勇者「百年ずっと、待ってたよ」back

勇者「百年ずっと、待ってたよ」


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1:
関連
幼女「待ちくたびれたぞ勇者」
※後半シリアス
2:
プロローグ
3:
ザザーン……ザザーン……
子ども「…………」
子ども「すこし風が冷たくなってきたな」
ザッ…ザッ……コツン
子ども「……ん? いまなにか足にあたった……」
子ども「これは……? ビンかな?」
子ども「ふると音がする。なにかはいってるみたいだ」
元スレ
勇者「百年ずっと、待ってたよ」
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4:
カチャカチャ……ゴリゴリゴリ
祖父「ふう。やっと今日の分の調合は終わりじゃな」
子ども「おじいちゃーん!」
祖父「ん? これ、そんなに走るな。また転ぶぞ」
子ども「さっき海でなんか拾った!なにこれ?」
祖父「ん……おお。これは。珍しいのぉ」
子ども「なになに?」
祖父「これはの、漂流ビンじゃ。中に手紙がはいっとるんじゃよ」
子ども「だれから?おじいちゃんの知り合い?」
祖父「さあ、わからん。この手紙を書いた者も、だれの手に渡るかはわからんかったろう」
子ども「? じゃあなんのためにこのてがみは書かれたの?」
祖父「遊びみたいなものじゃ。手紙をこうな、ビンにいれて海に流す。
 いつの日か、遠く離れた土地の誰かに読んでもらえることを祈ってな」
子ども「ふーん」
祖父「この手紙をお前が拾ったのもなにかの縁じゃ。どれ、読んでやろうか。眼鏡眼鏡……」
子ども「はい、ここにあるよ。お爺ちゃん」
祖父「ありがとう」
5:
祖父「しかしこりゃあ……随分古い手紙のようじゃのう。触ってごらん、紙がこんなにボロボロになっておる」
子ども「ほんとうだ。わくわくするね!」
祖父「ずいぶん長い間海を漂っておったんじゃな、この手紙は」
子ども「おつかれさまだね」
祖父「もしかしたら字は読めんかもしれん…… む?」
祖父「不思議じゃのお。紙はこんなにボロボロなのに、インクは全然薄くなっとらん」
祖父「えー、どれどれ……差出人は……」
6:
『はじめまして。
海に手紙を流すのも4度目となりました。
この中の2通だけでも同じ人が受け取る確率ってどれくらいだろう?多分すごくすごく少ないですよね。
毎回自己紹介しますが、私は剣士です。勇者といっしょに魔王を倒すための旅をしていました。
していましたという変な言い方をしたのは、もうすぐその旅が終わるからです。
私たちの長く続いた旅もようやく明日で終わりそうです。明日、魔王を倒しに行きます。
ちょっとドキドキです。
でもがんばります。
いまこの手紙を読んでいる君の世界は平和でしょうか。
大事な友達が突然殺されたりするような世界ではないですか。
家族は、故郷は、ただいまと言えるような場所は、ずっとそこにありますか。
未来の世界がそんな風になっているとしたら、私たちは明日の戦いに勝ったのでしょう。
そんな世界にして見せます。絶対に。誰も自分の大切なものを奪わないし、奪われないような平和な世界に。
7:
あの日青空の下、勇者と二人で旅立ってから色々なことがありました。
いま私の目の前に広がる空は、血を零したような緋色に染まっています。
本当の血の色はもっとどす黒いけども。比喩表現です。
旅に出る前漠然と村の外に憧れを抱いていた昔の私はそんなことも知りませんでした。
でも後悔はしていません。私が選んだ道です。
私が勇者を守りたかったからただそうしただけです。
あ。いま勇者は隣でうたたねしています。
海を見ながら真っ白い砂の浜辺でこの手紙を私は書いていたのですが、ぼんやり海面を見つめていた勇者は
ふと気がつくと木にもたれかかりながら目をつぶっていました。
最近夜眠れないことが多いようなので、きっと波の音に眠気を誘われたのでしょう。
勇者の寝顔はちょっと幼く見えます。(気にしてるみたいなので言いませんが)
もう辺りが暗くなってきているからそろそろ起こさないとな。
というわけでこの手紙もここで終わりにしようと思います。
五通目の手紙は、私たちが魔王を倒してから。
それではさようなら。
あなたの毎日がこれからも幸福に満ちたものでありますように。
    愛をこめて Nina 』
8:
ザザン…… ザザン……
剣士「これでよしっと……」
剣士「えい」
ポチャン
剣士「いつか誰かに届くかなぁ」
勇者「書き終わったの?」
剣士「えっ!? ゆ、勇者起きてたの!?」
勇者「いや、いま起きたんだ」
剣士「なんだ、そっか」
勇者「でもその反応……もしかして僕のこと変な風に書いた?」
剣士「かか書いてないよ。変な風には。変な風には!」
勇者「慌てるところが怪しいな」
剣士「だめだめ!ボトルとりに行こうとしないで!なんも書いてないってばっ」
剣士「ていうかほらもうこんな暗いし、宿に戻ろうよ!ね!」
勇者「あ、本当だ。そうだね、帰ろうか」
9:
勇者「……」
勇者「ずいぶん遠くまで来ちゃったね」
剣士「……うん。ほんと」
勇者「明日晴れるかな」
剣士「晴れるよ多分。私、晴れ女だし。勇者は晴れ男でしょ」
剣士「旅立ちの日のこと覚えてる?雲ひとつないきれいな青空だったな」
勇者「そうだったね」
勇者「確かに……見事な青空だった」
勇者「あの日も」
10:
第十章 旅立ちの空
11:
大樹の村
母親「あ……」
ビュオッ
母親「大変、洗濯物が飛んでっちゃったわ」
母親「ハル!ハロルド! ねえ、ちょっと来て」
少年「どうしたの母さん」
母親「洗濯物が風に吹かれてあの木に引っ掛かっちゃったの。いつものお願い」
少年「ああ……」
フワッ
母親「ありがとう。ほんと便利ねえ」
少年「どういたしまして。これからニーナの家に行くんだけど、もう行っていい?」
母親「ええ。庭の木になってる桃、食べごろだからもっていきなさい」
少年「うん」
12:
少女「……あ」
少女「ハル!遅いよー!」
少年「ごめんごめん」
少女「今日は森の奥の小川に遊びに行こうよ。お魚釣りしよ」
少女母「ちょっと、ニーナ。あんた宿題は終わらせたの?」
少女「げっ…… いいんだもん、あとでハルに教えてもらうから……」
少年「またっ?」
少女「帰ったらやるもんね! ほら、行こうよハル!早く行かないと暗くなっちゃう!」タッ
少女母「あーーこら、待ちなさい!!もーあの子ってば本当……ごめんねハルくん!」
少年「だいじょうぶですー!」
13:

少女「ねえねえ、またやって見せてよ、アレ!」
少年「ま、また?さっきも母さんに頼まれて使ったんだけど……」
少女「お願い!」
少年「もう分かったよ……えい」
フワッ
少女「わあ、すごーい!花びらが飛んできたー!どうやってそれやるの?わたしもやってみたい!」
少年「どうやってやるのかは分からないんだ」
少女「うそ言ってない?ほんとうに?」
少年「ほ、ほんとだよ」
少女「不思議だね。なんにもないところから風とか水とか火とかだせるの、村でハルだけだよ」
少年「もしかしたら、村の外にはもっと僕みたいな人間がいるのかもしれない……」
少女「……村の外、行きたいの?」
少年「え、あ、いや…その。あはは」
14:
村長「ハロルド!ハロルドや……ここにいたか!」
少年「村長?」
村長「わしの家に一緒に来ておくれ。いま、王都から騎士様が、お前を尋ねにいらっしゃった」
少女「騎士?なんで?」
少年「……?」
村長「なんでも、お前が……伝説の勇者だとお告げがあったらしいのじゃ」
少年「…………へ?」
15:
* * *
勇者「じゃあ、行ってくるね。みんな元気で。母さんも父さんも」
母親「しっかりやるのよ……ご飯食べて、ちゃんと毎日夜更かししないで、怪我しないようにね」
父親「まさか、お前が勇者だったなんて……不思議な力を使えるのはそのせいだったのか」
騎士「ええ。自然界の力を自在に操れるのは勇者の証。それに預言も彼が勇者だということを示しています」
村長「この村に古くから伝わる伝説は本当じゃった。世界が闇に包まれようとするとき、この地から勇者が誕生し魔王を討ち滅ぼす、と」
母親「あなたなら必ずできるわ。でも、無理だけはしないでね」
父親「遠く離れても、ここから母さんも父さんも、村のみんなもお前を応援しているよ」
村人「がんばれよ、ハル!」
村人「すげえなあ。ほら、うちの野菜もってけ!」
村人「うちの果物も!」
勇者「あ、あはは。ありがとう。頑張るね」
騎士「勇者様は必ず私たちが王都まで安全にお連れします。では、そろそろ」
少女「待って!」
17:
勇者「ニーナ……」
少女「わたしも!わたしも連れていって!」
少女母「こらこら、なに言ってるの」
少女「離れ離れなんていやだよ!お願い……」
勇者「ニーナ、すぐまた会えるよ。僕、必ず強くなって、魔王を倒して、この村に帰ってくるから」
勇者「それまで待っててね」
少女「…………うん。絶対……すぐ帰ってきてね。約束だよ」
勇者「うん。約束」
少女「すぐだよ……」
勇者「うん。すぐ」
少女「……一週間後くらい?」
勇者「ちょっとそれは無理だけど……」
18:
2年後 王都
勇者「……。晴れてよかった」
勇者「よし。王様に挨拶してこないとな」
バタン
魔術師「おはよう勇者。準備できた?」
勇者「ああ、おはよう。もう出ようと思ってたところだよ」
魔術師「王様に挨拶しに行くんでしょ?一緒についてってあげる」
魔術師「勇者が王都に来てから2年経ったんだね。髪そのまま伸ばし続けるの?あいつ……副団長の奴、適当なことばっか言うから真に受けない方がいいよ。
 東洋のまじないとか言って、目的を達成するまで髪を切らないとかさ。絶対嘘だって、からかってるんだよ」
 
勇者「願掛けって言うんだよ確か。髪があんまり長くならないうちに魔王を倒せればいいんだけどね」
魔術師「相変わらず勇者だって言うのに弱気ね。私より魔法が上手くなっちゃったくせにそういう態度ムカつくなー あー腹立つなー」
勇者「いたたた、別にそういう意図はないってば」
魔術師「大体自信がないならもっと王都で修業を積めばいいのに」
勇者「いや、もう学ぶべきことは学んだよ。あとは実戦で経験を積まなきゃね」
魔術師「ふ〜〜ん。ここで学べることはもうないってわけね、ふ〜〜〜ん」
勇者「だ、だからそんなこと言ってないって……。それに、魔王軍だってそんな悠長に待ってくれないだろうし。
 僕たちの国の塔はまだ占領されてないけど、隣の星の国と雪の国の守護塔はもう魔族の手に落ちてるんだろう」
19:
魔術師「まあね。塔は国を護ってくれる女神様のものなのに、魔族の奴らなかなか手練れだね。
 この国も塔があるうちはまだ安心できるけど、それも魔王軍に占領されちゃったら王都もこんなにのほほんとしてられないだろうな」
 
魔術師「……ま、でもうちの塔はまだ当分大丈夫でしょ。塔の護衛には噂の三勇士がついてるんだもの」
勇者「ああ、彼ら」
魔術師「勇者は会ったことあるんだっけ?」
勇者「あるよ。確かに強かったな……性格はともかく」
魔術師「ええ、なにされたの勇者――おっと、続きが聞きたいけどもう王様のところについちゃったね」
勇者「ありがとう。少し緊張していたけど話したおかげで気が紛れたよ」
魔術師「どういたしまして。王様に挨拶が終わったら、下の兵舎まで来て。
 騎士団副団長が勇者のために仲間を募集してくれてたの。きっと何人か集まってるはずだよ」
 
勇者「えっ、仲間?副団長が?初耳なんだけど」
魔術師「あいつなかなか勇者のこと気に入ってんのよ。今日だって旅立ち見送りたかったぜーって言いながら任務行ってた」
勇者「そっか。今度会ったら礼を言っておくよ。じゃあ、またあとで」
魔術師「がんばってね」
20:
国王「お主が勇者のお告げを受けて早2年……ついに旅立ちの時が来たか」
勇者「はい」
国王「勇者ハロルドよ、これをお主に」
勇者「この石板は……?」
国王「勇者の伝説について古代語でこう書いてある」
国王「『その者、大樹の村より現れ弱き者たちを守らん。太陽の守護塔より力を、雪の守護塔より知恵を、星の守護塔より――を授からん。』」
国王「『それらを手に、彼の者人の世を光に導かん』」
国王「星の塔より何を授かるのかは残念ながら判別できんが、勇者よ。石板の通りまずは太陽の塔に行くがよい。
 魔族どもは驚くほど強い力と人を惑わす魔法を使う。塔の女神より奴らに対抗し得る力を手に入れるのだ」
 
勇者「石板……大樹の村、僕の故郷……こんなものがあったなんて。……分かりました。太陽の塔にまず行きます」
国王「今は太陽の塔も国境も守れているが、徐々に来襲する魔王軍の数が増えている。
 このままでは我らの国も隣国と同じような苦境に置かれるだろう。
 勇者はわしらの希望じゃ――年若いお主に頼らざるを得ない情けないわしを許してくれ」
 
勇者「いえ。必ず僕が……。……」
国王「どうしたんじゃ?」
勇者「すみません。正直に言うと、何故僕が勇者に選ばれたのか……その理由を神様に訊きたいと思う時が時々あります。
 僕より剣が立つ人も、魔法ができる人もたくさんいると思います」
 
国王「お主がそのようなことをわしに言うのは初めてじゃな」 
 
勇者「……弱気なことを言ってすいません」
21:
国王「いや、咎めたわけではない。むしろ本心を言ってくれて嬉しいとさえ思う。
 勇者。お主は優しく聡明な少年じゃ。どれだけ魔法が使えるか、とかそういうことではなく、な。その目を見れば誰でも分かる」
 
勇者「……」
国王「不思議な色の瞳じゃ。秘めたる力強さを感じさせる。そういえば最初わしに会った時も物怖じせずにこの謁見の間に来たのう。
 随分肝の据わった子どもじゃと思ったわい。ハッハッハ」
 
勇者「そうでしたっけ……」
国王「臆するな勇者。お主は確かに『勇者』じゃよ。国王のお墨付きじゃ」
勇者「……はい。ありがとうございます」
勇者「魔王を倒し、この国……いえ人類の平和のために、この身全て捧げる覚悟はできています。僕が何者であっても、必ず皆の期待に応えてみせます」
国王「その意気じゃ。さて、お主は剣ではなく杖を選んだのじゃったな」
勇者「はい。剣はあまり好きではないので」
国王「ではこの『光の杖』をお主に。旅の心強き供になってくれよう」
勇者「ありがとうございます」
国王「まだまだお主とここで話をしたいとは思うが、これ以上旅立ちを遅らせるのは無粋じゃな。勇者よ、気をつけるのじゃぞ。魔族は強いぞ」
勇者「ええ、十分用心します。では国王様、行って参ります。2年間お世話になりました」
国王「うむ……」
22:
スタスタ
勇者「……そうだ、弱音を吐いてる暇なんて今もこれからもないんだ。早く魔王を倒さないと」
勇者「約束……したしな。あの村で待ってるあの子のためにも。せっかちだから今頃怒ってるだろうな……」
勇者「おっと、ここが兵舎か」
魔術師「あーきたきた勇者」
勇者「ここに仲間になってくれる人が?」
魔術師「そのはずだよ。私もいま来たんだけど」
勇者「そっか。なんか緊張してきたな」
魔術師「勇者が後衛だから、前衛タイプの戦士とか剣士とか集めてもらってるはずだよ」
勇者「助かるよ。……じゃあ、扉を開けるよ」
魔術師「うん」
勇者(この扉の奥にいる仲間と、今から魔王を倒す旅が始まるんだ。……いい人がいてくれればいいんだけど)
勇者(よし……!)
ガチャッ
魔術師「ん〜 どれどれ?」
魔術師(……うぎゃあああああああああああああっ!!)
23:
シーーーーン
魔術師(ひぃぃぃぃ!!まさかの0人!!圧倒的無人!!やばい!!!!まずい!!!!)
魔術師(…………勇者、は……)
魔術師(うがああああああああああ!!すげえ遠くを見つめてる!全てを諦めた目をしてる!アカン!)
魔術師(なにやってんだよあの馬鹿!あの阿呆副団長がッ!やることなすこと全て裏目にでるミスター裏目野郎!!
 旅立ちの日にこんな精神的にきつい経験勇者に積ませるなよ!!どーーすんだよ、これっもおおおお!!)
 
魔術師「あ、え、え〜〜と。勇者?」
勇者「ハハ……いいよ、僕は一人で大丈夫だから……」
魔術師「あ、あ、あのさ!私がじゃあ仲間になるよ」
勇者「次期魔術師長って噂されてる君が王都を離れて旅してたらまずいよ」
魔術師「こ、これ何かの間違いじゃないかなあ。きっと部屋を間違えたかなにか……」
騎士「いえ。間違えてません」
魔術師「どういうことなのコレ?」
24:
騎士「副団長に言われ数週間前から騎士や兵士、はたまた酒場にいる戦士や剣士に声をかけて回ったのですが。結果はこれです。ゼロです。
 騎士兵士は位が低い者は魔族と少人数で戦う自信がなく、位が高い者はそれなりの役職についている者が多かったので軍から抜けるわけにもいかず」
 
魔術師「なっさけないなあ。でも酒場の戦士剣士は結構血の気あるのが多いじゃないの」
騎士「ちゃんと声かけましたよ。どうやら彼らはあまり勇者殿のことを高く評価していないようなのです」
勇者「そっか……」
騎士「どちらかと言うと三勇士に肩入れしているようでして。彼らに比べて勇者はなんかなよっちいというか、オーラがないというか」
勇者「そ、そう」
騎士「そもそも選ばれた勇者なのに、ひょろいやら頼りないやら童顔で女っぽいやら」
勇者「うん、泣きたくなってきたな」
魔術師「ちょっと、外見に文句言うのはやめたげて!!気にしてることみたいだから!!」
騎士「というわけなんです。すみません」
魔術師「つーか君が仲間になってあげればいいじゃない。なりなさいよ、ほら。なれよ。魔王倒したら一躍出世街道間違いなしだよ」
騎士「えっ 自分はいいです」
魔術師「そんなこと言わずに、ほら、飴あげるから」
騎士「いらないですし、おちょくってんですか」
勇者「もういいよ魔術師。というかそんな罰ゲームみたいな感じで仲間になってもらえても空しいだけだよ。
 大丈夫、仲間は旅の道中で見つけるさ」
 
勇者「いろいろありがとう。そろそろ僕は行くよ」
魔術師「ええっ 本当に一人で行くつもり?危ないよ。やっぱり私が」
勇者「大丈夫だよ」
25:
剣士「…………うーん。迷った」
剣士「『勇者の仲間求む 我こそはと思う者は兵舎へ』……チラシを見て来たはいいけど、王都広すぎだし建物大きくて全然方向が分からないしですごい時間かかっちゃった」
剣士「兵舎ってここかな?……どこから入るの?これ」ウロウロ
剣士「…………!!」
勇者「本当に大丈夫だって。じゃあね」
魔術師「心配だなあ」
バリーーーン!!!
剣士「ハル!!!」
騎士「うおおお!どっから入ってきてんですか!!そこドアじゃなくて窓!!」
魔術師「えっなになになに!?だれ!?」
剣士「このチラシ見て来ました!勇者の仲間になりたいんです!よろしくお願いします!剣士です!」
騎士「自己紹介してくれてるところ悪いんだけど窓ガラス弁償お願いしますね」
剣士「ガラス?…………うわあああ!?なにこれ!なにこの惨状!私がやったの!?ごめんなさい!」
魔術師「とんでもない子きたね。でも、よかったじゃない勇者。剣士だって」
勇者「…………」
魔術師「勇者?」
26:
勇者「君…… えっ?」
剣士「久しぶりだね、ハル。じゃなくて、勇者か」
勇者「…………ニーナ……?」
剣士「うん!!」
勇者「なんで王都にいるの!?それに剣士って……ええっ!?」
剣士「だって、勇者、すぐ魔王を倒して帰ってくるって約束したのに、遅いんだもん。だから来ちゃったよ」
勇者「いやまだ旅立ってすらいなかったよ!」
剣士「うん、これから旅に出るんでしょ?いっしょに連れてって」
勇者「だめ」
剣士「ありがとう!私、剣の修業してきたから役に立つと思うよ!よーしじゃあ出発、って」
剣士「えええええええっ なんでだめなの!?!?」
勇者「いや……普通に」
剣士「普通に!?普通にだめってどういうことなの、よくわかんない!」
勇者「君は村で待ってて。あーびっくりした……とにかく連れていけないからね。じゃあね」ダッ
剣士「ちょ、ちょっと待ってよ!置いてかないでってば!」ダッ
魔術師「……行っちゃった」
騎士「あの……ガラス代」
魔術師「……ま、楽しい旅になりそうで安心したわ」
騎士「あのおお!いい感じに締めに入ってるところ悪いですけどおお!ガラス代!弁償!」
魔術師「二人の旅路に幸多からんことを」ダッ
騎士「おい逃げんな!」
27:
ダッダッダッダッ
剣士「ねえ待ってよーっ」
勇者「だからっ 危ない旅になるんだから君は連れていけないんだって!」
剣士「危ない旅だからこそ一人より二人の方がいいじゃん!」
勇者「ていうか足いね?僕けっこう本気で走ってるのに全然ひき離せないんだけど」
剣士「修業したからね。待てーい」
勇者「くっ……――うわ!?」
ドン
戦士「んああ? なんだなんだあ」
勇者「いてて……あ、すいません」
斧使い「おお!こりゃ勇者の坊主じゃねえか。ヒック」ガタ
戦士「今日が旅立ちだってえ?仲間はどうだい、集まったのか?」
勇者「いや。一人で行くよ」
斧使い「だはははは!やっぱ集まんなかったかー!」グビグビ
勇者「ハハ、まあね」
剣士「違うよ!私がいっしょに行くもんね。ねえこのお酒臭いおじさんたち、勇者の知り合いなの?」
戦士「ブハハッ 酒臭いおじさんだってよ。言われてんぞ斧使い」
斧使い「いやオメーもだよ」
戦士「なんだあ、お嬢ちゃんが仲間?見たところ剣使いみたいだが……ハハハ!」
斧使い「やめとけやめとけ。俺あ一回だけ魔族を見たことがあるが、魔族ってのはあんたみたいなお嬢さんの手に負えるもんじゃないよ」
戦士「勇者の坊主もな。魔族見て怖くてションベン漏らすなよ。ま、無理でしたーって王都に逃げ帰ってきても誰も責めねえからよ」
斧使い「みんな予想してたことだから驚きゃしねえ!ダハハハ!こんなチビ助に魔王が倒せるかってんだ」
勇者「ご心配どうも。じゃあ僕はもう行――」
斧使い「んおお?おい、お嬢ちゃん、それは俺の酒瓶……」
28:
バチャアッ!
勇者「えっ……」
戦士「……」ボタボタ
斧使い「……」ボタボタ
剣士「失礼な人たち。
 誓って言うけど勇者はそんな弱虫じゃないし、昼間から酔っ払ってるおじさんたちは勇者をそんな風に言えるほど立派なの?」
戦士「て……てめえ」
剣士「なに?」
斧使い「ガキだろうが女だろうが、そんな生意気な口きく奴にゃ容赦しねえぞ」チャキ
勇者「ちょっ 君一体なにやってんの!?」
剣士「……」チャキ
勇者「待って待ってストップ!ごめん、シャツも酒も僕が弁償するから武器をしまってくれ」
戦士「あああん? んなことできっかよ!!それに俺たちに勝てない奴が魔族に勝てると思うか!?旅立ちの前に腕試しでもしてけよ!!」
剣士「望むところだ!」
勇者「剣士は黙ってて!ていうか君は旅に出ないし、村に帰ってもら――」
<剣士の攻撃!>
<戦士はガードした!>
勇者「聞け!」
29:
剣士「いたっ」
<剣士はダメージをうけた!剣を落とした!>
勇者「ど、どういうことだ……!?」
剣士「うぐぐぅ」
戦士「おいおい、俺はまだガードしかしてねえぜ?」
斧使い「ははは!そんなんで魔王なんて倒せるのかあ!?」
――ガッ!
斧使い「……おっ……? お? なんだ、坊主……短剣一本で俺の斧に対抗するたあ結構やるじゃねえか」
勇者「……」
――キィン!
斧使い「ぬお! 俺の斧、俺の斧……あったあった。テメーなにしやがるこのクソ勇者!!!」クルッ
戦士「……」
斧使い「いねえ」
戦士「追うぞ!!」
斧使い「おお!!」
30:
勇者「はあ……はあ……」
剣士「はーっ……はー」
勇者「逃げてたら王都の門の外まで来てしまった。それに剣士……君、なんであんなことしたんだ」
剣士「あのおじさんたちホントなんなんだろうね。失礼しちゃうよね」
勇者「……。どうしよう。王都に剣士だけ戻したらあの人たちにまた会っちゃうかもしれないし、かと言って徒歩で故郷まで帰すわけにはいかないし」
剣士「え?魔王城まで一緒に行こうよ?」
勇者「僕だけね。僕はそんなに強いわけじゃないから、君を守りながら旅できないよ」
剣士「自分の身は自分で守るから大丈夫だよ」
勇者「どの口が言ってるのかなあ!?さっき攻撃したのにダメージうけてたの誰かな?」
剣士「わ……私だけど……私だけども!!加度的に成長するから大丈夫なんだもん!」
勇者「そもそも、修業したって言ってたけど、どこで?」
剣士「村だよ」
勇者「村に剣の使い手なんていたっけ?誰に稽古つけてもらったの?」
剣士「お父さん」
勇者「……君の家、農家だよね。僕の家もだけど」
剣士「うん。だから剣より鍬の方が強いって何回も言われた。村に剣とかなかったから鍬で修業してたの。
 まず、こうね、畑で、敵が前方にいると想定して鍬を振り下ろす修業。ちゃんと地面まで振り下ろさなきゃだめなの」
 
勇者「それ修業って言わないよ。多分畑を耕すって言うんだと思うよ」
勇者「……足はいし腕力も多分そんなに弱くないと思うのに、どうしてさっきダメージうけてたんだろうね。
 剣にまだ慣れてないのかな。それか……この剣、ちょっと剣士には合ってないのかもね」
 
31:
剣士「一番安い剣、武器屋さんで買ったよ」
勇者「重すぎるのかな。剣士だったらもっと軽い片手剣の方が…… ハッ」
勇者「連れていかないけど」
剣士「えーっ もう、相変わらず融通利かないんだから」
勇者「でも戻れないし……うーん……じゃあ故郷の村まで馬車を出してくれるような大きな町につくまで、一緒についてきてくれる?」
剣士「大きな町までっていうか、正直何が何でもどんな汚い手を使ってもずっとついてくつもりだけど、うん、いいよ!やったー!」
勇者「なんか怖いこと聞こえた」
剣士「気のせいだよ!あ。村からいろいろお土産持ってきたんだ」
剣士「はいこれ、うちの畑で獲れたスイカとドリアン」
勇者「やけに荷物大きいなと思ったらそれか……」
32:
魔王城
鬼「でぇぇぇぇぇい!!」
兄「脇が甘いぞ。それから腰を落としすぎだ」
鬼「うぐ!ま、参りました。参りました〜!」
狼男「次は俺に稽古つけてください!」
兄「おう。……ん?」
兄「……すまない。少し待っててくれ」タッ
狼男「え?ああ、はい」
鬼「はぁ、また今日も王子に勝てなかった」
狼男「さすがは次期魔王様だよな。剣を持った時のあの気迫たるや、既に王の風格がにじみ出ていらっしゃる」
鬼「なー」
狼男「魔王様が病床に臥せられたときはどうなるかと思ったが、あの方がいれば今後も魔族の未来は明るいな」
鬼「うむ」
33:
妹「……」コソコソ
兄「こら」
妹「きゃっ!」
兄「どこに行くんだ?」
妹「に、兄さん。えっと……その……花畑に」
兄「手をもじもじさせるのは嘘をついている時の癖だ。また人間の村に行くんじゃないんだろうな?」
妹「そそそ、そんなわけないよ?行かないよ?」
兄「……」
妹「……」
兄「……」
妹「……お、お願い!お父様には言わないで?ね?」
兄「……はぁ……やっぱりか」
妹「お父様に言う?」
兄「……分かった言わないからそんな青ざめなくていい」
妹「ほんと!兄さんありがとう!」
34:
兄「しかし、ほどほどにしておくんだぞ。父上も最近怪しがってるんだからな。そろそろ俺も庇いきれない」
妹「ええ……。じゃ、じゃあ兄さんも一緒に行かない?人間って、お父様が言うような人ばっかりじゃないわ」
妹「あの村の人たちはとっても優しいの。兄さんもすぐ好きになるわ。ね、ね!行こうよ!」
兄「ばか、俺を共犯にしようとしても無駄だ。行かないからな」
妹「いじわる」
兄「その帽子、とるなよ。角を見られたら魔族だってばれるからな」
妹「分かってますよーだ!」
兄「まったく……」
35:
狼男「ほあちゃああー!」ガキン
兄「おい、気の抜けるような掛け声はやめてくれ」
狼男「すいません、癖でして。しぇああああああーっ」
兄「おいやめろ!笑ってしまうだろうが!!俺の笑いの沸点の低さを知っててわざとやっているんだろう!」
狼男「これも作戦のうちなんですよ!んごおおおおっ!」
鬼「おいテメーずるいぞ!」
兄「バッやめろ! ハハ……ククク……ハーハッハッハッハ!」
鬼「おお笑い方にまで魔王の風格が」
炎竜「ずいぶん楽しそうだな、王子」
兄「ああ炎竜か?いや、狼男がだな……」
炎竜「今日この後なにがあるかお忘れか?」
兄「この後?………………あ」
炎竜「四天王会議だ。次期魔王のあなたには出席して頂くことになっていたはず」
兄「あ……ああ。しまった、忘れていた。すぐ行く!」
36:
バタン!
兄「すみません父上、遅れました!」
魔王「なにをしていた、息子よ」
兄「部下に稽古をつけておりました」キリ
炎竜「部下の奇声に腹抱えて笑っておったぞ」
兄「炎竜っ」
魔王「全く……まあよい。席につけ」
兄「はい」
魔王「では始めるぞ」
37:
――竜族代表――灼熱の炎竜
炎竜「四天王がこうして集まるのも久しぶりだな」
――魔女・魔男族代表 星の国侵略軍将軍――人形使いの魔女
魔女「皆さんお元気でしたか?って、この子が言ってます。私はテメーらの体調なんてクソどうでもいいです」
――鬼族代表 太陽の国侵略軍将軍――逆さ十字の吸血鬼
吸血鬼(相変わらず魔女さんコエーッ……この子って人形ジャン……つーか100歳以上生きて人形持ち歩くとか正直どうなの」
――水魔族代表 雪の国侵略軍将軍――毒霧のヒュドラ
ヒュドラ「途中から声にでてるけども」
吸血鬼「ヤ、ヤベ」
魔女「フフ、あら魔女さんにそんなこと言える立場?まだ塔も占領できてないのに?謝れば許してあげるってこの子が嗤ってるわよ。
 私はむしろ死んで詫びやがれ若造って思ってるけど」
 
ヒュドラ「馬鹿……年齢のことに口を出したからマジ切れだぞ、魔女の奴…… どうせ不死身なんだからここで死んで詫びとけ……」
吸血鬼(ええ〜〜っ!?不死身だからってそんな無茶ぶり俺よくわからない。これだから老害ばっかの四天王はさあ……」
ヒュドラ「だから途中から声にでてるっつの。お前そんなこと言ってたら、お前が死んだときに『四天王最弱』って墓標に掘るぞコラ」
炎竜「私語が過ぎるぞ」
魔女「怒られちゃった。全員死ね」
ヒュドラ「死ねって言った奴が死ね」
吸血鬼(口げんかの程度低すぎだろ……もうみんなムカツクから死ね」
炎竜「全員仲良くしろとは言わんがせめて敵意を隠せ」
40:
前作の過去話ですか?
42:
前作 幼女「待ちくたびれたぞ勇者」の100年前の話です
でもあんまり関連はないっすね 主人公も別
タイトルぐぐるか、トリ検索してもらえれば読めると思います
43:
兄「前会ったときから全然変わってないな。相変わらず仲よさそうで安心した」
ヒュドラ「これのどこを見たらそう見えるんですかね」
魔王「ふむ、では大陸の侵攻状況を聞くとするか。魔女からだ」
魔女「星の国はベガ、プロテオン、ハダルの街まで戦線を進めました。占領した街の人間はすでに魔界に送ってあります」
炎竜「さすがだな魔女。手際のよいことだ」
魔女「私の担当のあの国って兵器は強いけど人間が弱すぎなの。ね、人形ちゃん。頭でっかちばっかりだから楽だわ」
ヒュドラ「雪の国では霰の街、凍雨の村まで侵攻しました。次は初雪の都を落とせば首都陥落も遠い未来の話ではないでしょう」
兄「初雪の都か。あそこは兵士より自警団が厄介だと聞いたが」
ヒュドラ「ま、なんとかします」
魔王「各々滞りなく進めているようだな。それで、吸血鬼。太陽の国はどうなんだ」
吸血鬼「うっ……」
魔王「塔制圧はまだか」
吸血鬼「……イヤーアノー、……ていうか!!!ひとついいですか!?」
吸血鬼「俺、吸血鬼!!ヴァンパイア!!日の光が苦手なヴァーンーパーイーア!!
 なんっでよりによって俺が3つあるうちの太陽の国担当なんですかー!?」
吸血鬼「俺だってほかの2国のどっちか担当してたらすぐに塔なんて落としてるっつーの!」
44:
魔女「だって私、どうせなら星のきれいなところを占領地にしたいし。暑いのも寒いのもイヤです」
ヒュドラ「水魔は水の清いところでこそより自由に戦える。雪の国以外あり得ないな」
兄「って二人が言うからな」
吸血鬼「く……」
吸血鬼(どうせ俺は四天王の中でも一番の年下だよ……年功序列なんて概念この世から消えてしまえばいいのに……ファッキン年功序列」
吸血鬼「あ、なら炎竜さんが太陽の国担当すればいいジャン」
炎竜「儂か……」
魔女「炎竜は息子が生まれたばっかりだから」
ヒュドラ「あ 生まれたんですか。おめでとうございます」
炎竜「ありがとう」
吸血鬼「はあ?息子?」
兄「竜族の子どもは成長が早いからな、少しでも子どものうちにそばにいてやりたいという親心を分かってやれ」
炎竜「すまんな」
吸血鬼(ええーー?そんな理由だったのかよぉ)
45:
炎竜「まあそれもあるがな、儂は年若いお前に活躍の場を譲ってやっているのだぞ。さっさと手柄を上げろ吸血鬼。儂の心遣いを無駄にするな」
吸血鬼(言葉巧みに仕事押しつけられた上にジジイの説教だよ……まじついてない……」
魔王「……三勇士などという人間どもはそんなに手ごわいのか?」
吸血鬼「……」
魔王「ならば息子よ、手伝ってやれ」
兄「俺ですか?……分かりました」
魔女「ずるい」
ヒュドラ「ずるい」
吸血鬼「わーホントですか!!すっげえラッキー!王子がついてれば塔なんてすぐに落とせるぜ!」
兄「魔界での仕事が粗方片付いたらでいいか?」
吸血鬼「そりゃ勿論!いつまでだって待ちますよ!」
46:
炎竜「儂自身は今あんまり動けんが、もし何かあればすぐ部下をよこそう」
魔女「まあ、このままだったらあんまり貴方の出番はないんじゃないのかなって私もこの子も思ってます。
 私の活躍を大人しく指咥えて見てればいいってことですね」
 
炎竜「ふ、それならそれでよい」
魔王「ところで、例のものはまだ見つかっておらんのか」
魔女「占領した区域の遺跡も城もどこも調べたけどありませんでした」
ヒュドラ「同じく。塔にもなかったし、あるとしたらやっぱり宮殿かな」
魔王「もしくはまだ捜索していない太陽の塔、か……」
兄「魔剣と禁術書ですよね。遙か昔、人間に奪われたという」
魔王「そうだ。強大な力を持つ故に人どもに扱えるとも思えぬが……もしそれを操る輩が現れたら厄介だ」
魔王「あの二つは元々我ら魔族の宝……人間に奪われた我らの剣と書、そして尊厳を今こそ取り戻さん」
魔女「……」
炎竜「……」
ヒュドラ「……」
吸血鬼「……」
魔王「時は来たり。我の下に集いし戦士たちよ……我が物顔でふんぞり返っておる豚どもから全て奪い返すのだ」
魔王「剣も書も、大地も森も……踏みにじられた誇りも何もかも」
魔王「強い者が勝つこの世界で、強靭な肉体と巧みな魔術を持っている魔族が何故これまで人間という劣悪種族を支配下に置かなかったのか。
 それは魔族が志を共にしていなかったからだ」
 
47:
魔王「竜は亜人族と戦い、エルフはヴァンパイアと戦い、魔族の歴史は常に同胞との戦いで積み重ねられていた。
 しかしそれは間違いだ。真の敵は同胞ではない、人間だ」
 
魔王「異なる種族同士、武器を捨て手を取り合い、真の敵に立ち向かうのだ。殺しつくし、血に濡れた手で勝利を掴み取り、望むがままに一切合財奪い取れ」
魔王「……祖先たちが人どもにされたようにな。雪辱を晴らすのだ。今こそ歴史を変える時……」
炎竜「……必ずや、魔王様」ニイ
魔女「ウフフ」
ヒュドラ「歴史を変える時ですか。いいですね」
吸血鬼「クククク……俄然やる気がでてきた」
兄「…………」
魔王「……期待しているぞ……戦士たち。さて……では解散だ。……ゴホゴホ」
兄「父上、部屋までお供致します」
49:
魔王「すまないな」
兄「何がです?」
魔王「このような情けない姿をお前に見せてしまって」
兄「……そんな。情けないだなんて思ったことありません。
 俺も妹も父さん――じゃなくて父上のこと尊敬しています」
魔王「……む……そういえば娘はどうした?姿が見えぬが」
兄「あ……ああ、妹なら……あー厨房で料理でも練習しているのではないでしょうか。多分」
魔王「ふむ、そうか」
魔王「……息子よ」
兄「はい」
魔王「私は恐らくもう長くない……大陸制圧という悲願を達成するまで何とかこの世に留まりたいとは思っているが」
魔王「魔王の名を継ぐのはお前だ。しっかりやるのだぞ」
兄「父上……」
兄「……はい」
魔王「うむ。よくぞ言った」
魔王「では私はもう休ませてもらう。娘に会ったら明日私の部屋に寄るように伝えてくれ」
パタン
兄「……俺はいいが」
兄「妹がどう思うか……」
50:
泉の村
妹「……」
妹(水面に映っている私……帽子をかぶって角を隠していれば、人と同じ姿なのに)
妹(どうして魔族と人は争うのかしら?種族が違ったって、仲良くなれるはず)
青年「っご、ごめん!待った?」バタバタ
妹「あっ!ううん!さっき来たところ……」
青年「師匠の自慢話が長引いちゃってさ。見習いの身分だから、僕も強くは言えないんだ」
妹「お疲れ様。……あはははっ」
青年「な、なんだい?顔に何かついてた?」
妹「鼻の頭に汚れ、ついてるわ。とってあげる」
青年「え、あ、ははは……かっこわるいな、僕」
妹「ねえ、今日はどんなお話する?」
51:
妹「それでね、兄さんったら、私が作ったケーキを食べたら白目剥いて倒れちゃったの。
 起きたら涙目になりながら、もうお前は厨房に立つなって言ってきて。失礼しちゃう」
 
青年「あははは。君とお兄さんは仲がいいね」
妹「よくないわ。いっつも意地悪ばっかりするんだから」
青年「会ってみたいな、君のお兄さん」
妹「今日も一緒に行こうって誘ったんだけど、断られちゃった」
青年「前も聞いたかもしれないけど……君はどこの村に住んでいるの?この近くなんだろう?」
妹「え?あ、えっと。ここから、ちょっと北に行ったところ……かな?」
青年「北、か。もしかして風の村かな?」
妹「う、うん。あ、ごめんなさい、そろそろ帰らなくちゃ」
青年「送っていくよ」
妹「いいの!大丈夫。あの、あの……またここで待ってていいかしら?」
青年「それは、もちろん!でも、やっぱり送ってくよ、あ、待って!」
妹「大丈夫だから!じゃあまたねっ!」
52:
妹(……今日もいっぱい話せた)
妹(……ふふふ。だめだわ、顔が勝手に笑っちゃう。また兄さんにからかわれるわね)
妹「えへへ……」
53:
* * *
<大蛇の攻撃!剣士はかわした!>
<剣士の攻撃!大蛇はひらりとかわした!>
剣士「ああああーもおおお!」ブン
<勇者の火炎魔法!>
<大蛇は逃げ去った!>
勇者「ふう……」ボロ
剣士「な、なんかすごい威力だね」ボロ
勇者「ありがとう……。でもそろそろ魔力が尽きそうだ。えーと、地図を見る限りもうすぐ村が見えてくるはずなんだけど」
剣士「ちょっと待ってて」スタッ
勇者「剣士?」
剣士「木に登って見てみるよ」
勇者「だ、大丈夫?」
剣士「村にいたとき、勇者より私の方が木のぼり得意だったの忘れた?よいせっと」
剣士「……あ!あったよ!村!!」
勇者「あー助かった」フラフラ
54:
日の出の村
勇者「よ、よし。とりあえず宿屋を探そう。目がかすんできた」フラフラ
剣士「勇者大丈夫!?魔法って結構疲れちゃうの?」
勇者「まあ使いすぎると少しだけ…… ああ、あった。宿屋」
勇者「すいませんとりあえず至急2人分お願いします。大至急」
宿屋主人「あいよ。2人分ね〜。兄ちゃん随分疲れとるみたいだけど平気かい」
勇者「は……はい」ガクッ
剣士「勇者ぁぁぁあ」
宿屋主人「本当に大丈夫かいね、……ん?んん!?お前さん、肩のその、王国の紋章はもしかして?
  それにお嬢ちゃん、いまなんて呼んだんだ?」
  
剣士「え……勇者だよ」
宿屋主人「勇者!?!?あの!?よっしゃ助かった!!!」ガタッ
宿屋主人「村の皆ぁ!勇者様が助けに来て下さったぞおおお!!」
ブオォォォォォォォン
勇者「ホラ貝!?」
村人「うおおおおおお!!本当かあああ!!助かったぞおおお!!」バタン
村人「いやあどうなることかと思ったが勇者様が来てくれたとあれば安心じゃあああ」バタン
村長「勇者様!!誠に勇者様でおわしますか!!その王国の紋章!!よく見せて下され!!!」ガクガク
勇者「ちょ……待って……首もげっ…… ガハッ」
剣士「うわーーーーーーっ!おじさんやめてよ勇者死んじゃうよーーーーーっ!!離れてーーーっ!!」グイグイ
村長「いやああああああああ!離れるからわしの残り少ない大事な毛を引っ張らないでええええええええ!」
55:
* * *
勇者「洞窟……ですか」
村長「いかにも。最近村の外れの洞窟に何かよからぬものが棲みついてしまったようでしてなあ。
 どうもコウモリの群れらしいのですが」
 
剣士「コウモリ駆除?」
村長「ただのコウモリだったら村の若い衆が何とかできるのですがねえ、どうにも魔物みたいなんですよ。 
 そこで!!王都よりいらっしゃった勇者様に!!我らの村を魔物よりお助け頂きたいのです!!」ガシ
 
勇者「わ分かりました、分かりましたから。明日の朝に様子を見てきます」
村長「おおなんと頼もしい!いやー流石ですなあ。頑張ってくださいませ!」
勇者「ハハハ……」
56:
宿屋
剣士「じゃあ勇者、おやすみ」
勇者「おやすみ」
剣士「……」
勇者「?」
剣士「いや、なにも言わないんだなって思って。明日のこと。またついてきちゃだめだーって言われるかと思ったのに」
勇者「言って聞く君じゃないなって思ったのさ」
剣士「アハハ、その通りだよ。明日頑張ろうね!おやすみ」
勇者(……なんてな。明日は剣士が起きる前にさっさと洞窟に行って魔物かどうか確認してこよう)
勇者(早く寝て魔力回復させないと。よし、寝よう……)
勇者(……)
57:

剣士「勇者?勇者、いるの?」コンコン
剣士「……入るよ」ガチャ
剣士「…………」
剣士「勇者、起きて。洞窟行かなくちゃ」
勇者「……う……ん。行く行く……行きます……」
剣士「朝弱いの変わってないね。でも昨日すごく疲れてたみたいだし、仕方ないのかも」
勇者「……」
勇者「ん!?」ガバ
剣士「うわっ 急に起きた」
勇者(なんで剣士がここに?…………あれっ。僕もしかして寝過ごした?)
剣士「ほら、よだれ垂れてるし髪ぐしゃぐしゃだし、まず顔洗ってきて」
勇者「あ……ああうん」
勇者(うわあああ……完全に寝過ごした……ハァ)
58:
剣士「髪、縛ってあげるよ。はい、鏡の前の椅子に座って」
勇者「髪なんて適当に括るからいいよ」
剣士「私がやりたいのっ。……ねえ、髪伸ばしたんだね。最初見たときちょっとびっくりしたんだよ」
勇者「願掛けだよ。魔王を無事倒せるようにってさ」
剣士「ふうん。おまじないみたいなもの?」
勇者「剣士は……髪切ったんだね。長くてきれいな髪だったのに」
剣士「だって剣で戦うのに邪魔でしょ?だから思い切って短くしちゃった」
剣士「……変かな?」
勇者「いや。そんなことないよ」
剣士「…………」
剣士「……じゃあじゃあ、どう思う?似合ってる?かわいい? ちゃーんと言ってね!ほらほら早く!」
勇者「似合ってるし、かわいいよ」
剣士「え」
剣士「…………………はいもうおしまい!できたよ!完成!」クルッ
剣士「もーーっ!なんで私がこうなるのっ。意味わかんない!ばか!」
勇者「ええっ なんで怒ってるんだ。本当にそう思ってるって。かわいいよ」
剣士「うあああーーーーっもういいから全部忘れて!なんでもないのゴメンね!じゃあ宿屋の外で待ってるから着替えしてきてね!」ダッ
ドタバタ ドンガラガッシャン バリーン ドタンバタン バタン
勇者「うわっ 音から察するにまた窓ガラス割ってる!早く行かないと」
66:
村の北の洞窟
剣士「ここが魔族かもしれない生き物が棲みついてる洞窟だね」
勇者「うん……まあ」
剣士「よし、気合い入れてかなくっちゃ!行くよ勇者!」
勇者「あのさ」
剣士「うわあ真っ暗。ちょっと不気味だなあ」
勇者「……。もうついてくるなとは言わないから、せめて僕から離れないでね」
剣士「うん分かった!」
勇者「あれ?その木刀どうしたの?」
剣士「村長さんに貸してもらったの。武器屋さんで買った剣重くって全然攻撃当たらないんだもの」
勇者「そっか。確かに木刀の方が軽いし振りやすいかもね」
剣士「今日は私も活躍するから!」
勇者「結構大きい洞窟だね。今のところ何も見当たらないけど……奥までどれくらいなんだろう」
剣士「……本当に魔族がいるのかな?」
剣士「だって、私たちの国はまだ塔が魔族に占領されてないんでしょ?
 女神様がまだ国を護ってくれてるはずなのに、どうやって魔族がここまで入ってこれたの?」
 
勇者「女神の守護はそもそも3つの塔で完成するものらしいから、一つでも欠けた時点で完全な守護とは言えないけど」
勇者「なんでも、力の強い魔族ほど女神様の聖なる力に阻まれてこっちの国への侵入が困難になるらしいよ。
 逆に言うとあんまり力のない魔族は意外とすんなり入り込めてしまうんじゃないかな」
 
剣士「そういう仕組みなんだ。じゃあ、この洞窟にいるかもしれない魔族も、そんな強くないんだね。よかったー!」
勇者「油断はしない方が……、あ」
67:
バサバサッ!
<吸血バットABCDEが襲いかかってきた!>
剣士「うわ……! なに……!? コ、コウモリっ?」
勇者「いや」
<吸血バットの超音波攻撃!>
<剣士は平衡感覚を失った!>
剣士「あれっ……?」フラフラ
勇者「剣士! いまの攻撃、やっぱりこの洞窟にいるのは魔族なのか」
勇者「じゃあ殺さないと」
勇者「剣士は下がってて」スッ
剣士「勇者?」
<勇者の全体火炎魔法!>
<吸血バットABCDEは死んだ。>
勇者「まだ奥にもいるな。入り口から一本道で助かった。一匹も逃がさず消さないと」
剣士「えっ……?」
勇者「魔族だったなら全部殺さないと……そうしないとあの村の人たちが安心して暮らせないしね」
剣士「あ……うん、そうだよね」
勇者「どうかした?」
剣士「ううん。……ちょっとびっくりしちゃっただけ。
 村にいたときは勇者ってあんまりそういうの好きじゃなかったじゃない」
勇者「そういうの? よく分からないけど、死体を見たくないなら今のうちに引き返した方が」
剣士「ううんなんでもない。……私も一緒に戦うよ」スッ
剣士「勇者、伏せて」
勇者「えっ?」
剣士「おりゃあっ!」
バット「ギャッ」
<剣士の攻撃!>
<吸血バットFGを殺した。>
勇者「いつの間に後ろに――」
剣士「さっ、奥に進もう」ニコ
勇者「……ああ」
68:
……
<勇者の全体火炎魔法!>
<吸血バットGHIJは死んだ。>
……
<剣士の攻撃!>
<吸血バットKLは死んだ。>
……
<吸血バットMNOPは死んだ。>
……
……
剣士「魔族って言っても、本当にあんまり強くないね。あの変な鳴き声さえなければ普通のコウモリと変わらないよ」
勇者「そうだね。もう随分奥まで進んだし、そろそろ終わりかな」
ギギギギギギ……
剣士「……」
勇者「……」
剣士「なんか今奥から聞こえた?」
勇者「気のせいじゃないかな」
剣士「絶対違うよ!!聞こえたよ!!コウモリにあるまじき鳴き声が聞こえたもんね!!
 ねえ、一旦引き返そうよ!嫌な予感しかしないよー!」
 
勇者「剣士だけ先に帰っててくれ」スタスタ
剣士「もうそればっかじゃん!ねえ勇者ってば…………」
剣士「〜〜私も行く!置いてかないで!」
69:
勇者「ここが最奥……広い空間にでたな。上の方に何か蠢いてるのが分かるけど、ランプの灯りが届かないせいでよく見えないな」
剣士「『蠢いてる』時点でヤバイ香りがぷんぷんするよおおお 字面が既にこわいよおおお」
勇者「火炎魔法で辺りを照らしてみよう。ちょっと下がっててくれないか」
剣士「ええっ……そんなことしたら怒らせちゃうんじゃ……」
<勇者の火炎魔法!>
<吸血バットのボスが勇者たちに向かって飛んできた!>
ボス「ギギギギギギギギギギ……!」
剣士「いやあああああああああ!コッココココココウモリっていうレベルの大きさじゃないいいい!」
勇者「普通に僕たちくらいの大きさがあるな……これに血なんて吸われたら一気に出血死だ」
剣士「そうだね!!死んじゃうね!!」
<勇者の火炎魔法!>
<ボスバットはひらりとかわした!>
勇者「避けられるな。せまい道におびき寄せて戦った方が有利か。剣士、こっちに!」
剣士「えあっ、あ、うん!」
70:
<勇者の火炎魔法! ボスバットにダメージを与えた!>
<ボスバットの超音波攻撃!>
剣士「うっ……また……」
<勇者は異常回復魔法を唱えた!>
勇者「大丈夫?」
剣士「あ、治った。うん平気!よ、よよよっし、勇者は下がっててね!私が前衛やるからね!」
勇者「えっ いや別にいいよ!?ていうか木刀じゃあ……」
ボスバット「ギイイイィィィィィ!!」バッ
剣士「ひえええええええええ顔怖いぃぃぃぃぃぃぃっうわああああああああ」
<剣士の渾身の一撃! ボスバットにダメージを与えた!>
<ボスバットは動かない>
剣士「や……やった?やった!倒したよ勇者!み、見た?」
勇者「う、うん、見た」
剣士「あーんめちゃくちゃこわがっだぁぁぁぁなにこれぇぇぇ」
勇者「すごいじゃないか。ありが――、!」
勇者「危ない!」グイ
剣士「え?なに?」
ガブッ
<ボスバットの吸血! 勇者にダメージを与えた!>
<ボスバットは体力を回復させた!>
剣士「なっ……、え!?まだ生きて……」
剣士「こ……この!化け物っ!!勇者から離れて!!」ブン
ボスバット「ギッ」
勇者「よし」
<勇者の火炎魔法!>
<ボスバットは炎に包まれた!断末魔が洞窟に響いた!>
<ボスバットを殺した。>
71:
勇者「終わったな」
剣士「勇者、腕……大丈夫!?貧血になってない!?」
勇者「ちょっと目眩がするくらいだからだいじょモガッ」
剣士「しっかりして勇者!!薬草食べて!!いっぱい持ってきたからっ!死んじゃだめだよ勇者あああ」
勇者「いや薬草はもういモガッ 息できなガフッモガ 死っ……」
剣士「勇者ーー!!!! いやーーーっ!!!!」
<GAME OVER...>
72:
村長「勇者様?勇者様どうなさいましたかの!?」
勇者「ハッ…… という夢を見たんだ」
剣士「洞窟にいる魔族は全部倒したから、もう大丈夫だよ」
村長「いやあ有り難い!!どうもありがとうございました!!これで村の皆も魔族に怯えずに安心して暮らせます!
 お礼にコレ、村一同から勇者様と剣士様に!!」
 
勇者「なんですかこれ?」
村長「村の特産品のたばこです!!!風呂敷にいっぱい包んだので勇者様もどうぞ嗜まれてみては如何でしょう!!
 一本吸えば嫌なことも辛いこともすぐに忘れられますよ!!」
勇者「え? あ、あー……ありがとうございます」
剣士「ねえ村長さん。この木刀ありがとう。返すね」
村長「いえその木刀もよろしければ差し上げますよ」
剣士「本当?いいの?」
村長「ええ、ええ、どうぞどうぞ。剣士様に使って頂けるならば木刀も嬉しいでしょう」
剣士「ありがとう!」
<勇者と剣士は「ちょっと怪しい煙草」と「木刀」を手に入れた>
<二人は村を発った>
74:
多分メダパニ的な効果のあるタバコなんだろうな
75:
吸うとハイになれそうだな
76:
勇者「なんか変な村だったなあ」
剣士「そう?おもしろい人たちばっかりで楽しかったよ」
勇者「う、うーん……そう?」
剣士「次はどこに行くの?この道まっすぐかな」
勇者「確かそのはずだと思うよ。次は確か……弓使いの里だ」
剣士「へえ。誰か仲間になってくれるといいね」
勇者「ほんとにね」
剣士「ねえ、ところで。その煙草どうするの?」
勇者「どうしようか。次の村で売ろうか」
剣士「えーーっ 売っちゃうの!?」
勇者「僕も君も煙草なんて吸わないだろう。それにちょっと……なんか……危ない気配を感じたし」
剣士「せっかくだから吸ってみる?」ワクワク
勇者「僕の話聞いてた? 絶対だめだからね」
剣士「ちえ。勇者のケチ」
77:
* * *
泉の村
妹「はあ…はあ…」タッタッタ
妹(ちょっと遅くなっちゃった……。あ、青年さん。もう泉で待ってる)
妹「ごめんなさい!遅れてしまって……!」
青年「あ……。大丈夫だよ、僕もさっき来たばっかりさ」
妹「あの、今日はアップルパイ焼いてきたの。甘いものって好き?」
青年「え!!だ、大好物だよ。食べていいのかい?」
妹「もちろん。城の料理長に聞いていっぱい練習したから、おいしいと思うの……たぶん」
青年「城?料理長……?」
妹「あっ……」
青年「君って、もしかして貴族のお譲さんなのかい?」
妹「やっ違……あの……冗談よ冗談!そういう冗談なの!えへへ」
青年「はは、なんだ。驚いちゃったよ」
妹「ふふふ……」ダラダラ
青年「あのさ。この間……うちの親に君のことを聞かれたんだ」
妹「私のことを?」
青年「いろいろ話したら、君に会いたいって盛り上がっちゃって……よかったら、今度僕の家族に会ってみないかい」
妹「あ、うん。えっと……」
青年「い、嫌なら全然いいんだ、断ってくれて!ごめんね、急にこんなこと言いだして!」
妹「嫌じゃないの!ええとね……夕暮れ時、なら大丈夫だと思うの」
青年「夕暮れ時、か。すごく嬉しいんだけど、いつも僕たちがここで会うのも夕暮れの時だね。
 なにか昼に用事でもあるのかい?」
 
妹「ちょっとね。えへへ」
妹「あっ、もう時間だわ。帰らないと」
妹「お父様とお母様に会える日を楽しみにしてますね。じゃあ、また今度!」タッ
青年「僕も楽しみにしてるよ。ありがとう……って、いな……彼女」
タッタッタ……
妹「ここらへんでいいかしら…… 転移魔法」シュン
78:
魔王城
妹「ふう。 なんだかあっという間だったわ…… もっとお話できたらいいのに」
妹「でも夕暮れ時じゃないと、私の目が赤いってことばれちゃうし。
 赤目の人間なんていないものね……あーんもう!変身魔法が得意だったらよかったのにぃぃ」ガンガン
 
兄「なに一人で壁を殴ってるんだ。やめなさい」
妹「兄さん!」
兄「父上の部屋には行ったか?この間伝えただろう」
妹「あ、うん。行ったけどお父様体調が悪かったみたいで、お話聴けなかったわ」
兄「なら今日は体調が優れてるみたいだから会いに行くといい」
妹「そうする……。……ねえ兄さん。お父様大丈夫だよね?病気治るよね」
兄「だといいが……あんまり楽観視はできないな。……」
妹「お父様がもし亡くなったら、兄さんが魔王を継ぐのよね」
兄「そうなるだろうな」
妹「……そう。……に、兄さんは」
兄「なんだ?」
妹「……ごめんなさい。なんでもないわ。じゃあお父様のところに行ってきます」
兄「おい? なんなんだ……」
79:
バタバタ
兄「……ん?」
ハーピー「あ、王子様。こんばんは」
兄「どうした?そんなに慌てて」
ハーピー「それが、秘薬をつくるための月下草の在り処が分かったんですよ!!!」
兄「秘薬?一体なんの……」
兄「……ああ。お前の息子のためか。確かあいつは……」
ハーピー「ええ、不治の病に冒されております。でも、月下草が見つかればまた元気な姿を見せてくれるはずです。
  ああ、本当によかった……これから草を取りに行こうと思ってるのですよ」
  
兄「そうか、それはよかった。月下草はどこにあるんだ?」
ハーピー「太陽の国の山奥です」
兄「なに?人間領に草を取りに行くのか? 危険だろう」
ハーピー「雲の上を飛んでゆくから大丈夫ですよ。
  人も住んでない山にあるそうですから、人間に見つかることもないでしょう」
兄「あの塔を制圧するまで待てないか?そうしたら俺がとりに行ってやろう」
ハーピー「もうあまり時間がないのですよ。最近あの子の体調はどんどん悪くなるばかりで……早く治してあげないと。
  心配しないでください。私なら大丈夫です」
兄「そうか?」
ハーピー「魔王様のご病気も、秘薬で治ればいいのですが……」
兄「父上の病を治す手立てはない。気にせず息子のためだけに使え」
ハーピー「ありがとうございます。ではさっそく行ってまいります」
兄「気をつけろよ」
ハーピー「はい。息子のために必ず月下草を持ち帰ってみせますよ」
80:
妹「お父様……?」
魔王「ああ、来たか。入れ」
妹「今日はお身体大丈夫なんですか?」
魔王「ああ……」
魔王「そこに座れ。お前に話がある……」
妹「は、はい」
魔王「いいかよく聴け。私がいなくなった後はお前の兄と力を合わせて魔族を護り抜くのだぞ」
魔王「お前は魔力は兄に及ばぬが、夢見の力がある……遙か未来を見通す力がな……
 お前の母、私の妻ももっていた力だ。その力をもってして必ずや我らの悲願を達成しろ」
 
魔王「人間を全て我らの支配下におくのだ。お前は魔王の娘だ……そのことを一時たりとも忘れるでない。
 私亡き後もお前の使命をまっとうしろ」
 
妹「わ……私、私……そんなこと……できません」
魔王「何故だ。何を迷っている」
妹「私は……わ、私……人が好きです」
魔王「……」
魔王「……ハァ……」
妹「……ぅ」
81:
魔王「……娘よ」
妹「……っ!」
魔王「私も人には感謝しておる……」
妹「……えっ?」
妹「じゃあ……!」
魔王「人間の存在があったおかげで魔族を統一できた。魔族同士に向かう敵意の矛先を束ねて全て人間に向けることができた……
 人間どもには憎しみと蔑みと同じくらいの感謝の念を持っておる」
 
妹「……」
魔王「この戦争の始まり……あいつらが火蓋を切らなければ私がそうしていただろう。
 しかし事実戦いを挑んできたのは紛れもなく人間どもだ。それでもお前は人間が好きか」
 
妹「でも……」
魔王「……ハァ。これでは私もまだ妻に会いにいけないな。
 ゴホッ……戦争の始まりを、お前の兄に聴け。人間がなにをしたのかをな……」
 
魔王「そうすればお前も考えを改めるだろう。もうよい、下がれ……」
妹「……は」
妹「はい……」
82:
* * *
川沿い
剣士「ん〜〜〜〜〜」
勇者「うーん……おかしいな?地図によるともう弓使いの里が見えてもいい頃なんだけど」
剣士「ねえ!私たち毎回道に迷うよね!!」
勇者「なんだろうね、これ」
剣士「よし、私にまかせて。こうやってね、棒を道に立てて」
勇者「あ。地図これ北と南を逆に見てたな」
剣士「ねえ聞いてよ無視しないで」
勇者「僕たち真逆に進んでたみたいだ。あはは」
剣士「あははって……笑いごとじゃないよ、もー」
数時間後
剣士「あ!あった!!見て勇者、あの崖の上!町がある!」
勇者「よかった……野宿にならなくて。行こうか」
剣士「うん、―――あ」
ビュオッ
剣士「ああっ、風で地図が飛んでっちゃった」
勇者「平気平気。風魔法」ヒュッ
剣士「便利だね、魔法って」
??「……」ジッ
83:
弓使いの里
勇者「やっとついた……けど、なんだかあんまり旅人を歓迎してない町みたいだね」
剣士「すっごい厳つい門だね!木の壁でぐるっと町が囲まれてるし。これ、どうやって町に入ればいいのかなあ」
勇者「とりあえずノック?」コンコン
剣士「門に!? そういう次元じゃないと思うんだけど」
勇者「すみませー……」
ドスッ!!
勇者「ん!?」
剣士「え、なにっ!?」
ドスドスドスッ!!
勇者「矢だ。どこから……とりあえず『風の壁』!」ビュオ
??「その魔法……やっぱり魔族……」
剣士「だれ!?」
狩人「去れ。魔族。去らなければ射る」
勇者「ま、魔族?違うよ、僕たちは……」
狩人「射る。五臓六腑に叩きこむ。ハリネズミも真っ青の剣山状態にする……」
剣士「なんかめちゃくちゃこわいこと言ってるよ!!」
狩人「じゅう……きゅう……はち……」
剣士「ええっ!?いきなりなに!? やばいよ、勇者、私たち剣山になるよ!」
勇者「お、落ち着いて。話せばわかるはずだ」
狩人「なな……飽きた……いち……ぜろ」
勇者「君カウントダウンの意味知ってる!? うわっ!!」ドッ
狩人「宣告はした。猶予も与えた。お前たちを敵とみなす」
<狩人が襲いかかってきた!>
剣士「猶予与えられてないんですけど」
84:
勇者「待ってくれ!さっきの魔法は僕が勇者だから使えるってだけで……」
狩人「勇者?」
狩人「……」
勇者「……」
狩人「勇者には見えない。あり得ない」
勇者「うっ……」
剣士「あーっ!勇者が気にしてることをさらっと言った!いけないんだー!」
狩人「ここらへんは獣も強い。魔族じゃない人間が、二人だけで徒歩でここまで来れるわけない。よってお前たちは魔族」
 
勇者「じゃ、じゃあこの王様から頂いた紋章を見、」
狩人「ごちゃごちゃうるさい」
ヒュッ パキン!!
勇者「……すごいな。あんな遠くから紋章を射るなんて」
剣士「のんきに関心してる場合じゃないよー!!」
<狩人の攻撃!数多の矢が勇者と剣士に降り注ぐ!>
勇者「だから人間だってば!!」
剣士「いやーーーっ」
里長「むっ!?あれは!?」
85:
里長「いやはや、若いもんが失礼したね。大丈夫だったかい」
勇者「……はい」ボロッ
剣士「こわかった……魔族より怖かった」ガタガタ
里長「本当に大丈夫?」
勇者「里長さんが来てくれて助かりました……」
勇者「この里は魔族に襲撃されたことがあるのですか?随分警戒されてるようですが」
里長「いや、幸いなことにまだないよ。
 ただ夜更けなんかに空を飛んでいる魔族の姿が度々目撃されているんだ」
 
里長「この里でなく、里を越えた山にどうやら用があるみたいなんだが……一体何が目的なのやら。
 化け物の考えることはよく分からん」
 
里長「おかげで狩猟を生業にしている俺たちは、森奥まで獲物を追えなくなっちまって困ったもんさ」
剣士「狩猟が生業? だから弓使いの里なんだ」
里長「そうさ。俺たちの弓術は王国一!さっき君たちが苦戦した彼女が、今の里でナンバーワンの実力者だな」
勇者「そういえば、彼女はどこに?」
里長「えーと……」
86:
狩人「……」ギュ
狩人「……」パッ
ガッ!!
剣士「すごーい、百発百中!」
勇者「君が里一番の弓の使い手なんだってね」
パチパチ
狩人「……ああ。……あの」
剣士「え?なに?」
パチパチパチ
狩人「さっきは……その」
勇者「ん?なんだい」
パチパチパチパチパチパチ
狩人「だ、から」
剣士「え。全然聞こえないよ。なに?」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
狩人「うるさい」
87:
狩人「だから。悪かったと言っています。さ……さっきは」
勇者「もう気にしてないよ」
狩人「勇者がいることは長から聞いてた。けど。本当に勇者だと思わなかった。あなたが」
狩人「強そうに見えません。あんまり。だから嘘だと思った。ごめんなさい。勇者には見えません」
勇者「あ……うん……」
剣士「狩人ちゃーん、謝るフリして勇者の心にダメージ与えるのやめて!歯に衣着せよう、ねっ!」
狩人「……」ジッ
勇者「……?」
狩人「筋肉が足りない。と思います。多分強いから。魔王は。もっと鍛えた方がいいです」ペタペタ
勇者「ええ? ちょっと……」
剣士「……」
狩人「とくに腕の筋肉。重要です。あと、こことここ、まず鍛えるべき」
勇者「わ、分かったから」
剣士「……なんで顔赤くしてるのかなっ勇者は。勇者のエッチ」
勇者「してないだろ!?ちがうよ!」
88:
狩人「あなたは」
剣士「あ、私は剣士だよ。よろしくね狩人ちゃん!」
狩人「よろしく。剣……」
剣士「今は木刀なんだけどね、これからちゃんとかっこいい剣持つ予定なんだよ」
狩人「二人は強いですか」
剣士「強いのかなあ?私たち」
勇者「どうだろ。どうしてそんなこと聞くの?」
狩人「強いなら、頼みたいことある」
剣士「なあに?」
狩人「人助けしてほしい」
勇者「いいけど、だれの?」
狩人「私の」
勇者「? いいよ」
89:
狩人「言ってた。長が」
狩人「勇者と言えば人助け。いわばパシリ。雑用係……無料のなんでも屋と」
剣士「えーーっあのおじさん裏でそんなこと言ってたのか!大人ってこわいね!」
勇者「知っちゃいけない面を知っちゃった気分だよ」
勇者「まあ、聞かなかったことにしよう。僕はなにも聞いてない。
 で、狩人が頼みたいことってなんだい?」
 
狩人「森に一緒に入ってほしい」
剣士「森……って、魔族がうろついてて危険なんだよね」
勇者「どうして森の中に入りたいの?」
狩人「ほしいものがある」
狩人「森の奥に生えてるという、ある草がほしいです」
狩人「月下草が」
90:
勇者「月下草?それって万病を治すっていう……あの?森の奥に月下草があるの?」
狩人「ある。らしい」
狩人「お母さんの病気を治すために必要……もう時間がない」
剣士「君のお母さん病気なの?」
狩人「……」コク
剣士「勇者の治癒魔法で治せないのかな?」
勇者「外傷はある程度治せるけど、病気は無理だ。神官もそうだと思う」
狩人「……」
勇者「そういうことなら、月下草をとりに行くのを手伝うよ」
剣士「私も手伝う!」
狩人「……恩に着る」
狩人「本当は森の奥に入るのは禁止されている。だから明日。日の出とともにこっそり一緒にきてほしいです」
勇者「分かった」
剣士「がんばろーね!」
91:
バッサバッサ……
ハーピー「はあ……はあ……けっこう遠いのね」
ハーピー「ずっと雲の上を飛べば人の目につかないのはいいけれど、休めないからちょっと辛いわ」
ハーピー「でも、月下草さえ手に入れば……あの子もきっと元気になってくれる」
ハーピー「待っててね。お母さんが早く薬を作ってあげるからね」
ハーピー「そうしたら一緒に空を飛びましょうね。下から見る青空もきれいだけど、雲の上の空もとってもきれいなのよ」
ハーピー「ふふ。楽しみ」
ハーピー「待っててね」
94:
* * *
勇者「……」
剣士「勇者。目閉じながら歩くのやめて。ちゃんと起きてっ!
 これから森に入るんだよ、魔族と遭遇するかもしれないんだよ。しっかりして!」
 
勇者「おきてるよ……」
剣士「起きてないでしょ!焦点合ってないからね?虚ろな目しすぎ。
 あ。おはよう狩人ちゃん」
 
狩人「おはよう」
勇者「おはよう。じゃあ、森に入ろうか」ゴン
剣士「ちゃんと前見て!それ木!!」
95:
ザカザカ ザカザカ
勇者「もう森の半分くらいまで来たかな」
狩人「多分」
剣士「そろそろ魔族が出てくる頃かな。大分奥まできたよね」
狩人「……!」ピク
狩人「伏せて」サッ
剣士「え? っうあわあああああ!?」
ビュッ ――ドッ!
狩人「魔族……!!」ニヤ
<ゴブリンABCが襲いかかってきた!>
<魔鴉が空から襲いかかってきた!>
狩人「あはっ……」
剣士「うわっ!敵だ!よし、行くよっ」
狩人「……」ビュッ
剣士「はぁ!――っあぁぁぁ!?」サッ
<狩人の攻撃!ゴブリンにダメージを与えた!>
剣士「わ、ああ、今、矢が頬を掠めたよ!あ、あ、危ないじゃん!ななななにするの?」
狩人「問題ない。当たらないように射った。剣士には」
剣士「で、でも今びゅって!びゅって聞こえた!耳元でっ。避けなきゃ当たってたよお」
狩人「避けなくてもよかった。ちゃんと剣士の1cm横を通過するように射った」
剣士「1cmって!!近いわ!!」
勇者「二人とも……敵を背にして喧嘩をしだすのはやめてくれ」
剣士「あっそういえば魔族は!?」
勇者「もう片付けた」
96:
勇者「それにしても狩人の弓術はすごいね。王都の弓兵にも劣らないんじゃないかな」
狩人「本当に!?」
勇者「え!? う、うん。嘘じゃない」
狩人「……私はお母さんの病が治ったら、王都に行って弓兵になる。つもり」
剣士「へー!そうなんだ」
狩人「それで……魔族を一匹残らず串刺しにするのが、夢」ニッコリ
剣士「へー!すっごいいい笑顔!眩しいや!」
勇者「どうして?」
狩人「……?」
勇者「どうしてそう思うの?」
狩人「……理由なんて、ない。強いて言うなら敵だから。それだけ」
狩人「先を急ぐ」スタスタ
97:
山頂
狩人「あ……あった! これがあれば……」
剣士「これがゲッカソーなんだ。きれいな草だね。苦そう」
狩人「月下草」
剣士「ゲッカソー」
狩人「……」
勇者「無事見つかってよかった。じゃあ、山を降りよう」
ザッ……ザカザカ……
勇者「……?なんだ?村の人か……?」
狩人「それはない。魔族がでるのに、こんな森の奥まで来る無鉄砲で無謀な人間は私たちだけ」
剣士「ええー」
勇者「とすると」
ハーピー「…………!!」
勇者「……魔族か」
ハーピー「ewakgw! fjewoi!!」
剣士「な……なに??」
狩人「魔族だ。ふふ」サッ
勇者「下がって二人とも」
剣士「勇者こそ下がって。わわっ私が守るから!」
98:
ハーピー「kfoepaf! jiwofmslkv!!」
勇者「……? 狩人、ちょっと待ってくれ。なんか様子がおかしい」
勇者(なんだ?威嚇じゃない……。どこを見ている? 月下草を見てるのか?)
狩人「何故止める?勇者」
剣士「あっ 来るよ!」
<ハーピーが襲いかかってきた!>
<ハーピーは空高く舞い上がった!>
勇者「!」
<ハーピーの かまいたち!>
<勇者たちにダメージを与えた!>
剣士「いたっいたたたたっ」
狩人「くっ……目が」
<再びハーピーの かまいたち!>
<勇者たちは動けない!>
勇者「ぐ、この……っ!」
<勇者は風魔法を唱えた!>
<かまいたちを相殺した!>
ダッ タタンッ!
狩人「よし」
99:
ハーピー「jfrioe!」
勇者「また来るぞ。もう一回僕が相殺するからその間に狩人、君が――」
勇者「あれ!?いない?一体どこに……」
剣士「あ……あの木の上」
狩人「勇者が魔法を使う必要はない。もう終わる。目を潰す」
狩人「……あはっ」
<狩人の攻撃! ハーピーの右目に矢が突き刺さった!>
ハーピー「ギャアアアァァァァァッ」
100:
<ハーピーは大きくよろめいた!>
剣士「!! 今なら届く……っ!」
<剣士の攻撃!>
剣士「………………っう……!?」ピタ
剣士(涙…………!? まさか……)
狩人「剣士っ なにをして……」
ハーピー「ギャアアッ!ギャアアアア!」バッサバッサ
勇者「危ない!」グイッ
<勇者の風魔法! ハーピーの首を斬り落とした!>
<ハーピーを殺した。>
剣士「あっ……!」
101:
ビチャビチャビチャッ
……ゴトッ ドサッ
剣士「あ……あ」
狩人「勇者、血まみれ。すぐ拭いた方がいい。魔族の血にどんな毒があるか分からないです。傷口から感染したらまずい。です」
勇者「……。ああ、そうだね。これじゃ里の人たち驚かせちゃうな。
 あと二人ともさっきのでできた傷、治癒魔法で治すから……」
 
勇者「剣士、大丈夫? 足でもくじいた?」
剣士「……」
勇者「剣士?」
剣士「!!」ビク
勇者「……」
剣士「えっあっ……ご、ごめんね。なんでもない!私はどこもけがしてないよ」
剣士「草は手に入ったんだし、もう森を出ようよ。早く狩人ちゃんのお母さんに薬飲ませてあげたいし、ねっ!」
勇者「……うん」
勇者「そうだね」
102:
* * *
狩人母「はーアカンこれもうアカン。もう死ぬ。死ぬな。みんな元気でな」
狩人父「母ちゃん死ぬなーー!! ええい狩人はどこに行ってる!!母ちゃんの今際の時だぞ!!」
狩人母「あのな、夜の花畑にいまおるわ。月はないけど花が光っててきれいやわ。
 そんでフードで顔隠した子どもがカンテラもって向こうから歩いて来とる。お迎えやな……」
 
狩人父「かあちゃーーーーーーーん!!あかんで行ったらアカンで!!」
バーーン
狩人「お母さん!」
狩人父「おう娘!どこ行っとった!母ちゃんにあいさつしい!!」
狩人「その必要はない」ズボ
狩人母「ガボッゴボゴボゴクッ」
狩人母「あれま!体が軽い!私治ったん!?」
狩人父「か、母ちゃん!狩人、お、お前さっきの薬をどっから!?」
狩人「お母さん……よかった……」
勇者「結構きわどいタイミングだったな……」
剣士「ま、間に合ってよかったね、ほんと」
狩人父「なにい!?この子たちと一緒に森の奥の草とってきたあ!?
 バッキャローお前なんてあぶあぶあああぶないことしやがってんでい!」
 
狩人父「しかしでかした!勇者くんに剣士ちゃん!協力してくれてありがとなっ!!
 今日は母ちゃんの快気祝いで宴会やっから二人も参加してくれよな!!」バシバシ
 
狩人母「病み上がりレベルマックスだけど私が腕によりをかけて料理を作るわよ。食べていきんしゃい」ガバッ
狩人父「ちょっと肉獲ってくる!!!俺の大弓どこだあ!!」
狩人「……ここ」
剣士「あの二人の中でどうして狩人ちゃんがそんな寡黙に育ったのか、とっても不思議だな、私」
勇者「同感だ」
103:
* * *
翌日
剣士「んーっっ いい天気!」
剣士「次はー、木漏れ日の町だね。どんなところかなー。木がいっぱいあるのかなー」
勇者「狩人いなかったね。最後にあいさつしてこの里を後にしたかったんだけど」
剣士「ね。たくさんいろんなところ捜したのに。家にもいなかったし……
 しょうがないから置き手紙してきたけど、ちゃんと顔合わせてお別れしたかったな」
 
勇者「まあ、仕方ないね。
 さ。今回は迷わずに次の町に行くぞ。方角は……間違えてないな。このまま真っ直ぐだ」
 
剣士「そうだね!今日は迷わずに行けそうだね」
 「……隣の町はそこを真っ直ぐじゃなくて、右」
 
勇者「えっ!」
剣士「狩人ちゃん!」
狩人「というかそこの看板にもそう書いてある。何故真っ直ぐ行こうと思ったですか」
剣士「狩人ちゃんもしかして仲間になってくれるの!?わーいやったー!!よろしくね!!」
狩人「違う。私は王都に行きます」
勇者「弓兵団の入団審査を受けに?」
狩人「そう。でも、それまで一緒についていく」
 
勇者「嬉しいけど、いいの?お母さん病気から治ったばっかりじゃないか」
狩人「うん。もともと旅立つつもりだった。
 ……別に二人が心配だからという理由じゃないです。特に地理面に関して心配すぎるなんて思ってないです」
 
剣士「私たちのこと心配してくれてるんだ!ありがとう狩人ちゃん!」
狩人「だから違う」
勇者「ありがとう。心配してくれて」
狩人「違う!」
<狩人が仲間になった!>
104:
* * *
狩人「あそこ。木漏れ日の町。つきました」
勇者「……」
剣士「……」
狩人「?」
勇者「はっや」
剣士「こんな短時間で次の町についたの初めて」
狩人「これが普通……二人が時間かかりすぎ。頭おかしい。かわいそうです」
勇者「狩人って時々抉るような毒舌になるよね」
剣士「あーっ 見てみて二人とも!あっちに薄ら見えてるのって、太陽の塔?私初めて見た!」
勇者「ああ、本当だ。もうここからでも見えるのか。結構進んだな」
狩人「勇者はあそこに行くのですか」
勇者「そうだよ」
狩人「遠い……」
勇者「遠いんだ」
狩人「頑張って……」
勇者「その憐みに満ちた目をやめてくれ。地図もあるから迷わず行けるって」
105:
木漏れ日の町
がやがや がやがや
剣士「? なんかさ、そんなに大きい町じゃないのに賑やか?だね?」
勇者「なんだろ」
勇者「あ。あそこの馬車にかかっている旗、王都騎士団の……?」
勇者「まさか、」
剣士「……!」
ヒュッ!!
剣士「勇者っ 危ない!」バッ
勇者「!?」
ガッ!
キィン!!
勇者「…………」
??「…………ふむ」
剣士「だれ?いきなり斬りかかるなんて、どういうつもり!?」ガッ
??「ハッハッハッハッハ!これは失礼」チャキ
勇者「本当に、会う度会う度斬りかかってくるのやめてくれ。僕は剣使いじゃないって何度も何度も……」
??「なにを言う!男は剣を握ってこそだ!しかし勇者、しばらく見ないうちに腕が鈍っただろ。
 剣を構えるスピードが隣のお嬢さんより遅かった。せっかく王都で俺が直々に教えてやったのにもう忘れたか!」
 
剣士「え、勇者の知り合い?」
勇者「うん。彼は王都騎士団の副団長を務めていて、僕が王都にいる間に剣を教えてくれた……というか教わらされた?人だよ」
副団長「初めまして剣使いのお嬢さん。それに、そちらの弓使いのお嬢さんも。お会いできて光栄だ」
副団長「ハッハハ!それにしてもいい仲間に恵まれたな、勇者、なあ?
 俺が王都で仲間を募集しておいてやったことが実を結んだな!両手に花じゃないか!」
 
勇者「王都で仲間?一体なんのこと……ハッ!!
 あ、ああ。そうなんだよ。ありがとう」
 
剣士「え?違うよ? ね、狩人ちゃん。私は勇者と同じ村出身で、狩人ちゃんは隣の弓使いの里で仲間になったんだよ」
狩人「……」コク
剣士「王都では勇者の仲間になりたいって人、一人もいなかったんだよ。圧倒的ゼロ人だったよ」
副団長「な…………なんだと?」
勇者「だっ、ば、剣士、シーッ!!」
106:
剣士「へ? なんで?」
副団長「ウ……ウオ……うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!なんったることだああああああああっ!!!!」
剣士「」ビク
副団長「せっかく勇者の旅立ちを彩ってやろうと思って根回ししといたのに、よもやそんなことになっていたとは!!
 くそっっ!!すまんな勇者!!お前がどんな気持ちで王都を後にしたか察するに余りある!!」
 
勇者「いや大丈夫だから気にしないで」
副団長「大丈夫なわけ、あるかぁぁぁぁああっ!!!!!
 俺がこんなザマだからあの魔術師にも『ミスター裏目野郎』などと馬鹿にされる!!!しかし的を射ているッ!!!言い返せないッッ!!!!!!」ピュー
剣士「いっ!? ち、血がでてるよ!」
勇者「副団長。また血圧上げすぎて米神の血管ぶち破ってるよ。治癒魔法」
狩人「……」
副団長「ハァッ……ハァ……アアアアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!」
副団長「ところでこんなところで会うとは思わなかったよ。もうとっくに太陽の塔に到達しているかと」
副団長「さては道に迷ったな? ハハハ。初めての旅だからな、そうなるのも無理はない」
 
剣士「副団長さんの情緒と血圧がとっても心配!」
狩人「多分二重人格者か何か。と思う」
勇者「違う違う。熱しやすく冷めやすいだけだから」
副団長「言葉の意味が違うぞ、勇者!」
107:
勇者「どうして副団長がここに?」
副団長「ああ。なんでもな、この町が夜に吸血鬼に襲われていると報告があって、様子を見に来たんだ」
狩人「吸血鬼……それって」
副団長「そう、魔王の部下の四天王だ。しかし、報告を聞く限り奴じゃあないらしいな。あいつはまだこっちに入ってこれないんだろう。
 でも、ま、警戒しておくに越したことはない。ここは国境にも近いしな」
 
副団長「ここの領主に属してる騎士団も警護にあたってるが、俺らからも何人か腕の立つ者を置いておくことにした。
 俺は一週間くらいしたら王都に帰らなければならないけどな」
 
副団長「少し心配だったが、お前がちょうどいまここに訪れてくれて安心した。
 しばらくここにいてやってくれないか、勇者。町の人々も不安がっているんだ」
 
剣士「でも、塔に急いで行かなくちゃいけないんじゃないの?」
副団長「塔のことなら、三勇士が守ってくれている。それよりもこの町の吸血鬼の方が厄介だ。
 俺が滞在してる一週間のうちにいっそ襲ってきてくれればいいんだがなぁ。全員斬ってやるのに」
 
 
副団長「ところでまた話が変わるが。剣士くん。君の剣術は独流かい?」
剣士「ちがうよ。お父さんに教わったんだよ」
副団長「ふむ、そうか?それは失礼。しかし、少し変わった流派だな。
 よければこれもまた修業だと思って、違う流派の剣を習ってみないか? 女騎士、ちょっとこちらへ」
 
女騎士「はい、なんでしょう?」
副団長「彼女は女性ながら騎士団でも十本の指に入るほどの剣の使い手だ。彼女に剣を習うといいよ。
 剣は……木刀か。それなら女騎士、剣士くんに合う剣を武器屋で一緒に選んであげてくれ。
 この先魔族との戦いでは真剣が必要になってくるだろうからな」
 
女騎士「了解しました」
勇者「いや。せっかくだけど必要ないよ」
剣士「えっ?」
108:
副団長「どうしてだ?勇者。彼女は君の仲間だろう?」
勇者「副団長。君が帰るときに剣士を王都まで連れていってあげてくれないかな。
 それで村まで無事に帰れるよう馬車を手配してくれないか」
 
副団長「それはお安い御用だが」
剣士「勇者、勝手なこと言わないで。私はっ」
勇者「最初からそういう約束だっただろ?」
剣士「で、でも!」
勇者「剣士……無理しなくていいんだ。本当は怖いんだろ?」
勇者「魔族とは言え生き物を殺すのが。血を見るのが。肉を斬り裂くのが。
 ここで引き返さないと、もっとひどいものを見ることになるよ」
剣士「怖くなんて――ないよっ。私はちゃんと覚悟してきた!」
勇者「怖くていいんだ。剣士はそのままでいい。君は剣なんて握る必要ないんだから。
 大丈夫!安心して村で待っててくれよ。ちゃんと魔王を倒して帰るからさ」
 
剣士「でも……」
勇者「剣士」
剣士「……分か……った……」
勇者「うん」
109:
勇者「狩人はどうする?王都へ行きたいんだったよね」
狩人「私は、せっかくだから、もうちょっと協力します。勇者に。恩人ですから」
勇者「そっか。助かるよ」
副団長「俺は余計なことしてしまったかな。まあ、そういうことなら責任持って剣士くんを送り届けるよ」
女騎士「副団長。あちらで領主の騎士団長が呼んでます」
副団長「おっといけない! ゆっくり昔話してる暇もないな。じゃあな、勇者。それに剣士くん、狩人くん。ハッハッハッハ」
女騎士「では、失礼します」
110:
宿屋
剣士「……ハァ」
狩人「ため息」
剣士「そう。ため息」
狩人「どうかしたの。ですか」
剣士「……狩人ちゃんともせっかく友だちになれたのに、お別れだね」
狩人「友だち?」
剣士「えっ。ち、ちがう? ごめんね!なんでもない!」
狩人「いや……別に……いい」
剣士「ほんと? ありがと」
狩人「……う」
狩人「……ところで、あなたは向いてないです。戦うの。やっぱり王都に帰った方がいい」
剣士「む、向いてないなんて。これでも前より剣の腕上がったんだよ。最初は敵に当てるのすら難しかったんだから」
狩人「そういうことではない。心の問題」
狩人「里ではみんな狩りの最初に教わる。獣に一瞬でも怯んじゃだめ。こちらが死ぬって。
 あなたは本当は怖いと思ってる。獣も魔族も。警戒は必要、だけど恐怖はだめ。です」
 
剣士「……分かってるよ。……それに、あのときはっ!あのときは……怖いとかじゃなくて、
 あのハーピーが泣いてたみたいに見えて、表情があるように見えて」
 
剣士「まるで人間みたいだなって思ったら……腕が動かなかった。怖いのも……あるかもしれない、けど」
狩人「人間みたい? それはない」
剣士「見間違えかな……」
狩人「多分そう」
狩人「吸血鬼は町の西から来るみたい。少し歩いたところにある西の修道院に、私と勇者は明日から滞在する」
剣士「じゃあ明日でお別れだね」
狩人「……」コク
剣士「勇者を、よろしくね」
狩人「はい」
111:
* * *
勇者「じゃあ剣士。副団長が君を村まで送り届けてくれるから。元気でね。村のみんなによろしく」
剣士「うん、ちゃんと伝えておくね。勇者も狩人ちゃんも、元気で」
狩人「さようなら」
剣士「さようなら……。 勇者、私待ってるからね。早く帰ってきてね」
勇者「ああ。できるだけ早く帰るよ」
狩人「道に迷わなければいい」
勇者「うっ、そうだね。その通りだ」
剣士「……あはは」
勇者「それじゃあね、剣士」
剣士「うん。行ってらっしゃい」
剣士「……行っちゃった……」
剣士「これでいいよね」
112:
剣士(二人の後ろ姿がどんどん小さくなって、森に消えちゃった)
剣士(もう見えない)
剣士(……でもこれでいいよね! これが一番正しいよ。だって私なんて足手まといにしか、ならないもんね)
剣士(私は狩人ちゃんみたいに、小さいときから弓を扱ってたわけじゃないし。
 勇者みたいに神様に選ばれて特別な力を使えるわけじゃないし)
 
剣士(ただの田舎娘だもん。畑耕すくらいしか能がない、ただの田舎娘。剣なんて、剣なんてさ!
 最初から無理だったんだよ、私には)
 
剣士(私は2年間で全然強くなれなかったけど、勇者は変わっちゃったんだ。
 首を魔法で切り落として……血を浴びても平気な顔して……昔は虫を殺すのにも戸惑ってたのに)
 
剣士(無理だ。私には。今でもあのハーピーの顔と死体を思い出すと吐き気が……)
剣士「だからさ……私は勇者に言われた通り、村で大人しく待ってればいいんだって!」
剣士「勇者はちゃんと帰ってくるよ。帰ってきたら『おかえり』って言って……『お疲れ様』って言ってあげて」
剣士「…………だから全部これでいいよね! これが一番正しいんだ、きっと」
剣士「これで……いいんだよ」
113:
剣士「……」
剣士「……」
剣士「……」
剣士「………………………………いいわけあるかぁっっ!!!!」
バタンッ!!
114:
ダッダッダッ……
剣士(正しいとか正しくないとか知るかっ 私そういうのよくわかんないし!宿題いっつも勇者に見せてもらってたし!)
剣士(正しくなくても、そんなのどうでもいい。強くないなら強くなればいいよね!)
剣士(だって勇者も……勇者は隠しごとが上手なだけで、本当は……)
剣士(だからっ だから私はーー!!! 私は勇者のっ、!!)
剣士「いた!!!」
男「お待たせしました。ハーブティーでございます」
女騎士「ありがとう。……ふむ、なかなか美味しいな」
女騎士「いい雰囲気の店だ。一人でこうしてゆっくりするのも悪くないな。明日から任務だけど……」
女騎士「窓際の席は眺めがよくていい。行きかう人を見ていると飽きないな」
女騎士「……美味しい」
剣士「女騎士さんっっ!!!!!」バターン
女騎士「ブッ!!」ビチャ
女騎士「……」ボタボタ
剣士「剣。教えてください」
女騎士「……何故だ。何故窓から話しかけてきた」ボタボタ
剣士「理由ですか?」
剣士「……私、勇者のそばにいたいんです」
女騎士「いや。そちらの理由ではない」ボタボタ
115:
女騎士「まあいい。そっちの理由も聴こう」
女騎士「何故剣を欲する。何故勇者のそばにありたいのだ」
剣士「魔族って、強いよね。じゃあその上の四天王はもっと強いよね。トップの魔王はもっともっと強いんだよね」
女騎士「だろうな」
剣士「それ全部倒さなくちゃいけなくて、殺さなきゃいけなくて、自分も傷つかなきゃいけなくて
 そういうの結構辛いと思うんだけど……!」
 
剣士「私は逃げられるけど勇者は逃げられないんだよ。悲しくても痛くても、全部やめたくてもそうすることを許されない。
 神様に選ばれちゃったから。魔王を倒すのは勇者しかできないことだから」
 
女騎士「ふむ」
剣士「そんなの余裕でやってやりますよーって顔してるけど、勇者だってこわいはずなの!
 勇者は隠しごとが上手いだけなの。昔からあり得ないほど異常なレベルで上手なんだから」
 
剣士「でも勇者はきっと逃げずにやり遂げるよ。何にも言わないで、一人で抱え込んだまま
 だから私は勇者のそばにずっといて、せめて悲しいのも怖いのも減らしてあげたいんです!!」
 
剣士「そのために強くならなくちゃいけないの! 剣を教えてください!!!」
女騎士「…………」
女騎士「……」ゴシ
女騎士「おっしゃ! よしきた!! 武器屋に行くよ!!」クイ
剣士「うんっ!ありがとう!」
女騎士「まかせて。あなたの背中を見て勇者殿が惚れるくらい、世紀末にしてあげる」
剣士「うんっ!お願いします!」
116:
* * *
狩人「……ん。前方に老婆1体」
勇者「え?よく見えるな。 でもそんな敵みたいに言わなくても」
老婆「おやおや。どうなすったかねお若いの。あんたたちも教会へ?」
勇者「ええ。あなたもですか」
老婆「そうさ。よかったら道案内するよ。わたしゃ行き慣れてるからね」
勇者「ぜひお願いします」
117:
修道院
老婆「もし。僧侶さん」
僧侶「ああ、はい。ミサにいらした方ですか?どうぞ中へ――」クル
僧侶「……」
老婆「ヒッヒ。よくやってるようじゃの」
僧侶「んだよ、ババアかよ。愛想振る舞いて損した。チッ!!!」
老婆「全く口の悪さは相変わらず変わらんの」
僧侶「神父がうるせーんだ。それよりババア、聞きたいことがある」
老婆「なんじゃ」
僧侶「な!ん!で!!! 最近女の子がここに来ないんだ!?!?」ダン
僧侶「来るのはオッサンかジジイかオスガキか、どっかから来た偉そうな騎士とあんたみたいなババアばっかり!
 ここは男子修道院だから右見ても左見てもむっさ苦しい男ばっかりで俺は気が狂いそうだ!!」
 
僧侶「ねええええええ女の子は!?なんで女の子いないのお!?そろそろ俺の目が腐り落ちるぞ!!鼻ももげるぞ!!」
老婆「女の子ならお前の目の前にいるじゃろ」
僧侶「ババア、そういう冗談言うと墓場につっこむぞ」
老婆「ヒヒヒ、あと半世紀は生きてやるわい。
 女子はのぉ……あれじゃろ。吸血鬼騒ぎで若いお嬢さんはここに来るのこわがっとるんじゃろ」
 
僧侶「んだとぉ……!!!」
僧侶「今すぐ化け物どもをぶっ殺してきてやる!! にんにくを体の穴という穴にぶち込んでやるよ!!! アーメン!!!」
118:
老婆「ん。そう言えば確か、さっき一緒にここまで来た勇者の仲間が若い女子じゃったのお」
僧侶「勇者?仲間? 吸血鬼の一件で?」
老婆「そうじゃよ。物静かでキリっとした子じゃったな」
僧侶「それ早く言え、ババア!!! 吸血鬼万歳!!ちょっくら見てくっからミサは頼んだぞ!!」
老婆「頼んだぞと言われてもな……」
ダダダダダダダダダッ
後輩「あれ?僧侶さん。ミサの準備は終わったんですかっグボエ!!」
僧侶「おい聞いたか 勇者とその仲間のかわいい女の子が来たらしいが、一体いまどこに!?」
後輩「え。ゆ、勇者様ならいま神父様とお話中で――」
僧侶「っしゃー!行くぞオイ!!」グイ
後輩「えええええええええ!?いやっ僕はまだ仕事がありまずがらー!!ばなじてぐだざいいい」
119:
神父「ええ。そういうことでしたら、いくつか空いてる客室がありますから、そこをお貸しします。
 騎士団の方たち全員に貸せるだけの空室はなかったので、あの方たちには町の宿屋を借りてもらってるんです」
 
勇者「助かります」
狩人「吸血鬼……本当に」
神父「はい。幸いまだ犠牲者がでてませんが。だんだん数が増えているのでこちらも戦々恐々といった状態です」
狩人「吸血鬼……ふふ……あはっ」
神父「彼女、だ、大丈夫ですか……?」
勇者「大丈夫です。いつもこんな感じです」
キィ
後輩「ちょっ 先輩!覗き見とか止めた方がいいですって!神父様にばれたら僕まで怒られる!止めましょうよー!」
僧侶「どこだ女の子!くそ、神父どけっ!てめえが影になって見えねーんだよ!」
後輩「聞いちゃいねえ……」
僧侶「そう、そうだ屈め神父!! う、うおおおお、おおおおお!?」
僧侶ビジョン
狩人「あははっ……魔族早く串刺しにしたい……うふふ」ニコッ
僧侶「うおおおおおおおおおおおおおお女の子っぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
バターンッ!!
120:
神父「!? 僧侶!? お前、なにして……」
後輩「せせせ先輩なにしてんだアンタ!」
勇者「えっ?」
僧侶「仲間にぃぃ」
スタスタ
僧侶「してくだっ」
スッ
僧侶「さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいッッ!!!!!!」
ズサーーーーーッッ
<僧侶が襲いかかってきた!>
<勇者たちは身がまえた!>
僧侶「いや敵じゃねえよ!!仲間にしてくださいっつってんだろ!!」
121:
僧侶「君なんて名前? 弓背負ってるけど弓使いなの?へえすごいなあ!俺は僧侶、聖職者だ。よろしく!末永くよろしく!
 ん?なんだなんだ、もしかして弓の腕前を見せてくれるのかな?矢を番えて……そうか!」
 
僧侶「ならあの壁の十字架の真ん中射ってみれくれよ。 いや違う違う、俺の方じゃなくて、あっち。
 あれぇなんで俺の方に弓振り絞ってるんだい? ハッ!!あなたのハートを射止めたいとかそういうメッセージ!?」
 
僧侶「もう射とめてる!射とめてるから安心してくれ!!物理的に射らなくていいから!」
 
神父「僧侶!お前は一体お客さんになにをしてるんだ!口説くのをやめんさい!このバカたれが!!」
勇者「な、なんだ……? とりあえず……弓を下ろそう、狩人」
狩人「いや」
神父「申し訳ない。こいつがとんだ失礼を。ほら僧侶、挨拶しろ。勇者様に狩人様だ」
僧侶「勇者だぁ〜〜〜?」
勇者「よろしく」
僧侶「チッ 男かよ。視界から消えろ。性転換して出直してこい」ペッ
勇者「…………」
勇者(すごいな……修道院って貞潔・清貧・従順の三誓願を立てて生活してるって聞いてたんだけど
 世の中にはいろんな人がいるんだなぁ……)
 
神父「勇者様、違いますよ!!修道院でこんな煩悩馬鹿、この男だけですからね!!誤解しないで下さいね!」
125:
* * *
狩人「……」
勇者「きれいだよね、ステンドグラス」
狩人「ん……」
僧侶「いや、狩人ちゃんの方がきれいだよ」ニッコリ
勇者「うわあっ!! いつの間に僕たちの横に……」
僧侶「よかったらこの後デートでも、」
老婆「こら僧侶。お前はまた女子にデレデレしおってからに」ボコッ
僧侶「いってっ なんだババア、今日も来たのか? 毎日毎日ご苦労なこって」
勇者「あ、この間の」
老婆「どうも勇者様。それに狩人さん、全くこの阿呆が迷惑かけてすみませんねえ」
狩人「……」
老婆「この僧侶は昔ここらへんで行き倒れてるところをわしが拾ったんですわ。
 帰るところがないっていうんで修道院で修業を積めばいいって言ったんですがねぇ、どうも向いてないみたいで」
 
僧侶「向いてないってなんだよ、バリバリ適職だろ」
老婆「白魔法用のロッドも勝手にこんな風に改造して……」
勇者「ウワー、なんで釘やらトゲやら刺さってるんだい」
僧侶「釘ロッドだ。いかすだろ?」
老婆「全く、昔はなにをやってたんだか」
僧侶「余計なこと狩人ちゃんの前で言うんじゃねーよっ!ごめんな狩人ちゃん、なんでもないから!!」
狩人「触るな」パシ
126:
勇者「へえ。どうりであんまり聖職者っぽくないと思ったよ」
僧侶「うるせえよ。殴るぞ」
老婆「まあ……こんなアホみたいな馬鹿だが」
僧侶「おいっ!いい加減にしろ!」
老婆「これでも結構真面目なところはあるんでねぇ、ヒッヒッヒ……
 老い先短いわしの唯一の楽しみが、ここに来てこいつをからかうことなんじゃ」
 
老婆「吸血鬼退治しっかりやるんじゃぞ。じゃあわしは帰る」
僧侶「二度と来なくていいぜ」
勇者「あっ、おばあさん……町へ帰るんですよね」
老婆「そうじゃ」
勇者「町、の……よ、様子はどうですか」
老婆「? いつもと変わらんの。あの騎士団の副団長がやけに大声でうるさいわい」
勇者「そ、そうですか。……いや、なんでもないんです」
僧侶「やっと帰ったか。全く……」
勇者「仲いいんだね、あのおばあさんと」
僧侶「フンヌッ」シュッ
勇者「うわっ!? な、なにするんだよ」
僧侶「ほう、俺の不意打ち目つぶしを避けるとはな。やるじゃねーか」
勇者「躊躇なく恐ろしいことしようとしないでくれ。目がつぶれたら魔王討伐どころじゃないって。だからやめ……やめろ!ストップ!」
勇者「ちょっ……狩人止めて!かり……」
狩人「……」スヤスヤ
勇者「寝ちゃったよ!マイペースだな!」
127:
* * *
勇者「なかなか吸血鬼来ないな」
狩人「早く来てほしい」
神父「大体1,2週間に1回のペースで襲撃してくるので、もうそろそろだと思うんですよ」
勇者「吸血鬼って一体どんな連中なんですか?鬼族の中でも知性が高い魔族だと聞いてますが」
神父「知性はあまりないですね。言葉も話しませんし、ただ人を見たら襲いかかってくるだけです」
勇者「……?おかしいな。本当に吸血鬼なのかな」
勇者「外見はどういう……」
ガランガランガラン
騎士「奴らが現れたぞー!森から一斉に下りてくる!!迎え討てー!」
がやがやがや がやがやがや
狩人「……! きた……」サッ
神父「おっときましたね。では私も戦わなくては」チャ
勇者「神父さんも戦うんですか?」
神父「勿論ですよ。これでも結構鍛えてるんです!!ほらっ見てください!この上腕二等筋!! さあ行きますよ勇者様!狩人様!」
勇者「あれ?この修道院ってもしかして肉体派ばっかり?」
狩人「もたもたしてると置いてくです、勇者」
勇者「あ、うん、今行く……」
128:
ズバッ バキッ ゴスッ
騎士「はぁッ せいッ! 来たな魔族め!返り討ちにしてくれる!」
モブ僧侶A「うおおおお!援護しますぞ騎士殿ー!」バキッ
騎士「え、えええっ!? なに前線でてきてんですか!? できれば後方で回復魔法でサポートしてほしいのですけども」
神父「フンッ!! さあ騎士様、背中は私めがお守りしますぞっ!!」ブンッ
騎士「いややる気満々ですか……なんだここの修道院……」
吸血鬼「グァアー アァー……」
僧侶「また来たのか。こりねえ奴らだな」ゴシャ
僧侶「てめーーーら自分がなにしでかしたのか分かってんだrrrろぉな!!アァン!?冥府でその罪償えチクショウ!!」
狩人「……たくさん……」バシュバシュバシュ
勇者「あれが吸血鬼か。すごい数だな。でも吸血鬼っていうよりは……」
勇者「…………まあ……気のせいだろう。僕も加勢しなくちゃ」
129:
騎士B「数が多い、とにかく囲まれぬよう気をつけろ!」
神父「今晩は一段とまあ大勢でいらっしゃいましたねえ!全く嫌になりますよ!」
騎士C「副団長はまだか!?」
騎士A「どんどん山から湧いてくるな……一体どこに潜んでいたんだ?しかしここを突破されたら向こうには町があるんだ、なんとか全部殺せ!」
騎士B「…………長期戦になりそうだな、――おうわっ?」
バチバチバチバチッ ドォォーーーーン!
騎士C「なんだっ!?」
神父「おお……!これが……」
騎士B「勇者殿か。すっげぇな、一気に10体も消し炭だ。俺たちも負けてらんねぇな」ズバッ
騎士A「これなら思ったより早く終わりそうだな!ふう、どうなることかと思ったぜ」
神父「まだ一息つくには早いですぞ!」バキッ
勇者「あれっ……吸血鬼って不死身じゃないのか? 起き上がってこない」
狩人「……」コク
勇者「意外と早く終わりそうだけど……」
勇者(なんでだろう、嫌な予感がするな)
ザワ……ザワザワザワ
狩人「…………!!」
勇者「狩人?」
狩人「後ろ!」
勇者「え?」
130:
<吸血鬼ABCDEが襲いかかってきた!>
<吸血鬼FGHIGが襲いかかってきた!>
<吸血鬼・・・
勇者「なに!? こっちからも……!」
僧侶「なんだなんだ、挟み撃ちか?今日は珍しく知恵が効いてんじゃねーか!!」
狩人「……」
僧侶「あっちはジジ……神父と騎士の奴らがどうにかするだろ。俺はこっちに加勢するぜ」バキボキ
後輩僧侶「僕もやりますよ先輩」
僧侶「ん?狩人ちゃんどうしたんだ?俺が守るから大丈夫だ!怖がらなくて平気だって!!」
<僧侶の攻撃!吸血鬼Aにダメージを与えた!>
狩人「あっちは、……」
勇者「まさか……うそだ」
狩人「……町の方角……」
131:
僧侶「……は」
僧侶「…………いやいや、じゃあなんだ、こいつら全員町の住人だってのか?あり得ないだろ!」
後輩僧侶「吸血鬼って、噛まれると、どうなるんでした、っけ……」
僧侶「ど……どうにもなんねーよ!馬鹿言ってる暇あるならさっさとこの化け物倒すぞ!」
勇者「…………どっちにしろ倒さないと、僕たちは全滅だ。逃げ場はない」
狩人「元はどうあれ今は怪物。やらなきゃ死ぬ」ヒュッ
僧侶「……く」
僧侶「こんなところで死んでたまるか!全員化け物だ、怪物だ、敵だ!死んじまえっ……!!」
<僧侶の攻撃!吸血鬼Cに 
僧侶「…………!!」
吸血鬼C「ガァアアアッ」
僧侶「…………お……おい」
狩人「危ないっ! 退いて!」ヒュ
僧侶「てめえ、化け物、お前その十字架、どこで拾ったんだ」
僧侶「それは……あのババアの……」
僧侶「……」
僧侶「嘘だろ……!?」
132:
勇者(じゃあやっぱりこの吸血鬼たちは本物の魔族じゃなくて、元は人間……おかしいとは思ってたけど、まさか)
勇者(…………町にはまだ……剣士がいるはずなのに……)
勇者(い、いや、副団長がそばにいてくれてるはずだ。いまは集中しないと)
僧侶「おい勇者!おいっ」
僧侶「なあお前、さっきから妙な術使ってるだろっ、こいつら全員人間に戻す魔法くらい使えるだろ!?」
勇者「……そ」
勇者「そんな方法は……」
僧侶「お前勇者なんだろ!?王様からも認められてすごいんだろ!?なあ!」
勇者「……そんな魔法はない。もうこうなったら、……殺すしか方法がないんだ」
僧侶「…………ッ」
勇者「殴って落ち着くなら殴ってくれ」
後輩僧侶「先輩!」
狩人「こんなときに喧嘩はやめて、二人とも……」
僧侶「……くそっ!」
僧侶「おい、勇者。その腰の短剣貸せ!」
<後輩僧侶の攻撃!吸血鬼Gにダメージを与えた!>
後輩僧侶「くそ、痛みを感じてないから中途半端に攻撃してもすぐ起き上がってくる」
吸血鬼「ガアアアア!」ガブ
モブ僧侶「う、うわああ!」
モブ僧侶「あ……アッ……ガ……」
後輩僧侶「へ?」
モブ僧侶「ガアアアアアア」
後輩僧侶「ぎゃああああああああ!!」
ドスッ!
後輩僧侶「あ……あ」
狩人「だから心臓を射とめないと、だめ」
後輩僧侶「は……はりひゃとう……」ガクガク
133:
僧侶「ババア……くそ、なに吸血鬼に噛まれてんだよ。あと半世紀は生きてやるって言ってただろ」
吸血鬼C「アァァァァァァァ」
僧侶「ふざけんな、クソババア。いっつも勝手なことばっかしやがって……ふざけんなよ!
 俺は生きるぞ、あんたを殺して俺は生きる……!!こんなところで死なねーぞ俺ぁ!!」
僧侶「心臓一突き……だったな。安心しろ、一瞬であの世に送ってやる」
僧侶「面合わせりゃババアとしか言えなかったけどよ……! これでも、感謝はしてたんだぜ」
僧侶「…………今までありがとよ、ばあさん」
僧侶「……」
<僧侶の攻撃!>
<吸血鬼Cを殺した。>
134:
<勇者は雷魔法を唱えた!>
<吸血鬼JKを殺した。>
勇者(騎士団の制服を着た吸血鬼もいる。町はいまどんな状況なんだ)
勇者「……っ!?」バッ
勇者(い……いま、吸血鬼の群れに、ショートカットの、茶色の髪の、……)
勇者「み、見間違えだ。きっと。そんなはず、ない」
勇者「……」
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン
後輩僧侶「勇者様!! 前っ!!」
勇者「……はっ……」
吸血鬼「ァア……グ」
勇者「!」
―――ズバッ!!
 「呼んだ? 勇者」
 
 
勇者「……!? なっ……」
剣士「助けに来たよ」
勇者「け……んし?」
剣士「うん。私」
135:
勇者「無事だったのか……! よ、よかった……!!」
剣士「勇者も狩人ちゃんも、無事でよかった」
女騎士「はぁはぁ……全くこの子は、勝手に一人で修道院に走っていくから肝が冷えたよ」
狩人「剣士……その剣」
剣士「もう大丈夫、私はあの時みたいに怖気づいたりしないよ。ちゃんと覚悟できたから」
女騎士「町は副団長がなんとかしてくれてる。近くの町からも応援部隊が来るみたい。
 こっちは、えーと山からと町からの敵合わせて100くらい。対して人間の戦力が15……」
 
モブ僧侶「うわっ!か、噛まれ……あああ!!ア……アァ……ガアアアア」
女騎士「……14ね」
女騎士「結構厳しいな。せめてあっちが半分なら……」
勇者「半分……50人か……」
剣士「勇者!」ガシ
勇者「!?」
剣士「何か方法、思いついたんじゃないの?」
勇者「えっ!? いや、いま考えてたところ……だけど」
剣士「ううん、勇者は迷ってるだけだよ。勇者、50『人』って言ったけど、人じゃないよ。
 自我もなにもないの、もう人だったころの記憶も痛みもないんだよ」
 
剣士「……楽にしてあげよう。殺すわけじゃなくて、楽にしてあげるの。だから勇者が気負う必要ないんだよ」
勇者「……」
剣士「それでも君が罪悪感を感じるなら。自分のこと人殺しだなんて思ってしまうのなら、
 ……私が一緒に背負ってあげるから大丈夫。全部大丈夫だよ」
勇者「……。少し見ない間に、随分男前になったね」
剣士「だって君を守るために強くなったんだもん。
 勇者は世界を守ってね。私は勇者を守るから」
 
勇者「頼もしいな。ありがとう」
136:
勇者「女騎士さん、僕が半分引き受ける。修道院の中に入るだけおびき寄せてくれないか。
 ……いや、その必要はないか」
 
勇者「なんだか大体僕のことを狙ってるみたいだ。一人で引きつけるから、頃合いを見て扉を閉めてくれる?」
僧侶「半分を一人でってできるわけあるか!なに言ってんだ!」
勇者「中が少し滅茶苦茶になるけど許してくれ。 じゃあ」タッ
僧侶「あいつ何する気だ……!」
剣士「勇者なら大丈夫だよ。こっちはこっちでやることやんなくっちゃ!」チャキ
* * *
ギイィィィィィ……バタン
僧侶「本当に扉閉めちまったぞ、オイ。いいのか!?いいんだよな!?」
狩人「まかせろと言ってた。だからまかせます」
僧侶「だ、大丈夫なのかよ」
137:
女エルフ「うわあ〜〜、本当に一人でやる気なんだぁ、一体どうするつもりなのかな〜」
女エルフ「まあこれくらいで死んだら勇者も名折れだよね。窓からこっそり覗いちゃお」
女エルフ「……水魔法?なんで水魔法?あれ、もしかして勇者って馬鹿?」
女エルフ「…………ひゃっ!?」
カッ バチバチバチバチッ!!
女エルフ「び、びっくりなんてしてないんだから。な、なななるほどね。水浸しになった床に雷魔法放って一気に全部感電させたんだ。ふ〜〜ん」
女エルフ「あーあ。こりゃ吸血鬼もどきは全滅ね。外にいる方ももうそろそろ全部死にそうだし」
女エルフ「遊び半分でグリフォンの実験に付き合ってたけど、もう終わりか。魔界にかえろーっと」
女エルフ「……?」
女エルフ「変なの。あの勇者。なんであんな顔してるんだろ。…………あはっ もしかして同族殺しとかで悩んでるのかな?」
女エルフ「おもしろーい! もし私が勇者を倒したらおもちゃにできるかな?魔王様許してくれるかな!」
女エルフ「知らない町の人間が死んでそんな顔するなら、仲間が全員死んじゃったときはどんな顔するのかな。楽しみ。また今度会おうねユーシャくん!!」
ヒラヒラ……
140:
* * *

狩人「もうすぐつく。塔に」
勇者「いよいよか。なんだか緊張してきたな」
剣士「あれ?でも、もうすぐつくって割には塔が全然見えないよ?」
僧侶「太陽の塔は、太陽が空に昇っているときでないと観測できないのさ。
 いまは夕暮れ時だから塔も消えちまってるってわけ」
 
剣士「へえ!不思議だね。それも神様の力ってやつなのかなあ」
僧侶「そんなのいるかどうかわっかんねーけどな。剣士ちゃんは信心深い方なんだ?」
剣士「私は神様っていると思うよ!ていうかそれ、僧侶くん、職業的にそれはアウトなんじゃあ……」
僧侶「いいのいいの」
勇者「……えーっと」
<僧侶が仲間になっていた!>
勇者「なっていたって言われてもな……」
勇者「本当によかったのかい。修道院の復興より、旅を選んで」
僧侶「いーんだよ。最初に会った時に言ったろ?仲間にしろってさ。
 大体俺が行かなかったら勇者、お前っ!!ハーレムパーティじゃねえか!!そんなの絶対阻止するぞ俺は!!」
 
狩人「この人時々何言ってるか分からない……」
僧侶「それに……ま、仇討ちってことでな!
 俺の釘ロッドで立ちはだかる敵全部血みどろにしてやっから大船に乗ったつもりでいいぜ!惚れてもいいぜ!」
 
剣士「こんなアグレッシブな聖職者初めて見たー!すごいね僧侶くん。いっしょにがんばろっ!」
勇者「……君は」
剣士「ん? え、今更もうついてくるなとか言わないよね?副団長さんも女騎士さんもああ言ってたじゃん!」
剣士「はい回想」
141:
〜〜〜
副団長「俺が町にいながら……被害を最小に抑えられなかったことを悔やんでも悔やみきれない……!!!!!!
 勇者たちにも迷惑をかけてすまなかったな…………」
 
副団長「あの夜、町の外を見張っていた騎士も吸血鬼に襲われていて、町の中に奴らの侵入を許してしまった。
 そのことにもっと早く俺が気づいていれば!!」
 
勇者「……仕方ないよ。副団長のせいじゃない。
 町の様子は?」
 
副団長「今も急ピッチで復興が進められているところだ。俺ももう少しこっちにいることになりそうだな」
勇者「そっか」
副団長「だから剣士くんを王都に連れて行くのはもう少し後になりそうなのだが」
剣士「あ!それなら心配ないよ、私王都に行かないから。女騎士さん、お世話になりました」
女騎士「彼女強くなったから大丈夫よ、二人とも。もともと筋が良かったのね。
 軽い剣もたせて、一通り剣の振り方と足さばき教えたらみるみるうちに成長したね」
 
剣士「そうかな? えへへ」
女騎士「大変かもしれないけど、あなたなら大丈夫。また会ったときは稽古つけてあげるね」
剣士「はい!今度こそ世紀末を目指します!」
勇者「?」
〜〜〜
142:
剣士「ほら女騎士さんからのお墨付きもあるし! 連れてって損はないよ! ね、狩人ちゃんもそう思うよね?」
狩人「年末なので30%オフでお買い得……」
剣士「いま別に年末でもなんでもないけどね! お買い得だって勇者!買わなきゃ損だよ、どうするの!?」
勇者「じゃ、じゃあ……買おうかな」
剣士「わーい!在庫処分完了しましたー!ついに勇者からも認められたよ!」
僧侶「あっははは、お前らおもしろいな。俺の割と沈んでた気持ちが結構浮上してきたぜ」
「「「……」」」
僧侶「お、おい、浮上したって言ってんだろ。そんな暗い顔するな」
勇者「そうだよね……あのおばあさん、僧侶の大切な人だったんだよね」
僧侶「うおおお!こういう空気やめて!大切な人とかそういう言い方もやめて!悪いさっきの何でもないから聞き流してくれ」
剣士「あ。それなら、あの煙草僧侶くんにあげようよ。辛いことも悲しいことも忘れられるって言ってたじゃない。
 僧侶くんと狩人ちゃんって私たちより年上だよね、煙草も吸える?」
 
狩人「私はいらない。です」
僧侶「煙草?吸うぜ。修道院じゃこっそりとしか吸えなかったからな。ババアとか神父に見つかってエライ目にあった。
 余ってるならくれよ」
 
勇者「えっ……でも……大丈夫かな」
僧侶「ん?なんか危ない麻薬っぽいとか思ってるのか?煙草なんて大体そんなもんだろ」シュボ
143:
狩人(風上に行こうっと)スス
勇者「中毒性とか大丈夫かな」
僧侶「んだぁ?お前も吸ってみたいのか?仕方ねーなー!!これも経験だ!! ほい」
勇者「はっ!? げほげほげほっ!!」
剣士「えーっ それなら私もちょっとだけ吸ってみたい」
僧侶「剣士ちゃんはだめだ。これは大人の味だからな」
剣士「勇者と私は同い年だよ?」
僧侶「勇者は王都での2年間で薄汚れてしまったから仕方ねえんだ」
剣士「どどどどういうこと!? しゅ……酒池肉林なの!? 肉山脯林の乱痴気騒ぎなの!? バニーさんなの!?
 ゆ、勇者が私の手の届かないところに行っちゃってたなんて……わああああん!!」
 
狩人「きたない……」
勇者「ちがっゲホゲホ!おえっ」
勇者「……」
勇者「……」
剣士「……勇者?どうしたの……?大丈夫?」
勇者「………………え、何が? ハハ……ハハハ。アハハハハハ」
剣士「勇者!? なんか目がぐるぐるしてるよ!?」
勇者「よーーーしさっさと魔王倒しに行こう!大丈夫、全部うまくいく!!いくに決まってるさ!!! ははははっはははは!」
剣士「魔王の前に塔に行かなくちゃでしょ!? ゆ、勇者なんかおかしいよ、って待ってそっち崖なんだけど!!」
勇者「平気だ。はははっ!今なら飛べる気がするんだ!!あははははは!!」
剣士「だめーっ!飛べるわけないでしょー!危ないよおおお」ズルズル
剣士「た、煙草のせいなの? あっ、狩人ちゃん!!僧侶くんは!?」
狩人「さっき飛べると言って……崖から落ちました」
剣士「いや止めたげてよーっ!」ズルズル
144:
太陽の塔
銀髪男「フッ……今日も塔を守りきれたな」
金髪男「我ら三勇士の力もってすれば容易いことよ」
黒髪女「雪の国も星の国もだらしがないわ。魔族なんかに塔を制圧されてしまうなんて……」
銀髪男「ん?おやあれは? ははは!とうとう来たか。おい、勇者御一行だ。待ちかねたぜ全く」
金髪男「あんまりつっかかってやるなよ」
銀髪男「はん。しかし、なんで俺じゃなくてあいつが勇者に選ばれたのかと考えると胃がムカムカしてしまってな。
 塔の警備なんかより、俺だって魔王を倒しに行きたいさ。むしろ俺のほかに誰がいる?」
 
黒髪女「だから、勇者様でしょ」
銀髪男「『勇者だから』っていうその一言で片づけられちまうのが悔しいのさ。
 俺の方が絶対うまくやれる……」
 
銀髪男「……チッ」
剣士「はあー……なんとか辿りついた。……ん?」
銀髪男「おや勇者殿。随分遅いご到着でしたな。旅は如何でしたか?お怪我などされませんでしたか?」
剣士「ええと?」
銀髪男「俺たちは三勇士と呼ばれる者です。以後お見知りおきを」
銀髪男「ん?勇者殿はどうなさったのですかな?さっきから俯いて。はは、もしかして魔族と戦うのに恐れをなしましたか?
 まあ無理もないが……なんとお情けないお姿か!勇者が聞いて呆れるな。大人しく俺にその名を譲っていればよかったものを!」
 
勇者「……あぁ?」
銀髪男「……ん?」
勇者「いまなんつった?」
銀髪男「んえ?」
145:
勇者「はははははっ!あははははは!何か言った!?あーははは!!君おもしろいこと言うなぁ!! おえっ」
僧侶「んだテメーら邪魔なんだよ酒持ってこいよ銀髪チャラチャラさせやがって腹立つなーーーゲヒャハハハハ殴るぞこんちくしょー!!」
剣士「確かに今の勇者はちょっと、大分、かなり変だけど、いつもの勇者を馬鹿にしたら私は怒るよ」チャキ
狩人「敵なら射るけど……」スッ
黒髪女「な、なんて好戦的なパーティなの。血の気多すぎよ。さすがに私も戦慄したわ」
金髪男「かつてないパトスを感じるな……」
銀髪男「なんか勇者、性格変わってないか?」
金髪男「ラリってますね、完全に」
銀髪男「こいつら一体今までなにをしてきたんだ!!」
146:
* * *
魔王城
妹「…………」ゴロ
妹「……寝れない」
妹「…………」
妹「やっぱり……」
〜〜〜
妹「ね、青年さん。ひとつ聞きたいことが、あ、あるの」
青年「ん?」
妹「ま……魔族って、どう思う?」
青年「? なんだい、いきなり。魔族か……僕は会ったことないけれど、王国の兵士や騎士たちが何人も残虐に殺されたって聞いたよ。
 それでもこの国はまだマシな方で、他国はもっとひどい有様らしいね」
 
青年「でもこの国には勇者がいる。最近王都を旅立ったらしいんだ。それに三勇士っていう凄腕の兵士もいるしね。
 だから大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても」
 
妹「あなたは魔族が怖い?嫌い?」
青年「そりゃあ……怖いし、好きじゃあないよ。好きになれるわけがない。そういう次元じゃないだろ?
 敵だし、魔族だし……人間じゃないんだ。僕たちとは違う生き物なんだよ」
妹「そうよね」
青年「どうしたの?何故そんなことを聞くんだい」
妹「いいえ何でもないわ。ちょっと思いついただけ」
妹「……何でもないの。気にしないで」
147:
妹(私は一体どんな答えを期待してたのかしら)
妹(聞かなくても分かってたはずなのに)
妹(……。兄さんの言う通り……もうあの村に行くのは……やめよう。
 人への恋なんて、不毛だわ。このまま続けて、いつか私が魔王の娘だと彼に知られたら)
 
妹(…………ここでやめておくのが正解なんだ。どうせ叶いっこないんだもの……
 私には魔族と人の戦争を止められるような強い力はない。諦めることしかできないのよ)
 
妹(もう村へは行かない。…………寝ましょう。目を強くつぶって何も考えなければ、すぐ眠れるはず)
―――――――――――
――――――――
―――――
ヒソヒソ ヒソヒソ
「あれがマオウ?」
「目が赤いっ!ほんものだっ」
「しっ、声がでかいって。見つかるぞ」
「ね、ねえー……やめようよぉ……怒られるよぉ……」
「ばか!おとなたちはマオウの邪悪な魔法にあやつられてるだけかもしれないだろ!
 この村を守れるのは俺たちだけかもしれないんだ」
 
「でもぉ」
「…………」クル
「!! こ、こっち見た……!!」
「どっどうする?見つかった?」
「……ガオーっ」
「ぎゃああああああああああああああっ!!!」
「食われるーーーーーーーー!!!!逃げろおおおおおおおお!!!!」
「ひいいいいいいいいいいい」

なんだろう。 ……あ。夢ね。私、やっと眠りにつけたんだ。
魔王はお父様のはずだけれど、あの赤い目の女の子だれだろう。
私にすごく似ているけど別人だわ。
……?
148:
「わあああああああんっ 待ってええええっ あ!!」
「うわっ なにコケてんだ!早く走れ!食われるぞ!!」
「うえぇぇぇぇん たすけてぇぇぇぇ」
「……ん。しまった、悪ふざけしすぎたな。大丈夫か」
「ひぃ!!」
「怪我はしてないな。そんなに怯えなくていい。泣くな。えーと。ん。そうだ、手を出して」
「ひぐっ うっ う、うっ…………えっ? お……お菓子がいっぱい降ってくる……。
 すごいっ!本物?」
 
「本物だぞ」
「こ、これ、魔法!?」
「うん、魔法」
「お、おいっ!だまされるなっ!マオウだぞ!毒入りかもしれないぞ!」
「おいしい……!!」
「こら!聞けよ!」
「そこの君たちも、食べないのだったら私が食べてしまうぞ。もぐもぐもぐ」
「うわあすごい勢いでお菓子食ってるぞ マオウの奴!」
「も、もっとほかの魔法できる……?」
「ああ、じゃあ虹をつくってあげようか。これは簡単だからすぐできるぞ。ほら」
「うわあーーーーーっ」
「……な、なんだよ。お前だけずるいぞ!俺たちにも見せろよーーっ!」
「すげーっ それどうやんの!? 僕にもできる!?」
149:
「なんだ?」
「……ずいぶん楽しそうなことやってるな、魔王」
「あ、」
「勇者くん」
150:
「ユーシャだ! ユーシャ、また剣教えてよ!」
「今度な、今度」
「ユーシャもさ、魔法って使えるんだろ?ユーシャも虹つくれんの?」
「無理無理。俺はドカーンとかズバーンとかそういう魔法しかできない」
「さいのう、ないんだな」
「うるせえよ!」
「マオウに……お、お菓子……いっぱいもらった……」
「よかったな。ちゃんとあとでお礼言うんだぞ」
「……」
「? なんだ、なんで笑ってるんだよ?魔王」
「笑ってたか? いや。それ、懐かしいなと思って。ふふ」
「それ?」
「勇者くんは子どもと話す時に、必ず膝を折って目線を合わせるだろう。
 私が小さくて君が大きかったときに、それがすごく嬉しかったから。いま思い出したのだ」
 
「ええっ? そんなに頻繁にやってないぞ」
「癖は自分では分からないものだ」
「……」
「あーーユーシャなんでか知らないけど照れてるーーーー」
「照れてねーよ!お前らは静かにしてろ!」
151:
「……あ、あの。マオウ……さん」クイ
「ん?」
「お菓子ありがとう……虹も……」
「どういたしまして。こちらこそ脅かして悪かった」
「あの、あの!」
「?」
「僕が大きくなったら…… おおお、お嫁さんになってくれますか!?」
「えっ……?」
「なっ!?」
「うおお、いっつも泣き虫のこいつがプロポーズしたっ」
「やるなぁ!」
「や…………」
「やめとけ少年!!
 こいつにはめちゃくちゃ怖いお兄さんがいて、ちょっと魔王と二人っきりで話そうものなら包丁研ぎながら睨んでくるぞ!
 あと厄介なお姉さんもいて、会う度ヘタレだなんだとからかってくるし、愛の妙薬とか怪しげな薬ポケットに忍ばせようとするし!」
 
「と、とにかくやめとけっ!もっといい出会いがこの先待ってるはずだから!」
「ひえええっ!?」
「勇者くんは一体どうしたというのだ」
「ユーシャって大人げねーのな……」
「なー」
152:
勇者と魔王。
……これは…………
これは未来の……………………
妹「…………」パチ
妹(そう。そうなのね)
妹(……そう……)
妹(そっか……………………)
154:
* * *
地下 研究室
グチャッ
チョキチョキ バチン グチュ
グリフォン「…………っふー」
部下「博士。女エルフさんから伝言です。話があるので今すぐ上にあがってきてほしいとのこと」
グリフォン「え?今忙しいんだけど。話があるなら彼女にここに下りてきてほしいって伝えてくれる?」
部下「いや……来たくないそうです。ちなみに、上に来る前にその全身の血は洗い流してこいと」
グリフォン「……ふーむ」
* * *
グリフォン「やあ。何か用かい」
女エルフ「…………くさい!それ以上近寄らないで。死臭がプンプンする。血は洗い流してきてって言ったじゃないですかー!」
グリフォン「言われた通り洗い流してきたよ。失礼だな」
女エルフ「うそぉ、こんなに離れててもすごく匂うのに。ああ森の清らかな空気が愛しいっ
  まーったく、よくあんなじめっとした地下室にこもって、人間の体いじくりまわせますね。今日はなにしてたんですか?博士」
  
グリフォン「人間の子どもと大人の五感比較実験と、あとはいつも通り解剖三昧さ。
  解剖はいつでも楽しいけれど、ああいう実験はあんまり好きじゃないな……やかましくってね」
  
女エルフ「うえぇ。聞いてるだけで気分悪い。しかも子どもって。さすがの私もドン引きよ」
グリフォン「残酷って思う? でも、こんなのあっち側だってやってることさ! 国ぐるみで生態研究ってね」
グリフォン「星の国には魔物博物館なんてものもあったんだよ。館内に飾られる魔族のミイラやホルマリン漬けの数々……腹立つね。
  なら僕たちだってつくってやろうじゃないか、人間博物館。
  そのために僕は身を粉にして日夜働いているんだ、少しは労ってくれたまえ」
  
女エルフ「あはははっ、そんなの建前でしょ?本当はただ楽しいからやってるくせに」
グリフォン「全くひどい言われようだな……」
155:
グリフォン「誤解されたら困るから言うけど、ただ人間の体を切り刻むから楽しいわけじゃないよ。これはね、愛なのさ。僕は彼らの全てを知りたいんだ」
グリフォン「体を暴いて暴いて暴いて暴いて暴いて、皮膚を切り取って、脂肪を取り除いて、骨を砕いて、血管を抜いて、内臓を裏返して、
  そうして初めて本当の彼らを知ることができると思うんだ。
  心には快楽なんて一滴も湧いてこないよ、あるのは安堵と感謝と無邪気な喜びだけだ。また一歩彼らに近寄ることができたってね!」
  
グリフォン「だから僕をマッドサイエンティストとか異常者だとか思わないでくれ。僕はそうだ博愛主義者だ!
  種族を越え、相手がどんな生物なのか理解するために方法を模索する……これを愛と呼ばずして何と呼ぶんだ?」
  
女エルフ「はぁ……。安心しなよ、博士は十分マッドだし異常者だよ」
グリフォン「ちゃんと話聞いてくれよ」
グリフォン「まあいいや。君が話を聞かないのは今にはじまったことじゃない……で、君はなんのために来たの?」
女エルフ「ああ、あのね。吸血鬼の眷属たち……吸血鬼もどきね、全部死んじゃったよ」
グリフォン「あれ。意外だな。学習能力の片鱗も僅かに見られたのに、そんなあっさりいっちゃった?数もどんどん増えてたんだよね。
  まあ恐ろしく馬鹿だったからなあ。魔力を持っていない人間を眷属にしても、あんなものか。繁殖スピードだけはなかなかよかったけど」
  
女エルフ「町に辿りついたところまではよかったんだけどね。王都の騎士団副団長と……ふっふっふ、だれだと思う?」
グリフォン「?」
女エルフ「『勇者』だよ。勇者がいたの。あの伝説上の勇者」
グリフォン「本当に?」
女エルフ「ほんとほんと! 私目の前で見ちゃった! さっき魔王様にも伝えてきたところ」
グリフォン「へえ、いたんだ」
女エルフ「……あれ?なんか意外と反応薄いですね。もっと卒倒するくらい喜ぶかと思ったのに。あの伝説の勇者を解剖できるチャンス!って」
グリフォン「僕は戦闘向きじゃないし、部下に頼むのも人間とは言え勇者じゃ荷が重いだろうし……
  四天王や王子が生け捕りにするか、死体を持ち帰ってきてくれれば一番なんだけど……
  まあみんな好戦的だから、そんなこと考えもしないだろうな」
  
女エルフ「もう弱気だなあ!もっとガツガツ行きましょうよ!私は勇者を倒すつもりですよ。
  それで一気に昇進、ゆくゆくは四天王に!!……なれたらいいなーって。 いひひひ」
  
女エルフ「個人的に勇者に興味もあるし、エルフ族のホープの私が久しぶりに頑張っちゃいますよ。いひひひ」
グリフォン「え……でも君、結界通り抜けて王国に入れるくらい弱…………」
女エルフ「そんなことはね、全然問題じゃないのよ、博士。つまりどうでもいいの。大事なのはやる気よ、やる気」
グリフォン「…………ふーむ」
156:
* * *

剣士「うっわー……」
狩人「……」
剣士「塔って……大きいんだねー……」
狩人「……」
勇者「……」
僧侶「……」
剣士「……なんでみんな狩人ちゃんの真似してるの?」
勇者「いや真似してるわけじゃなくて。僕たちはいつの間に塔に辿りついたんだ?ぜんっぜん記憶にないんだけど」
僧侶「俺もあの煙草を吸ってから何にも覚えてねえ……、長い夢を見ていた気分だ。崖から落ちる夢見たぜ」
狩人「それは現実です」
僧侶「まじか。よく生きてたな俺。 か、狩人ちゃんが助けてくれたのか?ありがとうな!君は優しいな!」
剣士「狩人ちゃんはむしろ見殺しに…… あ、ううん。なんでもないよ!」
勇者「僕はなんかとんでもない醜態を晒した気がするけど……それも現実かな。うわあ。うわあー」
剣士「もう全部夢にしよう!僧侶くんが崖から落ちたことも勇者がラリったことも全部夢だねワーイ!さあ塔に上ろう!」
 
 
157:
塔 最下層
勇者「この最上階にいる女神様に会うために、塔を上っていかなければいけないわけだけど、一体この塔は何階まであるんだろう」
僧侶「本当にいるのか?女神様なんて。外から見ただけでも相当高い塔だぞ……それを一から上るのか、だるいな」
僧侶「でも女神様がいるとしたら、神なんて言うくらいだからさぞかしきれいなんだろうな。そう考えるとやる気がでてくるな。
 よっしゃああ!!頑張ろうぜ!!剣士ちゃんも狩人ちゃんも疲れたら俺がおぶってあげるからな! あ、勇者は歩けよ」
 
狩人「……」
剣士「狩人ちゃん、どうかしたの?」
狩人「……なんでもない。です。さっさと行きましょう」スタスタ
勇者「そうだね。下手したら塔の中で夜を明かすことになってしまうかもしれない。急ごう。
 ……ん?あれ?この塔って昼しか存在しないんだよね。夜になっても僕たちが中にいたらどうなるんだろう」
 
剣士「……」
勇者「……」
剣士「い、い、急ごっか、勇者!!」ダッ
勇者「そ、そうだね!」ダッ
158:
19階
ビュッ
剣士「わっ、と! またトラップ」
勇者「あちこちに落ちてる白い骨は以前この塔に上ろうとした人たちなんだろうね……
 僕たちもその仲間入りしないようにしないと」
 
僧侶「そうやすやすと神様に会いにこられちゃ困るんだろうな」
剣士「ええっ……やっぱりアレ、骨なの……? うう、気づかないフリしてたのに……」
狩人「……」ブシュ
剣士「え?ブシュッてなんの音?――かかかかかかっ狩人ちゃーーーーーん!?!? 腕が血まみれだよーーーーー!?」
勇者「なんで!? まさかさっきのトラップの矢が? そんな無言で矢を抜かないでくれ!大丈夫?」
僧侶「ウオオオオオオオッ俺の全魔力を使って傷をいやしてみせるっ!!!」
勇者「いや全部使わなくてもちゃんと治せるだろう、保存しておいてくれ僧侶」
159:
狩人「……ありがとう」
勇者「いつもなら真っ先に避けてるはずの君が…… どうしたの?大丈夫?」
剣士「もしかして具合悪いのっ!? 大変、下山しなくちゃっ」
僧侶「下山?」
狩人「いえ……具合は悪くないです。ただ……ちょっと……うぅ……少し恥ずかしい……のですけど、言うの」
僧侶「えっ? ま、まさか……?」トゥンク
勇者「僧侶が考えているようなことじゃないってことだけは分かる」
狩人「…………わ、笑わないですか」
剣士「笑わないよ、もちろん」
狩人「……落ち着きません。……上も下も右の左も壁に囲まれてるところは……うう、すいません」
勇者「ああ、そうだったのか。確かにこの塔は窓もないしね」
僧侶「分かるぜ狩人ちゃん。ここすっげえ息つまるよなぁ」
剣士「大丈夫だよ。怖いなら、ほら、手握ってあげる」ギュ
狩人「えっ……!? でも」
僧侶「じゃあ俺も」
勇者「僧侶、前。落とし穴だよ」
ウワアーッ
勇者「どうしよう?本当に無理なら塔を下りようか?」
狩人「だ、大丈夫……大丈夫です、私は。迷惑はかけない。上りましょう、このまま」
勇者「迷惑だなんて誰も思ってないよ。無理しなくていいからね」
剣士「そうだよ、狩人ちゃん」
160:
カチャ。
カチャ。
カチャッ。
カチャ。
161:
狩人「は……はい」
狩人「……ありがとう……」
勇者「よし、早く女神様に会って塔を下りてしまおう」
剣士「うん!」
30階
僧侶「はあーっ 最上階はまだかーっ」
勇者「遠い道のりだなぁ。 ん? この階は……上の階に続く階段がないな。あるのは物々しい扉だけ」
 
狩人「なにか、書いてある」
剣士「変な字」
勇者「『我は力を司るもの。上に進みたくば汝の力を示せ。』だって」
僧侶「なんだ、扉ブッ壊せばいいのか?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
狩人「あれは……?」
<神の左手と右手が襲いかかってきた!>
勇者「うわあ……」
162:
―――そのころ―――
銀髪男「勇者たちは塔に上ったか。……フン、神になど会えるものか、あんな妙ちくりんな4人組が」
黒髪女「もう、その話ばっかりね。彼の仲間になればよかったのに、そんなグチグチ言うなら!」
銀髪男「誰がなるかっ! 大体、俺が『勇者』でないと意味がないんだよっ!」
金髪男「おいっ!! ここにいたのか、さっさと一緒に来い!!」
銀髪男「なんだ? なにかあったのか?」
金髪男「大ありだ。またあの吸血鬼だ、あいつが仲間ひきつれて海の向こうから飛んでくるのが見えた!
 今回も俺たち3人で撃退するぞ! 海岸へ急げ!」
 
銀髪男「またか、あいつ! 諦めの悪い奴だ!」
黒髪女「何度来ても無駄だって言うのに」
ザッ
163:
カチャ。
カチャッ。
カチャ。
カチャッ。
164:
吸血鬼「ハァ……身が灼ける……溶ける。今日も快晴だなぁ、沈めよ太陽……つーか俺夜行性だし……眠いし……」
兄「大丈夫か。にんにくの素揚げ食べるか」
吸血鬼「ええ〜〜っ!? お、王子、冗談キツイッスよ、ハハハハハ……」
吸血鬼(割と笑えない状況で追い打ちかけるとかさすが魔王の息子、えげつねえーっ……俺のヘロヘロな様子見ろよ空気読めよ」
兄「ん?」
吸血鬼「オエェッ!! やべっ ま、また口に出てたっ、すいません謝るんでにんにく近づけんでください!!」
銀髪男「また来たのか吸血鬼め! 四天王の末席が! 諦めて帰れ!」
吸血鬼(人間にまで末席だって思われてる……)
金髪男「どれだけ仲間を引き連れてこようと無駄だ。塔へは指一本触れさせないし、結界を壊させもしない! 
 いまはお前にとっておねんねの時間だろ?棺桶のペッドの中にさっさと戻れ」
吸血鬼(俺すげえなめられてる……! やばい! 四天王なのに。四天王なのに。くっそお前ら黙って聞いてりゃあ……」スッ
黒髪女「あら。それ以上近づいてきて大丈夫? 『聖陣』に触れちゃうとすごく痛いんじゃない?」
金髪男「なんだ、もう張っていたのか」
黒髪女「当たり前じゃない。ところで横の男はなんなの? …………」
銀髪男「…………こいつ……まさか?」
165:
兄「なるほどな。あの女か、お前の天敵は」
吸血鬼「うっ、はい。ヴァンパイアハンターの一族みたいで、あの女が陣を張るとどうにもこうにも……」
兄「分かった」スッ
バチン
黒髪女「……えっ!? そんな、陣が、そんな簡単に消せるわけな――」
ドッ!!
黒髪女「あぐっ……!? う……く」
銀髪男「おい!!?」
兄「この程度か。さあ残り二人、女は死んだ、もう聖なる陣とやらに守ってはもらえんぞ。どうする」
銀髪男「この野郎!!……戦って貴様らを殺すに決まってるだろ!!」
金髪男「貴様、何者だ?」
兄「お前らが知っても無駄だろう。どうせ今日のうちに消える命だ」
吸血鬼「俺にまかせてください! こいつらには散々馬鹿にされてイライラしてたんだっ!!
 死ねーーーーーー!」
 
銀髪男「はァッ!!」ズバッ
吸血鬼「うぎゃーーーー! いてえーーーっ!」
銀髪男「雑魚が……! 貴様はすっ込んでろ、邪魔だっ!!」
兄「……」
兄「昼でなく夜だったらどうなんだ?吸血鬼」
吸血鬼「えぇ?なんスか?」
兄「俺は今日はあくまで手伝いだしな。それにお前の実力を測るいい機会だ。
 本気を出して人間相手に無様な姿を晒すようなら、お前に四天王の一人を名乗る資格はない」
 
吸血鬼「まぁそッスね……」
166:
吸血鬼「でも本気って言ったって、」
兄「俺が夜にする。存分に戦え」
吸血鬼「えっ?」
金髪男(夜にするだと……?)
兵士「な、なんだ? 急に空が暗く……、あ!黒い雲が太陽を覆い隠してるぞ」
兵士「おい、どんどん暗くなって……ま、まるで……」
銀髪「…………夜」
吸血鬼「ハハハハハハ……さすがだ。次元が違いますね王子! 俺はあんたに一生ついてきます! 王子万歳!」
兄「そんなに長い時間保てるわけではないぞ」
吸血鬼「十分です」
……スッ
銀髪男「くそ、妙な術使いやがって! 昼だろうが夜だろうが関係あるかっ!」
金髪男「……二人同時に斬りかかるぞっ!」チャキ
ズバッッ
吸血鬼「あいたーーーーーーーっ!…………くない。クククク……」
銀髪男「なにっ!? 確かに斬ったはず」
金髪男「体が霧に……!」
167:
吸血鬼「三勇士も、兵士も、騎士も、魔術師も、神官も、この場にいる奴全部まとめて処刑の時間だ」
吸血鬼「処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だッ!!」
吸血鬼「絞首刑?火刑?溺死刑?斬首刑?石打ち刑? いいや違うな、逆さ十字で磔刑だ!!
 苦しみ抜いて謙虚に死ね! 死ぬときくらい身の程わきまえろ」
 
吸血鬼「―――蛮族め」
168:
カチャッ。
カチャ。
カチャッ。
「ハッピーエンドが一番好きなんだ」
カチャッ。
「どうしたの? いきなり」
169:
剣士「えーーーーーーいっ!!」
狩人「……」
<剣士の薙ぎ払い! 神の左手にダメージを与えた!>
<狩人の攻撃! 神の左手にダメージを与えた!>
<神の右手の打撃! 剣士にダメージを与えた!>
<神の左手の打撃! 勇者はかわした!>
勇者「剣士、前に出すぎだ、もっと下がって!」
剣士「えっ? ごめん、全然聞こえないよ! なに?」ヒョイ
狩人「下がって」バシュ 
剣士「ほああーーーーっ!! かか狩人ちゃん、だからなんで時々私を狙うのー!? ブーツが縫いとめられちゃったよ……!」
勇者「うわあっ 言葉の代わりに矢を使用しないで狩人頼むから! えーととりあえず剣士に防御結界を張って……」
<神の右手の打撃! 勇者にクリティカルヒット!>
<神の左手は沈黙呪文を唱えた! 勇者は魔法が使えなくなった!>
勇者(だーーっ 詠唱中に攻撃するな! しかも沈黙って。僧侶、沈黙解除してくれ)
僧侶「ウオオオオオオオオ! 剣士ちゃんが危ねーーーー! 今俺が助けるぞおおおおお!!」ダッ
勇者(ちょっ……)
170:
剣士「いいやブーツ脱いじゃえっ! とどめだーーーーーーっっ!!」
僧侶「じゃあ俺も必殺僧侶ブローだーーー!!」
ザシュッ! ゴンッ!
<神の左手と右手は動きを止めた>
勇者「……あ、扉が開いた。ゴリ押しで試練をクリアできたみたいだ。す、すごいな二人とも」
僧侶「まあな。人生、それはつまりゴリ押しだ」
狩人「剣士……すみません。つい口より手より足より矢が先に出てしまう」
剣士「いつもギリギリで当たらないけど、けっこうびっくりするから、矢より口と手と足をだしてほしいな!」
狩人「じゃあ足を」
剣士「できれば口を真っ先に出してほしいな!」
勇者「僕たちは見事に協調性がないね」
剣士「うーん……」
僧侶「なに、最後にどうにかなりゃいいんだよ。細かいことは気にすんな!!」
狩人「……」コク
171:
勇者「大雑把な……。まあでも、4人ともバラバラなのに最後はなんとかなるから、僧侶の言う通りなのかもしれないな」
剣士「変な安心感があるよね。でも、これからもっともっと私たち強くなれるよ!
 まだまだ4人で旅し始めたばっかりじゃない、これからだよ勇者」
 
狩人「……」コクコク
勇者「そうだね。うん……そうだ」
僧侶「ところで話がらっと変わるけど、さっきの神の左手と右手って女神様の両手なんだろうか。
 あんまり女性らしい手とは言えなかったが、これから会う女神がゴリラみたいなのだったら俺どう反応していいか分かんねーわ」
 
僧侶「どうしよう」
剣士「本当にがらっと話変わったね。そんなこと言ったら僧侶くん、女神様に怒られるよ。今も聞いてるかもよ」
僧侶「……!!」
狩人「……」スタスタ
勇者「あはは……」
勇者(ほんとみんな自由だな。でも……、うん、そうだな、これはこれでいいのかもしれないな)
勇者「……先に進もうか! きっともうすぐ最上階だ」
狩人「はい」
僧侶「ん? お、おう!」
剣士「うんっ!行こう!」
172:
――――――カチャッ。
カチャ。
「ハッピーエンドが一番好きなの。幸福な終わり方でない物語なんてなんの価値もないって思うんだ」
カチャ。
173:
「本を読んだの?」
「昔に。分厚い本だったの。最初は幸せだったのに、次々に主人公には悲しいことがたくさん降りかかって、読んでる私も辛かった。
 でもそのまま読み続けたよ。最後には必ず幸福な終わりが待ってるはずだって、主人公は報われるはずだって、そう思って」
 
「予想は当たった?」
「ううん。そのまま主人公は悲しいまま死んじゃった。
 彼の死は彼の生と同じくらい果てしなく無意味で、しかも彼はそれを痛いほど自覚しながら死んじゃったからさらに悲壮なんだよね」
「それはひどいな」
「報われないのは彼だけじゃない。私だってそうなの。
 幸せな結末を期待して、我慢して読み続けていたのに、バッドエンドだなんて聞いてないって。
 読んだ時間を返してほしいって思った。その本に費やした時間全部無駄だった」
 
「辛辣だなぁ」
「報われない物語なんてね、あの本の主人公の生と死より無価値だよ。いらないの、この世から消えてしまえばいいと思うの。
 どうしてバッドエンドなんてものがこの世界に存在して、しかもハッピーエンドと対極の位置にあるのか、私には全然理解できない。
 読んで、見て、楽しいの? そんなものを娯楽だと感じる人間なんているの?」
 
 
カチャッ。
174:
「娯楽として楽しいというよりは、芸術として美しいと思うから悲劇は愛されるんじゃないかな」
「芸術……」
「古代、まだ羊皮紙もなかったころには、人々にとって物語とは演劇だったんだ。一番最初に生まれて流行したのが悲劇。
 喜劇は悲劇より歴史が浅いんだ」
 
「悲劇しかない世界なんて変だよ。みんな狂ってる」
「きっと、美しいんだ。半永久的に咲き続ける造花より、やがて花弁を散らして枯れてしまう本物の花が人々に愛されるように、
 栄枯や明暗、悲喜の転換はドラマティックで刹那的で、観ている人にある種の生を感じさせるんじゃないかな」
 
「よくわかんないよ。私はそうは思わない。それなら私は造花の方が好き」
 
「または……祈りも願いも努力も他人への献身もことごとく踏みにじられてしまう様とか、最初から最後まで救いようのない筋書きとか、
 そういうのって意地悪な目で見て楽しいって感じるんじゃなくて、どうしようもなく悲しいけどそれと同時に、ただ美しいんだ」
 
「悪趣味だよ」
カチャ。
「じゃあ人は自分がそんな目に遭いたいって、心の奥底では思ってるってことにならない?」
「だからこその観劇さ。他人の悲劇を見るのが人は好きなんだ。多かれ少なかれ」
「………………………………」
「僕はそれこそ人だと思う。いいじゃないか、人間礼賛。あるがままに受け入れればそっちの方が楽だ。理想なんて持たない方がいい……」
175:
「……そうだね、昔なら私も間違いなくそう言ったよ。
 あのね、覚えてる?太陽の塔を上ったときのこと」
「覚えてるよ。頂上で本物の吸血鬼、四天王の一人と対峙しちゃったんだ」
「こわかったね。でも、その前の戦闘で私たち全然チームプレイできてなかったのに、吸血鬼戦でいきなりできるようになったよね」
「協調性皆無だったのにね。剣士は前に出すぎるし、狩人は味方に矢を射るし、僧侶は回復役放って敵を殴りに行くし……」
「勇者は味方を気にしすぎて自分がおろそかになるし」
「あははは……そうだった。本当にひどかった。でも、戦いなのに、少し楽しかったな」
「そうだね。楽しかった!みんなで力を合わせて勝ったときは、どんなに怪我してても嬉しかったよ」
「うん。楽しかったね。そう。やっぱり…………楽しかった。剣士と狩人と僧侶が僕の仲間になってくれて、本当に………………嬉しかったな」
「あとは雪の国に行くための船に乗ったときとか、金貨100枚稼がなくちゃいけなくなって入ったカジノとかね。いま思いだしても笑っちゃうよ」
「うん……」
「それからさ――それから、」
「……」
「……」
「……?」
「剣士……?」
カチャ。
「……剣士…………けんし」
カチャ。カチャ。カチャ。
カチャ。カチャ。カチャ。
カチャ。カチャ。カチャ。
「……いや、ちゃんと分かってるよ。幻覚なんだってさ」
「ちゃんと理解してる。分かってる。全部知ってるよ」
176:
もういない。だれもいない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。い。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。い。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。だれもいない。だれも。
177:
剣士「ついたーーーっ! やっとついたーー! 最上階ついたーー!」
狩人「わっ…… ひっぱらないで。ください」
僧侶「身だしなみ整えないとな! どう?剣士ちゃん、俺の顔になにもついてない?」
剣士「左目の上に大きい青たんこぶついてるよ」
僧侶「うがあッ ここにきて21階のトラップが効いてくるとは!」
勇者「扉開けていい?」
僧侶「待て、あと10分待て」
ギイィィィィィ……
僧侶「お前、俺のこときらいだろ?」
勇者「そんなことないよ」
183:
「……よくぞここまで辿りつきましたね」
僧侶「結婚してください女神様」
勇者「僧侶、黙っててくれる?」
剣士「うわ……! あなたが、か、神様……? きれい」
狩人「……」
 「はい。私が太陽の国の守護神です。この塔の攻略者をずっとお待ちしておりました。
 私は力を司る者、あなた方に至高の武器を差し上げましょう」
 
 「これらをもって、国を蝕む悪を滅ぼすと誓ってください。
 もっとあなた方とお話をしていたいのですが、今は時間がありません」
 
勇者「時間がない……?どういうことですか?」
 「貴女方が塔を上りはじめてから、魔族がこの国に侵入しました。
 悪しき者がここに近づいています。今から授ける武器によって、その者を退けて頂きたいのです。勇者とその仲間たちよ」
 
勇者「魔族が……!?」
剣士「ええっ!?」
 
 「ではまず、弓を背負った貴女から。貴女には……虹の弓と稲妻の矢を」
 
狩人「ふぇっ……は、はあ。ありがとう……ご、ございます……」
 「神職のあなたには、癒しの杖を。貴方の癒しの力を最大限引き出してくれるでしょう」
 
僧侶「結婚してください」
 「ごめんなさい」
 
 
 
184:
 「剣を振るう貴女には、葡萄十字の剣を。救いを授ける剣です」
 
剣士「わーい!勇者見て見てー!なんかすごい剣もらった」
 「……そして、勇者。選ばれし者よ。貴方には、この、とこしえの杖を……」
 
勇者「……ありがとうございます」
 「人の子らよ。脅威が迫っています。必ずやその闇を払うと約束してください……」
 
 「…………来ますよ」
 
 
 
185:
* * *
兄「…………はー……暇だな」
兄「……。あいつもまあやる時はやるじゃないか。四天王の名に相応しい力だ」
 
兄(しかし……この光景に心が痛まないと言えば嘘になるかもしれないな
 だがこれは戦争だ。仕方のないことだ……)
 
兄「……俺はどうするか。吸血鬼は塔に向かったが。あいつ一人でなんとかなるか……?」
魔族「王子様ー!!」バサバサ
兄「ん?どうした?」
魔族「大変なんですっ! 宝物庫に何者かが侵入しているみたいでっ!
 でも結界が張ってあって下級の者じゃあ対処できないんですっ!」
 
兄「父上はなんと?」
魔族「魔王様は今日の体調が芳しくいらっしゃらないようで、あと頼れる方は王子か四天王かと言うところでして……」
兄「……(そこまで強度な結界が作れるとすると……)
 分かった。すぐ行く。ここは吸血鬼にまかせて平気だろう。元々、俺は手伝いという名目だからな」
 
魔族「助かりますっ!」
186:
タッ……タッ……
吸血鬼「らんたった、たった、ふんふーーーん」
吸血鬼「王子のおかげですんなり塔も制圧できそうだ。これで竜とかヒュドラとか魔女の奴らにでかい顔されずに済む。
 それにしてもやっぱり魔術師の血は格別だなあ」
 
吸血鬼「魔力があるかないかで大違いだ! 三勇士もあれだけ手こずらせてくれた割にはゲロマズだったしなあ……
 やっぱり人間なんて存在価値のない生き物だよなあ。魔術師以外餌にもなりゃしない……」
 
吸血鬼「まーいいや! そろそろ最上階、さくっと神様殺して塔を制圧しちまおう!
 どうもー四天王の末席の吸血鬼ですー! 女神様殺しにきましたーっ!よろしくおねがいしまオワアアアアアア」バタン
 
勇者「!!」
剣士「ぎゃーっ」
僧侶「なんだてめー!!」
狩人「……!」
吸血鬼(げぇーっ!! 神様って5人もいるの……!?!? くそめんどくせーっ!! いくらなんでも5人は多くねえ!?」
187:
 「戦ってください、勇者……」
 
勇者「お前が四天王の一人、吸血鬼か……!」
僧侶「吸血鬼……? なら……テメーがババアや町のみんなを化け物にしやがった奴か……!!」ギリ
吸血鬼「へ?町?なんのことかよく分からないんだけど、あれっ、もしかして君たち神様じゃない感じ!?」
剣士「神様じゃない、人間だよ」
吸血鬼「俺より先に塔の頂上に到達した人間がいたとは……まじかよ。そんなんありかよ!頑張ってここまで来たのに!!
 じゃあもう殺すしかねーーーな!!俺はキャリアアップのために何としてもここの神様支配下に置かないといけないわけだよ
 その礎となってくれよ人間!ハッハ!!悪霊に取りつかれた豚どもっ!!死んでくれ!!」
 
吸血鬼「処刑第二グラウンドスタートっ!俺がお前らを裁いてやるから安心して冥府に召されろ!あっはっは!!」
 
剣士「この魔族頭おかしい!」
勇者「来るぞ!」
逆さ十字の吸血鬼が襲いかかってきた!
188:
剣士の攻撃! 吸血鬼にダメージを与えられない!
狩人の攻撃! 吸血鬼にダメージを与えられない!
剣士「あ、あれっ!? 確かに斬りつけたはずなのにっ! 体が霧みたいになって……!」
吸血鬼「はっはーん……お前らごときに俺が傷つけられるはずないだろお?あんまりなめてもらっちゃ困るな……」
勇者の雷魔法! 吸血鬼にダメージを与えた!
吸血鬼「ホアアアアアアアアアアアア!? な……なん……え!?今の……攻撃魔法!?
 まさか……お前が勇者か!? いててて……」
 
勇者「……!」
吸血鬼「…………」
吸血鬼「……ははあ。へえ……。お前が……。ふうん……」
剣士「勇者気をつけて!こいつ気持ち悪いよ!」ブンッ
僧侶「確かに気持ち悪いな」
吸血鬼「俺のどこが気持ち悪いんだよ!結構お洒落に気を使ってるんだぞ!」
189:
 「少し時間を稼いでください。あの者の弱点は日光です。私がなんとかします……」
 
勇者「女神様……っ」
剣士「おりゃー!」
狩人「……くっ……」
吸血鬼「はーっ、お前らの攻撃なんて全然効かねーつの……さっさと女神とやら殺して帰りてーんだわ俺……
 まあ回復役からぶっ殺すのがセオリーか?」
 
吸血鬼の攻撃! 僧侶に大ダメージを与えた!
僧侶「ぐああ!」
剣士「僧侶くんっ! 」
勇者(女神様からもらった武器を持ってしてもここまで差があるのか……
 このままじゃ手も足も出せない……!)
 
吸血鬼「……うん。まあまあの味だな。もっと緑黄色野菜とってくれてたらさらに美味しかったかもしれない。
 じゃあ次は勇者の血の味テイスティングだーっ!!魔族みんなお待ちかね!!よっしゃ行くぞオラーーーっ!!」
 
190:
剣士「させるかっ」ザシュッ
吸血鬼「ああん? だーから、効かねーって……」
カッ!
吸血鬼「うおっ まぶしっ!? こ……これは日光!?なんで……」
 「魔王の子が昼を夜に変えてしまったようですが……それを私が正しい時に戻しました。
 滅しなさい、悪しき者よ」
 
狩人「これなら……。剣士、あいつに今ならダメージを与えられるっ、構えて!」
剣士「う、うん! ……あ、あれっ!?消えっ――きゃっ!?」
吸血鬼「あははははは……こんなものなのか?神様の力ってさぁ……
 これくらいならまだまだ俺は自由に動けるぜ?」
 
僧侶「剣士ちゃん! 貴様ぁぁぁぁ……このドスケベ野郎!!セクシャルハラスメントだぞ!!その汚らわしい手を離せ!!」
吸血鬼「腕抑えただけでセクハラなの!? 人間世界まじ世知辛ぇな……」
狩人「剣士……」
僧侶「おい勇者っ!!お前なに黙ってるんだ!!剣士ちゃんがいやらしい魔族に捕まってるんだぞ!?何とも思わないのか!?」
剣士「ええー!? いやらしい魔族なの!? やだーっ離してよーっ」
吸血鬼「いや俺に下心は一切ないけれども!あらぬ誤解は避けたいのだけれども! 
 つーか人間なんて全部家畜以下だと思ってるし……邪な心を抱いてると思われてること自体侮辱っていうか……」
 
剣士「腹立つなあ!」
191:
僧侶「てめー勇者なんとか言えっこのぉ……」
勇者は水魔法を唱え終えた! 幾枚もの氷板が吸血鬼を取り囲む!
吸血鬼「あ?」
僧侶「あ?」
氷が鏡面と化し、吸血鬼の体に光が収束される!
吸血鬼は弱体化した!
吸血鬼「ああああああああ!?なに……なにそれっ!?」
勇者「いまだ、剣士!狩人!」
僧侶「うおおおおおおおおおっ!!」
勇者「君は攻撃に回らなくていい!」
192:
吸血鬼「オエエエエエエエエエッ……また具合が悪くなってきた……くそ!!てんめえええやりやがったな勇者死ねこの野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吸血鬼「こんなの氷を壊しちまえば終わりじゃねえか!!おえーッ 吐きそうになりながらも頑張る吸血鬼パーーンチ!」
狩人「させない」ヒュッ
吸血鬼「ぐう……っ!?」
狩人の矢が吸血鬼の手のひらと肘を射ぬいた!
吸血鬼「ちょっと……ちょっと待って!せめて勇者の血だけ吸わせて!後生だから!そしたら魔界に帰るから!!ね!!」
勇者「ね! じゃないよ、嫌だよ!嫌に決まってるだろ」
吸血鬼「てめーの答えは聞いてねーーーんだよお!!!よこせオラア!!」バッ
狩人「勇者はレバー嫌いだからあんまり美味しくないと思う……!」
勇者「たっ確かに嫌いだけどもそういう問題!?」
193:
剣士「……だめ」
――ズ……ッ
吸血鬼「……」
剣士「……お前なんかにあげる勇者の血なんて、一滴たりともこの世に存在しない」ズッ
吸血鬼「馬鹿な……いくら日光にあたってても、俺がこの程度の一撃で……こんな……」
僧侶「攻撃力増加の補助魔法、5回重ねがけしておいたからな」
吸血鬼「えげつなっ……ガフッ……」
吸血鬼「……血……俺、ここで死ぬのか……これで終わりなのか、全部……ああああ嘘だろ……まじかよ……ああもう畜生」
 「消えなさい……悪しき魔族よ……」
剣士「……」ビチャ
吸血鬼「くそ……なにが悪しき魔族だ……ふざ……けるな……。お前らはかなら……ず……まおうさまが……」
吸血鬼は血だまりに沈んだ。
吸血鬼を殺した。
194:
僧侶「……死んだ……?死んだか?」
 「魔族は死にました。あなた方の健闘に感謝します」
 
狩人「……はあ……」ガク
剣士「ほ、ほんと……?倒せた?」
勇者「みんなのおかげだ。僕一人じゃ勝てなかった。ありがとう、三人とも」
僧侶「……うおおおお!やったな!魔族の一人をぶっ殺したぜ!これで俺もハーレムを都でもてもてだ!!」
狩人「……」
僧侶「何故そんな軽蔑のまなざしで俺を見るんだ、狩人ちゃん……!?」
195:
 「塔の最下層まで私が送ってあげましょう。勇者とその仲間たちよ、雪の守護神と星の守護神も私と同じように救ってあげてください。
 魔族の力は人間の何倍も強い故、私は貴方達に力を与えました。
 そして、雪の神からは知恵を、……星の神からは、あなた方の望むものを授かるでしょう」
 
 「人類の命運は貴方がたにかかっているのです。どうかご武運を……」
 
 「……それから、あともうひとつだけ、ここに辿りついた勇者に伝えなくてはならないことがあります」
 
 「……勇者、こちらに」
 
勇者「は、はい……?」
196:
第九章 マイディアブラザー
197:
* * *
数十日後
王都 場末のパブ
女A「え〜〜すごおい、あなたが四天王の一人ヴァンパイアを倒したのぉ?」
女B「ヴァンパイアって三勇士を皆殺しにしたっていうこわ〜〜い魔族でしょ?僧侶さんすごーい!強いのね!」
僧侶「いや……それほどでもないよ、ハッハッハ」
女C「まあ謙虚。そんな偉業を成し遂げたなら堂々としていらっしゃればいいのに!」
女A「あなた方がいればこの国も安心ね!」
僧侶「僕は本当サポート役だったので……ハッハッハ! もう一本ドンペリ入れてくれる!?」
「「「喜んでー!」」」
198:
* * *

ガッシャガッシャ……
剣士(新しい剣……大きいのに全然重くない。何の素材でできてるんだろう。不思議だなあ)
剣士(ヴァンパイアを倒してから、王都に戻って王様に報告をして……次は、雪の国。
 あの国は最近魔族の侵攻が苛烈で、首都が落ちそうなほど困窮してるって)
 
剣士(……王様に「頼むぞ」って言われちゃった。なんだか全部夢みたい……私たちが王様に頼りにされてるなんて。
 まあ、私たちっていうより勇者に期待しているんだろうけど!)
 
剣士(でも優しそうな王様だったな……初めて見ちゃった……緊張した)
剣士「……あ! 狩人ちゃんっ!こんなところで偶然だね、なにしてるの?」
狩人「別に……」
剣士「? そう?買い物かな? ……あ!見て、このマフラー。ふかふかもふもふなのに安い、お買い得だ」
商人「お買い得だよ!」
剣士「次は雪の国に行くんだからあったかくしていかなきゃね。すっごーっく寒いんだって!行ったことないからちょっと心配なの。
 ……あ……でも、狩人ちゃんは王都で弓兵団に入団するって最初から言ってたっけ。もう私たちと一緒には旅しないんだよね」
 
狩人「……」コク
剣士「そうだよね。ちょっと寂しいけど、お互いがんばろーね。狩人ちゃんと一緒に戦えて楽しかったよ」
狩人「……」コク
スタスタスタ……
剣士「あ、行っちゃった」
199:
商人「嬢ちゃん、買うの?買わないの!? 買うよね勿論!?」
剣士「え、あ、待って待って!何色にするか決めてないよ、まだ……」
商人「若い女の子にはこっちの赤色とか、桃色なんかが人気だよ。それかこっちの白とかね」
剣士「あっ」
商人「ん? おや渋いねえ。そんな草色なんて……女の子は地味な色より明るい色の方がいいんじゃないかと思うけどね」
商人「……え?これ買うの?返品不可だよ!いいの!?そ、そうか。毎度ありっ!」
王立図書館
勇者「…………」
勇者(「2羽の鷹に獅子の左目」……うーん、一体なんのことだ?
 いろんな人に話を聞いてみたり、図書館の本を片っ端から調べてみたけど分からないなあ)
勇者(鷹はまだしも、獅子なんてこの国の象徴だから王都のどこにでも彫刻や絵画があるし。
 どうしよう、もうすぐ雪の国へ出発しなければならないのに、まだ全然女神様から言われた謎を解けてないよ)
 
勇者「まずいな」
〜〜〜〜
200:
 「勇者。『2羽の鷹に獅子の左目』です。そこに辿りついたとき、貴方は絶大な力を得ることでしょう……」
 
勇者「鷹と獅子……ですか?」
 「……ただし忘れないで。その力は人が持つには大きすぎる。人が扱うにはその分代償が必要になるのです。
 一度使ったらもう後戻りはできません。……よく考えてください」
 
勇者「分かりました」
 「……」
 
 
〜〜〜〜
勇者「分かりましたって言っちゃったよ。全然分かってないよ。
 王都に鷹なんて飛んでないからやっぱり森に行くべきかな……とすると獅子の方も本物のライオンを探さないと、ってこと?」
 
勇者「うわ……厄介だな」
剣士「勇者、ここにいたんだね。女神様が言ってたことの意味、分かった?」
勇者「剣士。 いや……それがさっぱり」
剣士「そんなに焦らなくてもいいんじゃない?いつか自然に分かる時がくるよ。
 もしかして朝からずっとここにいたの?」
 
勇者「そうだね」
剣士「じゃあ休憩しよ! ねえねえ見てこれ。あったかそうなマフラーでしょ?」
勇者「市で買ったの?うん、いいんじゃないか。似合うと思うよ」
201:
剣士「しかもね、この色、勇者の目の色とそっくりじゃない?生き映しじゃない?このグリーン」
勇者「僕の目はこんなにきれいな緑じゃないけどね」
剣士「ううん。そっくりだよ。これ勇者にあげるね!君、寒いの苦手でしょ?寒い日の朝は寝起きがめちゃくちゃ悪いもんね」
勇者「えっ、僕に?」
勇者「……うわ、ありがとう。うれしいよ」
剣士「うん! それでね、私も雪の国は初めてだからマフラー買おうと思って私は白色を……あ、あれ」
剣士「あ……私の分買ってくるの忘れちゃったよ」
勇者「…………」
剣士「わ、笑わないでよー!ちょっとうっかりしちゃっただけだもん」
202:
ゴーン……ゴーン……
勇者「もう二時か。市に行くついでに昼食も済ませようかな」ガタ
剣士「えっ! 一緒に市に行ってくれるの? やったー!」ピョンピョン
勇者「しーっ ここ一応図書館だから……」
ゴーン……ゴーン……
剣士「あ。そっか。ごめんごめん。……あれ?ねえ、この時計塔の鐘の音で思いだしたけど」
剣士「時計塔の大きな時計の針って、長針に鷲で、短針に鷹の飾りがなかったっけ」
勇者「……まさか二羽の鷹っていうのは、二時ってこと?じゃあ獅子っていうのは……
 なんだ?窓から光がいきなり射してきた」
 
剣士「窓の外のライオンの彫刻の目に太陽の光が反射してるみたい。で図書館の中にあるライオン像にも光があたってるけど……
 こっちは何ともないね?このライオン像に女神様の言ってた武器っていうのがあるのかな?」
勇者「ええっ!? 図書館の中に?」
勇者「このライオン像は目を閉じてるな……ひょっとして」スッ
剣士「うわっ 目が開いた! こわっ
 あ……また目に光が反射して、今度はあっちの像に」
 
勇者「なるほど。光を辿っていけばいいんだ。ただ、多分それができるのは2時から1分間だけ……急ごう!」
203:
図書館 地下4階
剣士「地下まで来ちゃったね。 わーカビ臭い」
勇者「ここが最下層だ。誰も人がいないな。僕も初めてここまで下りてきたけど……」
剣士「変な本ばっかりだもんね。あ、あのライオンで最後じゃないかな?」
獅子像「太陽の光をこの目に浴びたのは一体何千年ぶりだろうか……やはりいいものだな」
剣士「あれ?勇者、声枯れた? なんか変な声だよ」
勇者「剣士こそ、いつの間にそんな渋い壮年のおじさんのような声に」
獅子像「ここだ、ここ。私だ。お前らの真正面にいるだろうが、無視するな」
勇者「像が喋った……」
剣士「不思議!」
獅子像「なにも不思議なことなんてあるもんか。像が喋ったらおかしいのかね」
獅子像「まあとにかくここに光を運んできてくれた礼だ。
 私の左目の水晶をとるがよい、それが鍵だ」
 
勇者「鍵……何のための鍵だい」
獅子像「鍵なのだから、当然扉を開けるために決まっているだろう。ほら、扉はそこにあるではないか」
剣士「……?」
勇者「書棚ばっかりで扉なんてないけれど」
獅子像「下だ、下」
勇者「床の紋様? 確かに扉っぽく見えなくはないな。よく見ればくぼみもある。
 ここに水晶をはめればいいのかな?」
 
剣士「なんかわくわくするね!すごい!」
204:
勇者「……。はめたよ」
獅子像「そうか。そしたらば……」
剣士「そしたら?」
獅子像「受け身をとっておけ」
勇者「ああ、受け身を……。……えっ?」
ガコッ!!
勇者「床がッ!? うわあああっ!!」
剣士「勇者っ」ガシ
ウワーーーー
 キャーーー
 
獅子像「あ……勇者じゃない奴も落ちてしまったな。まあいいか。どうなるか分からんしな。
 2名様ご案内ーっと……」
 
205:
――ドサドサッ!!
勇者「うぐっ」
剣士「うーーー……いたたたた……もう、なにこれ。ここどこ? 真っ暗で何も見えないよ。
 勇者?勇者、どこ行っちゃったの?」
 
勇者「君の下だよ」
剣士「下って……わああああああっ!? ごごごごごっごめんね!? なんかやけに地面があったかいなとは思ったんだけどっ
 そういう仕様なのかなって思ってっ!本当にごめん!」
 
剣士(ひゃーーなにやってんのなにやってんの馬鹿!馬鹿馬鹿!信じられない!)
 
勇者「いや、大丈夫。それよりここは一体……地下4階より下があったのか?とりあえず灯りがほしいな」
剣士「ちょ、ちょっと待って、もう少し灯りつけるの待って。もしくは私から離れたところで灯りつけて」
勇者「? なんで?」
剣士「いま顔がひどいことになってるから……すぐ冷ますからっ」
ボッ……ボッ……
勇者「あれ……壁の松明が次々に灯っていく。誰かいるのかな?」
剣士「いるとすれば間違いなく私への嫌がらせが目的だよね」
206:
勇者「ここに女神様の言うものが……。 ん?あれは祭壇?」
剣士「なんかおどろおどろしい雰囲気だね。ちょっと怖いよ」
剣士「……あっ、でもあれ、すっごいきれいな剣と本!あれが女神様の言ってた武器かな!」
勇者「剣と本…………。……っ?」ゾク
勇者(うっ……なんだ今の? あの剣を見た瞬間、寒気が……。 嫌な感じのする剣だな……)
剣士「見て勇者。刀身が真っ赤な剣って、一体何でできてるのかな。あ、すっごい軽いし振りやすいよ」ブンブン
勇者「うわあっ。なんて物怖じのしない性格なんだ。……剣士、今すぐその剣を離して」
剣士「え?なんで?」
勇者「なんだか嫌な気配を感じるんだ。その剣は……使わない方がいい」
剣士「まあ、使えないんだけどね。全然鞘から抜けないの、この剣。すごく固くて」
勇者「え? ……本当だ。なんだこれ。かたっ……!」ガチャガチャ
剣士「この剣の名前、なんて読むの?この国の言葉じゃないね」
勇者「古代語かな。ええと、『魔剣……」
勇者「『魔剣アルファルド』。……魔剣って!!やっぱり曰くつきじゃないか!」
剣士「でもすごい強い剣なんじゃないのかな?今は抜けなくても、いつか抜けるかも。
 私もっと強くなりたいの。旅の間この剣を私が持ってたらだめかな」
 
勇者「……だ……だめだ。魔剣なんて言うからにはどんなデメリットがあるか分かったもんじゃないよ。
 それに抜けない剣なんて一緒に腰に下げてたら邪魔だろ?とにかく却下」
 
剣士「えーっ! ……あっ私にはそういうくせに自分は本を懐に入れようとしてる!ずるい!」
207:
勇者「え?入れてないけど?」
剣士「マントのその妙に四角い出っ張りは何なの!!」ガバッ
勇者「なんでもないって。ちょっ……!」
剣士「やっぱり入れてるじゃない。これは?タイトルはないんだ……。魔法書?」
勇者「まあ、多分。大半は文字が掠れていて読めないけど、最後の方のページに、まだ僕の知らない呪文が二つあったんだ。
 一つは見たことのない文字で書かれていて分からないんだけど、もう一つは使うことができる」
 
勇者「剣は抜けないけど呪文は使える。だからこれは持ち帰るよ」
剣士「えーーーーーなにそれずるい。勇者が詭弁を弄して私を煙に巻こうとしてる!」
勇者「女神様の言ってた意味も分かったし、これで心おきなく雪の国に行けるな。よかった。
 あーお腹すいた。早く市に行こう。マフラー売り切れになっちゃうかもしれないしね」
 
剣士「んもー頑固なんだから。分かったからそんなに急ぎ足で行かないでよ!待ってったら!」
剣士「ていうか階段あったんだ。帰れないかと心配しちゃったよ。……勇者?どうしたの?」
勇者「……」チラ
……カチャッ
勇者「! (剣が……今……)」
勇者「何でもない。早く行こう。早く……」
208:
ざわざわ…… ざわ……
「勇者だ」 「あれが勇者……」 「吸血鬼を倒したって」
剣士「有名人だね、勇者」
勇者「なんでそんなに君は嬉しそうなんだ。全然僕は嬉しくない。こんなに注目されると居心地が悪いよ」
「勇者がいま犬のフン踏みそうになったぞ!」 「あの勇者が屋台の食いもん買って、一口も食べないうちに地面に落としたぞ!?」
「おい見たか今の……地面に落とした食べ物、一瞬拾おうとしたぞ。手がぴくってしたぞ」 「食い意地はってるわね」
「いや、あの三勇士より強いっていう勇者だぞ。それも何か理由があったのかも……」 「なるほど……」ザワザワ
勇者「いや別に本気で食べようとしたわけじゃないけどさ……条件反射っていうか……。ていうかそんなところまでじろじろ見ないでくれっ」
剣士「分かる分かる。地面に接してない上の部分だけならいけるんじゃないかな!?とか思うよね」
魔術師長「ふふ。有名になるのも一苦労ね、勇者。久しぶり」
勇者「本当に久しぶりだね。それに偶然。どうしたの?」
魔術師長「ちょっと実験の材料を買いに市に来たんだ。どう?剣士も一緒にちょっと学院でお茶でもしない?
  いろいろあなたたちに訊きたいこともあるし、私も魔法のことでなら何か力になれるかも」
  
勇者「そうだね、とりあえず今はどこか室内に隠れたい気分だ……」
ざわざわ ざわざわ
212:
* * *
剣士「? ねえ、なんでみんなあそこに集まってるのかな」
魔術師長「ああ、あそこは神殿区の入り口。一日に一回、神殿長があそこから顔を見せるのを信者たちが待ってるんだよ。
  ほら、そろそろいらっしゃるわ」
  
ざわ……
剣士「へえ……。あの人が神殿で一番えらい人なんだよね。僧侶くんの上司の上司の上司?」
勇者「そうなるね」
魔術師長「あっ。神儀官がこっちに来る。私この間、彼女とちょっともめたから顔合わせづらいわ。
  ごめん先に行ってる!なんかごまかしといてくれる?」スタスタ
  
勇者「ええっ ちょっと?」
神儀官「……久しいですね、勇者様。それから初めまして剣士様。
 あら、もう一人いたように思えたのですけど、気のせいでしたかね」
 
勇者「あ はい、そうですね。気のせいかと……」
213:
神儀官「あなたたちの活躍は耳に入っていますよ。魔王の部下のうち1人打ち破ったそうですね。
 神殿長様も大層お喜びになっておられます」
 
神儀官「魔族など……我らが崇める神の神聖なる魔法からは程遠い、なんと野蛮で危険な魔法を操ることか。
 あの者たちが生きているということだけで、我ら神殿の意義が揺らぎます」
 
勇者(野蛮で危険な魔法か……)
勇者(何故だろう。まるで僕の使う術も非難されているような……)
神儀官「勇者様。神から直々に与えられたその力でもって、必ず魔族を根絶やしにすると誓ってくださいな」ニコ
神儀官「それから剣士様。まだ剣を握った月日も短いというのに、大層ご立派な技量をお持ちだと聞いております。
 あなたもその剣を振る理由を違えぬよう……」
 
神儀官「では私はこれで。魔術師長によろしく伝えてください」スッ
剣士「……なんか怖い人」
勇者「釘を刺された気分だな」
僧侶「率直に言って嫌な人だな?」
勇者「うわっ!? 僧侶いつからいたんだ。いやそれより、彼女は女性だよ?」
僧侶「んなの見りゃ分かる。俺が女相手だったら誰にでもでれでれすると思ったら大間違いだぜ。
 俺も選り好みくらい、してるっ!!」
 
剣士「そ……そうだったんだ!?」
214:
僧侶「王都に来て初めて神殿の連中を見たが……まあ思った通りだな。一応気を付けた方がいいぜ」
勇者「気をつける……?」
僧侶「俺たちや魔術師が魔法を使えるのは、あくまで神様の力を借りてるって体だからなぁ。
 洗礼を受けて、修業を積んで、聖典を読み込んでってな風に魔法を会得してんだ」
 
僧侶「だが魔族の奴らは、そんなもん全部すっ飛ばして色んな魔法ぶっ放してるわけだろ。
 そういうのが神殿の癪にさわるんじゃねーの。よくわからんが、魔法を独占してる神殿の権威とかが貶められる意味で」
 
剣士「あれ。でも勇者って、洗礼とか修業してないよね」
僧侶「だから気をつけろって言ったんだ。極端に言えばお前も魔族側なわけだ。神殿にとっちゃおもしろくないんじゃねーのかってこと」
勇者「そんな、僕は別に魔法を使って誰かを傷つけようなんて思っちゃいないよ」
僧侶「お前がなにをしようが関係ない、その力を持ってるってことだけで問題視される……かもしれない。
 俺がいま言ったことは全部俺の推測だ、あの女の口ぶりでそういうこともあるかもなってだけ」
 
僧侶「ま、危惧するのも全部魔王を倒してからの話になるけどな」
勇者「……」
215:
剣士「そんなのひどくない?もし僧侶くんがいま言ったことが本当だとしたら許せないよ。
 だったら魔王を倒した後、私が神殿も倒すよ!!」
 
勇者「えっ」
僧侶「おお……思いきったことを言うなぁ 剣士ちゃん」
勇者「……。まあ、魔王を無事倒せたらそのことは考えるよ。今は魔族のことをまず考えないとね」
副団長「面構えが少し変わったな?勇者」
勇者「うおわっ……だ、だからみんないきなり現れるのやめてくれよ」
副団長「すまんな!!!街を歩いていたら皆を見かけたので、つい全力で走ってきてしまった!!!」
剣士「相変わらずすごいバイタリティ」
僧侶「なんだこの汗臭い男は……」
副団長「戦う意思がようやく鋼のごとく固まったと見えるぞ、3人とも」
217:
勇者「そうかもしれない。……塔から下りて目にした、あの壮絶の一言に尽きる光景がまだ瞼の裏から離れない。
 吸血鬼と、それから赤目の魔族に殺された人々の血で真っ赤に染まった大地……」
 
剣士「…………」ゴク
僧侶「ありゃあひどかったな。さすがの俺でも慄然としたぜ」
副団長「塔の警備にあたっていた騎士兵士、魔術師神官含めておよそ150人がやられた。
 しかもあんな惨たらしいやり方で……思い出すのもおぞましい」
 
勇者「もうあんなことさせない。もっと強くなって、早く戦争を終わらせなければ、また繰り返される。
 僕が止めなくちゃ」
 
剣士「僕たちが、でしょ?」
勇者「……うん。僕たちが、止めなくちゃ」
副団長「ああッ!!!!!その意気だッ!!!!!君たちなら絶対にできるッ!!!!共に悪しき者たちを討ち砕こうッッ!!!!!」
僧侶「うっせ」
218:
* * *
魔王城
魔王「なんと……吸血鬼が勇者にやられたと……?」
兄「なにっ? なら勇者はあの時、すでに塔の中にいたのか。くそ、そうと知っていれば……」
兄(俺があの時、塔に進んでいたならば……)
魔女「まあ、仕方ありませんね。どうせあいつのことだから調子に乗ってしまったのではなくって? クスクス……」
ヒュドラ「魔王様。聞けばその勇者は、次は私の治める雪の塔に向かっているとか。
  私にお任せ下さい。必ずや勇者の首をここに持ってきてやります」
  
魔女「なぁんだ。先に星の国にくればいいのに……ねえ?人形ちゃんも悲しんでるわ」
魔王「ならばヒュドラに任せよう。しくじるなよ」
炎竜「魔王様、ならばわしも、」
ヒュドラ「炎竜殿。心配は御無用です。私に一任させて頂けますかな」
魔王「炎竜は太陽の国制圧を担当してもらおう……」
炎竜「はっ」
魔王「では散れ。今日はここまでだ。また収集する」
219:
兄「……父上。ヒュドラはああ言ってますが、俺にも戦わせてください。
 もし勇者の存在が脅威でないとしても、芽は早いうちに摘んでおいたほうがいい」
 
魔王「いや、息子よ。お前には別の任を与える。娘を連れ戻すのだ。ここ、魔王城に」
兄「……!」
魔王「……変わり者だとは思っていたが、まさか人とともに行方を眩ますとは思わなんだ……
 いずれ太陽の国も焦土に変わる。娘をみすみす巻き添えにするわけにもいかん。
 それでもいいと、あいつは思って出て行ったのだろうがな。あれでも我が愛しの娘、妻の忘れ形見よ」
 
魔王「必ず見つけ出してここまで連れてこい。いいな。抵抗されたら力づくでもだ。お前の力の方が娘より強い」
兄「……は、はい」
兄(妹……お前は……)
〜〜〜
220:
魔王城 宝物庫
兄(侵入者と聞いたが、術式をこんなにきれいに解く奴なんて限られてくる……大方、)
兄「……やはりお前だったか」
妹「兄さん。……気づかれないようにここに入ったつもりだったんだけどな」
兄「あれでか。痕跡が至るところに残っていたぞ。本当に隠す気があったのか」
妹「え。本当?……えへへ、じゃあ本当は気づいてほしかったのかも……
 兄さんにはお別れ、言いたいなって思ってたから」
 
兄「? 何を言っている?」
妹「ここに侵入しちゃったのは、これ、返しに来たの。人里に入るためにつけてたこの指輪」
兄「『魔力封じの指輪』か……それを返すということは、もう人の土地に行くのをやめたのだな。賢い決断だ」
妹「ううん、そうじゃなくって。あのね兄さん……あの人に、私が魔族だってこと、ばれちゃったの」
兄「はっ!? な、ば、馬鹿。一体どうしたんだ。だからあれほど気をつけろと再三言っただろう!
 その者の名を言え。あの国を制圧したら真っ先に俺がこの手で……」
 
妹「どうして怒っているの?」
兄「それは……お前が傷つけられただろうから……人に思い入れたお前が悪いとは言え、
 人間ごときにお前が悩まされることはないだろう……」
妹「違うの。兄さん。私の人とは違う瞳と耳と、それから魔法を見ても、彼は……怖がらなかったよ。
 私は私だって言ってくれたの。受け入れてくれたのよ。種族なんて関係なしに」
 
 
 
221:
兄「騙されているんだ。まさかお前……駆け落ちなんぞするつもりじゃあないだろうな」
妹「兄さん。聞いてくれる? 私、夢を見たわ。私が夢で未来を視ることは知ってるよね?母さんと同じように」
兄「ああ……」
妹「どんな夢を見たと思う?あれはきっと遠い遠い未来ね。赤い目の魔族の女の子と……それから勇者って呼ばれてた男の子がね、
 人間の子どもたちと笑ってたわ。女の子は「魔王」って呼ばれてたのよ。なんだか私に似てたの。
 ねえ……とっても幸せな光景だったのよ。想像してみて、兄さん」
 
兄「馬鹿な。あり得ない。魔王と勇者が共に笑い合うなど、そんなふざけた話があるか!」
妹「あるのよ。遙か彼方の遠い未来で。私が視たんだもの。……私ね、魔族のみんなと同じくらい人が好き。
 魔法なんて使えなくったって、弱くったって、彼らはとっても一生懸命に生きてるんだよ。
 花を愛でる気持ちも、家族を愛する気持ちも、私たちと何一つ違わないわ」
 
妹「だから私は、私のやり方で未来を辿るわ。夢で視たあの光景にいつか世界が追い付くように。
 ごめんね兄さん。お父様には、本当に申し訳なく思ってるのだけど……兄さんがお父様を支えてあげて」
 
兄「なにを言って……正気か?」
妹「お父様に最後に会えないのは悲しいけど、会ったら絶対止められちゃうわ。兄さんに会えてよかった」
兄「……」
222:
兄「そんな未来が真実あるとするのなら、今俺たちが行っていることはなんだというのだ。
 俺は……俺だって……殺さずにいられたら、何も奪わずにいられたらそれが最良だ……しかし」
 
兄「もう戦争は始っていて、終わらせねばならん。未来がどうあれ、決着をつけねば。
 そしてそれは、俺たちの勝利という形でなければならない。敗北者には死と屈辱が待っているのだから」
 
妹「勝利も敗北も無意味だっていうことに、いつか兄さんも気づくわ。
 それでも戦うというなら……私の大切な兄さん。世界でたったひとりの兄さん……」
 
妹「本当は、私の魔力は何かの水晶にでも封じようかと思ってたのだけど、全部兄さんへのおまじないに使うね。
 私のほとんどすべての魔力を使った、最後の魔法だよ」
 
兄「何をするつもりだ?」
妹「兄さんが大ピンチに陥ったときに、きっとこの魔法が兄さんを守ってくれる。とびきりの魔法なの」
兄「……魔力のほぼすべてを……本気なんだな」
妹「もう必要ないのよ」
223:
兄「……どうせ言っても聞かないか」
妹「うん。どんな結末になったとしても、これは私の選択なのよ。私は後悔しない。だから兄さんも責任なんて感じないでね」
兄「俺の心配をする前に自分の心配をしろ。……死ぬなよ」
妹「死なないわ」
妹「さよなら!兄さん。元気でね……ごめんなさい」
兄「…………ああ……」
兄「……」
225:
* * *
老弓兵「これが慰霊碑だ。ここにあいつの名前が……ほら」
狩人「……はい……」
老弓兵「あいつはよく、お前さんのこと話してたよ。そりゃもう嬉しそうに。
 聞いてる俺たちの耳にタコができそうだった。ははは……」
 
老弓兵「あいつの最期は……?」
狩人「聞いてます」
老弓兵「そうか……。……あんたがどうしても弓兵になりたいってんなら反対しないがね、
 復讐のために兵士になる奴なんてザラだし……しかし、老婆心から言わせてもらうと……」
 
狩人「いえ。私は戦います」
老弓兵「……そうかい。あんたがそうしなきゃ生きれないなら仕方ないよ。
 じゃあしばらくここでゆっくりしてくといい」
 
狩人「ありがとうございました……」
226:
狩人「……」
僧侶(あれ。狩人ちゃん、こんなところで一体なにを……慰霊碑?)
僧侶「なにしてんだい」
狩人「……祈りを捧げてました」
僧侶「ああ……って慰霊碑の前にいるんだからそうだよな。
 俺の知ってた奴も何人かここに名前が刻まれてんだ。
 僧侶ちゃんは……家族がここに?それとも友人?」
 
狩人「婚約者が」
僧侶「ああ婚約者が…………こんっっ!?!? あ、ああ……そ、そうだったのか」
狩人「里で一番の弓の使い手だった。国を守るために兵士になるって言って里を出たっきり。
 1年前に魔族に殺されてもういません」
 
僧侶「ああ……」
狩人「遺体は……ひどかったです」
狩人「だから私は彼に教わった弓術でもって仇をとりたい。
 それくらいしか私にできることは……ない……から」
 
僧侶「俺も同じだな。婚約者なんてもんじゃないが。
 いきなり生活ブッ壊されて、生きてた連中あんな化け物にされて、こんなんじゃ腹の虫が収まらねーよ

 
僧侶「なあ、狩人ちゃん。俺たちと一緒に行こうぜ。王都に残るなんて言わずにさ。
 結構俺たちもなかなかいいパーティになってきたんじゃないかって思うんだけど」
 
狩人「一緒に……」
僧侶「それにさ、あいつらだけじゃ不安じゃないか?あのオトボケ勇者に天然剣士ちゃんの二人だぜ
 俺たちが支えてあげねーといつしくじるか分かったもんじゃねーよ」
 
狩人「……」
僧侶「ん?なんだ……俺の顔になんかついてる!?」
227:
狩人「意外だと思って……」
僧侶「意外?」
狩人「意外と……世話焼き」
僧侶「今はお節介な男が王都でもてるらしいからな」
狩人「そんなの……聞いたことないです。でも……そうですね。確かに3人だと不安……」
僧侶「3人って俺も入ってんのかよ」
狩人「だから、一緒に連れていってもらえますか」
僧侶「……ああ、勿論!」
剣士「あっ!僧侶くんに狩人ちゃん!ここで会うなんて偶然だねー、なにしてるの?」
狩人「……剣士、勇者」
勇者「だれがオトボケ勇者だよ」
僧侶「うわーっ!お前すっげえ地獄耳な!!こわっ!!きもっ!!」
勇者「うるさいな……色ボケ僧侶」
僧侶「てめーーー言ってはいけないことを言ったな覚悟しろ」
勇者「いたっ!!」
剣士「二人ともうるさーい!こういうところでは静かにしないといけないんだよっ!!」
狩人「……」クス
228:
『太陽の国の山奥にある小さな村で育った私は、雪の国に入国する時に初めて海を見ました。
 本当は陸から国境まで行った方が早かったのですけど、魔族の襲撃を恐れる船の方に
 
 護衛として一緒に乗ってほしいって言われて。
 
 遠回りになっちゃうけど海を見ることができて私はとっても嬉しかったです。
 
 雪の国に近い海だったから、水は冷たくて指先をつけてみるのが精いっぱいでした。
 
 そしたら狩人ちゃんが、誰かに宛てた手紙をボトルに入れて流すっていう遊びを教えてくれて、
 
 今まさにそれをやってみてるところなんですけど……あ、狩人ちゃんって言うのは一緒に旅をしてる仲間で、
 
 あと僧侶くんと勇者も一緒に旅をしてて、勇者の名前はハロルドって言うんですけど勇者だから勇者なんです。
 
 なんで旅をしてるかって言うと魔王を倒すためです。あ、私は剣士だよ。最近剣の扱いも上手くなってきました!
 
 自分で言うのもなんだけど!
 
 
 乗る予定の船が明日出港予定なので、今日は夕方、港に出ている露店をみんなで見に行きました。
 
 大きなイカの日干しにびっくりしてたら、勇者がふわふわの雲みたいなの手に持ってて、
 
 なにそれって訊いたら「雲だよ」って本当にそう言うからもっとびっくりしちゃったよ。魔法で作ったんだって。
 
 食べてみたら砂糖みたいに甘くって……雲って甘いんだ、って呆然としてたら、
 
 横にいた狩人ちゃんと勇者がなんか含み笑いしてるのね。はっとして、近くの露店に目を配ったら、雲と同じのがありました。
 
 「わたあめ」って言うんだって。ええとつまり、私は二人に一杯食わされたってことなんです。
 
 二人で私を騙すなんて、ひどいと思いませんか?全くもう。
 
 でもその後会った僧侶くんに同じことやってみせたら……彼も見事に騙されてました。すっごくびっくりしてたな。
 
 ああ、もう便箋がなくなっちゃう。なんだか変な手紙になっちゃったけど……うーん、ごめんなさい。
 
 家族以外に手紙なんて書いたことないから、不慣れなんです。敬語もちょっと変かも。
 
 では、親愛なる誰かさんへ。あなたの幸福を祈っています。
 
         Nina 』
229:
少年は時計屋が手紙を読み終えるのを待って、途中から止まったままだった右手を思わずというようにこめかみにあてた。
その内容は昔祖父が読んでくれたあの手紙のものと酷似していた。
「信じられないなぁ。それ、僕が持ってる手紙を書いた人と同じだ。小さいころ、海辺を歩いてるときに見つけたんですよ」
「俺はこの街の大河で釣りをしてたら見つけたんだ。なんだか捨てられなくてな」
よかったらこれ、やるよ。時計屋の青年が、瓶ごと少年の手に押しつける。
二人が店の奥にある青年の私室にいるにも関わらず、
店頭にずらりと客を圧倒するように飾ってある時計たちのカチコチ、カチコチと秒針を鳴らす音がここまで響いていた。
「いいんですか」
「いいって。俺が持ってたってしょうがねえしな。もしかしたら3通目もあるかもしれないぜ。おたく、旅してんだろ?そのうち見つけるかもな」
楽観的に時計屋が笑うのにつられて、少年も口端を上げた。
本当にそうなればいいのに。
しかし少年が子どもの頃に聴いた手紙には、4通目だと「Nina」は書いていた。
海を漂っているだろうあとの2通を彼が受け取れる確率は、恐らく天文学的に低い。
230:
笑う傍らでそんな諦観を覚えながら、ようやく彼は作業を再開する。
テーブルには祖父から受け継いだ珍妙な器具が鎮座しており、どれも時計屋にとっては見たこともないような品ばかりだった。
すり鉢のようなもので薬草をすり潰している彼に、青年が頬杖をつきながら尋ねた。
「おたくみたいな若い薬師、いるんだな。しかも旅してこんな辺鄙な村までよくもまあ。
 しかも一人で。いつから旅してるんだ?」
「祖父が亡くなってからだから……3年前くらいからかな」
「ふうん。大変なんだな……。でも薬師なんて、都市で勤務するのが普通なんだぜ。結構稼げるって話だ。
 旅なんてしてちゃ、おたくの懐に入ってくるのは雀の涙みたいなもんだろ?なんで旅なんかしてるんだ」
俗物的な質問をぶつけられて、彼は苦笑した。
しかし時計屋が本当に単なる興味本位で訊いていることが分かっていたので、
彼も軽い気持ちで一片の衒いもなく答えた。
むしろ青年の裏表のない、竹を割ったような性格に、今日出会ったばかりだと言うのに親しみを覚えていた。
「祖父から教わったことをできるだけ広めたくて。都市や大きな街から離れたところだと、神官さんもいないから」
「確かにな」
「……はい、できましたよ。これが関節痛に効く薬です。
 とりあえず2カ月分作りましたけど、なくなりそうになったら僕宛てに鳥を飛ばしてくれれば届けさせます」
231:
お待たせしてすみませんと謝ると、それには答えず青年は彼の目をじっと見た後「すごいな」と感嘆した。
薬は青年の父親へのものだった。今も足の痛みに悩まされて店の2階で休んでいる。
ここのところ店番は息子にまかせっきりだったそうだ。
「ありがとな。これで親父もよくなるだろうよ」
青年は一度店頭に行くとすぐ戻ってきて、彼に小さな懐中時計を手渡した。
金属のひやりとした感触が手のひらに広がり、手から零れた鎖がたてた軽やかな音が心地よく彼の耳朶を打った。。
「これ礼。俺が作ったやつなんだ。ちょっと特殊な時計でな。耳を当ててみろよ」
言う通りにしてみると、いかにこの時計が彼に役に立つかが分かった。
「大事にするよ」何度も礼を言って時計屋の扉を開ける。胸から下げた懐中時計がカチコチと絶え間なく高らかに鳴いていた。
232:
「お待たせ、オリビア」
オリビアが尻尾を振って彼にすり寄ってくる。
遅いと抗議するように何度も彼の手に頭を押しつけて、それから胸の懐中時計に気づくと訝しげにふんふん鼻を鳴らした。
オリビアは一緒に旅をしている唯一の彼の仲間だ。
3歳の大型犬で、旅をはじめた頃は両手で持てるくらい小さかったのに、今では立ちあがってのしかかられると彼の方が力負けしてしまう程成長を遂げた。
「もらったんだよ」
なめられそうな気配を察知して、すぐに時計を外套の中にしまった。唾液でべとべとにされたらたまらない。
「さあ、じゃあ行こうか」
233:
オリビアとともに街道を行く。
午後の日差しは柔らかく霞んでいて、木漏れ日が彼の外套とオリビアの金色に波打つ毛皮にまだら模様をつくった。
ふと手紙を思いだす。海を渡り、雪の国へと赴く彼女たちを想像した。。
大昔の手紙だということは分かっていたが、遠く離れた雪舞い落ちる冬の地で、いまこの瞬間にも寒さを吹き飛ばすほど彼女達が賑やかに騒いでいそうな気がしてならなかった。
狩人に、僧侶に、手紙を書いた剣士、それから勇者。
1世紀前の人魔戦争でこの国を勝利に導いたとされる先代勇者とその仲間。
一体どんな人たちだったのだろうか。
王都に近づいたら、王立図書館で先代勇者たちのことを調べてみようと彼は考える。
これまで旅の途中に訪れた町にある小さな図書館には、ほとんど彼らに関する資料がなかったからだ。
「でも、まだまだ遠いな」
独り言を呟くと、オリビアがそんな弱気な彼を叱咤するようにワンとひとつ吠えた。
ときどき彼はこの相棒のことをお目付け役かなにかに感じてしまう。
「分かってるよ」
誤魔化しながら歩を進める。
王都どころか、次の街までもかなり距離があったが、
彼は外套の中で光る真新しい懐中時計と賢い愛犬とともに、晴れやかな気持ちで午後の空の下をゆったりと歩き続けたのだった。
234:
第八章 渡る霰街は鬼ばかり
235:
雪の国 大雪原南西部 霰の街
チャリーン……
狩人「……」
剣士「残り銅貨1枚……」
勇者「……」
僧侶「宿にも泊まれねーじゃねーかよ!!どうすんだオイ!!野宿なんてしたら死ぬ気温だぞ!!」
剣士「……外套売ってくる!!」
勇者「それこそ死ぬから待って! 何か考えよう!!」
236:
僧侶「大体てめーがあの時カジノを出なかったら今頃大富豪でウハウハだったのによぉぉぉ」
勇者「ご、ごめん」
剣士「でもそれ元は私のせいなんだよ……ごめんねみんな」
狩人「私がもっとポーカーフェイスを極めていれば……こんなことには」
勇者「狩人がこれ以上それ極めたらもう表情が判別できないよ……」
狩人「ごめんなさい……」
僧侶「ええっ……いやそれを言うなら俺も一番最初に調子乗って全資金パアにしてすみませんでした……」
「「「「……」」」」ショボン
ビュオォォォ……
僧侶「……いや待てよ。元はといえばあの定期ソリのおっさんが全部悪いだろ」
剣士「確かに。諸悪の根源だね。私たち悪くないね」
狩人「射る?」ヒソ
剣士「射らない射らない」ヒソ
勇者「といってもお金がないことにはどうにもならないなあ。どうしようか……」
〜〜〜
239:
剣士「ここが雪の国かぁ……さっむーい! すごーい、雪景色だね!寒いけどきれいっ」
狩人「……」ガクガクブルブル
勇者「まずは首都に行きたいんだけど、それには北に広がる大雪原を越えなきゃ」
町民「雪原を越えるなら、定期犬ゾリを利用するといいよ。駅はあっちにある」
僧侶「犬ゾリねえ……」
勇者「ありがとうございます」
勇者「……ええっ!? もう出発してしまった?」
ソリ業者「ああ。ついさっきな。あんたらも運が悪かったね」
剣士「困ったね。次の便はいつなの?」
ソリ業者「えーと……来月の中旬かな」
勇者「来月?それじゃちょっと遅すぎるなぁ。どうにかなりませんか?僕たちこの国の王様に会いに行きたいんですけど」
ソリ業者「って言われてもなあ。こちとらそう簡単に予定を変えるわけにもいかんのだよ。
  所有する犬も限られているし……どうしてもってんなら、西の組合を覗いてみな。
  俺たち以外にも、狩りやら商業やらでソリを使ってる奴がけっこうあそこでたむろしてるからな」
  
ソリ業者「運がよければ乗せてもらえるかもしれんぞ。首都まで乗せていってもらえるかはわからんが」
240:
勇者「……って言われてここに来てみたんですけど。どうにか僕たちを首都まで乗せていってもらえませんか?」
男「あぁん……? まあ……いまの時期は暇だし、別に俺はかまやしないが……」
剣士「本当っ!? やった!よかったね、勇者!」
男「ただし!!条件がある。予定外にソリを動かすんだ……分かんだろ? 金だ、金」
勇者「あ、はい。いくらですか」
男「金貨200枚」
勇者「に……にひゃく!? そんな……いくらなんでも法外じゃないですか?」
剣士「そんなに持ってないよ。払えないよ」
男「200だ。びた一文まけねえぜ。……あんたら勇者一行なんだろ?そんくらい払えないなんて言わないよなぁ?」
剣士「いや、払えないって言ってるんだけど」
僧侶「てめーこのくそじじい!!ぼったくりだろ!!俺たちはあんたの国を魔族から救いに首都へ行くんだぞ!!!」グイ
狩人「……」
男「な、なんだ貴様ら。胸倉をつかむな!弓を引こうとするな!! 訴えるぞ!!
 とにかく金がないことにゃあ俺もソリを動かさん。言っとくがソリ使いは、いまいるのは俺だけだぜ」
 
僧侶「足元見やがって」
勇者「……うーん」
241:
勇者「参ったな。金貨200枚なんて、すぐに用意できるような金額じゃない。でも来月まで待つわけにはいかないし」
剣士「あ……あそこのお店アルバイト募集中だって。時給銀貨5枚」
勇者「働くか……」
僧侶「まあ待て待て。アルバイトするにしてもどんだけ時間がかかるかわからん」
勇者「なにその邪悪な笑みは」
僧侶「あるだろ。たった1時間で働かずに金をじゃんじゃん増やせる方法がよぉ……!!」
狩人「……」スイ
剣士「? あそこは……?」
勇者「カジノ……?」
僧侶「カジノだ」
勇者「カ、カジノ」
242:
僧侶「ここに全資金金貨30枚がある。それを7倍くらいにすりゃいいわけだ。なーに、10回くらい勝てば問題ない!!」
剣士「そうなんだ! カジノって初めてだからわくわくしちゃうな。4人でやればもっと早くお金貯まるよね」
勇者「そう簡単にいくかなぁ。狩人はどう思う?」
狩人「ポーカーなら……ルールは知ってます。でも自信ないです」
剣士「強そうだけど。すっごく強そうだけど」
僧侶「まあ俺にまずまかせろよ。これでも昔は賭博馬鹿と呼ばれたもんだぜ」
勇者「誇らしげに言うあだ名じゃないような……」
僧侶「とにかく俺に全財産預けろ。すぐ7倍にしてきてやっからよ! へっへ腕が鳴るぜ!!」
剣士「僧侶くん頑張ってね!」
勇者「じゃあまかせるよ」
243:
  
狩人「……いいの?彼にまかせて……」
勇者「すごい自信があったみたいだからさ。僧侶以外みんな賭博なんてやったことないし、それなら彼に任せた方がいいかなって。
 じゃ僕たちも中に入ろう」
 
剣士「うわあ、なんか……なんか私の知らない世界が広がってる」
狩人「絢爛」
勇者「この街は見たところ歓楽街みたいだけど、雪原の向こう、国の北西部には魔族に占領されてる地域もあるっていうのに
 こういったところがあるなんて少し驚きだ」
 
バニーガール「だからこそ、ここに集まってる金を持て余した大人たちは現実逃避がしたいのよ。私も含めて、ね」
剣士「そういうものなのかな? こんなときだからこそお金があるならもっと違うことに使えばいいのに」
勇者「あ……僧侶のゲームが始まるみたいだ」
244:
ざわ…… 
 ざわ……
僧侶「倍プッシュだ……!」
男「倍プッシュは禁止」
ざわ……
 ざわ……
 
 
 
男「はい。マイナス金貨500枚」
僧侶「」
勇者「や……やりやがった……」
剣士「7倍どころか0.06倍になっちゃってるよ僧侶くん!! なにしてるの!?」
狩人「はあ……」
僧侶「てへぺろ」
勇者「てへぺろじゃないんだよ、てへぺろじゃあ」
剣士「ていうか君はゲーム中にバニーガールのお姉さんの方見すぎっ! 敗因はそれでしょ」
僧侶「くっ!これもカジノ運営側の策略か!」
剣士「違うよ!君がすけべなだけだよ!」
勇者「金貨500枚なんて地道に貯めて終わる頃にはとっくに魔王軍が大陸支配してるよ。
 ええいこうなったら仕方ない! ちょっと待っててくれ」
 
246:
……ドサッ
勇者「金貨100枚もってきた……これを元手に4人でなんとか700枚勝ち取ろう」
剣士「ど、ど、どっからこんな大金持ってきたの!?」
僧侶「まさか盗……!?」
勇者「違う。武器を……僕の『とこしえの杖』を質に入れてきた」
狩人「め、女神様から頂いた杖を」
剣士「ひえーーー それいろいろ大丈夫なの!?女神様怒らない!?」
僧侶「まさか女神様もこんな使い方されるとは思ってなかっただろうな」
勇者「いやっ仕方ないだろう!?こんなところで足止め食らうわけにはいかないんだから
 女神様も分かってくれるはずだと思う!それにカジノで勝ちさえすればいいんだ!」
 
勇者「というかそれしかない」
剣士「そうだね……勝てばいいんだよ!さっきゲーム見てたから、なんとなくルール分かったし!」
狩人「……」コク
僧侶「おう!やってやろーぜ!」
勇者「よし行こう」
248:
* * *
ジャラジャラ がやがやがや
剣士(賭けって難しいな……。お金増えたかと思ったら減っちゃうし。私は向いてないのかも。
 みんなはどうかな?)
 
剣士「……えええっ!? 狩人ちゃんと勇者のテーブルに金貨がうず高く積まれてるっ!どういうことなの?」
僧侶「あの二人は弓と杖捨てて賭博師として生きた方がいいんじゃねーかな」
剣士「僧侶くん。……あれ……お金は?」
僧侶「負けた!!」
剣士「だからね、女の人見すぎだよ、もう。 まあ私もあんまり成果は上げられてないから人のこと言えないんだけど」
剣士「あの二人に任せた方がよさそうだね。余ったお金渡してこよっと」
剣士「狩人ちゃん、ゆう…………、!??」バイン
女性「あらら、ごめんなさいねお嬢さん。失礼」スタスタ
剣士(わ、きれいなドレス)
僧侶(胸元を大胆に開けたワインレッドのドレス……素晴らしいな)
剣士「うわっ 僧侶くん鼻血!!」
249:
わいわい がやがや ひそひそ
剣士「ああ……なんか二人のテーブルの周りにすごい人だかりができて近づけないね……」
僧侶「くそっ!! 狩人ちゃんはともかく、あんなきれいで巨乳のご婦人方に囲まれてる勇者への嫉妬の念で腹が煮えくりかえりそうだ!!!」
剣士「ま、まあ、二人は真剣勝負してるんだから」
剣士(……はあ……でも周りの人がきれいな格好の人ばっかりで、今更だけど自分の格好が気になってきちゃったよ。
 なんだかこうして見てると、小さいころからずっといっしょにいたのに勇者が知らない人みたい)
 
僧侶「剣士ちゃん元気ないけど大丈夫か?」
剣士「うん、別に何でもないよ。でもちょっと外の空気吸ってこようかな。
 渡せるようになったら私の余ったお金、二人に渡してくれる?」
 
僧侶「あいよ」
250:
剣士「うっ……寒い……でも外の方が気楽でいいや」
剣士「ちょっと歩こ」
剣士「もう夜遅いのに全然暗くないのね、この街。下手をすれば王都より明るいかも。
 通りに人はまだたくさんいるし、ここの人たちはいつ眠るのかな?」
 
剣士「こういうのが歓楽街って言うんだぁ。大人の街だね。飲み屋さんとカジノがいっぱい」
剣士「あれ。……ねえお姉さん、あそこに見えてる尖塔……ていうか城かな?あれってなに?」
通行人「ああ、あれは街から離れたところにある『幽玄の館』よ。幽霊屋敷って私たちは呼んでるけど」
剣士「ゆ、幽霊屋敷?」
通行人「今は誰も住んでないはずだけどね、気味悪い噂が絶えない古城なのよ。
 興味あっても行かない方がいいわよぉ」
 
剣士「興味なんて全然ないよっ! 幽霊なんて絶対会いたくないもん!」
通行人「あらそう?」
剣士「ひい、訊かなきゃよかった。あっちの方見ないようにして進まないと。
 なんか怖くなってきちゃった、もうみんなのところに戻ろう」
 
 
251:
がやがや がやがや
支配人「……いくら賭ける?」ニヤ
勇者「……」
狩人「……」
 「あの二人一体何者?」「二人とも10連勝だ! 前代未聞だぞ」「ついに支配人が奥からでてきたわ」
 「この間あの男に財産の半分持ってかれたよ……」
勇者「持ち金全部」
狩人「……同じ」
支配人「……勝負に出ましたか。久しぶりに燃えてきますね」
がやがやがやがや
僧侶「いいぞ!やっちまえ!!!このゲームに勝てば二人の金貨合わせて700越える!」
支配人「なんだあのうるさい男は……。まあとにかく始めますよ」ジャラ
狩人「いつでも」
勇者「……。……?」
253:
剣士「あれ……あれ? 確かこの道から来たような気がしたんだけど、でもこんな路地通ってきてない」
剣士「……ここどこ? おかしいな、迷っちゃったよ。なんか変に暗い路地だし……。
 うう、こんなことならカジノから出てくるんじゃなかった」
 
髭男「どうしました」
剣士「いっ!?!? あ、人か……」
髭男「人以外のなにがいると思ったんですか」
剣士「幽霊とか……。あ、あの道に迷っちゃって。カジノに戻りたいんだけど道知らないかな?」
髭男「カジノったってこの街には色々ありますからね……そのカジノの名前は?」
剣士「えっ、名前?そんなの見なかったよ」
髭男「ふむ……まあいいでしょう。大丈夫です。ついてきてください」
剣士「本当?よかった。ありがとう!もう戻れないかと思っちゃった」
剣士「……ねえ、なんかどんどん暗い方に進んでない?気のせいかな?」
髭男「気のせいですよ」
剣士「……。ここらへんのお店って飲み屋さんなの? こんなに寒いのにお店の外に女の人がいっぱいいるけど……」
髭男「まあ似たようなものですね」
剣士「ふうん」
254:
剣士「……」
剣士「……あのー。本当にカジノに向かってるんだよね?どんどん街の中心から離れていってないかなあ」
髭男「カジノに行くということはお金が必要なんでしょう?」
剣士「あっうん。そうなの。しかもたくさん、できるだけ早く必要なんだ」
髭男「ならカジノなんて博打にでなくても、もっと手早く確実に稼げる方法がありますよ」
剣士「えー!? カジノよりいい方法があるの!?どんな方法!?」
髭男「今から案内しますよ」
剣士「あ、待って。でももしかしたら勇者と狩人ちゃんがもう稼いじゃってるかも。
 ……おじさん、私の仲間たちも一緒に連れて行きたいからやっぱり先にカジノに……」
 
髭男「(……勇者? 空耳か) いえ、この仕事は若い女性しかできないので男はだめですね」
剣士「そうなんだ。でも、やっぱり私がずっと戻らなかったらみんな心配しちゃうよ……。
 一旦みんなに相談してみる。ごめんなさい。カジノへの道はほかの人に訊いてみるよ」
 
髭男「ここまで案内させといて、そりゃねーだろ」
剣士「わっ な、なに? 離してよ」
髭男「もう少しで着くので大人しくしててください」
剣士「だから……行かないってば。手を離さないなら私も剣を抜くよ」
髭男「剣?」
剣士「そう、剣……」スカッ
剣士「……あれ!?な、ないっ!? ――あっそういえばカジノは武器持ち込み禁止だったから預けたまんまだった」
255:
髭男「はい、ここの地下が私たちの店です。階段を下りましょう」
剣士「やだよ! おじさん一体何者なの。えぇい!剣がなくったって戦えるし!」ガブ
髭男「イタッ あっおい!!待て!!」
髭男「……おい!店にいる今暇な連中はちょっと付き合え。鬼ごっこだ」
バタバタ……
剣士「はあ……はあ……うわっ!!」ツルッ
剣士「もう!雪の国って走りづらい。外套も邪魔になるし!!
 滅茶苦茶に走ってたらさらに道に迷いそうだけど……ずっと追ってくるし」
 
剣士「もーーー!やっぱりカジノから出るんじゃなかったぁあ! 
 もう夜中だし勇者もみんなもどっかの宿に泊っちゃってるかも……ていうかソリにも置いてかれたりして」
 
剣士「やだーーーーっ! あーんもうここどこよーー!人も全然いないしーー ハッ」
バタバタバタ
剣士「うそっ 前の方からも足音? ってことはつまり挟み撃ち! ど、どうしよ。
 ……もういいよ、こうなったら殴り合いしかないっ!! かかってこい!」グイ
 
剣士「!? わっ……? なななっ?」
256:
ザッ……
男「チッ どこ行った」
髭男「見失ったか。くそ、あと一歩だったって言うのに。仕方ない、諦めてまた別の子探すか……」
ザッ……ザッ……
剣士「……」
勇者「行ったか……よかった。ハァ」
剣士「勇者ぁーーーーっ」バタバタ
勇者「雪の国恐すぎる……大丈夫だった? なんもされてない?
 そもそもなんでこんな街の外れまで来てるんだ。ここは歓楽街なんだから危ないよ」
 
剣士「あの髭生えたおじさんがカジノまで案内してくれるって言うから……。
 ……あ!そういえばあの人が言ってたけど、カジノよりお金稼ぐいい方法あるって!
 でも若い女の人しかできない仕事らしいんだけど」
 
勇者「いやだめだ。しなくていい。絶対だめだ」
剣士「え、でも」
勇者「だめ!」
剣士「なんで!?」
257:
勇者「なんでって……その……後で狩人にでも訊いてくれ」
剣士「わ、分かった。そういえば勇者はなんでここに?ゲームはどうなったの?」
勇者「剣士がいないことに気づいて、なんか嫌な予感がして追いかけてきて……
 ゲームは……ゲーム、は」
 
勇者「………………………………あ」
〜〜〜
258:
支配人「はいもう閉店ですからねーまたのご来店をお待ちしてますー」ニヤニヤ
僧侶「くそ、腹立つ」
狩人「……雨……」
勇者「うわ、本当だ。まずい」
狩人「雷……」
勇者「やばい女神様もしかして怒ってるのかもしれない、やばい。困った」
僧侶「とにかく明日の朝まで雨を凌がねえとな。空き家とかないのか、ここらへんには」
勇者「なさそうだね」
剣士「空き家……あっ」
剣士「あの、『幽玄の館』ならいま人が住んでないって!!」
僧侶「あそこに見える城か?」
剣士「うん、でも、その、えーと、……幽霊が出ても大丈夫なら……」
勇者「幽霊?」
259:
幽玄の館
ピシャーン!……ゴロゴロゴロ……ビチャビチャ
勇者「……すごい雨と雷だ。城の中、正直ものすごく不気味だけど、外よりはましか」
剣士「やっぱり女神様怒ってるんじゃないのかな、これ」
勇者「い、いやでもここは雪の国だから……多分大丈夫だろう、多分」
狩人「奥の方に寝室ありました。……ベッドも……食べ物はなかったですけど」
僧侶「それにしてもひどい有様だな。蜘蛛の巣だらけで床には皿とかが割れた破片が散らばって……
 誰かここで暴れたとしか考えられん。灯りもないときた。雷があって逆によかったかもな」
 
勇者「盗賊も幽霊もいないみたいだし、案外住めば都になるか」
剣士「住みたくはないけど」
僧侶「でも怖かったら剣士ちゃんも狩人ちゃんも俺に抱きついてきていいぜ!!いつでもどこでも構わんぞ!!」
勇者「とりあえずここで朝まで休もうよ。お金のことは明日また考えよう。
 いざとなったら僕が内臓売ってでもまとまった金つくるから」
 
剣士「こっ怖いこと言わないでよ! 大丈夫だよ、なんとかなるって!!」
260:
勇者「見張りはいっか。じゃあ、おやすみ」
僧侶「じゃあ寝る前に……怖い話するか?」
勇者「なんでそうなる?」
剣士「はい!断固反対します!!それに怖い話したら幽霊が集まってくるって聴いたことがあるのでいやです!!」
狩人「でも……そもそも幽霊とは何なのですか。亡くなった人の魂は冥府に送られるのでは?」
剣士(かかかか狩人ちゃん!?)
剣士「ねえ勇者は怖い話したくないよね?ね?」
勇者「……」
剣士「ってもう寝てるー!!早い!!さすがっ! 今日疲れたもんね、そうだよね!!ごめんね!!」
僧侶「幽霊は冥府に導かれるのを拒んで現世に留まった霊魂だ」
狩人「導き……」
僧侶「冥府には番人がいるらしいんだ。この世界の二人の創始者のうち一人がそれだと言われている」
僧侶「肉体の呪縛から解き放たれた魂は、冥府に送られて番人の手に委ねられるが……
 番人を拒絶した魂が肉体を伴わないままこの世界にいると、俺たちの言うところの幽霊ってなるわけだ」
 
剣士(ひいいいなんか結構真面目な感じで始まってるう)
261:
狩人「……創世者の一人が冥府の番人なら、もう一人はなにをしているの?」
僧侶「俺たちが住む大陸の守護神や、あーあと……時の女神?だっけ、あと諸々の神様を統率する、
 神様軍団の大ボスみたいな感じか。具体的になにをしてるかは聖典にも載ってないんだよ」
 
僧侶「伝説も神話もほとんどないし、概念的な存在かもな。
 あ、いや。でも勇者とする者を人の子から選別するのは……その神か」チラ
 
勇者「……」
僧侶「その勇者は今アホみたいに熟睡してっけどな」
剣士「へええ、神様ってたくさんいるんだね。神様すごーい!!じゃあ寝よ!!おやすみ!!」
狩人「……?」
剣士「どうしたの?狩人ちゃん」
狩人「……何か……今……下の方から聞こえました。人の声のようなもの……」
剣士「んえ゛」
262:
* * *
剣士「ねえ本当に行くの?本当に?」
狩人「盗賊だったら大変……」
剣士「幽霊だったら!?」
僧侶「まあ、迷いし魂に、冥府に続く道しるべを照らしてあげるのも神職の役目だからな」
剣士「珍しく僧侶くんが僧侶っぽいこと言ってる!」
僧侶「だろ? 剣士ちゃんはそこで寝こけてる勇者と一緒にいてくれよ」
剣士「うう……二人は怖くないの? わ、私も幽霊なんか怖くないけど」
僧侶「はっはそんなの全然怖くなっ……」
ガタン
僧侶「オゥワーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
剣士「きゃあああああああああああああああああっ!?」
狩人「ひゃっ……!」
僧侶「ぜ、ぜ、ぜ、全然怖くないな。いまのはちょっと持病がなッハッハッハ」
剣士「わ、私も、別に怖がってなんかないけどさ!?」
狩人「……幽霊よりあなたたちの方に驚く……驚きます」
266:
剣士「……二人とも行っちゃった……」
剣士「…………別に幽霊屋敷なんて全然これっぽっちも怖くな」
ゴロゴロゴロピシャーーン!!
剣士「ひっ!! べべべべべ別に全然全くこれっぽっちも滅茶苦茶超怖いよーーーー!!!」
剣士「わーーん!早く朝になってよーーーっ!!」
* * *
僧侶「はあ、ほんとすげえ天気だな。これじゃ明日の天気もどうなることやら」
狩人「……あの……もうひとつ……訊きたいことある……のですけど」
僧侶「ああ、恋人なら今いないぜ」
狩人「それはどうでもいいです」
僧侶「彼女なら募集中だが」
狩人「それは心底どうでもいいです」
僧侶「さすがに二度言われると凹むな…… で、何が?冥府のこと?僧侶ちゃん食いつくな」
狩人「はい。冥府とは……どんなところなんですか?里にいた神職の人は……とても美しいところだと言ってました。
 でも、何故見たこともないのにそう言いきれるのですか。それは生者への……気休めではないか」
 
狩人「……あなたは一般的な聖職者と違って……」
僧侶「かっこいい?」
狩人「誰かに気休めとして嘘を言う優しい人ではないと思いました」
僧侶「喜んでいいのか微妙なラインだな」
狩人「あなたは冥府をどんなところだと……思う……ですか」
僧侶「俺も見たことないから何とも言えねえなぁ」
僧侶「冥府の番人は鍵を守っているらしい。死者が導かれる扉の鍵だ。
 冥府の先の世界……扉の先は誰も知らない。俺たち生者は知ることを許されていない」
 
僧侶「でも、ま、生きてる間に苦労して、そんでやっと死ねたかと思ったらまた辛い世界だなんて
 それこそ生きる気力も死ぬ気力もなくしちまうな。だから冥府と、その先は、いい世界だって俺は信じてるぜ」
 
狩人「……。そう」
僧侶「おう」
267:
僧侶「まあこれも気休めになっちまうか」
狩人「いえ」
ガタ……、…… ……
僧侶「! 物音と人の声だな。階段の下……奥の方から。こりゃ本当に幽霊か盗賊だな。
 剣士ちゃんにはああ言っちまったが、もし幽霊だった場合、どう倒せばいいと思う?」
 
狩人「……さあ……」
僧侶「攻撃効くのかね。 ……それにしてもたくましいな。幽霊怖くねーの?
 おおおおおお俺は怖くないけどな」
 
狩人「死者は怖くない。……そして、死も」
狩人「戦いの中で死ねるなら、本望です」
僧侶「…………。なんだか君は現世よりあっちの世界を見据えてる気がする」
僧侶「狩人ちゃんの亡くなった婚約者だって、君がそんなこっ―――」
ガタンッ
狩人「……?」
狩人「僧侶? …………? どこに行ったのですか?」
268:
* * *
シクシクシクシクシクシク……
勇者「うーん…………ん……ん?」
勇者「け、剣士。どうしたの?」ビクッ
剣士「起きたんだ……ぐすっ……おはよう」
勇者「まだ夜だけど……。あれ?二人は?」
剣士「実はかくかくしかじかで勇者が寝てる間に一階に……。
 でもまだ帰ってこないのーーーーーー!!けっこう時間経つのに二人とも帰ってこないのっ!!!」
 
剣士「どうしよぉぉぉぉぉ 幽霊に遭ったのかもしれないよぉぉぉぉ……」シクシク
勇者「僕が寝こけてる間にそんなことがあったとは。大丈夫、僕がちょっと探しに行ってくるよ。
 君はここで待ってて――」
 
剣士「……」
勇者「……じゃなくて、いっしょに行こうか」
剣士「うん」
269:
勇者「窓のないところは暗くて前が見づらいな。はあ……魔法が使えたら」
剣士「まだ杖は質屋だもんね!早く取り返せるといいよね!」
勇者「……そんなにしがみつかれると歩けないんだけど……」
剣士「し、しがみついてないじゃん! 勇者は方向音痴なんだから迷ったら危ないかなって思ったの!」
勇者「さすがに室内では迷わないよ。昔から暗いところとかお化けとか怖がってたけど
 幽霊なんて死んでるだけじゃないか?そんなに怖い?」
 
剣士「は、は、はあー!?なに言ってんの? 生きてたら斬れるけど死んでたら斬れないんだよ?
 滅茶苦茶怖いよ!!!!! 一方的にこっちがやられるだけなんだよ? こわっ!!!」
 
勇者「あ、そこなんだ」
剣士「っわーーーーーーーーー!!!」
勇者「わああああああ!? なに!? どうしたの!?」
剣士「今、階段下から話し声がっ」
剣士「狩人ちゃんたちの声かどうかは分からなかったけど、いま絶対絶対声がしたよっ……!
 ……ねえ、聞いてるの勇者?? ゆう……」
 
剣士「…………!?!?あ。あれ? 勇者? ……え? いない?」
剣士「ちょっと……勇者ぁぁ! 室内では迷わないって言ったくせに!! どこ行ったのよぉぉっ」
剣士「……ねえぇ……グスッ……もうやだーーーっ!!」
270:
ドタンドタンッ!!
勇者「うわっ! い、一体……ここは?」
 
勇者「廊下で手すりを掴んだ瞬間、横の壁がぐるっと回転して、あっという間に変な場所に来てしまった。
 これって隠し扉かな。何のために……。あっ戻れない」
 
勇者「ていうか前にもこんなことあったな。こんなのばっかりか」 
 
勇者「剣士の声も聞こえないな。結局バラバラになってしまった……大丈夫かな。
 急いで出口を探さないと」
 
勇者(細い階段がある……屋根裏部屋? とにかく行ってみるしかなさそうだ)
ミシ……ミシミシ……ミシ
勇者(うわ、館自体すごい古かったけど、ここの床は相当だな。いつ抜けてもおかしくない。
 というか抜けそう。いや絶対抜ける。そして僕は階下に落ちて腰を強打する予感がある)
 
勇者「……? 何か見え………… あ、あれは」
勇者「宝箱!?」
??「………………」スッ
勇者「まさか財宝が…… !!」バッ
??「チッ!気づかれたか」
勇者「誰だ? いきなり背後から斬りつけようとするなんて無礼だな」
盗賊男「そいつぁ失礼……へっへ」
盗賊女「その宝はあたしらんだよ。どきな」
271:
勇者「宝だと!?」
盗賊男「そうだあ!お前もそれ目当てにここに探しに来たんだろ? 巷じゃ最近噂だもんな」
盗賊女「この館に今なら金貨1000枚相当の宝が眠ってるってね!
 あたしらはそれで魔族が襲ってこない安全な土地に引っ越すんだ」
 
盗賊男「そうさ、歓楽街の酒びたりどもは楽観的だが、ここもそう長くないだろうしな。
 だからさっさとその宝もらってトンズラすんだよ、オラどけ小僧」
 
勇者「き……金貨1000枚!?!?」
盗賊女「こいつ、あたしらの話何一つ聴いてねえな!!」
盗賊男「目が宝箱に釘つけになってやがる……大人しくしときゃあ痛い目合わずに済んだのによ」
272:
盗賊男と盗賊女が襲いかかってきた!
金に目が眩んだ勇者は攻撃力・敏捷性ともに2倍になった!
盗賊女「ああ!?おいなんだそれずるくねーか!」
勇者「金貨金貨金貨金貨……」
盗賊男「ひいいいい なんだこいつ!?強っ きもっ――ウギャッ」
盗賊男を倒した!
勇者「…………」スタスタ
盗賊女「ちょ、ちょっと、えええ? な、なんなんだお前は……こっち来るな!」
勇者「じゃあ宝は僕のものということでいいかな」
盗賊女「わ、わかった。持ってきなよ」
勇者「助かった……!!これで雪原を越えられる」
盗賊女「……なんちゃってな!背中を向けたな小僧っ!!」バッ
ミシミシミシミシ…………バキッ!!
盗賊女「はえ」
勇者「あ」
273:
* * *
剣士「もう信じられない!あんな自信満々に迷わないって言ったくせに、僅か数秒で姿消すってどういうこと?」
剣士「……だ、大丈夫。多分女神様にもらった剣>幽霊 のはずだよね。うん。一人でもできる。階段を降りよう」
剣士「階段を降りようってば!!!なんで動かないの!!…………………………怖いからだよーーー!!」
剣士「わあああああああん!怖いよおおおお……勇者どこ行っちゃったのーーー!!」
剣士「……」
剣士「……一人にしないで……」
ミシミシミシミシ……バキャ!!
剣士「え?」
盗賊女「ひゃあああああああああああ!!……あうっ!!」ドサ
盗賊女「キュウ」
剣士「え?」
勇者「やっぱり抜けると思ったんだよ……絶対こうなるって思ってた。イテテ、あ、剣士」
剣士「え?」
274:
勇者「見つけたよ、金貨。これで大雪原も渡れるし、明日から宿の心配をしなくてもいい。
 さっきいたところが隠し扉になってて、この上の階に宝箱が、」
 
剣士「黙らっしゃい!」ペチーン
勇者「ええええ?なんで?」
剣士「もう……目を離すとすーーぐどっか行っちゃうんだから馬鹿ーーーーっ!!」ギュッ
勇者「けっ剣士!?」
剣士「……」ギュー
勇者「……ごめん」
僧侶「はいはい、いちゃついてるところ悪いんですけどね!!!
 1階にいた盗賊どもひっ捕まえて訊いたらここに財宝があるっぽいですよ!!!」
 
狩人「ここ……隠し通路たくさん……」
剣士「僧侶くん!狩人ちゃん! よかった、無事だったんだ……!!遅かったから心配したんだよ」
勇者「1階にも盗賊がいたのか。間一髪だったな」
僧侶「1階『にも』?」
勇者「宝なら見つけたよ」
275:
* * *
男「ええっ? なんだ、本当に金持ってきたのか!! さすが勇者御一行……毎度ありぃ」
男「でも、ほんと、これでも安いくらいだぜ。最近雪原も物騒で、獣も魔族も出放題。走るソリ自体減ってるからな」
僧侶「安いくらいだってよ。この国は物価が高ぇなあオイ」
剣士「いくらなんでも高すぎだよー」
男「その分さと安全性は保証するぜ! さあ、さっそく出発だ。乗った乗った」
281:
ソリの上
剣士「ひゃー!寒いけど楽しい!すごい!」
勇者「剣士は元気だなぁ」
僧侶「ジジイかお前は?」
男「あんまり窓開けるなよー。丸一日このソリに乗ることになるからな」
勇者「次の町はなんでしたっけ?」
男「初雪の町だ。のどかでいいところだぜ。雪に咲く花畑が有名だよ」
狩人「雪に咲く……」
剣士「ちょっと見てみたいね!」
僧侶「女の子はそういうの好きだよなぁ。いいね、花畑に女の子の絵面。至高だな!!!!!」
勇者「僧侶も元気だね」
男「……ん?」
ガタタン
勇者「うわ、どうしたんですか?」
男「いやあ……なんか急に犬の様子がおかしく……一体どうしたってんだ?」
勇者「一旦外に出て見……」
ドゴーーーーーンッ!
剣士「なんの音!?」
勇者「魔族か獣に人が襲われているのかもしれない。行ってみよう!」
282:
* * *
女エルフ「はーーー……くしゅっ」
女エルフ「さむぅ……。鼻水出てきたぁ……」
女エルフ「でも鼻水なんて出してる場合じゃない。勇者はどうやら今ヒュドラ様のいる雪の塔に向かってるらしいのね」
女エルフ「太陽の国から雪の塔まで行くにはこの大雪原を通らないといけない。
  だったら待ち伏せしない手はないってことよね」
  
女エルフ「私自身はとっても魔力が弱くて非力だけど……いくらだってやりようはあるのよ。ふふん。
  例えばこうして待ち伏せして不意打ちしたり、『道具』の力を借りたりぃ」
  
女エルフ「……ね! 『失敗作』ちゃんたち。期待してるから、頑張ってね」
××「ォアァァァ……」
××「ウウウゥゥゥア」
女エルフ「グリフォン博士は君たちのこと『失敗作』だなんて言ってたけど
  ……まあ見た目はともかく、攻撃力だけはすごいじゃない?
  君たちが一緒にやっちゃえば、勇者だって容易い容易い!」
  
女エルフ「勇者を倒せたら私は一気に昇進だ。えへへ。魔王様に認めてもらえる。
  もしかしたら王子様ともお近づきになれるかも!
  それに魔族の中のエルフ族の地位も上がるだろうしいいことづくめだね!」
  
283:
女エルフ「勇者の仲間はいらないから全部殺して、勇者だけ生かそうかな。
  手足もいで部屋で飼おうっと」
  
××「ヴアァァァ……ガァァ」 ゴンッゴンッ
女エルフ「あーもーうるさいな。なにしてんの? でかい図体してるんだから暴れないで、うるさいよ」
女エルフ「しかし本当に大きいし、醜い体だね。白日の下で見ると余計気持ち悪い……うえ。
  博士の趣味はやっぱり理解できないな」
  
女エルフ「人間の姿って耳も顔も元から不格好だけど、よりひどい姿にされちゃったね。かわいそ」
××「アアアアアアアアァァァァ」
女エルフ「だからぁ、うるさいって。待ち伏せしてるんだから、静かにしててよ」
女エルフ「『失敗作』ちゃん」
ドゴッッ!!
女エルフ「……え?」
284:
××「ギヤァァァァァァ!!」ダンダンッ
女エルフ「ちょ、…………きゃっ!!」
××「アアアアアアアアアアアアア!」
女エルフ「いた……っ! い、痛い痛いってば! なに、急にどうしたの!
  なんで私の命令聞けなくなっちゃったの? 道具なのに……
  もしかしてグリフォンさんのミス!? あの変態め!!」
  
××「アア……ァアアア……」
ズシン……ズシン……
女エルフ「待って! 落ち着いてよ、もう。……来ないで!来ないでってばぁ」
女エルフ「……っ もう勇者のことはこの際いいや、逃げよう」パッ
××「ユ……ルサナ……」グッ
女エルフ「いっ!? は、離し―――」
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世界の警察官wwww

スカイダイビング中に隕石と衝突しかけるというレアすぎる事案が発生

『ゑ』←しんちゃんが笑いながらケツをこっちに向けてる

【閲覧注意】意味がわかると怖い画像【らしい】

『メカクシティアクターズ』ニコ動風にコメが流れるシーンに「原作ろくに知らないスタッフが作った作品が面白いわけがない」って書いてあるwww自虐かwww

【AKB48】グアムマラソンメンバー全員無事完走!

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