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男「料理部始動!!」女「料理シーンはないけどね」
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1:
俺はこの町に引っ越してきた。
俺の親は、高校生になると一人暮らしをするように言う。
二人の姉も同様だった。
でも、俺はサッカーが得意だった。だからする予定はなかった。
さすがにサッカーと一人暮らしを同時にするのは難しかったから。
順調にいけば推薦が貰えそうだった。
でも怪我しちゃった。しょうがない。
誰が悪いわけでもない。俺と当たった奴のことを責めてもいない。
出来てる人間ってわけじゃない。でも、怪我くらい誰だってする。
きっとこういう運命だった。そう切り替えないとやっていけそうにない。
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男「料理部始動!!」女「料理シーンはないけどね」
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2:
まあ、そういうわけで、スポーツ推薦はできない。
「なら、あいつらと同じように一人暮らししろよ。」
父親はそういった。あいつらっていうのは二人の姉のことね。
まあ、正直楽しみになってきた。サッカーができないなら何かもっと違うことをやってみたかった。
二人の姉は、家の近くで一人暮らしをしていたからちょくちょく家に帰ってきていたけれど、俺はいっそ遠くに行こうと決めた。
俺の住む県は海なし県。
どうせなら海が見えるところに行こう。
雑誌のグラビアを見ながら思った。
水着が見たいってわけじゃない。ほんとだよ?
3:
必死に勉強した。成績が悪いわけではなかったけど、いいわけでもなかったし。
で、合格できた。
嬉しかったね。試合で満足のいくプレーができたときとと同じくらい。
勉強もいいもんだ。そう思ったよ。
まあ当分するつもりはないけど。
それで引っ越してきたんだ。
あんまり荷物はなかった。
「いや〜でもこの量を今から一人で片付けるのはな〜」
これからずっと一人暮しなんだぜ、俺。
そう思ってはいたけど、今日は寝た。
学校が始まるまであと2日。
7:
朝起きてみるといつもと違う景色だった。
家の窓からは、微妙に海が見える。
実家の俺の部屋の窓から見えるのは、でっかい樹とその葉の間からうっすら見える、隣の家だけだった。
結構都会だったんで、隣の家といっても交流はないに等しかった。
住んでいるのは男だったし、仲良くなれたかもしれないとは思っていたけど、そいつはバスケをやっていたようだ。
バスケ部は敵だ。俺はそう先輩に教わってきた。
8:
「とりあえず飯でも作ってみるか。」
一人暮らしをすると独り言が多くなるらしい。それは本当だ。
今俺が実証したよ。
冷蔵庫を開けると、なにも入ってなかった。
買い物行ってなかったし当然だね。
なんか買いに行くついでに散歩に行こう。
そう決意し歯磨きを探した。
なかった。
櫛もない。
身だしなみを整えられない。
「あっちゃ〜」
9:
とりあえずガムをかんだ。
ガムを噛んでいないと、落ち着かない時があるんで、常備している。
これできっと口臭は大丈夫だ。寝起きって何でかくさいよね。
菌だなんだって聞いたことあるけど予防する方法はあるのかな?
誰か知ってたら教えてくれ。
ダッシュでコンビニを探した。
「確かここら辺にあったような気がするんだよなぁ。」
親に車で連れてきてもらったときちらっと見えたはずだ。
見付けた。
とりあえず必要そうなもの一式は買った。
「飯忘れた・・・。」
10:
「よっしゃ外食するぜ!!」
早無駄遣いを開始。
予算は少ないってのに。
まあ、なんかよさそうな定食屋を探そう。
チェーン店は向こうにいるときにさんざん食ったし。
どこでも食える。
とりあえず、外の看板に、『フライ定食 320円』と書いてある、定食屋に入った。
「らっしゃーい」おばあちゃんが言った。
「おやぁあんた見たことないねぇ。」
「はい。昨日引っ越してきたんです。」
「なら今日はサービスだよ、好きなもんたのみな。」
いや〜いい店だ。うまかったし。
11:
「もう、自炊とかいいんじゃないかな。……いやだめだ、俺は料理ができる男を目指す!!」
今決意した。
自炊系男子。男子っていうのがやる気なさそうでよくない。
自炊系ダンディー。ちょっとバカっぽい。
こんなこと考えてる場合じゃない。
とりあえず、今夜は、親子丼が食べたかった。
卵と鶏肉と、お米を買って帰った。
お気づきだろう。俺は料理をしたことがない。
調味料というものを知らない。
出来上がった料理はまずかった。
おかしい。本気で悩んだ。
あした本を買いに行くとしよう。
学校が始まるまであと1日。
14:
本を買ってきた。準備はおっけー。
さあやるぞ、まずはチャーハンだ。
「塩コショウ適量・・・?適量ってどれくらいだろう?」
適量だとか少々だとか、初心者に優しくないね。
とりあえず、計量スプーンで7杯入れた。
まあからかったね。しょっぱい。
決意その2.俺は料理部に入るぞ!!
あ、決意1は自炊系ダンディーね。
学校が始まるのはあした。
15:
学校に行かなくてはならない。
駅のほうに行けばいいことだけは知っていた。
でも、道に迷っちゃった。
昨日まで探索していたのは、学校と反対側だった。海のほう。
学校周辺は始まったらいやでも行くことになると思って、後回しにしていた。
それに入試の時に一回行っていた。車でだけど。
だからいけるって思っちゃったんだね。
それがいけなかったんだね。
出会った人が親切でよかった。
学校までわざわざ連れて行ってくれた。
初日から遅刻したけど。
16:
入学式、体育館でやるらしい。
俺はそれをすっぽかした。
そこでクラスが発表されたらしい。
俺はまず職員室に行き、とても怒られた。
先生に名前を覚えてもらえたからいいとしよう。
校長先生にも覚えてもらえた。いいことだ。うん。
もう、クラスメイトはみんな、教室にいるみたいだ。
俺だけ、まだ宙に浮いている状態。
たぶんこういうときに使うんじゃないかな。知らんけど。
心臓バクバク言ってるし、動揺してるんじゃん?知らんけど。
17:
先生が最初に教室に入った。
俺は先生にあらかじめ教えてもらっていた席に着席した。
クラスメイト達はもうみんな話をしていた。
もともと地元の奴らばかりなんだろう。
俺が入ってくるとぴたりとやんだ。
「初日から遅刻した馬鹿がいる。つい最近ここに越してきたそうだから、地理に疎い。
案内してやったりしてくれ。」
クラスでくすくすと笑いが起こった。馬鹿にされているような感じじゃなくって、
あほだな〜あいつ〜みたいな感じ。
「じゃあ、自己紹介しようか。」
21:
自己紹介も終わり配布物も配り終え、就業のチャイムが鳴ると、微妙に俺の周りに人が集った。
「どこからきたのー?」とか「今どこに住んでるの?」とか
質問には全部答えた。
俺が珍しいんだろう。
遠いところから転校してきた。
しかも一人暮らし。
そう教えると、みんなすごくうらやましがったし、俺を尊敬してくれた。
なんにもできてないけどね。
とりあえず、料理部に入りたいことを伝えた。
すると、浅黒くんが応えてくれた。
浅黒くんっていうのはアダ名で、本名は「麻倉くん」。
肌はちょっと黒い。
22:
「料理部は確かあったけど、幽霊部員のたまり場だよ。
うち、全員部活入らなきゃいけないし。
だから、去年は活動していないはずだよ。たぶん今年も。」
ああ、終わった、俺の一人暮らし。
これからずっと、コンビニ弁当生活だ。そう思った。
「でもまあ、とりあえず行くだけ行ってみる。」
そう俺の取り柄はポジティブ。
「料理得意なの?」
「なんにもできない。だから、料理部で少しでもできるようになろうと思ってたんだけど。」
そう言うと、少し笑いが起きた。
23:
とりあえず体験入部とか、そういうのが始まるのは基本的に明日かららしい。
野球部とかサッカー部は、入部する奴はもう今日から練習があるみたいだけど。
帰りに、ゴールの周りでパス練をしながら、球拾いをやっている奴らがいた。
あれが一年だろう。みんなへたっぴだ。
うまいやつらはきっと、もう2,3年と混ざって練習している。
みんなが、街で遊べるところとか、安く物が買えるところを案内してくれるというので、
ついていくことにした。
とりあえず今日の御飯を調達しなきゃな。
24:
彼らのおかげで安く卵とかを仕入れることができた。
家から少し遠いけど、いい運動になると思って頑張ろう。
自転車なんかあると便利だな。
とりあえず今夜は、チャーハンのリベンジだ。
昨日は、適量が多すぎたんだ。
7杯っていうのは多いと俺でも思っていた。
だから5杯入れた。
失敗。
適量ってどれくらいなんだ。
27:
目覚ましで目が覚めた。
部活をやっているときはもっと早く起きていたから、正直朝はそんなに辛くない。
今日から授業が始まる。
それに部活にも顔を出してみよう。
部活紹介っていうのが来週にあるらしい。
体育館に集まってってわけじゃなくて、軽い文化祭みたいなことをやるそうだ。
結構楽しみ。
よし、放課後まで特に何もないので、カット。
28:
「じゃあ、俺料理部行ってみるけど、一緒に行く?」
浅黒くんに誘ってみた。
けれど彼は、家に帰って船の練習をするらしい。
船舶免許とか取らなきゃ漁師にはなれないんだろう。
家業を継ぐって言っていたからな。
とりあえず俺は家庭科室を探す。
家庭科室ってのは一階にあるもんだろう。
理由はよく知らないけど、火を扱うからかな?
家庭科室は、別棟の一番奥にあった。
暗くて誰も寄り付かないような、そんな場所。
29:
「失礼します。」
俺はそういいながら扉を開いた。
漫画とかだと、着替え中だったりするんだろう。当然そんなことはない。
「入部希望ですか?!」
その代わり、とても元気で嬉しそうな様子の女の子から声をかけてもらえた。
「一応?とりあえず見学。なんか活動してないって聞いたから。」
「今年からはしっかりやりますよ。私が。
一年ですけど。」
そう自慢げに彼女は言った。
30:
「俺料理全然できないけど。それでもいい?」
「全然いいですよ!一人でもくもく作っているより、誰かに食べてもらえたほうがうれしいです。」
「へー料理うまいの?」
「ほどほどですけど、作れます。私に教えられることなら、教えますし、お願いします。入部してください。」
彼女は必死だった。そりゃそうだろう。一人っきりの部活なんて、誰だっていやだ。
「昨日は誰も来てくれなかったんです。今日も、なかなか来てくれなくって、ダメかと思っていました。
本当にうれしかったんです。」
迷っていたからね。
俺は入部しようと思っていた。
彼女の必死さが、俺を決意させた。
31:
別に感動したとか、同情したとかじゃない。
ただ、興味を持ったから。彼女に。
「なら、俺入部するよ。」
「本当ですか!?やった!これ入部届けです。」
そう言って、名前記入欄などが書かれた入部届けを渡された。
「これを担任の先生に渡してくれればいいです。
……あの、誘っておいてあれですけど、すぐに決めてよかったんですか?」
彼女は不安そうだった。
特に、料理部についてアピールしていたわけでもないし、俺はすぐに決めたから。
「いいんだ。料理、覚えなきゃいけないし。」
それから、彼女に一人暮らしを始めたことを伝えた。
「すごい」
彼女はそうぼそっと言って、俺を見つめた。
照れ臭かった。
「そんなすごいことじゃないよ。それに、なにもできなかったから、こうして料理部に来てみたんだし。」
33:
それから、彼女と放課後ずっと話をしていた。
彼女は、隣のクラス。ずっとこの町で暮らしているらしい。
俺たちは自己紹介をしていた。
他の入部希望者がやってくるまで。
まあ誰も来なかったんだけど。
「今日はもう帰りましょうか。これ以上待っていても来そうにありませんし。」
彼女は言った。俺はずっと気になっていることがあった。
「もっと、砕けた話し方でいいよ?
ずっと同じ部活の仲間になるんだし、下の名前で男って呼びすてにしていいし。」
そういうと彼女は少し頬を染めながら、
「それじゃあ、えっと、男さん。」
そうちっちゃな声で呟いた。
「わ、私のことも女って呼んでください。」
「おっけー。それじゃあ、女。かえっろか?」
彼女にそういうと、今度は顔全体を赤くしながら、彼女は
「・・・はい」といった。
34:
学校を出たところで彼女とはお別れのようだった。
でも、もう別れるのはさみしい。そう思って、彼女を送っていくことにした。
「そんなの悪いよ。」そう言っていたけど、「親睦深めたいしさ。」というと嬉しそうな顔をした。
彼女の家は俺の家の間逆、つまり山側だった。
鎌倉を想像していただけるとわかりやすいかも?
行ったことないんであってるかどうか微妙だけど。
女は矢継ぎ早に俺に質問をしてきた。
ここじゃあ、東京から来たわけじゃなくても、珍しいんだろう。
何せ、東京まで半日くらいかかるような場所だ。
実家からなら30分で新宿までいける。
35:
「ここが私の家です。」
そう案内された家はとても、とてもでかかった
つい黙ってしまうほど。
「寄っていきません?」
そう言われたけど、正直尻ごみする。
とりあえず今日は断ろう。
親父さんとかすごい怖そうな家だし。やくざとかって意味じゃないよ?
ただ、頑固おやじとか出てきそうで怖いっていうかさ。
「今日は遠慮するよ。部屋の荷物片づけないといけないんだ。」
そういうと彼女は少し残念そうな顔をしながら、
「そうですか、今度は来てくださいね。それじゃ気をつけて。」
そう言って門をくぐっていった。
ちょいちょい振り返ってこっちを見てくるのが、とてもうれしかった。
36:
今日から授業が始まる。
授業の雰囲気なんかは向こうと変わらないって感じかな。
まあ、そりゃそうか。同じ日本だしね。
放課後になると、部室に向かった。
扉を開けると、いいにおいがした。
たぶん豚汁。好物だね、俺の。
「あ、来てくれたんだ。」
本当にうれしそうな笑顔で彼女は言った。
「それ、豚汁?」
「そうだよ。部活紹介の時にふるまおうと思ってるんだ。
豚汁でいいかな?」
「俺、好物。完成、心待ち。」
鞄を置きながらそう言った。
37:
「手伝おう。手伝わせてください。」
「嬉しいんだけど、実はね、もうやることないかも。
野菜なんかは家で切って持ってきてたから。
もう、味付け調整するだけなんだ。
だから座って待っててよ。」
そういうので、彼女の前に座ると、彼女は居心地悪そうに、
「照れるな。ちょっと離れてよ。」
少し頬を赤らめながら言った。
そういうので、今度は彼女の後ろに座った。
嫌がらせみたいなもんだね。好きな子にはなんとやらってやつ。
別に恋愛感情持ってるわけじゃないけど、仲良くなりたかった。
「落ち着かないってばぁ」
そう言いながら俺の肩を軽くたたいた。
その時見せた笑顔は、とてもかわいかった。
38:
豚汁はとてもおいしかった。
彼女にお嫁さんに来てほしい。そう冗談で言うと彼女は耳はおろか、
うなじまで赤く染めうつむき黙ってしまった。
それから俺たちはその空気を引きずったまま、下校した。
特に会話はなかったけど、自然に彼女を送ることができた。
昨日より少し距離は近かったように思う
「それじゃあ、またあした。」
そう言って別れようとすると、
「後ろ向いたまま聞いてね。
あの、お昼とかどうしてるの?」
「コンビニで買ってきたものを教室で食べてるけど。」
そういうと彼女は、ごくりと唾を呑んだ。
俺にも聞こえるくらい、大きな音で。
そんな大きな音が出ているとは気付けないほど、緊張しているみたいだった。
39:
「じゃ、じゃあ、えっと、よかったら、本当によかったらでいいんだけど。
明日から、一緒に食べない?
お昼作ってくるし、ね?
さっきおいしいって言ってくれたから、えっと、どうかな?」
俺は、気持ち悪いくらいにやけていたと思う。
だってうれしかった。感動していた。
だからちょっと黙ってしまった。
その沈黙を彼女は勘違いしたんだろう。
「や、やっぱり嘘!忘れて!!
焦った彼女はその後も何か言おうとしていた。
「うれしい。本当にいいの?」
俺は、ゆっくり大きな声で言った。
震えているのをごまかすために。彼女の緊張を和らげてあげるために。
40:
「うん、い、いいよ?
食べてもらえると私もうれしいし。」
「やったぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
俺が叫ぶと彼女はびくっと震えた後に、くすくす笑い始めた。
「そんなにうれしかった?」
当たり前のことを彼女は聞いた。
当然。そう答えたときには、彼女もうれしそうだった。
ああ、幸せ。
きっとこの時、俺は彼女のことを好きになったんだと思う。
胃袋をつかまれたんだ。
46:
家に帰ってからふと気付いた。
料理はただじゃできないことに。
それと、彼女の連絡先をまだ聞いていなかったことに。
とりあえず明日、聞いてみよう。そうきめて、俺はノートを開いた。
嬉しいことがあったから、今日から日記をつけることにした。
書こうと思ってペンをとって文章にしてみた。
『4月7日
今日、女からお弁当を作ってもらえるといわれた。とてもうれしい。』
一行で終わる。
他に書くことが思いつかなかった。
とりあえず、ページを破って、これはらくがき帳にすることにした。
47:
朝は食べていない。
昔は食べていたけど、今はとにかく時間がない。
起きるのはいいけど、洗濯しているだけで時間が終わる。
ご飯作っている時間なんて、なかった。
だから、いつもお昼が楽しみだった。
さらに今日は、彼女のお弁当がある。
今日の昼が待ち遠しい。
48:
お昼休み。
すぐに家庭科室へ向かった。
かなり急いだのに彼女はもう待っていた。
いすに座ってがちがちに固まって。
膝の上には赤いランチョンマットにくるまれた、大きなお弁当。
その上に黄色のランチョンマットに包まれた小さなお弁当があった。
「は、早かったね。」彼女はそう言った。
俺は、適当に答えながら彼女の前に座った。
彼女は、震える手で大きいほうのお弁当箱を俺に差し出した。
下を向きながら両手を前に突き出して。
とてもかわいい。
「これ、あなたのです。
お口に合うといいけど。
サイズとかも大丈夫かな?」
包みを開け、蓋をあけるとすごくカラフルなお弁当だった。
俺の母親の弁当は、いつも茶色かった。
49:
彼女はやっぱりとても料理が上手だ。
もう一回、「お嫁に来てほしい。」そうちょっと真剣に言うと、彼女は黙って俺の膝を叩いた。
忘れないうちに、彼女に料理代と連絡先について聞いてみた。
料理代は最初は渋っていたけれど、受け取ってくれることになった。
連絡先に関しても、ちゃんと聞くことができた。
女子の連絡先ゲット。
そんな感じでいつのまにか、彼女とお昼を過ごすようになった。
部活の時間には豚汁。
毎日のように彼女の作ってご飯を食べる。
そのたびに彼女のことを好きになっている。
ああ、おいしいご飯って素晴らしい。
いつのまにか自分で作ろうという気がなくなっている気がするけど、もうそれでもいいんじゃないかな?
とにかく、部活紹介までもう時間がない。
俺も少しは手伝えるようにならないと。
そういえば部費とかってどうなっているんだろう。
50:
彼女に部費について聞いてみた。
豚汁を食べながら。
彼女はやたらいい辛そうにしていたので、けっこう強引に聞いた。
「実はね、幽霊部員が多いせいででてないんだ。
だから今までのは、自費なの。」
俺の驚く顔を見た彼女はすぐにそういいわけした。
「あ、でも気にしないでいいよ?趣味みたいなものだし。」
そういうわけにはいかない。
そう思ったけれど、しっかりと活動してくれる部員を集めない限り、状況は変わらないんだろう。
だから俺は、一生懸命味見をした。
俺も必死に活動しているんだ。わかってくれ。
52:
そんなこんなで、部活紹介。
これまで、彼女は必死においしい豚汁を作ってきたし、俺も必死に味見した。
これなら、みんな満足してくれる。そう思える味だった。
でも、満足したからって、部活で料理をしようと思うとは限らないんだね。
結局部員ははいらなくって。
彼女は、とても辛そうだった。
俺も辛かった。
彼女の努力はずっと見ていたし、俺だって料理部だから。
悔しかった。
盛況だったのに。
たくさんの人が、豚汁を食べに来てくれた。
彼女は楽しそうだったのに。
53:
俺は、まだ彼女と一緒にいたかった。
餌付けされていた。
いい方は悪いけど。
でも、彼女の料理がもう食べれなくなるのは嫌だった。
名案があった。
俺の資金で、俺のために料理を作ってもらえばいい。
彼女に、俺の金を部費にしてくれと伝えると彼女は、いやがった。
でも説得に説得を重ね、俺のために、生活のためにと伝えると、
「仕方ないなぁ。」
そう小さくつぶやき、まるで大切な子供を見つめるようね、慈しみあふれる目で俺を見つめた。
54:
それから彼女は、俺の昼飯と夕飯を用意してくれるようになった。
そのあまりで部活動をしていた。
夕飯はいつも、俺の家に来てくれた。
何度押し倒そうと思ったかは分からない。
でもそんな勇気がなかった。
俺は思っていた以上にへたれだったみたいだ。
いつのまにか彼女が好きになっていたんだ。
そう自覚できるようになるまで、気持ちは膨らんでいた。
彼女も嫌ってはいないんだろう。
でも、付き合った経験なんてないから、好きになったことなんてなかったから
俺には分からなかった、彼女の気持ちが。
55:
ご飯を食べるだけじゃなくって、ゲームもした。
映画なんかも見た。
ゲームをしているときには、肩は触れ合っていたし、
ラブロマンスを見ていたとき、俺たちの手は重なっていた。
いくら俺でも、もしかして・・・、そう思うくらいには仲が良かった。
それでも、告白はなかった。しなかった。
もしも、うまくいかなかったとき、部活も、この居心地のいい空気も、
おいしいご飯も、何もかも失ってしまうから。
57:
いい
とてもいい
めっちゃ期待してる
58:
そんな俺達の関係を変えたのは一通の手紙だった。
その手紙は彼女宛て。
ラブレター。
彼女は嬉しそうだった。
「生まれてはじめてもらえた。」
そう喜んでいた。
俺だって、好きな子ではなかったとしてもうれしいだろう。
でも、そんな彼女の姿を見るのが辛くて、辛くて、だから
「良かったな。応援するから。頑張れよ。」
なんて言ってしまったんだ。
あの時君はどんな顔をしていたっけ。
59:
その日の放課後、彼女は返事を待ってもらうことにしたようだ。
期間は3日。
俺が気持ちを伝えるならばその間にしなければならない。
そう思っていたけれど、そんな雰囲気はもうなかった。
部活の間、彼女はずっと考え込んでいるようにも、落ち込んでいるようにも見えた。
俺は、たぶん、ぼおっとしていた。
ご飯も一緒に食べる気分じゃないし、お昼でも。部活でも。
お互い上の空だった。
60:
返事を出さなくてはならない、その1日前。
何と俺も告白された。
放課後、部活の最中に呼び出されて。同じクラスの女の子から。
サッカーやっているときカッコよかったし、優しい。そう言われたね。
レクリエーションでやったサッカーを言っているんだろう。
久しぶりにやったサッカーは楽しくって、夢中でやっていたっけ。
俺が部室に戻ると、きっと、女も俺が告白されていることに気付いたんだろう。
彼女は何も聞いてこなかったけど、一言「よかったね。」
静かに言った。
61:
「返事はあしたください。」
奇しくも、彼女と同じ日に。
そう言われていた。
真っ赤になって逃げるように言っていた。
好きではなかったけれど、かわいい。そう思ったことは確かだった。
俺の返事は決まっていたけれど、彼女はどうするんだろう。
部活は?
一緒にご飯を食べている時間は?
消えてしまうのだろうか。
もう、決まっているんだ。
俺の大切なものは。
64:
次の日、今日の部活は休みにしよう。
女にそういうと「そっか・・・わかった。」
そう言って、去って行った。
もしかしたら、彼女は付き合い始めてしまうかもしれない。
それでも、決意はしていた。
どんな結果になっていたとしても。
告白すると。
だから、クラスの子には、断った。
「好きな子がいるから。ごめんね。」
そう言って。
65:
正直家に帰ってからちょっと後悔した。
かわいい子だったし、告白されたことはとてもうれしかった。
男だからしょうがないよね。
でも、女のことが好きだから。
だから、俺もラブレターを書いてみることにした。
でも、ダメだった。
文才がない。
『放課後に、家庭科室で。』
そう書いておくだけにした。
どうせなら直接告白したかったしね。
66:
朝、だれよりも早く登校し、彼女の机に手紙を入れた。
緊張していた俺は、ずっとトイレにこもっていた。
何食わぬ顔で登校するために鞄とかを持って。
始業ぎりぎりの時間に俺は教室に入った。
1時間目の現代国語の教科書を机の中から引っ張ろうとすると、手紙が落ちた。
誰にも見られてはいないようだ。
ピンク色のかわいい封筒にアイスクリームのシールが張り付けてある。
トイレに戻り、手紙を開けるとそこには
『放課後、家庭科室で待っています。』
そう書かれた手紙。
名前はなかったけれど、すぐに誰だかわかった。
部活のことかな・・・そう思った。
67:
彼氏ができたら、男と二人きりの部活なんて無理だよな。
そう感じた。
俺だったらいやだもん。
彼女が男と二人っきりで、よその男に料理を作ってあげるなんて。
きっと耐えられないだろう。
告白する。そう決めてはいたけれど、胸に来るものがあった。
ちょっと泣きそうかもしれない。
それでも、告白するって決めたんだ。
伝えずにいるよりかはずっといいはずだ。
68:
放課後になると、急いで家庭科室に行った。
待っていたい。そう思ったから。
でも彼女は先にいたんだ。
そういえば彼女より早く部活に来れたことってあったかな。
いつも彼女ははやかった。
いつも、嬉しそうに俺を迎えてくれていた。
まるで新婦のように
だけど今日の彼女は暗い顔をして、俺を出迎えた。
69:
「…付き合うことにしたんだね。」
彼女ははじめにそう言った。
「部活、やめちゃうんでしょ?」
「そっちこそ。そういうつもりじゃないのかよ。」
俺たちはお互い変な顔をしていただろう。
勘違いしている。
そう気付いた時には、どちらからともなく笑いが起きた。
「付き合い始めたから部活これなくなるってことかと思って。」
俺もだよ。そう心の中でつぶやいた。
こんなことを言う前に言いたいことがあったから
「俺、好きだよ。女のこと。」
70:
終わりです
72:
ちょうどいいテンポで面白かったです
次も期待しますよ
7
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