勇者「百年ずっと、待ってたよ」【中編】back

勇者「百年ずっと、待ってたよ」【中編】


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7:
第六章 深海のスノータワー
398:
雪騎士長「塔攻略に許された時間はたったの1時間のみ。ゆえに我らができるだけ前に立ちふさがる敵どもを排除します。
 勇者様たちは我らに構わず塔の最奥へお進みください!」
 
雪騎士A「俺たちの屍を越えていってください!」
勇者「……分かりました」
雪騎士B「俺たちの死体でできた血濡れの懸け橋を渡っていってください!!」
僧侶「いやな言い方すんなよ……つうか死ぬなよ」
雪騎士長「ここです!ここが塔への入り口。みな行くぞ!!」
剣士「塔って……塔なんてどこにもないよ」
雪騎士長「ここ一帯の魔族は水棲なのです。かつて地上にあった塔も今は深海に沈んでいます。
  でも安心してください。塔の中には空気があるようなので」
  
剣士「なんか見るからに毒!!って感じの空気の色だけど、今のところ私たちちゃんと生きてるよね」
雪騎士A「……」
剣士「えっ もしかしてもう私死んでる?」
狩人「生きてます。薬のおかげですね」
雪騎士B「むっ!!」
水蛇ABCが襲いかかってきた!
雪騎士Bが抑え込んだ!
雪騎士B「ここは僕たちにまかせてください!」
399:
ぐああああっ……
  うおおぉぉぉっ……!
バキボキゴキッ……
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
「しにたくない……しにたくない……!」
勇者「……っ!!」
狩人「勇者、進んで」
勇者「でも!」
狩人「時間がない。あと45分。まだ塔の半分も行ってない」
勇者「……っ」
タッタッタッ……
400:
ビチャッ
魚人族長「来たか……勇者。お前が……あの娘たちを食らったのだな」
魚人族長「仇をとる。来い」
魚人族長「〜〜〜〜……〜〜〜、〜〜〜〜〜」
僧侶「なんだこいつ。強そうな奴がでてきたぞ」
剣士「何か言ってるけど……?」
雪騎士長「ここは私が引き受けましょう。勇者様たちは先に!!」
雪騎士長「うおおおおおおおおおお!」
401:
「ぎゃああああああああッ」ドサッ
剣士「ひっ……!」
剣士「…………っ……もう、塔の中間地点くらいまでは進んだかな?」
勇者「ああ。だけど時間も半分切ってる。これじゃ遅すぎる」
狩人「でもどうするですか……最で走ってますよ。すでに」
僧侶「勇者。作戦Dだ」
勇者「なにそれ」
僧侶「DEかい穴開けて一気に最奥までショートカット作戦だよ!!昨日の夜話したろ!?」
勇者「全く知らないけど……でもいい考えかもしれない! みんな離れてて」
僧侶「てめーぶん殴るぞ」
剣士「えっ!?本気でやるの!?できるの!?だって塔って滅茶苦茶大きいし……」
ズガーン!!!
剣士「壁だって厚いんだよって続けようと思ったけど、普通にできてるね、うん。
 あれ、なんか勇者の魔法とんでもなく強くなってない?気のせい?」
 
勇者「よし、このままヒュドラを倒しに行こう!!」
狩人「……あっ」
ビュッ!
魚人族長「ならん。ここで死んでもらうぞ」
402:
僧侶「狩人ちゃん!大丈夫か!?」
狩人「……大丈夫です。あの魔族が投げたナイフが、腕をかすめただけ」
僧侶「血が出てるじゃないか! このサカナ野郎っ!!!!!調理師免許も持っている俺が3枚におろしてやる!!!」
剣士「あの魔族がいるってことは、騎士長さんたちは……」
勇者「……。戦うほかないみたいだね」
魚人族長が襲いかかってきた!
――――――――――――――
――――――――――
――――――
――――――
――――――――――
――――――――――――――
魚人族長は倒れた。
魚人族長を殺した。
僧侶「手間取らせやがって……」ハアハア
勇者「行こう」
ヒュッ……
403:
グリフォン「……」
グリフォン「塔を魔法で貫くなんて、けっこう強くなってるなあ」
グリフォン「それに彼が使う魔法。人間たちが使う魔法よりずっと攻撃的なのばっかりじゃないか。
  あれじゃあまるで魔族が使う魔法だよ。ふーん……」
  
グリフォン「おもしろいなあ……アハハ……。でもそれよりおもしろいのはコレ」カラン
グリフォン「血が付着したナイフ。魚人族の彼には礼を言わなくてはね。どうもありがとう。
  これは確かあの弓使いの人間の血かな。勇者じゃなかったのは残念だけど」
  
グリフォン「……じゃあそろそろ僕はこれで帰ろうかな。成果も上げられたことだし。
  しっかしすごい穴開けたなー。これで一番下層のヒュドラ様のところまで一気に……」
  
グキッ
グリフォン「あいたっ!! ……あれっ……あれっ!? うわわわわわわっ」
ヒューーーーッ……
404:
ドサッ!!!
グリフォン「がはっ くそ痛い」
グリフォン「……って僕、有翼魔族なのに普通に落ちてきてしまったよ。なにやってんだ…………カッ!?」
勇者「……」
剣士「……」
狩人「……」
僧侶「……なんだこいつ」
グリフォン(あ)
グリフォン(死んだなコレ)
405:
勇者「襲ってくるのだったら……」
グリフォン「いやあの、違う。見逃してくれ。僕はただ帰ろうとしただけなんだ。敵意なんてないよホントに」
グリフォン「じゃあ僕失礼するから。ヒュドラ様によろしく……」パタパタ
パタパタ……
パタパタ……
グリフォン(……あれ!? 追撃……されないっ!?)
406:
剣士「なんだったんだのアレ?水棲の魔族じゃなかったみたいだけど?」
勇者「襲ってこないのなら、放っておこう」
狩人「……勇者がそれでいいのなら」
狩人「いいです……けど。時間もないですしね……」
僧侶「ついた! ここがヒュドラのいるところだろう」
勇者「あと15分……それまでにヒュドラを倒せなければ、毒で結局死ぬ。みんな頑張ろう」
剣士「……あのさ……」
勇者「?」
剣士「いま……気づいたんだけどね……」
剣士「脱出の時間いれてないよね……それ」
勇者「……」
407:
勇者「5分で……倒そう!! それで10分脱出にあてよう!大丈夫なんとかなる!!
 もうこうなったら1秒も無駄にできないよっしゃ突撃しようヒュドラ勝負だ!!!」
 
ヒュドラ「来たな……勇 
 
勇者「見た通りヒュドラは首が9つあるから一斉に猛攻撃をしかけて首を落とそう」
剣士「分かった!」
勇者の全体火炎魔法!
剣士の2連撃!
狩人は炎の矢を放った!
僧侶は全体攻撃力増加魔法を唱えた!
ヒュドラ「ちょっ なになに」
408:
wiki見たら首29こだったけどキモイから9つに減らした
今日はここまでです 読んでくれてありがとナス
412:
勇者「四天王のヒュドラ……だな。雪の国の侵略をやめてくれないか。でなければ僕たちは君と戦わなければならない」
ヒュドラ「いや既に一斉攻撃しかけといて言う台詞じゃないだろ……」
勇者「答えがノーだった場合の時間のロスが惜しい」
ヒュドラ「ノーだけどさ」
勇者「だと思ったんだ」
ヒュドラ「おかしいな。どうして毒の中を動けるんだろう。それに私の牙にも毒があるのに、掠っても平然としてるし」
ゴトッ……!
狩人「首はあと……5つ……」
剣士「ううん、あと4つ!!」ザシュッ
ヒュドラ「さすが……強いね」
ヒュドラが噛みついた!
剣士は飛びのいた!
413:
僧侶「よーしガンガンいけー! 回復はまかせとけ!!」
勇者「イタタタタ……(相変わらず僕への回復魔法だけやたらと痛みを伴う……何故だ)」
ヒュドラ「ちょこまかと鬱陶しいな」
勇者は全体雷撃魔法を唱えた!
ヒュドラは一瞬動きを止めた!
狩人の渾身の一撃!
剣士の薙ぎ払い! ヒュドラの首をひとつ落とした!
勇者「あと3つだ! 時間は……」
僧侶「残り9分。10分きったぞ!!」
勇者「急がないと。全体魔法で……」
狩人「勇者!右っ!」
ヒュドラの噛みつき攻撃!
――ズシャアアアアアアアアッ
剣士「勇者っ!?」
414:
剣士「な……なにこれ……」
剣士「ヒュドラの斬りおとした首が……再生して」
ヒュドラ「再生しないなんて言ってないだろ?」
ヒュドラ「なんだかやたらと時間を気にしているようだけど。タイムリミットでもあるのかい」
ヒュドラ「私も暇じゃないんだけど……客が勇者とあっちゃ仕方ない。ゆっくりしていくといいよ」
剣士「また始めから……! ……うっ……く!」パッ
剣士「勇者は!?」
勇者「いや、大丈夫だ。直撃は免れ――あれ?」
勇者(なんで毒状態になってるんだ?)
ヒュドラの毒霧攻撃!
勇者たち全員が強毒状態になった!
毎秒体力及び魔力10%減少!
ヒュドラ「これからが本番だ」
僧侶「薬の効果が切れはじめたんだ! あっまずい魔力尽きそう。ヤベーーー!!」
狩人「あと7分……」
415:
僧侶「なんだよこいつ、強すぎだろ!馬鹿じゃねーの!?」
狩人「一気に9つの首を落とせば……っ」
剣士「はあ……はあ……やろう。もう一回!」
剣士の攻撃!
勇者の上級風魔法!
ヒュドラの首をひとつ落とした!……がすぐに再生した!
剣士「再生のスピードがおかしいと思う!! はあ……はあ……っ」
剣士「死ぬ!!けっこう本気で死の危険を感じる!!」
剣士のHP残り8%!
416:
勇者「下がってて!」
剣士「えっ……?」
剣士「勇者、それ……王都の図書館の地下にあった本……?」
僧侶「なにする気だ!?」
ヒュドラ「……ん……? それは……」
ヒュドラ「手に入れてしまったのか。それは魔族のものだ。返してもらおう。人には使いこなせまい」
勇者は禁術の詠唱をはじめた!
ヒュドラの攻撃は狩人に阻まれた!
417:
ヒュドラ「なんだ?その呪文は?」
ヒュドラ(……!)
ヒュドラ「させるかっ!」
ヒュドラの一斉攻撃!
9つの首が勇者に迫りくる!
しかし勇者の方が早かった。
禁術が発動した!
――――――――――・・・・・・・・――――――――――
―――――――――――・・・――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
418:
僧侶「……」
僧侶「あぁ……?」
狩人「え……?」
剣士「な、なにが起こったの……?」
勇者「僕にもさっぱり……」
僧侶「なんでお前もさっぱりなんだよ……おかしいだろ、説明しろよ」
狩人「ヒュドラが、一瞬で消えた」
狩人「跡かたもなく……」
419:
僧侶「お前、さっきの呪文なんなんだよ?」
勇者「わ、分からない。正直僕が一番びっくりしてる」
剣士「はっ! と、とにかく早く塔から脱出しないと毒でお陀仏だよ」
カッ
狩人「……!?」
女神「その必要はありません。私があなたたちを含めた塔にいる人間全て逃がします」
女神「その前に少しお話があります。まずは……お礼からですね。ヒュドラを倒し、私を封印から解放してくれてありがとう」
剣士「女神様……」
女神「いま私はあなたたちに直接語りかけています。あなたたちの中の時間の認識を遅らせているのです。
 ここでどんなに話しても、あなたたちの世界で実際に進んでいる時間は1秒にも満たない。だから安心してください」
女神「私は雪の塔の守護神……約束通り私は勇者に大いなる知恵を授けましょう」
女神「この鍵を受け取ってください」
勇者「鍵……?」
女神「その鍵を使い扉を開けたとき、あなたが真に得たい知識を見つけることでしょう」
女神「世界の歴史を」
女神「人と魔からなるかつての世界の知識を……」
420:
女神「それから、転移魔法も授けましょう。これから役に立つことと思います」
女神「ただし1日に1回だけしか使えないので、気をつけてくださいね」
女神「…………長らく封印されていたのでまだ力が完全に戻りませんね……」
女神「勇者。ひとつお願いを聴いてくれますか」
勇者「はい」
女神「これで魔に冒された塔はあと星の塔だけ。3つの塔が完全に戻れば私たち3人の女神の守護はより強大なものとなります。
 魔族をこの大陸から完全に退けることも可能となりましょう」
女神「魔王の力を抑えることもできるかもしれません」
女神「一刻も早く、あとひとつの塔を」
勇者「そうすればこの戦争は終わるのですね」
勇者「分かりました。もとよりそのつもりです」
女神「ありがとう……」
僧侶「おうまかせとけ!」
狩人「……」コク
剣士「生きて帰れてよかったあ」
女神「転移魔法陣を用意しました。それで塔の外へ」
パア……
421:
勇者「……あれ? みんなは……」
女神「…………少しあなたにだけ話すことがあります」
女神「その術を使ってしまったのですね」
勇者「術? あ、はい……」
女神「……一刻も早く3つの塔を魔から取り返してほしかったのは、あなたのためでもあるのですよ。
 もし三塔の守護が間に合わず戦争の被害がより広がってしまった場合」
女神「力を得て苦しむのは勇者、あなたのはずです……
 その禁術は元は魔に属するものなのです。私たちが干渉できない魔の大いなる力」
女神「人は魔より弱いため、人であるあなたがそれを使えば代償を払わなければなりません」
女神「あと4回……その術をあなたが使えるのはあと4回です」
勇者「代償……とは」
女神「すぐに分かることでしょう。本当はあなたにそれを使ってほしくはなかった」
女神「もう……お行きなさい。人と魔の狭間の者よ」
パアア……
勇者(消えた……)
勇者(狭間の者……?)
勇者(代償って……)
勇者「……………………!」
422:
僧侶「おい、なにやってるあのボンクラは!? 早く魔法陣まで来い! あと2分だ」
狩人「ハア……はあ 」
剣士「勇者!」
タッタッタ……
剣士「どうしたの? 早く帰ろうよ!」
勇者「……」
剣士「ゆう、」
勇者「がはっ……」
ビチャッ ボタボタ ビチャビチャッ
剣士「え」
剣士「……血……な、なんで」
剣士「勇者っ!!」
423:
* * *
王都 宿
剣士「……」
剣士「……」
バタン
僧侶「剣士ちゃん。もう今日は休んだ方がいいんじゃないか」
僧侶「あとは俺が看てるよ。こいつが目を覚ましたらすぐに剣士ちゃんに伝えに行くからさ」
剣士「あれ……もうこんな時間だったんだ。じゃあ僧侶くんにお願いするね」
剣士「おやすみ」
僧侶「おう」
僧侶「ずっとつきっきりでその調子じゃ、今度は君がぶっ倒れちまうぜ」
剣士「私は大丈夫だよ」
剣士「目を……離した瞬間にね。勇者が死んじゃったら、どうしようって……」
僧侶「そんなあっさり死ぬようなタマじゃねーよ。もし死んだら剣士ちゃんのために俺が冥府からこいつの魂引っ張ってくるから」
剣士「あははっ」
僧侶「こいつもいつまで眠ってるんだか……もう5日だぞ。
 あのときも急に血吐いてぶっ倒れて、訳分からん。原因は毒でもなかったし」
剣士「……あの魔法を使ったからだと思うな」
僧侶「ああ、あの王都の図書室地下で見つけたっていう……」
剣士「うん……」
剣士「……」ゴシ
僧侶「だ、だだだ大丈夫だって!明日にでも目を覚ますだろ!!なっ!!」
剣士「……」コク
424:
太陽の国 王都
「勇者たちが雪の塔を奪還したらしいぞ!」
「女神様のお力か分からんが、毒の霧が徐々に晴れてきているそうだ」
「ヒュドラを破った! 勇者が!」
斧使い「……」
戦士「……へへ」
斧使い「やるじゃねーかよアイツ。王都に帰ってきたら一杯奢ってやるか!」
戦士「見かけによらず根性がある奴らだぜ! よっし祝杯だ!!もう一軒飲みに行こう!」
斧使い「おうよ!」
副団長「やったな勇者……!!!!!!!!!!!!!!!」
魔術師「エクスクラメーションマークうるせえ……」
魔術師「副団長の喧しさは置いといて、よかった勇者たちが無事で。ヒュドラを破ったなら次は星の国ね……」
副団長「負けてはいられないな。俺たちは俺たちのできることをしよう」
魔術師「そうね。……ねえそういえば聞いた?」
副団長「何をだ?」
魔術師「最近神官たちがやけに王都から派遣されてるの気づいてるでしょ?」
魔術師「なんか魔族がこの国のどこかで人のフリをして暮らしているらしいから、その調査に精を出してるってさ」
副団長「むろん聞いている。騎士団も調査しているからね。しかし協力して調査しようと言っても聞き入れんのだ。
 神殿独自に武装官組織をつくって、異端審問院まで作られたそうじゃないか」
副団長「今度の神殿長は――いや違うな。神儀官が下からせっついてるのか。彼女はなかなか辣腕だな」
魔術師「それは結構だけど。私なんだかあの人苦手」
魔術師「まあとにかく、早くその魔族の居場所が割れるといいね。あんたも頑張ってね」
425:
大樹の村
勇者母「ああ……よかった。あの子たち元気にやってるみたい。あなた、私たちの息子が雪の塔を守ったって!」
勇者父「さすが俺の息子だ。はは……なんちゃってな。まったくあいつ、手紙のひとつもよこさんで。心配したぞ」
勇者母「たまには帰ってくればいいのに。さすがにそれは無理かしらね……」
勇者父「いや、でも鳥文にはどうやら転移魔法とやらを取得したらしいぞ。もしかしたら明日にでもひょっこり帰ってくるかもな」
勇者母「そうねえ」
剣士父「いやあ……。すぐに泣いて帰ってくると思ったんだが、まさかここまでやるとはなあ。
 俺たちの娘もなかなか大したもんだ……」
剣士母「私はちょっとまだ心配。女の子が剣なんて」
剣士父「なに、横にはあの子もついている。大丈夫さ。……あの子たちは村にいたときから仲がよかったからな」
剣士父「いっしょにいたいんだろ」
426:
* * *
狩人「剣士。ごはん……ですけど」
剣士「うん。あとで食べようかな」
狩人「……」カタン
剣士「狩人ちゃん?」
狩人「私もあとで……食べます」
狩人「勇者はまだ……」
剣士「きっと楽しい夢でも見てるんだね。現実は悲しいことが多いから目を覚ましたくないのかも」
狩人「……そんな……塔も取り戻したし……ヒュドラも倒したんですから……悲しいことばかりだなんて」
剣士「たぶん誰も殺したくないんじゃないかな。人間も魔族も、誰も」
剣士「まだ勇者が勇者じゃなくて、いっしょに村に住んでたとき聞いた勇者の将来の夢覚えてる」
剣士「誰かを生かす仕事がしたいって言ってたんだもん。殺すんじゃなくってさ」
剣士「……どうして勇者が勇者に選ばれたんだろ……」
狩人「……あの……あの……な、泣かないで……」
剣士「泣いてないよ! ふふ、ごめんね。暗い話ばっかりしてちゃ勇者も目覚まさないよね」
剣士「じゃあ二人でおもしろい話しよ! あのね、私この間……」
勇者「…………」
勇者「……う」
狩人「あっ……!」
剣士「道具屋さんに行こうとしたら間違えて武器屋さんに行っちゃってー、薬草買おうと思ってたのに普通に剣の手入れセット買って満足しちゃってさ」
狩人「け、剣士、」
剣士「その日の夜になってから『あれ道具屋さんに行くつもりじゃなかったっけ』って思いだして。もー馬鹿だよね、あはは」
狩人「剣士よこ、よこです。勇者が」
剣士「え……?」
427:
勇者「あれ……? ここは……」
勇者「宿?」ガバ
勇者「ッゴハーッ!!?」ビチャビチャ
剣士「ゆ、ゆゆゆ勇者!? 目を覚まっ――血がぁ!! わ、あ、あ、え、……うわああああぁぁぁぁん!」
僧侶「なあ剣士ちゃんも狩人ちゃんも、そろそろ飯……うわああああ!なんだこの状況!」
狩人「落ち着いて……剣士は泣かないで……勇者は動いてはだめです」
勇者「はあはあ。起きるなり体が痛い。なんだこれは……内臓が出そうだ」
勇者「いやそんなことより塔は……みんな毒は?生きてる?無事!?」ガバ
狩人「だから!」バッ
僧侶「動くなっつってんだろハゲ!!」バッ
剣士「まだ寝ててっ!!」バッ
勇者「……は、はい」
428:
勇者「6日も寝てた……? いや……冗談だろ?」
僧侶「そんなおもしろくもねえ冗談言うかよ。お前はよお!!剣士ちゃんと狩人ちゃんに多大なる心配をかけて全く万死に値するぞテメエ!!」
狩人「目が覚めてよかったです。みんな心配してた。僧侶も含めて」
剣士「うん……ほんとに」
剣士「よかったよ……」
勇者「……ごめん」
剣士「ばか」
勇者「ごめん」
剣士「あの魔法、今度使ったら絶交だからね」
勇者「えっ!? ま、魔法……な、なんのことかな……」
剣士「とぼけてもだめ!!勇者がこんなことになったのは、あのときヒュドラを倒すために使った魔法が原因だってちゃんと分かってるんだからね!」
剣士「正直6日寝込むくらいであの威力の魔法が使えるのなら、またいざというときには……とか考えてるでしょ」
勇者「かっ考えてないよ!?」
剣士「声が裏返ってる!!」
429:
狩人「あのとき……勇者が魔法を使わなければ、私たちはいまここにいなかったです。だからそれは感謝します」
狩人「でも……やっぱり次は使わない方がいいと思う……です」
僧侶「そうだ。お前の体をこの国の神官といっしょに診察したがな、内臓ぐっちゃぐちゃだったぞ。長く生きたかったら使うのやめとけ阿呆」
狩人「あなたがそれを使わずに済むように……次は私が一撃で仕留めますので。では弓の訓練にさっそく行ってきます」スタスタ
剣士「狩人ちゃんの男前宣言を頂いたところで、そういうわけだから。次は絶対使っちゃだめだよ」
勇者「う、
剣士「使ったら絶交だよ!!!一生口きかないからね!!!」
勇者「まだ何も言ってないじゃないか!」
勇者「……みんなありがとう。分かったよ。もう使わない」
剣士「ほんとにほんとだよ。……もう少し、近くに……寄っていい?」
勇者「えっ、あ、うん」
剣士「痛い……?」
勇者「いや、平気……」
僧侶「いやーーーーー血のめぐりもよくなったみたいでよかったなあ勇者? とくに頬のあたりがなあ? いやーーよかったよかったハーー腹立つ」
430:
剣士「あっ ご、ごめん! わ……私も剣の修業に行ってこよっかなー!!」
バタン
僧侶「勇者、確かお前甘いものが大好物だったよなあ? この間言ってたもんな? 生きてたらしい雪騎士長から見舞いの品でたくさんもらったんだ。
 食うだろ?遠慮すんなよ……砂糖たっぷりのやつ特別に選別してやっからよ」
勇者「あ、あれは……いや、ちょっ勘弁してくれ。吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く」
僧侶「遠慮すんなよ!俺たち仲間だろ!?オラアッ!!」
勇者「ぐえっ」
勇者「……?」
勇者(あれっ……?)モグモグ
勇者「……」
僧侶「なんだよ……気持ちわり―な。なんか反応しろよ」
勇者「いや……おいしかったよ。うん」
僧侶「ああ?」
勇者(……あと4回)
勇者(女神様が言ったのは、このことだったのか)
勇者「……」
431:
* * *
勇者「明日には星の国に出発しようか?」
剣士「目が覚めたばっかりなんだから、もう少し安静にしていた方がいいよ。ね、僧侶くん」
僧侶「そうだな。またぶっ倒れたら面倒だ」
勇者「でも一刻も早く残った塔を奪還しに行かないと」
狩人「えい……」ツン
勇者「ぐっ!?」
狩人「まだ完全に治ってない。……無茶と勇敢は違う……みたいなそんな言葉あったと思います」
剣士「あったようななかったような」
狩人「焦ることはない……です」
コンコン
宿屋「失礼します。みなさまお食事はいかがなされますか?」
剣士「まだ食べてなかったっけ」
勇者「みんなで食べてきてくれよ。僕はさっき僧侶にしこたまケーキやらクッキーやら詰め込まれたからいらないや」ギロ
僧侶「じゃっ食べに行こうぜ。いやー両手に花だなあエッヘッヘ」
剣士「……本当に甘いもの食べれるようになったんだね、勇者」
勇者「うん。そうだよ」
432:
剣士「僧侶くんお酒飲みすぎだよー。明日礼拝に参加する約束、司祭さんとしてなかった?」
僧侶「ああ、した。ぶっちゃけ司祭にこんな場面見られたらまずい」
剣士「自明の理だね」
僧侶「でもここに酒がある限り俺は飲み続けるぞ。これが俺の宿命だ!!生まれた意味だ!!」
剣士「また変なこと言ってる。どうせまた明日二日酔いになるんだからもうお酒は禁止だよ!!」
狩人「ふふふ……」
剣士「……あれもしかして狩人ちゃんも酔っ払ってる?」
狩人「いえ……飲んでないです」
狩人「失礼しました」
剣士「いやっ別に笑っていいんだよ!笑ってくれた方が嬉しいよ!」
狩人「あなたたちと勇者を見てると……生きてる感じがしておもしろい……です」
僧侶「えっえっどういうこと!? つまり俺の彼女になってくれるって意味!?」
剣士「僧侶くんちょっと静かにしててね」
剣士「狩人ちゃんだって生きてるじゃん!なんだかその言い方だと、私は違うみたいに聞こえるよ。私たち全員ちゃんと生きてるよ」
狩人「……そうですね。最近……そう思えるようになってきた……きました」
狩人「私……あんまり話すの得意ではないのですけど……楽しいです」
狩人「ふふ」
僧侶「狩人ちゃんがデレた……感涙していいですか」
剣士「いいよ! 私もみんなでいるの楽しいな。村から出て、旅してよかったって思ってる。勇者もおんなじように考えてると思うよ。
 この場にいないから私が代弁するけどね!」
僧侶「二人ともいい子だなあ……!!!」
433:
剣士「ふあ……。そろそろ寝ない?もう11時だよ」
僧侶「そうだな、ここからは大人の時間だ。剣士ちゃんは寝た方がいいな」
剣士「なっ、なにそれ。私だってもう大人だよ!仲間外れにしないで」
狩人「勇者がまだ起きてるかも。一人で退屈してるかも……しれないです」
剣士「………………わ、わかったよ。勇者はもう寝てると思うけど……」
剣士「じゃあ二人ともおやすみなさい。また明日ね!」
僧侶「おやすみのチューは?」
剣士「私の剣とする?」
僧侶「冗談だよ冗談……アッハッハ」
僧侶「最近剣士ちゃんの切り返しが鋭くなってきた気がするんだが、どうしよう」
狩人「言わなければ……いいのに……」
狩人「もしくはあなたの舌を斬りおとすとか……」
僧侶「待ってどんな二択? 狩人ちゃんの切り返しは鋭すぎてもやは凶器」
僧侶「……まあ別になんでもないんだけどな、えーといつだったかな……
 確か幽霊が出るとか出ないとか言われてたあの不気味な城でだな」
僧侶「いつ死んでもいいみたいなこと言ってたじゃないか。今もそう思ってるのか?」
狩人「……」
狩人「彼と同じように」
狩人「戦いの中で死ねるなら本望と……思ってましたが……今は……」
狩人「死ぬのが昔より……少し怖い……です」
僧侶「……そっか。ならよかった!それでいいと思うぜ。死んでもいいなんて思ってると、いつか本当にコロッと死んじまうよ」
狩人「……」
僧侶「たぶん亡くなった婚約者の男もそう思ってるだろうさ。 なあ……どんな人だったんだ?」
狩人「弓が強くて……弓術が上手くて……弓を持たせれば百発百中でしたね」
僧侶「ああうん、できれば弓以外のことも聞きたいなーなんて」
狩人「……優しい人でした」
狩人「大好きでした」
狩人「……えへへ」
434:
* * *
翌日
狩人(弓の訓練していたら遅くなってしまった……)
狩人(もう剣士は寝ているだろうから……そうっと入らないと……)
狩人(……ん。勇者と僧侶の部屋……まだ灯りがついてる)
狩人「……」
コンコン
435:
狩人「あの……まだ寝てないのですか?」
勇者「ん?でもまだ…… あれっいつの間にこんな時間に。僧侶が帰ってこなかったから気づかなかった」
勇者「また飲み歩いてるのかな」
狩人「もう寝た方が……」
勇者「うん、もうちょっとこれ読んでから寝るよ」
狩人「それは……?」
勇者「魔族の言葉勉強しようかと思って。強い魔族は人の言葉を喋ってくるけど、ほかの魔族はなに言ってるか分からないことも多いし」
狩人「魔族の……言葉? 勇者が……?」
勇者「なにがあるか分からないからさ。尤もこの本もすごく古いから本当に学べてるかは分からないんだけど」
狩人「あ……」
狩人「あはははははは。あははは!」
狩人「あはははははははははははははははは」
勇者「か、狩人? そんなにおかしいかな……」
狩人(……え?)
ギイ……バタン。
カチャッ……
勇者「……? 狩人?」
437:
狩人「一人は寝てる」
狩人「一人は外」
狩人「……」
フッ……
勇者「わっ まだ灯りは消さなくていいよ、狩……」
ブンッ
狩人「……」
勇者「えええええ!?」
勇者「な、なぜ今僕の杖を窓から投げ捨てたんだ? とりに行かないと……」
狩人「もう……体は……動くの……?」
勇者「うん、大分よくなったから、歩くくらいは」
狩人「そう……」スッ
ドサッ
勇者「うっ」
狩人「……」
ギシッ……
勇者「か、狩人……? 何か……あったのか?」
勇者「上に乗っかられると……まだ少し、大分けっこう、痛いんだけども」
狩人「…………ゆう、しゃ」
438:
勇者「え……」
勇者「……!?」
勇者「何を」
勇者「狩人! やめっ……」
勇者「……うあっ……!」
439:
* * *
ガランッ ガランガラン……
剣士「……ん……?」
剣士「いま外から音が……? ふあー あれ、狩人ちゃんまだ帰ってきてない。めずらし」
剣士「何の音だろ。 ……? なんで勇者の杖が窓の外に落ちてるのかな」
剣士「……」
コンコン
剣士(灯りついてない……けど物音聞こえるし……)
剣士「勇者?僧侶くん? ねえ、起きてるの?」
「…… っ……」
剣士「……ねえ……?大丈夫?何かあったんじゃ」
 「……うあっ……!」
剣士「……勇者!?」ガチャガチャ
剣士「鍵……!」
剣士「……っ!!」チャキ
ズパッ!!
剣士「勇者!! 何がっ……」
剣士「……え……」
剣士「えっ……」
440:
* * *
飲み屋
男「あれ〜? どうしたんだい君、そんなに慌てて〜。よかったら一緒にテーブルで飲まっ」
剣士「どけっ!!」
男「ほぎゃっ」
剣士「僧侶くんっ……僧侶くん! 僧侶く…… いた!!」
僧侶「ぐーぐー」
剣士「僧侶くん、起きて!!お願い!起きて……」
僧侶「うーん……ぐう」
剣士「起きろっ!!!」バシッ
僧侶「ほあっ!! け……剣士ちゃん? どうした泣きそうな顔して」
剣士「勇者と狩人ちゃんがっ……血まみれで……宿から消えちゃってっ」
剣士「どこにもいないのっ……どうしよう……!!」
441:
第五章 君の臓物を引きずり出すRPG
445:
宿屋
僧侶「うわっ なんだこりゃ。血だらけ……」
僧侶「……ここに血で何か書かれてる。転移魔法陣か……?でもこれは魔族にしか使えなかったはず。魔族がいたのか?」
剣士「私が扉を蹴破って入ったときには、勇者と剣士ちゃんが一緒に消えるとこだった」
剣士「ほかにだれもいなかったよ」
剣士「僧侶くん、この魔法陣復元できる?」
僧侶「俺だけじゃ無理だな。魔法学院の奴らに手伝ってもらおう。どれくらい時間がかかるか分からんが」
剣士「できるだけ早く。二人はきっと連れ去られたんだ」
剣士「追わなくちゃ。なんとしても」
446:
* * *
勇者「え……」
勇者「……!?」
勇者(いま光を反射したのって……ナイフ?)
勇者「何を」
勇者「狩人! やめっ……」
ズブッ
勇者「……うあっ……!」
狩人「……」ピチャ
勇者「どう……して」
スタスタ
勇者(あ……あれは転移魔法陣か……?)
勇者「狩人っ!!やめるんだ、しっかりしろっ!! こっちに――」
狩人「勇者……」グイ
勇者「!」
狩人「……にげて……」
カッ!
447:
ヒュン
ドサッ!
勇者「ぐっ…… どこだ!?」
グリフォン「ようこそ! 僕の研究室に。 まさかこんなにうまくいくなんて思わなかったなあ」
勇者「お前は……塔にいた……」
グリフォン「あのときは格好悪い姿見せてすまなかったね。見逃してくれて助かったよ。おかげで僕の計画大成功さ」
狩人「……」スタスタ
勇者「狩人!行くな」ガシ
狩人「……」バシッ
グリフォン「狩人って言うんだ、この人間。君のおかげで助かったよ、ありがとう」
勇者「狩人に何をしたんだ」
グリフォン「ちょっと魔女様の力をお借りして操り人形になってもらっただけさ!君をここに連れてくるためのね」
グリフォン「はあ。でも大変だったんだ。ヒュドラ様を倒した時に、勇者が昏睡状態になったってことを小耳に挟んで
  できれば君が寝てる間に連れてきたかったんだけど 思ったより時間かかっちゃってね」
グリフォン「僕はあんまり魔法とかさ……そういうの得意じゃないんだ」
グリフォン「でも間に合ってよかった! まだ君は完全に回復してないみたいだし。確か杖がなければ魔法は使えなかったよね?
  仲間もいない、武器もない、体調も芳しくない……いくら勇者でも逃げられないんじゃないかなあ」
グリフォン「……ははは! それにしても……君はおもしろいね!
  魔族の言葉を勉強してるんだって?よりによって勇者が!」
グリフォン「じゃあ僕たち似てるかもしれないね。僕も人のことが好きで人の言葉を勉強して、今も君にその言葉で意志伝達してるわけだけど」
グリフォン「ほかにもたくさんおもしろいことあるよ。なんで君は人間なのに魔族のような魔法を使えるんだ?
  神が選んだっていう君の身体構造は、ほかの人間と違うところがあるのかな?」
グリフォン「身体構造だけじゃない、感覚は?血液は? もし勇者が死亡した場合には、何らかの神による干渉があるのかな」
グリフォン「いやあ……その全ての疑問が今宵解消されると思うと、興奮で手が震えるよ」ニッコリ
勇者「……っ わ、分かった。用があるのは僕だけなんだろう、それなら狩人は元いたところに返してくれ」
グリフォン「うーん」
グリフォン「無理」
グリフォン「このままの状態で君の解剖したら、うっかり手が滑って殺してしまいそうだ。
  少し彼女でもいじくって落ち着かないとね……勇者はこの世にただ一人、大事な素体なんだから、過ちがあったらいけない」
448:
勇者「させるか。返せ」
グリフォン「ちょっとここで待っててもらえるかい。すぐ戻るからさ。あとはよろしく、オークさんたち」
オークA「うっす」
オークB「あいよ」
オークC「OK」
グリフォン「じゃっ行こう」
狩人「……」フラフラ
勇者「狩人!! しっかりするんだ! ……行かせるか……っ」
オークA「お前の相手は俺たちだよ。大人しくしとけ」
オークC「殺さなければ問題ないよな?」
オークB「腐っても勇者だぜ。油断するなよ……」チャキ
勇者「……どけ!!」
オークA「ハッ。そんなちゃちなナイフで何ができる?手首ごと折ってやるよ!」
ブンッ……
449:
狩人「……う……うっ、……はあ……、!?」
狩人「ここは……勇者は」
グリフォン「あ。目が覚めたかい。ちょうどよかった。拘束も終わったところさ。
  やっぱり僕なんかじゃあんまり長時間君を操れないなあ」
狩人「お前が私の体を勝手に……!!許さない……勇者をどうしたの?私にあんなことをさせて……!!」
グリフォン「まだ生きてるよ勇者は。うーん活きがいいなあ君は。でもあんまり叫ばれるの好きじゃないんだ。
  静かにしててくれるかな。ええと麻酔麻酔」
狩人「……っや、やめ……」
グリフォン「大丈夫。安心してくれ。僕は人間が好きだよ」
グリフォン「はははっ」
グリフォン「せっかくだから新しい手法を取り入れて実験してみよう……大丈夫、痛くないよ」
グリフォン「目が覚めたとき、ちょっとだけ今と違う姿になってるだけさ」
狩人「……いやだっ……」
狩人「やめて……!!」
狩人「……あ……ぁ……」
450:
勇者「くっ!」
グサッ!
オークA「おいおい……今俺は蚊に刺されたのか? 拍子抜けだぜ」
勇者(ナイフじゃオークの固い皮膚に深く突き刺さらない…… ほかに何か武器は、)
オークB「武器探してんのバレバレだぞぉ。よっと!!」
勇者「…………っ!! げほっ……」
オークC「うわー Bえげつねー。ナイフ刺さってた腹に一発入れるとか鬼畜の極みだな。さすが」
オークB「本当に杖ないと魔法使えないんだな。治癒魔法も使わねーし。勇者も案外ちょろいな」
勇者「……わ、分かったよ。大人しくここでグリフォンを待つから」
オークA「賢明だな。そうしてくれ、その方が俺たち、もっ……!?」
ズザーッ!
オークB「うおおっ!? Aの股下くぐって……おい逃げだすぞ!」
オークA「いやんエッチ」
オークC「言ってる場合か! 追うぞ!!」
バリーーーン!!
勇者「はあ、はあ……狩人はどこだ?」
勇者(杖がない以上転移魔法も使えない。ここがどこだか分からないけど、とにかく狩人を連れて外に出ないと!
 見たところ窓がない。多分地下だ……地上はもしかして魔族領なのか?)
「いたぞー!あっちだ!周りこめ!!」
勇者「くそっ」
451:
――――――――――――
―――――――――
――――――
バタン
グリフォン「ありゃ」
勇者「!!」
グリフォン「いまそっちに行こうとしてたのに。逃げだしてきたのかあ」
勇者「狩人はどこだ」
勇者「返せ!!」
グリフォン「怪我してるはずなのに結構動くなぁ。人間も丈夫なんだね。火事場の馬鹿力ってやつなのかな?それとも勇者だから頑丈なのだろうか」
ダンッ
勇者「答えろ」
グリフォン「いてて……。乱暴だなあもう。彼女なら……奥の部屋にあるよ。君も気にいると思うけど。ハハハハ」
勇者「ふ……ふざけるなっ!」
グリフォン「ふざけてないよ。離してくれるかな。 おーいオークさんたち、こっちこっち」
オークA「いたいた……全く手間どらせてくれちゃって」
勇者「邪魔を」
勇者「するな……!!」
452:
ガチャッ
勇者「狩人!! どこだ!?」
勇者(……暗くてよく見えない。灯りは…… )
勇者(ランプがある、これで……)
ボッ
勇者「……」
勇者(この部屋……。変な水音がすると思ったら、何かの液体で満たされた巨大なガラスケースが並んでるのか)
勇者(中に入っているのは…… うっ……ぐ)
勇者(これ全部、あのグリフォンが作ったのか? …………。)
勇者「……狩人!! 頼む……返事してくれ! どこにいるんだ……っ」
 「…………て……」
勇者「狩人!?」
 「灯りを……」
 「消して」
勇者「狩人……っ、よかった……」
453:
勇者「ハァッ、ハッ……狩人、すぐここを脱出しよう……。グリフォンに何かされていない?ケガは?」
勇者「とにかく、生きててよかった。帰ろう。どこに……いるんだ?」
??「……」
??「あなたの目の前にいますよ」
勇者「目の前って……僕の前にはもうガラスケースしか」
勇者「ない、けれど」
勇者「……」
??「っふふ」
??「もう……最悪です……ふふ」
??「……見ないで……お願い。勇者」
勇者「……」
??「私、帰れないです」
??「こんな……姿じゃ……あぁ」
勇者「狩人」
??「化け物になってしまいました。こんな姿になっても、まだ生きている……」
??「いや…… うっぅぅ…… お母さん……お父さん……。ごめんなさい……」
勇者「……うそだろ」
勇者「こんなの……」
454:
勇者「……っ帰ろう! 王都に戻れば、君を元の姿に戻すことがきっとできるはずだ。
 いや、絶対戻すよ。約束する。なにがあっても……戻すよ!だから……」
??「勇者。ごめんなさい。お腹を刺してしまって。必死に止めたのですけど、体が勝手に動いてしまった」
勇者「そんなことはどうでもいいよ!ガラスケース、壊すよ。早くここから出よう!」
勇者「どんな姿になっても狩人は狩人だ。動けなければ僕が運ぶから、掴まって」
??「……できない……」
勇者「どうして!!」
??「この培養液から出たら、たぶん私は生きられない……」
勇者「狩人……!」
勇者「頼むよ……お願いだから……」
??「ふたつ」
??「お願いがある……んです」
??「聞いてくれますか……」
勇者「……なんでも聞くよ」
??「殺してください」
??「それから、右手だけ故郷の父と母の元に届けてくれませんか……
 右手だけは人のまま、何もされていないから……」
勇者「…………」
455:
??「……泣かないでください。本当に、ごめんなさい」
??「ここで化け物として一生を終えるくらいなら……勇者の手で終わりにしてくれた方が」
??「何倍も幸せです」
勇者「……いやだ……」
??「いつ死んでもいいって、思ってた。彼が死んでからずっと」
??「でも旅をしてるうちに、もっと生きて、みなさんといたいって……」
??「そう思えるようになったのも、勇者と、剣士と、僧侶のおかげです」
??「ありがとう」
??「みんな大好き……です」
??「えへへ」
??「だから」
??「おねがいします……」
バリンッ!!
……ビチャ
456:
勇者「恨んでくれ」
勇者「全部僕のせいだ」
??「恨まない。……仲間です」
ギュッ
??「……あったかい……」
勇者「右手は必ず故郷に届ける。約束する」
??「ありがとうございます……」
勇者「今まで……」
勇者「この手で、弓を引いて……いっしょに戦ってくれて……ありがとう」
勇者「…………狩人」
狩人「……はい」
狩人「さよなら……」
457:
* * *
ヒュンッ!
僧侶「ぐああああ!? こ、ここは……!? 室内……?」
剣士「地下みたいだね。争った形跡がある。それから血の跡も……たぶん勇者だよ。辿っていこう!!」
オークDとグリフォンEが襲いかかってきた!
僧侶「チッ……魔族がわんさかいやがる。魔族領なんだから当たり前か。一体どいつが勇者と狩人ちゃんを……!!」
僧侶「とくに……狩人ちゃんをっ!!!許さん!!!待ってろ狩人ちゃん、俺がいま助けに行くっ!!!」
剣士「血の跡は……あっち。あの部屋に続いてる。あの扉の先に勇者と狩人ちゃんがいるはずだよ」
僧侶「突撃だ!!」
剣士「あっ……オークとグリフォンの死体がある。このグリフォン、塔で会った奴じゃない?
 ほら、グリフォン族なのに落っこちてきた……」
僧侶「これは二人がやったのか? 部屋は奥にもういっこある。……開けるぞ、剣士ちゃん」
剣士「うん」
ギイィ
458:
剣士「暗いね。 本当に二人はここにいるのかな……」
僧侶「確か煙草用にマッチがあったはず……あったあった」ゴソゴソ
ボッ
僧侶「うっ。なんだここは、不気味な部屋だな。もしかしてここって所謂研究所とかそういうんじゃねーだろうな」
剣士「勇者、狩人ちゃん……ここにいるの? いるなら返事して!」ピチャ
剣士「! これは、水? どこから……」
勇者「灯りを……消してくれないか」
剣士「ゆ、勇者! よかった、無事だったんだねっ!怪我は平気?狩人ちゃんは!?」
僧侶「お……お前、血まみれじゃないか。こええよ……返り血か? つーか灯りを消せって、なんでだよ?歩きにくいだろ」
勇者「消してくれ」
僧侶「……な、なんだよ。ほら消したぞ。で狩人ちゃんはどこだ?」
僧侶「あと何抱えてんだ?とりあえずそれ離せ。失血量やべーぞ。今なら特別に丁寧な方の治癒魔法かけてやるよ」
勇者「いい。それより僕の杖ある?」
剣士「持って来たけど……勇者大丈夫?」
剣士「なんか、おかしいよ……」
勇者「ここを焼き払うよ。そしたらすぐに転移魔法で帰ろう」
僧侶「はああ!?ばか言うな!!まだ狩人ちゃんと合流できてねーーだろうが!!頭沸いたかテメエ!!」
勇者「狩人は死んだ」
勇者「僕が殺したんだ」
459:
* * *
星の国
チェロ弾き「もう人通りが少なくなってきたのう。そろそろ帰るか」
チェロ弾き「……おや。あのお嬢さん、まだあそこに腰かけておる」
剣士「……」
チェロ弾き「やあ、こんばんはお嬢さん」
剣士「こんばんは……」
チェロ弾き「一曲どうかね。リクエスト聞くよ」
剣士「お金もってくるの忘れちゃったの……」
チェロ弾き「なに、もうお嬢さんが最後のお客さんだからね、お代はいらないよ。
  ずいぶん暗い顔して俯いてるから、おじさんからプレゼントさ」
剣士「……ありがとう」
剣士「じゃあね、レクイエム……」
〜♪
剣士「……いい曲」
チェロ弾き「……」
〜♪
チェロ弾き「2曲目のはレクイエムじゃないんだけどね。お嬢さんの笑顔が戻るように。
  思わず口笛を吹きたくなっちゃうような楽しい曲だろう?」
チェロ弾き「なにがあったのか分からないけど、元気をお出し。神様はいつでも私たちを見まもってくれているよ」
剣士「……」ニコ
剣士「この国は本当に星がきれいなんだね、おじいさん」
剣士「……いっしょに見たかったな……」
460:
* * *
山道 湖の前
僧侶「あー……っと。次の村は確かこのまま南であってるはず。もうすぐ着くだろうな」
勇者「そっか」
剣士「……じゃ、じゃあ少し休憩しない?ちょうど湖もあるし。すぐ村に着くならさ。ねっ」
僧侶「俺も喉かわいちまったよ。休もうぜ」
剣士「あ……魚いる。なんて魚だろ。ちっちゃくてかわいいね」
勇者「……」
剣士「……えっと」
僧侶「おいっぼーっとすんな勇者!!剣士ちゃんの発言シカトなんて言語道断、地獄の沙汰も金次第だぞっ!!」
勇者「……あ、ごめん。聞いてなかった」
剣士「いや、いいよ!全然内容がない発言だったしむしろ無視してねっていうか……!」
勇者「あのさ……二人とも、何も言わず星の国まで来てくれたけど。次の村で別れようか」
勇者「塔へは僕一人で
僧侶「剣士ちゃん」
剣士「うん。思った通りだったね」
僧侶「そいっ!!」
剣士「えいっ!!」
バチーン
勇者「痛いっ! な、なにをするんだ!?」
剣士「絶対そう言うだろうねって僧侶くんと話してたんだよ。あのね、絶対無理。……ついてくよ」
僧侶「お前一人じゃ絶対すぐ犬死だっつの。まあ別に……俺はそれでもいいけど。
 狩人ちゃんがあんなことになっちまったのはよ……これから倒しに行く魔女の術が関わってたんだろ?」
僧侶「仇討ちだ。お前がいやだっつってもついてくぜ俺ァ。くさってもお前は勇者だからな、戦力は多い方がいい」
勇者「……」
461:
ワーワー…… ワー
剣士「? なんかあっちの方から人の声がするね。なんだろ」
僧侶「これから行く村の連中じゃないか?方角的に」
兜をかぶった男「やや、あなたたちはもしや勇者様とそのお仲間ですか」
勇者「そうですけど……なにかあったんですか」
剣士「ド、ドラゴンが?」
兜男「ええ。空を飛んでこの森に落ちるところを見た者がいます。
 何かある前にと、近くの町や村から腕の立つ者を集めて捜索に当たっているのです!」
兜男「勇者様たちがいらっしゃれば心強い!!ドラゴンですよドラゴン!!
 我々だけで太刀打ちできるか不安だったのです!」
兜男「では勇者様たちは南をお願いいたしまする。我々は引き続き北を探しますので。
 相手はあの竜族ですからね、どんな災害を引き起こされるか分かったもんじゃありません。
 見つけ次第殺してくださいね!」
僧侶「……こっちの返事も聞かず言うだけ言って逃げるたあ いい度胸してんじゃねーかあの兜」
僧侶「追ってぶん殴るか?ん?あの兜も売れば今日の宿代くらいにゃなるんじゃねーのか」
剣士「やめてよ。僧侶くんの時折見せる山賊のような瞳のギラつきは一体なんなの」
僧侶「元山賊だからな、お手のもん……あっウソウソ!そんな経歴は僕持ってないよ!清廉潔白な僧職だよ!」
剣士「えっ……」
勇者「ドラゴンか…… とりあえず探そうか」
勇者「殺さなくちゃね」
462:
鍾乳洞
剣士「すごくドラゴンが潜んでいそうな鍾乳洞に辿りついたね」
僧侶「まあ、入ってみるか」
勇者「……」
コツ……コツ……コツ
ォオ……オ……ォオオ
勇者「どうやら本当に竜はここに潜んでるみたいだね。ドラゴンの唸りが奥から聞こえる」スタスタ
剣士「ちょっと、勇者、慎重に行った方がいいよ……!もっとゆっくり」
剣士「ねえっ 聞いてる?」
僧侶「ハァ、だめだアイツ……聞いてねえよ」
最奥
勇者「……」
子竜「グルルルルルル……」
剣士「た、確かにドラゴンだけど……すごく小さいね。まだ子どもだ」
僧侶「怪我してるな」
勇者「来るなって言ってる。迷って人間の土地に来てしまったらしい」
剣士「言ってること分かるの……?」
子竜「…………」バサバサ
勇者「でも見逃すことはできないよ」スタスタ
勇者「死んでくれ」
463:
剣士「えっ……」
僧侶「前とは言ってることが違うじゃねえか。いいのか勇者。
 お前、必要がないのなら魔族はできるだけ殺したくないって言ってなかったか」
勇者「うん、僕が間違ってたよ」
勇者「もっと早く気付いていたらよかった……」
勇者「あのとき、雪の塔でグリフォンを見たとき、奴を殺していれば狩人はあんなことにならなかったんだ。
 敵を見逃すって行為は仇となって帰ってくるって、狩人はずっと前に僕に言ってくれてたのに」
勇者「僕が偽善を振りかざしたばっかりに、あんな……」
勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」
勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」
勇者「やっと僕にも分かった……」
―――――――――――――
―――――――――
――――

兜男「はあ……全然見つかりませんなあ」
兜男「おや勇者様! どうでした、見つかりましたか?ドラゴンは」
勇者「見つかりましたよ」
勇者「ちゃんと始末しました」
兜男「それは重畳!さすが勇者様とそのパーティとあらば、負傷もなく返り血ひとつ浴びず
 ドラゴンを倒すことができるのですね。まあ吸血鬼もヒュドラも倒したのですからそりゃそうですよね」
兜男「期待してますよ!勇者様。 あ、今日の宿のお代はけっこうですとも!
 どうぞお休みになってください」
僧侶「おっ やったな。金が浮く」
勇者「……」
464:
第四章 魔女狩り
465:
星の国 都
学士「というわけでここ星の都は別名学問の都とも呼ばれるくらい、大陸一!学問が発達している都市なのさ。
 都の門をくぐってまず聳え立つ天文台を目にしたでしょう?それを見て分かる通り、天文学が盛んなんだ」
剣士「あ、あれすごかった。天文台だったんだ」
学士「ハァァ……もっとも今は戦時。兵器や防具の開発の方に力を入れさせられてるんだけどね」
学士「とにかく、ようこそ星の都へ。歓迎するよ勇者と剣士と山賊」
僧侶「僧侶だけど」
学士「あ、そうなの?ごめんごめん。あんまりにも柄が悪かったから。
 でだね、わざわざ君たちの宿に押し掛けてこうして話をしているのは、教えてほしいことがあったからなんだ」
勇者「あ……はい。できればもう寝る時間なので帰って頂けると……嬉しいんですけど……」
学士「僕はこの大陸の女神について研究してるんだけど、君はもう二人の女神に会ってるんだよねえ!!
 太陽の国の女神から授かったっていう武器を見せてもらってもいいかなあ!?」
勇者「どうぞ」
学士「ありがたや! 一晩貸してもらっても構わない?ちょっと見てみたいんだ」
僧侶「グオー……グー……」
剣士「むにゃむにゃ……」
学士「それで、これが僕の一番聞きたいことだったんだけど、雪の塔の女神から授かった知恵っていうのは……
 一体どんな知恵だったんだ!?僕はそれを聴くまで帰らないぞ!!帰ってやるもんか!!」
勇者「……」
勇者「あ……」
466:
翌日
カラン
勇者「そういえば、女神様にもらったこの鍵、使ってなかった。……正直それどころじゃなかった」
剣士「勇者。その隈どうしたの」
勇者「あの学士が帰ってくれなくって」
僧侶「鍵ってったって、どう使うんだ?どの扉の鍵だよ? 女風呂の鍵とかだったら喜んで使うが」
勇者「……どう使うんだろう」
パッ
勇者「!」
剣士「きゃっ なに?」
470:
世界図書館
勇者「転移した……のか?」
剣士「ええっ なにここ? 広い。天井が見えないよ」
僧侶「う、腰打った……」
司書「うわ。閲覧客なんて久しぶりだ。お前が今の時代の勇者なんだ。へえー」
勇者「君は……」
司書「まあ、ゆっくりしていけば。なにか知りたいことがあるなら聞いて。
 ここは世界図書館、俺はその司書。先に言っとくけど、ここは一度来たら二度と来れないからね」
司書「後悔しないように、きっちり見といて」
勇者「図書館? ……よく見たら壁じゃなくて、全部本棚なのか」
僧侶「にしても広すぎだろー。 異性にもてるコツがのってる本とかある?」
司書「あるよ。はい」
剣士「あるの!?」
勇者「知りたいことって急に言われてもな……。あ、それなら、この魔術書の最後のページにある読めない呪文、」
剣士「勇者」
勇者「あっ、いや、別に使うからって意味じゃなくて、」
剣士「禁術は使わないって約束してくれたよね」
勇者「でもここには一度しか来れないし、一応聞いてお
剣士「したよね?」
勇者「しました」
471:
剣士「このものすっごく分厚い本はなに?司書さん」
司書「それは歴史の本。どれ、よっこいしょっと。読んでみる?けっこうおもしろいこと書いてあるかもしれないよ」
剣士「XXXX年、XX月XX日――△△番目の勇者が世界図書館に到着。 えっなにこれ。今日のこと……だよね?
 なんでもう本に書かれてるの?」
司書「そりゃ今日のことだって一瞬過ぎればただの歴史になってしまうよ。すぐ記録されなくちゃ」
勇者「すごいな、全部書かれているんだ」
司書「とくにお前らにとってはここがおもしろいんじゃないか?ほらここ。
 お前らがいま必死になってやってる戦争がはじまった日だよ」
勇者「XXXX年……大陸連合軍がドワーフ領・エルフ領へ侵攻開始。最大規模の人魔戦争の幕開け……」
勇者「えっ?」
司書「そうそう。お前たちが生まれるずーーっと前に、戦争を始めたのは人間側なんだ。
 お前らはそう知らされてないみたいだけど」
剣士「昔は人間の方が強かったのかな。その翌年に、また別の種族に侵攻して……どんどん領土を広げてるよ」
司書「いやあ、魔族が弱かったのさ。といっても単なる文明の発達度や武力のことじゃなくって、統率されてなかったってだけ」
司書「魔族がまだ一丸となってなかったから、どんどんドワーフやエルフとかの弱小種族は侵略されちゃった」
司書「でも次のページを見てご覧よ。魔族が巻き返して領土奪還に成功してる」
勇者「魔王か……」
司書「おう。いまお前たちが挑もうとしてる魔王のことだけど……彼がバラバラだった魔族をまとめあげた!
 すごいな、天下統一だぜ。めったにできることじゃあないよ」
472:
司書「魔王に統率されて連携のとれた魔族は一気に強くなったさ。それに当時の人間は大慌て。
 勝機があると思って仕掛けた戦が突然負け戦に変貌しちゃったからね」
剣士「それで……どうしたの?」
司書「どうしたもこうしたも、あとはお前たちが身をもって体験している通り、一方的な戦争に早変わり。
 魔王軍の超優勢だよね。大変だよね。このまま人は絶滅してしまうのかなあ」
僧侶「他人事かよ、テメエ」
司書「他人事だよ。俺人間じゃないし。魔族でもないけど。ただの司書だよ」
勇者「でも、どうして人間は魔族へ侵略を開始したりしたんだ?」
司書「そりゃあ、人同士の戦を穏便にやめるためだよ。つーか本見ろよ」
剣士「太陽、雪、星の国の百年大戦…… あ、これは歴史の教科書で見た!私が赤点とったところだ」
勇者「君寝てたから……。ああ、その大戦の停戦条約の後に魔族への侵攻が開始してる」
司書「その大戦も長くってなあ、百年だぜ百。そりゃあ王も軍も人も疲弊しちまうよな。
 これがなっかなか終結しなくて、均衡状態が続いたのが悪かった。いっそどこかの国が圧倒してれば別だったかもな」
司書「国のトップはいい加減穏便に停戦条約を結びたかった……でも国民が納得しなかったんだ。
 下手言った王族が過激派の民衆たちに処刑されたりして、すごい時代だったんだぜ」
僧侶「はーん、なるほどな。そこで王様たちは魔族に目を向けて、国対国じゃなくて人対魔族の対立を煽ったわけか」
司書「そうさ。あわよくば戦争で枯れた資源も確保できれば上々といったところだったんじゃないかな」
勇者「でも、そんなの侵略された魔族からしたら」
司書「たまったもんじゃないね。でもさっ! 魔族……つーか魔王も同じ考えだったと思うよ」
剣士「え?」
473:
司書「だって魔王のタイミングがよすぎるね。きっと彼も狙っていたんだ。魔族統一の機会を」
司書「ほら見てよ。人間と同じように、魔族も種族同士の因縁や対立、小競り合いがわんさかあったんだ。
 魔族統一をしたい魔王にとって、魔族同士の対立をやめさせるための外敵の出現は好機だったはずだよ」
剣士「うーん……ちょっと待って、なんか頭こんがらがってきた」
剣士「えっとつまり……結局同じ理由で人間と魔族は戦ってて……」
勇者「なら、どちらの当初の目的は既に達成されているじゃないか。
 人間同士のいがみ合いももうないし、魔族だって統一されているし……」
勇者「だったら……僕たちがしていることの意味って一体なんなんだ……?この戦争の意味は……」
司書「さあな」
司書「それを見つけるための知識だよ。意味はお前たちが勝手に決めろ」
僧侶「さっきから聞いてて思ったんだが……『勇者』はこれまでたくさんいたんだな」
司書「うんいたいたー。お前らが勇者って呼ぶ連中はな。ちょっと待ってろ。あらよっと。はいこの本」
剣士「地下遺跡について……。地下遺跡?」
勇者「『大陸にあるいくつもの地下遺跡には、人間と魔族の言葉が入り混じったような紋様が刻まれている。
 古の時代には魔族と人間が共生する社会があったのではないだろうか……』」
僧侶「ハッハ、そんなわけないだろ」
司書「いやー、あるんですねこれが。
 創世された時は人間とか魔族とかの区別はなかったよ。一つの国で一緒に暮らしてた」
剣士「えー!?」
勇者「……」
474:
司書「その時代には生きてる者全員が魔法を使えたんだよ。人の祖先も、魔族の祖先も区別なく。
 勇者が今使ってるような魔法とか、もっとすごいのとか……」
勇者「なにがあって魔族と人に別れたんだ?」
司書「いまでもあると思うけど、王位継承問題だよ。誰が王になるかで人の祖先と魔族の祖先は派閥をつくって対立した。
 自然と見事に調和していた都もあっという間に荒廃しちゃった。あれは悲しかったな」
司書「後に人となる者は、自分たちから魔法を切り離して女神として崇めた。会ったよな?塔の女神。あいつらね。
 自然界の力を捨てて、別の方法で戦うことを選んだんだよ」
僧侶「ああ……? じゃあ俺が使うような治癒魔法は一体なんなんだ」
司書「それは女神から信仰心の代わりに受け取れる神様の力。勇者とか魔族が使う自然界の力とは根本的に違う。
 信仰をやめちゃえば……つまり神殿から籍を外せばお前はそれを使えなくなっちゃうんだろ?
 一時的に借りてるだけのかりそめの魔力だよ」
僧侶「ふーん……ややこしいな」
勇者「魔族は、魔法を手放さなかった。そしてその魔法の集大成として作られたのが魔法書と剣……」
司書「そう。もう察しがついてるみたいだな。いやーその二つの威力はすごかったよ。
 それらのおかげで魔族の祖先がだんだん優勢になっていった。でもおかしいよな」
司書「なんでその書と剣が今の時代に勇者の武器になってるかってことだよ。
 人間の祖先が盗んだのさ。それで一発逆転しようって考えた」
剣士「それで、どうなったの?」
司書「晴れて一発逆転、王位は人の手に! とはならなかった。
 元々魔族用に作られた武器だったんだから、人間が使いこなせるわけなかったんだ」
司書「魔法書の方は、人間はもう魔力を捨てて女神にしてしまったし、
 剣は度重なる戦で呪いを帯びて魔剣になってしまった」
司書「あの剣はね、抜くのに条件がいる。持ち主を選別する剣なんだ」
司書「その条件を満たした者がいたにはいたけど、人の体には負担が大きすぎて1日程で命が尽きた。
 結局、書も剣も盗んだはいいけど使いこなせる人間はいなかったんだよねー。どんまいだね」
475:
 
司書「それで困ったね、ってなって、どうなったか見る前に」
司書「ここで一旦話をそらして、勇者という謎の存在について見てみようよ。
 はい、これ。『勇者の歴史』」
司書「『勇者。人間でありながら魔族の魔法を使いこなす特別な存在。
 この世界に現れる頻度は一定ではなく、発生条件も謎である』」
司書「つまりさ、お前は先祖返りみたいなもんなんだよね。人間も魔族も等しく魔法が使えた時代……
 まだ仲良く共同社会の中で生きていた、遠い遠い古の時代の生きる化石ってわけだ」
勇者「えっ……」
剣士「勇者って化石だったの!?」
僧侶「剣士ちゃん、頑張って話についていこうな!分かんないところあったら俺が教えるからな!」
剣士「うん」
司書「なんか、勇者は神に選別されて〜〜みたいなことたぶんお前らは聞いて育ったんだと思うけど
 勇者が『勇者』っていう英雄的位置づけになる前にも存在したからな、その先祖返りは」 
司書「いや、分かんないよ?本当に創世の神様が選んでるのかもしれないけどさ、
 俺もまだ冥府の番人じゃない方の創世主には会ったことがないから、そればっかりは推測になる」
司書「とにかくいたんだ。『勇者』の伝説の前にも先祖返りはいた。
 先天的に魔法が使える者が大半だったけど、稀に後天的にある日突然魔法が使えるようになった者もいた」
司書「一番最初の先祖返り……まだ『勇者』とは呼ばれてなかった、そいつは
 人と魔族が二派に分かれてから数十年後に現れた。どうなったと思う?」
司書「生まれてすぐ殺されちゃった。その数十年後、2人目の先祖返り。さらに百数年後、3人目が生まれる。
 全員同じだよ。魔法の片鱗を見せた辺りで生まれなかったことにされちゃったよ」
剣士「……そ、そんなのひどいよ」
僧侶「なんかいきなり重いな!」
司書「だってさーーーしょうがないよ。親や村のみんなの気持ちになって考えてみなよ!
 敵対してる魔族の魔法を何故か使える子どもだよ?人からすれば気味悪いし縁起悪いし、正直化け物だよね」
司書「まあというわけで先祖返りはいたけど、表舞台には立たなかった。すぐ殺されたから」
勇者「……」
勇者「そっか。表舞台に立つようになったのは、魔剣と魔法書を人が魔族から盗んでからってわけか」
司書「そうそう」
476:
司書「だって人と魔族が分かれる前の時代の先祖返りなんだから、極端な話、人でも魔族でもあると言えるんだ。
 魔族のための剣と書も……完璧に使いこなせるわけじゃないけど、ほかの人間よりは遙かに使える」
司書「それから先祖返りは『勇者』って呼ばれるようになって、英雄的な扱いをされるようになった。
 よかったね、お前もこの時代に生まれて。昔に生まれてたらすぐ殺されてたよ」
司書「このころ生まれたのが今に伝わる石板の伝説だね。王都で聞いただろ?
 勇者は塔の女神から力と知恵とほにゃららをもらいますよってさ」
剣士「ほにゃららってなに?確か星の塔の女神様がくれるものだよね」
司書「それは……秘密。悪いけど、行ってからのお楽しみ」
司書「これが『勇者』の誕生の歴史。勇者は英雄に祭り上げられました、おわり……
 というわけでもないんだよなあ。気をつけろよ勇者」
司書「怖いのはその後だよ」
司書「だからこそ、ここでいろいろなことを知って、そのうえで選ばなければいけない。いまのうちに。
 お前には選ぶ権利がある」
勇者「どういうことだ?」
司書「お前は人でもあり魔族でもある。肉体は人だけど中身は魔族だ。人として育てられたけど魔族の魔法を使える異端者だ。
 だから別に人間に味方しなくちゃいけないってこともない」
司書「人を殺すも守るも、魔族を殺すも守るも自由。塔を壊しても守ってもいい。なんなら戦争なんて参加しないで逃げてもいい。
 なんでもいーよ」
勇者「…………僕の中身が魔族?」
勇者「違う。僕は人間だ!!」
477:
勇者「いっしょにするな。……同じじゃない。僕は……狩人を……あんな目に合わせた魔族なんかと同じじゃない……!」
司書「同じだよ。魔族がつくった魔法書の術を使えたことがその証明だ。
 つまりまあ、考えてみればひどいことしてるよなあ」
司書「魔族のための魔法で、魔族をぶっ殺したんだからさ。けっこう悲惨な同族殺しだな」
勇者「違う……!」
司書「何が違うんだよ? 火とか水とか雷とかの攻撃魔法だって、ぜーんぶ魔族と一緒のもの使ってるじゃないか。
 治癒魔法ですらそうだ。気づいてたんだろ?自分が使う治癒魔法が、僧侶のものとちょっと違うってさあ」
司書「認めろよ。まずそこから始めないと。お前は人でもあり魔族でもあるんだ。
 仲間を殺したあの魔族とはある意味で一緒の民族なんだぜ」
勇者「違うっ!!」
ガタッ!
剣士「……」
司書「……」
司書「……な、なんだよ」
剣士「……別に?」
剣士「ただちょっと、言葉に気をつけてねって言おうとしただけ」
司書「じゃあなんで立ち上がったんだよ!座れよ!やめろよな、ここは図書館だぞ!暴れたりしたらどうなるか――」
司書「……なんだよう!こっち来るなよっ!! に、睨みつけるなっ!!」
司書「お、俺はなんでも知ってる司書なんだぞっ!! 偉いんだぞ!そんな目で見るなっ!!
 お前らのためにいっぱい教えてあげてるんじゃないかっ!!」
勇者「け、剣士。座ろうよ」
司書「うっ、なんだよこいつ……久しぶりの客かと思ったらコレだよ……超こわかったよ……」
478:
僧侶「メソメソすんなよ。女になって出直してこい。慰めてやるから」
司書「こいつはこいつで最低だな」
剣士「勇者は勇者だよ」
勇者「え?」
剣士「種族とか民族とかそういうの抜きにして、勇者はずっと前から私の幼馴染の勇者だよ。
 今までもこれからも、それだけはずっと変わらないでしょ」
剣士「だからそれはいつも忘れないで」
勇者「……」
勇者「……うん」
司書「ほかに聞きたいことないなら帰れよっ!!もう二度と来るなよな」
司書「とにかく勇者に資料は与えた。歴史も知識も道しるべじゃない、単なる資料だ。選ぶのはお前だからな」
司書「分かったらそれ肝に銘じてとっとと帰れよ!!気をつけろよ!!」
ヒュン
479:
* * *
僧侶「なんか変な奴だったなあ」
剣士「ね」
コンコン
神官「失礼します。太陽の国の神官から、勇者様へのお手紙が届いております。こちらをどうぞ」
勇者「神官?」
神官「できるだけ早急にお返事を、とのことです。宜しくお願いします」
勇者「神殿から手紙なんて……一体なんのことだろう。ええと」
勇者「……なんだかタイミングを図ったかのような手紙を送ってくるな」
僧侶「えーどれどれ。ずらっとある余計な世辞を抜かすと、
 要するに俺たちが今見てきた、女神様からの知恵の内容を教えろってことだな!」
剣士「……。全部は言わない方がいいんじゃないかな……。なんとなく」
勇者「全部書くと鳥が重くって運べない便箋の量になっちゃいそうだよね。
 当たり障りのないところ……そうだな、地下遺跡のことでも書こうか」
剣士「遺跡のことなんてあいつら知ってそうだけどな。まあいいんじゃね適当で」
勇者「手紙まで送ってくるなんて、よっぽど気になるのかな」
480:
* * *
地下集落
兄「……そういえばお前は家族はいないのか」
青年「へ? ああ、いません。孤児だったんです」
青年「だから兄妹の関係って憧れます。いいですよね、お互いに頼れる存在って」
兄「……」
妹「ふふ。けっこうあの二人も打ち解けてきてるじゃない?」
少年「そう……かあ……?」
妹「そうよ。 ん……?」
爺「……」コソコソ
妹「あの、何か……?」
爺「いっ いや、なんでもないよ」スタスタ
妹「……? 行っちゃったわ」
少年「あの爺さん最近オドオドしてて変なんだ。気にしない方がいいよ」
481:
妹「……できたっ! じゃじゃーん、赤ちゃん用の靴下よ」
少年「お姉さん結構編み物うまいじゃん」
青年「女の子と男の子どっちが生まれるか分からないから、ピンクと青の二色編んでるんだよね」
妹「そうよ。男の子だったらきっと青年さんにそっくりでしょうね。ふふ」
青年「僕は妹さん似の娘が生まれたら溺愛しそっ……ハッ!」ビク
兄「……はあ、よい。続けろ。もう見慣れた」
妹「ほらね、少年くん。二人打ち解けてるでしょ?」
少年「そうかも」
兄「その腹、痛くはないのか」
妹「うん、痛くはないよ。たまに赤ちゃんがお腹の内側から蹴ってくることはあるけどね」
妹「もうすぐ生まれてくるの。早く会いたいな」
妹「そしたら兄さんも叔父さんよ。仲良くしてあげてね」
兄「……ああ」
妹「わっ な、なにいきなり。もう子どもじゃないんだから頭撫でないでちょうだい」
兄「頑張れよ」
女「赤ちゃんかー。楽しみね」
男「だな。元気な子だといいな」
少年「ねー」
482:
* * *
星の塔
炎竜「どうしても聞き入れぬか」
魔女「しつこいです。あなたは太陽の国の担当でしょ。
 勇者の相手は魔女族だけで十分。大体……あなたたち竜族がいると空が飛びづらくってしょうがないの」
魔女「協力はむしろ非効率的だと思います。帰ってくださいな」
炎竜「しかし……ヒュドラも倒された。勇者はすでに魔剣と禁術を手に入れているぞ。
 魔女族だけで太刀打ちできるのか」
魔女「お心遣いはありがたいけれど、さっきも言った通り協力した方がやりにくいのです。
 私には私の戦い方がありますから」
炎竜「む……そうか。承知した」
魔女「……あら、ちょっと待ってください。部下がこっちに向かってくるわ」
ガタ
魔女「どうしたの?何かあって?」
部下「そ……それが! あ、炎竜様……!!」
部下「あの……炎竜様のご子息が!」
炎竜「わしの息子なら魔族領の竜の谷にいるはずだが、それがどうした?」
部下「星の国の森の中で……このような状態でさきほど……!!」
ドサ
炎竜「!?」
魔女「……ま、まあ……可哀そうに」
子竜「ヒュー……ヒュー……」
炎竜「しっかりしろ!! いかん、衰弱しておる」
炎竜「すぐに竜の谷に連れ帰る。また来るぞ」
バサッ バサッ……
483:
魔女「ひどいですね……まだあんな小さな子どもなのに」
部下「全身の血が抜かれ、鱗が剥ぎ取られていました。生きているのが奇跡です。
 竜族の生命力の強さが幸いしましたね……」
魔女「どうして竜の谷にいた子竜がこの国にいたのかしら。父親を追ってきちゃったのかしらね。
 で、あんな目に合わせたのは人間なのでしょう?誰かは分かっているの?」
部下「近くをぶらついてた男どもに聞いたところ、勇者だそうです」
魔女「……あら」
―――――――――――――
―――――――――
――――
魔女「ですってよ。この間は跳ねのけてしまった提案だけど……気が変わったわ。
 受け入れてあげてもいいですよ」
炎竜「………………………………」
炎竜「……勇者……か」
魔女「ご子息はどう?大丈夫でした?」
炎竜「一命は取り留めた……が意識が戻らん」
炎竜「………………お主の足を引っ張っても悪い。やはり共闘はなしにしよう。
 ひとまず、まかせる」
魔女「よろしいの?」
炎竜「ああ。……魔女……わしは今腸が煮えくりかえっているが、何故だかわかるか」
魔女「勿論、ご子息が傷つけられたからでは」
炎竜「否。奴が勇者でわしらは竜の敵同士、子どもだからといって見逃されることはないとわしも重々知っておる」
炎竜「問題なのはその理由だ。戦だからという理由で息子の命が奪われたのなら、わしも戦士としてまだ得心がゆく。
 しかし此度息子が傷つけられたのは、血と鱗が奪われていたことから、どう考えても納得がゆく理由ではない」
魔女「ああ……金儲けですか。竜の血も鱗も高値で取引されてますものね」
炎竜「耐えがたいことだがな」
炎竜「わしは勇者に幻滅した。あちらがそのように戦争を考え、わしらを侮辱するのなら」
炎竜「こちらとて手段を変えよう」
484:
* * *
魔王城
コツコツコツコツ
兄(ふう…… 吸血鬼に続いてヒュドラもやられてしまうとはな)
兄(星の塔まで奪還されるわけにいかない。
 もうこの際……俺が星の国に出向いて塔の前で勇者を待ち伏せして殺せば済む話ではないのか?)
兄(しかしヒュドラの後釜を据えるのが先か……水魔族で統率力があって実力もある奴……あいつかあいつかあいつだな。
 首領争いとか頼むからするなよ、面倒起こすなよ……。そいつ任命したら星の国へすぐ行って……)
魔王「……そう急くな、息子よ」
兄「父上」
魔王「なかなかよくやっているようだが、全て自分一人でこなしてしまっては部下が拗ねるぞ。
 魔女と炎竜の気持ちも汲んでやれ」
兄「はい」
魔王「お前にほとんどまかせてしまってすまないな。どれ、今日は体の調子もいい。
 あとは私が久しぶりに動こう」
兄「大丈夫ですか?」
魔王「心配するな。お前は娘のところにでも行ってやれ」
兄「……」
485:
地下集落
青年「…………」ウロウロ
青年「…………」ウロウロ
少年「……座りなよ」
青年「だ、だ、だ大丈夫だろうか……!?」
少年「青年さんも落ち着けよ。さっきからウロウロしてみっともないぜ」
青年「で、でも……」
バタン
青年「女さん!! 妹さんは……!?ぶぶぶぶっ無事なんですか!?」
女「……ああ」ニッ
女「元気な男の子だよ。ほら」
青年「ああ……っ よかった……!!!神様……!!」
女「ふう。一安心だね。無事に産まれてよかったよかった」
女「ところで、男の奴はどうした?姿が見えないけど」
少年「さあ。 あ、さっき爺といっしょにいるところをちらっと見たよ」
女「ふうん……?」
男「正気か……!!爺さん!?」
爺「お前こそ正気かっ!? よ、よく考えろ!」
爺「神殿様に目をつけられちゃこの集落も終わりだ!!
 匿えばこの集落全員、女子ども関係なく魔族の疑いで異端審問だ!」
爺「し、審問とは名ばかりの死刑だぞ……。
 ずっと人の世界から疎まれてきた俺たちがつくった村が、ひ、一晩で皆殺しされるんだぞ」
男「だからって、あんまりだろ!今日あの娘は……」
爺「そうだ、お産だろう。いくら魔王の娘といえど、抵抗はできまいて」
男「あ、あんた……! あの娘だってこの村の一員だろっ」
爺「お……俺は悪くない。言っておくが、村人の大多数の同意をすでに得ている。
 お前たちは魔王の娘と親しくしていたから言わなかっただけだ……」
男「……っ」ダッ
男「!? は、離せっ 馬鹿野郎!」
 「……馬鹿はお前だ。もう神殿の奴らが来る。大人しくしてろっ!」
 「だめだったか」
爺「あの魔族を差し出せば俺たちが今まであいつと一緒に村で暮らしていたことも……
 この地下集落のことも見逃してくれるそうだ」
爺「し……しかたないだろ。しかたないんだよ!!俺たちは悪くないっ!!」
486:
赤ん坊「……あうあう……」
妹「さっきまでぎゃんぎゃん泣いてたのに、もう笑ってる……」
青年「男の子かあ。かわいいなあ。名前どうしようかあ。髪の色、妹さんといっしょだね」
妹「目の色と鼻はあなたね……。あ、ちっちゃい角生えてる。ふふ」
青年「かわいいなあ。名前どうしようか。君のお兄さんに名付け親になってもらおうか?」
妹「…………うん……」
青年「だ、大丈夫かい?」
妹「平気、ちょっと疲れちゃっただけ……」
バタン!
青年「……!? 男さん……その傷は!?」
男「に、逃げろ! 早くここから逃げろ!」
女「あんた一体どうしたって言うんだよっ この傷は誰にやられたんだ!?」
青年「そんな……神殿がここに!?」
男「そうだ、すぐ逃げろ!赤ん坊を連れて今すぐ……! 
 あんたの兄が壁ぶち破ってここに来たときあったろ、あそこからならたぶん逃げられる」
妹「で、でも。私が逃げたら村のみんなは魔族を匿っていた罪で、」
男「いいから早く逃げろよ!!赤ん坊もろとも殺されるぞ!」
青年「……っ妹さん! 行こう!」
青年「男さん、女さん、少年くん、あなたたちも……!!」
女「……。私は男と後から行くよ。ちょっと準備もあるからね!
 少年、あんたは先に青年と一緒に行きな!ほらさっさとする!ぼーっとするな!」
少年「えっ、あ、う、うん!」
タッタッタッタ……
妹「はあ、はあ……はあ……」
青年「はあっ、はあっ、一体どうして地下集落のことが神殿に洩れたんだ……!?」
青年「ここのことは……今までずっと誰にも知られていなかったのに!」
赤ん坊「ぎゃーーん!」
青年「しっ……。静かに静かに……見つかってしまう……!」
少年「お姉さん大丈夫!?」
青年「!? 妹さん!」
妹「はあ……はあ……」
487:
妹「ごめんなさい……もう私走れない……はあ……はあ……」
青年「なら僕が抱えるよ。掴まって!」
妹「……だめ。追いつかれちゃう。……行って」
青年「そんなことできるわけないだろう!?」
妹「捕まったら……あなたも赤ちゃんも殺されてしまう。
 お願い……その子と少年くんを守って……先に行って」
妹「それにね、やっぱり私のせいで村の人たちが殺されてしまうのは耐えられない。
 だって……全部私の我儘だったんだもの」
妹「私がいてはいけないところに、無理やり転がりこんで生活していたせいで、
 ……村のみんなが……死んでしまうなんて、やっぱりだめよ」
妹「私が責任を取らなきゃ」
少年「でもっ村のみんなは、お姉さんを騙して……!」
妹「分かってる。いいの。それに、男さんと女さんはそれでも私のこと逃がしてくれようとしたわ……
 それだけで十分よ」
妹「青年さん。あなたといっしょに暮らせて、夢みたいに幸せでした。
 私が魔族だって分かっても……変わらない笑顔を向けてくれて……本当に本当に嬉しかったの」
妹「その子をお願いね。元気ないい子に……きっと育つわ」
青年「……やっぱりだめだ、妹さん……頼むから一緒に逃げよう。必ず守るから」
妹「青年さん、そんな顔をしないで。魔力はほとんどないけれど、これでも……私は魔王の娘よ!」
妹「大丈夫、また必ず会える」
妹「……私たちが出会ったあの泉の前で……きっとまた会えるわ」
妹「………………ね」
490:
* * *
ヒュン
兄「……?」
兄「騒がしいな……。 なんだ?火事か……?」
パキパチパチ…… ゴオォォォ……
兄「…………」
 「見なさい、悪しき者が成火にて浄化される様を。煙が黒々としてなんと恐ろしい光景か……」
 「魔女だ」「魔女」「魔族だ」「ああ……」
兄「…………」クラ
兄「なにをしている?」
兄「なにをしているんだ? おい。なにをしている」
武僧A「……まだ隠れていたようだ。捕えるぞ。こいつも火あぶりだ」
武僧B「ああ」
兄「邪魔だ……」
ビチャッ
491:
兄「妹。しっかりしろ。おい。返事をしろ。妹」
妹「……」
兄「……返事をしてくれ」
村人「ひっ…… 神官様が全員一瞬で……肉塊に……」
村人「ま、魔王の息子……やばい、逃げるぞ」
兄「全員この場から動くな」
兄「どういうことだ……? 説明しろ。貴様も、そこの貴様も、妹とついこの間まで友人のように話していたな。
 なんだ?最初からこうするつもりだったのか?」
兄「笑顔を向けつつ腹の内では化け物だ魔女だなんだと考えていたわけだ。……ハッ。
 ならばはじめから受け入れなければよかったものを」
爺「……仕方ないだろう!! お、俺たちは神殿にその娘を差し出さなければ異端審問にかけると言われていたんだ!!
 俺たちより神官の方が悪いだろうがっ!!」
兄「要するに自分の命かわいさに妹を売ったのだな。そうか」
兄「……あいつはどうした。青年はどこにいるんだ……」
村人「……逃げた」
兄「…………………………………………………………」
兄「そうか」
492:
スッ……
村人「ヒッ!」
村人「や、やめてくれ!」
爺「……俺たちは悪くないぞ!殺すんなら、神殿の奴らを……!」
兄「ああ、そうだな。貴様らは何も悪くない」
爺「……あ、ああ。そ……そうだ」
妹「……」
兄「帰ろうか。城に。 軽くなったな」
兄「熱かっただろうに……助けてあげられなくてごめんな」
スタスタ
村人「か、帰ってくぞ……」
村人「私たち助かったの?」
爺「ひい……死ぬかと思った……」
493:
兄「悪いのは俺だ」
兄「チャンスはいくらでもあったのに、人間に近寄って行くお前を止められなかった。
 強引にでも連れ戻せばよかった」
兄「俺も……少しは……人間も悪くないのかもしれないなんて思ってたんだろうな」
兄「馬鹿が」
兄「ああ、忘れていた」
兄「地上ごと消すか」
兄は魔法を唱えた。
その日 地上にあった町ごと地下集落は壊滅した。
494:
女エルフ「最近竜族が慌ただしいね。魔王城もなんか騒がしいし」
エルフ「なにあんた、知らないの?」
女エルフ「……えっ? うそ、そんな」
エルフ「ほんと。姫様人間に殺されちゃったんだって……ひどいよね。
 竜族が飛びまわってるのは、あれよ」
エルフ「勇者が炎竜様の息子を必要以上に手ひどく傷つけたらしいから、炎竜様怒り狂ってるって」
女エルフ「……そんなのうそだね! 勇者たちがそんなことするわけ、ない……と思うんだけど!
  あいつら人間だけど、そんなことするような奴らじゃない……かもしれない!」
エルフ「あんた、なに言ってんの? わけわかんない」
女エルフ「と、とにかくちょっと私は炎竜様に話してくるよっ」
エルフ「ちょっと!?」
495:
* * *
星の都 宿屋
剣士(明日この王都を発つから、荷物整理しないと)
剣士(買い物は今日済ませたし……買い忘れ、ないよね。うん。
 ……あれっ 地図どこいった? 地図地図地図)
剣士(地図がないっ!! どこしまったっけ? 私が持ってたよね。あれーー?)ガサガサ
ガタッ
剣士「あっ ねえ狩人ちゃ…………」
剣士「……あ」
剣士「またやっちゃった……」
剣士「……」
496:
勇者(……はあ、寝れない。今日は僧侶も鼾うるさくないのに。
 外の風にあたってくるか)

勇者「……」
勇者(人でもあり魔族でもある……か。世が世なら僕も生まれてすぐに殺されていたんだろうか)
勇者(選べって言われても、どれが正解なのか分からない……。
 でも僕は人間だ。人のために戦うんだ。魔族が憎い。……本当に?)
……スッ
勇者「……!? 今のは、狩人……!?」
勇者「待ってくれ!」タッ
勇者(……生きてたのか? まさか……でもあれは……)
勇者「狩人っ」パシ
女「えっ!?」
勇者「……あれっ?」
女「な、なんですか、いきなり」
勇者「……すみません。人違いでした」
女「は、はあ」スタスタ
勇者「……」
勇者「なにをやっているんだ……自分で殺したくせに」
勇者(狂ってる……)
勇者(頭がおかしくなってるんだ)
勇者(寝なければ。明日出発だ。早く寝よう)
497:
翌日
僧侶「この都は知的なお姉さんがたくさんいて、なかなかいいね」
勇者「名残惜しいかもしれないけれど、もう出発するよ」
剣士「塔までのルートに大砂漠があるよね、ちょっとそれが不安だなあ……砂漠って暑いよね、やっぱり」
勇者「いや、この国の砂漠は……」
騎士「勇者殿っ! よかった、まだ出発されていなかったのですね」
勇者「はい?」
騎士「今すぐ太陽の国に転移魔法でお戻りください!
 先ほど文が……こちらに届きました」
騎士「あなたの故郷――大樹の村が……」
騎士「炎竜率いる竜族に襲撃され、全滅したと」
勇者「は?」
498:
―――――――――――
――――――――
―――――
太陽の国 大樹の村跡地
剣士「……」
剣士「うそ」
僧侶「…………ひでえな」
僧侶「何も残ってない」
剣士「うそでしょ」
副団長「すまなかった」
副団長「近隣の村々が異変に気付いて、連絡をもらった騎士や兵士が訪れたときには、
 すでにもう……辺り一面火の海だった。森も燃えてしまった」
副団長「遺体は骨しか見つからなかったよ。勝手ながら少し離れた見晴らしのいい丘に新たに墓地を作らせてもらった」
副団長「……大丈夫か、剣士くん、勇者。辛いとは思うが……気をしっかりもつんだ」
剣士「なんで?なんで竜がいきなりこの村に来るの?だって全然国境からも離れてるし……おかしいよ」
副団長「それは……分からない。数日前に突然この国の塔は炎竜にのっとられてしまった。
 それから時間を開けずに君たちの村がこんなことになってしまって、奴らがどういう意図なのか……」
剣士「…………」
剣士「……だって、殺さなかったんだよ。あのとき見つけた子どもの竜、殺さなかったのに!」
剣士「勇者が治癒魔法をかけてあげて……飛べるようにしてあげたのに!
 どうして?どうしてこんなことになっちゃうの?」
剣士「おかしいよ」
499:
―――――――――――――
――――――――――
――――――
勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」
勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」
勇者「やっと僕にも分かった……」グッ
僧侶「それでいいのか。なら止めないが」
勇者「いいさ」
剣士「……本当に?ここでこの竜を殺したら、これから先ずっとそうしていかなきゃいけないよ。
 ちゃんと私たちの目を見て言ってよ」
勇者「見てるだろ」
剣士「見てない。ちゃんと目を逸らさないで言って」グイ
剣士「……狩人ちゃんが死んだの、勇者のせいじゃないよ。この竜のせいでもない」
勇者「あのときグリフォンを見逃さなければよかったんだ」
僧侶「それでお前が狩人ちゃんの死に責任を感じてるなら、俺たちにだって責任がある。
 大体……塔のときはあいつを相手にする時間なんてなかっただろ」
剣士「……やめよ。無理しないでよ勇者」
勇者「…………」
剣士「もう、あんなこと……二度と起きないようにするから。
 勇者も死なないし、私も僧侶くんも死なないよ。自分の身は自分の責任で守るから」
僧侶「剣士ちゃんはともかく、俺が死んだからって勇者、お前のせいだなんて思われたらかえって心外だぜ。
 俺はお前に守られるほど弱くねーんだよ!!そこんとこしっかり覚えとけよな!!」
剣士「私だってそうだよ!剣だっていっぱい強くなったんだからさ!なんなら今度手合わせしようよ」
剣士「だから杖下ろして。もう行こうよ」
500:
勇者「……」
勇者「……」スタスタ
剣士「勇者っ」
勇者「…………違うよ。この竜に治癒魔法かけるだけ」
勇者「……逃がそっか」
勇者「父親追って来たら迷っちゃったらしい」
勇者「このまま竜の谷に帰るってさ」
剣士「そっか。よかったね」
僧侶「じゃあ適当にあの兜野郎に報告して、さっさと村で休もうぜ。ねみい」
――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
501:
剣士「……ここがね私の家があったところ。あっちが勇者の家で……大きな桃の樹があってさ」
剣士「でも全部燃えちゃった。家も森も畑もお母さんもお父さんも村のみんなも燃えちゃったよ」
剣士「ああ……」
僧侶「……」
剣士「なんで……」
勇者「……墓に花を手向けに行こう」
剣士「……うん……」
夜 近くの村の宿屋
副団長「……明日星の国に戻るって?」
勇者「うん、戻るよ」
勇者「太陽の塔が魔族のものになってしまった。ゆっくりしていられない」
副団長「そうか。……聞いたか?塔が奪われる前に、急に南部の町いくつかの地盤が崩れ、死者が多数出た。
 それからだ、魔族の攻撃が苛烈になったのは。王都もてんてこ舞いでな、国王もピリピリしてる」
副団長「それにしても、なぜ君の村が……」
勇者「僕の村だからだよ」
勇者「なんのつもりかは、知らないけど」
副団長「……そうとは限らないだろう。もっとほかの理由があったのかもしれん」
副団長「剣士くんは君と同郷だったな……彼女はどうしている?」
勇者「もう休んでる」
副団長「そうか。君ももう休むといい。俺も……」
コンコン
502:
副団長「ん?誰だ?」
神儀官「騎士団副団長殿、勇者様、こんばんは。夜分に申し訳ございません」
副団長「……!? 神儀官様……!? 何故こちらに?」
神儀官「勇者様が星の国よりご帰還なさったと聞いて、王都より追いかけてきたのですよ。お久しぶりです勇者様」
神儀官「ヒュドラを倒したそうですね。さすが勇者様です。神殿長もお喜びになっていらっしゃいましたよ」
副団長「彼に何か御用ですか? 貴女が王都を離れるなんて……珍しいですね」
神儀官「はい。勇者様にお話があって参りました。副団長殿は申し訳ありませんが御退室願えますか?」
副団長「私がいては話せない内容なのですか?」
神儀官「ええ、その通りです」
副団長「……」
神儀官「あら。聞こえていらっしゃらなかったのでしょうか? 御退室願います、副団長殿」
副団長「……勇者、また後でな」
バタン
503:
神儀官「さて。まずは先日のお手紙どうもありがとうございました。
 あなたが地下遺跡のことを教えてくれたおかげで、色々とおもしろいことが分かりましたよ」
勇者「……?」
神儀官「ですが、本当に雪の塔の女神があなたに授けた知識とはそれだけなのですか?
 まさか内容を伏せた、なんてことはありませんね?」
勇者「ありません」
神儀官「そうですか。……それにしても、故郷のことは大変残念でしたね。
 あまりお気を落とさぬよう。皆さま神の御許に導かれたのです、何も悲しむことはありません」
勇者「……」
勇者「僕に用とは何ですか」
神儀官「そうですね、本題に入りましょうか。
 勇者様……あなたなら残りの四天王と魔王を必ず討ち滅ぼせると私たちは信じています」
神儀官「今日は、その後のことについてのお話をさせて頂きたいと思いまして。
 勇者様は魔王を倒した後、どうなさるおつもりなのでしょうか?」ニコ
504:
勇者「魔王を倒した……後ですか?」
神儀官「そうです」
勇者「職業のことですか? すみません、考えたこともなかったです。
 でもできれば王都から離れて田舎でできる仕事を探そうかと……」
神儀官「いえ、職業のことではありません」
勇者「ではどういう意味でしょうか」
神儀官「こんなことを申し上げるのは、私も大変心苦しいということを分かってください。
 勇者様、あなたのお力はこの戦争において、そして私たちにとってとても重要なものです」
神儀官「ですが……魔王がいなくなった後、ひいては魔族が消えた後……
 あなたのお力が人々の目にどのように映るか、考えたことはありますか?」
神儀官「あなたが王都にいた2年間、何度か勇者様の魔法を拝見いたしましたが
 魔族の使う魔法ととてもよく似ていらっしゃいますよね」
勇者「……」
神儀官「もし魔族をこの地から消したとしても、その魔法を使うあなたがいらっしゃれば
 国民たちも不安に思うのではないでしょうか……?」
神儀官「私たち神殿の者が使う、人を癒す魔法とは違って……あなたの魔法は脅威になり得るのです」
神儀官「あなたが杖を掲げて呪文を口にするだけで、村ひとつ簡単に滅ぼせるのですから……」
神儀官「そういった意味で魔王を倒した後、あなたがどうなさるおつもりなのかお聞かせ願いたく、本日は私が参りました」
神儀官「聡明でいらっしゃる勇者様なら、私が申し上げてる意味……ご理解いただけますね?」
勇者「…………」
勇者「つまり、それは……」
勇者「……」
505:
神儀官「……ああ、勇者様が逡巡なさるのも無理はありませんね」
神儀官「彼女のことをご心配なさっているのでしょう。
 故郷もなくなってしまい、剣士様はもし勇者様がいなくなってしまったらおひとりになってしまいますものね」
神儀官「ですが御心配なさらずに」
神儀官「私たち神殿が彼女のことをお見まもり致します。
 3国の首都は勿論、小さな村々にも教会はあるのはあなたもご存じですね」
神儀官「勇者様亡き後、彼女が」
神儀官「……この大陸のどこにいらっしゃろうとも、何があろうとも……」
神儀官「必ず。私たちが見つけ出し、お守り致します。安心なさってください」
神儀官「私の申し上げた意味、お分かりいただけますね。勇者様?」
勇者「…………」
勇者「………………はい」
神儀官「さすが勇者様は賢くていらっしゃいます。では、この誓約書に署名と血判をお願いいたします」
神儀官「戦争が終わった後にあなたの身を神殿に委ねることを誓って頂きます」
神儀官「この誓約書には特別な術がかかっておりますので、もし誓約をお破りになった場合、
 あなたの尊い命はこの世から消えてしまうことになりますのでお忘れなきよう」
神儀官「そのようなこと、勇者様がなさるおつもりがないとは分かっておりますが、念のためです」
506:
神儀官「……はい、確かに誓約書はお預かりいたしました。どうも有難うございます」
神儀官「明日星の国へお戻りになるのですか? いよいよ次は対魔女戦ですか。
 強敵になりましょうが、勇者様ならきっと大丈夫だと信じております」
神儀官「…………ああ、お渡しするのを忘れておりました。
 こちら私たちからの菓子折りです。旅の道中にでもどうぞ」
神儀官「できるだけ香りの強いものを選びました。まだ香りは分かるのでしょう?
 もちろん味も保障しますが……」
神儀官「では夜分遅くに失礼いたしました。私はこれにて。
 ごゆっくりお身体をお休めください」
バタン
507:
* * *
十数日後
星の国 大砂漠
僧侶「砂漠なげえーーーーーー……!! いつになったら抜けるんだよっ!!アホか こんなん!!気が狂う!」
剣士「でも暑くない砂漠でよかったね。これで炎天下だったらもっと大変だったよ」
剣士「それにさ! 砂が全部星の形してる。こんなの初めて見たなあ。どうやったらこんな形になるんだろ」
僧侶「いやーロマンチックだね! どうだい剣士ちゃん、夜の砂漠を見ながら今日愛を語らないか。
 あ、深い意味はないよ」
剣士「深い意味って何?」
僧侶「いやあの、別にね? 語るっていうのは文字通りおしゃべりするって意味ということで」
剣士「それ以外の意味あるの? なになに、教えてよ!ねえ僧侶くん教えてってば」
僧侶「い、いやあ……ちょっと僕にも分かんないなあ勇者助けて」
勇者「あははは。 僧侶の自業自得じゃないか。僕は知らないよ」
僧侶「オイオイいいのか? そんなこと言ってよぅ」ガシ
勇者「うわっ なんだよ」
剣士「ねえ二人とも何してるの? おいてっちゃうよ」
僧侶「そんなこと言ってると〜〜 本当に俺がとっちゃうかもしれないぞ〜〜」ニヤニヤ
勇者「は?何を?」
僧侶「ハッハッハ、この俺様が本気になったら剣士ちゃんもイチコロかもしれんぞ〜〜
 俺があの子幸せにしちゃうけどいいのか〜〜?」
勇者「うん」
僧侶「うんって何だ、うんって……」
勇者「ただし、浮気などの不実な行為を働いた場合は本気で呪うからな」
勇者「全身全霊をかけてガチでやるからな。そこは肝に銘じておいてくれ」
僧侶「はあ?」
剣士「もう、勇者も僧侶くんも早く!日が暮れちゃうよ!」
勇者「いま行くよ」
僧侶「なんだあいつ……?」
510:

剣士「今日もまた野宿かぁ」
僧侶「砂漠の夜は冷えるなー。今日の見張り誰だっけ」
勇者「僕だよ。二人ともおやすみ」
勇者(さむ……)
勇者「……」
勇者「ん? 剣士?」
剣士「なんか眠れなくってさ。私も見張る。隣いい?」
勇者「ああ、うん」
剣士「……あのさ。あんなことがあったけど……」
勇者「……」
剣士「でも、勇者と僧侶くんがいるから、なんかね、毎日元気でるよ。
 お母さんもお父さんも、勇者のお母さんもお父さんも、みんな見まもってくれてると思う」
剣士「帰るところ、なくなっちゃったけど……」
勇者「大丈夫だよ」
勇者「全部なんとかなる」
剣士「え?」
勇者「また帰るところはつくれるよ。これから先、人生は長いんだから。
 大人になって、色んなこと経験して、そうしてるうちに帰るところはいつの間にかできてると思うよ」
勇者「だから大丈夫」
剣士「……そっか! そうだよね! ……じゃあそのときは、いっしょに探しに行こうよ」
勇者「あ……うん。分かった」
剣士「じゃあ約束しよ。はい指きり」
勇者「指きりって……。指きりって」
剣士「二回も言わなくていいよ。いいじゃんっ別に!ほら早く!!」
勇者「わ、分かったから、大声出すと僧侶が起きるよ。はい」
剣士「あはは、懐かしいー」
勇者「……そうだね」
511:
数日後
剣士「むにゃむにゃ」
勇者「……」
僧侶「おい、起きろ勇者」
勇者「……」
僧侶「おいっ」ベチッ
勇者「……」
僧侶「起きろこのアホ!!」ギュウ
勇者「……僧侶……? 何……見張りの交代……?」
僧侶「違う。ちょっと外来い」
僧侶「お前どんだけ睡眠が深いんだよ。あそこまでして起きないとか野宿してる身として不安だわ」
僧侶「って話してる傍から寝ようとするな!!」
勇者「……なんだよ……見張りじゃないなら何か用?」
僧侶「まあ、とりあえず茶でも飲みながら話そうじゃないか」
勇者「え……僧侶が僕にお茶をいれるなんて天変地異の前触れとしか思えなくて怖い」
僧侶「いいから黙って飲め」
512:
僧侶「もうすぐ砂漠も抜けそうだし、最近お前が変だから俺が話を聞いてやろうと思ったんだよ。感謝しろよ」
勇者「変かな?別に普通だけど」
僧侶「へえ、しらばっくれるつもりか。
 太陽の国に戻ったとき、夜に神儀官が来てたよな。あの女となに話したんだよ」
勇者「戦況はどうなのかとか、いろいろ聞かれた」
僧侶「ふーん……本当か?」
勇者「うそなんてついてどうなるのさ」
僧侶「まあ嘘でも、今に本当のことしか言えなくなる。ゲハハハ」
勇者「……なにした?」
僧侶「お前がいま飲んでる茶に、この間通りかかった商人から買い取った自白薬を入れたのさあ!」
勇者「は!?」
僧侶「おらおら洗いざらい吐きやがれこのすっとこどっこい!俺様に隠しごとなんて億年はえーんだよ!!」
勇者「普通仲間に自白薬盛るか!?」
僧侶「普通盛らないかもしれないが俺は盛るね。で、あの日なにを話したんだよ? 言えコラ」
勇者「ぐっ、こんなことしてただじゃおかないぞ……」
勇者「……魔王を倒したら死ねって言われた。逃げたら剣士が神殿に狙われる。
 で誓約書を書いて……それで終わり」
僧侶「誓約書を書いたのか」
勇者「……書いたよ」
僧侶「こんのバッキャロー!!」バキッ
勇者「いたっ!!」
513:
勇者「なにするんだよっ」
僧侶「お前あれがどういうもんなのか分かってんのか!この底なし馬鹿!
 それじゃまんまとあいつの策略にはまってんじゃねーかよ!」
勇者「でも仕方ないだろ。戦争が終わっても『勇者』がいたら、みんな安心して暮らせないんだから」
僧侶「だから死ねって言われたら死ぬのかよ?とんでもねー阿呆もいたもんだ。
 正直ここまでとは思わなかったぜ。お前本当の本当にそれでいいって思ってんのかあ?」
勇者「……うるさいなっ……じゃあどうしろって言うんだよ!」
勇者「それでいいって思ってるわけないだろ!僕は聖人君子でもなんでもないんだ」
勇者「なんで死ななきゃいけないんだって、そりゃ思ってるよ!」
 
勇者「そもそも勇者にだって、生まれてから一度も……」
勇者「勇者になりたいだなんて一度も僕は……っ!」
勇者「あーもう、こんな情けないこと絶対言いたくなかったのに、なんてことしてくれるんだよっ」
僧侶「ハッ 確かに情けねえな。涼しい顔して内心そんなことを考えてたわけだ。
 剣士ちゃんも愛想尽かすなこりゃ」
僧侶「勇者になりたくなかったなんて思ってるなら、じゃあお前、勇者やめちまえよ」
勇者「はあ……?」
僧侶「やめちまえって言ってんだよ!」ゴンッ
勇者「いっ……!! だからなにするんだよ」バキッ
僧侶「ごあっ!?」ドサ
勇者「前々から思ってたけど、人のことすぐ殴るのやめろ……」
僧侶「い、いいパンチもってんじゃねーか」
514:
勇者「面白半分に言ってるならやめてくれ」
僧侶「面白半分じゃねえよ。本気でやりたくないなら勇者やめろって言ってんだよ」
勇者「……じゃあ誰が勇者になるんだよ!君がなってくれるって言うのか?」
僧侶「あの司書が言ってただろ。魔族のために戦うも人のために戦うも、戦争から逃げるのも自由だってよ」
僧侶「大体、勇者になりたくなかったならなんでそう周りの連中に言わなかったんだ。
 なに言いなりになってんだよ。根っからの優等生タイプか貴様は? ああ?」
僧侶「お前なんで勇者になったんだ」
勇者「それはっ……。それは」
勇者「…………」
勇者「…………」
勇者「……あ、そっか」
勇者「なんだ……そうか」
僧侶「気持ち悪いな」
勇者「思い出した。言いなりなんかじゃなかったよ。 
 うん、そうだ。なんだ、簡単なことだった」
勇者「勇者はやめない。僕が勇者だ。……僧侶に気づかされるなんて少し癪だけど」
僧侶「ちょくちょく生意気なんだよてめえ!蹴り飛ばすぞ!」
勇者「はは、僧侶も案外お人よしだよね。
 前に狩人がそう言ってたけど、本当だったんだ」
僧侶「まあ俺は優しさも兼ね揃えたパーフェクトボーイだからな……」
勇者「ヘエ」
515:
勇者「故郷の村が……あんなことになってしまったけど、
 それでもやっぱりあのとき、僕が竜の子どもを殺すのを止めてくれてよかったって思ってる。ありがとう」
勇者「僕は人のために戦いたい。けど魔族のためにも戦いたい」
僧侶「魔族のためにもって……はあ、なんかお前はどう育ったらそういう考えになるのか分からんな。
 まあ別にいいんじゃねえの。俺は英雄になってハーレムを築き上げることができればなんでもいいよ」
勇者「不純すぎる……」
僧侶「で。本当に戦争が終わったら死ぬつもりなのか」
勇者「ああ」
僧侶「それでいいのか」
勇者「いいんだ。 自白薬、まだ切れてないだろ?本心だよ」
僧侶「あっそ」
僧侶「じゃあ話はこれで終わりだからとっととテント戻れ。邪魔だ。
 男と夜の砂漠を眺めて話してると思うだけで吐き気がする」
勇者「自分が呼んだんだろっ」
516:
* * *
剣士「私、魔女族と相性悪いかも……。魔女って状態異常系の魔法ばっかり使ってくるんだもん」
勇者「僕もすごく困る。さっき剣士と僧侶が同時に混乱状態になったとき、一瞬死を覚悟したよ」
剣士「耐性防具つけてるのに意味ないんだよ!むしろ私、状態異常の申し子なのかも!」
勇者「それはちょっと違うんじゃ…… あ、塔が見えてきたよ。もうすぐだ」
僧侶「深海に沈んでる塔の次は、宙に浮かぶ塔か。あんなのどうやって上るんだ?」
剣士「どうするの勇者?」
勇者「どう……しようか」
「「「…………」」」
剣士「あ、あれ。本当にこれどうするの?私たち塔に上らなくちゃなんだよね?」
僧侶「お前、鳥かなんかに変身できねえのか?勇者なんだからそれくらいできるだろ?え?」
勇者「無茶ぶりしないでくれよ。そんなことできないって知ってるだろ」
勇者「いや、そこは四天王の魔女も察して何か仕込んでくれているんじゃないかな? さすがに……」
剣士「えーっ ここまで来て敵頼みって私たち逆にすごいよね」
勇者「と、とにかく行ってみよう」
ガサッ
女エルフ「あっいた」
剣士「あれ?」
僧侶「お前、いつぞやの弱い魔族じゃないか」
女エルフ「よっ弱いって言うな!」
517:
勇者「どうしてここに?」
女エルフ「た、たまたまだよ別に。別に探しに来たわけじゃないよ」
僧侶(分かりやすいな)
女エルフ「あ……あのさ……炎竜様の子ども傷つけたのって、本当に勇者たちなの!?」
勇者「……いや、僕たちじゃないよ」
女エルフ「本当に!?」
剣士「ほ、ほんとだよ。私たちはかくかくしかじかって感じで、傷つけてはないよ」
女エルフ「……やっぱりそうだったんだ」
女エルフ「……ごめんね。あのね、炎竜様のこと止めたんだよ。勇者たちそういうことする人間じゃないって。
  でもだめだった。勇者たちの村……燃えちゃったんだよね」グス
勇者「君が謝ることじゃないよ」
剣士「……うん、そうだよ。女エルフのせいじゃないし。
 むしろ、私たちのこと庇ってくれたってことがうれしいな」
女エルフ「でも……だって私魔族だし。仲間と故郷のみんなを殺した魔族のこと、憎くないの……?」
勇者「……」
剣士「……」
勇者「剣士はどう思う?」
剣士「……え?私?」
剣士「私は……正直魔族みんなが憎いって思ったときもあったよ。
 今も、全然恨んでないって言えばうそになっちゃうけど」
剣士「でも君は雪の国でも私たちのこと心配してくれたよね。
 君みたいな魔族もいるんだなって考えたら……魔族全員まとめて恨むのっておかしいのかなって」
剣士「だから質問の答えはノーだね!かばってくれて嬉しかったよ、ありがと!」
女エルフ「う……うえええええええん!! じゃあ、じゃあ友だちになってくれる?」
剣士「えっ!? う、うん。急だなあ、びっくりした。いいよ!なろう!」
女エルフ「ありがとう……」ギュッ
僧侶「いいね……」
勇者「なに鼻血だしてるんだよ」
518:
勇者「僕も剣士と同じ気持ちだ」
女エルフ「……ふん。ほんっとあんたたちって変わってるよねっ!変なの!」
僧侶「同意見だ」
勇者「君にも家族がいるんだろ?」
女エルフ「そりゃいるわよ。たくさんいるよ。
  エルフ族は男も女も美しいって評判なんだから、見たらびっくりするよ」
勇者「友だちもいるよね」
女エルフ「当たり前じゃん。私人気者なんだから、引っ張りだこだよ。
  ……な、なりたいなら勇者も友だちにしてあげてもいいよ、別に」
勇者「うん、やっぱりそうだよね。きっと大多数の人と魔族はそんなに違いはないんだ」
勇者「炎竜は息子がひどく傷つけられて、犯人だと思ってる僕たちの故郷を襲った。
 許せることじゃないけど……客観的に考えれば子を持つ親の心情として理解できないわけじゃないよ」
勇者「狩人の村の森で出会ったハーピーも、だれか大切な者のために薬草をとりに来ていたのかも。
 父親のために薬草をとりにきていた狩人と同じように」
勇者「……あのグリフォンも……あいつも、気が狂いそうなほど憎く思ったけど。
 星の都で見たよ……あのグリフォンと同じように、魔族を解体してる研究者たちを」
勇者「だからたぶん人も魔族も、そんなに違いはないんだ。
 どっちも残酷なことをしてるし、どっちも同じように家族や友人がいて……」
勇者「旅をして辛いこともあったけど、その分、分かったこともある」
勇者「戦争は終わるべきだ。どちらか一方が完全勝利するという形でなく、犠牲が少ない方法で」
勇者「人と魔族の間で不可侵条約を結ぼう」
519:
女エルフ「……え?なに、いきなり」
剣士「ふ、ふか……?」
僧侶「ひれ……?」
勇者「違う」
勇者「3つの塔を取り戻して3人の女神が結界を張れば、魔族はこの国から追い払われて、入ることができない。
 ……だからまあ、僕たちがやることは変わらないんだけどさ」
勇者「でもこの戦争をはじめに仕掛けたのは人間だし、それじゃこの先また同じことが起こるんじゃないかなって。
 だからお互いの領土を侵略しないことを約束して……それで戦争は終わりってことにしたいんだ」
勇者「人と魔族は長い間戦争をしていたから、お互い傷つけられて恨みあってたぶん止められないところまで来ている。
 けどこのまま戦争を続けるのは悲しいよ。僕たちと君みたいに、種族が違くとも友だちになれるのに」
勇者「いま終わらせなければもっとお互い大切な者を失って傷つくばかりだよ。いまこそ止め時だ……」
勇者「って思うんだけど、どうかな」
剣士「そうしたら、私たちと女エルフも戦わなくて済むね!」
剣士「私はいいと思うな」
女エルフ「……」
僧侶「ちっと楽観的すぎやしねえか?」
 勇者「不可侵条約結んで」
 魔王「いいよ」
僧侶「って本当になると思ってんのかよ? んなわけねーだろ……」
勇者「四天王が全員倒されたと聞いたら魔王も悩むくらいはすると思うんだ。
 経歴を聞く限りすごく現実主義的な考えをするようだし」
勇者「もし魔王が首を振ったら、勿論戦わなければいけないけど」
僧侶「どうなるかね。……まっ、魔族皆殺しよりそっちの方がかっこいいかもしれんな!!
 しょうがねえ!俺も協力してやるよ!」
520:
女エルフ「……私もしょうがないから応援してあげるよ」
女エルフ「でも!炎竜様も魔女様もめちゃくちゃ強いんだから……勝ってからそういうこと言えば?
  ……はい、これあげるよ」
勇者「これは?」
女エルフ「エルフ族秘蔵の飲み薬だよ。怪我もたちまち治るし、魔力も回復するんだから。
  ……あとね、魔女様は人を操る魔法をかけてくるから……気をつけなさいよねっ」
剣士「……うん、それは知ってるよ」
女エルフ「あっ やばい見つかりそう……私もう行くから!
  …………死なないでね! じゃ!」
521:
第三章 天空のスタータワー
522:
剣士「……わー、本当に塔の中への転移魔法が用意されてるー」
僧侶「ぶっちゃけ助かったな」
勇者「じゃあ行こうか。気をつけよう。女エルフの言っていた通り、魔女は人を操る。
 どうやって操るのかが分かれば対策できるんだけどな……」
剣士「戦いながら見つけていくしかないね。よし、準備万端だよ!行こう」
勇者「……」
勇者「塔に入る前に、ひとつだけ言っておきたいことがあるんだけど」
勇者「絶対に二人とも死なないでくれ」
僧侶「これから敵と戦うっつーのに辛気臭いな。ええい何真面目な顔してんだよ!調子狂うぜ全く!!」
勇者「冗談で言ってるんじゃない。真面目な顔くらいするよ」
剣士「大丈夫だよ。私も僧侶くんも死なないし、勇者も死なない」
剣士「絶対ね」
剣士「ぜーったい大丈夫! さ、行こう」
僧侶「剣士ちゃんの方がよっぽど勇者様らしいなぁ?見習えよ勇者」
僧侶「俺も夢を叶えるまで死ぬわけにはいかんからな。そう簡単にくたばらねーぜ」
剣士「僧侶くんの夢ってなに?」
僧侶「英雄になって俺以外男子禁制のハーレム王国をつくりあげることだ」
勇者「……僧侶らしいな」
僧侶「俺は本気だぞ!!」
魔女A 魔女Bが襲いかかってきた!
僧侶「さっそくか」
剣士「かかってこい!」
523:
タッタッタッタ……
勇者「……思ったより敵が多くないな」
僧侶「なめられてんじゃねえのか!?」
剣士「うわあ、窓からちょっと下覗いてみてよ。めちゃくちゃ怖い!!」
勇者「た、高いな。下は海だけど、落ちたら即死確定だ」
僧侶「景色いいな」
剣士「僧侶くんってすごいマイペースだよね。もう感心しちゃうよ」
僧侶「ありがとう!結婚するか?」
剣士「しない!」
僧侶「そっか!」
勇者「あっ! 二人とも前!」
窓の外から魔女D 魔男Eが襲いかかってきた!
魔女Dは混乱呪文を唱えた!
剣士と僧侶は混乱状態になった!
勇者「あ」
二人は混乱して勇者に攻撃!
勇者「またか!!」
524:
剣士「大分上ったね。……はあ……はあ。空気が薄いのかな、ちょっと息苦しいかも」
僧侶「それに上にあがるごとに壁に飾られてる人形が増えていって気持ち悪ぃな」
剣士「ちょっとかわいいけど……嫌な予感しかしないよ。絶対動くよコレ!四天王の魔女戦で絶対動く!!」
勇者「人形遣いの魔女なんて呼ばれてるんだから、そうだろうね。むしろ文字通りというか」
勇者「というわけで今のうちに破壊しておこう。火炎魔法」
剣士「あ、うん。確かにその手があったね、うん」
魔女「ちょっと!!私の集めたかわいいかわいいお人形ちゃんたちに一体なにをしてらっしゃるの?この豚ども」
勇者「!?」
魔女「せっかくこの塔に招待してあげたのに、礼儀がなってないわね。
 人間って招かれた家の物を勝手に壊す文化でもあるの?」
剣士「この塔は女神様のものじゃん!君の家じゃないし」
魔女「うるさい。このブス」
剣士「なっ…………」
剣士「べっ……別に私がブスなのと塔のことは全然関係が、な、ないと思うんだけどっ」
魔女「ブスは黙ってろ」
剣士「」ガーン
525:
剣士「論破された……」グス
勇者「さ、されてないよ。全くされてないから」
僧侶「そうだ!剣士ちゃんはブスじゃない!!かわいい!だから喋る権利がある!!論破!」
魔女「はあ……随分喧しい人間どもですこと」
勇者「塔を返してくれ」
魔女「いや」
勇者「……だったら奪い返すしかない」
魔女「あら。武器はまだ仕舞っていてくださいな。最上階のさらに上、特別見晴らしのいいステージをご用意しておきましたの。
 せっかくですからそちらで戦いましょう」
僧侶「ならなんでここに現れた?出迎えか?」
魔女「まさか。あんまり遅いから様子を見に来たのよ」
魔女「最上階に続く階段は、この扉の先にあります」
勇者「この扉、開かないけれど」
魔女「いいえ、ちゃんと開きますよ。ほら、ここの窪みに誰か一人手をあてさえすれば簡単に……」
勇者「何を企んでいる?」
魔女「たくさん企んでるわ。だってここは私の塔だもの。のこのこ来た勇者を、何の策も罠もこさえずただ待ってると思う?」
魔女「では上で私のお友達とお待ちしております。早く来てね」
526:
勇者「……」
剣士「消えちゃったね。あの魔女」
僧侶「さっさとそこの扉開けて上に行こうぜ」
勇者「僕がやる」スッ
剣士「あ、ちょっと……!」
僧侶「ちょっと待て」パシ
勇者「え」
僧侶「よいしょっと」グキ
勇者「!?!?!?!?」
勇者「あ゛ーー!? お、折れたーー!?」
剣士「そそそそ僧侶くんなななな何ををををを」
勇者「なにするんだ―――、!?」
僧侶「ここに手あてればよかったんだよな」スッ
勇者「!」
僧侶「うおっ!!」ザク
剣士「大丈夫?」
ゴゴゴゴゴゴ……
僧侶「お、扉が開いたな。なんてこたあない、ただこの窪みからナイフが飛び出してくる、チャチな罠だったぜ」
剣士「な、なんだぁ。よかった……毒とかじゃなくて」
勇者「……本当にそれだけの罠なんだろうか?あの魔女の物言いからはそうとは思えない。
 慎重に行った方がいい。一旦塔から下りよう」
僧侶「ばーーか、ここまで来て帰れるかよ。次のチャンスはもうないかもしれねえんだぞ!?行くしかねーだろ」
勇者「でも」
僧侶「ところで。ちょっと剣士ちゃんごめんな、俺は勇者に話があるんだ。おい耳貸せ」
剣士「え?……また!? もう!仲間外れにしないでよ!」
527:
僧侶「あの女エルフからもらった薬、お前は俺に預けたが、やっぱりこれは勇者がもっとけ」
勇者「な、なんでだよ。君が持ってればいいだろう」
僧侶「いーからもっとけ!! あとなぁ、俺は山賊上がりで女と酒が大好きなろくでなしだ」
勇者「重々承知しているけど……」
僧侶「そうかよ。なら、分かってるよな」
勇者「……何が」
僧侶「躊躇うなよ」
勇者「……!」
僧侶「やーおまたせ剣士ちゃん。話は終わったぜ。さあ行こう!」
剣士「ねえ何話してたの?私にも教えてよ!!」
勇者「僧侶……っ」
僧侶「勇者と巨乳の魅力についてちょっとばかし語り合ってただけさ」
剣士「……ふうん」
勇者「僧侶ぉっ!!!」
528:
最上階
剣士「ここが最上階……だけど魔女いないね?どこかに隠れてるのかな?」
僧侶「確か最上階のさらに上で待ってるって言ってたよな。
 また転移魔法陣がここらへんにあるんじゃないか――ほらあった。ドヤぁ」
剣士「ほんとだ! よし、ついに魔女戦だね。二人ともがんばろうね」
僧侶「剣士ちゃん凛々しいなぁ!さながら戦の女神のようだ!!ああ眩しい!
 俺たち二人で頑張ろうな!この戦いが終わったら結婚しよう!!」
剣士「しない!」
僧侶「そっか!」
剣士「よーし転移しよう!勇者もほら、早く」
勇者「……うん」
ヒュン
魔女「やっと来た……随分遅かったのね」
勇者「魔女」
剣士「ひゃっ……、な、なにここ?私たち宙に浮いてる……?」
魔女「私の魔力で浮かしてるガラスの上にあなたたちは立っているのよ。眺めがとってもいいでしょう?」
剣士「うう……下が見れない」
僧侶「ガラスだと……? くそ、なんてこった!!剣士ちゃんがスカートを穿いていたならば下から下着が丸見えだったのに!!」
剣士「僧侶くん鼻血」
魔女「では始めましょうか。私のお友達を紹介するわね」
魔女「ジュリエッタ、アリス、エミリー、シンディ、クローディア、ダーシー、ドリーン、エレオノール、フランソワーズ、ジゼル、リアーヌ、イレーヌ、モニク、ミシェル、ノエル、ソフィ、シルヴィ、ヴィクトリーヌ、ヴァネッサ……」
剣士「まだ人形がこんなにたくさん……」
僧侶「気味悪い奴だな」
魔女「まだまだいるわ。部下たちじゃあなたたちに勝てなかったみたいだけど、私はそうはいかなくてよ。
 ねえそうでしょみんな?……うん、やっぱりそうよね」
魔女「みんな早くあなたたちのことぶっ殺したいって言ってます。そうよね、ずっと待ってたんだもの。いいわ、やりましょう」
魔女「さあ、はじめ……」
魔女「……あ……?」
529:
魔女「……話してる途中に全く無礼な奴ね」
勇者「失礼」
魔女「…………人間のくせになかなか魔法を使いこなしてるじゃないの。そこは褒めてあげましょう。
 一瞬で私のお友達を全部消し炭にしちゃうなんて……」
魔女「なんてことしてくれてるんです? 死んで贖えよ、クソ豚野郎」
魔女は全体状態異常魔法を唱えた!
勇者は魔法で相殺した!
魔女「……ふーん。おもしろくなりそう」
勇者は雷魔法を唱えた!
魔女は箒でかわした!
剣士「ようし私も加勢する! やい魔女!箒から下りてこっちに来い!」
僧侶「そうだそうだ!ブンブン飛んでないでこっちに来い!」
魔女「いやよ。あなたたちと戦うのは私の人形」
魔女「言ったでしょ?まだまだ人形はたくさんあるって。それに……まだとっておきがあるんだもの」
魔女「さあ!私の従僕となって戦って! 僧侶……でしたっけ?」
魔女は身心操作の魔法を唱えた!
僧侶は体の自由を奪われた!
勇者「!!」
剣士「僧侶くん!?」
530:
僧侶は剣士に殴りかかった!
剣士はかわした!
剣士「僧侶くんってば!しっかりして!」キィン
僧侶「……」ガッ
剣士「わっ、あ、!」
勇者「僧侶!!」
勇者は状態異常解除の魔法を唱えた!
しかし効かなかった!
魔女「無駄ですよ。この魔法は解けません」
剣士「僧侶くんになにをしたの!?」
魔女「人形になってもらっただけ。ほらほら集中して。仲間だったモノに殺されちゃいますよ」
勇者「くっ……」
魔女「で、勇者は私の相手をしてくれるんでしょう?見せてご覧なさいよ、あなたが手に入れたっていう、あの禁術……!」
魔女の魔法攻撃!
勇者はダメージをうけた!
勇者「……なぜ僧侶だけ操っているんだ?なぜ僕や剣士をそうしない?」
魔女「答えるつもりはないわ」
勇者「人を操るために何かが必要なんだろう。例えば血液とか……。
 だからあの扉を開けるために手に傷を負った僧侶がいま操られているんじゃないか」
魔女「ふふ」
勇者「狩人もそうして操られたのか。……剣士、気をつけろ! 血を取られるな!」
剣士「わ、分かった。でもっ、どうしたら……僧侶くんを助けられるの?」
勇者「……っ何か方法があるはずだ」
531:
魔女「方法なんてありません。自分が死ぬか、お仲間を殺すか……どちらかですね。ああ、いいザマ」
魔女「なかなか使い勝手がいいじゃない、この人形。見た目がかわいくないのがとっても残念……。
 ほら、ほら、ぼやっとしてるとすぐ死んでしまいますよ」
僧侶「……」ガッ
剣士「うっ」
勇者「僧侶、目を覚ませ!しっかりしろっ!」
勇者は捕縛呪文を唱えた!
僧侶は動きを止めた!
しかし魔女がすぐに解除した!
魔女「動きを止めようったって無駄。だから……殺すしか方法はありません。
 どうするの?殺してしまうの?」
魔女「今まで一緒に旅をしてきた仲間を……あなたを信じてついてきた仲間を。
 ほかならぬあなたの手で彼の命の灯を消してしまうのかしら? どうするの?ねえ勇者?」
勇者「……黙れ!」
僧侶『躊躇うなよ』
勇者「…………!」
僧侶「……」
僧侶の攻撃!
勇者は防いだ!
勇者「…………っ」
勇者「ふざけんなっ!! この野郎!」ギィン
勇者の攻撃!
僧侶の武器を破壊した!
魔女「あら。意外とあっさり殺しちゃうのね」
532:
勇者「何が『躊躇うな』だ!いっつも好き勝手やってたくせになんでそういうこと言うんだよ!!この変態僧侶!!」
僧侶「……」
勇者「男子禁制のハーレムつくるまで死なないんじゃなかったのか!?なんとか言えっ!!」
僧侶「……」
魔女は補助魔法を唱えた!
僧侶の攻撃力と防御力が10倍になった!
――バキッ!
剣士「……う、うそ。素手でガラスの床に大穴を……」
勇者「剣士。二人で僧侶の腱を狙おう」
剣士「……分かった」
魔女「……だから。無駄ですって。人間って頭悪いのね」
魔女は治癒魔法を唱えた!
僧侶の傷はたちまち再生した!
魔女「早く殺しちゃえば? 勇者の魔法なら一発でしょう?」
533:
勇者「……ッ」チラ
魔女「あははは! なにその目?私を殺せば術が解けると思ってるの?
 でもいいのかしら?そしたらもうひとりのお仲間、ブス女が死んじゃうかもね」
剣士「ブスで悪かったな!! ……うぐっ!?」
僧侶「……」ドッ
剣士「わ、あ、う、お、落ち……っ!!」ガッ
剣士「あ、危なかった……」
勇者「剣士!」
僧侶が剣士を投げ飛ばした!
剣士は間一髪で落下を免れた!
僧侶「……」ジリ
剣士「……僧侶くんって結構素手でも強かったんだね」
剣士「でも、私は誰にも負けないよ。相手が誰だろうと、私は負けない!!」
剣士「勇者。僧侶くんは私にまかせて。君は魔女を倒して!!そうすれば僧侶くんの魔法も解けるよ!」
勇者「大丈夫か?」
剣士「大丈夫だよ。信じて」
勇者「……分かった」
534:
魔女「ようやく私と遊んでくれる気になったのかしら」
勇者「遊びじゃない」
勇者は魔法を唱えた!
魔女は防御結界を張った!
魔女「なかなかだけど、やっぱりそんなんじゃまだまだだわ。
 早く使いなさい。ヒュドラを倒したっていうあの魔法」
魔女「私を倒すためにはその魔法を使うしかないと思うわ。そうシンディとアンも言って……
 ああ、二人はどっちもさっき死んじゃったんだっけ」
魔女「悲しい……」
勇者「……そんなにあの術が見たいのなら、見せてあげるよ」
勇者は呪文を唱えた!
辺り一面光に包まれた!
魔女は旋回した!
魔女「……ふふ。その程度?すぐに避けられちゃうじゃない」
魔女「ヒュドラは鈍重だったからまともに食らってしまったのね。あいつ、首がたくさんあるくせに体は全然動かないから――」
魔女「……!? 勇者がいない……?」
勇者「後ろだ」
魔女「!」
勇者は魔女の心臓を突き刺した!
魔女「っああああぁ……!」
535:
剣士「……勇者! 魔女を倒したの? ……あれ?でも僧侶くんはまだ……」
魔女「あぁぁぁ……ああ……痛いじゃない!!もうっ!!離しなさい」
勇者「!?」
勇者「確かに心臓を刺したはずだ……何故生きてる?」
魔女「ゴホゴホ……やだもう、お気に入りのドレスが血まみれよぉ……どうしてくれるのかしら、グチャグチャになって死んでよウジ虫ども……」
魔女「なに?何故そんなに驚いた顔しているの?あなたたち、誰と戦ってたのか分かってるのかしら?」
魔女「魔王様直属の部下、魔女族魔男族を束ねるこの魔女よ。私が何年魔法を研究してきたか知っている?
 そうね、ざっと400年。心臓を一回刺されたくらいじゃ死にませんわ」
魔女「いくら勇者って言ったってたかだか10年ちょっと生きたあなたとは格が違うのよ。ごめんなさいね」
勇者「なんだと……?」
魔女「それに、騙すなんて姑息な真似してくれるわね。さっきの魔法、禁術ではないでしょう。
 そんな態度でいていいのかしら。そろそろ私も面倒になってきたわ」
魔女は杖を掲げた!
嵐が吹き荒れ雷鳴轟き、降り注ぐ雹が勇者と剣士の体を傷つけた!
勇者「使うしか……」
剣士「勇者っ!!使っちゃだめ!!」
536:
魔女「お前は、黙ってろ。メス豚が」
剣士「お前こそ黙ってろ!!」
剣士「勇者! あの術は、二度と使わないって言ったじゃない!!使わないで!!!」
勇者「剣士」
剣士「使わないでよ!!あんな魔法……!!」
勇者「これしかない」
剣士「………………っ」
剣士「……」
勇者は禁術を唱え始めた!
魔女は防御結界を五重に張った!
魔女「迎え撃つわ。反射して全部そっくりあなたに返してあげる……!」
禁術が発動した!
魔女「……」
魔女「……!」
魔女「私の結界でもだめなんて……」
魔女「本当恐ろしい術ね」
魔女は箒で舞い上がった!
しかし術の引力に引き寄せられた!
魔女「…………あら。思った以上にすごいのね」
魔女の体は消滅した!
537:
僧侶「……!」
僧侶「……」ガクッ
剣士「僧侶くん!! 気を失ってる……だけか」
剣士「術が……解けたんだ!!」
剣士「……勇者っ」
勇者「ごぼっげほげほ……大丈夫、生きてる……がはっ」ビチャビチャ
剣士「どう見ても大丈夫じゃないよぉ……また血が……」
勇者「僧侶は……?」
剣士「気を失ってる。でも魔女の術は解けたよ。……あっそうだ!女エルフにもらった飲み薬、飲んで!!
 い、いまフタあ、あけ、開けるからっ!!すぐ痛いのなくなるから!!」
勇者「落ち着いて……二度目ということもあって若干慣れたから……」ビチャビチャ
剣士「慣れていいもんじゃないからね!?辺り一面血の海になってるからね!?」
剣士「あ、開いたっ! ほら早くこれ、飲んで!!」
ドッ……
剣士「んっ……?」
勇者「……!?」
剣士「あ……え?」
剣士「……なん……で……剣……お腹から……?」
僧侶「……」ズブ
剣士「……僧侶くん……?」
ドサッ
538:
勇者「剣士!!!」
勇者「僧侶……一体何を!?」
僧侶「さっきの禁術……一度発動したら対象は逃れることができないのですね。
 まるで引力のようなものを感じました。とてもおもしろいです。呪文を詳しく教えてもらえませんか?」
勇者「……お前は魔女か!?」
僧侶「……ああ。そうですよ。さっきまであなたの前にいた私も、とっくの昔からお人形でした。
 今までずっとお人形の体を転々と移ってきたのです。さっき壊れたあの体は特別気にいってたのですけど」
僧侶「やだ、男の体なんて入ったの初めて。こんなんじゃドレスも着れないしリボンも似合わないわね。
 早く新しい体つくらなくっちゃ……」
剣士「う……」
勇者「剣士、この薬を……」
僧侶「……それ、エルフ族の薬ですよね。なんで勇者が持っているのかしら。
 勇者が魔族から奪ったのか……エルフ族の誰かが私たちを裏切ったのか……どっちかしらね」
僧侶「どっちでもいいわ。もう興味があった禁術を見れたんだもの、もうあなたに用はないの。
 ちょうどいい剣もあることだし……ここで死んじゃってくださる?」
僧侶は剣士の剣を振りあげた!
勇者は剣士を庇った!
勇者「……っ!!」
勇者「……」
勇者「…………?」
539:
僧侶「………………」ググ
僧侶「……どうして?体が動かない……」
僧侶「……」
僧侶「……その剣は剣士ちゃんのもんだ。こんな風に使っちゃだめなんだよ!!!」
僧侶「人の体使って散々やってくれたなァ!?このクソババア!!!ええコラ!?気持ち悪いんだよとっとと出てけ!!!」
勇者「……そ、僧侶? 僧侶!!」
剣士「僧侶くん……?」パチ
僧侶「剣士ちゃんごめんな。操られてたとは言えひどいことをしちまったもんだ」
僧侶「な、なんで?今まで自我を取り戻した人形なんて……一人もいなかったのに。私の魔法は完璧よ」
僧侶「うるせーー!喋るなタコ助!!バリバリ自我あるわい!!俺の体から出て行け!!ぶっ殺すぞ!!」
僧侶「…………出て行かないわ。あなたこそ……さっさと消えなさい。ぎゃんぎゃんと喧しいわ」
僧侶「ははん、同じ体を共有してる今なら分かるぜ。お前、相当焦ってるな。
 出て行かないんじゃなくて、出て行けないんだろ。お前の人形はもうここには俺以外ないからなぁ」
僧侶「つまり……こうしちまえば、お前は死ぬしかないってことだ」
勇者「……僧侶? ……やめろ!」
僧侶「何をするつもりなの?やめなさい! 馬鹿ね……こんなことをすればあなたも死ぬってことよ。
 そんなことも分からないのかしら」
僧侶「えー!?俺も死ぬの!?じゃあやめよっと!」
僧侶「……なんて言うわけねーだろ!!そこまで俺は馬鹿じゃねえ!!
 道連れだクソババアめ。死んじまえ」
グサッ!
540:
僧侶「……ああ」
僧侶「……もう、いやになるわね。ほんっと人間って馬鹿」
僧侶「……仕方ないわ……死んであげるわよ」
僧侶「……」
剣士「僧侶くん!!」
勇者「僧侶! 僧侶……しっかり! い……いま治癒魔法を」
僧侶「やめとけ……治癒魔法かけたら魔女まで復活しちまうだろ……」
勇者「死ぬな!!死なないって言ったじゃないか!」
僧侶「……自分も死にそうな状態でよく言うぜ……大体いま治癒魔法使えるんなら……
 自分に使えよ……血みどろで気味悪い……妖怪か貴様は……」
剣士「…………そうりょくん…………しなないで…………」
剣士「いっしょにかえろうよぉ……いやだよ、こんなの……」
僧侶「剣士ちゃん、泣かないでくれよ」
僧侶「勇者も泣くな。男に泣かれても鳥肌しか立たん……マジキモイ……」
勇者「こんな時にまで軽口叩いて……馬鹿だな」
僧侶「ああそうだ、馬鹿だ……クッソ、柄にもなくかっこつけちまったけど……
 あーくそ、正直こんな真似するんじゃなかったぜ」
僧侶「くそっ……!めちゃくちゃいてえよ…………なんだよこれ……いってえよ!」
僧侶「死ぬのか俺……死ぬって何だよ、意味わからんくらい怖ええよ……死にたくねーーよくそったれこんちくしょう!!」
僧侶「こんなところで俺の人生終わっちまうのかよ……まだやってねえことたくさんあるっつの……」
剣士「僧侶くん……」
勇者「…………ごめん…………」
僧侶「俺は死にたくない」
僧侶「正直すげえ生きたい」
僧侶「だが死ぬ。俺は俺のために死ぬ。おい、なんで謝った?やめろよなそういうの」
僧侶「いいかよく聞けよ。遺言だこの野郎……」
541:
僧侶「俺は今まで自分の意志で旅をしてきたし、自分の意志で死を選んだんだ。
 だから俺の死がお前のせいだなんて思うのは、俺に対する侮辱だぞ」
僧侶「今後俺に対して謝ったりなんかしたら、冥界から戻ってきてお前を殺す。分かったな」
僧侶「あと剣士ちゃんを泣かせたりなんかしても殺す。お前が死んでも殺す」
勇者「……物騒な遺言だな……」
僧侶「剣士ちゃん。正直言ってこいつより俺の方が遙かにいい男だと思うが、まあこいつもそれなりだから
 ずっとそばにいてやってくれよな。こいつ君のことすっげー好きだから」
剣士「僧侶くんも一緒にいようよ……いかないで……」
僧侶「ごめんなぁ。そろそろだ……」
僧侶「……なあ勇者。魔王を倒してからも生きろよ」
勇者「……」
僧侶「他人なんか気にすんな。いざとなれば剣士ちゃん連れてどっかへ逃げろ。
 泥水啜ってでも生きたもん勝ちだ。そうすりゃいつかいいことあるって」
勇者「……」
勇者「僧侶。今までありがとう……」
僧侶「……じゃあな、二人とも……」
僧侶「……」
543:
うわぁぁ、僧侶まで…
勇者側も魔王側もキッツイなぁ。
546:
* * *
魔王城
魔王「……魔女が死んだか」
炎竜「……」
兄「俺が行きます」
魔王「……」
魔王「待て。私が行こう」
炎竜「魔王様?」
魔王「少々勇者を侮りすぎていたようだ……」
魔王「……私の命も残り少ない……全て勇者との戦いのために使おう。
 勇者を王都から引き離し、私が奴を始末する」
魔王「炎竜、そして息子よ。太陽の国の侵攻状況は」
炎竜「沿岸部はほとんど。国土の三分の一程度です」
魔王「数日でそれなら十分だ。
 私が勇者と戦っているうちに、勇者がいない王都をお前たちで落とせ。分かったな……」
兄「しかし、」
魔王「言うな」
魔王「息子よ。受け取れ。魔を統べる者が手にする王の指輪だ。
 いま、これをお前に託そう……」
魔王「私亡き後、お前が王だ。……しっかりやれ……」
兄「……」
兄「はい」
兄「必ず、魔族に勝利を」
魔王「……ああ……」
547:
* * *
「冥界とか冥府とかって呼ばれてるところって一体どんなところなんでしょう。
 女神様は安らかで、とっても景色が美しいところって言ってたけど本当なんでしょうか。
 死んでしまったみんなは今はそこにいるのでしょうか。
 苦しかったことや痛かったことは忘れて、楽しく過ごせているのかな。
 だったらいいなって思います。
 死ぬのは痛くて辛いのだろうけど
 生きるのも同じくらい辛いんだって、分かってきました。
 でも死ぬのは一瞬で、もしそのあと楽しく過ごせるなら、
 一瞬ではなくずっと続く生の方が悲しいのかなって…… 
 どっちでもいいや
 あの人といっしょなら
 生きても死んでも、どっちでもいいです。」
548:
まだ夕暮れ暮れ時にも関わらず、その飲み屋圏食事処は大変な賑わいを見せていた。
グラスを突き合わせる音や、野次の声が飛び交う騒然たる店内の隅っこで
そこだけ切り取られたように静かなテーブルがあった。
薬師である。
彼は酒の注がれたグラスに目もくれず、テーブルに広げた四通の手紙のことだけ考えていた。
いま彼がいるのは魔族と人が共に暮らす共同都市、通称「月の都」と呼ばれるところだった。
雪の国から星の国を経て、太陽の国に帰ってきた彼が、人間だけが罹る流行病の噂を聞いて
この月の都にやってきたのだった。
そして、ここで暮らす夫婦に出会った時に受け取ったのが、いま目の前にある四通目の手紙だった。
「ニーナという名前は書かれていないけど……あなたが持っている三通の手紙と筆跡が一緒ね……」
庭の広い、小さな木の家に住んでいる夫婦の、物静かな妻の方が手紙を矯めつ眇めつそう言った。
「たぶん、私が拾ったこの手紙も……ニーナという女の子が書いたものなのではないかしら……」
「そう、ですか」
四通目の手紙に出会えたのは確かに嬉しかったが、どう考えても内容がこれまでと違いすぎる。
仲間が死んでしまったのだろうか。
あの人とは、彼女と一緒に旅をしていた勇者のことだろうか。
「よかったら、これ……あなたが持って行って。……いいかしら?」
「勿論。俺も彼が持っていた方が、なんだか自然な感じがするし」
夫婦に差しだされた手紙を受け取って、ついに彼は海からの手紙四通全てを手にしたわけだが
何故かこうして夜の酒場で紙切れ相手に途方に暮れてしまっている自分がいた。
549:
ずっとこの大陸を旅してきて二十余年。
薬師として薬を売り歩く、という名目はあったが、正直に言うとこの手紙を集めることも目的のひとつだった。
むしろ、そちらの方が旅立ちの理由として大きかった気もする。
時系列順に並べれば、最近受け取った手紙の続きに、
幼いころ自分が浜辺で拾って祖父に読んでもらったあの手紙が続くのだろう。
全て繋がった。
しかしこの釈然としない気持ちはなんなのだろうか。
テーブルに広げた手紙を再び懐にしまい、知らず知らずのうちにため息をついたときだった。
酒場の主人が、彼の真向かいの席にドスンと腰を下ろした。
「よう薬師の兄ちゃん。久しぶりだなあ」
呂律が微妙に回っていないところから察するに、すでに主人はけっこう酔っている。
うわあと内心思いながら彼はちょっとだけ身を引いた。
手紙をしまっておいてよかった。
「なんだよ、全然飲んでないじゃないか! 俺んとこの酒はそんなにうまくないってのか? ん?」
「ち、違いますよ。いまから飲むところです」
「そうか」
550:
種族入り混じって騒ぎまくっている店内なので、片隅といえど薬師と主人のいるテーブルも
お互い声を張り上げないと会話ができないほどだった。
「……で、あんたいまいくつだよ?もう三十路じゃないのか?」
「まだ二十代です」
「いくつ?」
「……25」
「四捨五入すりゃ30だ。もうおっさんだ」
誕生日を迎えてから四捨五入という言葉が大嫌いになった彼だった。
おっさん……。その響きにくらりとめまいを感じてから、一気に酒を呷った。
おじいちゃん。僕はもうすぐおっさんです。
「30になれば一気に体にガタがくるぞぉ。そろそろ腰を落ち着けちゃどうかね?」
「は、はあ」
「家庭を持つっていいもんだぞ。
 俺も昔はやんちゃしたもんだがな、帰るところがあるっていうのは、なかなか意外にいいもんだ」
「家庭ですか……。でもあいにく、相手がいないもので」
「うちの娘なんかどうだい? ほら、久々にあんたがここを訪れたもんだから、
 あんたが店に来てからずっとチラチラ見てるよ」
「え」
551:
ひと際賑やかだった中央のテーブルにドッと声が沸いた。
「はい! ビール6人前おまちどうさま!」
店の看板娘――いま彼の目の前でにやにやしている主人の娘の元気な声が、かろうじて彼の耳に届いた。
娘に働かせておいて、父がテーブルについてサボっているいまの状況に気がついたのか
「ちょっとお父さん!ちゃんと働いてよ!」と娘が抗議した。
「まあ、口うるさいのが玉に瑕だが……なかなかの器量よしだ」
娘の声を無視して主人は続ける。
「家庭ですか……」
「そろそろ身を固めることも考えた方がいいんじゃないかってね」
552:
第二章 uoy hti wevi lan nawi.
553:
女神「……たったいま尊い命がまたひとつ冥府に導かれました」
女神「安心してください。冥府はとっても安らかなところですから、彼も今頃……死の恐怖も痛みも忘れ、
 その美しい景色に心を奪われていることでしょう」
女神「勇者、そして剣士。私を解放してくれてありがとう。
 私はこの塔を司る三女神のうち一人です」
女神「二人の傷ついた体を癒して差し上げましょう。これで良くなるはず」
勇者「……ありがとうございます」
剣士「…………」
女神「……あなたたちに私から贈るものがあります」
女神「すでに勇者は女神の一人から力を、また別の一人から知識を得ましたね。
 力と知識……これこそ戦いに最も必要な二大要素ではありませんか」
女神「あなたはもう勇者にとって大事なその二つを手に入れている。だから私は、あなたが勇者としてではなく」
女神「一人の少年として最も望むものを贈りたいと考えているの」
女神「あなたの心を覗かせてもらいます」
女神「あなたが一番欲しているものは……」
女神「…………そう。分かりました」
勇者「……」
女神「ならば、これをあなたに差し上げましょう」
554:
* * *
大樹の村 跡地
勇者「……やっぱり、どう見てもこれは種だよね」
剣士「植えたらなにか生えてくるんじゃないかな」
勇者「だったらこの村の墓場に埋めようか」
剣士「なんの種だろう」
勇者「さあ……。花でも咲くのかな」
剣士「これが君の望みなの? 実は花が好きだったり?」
勇者「別にそういうことはないと思うんだけど……女神様が言うことなんだから、そうなのかな?」
剣士「……」
剣士「神様なんだから、もっと……死んだ人を蘇らせてくれたりしてくれればいいのに」
剣士「案外神様もできることは少ないんだね」
剣士「……二人でいるとなんだか静かだね。村で二人で遊んでたころは全然気にならなかったのに」
剣士「僧侶くんは夜はいっつも飲み屋に行くし、女の子がいればすぐに口説きにかかるし、
 口は悪いし、本当に私たちより年上なのかなって思うときがあったけど」
剣士「おもしろいことばっかり言うから、悲しい時もいつの間にか一緒に笑っちゃってたよ」
剣士「狩人ちゃん。無口で何考えてるか最初はよく分かんなかったな。
 全然笑わないからちょっと怖いお姉さんだなって思ってたけど」
剣士「本当は4人の中で一番みんなのこと気にかけてたよね。
 笑った顔、すごいかわいかったな。もっといろんなこと話したかった」
剣士「女の子同士の秘密の話だから、勇者と僧侶くんは聞いちゃだめだよ。二人には内緒」
勇者「はは……」
剣士「……」
剣士「……ごめん」
剣士「こんなこと、今話すべきじゃなかったね」
勇者「いいんだ。そうだね、4人でいたときは……変なパーティだって思ったけど」
勇者「あれはあれで楽しかったね」
剣士「ね」
勇者「二人の死を無駄にはしない」
勇者「王都に行こう」
555:
太陽の国 王都
国王「正直に言って……信じられん。今まで手加減をされていたとしか思えないほどだ。
 たった数日で、塔が奪われ、さらに沿岸部の村々はほぼ竜族に支配された」
国王「海路は水魔族によって阻まれ、陸路も何者かの魔法によって断たれてしまい、隣国からの救援も届かぬ」
騎士団長「このままでは間もなくこの王都も危険に晒される」
神殿長「……」
魔術師長「魔王は国王様のお命を狙っております。必ず王都を落としに来るでしょう。
  私たちが全身全霊でこの王都をお守りします」
神儀官「この国が誇る騎士団と魔術学院の長の二人ならば、それも可能かもしれませんね。
 ですが所詮はただの人……確実に王都を守れるとは限りません」
騎士団長「何だと?」
魔術師長「……口が過ぎるな神儀官。神殿長、あなたは部下に一体どのような教育を……」
神殿長「……」
魔術師長(チッ。傀儡か)
神儀官「一体何のために『勇者』がいると思っていらっしゃるのでしょう?
 そうですね、勇者?」
勇者「……塔を取り戻します」
勇者「そしてこの国への侵略をやめさせます」
神儀官「期待していますよ」
騎士団長「勇者。そうは言うが勝算はあるのか。四天王のうち3人を倒したのはさすがだが、
  残るは炎竜……そして魔王。手ごわいぞ」
勇者「分かっています」
国王「よくぞ言った」
556:
国王「勇者、魔王との決戦に必ず勝ち、我が国に勝利をもたらすのだ」
国王「魔王を討ち取れ。お主なら、それが……」
勇者「そのことなんですが、僕は魔王や魔族との戦いをできるだけ避けたいと思います」
魔術師長「……?」
騎士団長「どういうことだ?」
勇者「魔王に会いに行くことは行きますが、戦いの前に人と魔族の間における不可侵条約の締結を提案しようと思うのです」
魔術師長「……は、はあ?」
国王「不可侵条約……か」
勇者「元々この戦争を仕掛けたのは僕たち人間側だということは、国王様もご存じでしょう」
国王「……ああ、知っている。わしの曽祖父が始めたものだ……
 大っぴらに国民に知らせてはいないがな。その情報は女神から受け取ったものか」
勇者「戦争をどちらかの勝利という形で終わらせることに僕は反対します。
 不可侵条約を結んで、お互いの種族を尊重し、侵略行為を永遠に禁じましょう」
勇者「魔族が悪だというのなら人間も悪です。人間が善だというのなら魔族も善です。
 もうお互いが傷つくだけの戦争は終わりにしましょう」
騎士団長「……お前は魔族が人間と同等だと言うのか?国王の御前でなんということを……」
勇者「魔族と人は、同等だ。何度だって言う」
神儀官「…………………………」
神儀官「あら……」
国王「勇者、本心で言っているのか。お前の仲間も……多くの国民も……魔族によって命を奪われたのだぞ」
勇者「……本心です」
国王「…………分かった。不可侵条約締結に賛成しよう」
神儀官「国王様!」
557:
神儀官「お気は確かでいらっしゃいますか?魔族ですよ。奴らと条約を結ぶなど……!」
国王「しかし勇者、魔王とてすんなり首を縦に振ってくれるとも限らんぞ。
 そのときはどうするのだ?」
神儀官「国王様……」
勇者「その場合は……やはり戦闘になってしまうと思います」
騎士団長「平和的解決を図りたいと言いながら、結局は武力に訴えるのか」
勇者「……」
魔術師長「黙りなさいよ。なら腕っぷししか能のないあんたは他の策を思いつくって言うの?」
騎士団長「なにぃ?」
魔術師長「あら失礼」
魔術師長「とにかく。勇者は塔に行くのでしょう。ならばその間の王都護衛は私たちにまかせてちょうだい」
騎士団長「……まかせておけ」
国王「いい知らせを期待している。お主は我らの希望だ」
国王「塔へ発て。勇者」
神儀官「…………」
勇者「はい」
558:
剣士「あ! 勇者、王様たちと話終わった?」
勇者「終わったよ」
剣士「なんだって?」
勇者「賛成してくれた」
剣士「……よかった。認めてもらえたんだね」
魔術師「勇者に剣士!ここにいたのね。ちょっと色んなこと相談したいからこれから一緒にお昼食べながら話聞いてもらっていい?
 いま王都護衛のための魔術師配置のことを考えてるんだけど結構頭こんがらがっちゃって意見ほしいっていうかそのね」
副団長「やあ勇者に剣士くん。聞いたぞ太陽の塔に再び行くのだそうだな!
 そんなに多くはないが魔族のおおよその身長体重弱点などの情報を伝えたいと思うのだ!これから一緒に昼餉などどうだい」
魔術師「ちょっと!私の方が先に話しかけたんだからね」
副団長「なにい!俺の話の方が勇者たちにとって重要だろう!ここは俺に譲るがいいさ!!」
剣士「二人とも寝不足気味なのかな。テンションがおかしいよ」
勇者「それなら4人でいっしょに食べようよ」
魔術師「いいわね!名案だわ!」
副団長「よしさっそく行こうじゃないか!!!」
559:
副団長「と思ったがさすが昼時、いつも行っている広場の店にも全く空席がないな。ええいどうする!!」
魔術師「あれ、じゃあここは?新しくできたお店みたい。初めて入るけど行ってみようよ」
剣士「……なんか、この店焦げ臭い匂いしない?勇者」
勇者「え?そうかな」
副団長「うーん確かに剣士くんの言う通り。なんだか嫌な予感しかしない」
コック「い、いらっしゃいませ!」
魔術師「奥に行けば行くほど匂う……ちょっと地雷臭がしてきたわね、このお店。
 でももう席についてしまったし……」
コック「おまたせしましたっ! ビーフシチューにオムライスにチャーハンにタコライスです!!」
魔術師「……よかった、味は普通ね。びくびくしちゃった」
剣士「オムライスおいしー」
勇者「うん、おいしい」
副団長「うまいな。ところで今日は俺が奢ろう」
魔術師「待ちなさいよ。私が奢るつもりだったの。だから勇者も剣士もいっぱい食べてね。
 デザートもあるみたい。後で頼みましょ」
副団長「待て!!俺が先に奢ると言ったのだ。勇者も剣士くんも育ちざかりだろう、遠慮せずにどんどん追加していい」
魔術師「ちょっと、でしゃばんないでよ」
剣士「二人とも喧嘩しないで……ていうかなんか様子が変じゃない?どうしたの?」
勇者「……気持ちだけで嬉しいから、そんなに気を使わなくていいよ。ありがとう」
魔術師「ち、ちがっ……」
副団長「……魔術師、君のせいでいらぬ恥をかいた」
魔術師「私のせいだって言うの!?」
勇者「いやだから喧嘩しないでって……」
560:
コック「うわああああああああ! すすすすすすいませんすいません!!」ダバー
剣士「わああああっ!! なにっ!? これが噂の飛び土下座!」
コック「すいません!!料理に手違いがありまして……というのも味付けを間違えてしまいました!!
 何を隠そう、じつはわたくし、料理があまり得意ではないのです……!」
魔術師「厨房から立ちこめる焦げ臭さでうすうす気づいてたけどね」
剣士「一体何故コックを目指したの……」
副団長「ふむ、しかし味付けを間違えたというのは真か?普通にうまいと思ったが……」
魔術師「確かに。特別めちゃくちゃおいしい!ってわけでもないけど、不味くはないよ」
コック「い、いえ、確かに間違えてしまいました」
コック「ええと……チャーハンです。うわあああ!よりによって勇者様のお食事の味付けを間違ってしまうなど……
 ……首吊ってきます」
魔術師「ちょっとおおっ やめなさいやめなさい!!料理の腕の前にそのメンタルどうにかなさいよ!!」
勇者「……あー、確かに言われてみれば味が変かもしれないけど、そこまでじゃないから気にしないでください」
副団長「ふむ、どれどれ?」パク
副団長「………………………………」
魔術師「いつもうるさい副団長が無言になるなんて、よっぽどのことだわ。
 勇者、よく今まで平気で食べられてたね」
勇者「ま、まあね」
剣士「……」
561:
剣士「どんな味?」
勇者「え?」
剣士「どんな味がするの?」
勇者「ええと……普通よりちょっと、いや大分塩辛い。塩の量を間違えてしまったんですよね、コックさん」
コック「いえ!油と酢を間違えた上、肉いれたと思ったら角砂糖投入しておりました!!」
勇者「どんな間違いだよっ……!」ダン
勇者「いや、言われてみれば酸っぱいし甘い。すごい味だ」
剣士「……」
剣士「魔術師さん、副団長さん。ちょっと席はずしてもらっていいですか」
魔術師「へ?」
剣士「勇者に訊きたいことがあるので」
副団長「かまわんが……」
剣士「……」
勇者「……あのさ、ちょっと僕も二人に急きょ話したいことがあるから、剣士はここで待っててくれるかな」ガタッ
剣士「座って? 勇者」
勇者「でもほら、二人とも結構忙しいみたいだし、すぐ用事を済ませたいから……」
剣士「座れ」
勇者「はい」
562:
剣士「私にね、何か隠してることないかなって」
勇者「何もないよ」
剣士「うそつき。……おかしいと思ったんだ。雪の国でヒュドラを倒した後……
 急に甘いもの食べられるようになってたけど、あのときからでしょ」
剣士「味覚ないんだ」
勇者「……」
剣士「あのときからってことは、それ、あの魔法を使ったことが原因なんでしょ」
剣士「……魔女を倒すときも使ったよね。ああ、だから店に入るとき異臭にも気付かなかったんだね。
 嗅覚もないんだね」
剣士「そんな魔法なんだ……」
剣士「なんで黙ってたの?」
勇者「……黙ってたのは謝るよ。でも味覚も嗅覚も、なくても戦いに支障がないから平気だよ。
 最悪目さえ見えていれば、なんとでも、」
剣士「そういう問題じゃないでしょ」
剣士「君はいつから戦いのためだけに存在する兵器になったの。
 勇者は兵器じゃないでしょ。人間だよ」
剣士「味覚も嗅覚も全部人にとって大事なものでしょ。
 大体……戦いが終わった後はどうするの?」
剣士「もう戦わなくていいって時に、本当に目だけ見えていればいいなんて心から言えるの」
剣士「いままでもこれからも、君は人間だよ。戦いに必要ないからいらないなんて言わないでよ!
 戦いが終わった後も、君の人生はずっとずっと続くんだから……!」
剣士「……」
剣士「ねええ……ふざけてるの?いい加減怒るよ?」ガッ
剣士「なんで顔を上げてみたら勇者、嬉しそうに微笑んでたの?どう考えても表情の選択おかしいでしょ?ねえ?」
剣士「私真剣に話してるんだけど?」
勇者「ごめん、つい……謝るから胸倉離してくれ」
剣士「つい、なんなの?」
勇者「……嬉しくて」
勇者「ほかの誰が戦争のための兵器だと考えていても、君さえ僕は人間だと言ってくれるなら、
 それだけですごく嬉しいんだ。笑っちゃってごめんね」
剣士「……」
勇者「あの術のリスクは全部分かっていたけど、それでも使ったのは僕の意志だ。
 受け入れて生きていくよ」
勇者「心配してくれてありがとう」
剣士「…………なんでそんな風に言えるの」
剣士「なんでそんな大事なことずっと黙ってたの〜〜〜〜っ
 もーーーーーっなんでいっつも勇者はそうやって……も〜〜〜〜〜……!!」
勇者「ごめん」
剣士「信じらんない……うぅ〜〜〜〜〜……ううっ……う……」
剣士「…………気づいてあげられなくてごめんね…………」
563:
バタンッ!
副団長「勇者!剣士くん!」
剣士「うう……副団長さん?」グス
副団長「取り込み中すまんが、外に来てくれ……大変なことになった。外は大騒ぎだ」
勇者「一体何が?」
副団長「魔王から、君に向けてのメッセージだ」
勇者「な、なんだこれは……?」
魔術師「魔法で空に文字を浮かび上がらせたのね。こんな大規模な魔法めったに見れないよ」
副団長「『満月の夜に、魔王城に通じる門を塔におく』」
魔術師「満月には魔族の力が最も大きくなると言われている。罠としか考えられないけど……」
剣士「満月は確かもうすぐだよね」
勇者「魔王……」
勇者「……満月の夜か」
564:
* * *
勇者(罠なんだろうか)
勇者(でも行くしかない。どのみち塔には行かなければいけなかった)
勇者(……死ぬかもしれないな)
勇者(そう考えても不思議と気持ちが前向きのままでいられる)
勇者(狩人が死んで僧侶が死んで、家族が死んで、自分も多くの魔族を殺して……
 それでも正気を失わずにいられるのは)
勇者(多分、彼女のおかげなんだろう……、ってなにを考えてるんだ)
勇者「気を引き締めないと。会うのは魔王だ」
勇者「夜明けだ。出発しよう」
コンコン
勇者「……剣士?もう出発するけど」
勇者「まだ寝てるのか……?」
勇者「いつも早起きなのに珍しいな。……入るよ」
565:
剣士「……」
勇者「寝てるのか。……」
勇者「剣士。朝だ。もう起きないと……、……?」
勇者「え……?」
勇者「け……剣士?剣士……?」
勇者「なんでこんなに肌が冷たいんだ」
勇者「……???」
勇者「朝だよ、起きてくれよ。剣士……どうしちゃったんだよ」
勇者(まさか)
勇者(いやそんなわけない。ここは王都で……昨日の夜まで剣士も元気で……まさか)
勇者「…………」
勇者「心臓は動いているはずだ」
勇者「心臓は……」
勇者「動いてないはずがない」
勇者「そんな……はずは……」
勇者「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
勇者「うそだ」
566:
――――――――――
勇者「……!」パチ
勇者「天井……?」
勇者(夢だったのか?)
勇者「……ハァ……ハァ……」
勇者「……おえっ……」
勇者(なんて夢だ。何度目の……)
ズルッ
勇者(夜明けだ……夢の中と同じ……また剣士の部屋へ歩いて行って……
 でもこれはもう現実であっているのか?まだ夢のなかじゃないのか?)
勇者(それともさっきのがやっぱり現実で、これは僕が現実逃避に見ている夢なのか?)
勇者(もう一度確かめないと……また……)
コンコン
勇者「剣士」
剣士「……」
勇者「…………あああ……動いてない。心臓が動いてない。息をしていない。体温がない。生きてない」
勇者「一体誰が!!いつの間に……ちがう、やっぱりこれは夢なんだ。あり得ないだろこんなの」
―――――――――――――
勇者「……」パチ
勇者「はあ……■あ……今度こそ現実だから剣士は死んで■いはずなんだ。もう一度確■めに」
勇者「行って……ああ、でも■しまた死ん■いたらどう■■ばいいんだ。だれ■やった■だ……まも■なかった……■たひと■しなせてし■った……」
勇者「なんと■■もけん■だけ■まもりた■ったのに……だれだ■……■れが■ったんだよ■れが」
勇者「ま■■てしまっ■」
勇■「……」
■者「……■んどたし■めてもしんで■■。け■しはしん■……ころ■れた■■……■■■……」
■■「■■■」
567:
―――――――――
■■「■■■■■■ ■■■ ■■ ■■■■■■■■■……■■■■」
■■「……■■■、■■……■■■」
568:
―――――――――――――――
勇者「……」パチ
勇者「……短剣」
ザクッ!!
勇者(血が出ている。熱い。痛みだ)
勇者(ということはこれこそ現実……)
スタスタ
ガチャ
剣士「……」
勇者「……」
勇者(呼吸をしてる、体温がある。剣士は生きてる、死んでいない)
勇者「はあっ……よかった……」ズル
剣士「むにゃむにゃ」ゴロン
勇者(神様、なんでもあげますから……なんでもしますから)
勇者(剣士だけはどうか……)
569:
勇者(そのためなら自分はどうなってもかまわない)
パアッ
勇者「!? なんだ……? 僕の部屋から明かりが漏れてる」
ガチャ
勇者「……魔法書が光っているのか? うっ眩しい……一体何事だ」
勇者「あれ?最後のページの呪文が……」
勇者「読めるようになってる。今まで解読できなかったのに……何故いきなり」
勇者「そうか」
勇者「最後の呪文の代償は……」
勇者「やっぱりそうなるか」
勇者「……だったら。もういっそここで……」
勇者「……」
570:
正気だって思ってるけど結構すでに頭がおかしい勇者でした
今日はここまでです
571:
おつ
章題は剣士の言葉なのかな?
573:
おつ
考えても章題さっぱりわからんかった
答えが明かされるのを楽しみにしていようっと
576:
王立図書館 地下
獅子像「……む」
獅子像「久しいな。勇者」
勇者「やあ」
獅子像「こんな早朝に一体何用だ。まだ図書館も開館していまい。どこから忍びこんだのだ」
勇者「見なかったことにしてくれ」
スタッ
勇者「……剣は……やっぱり抜けない、か」
勇者「なら仕方ないな。おいていこう」
577:
* * *
剣士「勇者おはよう! まだ寝てるの? もう朝だよ」
剣士「……あれ?いない。どこ行っちゃったんだろ」
剣士「おはようおばさん。勇者どこ行ったか知ってる?」
宿屋「あら……?おはよう。勇者様ならもう宿を出たみたいだけど?」
剣士「え? 何か用事でもあるのかな」
宿屋「用事というか、満月の夜に塔に到着できるよう、今日王都を発つって……」
宿屋「てっきりあなたも一緒に行ったかと思ったのに、まだいたのね」
剣士「ええっ!?なにそれ、聞いてないよ。探しに行ってくる!!」
宿屋「行ってらっしゃい……気をつけてね」
王都 城壁門
剣士「もう、いつ出発するかとかちゃんと事前に言ってくれないと困るよ」
剣士「準備だっていろいろあるのに!とりあえず剣だけ持ってきたけど」
剣士「……ああっいた!! 勇者っ!!」
剣士「あれっ副団長さんに魔術師さんも……おはようございます」
副団長「剣士くん……」
魔術師「お、おはよ」
剣士「ひどいよ勇者!なんで何も言わずに宿を出ちゃったの?」
剣士「塔に行って魔王に会うんでしょ?すごく大事な日じゃない。ちゃんとそういうの昨日のうちに出発時刻とか言っといてよ」
剣士「でも追いつけてよかった。二人は見送りに来てくれたの?」
勇者「……」
剣士「ねえ、どうしたの?なんでこっち向いてくれないの……?」
578:
勇者「見送りじゃない」
勇者「僕は二人とともに魔王城に行く」
剣士「え?……ああ、そうなんだ。じゃあ、また4人パーティだね」
剣士「副団長さんも魔術師さんも王都を離れていいの? でも心強いな!嬉しい。よろしくね」
勇者「4人じゃない。3人だ」
勇者「君はついて来ないでくれ」
剣士「……へっ? な……なに言ってんの?」
勇者「今まで我慢していたけど、正直に言って足手まといなんだ。
 君を庇いながら戦うのももううんざりだ」
剣士「…………?? どうしたの……急に、そんな……」
剣士「ず、ずっといっしょに戦ってきたじゃない。
 どうしてそんなこと言うの」
剣士「わ……私は足手まといなんかじゃないよ!!
 剣だって強くなったし、十分戦えるよっ」
剣士「旅立ちの時とは違う。私は強くなったんだから!!」
勇者「じゃあ証明して見せろ」チャキ
剣士「えっ……」
勇者「剣を抜け」
579:
勇者「……」タッ
剣士「ゆ、勇者――…… わっ!!」チャキ
キィンッ
剣士「ちょっとっ……ねえっなんなの……」ググ
剣士「……くっ!」
勇者の攻撃!
剣士はかわした!
剣士の攻撃!
勇者はダメージをうけていない!
魔術師「……ゆ、勇者」
副団長「……待て」ガシ
魔術師「……」
―――――――――――
――――――――
――――
剣士「……うっ! く……」
剣士「あっ!?」
勇者の攻撃!
剣士の剣を弾き飛ばした!
ヒュンヒュンヒュン……ドッ
剣士(剣がっ……)
剣士「……!」
勇者は剣士の喉に短剣を突きつけた。
勇者「足手まといだ。邪魔をするな」
剣士「……っ、なんで急に……」
勇者「君が気づかなかっただけだろ。ずっと前から嫌いだった」
勇者「故郷がなくなってしまったから天涯孤独の君を憐れんで、同情でいっしょにいてやったんだ」
勇者「でも我慢の限界だ。もう顔も見たくない。二度と僕の前に現れるな」
580:
剣士「……」
勇者「……二人ともお待たせ。行こう」スタスタ
魔術師「あ、うん……」
剣士「……」
副団長「剣士くん」ポン
剣士「……」ビク
副団長「彼のことは我々にまかせたまえ。それで……君のことだが。
 君には王都の遙か南にある村に行って護衛任務にあたってほしいんだ」
剣士「……」
副団長「もちろん、剣を捨てて生きるというのならそれも構わない。
 しかしその場合も王都から離れて暮らしてほしい」
剣士「……」
副団長「これを君に。そうだな……今から2時間後くらいか。
 王都から南に出る大型馬車がある。そのチケットだ」
副団長「では、達者で」
581:
* * *

斧使い「でお前はどうすんだよ?」
戦士「どうするも何もよう……魔族が来たら俺なんてひとたまりもねえだろ。田舎に逃げるよ……」
戦士「王都より南はまだ安全だっつー話だ。あいつら北から見境なしに侵略してきてるからな」
斧使い「お前も行くのかぁ。そうか……。やっぱりそうだよな。……俺も……」
戦士「ん? おい、あれ……」
斧使い「あ? ……ああ!なんであいつこんなところにいるんだ?」
剣士「……」
斧使い「おおーい! 剣士のお嬢ちゃん!」
戦士「ひとりでなにしてんだ?」
剣士「……おじさんたち……ずっと前に酔っ払って勇者に絡んできた人だっけ」
斧使い「む、昔のことは忘れろよ。でも、勇者もお前も見直したぜ!
 すげえ強くなったんだなぁ。魔族をバンバン倒しちまいやがって……」
戦士「ちなみに今日は酒飲んでないぜ」
剣士「ふうん」
斧使い「それより、なんか大変なことになってるじゃねえか。
 魔王城に……結局行くんだろ?」
戦士「勇者はどこにいるんだ?」
剣士「勇者は……もう行っちゃったよ」
斧使い「?? 剣士はいっしょに行かねえのか?」
剣士「……」
剣士「……ついてくるなだってさ!私のこと、ずっと前から嫌いだったんだって!!」
剣士「私が一人で可哀そうだから今まで優しくしてくれたんだってさ!
 でも弱いから、役に立たないから、足手まといだからもういらないって!」
戦士「ええっ!? 勇者が本当にそんなこと言ったのか?」
斧使い「あいつなに考えてるんだ?」
剣士「そんなの私にだって分かんないよっ」
剣士「……本当いっつも何考えてるんだか全然分かんない」
剣士「私だって……私だって勇者のことなんか嫌い!!」スッ
剣士「雪の国でもらった指輪、……。
 今ならもっといい装備なんていくらでも買えるし、ただの飾りでつけてただけだし」
剣士「もういらない」
戦士「おいおい、なにしてんだよ?」
582:
ポチャン
斧使い「……あーあ。いいのか?この川は流れが早いからもう取り戻せねえぞ?」
剣士「いらないんだってば!」
剣士「……私はもう行くね。馬車の時間、そろそろだから」
戦士「馬車って、どこ行きのだ?」
剣士「南」
斧使い「……行っちまった」
戦士「なにかあったのかねぇ」
583:
* * *
ガタン……ガタンガタン
子ども「わー、お馬さんはやーい」
母親「ちゃんと席に座って。あぶないでしょ」
おじいさん「しかし、これから王国はどうなってしまうのじゃろうか……」
おばあさん「王都が襲撃されたら、もう……」
剣士「……」
剣士「……」ギュッ
 「そしたらあっという間に魔族がこの国を制圧するんだろうな」
 「今から行く南部も安全ではなくなってしまうな……」
 「聞いたか? ○○の村なんて、一晩どころかたった数時間で滅ぼされたそうだ」
 「勝ち目なんかないじゃないか……」
剣士「……」
子ども「ねー、この剣触ってもいい?」
剣士「……いいよ」
584:
子ども「わあ、重い」
剣士「君にはまだ早いよ」
子ども「……ねえお姉ちゃん怖いの?震えてるよ」
剣士「そんなことない。なんにも怖くなんかないよ」
子ども「大丈夫だよ。勇者様が私たちのこと助けてくれるから」
剣士「……」
剣士「……そうだね。勇者は強いからね」
剣士「……………………」
剣士「…………でも、弱いところもあるんだよ」
剣士「私ずっと知ってた。知ってたんだ」
剣士「ごめんね、剣返して」
子ども「?」
剣士「行かなくちゃ」
585:

剣士「はあっ、はあっ、はあっ……!」
剣士「…………っ」ガッ
ザバーンッ
剣士「!?」
斧使い「プハッ おえっ水飲んじまった」
戦士「おおい!そっちどうだ?」
斧使い「ない。お前んとこは」
戦士「ないからお前に聞いたんだよ」
剣士「……??」
斧使い「くそっ、どこに……、んんっ!?」
戦士「!!」
斧使い「み、見つけたぞ!ここだ!ほら!」
戦士「でかした!お前もたまにはやるじゃねえか! よし、さっさと上がろうぜ……さみいよ」
剣士「……おじさんたち、なにしてんの?」
斧使い「おお、タイミングいいな。ほら、これ探しに来たんだろ?」ポイ
剣士「!」パシ
剣士「……私が捨てた指輪。ずっと探してくれてたの?」
戦士「俺が探そうって最初に言ったのさ」
斧使い「馬鹿!!見つけたのは俺だ!!」
剣士「……」
剣士「…………ありがとう!」
剣士「おじさん!私やっぱり南には行かない。北へ行くよ」
戦士「そうか。頑張れよ」
斧使い「……俺もやっぱ、南には行かん。王都に残る。ここで、戦うさ」
戦士「まあ俺はもともとそのつもりだったけどな」
剣士「あの日おじさんたちと王都で手合わせしたときは……私は負けそうになったけど、今度もう一度手合わせをする?」
586:
斧使い「……そうだな、いつか再戦だ。シラフの俺は強いぜえ」
戦士「ふん。俺の方が強いね」
剣士「私だってもう負けないよ」
剣士「誰にだって負けない。私、強いからね」
剣士「おじさんたち、ありがと! またね!!」
斧使い「おう」
戦士「またな」
587:
* * *
魔術師「ほんとにこれでよかったのかな」
副団長「あいつが選んだんだ」
魔術師「でも、一人で行くなんて。……死ぬつもりなんじゃないかってさ」
副団長「……」
副団長「俺たちは王都を死守しなければ。魔王軍は勇者がいないうちに王都を攻撃してくるかもしれない」
副団長「あいつが帰ってきたときに、情けない様を晒すわけにはいかないからな」
魔術師「……そうね」
魔術師「でも、剣士は…………あっ」
副団長「?」
剣士「副団長さん。魔術師さん」
副団長「剣士くん……どうしてここに?」
剣士「私と……」
剣士「――勝負して」
――――――――――――
―――――――――
―――――
副団長「………………いやぁ……」
副団長「参ったね……」
魔術師「……情けない様は晒さないんじゃなかったの」
副団長「しかし君、少しくらい手助けしてくれてもいいじゃないか」
魔術師「馬鹿ね。王都が危険だって時に、みすみす魔力を消費したくないっつの」
副団長「……はあ。精進せねば」
副団長「強くなったなぁ。……剣士くん」
魔術師「じゃっ私は副団長が剣士にボロ負けしたってこと、団長と部下に伝えてこよーっと」
副団長「やめてくれ」
588:
森を抜けた先に広がる地平線を視線でなぞった。
青く揺らぐ空に霞んで、遙か彼方に聳え立つ象牙の塔。
風が吹けば地面の砂が舞い上がって小さな竜巻をつくった。
顔を腕で覆いながらまた歩みを進める。
今日は風が強い。
だから、近づく足音にもすぐに気付けなかった。
「勇者」
砂塵舞う中、剣士が勇者を睨んでいた。
その姿を見た瞬間、怒りに似た感情に心臓が沸きたった。
あれだけ言ってもだめなのか。
「……剣士、」
「杖を構えて」
「……は?」
「私と本気で勝負して」
ざ、と二人の間に再び風が通り抜ける。
視界を守るために上げた左手の先で、剣士が切刃を回さんとしていた。
砂色に濁る世界の中に、ただ彼女の剣が放つ燐光だけが確かだった。
589:
「勝負してよ。証明するから」
「私が誰より強いってこと……!」
残光を伴って振り下ろされた剣を、咄嗟に腰から引き抜いた短剣で受け止める。
刃がぶつかり合う鋭い金属音。
ぎちぎちと互いの腕が軋む音さえ聞こえるほどの近距離で二人は睨みあった。
「もう弱いなんて、言わせない」
「やっと気づいたんだ。この剣は……私の思いの分だけ強く光るんだって」
女神に授かった剣がひときわ青白く輝いた。
勇者は一時、全てを忘れてその光に目を奪われた。
「私が何のために強くなったと思ってんの!?」
まさに猛攻と言ってよかった。
王都の城壁での剣士とは……否、今まで共に戦ってきた剣士の動きともまるで違っていた。
今までよりずっと強く、ずっとく、ずっと鋭く白刃が振るわれる。
気を抜けば一瞬で勝負がつく。
攻撃を防ぎながらじりじりと後退していることさえ勇者は気づいていなかった。
590:
しかし剣より強く鋭いのは、剣士の視線だった。
穴が開くのではないかと思うくらいの視線に射ぬかれるのを恐れて、思わず目を逸らした。
「君のそばで一緒に戦いたかったからだよ」
ハッと気づくと、剣士の右手に剣がない。
いつの間にか左手にそれは握られており、今まさに下段より地面を抉り取りながら勇者に迫っていた。
「だから負けないよ。私が強くなった理由にかけて、絶対に私は負けない!」
「誰にだって――勇者にだって、負けないっ!!」
短剣では防げない。
そう判断した勇者は上半身を捻ってその一撃を避けた。
唖然とした。
ズズンと、音というより振動にちらりと振り返れば、
見渡す限りの林がその幹の途中から斬られていた。
次々と轟音を立てて倒れ来る木を避け、また二人は剣を突き合わせた。
591:
「……はっきり言わないと分からないのか!?」
「ここで退かないなら、殺す」
歯を食いしばりながら、ほとんど唸ってそう言えば
剣士もギロリと睨み上げて剣を握りなおした。
「やってみろ」
「……っ」
舌を打ってから勇者は短剣を逆手に持ち直した。
またあの時と同じように剣を弾き飛ばすつもりなのだと悟り、剣士は身構えた。
弧を描いて飛んでくる斬撃に合わせて、剣士も身を捩る。
避けるのではない。正面から迎えるつもりだった。
――剣を折ってやる!
勇者も剣士も、この一撃に賭けて全力を投じた。
これで決着をつける。
592:
「……!」
音すらなく半刃が空を舞うのを驚愕の思いで見た。
薄青の空にそれが溶けていくのを見届ける前に視界がぐらつく。
勇者の剣を折った後、剣士は身をかがめて躊躇いなく勇者に足払いをしたのだった。
いっさい淀みのないその身のこなしを見るに、初めから剣を折るのは自分だと分かっていたようだ。
「ぐっ」
地に叩きつけられた後、慌ててすぐに立ち上がろうとする勇者のマントの襟首を、剣士の剣が縫いとめた。
「私の勝ち」
勇者に馬乗りになって太陽を背に背負った剣士が、逆光の中嬉しそうに笑った。
「連れていってね」
593:
勇者「……だめだ」
勇者「そういうところが嫌いなんだ。人の話を全く聞かないところが」
勇者「顔も見たくないって言っただろ……!」
剣士「私だって勇者のことなんか大っ嫌いだよ」
剣士「勇者なんて方向音痴だしすぐ道に迷うし、朝は弱いし寝起き悪いし寝癖とかすごいし」
勇者「……」
剣士「整理整頓苦手だし、鈍感だし、宿の部屋すぐ散らかすし、うそつきだし大事なことずっと黙ってるし」
剣士「全然私のこと頼ってくれないし全部一人でなんとかしようとするし」
剣士「だから大っ嫌い」
勇者「……っじゃあ放っておいてくれよ!」
剣士「……」
剣士「……うそだよ。本当は全部好き」
剣士「勇者が私のことずっと前から嫌いでも、私はずっと前から君のこと好きだった」
剣士「……だから、どうせ放っておいてもいつかなくなる命なら、君のために使い果たしたい」
剣士「君のためなら、死んだって構わない」
594:
勇者「……!」
勇者「そんなこと二度と口にしないでくれ」
剣士「やだよ。何度でも言うし、魔王城には着いて行くよ」
剣士「私だって盾くらいにはなるんだから」
剣士「……一人きりでなんて絶対戦ってほしくないの。
 一人じゃ怖いことも、二人なら怖くないよ」
剣士「だからいっしょにいさせて」
勇者「……っ」
勇者「盾になんかできるもんか」
勇者「……君、ほんとに馬鹿だろ……っ」
剣士「あはは……勇者の泣き虫」
勇者「泣いてるのは剣士だ」
剣士「勇者じゃん」
勇者「君だ」
剣士「……あはは!」
勇者「はは……」
595:
剣士「剣、折っちゃってごめんね。これ、副団長さんからだよ。新しい短剣」
勇者「副団長から……?」
剣士「きっと剣を折るのは君だろうからって」
勇者「……そ、そう」
剣士「じゃ、行こう!」
剣士「あのね、みんなが君の本当の名前を忘れちゃっても、私だけはずっと覚えててあげるからね」
剣士「自分の名前を忘れそうになったらいつでも私が教えてあげる」
剣士「だからいっしょにいようね。最期まで、ずっと」
603:
* * *
数日後
剣士「わーっ……海だ」
勇者「塔が近づいてきたね。ここから先は魔王軍に侵略された土地だ」
勇者「今日はこの海辺の町に泊まろうか……」
勇者「満月の夜は、明日だ。夜までには塔に辿りつけるだろう」
剣士「うん」
剣士「もう旅もこれで終わりだね」
剣士「宿屋に行ったら海に行こうよ。日没までまだちょっと時間があるでしょ」
勇者「いいよ」
剣士「やった!じゃあ決まり!早く宿とろう!」グイ
勇者「うわっ」
剣士「海がオレンジ色だ。夕日が真ん丸でおもしろいね」
勇者「眩しいな……」
剣士「まだ水はちょっと冷たいや。貝殻集めようっと。勇者もやろうよ」
勇者「僕はいいよ。ここにいる」
剣士「えー」
604:
剣士「勇者っ見てこれ。誰かが捨てたビン。久しぶりにね、手紙を書こうかなって」
勇者「ちょうど目の前に海もあるしね」
剣士「そうそう」
剣士「……あれっ……」
勇者「……」
剣士「寝ちゃったんだ。相変わらず寝顔……いや言うと怒るからやめとこ」
ザザン…… ザザン……
剣士「これでよしっと……」
剣士「えい」
ポチャン
剣士「いつか誰かに届くかなぁ」
剣士(……届くわけないよね。こんな広い海なんだから)
剣士(5通目の手紙はたぶん書けないだろうなー)
剣士(勇者は魔族と不可侵条約を結べるって信じてるのかもしれないけど、
 私は……本当の本当にそんなことできるのかなってちょっと不安)
剣士(たぶん、話し合いで終わるわけないって思ってる)
剣士(これ以上なくすわけにはいかない。守らなくっちゃ)
605:
勇者「書き終わったの?」
剣士「えっ!? ゆ、勇者起きてたの!?」
勇者「いや、いま起きたんだ」
剣士「なんだ、そっか」
勇者「でもその反応……もしかして僕のこと変な風に書いた?」
剣士「かか書いてないよ。変な風には。変な風には!」
勇者「慌てるところが怪しいな」
剣士「だめだめ!ボトルとりに行こうとしないで!なんも書いてないってばっ」
剣士「ていうかほらもうこんな暗いし、宿に戻ろうよ!ね!」
勇者「あ、本当だ。そうだね、帰ろうか」
勇者「……」
勇者「ずいぶん遠くまで来ちゃったね」
剣士「……うん。ほんと」
勇者「明日晴れるかな」
剣士「晴れるよ多分。私、晴れ女だし。勇者は晴れ男でしょ」
剣士「旅立ちの日のこと覚えてる?雲ひとつないきれいな青空だったな」
勇者「そうだったね」
勇者「確かに……見事な青空だった。あの日も」
剣士「……」
剣士「……やっぱりもうちょっと海にいない?」
勇者「寒くない?」
剣士「平気平気! もうちょっとだけ、海を見ていたいの」
606:
勇者「……」
剣士「ところで勇者。もしかして最後の呪文読めるようになったのかな」
勇者「はっ!?」
剣士「あ。やっぱりそうなんだ」
勇者「な、なんで」
剣士「勘。 そっかー、読めるようになっちゃったんだ。その呪文は何を代償にするのかな」
剣士「……言わなくても分かってるよ。どうせその呪文、一回きりしか使えないものなんでしょ」
剣士「君の命が代償なんでしょ。大体想像はつくよ。なんて嫌な魔法」
勇者「……」
剣士「勇者が使うって決めたなら、使ってもいいよ。私は止めない」
勇者「え」
剣士「でもその時は……私もいっしょに」
剣士「……いいよね?」
勇者「…………それじゃ、意味がない」
勇者「意味がないんだ」
剣士「ずっといっしょって言ったじゃん」
剣士「生きるのも死ぬのも、私はどっちだっていいの。いっしょにいれたらどっちでも」
剣士「ほんとだよ」
607:
勇者「……」
剣士「ああっ カニだ!! 勇者!見てほら、このカニ白い!!すごい!!」
勇者「……」
剣士「勇者ってば! ゆ……勇者? あのう……」
勇者「……」
剣士「カ、カニがほら……勇者の指はさみではさんでるんだけど……い、痛くないのかな」
勇者「痛い」
剣士「だ、だよね。……なんで私の顔そんなに見るの?なんかついてる?ていうかカニとろうよ……。
 もういいよ、とってあげる。うわっ はさまれたところ赤くなってるよ」
剣士「……あれっちょっと、手離して。ど……どうしたの? なんか変だよ!?」
剣士「ねーーーっ ほんとに手は離して!!」ブンブン
剣士「私、指太いし……マメとかできてるしっ、爪割れちゃってるし、あんまり見られたくないっていうかその〜〜ね、ほら」
勇者「そんなのどうだっていいよ」
剣士「よくないよ馬鹿!」
勇者「……前にひどいこと言ってごめん」
剣士「えっ?ああ、うん、いいよ、別に」
勇者「僕もずっと前から君のことが好きだった」
剣士「……えっ」
剣士「ええっ?……え……」
勇者「……」
剣士「……で、でも勇者は巨乳の女の子が好きなのでは……?????????」
勇者(……僧侶……)ガク
勇者「断じてそんなことはない。というか別に君だって……」
剣士「ぎゃーっ どこ見てんの馬鹿じゃないの意味わかんない!!」
608:
勇者「…………」
勇者「……、それだけ言えてよかった」
剣士「ほ、ほんとに?」
勇者「うん」
剣士「……ありがと」
勇者「僕の方こそありがとう」
勇者「……生きるのって、全然思い通りにいかないし、悲しいことや苦しいことばっかりだけど」
勇者「生まれてきてよかった。本当によかった」
勇者「…………」
勇者「もう戻ろうか」スッ
剣士「あ、待って」ガシ
バターン
勇者「歩きだした瞬間に足首を掴むのはやめてくれ。こうなる」
剣士「あはは、ごめんごめん」
剣士「それで本当に終わり? なんか言いたそうだったから」
勇者「……終わりだよ」
剣士「うそだ。もう自分にも私にも嘘つくのやめてよ。嘘をつく度悲しくなるのは勇者なんだから」
剣士「ちゃんと全部言って」
勇者「なんでもないって」
剣士「言わないと」
剣士「泣くよ。私が」
勇者「ええっ」
剣士「……最後なんだから……ちゃんと本当のこと言ってよ……」
勇者「……」
剣士「誰にも言わないから。言っちゃいけないことでもなんでもいいよ」
勇者「……ちがうって」
剣士「私のこと好きなんでしょっ!? じゃあ言って、全部聞かせて、ちゃんと言ってよぉっ」グス
勇者「うっ」
609:
勇者「……っ」
勇者「……僕は」
勇者「……誰にも許されないとしても……」
勇者「明日も明後日もその先も…………生きたい」
勇者「……どんなに生きるのが辛くても、君と生きたい」
勇者「…………」
勇者「死にたくない」
勇者「……君と……一秒でも長くこの世界で生きていたい……っ」
勇者「だから……全て終わった後に、世界中から僕といっしょに逃げてほしい」
勇者「それでずっといっしょにいてほしい」
勇者「君のことをまた危険に晒してしまうけれど、僕が絶対にまもるから」
勇者「……いっしょに生きてほしい」
剣士「……」
剣士「もちろん」
剣士「やっと本当の気持ち言ってくれたんだね」
剣士「……どんな言葉より嬉しいな」
剣士「世界中のどんな敵よりも君のこと守ってあげる!」
剣士「生きるのがどんなに辛くっても二人でいれば何にも怖くないよ」
剣士「……ね!」
610:
* * *
宿
勇者「明日は何時ごろに出発しようか」
剣士「7時くらいかな? って言ってもどうせ勇者は起きられないだろうから私が起こしてあげるよ」
勇者「こんなときくらい、ちゃんと起きられるよ」
剣士「本当かなあ」
勇者「さすがに大丈夫だって」
勇者「今日は早く寝ようか。じゃあ、おやすみ」
剣士「……あ、待って。あ、あのさ。勇者は大人になったら何になりたいの?」
勇者「え? うーん……正直全然分からないんだ。あんまり考えたことなくって」
剣士「だったら学校の先生とかいいと思う!勇者あたまいいし!魔族の言葉だってすぐ覚えたじゃない!」
勇者「そんなによくないよ。剣士は……何になるつもりなんだ?」
剣士「……うん。あのね、笑うかもしれないけど。私、楽器を弾く人になりたいなって」
剣士「雪の国でね、チェロ弾きのおじいさんに会って、落ち込んでたけどすごく励まされたから
 私もあんな風に音楽を弾けるようになりたいなってずっと思ってたの」
剣士「剣も好きなんだけどね。音楽を勉強しようかなって」
勇者「剣士が音楽を……?」
剣士「うん、変かな……ってめちゃくちゃ笑ってる!!なんなのすごい失礼!!」
勇者「ちゃんと弾けるの?」
剣士「弾…………けないかもしれないけどいっぱい勉強して弾くの!!楽譜も読めるようになるんだからね!!
 もーーーっ笑うのやめてよ!上手く弾けるようになっても勇者には絶対聴かせないからね!」
611:
勇者「ごめん。ちょっと立って」
剣士「? はい」
ギュッ
剣士「ふぎゃっ!!?」
勇者「……」
勇者「そんな尻尾踏まれた猫みたいな声出さなくても……」
剣士「だだだだだだだだってゆゆゆゆゆうしゃが」
勇者「どんなに下手でもいいから一番最初に聴かせてほしいな」
剣士「あ、う、うん、別にそれは、全然いいよ、うん、えっと、うん、ね」
剣士「……いっぱい練習して、いつか勇者に聴かせてあげるね」
勇者「楽しみにしてる」
剣士「背、伸びたね……前は私と変わらなかったのに」
勇者「そうかな」
剣士「うん。伸びたよ。手も……なんかおっきいし、声もいつの間にかちょっと低いし
 ……なんだかこうしてるとちょっと恥ずかしい……かも」
勇者「……剣士」
剣士「もう女の子に間違われないね!」
勇者「…………………………………………」
勇者「そんな過去は一切ない。
 大体あったとしても……幼児のころは男女の差なんてあんまりないわけだからそういうことは日常茶飯事だと言える」
剣士「えー幼児のときじゃないよ。ほら12歳のとき学校でさ……」
勇者「覚えてないっ!!!全っ然分からないなあ……ところで剣士は何の楽器を弾きたいと思ってるの?」
剣士「いやほらあったじゃん、午後の授業で村の外から来た先生が……」
勇者「何の楽器が弾きたいんだっ!?」
剣士「楽器? うーんそうだね、やっぱりあのおじいさんみたいにチェロとか。おっきくてかっこいいのがいいな!」
勇者「チェロか、うん、いいと思うよ」
勇者「……うん」
勇者「すごくいいな」
剣士「でしょ? すぐ上手くなるから楽しみにしててね。勇者」
612:
第一章 幻想の水平線
613:
剣士の攻撃!
魔族Aは気絶した!
勇者の攻撃!
魔族BCDは逃亡した!
剣士「……やっと塔の頂上に来れた……」ハアハア
勇者「夜に間に合った。……満月だ」
勇者「転移魔法陣が浮かび上がった。魔王城に繋がる陣だね」
剣士「……」
勇者「行こう」
ヒュン
614:
魔王城
勇者「ここが……」
剣士「魔族領の中心地、魔王の住まう場所……魔王城」
剣士「さすがに雰囲気あるけど……夜だからだね!!夜だからちょっと不気味なだけだね!
 昼だったら全然怖くないもんね!!」
勇者「てっきり途中で炎竜が襲ってくると思ったんだけどな」
勇者「なんか引っかかるな。
 やっぱりこれは罠で、もしかして王都が今……」
勇者「……考えても仕方ないな。もう来てしまったんだから。
 僕は僕にできることをしなくては」
剣士「うん、そうだよ」
勇者「……行こうか」
剣士「うん」
剣士「……」
剣士「……だれもいないね……」
勇者「静まり返ってる……」
ボッ
剣士「なっなに」
勇者「廊下の燭台に次々に火が灯って……奥に続いて行ってる。
 こっちに来いって言っているんだろうね」
剣士「……誰が!?」
勇者「そりゃ……魔王が」
剣士「あ、そっか」
剣士「それにしても大きな城……暗くってよく見えないけど」
勇者「敵がいなくて正直助かった。こんな広い城じゃ、魔王のいるところに辿りつくまで満身創痍になりそうだ」
剣士「回復薬とかもうほとんど使っちゃったもんね……」
勇者「でもこれで、最後だ」
勇者「……これで最後。今日で全て終わらせる」
615:
魔王「……」
魔王「来たか……」
魔王「私が魔王だ。お前が勇者だな」
勇者「……そうです」
魔王「思っていたより若いな……。お前のような若輩者に……私の部下が何人もやられたとは信じがたいことよ」
魔王「……ふん。年など関係ないか」
魔王「今更言葉を交わすのも無粋だな。では、始めるとするか」
魔王「我々のために死んでくれ。勇者」
勇者「待ってください。僕たちは戦いに来たのではありません……実は」
魔王「……ほう。不可侵条約とは……。おかしなことを言う」
勇者「ですが、」
魔王「信じられると思うか?そのような口約束に過ぎぬ条約など……結んだところで何も変わりはしないだろう。
 どうせ勝機が見えたら10年経たぬうちに条約など破棄するに決まっている」
魔王「お前たち人間はいつもそうだな。表面では友好的な態度をとっても……
 腹の内では約束を破棄してでも相手を出し抜くことだけ考えている」
魔王「我々魔族は一度信用した相手は二度と裏切らぬし、約束は永遠に守り続ける。
 我々の生き方は人にとっては愚直だと映るかもしれんがな」
勇者「口約束ではありません」
勇者「一度した契約を違えたら命を奪うような術があります。その術を使えば……」
魔王「ほう……いまお前の身にかけられている魔術か?」
勇者「!」
剣士(……?)
勇者「……。魔法に長けてる魔族ならその術をもっと改良できると思います」
616:
魔王「私に平和条約を持ちかける勇者の身に、そのような術をかける人間か……」
魔王「百歩譲ってお前は信用できても、ほかの人間は信用できんな」
勇者「でも……!」
魔王「……これ以上無駄だ。しかし、そうだな……私に勝てたら条約を結ぶのも吝かではない」
魔王「これでいいか?」
魔王「では戦おう」
魔王が襲いかかってきた!
勇者「……くっ……」
剣士「勝とう。勇者」
剣士「これで全部終わりだよ!」
勇者「……ああ!」
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
―――――――――――
617:
―――――――――――
――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
ドサッ
魔王「……ゴホッ……ゴホ、ゴホ」
魔王「はあ……はあ……」
魔王「ふ……強いな。私の敗北だ……」
剣士「……はあ……はあっ……か、勝った?」
剣士(なんか様子が変……?)
勇者「約束です……条約を結んで下さい……!」
勇者「今日で戦争は終わりにしてください」
魔王「……」
魔王「二つ謝らねばならんことがある」
勇者「えっ……?」
魔王「まず私は……もう魔王ではない」
剣士「!?」
魔王「条約締結の決定権は既に私の手にはない……」
剣士「どっ、どういうこと?」
魔王「二つ目だ」
魔王「私が今日勇者を城に招いたのは、戦うためでも……話し合うためでもない」
魔王「私は生きすぎた。どのみち病で間もなく倒れるこの身なら……惜しむまい」
魔王「私の跡は、息子が継いでくれる」
勇者「何をする気だ……!?」
魔王「……道連れだ……」
618:
カッ
勇者(!! 自爆……!?)
勇者(最初から……このつもりで……!)
剣士「……!」
勇者「剣士……っ!!」
――――――――――――――・・・・
剣士(……)
剣士(……)
剣士(……う……ん?)
剣士(あれ……私なにしてたんだっけ。
 なんか……重っ……なに?)
剣士「……げほっ げほ……あ、あれ?勇者だ……」
剣士「勇者。勇者? ねえどうしたの?勇者」
剣士「……ゆうしゃ……?」
剣士「ゆうしゃ……や、やだ……うそだよねっ」
剣士「いっしょに……いきようって……言ってくれたじゃん」
剣士「起きて……起きてよぉ……」
剣士「起きてっ……勇者ってば……!!」
619:
太陽の国
炎竜「間もなく王都だな。事前に決めた通りに動くぞ」
竜「了解」
炎竜「……ふむ」
兄「……」
炎竜「魔王様のことが気になるか」
兄「いや……違う」
炎竜「嘘をつくな。何年お主のことを見てきたと思っている。
 ……行け」
兄「炎竜」
炎竜「もともとこの国はわしの担当だ。お主の力を借りずとも、竜族だけで十分」
炎竜「行ってこい」
兄「……」
兄「悪い」
炎竜「気にするな」
620:
勇者「………………」
剣士「うぅ……っ」
勇者「……げほっ」
剣士「ふぇっ!?!?」
勇者「げほげほっ……はあ」
剣士「ゆっ……!? え……っ!? あ、あれ……っ!?」
勇者「……なんで……泣いてるの?」
剣士「だ、だって勇者が死んじゃったから……!!!」
勇者「……あれ。生きてる」
剣士「わああああああんっ よがっだぁぁぁ」ガバ
勇者「わっ……」
勇者「でも、自爆に巻き込まれたはずだったのに……何故無事なんだろう」
剣士「あ。私の剣が、あんなところに飛んでる。しかも粉々だし」
剣士「もしかして……剣が守ってくれたのかな」
勇者「……そうか」
勇者「でも自爆前提としても、さすが魔王だな」
剣士「……ね。私たちボロボロだもんね」
勇者「もう魔王じゃないって言ってたけど、どういうことだろう。
 また新しい魔王を見つけ出して話をつけないといけないのか……骨が折れるな」
勇者「……はあ。とにかく今日はもう王都に戻ろう。
 魔力もほとんど使ってしまったし、これ以上魔族領にいるのは危険だ」
剣士「そうだね。これからのことはまた考えよう。……んっ?」
剣士「あっ、……あのー、剣拾ってきてくれる?
 こ、腰抜けちゃったみたい……あはは」
勇者「いいよ」
スタスタ……
勇者(剣……もう修復はできそうにないな)
勇者(……魔王は跡かたもない……。僕たちを道連れにして死ぬために、ずっとここで待っていたのか……)
勇者(……)
621:
ギィ……
勇者「?」
勇者「剣士?扉からでなくても、転移魔法で」
勇者「帰れ……る」
剣士「…………だれ?」
勇者「……!?」
兄「…………」
兄「貴様らが生き残ったのか……」
兄「炎竜に感謝しなければ。」
兄「危うく取り逃がすところだった……!!」バチチ
剣士「……っ!?」
兄「どちらが勇者だ? ……どちらでもいいか」
兄「お前からだ」
剣士「!」
勇者(間に合えっ……!!)タッ
シュンッ
兄「!」
兄(転移魔法か……)
兄(逃がさん。ここで必ず仕留める)
622:
ヒュン
勇者「はあっ……はあ、 ……え!?」
勇者「王都じゃない……!? ここは魔王城の中だ」
勇者「転移魔法の妨害?さっきの男がやったのか? まさか」
勇者「剣士! しっかりしろっ」
剣士「……」
勇者(さっきの男の攻撃が掠ったのか。外傷はないけど……意識が朦朧としてる)
勇者(……)
勇者(魔族領のど真ん中、僕たちの国までどれくらいの距離があるのかもわからない。
 転移魔法が使えなければ帰れない……)
勇者(……いや、確か塔から魔王城に続いてたあの魔法陣は、僕たちが使っても消えてなかった。
 もしかしてあれならいけるかもしれない)
勇者(でも)
カツン……カツン……カツン……
勇者(遠くで足音が聞こえる。あの男が追ってきてるんだ。
 きっとあいつが魔王なんだろう)
勇者(一瞬で分かったけど、戦った方の魔王よりずっと強い)
勇者(あいつはいずれここにもやってくる。逃げても……追いつかれる。そうしたら二人とも殺される。
 剣士はこんな状態だし、剣は折れてしまったし……僕ももう強力な魔法は……)
勇者「…………」
勇者「巻き込むわけにはいかない。そうだ、僕が勇者なんだから。ここで決着をつけないと」
623:
勇者「剣士。剣士、聞いてくれ」
剣士「……う」
勇者「体が動くようになったら、君一人でここに来た魔法陣から王都へ帰るんだ。聞こえてる?」
剣士「…………勇者……は……?」
勇者「ごめん。約束破ってばっかりだね」
勇者「最後に残ってる魔力は全部君に使うよ。
 やっぱり……君には生きてほしいんだ」
剣士「……ゆ……」
勇者「僕は本当に最初から、色んな人に勇者らしくないって言われて
 自分でもそう思ってたんだけど」
勇者「それでも勇者として生きようって思えたのは剣士のおかげなんだ……」
勇者「世界を守りたかったわけじゃない。
 君がずっと笑ってられる世界を守りたかった」
勇者「君が僕を勇者にしてくれたんだ」
勇者「今までずっと……」
勇者「そばにいてくれてありがとう」
剣士「まって……」
剣士「……まってよ……」
624:
カツン……
兄「……」
勇者「僕が勇者だ」
勇者「君が魔王か」
兄「そうだろうな」
勇者「じゃあ条約締結の決定権は君にあるんだ。
 もうこれ以上戦争を長引かせるのはやめよう」
勇者「お互いこれから侵略行為はやめにすると誓っ……」
兄「黙れ」
兄「貴様らの言葉など二度と信用しない。大体……そんなもの、こちらに何のメリットがある?
 勇者はここで殺される。散々手こずった貴様が死ねば、大陸制圧も楽に進むだろうな」
兄「条約などと語っているが、要は命乞いだろう」
兄「耳を貸すつもりはない。死ね」
勇者「……そうか」
勇者「じゃあ君をここから生きて帰すわけにはいかない」
兄「ハッ……ははははは」
兄「そんな台詞を吐ける立場か!? 魔力もほとんどその身に残っていない貴様が?
 俺の目には立っているのもやっとといった風に映っているが、気のせいか?」
勇者「今から使う術は、魔力を消費するものじゃない」
625:
勇者は呪文を唱えた!
兄の背後に冥界の扉が開いた!
兄「なに……!?」
勇者「……くっ……」
兄は冥界に引きずり込まれる!
兄「なんだこの術は!? ……くそっ、離せ!」
兄「貴様!! 貴様なんぞに……人間なんぞに俺までやられてたまるかっ!!」
兄「こんなところで死ぬわけにはいかない」
兄「俺は……っ!」
勇者「ぐっ……早く閉まってくれ……っ」ガク
兄「必ず……」
勇者(閉まれ!早く……!)
勇者「早く死んでくれっ……」
兄「貴様らを」
兄「根絶やしに……」
ギギギギギギギ……
……バタン。
勇者「はあっ、はあ、はあ、はあ」
勇者「ああ……」
626:
――――――――――――――――
――――――――――
兄(ああ……)
兄(死んでしまったのか)
兄(……妹にも父上にも、死んだ魔族にも申し訳が立たん)
兄(俺は……何一つ、成し遂げられずに……死んでしまった)
兄(………………)
兄(……?)
「兄さん!」
兄(これは……?)
627:
「そんな未来が真実あるとするのなら、今俺たちが行っていることはなんだというのだ。
 俺は……俺だって……殺さずにいられたら、何も奪わずにいられたらそれが最良だ……しかし」
 
「もう戦争は始っていて、終わらせねばならん。未来がどうあれ、決着をつけねば。
 そしてそれは、俺たちの勝利という形でなければならない。敗北者には死と屈辱が待っているのだから」
 
「勝利も敗北も無意味だっていうことに、いつか兄さんも気づくわ。
 それでも戦うというなら……」
「私の大切な兄さん。世界でたったひとりの兄さん……」
 
「本当は、私の魔力は何かの水晶にでも封じようかと思ってたのだけど、全部兄さんへのおまじないに使うね」
「私のほとんどすべての魔力を使った、最後の魔法だよ」
 
「何をするつもりだ?」
「兄さんが大ピンチに陥ったときに、きっとこの魔法が兄さんを守ってくれる。とびきりの魔法なの」
「……魔力のほぼすべてを……本気なんだな」
「もう必要ないのよ」
「だからこの魔法がいつか大好きな兄さんのこと、守ってくれますように!」
兄「……!」
628:
勇者「はあっ、はあ、はあ……終わった……」
勇者「ぼくも……もう……」

勇者「はあっ……はあ……。 ……?」
ギギギ
勇者「え………………?」
ギギギギッ……ギイィ……
兄「…………がはっ」
兄「やってくれたな……勇者」
勇者「な……なんで」
勇者「いきてっ……?」
兄「俺の、勝ちだ」
兄「ははは。はははは。はははは」
兄「死ね」
629:
勇者は上を見た。
幾多の剣が天井を埋め尽くさんばかりにして、矛先を勇者に向けていた。
兄が指先を動かした。
飛び散った血が、随分離れたところにいる兄の頬にまで付着すると
彼はそれを嫌そうに拭った。
勇者は死んだ。
630:
兄「おい」
部下「ハッ」
兄「片づけておけ」
部下「いかように」
兄「好きにしろ。用はない。捨てるなり焼くなり食うなり……何でもいい」
部下「はい」
部下「王子。……右腕は……」
兄「チッ……忌々しい勇者め」
兄「利き腕と、魔力半分持っていかれた。先ほどから試しているが、回復する見込みはなさそうだ」
兄「……あんな術を……人間ごときが……」フラ
部下「随分とお疲れのようです。お休みになられては」
兄「……あとは頼んだ……」
兄「ああ、それと」
兄「もう一人、城にいる」
兄「そいつも始末しとけ」
部下「かしこまりました」
631:
* * *
剣士「……」
剣士「……」
剣士「うっ……?」
剣士「ここは?」
剣士「……牢? 暗くてよく見えない」
剣士「……えっと、魔王倒して……でももう一人きて、剣がなくって」
剣士「私……」
剣士「あっ そうだ……勇者!」
剣士「いない。別のところに捕えられてるのかな……」
剣士「……探しに行かないと。とにかくこの牢を……ってあれ?
 鍵かかってないよ。私も拘束されてないし、捕えとく気あるのかな」
剣士(でも好都合だ。多分ここ……まだ魔族領だよね。見つからないよう慎重に行動しなくちゃ)
632:
剣士「……」
剣士(てっきり魔王城の地下牢かなって思ってたんだけど、城っていうより広い民家……?)
剣士(人間の家とはちょっと違うけど、やっぱり家だよね、これ。
 柱とか家具とかすごい大きいな)
剣士(部屋がいっぱい。この中のどれかの部屋に、たぶん勇者は……いる。
 早く見つけ出さないと)
剣士(……あれからどれくらいの時間が立ったんだろう。窓を見たら、外は夜だったけど……。
 捕えられてるのに私が無傷だったってことは、勇者も無事……だよね)
剣士(てことは、あの赤い目の男と話をつけられたのかな。
 平和条約、結べたのかも。じゃあ、もう戦争は終わりだ)
ガチャ
剣士(ここにもいない)
ガチャ
剣士(……キッチン……かな)
剣士(大きいまな板。使われた形跡のある鍋……まだ温かいや。
 ここの家主の魔族は今食事中か)
剣士(……包丁、護身用にいちおう持っとこうかな。使いにくそうだけど)
剣士(血が付いてるから適当に拭って……ってなんかこれじゃ私が殺人鬼みたい)
剣士「そんなこと言ってらんないか」
剣士「……!」
剣士(二階から、いま声が……)
633:
二階
剣士(なにかしゃべってる。けど、魔族の言葉だから分かんないや)
剣士(とにかく、ちょっと扉の影で様子を窺おう……)
子「え〜〜〜 これだけなの?」
父「我がまま言うなよ。これでもお父さん頑張っておこぼれもらってきたんだぞ」
母「そうよ……ほら、いただきますしましょ」
子「はーい。いただきまーす」
父「……ん。うん。ああ、なかなかうまいな、やっぱり」モグモグ
母「まっ、私の料理の腕もあるんでしょうけどね!」
父「ははは、そうだな」
子「ほんとだ!おいしい!」モグモグ
父「今日はお前の誕生日だからな。お前が立派な魔族の男になれるように、いっぱい食べるんだぞ」
子「はーい」モグモグ
母「ふふ……それで、これがメインよ」
父「今日の目玉料理はこちら! なんつってな、ハハハ!」
母「もう、寒いわよ」
子「わあっ すごいっ!!」ガタッ
母「あ」
ガシャンッ
父「おいおい、なにやってんだ。うわあ」
母「やだ、どうしよう。もったいないわ」
母「とにかくアレを探して。どっかに転がっちゃったかしら」
剣士「……?」
剣士(あ、何かこっちに転がってきた)
剣士(どうしよう? 魔族もこっちに探しに来るかもしれないし、一階に一旦)
剣士(移動して……)
コロコロコロコロ……
634:
コロコロ……
……。
剣士(…………?)
剣士(なんだろ、これ。ボール?)スッ
剣士(……ひっ!! めめめめめめっめめめ目玉っっ)
剣士(おおおおちっ落ち着いて……!動揺したら私がいることばれるっ!!)
剣士(とりあえずゆっくり音をたてずにコレを床に置いて、)
剣士(…………)
剣士(…………あれ)
剣士(この目)
剣士(見たことある)
剣士(……えっと どこだっけ)
剣士(森の色……深い緑の優しい色)
剣士(ゆっくり瞬きする癖が好きだったな)
剣士(ずっと見てきた緑色)
剣士「……」
剣士「勇者の目だ」
635:
剣士「……」
スタスタ
父「うわっ……!? なんでここに……?」
母「あなた、ちゃんと鍵かけなかったの!?」
父「いや、両腕と両足の骨折ったから、どうせ動けないと思って……
 なんでこいつ普通に動けてるんだ?」
母「捕まえてよ。明日の分でしょ」
父「まあ、こいつは勇者でもなんでもない、ただの人間だからあまり価値もないが……」
母「それでも若いメスの食材は貴重じゃない。老いてるのよりはおいしいし」
父「そうだな。大人しくしろよ……って、全然暴れてないな」
剣士(うそでしょ?)
剣士(………………………………………………手)
剣士(ああぁぁ……甲に傷……親指の近くの痣…………勇者の手だ……)
剣士「じゃあっ……じゃあ……、この皿にのってる肉も」
剣士「はらわたも」
剣士「舌も」
剣士「歯も」
剣士「全部勇者なんだぁ……」
剣士「あ……あはっ……勇者のこと食べてたんだぁ」
剣士「私の一番大切な人……食べられちゃってるんだ……」
剣士「ああ…………」
636:
子「ねえ……お父さんお母さん。この人間、泣いてるよ……?」
母「そうねえ……」
子「かわいそうだよ……」
子「お腹すいてるんじゃないのかな?」
637:
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
何度吐いても吐いても口の中に無理やり入れられた肉の味とか感触とかずっと残ってて、まだ胃の中にあるような気がして体中の震えが止まらない。半焼けが好きなのかどうか知らないしどうでもいいが、口に詰め込まれたあの人の左手は噛むとじんわり血が滲んで、口腔内に鉄の味が広がった。顎を掴まれて歯が勝手にそれを食む、するとまず肉を食いちぎるあの感触と脂肪が滲みだすあの音が。そして次に歯があの人の骨にかち合って軋んだ。ゴリゴリ。ゴリッ。悪夢だ。何度かそうされるうちに骨は断ち切れなかったけど周囲の肉が噛みちぎれた。グチャっと湿った音がして驚いた瞬間に呼吸といっしょに飲みこんでしまった。私の喉を通って、食道を通って、やがて胃にあの人の肉が。
吐いた。
赤い吐瀉物の中にぷかぷか浮かんでるあの人の骨と皮と脂肪と筋肉と血管と爪を眺める。夢中になって貪るように見つめる。皮膚の下に虫が湧いたように全身が熱くて痒くてたまらない。それでいて氷水のなかにいるみたいに寒かった。だからぶるぶる震えてて自分の体を支えることもできなかった。だれかが笑っている。けたけた楽しそうに笑ってる。子どもは私が吐くのを見てて残念そうな声を漏らすと、いつの間にか私の手から離れてたあの人の眼球を拾って、服で拭って口の中に放り込んだ。
638:
だから。だからだからだからだからだからだからね取り戻さなくちゃいけなかったから傍らにあった包丁を握ってそいつの口に差しこんだ。両頬を一気に切り裂いてあの人の目をとり返したら、次は咽頭。骨の間に包丁を縦に刺したらそのまま一気に背骨に沿って下へ、足の付け根まで一気に切り開いた。馬鹿みたいに赤いのがそこから噴き出して全身にそれを浴びたら熱湯のようだった。こんなものをずっと怖がっていたなんて愚かしい。ただの水だ。胃と思われる臓器を手で引っこ抜くと、包丁で裂いて中を探す。いない。いないいない。いない。頭をひっつかんで、びくびく痙攣してる体ごと持ち上げると思いっきり床にたたきつけた。うまく頭蓋骨を割れたようだ。脳漿が右目に入ってちょっと痛い。左目だけ開けて脳みその中をかき分けてあの人を探す。が、ここにもいない。あの人がいない。笑い声がうるさい。あと二人残ってる。笑っているのはどっちだ。どっちもか。男の方がこっちに来たから拳を避けるついでに腕を斬りおとす。そろそろ包丁の切れ味が悪いがこれしか武器がないので仕方ない。大きく口を開けたので、そこに刃をつっこんで上あごを切り取った。目が気に食わなかったので二つとも潰した。化け物でも見るような目だ。化け物はどっちだ?そう言えばまだ心臓の中は探していなかった!大事なところなのでそこに匿ってるのかもしれない。胸を裂いて心臓を見つけ出す。丁寧に探してみたけどここにもいなかった。それから全身を探してみたけど結果はいっしょだった。残り一人。顔をひきつらせて笑い声をあげながら、逃げようとするので今度は足から切った。まだ笑っている。気がくるっているのか?うるさいので喉を潰す。「エサじゃないんだよ」何が?「お前らのエサになるために勇者は生まれてきたわけじゃないんだよ」なにを言っている?あの人はエサになんかなってない。エサになんてなるわけない。そんなこと私が許さない。でも、見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。心臓にも脳にも胃にも腸にも腕にも脚にも目にも食道にも肺にも血管にもどこにもいない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。見つからない。ついにだれもいなくなった。なのにおかしい。笑い声が止まない。誰かがずっと耳元で笑っている。狂った笑い声をあげている。
気づいた。
笑っているのは私だ。
639:
剣士「あはははははははっあははははははははっあはっははははははっはははははは、ははははっははは」
剣士「変なの!全然おもしろくないのに笑いが止まんないよ! あははははっきゃはははははきゃはははっはは」
剣士「くるっちゃったんだ! あはははっあはっははははは!! 私っくるっちゃったんだ!あはははは!!」
剣士「本当はずっと前から壊れてたんだけどね!でもあの人がいたから平気だっただけ!きゃはははははははははは」
剣士「あは」
剣士「…………」
剣士「…………………………………………………………………………………………………………………………………………」
剣士(……ええと)
剣士(包丁。包丁どこやったっけ)
剣士(……首でいいかな)
――ザシュッ
……ドサッ……
640:
剣士「なんちゃって♪」
剣士「全部うそだよ」
剣士「うん。びっくりした?全部うそなの。どこからうそかって言うと、最初からだね」
剣士「そう、ぜんぶ作り話なんだ。私の妄想」
剣士「戦争なんてないし、『勇者』も『魔王』もいないし、何から何までぜーんぶうそ」
剣士「だってこんなひどい話現実にあるわけないでしょ?」
剣士「本当にあるお話はね……戦いなんてないの。
 朝起きて、家族と喋って、ご飯食べて、友だちに会って、学校に行くか仕事して、夜になったら遅くなる前に寝なくちゃね」
剣士「平凡で、どこにでもありふれてる日常だよ。特別なことなんて全然起きないよ」
剣士「こんな話……おもしろくないよね」
剣士「つまんないよねっ……」
剣士「……でも私にとっては大切な……」
剣士「とっても大切な……」
剣士「私だけの」
剣士「……」
剣士「この話は、だからもう終わり」
剣士「もう見ないでね。さようなら」
剣士「誰にも見られたくないの。私だけのものだから」
剣士「じゃあね」
641:
剣士「……」
剣士「見ないでよ」
剣士「見るなって言ってんじゃん」
剣士「…………見ないでよ……」
剣士「…………やめて……」
剣士「もうやめて……」
642:
――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――
少女「じゃあ……いくよ?」
少年「うん」
少女「……」
ギイ〜〜〜〜〜ッ
少女「……」
少年「……うっ、ん……」
少女「笑わないって言ったじゃん!!!」
少年「わ、笑ってないよ」
少女「肩震えてるよっ!! どんなに下手でもいいって言ったの勇者じゃん!!」
少年「やっぱりさ、チェロはちょっと難しいんじゃないの?なんか支えるので精いっぱいって感じになってるよ」
少女「でもこれがいいんだもん……」
少女「ううっ やっぱり音楽の才能ないのかも」
少年「そんなことないよ。もう一回やってみよう」
少女「……うん」
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