強いんだからむしろ正しいようにしか思えない)
傭兵(……でもそれなら尚のこと、今でもこの空間に住まわされそうなもんだけどな……)
傭兵(強くて危ない兵器なはずなのに、閉じ込められることなく今は普通に城での一室って過ごしてるってのがどうも……)
傭兵「……………………」
95:
傭兵(昨日は調べ忘れたから改めて調べてみたが……やっぱりこの空間、とりあえず寝るための設備しかない)
傭兵(具体的にはベッドのみで、後はもうホント戦うためだけの場所になってる)
傭兵(ということは副作用がある間は、着替えてからここで寝ていたことになる)
傭兵(じゃあやっぱり副作用が無い今のような日々は、ちゃんと城の中で寝泊りしてるってことだろう)
傭兵(そうじゃなけりゃもうちょい何かしらの荷物があってもおかしくはない)
傭兵(……まぁ、副作用が無い間だけ持ち出してるって可能性もあるにはあるが……)
傭兵(それよりも可能性としてあるのは、やっぱりあの「生物兵器」にされている子自身が、どこかの貴族の子、って線か)
傭兵(王様に取り入るために我が子を生贄として差し出した……的なね)
傭兵「……この辺のことが聞けたら良いんだけどなぁ……」
傭兵(もしこの考え全てが間違えていてくれて……自分の意思で加護を受けたんなら、その頃の気持ちを思い出してもらうだけでどうにかなるってことになるのにな……)
傭兵(おかしなことになってる気持ちを説得を続けるだけで正せる、という希望が持てるようになるってのに……)
ギィ…
傭兵「ん?」
ガラガラガラ…
???「あっ」
96:
???「本当にいらっしゃいましたわ」
傭兵(あの子……戦っていた“あの子”か……?)
傭兵(……間違いない。動きやすい格好じゃなくてドレスだったからすぐに気付かなかったが……)
???「どうも。こうしてお話しするのは、初めまして、ですね」
傭兵「そう、なりますね」
???「失礼ながらわたくし、あなたのことを死体ででしかお見受けしたことがなかったので……なんだかこうして会話しているのが、不思議な感じですわ」
傭兵(そりゃこっちもだよ)
傭兵(っていうか、そんな声と喋り方だったのか。なんか意外だ)
姫「どうも。わたくし王の娘で、姫と申します」
傭兵「なっ……!」
姫「えっ?」
103:
傭兵「いや……いやいやいや! そんなあっさりと自分の正体言っちゃダメだろっ!!」
姫「え? ですが自己紹介は大事なことだと教わりましたので……」
傭兵「いやそりゃそうだろうが……」
傭兵(俺が敵国のスパイとかだったらどうするんだよ……)
姫「それよりも、あの……あなたのお名前は?」
傭兵「あ? ああ……すいません。傭兵です」
姫「傭兵さま、ですか……」
傭兵「……っていうか、俺の話ぐらい聞いたことあるでしょ?」
姫「聞きましたけれど、やっぱりご本人に自己紹介してもらったほうが、なんだか嬉しいじゃないですか」
傭兵(……そういうもんかね……)
傭兵「…………」
104:
傭兵「…………あの、お姫さま」
姫「そんなお姫さまだなんて……姫とお呼びください」
姫「あなたはわたくしを助けてくれた方なのですから」
傭兵「いや、さすがに王族の方を呼び捨てにするのは……俺でも気が引けるというか……」
姫「そうですか……」
傭兵(なんで落ち込むんだよ……)
傭兵「ってそれよりも、一つ聞いてもいいですか?」
姫「あら? はい。なんでしょうか?」
傭兵「もしかして、ココには黙ってこられました?」
姫「正解ですっ。よく分かりましたね。スゴイですっ」
傭兵(そりゃあ、な……)
傭兵(こんな迂闊――っていうか、素直で純粋な子と会わせるのは躊躇うだろう)
傭兵(っていうかぶっちゃけ会わせない方が良いと考えていたはずだ)
傭兵(現にメイドさんが必死に隠そうとしてた身分のこと、あっさりと自分の口からバラすような子だし)
姫「実は、おねえちゃんに内緒で会いに来たんです」
傭兵(お姉ちゃん……?)
姫「傭兵さまが来ている事は使用人達が話していたので知っていたのですが、いくらお願いしても会わせてくれなかったんです」
姫「それを相談したら、もしかしてここでは、と家庭教師の方が昨日教えてくださったので、試しに来てみたんです」
姫「そうしたら、いてくれましたっ」
105:
傭兵「……で、そこまでして会おうとしてくれたってことは、俺に何か用事ですか?」
姫「はい」
姫「やはり自分の口から直接、お礼を言いたかったので」
姫「今回のことは本当、ありがとうございました」
傭兵「こりゃ……どうもご丁寧に」
傭兵「でも本当、気にしなくて良いんですよ」
傭兵「こちとらお金をもらってやったことなんですから」
姫「そうはいきません」
姫「例えおねえちゃんの言っていた通り、お金の亡者でやりたいからやっていたのだとしても、結果的にわたくしを救ってくれたのことに、代わりは無いのですから」
傭兵「……まぁ、分かりました」
傭兵「ご丁寧にどうも、ありがとうございました。お礼の言葉、ありがたく頂戴いたします」
姫「いえ。こちらもお礼を言えて、ようやく胸のつかえが取れたような清々しい気分です」
傭兵「それは良かった」
106:
傭兵「でもまぁ、どちらにせよ……自分の正体をアッサリと明かすのは止めた方が良いですよ?」
傭兵「貴女は立場のある人間なんですから。たとえそれが礼儀で、とても素晴らしいことだとしても、ね」
姫「はぁ……」
傭兵(あ、この納得して無い感じ。たぶん同じ状況になったらまたするな)
傭兵(たぶんメイドさんが注意してるときもこんな感じなんだろうなぁ)
傭兵(……もしかして、ちょっと強情な子なのか……?)
姫「では、そうですね……交換条件、というのはどうでしょう」
傭兵「交換条件?」
107:
姫「はい。わたくしの情報を教えたのは、あなたのことを教えてもらいたいから」
姫「そういう契約を結んだということにしてしまえば、何も悪いことにはならないのではないですか?」
傭兵「う〜ん……」
傭兵(ならない、ってことにはならないと思うが……)
傭兵(でも……この流れならこちらもワザと余計なことを言った後になら、聞きたかった情報を引き出せるかもしれないな……)
傭兵「……じゃあ、それで良いですよ」
姫「それは良かったです」
傭兵「つっても、あなたが俺なんかに聞きたいことなんてあるんですか?」
姫「そうですね……では、こうしてわたくしのための依頼を請けてくれる前のあなたは、一体何をしていらしたのですか?」
傭兵「……本当に興味あるんですか? それ」
姫「外のお話ですから、それなりには」
傭兵(……なんか、ムリヤリ見つけてもらったみたいで、悪い気がしてくる……)
傭兵(……向こうの提案に乗っただけなのになんで俺が罪悪感を抱かなきゃならんのか……)
108:
傭兵「……まあ、いいでしょう」
傭兵「俺は、勇者候補者をしていましたよ」
姫「ゆうしゃこうほしゃ……? って、なんですか?」
傭兵「ほら、今隣の大陸、魔物だらけでしょ? 魔王もまだ存在してるし」
傭兵「あそこを開拓するための足懸かりとして、魔物を討伐し、魔王をも殺そうとしている人たちのことを、勇者候補者って言うんですよ」
姫「へ〜……ですからわたくしに勝てるほどお強いのですね」
傭兵「いや、俺は弱いですよ」
傭兵「貴女に勝つのに何度死んだことか……」
姫「それでも、最終的には勝てましたし」
傭兵(自分の強さを分かりきってるって言葉だな……まあ実際強いんだけど……)
傭兵「でももう勝てないですよ。だから次も勝つために、ここにいて対策を練っているわけですし」
姫「対策?」
傭兵「罠的な何かですよ。ま、詳しく言って無駄になるかもしれない以上、これ以上は言いませんが」
姫「なるほどぉ……でもそうして事前の準備を行うからこそ、お一人でも魔物を相手に戦えたのですね」
傭兵「あ、いや。俺は一人で勇者候補者をしていませんでしたよ」
傭兵「むしろ俺は、チームの中では弱い分類でした」
姫「……勇者候補者というのは、強い方々の集まりなのですね……」
傭兵「そういう意味では挫折してここにいる時点で、俺の強さはお察しですよ」
109:
傭兵「俺たちは、三人チームだったんです」
傭兵「全員同じ村出身の、幼馴染だけで組んだパーティ」
傭兵「俺も含めた全員が前衛で、戦いながら互いにフォローしあうような、そんなメチャクチャな戦い方をしていた奴らの集まりですよ」
傭兵「昔は、無茶で無鉄砲な戦い方と思っていたもんですが……今思うと、あの戦い方が一番性に合っていたように思うんです」
傭兵「チームワークが良かったんでしょうかね……」
姫「そういえば、今は一緒におられないのですか?」
傭兵「……ま、色々とあったんですよ」
傭兵「それよりも、今度は俺が話しすぎましたかね?」
姫「そうでしょうか? ……ん〜……言われてみれば、そんな気もしますね」
傭兵「よかったらもう一つ、少しで良いので聞かせてもらえませんか?」
姫「あら? なんですか?」
傭兵「ずっと気になっていた噂なんですが……――」
???「ここにいましたか」
110:
姫「あ……おねえちゃん……」
メイド「全く……」
メイド「……はぁ……あなたはもう……あれだけダメと言ったのに……」
姫「ごめんなさい……ですが、わたくし自身でどうしてもお礼が言いたかったんです」
メイド「……で、自分の身分を明かしてしまったと……」
姫「ど、どうしてそれを……! まさかおねえちゃん、最初から見ていましたね……!?」
メイド「いえ。カマをかけただけです」
姫「あ」
メイド「はぁ……そして、案の定でしたか……全く……」
メイド「本当、外の方には警戒しろとあれほど……」
姫「でも、わたくしを助けてくれた人ですし、大丈夫かな、と……」
メイド「あなたを狙うスパイなら、むしろ第一段階達成ってところでしょう?」
姫「お、おねえちゃんっ!? 本人目の前にしてそういうこと言うのはどうかと思いますよっ!?」
メイド「それぐらいのこと、傭兵さまなら理解してくれてますよ」
メイド「むしろ言われて当然だとさえ考えてくれているでしょう」
姫「えっ、そうなのですか?」
傭兵「ま、そうですね。全然気にもしていないですし、失礼な人だとも思ってませんよ」
傭兵(むしろアンタが純粋過ぎるだろうとさえ思ってるぐらいだし)
111:
メイド「それよりも、そろそろ家庭教師の方がお見えになりますよ」
姫「えっ、もうそんな時間っ?」
傭兵(うっわすっげぇ嬉しそう。表情が全く見えないのに喜んでるのが丸分かりだ)
傭兵(……ってことは、もしかして……)
メイド「はい。ですから探していたのです」
姫「分かりました! すぐ部屋に戻りますっ!」
姫「それでは傭兵さんっ、ごきげんよう!」
姫「また次も、よろしくお願いしますねっ」
タッタッタッタッタ…
傭兵「……元気の良いお姫さまですね」
メイド「……元気過ぎて困っているぐらいですよ。全く……」
112:
メイド「それよりも……彼女の身分について、改めて説明いたしましょうか?」
傭兵「いや、いいですよ。この国の王女だって分かりましたから」
メイド「そうですか……」
葉柄「ま、俺が知ったことは十分に警戒の対象になると思うんで、注意しておいてください」
メイド「……それって、自分で言うことなんですか?」
傭兵「言っておいた方が逆に怪しく思われないかな、なんてコスい考えをしているだけかもしれませんよ?」
メイド「…………はぁ〜……困りますねぇ……そういうのは」
傭兵「だからって、いくら自分で弁明しても信じてもらえないでしょう?」
傭兵「俺は王女だとかそういうの全く興味の無いただの一傭兵でお金さえもらえればそれでいい」
傭兵「って表明、薄っぺらくありません?」
メイド「……ま、そうですね……」
メイド「何をどう言おうと結局、あなたを警戒することに変わりはないんですよね……」
傭兵「そういうことです」
傭兵「信頼関係なんてものは、時間が無いと出来上がらないものですからね。当然ですよ」
113:
傭兵「それよりもあのお姫さま、メイドさんのことを“姉”と呼んでましたけど……」
メイド「ああ……アレはクセみたいなものですよ」
メイド「お互いが小さな頃からお付きのメイドをしてたので、姉のように慕ってくれているんです」
メイド「昔の呼び方がそのままなだけですよ」
傭兵「ああ、なるほど……」
メイド「こういうことになるから“おねえちゃん”は止めろって、注意してはいるんですけれどね……」
傭兵「一向に直らない、ですか」
メイド「そうですね」
メイド「あの素直過ぎてすぐに正体を明かしてしまうのも含めて、本当、どうしようもないです」
傭兵「…………」
傭兵(……言う割りには、優しい笑顔を浮かべるんだな……この人は)
116:
いい雰囲気ですなあ
121:
〜〜〜〜〜〜
 翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
 訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵(結局のところ、聞かずとも悟れたことだけれど、人間兵器として彼女を製造しているという噂はガセっぽいな)
傭兵(たぶん、あれだけの強さを比喩したものが、一人歩きを続けた結果なんだろう)
傭兵(……さすがに、王女を生きた戦闘兵器化の計画のために利用するなんてゾッとしないしな)
傭兵(…………そんなゾッとしない話も昔ならあり得たから、今もあるにはあるか……?)
傭兵(……いや、そこまで疑いだすとキリがない。あの王女が自分から進んで戦闘兵器になろうとした可能性まで考えないといけなくなる)
傭兵(とりあえず、それらの可能性は潰しておこう)
傭兵(ってなると、次はどうして加護を受けることになったのか、か)
傭兵(現状、こんな部屋で寝るぐらいは協力的なところを見ると、加護を受けたことには納得していると見るべきだろう)
傭兵(自分の意思で受けたにせよ誰かに勝手に受けさせられたにせよ)
傭兵(でないと、副作用の間大人しくこの部屋で寝続けるとは思えない)
傭兵(あれだけの強さがある以上、無理矢理加護を受けさせられたのなら、本来の部屋に留まり暴れ回ろうとした方が十二分に賢い)
傭兵(あの女騎士以外はどうもあの子を抑えられないっぽいし、それぐらいはするだろう)
傭兵(でもそれをしていないってことは少なくとも、加護を受けていることに納得はしているってことだ)
傭兵(なら、他に理由があるはずだが……)
傭兵(……今更だが、コレって周りから見れば「自分の職を失うことを積極的にやってる」ってことになるんだよな……)
傭兵(普通の人が見たら明らかにおかしなことをしている人そのものだよな……金にならないことを必死になって考えてるわけだし)
傭兵(……あれ? 俺ってかなり怪しくね?)
傭兵「……ま、まぁ、ちゃんと仕掛けもやってるから、怪しまれても大丈夫か……」
傭兵(大丈夫だとか考えてる時点で色々とおかしい気もするが……)
122:
傭兵(……にしても、あの子がどうして加護を受けたのか、は、現状の情報では推理しようも無い、か……)
傭兵(誰かに狙われたとき、せめて殺されるようなことは無いように受けた、と考えるのが妥当だろうが……)
傭兵(なんせ、王女だしな)
傭兵(もしこの考えが正しいとなると……その好きになった人の好みが加護を受けていない人だったから、ってのを前提条件に据えて考えるに……)
傭兵(現在加護を受けたことを後悔しているのは、加護を受けていたからこそ助かったと言えるほどの大きな事件に巻き込まれていないから、ってことになるのか……)
傭兵(好きな人の好みに反するものが便利なのは分かっているけれど便利だと実感できていないからいらない、と考えてしまっているのだろう)
傭兵(俺に殺されたり女騎士に殺されたりとかだって、そもそも加護を受けていなければ起きなかったことだ)
傭兵(っつーことは、だ。こうして殺し続けて副作用を抑えていくのは、現状マイナスイメージを植えつけることにしかならないってことになる)
傭兵(だからって今は他に抑える方法が無いのも事実か……)
傭兵(思い切って賊でも侵入して彼女を殺してくれりゃ、突然の死を実感できて加護のありがたみが分かってくれそうなもんだが……)
傭兵(王女だからって加護を受けていることを知られていると、殺さず誘拐され生かされ拷問されて死んだ方が楽なのに加護のせいで殺してもらえない、ってなって余計に酷くなってしまう)
傭兵(……そういう人を相手にどうやって加護の大事さを教えれば良いんだって話だよな……)
傭兵(ましてあのお姫さま自身、それが容易に出来るほど弱い人じゃないってのがどうもな……)
123:
傭兵(あの強さ、勇者候補者として隣の大陸に渡しても簡単には死なないだろうし)
傭兵(俺みたいに何度も何度も魔物に殺され仲間に迷惑かけてってのを自覚できりゃ、加護のありがたみも分かりそうなもんだけどな……)
傭兵(ま、とりあえず俺に出来るのは、こうして仕掛けを作るぐらいか)
傭兵(例え悪い方向にしか行かないと分かっていても、な)
傭兵(ここを踏めば地面が割れて、後は直線上の天井に穴でも開けてりゃ魔法が使える)
傭兵(それを切り札にすりゃ、なんとかこの室内でも勝てる……か……?)
傭兵(……あれだけ強いと自信が無いな……)
傭兵(不意を衝けてもいけるかどうか……本当に見極めたタイミングで使わないとな……)
傭兵(……他にもこれと同じ仕掛けと、別の仕掛けを置けるような場所を探すか……)
ギィ…
傭兵「ん?」
傭兵(またお姫さまか……?)
ガラガラガラ…
???「…………」
124:
傭兵(男……? ……服装も雰囲気もお偉いさんっぽくないが……)
???「あなたが傭兵さんですか?」
傭兵「そうだけど……あんたは?」
???「どうもすいません」
男「あの子の家庭教師をしております、男、と申します」
傭兵「家庭教師……?」
男「はい。とは言っても、お城の一室をお借りし住ませてもらっているので、家庭教師と名乗るのはおかしいのですが」
男「なんでもあなたは、この城下町からココに通っているようですが……僕も以前はそうだったんです」
男「その中でお姫さまに認められ、王にも認められ、一室を借りて今のようになったというか……」
傭兵「ああ……それで家庭教師という役職が残ったまま今に至ると」
男「そういうことです」
傭兵(ってことは今は、どっちかっていうと宮廷教師みたいなもんか……まぁ俺とは違って頭はいいってことに違いはないな)
125:
傭兵「で、その家庭教師さんが俺みたいなのに一体なんの用事で?」
男「一言、お礼が言いたかったんです」
傭兵「お礼?」
男「あの子を助けていただき、ありがとうございました」
傭兵「ああ……そのこと」
傭兵(家庭教師にまでお礼を言わせるとは……本当に愛されてるな、あの子は)
傭兵「ま、俺はお金をもらってるからやっただけだし」
傭兵「今こうして罠を仕掛けてるのだって、楽をしようって考えているだけですよ」
傭兵「だからま、お礼なんていりませんよ」
男「それでも、あの子の苦しみが一時的にでも無くなったのは事実です」
男「それに、僕自身も助かりましたし」
傭兵(……なにが……?)
男「ですから、あなたの意図はどうであれ、僕はお礼を言いたかったのです」
男「本当に、ありがとうございました」
傭兵(……誠実な人だ)
傭兵(自分の生徒が助かったからってわざわざお礼を言いに来るなんてな)
126:
男「本当は何か手土産か何かを用意するべきだったんでしょうが……」
男「実は明日、一度実家に帰ることになってまして……なんの用意も出来ませんでした」
傭兵「ああ、いいよいいよそんなの」
傭兵「あんただって『お姫さまの学力が上がったお礼です』とか言って急に兄弟姉妹を名乗る人に菓子折りを渡されても戸惑うでしょ? それと一緒」
男「お姫さま、というのは……?」
傭兵「ああ、そういう知らないフリはしなくていいよ。あの子自身が名乗ったんだし」
男「あ、そうですか……」
傭兵「にしても、一度実家に帰るってのは? 元々城下町に住んでたんじゃないのか?」
男「アレは仮住まいみたいなものですよ」
男「本当はもうちょっと離れた村出身なんですよ」
男「ちょっと、様子を見に帰ったほうがいい気がしたので」
傭兵「虫の知らせ、ってやつか……」
男「あまりこういう直感を信じるタイプではないのですが……何故か少し、気になりましてね」
男「姫様もしばらくは苦しまないで済むようですし、しばらく三日ほど勉強を休ませるのも兼ねて、ちょうど良いかと思いまして」
傭兵「なるほどね……」
傭兵「ま、気をつけて帰ってください」
男「ありがとうございます」
127:
ガラガラガラガラ…ダンッ
傭兵(至って普通の男だったな……頭が良さそうにも見えんかった)
傭兵(でも……ああいうのがお姫さまの好みなんだろう)
傭兵(昨日のあの授業が迫ってるって知ったときの様子じゃあ、確実だろう)
傭兵(ま、俺とは違って誠実そうな好青年だったじゃないか)
傭兵(わざわざこうしてやってくるぐらいには優しいし)
傭兵(さらには頭も良いとくりゃ、勉強を教えてくれたりすることを思うと惚れたってなんもおかしくはないしな)
傭兵「…………」
傭兵(……ん? 誠実そう……?)
傭兵(そのくせ『加護を受けている人はイヤだ』って考えを持ってるのか……?)
傭兵(……やっぱ、頭が良いヤツってのはどういう考えを持ってるのか分からんなぁ……)
傭兵(カタブツそうだし……いやでももしかしたら、案外あの男の方に『加護を受けている人も良いな』と思わせる方が楽か……?)
ギィ
傭兵「ん?」
傭兵(また来客か……今日は多いな)
ガラガラガラガラ…
女騎士「やあ」
傭兵「げっ」
128:
女騎士「げっ、とはなんだげっ、とは」
女騎士「せっかくボクが来てやったってのに……」
女騎士「それともなにか? ボクに対してやましいことでもあるのか? オマエは」
傭兵「そんなことはないが……」
傭兵「っていうか、おまえこそなんの用だ?」
女騎士「ちょっと暇になったからさ」
女騎士「どんな仕掛けをしているのか、騎士長であるボクが直々に見てやろうというわけさ」
傭兵「あっ、そ」
傭兵「いらない」
傭兵「どうせ見張りも兼ねてバカにしに来ただけだろうしな」
女騎士「捻くれてるなぁ……」
女騎士「ま、実際は見張る気も仕掛けを見る気も無いんだけどね」
傭兵「……じゃあなんで来たんだよ」
女騎士「ちょっと、手合わせしない?」
傭兵「はぁ?」
134:
女騎士「あの子に勝った実力をちょっと見てみたいと思ってさ」
傭兵「……厄介なことを思うな、お前は」
女騎士「メイドさんから聞いて無いかな? ボクがオマエを認めたって」
傭兵「そりゃ確かに聞いたけど……」
女騎士「だから、試させてよ」
傭兵「やだよ。めんどい」
女騎士「あ、魔法は無しね」
傭兵「おい聞けよ」
女騎士「純粋なキミの実力を測りたいんだよ、ボクは」
傭兵「ダメだコイツ……頭もおかしけりゃ耳もおかしい」
135:
傭兵「大体、お前だって自分で言ってただろ? 俺じゃお前に勝てないって」
傭兵「それなのに戦うなんて、ただの弱い者いじめになるだろ」
女騎士「失礼だなぁ……ボクはキミを認めてるって何度も言ってるだろ?」
女騎士「それに、弱い中にも伸び代があるかどうかを確認したいんだよ」
傭兵「二十代にもなって伸び代なんてあるわけねぇだろマジで……」
女騎士「ん〜……そこまでイヤ?」
傭兵「イヤだ」
女騎士「じゃあ訊くけど、キミは今何してるの?」
傭兵「お前知ってるだろ……次またあの子と戦った時勝つために色々としてんだよ」
傭兵「っていうかお前はそれを応援してくれるんだろ? だったら邪魔しないでくれ」
女騎士「邪魔する気は無いって。むしろ、ボクと戦うこと自体が手助けになると思う」
傭兵「はぁ?」
女騎士「あの子の戦いの師匠はこのボクだ」
傭兵「えっ……?」
女騎士「だからま、あの子の剣筋はボクの剣筋でもある」
女騎士「ボクはそれを、君の力に合わせて振るおう」
女騎士「どうだい? 手合わせする価値はあるだろ?」
傭兵「…………」
136:
傭兵(これは……コイツなりにあの子のために頑張りたいってことなのか……)
傭兵(それとも俺に協力しようとしてくれてるのか……?)
傭兵(……いや、多分前者だろう)
傭兵(自分自身で戦ってあげたいけど忙しくて無理だから、今の空いた時間に俺に教えられる限りのことを教えたい、ってな感じか)
傭兵(……なら、無碍にするのも悪いか)
傭兵「……分かったよ。手合わせ、してやるよ」
女騎士「さすが。話が分かるね」
傭兵(要はコレでクセを見抜いて見切れるようになれと、そういうことだろう)
傭兵(良いさ。やってやろうじゃないか)
137:
〜〜〜〜〜〜
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
女騎士「ん? もうそろそろ時間かな? じゃ、終わりにしようか」
傭兵(やっぱつえぇわ……分かりきってたことだけど)
傭兵(魔法が使えても勝てねぇ相手に魔法なしだとここまでの差があるか……)
傭兵(手も足も出なかった……)
傭兵(っていうか小柄な身体のどこにあんな剣を振り回せる力があるんだ?)
傭兵(重心移動が巧いのは分かるが、それ以上に筋肉に無駄が無さ過ぎるだろ)
傭兵(剣に振り回されてるように見えて、振り回されていない)
傭兵(むしろ振り回される際の力を逆に利用している)
傭兵(だからってその大きく見える隙を衝けば力を抜いて剣を一度離し、その利用していた力全てをリセットして攻撃してくる……)
傭兵(小柄さを最大限利用した戦い方だ。だからこんなに細く見えるのに、とてつもなく強いのか)
138:
女騎士「で、どうだった? 倒れるまで戦った感想は?」
傭兵「どうだったもこうだったもコレ……実力の少し上を出す方法……お前が教えたのか?」
女騎士「少し上……? ああ……メイドさんが言ってたっけ。あの子の本当の副作用と一緒にそんなこと」
女騎士「いや、でもボクは教えてないよ。多分特訓の最後のシメに手合わせする時はこんな感じだったから、もしかしたら勝手に身につけたのかも」
傭兵(……結局……あの子も俺とは違って戦いの才があるってことか)
傭兵「っていうか、なんであの子に戦いの技を教えてるんだ?」
傭兵「王女なんだろ? あの子」
女騎士「え……? いや、そんなことは……」
傭兵「あ〜……そういうウソいいから」
傭兵「昨日、本人が来て言ってったし」
女騎士「そうしてウソ言って聞き出そうって魂胆?」
女騎士「カマかけようとしてるんでしょ?」
傭兵「……あの子の師匠なら分かるだろ? もしあの子がここに来たらあっさりと口を滑らせるだろうな、ってことぐらい」
傭兵「というより、カマかけにしてもいきなり王女かどうかなんて推理できないって」
傭兵「普通の思考してる人間なら、こんな薄暗い場所で寝るのが王女かどうかなんて考えないって」
女騎士「……ま、確かにそうか」
139:
女騎士「でもまあどちらにせよ、どうして戦うための技を身に付けてるかってのは教えられないんだ」
女騎士「あの子の正体をボクの口から言えないのと同じでね」
傭兵(……ま、それぐらいの口止めはするか……)
女騎士「それよりも、キミのクセだよ」
傭兵「は?」
女騎士「戦っていて気付いたんだけど、キミって集中力乱れ過ぎじゃない?」
傭兵「あ〜……」
女騎士「なぁんかボクしかいないしボクとしか戦わないって分かりきってるのに、どうもボクの周囲にまで気がいってるって言うか……」
女騎士「他に誰もいないことなんて分かりきってるのにそんなに集中力を分散してたら、そりゃ勝てるものも勝てないって」
女騎士「……といっても、ボク一人に集中したからって勝てるわけじゃあないんだけど」
女騎士「それでも、あの子にぐらいは勝つ機会が巡ってくるようになると思うけど? それなのに本当、勿体無いよ」
傭兵「でもこれ、直せないんだよ」
女騎士「直そうとしたの?」
傭兵「いや、むしろ利用しようとした」
女騎士「そういうのは臨機応変にしないと」
女騎士「複数に囲まれる可能性があるならそれの方が良いんだろうけど……」
傭兵「でもそうすると精度が落ちそうだからさ」
女騎士「そうは言うけど……でもやっぱ、一人で戦うんなら多少は仕方ないんじゃない?」
傭兵「……昔は、一人じゃなかったからな……」
傭兵(二人も、俺のフォローをしてくれる人がいたからな……)
女騎士「え?」
傭兵「いや、なんでも」
傭兵「ま、前向きに検討しておくさ」
140:
〜〜〜〜〜〜
  真夜中
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
  城内
◇ ◇ ◇
姫「男さま……」
男「やあ。ごめんね、こんな夜遅くに」
姫「そ、それはその、構わないのですが……その、どうかされたのですか? こんなお時間に、それも授業中に呼び出されるなんて……」
男「ふふっ……そんなにソワソワしなくても大丈夫だよ」
姫「あ、いえ、そんなことは……」
男「ほら、僕は明日――いや、今日の陽が昇る頃には、一度実家に帰っちゃうからさ。その前に一つの区切りとして、キミに言っておきたいことがあって」
姫「は、はははいぃ!」
男「……ふふっ。本当、キミは可愛いね」
姫「か、かわっ……!?」
男「……もしかしたら、もうなんとなく悟っているのかもしれないけれど……」
男「……僕はね……キミのことが――」
141:
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
ダンダンダンダン!
傭兵「うっせぇなぁ〜……だれだ? こんな夜中に」
ガチャッ!
女騎士「失礼する!」
ツカツカツカ…!
傭兵「な……女騎士!?」
女騎士「…………」キョロキョロ
傭兵「おいおいおい……いきなり人の家にやってきて、なんなんだ?」
女騎士「お前たち!」
兵士達「「「「「はっ」」」」」
傭兵「しかもそんなぞろぞろと連れてきて……」
傭兵「俺の家はこんな大人数がパーティ出来るほど広くはないぞ?」
女騎士「くまなく探せ! どこに何があるか分からんからなっ!」
兵士達「「「「「はっ」」」」」
傭兵「なっ……おい、いきなり家主の許可なしに家捜しとは感心しないな……どういう了見だ?」
女騎士「…………」
傭兵「……ちっ。だんまりかよ」
142:
兵士達「いません!」「こちらもです!」
女騎士「もっとしっかり探せ! 隠し扉の類があるかもしれないだろ!」
傭兵「いや、ねぇけど」
女騎士「地下室がある可能性も考慮しろ! ここに連れられた可能性が一番高いんだっ!!」
兵士達「「「はっ」」」
傭兵「地下室なんてあるわけねぇって。ただのボロ家なんだからよ」
傭兵「つーか、何個も部屋がある家じゃあねぇんだから、入ったらすぐにでも分かるだろ」
女騎士「そんな言葉、信用できないよ」
傭兵「おっ、やっと返事してくれたな」
女騎士「少し黙っていて。オマエには、後で問い詰めなけきゃいけないことがあるんだから」
傭兵「俺としちゃ、いきなり家に押し入られて、なんにもないこの家の家捜しされてる時点で怒鳴りつけたい気分なんだが」
女騎士「…………」
傭兵「ちっ。まただんまりかよ」
143:
兵士「騎士長! やはりここには……」
女騎士「ちっ……! オイッ!」
グイッ
ダンッ!
傭兵「ぐっ……!」
女騎士「オマエ……! あの子をどこに連れて行ったっ!!」
傭兵「……いきなり襟首掴まれて壁に押さえつけられてんなこと訊かれて答えるヤツがいるのかよ」
女騎士「いいから答えろっ!!」
傭兵「……はぁ……あのな、あの子ってのはそもそも誰なんだ?」
女騎士「しらばっくれる気か……!?」
傭兵「しらばっくれるも何も……俺、数時間前から家出て無いし」
女騎士「口ではどうとだって言えるっ」
女騎士「それを証明できる人間だっていないでしょっ?」
傭兵「……まぁ、確かに」
女騎士「さあ! どこに連れて行った! 家に直接連れてこないとは知恵が回るようだけど……!」
傭兵「だからさ、誰を探してんの? お前らは」
女騎士「……っ」ギリッ…!
傭兵「あん?」
女騎士「オマエが連れ去った……姫さんだよっ!!」
149:
傭兵さんカワイソス
151:
傭兵「姫……? ああ、あの子ってのはそのままだったか……って、お姫さまが城からいなくなった?」
女騎士「さっきから白々しい……! オマエが連れ出したんだろっ!」
傭兵「だから違うって。証拠でもあるのか?」
女騎士「オマエと姫様が出会い、オマエが姫様だと知ったその翌日に姫様が消えたんだ!」
女騎士「オマエを怪しまない方がどうかしてるっ!」
傭兵「いちいち叫ぶな……」
傭兵「っていうか、どうやって連れ去るんだよ。俺は城の中にも入れないんだぞ?」
女騎士「あれだけ魔法が使えるんだっ。どうとでもなるだろ」
傭兵「お姫さまの部屋なんて、俺は知らないぞ」
女騎士「探知できる魔法もあると聞く。それを使ったに違いない」
傭兵「あるにはあるが……そもそも俺がお姫さまを連れ去る利点は?」
女騎士「オマエが他国のスパイなら説明がつく」
女騎士「傭兵なんて、どこの馬の骨かも分からぬ輩ばかりだからな」
傭兵「……ま、疑われる要素は十分にあるのは分かった」
傭兵「でも、俺には無理だ」
女騎士「まだオマエは……!」
152:
傭兵「いやいや、そうじゃなくてさ」
傭兵「そもそも他国のスパイだったとしても、ようやく信頼され始めたって段階で行動に移ると思うか?」
傭兵「国の重役を誘拐するなんて任務を課せられたのだと想定した場合、普通ならこんな短い期間の任務だなんてあり得ない」
傭兵「だから、期日が迫っただなんて可能性も無い」
傭兵「手柄を急いだとしても、すぐに疑われてしまう状態で手を出してしまったら、それこそ手柄も何も無くなるだろ?」
女騎士「そう思わせるのが狙いなんでしょ? やるはずのないやつがスパイだったら完璧に裏を掻いたことになるからなっ」
傭兵「そんなつもりはないが……まぁ、俺が疑われるのには納得だからな」
傭兵「でも俺じゃない以上、せめて疑いを晴らそうってぐらいには考えるんだよ」
女騎士「ふんっ。やったことをやっていないことにしようってこと?」
傭兵「だからそんなつもりは――いや、今はどれだけ言っても無駄か」
傭兵「それよりも、あの城には魔法を封じる魔法があるだろ?」
女騎士「あるにはあるけど、当たり前のように解除されてた。ま、オマエが解除したんだろうけど」
傭兵「それでも、解除された後どんな魔法が使われたのかの形跡はあったはずだ」
傭兵「それを教えてくれないか?」
女騎士「自分のことなのに知らないフリ? あらまぁ随分と丁寧」
傭兵「なんでも良いから教えてくれ」
傭兵「ほら、演技している俺を見抜こうとしてくれりゃいいから」
女騎士「ちっ……ねえ。説明お願い」
兵士「はっ」
153:
兵士「城の敷地内で発動されていた魔法は、どうも土を柔らかくする類のものだったようです」
傭兵「土を柔らかく……?」
兵士「はい」
兵士「落ちても怪我をしないように、といったものでしょう」
傭兵「……ふむ……」
傭兵(魔法の属性が水である以上、俺でも可能なことに変わりは無いか……)
傭兵「……魔法を使って侵入されたような形跡は?」
兵士「簡単な調査のみですが、そのような形跡は……」
傭兵「そうか……」
女騎士「なに? 見つかってなくて安心した?」
傭兵「……いや、土を柔らかくしてあったんだよな?」
傭兵「ってことは、外から連れ出された可能性って低いんじゃないか?」
女騎士「は?」
154:
傭兵「その柔らかくされてた場所って、窓のすぐ下?」
兵士「そう、ですね……はい。そのように報告されたと記憶しています」
傭兵「ほら。どっちかっていうと、飛び降りた、って考えるのが妥当じゃないか?」
女騎士「じゃあ何? 姫様が自分から飛び降りたっての? 魔法を使って?」
女騎士「無理無理。だってあの子、魔法が使えないもの」
傭兵「じゃあ……城の中から突き落とされた……?」
女騎士「そう。ボクもそう思うよ。城の中へと侵入したオマエの手でさ」
女騎士「事前に落とす場所を想定して土を柔らかくして、あの子を気絶させて突き落としたんじゃない?」
傭兵「もしくは……誰かの手引きで柔らかくしてもらって飛び降りた、とか」
女騎士「……さっきからなに? 何が言いたいの?」
傭兵「確かに今日は、俺がお姫さんの正体を知った翌日だ」
傭兵「だがそれよりも、正確に日付を刻むなら、もっと重要な日だろ?」
女騎士「? なに? どういうこと?」
傭兵「正確に日付を刻むなら、今日は俺がお姫さんの正体を知った翌々日ってことになる」
傭兵「なにより今日は……お姫さんの大好きな家庭教師が、帰る日だ」
女騎士「……? それが?」
傭兵「まだ分からないか?」
傭兵「これは誘拐じゃなくて」
傭兵「駆け落ちじゃないか、ってことだ」
155:
女騎士「は……? いや……いやいやいや」
女騎士「そんなこと、あり得ない」
女騎士「あり得ない……あり得ないっ!」
女騎士「あの子に限って……そんな……っ!」
傭兵「でも状況的にはその可能性もあるにはあるだろ」
女騎士「あり得ないの! 絶対にっ……!」
女騎士「アンタ、自分の疑いから目を逸らすためって言っても、あまりにもてきとうな事言わないでっ!」
女騎士「あり得ないんだから! それはっ! 絶対にっ!!」
傭兵「…………」
傭兵「……まあ、俺はお姫さまのことはなんも知らないからな」
傭兵「長い付き合いで師匠である女騎士が言うんならそうなんだろ」
女騎士「そう……そうだ……そうだよ……そんなはずがない……駆け落ちなんて……そんな……」
傭兵(……とは言っておくが……普通に考えるなら自分から飛び降りたと考えるのが妥当な気がするな……)
傭兵(好きな人が『加護を受けた人がイヤ』ってだけで加護を受けたことを後悔する子だからな……いきなり駆け落ちに気持ちが傾く可能性なんて大いにある)
傭兵(好きな人に必要だと迫られるのは、あの年代だと中々に魅力的に映るだろうし)
傭兵(それに、あの男が来たときに言った「僕自身も助かった」という言葉……アレは一度寝て覚めても副作用がなくなっているからこその言葉なんじゃないかと、今ならば思う)
傭兵(一時的にでも抑えられてくれたから、駆け落ちした後も余裕があるって意味で)
傭兵(……なんだかんだで結局あの人も、加護を受けていようといまいと姫が好きだったのでは、と思う)
傭兵(ただあの姫が勝手に、その何気なく話してしまった好みを、ずっと引きずり続けているだけで……)
傭兵(それの証明をした今、案外副作用はあっさりと無くなるのかもしれないな……)
傭兵(俺たちの目の届かないところで、な……)
156:
女騎士「誘拐じゃなくて駆け落ち……? そんな……そんなことはない……!」
女騎士「そうだ……そうだよ……!」
女騎士「大体、さっきからの話のどこに……! オマエが犯人じゃないと否定できる要素があったって言うんだ!」
女騎士「話を逸らして嘘をつき、誤魔化しきってしまおうとする意思が丸見えじゃないかっ!」
傭兵「……俺的にはこれだけでも十二分に俺じゃないって証明になると思ってたんだがなぁ……」
傭兵「ま、それで納得してもらえないんなら、もう一つ否定する材料はある」
女騎士「……なに?」
傭兵「これは確認なんだが、魔法が封じる魔法ってのは、解除されたらすぐに分かるよな?」
女騎士「当然。そうできない者を、宮廷魔法使いとして迎え入れるわけがない」
傭兵「まさに完璧な警護って訳だ」
傭兵「物理的には兵士が見回り、魔法的には宮廷魔法使いの手で結界魔法が張られてる。それも解除してもすぐに異常と知らしてくれる魔法無力の完璧なものがな」
傭兵「そんなもの、外側から破ることなんてほとんど不可能だ」
女騎士「なに? それが出来た自慢?」
傭兵「さすがに、もう突っかかるのは止めてくれ……俺が一番怪しまれてるのは俺が一番理解してるし、認められないのも動揺しているのも分かるが……話が一々止まる」
157:
傭兵「まあともかくはだ、解除してすぐに異常を察知したんなら、すぐにその場所に兵が向かったんだろ?」
女騎士「もちろん。そしてそこには魔法を解除した形跡と、さっき話した魔法の痕跡が見つかった」
傭兵「ほら、やっぱり俺じゃあ無理だ」
女騎士「は?」
傭兵「城の高さとかよく知らないけど、結界魔法を解除してからすぐ、その窓のある階に行けるものなの?」
女騎士「魔法を使って壁を登れば行ける」
傭兵「でもその痕跡は無かったんだろ? あったのは着地時に怪我をしないようにするための魔法だけだ」
傭兵「それを応用して壁を登る方法があるんなら教えてくれ」
傭兵「それともあれか? 宮廷魔法使いの目を誤魔化せる魔法を俺が使ったってのか?」
女騎士「あれだけのことが出来るんだ。出来てもおかしくは無い」
傭兵「……そうか……そこまで評価を高くしてくれるのは、純粋にちょっと嬉しいな……」
傭兵「でも生憎と、俺には無理なんだ」
女騎士「口ではなんとでも言える」
傭兵「確かに」
傭兵「じゃあ言い方を変えよう」
傭兵「俺がしたにしろそうでないにしろ、どっちにしてもこれが誘拐劇だった場合、一人じゃとても無理だってことだ」
158:
傭兵「魔法を使って城を昇ることが出来たとしても、そのまま連れ去れるほどの時間まで、その結界が解除された場所を兵が駆けつけられなかった筈が無い」
傭兵「そこは女騎士が訓練させていることから自分でも分かるだろ?」
女騎士「…………」
傭兵「だから、地面を柔らかくしてからその宮廷魔法使いにも見つけられない魔法を使ってお姫さんのところに向かって、彼女を気絶させて逃げるほどの余裕は当然無い」
傭兵「建物の中には地面が無いから、城の中から窓の下に向けて魔法を遠隔で発動させる術も無い」
傭兵「だから万一城になんとか侵入出来たとしても、女の子一人抱えて誰にも見つからずに脱出するなんてのは無理だってことになる」
傭兵「荷物があって遅くなってるってのに兵の見回りを掻い潜り脱出できるほどのヤワな見回りはしてないだろ?」
傭兵「つまり、事前に打ち合わせしていた可能性――駆け落ちの可能性が無いと女騎士が否定するんなら、一人じゃ無理だってことになる」
傭兵「誰か協力者がいないと出来ないってことだ」
女騎士「そんな……」
女騎士「……いや、確か熟練した魔法使いは大地がなくても魔法が使えるって聞いたことがある」
女騎士「ボクのところにいる宮廷魔法使いの中にだって数人はいたはずだ」
女騎士「ならオマエにだって出来るんじゃないのか?」
傭兵「出来ることは出来るが……でもそうなってくると今度は大地を柔らかくする理由が見つからなくなる」
傭兵「地面から窓がある階までの厳密な距離は分からないが、容易に侵入を果たさぬよう結構な高さなんだろ?」
傭兵「となると、それほどの距離に対して魔法を使うんなら、確実に人一人を浮かせられる魔法ぐらい使えたはずだ」
傭兵「例えば俺なら、宙に浮く水を生み出して空から逃げる、とかな」
傭兵「だから、わざわざそんな地面に痕跡を残す理由がなくなる」
傭兵「もし地面に痕跡が無ければ、兵士が姫を連れ去られた可能性を考慮する時間を少しでも稼げるからな」
女騎士「くっ……」
159:
傭兵「まぁもっとも、これすらもそう思わせるためのワナだって言うんなら、さすがに弁明のしようが無いかな」
傭兵「さて……女騎士。俺をまだ、疑うか……?」
女騎士「……当たり前」
女騎士「…………とはいえ、警戒レベルは落としてもいいとも、思う」
スッ
傭兵「ふぅ……やっと離してくれたか」
女騎士「……すまなかった……」
女騎士「……姫さんがさらわれたせいで、ボクも冷静じゃあなかった」
女騎士「それでも、オマエに指摘されずとも、それぐらい推理できないといけなかった」
女騎士「騎士長として恥ずべきことをした」
女騎士「だから……」
傭兵「いや、良いってば。俺が疑われるのは分かるって言っただろ?」
傭兵「それになんだかんだで女騎士は、まだ俺のことを疑ってるだろ?」
女騎士「もちろん」
女騎士「今も、何か他の方法があってそれから目を逸らすためにああ言ったんじゃないか、って疑ってるところ」
傭兵「そう。それでいい」
傭兵「所詮俺は傭兵だ。金での雇われでしかない」
傭兵「それが正しい」
女騎士「……ふん」
160:
女騎士「で、その話だと誘拐した犯人は複数いるってこと?」
傭兵「それだけじゃあない」
傭兵「誘拐が確かなら、城の中にもスパイがいるってことになる」
女騎士「え……!? まさかそんなっ……!」
女騎士「……いや、でも……そうだ……誘拐するのに必要な人数は、地面を柔らかくするための魔法を使う人と、姫を上からその地面に向けて落とす人」
女騎士「城への侵入をその段階で許していないとするなら、城の中にいないと辻褄が合わない」
傭兵「そういうことだ」
傭兵「あくまでも、城に侵入されるという万が一がなかったなら、って前提だけどな」
女騎士「でも……だったら城の中にいるスパイとオマエが通じていて、オマエが姫を受け止めたという可能性もあるということ……?」
傭兵「それはそうだな」
傭兵「だから、俺のことは疑ったままで良いって言ったんだ」
161:
傭兵「でもさっきも言ったけど、俺は駆け落ちしたんだと思うけどな」
女騎士「だから……あの子に限ってそれはあり得ないんだって!」
傭兵「でも、根拠はある」
女騎士「根拠なんて……――」
女騎士「――……いや、良いよ。聞かせて」
女騎士「誘拐したことについて、何か口を滑らせるかもしれないし」
傭兵「それはどうも」
傭兵「で、根拠って言うのは何を隠そう、お姫さま自身の存在だ」
女騎士「……どういうこと?」
傭兵「常識的に考えてもみろよ」
傭兵「地面に突き落とされるってことは、あの姫を気絶させるか、窓辺に呼び出した彼女の不意を衝かなきゃならない」
傭兵「あの姫を不意打ちでやれる人なんて、そもそもいるのか?」
女騎士「……あっ……!」
162:
傭兵「女騎士はあの子に勝てるからその考えに行き着いてなかったみたいだが……普通にあの子は強い」
傭兵「俺は副作用の時のあの子としか戦ってないが、副作用中だからって特別強くならないことを鑑みると、そもそものあの子が強いってことになる」
傭兵「そんな子に不意打ち?」
傭兵「その場から突き落とす? 気絶させる?」
傭兵「そんなこと、不可能に近いだろ」
女騎士「…………」
傭兵「だから、自分から飛び降りるしかないって俺は考えた」
傭兵「じゃあその理由は?」
傭兵「となると、好きな人にお願いされたから、って考えに行き着いた」
傭兵「だからこその駆け落ち説なんだ」
女騎士「でも……そんな……」
傭兵「それで確認なんだが、家庭教師の男って奴は、今でも城にいるのか?」
女騎士「それは……確か、全員いる」
女騎士「兵達全員に部屋を見回らせた時にはいたって報告はうけた」
女騎士「その時に姫さんがいなくなってるって気付いて、今こうして捜索に出ているぐらいだし」
傭兵「家庭教師が今でもいるってことは……やっぱり下であの子を受け止める協力者はいたってことか……」
傭兵「住み込みの使用人とかは全員いた?」
女騎士「そこまでの確認はまだ……でもたぶん、城に戻れば報告は上がってると思う」
傭兵「じゃあ使用人が協力者だった可能性もあるな……いなくなってる人がいれば、だけど」
163:
女騎士「でも駆け落ちを提案した男がどうしてまだ城に――」
女騎士「――って、そこで実家に帰る日と重なる、って話に繋がるんだ」
傭兵「そういうこと」
傭兵「どうせ夜が明けたら普通に実家に帰れるから、今もまだ城にいるんだよ」
女騎士「その協力者が男の実家近くに姫を送ると約束していて、向こうで合流すればそれで済む話」
女騎士「今問い詰めたところで、半日ぐらいならシラを切り通されてしまう」
女騎士「今更、実家行きを阻止することも出来ない」
傭兵「だからって当日に追いかけても、向こうには土地勘がある。あっさりと振り切られてしまうだろう」
女騎士「ってことは、姫を見つけるのは……」
傭兵「日が昇るまでが限界、ってことになる」
女騎士「だったら……」
傭兵「ああ。急いで城に戻って情報を整理しよう」
女騎士「うん」
女騎士「……って、なんでオマエが仕切ってるんだ?」
女騎士「ボクはまだオマエを疑ったままなんだぞ?」
傭兵「あ、いや……なんか、流れで」
女騎士「全く……分かってる? これは協力じゃあない」
女騎士「オマエを城へと連行するだけだからな」
169:

二つばかり疑問点
副作用についての疑問点。
発症者は副作用が発症している間に死なないと、それを抑える事が出来ないって事でいいのだろうか?
『姫』の優先順位についての疑問点。
これは話が進んで、姫の正体や裏が判明した時点でわかるんだろうけど、
騎士団長の通常任務より、優先順位の低い姫の扱いって何なんだろう?
王族でも価値がないと考えられているのか? 王族以外ではない貴族の娘なのか?
170:
>>169さんの疑問の答え
・副作用
副作用は発症していない間に死んでも抑えられる設定。
だからもし傭兵が加護を拒絶していて、副作用が今にも発症しそうだった時に姫に殺されてしまっていた場合でも抑えられるということ。
だからほとんどの人は自害することで解決している。
ただ王族だからそれをさせてしまうのはいけないってのと(誇り云々ではなく、王族が加護を受けているとバレると誘拐された際、舌を噛み切って自害させてもらえない状況を作られてしまうから。自害してしまえば蘇らせてもらえ、そのまま救出される状況になるのに、そうできなくなるから)、あとは多分なる過保護の結果、今のシステムになってます。
・姫の優先順位
「姫」の優先順位はこの城の中では二番目です
後は追々
疑問に感じてくれてありがとう
それだけ読んでもらえてると分かるとなお頑張れるわ
189:
風呂の中で気付いた
>>170の副作用の説明、姫が相手だと普通に矛盾してるじゃねぇか
人間兵器の噂だとかそもそも死ぬだけの簡単なお仕事の依頼が出てる時点で隠す隠さないじゃねぇな
普通にミスってた
「自害で解消を続けてたら余計に『加護がいらない』と思うようになってさらに酷くなる」
って設定を書くのを忘れてた
でももうコレを利用した展開もおじゃんになったから、普通に「自害じゃあ解消できない」って方向に変える
なんか二転三転してごめんね
171:
〜〜〜〜〜〜
ガタガタガタ…ゴトン、ガタン…
姫(……ん?)
姫(ここは……?)
姫(……真っ暗……?)
姫(いえ……この感触、目隠しをされているのですね……)
姫「……っ」
姫(猿轡まで……それに、この揺れは……)
姫(馬車、でしょうか……?)
姫「…………」
ギチギチ
姫(腕も縛られていますね……)
姫(ですが後ろ手ではなく、上に両手を挙げられ壁に縛り付けられるような形ですか……)
姫(……体勢も、寝転ばされるのではなく、座らされておりますし……)
姫(どちらにしても、逃げ出せない状況というわけですか……)
ガタガタ…ゴトッ、ガタ…
姫(背中からも揺れが実感できるところを見ると、結構広い馬車……商業用の屋根つき荷台とかでしょうか……?)
172:
姫(早く逃げ出して自由になりたいところですが……)
姫(どうもわたくしの力では解けないほど強く腕が結ばれているようですし……)
姫(足だってギチギチに結ばれてます)
姫(……そもそもわたくし、そこまで力は強くありませんし……)
姫(全て体重移動の為せる業ですからね……こうなってしまっては元も子もありません)
姫(ですが……どうしてこうなってしまったのでしょう……?)
サワッ
姫「っ!」ビクッ
姫(今、太ももを……!?)
野太い声1「おっ、コイツ起きたようだぜ」
野太い声2「なんだよ、着く途中で目が覚めちまったのかよ」
野太い声3「オマエが何回も触るからだろ、このロリコンが」
野太い声1「へへへ……だがお前らも着いてから楽しむんだろ?」
野太い声4「当たり前だろ? 王族の女なんてそうそう抱けねぇだろうしな」
姫(抱っ……!)
野太い声1「こんなガキでも、やっぱこの白い肌はたまんねぇよなぁ」
サワサワ
姫(くっ……いや! 止めて下さいっ!!)
姫「…………っ!!」モゴモゴ
野太い声1「ははっ。なぁに言ってるのかわかんねぇや」
173:
野太い声1「こういうの、たまんねぇよなぁ……」
姫「んーーーー!! んーーーーーーーーーーーっ!!」
ジタバタ、ギシギシ…!
野太い声1「どうすることもできねぇって状況の相手を犯すのは、やべぇぐらい興奮するぜ……」
野太い声1「必死に抵抗しても、暴れても、何をしてもどうすることも出来ない状況を段々と理解していくこの感じ……!」
野太い声3「おいおい、オマエもうやべぇじゃねぇか」
野太い声5「運転している俺の身にもなれよ? オマエだけで楽しもうとすんじゃねぇよ」
野太い声1「ははっ……分かってるよ……でもなぁ……――」
姫「んーーーーーーーーー!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
野太い声1「――……こんな必死なヤツが、今以上にヤバくなるのってよぉ……もっと見たいじゃねぇか」
野太い声1「泣き叫ぶ様がもっと見たいんだよ」
野太い声1「自分がどれだけ危ないかを理解させたいんだよ」
野太い声1「今以上の悲鳴を上げさせたいんだよ」
姫「んーーー!! んーーーーーーっ!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!」
野太い声1「……こぉんな風になぁ……!」
ビリッ!!
姫「っ!!!!!」
姫「んんんんんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
174:
野太い声1「へへっ……そう暴れんじゃねぇよ」
野太い声1「いや、もっともっと暴れてみろよ……」
野太い声1「それだけ俺が興奮すんだよ」
野太い声2「ああ〜……ありゃダメだな。変なスイッチが入っちまってる」
野太い声4「服の前を切っただけであれだもんな。今からあの小さな胸でも責め始めるんじゃね?」
姫(っ! イヤ! ダメッ!!)
ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
野太い声5「ったく……だからぁ、運転手の俺を置いて楽しむなっつってんだろっ!」
野太い声3「ああ、もう無理だわアレ。目が血走ってるし」
野太い声2「ありゃもう誰にも止められねぇな」
野太い声1「へへっ、そぉんなに暴れるなよなぁ……そんなに暴れたら、服がはだけて大事なモノが見えちまうかもしれねぇだろぅがよぉっ!」
ビリリッ!!
姫「っ! んんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーっ!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」
175:
野太い声1「たまんねぇ……たまんねぇなぁ……このちょっとしか膨らんでない胸が」グイッ!
姫(っ! やだっ! やだやだやだ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!)
姫「んんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーー! んんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ジタバタジタバタ…
野太い声1「おっと、暴れようとしたって無駄だぜ」ガッ
姫(あ、足を挟みこまれた……!?)
姫(まさか今、この気持ち悪い男は……わたくしの、目の前に……っ!?)
野太い声1「こうして足を押さえ込んだらおめぇは何もできねぇんだよ」
野太い声1「じゃあ、たっぷりと堪能させてもらおうか」
姫「っっっっっ! んんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーー! んんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ドンッ! ドンッ!
野太い声1「へへっ、むだむだむだぁ〜……」モミモミ…
姫(ぐっ……! いやっ……!! 気持ち悪い……っ!! 離して……っっっ!!!!!!)
野太い声1「いいねいいねぇ……目が見えなくても口に布を噛まされてても分かるぜ。メチャクチャ悔しそうにしてるのがよぉ……」
野太い声1「それが一層俺を興奮させてるんだぜぇ、オイ」
176:
野太い声1「この手の平で押さえつけるようにして揉むのが俺は一番好きでねぇ……」グッ、グッ
姫(い、いたっ……!)
野太い声1「ただでさえ小さな胸がさらに小さくなりそうなほど強く押して、それでいて確かな柔らかさと固くなってくる突起の感触がたまんねぇんだよぉ……」
姫(っ!!)
野太い声1「ほぉら、分かるだろ? おまえの脚にこすり付けてるコレがもう固くなってるのがよぉ……!」
姫(やだ……やだやだやだやだやだ!! こわいこわいこわいこわいこわい!! きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいっっっ!!!!)
177:
〜〜〜〜〜〜
野太い声1「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
姫(やっ……! だめっ……!)
野太い声1「おいおいなんだ……? 興奮してきてんのかぁ、おい」
姫(っ! そんなわけないっ! 都合の良いように解釈しないでっ!!)
野太い声1「たまんねぇなぁ……はぁ、はぁ……も、もう我慢できねぇっ!!」
スッ
姫(っ! ま、まさか……!)
野太い声2「おいおい、馬車の中でおっぱじめる気か?」
野太い声1「ああ、ダメだ。もう我慢できねぇ。どれだけ止めようとしても無理だ。もうこれ以上は待てねぇ」
野太い声4「だってよ、運転手。どう思う?」
野太い声5「許さねぇ。あとで全員でヤるのに参加させねぇ」
野太い声4「だとよ」
野太い声1「それだけで良いんなら今ヤるに決まってるだろぉ、おい」
野太い声5「ちっ……勝手にしろカスが」
野太い声1「はぁはぁ、よぉし。許可も出たぞぉ〜……えへ、えぇへへぇ……」
178:
ピト
姫(っ!)
野太い声1「わかるかあ〜? コレが? この手に触らせてるのが何かよぉ……」
姫(……っ!?)
野太い声1「わかったか? げへっ、王族のガキでもやっぱマセてんだなぁ」
野太い声1「つーことは、これからコレをどこにナニされるのかも分かるよなぁ?」
ビリリィッ!
姫「っ!! んんんんんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
バタバタバタ!!!!
野太い声1「ほぉら、暴れるなよ。これから足の縄を切ってやるんだからな」
ブチッ
野太い声1「さぁ、下着を脱ぎましょ――」
ブン…!
ガァン!
野太い声1「――があああああーーーーーーーーーー!!」
179:
野太い声1「いてぇ……くそっ、なんだこの女……!」
野太い声1「くそっ……くそ、くそっ!!」
野太い声3「おいおい何やってんだよおまえは」
野太い声3「興奮してんのは分かるが、足の拘束解いたら蹴られることぐらい分かるだろ」
野太い声4「ちょっと必死過ぎんじゃねぇの?」
野太い声2「そうそう。もっと冷静になれって」
野太い声1「うるせぇんだよ! こちとら空腹状態で好物目の前にぶら下げられてんだぞっ!!」
野太い声1「もう何日も抜いてねぇんだ……! この子の年齢聞いたときからずっと我慢してたんだ!」
野太い声1「早く出したくて仕方ねぇんだよっ!」
野太い声1「何回も何回も、この溜め込んだモンをぶち込んでドクドクと出してぇんだよっ!!」
野太い声3「いや、止めてたのはお前の勝手だしな……」
野太い声2「そうそう。そんなことでキレられても知らねぇっての。むしろ自業自得だろ」
野太い声1「うっせぇつってんだろっ!!」
野太い声1「だいたい、このガキが抵抗しなけりゃ良かったのに……!」
野太い声1「コイツが……コイツがっ!」
ガンッ!
姫「ぐっ!」
野太い声1「コイツが! コイツが! コイツがっ!」
ガン! ガン! ガン!
姫「ぐうぅっ!」
野太い声1「コイツがコイツがコイツがコイツがコイツがコイツがコイツがっ!! クソ生意気なのが悪いんだろうがよぉっ!」
ゴッ! ドグッ! ドンッ! バキッ! メリャッ!
姫「ぎゃう、ぐぅううううううう、ううううううううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
180:
野太い声2「おいおい、なんか人の身体から聞こえちゃいけねぇ音がしたぞ?」
野太い声5「殺してねぇだろうなぁ?」
野太い声4「殺しちまったら神官に蘇らされちまって全部おじゃんだぞ」
野太い声1「っ。おいこらっ! 痛がってるふりしてんじぇねぇぞオイ!!」
姫「ぎゅふううう……! ふうぅぅぅぅ……!! ごぶっ! ぎゃふっ! げふっけふっ!」
野太い声1「へへっ……ほぉら、大丈夫だろ……その辺の加減はちゃんとしてんだよ……」
野太い声4「本当かよ。ちょっと安心してんじゃねぇか」
野太い声3「ま、次はこうならないようにしろよ」
野太い声2「ありゃあ確実に何本か骨折ったな、アイツ。っていうか身体の中何箇所か壊してんじゃねぇの? 噛ませてる布に血がついてるし」
野太い声5「ちっ……! ま、ヤれさえすりゃあ着いても文句言われねぇだろ」
野太い声3「だな。むしろ適度に弱らせたってことで感謝されるかもな」
野太い声2「なぁんかそうなるとすんげぇ不本意だな」
野太い声3「マジでそうだな。好き勝手振舞った結果が報われるとかありえねぇよな」
野太い声4「良いんだよ。そうなっても絶対に混ぜてやらなけりゃぁよ」
野太い声2「ま、確かにそうだな」
181:
野太い声1「ま、まぁ、混ぜてもらえなくてもいいんだよ」
野太い声1「今から全部コイツの中で出しゃあ済む話なんだからな」
スルッ
姫(……っ!)
野太い声1「へへっ……抵抗できねぇかぁおい」
野太い声1「……っ……」
野太い声1「おぉ……こりゃあたまんねぇぜ……すげぇ……キレイだ……」
サワッ
姫「っ!」ビクッ!
野太い声1「ぐふ、ぐふふ……」
ズッ
姫「っっっ!!!!!」ビクビクッ!
野太い声1「へへ……指があっさりと入りやがる……」
野太い声1「やっぱさっきの段階で興奮してたんだなぁ、おい」
182:
「じゃあ、準備万端ってことで、早……」
グッ!
(っ! い、いや!)
グッ、グッ
「っと、そんな力なく暴れても無駄だぜ」
野太い声1「むしろ挿入したら程よく気持ち良さそうだ……げへっ……」
ググッ!
姫「ふぅーーーー!! ふううぅぅぅぅぅーーーーーーーーーー!!!! うううううううううううううーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
姫(やだ止めろ今すぐ離せ今すぐ死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころしてころしてころして殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……! 早くっ!! 早くわたくしを殺して助けてっ……!! 誰でもいいからどんな方法でも構わないから早く早く早く早く早く早く殺してっ!!!!!!)
野太い声1「ぐふっ、げふっ、初めてなのかなぁ……? こんなに身を固くして……緊張しなくてもいいんだよ? 今からとっても気持ちのいいこと、してあげるんだからさぁ……」
グググッ…!
姫(やだ! ヤダヤダヤダヤダヤダ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い助けて助けて助けた誰か助けてお姉ちゃん助けて女騎士さん早く怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイこんなのイヤだこんなのイヤだこんなのイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだこんな形で初めてが無くなるのはイヤだ絶対にイヤだ誰かお願い助けて今すぐ助けて殺して殺して殺して殺してわたくしをすぐに殺してこの場から救い出して殺して助けてこの場から引き離してイヤなのイヤなのこんなのイヤなの殺して早く殺してどうやってもいいから早く死にたいの死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死んで救って早く助けてこの場所から連れ出してどんな方法でもいいから開放してこんなヤツを目の前から消してわたくしの身体に触れさせないで誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰でもいいから入ってくるのはイヤだから助けて殺してみんな殺してコイツもわたくしも周りの男たちも世界を犠牲にしてでもなんでもいいから助けて救い出して怖い怖い恐ろしいもの全てを集めて今すぐ呪い殺してヤダヤダヤダ入ってくる入ってくる入ってくる入ってくるあのキモチノワルイものがわたくしの中に入って――)
野太い声1「さぁ、馬車の中での姦通式だ。おめで――」
ザアアアァァァァァァァ…ン!
183:
野太い声2「なっ……!」
野太い声3「なんだなんだ、おいっ!!」
野太い声4「上から誰か降ってきた……だと!?」
野太い声5「バカなっ! 移動中の馬車だぞっ! どうやって……!!」
傭兵「はぁ……! はぁ……! はぁ……! ……どうやら……当たりだった、ようだな……っ!!」
女騎士「…………っ」
姫「っ! ……っ!」
女騎士「……きさま……!」ギリッ
野太い声1「ひっ! お、おいそれ以上近付くんじゃねぇ! 一歩でも動いてみろっ! 王女が傷物に――」
ズブリャァ!!
184:
野太い声1「――……がっ……」
 いつの間に間合いを詰めたのか……俺の傍にいたはずの――荷台の中央にいたはずの彼女はそこにはなく……。
 気がつけば腰に差した剣を抜き、下から上へと縦真っ二つに、姫の前にいた男は斬り捨てていた。
女騎士「姫さんの身体に汚らわしく触れといて……図々しくも生きてられると思うなっ!!!!」
 返り血を浴びながら――お姫さまに浴びせながらのその女騎士の怒号は、少し余裕のある広い馬車を震わせた。
ヒュン
ブツ
姫「……っ!」
女騎士「姫……。今目隠しも解きます! 大丈夫ですかっ!?」
姫「っ……! っ……!」
女騎士「こんな……こんな、裸にされ……まさか、そんな……!」
女騎士「……ぐっ……! ……お前ら……死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁっ!!」
194:
ザッ!!
女騎士「待て! 逃がすと思って――」ダッ
グイッ!
女騎士「――っ! 何をする傭兵! あいつ等はそこの窓から逃げたんだっ! 追いかけないと逃げられ――」
傭兵「いいからっ!」ダッ
傭兵(急げ……姫の手も引いて……外から飛び降りれば間に合うかっ……!!)グイッ
ダンッ!
ドンッ、ダンッ
バアァァァ…ン…!
195:
女騎士「なっ……!」
傭兵「危な、かった……」
傭兵(まさか荷台ごと爆発させてくるとは……馬が驚いて逃げていったが、それすらも計算の内か……?)
女騎士「た、助かった……けど、どうして爆発物があるって分かったの?」
傭兵「あった訳じゃ、なくて……はぁ……! 外に出たヤツの誰かが、魔法で、爆発させた」
女騎士「ちょっと傭兵……やっぱりかなり無茶してるんじゃ……」
傭兵「大丈夫……ちょっと集中し過ぎて、朦朧とするだけだから……」
女騎士「朦朧って……危ないんじゃ……!」
傭兵「いや……もう息も、整ってくるから……大丈夫……」
女騎士「そうは言うけど……とてもそうには……」
傭兵「はぁっ……! はぁっ……。……くっ、はぁ……っ!」
傭兵「……………………はあぁ〜……ふぅ〜……」
傭兵「……ほら、もう落ち着いたから、な」
196:
傭兵「それよりも女騎士、姫の猿轡を取ってやったらどうだ?」
女騎士「あ、あぁ……分かった」
傭兵「それとコレ。俺の上着で悪いが、羽織らせてやってくれ」
傭兵「さすがに、あの格好のままじゃあ可哀想だ」
女騎士「…………うん」
傭兵「……安心しろ。たぶん犯されてはいないはずだ」
女騎士「どうして、そう思うの……?」
傭兵「犯されてたら今頃、手当たり次第に何かで自害しようとしてるだろ」
傭兵「なんせ、誘拐の片棒を担いでいたのが自分の好きな人だったんだ」
傭兵「その上そんなことをされてたら、心が正常なままなはずがないだろうしな」
女騎士「……そっか……分かった」
197:
〜〜〜〜〜〜
  少し前
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
傭兵の家の前
◇ ◇ ◇
女騎士「それでアンタは、どうしてそんなに男のことを聞くの?」
傭兵「どうしても何も、お姫さまの好きな人は間違いなくアイツだからだ」
女騎士「え? うそっ……」
傭兵「……なんでずっと師匠だったお前が気付いて無いんだよ……」
女騎士「だってそんな話、少しもしたこと無いし……」
女騎士「いつも強くなるための方法ばかり聞いてきてたから、てっきりそういうのには興味ないかと思ってて……」
傭兵(……この様子じゃあもしかしてお姫さま自身も、女騎士に恋愛相談なんて無駄だと思ってたのかもな……)
女騎士「そっか……そうだったんだ……」
女騎士「……ん? ……でも、ちょっと待って」
女騎士「姫さんは男のことを信用しきってるんだよね?」
傭兵(信用、と言うよりかは、恋、の方が正しいんだろうけど)
女騎士「じゃあ男に呼び出されて、その背後から襲われた、って可能性はないかな?」
198:
傭兵「背後から……? いやでも、だがらあのお姫さまがそんなあっさりとやられるものなのか?」
女騎士「それは、日常生活並に気を張っていたら襲われても大丈夫だろうけど……」
女騎士「でも姫さんはまだ子供だし、お城の中だからって油断していたのはあったと思う」
女騎士「それに……信用している男に呼び出されて――それもオマエの言うとおり好きな人だって言うんなら、舞い上がっていたなんてことは、あり得ない話じゃない」
傭兵「なるほど……」
傭兵(窓辺に呼び出し月明かり差し込む場所で告白した……のではなく)
傭兵(その場所に呼び出し告白されると舞い上がって油断している姫を、その背後から仲間に強襲させた……)
傭兵(使用人の中に仲間がいるんなら、それぐらい容易いはずだ)
傭兵(女騎士が強く否定するように、駆け落ちをしていないことにも辻褄が合う)
傭兵(気絶させた後は、下に待機していた仲間に土を柔らかくさせた後、姫を窓から落とした……)
傭兵(あとはその使用人共々何食わぬ顔で朝を迎えればいい)
傭兵(男は「騒ぎが大きくて大事な教え子が大変なときなのに残れなくて残念だ……」とか言いながら立ち去り――)
傭兵(――使用人はまた別の日に、怪しまれなくなるぐらい時期を開けてから辞めれば良い)
傭兵「くそっ……! そういうことかっ!!」
199:
傭兵「だったら、城に戻っている暇は無いっ!」
傭兵「いや、駆け落ちにしろ誘拐にしろ、そもそも城に戻らずに探しに行った方が効率が良い!」
女騎士「え? なにが?」
傭兵「後で説明する!」
傭兵「今はとりあえず、彼女達を探すことから始めないと……!」
女騎士「探すって……どうするつもり?」
女騎士「今から馬を走らせても、とっくに逃げているであろうそいつらに追いつけるとは……」
女騎士「それに逃げている方向も分からないんじゃね……がむしゃらに探しても仕方ないよ」
傭兵「……魔法を使う」
女騎士「え?」
傭兵「人を乗せても浮いて操作できる泥の円盤を作って乗っていく」
傭兵「途中で何度も降りないといけないけど、上から探せばある程度の範囲は絞れるはずだ」
傭兵「それに誘拐が確定している以上、移動手段は馬車以外あり得ない」
傭兵「それも周りからは見えないよう、城下街から抜け出す際兵に咎められぬよう、屋根のついた荷台のついたものである可能性も大きい」
女騎士「まさか……この時間走っているその馬車を、片っ端から見ていくつもり?」
傭兵「時間も時間だ。夜の今なら台数も少ないはずだ。もうそれしかない」
傭兵「こうなってくると城に戻っている時間さえ惜しい……!」
傭兵「くそっ! 駆け落ちだとばかり思ってたからのんびりしすぎた……っ!」
傭兵「もし誘拐だったら、本当に手遅れになっちまうっ……!!」
200:
女騎士「なるほど……そう言って逃げるつもり?」
傭兵「は?」
女騎士「忘れてるのかもしれないけど、ボクはまだ、オマエの疑いを解いて無いよ」
女騎士「そう言って逃げ出して、誘拐の実行犯と合流するつもり?」
傭兵「今はそんなこと言ってる場合じゃ――」
女騎士「だから、ボクも同行する」
女騎士「ボクも一緒に連れて行け」
女騎士「それなら文句は言わない」
傭兵「――ああ。わかった」
傭兵(騎士長としての立場として、ついて行きたいからついて行く、とは言えないのか……)
女騎士「すまない、兵士」
兵士「はっ」
女騎士「これからボクは、こいつを見張りながら、こいつが言う方法で姫を探す」
女騎士「細かな指示をこれから出すから、城に着いたらその通りに動いてくれ」
女騎士「あと、ボクが離れてる間……頼むぞ」
兵士「かしこまりました」
201:
兵士「ですが……本当に大丈夫ですか?」
兵士「もし彼が本当に誘拐犯の一味だったら、騎士長様が……」
女騎士「ああ。確かにそうなると、ボクはかなり危険なことになるだろう」
女騎士「このままよく分からない場所に連れて行かれるだけかもしれない。捜索に加われないようにされるかもしれない」
女騎士「いや、それならまだマシだ」
女騎士「最悪、何十何百の敵に囲まれてしまうかもしれない」
女騎士「だが、それでもこの方法を取るのがベストだ」
女騎士「アイツの推理をまだ聞いてはいないから不安だし……あの必死さも演技で無い保証も無いが……それでも、だ」
女騎士「……オマエには、城に戻ってからボクが行おうとしていたこと全てを任せる」
女騎士「そうしておけば、捜索させられないようにされても大丈夫だろう」
女騎士「頼んだぞ」
兵士「……はっ!」
兵士「お気をつけくださいっ!」
女騎士「まかせておけ」
女騎士「もし襲われたとしても、ボクがあの程度の相手に負けるわけが無いだろう」
女騎士「例え沢山の人間に包囲される場所に放り込まれても、な」
203:
〜〜〜〜〜〜
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「すごい……本当に浮いてる……足場があるといっても魔法で空が飛べるとは……」
傭兵「集中力を極めれば女騎士でも出来ることだ」
女騎士「ボクのところにいる宮廷魔法使いもそんなこと言ってたな……」
女騎士「もっとも彼女の場合、こんな空高くは飛べてなかったけど」
女騎士「……やっぱり、オマエが犯人なんじゃないのか?」
傭兵「これでも魔法は魔法だからな。魔法無効化の結界が張られてたら落ちて大怪我だって」
傭兵「解除してから浮いて……って方法が取られてないのは、地面が柔らかくなってたって話で分かってるだろ?」
女騎士「分かってるって。ちょっとしたカマかけにもなってないカマかけのつもりで訊いただけ」
女騎士「で、この暗闇の中の、この空の上から、馬車なんて見えるの?」
傭兵「見える」
傭兵「……いや、正確には反応できる、かな」
傭兵「気配的なもので分かるんだよ」
女騎士「気配的……? どういうこと?」
傭兵「……その前に、一度降りよう」
女騎士「え?」
傭兵「この魔法、実際は長時間跳躍してるだけのようなものなんだ」
傭兵「悪いけど、本当に飛べているわけじゃあないんだよ」
204:
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「で、気配的ってのは?」
傭兵「……俺の集中力が周囲に散らばっているのは、一度手合わせした時指摘してきただろ?」
傭兵「俺は色々と、周りが気になりすぎる性分みたいでな……いや、たぶんすごい臆病なんだろう」
傭兵「でもそのおかげか、結構な範囲の気配を自然と探ってしまうんだ」
傭兵「それも、気になった箇所一つ一つを集中する形でな」
女騎士「……つまり、どういうこと?」
傭兵「この上空から広々と見える地上は、光がなくその全てが黒くて暗いだろ?」
傭兵「でも何かが移動したとき、黒さの中にある暗さが移動して、少しばかり色が変わっていくように見える」
女騎士「ああ……まあ、うん。確かに」
傭兵「俺はな、視界の端にでも良いから、少しでもソレが映ればその変化を全て感じ取れる」
傭兵「もしそれが本当に視界の端の端であっても、真正面から見据えたみたいに理解できてしまう。それほどまでに意識がそちらへと向くんだよ」
傭兵「例え何十個視界の中に変化が訪れても、その全てに集中できるんだよ」
女騎士「……ん? それってもしかして、ボクが指摘したみたいに集中力が無いんじゃなくて、逆に――」
傭兵「あ、あの馬車」
女騎士「――え?」
葉柄「あの方向に走ってる馬車。とりあえず行ってみよう」
女騎士「……何も怪しく無いように見えるけど……ただの行商馬車のような……」
女騎士「夜だからゆっくりと走ってるだけの、極々普通な――」
傭兵「それでも、一つ一つ確認だ」
傭兵「ただの馬車かどうかなんて、近付かないと分からないだろ」
女騎士「――そうだね。分かった」
傭兵「とりあえず一旦降りてから、あの馬車の進行方向近くに跳ぶぞ」
205:
〜〜〜〜〜〜
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「くそっ! また、ただの行商馬車だった……!」
女騎士「これで七つの間違い……誘拐されたってことは、馬車で移動してることは確かなはずなのに……!」
女騎士「さすがに王都から出ないままってことはないはずなのに……どうして見つからない……!?」
女騎士「何か……何か見落としているのか……!?」
傭兵「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
女騎士「……ちょっと、さっきから大丈夫? 段々息も荒くなってるけど……」
傭兵「あぁ……いや、大丈夫。ちょっとしんどいだけだ」
女騎士「なんで……って、あっ、魔法……!」
傭兵「やっぱこの魔法、跳躍って言ってもかなりの高さが必要だからさ……もうすげぇ集中しないと使えないんだよ」
傭兵「おかげで、かなり神経磨り減ってきて疲れちまう……」
傭兵「上空から探すのにも、なんだかんだで結構集中するしな……」
女騎士「そんな……なんでそんな辛い方法で探そうとしたの?」
女騎士「確かに空から探せる上に移動手段にもなるコレは便利だけど……でも、だからといって……」
傭兵「なんでも何も、お姫さんが危ないからだよ」
206:
傭兵「急がないとお姫さまが危ない。頑張る理由は、それだけで十分だろ」
女騎士「……ううん」
女騎士「それは……おかしい」
傭兵「……えっ?」
女騎士「オマエは、おかしいことを言ってるよ」
傭兵「……は? ……どこがだよ……」
女騎士「その理由が成立するのは、ボクや兵士達のように、姫さんを慕っている者や姫さんに従っている者だけだ」
女騎士「オマエはお世辞にも、姫さんを慕っていないだろう。従ってもいないだろう。慕うまでに至る理由も、従うほどの契約もしていないはずだ」
女騎士「こんなに自分を犠牲にして、やる前から辛いと分かっていながらもその方法を取る、そんな無理をする理由にはならない」
女騎士「だってオマエはそもそも、お金のために姫さんと知り合ったじゃないか」
女騎士「姫さんに殺され、姫さんを殺して儲けるために、やってきたんじゃないか」
傭兵「…………」
女騎士「いや、それを言い出すと、この状況自体が変だ」
女騎士「今まで受け入れていたこと自体がおかしい」
女騎士「そもそもオマエに頼まれた依頼は“姫さんの副作用”に関するものだけ。それ以外は金にすらならないと考えるのが普通」
女騎士「それなのに息を切らして神経を削って、大量の汗を流しながら切れそうな集中力を持続させ続けているのは、明らかにおかしい」
女騎士「慕ってもいないし親しくもない人を救う人の行動とは、到底思えない」
女騎士「だから、姫さんが危ないって理由だけでそこまでするのは、おかしいんだ」
傭兵「……そう難しく考えるなよ」
傭兵「結果的には助かってるんだから、それでいいだろ」
女騎士「……いや……よくない」
女騎士「この理由次第では、ボクはオマエを信用するかもしれない」
女騎士「だからボクは……いくらでも難しく考える」
207:
傭兵(……はぁ……くそっ、この急いでるときに何を聞いてきてるんだ、この騎士長様は)
傭兵(ただでさえ魔法のせいで集中力がゴッソリ持っていかれて疲れてるってのに、別の言い訳なんて考えられるか)
傭兵(っていうか集中力が無くなってきて辛いって話したばっかだろうが……)
傭兵(……いや、だからこその質問、か……)
傭兵(このタイミングなら嘘をつけるほどの余裕もないだろうって考えか……)
傭兵(敵だと分かるなら早いに越したことは無いからな……疑いが強いのなら取るべき手段としては最良だ)
傭兵(……ああもう……! ……面倒になってきたな)
傭兵(余計に怪しまれる理由になるだろうが……もうどうでもいいや)
傭兵(疲労が酷くて考えられないし、もう良いだろう。うん)
傭兵(疑いが深くなってしまうだろうが、俺の知ったこっちゃねぇわ)
傭兵「……子供の頃からの、村の教えだ」
女騎士「村の……?」
傭兵「ああ。ずっとずっと、村を離れるまで、教えてくれたんだ」
傭兵「直接見せて、やって、聞かせて、示してくれたことだ」
傭兵「大人は子供を守るものだ、ってな」
傭兵「だからそれを守るために俺は、あの子の為に今、頑張ってる」
女騎士「まさか……その理由を信じると思ってるの?」
傭兵「思ってなんて、いないさ。どうも世間的には……コレは、ただの綺麗事を言ってるだけのよう、だからな」
傭兵「でも、お姫様を助ける理由なんて、俺には他に、ないんだよ」
傭兵「ここまで必死になる理由だって、な」
女騎士「……………………」
208:
傭兵「まぁ、信用するしないは、お前が決めてくれ」
傭兵(メイドさんに聞かれた時みたいに、それっぽい理由を見つけ出す余裕なんてねぇわ、マジで)
傭兵(ぶっちゃけ疑いを晴らすことができる気の利いたことなんて言えなかっただろうしな)
傭兵(誘拐犯の一味だと疑われたままであろうと、別の国のスパイだと思われたままであろうと、これだけの無茶全てが演技だと疑われてしまう以上、無駄に決まってる)
傭兵(こうして無茶をして、辛そうにして、追い詰めることで信用を勝ち得ようとしている……)
傭兵(そう思われて仕舞いだ)
傭兵「……それよりも、こうして城下街から離れてきて、一つ……おかしな気配がある」
女騎士「……え? おかしな気配?」
傭兵「この暗い夜の中、森の中の街道を、それなりの度で移動している影が、あそこに見える」
傭兵「……今まで傍に降りた馬車とは、明らかに違う」
傭兵「この、星と月の明かりしかない、時間帯に、その微かな光すら届かない森の中を、太陽が昇っている時間帯と同じ度で……はぁ……移動している」
女騎士「それは……でも、夜盗に襲われる可能性があるから、極力急いでるんじゃ……?」
傭兵「それなら、隣の大通りを走った方が、良いように思える」
傭兵「ああ……でもあの大通りだと、森の中を走った先にある、人気の無い場所にはいけないのか……」
女騎士「人気の無い……? 田舎に向けて伸びてる街道を行ってるってこと……?」
女騎士「あっ、もしかしてあの動いた影がそう?」
傭兵「たぶん、な」
女騎士「あんな葉っぱの間からちょっとしか見えない馬車に気付くなんて……しかもこんな上空から」
女騎士「……いや、なんにせよ、この辺他に馬車は見当たらないし、次一度着地した後はあの馬車に向けて飛べば良いんじゃない?」
傭兵「そう、だな」
女騎士「さっきまでと同じ」
女騎士「外れてたら外れてた時だって」
女騎士「……まあ、傭兵に無茶をさせてしまうのは悪いと思うけどさ」
女騎士「ごめん。頑張って」
傭兵「……ああ……当たり前だ」
傭兵(あれ? 今名前……?)
傭兵「…………」
傭兵(……いや、疲れてるからな。気のせいだろう)
209:
〜〜〜〜〜〜
そして現在
〜〜〜〜〜〜
傭兵(そうして、馬車の上空を通過するように魔法で飛んだとき……)
傭兵(荷台の中から口を塞がれた悲鳴が聞こえたから、思い切って荷台の中央に大穴開けるように飛び降りてみた)
傭兵(そしたら見事ビンゴで……姫が襲われそうになっていて……女騎士が一人殺して爆発させられそうになっていた馬車から脱出して、今に至るわけだ)
傭兵「……さて……」
傭兵(爆発音に驚き逃げた馬のように、そのまま四人全員が爆発に紛れてバラバラに逃げるのかと思いきや、どうも周囲を囲ってるみたいだな……)
傭兵(数は四人。最後に真正面から隠れたヤツがいたところを見ると、アイツが馬車を爆発させたヤツか……おそらくは運転していたヤツだろう)
傭兵(……普通なら火属性、と見るべきだが……ああして森火事を気にせずぶっ放したところを見ると、火による要因が無いと見るべきだろう)
傭兵(となると、“爆発”自体が属性と見るのが打倒か)
傭兵(……相手は四人とも、隠れこちらの隙を窺っている……仕掛ける気は満々ってことか……)
傭兵(こちらの数が二人しかいないと分かっての判断だろう)
傭兵(逃げる予定で目くらましに爆発させ、けれども勝てると思い隠れたか……)
傭兵(……いや、もしかしたらこの爆発自体、仲間に異常があったことを知らせるためのサイン、か……?)
223:
女騎士「……敵は?」
傭兵「それよりも、お姫さまは大丈夫だったのか?」
女騎士「……あんまり」
女騎士「確かに、その……それは大丈夫だったみたいだけど……やっぱり怖かったみたいで……」
傭兵「そうか……」
女騎士「それで、敵は?」
傭兵「分からないか?」
女騎士「周りを囲ってるのは、なんとなく気配があるから分かる」
女騎士「でも夜だし森の中だから、どうにもしっかりとした位置が掴めない」
女騎士「ちょっとでも攻撃されたらすぐに気付けるんだけど……」
傭兵「そっか……」
傭兵「……ならここは俺に任せて、お姫さまを守っておいてくれ」
女騎士「え? なんでそうなるの?」
225:
女騎士「さっきまで傭兵は無茶してきたんだしさ。今回はボクに任せてよ」
女騎士「さっきだって大分辛そうだったし」
女騎士「今だってたぶん、立って普通に喋って大丈夫そうに振舞うのがやっとだよね? 無理してないで、姫さんを守るのは傭兵がやってよ」
傭兵「いや……戦うのは俺だ」
女騎士「違う、ボクだ」
傭兵「……今お姫さまを守れるのはお前だけなんだ、女騎士」
女騎士「なんで? 傭兵でも任せられるよ」
傭兵「いや。怖がってる彼女に、信用できない傭兵風情が近くにいてもなんにもならない」
傭兵「今の彼女を守れるのは、信用されているお前だけなんだよ」
女騎士「でも――」
傭兵「それに、ここまでが俺のシナリオかもしれないぞ?」
傭兵「いきなり姫を攫いだすかもしれない」
傭兵「こんなに無茶して信用を勝ち取って、その瞬間に裏切るかもしれない。だろ?」
女騎士「――そんなこと……」
傭兵「あるんだよ」
226:
傭兵「俺は傭兵だ。所詮金での雇われ身分」
傭兵「そうあっさり信用しちゃいけないんだよ」
女騎士「…………」
傭兵「だからま、お前はここで姫を守っておけ」
傭兵「んで、俺が死んだ後にでも、残りのヤツを始末してくれ」
傭兵「お前なら一度でも敵を引っ張り出せれば、もう気配を見失わないだろ?」
女騎士「……なんでそうやって……無茶ばっかり……」
傭兵「言ったろ? さっき口を滑らせちまったじゃないか」
傭兵「大人は子供を守るためにある」
傭兵「その誇りのために俺は動いてる、ってな」
傭兵「……ま、これも信用させるためのウソかもしれないけどさ」
傭兵(それに、なんだかんだでお前を戦わせるわけにはいかないんだよ)
傭兵(今のお前は冷静じゃあない。その証拠に姫を犯そうとしていた男を殺してしまった)
傭兵(殺してしまえば加護を受けてりゃ生き返ってしまう。そうなればコチラの情報が伝えられてしまうし、ここに戻ってきてまた戦うことになるかもしれない)
傭兵(最悪、増援を呼ばれて戦う相手の数が増えてしまうことだってある)
傭兵(その判断が出来ず、戦闘不能ではなく一撃死をさせてしまった)
傭兵(……平静を装っているのはお前のほうだ、女騎士。そんな内心の怒りで狂っちまったら、お前自身が怪我をしちまうかもしれない)
傭兵(そしたら、姫がさらに不安になってしまう。俺みたいな信用できない男と二人だけになってしまう)
傭兵(それだけは避けないといけない。彼女にこれ以上ストレスを与えてはいけない)
傭兵(だから、俺が戦うべきなんだ)
傭兵(あの子のためにも)
傭兵「さぁってと……それじゃあ行こうか。四人のクズ共」
227:
 誰ともなしに呟いてすぐ、腰に差していた中剣を引き抜き、左側にいる気配目掛けて投擲する。
 ガサりと葉を揺らし、その攻撃は避けられてしまう。
 それが開戦の合図とばかりに、一斉に真正面以外の他の二方向から短剣が飛来してきた。
 だがこちらは相手の気配を既に読み取っている。その攻撃をよけることは造作も無い。
 それは向こうも理解しているのだろう。この攻撃はあくまでも牽制。
 本命は、真正面に潜んだままの男。
 ソイツの気配が一瞬だけ薄くなり、少しだけ前進してくる。
 いまだ視界には収まらないその姿。
 闇夜の木々草々に紛れたソレを目で見ることは不可能に等しい。
 だから俺も見るつもりは無い。
 見えなくとも、この真正面の敵の狙いは分かっている。
 おそらくはこの気配こそが、荷台を爆発させた張本人。
 爆発に類する属性を持った人間だ。
 相手方三人は俺と女騎士を殺したって構わない。
 生き返りまたやって来られようとも、彼らのアジトを見つけていない以上、逃げて隠れるのが容易い事は明白。
 故に、一撃で殺しに懸かってくるに違いない。
 そのための攻撃を行うのが、この真正面にいる気配だ。
228:
 おそらく少しばかり前進したのは、俺自身を直接爆発させるため。
 距離が離れていると、それだけ集中力と魔力が必要になる。
 そして前進する前の距離では俺を直接爆発させることは出来ない距離にいたのだろう。
 いや、おそらく予定の位置に至ってもその距離にはならない。
 飛び出しすぐさま魔法を発動し、こちらが反応できずそのまま死に絶える。
 こちらが気配に気付いていないと思っている以上、それが一番理想であり、そのための距離を今測っているに違いない。
 他の三人はこちらを殺そうとしながらも、あくまで狙いはその一撃。
 死ねばラッキー程度にしか考えていない攻撃。
 終の一撃を浴びせるまでの繋ぎでしかない。
 そして、あと一人……俺が最初に中剣を投擲した敵。
 その狙いはおそらく、女騎士。
 だからこそ女騎士に位置を知らせるために、最初に武器を一つ失ってでも攻撃を仕掛けたのだ。
229:
 二方向から飛んできた短剣。
 その全てを、その場からほとんど動くことなく躱す。
 ……まだ真正面の敵からの攻撃がない……。
 やはり先ほどの攻撃中に距離を詰め切れなかったのか……。
 俺が気配を読みきっていることも悟れないとは……実力が知れる。
 とはいえおそらく、魔法を抜きにした近接戦闘のみならば、相手四人は俺と引けを取らないだろう。
 それだけ俺は弱い。
 だがそれはあくまで、一対一で戦った場合の話だ。
 複数が徒党を組んでやってきてくれたなら話は違ってくる。
 俺ではすぐにやられてしまう……わけではない。
 相手が集団戦を望んでくれていることはむしろありがたい。
 こちらが一で相手が多。
 それこそ俺が十全の力を発揮できる状況だ。
230:
 だから俺は、相手の誘いにあえて乗ってやる。
 相手が何もしてこないのは、俺にまだ位置を知られていないと思い込んでいるから。
 そこであえて、相手のいない方向に向けて攻撃をし、誘い出す。
 まるでてきとうな攻撃をしたかのように見せかけて。
 それを待っている敵の狙い通りの行動を起こしてやる。
 しゃがみ地面に手をつき、その手を天高く掲げる。
 足元から伸びた水の鞭が最初に中剣を投げた位置へと伸び、先ほど男が潜んでいた周辺を撓りなぎ払う。
 しかし分かりきっていたことに、そこにはなんの手応えもない。相手が移動しているのは事前に分かっていた。
 一度場所を示したのだから、女騎士も把握しているだろう。
 だが俺はそこへと攻撃した。
 それも大きな隙を生み出す魔法で。
 ソレを逃す訳がない。
 前方二方向から二本ずつ、計四本のナイフ投擲。
 さらに一人の男がナイフを構えて駆け出し、右側へと回り込むようにしながら近付いてくる。
 ……なるほど、と思う。
 一つ一つのタイミングが違う完璧な連携で放たれたナイフ攻撃を確実に当てるため、あえて姿を現すことでこちらの動揺を誘う。
 それでナイフが刺さらずとも、こちらを魔法の準備をしている男へと近付ける攻撃をするつもりだろう。
 もちろん、上手くいってそのまま殺せれば、という考えは言うまでも無い前提条件として据えて。
231:
 対し俺は、タン、と足を慣らして簡易魔法を発動。
 地面から自分の周りに高圧の水を壁のように吹き上げさせ、飛んできた四つのナイフを上空へと弾き上げる。
 その行方を見送る間にも、天へと突き上げなかった手で地面を叩き、先ほど向かわせた水の鞭を操作。
 最初に投げて木に刺さったままの中剣を掴ませ、走ってきている敵に投げつける。
 突然の飛来物を避けることが出来ず、そのナイフは男の右肩に深々と刺さった。
 その怯んだ隙を逃さず、飛び上がるように立ち、間合いを詰め、男の脇腹に蹴りを入れ、魔法を準備しているのであろう男の直線上にソイツを倒す。
 さらに再び地面に手を付き、掲げ、投げナイフを弾き上げた水壁を操作。
 壁として現れたソレを一本の綱のようにし、弾き上げた剣をすべて掴ませ、草むらの中に隠れたままの投擲者に向けて返してやる。
 その攻撃でもう隠れているのは無駄と悟ったのか。
 狙われた一人はそのまま武器を構え飛び出してきた。
 よく見てみれば、この二人は馬車の爆発前にしっかりと得物を確保できていたのか、その手にはしっかりとした両刃の剣が握られていた。
 前へと蹴り倒した男も立ち上がり、肩に突き刺されたナイフを抜いて、襲い掛かってくる。
 草むらから出てきた敵は俺の後方へと回り込むように弧を描き走ってきており、このままだと挟み撃ちされるのは目に見えている。
 それが分かっていながら俺は、そのままその場に留まり、残っているもう一本の中剣を引き抜いて立ち上がり、構えた。
232:
 本来、包囲攻撃となるとそうなる前に逃げ出そうとするか、そうなったとしても抜け出そうとするものだ。
 一人を先に倒すなり、僅かな隙間を見つけ出してそこへ移動するなりして。
 だが俺の場合は、包囲されたほうが有利に働ける。
 この特異な集中力のおかげで。
 例え真後ろからであろうとも、攻撃を避けられる自信がある。
 いや、避けられぬはずが無いとさえ思っている。
 視界が特別広いわけではない。
 ただ視界の端にでもその姿を捉えられれば、そこに見えるものへと自然と集中してしまい、理解し、把握してしまう。
 攻撃の軌道を、隙を、タイミングを……その全てが見えてしまうから。
 故に、避けることが容易くなる。
 だがそれだけではない。
 それだけで、中央には留まらない。
 俺はその自分の集中力を利用した戦い方を作り出した。
 ただそれは、相手が複数であり、また互いに連携攻撃を行ってくることが前提ではあるが。
233:
 魔物相手に編み出したそれは、人間相手にも十二分に通じるものだった。
 いや、魔物のように本能的に効率的な攻撃を行った結果連携となっているのに対し、人間は的確な思考の元連携を行っているのだから、尚のこと簡単だった。
 相手の連携を崩し、相手の攻撃を利用し、同士討ちを狙わせるような軌道へと誘導できるよう避け、逸らし、移動する。
 それこそが俺の戦闘スタイル。
 俺の集中力を最大限利用した戦い方だ。
 ……集中過多。
 俺は集中力が無いわけではない。
 むしろ人以上にある。
 ただありすぎてしまうが故に一つに集中することが出来ず、他に見え映るもの全てに集中してしまう。
 だが思考はその集中全てを処理しきられるほど発達できていない。
 故に一対一で戦うと、よく気が逸れているように見られてしまうのだ。
 “一つに集中する”と集中すれば可能なのだが、それはまさに集中力の無駄な消費に他ならない。
 だからこの特性を利用しようとした。
 並列処理が異常に発達してしまっているのに、思考は直列処理でしかない。
 そんなアンバランスな俺が戦える方法を探す。
 その結果こそが、一対多に対して特化した戦い方を身に付けることだった。
234:
 ……幸いにも、昔勇者候補者として三人一組でいた頃は、他の二人が一対一に適していたので、その戦い方は有利に働いた。
 魔物の姿をすぐに見つけられたというのも大きい。
 何度も何度も死にながら、なんとか身に付けたその戦い方……。
 魔法ですらも、この戦い方の補助でしかない……。
 まさに囲われてこそ真価を発揮する。
 追い込まれてこそ戦いになる。
 それが俺の戦い方だった。
247:
 囲まれ、次々と繰り出されてくる二振りの長剣からの攻撃を躱し続ける。
 時には受け止め、軌道を逸らし、こちらが避けられないタイミングを狙って放ってきていた攻撃を止める。
 攻撃と攻撃の隙間を縫うその攻撃を読み、受け止めることで、その次の同じ間を埋める攻撃へのリズムを狂わせる。
 そうして生まれた隙へと攻撃するが受け止められ、その攻撃によって生まれたこちらの隙を狙い澄ました攻撃を、これまた読んで躱す。
 それを何十回と繰り返し、一向に攻撃が当たらず、それでいてこちらの手数が増えたことで相手に焦りが見え始めたところで……ようやく、連携を崩しにかかる。
 止められ出来た隙。焦りから先ほどよりも大きくなってしまっていたソレを見逃さす、残りの一人からの攻撃の邪魔となるよう、その一人へと魔法を放つ。
 足を軽く鳴らし、大雑把に振り回す水の鞭。
 誰一人として当たらないその攻撃はしかし、包囲する二人にさらなる隙を作るには十分な代物。
 しゃがんで避けた一人の顎目掛けて飛び蹴りを浴びせ、気絶させる。
 後三人。
 さらにすぐさま着地と同時に地面に手を付き魔法を発動。
 また水による攻撃を警戒している残りの一人の足元が泥と化し、足元への警戒を怠っていた一人の身体が一瞬だけグラつく。
 その隙を逃さず、ずっと攻撃を受けるのに使っていた中剣を相手の脇腹目掛けて投擲。
 刺さり蹲ったタイミングを見逃さず、投げて開いた手で地面を叩き、顔を伏せたその全身を水の球へと閉じ込める。
 後二人。
249:
 一瞬にして二人……。
 本当に僅か――一秒にも満たない刹那の隙。
 ずっとずっと隙をフォローしあう連携を取ってきて、時にはリズムを変えて攻撃に特化させたその全てを見破られ、防がれてきていた。
 完璧だと思われた連携。
 だがちょっとした焦燥によって生まれてしまった、いつもの連携でも埋め合わせられないその隙を、的確に衝いてきた。
 あっという間に二人がやられたという事実。
 それに女騎士を狙っていた相手も驚きを隠せていない。
 女騎士へと向かい合うのを止め、俺を狙うかこのまま隙を窺い続けるかどうかを悩んでいる。
 ……まさか、とは思うまい。
 一対一で戦った場合、こちらの実力とそちらの実力が、実は魔法を抜きにすると肉薄しているという事実があるということを。
 こんなに完璧に連携を破ってきたのだからそんなはずは……。
 そう考えてしまうのが道理というものだ。
250:
 実を言うと、敵の連携は完璧ではなかった。
 完璧な連携とは、“狂い”すらも折り込むことだ。
 見抜かれ・受け止められ・避けられ、そうしてリズムが狂わされた場合、こうした連携を取る。
 自然と身体が動こうと、事前に決めたことであろうと、どちらにしても狂いを正すかのように次に繋げる。隙を作らず埋めるように。
 それが出来てこその完璧な連携だ。
 だがそれは同時に、狂わされ続けた果てには、取り返しのつかない大きな隙が生まれるということ。
 彼等の連携にはその想定パターンは一つも無かった。
 自分達の攻撃に絶対の自信を持ってしまっていた。
 狂わされることを考えてもいなかった。
 狂わされた後を埋めることもなかった。
 故にこちらから度々攻撃するしかなかった。
 だからこそ“狂い”は小さく、崩し続けることで相手に焦燥を抱かせるしか術はなかった。
 つまりこちらから、致命傷を与えられる攻撃をすることが出来なかったのだ。
251:
 そういう意味では俺との相性は悪いと言える。
 俺の反射神経を超える攻撃や、本当に避けられない必殺の一撃をされる……その次ぐらいには厄介な相手。
 しかしそれも破った。
 相手が焦ることによって。
 だが問題はここからだ。
 残りの相手は二人。
 だが一人は魔法を使っての一発逆転を狙い続け、もう一人は俺ではない誰かの隙をずっと草葉の影から窺っている。
 こうなると連携を取ってくれるはずも無い。
 真正面から戦う数が一人になった以上、迂闊な攻撃はこちらの真の実力を相手に知らしめてしまうことになる。
 このまま一対一で戦えば勝てるのではと、思わせてしまうことになる。
 今はまだ、連携攻撃の果てに二人がやられたおかげで、その考えには至っていない。
 勝てないだろうと思わせるハッタリは成功したまま。
 だからその考えに至られる前に、ハッタリに気付かれる前に、相手を倒さなければならない。
 一対一という、こちらにとっては不利な状況下で。
252:
 ならまずは真正面でずっと隠れているヤツからいくのが定石か。
 いまだ自分の居場所がバレていないと思い込んで隙だらけの内に、潰すに限る。
 ……相手にとってはまだ魔法の射程距離ではないのだろうが、俺からしてみれば十分に射程距離圏内だ。
 少しの集中力であの隠れている場所に、突然魔法を発動させることは容易い。
 今まで気配に気付きながらも手を出してこなかったのは、この攻撃で一息に無力化するためだ。
 ダブン! と水に落ちる音が草むらの中からする。
 ……単純なことだ。
 相手の隠れていた地面を、溺れるぐらいの深さまで水に変えてやっただけ。
 服の重みもあって、これで溺れ死んでしまうだろう。
 ……もっとも、殺してはいけないので引き上げるが。
 とそこで、先ほど水の球へと閉じ込めたヤツがとっくに動いていないことに気付く。
 まだ死んではいない、溺れただけであろうタイミングで魔法を解除して、解放してやる。
 これで二人目の無力化だ。
253:
 あとは女騎士と姫を狙っていたやつだが……ソイツは俺の視線に気付くと同時、怯えたような気配を露にする。
 どうやら向こうは、とっくに俺が気付いていることに気付いているようだった。
 にも関わらず、ずっとあの場で動かず、俺が仲間をしとめる姿を見ていた訳だ。
 
 ……いや、見ているしかなかった、というべきか。
 お姫さまを守るために立つ女騎士。
 その隙の無さはどう足掻いても一人では攻めきれない。
 迂闊に戦いを挑めば殺されない程度に無力化されるのが目に見えている。
 だからこそ、仲間の応援を待つ意味でも、女騎士から距離を取り、こちらを見ていたのだろう。
 だが結果はコレだ。
 残っているのは自分一人。
 そりゃそんな表情も浮かべてしまう。
 しかし、ここまでだ。
 ここでおしまいだ。
 とりあえず、その男と俺との唯一の差とも言える魔法で牽制をかけようと、しゃがみ地面に手をつける。
 だがその魔法が発動するよりもく――敵はその場で、自らのナイフを、その心臓へと打ち立てた。
「っ!」
 息を呑む。
 同時、しまったとも、やるなとも、思った。
254:
 勝てる可能性が低いと思ったから、すぐに自分で自分を殺す。
 そして組織に情報を持ち帰る。
 そういう算段だろう。
 女騎士が最初に殺した奴は、少なくともこちらの強さを明確には理解していなかった。
 だがこの自殺した男は違う。
 少なくとも俺の強さを知っている。
 女騎士が一撃で殺したという事実も客観的に見ている。
 戦わない方が良いとか、一気に襲い掛かろうとか、そういうレベルでしか無いだろうが、方針指針を定めることは出来る。
 その判断力と思い切りの良さ。
 魔法を発動する前の隙を逃さぬ行動力。
 素直に、感嘆せざるを得なかった。
 死なれてしまったものは仕方が無い。
 誰も殺さぬようにしてきていたが、自殺されてしまったのではどうすることも出来ない。
 後味は悪いし、消化不良の感じも残る。
 それに最終的には少しの失敗を伴った。
 だが……これでこの戦いは、おしまいだ。
255:
傭兵「さて……」
傭兵(次にやるべきことは……)フラッ
傭兵「っ……と」
女騎士「ちょっと! 大丈夫!?」
傭兵「あ、ああ……大丈夫……大丈夫……」
女騎士「あんなフラフラだったのに……こんなに魔法使うから……」
傭兵「いや……水の鞭とかは、そんなにだ」
傭兵「むしろフラついたのは、魔法を準備していたやつを仕留めたあの魔法だ」
女騎士「どっちにしても、無茶したことに変わりは無いって」
女騎士「というかもしかして、ボクの時は手加減したとか……?」
女騎士「メチャクチャ強く見えたんだけど……」
傭兵「……俺の集中力については、薄々気付いてただろ?」
傭兵「要は俺って、集団戦に単身で挑むのが得意な神経をしてるんだよ」
女騎士「なるほど……」
女騎士「って、ごめん。しんどいだろうにこんなこと聞いて」
女騎士「ほら、もう良いから。あとはボクで始末をつけるからさ。休んでてよ」
傭兵「始末って……どうするつもりだ?」
女騎士「とりあえず、傭兵は誰も殺さなかったから、全員捕まえるつもり」
女騎士「それから連れ帰って、雇い主が誰かを吐かせる」
傭兵「……それじゃあ遅いな……」
女騎士「えっ?」
256:
傭兵「ごめん。やっぱ俺、まだやることあるから」
傭兵「まだ休めねぇわ」
女騎士「だからそれは――」
傭兵「いや、お姫さまの前ですることじゃないしさ」
傭兵「とりあえず、女騎士はお姫さまを連れて城に戻っててくれ」
女騎士「――……戻っててくれって……何をするつもりなの?」
傭兵「アイツらの現アジトを聞き出すつもり」
女騎士「だからそれはボクに――」
傭兵「今すぐやり始めないと遅いんだよ」
傭兵「向こうに時間を上げちゃいけない」
傭兵「こっちはもうとっくに、二人を相手に返してしまってるんだ」
傭兵(自殺したヤツも最初に殺したやつも、とっくに死体は消えている)
傭兵(相手側の神官に蘇らされた、としか思えない)
傭兵「早々に手を打たないと、逃げられる」
傭兵「まして、生かしたヤツを連れて帰るなんてしたら、それこそ逃げる理由を相手に与えてしまう」
傭兵「それだけは避けないといけない」
女騎士「――…………」
女騎士「……ちっ……分かった。分かったよ」
女騎士「だったらそれをボクが今すぐするから、傭兵は本当に休んで――」
傭兵「ありがとう」
傭兵「でも、そうはいかない」
スパッ
女騎士「――……えっ……?」
257:
傭兵「拷問するところなんて、お姫さまには見せられないだろ?」
バシャアァァ…!
女騎士(なに……ちから……ぬけて……まっく……ら……)ガクッ
傭兵「……余程、俺を信用してくれてたんだな」
傭兵「まさか不意打ちとはいえ、首を一撃で斬れるなんてな……さすがに予想外だ」
…ドサッ…!
姫「あ、ああ……あああ……!」
傭兵「ああ……お姫さま、ごめんごめん」
傭兵「ビビらせちまったな……」
傭兵「でも大丈夫だ」シュッ
トスッ
姫「ぐっ……!」
ドサッ…!
傭兵「すぐに後を追わせてやるから」
傭兵「俺と二人きりだと怖いだろ?」
傭兵「だからま、城に戻っていてくれ」
258:
…カラン…
傭兵(ふむ……死ぬのとほぼ同時に消えた、か……)
傭兵(やっぱ姫を探すとき、定期的に城仕えの神官に復活させてもらうようあの兵士に頼んでいたのか……)
傭兵「さて……と」
傭兵(これで姫は安全圏に移動させることが出来た)
傭兵(手荒い真似だったがまぁ、これで憎まれるのは俺だけで済んだだろう)
傭兵(女騎士がいる前で殺す方法で逃がしてしまうと、女騎士が裏切ったように姫は思ってしまうかもしれなかったからな)
傭兵(それほどまでに今あの子の精神は不安定なはずだ)
傭兵(それなら部外者の俺だけが、憎まれるべきだろう)
傭兵(しかしなんとかこれで、あの子はこの場からいなくなった)
傭兵(一番良かったのは女騎士に連れて帰ってもらうことだったんだがなぁ……まぁ、あそこまで俺に気遣ってくれるのは想定外だったってことで)
タンッ
傭兵(まずは蹴り倒したヤツと、水の球で溺れさせたヤツを一応拘束しておいて……と)
ギチッ
傭兵(これで良し)
ザッザッザッ…
傭兵「…………」
タンッ
ザバァッ…!
野太い声5「げほっ! げほっ! ごほっ! がはぁ……!」
傭兵「あ〜、良かった。結構時間かかっちまったから、溺れ死んじまってるかと思ったわ」
野太い声5「ごほっ、ごほっ……! て、てめぇ……!!」
傭兵「あ〜……無駄な抵抗はしないでくれよ。今のオマエはフラフラで、勝てないことぐらい理解してるだろ?」
傭兵「だったらさ、俺の質問に答えろよ」
275:
野太い声5「あん?」
傭兵「オマエ等が今使っているアジトはどこだ?」
野太い声5「はんっ……んなもん言うわけねぇだろ? バカか……?」
傭兵「あ、そ」
タン
野太い声5「っ……!」ギチッ
傭兵「本当は手足縛って拷問とかしたくなったんだけどなぁ……喋らないなら仕方ないか」
傭兵「ま、見せたくないお姫さまもいなくなってるし、やっても良いだろ」
タンッ
ヒュン…!
パシッ
野太い声5「けっ、そうやって剣を魔法で投げつけられるアピールしたからってビビると思ってんのかっ!?」
野太い声5「そんな方法で喋ると思ってんのかっ!? あぁんっ!?」
傭兵「思って無いさ」
傭兵「それに、やるのはこれからだ。誰も剣をチラつかせてビビらせて終わるつもりは無いんだよ」
傭兵「喋るまでやらせてもらう」
傭兵「死ぬことを許さない拷問を」
傭兵「早く死にたいと思いたくなる方法を」
276:
傭兵「あ、そういえば知ってるか?」
傭兵「強い痛みってのは蘇っても残ってるもんなんだよ」
傭兵「死ぬ際の一瞬の痛みとかは大丈夫なんだが、拷問とかの持続的な痛みってのは精神にも刻まれるんだよ」
傭兵「だからま、生き返ってすぐはその痛みが残っていて、まるで手足が無いような錯覚に陥るんだ」
傭兵「見ればあるのに感覚的には無い」
傭兵「そんな不思議な錯覚にさ」
タンッ
ザブンッ
野太い声5「……?」
傭兵「さてこの水。都合がいいことにオマエの痛覚を全てマヒさせる代物だ」
傭兵「顔以外を全て覆われたこの状態で、何をされるか分かるか?」
野太い声5「けっ! マッサージでもしてくれるってか?」
傭兵「あん? バカなの?」ザシュ
野太い声5「っ!」
277:
野太い声5「……? ……あれ……?」
傭兵「不思議だろ? 指が五本とも切られて水の中でプカプカ浮いてるのに、痛みが無いってのはさ」
傭兵「ま、ともかく、今そういう減らず口に対してすっげぇイライラするぐらい疲れてるからさ。早く頼むよ」
傭兵「アジトの場所、教えろ」
野太い声5「だから、言うわけねぇっての」
傭兵「だろうねぇ」ザシュッザシュッ
野太い声5「っ……」
傭兵「さて……これで足首から先まで両方ともプカプカと浮いてることになるんだが……」
傭兵「そうだな……そろそろどうしたいのか教えようか」
タンッ
バシャァ…!
野太い声5「っ……!」
傭兵「あ、五月蝿いのは勘弁」
タン
ザブンッ
278:
野太い声5「っ……! っっっっっ……!」ジタバタジタバタ
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「ああ、息苦しい? ま、そりゃそうか。今度は顔だけに水やってるわけだし」
野太い声5「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」グッグッグッ…!!
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「ああ、それともあれか?」
傭兵「斬り落とされた箇所が痛いのかな?」
279:
傭兵「まぁそりゃそうか」
傭兵「いきなり指と足首が落ちたときに痛みがやってこりゃ当然か」
傭兵「あ、ちなみにその水、声を落とすだけじゃなくて気絶させない効果もあるから」
傭兵「本当に死ぬほどの痛みがやってこないと倒れられないから」
野太い声5「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっっっっっ!!!!!!」
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「……うん。そろそろかな」
タンッ
ザバァッ…!
ザブンッ
野太い声5「ぐっはぁ……! はあぁ……! はあぁぁぁ……!!」
野太い声5「げほげほげほっ!!」
野太い声5「……くそがぁ……てめぇ! 解放されたら覚えてろよっ!!」
傭兵「ああ……聞きたい言葉はそれじゃあ無いなぁ」
傭兵「ま、良いか」
傭兵「他の二人の拷問相手が気絶から蘇るまではまだ時間があるだろうし」
傭兵「じっくりたっぷり……聞き出してやるよ」
280:
◇ ◇ ◇
王城内・神殿
◇ ◇ ◇
女騎士「っ……くはぁっ……」
女騎士「はぁ……はぁ……はぁ……」
兵士「騎士長! 大丈夫ですか!?」
女騎士「ああ……うん。大丈夫……」
女騎士「でも、どうしてお前がココに?」
兵士「神官長から連絡があったのです。騎士長が転送されてきたと」
兵士「ですので、復活の儀に立ち合わせてもらいました」
女騎士「そうか……」
兵士「騎士長がやられるなんて……それほどまでに手強い相手だったのですか?」
女騎士「いや……そうじゃない……そうじゃないけど……」
女騎士「……! 姫はっ!?」
兵士「王女様も同じように遅れて転送されましたが……騎士長様が殺して逃がしたのではないのですか?」
兵士「いざとなったら殺して転送する方法を取るから定期的に、という話でしたのでてっきり……」
女騎士「それだと、順番が逆になってないと」
兵士「あ……確かに。少々焦ってしまってました」
女騎士「それだけ心配してくれたということか。ありがとう」
女騎士「それにしても……姫さんも殺した……? てっきり裏切られたのかと思ったけど、そうじゃないってこと……?」
兵士「騎士長……?」
281:
兵士「なにか、おかしなことでも?」
女騎士「…………いや」
女騎士「それよりも、姫さんが生き返っても、お城に留めておくようにしておいて」
兵士「え?」
女騎士「ボクはまた出る」
女騎士「傭兵の下へと戻ってみるよ」
兵士「傭兵……? ああ、最初に疑った……」
兵士「でも彼も死んだのではないのですか? 城の神殿に契約書がないので、自分の契約書がある教会で蘇っているのでは?」
女騎士「いや、ボクを殺したのは彼なんだ」
兵士「えっ……!?」
女騎士「でもたぶん、裏切った訳じゃあない。もしそうなら姫まで殺す理由が無い」
兵士「ですが……それでも戻られるのは、危ないのでは?」
女騎士「もう油断はしない」
女騎士「それにボクを殺したのは、たぶん姫さんをここへと戻すためだ」
女騎士「きっと危ないことをしているか、姫さんの心に負担をかけるようなことをしているに違いない」
女騎士「だから、助けにいかないと」
兵士「ですが、助けは不要なのではないですか?」
兵士「だから騎士長をこちらに戻したのかもしれませんし……」
女騎士「アレはだいぶ無理をする性分みたいだからな……無理矢理にでも助けに行ってやらないと」
姫「でしたら、それにわたくしも同行させてください」
女騎士「姫さん!?」
282:
姫「危ないことをされているのでしたら、わたくしの力は十二分に役に立つはずです」
女騎士「どうしてここに……」
姫「個室で復活させていってるといっても同じ神殿内です。自分が殺された理由が分かっている以上、女騎士さんを先に探すのは当然では無いですか」
女騎士「ちっ……先に神官長に足止めを頼んでおくべきだったか……」
姫「お願いします。わたくしも連れて行ってください」
女騎士「……いや、やっぱり姫さんは城に残るべきだ」
女騎士「せっかく傭兵が気を遣ってくれたのに一緒に連れて行ったら、おそらく無駄になってしまう」
姫「向こうが勝手にしたことです。わたくしは望んでおりませんでした」
女騎士「望む望まないじゃなくて、彼が今しているであろうことはたぶん、あなたには見せたくないことなんだと思う」
女騎士「だから殺してまで城に帰した」
女騎士「それなのに連れて行けだなんて……王女の権限を使ったとしても、連れて行けない」
姫「わたくしは大丈夫です」
女騎士「例え本当に大丈夫だとしても、ボクはキミを連れて行かない」
女騎士「それに、傭兵自身が自分の行いを見られたくないから返した、という可能性もある」
女騎士「何より、せっかく城に戻れたんだ。また連れ去った相手の元に行って危険に晒されることもないだろう」
女騎士「だからボクに任せて、城にいて欲しい」
姫「……ではわたくしに、お城でお留守番をしていろ、と……?」
女騎士「ああ。分かってくれたか?」
姫「……分かりました」
女騎士「ふぅ……」
283:
姫「ですが良いのですか?」
女騎士「え?」
姫「わたくしがココに残れば、今すぐにでも男さまの部屋に乗り込みますよ」
女騎士「なっ……」
284:
女騎士「いや……それはダメだ……いけない」
姫「その反応……なるほど。どうやら女騎士さんは、男さまが誘拐の片棒を担いでいることをご存知のようですね」
女騎士「いや……まだ厳密な証拠は得ていない」
女騎士「ただそうかもしれないと、傭兵が推理しただけ」
女騎士「もっとも被害者である姫さん自身がそう言った以上、これ以上無い証拠は得ましたけれど」
姫「傭兵さまが……そうですか……」
姫「……では、証拠を得たのなら、男さまを捕縛してもよろしいですよね?」
姫「いえ。連れて行かないなら確実に、わたくしは行います」
姫「わたくしを誘拐した犯人を捕まえる、と言えば、例えあなたに待機命令を出されていようとも、率先して協力してくれる兵は出てきてくれるでしょう」
姫「大丈夫ですよ。絶対に逃げないように致しますから」
女騎士「そうじゃなくて……もしそうしたとしても、アレが自害でもした――」
女騎士「――あ……!」
姫「……そういうことです、女騎士さん」
姫「わたくし、言ったじゃないですか。傭兵さんがどうしてわたくしを殺したのか、その理由が分かっていると」
女騎士「まさか……!」
姫「ええ。おそらくあの方は、男さまの加護契約書の確保へと向かったのだと思います」
女騎士「教会の設備が整っていない場所で復活の儀を行う場合、契約書を持参していないといけない……」
姫「敵地に侵入している者がバレてしまった場合、逃げるのに一番適しているのは自害することですからね」
姫「わたくしを誘拐し、監禁する為の場所を用意しておいたのなら、そこに転送してもらえるよう自分の加護契約書を持って来てもらっている可能性は高い」
姫「ですので、わたくしを誘拐しようとしていた彼等のアジトにいるであろう神官が持っている可能性が高い、ということになります」
姫「もしそれを確保できたのなら、例え男さまが逃げるために自害されようとも、逃がさずに済みます」
姫「あのお方はおそらく、そのために向かったのでしょう」
285:
姫「わたくしを殺したのはおそらく女騎士さんの言うとおり、精神的に参っていたわたくしの前でソレを聞きだすために色々とするのは危ない、という判断なのでしょう」
姫「そして女騎士さんも一緒に殺したのは、わたくしが男さまのところへと乗り込むのを防ぐためでもあると思うのです」
女騎士「そうか……姫さんを一人で城に戻した場合、そのまま城に留まっている男の下へと向かうことになる」
女騎士「城に残っているかいないかなんて、兵に聞けば一発で分かる……!」
女騎士「そうして先に確保に向かわれて、警戒されて自害され、自分が加護契約書を確保する前に逃げられたらいけないと思って、ボクまで殺した……!」
姫「自信はありませんけれど、状況から察するにそんなところだと思います」
女騎士「……姫さん、死ぬ前まであんなに落ち込んでパニックになっていたのに、よくそこまで考えられるね」
姫「なぜでしょうか……一度死んだら、何故か頭の中がスッキリとしまして……」
姫「……いえ、たぶんまだ、わたくし自身の知らぬところで、混乱はしているのかもしれません」
姫「ただ一度、死にたいと願ったままで生きていたのが、一度死んで果たされたから……それまで頭の中を支配していた死への渇望が消失したおかげなのかもしれません」
姫「まあそのおかげで、今男さまを見かければ、おそらくすぐに斬りかかってしまう自信がありますけれど、ね」
女騎士(自分をあらゆる面で裏切った男への復讐心一色だからこその冷静さ、か……)
女騎士(なるほど……こんな姫さんを一人にするのは確かに危ない)
女騎士(でも、だからといってあんなフラフラだった傭兵を放っておくことはボクには出来ないし……)
女騎士(……仕方が無い)
女騎士「分かったよ、姫さん」
女騎士「一緒に行こう」
286:
女騎士「ついでに、道中で誘拐された手段や経緯も話して欲しい」
女騎士「あとついて来るからにはあなたの魔法、アテにさせてもらう」
姫「分かりました」
女騎士「よしっ」
女騎士「では兵士、頼みがある」
兵士「はっ」
女騎士「馬車を一つ用意して欲しい」
女騎士「あと、すぐに出発できる兵を二名と、姫さまの武器の準備を」
女騎士「それとお前には悪いけど、ここに残ってそのまま指揮をお願いしたい」
兵士「かしこまりました」
女騎士「それでは、静かに向かいましょうか。姫さん」
女騎士「もしここで男に勘繰られては、傭兵の行いが結局、無駄になりますからね」
姫「はいっ」
266:
質問です
復活の加護って僕達の世界で言うとどれくらいのお値段なんでしょうか?
287:
>>266 加護の値段について
多額の寄付、と書いたけれど、実際はマチマチ
人口が多いところほど高くなるので、必然的に田舎は安いということになる
それでも現実世界の値段価値でいうと、平均百万円ぐらい
ただこの値段は、契約書をすぐさま渡してもらう場合の値段設定でもある
実を言うと、契約書をそのまま教会に保管してもらう変わりに、値段を安くしてもらうことも出来る
この場合の値段も場所によってバラバラだが、大体二十万円〜四十万円と、半額以下
しかしそうして加護を受けた場合、契約書を渡してもらうためには、最初に契約書をすぐさま渡してもらった場合の加護契約よりも値段が高くなる
これはちょっと値段設定はしてなかったな…
つまり
契約書を取り出してもらう値段≧即時契約書発行加護>契約書未発行加護
の順番の値段になる
続ける
288:
続き
契約書に関しては、気になる人は>>26を読んでもらうとして…
(ちなみに、契約書未発行加護で加護を受け、その後契約書を取り出し、どこかの神官に渡した場合、ようやく>>26の契約の場所に関しての項目が適用されるようになる)
(それと、契約書を取り出した場合でも、また契約書を渡すまでは、最初に契約した場所or直前まで契約書を持たせていた場所、で蘇ることになる)
レス26
 だがもちろん、欠点はある。
 まず一つ目は契約の場所。
 契約の際発行される契約書、これを使えば一度だけ、復活させてもらえる教会を変えることが出来る。
 だが、あくまで一度だけだ。
 変えたり、変えずともその契約書を失くしてしまった場合、同じ教会でしか生き返れなくなってしまう。
 ……もっとも、神官と親密な関係であるのならこの限りではないのだが……。
 そして二つ目に、一度この加護を受けると、解除が出来なくなる。
 つまり天寿を全うするまでは死ねないということだ。
 あらゆる薬物も毒とみなされてしまう以上、後戻りが出来なくなるということになる。
 それが例え病気であろうとも、死んで生き返れば元通りというわけだ。
 ……ま、例外はあるにはあるが……。
 そして最後に……副作用。
 コレは最早言うまでも無い。
 俺が今依頼を請けていることそのままだ。
 しかし逆に考えれば、この三つだけの欠点と大量のお金だけで、死なないでいられるということでもある。
 魔物に殺されても生き返ることが出来、人間に恨まれ刺されても助かり、毒を盛られ苦しんでも死ぬことは無い身体になれるということ。
 だからか……傭兵業を営む者や冒険者といった人、東の大陸の魔物を駆逐するために派遣される「勇者候補者」のそのほぼ全てが、加護を受けている。
傭兵の加護に関して
傭兵は最初、契約書未発行の加護を受けた、勇者候補者の残りの二人と旅をしていた。
その状況で、男だけが、何回も田舎の村で生き返り、また隣の大陸に向かうという手間を重ねていた。
それを疎ましく思うことなく、仲間二人は傭兵を待ち続けていた。
気にするなと二人は言うけれど、傭兵自身はずっと気にしていた。それ故に強くなろうと足掻き続けていた。
それでも中々強くなれなくて、自分なんか放っておいて旅を続けて欲しいとさえ言ったけれど、それでも二人は傭兵が死んだ場合、近くの集落で彼を待ち続けてくれていた。
そんなある日、傭兵と一緒に死んで、同じ田舎で蘇って、ついに三人とも、契約書をお金を払って取り出した。
それは傭兵が死んでから、二人で魔物を狩り続け、お金をため続けてくれた結果だった。
それにさらに気を遣ってしまう傭兵だったが、それならちゃんと強くなってくれたら良いから、と二人は笑顔で言ってくれて……
そんな幼馴染二人に、傭兵は大きく感謝して、今の戦い方を見つけ出した
みたいな感じの話を想像してた
もうモロに裏設定
当初の予定では絡ませるつもりがなかった
展開変わったからもしかしたら後々物語に絡ませるかもしれないけれど、まぁ良いかなってことで公開した
絡ませたら絡ませたときで
あと、教会の設備が無い場所で蘇らせる場合加護契約書がいる、というのは後付け設定です
当初はそんなつもり微塵もなかったんだぜ!
普通に神官の前に半分死んだ状態で転送されてくる予定だったんだぜっ!
でもちょっと展開的にこれぐらいの枷があっても良いかなって事で加えたんだぜ!
まぁ矛盾が出ないことを祈る
298:
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
森の中の街道
◇ ◇ ◇
傭兵(さて……残りの二人も拷問した結果……最初のヤツと最後のヤツが口を揃えて言った「森を抜けてすぐ、街道から外れた場所にある廃屋」に向かっている訳だが……)
傭兵「……あの数十人もの野郎共は……」
傭兵(どう考えても敵の集団だよなぁ……)
傭兵(くそっ……空を跳んでいけるほど疲れてなかったら、あんなやつ等相手にすることなく無視して行けたのに……)
傭兵「…………」
傭兵(……向こうはたぶん、俺のことを探してるのだろう)
傭兵(教えてもらったアジトまでの距離と、最後に自害したヤツ……そこから三人を拷問にかけた時間を加味して……)
傭兵(それらを踏まえ、ここで見かけたという時間から逆算すると、おそらくは最初に女騎士に殺されたヤツが蘇り、ソイツに応援に向かってくれと言われた奴等だろう)
傭兵(じゃなきゃ、拷問した場所からほとんど歩いてないのに、あんな集団を見かけるはずがない。どう考えても早すぎる)
傭兵(何より、俺らの強さを知って自害したヤツが、おそらくはメンバー全員であろう人数を応援に寄越すとは思えない)
傭兵「……………………」
傭兵(運良く、最後に自害したヤツが蘇ったタイミングとはズレてくれたってわけか……)
傭兵(……さて……それじゃあ、どうするか……)
傭兵(このまま無視していくことも出来るが、そうなるとアジトに引き返されて挟み撃ちになる可能性も出てくる)
傭兵(……あとで背後から襲われるのも面倒だしな……倒しておくのが妥当、か……)
傭兵(……くそっ。魔力も集中力もここまで消耗してなけりゃ、即決だってのによ……)
傭兵(……グチグチ言っても仕方ない……倒させてもらおう)
299:
〜〜〜〜〜〜
ガタガタガタ…ゴトン…
女騎士「男と話していて、告白されると同時に後ろから頭部を殴られ、気絶させられ……気がつけば馬車の中にいて誘拐されていた……なるほど。傭兵の推理通り、ってことか」
姫「さすがのわたくしでも、後ろから殴ってくる人がいて、その人によって気絶させられた後にのうのうと城の――それも自室にいる男さまを、まだ誘拐犯の片棒を担いでいないと擁護できるほど、バカではありません」
姫「まず間違いなく、あの方が誘拐犯の一味であることに違いは無いでしょう」
女騎士「あと背後から攻撃されたってことは、やっぱり使用人の中にもスパイが紛れてるってことにもなるけど……」
女騎士「……ま、そのあたりは後で引っ張り出せばいいか」
女騎士「それにしても姫さんを誘拐しようとした目的って……いや、考えるまでもないか」
姫「わたくしを誘拐することで、お父様に取り引きを持ちかける気だったとしか思えません」
女騎士「ということは、旧貴族組織の誰か、か……」
姫「その辺の調査も紛れ込んでいる偽の使用人と同様、男さまを逃がさぬように出来てからじっくりと調べれば良いでしょう」
女騎士「だね」
女騎士「にしても、見事姫さんが誘拐されたってことは、ちゃんと目的は果たせてたってことになるのかな」
姫「そうなりますね」
300:
女騎士「ま、本当の理想系は誘拐されることなく、返り討ちにすることだったんだけどさ」
姫「……仕方ないじゃないですか」
姫「まさか、これだけの期間を使ったスパイだとは思ってもいなかったのですから」
姫「それに……本当に、好きになってしまっていたのですから」
女騎士「ああ……その、ごめん」
女騎士「そんな責めるつもりじゃなかったんだけど……なんか、そんな感じになっちゃって……」
姫「いえ、そんな……でも事実、責められても仕方がないことですし」
姫「むしろ自分から今の役割を引き受けたくせに、恋愛にうつつを抜かしてしまったわたくしの方が、本当は謝らないと……」
女騎士「いや、好きになるのは仕方ないよ、うん」
女騎士「それにボクも男に関しては警戒してなかったしさ、アレは仕方ないよ、本当」
姫「…………」
女騎士「? どうしたの?」
姫「いえ……恋愛に疎そうな女騎士さんにそう言ってもらえると、少し気が楽になるなと思っただけです」
姫「ええ。好きになるのは仕方ないとか女騎士さんらしくないことを言われて驚いたとか、そんなんじゃないですよ」
女騎士「……やっぱ日頃からボクはそう思われてたのか……はは」
301:
姫「そういえば女騎士さん。傭兵さまを追いかけていて良いのですか?」
姫「あなたの本来の役目は――」
女騎士「ああ、うん。大丈夫」
女騎士「あなたを助けるように頼んできたのが、あの子なんだから」
姫「――でも、もうわたくしは助かりましたよ?」
女騎士「助かったけど、犯人を捕まえるために動こうとしたら一人で無謀なことをしようとしてるから監視している」
女騎士「今は、そんなところだよ」
302:
女騎士「……っと、この辺だね」
女騎士「止めて」
ガタガタガタ…ゴトン……
女騎士「……うん。間違いない」
女騎士「さっきボクたちが殺されたのは、この辺だ」
女騎士「……誰の死体もない……ってことは、とっくに蘇らされたあとか……」
姫「では、魔法を使って探します」
女騎士「お願い」
スッ
タンッ
姫「…………」
姫「……森の中……?」
姫「そこから……ああ、うん……うん…………」
姫「……分かりました」
女騎士「歩いていった方がい?」
姫「そうですね。馬車だと、道が入り組んでいて、複雑かもしれません」
姫「とは言っても追跡しているのは傭兵さまの足跡ですので、本当はしっかりと馬車が通れる道があるのかもしれませんが」
女騎士「いや、彼の後を追うのが確実だろうから、歩いて追いかけよう」
女騎士「それじゃあ兵士の一人は馬車の見張り。もし敵が襲ってきた場合は馬車を見捨てて構わないから。でもその場合は馬車も道連れにするのも忘れずに」
女騎士「あと一人は、ボクたちと一緒に来て」
兵士達「「はっ」」
303:
ザッザッザッ
女騎士「にしても、姫さんの魔法属性は便利過ぎるね」
姫「そうでしょうか? 『探索』なんて戦闘に役立たないですし、前例がないので使い方もよくわかりませんし……不便で仕方ないですよ」
女騎士「それでも、ボクの基本属性に比べれば便利だと思うよ」
姫「基本属性は使い方の応用が先人達の知識として残っているので良いじゃないですか」
姫「わたくしの場合、魔力の練り方から集中力の磨ぎ方まで、一から自分で見つけないといけないので大変ですよ」
女騎士「逆にそれぐらいの方が敵に対応されなくて便利だと思うけどな〜」
姫「いえですから戦闘には使えないんですって……」
女騎士「それでもボクもそういう希少属性の方が――って、ちょっと止まって」
姫「はい?」
女騎士「……この湖……」
姫「これが……どうしました?」
女騎士「これってもしかして……傭兵の魔法……?」
姫「え?」
タンッ
姫「…………」
姫「……確かに、魔力の反応はありますし……間違いなく傭兵さまが通った形跡はありますが……」
姫「ですがそれならどうして、これだけ広い水たまりを作ったのかの理由が……」
女騎士「……敵を倒すため……とか?」
304:
女騎士「集団で歩いている敵を見つけたから、不意打ちで魔法を放って一撃で倒した」
女騎士「そう見るのが打倒かも」
女騎士「暗くてよく見えないけれど、もしかしたら水底に死体があるかもしれないし……」
姫「復活させられている可能性もある、と……」
女騎士「うん」
女騎士「……それにしても……あんなにフラフラだったのにこんな魔法を使うなんて……」
姫「……敵のアジトをとっくに知っているかのような足取りでしたから、敵から聞きだした場所へと向かっているのでしょうが……」
女騎士「もしかしたら、危ないかもしれない」
女騎士「本当に限界の限界で、フラフラしているのに一人で向かって行ってるのかも……」
女騎士「そんな身体で、これだけの魔法を使う集団と戦ったら……いくら集団戦が得意な傭兵でも……」
姫「危ない、ですね」
姫「……急ぎましょう」
女騎士「うん」
305:
ザッザッザッ
姫「そういえば傭兵さまは、どうしてここまでしてくれるのでしょうか?」
女騎士「え?」
姫「わたくしはあの方に何かしたわけでも、あの方がわたくしに雇われている訳でもありません」
姫「ただ、わたくしの副作用を止めるためだけにいてくれていただけのはずです」
姫「それなのに、移動中に話してくれた女騎士さんの話では、疑われたのに許して、フラフラになりながらも必死になって追いかけてくれたと言います」
姫「そして今も、辛く苦しい中、わたくしのために、敵の本拠地と思われる場所へと向かっています」
姫「目的はいまだ分かりませんが……ああして敵を倒したであろう形跡がある以上、仲間の下へと向かったということは無いでしょう」
姫「わたくしを裏切っている可能性も低い――というか、全く無いと思います」
姫「ですから尚のこと、どうしてそこまで、と思わずにいられません」
女騎士「あ〜……そういえば、その理由については話してなかったか……」
姫「え? 女騎士さんは聞いたのですか?」
女騎士「まぁ、ね」
姫「一体、どのような理由なのですか?」
女騎士「本当かどうかは分からないけど……どうも傭兵は、子供を守り助けるのは大人の役目だ、って本気で思ってるみたい」
306:
〜〜〜〜〜〜
コソッ
傭兵「…………」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
傭兵(……ふむ……何か揉めてるみたいだが……)
傭兵(まぁ、拷問で殺したヤツも中にはいるし……ここがアジトで間違いない、か……)
傭兵「…………」キョロキョロ
傭兵(さっき水の中に沈めたやつ等の姿は無い……まだ復活させていないってことか……)
傭兵(……どうする? 中に突入して戦うか? その方が集中力も魔力もあまり消耗せずに済むが……)
傭兵(……いや、それをすると、戦っている途中で復活させられてしまうかもしれない)
傭兵(殺された可能性を少しでも考慮されてしまえば必ず行うだろう)
傭兵(さすがに、今の俺じゃあアレだけの集団相手に戦えるとも思えない)
傭兵「……仕方ない」スッ
傭兵(俺自身が倒れてしまうかもしれないが……一撃で、この建物を破壊しよう)
タンッ
307:
〜〜〜〜〜〜
タンッ
姫「……どうやら、この辺りみたいですね」
姫「魔法で足跡が追えなくなりましたので、近いことに間違いは無いはずです」
女騎士「ううん。もう十分」
女騎士「見たところ畑がほとんどの田舎だし。これぐらいなら見つけられると思う」
姫「そうですね。アジト、と言うからには建物でしょうから、片っ端から見ていきましょう」
女騎士「そうしよう」
姫「それでは、三人でバラバラに別れますか?」
女騎士「まさか。そんな危ないことはしてられない」
女騎士「三人で固まって行動。暗いから、絶対に歩いた場所を少しも見逃さないよう、探していこう」
兵士「はっ」
姫「分かりました」
30

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