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「進撃の江頭2:50」【後編】


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2:
 進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
 第十三話 反 撃 の 刃
383:
 江頭は立っていた。
 目の前にはいくつか建物が破壊された街並みと、鎧の巨人。
 そして手には、なぜか両刃の剣が握られている。
(なんで俺、こんなものを持っているんだ)
 不意に握った剣は巨大な大剣で、どうやら壁の中に埋まっていたらしい。
 壁には空洞があり、その中に入っていた。
(まあいいか。ちょうどよかった)
 江頭はそう思い剣を構える。
 先ほどまで散々やられまくって、身体も心もボロボロのはずなのに、なぜか頭の中は
スッキリと冴えわたり、心も落ち着いていた。
(あいつ硬いもんな。手で殴ったら痛いし)
 一つ息を吐く。
 *
384:
「なぜ、壁の中に剣が……」
 立体機動装置のワイヤーが切れて、移動が困難になっていたミカサが言った。
 隣には、同じ調査兵団のグンタがいる。
 彼の装置は辛うじて無事だが、右脚を負傷してしまった。
「わからん。俺も壁の中に何があるのか、まったく聞かされていないからな」
 と、グンタは言う。
 巨人に関して謎が多いように、その巨人から身を護るための「壁」についても、また
わからないことが多い。
 誰が、何のために作ったのか。
 公式の記録にも、約百年前に巨人から人類を守るために作られたとしか書かれておらず、
詳しい経緯を知る者も、ほとんどいない。
「そんなことよりエガシラさん。かなり、危ない」
 そう、ミカサは心配する。
 今、彼女の立体機動装置は使えない。
 壁上砲の弾薬もない。
 つまり、彼に対して有効な支援の手立てがほとんど残っていないのだ。
「誰か、私に立体機動装置を貸してくれないでしょうか」
 そう言ってミカサは周囲を見る。
「落ち着けミカサ」
 焦るミカサをグンタが止める。
385:
「しかし、このままではエガシラさんが」
「よく見ろ。エガちゃんは今、剣を持っている」
「それが何か」
「ミカサ。お前はエガちゃんと剣の稽古をしたことがあるか?」
 不意にグンタはそう聞いてきた。
「いえ、ありませんけど。それが何か」
「実は俺やエルドは、何度かエガちゃんと剣の稽古をしたことがあるんだよ。木剣を使っての、
疑似戦闘なんだけど」
「はい……」
「それで勝てなかった」
「エガシラさんがですか?」
「そうじゃない。俺やエルドが、勝てなかったんだよ。エガちゃんに」
「え?」
「剣を持ったエガちゃんは、それが例え訓練用の木剣であっても、何だか動きが違った」
「……」
「そう、まるで戦士のようだったな」
「戦士……?」
 ミカサが江頭たちの方向を見ると、一瞬で彼らはダッシュして距離を詰めた。
「……!」
386:
 ほんの一瞬のことであった。
 ミカサは二体の巨人の動きを一瞬、見失う。
 巨人は体が大きい分、人間よりも動きが遅いことがある。
 だが目の前で戦っている二体の巨人の動きは人間と同等か、其れ以上のスピードである。
 そして次の瞬間、気が付くと街の一角に何か巨大な物が落下した。
「あれは……」
 その落下物が、鎧の巨人の右腕だと気付くのは、少し時間が経ってのことである。
 *
387:
「すげえ!! あの黒タイツ、鎧の巨人の腕を斬り落としたぞおお!!」
「何者だありゃ」
「というか、あの剣はなんだ!?」
 憲兵団の若者たちが江頭と鎧の巨人との戦いを見ながら驚きの声をあげている。
「……」
 そしてエレンは、戦いに圧倒されて声すら出なくなっていた。
(確かに腕を斬ったことは凄い。でも、それ以上に凄いのは、斬った部分だ。
エガちゃんは鎧の巨人の腕の関節の部分を狙い、そして斬り落した。
なんという戦闘のセンス。女型の巨人と闘った時とは別人のようだ)
 エレンが驚くのも無理はない。
 女型の巨人と闘った時の江頭は、とうてい戦えるとは思えなかった。
(剣を持っただけであそこまで変わるものなのか?)
 エレンの視線の先には、先ほどと同じように中段に剣を構える江頭の背中があった。
 巨人の腕を斬り落とした剣の先には、鎧の巨人の血液らしき液体が付着し、微かに
蒸気を漂わせていた。
 そして腕を斬り落とされた鎧の巨人は、右腕の傷口を抑え、必死に傷を塞ごうとしている。
「行けええええ! エガちゃああああん!!」
 エレンは叫んだ。
388:
 ここで巨人に回復されるわけにはいかない。
《うおおおおおおおお!!!!》
 江頭の叫び声が響く。
 一つ、二つ、三つと、江頭は持っていた剣の刃を鎧の巨人の身体に確実に食いこませていく。
 さすがに、先ほどのような斬り落としはできなくなっているが、それでも、体中のあらゆる関節から
血と蒸気が噴き出していた。
《ウゴワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!》
 だが次の瞬間、強烈な叫び声と同時に周囲に蒸気が立ち込めた。
 まるで温泉か火山のような強烈な蒸気である。
「うわあああ!!!」
 かなり離れていたはずのエレンたちの視界すら奪う強烈な蒸気であった。
「おい、エレン! 大丈夫か」
 ゲルガーが呼んだ。
「はい、大丈夫です!」
 エレンは返事をしながら、その視線は江頭たちを探していた。
(エガちゃん、どうなっているんだ)
 はっきりと目を開き、巨人がいた場所を見ると、二つの巨大な影が見えた。
「鎧の巨人の腕が、再生しているのか……?」
 ゲルガーは言った。
「いや、違います!」
389:
 それをエレンが否定する。
「なに?」
「よく見てください!」
 エレンたちが見た、鎧の巨人。
 先ほど斬り落されたその右腕の部分には、巨大な剣のようなものが。
《確かに、素手と剣じゃあ不公平か》
 江頭がニヤリと笑いながら言った。
「これで、対等?」
 エレンがそう言うと、
「いや、違うぜ」
 と、ゲルガーは否定した。
「どういうことです?」
「よく見てみろ。鎧の巨人はあの糞硬い皮膚があるだろう。大してエガちゃんは」
「裸」
「そう、裸だ。ヤッパ(刃物)を使った戦いには、不利なんじゃないのか?」
「いや、そうだけど……」
 鎧の巨人は関節が弱点だ。
 だが逆に言えば、関節以外は無敵とも言える。
 対して、江頭の身体は上半身裸。
390:
 あの下半身の黒タイツが物凄い防御力を発揮するようには見えない。
「動くぞ!」
 一気に間合いを詰める、二体の巨人。
《やああああああ!!!!》
 江頭の奇声とともに、金属と金属のぶつかり合う音が響く。
 鎧の巨人の腕から“生えた”剣は、やはりそれなりに硬いようだ。
 それどころか、
《ぐっ!》
「エガちゃん!!」
 思わずエレンが叫ぶ。
 江頭の二の腕の辺りが切れて出血した。
 あの腕の剣は、見た目だけでなく切れ味もあるらしい。
《なかなかやるな》
 江頭は再びニヤリと笑う。
《……》
 対して鎧の巨人は無言だ。
 再び距離を詰める。
 ギンギンと激しく撃ち合う剣と剣。
 文字通り火花が散り、そして血と汗が飛び散る。
 上段、下段と剣がぶつかり合い、そして身体のギリギリに刃が走る。
391:
 文字通り、紙一重でそれをかわす江頭は、持ち前のスピードを生かして巨人の関節を狙う。
「行ける! 行けるぞ!」
 防御力こそ皆無に近い江頭だが、その一方で俊敏性が高く、巨人の攻撃の一歩先を行く
戦いを続けていた。
《どりゃああああ!!!!》
 江頭が振り下ろした剣。
 それに対し、巨人が左腕を差し出した!
「な!?」
 関節からザックリと斬れる巨人の左腕。
 何をしているのか、一瞬わからなかった。
 防御なら、普通“剣化”させた右腕を差し出すものではないのか。
 それとも何だ。
 戦いの中で、気でもおかしくなったのか。
 いや、違う。
 “何か”を狙って腕を斬らせたとしたら――
「エガちゃん! 危なああああい!!!」
 エレンは叫んだ。
 当然、届くことのない叫びだとはわかっている。
 だが、叫ばずにはいられない。
392:
《ぬわ!!》
 一瞬、ほんの一瞬であった。
 江頭の肩口に、もう一つの剣が伸びる。
「剣が、二本……」
 斬りおとされた鎧の巨人の左腕から、右腕とまったく同じ剣が作られていた。
 剣が二本、ということは単純に考えれば攻撃力が二倍。
《グウオオオオオオオオオオオオオオ!!!》 
 鎧の巨人の叫び声とともに、二本の剣が同時に江頭を襲う。
 頭に響く金属音とともに、江頭は襲い掛かる巨人の剣を次々に弾き返すが、
手数の増えた攻撃に明らかに押されている。
 これまで、攻撃、防御、攻撃、防御と続いてきた流れが、一気に防御、防御、防御となっている。
《ぐわっ!!》
 江頭の左肩に巨人の剣が食い込む。
 しかも今度は、かすり傷ではなくかなり深い傷だ。
 赤黒い血がダラダラと流れ出ていた。
《ぬおわ!》
 江頭は何とか隙をついて攻撃しようとするも、逆に攻撃され、額の辺りを斬られてしまった。
《ぐ……》
393:
 前半、優勢に戦いを進めていた江頭だが、巨人の剣が二本になった辺りから、動きも悪くなっている。
 どうやら疲れも出てきたらしい。
 剣を構えた時、大きく肩で息をしているのがわかる。
 それでなくても、これまでかなりの無茶をしているのだから。
 エレンはそれを見て思った。
(なんだよ俺。自分の恩人がこんなにも苦しんでいるっていうのに、何もしないのかよ)
 エレンは唇を噛みしめ、拳を握った。
(何のための立体機動装置だ。何のために俺は今まで訓練してきたんだ。
 恩人を見殺しにするためか? いや違う)
 エレンは大きく息を吸い、そして決意した。
「ゲルガーさん。俺、行きます」
「おい待てよエレン」
 そう言うと、ゲルガーはエレンの肩を掴む。
「止めないでください。これは俺が自分で決めたことです」
「待てって言ってんだよ」
「行かせてください!」
「エレン!!」
「は、はい」
「行くなら俺が先に出る。入ったばかりの新兵に先頭を行かせるわけにはいかねえぜ」
394:
 そう言うと、ゲルガーは片目を閉じて笑みを見せた。
「それにエガちゃんは酒好きって聞いたことあるからな。酒好きの俺としては、
まだ一度も飲んでないうちから、死なれたらこまるしな」
「……わかりました」
「行くぞ!」
「はい!」
 エレンとゲルガーは飛ぶ。
 目標は鎧の巨人。
 *
「おおーい、無事かあああ!」
 聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お、オルオ……」
 風で吹き飛んでしまいそうなほど弱い声で、エルドは答える。
「エルド! こんな所にいやがったか!」
 立体機動装置で飛んできたオルオ・ボザドであった。
「その様子だとどっかやられていやがるな」
 そう言って、オルオはエルドのすぐ近くに着地した。
395:
「すまん。肋骨をやられた。息が、ちょっと苦しい。だが、命に別状はない」
 腹部を抑えながらエルドは答えた。
「そうか、無理をするな」
「リヴァイ兵長は」
「兵長は無事だ。ただし、女型に左腕を喰われちまったけどな」
「左腕を?」
「ああ、だが命に別状はない。安心しろ、とは言えねえけどな」
「そうなのか」
 エルドは思った。自分の肋骨なら、すぐに治る。だが、左腕を無くしたらどうなるのだろうか。
 それでも兵長なら戦うと言うかもしれない。
 だが以前のような戦いは、おそらくできないだろう。
 これは調査兵団にとって、ひいては人類にとって大きな痛手だ。
「他の仲間はどうした」
「グンタとミカサは別の場所にいる。おそらく、立体機動装置をやられたと思う」
「そうか。で、ペトラはどうした」
「ペトラ……、か」
 エルドは言葉を詰まらせる。
 それは決して、肋骨を折った影響だけではない。
「ペトラは……“勇敢に戦った”……」
396:
 エルドのその言葉は、調査兵団にとっては額面上の意味だけでなく、
もう一つの意味も含んでいた。
「そうか……」
 そう言うと、オルオはエルドから顔を背ける。
 何度も何度も仲間との「別れ」を経験した彼にとって、その言葉の意味を察するのは
容易なことであろう。
 しかも今回は、よりによってあのペトラだ。
「なあエルド。悪いけど救助は後だ。ちょっとそこで待っていてくれや」
「オルオ、お前まさか。ぐふっ、ゴホッ」
「心配すんな。仲間たちが鎧の巨人の討伐に向かっている。俺も一緒に行くだけだ」
「オルオ……」
「必ず戻ってくるからな。それまでそこで大人しくしてろ」
 オルオの表情は、やや傾きかけた太陽の光が逆光になり、エルドにはよく見えなかった。
 だが、その表情を想像することは彼にとっては容易なことである。
 *
397:
 ストヘス区外壁上――
 憲兵団新兵の一人であるマルロは、鎧の巨人に向かって飛び立っていく調査兵団の
兵士二人を見送っていた。
(くそう、俺だって)
 マルロはそう思い、立体機動装置を作動させようとする。
「どうすんの? マルロ」
 後ろから声がした。
「ヒッチ」
 同じ憲兵団の新兵、ヒッチであった。
 ウェーブがかった髪型が特徴の女性兵士はマルロの顔を見てニヤニヤと笑っている。
 まるでこちらの心を見透かしたような笑いだ。
(こいつ相手に隠し事をしていても仕方ないか)
 そう思い覚悟を決めるマルロ。
 元々隠し事は嫌いな男である。 
「俺も行く。調査兵団の連中と一緒に、鎧の巨人を倒す」
「ははっ、マジで言ってんの? それ」
「当たり前だ」
「勝てると思ってる?」
「……」
「あの黒タイツの人。結構頑張ってるけど、なんかもう危ないよね」
398:
 ヒッチは目を細めながら言う。
 確かにあの巨人は強い。
 人間の兵士がいくら束になってかかっても勝てそうにない。
「このまま逃げちゃえばいいんじゃない?」
 ニヤニヤしながらヒッチは言う。
「別にアンタのせいじゃないし、アンタが責任とって死ぬなんてことをする必要もないわけでしょう?」
「……」
「ここで大人しくしてりゃ、王都から援軍も来るでしょうし、その間は調査兵団の人たちや、
黒タイツのオジサマに任せておけばいいんじゃないかなあ」
 確かにヒッチの言うとおりかもしれない。
 ここで無駄な抵抗をしたところで被害が広がるだけ。
 だったらここは、耐えがたきを耐えて、生き残ることを優先するべきか。
 戦闘は最小限にし、自分の命を守りつつ援軍を待つ。
 それはとても魅力的な選択肢だ。
 しかし、
「ヒッチ。確かにお前の考えはわかる」
「そう」
399:
「だけどな、ヒッチ。ここはウォール・シーナの玄関口、ストヘス区なんだ。
ここを守るのは、調査兵団でもなければあの黒タイツの巨人でもない。
俺たち、憲兵団なんだよ」
「……」
「だから俺は一人でも行く。兵士である以上、この街や調査兵団の人たちを見殺しにすることはできない」
「そう」
 ヒッチはあっさりと答える。
「好きになさい。あたしは止めないわ」
「そうかい。じゃあ好きにさせてもらう」
「あたしも、勝手にさせてもらうから」
「じゃあな、ヒッチ。運がよければまた会おう」
「あたしにとって、アンタと再会することは不運なんですけど」
「そうかもしれん」
 ヒッチと会ったのはほんの一ヶ月前。
 初めて会った時から不真面目でどうもいけ好かない女だと思っていた。
 そしてその印象は、多分今も尾を引いているだろう。
 そんなことを思いながら、マルロは死地に赴く。
 立体機動装置の調子は、良好だと思った。
 *
400:
「わかってんな! エレン!」
 鎧の巨人に近づきながらゲルガーが叫ぶ。
「はい! わかってます! ねらい目は関節です!」
「そうだ! 奴の守りはかたい。だから“つなぎ目”を狙うんだ! 腕、ひざ裏、そして足首!」
「はい!」
「だが無理はすんな! あの巨人、遠くから見てたけどかなり戦い慣れしてるぞ!」
「了解!!」
「そろそろ見えてきた」
「……!」
 エレンたちの目の前に、鎧の巨人の背中が大きく現れた。
 奴は今、無防備な状態だ。
「でりゃあ!!」
 最初にゲルガーが刃を振るう。
 急降下して、右のひざ裏を狙った。
 物凄く硬そうな鎧の巨人のひざ裏にザックリと傷が入り、蒸気と血液らしき液体が噴き出す。
(俺だって!)
 エレンも急降下し、ゲルガーと同じように今度は左のひざ裏を狙って攻撃する。
 だが、ガキンという音と衝撃が腕に伝わった。
401:
「痛っ!」
 握っていた剣を見ると、一瞬で刃がダメになっていた。
「エレン!」
「すみません、失敗しました!」
「気にすんな! それより距離を取れ!」
 エレンたちの存在に気付いた鎧の巨人が剣化させた腕をこちらに向けて振るう。
「ぬわあ!」
 普通の刃ならばともかく、あの剣に触れたらかすり傷では済みそうもない。
 胴体ごと、真っ二つにされることは間違いないだろう。
《お前の相手はこっちだああああ!!!》
 大きな剣を振り下ろす江頭。
 斬ることはできなかったけれど、巨人に対して大きな衝撃は与えたらしい。
「エガちゃん!」
《エレン! 何で戻ってきているだ!! 危ないぞ!》
 こちらを見た江頭が言った。
「エガちゃんだけを戦わせるわけにはいかないよ!」
《バカ野郎! 死にたいのか!》
「確かに命は惜しいさ。だけど、俺だっていつまでも助けられるわけにはいかない!」
 エレンは軌道を変えて、再び鎧の巨人に接近する。
402:
「ライナアアアアアア!!!!!」
 鎧の巨人の剣を掻い潜り、彼は腕の関節に刃を喰い込ませた。
《グオオオオオオ!!!》
 右腕の肘の辺りの関節に切れ目が入り、一気に血が噴き出した。
 だがしかし、すぐに止血され、傷も治って行く。
《グウォオオオオオオ!!!!!》
 更に雄たけびを上げる鎧の巨人は、周囲の建物ごと切り裂くように剣を振るった。
「うわあ!」
 その腕の振りで怒った風によって、エレンたちは吹き飛ばされてしまった。
《エレン!》
「まだまだあ!」
 エレンは立体機動装置を作動させて、何とか態勢を立て直そうとする。
 その時、彼の視界に別の兵士の姿が見えた。
 ゲルガーではない。
「うおおおおおおおおお!!!」
 憲兵団の制服を着た若者だ。
 あの長身には見覚えもある。
「ん!?」
 別の方向から、今度は調査兵団の仲間が鎧の巨人に襲い掛かる。
 一人、また一人と鎧の巨人に肉薄攻撃を仕掛ける兵士たちの数が増えてきた。
403:
 当初、その多くが傍観していた憲兵団兵士も少しずつ攻撃に参加している。
「でりゃああ!」
「そりゃあああ!!!」
 鎧の巨人は、まるで虫を振り払うように剣を振るうが、それでも兵士たちは
絶え間なく波状攻撃を仕掛けた。
 相手はすぐに回復する巨人。
 だが、巨人のエネルギーとて無限ではない。
 そう考えたエレンは、再び攻撃に参加した。
 だが巨人とてバカではない。江頭の攻撃をかわしつつ、襲い掛かってくる人間の
兵士たちを次々に駆逐していく。
 まるで虫でも追い払うかのように叩き落とすその姿は恐怖だ。
 また、鎧の巨人の手に生成された剣は切れ味が良いらしく、立体機動装置や
捕獲装置のスチール製ワイヤーを次々に斬っていく。
 幸い、エレンのワイヤーはまだ切れていなかったので、そのまま攻撃を続行した。
 つづく
404:
 現在公開可能な情報13
・江頭と剣道
 江頭と言えば剣道の経験者であることも一部では知られている。
 地元佐賀県でも、それなりの成績を残していた。
 とある番組の企画でSMAPの木村拓哉(キムタク)と剣道の試合をして、空気を読まずに勝ってしまったこともある。
 元々運動神経がいいので、剣道の腕前もそれなりにあるようだ。
 剣道は柔道や相撲などと比べると、それほど体格が影響しないので、江頭向きの競技とも言える。 
 
407:
なにこれアツい
俺がエガちゃんファンだからなのか
408:

エガちゃんのファンでなくても惚れ惚れする出来だと思うぜこのスレは
409:
 江頭達がストヘス区で戦っていた頃、ウォール・ローゼ内にある調査兵団の駐屯地では、
留守番の兵士たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
(何か嫌な感じがする)
 そんなことを思いながら、クリスタは駐屯地の中庭から曇り空を眺めていた。
「おおーい、クリスタ―」
 そんなクリスタに声をかける者がいた。
「コニー、サシャ」
 同期入団のコニー・スプリンガーとサシャ・ブラウスの二人だ。
「クリスタ、少し聞きたいのですけど」
 そう言ったのはサシャである。
「なに?」
「ベルトルトを見ませんでしたか?」
「ベルトルト? 知らないけど」
「そうですか」
 ベルトルトも、サシャたちと同じ同期入団の兵士だ。
 長身で、印象は薄いけれど、いつも同じ出身地のライナー・ブラウンと一緒にいる印象がある。
「ベルトルトがどうしたの?」
「アイツ、今週は当番なのに姿が見えねえんだよ」
 と、コニーは言った。
410:
「え?」
「掃除とか点検とか、色々やることがあるんですけど、どうしましょう。また当直に怒られてしまいます」
 そう言って、サシャは周りを見た。
「ベルトルトが、いない」
 クリスタはそう口にすると、何やら嫌な予感がどんどんと大きくなる気がしてきた。
「もしかしてよ、アイツのことだからライナーが恋しくて、ストヘス区に行ったのかもしれねえな、アハハ」
 コニーは笑いながら言った。
「ちょっとコニー。勝手に駐屯地を出ることは規則違反ですよ」
 サシャが注意する。
「勝手に厨房に忍び込んで芋を盗んでいるお前が規則違反とか言うか?」
「ぬ、盗んでませんよ。ちょっと味見をしただけです」
「はあ!? 何言ってんだこの芋女!」
「なんですかこのサトイモ小僧!」
「ちょっと二人ともやめて」
 クリスタは二人の間に割って入った。
「そんなくだらないことで言い争っている場合じゃないでしょう?
 それより、早くベルトルトを見つけましょう。私も手伝いますので」
「そ、そうだな」
「そうですね」
 
 二人は照れながら笑う。
 その後、三人は手分けをしてベルトルトを探すのだった。
411:
 進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
 第十四話 破 壊
412:
 ストヘス区市街地――
 壁の上から降りた憲兵団のマルロは、立体機動装置で鎧の巨人への攻撃隊に加わった。
「おい新兵! お前は下がってろ!」
 憲兵団の先輩兵士がマルロにそう言いながら、前を飛んだ。
「いえ! 自分も行きます!」
 マルロはそう言って、憲兵団の先輩や調査兵団の兵士たちの後に続く。
(怖い。確かに怖い)
 巨人との模擬戦闘は何度も経験した。
 だが実戦はこれが初めてだ。
 エレンたちのいたトロスト区と違い、マルロのいたカラネス区の訓練隊は巨人との実戦に参加していない。
 更に言えば、ストヘス区(ここ)に現れた巨人は普通の巨人ではない。
 知能があり、戦闘に慣れた巨人なのだ。
「関節だ! 関節を狙え!」
 誰かが叫ぶ。
 訓練では、巨人の“うなじ”を狙うように指導されたけれど、目線の先にいる巨人には、
それが通用しないらしい。
 ゆえに、関節を狙って相手の動きを止める。
 今はそれしかできない。
413:
(俺にできるのか)
 最後の最後まで、マルロは悩む。
「行くぞおおお!!」
「どりゃああ!!」
 先発隊の数人が巨人に斬りかかった。
 何人かの剣が巨人の捉えるも、動きを止めるまでには至らず、すぐに回復され、
反撃されてしまう。
《ウゴオオオオオオオオ!!!!》
 巨人の腕の一振りで、2〜3人の兵士たちが吹き飛ばされてしまった。
 何と言う戦闘力、何という迫力。
 だがここで怯むわけにはいかない。
(俺は憲兵団を、ひいては腐敗しきったこの国を正すために兵士になった。
こんなところで尻尾を巻いてたまるかあ!)
 マルロは自分を奮い立たせるように心の中で叫び、そして剣を持って鎧の巨人に向かっていった。
「いっけええええ!!!」
 目標は脚のひざ裏の関節。
 後ろからなので、新兵の自分でも狙いやすいと思ったのだろう。
 だが、
「な!?」
 急に、自分の身体がガクンと急停止した。
414:
「しまった!」
 マルロの攻撃を予想していた巨人が、彼の装備している立体機動装置のワイヤーを掴んだのだ。
 掴んだワイヤーを一気に引っ張る巨人。
 マルロの身体は失から、一気いに急加して振り回される。
(このままではマズイ!)
 そう思ったマルロはとっさにワイヤーを解放して、巨人から逃れようとした。
 だが、ワイヤーを失ったものの、自分の身体にかかった遠心力は消えず、マルロの
身体は宙に投げ出されてしまった。
「うわああああああ!!!」
 予備のアンカーを射出しようにも、すべて解放してしまい、装置は作動しなかった。
(しまった、このまま死ぬのか)
 装置なしで建物にぶつかったり、地面に激突した場合、無事ではすまされない。
 例え死ななかったとしても、何等かの障害が残ることは確実であった。
(くそっ、せめて巨人に一度でも攻撃を当ててから死にたかった)
 そんなことを思いながら彼は顎を引き、背中を丸めた。
 激突の際の衝撃を少しでも和らげようとした結果である。
 無駄とわかっていても、何かをせずにはいられない。
(俺は、生きたい。やりたいことはあるんだ!)
415:
 マルロは激突に備えて両目を強く閉じた。
「うがっ!」
 不意に横方向に衝撃が走る。
 肋骨が砕けてしまいそうなほどの強い衝撃であったけれど、建物にぶつかった衝撃とは、
明らかに違う。
(あれ? なんだ?)
 マルロの鼻孔を覚えのある匂いが刺激した。
 ゆっくり目を開けると、見覚えのある人物がマルロの身体を抱えていたのだ。
「ヒッチ!?」
「何情けない姿晒してるのよマルロ」
 ヒッチはニヤニヤしながら、マルロの身体を片腕で支えていた。
「お前、逃げたんじゃあ」
「別に逃げるなんて一言も言ってないでしょう? 私は私の好きなようにしただけよ」
 そう言うと、ヒッチは立体機動装置のアンカーを射出する。
「あの屋根の上に行くわ。体勢取りなさい」
「お、おう」
 屋根瓦を踏み壊しながら着地した二人。
 衝撃は強いけれど、あのままぶつかるよりははるかにマシだ。
「た、助かったよヒッチ。ありがとう」
416:
「はああ。情けないの。そんなんでよく憲兵団が勤まるわね」
「ヒッチは、立体機動も上手いんだな」
「今更? あたしってば超優秀なんだから」
「……優秀?」
「これでも、クロルバ区の訓練兵団では、次席の成績なのよお」
 そう言うとヒッチは笑った。
「そうだな」
 腐ってもエリート集団を自称する憲兵団だ。
 成績不良者を入団させるわけがない。
 それでも、マルロにとっては、ヒッチがそこまで優秀だったのは予想外であった。
「アンタ。まだ戦うの?」
「当然だ」
「立体機動装置、もう使えないでしょう?」
「わ、ワイヤーとアンカーを付け替えればまだやれる!」
「マルロ、いい加減認めな」
「!?」
「アンタじゃねえ、この戦場(ステージ)は無理なのよ」
「……」
「気持ちはわかるわ。でも、自分の実力以上のことをやって死ぬのは、バカの所業よ」
417:
「いや、でも……」
「自分の弱さを認めることも、ある種の強さだと思わない? ねえ」
 いつもの軽薄な感じの言い方であるにも関わらず、その言葉はマルロの心に重くのしかかる。
「だ、だけど。どうすりゃいいんだよ」
「任せましょう? あの人たちに」
 そう言うと、ヒッチは鎧の巨人のほうを見た。
 その視線の先には調査兵団と憲兵団の一部、それに黒タイツの巨人が戦っている。
「任せる?」
「そうよ。ここで闇雲に戦って死んでも次はないわ。情けなくても生き延びて、未来を
繋げば、いつかあの人たちのように強くなることも、できるんじゃなかな」
「ヒッチ……」
「なによ」
「お前、いい女だったんだな」
「あら、口説いたって無駄よ。あたしってば、年上が好きなんだもん」
「いや、別にお前は俺の好みじゃないんだが」
「こっちだって、アンタみたいな鼻デカお化けはお断りよ」
「鼻デカとか言うなよ!」
「事実でしょう」
(確かに今は無力かもしれないけど、いつまでもずっと無力というわけにはいかない)
 マルロはそう思いつつ、巨人の戦いを遠くから見守ることにした。
 *
418:
「お前ら、なんでこんなところにいんだよ!」
 オルオは見覚えのある二人を見つけて叫ぶ。
「オルオ」
「オルオさん」
 彼の視線の先には、壁上砲部隊に参加したはずのゲルガーとエレンがいた。
「弾が無いのに砲兵なんざやってられんだろ」
 ゲルガーはそう言って、自慢の髪型を軽く触った。
「自分も、前線に参加したくて」
 エレンは答える。
「わかった、わかったから。あの鎧の巨人を抑えるには、一人でも多くの人間が必要だわな。そしたら――」
 オルオがそんなことを話していると、話の流れを断ち切るように黒い影がこちらに向かってきた。
「エレン! どうして戻ってきたの! 怪我はない? 大丈夫なの!?」
「ちょっ、ミカサ!」
 ミカサ・アッカーマンが立体機動装置を使ってこちらに飛んできたようだ。
 真っ先に気にするのが、幼馴染のエレンであるところが彼女らしい。
「おいミカサ。イチャイチャすんのは構わんが、時と場所を考えろ」
 オルオは言った。
「あ?」
 一瞬、まるで肉食動物のような鋭い目でこちらを睨むミカサ。
419:
「おいミカサ。上官に向かってなんて口の利き方を」
「ご、ごめんなさい」
 だが、エレンが注意をすると、渋々謝った。
「ミカサ、お前の使ってる立体機動って」
 エレンが腰の装置を指さして聞く。
「これは、グンタさんから借りた。私のは、壊れてしまったから」
「使い辛くないのか?」
「何とか、大丈夫」
 グンタの名前が出てきたので、オルオはミカサに聞く。
「グンタは無事なのか」
 
「はい。脚を負傷していますが、命に別状はありません。応急処置をしていましたので、
戦線への復帰が遅れました」
「いや、ちょうどいいタイミングだと思うぜ」
 オルオは言う。
 今、彼の目の前には、新兵のエレンとゲルガー、それにミカサの三人がいる。
「お前たち、聞いてくれ。このまま俺たちがバラバラに攻撃してもジリ貧になる可能性が高い。
だから、ここいらで一気に片付けようと思う」
「片を付けるって、どうやってやるんだ?」
 ゲルガーが聞いた。
420:
「四人ないし五人が一斉にかかり、両腕と両脚の関節を斬って、動きを止める。
そこをあの異世界人に斬ってもらおうと思う」
「結局、あの黒タイツの旦那頼みか? オルオ」
 ゲルガーは言った。
 彼とて、調査兵団の誇りがあるのだ。自分たちで何とかしたい。
 それはわかる。
 だが、状況はそんな勝手を許さない。
「確かに俺だって、あの黒タイツの異世界人に任すのは不満だ。だけどな、巨人の弱点
であるはずのうなじが斬れない以上、あいつに頼るよりほかないんだよ。
これ以上、内地でドンパチやるのは得策とも言えねえ」
「なるほどな。お前らはどう思う」
 そう言って、ゲルガーは若手二人の意見も聞く。
「俺は、いいと思います」
 エレンは言った。
「ミカサは」
 
 オルオは聞く。
「あなたにしては良い意見だと考えます、上官殿」
「一言多いぞミカサ。まあいい。とりあえずエレン」
「はい!」
421:
「今から行う作戦の概要をあそこの異世界人に伝えてくれ」
「俺がですか」
「ああ。伝え終ったら煙弾で合図を送れ。色は緑。それを確認したら、俺が全隊員に
撤退の合図を送る。撤退が完了したら、作戦を決行する」
「俺も攻撃者(アタッカー)としてやりたいです」
 エレンはオルオの前に身を乗り出す。
「エレン」
 そんなエレンを止めたのはゲルガーだった。
「エレン、人にはできる者とできない者がいる。今のお前じゃあ確実に力不足だ。
そのことは、お前自身がよくわかっているはずだ」
「……はい」
 エレンは小さく頷く。
「エレン、安心して。私が必ず成功させるから」
 そんなエレンに声をかけるミカサ。
「ミカサ」
 その言い方は逆効果なんじゃないか、とオルオは思ったけれど違った。
「わかったよ。絶対たのむぜミカサ。エガちゃんを助けてやってくれ」
「大丈夫。エレンの恩人は私の恩人。絶対に死なせない」
「話は済んだか? だったらさっさと行けよ」
 オルオは少しイライラしながら言う。
422:
(見せつけやがってよお。ちょっと羨ましいぜ)
 そう、心の中でつぶやいたら、少しだけ笑いがこみ上げてきた。
「では、エレン・イェーガー。伝令任務、行ってまいります!」
 エレンは軽く敬礼をすると、立体機動で江頭のもとへ向かった。
 十数分後、エレンから完了を知らせる煙弾が打ちあがる。
 作戦開始の時だ。
 *
 
 
「ナナバ、ゲルガー。打ち合わせ通り頼むぜ」
 急遽集められた「攻撃隊」に対してオルオは言った。
「了解したよ」
 ナナバは答える。
「へっ、初陣の時に糞漏らしてたあのオルオが成長したな」
 ゲルガーがそう言って笑う。
「糞じゃねえ、ションベンだ」
「同じようなもんじゃねえか。小便のほうが液体な分、まき散らして大変だ」
「うるせえよ。まあ、そんだけ軽口叩けるなら十分だな」
423:
 オルオはそう言って、肩を揺らした。
「オルオ……」
 ゲルガーはふと名前を呼ぶ。
「どうした」
「お前、変わったな」
「別に、俺は何も変わっちゃいねえよ。まあただ、リヴァイ兵長も戦線を離脱。
さらにグンタもエルドもいないんだ。俺がしっかりしなきゃよ、仲間に示しがつかねえよ」
「そう言うこと言えるようになったか」
「何だかよくわからないけど、頼もしいね」
 ナナバは言った。
 ゲルガーとコンビを組むことが多いナナバは、落ち着いた雰囲気の兵士である。
 ゲルガーとは正反対の性格だが、それが上手く作用しているところもある。
「いいか、もう一度確認するぞ」
 オルオは自分に言い聞かせるように作戦を説明する。
「俺とゲルガーが、巨人の腕の関節を狙う。ナナバとミカサ、お前たちは下半身だ。
主にひざ裏を狙え」
「了解だよ」
 ナナバは答えた。
「了解しました」
424:
 ミカサも返事をする。
「へっ、やるなら早くしようぜ」
 ゲルガーは急かす。
「焦るな。もうすぐエレンから連絡が来る。その時を待て」
「連絡って、アレか?」
 ふと見ると、巨人のいる方向から煙弾が上がった。
「エレンからの煙弾だ!」
 エレンの撃った煙弾を見たオルオは、自分も煙弾を撃つ。
 色は赤。全員撤退の意味を込めた煙弾だ。
「引けええ! 攻撃中止だああ!!!」
 オルオの合図に、調査兵団、憲兵団の兵士たちは次々に巨人から離れて行く。
 巨人のは身体まだ健在である。
「行くぞ!」
「了解!!!」
 オルオ以下、四名の攻撃隊が鎧の巨人に向かって一斉に飛びかかる。
 集結地点から巨人に至るほんのわずかな距離の間、オルオはとある人物のことを考えていた。
 今までずっと考えないようにしていたけれど、この瞬間に――
 自分が死ぬかもしれないと思った瞬間に一気に思い出してしまった。
425:
(ペトラ、巨人を狩ることくらいしか能がなかった俺が、こうして人類の運命を背負って
部隊を指揮して姿を見て、お前はどう思うだろうかな)
 鎧の巨人がゆっくりとこちらを向く。
「ミカサ! ナナバ!」
「了解だよ!」
「了解!」
 ミカサとナナバが、大きく迂回して巨人の後ろに回る。
(そんなの当たり前、と思うだろうか)
「行くぜゲルガー! 同時に攻撃するんだぞ!」
「わかってるっての!」
(俺はリヴァイ兵長にはなれない。そんなこと、わかってるさ――)
 鎧の巨人がオルオたちに気を取られている間、低空から接近したミカサとナナバが、
鎧の巨人のひざ裏を狙う。
「いけえええええ!!!」
 二人はベストなタイミングでひざ裏に斬りつけた。
 今まで以上に深く入ったようで、蒸気を伴った血が噴き出す。
 まるで火山の噴火のように。
「ゲルガー! 下からだぞ!!」
「わかってる! 喋るな、また舌噛むぜ!」
「うるせえ!」
426:
(でもペトラ。お前の理想が兵長なら、俺は兵長になりたいと思っちまった。
馬鹿な男だと笑ってくれ。くそったれが)
 オルオはひざ裏を斬られてバランスを崩した巨人の前方すぐ近くに降り、
それからすかさずアンカーを射出し、急上昇した。
「うぐっ!」
 強烈な重力が身体にかかるが、気にしてもいられない。
 硬い鎧に守られた、弱い部分に刃を突き刺す。
 それは、
「うりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 脇だ。
「でりゃあああああ!!!!!」
 ゲルガーと同時に脇に剣を突き刺すオルオ。
 突き刺すと同時に、大量の血液が噴き出してきた。
 熱い!
 ドロドロのシチューをまともに被った感じだ。
《ゴオオオオオオオオオ!!!!!》
 巨人が叫ぶ。
 かなり効いたようだ。
「離脱! 離脱!!」
 剣を柄ごと放棄したオルオは、血まみれのままその場から離れた。
427:
 無論、巨人がこの程度で死なないことはわかっている。
 この作戦で一番重要なのは、オルオたちではない。
 最後に決めるのは――
(リヴァイ兵長もそうだが、カッコいい奴は大抵“いいところ”を持っていくよな。
脇役の俺にはこれが限界。だから……)
 顔に着いた血液を拭ったオルオは、巨人から離れながら息を大きく吸いこんだ。
 そして叫ぶ。
「いけえええええええええええええええええええ!!!!
 ペトラの仇をうつんだあああああああああああああああああ!!!!!」
《うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!》
 肩膝をつき、脇を差されたことでだらりと腕を垂らした巨人に対し、上段に剣を
構えた江頭が駆け寄る。
 そして、
《おりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!》
428:
 地面が割れるんじゃないかと思えるほど強烈な気合いと叫び声とともに、江頭は大剣
を振り下ろした。
「な!!」
 肉を切り裂く気持ちの悪い音とともに、剣は一気に地面まで到達する。
「鎧の巨人が……!」
 あの硬くて全く刃が立たなかった鎧の巨人の上半身が、肩口から腰にかけて、ザックリと斬られたのだ!
《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!》
 断末魔の叫びが街を揺らす。
 今日、何度街が揺れたかわからない。
 鎧の巨人の上半身がゆっくりとズレ落ち、そして地面に落下した。
 ドシンと、重量感のある落下音とともに、巨人の右肩の付け根から左わき腹にかけて、
斜めに斬られた巨人の上半身が建物を壊しつつ、落ちた。
 主を失った下半身も、力なくその場に倒れ込む。
「うなじだ! うなじを斬れ! 今なら斬れるはずだ!!」
 ふと、正気にもどったオルオはそう指示を出す。
 自身は緊張と疲労によって、ほとんど動けなくなってしまったため、近くの屋根に
着地する。
 が、
429:
「うがっ!」
 身体に付着した巨人の血液と疲労によって、バランスを崩し、転んでしまった。
「痛てえ!」
 そのまま屋根からずり落ちてしまうところを何とか回避したオルオは、もう一度体勢を立て直す。
「おおい、無事かオルオ」
 オルオと同様、脇を刺したために血まみれになったゲルガーがこちらに来た。
「ゲルガーか。こっちは無事だ」
「そうかよ」
 屋根に着地したゲルガーだが、彼も疲れているようで様子がおかしい。
「無理すんなゲルガー。後は仲間に任せよう」
「そんなんで指揮官が勤まるのかよ」
「無茶言うな。身体が動かん」
「そりゃ、俺も同様だがな」
 そう言うと、二人は鎧の巨人のいる場所を見た。
 早くも数人の兵士たちが巨人に群がっていた。
「黒タイツの旦那はどこ行ったんだ? いつの間にか見えなくなったけどよ」
 ゲルガーは聞いた。
「多分、元に戻ったんだろうな。案外、元の世界から帰ったかもしれんが」
「だとしたら寂しくなるな」 
430:
 
「なんでだよ」
「まだ一緒に酒飲んでないからさ」
「ケッ、酒飲みが。でもまあ、飲むときは俺も呼んでくれ」
「金は出せよ」
「出すに決まってんだろう。じゃあそろそろ――」
 不意に、オルオは言葉を止めた。
「どうした」
「いや、ゲルガー。お前、予備のガスは持ってるか」
「ん? まあ持ってるけどそれが」
「補給しとけ。あと、余ったら俺にもわけてくれ」
「どういうことだ」
「嫌な予感がする」
「ん?」
「上手く説明できないが、壁外調査に行った時、何度かこんな感覚があった」
 *
431:
 戦闘後、江頭のもとに真っ先に駆けつけたのはエレンであった。
「エガちゃあああん!!」
 立体機動装置で、江頭が消えた辺りを探すエレン。
「あ! 見つけた!!」
 彼の視線の先には、ガレキに半分身体が埋まった中年男の姿がうつる。
「エガちゃん!」
 着地したエレンは、ガレキを除いて江頭の身体を抱き起した。
「しっかりしてくれエガちゃん!」
「うう……」
 息はあるが、それこそ文字通り虫の息である。
「くそ、すぐ助ける」
 エレンが江頭の腕を肩に抱えると、ミカサも飛んできた。
「エレン! 無事だったのね」
「ミカサ。俺は大丈夫。それよりエガちゃんが」
「私が運ぶわ」
「いや、俺が運ぶ。それより――」
「!?」
 心臓の高鳴り。
 思わず押しつぶされてしまいそうなほどのプレッシャーをエレンは感じた。
432:
(この感覚、どこかで感じたことがあるような)
 エレンは思わず警戒する。
「エレン、どうしたの」
 エレンの様子が変わったことを感じたミカサは、キッと鋭い目つきをして周囲を見回す。
(この感じ、どこかで……)
 江頭を抱えた状態で、エレンは数か月前のことを思い出した。
「これは……」
「エレン!!」
 不意に、エレンは自分の足元が大きな影に覆われたことに気が付いた。
 足元だけじゃない。身体全体が、否、街の一部が大きな影に覆われているのだ!
「が!」
 エレンが振り向くとそこには、巨大な巨人がいた。
 全長50メートル以上あるその巨人は、かつてウォール・マリアのシガンシナ区、
そしてウォール・ローゼのトロスト区を襲い、城門を破壊した巨人。
「超大型巨人……!」
 そう、全身には皮膚ではなくむき出しの筋肉が見え、身体のいたるところから蒸気
があふれ出ていた。
 しかもその大きさは、かつてトロスト区で見た超大型巨人よりも大きく感じる。
「いつの間に……!」
「エレン! 早く逃げて!」
433:
 気が付くと超大型巨人は右手を挙げ、それを振り下ろす。
「うわああああああ!!!」
「エレン!!!」
 江頭を抱えたまま、動けないでいるエレン。ここで潰されたらおしまいだ。
 そう思ったその時、
「な!!」
 超大型巨人は、エレンたちの前方約50メートル先にある鎧の巨人の残骸に手を伸ばした。
「うわあああ!!!」
「なんだあれは!!」
 鎧の巨人を解体調査しようとしていた調査兵団の兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように離脱する。
 地面が揺れる。
 勢いよく腕を振り下ろした超大型巨人は、鎧の巨人の首の辺りを掴み上げる。
「野郎、鎧の巨人の『中身』を狙ったんじゃあ……」
 エレンはつぶやく。
「中身?」
 ミカサは聞いた。
「そう、ライナーだ。ライナー・ブラウン。そいつがあの中にいるんじゃないか。
 そして、恐らくあの超大型巨人の中にも誰かがいる」
434:
 そう言うと、エレンは抱えていた江頭を、ゆっくり道の隅に寝かせる。
「エガちゃん。すぐ戻ってくる」
「待ってエレン。何をするつもり?」
「決まってるだろう、シガンシナ区で殺された家族と、トロスト区で殺された仲間たちの、
仇を討つんだよ!」
 そう言うと、エレンは立体機動装置を作動させ、屋根の上まで飛び上がった。
「エレエエエン!!!!」
 ミカサの叫びを響く。
「うおおおおおおおお!!!」
 エレンは考える。
 普通に飛んだのでは、立体機動を使っても超大型巨人よりも高くは飛べない。
(だったら!)
 エレンは壁に立体機動のアンカーを撃ちこみ、そこからさらに上に向かって飛んだ。
「くたばりやがれえええええ!!!」
 そして、飛び下りるように超大型巨人のうなじに迫る。
(ヤツは動きが遅い。だったら)
 しかし、大型巨人の身体から信じられないくらい大量の蒸気が噴き出した。
(逃がすかよクソ!!)
 エレンは顔を抑えつつ、巨人の動向を見据えた。
435:
 かつて現れた超大型巨人はいずれも、全身から大量の蒸気を吹き出してその姿を消した。
 だが今度は消えない。
「くそがあああああ!!!!」
 蒸気がほんの少し収まったところを見計らったエレンは、火傷をすることも恐れず、
逆手に持った剣を超大型巨人の背中に突きたてた。
「どりゃあああああ!!!」
 だが、案の定まるで活火山のような激しい蒸気が噴き出し、エレンは身体ごと吹き飛ばされてしまう。
「うわああああああ!!!」
 一瞬遠くなる意識。
(くそお。こんなのにどうやって勝てばいいんだよ。鎧の巨人だってあんなにも強かったのに)
 そう思った瞬間、超大型巨人はとある場所に向かっているのを見た。
(どこへ行く? まさか、エガちゃん)
 だが鎧の巨人の一部を抱えた超大型巨人が向かった先は、壁であった。
 ウォール・シーナ、ストヘス区の壁。
 そこは先ほど江頭が激突して、大きな穴の開いた場所でもあった。
《ウウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオ!!!!!!!》
436:
 街を、いや、世界を揺り動かすような叫び声を発した超大型巨人はそのまま体当たりをし、
ストヘス区の壁を突き破ったのだ!
「な!!!」
 驚いたのはエレンだけではない。
 その場にいた者全員が戦慄した。
 巨大な穴の開いたウォール・シーナ。
 その穴の中に吸い込まれるように、超巨大巨人は……、消えた。
 つづく
437:
 現在公開可能な情報14
・江頭の身体能力
 江頭の身体能力、特に運動神経の良さはいくつかのテレビ番組で証明されている
ところであり、疑いようもない。
 とあるテレビ番組では、40代の江頭が20代のエグザイルのメンバーを追いかけ回す
シーンもあり、陸上で鍛えられた脚力は今も健在と思われる。
 ただし、江頭自身は体が非常に硬く、毎日のストレッチは欠かせない。
 また怪我や病気の経験も多く、必ずしも丈夫な体というわけではない。
 とはいえ、何度も怪我や病気を経ても復活してきた回復力、そして本番でカメラが回ると、
リハーサル以上の能力を発揮する爆発力(例:『ぷっすま』のギリギリマスター)などは、
芸能界でも一、二を争うものと言っても過言ではないだろう。
 大抵の芸人が、加齢とともに身体を張る芸から遠ざかる中、齢五十を近くにしても、
なお身体を酷使する姿に感銘を受けるファンも多い(?)。
 本人曰く「90を過ぎても逆立ちしてやるぜ」
439:

いけると思ったらベルさんきやがったか
てかヒッチいい女やなあ
440:
エガちゃん、もうそんな歳なんか
頑張れ
443:
 ふと目を覚ますと、そこには見覚えのある天井が見えた。
「気が付いたか」
 ふと、目線を右に寄せると調査兵団のエルドが椅子に座って本を読んでいた。
「なんか、そろそろ起きそうな気がしたんでな、こうして部屋にきてみたんだ」
「エルド、ここは、俺はどれくらい眠っていた。あの巨人はどうなった」
「おっと。色々聞きたいことはあると思うが、今は落ち着け。今から少しずつ教えてやる」
「……」
「まずここだが、ウォール・ローゼ内にある調査兵団の駐屯地だ」
「駐屯地?」
「ああ、エガちゃんが初めて来たところと同じだな」
「どうして。俺は確か」
「そう、お前さんはウォール・シーナのストヘス区にいた。あれから寝ているエガちゃん
を馬車でここまで運んだんだぜ。大変だったよ、まったく」
「そうなのか」
「今日は蛇の月の五日目。つまり、あの事件から四日、と言ったところだな」
「そんなに寝ていたのか」
「ああ。大変だったぜ、もしかして本当に起きないじゃないかと思ったくらいだ」
「そうか」
444:
「無理もない。あんな無茶苦茶な戦いをしてたんだからな」
「悪い」
「別に謝ることはないさ。エガちゃんがいなかったら、俺たちもどうなってたかわからない。
特に鎧の巨人との戦いではな」
「申し訳ないが、よく、覚えてないんだ」
「そうかい。まあ、そんなんじゃないかと思ったけどさ」
「その、あの娘は。その……」
「ペトラのことか?」
「……ああ」
「残念だが、生存は絶望だ」
「……そうか」
「遺体も発見できなかった」
「……」
「あいつのブーツや認識票は発見できたんだがな」
「俺のせいで――」
「おっと、其れ以上は無しだぜエガちゃん」
「エルド」
「せっかく生き残ったによ、そんな自分を卑下するようなことは言って欲しくねえんだ」
「だけどペトラは、俺を守るために」
445:
「わかってる。だけどよ、俺だって仲間としてアイツの死が無駄だなんて思いたくないんだ」
「……」
「それに、もしかしたらあの時死んでたのがペトラじゃなくて俺だった可能性だってわるわけだしよ」
「……」
「エガちゃん。こいつは、生きて戻ってきた若い隊員にいつも言って聞かせてることなんだけどさ」
「生きて戻ってくる?」
「調査兵団の壁外遠征ってのは、毎回少なからず犠牲者が出るんだ。生きて戻ってくる
だけでも十分優秀なわけさ。だけど、中には仲のいい仲間の死を目の当たりにする若い
兵士も少なくない」
「そうだったな」
「生き残った奴は、『なぜ自分が生き残ったんだ』って、自分を責めることが多い。
人類のために自らの命を捧げようなんていうような連中だ。そう思うのも無理はないんだ。
だけどよ、そうやって自分を責めたって、死んだ奴は戻ってこない」
「……」
「今日生きられなかった奴の分も、全力で生きて見せてみろって」
「そうは言うけど、若い奴はそこまで割り切れないんじゃないのか?」
446:
「確かにな。俺だって完全に割り切ったわけじゃない。だけどよ、仲間が死んでも
何とも思わない人間なんて、それこそ壁外で人を喰ってる巨人と変わらないだろう?」
「……ああ」
「俺たちは人間なんだ。生きて苦しむことは特別なことなんかじゃない。それが人間の尊厳なんだって」
「人間の尊厳」
「まあ、コイツは親父の受け売りなんだがな」
「いい親父さんだな」
「そうだな。俺には勿体ねえ親父だ。四年前の奪還作戦に参加して死んじまったけどさ」
「……悪い」
 少なくともこの世界では、人の死は身近なものなのだろう。
 江頭はそう思った。
「ところで、エガちゃんは人気者だな」
「ん?」
「お前さんが寝ている間、入れ代わり立ち代わり、若い兵士が世話に来てたぜ」
「そうなのか」
「ああ。特にあの背の低い女の子。なんて言ったっけな」
「クリスタ」
「そう、クリスタ。あの子が一番熱心に世話してたな」
「そうなのか。礼を言っとかないとな。今、どこにいる? もう宿舎に戻ってるのかな」
「ん? そこにいるぞ」
「へ?」
 不意に左側を見ると、ソファの上でクリスタ・レンズが横になって寝息をたてていた。
447:
 進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
   第十五話 残 さ れ た 者 
448:
 翌朝、江頭はリハビリを兼ねて、駐屯地を歩き回ることにした。
 立場が立場なだけに、あまりウロウロするのは好ましくないということはわかって
いるのだが、それでも何かをしないではいられなかったのだ。
 年寄りのように杖をつきながら歩く。
 何日も寝ていると、立って歩くだけでも重労働だと改めて思った。
 自分の祖父が痴呆の末に寝たきりになり、その後二度と元気に歩き回ることができなく
なったことを思い出す。
「エガちゃん!」
「師匠!!」
 不意に、声が聞こえてきた。
「お前たち……」
 制服姿のサシャ・ブラウスとエレンがこちらに駆け寄る。
 薄汚れた外套を着ているので、外に行っていたのだろうか。
「エガちゃん、よかった。気が付いたんだね」
 エレンは言った。
「師匠! よかったです、よかったでずよおおおお!!」
「うわっ、やめろ!!」
 興奮のあまりに抱き着いたサシャの勢いにバランスを崩す江頭。
「ちょ、サシャ! 落ち着け!」
449:
 エレンがサシャを止める。
 そんなことをしていると、また一人見知った顔がやってきた。
「おいおい、何やってんだ。お、エガちゃん起きたのか」
「ジャンか」
「おうよ」
 エレンたちの同期生である、ジャン・キルシュタインだ。
「お前たち、そんな格好して、どこへ言ってたんだ?」
「それは……」
 江頭のその質問にエレンは口ごもる。
「エレン?」
「ライナーとベルトルトを探しに行ってたんだ」
 そう答えたのはジャンのほうであった。
「ん?」
「俺たちの同期だよ。ライナーは、大柄で変な形の眉毛したやつ。ベルトルトは、
いつもライナーと一緒にいた、背の高い黒髪の男だ」
「そいつらを探したって」
「二人は、五日前に行方不明になった。まあ、脱走ってやつだな」
「脱走か……。で、見つかったのか?」
「全然。他の隊員や駐屯兵団の人たちも一緒に探したんだけど」
 そう言って首を振るジャン。
 そんな彼らを見ながら、江頭はエレンに耳打ちをする。
450:
「ジャンたちは“あのこと”を知っているのか?」
 “あのこと”とは、言うまでもなくライナーが鎧の巨人であったということだ。
 江頭の記憶は曖昧だが、ライナーが巨人になったことはある程度はっきりと覚えている。
「上からは正確な情報はないよ、エガちゃん。あの任務については、無闇に他言しない
ようにとは言われているんだ。でも、みんな薄々は気付いているみたいだよ。
あれだけ派手にやっちゃったんだ。秘密にはできないよ」
「だろうな」
「何を二人でコソコソやってるんだ?」
 後ろからジャンが声をかける。
「おお、悪い」
 江頭は素直に謝る。
「大方、ライナーのことだろう?」
 ジャンは言い放った。
「それは……」
 ジャンの言葉にエレンは口ごもる。
「言っとくけど、噂は結構広がってるぜ。上がどれだけ隠したってな。
例のウォール・シーナ内での爆発事件に、ライナーが関わってるんだろう?」
「……」
 エレンは何も言わない。
451:
 言うわけにはいかないのだろう。
 ジャンも察しのいい男なので、其れ以上は聞こうとはしなかった。
「え? ライナーが何に関わってたんですか?」
 そう言って周りに聞いて回ったのはサシャであった。
 ジャンに比べて、彼女はあまり察しが良くないようだ。
「まあ何にせよ、今のこの異常事態はずっと隠し通すことは不可能ってこった。
俺の将来にかかわるかもしらんから、詳しくは聞かんけどよ」
「ジャン……」
「行くぞエレン。後片付けが残ってんだ」
「あ、ああ……。じゃあね、エガちゃん」
「おう」
「師匠、また会いましょう」
「そうだな……」
 一人取り残された江頭。
(隠し通すことは不可能か。そりゃそうだろう)
 街中で暴れ回った挙句、壁まで壊したのだ。
 これが騒動にならないほうがおかしい。
 軍や政府がどれだけ情報統制に躍起になったところで、完全に防ぐことは難しいだろう。
 * 
452:
「ゆっくりと散歩か? いい御身分だな、異世界人」
「オルオ」
 次に江頭に声をかけたのは、外出用の制服に身を包んだオルオ・ボザドである。
「その格好は、お前も捜索に出ていたのか」
「まあな」
「身体のほうは大丈夫なのか」
「俺は兵長やエルドたちのように大きな負傷はなかったからな。そのまま任務に復帰した」
「いや、だけどあれからまだそんなに」
「俺を誰だと思ってんだ。そんなに弱くねえ」
 強気な発言をするオルオ。
 だが江頭には無理をしているようにしか見えなかった。
「それに今回の捜索は上層部もそんなに力を入れてなかったからな。すぐに帰る
ことができたし」
「力を入れていない?」
「公式には発表されていないが、ライナー・ブラウンがあの鎧の巨人であったことは、
すでにわかっている。そうだろう?」
「まあ、そうだが」
「恐らく、これは俺の勘だが、数日前に行方不明になったベルトルト・フーバーって奴も
巨人だと思う。多分あのクソデカイ巨人だ」
453:
「ベルトルト?」
 どこかで聞いたことがある名前だったけれど、江頭はすぐには思い出せなかった。
「俺の調べたところでは、ライナーとベルトルトは同じ地域の出身だったという話だ。
といっても、まともな戸籍などは五年間の混乱で無くなっちまったんだけどな」
 五年前。
 超大型巨人の出現によって、ウォール・マリアが破壊され、人類の居住区域の多くが
失われた年だ。
「聞くところによれば、あのアニ・レオンハートって女も、同じ村の出身らしい」
「……つまり、同じ場所の出身だから、同じような能力を持っていたと」
「まあ、他にも色々と原因はあるようだけどな。まだ調べる必要がある」
「オルオ」
「なんだあ?」
「その……、ペトラのことだが」
「それがどうした」
「申し訳ないと思っている。俺のせいでもあるし」
「だからどうした」
「え?」
「ペトラも兵士なんだ。いつかこういう日が来ることは覚悟していただろうぜ。
俺だってそうだ」
「……」
454:
「まあ、壁内の戦闘で死んだってのは想定外だったがな」
「悲しくないのかよ」
「ああ?」
「悲しくないのかよ、兵士なら死ぬのが当たり前。それが当然のこととして、
受け入れるのか?」
「おい、異世界人」
「?」
「言っとくがな、俺はペトラのことを、調査兵団に入る前から知ってるんだ。
もちろん、訓練兵団に入る前の、さらに子供のころからな」
「なに……?」
「昔から知っていた。いわゆる幼馴染ってやつだな」
「だったら猶更」
「お前は俺にどうして欲しいってんだ? 泣き叫んでほしいのか? 
それともお前に対して怒りを爆発させりゃいいのか」
「それは」
「そんな風にして、動揺すりゃお前は満足なのかよ」
「だけど、悲しんだり怒ったりするのは人間として当たり前なんじゃないのか?」
455:
「ああそうかもな。だが俺たちは兵士だ。人類の自由のために自らの命を捧げる身だ。
昔馴染みが死んだところで、一々ショックを受けてたんじゃあ、兵士は務まらねえ。
わかるか? 俺が悲しんだらペトラが生き返るっていうなら、いくらでも悲しんでやるさ。
お前を恨めば復活するんなら、いくらでもボコボコにしてやる。
だが違うだろう? そんなことをしていても無駄だ。今は、あいつの、ペトラの仇を取るために、
自分にできることをやる。ただそれだけだ」
「オルオ……」
「ちっと長話が過ぎちまったな。俺は上層部(ウエ)に報告があるんで、行かせてもらうぜ」
「ああ」
 江頭はオルオの背中を見送る。
 この世界では、悲しむことも許されないのか?
 そりゃあオルオは兵士だし、たくさんの後輩の見本とならなきゃいかん。
 でも、あいつの話が本当なら、同僚としてだけでなく、個人的な付き合いもあった
ペトラが死んで、それでも任務を果たせるものなのだろうか。
(俺にできるのか)
 大切なものが失われた時、自分がどうなるのか。
 江頭はかつて、ラジオ番組で言った自分の発言を思い出してしまう。
『俺にもし子供がいたとしてその子が風邪で寝込んだら俺はめちゃイケ行かないぜ? 
だから結婚はしない』
456:
 全力で自分自身を追いこむために、江頭は人を愛することも人から愛されることも
拒否してきた。
 かつて付き合っていた女性も幾人かいたけれど、結婚までには至らなかった。
 
(だがそれは甘えだ。大切なものを抱えることが怖かっただけなんだ)
 
 江頭は更に考える。
(だったら俺は、何をすればいいんだ? 今俺は、何をすべきなのか)
 フラフラで、まだ足腰もしっかりしていない状態で江頭は駐屯地の中を歩き続けた。
 *
 
 
 その夜、江頭は医務室から自分のためにあてがわれた居室へと移った。
 身体の調子はそれほど悪くない。
 鎧の巨人との戦いで、体中に傷を負ったはずにも関わらず、肩や脇腹には、痛み
どころか傷跡すら残っていなかった。
(一体どうなってんのかな)
 そんなことを思っていると、誰かがドアをノックする。
「入って、どうぞ」
「し、失礼します……」
 入ってきたのは、小柄な少女、クリスタである。
457:
「クリスタ」
「どうも。御加減はいかがですか?」
「ん? 大丈夫だけど」
 よく見ると、クリスタは両手に何かを持っている。
「それは」
「お夕食を、お持ちしました」
「夕食? いや、もう自分で立てるから食堂まで行けるから」
 そういえば、もうそんな時間か。
 ふと、江頭は思う。
「いえ、これは食堂のとは違うんです」
「え?」
「あの、以前言いましたよね。私、料理するって」
「もしかして、キミの」
「はい」
 *
458:
 その後、江頭とクリスタは居室で二人だけの食事を……。
「ちょっと、何をするんですかミカサ!」
 部屋の外から声が聞こえてきた。
「私も師匠と食事を!」
「サシャ! あなたはもっと人のことを考える様にしないとダメ。戦闘は一人では
できないのだから」
「これは戦いではありませんよミカサ! ちょっと放してください!」
「おいエレン! 芋女の脚を縛ったらどうだ?」
 男の声も聞こえてきた。
「とりあえず猿轡だな」
 エレンの声もした。
「んー! んー!」
 しばらくすると、部屋の外の物音もしなくなったので、どうやら自分たちの居室に
戻ったようだ。
「アハハ、元気な連中だな」
 江頭は乾いた笑いを見せる。
「そ、そうですね」
 クリスタは戸惑いながらも答えた。
 そういえば、こうやって誰かと落ち着いて食事をするのは久しぶりかもしれない。
459:
 大概は、居室で一人で食べるか、もしくは食堂でみんなとわいわい食べるのが
普通だったからだ。
(そういえば、かなり長いこと酒を飲んでないな)
 酒好きで知られる江頭が長いこと酒を飲まないのは珍しい。
 実家が酒屋だっただけに、江頭にとって酒のある生活は当たり前の日常であったのだ。
(まあ、飲まなくても案外やっていけるものだな)
 そう思いつつ、江頭はクリスタの作ったスープを飲む。
 全体的に薄味なのは、壁内に海が無く塩の調達が困難だからだろうか。
「……」
「……」
 クリスタを前に気まずい沈黙が続く。
 何か話そうかとも思ったけれど、何を話していいのかわからない。
 というか、これから何をしていいのかもよくわからないのだ。
 暗い夜道の中で、懐中電灯も持たずに放り出されたような心細さが今の江頭にはあった。
 無闇に動いても意味がない。
 さりとて何もしないわけにもいかない。
 元の世界にいたころは、何かしら動いていた江頭にとって、何もしないことは苦痛以外の
何物でもなかった。
460:
 それこそ、酒を飲めないことよりもはるかに苦痛なのだ。
 そんなことを考えていると、食事の味もよくわからなくなってきた。
 十数分後、食事を終えた江頭は大きく息をつく。
「美味しかったよ。ありがとう」
「ど、どうも」
 所々、不恰好な切り方の野菜もあったけれど、不慣れな女の子が一生懸命料理をして
いたと思うと、それはそれで微笑ましい。
 よく見ると、クリスタの手には小さな切り傷がいくつもあった。
「しかし何で今、料理を作ってくれたんだ?」
 江頭は聞いた。
「え? あの、江頭さん。今朝からずっと元気が無かったみたいで」
 クリスタは遠慮がちに答える。
「何かしてあげたほうがいいって思ったんですけど、何をしたらいいのかよくわからなくて」
「それで料理を?」
「あ、はい。私って、そんなに特技とかないですし」
「いや、そんなことは……」
 こんな小さな少女にまで気を遣わせてしまった。
 そう思うと江頭は申し訳ない気持ちになる。
「大丈夫だよクリスタ。俺は元気さ。ハハッ」
461:
 江頭はそう言って再び乾いた笑いを見せた。
 自分を偽り続ければ、やがて壊れてしまう。誰かがそんなことを言った気がする。
 今の江頭はまさにそんな感じだった。
 いつもだったら、笑えば力の湧いてくるものだが、今笑っても虚しくなるだけである。
(どうすりゃいいのかな)
「あの、エガシラさん」
 そんな江頭にクリスタは呼びかける。
「なにか?」
「ちょっと、外に出ませんか?」
「外?」
 窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっていた。
 *
462:
 駐屯地内は暗い。
 この世界には電気や電灯というものが無いので、夜の灯りは大抵松明かランプだ。
 それでもそこまで暗く感じないのは、空気が澄んでおり、星の光が直接地上に
届いているからだろうか。
「こっちです。暗いから気を付けてくださいね」
「え? ここって」
 クリスタに連れられて来たところは、駐屯地内にある見張り台である。
 江頭は梯子を使って、その見張り台の上まであがる。
「ほう」
 見張り台から外を見ると、地平線の向こう側に高い壁が見えた。
 壁の上には初夏満天の星空。
 横たわる天の川がまた幻想的である。
(この世界にも天の川があるんだな)
 江頭はそう思った。
「足元、気を付けてください」
 クリスタはそう言うと、持っていたランプの灯りを消した。
「クリスタ?」
「ここなら大丈夫ですよ」
「……なにが?」
「誰も見てませんから」
463:
「え?」
「エガシラさん、ちょっとこっちに」
「な、なに」
「膝を曲げてください」
「おう」
 言われるがままに、江頭はクリスタの前で膝を曲げ身体をかがめる。
 すると、
「!?」
 クリスタは、江頭の頭を抱え込み、その上に外套をかけた。
(クリスタ、何を?)
 戸惑う江頭に対し、クリスタは優しく江頭の頭を外套越しに撫でる。
「もう大丈夫ですよエガシラさん」
「……」
 服越しではあるけれど、クリスタの温もり、それに心臓の鼓動がしっかりと伝わってくる。
 随分と懐かしい感覚だ、と江頭は思った。
「我慢しなくていいんですから」
 クリスタのその言葉に、今までの記憶が一気に江頭の中で逆流した。
(ペトラ、すまない)
464:
 そう思った瞬間に、江頭の目から堰を切ったように涙があふれ出る。
 
「うおおおお……」
 止めようと思っても止まらない。
「詳しくはわからないんですけど、少しだけなら話は聞きました。よく頑張りましたね、エガシラさん」 
 頑張った?
 俺が何を頑張ったっていうんだ。
 俺がもっと頑張ればペトラは救われていたかもしれない。
 もっと人が助かったかもしれないのに。
 自分の無力さと後悔が入り混じり、江頭は更に慟哭した。
 *
465:
 随分久しぶりに泣いた気がする。
 こんなに泣いたのは、江頭グランブルー以来かもしれない。
 そして、涙を流すことで頭の中が少し、いや、かなりスッキリとした。
「ありがとう、クリスタ」
 そう言うと顔を上げる江頭。
 いつまでも泣いているわけにはいかない。
 鬱な気持ちも限界を越えると逆に前向きになってくるものだ。
「ごめんなさい、エガシラさん。私、どうしていいのかわからなくて」
「いや、いいんだ」
 月明かりと星明りだけの櫓の上では、クリスタの表情はよくわからない。
 ただ、不思議な安心感があったことは事実だ。
 江頭は外を見ながら大きく息を吸う。
「そういえば、この世界のことは何もわかっていなかったな」
 江頭は独り言のようにつぶやく。
「この世界?」
 クリスタが聞いた。
「そういえば、キミたちが持っているあの、ワイヤーで飛ぶやつ」
「立体機動装置」
「そう。それを作っている場所があるって言ってたな」
466:
「あ、はい。ウォール・シーナ内にある工場都市で作っているといいます。それが何か」
「その、工場都市というのは、どんなところ?」
「私も、詳しくは知らないのですが、ウォール・シーナの中央に位置する秘密都市です。
人口は約五万人。山岳中央から流れ出る巨大な滝を原動力として動いているという話
を聞いたことがあります」
「そこに行ったことは?」
「ありません。工場都市では、その内外の移動どころか、周辺の通行も制限されるほど、
厳しい管理下におかれています。普通の人間は、王政の高官ですら簡単には入れない
と言われていますので」
「そうか……」
「それが何か」
「もしかすると、これは俺の勘なんだが……」
「はい」
「この世界の真相はその、工場都市にあるのかもしれないな」
「どういうことです?」
「まあ、まだ推測の段階だから、確かなことは言えないんだが」
 電気も自動車もない世界にもかかわらず、高度な冶金技術が必要とされる超硬質
スチールの刃や、立体機動装置などを作る施設。
467:
 このアンバランスな世界の原因となるものを作り出す場所に、この世界の秘密が隠されている
のではないか。
 全体的な雰囲気に流されて壁外に出た江頭には気が付かなかったことだった。
「灯台下暗し、と言ったところか」
 江頭はまたつぶやく。
「トウダイ? なんですか、それ」
 クリスタは聞いた。
「この世界には無いものだよ。少なくとも壁の内側にはな」
 灯台と言えば海。
 海は、少なくともこの世界の人間にとって想像上の存在である。
 *
468:
 翌日、政府より「エガシラを王都に護送せと」との命令が伝えられた。
「どういうことですか! なんでエガちゃんが捕まらなくちゃならないんだよ!」
 エレンがオルオに向かって叫ぶ。
 場所は調査兵団駐屯地の中庭。
 エレンだけでなく、ジャンやクリスタ、それに江頭本人もいる前で、その命令は伝えられた。
「俺にどうこう言っても仕方ないだろう。王政の偉い人が決めたことなんだからよ」
「リヴァイ兵長もエルヴィン団長もいない今、エガちゃんの能力(チカラ)が必要なことくらい、
わかるじゃないか!
 だいたいエガちゃんは悪人なんかじゃないよ! 巨人から人類を守ったじゃないか!」
「声がデカイぞ。俺だってそんなことくらいわかってる。でも命令には従わなきゃならねえんだよ。
それが軍隊だ。それが兵士だ」
「しかし!」
「いいんだエレン」
 興奮するエレンを、江頭が諌める。
「エガちゃん……」
 エレンは不安そうに名前を呼ぶ。サシャやミカサ。それにクリスタも心配そうな目を
しているのがわかる。
「王都ってのはその、ウォール・シーナの内部にあるわけだよな」
469:
 江頭は聞いた。
「そうだが」
 オルオは答える。
「これは、もしかしてチャンスかもしれないぞ」
「チャンス?」
「ああ、上手くいけば、この世界の秘密がわかるかもしれん」
 江頭は何かを思い付いたようで、やや不気味な笑みを浮かべた。
 つづく
470:
 現在公開可能な情報14
・江頭グランブルー
 かつての人気番組『浅草ヤング洋品店(通称:浅ヤン)』の1コーナー。
水を満たした水槽の中で息を止めて、どれだけ長くいられるかという企画。
 江頭は当初、ヨガの達人と水中息止め勝負に勝利するも、その後挑戦してきた
清水圭に敗れる。
 リベンジを誓った江頭。しかし思ったように記録が伸びず、スランプの末に
水恐怖症にまでなってしまった。
 それでも江頭は強力な精神力と努力で恐怖症を克服。
 水中息止めコーナーの最終回で、本業である大川興業本公演を控えているにも関わらず、
番組収録現場に現れ、再び水中息止めに挑戦。
 見事4分14秒の記録を打ち立て、チャンピオンに返り咲いた。
 記録達成後、江頭はカメラの前で号泣。周囲の観客や共演者も、命がけの努力に涙を流す、
感動の最終回(フィナーレ)となった。
 追記
 ちなみに江頭自身は「お笑い」にならなかったことをひどく後悔し、その13年後、
とんねるずの番組で別の意味でのリベンジを果たすことになるのだが、それはまた別の話。
472:
エガちゃんの事、詳しすぎぃ!
474:

エガちゃんって本当に凄いな…
475:
「工場都市に行く!?」
 江頭のその言葉に、その場にいた全員が驚いた。
「ああ、そこに行けば、この世界の秘密がわかるかもしれん」
「ちょっと待ってよエガちゃん」
 そう言って止めたのはエレンだ。
「どうしたエレン」
「工場都市ってさ、このウォール・シーナの中でも最も警備が厳重なところなんだ。
簡単に行けるところじゃないよ」
「でも工場都市って、王都の近くにあるんだろう? だったら、ちょうどいい。
連行されたついでに、ちょっと行ってくる」
「そんなに簡単に行けたら苦労しないよ。それに近くって言ったって、王都から
工場都市まではだいたい、30?くらいはあるよ」
「そんなにあるのか」
「だからエガちゃん」
「止めるなエレン。それでも俺は行く」
「行くならもっと“適切な方法”で行く必要があるよ」
「!?」
476:
 
  進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
  第十六話 本当の名前
477:
 蛇の月八日――
 ウォール・シーナ南部城塞都市、エルミハ区。
 そこに調査兵団の一行、約三十人が到着した。
 中心の馬車には、とある重要な人物を乗せているという話になっているが、実際は違う。
「おい、本当に大丈夫なのかよ」
 街に入り、乗馬から徒歩に切り替えたコニーが馬車のすぐ近くでサシャに話しかける。
「何がですか?」
 と、サシャ。
「中のアイツだよ。見られたら絶対にバレるぞ」
「大丈夫ですよコニー」
「何が大丈夫なんだよ」
「ジャンの変装は完璧です。バレませんよ」
「変装つったって、髪の毛を黒く染めただけじゃねえか」
 コニーたちが守る馬車の中には、ジャン・キルシュタインが入っていたのだ。
 もちろん、彼らが“本来”護るのはジャンではない。
 彼らは護送しているフリをしているのだ。
 壁外での行動を常とする調査兵団にとって、内地での行動はやや目立つ。
「アルミンが言ってました。ここはエルミハ区です。師匠(江頭)を直接見た
連中はここではなく、ストヘス区にいますから、パッと見では彼が師匠だとは
気づきません」
478:
「そういや、俺たちも初めてエガちゃんを見た時も(※第三話参照)、
すぐに本人だとは気付かなかったな」
「そうです。だからこの程度でいいんですよ。念のために、黒タイツも履かせている
らしいですよ」
「そういやミカサの奴、見た目も似せるためにジャンの髪の毛をむしろうとしてたっけ」
「ジャンはそれだけは勘弁してくれと言って泣いてましたけど」
「本当にむしられたら悲惨なことになっていたな」
「むしろ見てみたいですね。ハゲになったジャンの姿」
『お前ら、他人事だと思って好き勝手言ってんじゃねえぞ』
 馬車の中からジャンの声が聞こえてきた。
「ほらジャン、静かにしろ。憲兵団の連中にバレたらどうすんだ」
 コニーは閉鎖式の馬車の扉を拳で軽く叩きながら言った。
 *
479:
 一方そのころ、同地区に潜入した“本当の”江頭たちの一行は――
「随分と静かな街だな」
 外套にフードを目深にかぶった江頭が独り言のようにつぶやく。
「しっ、何が起こるかわからない。警戒すべき」
 彼のすぐ後ろを歩くミカサは言った。
 江頭の周りには、エレン、ミカサ、それにクリスタなどごく少数の護衛しかいない。
 少し離れたところで、オルオ率いるベテラン精鋭部隊が控えてはいるけれど、
基本的な移動は目立たないように少数でせざるを得ない。
「ジャンたちは大丈夫かな」
 江頭はそれでも聞く。
「大丈夫だ。問題ない。アルミンの作戦は完璧」
 ミカサはどこから来るのかよくわからない自信を持った声でそう言った。
「それにしてもこの街も広いな。それに街並みも複雑だ」
「俺たちの住んでたシガンシナ区もそうだったけど、基本的に前線の城塞都市は、
巨人が侵入してきた時のための戦闘を考慮して街づくりがされているから、
街並みも複雑で入り組んでいるんだよ」
「都市としての発展よりも、戦闘を重視か」
 当たり前と言えば当たり前かもしれない。
 東京だって、江戸と呼ばれていたころはそういう作りになっていたという話も聞く。
「何にせよ、俺たちが街を出るまでに時間を稼いでくれればいいのだけどさ」
 エレンが不吉なことを言う。
 だいたい、こういう時、順調にことが進まないことは江頭自身がよく知っていた。
 *
480:
 江頭の懸念通り、影武者のジャンを乗せた馬車は街の中央に差し掛かった辺りで、
憲兵団に止められていた。
「ど、どうしましょうコニー」
 明らかに動揺するサシャ。
「落ち着けサシャ。簡単にはバレないんだろう?」
「そうですけど」
「憲兵団の者だ。これから馬車の中身を確認させてもらう」
 兵士の一人がそう言ってこちらに近づいてくる。
「こんな場所でなぜやるんです? 出口の検問所でいいじゃありませんか」
 そう言ったのは調査兵団のナナバだ。
「上からそのような命令をされていましてね。理由はよくわからない。ですが、
それに従わないわけにはいかない」
「そうですか」
 そう言うと、ナナバは引き下がる。
 そもそも、ここで憲兵団(こいつら)と争うことは得策ではない。
「おい、サシャ」
 コニーは動揺しながらサシャの腕を肘で付く。
「大丈夫ですコニー。さっきも言った通り、彼らの中で師匠の顔を知る者は――」
 そこまで言いかけてサシャの言葉が止まる。
「おい、お前ら」
481:
 憲兵団の兵士が誰かを呼ぶ。
 すると、見知らぬ若い兵士たちがぞろぞろと調査兵団一行の前に並び始めた。
「!?」
「彼らはなんですか?」
 ナナバは聞いた。
「こいつらは、憲兵団のストヘス区支部所属の新兵たちだ。ストヘス区の戦いでは、
直接黒タイツの巨人を目撃している」
「!!?」
「こいつらに、その馬車に乗っている奴が黒タイツの巨人なのか、確認させてほしい、
とのことだ」
(まずい、まずいですよコニー)
(んなことはわかってるよ!)
 この状況に動揺するサシャとコニー。
「おい、出てこい」
「……」
 髪を黒く染めたジャンがゆっくりと馬車から降りる。
 万事休すと思われたその時、
「お前たち、こいつが黒タイツの巨人か?」
「え?」
「うーん」
482:
 憲兵団の上官の問いに、集められた新兵たちは一斉に首をかしげる。
 違うなら違うとはっきり言えばいいはずなのに、誰一人としてはっきりとした確証が
えられない。
(え? これはどういうことだサシャ)
 声を殺しながらコニーは聞いた。
(わかりました)
 と、サシャ。
(何がだ?)
(思い出してくださいコニー。私たちが調査兵団の駐屯地で、師匠と対面した時のことを)
(あ!)
(あの時は本物のエガシラだったにも関わらず、私たちはそれがわかりませんでした)
(そうか。つまり、ジャンもエガちゃんと同じ格好をすれば)
(そうですよ。勘違いしてくれるかもしれません)
「お前ら、さっきから何コソコソ話してるんだ」
 サシャとコニーを見て、ジャンは言った。
「ジャ……、じゃなくてエガシラさん」
 サシャは突然澄ました顔になって言う。
「え?」
「服を、脱いでください」
483:
「おい、何言ってんだ」
「いいから服を脱ぐんですよ。わかるでしょう?」
「いや、わかんねえよ。なんで」
 サシャは声を殺してジャンに耳打ちする。
(ほら、あなたは今、エガシラなんですから)
「マジでか……」
(早くなさい! もう、逃げられないんですから)
(くそう……!)
 ジャンはそう言いつつ、馬車の中に逃げ込むように入って行った。
「おい、どういうことだ」
 憲兵団の責任者が不審に思い前に出ると、
「まあまあ、今準備中ですから、すぐに終わりますよ」
 コニーがそう言って止めた。
「準備中?」
「ええ。これからすぐに、彼が黒タイツの巨人であることがわかると思いますよ」
 *
484:
 馬車の中。
 焦りながらジャンは服を脱いでいた。
 服の下には黒タイツである。
(最悪の事態を想定して、念のために履いてきた黒タイツが早くも役に立つとは)
 この黒タイツはアルミンが用意したものだが、これを渡すとき奴は笑いをこらえていた
ことを思い出すジャン。
(本当はアルミンが一番の黒幕なんじゃねえの?)
 そんなことを思っていると、馬車の車体を叩く音が聞こえた。
「わかった、わかったから」
 ジャンはドアを開け、外に飛び出した。
「う、うおおおおおおおおおおおおおえええええええ??!!!」
 急に大声を出したため、思わず声が裏返ってしまった。
 声を張るのって、結構大変なんだなとジャンは思う。
「……!」
 一斉に黙る兵士たち。
 調査兵団も、憲兵団も皆黙ってジャンを見ている。
(見られているのか、俺)
 今までにない体験に、動揺するジャン。
(早くネタをやってください)
 そんなジャンに、サシャは素早く耳打ちした。
(ネタってなんだよ!)
485:
(師匠のネタに決まってるじゃないですか)
「くそう、やってやるよ」
 ジャンは半ばやけくそになっていた。
「と、取って入れて出す、取って入れて出す、取って入れて……」
 そう言ってジャンがお尻を突きだすと、
「恥ずかしがってんじゃないわよこのボケエエエ!!!」
 突き出した尻に、サシャの蹴りが放たれた。
「いぎゃああああ!!!」
 思わず前に吹き飛ぶジャン。
 それを見て大笑いする憲兵団(と調査兵団)のみなさん。
「痛てえな、何すんだよ」
(早く続けなさい。いい感じに受けてるんだから)
 声には出さないけれど、ジャンにはサシャがそう言っているように見えた。
(くそっ!)
 ジャンは立ち上がると、江頭のごとくビタンビタンと左右に倒れ、そして逆立ちをする。
 だが、江頭のようにキレイな“シャチホコ立ち”とはならなかった。
(うわっ、全然上手く逆立ちできねえ。なんなんだあの倒立は。それに全身痛てえ)
「ドーン!」
 続いて、黒タイツの中に腕を入れてドーンだ。
486:
(こんな痛い思いしながらネタやってんのかよ、あの人は)
 ジャンは思う。
「ガッペムカツク!」
(俺には絶対に真似できねえよ。というか、お笑い芸人って過酷すぎだろう)
「どうだ!」
 ジャンは息を切らしながら、周りの反応を見る。
「面白かったですよジャン」
 真っ先に声をかけたのはサシャであった。
「サシャ、お前」
「でも全然似てない」
「お前ちょっとまてえええ!!」
「偽物だああああああ!!!!」
 
 憲兵団の若手兵士によって偽物認定されたジャンは、そのまま拘束されてしまった。
 *
487:
 エルミハ区の空に多数の煙弾が飛び、鐘が鳴り響く。
「どうやらバレたみたいだ」
 エレンは言った。
「急ごう」
 江頭を含む数人の一行が出口に向かうが、当然ながら発見されてしまう。
「怪しい奴! 止まれ!!」
 憲兵団所属と思われる兵士数人が、江頭たちを止めようとする。
 すると、ミカサが前に出た。
「ミカサ?」
「エレン、クリスタ。エガシラさんをお願い」
 そう言うと、ミカサは外套を脱ぎ捨てた。
「ミカサ! 相手は人間だぞ!」
 エレンが叫ぶ。
「わかっている」
 と、ミカサは答えた。
 ミカサは立体機動装置は持っていたけれど、剣を抜くことなく憲兵団の兵士たちに
襲い掛かった。
 連続の肘、拳、そして上段蹴り(ハイキック)で兵士たちを圧倒すると、すぐにこちらに
声をかける。
「早く、急いで!」
488:
 巨人相手にも最強のミカサは、人間相手にも強いようだ。
 だが、人の数も多い。
「くそっ、また来る」
 前から後ろから、どんどんと憲兵団の兵士たちが迫ってくる。
「止まれえ! 止まらんか!」
 人間相手に殺傷するわけにもいかず、最低限の自衛戦のみに限定された状況下では、
武器を使えない今の状態では数の力が圧倒的にものを言う。
 いくらミカサが最強だからといって、自ずと限界があるだろう。
 時代劇のようにバッサバッサと斬り倒せればそうでもないのかもしれないけれど、
そんなことをするわけにもいかない。
「くそっ、どうする」
 剣の代わりに木の棒を手にしたエレンが言う。
「立体機動を使いましょう」
 クリスタは提案した。
 今のこの状況では、目立つけれどそれしかないのかもしれない。
 しかし、立体機動は空を飛ぶための機械ではない。
 周りに高い建物や木々でもないと、上手く使えないのだ。
(空が飛べれば、ん? 空!?)
 江頭が上空を見上げると、太陽にかぶさるように黒く丸い物体が浮かんでいた。
「なんだ!?」
489:
 よく見ると、その黒は太陽を背にしたため逆光になっただけで、色は少し黄色がかった
白い布の塊であった。
「気球だ!!」
 江頭は叫んだ。
「気球?」
 エレンたちは目を丸くする。
「エガちゃああああああああん!!」
 気球から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ハンジ!!」
「そうだよ! わたしだよおおおおお!!!」
 調査兵団のハンジ・ゾエだ。
「最近見ないと思っていたら、気球を作っていたのか」
「今行くよおお」
 ハンジは、気球に取り付けたバーナーのようなものを操作して、地上に降り立つ。
「なんだありゃ!」
「空からなんか降ってきたぞ!!」
 街中で乱闘を繰り返す、調査兵団と憲兵団の両兵士たちが一瞬争いをやめ、
空に注目する。
 それだけこの世界の人間にとって気球は珍しいのだろう。
490:
「エガちゃん! 早く乗って!」
 ハンジはそう叫ぶ。
「しかし」
 江頭の周りには、ミカサやエレン。
 もちろんそれだけでなく、遠くには他の調査兵団の兵士たちが必死に道を切り開こうと
戦っているのだ。
「行って、エガシラさん」
 ミカサは言った。
「ミカサ」
「そうだよエガちゃん。この世界の謎を解き明かすんだろう? 俺も知りたいんだ」
 エレンも言った。
「わ、わかった」
 江頭は頷く。
「あ、それとクリスタ」
 不意にミカサはクリスタのほうを向く。
「え? 何?」
 急に名前を呼ばれて驚くクリスタ。
「エガシラさんをお願い。一緒に行ってあげて」
「私も皆と戦うよ」
491:
「クリスタ」
 そんなクリスタに、ミカサは諭すように言った。
「あなたの戦闘力は弱い。だから、ここは私たちに任せて、エガシラさんを守ることに
専念すべき」
 ミカサはクリスタをじっと見つめてそう言った。
「おいミカサ。そんな言い方――」
 エレンがそう言おうとしたところを、ミカサは止めた。
「うん、ありがとうミカサ。エガシラさんのことは任せて」
 クリスタは何かを察したように頷く。
「頑張って、二人とも」
 ミカサは優しくそう言った。
「ありがとうミカサ。それにエレン」
 江頭もそう言うと、クリスタと一緒にハンジの操作する気球へと向かった。
 *
492:
 エルミハ区上空――
 
 ハンジ特性の気球は、かなりしっかりしたものであった。
「この短期間でよく作れたものだな。やっぱりその、工場都市で作ったのか?」
 江頭は気になったので聞いてみた。
「いやあ、そうしたかったんだけど上層部(うえ)の協力が得られなくてね」
「え?」
「だから、私とごく少数の部下たちと一緒に手作りしたんだよ」
「マジで?」
「ああ。立体機動装置と同じガスを使って火力を調整し――」
 そこまで言いかけたところで、気球がガタンと揺れる。
「うおわっ」
「きゃっ」
 思わずクリスタを抱きかかえる江頭。
「ごめんなさい」
 クリスタは謝った。
「なんで謝るんだ」
「いえ、その……」
 クリスタが恥ずかしがっている間、ハンジはバーナーを見つめながら困った顔をしていた。
「どうした」
 江頭は聞く。
493:
「うーん。これは急いで作った試作品だからね。火力(パワー)が安定しないみたいだ」
「え?」
「簡単に言えば定員オーバー?」
「たった三人でか」
「仕方ない」
「でも、壁を越えるくらいならできるんじゃないのか」
「まあそうだけど、ウォール・シーナ内の集結地点は、壁を越えてから二里くらい離れているんだよ。 
そうしないと憲兵団に見つかっちゃうからね」
「そんな」
「私、降ります」
「クリスタ?」
「ハンジさんは気球の操作をしないといけませんから、私が一番必要ないですよね。
だから、降ります」
「別に必要ないなんて」
「いいんですエガシラさん。大丈夫。わかっていますから」
 そう言ってクリスタは笑った。
 笑顔が何だか切ない。
「もう時間がない。あの壁の上に一旦降りるよ。そこでクリスタを降ろそう」
494:
「あ、ああ」
 ハンジ特製の気球は、フラフラしながらもウォール・シーナの壁上に着地した。
「ちょっと機械の調子を見るから、二人とも一旦降りていてくれないか」
 と、ハンジは言う。
「え、そうなのか?」
「爆発すると危ないから、少し離れていてくれる?」
「爆発?」
「そう、爆発。ガスを使ってるからね」
「……」
 江頭とクリスタは警戒しながら、気球から一旦離れる。
「あの、エガシラさん」
 不意にクリスタが声をかけた。
「どうした、クリスタ」
「その……、こんな時に何なんですけど、実は言っておきたいことがあるんです」
「言っておきたいこと?」
「あ、はい」
「何だ?」
「私、あの時、壁外遠征に行った時です。私には、父親がいないと言いましたよね」
「そういえば、そうだったな」
 江頭は先月のことを思い出す。
495:
 まるで数年前のように遠く感じる先月である。
 だが、クリスタのことはしっかりと覚えていた。
「あれ、ウソなんです」
「ん?」
「父親はいます」
「……」
「私、実は妾の子なんです。正式な妻の子供ではないので、修道院に預けられて
名前も変えて“別人”として扱われました」
 江頭はふと、クリスタが時々自虐的になることを思い出す。
「一族から、実の母親からもいらない子として扱われた私にとって、兵士として生きる
道は、自分の命を捧げるための一つの手段でした」
「手段?」
「人類の自由のために死ぬのなら、無駄ではないと思ったから」
「……そうだったのか」
「私の本当の名前はヒストリア。ヒストリア・レイス。レイス家という貴族の子供です。
でも、本当は存在しない。存在してはいけない人間」
 そう言いながら、またあの時のように暗い表情を見せるクリスタに、江頭は声をかける。
「クリスタ」
496:
「はい」
 
「いやヒストリアと呼んだほうがいいのかな」
「どちらでも」
「じゃあクリスタ。お前に一つだけ言っておこう」
 そう言うと、江頭はクリスタの頭を優しくなでる。
「例え99人がいらないと言っても、1人、たった1人でいい。お前を必要としてくれる人がいるなら、
それでお前の勝ちなんだよ」
「私の勝ち……」
「そう。だから、自分を卑下するのは止めろ」
「エガシラさん、でも私――」
「秀晴だ」
「え?」
「江頭秀晴。それが俺の本当の名前」
「ヒデハル・エガシラ……」
「他の皆には内緒だぜ」
497:
 そう言うと、江頭は口元に軽く人差し指を立てる。
「おーいエガちゃあああん!」
 遠くからハンジの呼ぶ声が聞こえてきた。
「準備ができたみたいだ。俺は行く」
「エガシラさん!」
 そんな江頭を、クリスタは呼び止める。
「どうした」
「どうか御無事で」
「キミもな」
 江頭は笑顔で手を振ると、そのまま振り返ることなくハンジの待つ気球へと向かった。
 つづく
498:
現在公開可能な情報15
・江頭のものまねをする者
 江頭といえばものまね芸が一部では有名だが、江頭自身も多くの人にものまねされてきた。
 有名なところでは、ペナルティのワッキー(脇田寧人)の脇頭2:51や、プロレスラーの
川田利明による川田19:55など。V6(ジャニーズ事務所)の岡田准一も、
江頭モノマネをテレビで披露していた。
 1990年代後半の、いわゆる「江頭ブーム」の時には、全国のお父さんが宴会の際、
ド○キホーテで買った黒タイツを着て、江頭のモノマネをしていたことだろう。
 だが上半身裸に黒タイツといった見た目以外に、江頭の芸を完全に再現した者はほとんどいない。
 特に、江頭の代名詞ともなった独特の三転倒立(シャチホコ立ち、もしくは江頭倒立)
はバランスを取ることが非常に難しく、先述の岡田を含む多くのものまね師が不十分な結果に終わってきた。
ほかにも塩の一気食いや多彩なアナル芸など、江頭の芸は真似できないものが多い。
 ちなみにエスパー伊藤は、格好がかぶっているだけでモノマネではない。
504:
川田19:55wwww
懐かしいネタをwwwwww
506:
 番外編 江頭2:50初登場。
 これは確か2011年に書かれたものです。
 当時、エガちゃんは主人公ではなくゲスト出演だったのですが、このスレにとって
「原点」と言ってもいいお話なので、今回は本編を一旦お休みして、番外編として
読んでいただこうかと思います。
 既に読んだことがあるという人もいるかもしれませんけれど、ご了承ください。
507:
あらすじのようなもの。
 魔法少女になって魔女と戦う。そんなおとぎばなしのような世界で、
大リーグ・シアトルマリナーズ(当時)のイチローが活躍する(?)物語。
 魔法少女を勧誘するキュゥベェとかいう謎生物は、魔法少女になったら
「何でも一つだけ願いをかなえることができる」と言うのだ。
 その話を知った美樹さやかは、幼馴染である上条恭介が、交通事故のためにヴァイオリン
を弾けなくなって自暴自棄になっていることを思い出す。
 密かに上条に思いを寄せている彼女は、自分が魔法少女になって上条の手を治そう
と考えるようになった。
 しかし、とある理由でさやかに魔法少女になってほしくないと思っていたイチローは、
自分の「尊敬している人」に助力を頼んだのだ。
 その尊敬している人こそ――
508:
 
 さやかがイチローと会った翌日。
 彼女は行こうかどうか迷ったけれど、結局上条恭介の入院する病院に行くことにした。
「イチローさんの尊敬する人って、誰なんだろうね」
 一人で行くのは少々心細かったため、まどかも一緒だ。
 不安がないわけではない。というよりむしろ、不安しかない。
 もう二度とヴァイオリンが弾けないということを知ったあの状況で半ば自暴自棄になった
恭介をどうやって励ますというのだろうか。
 イチローは一体誰に頼んだのか。
 そうまでして自分を魔法少女にさせたくないのか。
「どうしたのさやかちゃん」まどかがさやかの顔を覗きこむ。
「いや、なんでもないよ」
 どうも考えるのは苦手だ。小学生のころから考えるよりも先に身体が動いてしまう
性格だっただけに、頭の中でぐるぐると考えていると嫌になってくる。
 恭介の病室に行く前に、一度巴マミの病室に寄って様子を見に行くと、マミは
昨日よりは元気そうな顔をしていた。けれども、最初に会ったときのような覇気
はまだ感じられない。
 マミのことも気になるけれど、今のさやかにとっては、やはり恭介のことだ。
 病室に行くと、昨日よりも若干落ち着いた恭介がいた。
509:
「どうしたんだ? 今日は二人で」
 落ち着いている、とうより気力が萎えていると表現したほうが正しいかもしれない。
「今日はさ、恭介を元気づけようと思って、ここに“ある人”が来る予定なんだ」
「元気づける? 別にそんなこと頼んでないよ」
 上条恭介はそっけなく言った。もう感情を表に出すのも面倒くさいといった感じだ。
「ああ、うん。そうなんだけどさ。もう決まっちゃったことだし」
「どういうこと?」
 さやかと恭介がそんな会話をしていると、病院のスピーカーから聞き覚えのある音楽が
流れてきた。
 やたらテンポの早い曲でドラムやベースの音が激しく響く。
「ああ、この曲は」まどかが何かに気がついたようだ。
 たしかにこの曲にはさやかにも覚えがある。
 布袋寅泰の『スリル』だ!
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
510:
「ぬわっ!」
 急に恭介が寝ているベッドが動いたかと思ったら、そこから何者かがはい出してきた。
「ぎゃあ!」
「わあああ!」
 その人影をよく見ると、上半身が裸で下半身は黒タイツの男だ。頭髪は生えている
けれども極めて薄く、ハゲと言っても過言ではない。
「うおらあああああ!!」
 気合いを入れて、その男は右へ左へと勢いよく倒れたかと思ったら、今度はシャチホコ立ち
と言われる特殊な三転倒立をキレイに決めて見せた。
 そして素早く立ち上がると、気合いを入れて叫ぶ。
「江頭2:50でええええええええええええす!!!!」
「うそ……」
「きゃあああ!! さやかちゃん、凄いよ! エガちゃんだよ! 本物のエガちゃんがいるよ!」
 まどかは、イチローと会った時よりも明らかに興奮している。
「なんでこんなところに。何かの間違いじゃないの? バラエティ番組の収録現場を間違えたとか」
 さやか自分の考えを口にしてみた。
「今日はバイトがあったけど、あのイチローくんの頼みだからここに来たぜえ!!」
 江頭の訪問は間違いではなかった。そう思いさやかは頭を抱える。
511:
 イチローが言う「尊敬する人」とは、お笑い芸人の江頭2:50のことであったのだ。
 なんだか危険そうなので、まどかだけでもこの病室から逃がそう。そう思い隣にいる
まどかのほうを見ると、すでにそこにはいなかった。
「え?」
 いつの間にかまどかは、江頭2:50の隣にいたのだ。
「あの、エガちゃん、じゃなかった。江頭さん」
「なんだお前は!」
「私、鹿目まどかって言います! あなたのファンなんです! もしよろしければ、
その、後でサインもらってもいいですか?」
「え、ああ、いや……」
 普通の客(特に女性)とは違う反応に少々うろたえる江頭。
「ごめんね、本番中そういうことを言うのは」
「あ、ごめんなさい」
「いや、いいからいいから」
 恥ずかしそうに小声で話をしている江頭の様子は、見ているさやかのほうが恥ずかしくなるほどである。
「くそう、気を取り直して、ドーン」
 そう言うと、江頭はチャコット製の黒タイツの股間の辺りに右腕を突っ込んで、『ドーン』の動作をやった。
「ドーン」まどかも手をグーの形にして、上に振り上げながらそれに合わせる。
512:
「ドーン」(江頭)
「ドーン」(まどか)
「ドーン」(江頭)
 なんだこの光景は。
 さやかと同様に、ベッドにいる上条恭介もあっけにとられているようだ。
 しかしエンジンのかかってきた江頭はそんなことは気にしない。
「お前が上条恭介だな!」ギロリと、不気味な目線を恭介に対して向ける江頭。
「え、何か」
「事故で身体が不自由になったのは確かに気の毒だ。だが俺は、お前なんか励ましてやらねえぞ!!」
「はあ?」
「おい、話が違うじゃないか」思わず声を出すさやか。
「外野は黙ってろ!」しかし江頭はそれを一喝する。
「べ、別に励まして欲しいなんて頼んでませんよ」興奮する江頭に対し、恭介はやや冷めた口調で反論した。
「とう」
 恭介が言い返すやいなや、江頭は軽く飛んだ後、彼にジャンピングエルボードロップをくらわす!
「ぐわああ!」
513:
 江頭の身体は細いので、多少体重を乗せたとしてもそれほどダメージにはならないけれど、
入院生活で弱っている恭介に対してはかなりの衝撃になることだろう。
「お前何やってるんだよ! 相手は入院患者だぞ」
 さやかは文句を言ってみたものの、今の江頭に彼女の言葉は届かないようだ。
「自惚れるなクソガキ!」
 ゴホゴホとせき込む恭介に対して江頭は叫ぶ。
「な、何をするだ……」
「上条恭介、お前はモテモテらしいな」
「はい?」
「俺の調べたところだと、志筑仁美という女子生徒がお前のことを好きらしいぞ」
「え、うそ……」
「さやかちゃん!」
 江頭のその情報に、恭介よりもさやかのほうが先にショックを受けた。
「俺のライブに来るやつらなんて、結婚はおろか恋愛だってまともにできねえようなやつらばっかなんだ!
 俺はそういうやつらを励まさなきゃ、元気づけなきゃならないんだよ!
 お前なんかは、ぜえええええったいに、励ましてやらねえんだからな!!」
「だったらアンタなんのために来たんだよ!」さやかは外から(無駄だとわかりつつも)ツッコミを入れる。
「俺が今日ここに来た理由、それは……」
 先ほどまでの喧騒がうそのように静まり返る病室。
514:
「上条きょうすけえええええええええ!!!」
 その静寂を江頭は自らビリビリと破り捨てた!
「今日はお前に一言ものもおおおおす!!」
「出た! モノ申すのコーナーだよさやかちゃん!!」
「まどか落ち着け」
 江頭ほどではないけれど、興奮するまどかをなだめつつさやかは、
もう突っ込んでも無駄だと悟り、そのまま成り行きを見守ることにした。
「なんでしょうか」不機嫌そうな顔の恭介。
「お前、ヴァイオリンを弾いていたらしいな」
「そうですけど、それがなにか」
「お前にとって、ヴァイオリンってのは、そんなに大事なものか」
「何を言っているんですか」
「聞いてんだよ、答えろ!」
「だ、大事ですよ。大事だった、と言ったほうがいいかもしれませんが」
「だった?」
「ほら、もう知ってるんでしょう? 僕の指はもう以前のように自由には動かせないんです。
だから、もうヴァイオリンは弾けない。だから、音楽なんて……」
「お前にとって、ヴァイオリンは大事なものなんだな」
「……はい」
「そんなに大事か」
「そうです」
515:
「だったら命をかけられるか?」
「え?」
「だから命をかけられるかと聞いているんだ」
「どういうことです」
「だからさ! 命がけでヴァイオリンを弾きたいって気持ちがあったかって聞いてんだよ!
 明日もし死ぬって分かってて、それでも弾き続けたいと思っていたか? ああ??」
「それは……」
「ヴァイオリンを弾くな、弾くと殺すぞ。そう言われて、それでも弾きたいと思ってたのかよ!」
「いや、そんなことは」
「俺はな、命をかけているぞ! お笑いに命をかけてるんだ!! わかるか!!」
「命を……、かける」
「俺はお笑いをやめるくらいだったら死んだほうがマシだ!!
 笑いのためだったら寿命が縮まってもいいし、死んだっていいんだ!!!!」
「……!」
516:
「俺は今まで命がけで笑いをやってきた!
 番組の収録中にプールの中で死にかけたこともある!
 病院に担ぎ込まれたことだって一度や二度じゃねえ! 
 それでも俺はやめねえよ! お笑いは俺の生きている証だからな!
 その覚悟だよ! それくらいの覚悟があってお前は音楽をやっていたのか!?
 お前のヴァイオリンに対する、音楽に対する気持ちってのはどの程度だ!」
「……どの程度って……」
「絶望するってのはな、その、本当に死にたくて死にたくてしょうがなくなるんだよ。
 生きてるのが辛くなるんだよ!
 俺はなんのために生きてるんだってな。俺からお笑いを取りあげたら多分そうなるよ。
もうそれしかないんだもん。
 
 病気で芸ができなかった時期は、毎日死ぬことばっか考えてたよ!
 
 本当に、毎日毎日だ。だが俺は踏ん張った。
 
 もう一回芸がやりたかった。観客が笑うところが、見たかった!
 
 たくさんの仲間が支えてくれた!
 そいつらに恩返しする意味でも、俺はステージに立ちたかったんだ!!!」
「……!!」
「上条恭介!! 今のお前は不幸なんかじゃない! 憂鬱な雰囲気に酔って
周りに甘えているだけのただのお子様なんだ!」
「うっ……」
 とうとう恭介は、一言も言い返せないまま黙り込んでしまった。
517:
「恭介。……もし、もしも本当にお前が絶望して、死にたくなったなら、俺のライブを見にこい」
「……え? ライブ?」
「俺の姿を見ろ。そしたらさ――」
「……」
「死ぬのがバカらしくなるぜ」
 息切れをしながら語る、そんな江頭の話を聞いて、まどかは涙をぬぐっていた。
「エガちゃん、カッコイイよ」
 さやかも、ほんの少し江頭のことをカッコイイと思ったけれど、それを口にした負けたような
気がしたので絶対に言わなかった。
「あっ、バイトの時間だ!」
 突然、江頭は左腕を見て(当然時計はしていない)そう言うと、特に別れの挨拶もなしに、
病室から出て行ってしまった。
 江頭が出て行った病室は、今度こそ本当に静かになった。
「ああ、エガちゃん行っちゃった……」まどかは本当に残念そうに言う。
「あの、恭介?」
 江頭が出て行った後、ピクリとも動かない恭介に対し、さやかは声をかけて見る。
「……めん」
「え?」
「ごめん、さやか」
「ど、どうしたんだよ一体」
518:
「僕がバカだった」
「さやかは全然悪くないのに、キミや家族に八つ当たりしたりして、本当にバカだ」
「どうしたんだよ、今さら」
「僕は諦めない」
「恭介?」
「僕は諦めないよ。たとえヴァイオリンが弾けなくなっても、僕は、音楽が好きなんだ!」
「あんた……」
「そうと決まればさっそくリハビリだ。絶対に治ってやる」
「うん」
「さやか」
「え? なに」
「ごめん、そして、ありがとう」
 *
519:
 
 恭介もすっかり元気を取り戻したため、さやかたちは安心して帰宅することした。
「それにしてもカッコ良かったよね、エガちゃん」まどかが顔を赤らめつつ、嬉しそうに喋る。
 さやかにとって恭介が元気になったことは非常に嬉しいことではあるけれども、
それが物凄く立派な人ならともかく、江頭2:50のおかげだと思うと、なんとなとなく
釈然としない思いが残った。
「あの、すいません」
「え?」
 受付付近で病院の職員らしき女性が二人に声をかけてきた。
「私ですか?」
「ええ、あの、鹿目まどかさんというのは……」
「あ、私ですけど」
「ああ、よかった。実はある人からこれを渡して欲しいと頼まれたもので」
「これを?」
 まどかは、職員の女性からA4サイズの封筒を受け取る。
「何だろう」
 そう言いながらまどかは封筒を開け、中のものを出す。よく見るとそれは色紙だった。
「あっ」思わず声を出すさやか。
520:
「エガちゃんのサインだあ」
 まどかが受け取ったものは、紛れもなく江頭2:50のサインの書かれた色紙であった。
しかも封筒には、色紙だけなくオリジナルの絵ハガキまで入っている。
「エガちゃん、さっきのこと覚えててくれたんだね。嬉しいな」
 まどかは、あの病室で江頭にサインをねだっていた。そしてそれを江頭はしっかり覚えていたようだ。
「カッコイイじゃん……」
 さやかは「負けた」と思ったけれど、同時に心が少し楽になった。
 *
 その日の夜、まどかは江頭2:
見ながらニヤニヤしていると、父が部屋のドアをノックしてきた。
「まどか、起きてるか?」
「なあに、お父さん」
「さやかちゃんから電話だ」
「え? さやかちゃん」
 どうしたのだろうか。
 不思議に思いつつ、まどかは電話のある居間へと向かった。
「もしもし、さやかちゃん? どうしたの」
『あ、まどか。ごめん、おお、落ち着いてき、聞いてくれないか……」
「さやかちゃんこそ落ち着いて。どうしたの?」
『それが、ついさっき、マミさんのことが気になって病院に電話をかけてみたんだけど』
「うん」
『マミさん、病室からいなくなってたんだって。今病院の人が探してるって』
「ええ!?」
 出典:『魔法少女まどか☆イチロー』 第三話
521:
 現在公開可能な情報 番外編
 ・江頭2:50の体脂肪率
 江頭の体脂肪率は約6%である。これはメジャーリーガーのイチロー選手とほぼ同じなのだ。
 一般の成人男性の体脂肪率がだいたい20%前後なので、江頭はアスリート体型と言ってもいい。
 マラソン選手などは、5%以下の人もいるけれど、低い体脂肪率は風邪をひきやすく、体調管理
が難しい。
522:

番外編も面白かったぜ!
それにしても、エガちゃんってマジでストイックな肉体をキープしてるんだな…
525:

布袋ネタここで使いやがったw
526:
 
 
 ウォール・シーナの内側数キロを気球で渡ったところで、江頭と調査兵団の
ハンジ・ゾエは馬に乗り換えてさらに数十キロ移動することになった。
 壁の中とはいえとにかく遠い。
 とっぷりと日も暮れ、憲兵団の追手の心配が無くなったところで、馬のスピードを
緩めたハンジが言った。
「エガちゃん、もうすぐ着くよ」
「工場都市か?」
「いや、そっちはまだ到着しない」
「なに?」
「わが調査兵団のアジトだ。まあ隠れ家って言ったほうがいいかな」
「隠れ家? なんでそんなものが」
「まあ、エルヴィン団長の命令で作ったんだけどさ。まさこんなところで役に立つとはね」
 丘の麓にあるやや目立たない場所にその小屋はあった。
 隠れ家だけあって、若干湿気が多い気もするけれど、しっかりとした木造の小屋である。
 近くにある馬小屋に馬を繋ぐと、ランプを持ったハンジが隠れ家に案内する。
 木造のその小屋は、家と呼ぶには小さいけれど、山小屋よりは大きく、二人で休むには
十分すぎる大きさである。
527:
「こんな所にこんなものが用意されてるなんて、準備がいいってレベルじゃないな」
 江頭は独り言のようにつぶやく。
「小屋だけじゃないよ。少しだけなら食糧も用意されてる」
 そう言ってハンジは銀紙のようなものにつつまれた、直方体の物体を投げてよこした。
「これは確か」
「携帯用食糧の改良版。まだ研究段階なんだけど、味は前のより良くなってると思うよ」
「あれか」
 江頭は先月、壁外で食べたあの携帯用食糧の味を思い出す。
 不味くもないが、だからと言って美味いわけでもない。
 人間が食べるために必要最小限の味付けがなされた栄養を吸収するだけの食料。
「できれば、温かい食事を作ってあげたいんだけど、生憎水も食糧も限りがあるし」
「今は美食なんてやってる暇はない、だろ?」
 江頭は言った。極貧生活を経験したこともある彼に食べ物のこだわりは、そんなにない。
「その通りだね。私は一向に構わないけど。ま、食べるもの食べたら、とにかく休もう。
移動は明日も続くんだし」
「そう、だな」
 江頭はふと思う。
528:
 今まで馬に乗って移動するのに必死で、あまり考えなかったけれど、ウォール・シーナ
からここに至るまで、調査兵団の人々は多大の労力を使って江頭の逃亡を支援してきた。
 そして今も、ある程度責任がある立場だと思われるハンジ自身がこうして案内役を
買って出ているのだ。
 進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
  第十七話 帰るべき場所
529:
 小屋の奥にある寝室では、二階建てのベッドが二つ用意してあった。
 これなら四人寝ることもできる。
 今はたった二人だけども。
 江頭は裏にあった井戸で水を汲んで身体を少し洗い、奥のベッドで毛布にくるまる。
 決して寝心地がいいとは言い難いけれども、昼間に色々あったため疲れがたまっており、
すぐに眠りに落ちるような気がした。
「……」
 しかし、どうも眠れない。
 慣れない環境で緊張しているのか?
 江頭は自分に問いかけてみる。
 元の世界にいたころは、眠れない日ばかりだったので、睡眠薬を常用していた。
 この世界に来てからは、酒はおろか睡眠薬も使ってなかったので、こういう夜は
久しぶりな気もする。
「眠れないのかい?」
 向かい側のベッドに横になっていたハンジが言った。
「起きてたのか」
「ああ。私も少し眠れなくてね」
 暗くてよく見えないけれど、髪を解き、メガネを外したハンジはまるで別人のようにも思えた。
 
「なあハンジ。ちょっと聞いてもいいか」
530:
「なんだいエガちゃん」
「なんでお前たちはその、俺に協力したんだ? これってさ、国家反逆罪みたいなものじゃないのか?」
「ああ、そのことか」
 ハンジは上を向いて、何かを考えているような声を出す。
「兵士ってのは、上の命令に忠実じゃないといけないんじゃないのか」 
「そうさねえ、なかなか難しいんだけど、一言でいうなら、何かを変えてくれそうな気がしたから、かな」
「変えてくれる?」
「そうだよ。私たち調査兵団は、現状を変えるためにわざわざ危険な壁外に出ているんだ。
壁内の治安を維持する憲兵団や駐屯兵団とは根本的に違う」
「違う……?」
「そうだよ。だから、異世界から来たエガちゃんがこの世界の秘密を知りたいと
言うのなら、それが世界を変えることに繋がるかもしれない。だから協力した」
「自分たちの生活が危うくなるかもしれないんだぜ?」
「どっちにしろ、このままでは私たちは巨人に食われておしまいだよ。座して死を待つ
よりも、何かをしたいんだ。そういう連中が集まったのが調査兵団なんだ」
「座して死を待つか……」
 江頭はふと思い出す。
 自分が忘れかけていた何かを。
531:
「逆に聞くけど、どうしてエガちゃんはこの世界を変えようとしているんだい?」
「別に俺は、変えようとしているわけじゃあ……」
「でも実際に変わっているよ。確実にね」
「そうなのか。それならいいんだが」
「ねえエガちゃん」
「ん?」
「エガちゃんは、この世界にずっと残ろうとは思わない?」
「え?」
「だからさ、この世界に残って、世界が変わる所を見届けようと思わないのかって、
聞いてるんだ」
「それは」
「ほら、あの子。今年調査兵団に入った新入団員のちっちゃい金髪の子がいたじゃん」
「ああ」
 クリスタのことか。
「あの子も、エガちゃんのことを慕っているみたいだし。どうかな」
「どうって」
「ずっと残って、私たちと一緒に人類の解放に貢献してほしいんだけど」
「そうしたいのは山々だが」
「だが?」
「俺は、戻りたいと思う。元の世界に」
532:
「どうして」
「どうしてってそりゃ、生まれ育った世界だし。キミらがこの世界に対して責任を持って
いるように、俺も――」
 ここで言葉が止まる江頭。
「エガちゃん?」
「ここにいる子たちは、自分の置かれた絶望的な状況にも怯まずに立ち向かってる」
「……」
「俺も自分の運命に立ち向かおうと思うから」
「自分の運命って、なんだい?」
「ハンジ。俺はな、実は逃げてたんだ」
「逃げる?」
「そう、お笑い芸人としての自分から」
「どういうことだい?」
「お笑い芸人ってのは人気商売だからな。一年や二年で消える者もいる。そんな中、
俺は二十年以上芸人をやってきた。でも、この先やれるかどうか、どうやっていけば
いいのか、正直迷ってたんだ」
「エガちゃん……」
533:
「この世界の状況に比べれば屁みたいなものかもしれないけれど、それでも俺は悩んでいた。
どうすればいいのか。何をすればいいのかと。そして、いつしかそこから逃げ出したいと
思うようになった」
「……」
「だけど俺は立ち向かおうと思う。どんなに辛くても、俺はお笑いをやるしか能の無い男だ。
それも、広い世界でごく一部の人間が笑うようなコアなお笑いを」
「……エガちゃん」
「すまない。こいつは俺の勝手な思い込みだ。これ以上キミらを巻き込むわけにはいかない。
だから今からでも――」
「エガちゃん!!!」
「おごっ!」
 いつの間にかベッドを飛び出したハンジが横になった江頭の上に覆いかぶさる。
「おい、何を」
「エガちゃん。やっぱりキミは私の思った通りの人だよ」
 そう言うと、ハンジは江頭を両腕でギュッと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと」
「何、一人で悩むことはないよ。少しの間だけ、私たちに手伝わせてほしい」
「ハンジ」
534:
「今まで散々助けてもらったんだし、せめてもの恩返しだよエガちゃん」
「お、おう……」
「ぬふぬふうぅ〜」
「ハンジ、もういいだろう。自分のベッドに戻ってくれ。苦しい」
「よいではないか、よいではないか。今夜は一緒に寝ようよ」
「余計眠れなくなるだろうが」
「あははは」
 こうして、ハンジと江頭との格闘は深夜まで続くのであった。
 *
 
 翌日の夕方、憲兵団の追跡を避けるために大きく迂回した江頭とハンジは、工場都市
の付近へと到着した。
 空が曇っているためか、辺りが暗くなるのが早い気がする。
「おかしいな」
 工場都市周辺を見回したハンジがつぶやく。
「何がおかしいんだ?」
535:
 江頭は聞いた。
「いやね、前にこの付近を通った時は、警備の兵士を見たんだけどな。
ほら、工場都市って警備が厳重でしょう?
都市部だけじゃなくて、周辺にも警備兵が配置されているはずなんだけど」
「天気が悪いから家に帰ったんじゃないのか?」
「そんな、ピクニックじゃないんだから」
 ハンジはそう言って笑っていたけれど、江頭もまた得体の知れない不気味さを感じていた。
(何かあるかもしれない)
 嫌な予感というものはえてして当たるものである。
 この日も、夕闇を更にどす黒い雲が多いかぶさり、不気味を演出していた。
  *
「やっぱりおかしいなあ」
 馬を走らせながらハンジは何度もつぶやく。
 ようやく見えてきた工場都市は、壁際にある城塞都市のように高い壁に覆われていた。
536:
 と言っても、あの壁ほど高さはないし、おそらく厚くもないだろう。
 ただ、人が訪れることを望んでいるようには見えなかった。
「門が、開いてる……」
 大きく口を開けている大手門を前に、ハンジはつぶやく。
「なに?」
「門が開いてるんだよ。必要最低限の出入りにしか開けない門が開いているんだ。
こんなの絶対におかしい」
「いや、門なんだから開くのは当たり前じゃあ」
「エガちゃん。ここで待ってて。私が調べてくるから」
「おい、ハンジ」
 江頭が止めるのも聞かず、ハンジは馬を走らせて工場都市の入り口へと向かう。
門の向こう側は暗く、まるで魔物の口の中に飛び込んでいくように見えた。
「……行っちまったか」
 ここで待っていて、と言われて素直に待つ江頭ではない。
 彼は好奇心の塊である。
 かつて事件あるところに江頭ありと言われたように、話題になった場所には、
直接出向いている。パナウェーブ研究所、ジェンキンスさんの勤務地、聖火リレー、
ワールドベースボールクラシック、オリンピックなどなど。
 江頭が出没した例は枚挙にいとまがない。
 ゆえにこの時も江頭は行こうとした。
537:
 だが、一瞬立ち止まる。
(ここであいつの信頼を裏切るような真似をしていいのか)と。
 ハンジは江頭を信じてここまで案内してくれたのである。
 ここで彼女の言うことを聞かないということは、ハンジの信頼を無碍にすることを意味する。
(しばらくここで待っているか)
 そう思い江頭は馬を降りて、近くに倒れていた枯れ木の上に腰掛ける。
 妙に生暖かい空気が通り過ぎて、嫌な気分になった。
 視線の先にある、工場都市の入り口は今も大きな門を開け広げたままである。
 *
「ぎゃあああああああ!!!」
 遠くから人の声が聞こえた。
「はっ!」
 日中の移動の疲れでウトウトしていた江頭だが、その声で我に返る。
 微かに響いたその声は、明らかにハンジのものであった。
「ハンジ!」
 江頭は叫ぶが返事などあるはずがない。
538:
 ハンジの声は、深く暗い工場都市の城門の中から聞こえてきたのだから。
「くそっ! しくじったか!」
 江頭は先ほど下した自分の判断を激しく後悔した。
(あそこで一緒に付いていくか、すぐに追いかけていれば……!)
 江頭はそう思い唇を噛むが、悔しがったところで事態が好転するはずもない。
「行くぞロシナンテ!」
 馬に勝手に名づけた江頭は、馬にまたがり工場都市へと向かう。
 気が付けば、辺りはすっかりと暗くなっていた。
 空には月はおろか星も出ていない。
 
 ただ分厚い雲が夜の帳に拍車をかけているだけである。
暗闇の中を進むと、微かに灯りが見えた。
 目が慣れてくると、街中のいたるところにある光がランプや松明であることがわかる。
 しかし、人の気配が全くない。
「誰かいるかー!」
 江頭が叫ぶと、その声は反響し、どこかに吸い込まれてしまった。
「よっと」
 これ以上は危険と判断した江頭は、一旦下馬して周囲の様子を伺う。
 やはり人の気配がしない。
 誰もいない、死の街のようでもある。
「ハンジー! 生きてるかあー!」
539:
 もう一度叫んでみるけれど、返事はない。
 ただ、自分の声がむなしく戻ってくるだけだ。
(一体何が起こっているんだ? というかここは何だ)
 江頭は焦る。
 工場都市と言われているだけに、彼はもっとごみごみとした騒がしい街を想像していた。
 しかし実際には、無機質な建物が立ち並ぶ無人の街。
 とてもじゃないが、ここで何かが作られているようには見えない。
「おーい」
 何度も呼びかける江頭。
 だが返事はない。
 江頭の中の不安がどんどんと大きくなる。
「どうも、江頭さん。よくここまでこられましたね」
「誰だ!」
 不意に自分の名前を呼ぶ声に江頭は振り返る。
 ハンジ・ゾエ、ではない。
「誰、なんだ」
 江頭はもう一度聞いた。
 暗い影から出てきた人影は、小柄な坊主頭の少年であった。
「コニー……?」
540:
 調査兵団の制服に身を包んだその坊主頭は、間違いなく調査兵団のコニー・スプリンガーである。
「どうしてこんなところに」
「コニー、ですか。確かに今はそうかもしれませんね」
「何を言っている?」
 コニーの不気味な笑みに、江頭は何とも言えない違和感を覚えた。
「お前、本当にコニーか」
 コニーのことを詳しく知っているわけではない。
 まともに話もしていないのだ。
 だが、江頭の記憶の中にある、あの小さな兵士とは印象が大きく違っていた。
「ええ、コニーですよ。この世界に限ったことですけど」
 そう言うとコニーは再び笑う。
「どういうことだ」
「こういうことですよ、江頭さん」
 そう言うと、コニーは自分の顔の辺りに手を当てると、皮膚を掴んで思いっきり
引っ張った。
「!!」
 驚く江頭。
 そこには、コニーではなく彼の見覚えのある男の顔が出てきたのだ。
 江頭がよく知る猿顔の人物。
541:
「岡村くんか」
「ええ。僕です。岡村です。江頭さん、お久しぶり」
 コニー・スプリンガーの皮を被っていたのは、なんとナインティナインの岡村隆であった。
 仮面を脱ぎ捨てた岡村は、声だけでなくその喋り方も関西弁に変わっていた。
「岡村くん。本当に岡村くんか?」
「嫌ですよ江頭さん。僕のこと忘れはったんですか? 正真正銘の岡村隆です」
「いや、しかし何でこんな所に。それに、コニーは」
「コニー・スプリンガーは僕です」
「は?」
「少なくともこの世界におけるコニーは僕なんです、江頭さん」
「どういうことだ?」
「わからないですかね。置き換わってるんですよ。僕らは」
「……」
 意味がわからない。
「訳が分かれへんって顔してますね。無理もありません。しかしこれが現実です。
僕らは『進撃の巨人』という物語の中の登場人物になってしまったんです」
「物語……?」
「知りませんか? 人気漫画なんですけどね。アニメ化もされましたし」
「……」
542:
「意味がわからないぞ。本当に」
「そう思うのも無理ありませんね。でも受け入れてくださいというほかありません」
「どうしてキミがここにいる」
「江頭さんと同じ理由、と言ったらどうですか」
「まさか、キミも」
「ほう、自覚があるんですね。それは結構なことです」
「岡村くん! キミはどうやってここにきた! どうやったら戻れるんだ!」
「江頭さん。本当に戻りたいんですか?」
「一体何を言ってるんだ」
「質問に答えてください。本当に元の世界に戻りたいと思ってます?」
「当たり前だろう……」
「戻った先に一体何があるんですか江頭さん。現実の世界にどれだけの意味があるというんですか」
「お前、本当に岡村くんか?」
「江頭さん。壁の外ではなく内側に目を向けたのは、いい判断やと思います。
確かにそうですよね、この世界には矛盾が多すぎる。その謎を解明する手がかりが
壁の内側にあると考えたところは鋭い」
「……」
「しかし江頭さん。ゲームには行ってはいけない場所、というものがあります」
「?」
543:
「せやから、この世界には行けない場所というものがあるんですよ。その一つがここです。
世界のバランスを崩す可能性のある、いわば弱点のような場所」
「岡村くん」
 岡村は何かに取り憑かれたように話を続ける。
「せやけどねえ、江頭さん。世の中には見ないほうが幸せだったってことも、
あるんやないですか?」
「だから、何が言いたいんだ」
「現実の世界なんてクソですよ。せやから、幻想の世界でずっと過ごしていれば幸せなんやないかって、
時々考えるんですよね、僕」
「岡村くん!」
「江頭さん。あなたはどう思いますか。このまま元の世界に戻っても、ずっとお笑いを
やっていけるっていう保証はないんですよ。世間の移り変わりは激しい」
「岡村くん……」
「どないですか、江頭さん。もしお望みなら、世界を変えるくらいなら今の僕にも
できるんですが」
「岡村くん。俺は戻るよ。例え全然仕事が無くなったとしても、バイトしてでも俺は
お笑いを続ける」
「……」
544:
「もし、客が最後の一人になったとしても、その一人のためにお笑いをやりたい。
俺はそう決めたんだ」
「随分とご立派な決意ですね」
「この世界で会った連中から学んだんでね」
「ふっ、江頭さん。さっきも言うたでしょう。この世界は幻想なんです。全部ウソなんですよ。
そんなウソの塊から何を学ぶんですか」
「例え――」
 そこで江頭は一呼吸置く。
「例えこの世界の全てが嘘だとしても、この俺の心に宿った感情に偽りなど何もない」
「……ご立派」
 そう言うと岡村は軽く拍手をした。
「岡村くん。この都市は一体何なんだ」
「僕にもわからないことはありますよ。ただ、一つだけはっきりしていることがあります」
「なに?」
「少なくとも、この僕を倒さなければ、元の世界には戻りません。僕は一時的ではありますが、
この世界の管理権の一部を持っているんですから」
「何でそんなものを」
545:
「さあ、何ででしょうね」
「これからどうするつもりだ!」
「とりあえず江頭さん」
「……」
「目障りなんで、死んでもらいます?」
「ぬわ!」
 不意に岡村の服はビリビリと破け、どんどんと巨大化していった。
「巨人化!?」
 だが岡村の巨人化は、ただ大きくなっただけではなかった。
「これは……」
 彼の腕や脚などにモサモサと生えてくる茶色の毛。
 そう、岡村隆は20メートル近い巨大な猿人になってしまったのだ。
《人を見下ろすって気持ちがいいですね、江頭さん》
 岡村の声で、大猿は言った。
「岡村くん!」
《さあ江頭さん。戦いましょうか》
「なぜ俺とキミが戦う必要がある!」
《そうでしたねえ、江頭さん。あなた、見かけによらず心優しい人でしたね。
確かに僕と戦うのは躊躇いがあるかもしれません》
546:
「岡村くん。一体何を」
《だったら、戦わざるを得ない状況に追い込みましょうか》
「なに!?」
《巨人のみなさーん! 出てきてくださーい!》
 岡村のその声に、今までどこに隠れていたのかよくわからない、巨人どもがどんどんと
街中から姿を現してきた。
 見た限り数十体。全部で百体以上はいるだろうか。
(こんな巨人が、一体どこに)
 10メートル級から5メートル級まで、大小様々な巨人が工場都市内に溢れる。
 そして狙うは、間違いなく江頭。
《どうです江頭さん。あなた、戦わないと食われますよ。巨人の皆さんに》
「うわあああ!!」
 数体の巨人の手が一斉に江頭に伸びる。
 江頭は素早くかわすと、そのまま駆け出した。
 しかし、巨人の脚の間を縫って駆け抜けてもその先にも巨人がいる。
「岡村あああ! お前なにやってんだあ!!」
《さあ、早く戦ってくださいよ。僕を楽しませてください江頭さん》
(あいつ、狂ってやがる……!)
 岡村が正気ではない、と確信した江頭はすぐに方向転換して建物の中に逃げ込む。
 しかし、10メートル以上ある巨人の拳が建物の壁をぶち壊した。
547:
「ぎゃあああ!!」
 このままではマズイ。
 そう思ってはみたものの、自分がどうやって巨人になるのか未だにわかっていないのだ。
(そうだ、服だ)
 江頭は、壁の壊れた家を抜け出し、急いで自分の服を脱ぎ捨てる。
「ああ畜生! こういう時に限って」
 ブーツを履いているのでズボンが脱ぎ辛い。
 そんな江頭に比較的小柄の巨人が襲い掛かる。
《アアー……》
 不気味なうめき声と共に、正気とは思えない瞳をした巨人が建物と建物の間をすり抜けるように接近してきた。
「とっとっと、うわあ!」
 ズボンを脱ぎかけて、思わず転ぶ江頭。
 実にカッコ悪いけれど、そんなことをきにしている場合ではない。
「これでもくらえ!」
 脱ぎ捨てたブーツをぶつけるも、巨人は顔色一つ変えずに迫ってくる。
《ケケケケケッ》
 キミの悪い笑い声と笑みを浮かべつつ接近してくる巨人。
 だが、次の瞬間巨人は何かにつまずいて転倒した。
(よっしゃ、チャンスだ!)
548:
 江頭は脱ぎかけたズボンから完全に足を抜くと、上半身も裸になって駆け出す。
 そして都合よく立てかけてあった梯子を上り、二階建ての家の屋根の上に乗った。
「あいつ、いつの間にあんなところに」
 いつの間にか岡村こと、猿の巨人は街の中央の塔の上に上っていた。
 月明かりと、街に点在するわずかばかりの灯りに照らされた大猿岡村の姿は、
実に不気味である。
「岡村あああああああ!!!!」
 その姿を見て思わず叫んだ江頭。
 いや、叫ばずにはいられなかったのだ。
 一体奴は何がしたいのか。
 どうしてこんな事態になっているのか。
 わからないことは山ほどある。
 それでも――
《オウアアアア!!!!》
 江頭の存在に気付いた大型の巨人の一団がこちらに近づいてきた。
(くそっ! 大きくなれよ!! 俺!!!)
 江頭は強く望む。
《ゴオオオオオオオオオオオオオオアアアアアア!!!》
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
549:
 だがしかし、
「え……?」
 江頭の身体は宙を舞う。
 自分の足元にあった家の屋根が、巨人の拳で砕かれてしまったようだ。
 当然、足場を失った江頭は、空中に投げ出されることになる。
「うわああああ!!!!」
叫んだところで、助けがくるわけでもない。
 ただ、ただ落ちて行くだけだ。
 背中に衝撃が走った。
 どうやら屋根に激突したらしい。
 空中に投げ出されたときに顎を引いていたので、なんとか後頭部を強打せずにすんだ

「ぐふっ」
 致命傷は避けられたものの、背中を激しく打ったために息が苦しい。
(くそ、早く逃げなければ……)
 そうは思ったが身体が上手く動かない。
「くそ……!」
550:
 江頭はこれまで“死にたくない”、と思ったことはあった。
 だが今は違う。
「こんなところで……、死んでたまるか……!」
 自分に言い聞かせる様に、彼は身体を起こす。
《ぐおおおおお!!!!》
 そんな江頭の目の前に、十メートル級の巨人が立ちはだかった。
 よく見ると、右腕を大きく振り上げている。
 逃げないと――
 そう思ったが、周りにも巨人はたくさんいる。
 
 俺はここで死ぬのか?
 つづく
551:
 現在公開可能な情報はありません――
552:

展開が衝撃的すぎる……
554:
このスレの江頭は、敬意を込めてエガさんと呼ぶべき
555:

このスレには度胆を抜かれっぱなしだ…
559:
 進 撃 の 江 頭 2 : 5 0
 最 終 話 命の価値
560:
 全身を駆け巡る恐怖。
 だがそれ以上に、悔しかった。
 なんでなんだ……!
 岡村!
《グオオ……!》
「え?」
 不意に、目の前の巨人の身長が消える。
 いや違う。いなくなったわけではない。
 ドスン、という音とともに膝から崩れ落ちたのだ。
「一体何が……?」
 不意に、彼の目の前に黒い影が横切った。
 よく見ると、月明かりに照らされてキラリと光るワイヤー。
「あれは」
「無様だな、エガシラ」
「お前……」
「まさかこんな所で死ぬ気なのか?」
「……」
 江頭は一瞬言葉が出なかった。
561:
調査兵団の制服。
 だがハンジではない。
 そこにいたのは、
「リヴァイ――」
 左腕の一部がなくなったリヴァイであった。
「なぜここに……」
「なぜだと?」
リヴァイは少しだけ黙る。そして、
「俺にもわからん」
 そう言うと江頭から視線を逸らす。
「おい、どういうことだ」
「多分“あいつら”も同じだと思うぞ」
「あいつら?」
 江頭が振り返ると、複数の人影が見えた。
「エガちゃあああああん!!!」
「あっ!」
 江頭の視線の先には見覚えのある人影が宙を舞っている。
「助けに来たよお!!」
 両手に剣を持ったエレン・イェーガーだ。
 エレンは一瞬だけ江頭に視線を向けると、そのまま巨人に斬りかかる。
562:
「エレンの恩人は私の恩人。ミカサ・アッカーマン、行きます!」
 そのすぐ後ろには、マフラーをしたミカサがぴったりと控えている。
「エガシラさん!」
「クリスタ!」
「エガさん! 俺たちもいるぜ」
「ジャン!!」
「師匠おおおおお!!!」
「夜叉!」
「サシャですうう!!!!」
 他にも見知った調査兵団の団員や、見たこともない憲兵団、駐屯兵団の団員なども多数参加している。
「あいつら……」
「後先も考えず、お前を助けるためだけにここへ駆けつけた連中だ」
 リヴァイは言った。
「俺を助けるため……」
「考えなしのバカどもだ」
「……」
「そしてこの俺も」
 そう言うと、リヴァイは右手に巻きつけた布を口で縛る。
「リヴァイ、その」
563:
「余計なことは考えるな、エガシラ」
「え?」
「ここは戦場だ。お前は自分のことだけを考えとけ」
「しかし」
「あの糞でかい猿。見たところ、あれを倒さんかぎり先には進めないだろう」
「……!」
 再び前を見る江頭。その先には月明かりに照らされた巨大な毛深い巨人。
「あれだけは特別って気がするぜ」
「ああ……」
「雑魚の巨人は任せろ。お前は自分の戦いに集中しろ」
「リヴァイ」
「なんだ」
「ありがとう」
「礼なら終わってからにしな。もっとも、生きていればの話だが」
「そうだな」
 そう言うと、リヴァイも立体機動装置を使って飛び出す。
 工場都市に溢れる大小様々な巨人は、エレンやリヴァイたちが相手をしている。
 だったら、江頭が相手にしなければならない巨人はただ一人。
「おかむらあああああああああああああ!!!!」
564:
 熱い。
 身体が熱い。
 まるでマグマか炎のように、熱い!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 脚や腕に何かが当たる。
 視界が高くなる。
(これは!)
 そう、江頭は巨人化したのだ。
 黒タイツの巨人へと――
《岡村ああああああああ!!!!》
《やっと本気を出したようですね、江頭さん》
 だが大猿の岡村は余裕そうな表情を崩さない。
《そんなに必死になってどうするんですか》
《……》
《この世界の命はとっても安いんですよ、江頭さん。そこいらの若手芸人と同じようにね。
いくらでも代えは利く》
《……う》
《クズみたいな命のために、あなたは命をかけるんですか?》
《確かにこの世界での命の値段は安いかもしれない》
565:
 江頭はペトラのことを思い出しながら、訥々と言葉を吐き出す。
《そうでしょう?》
《だ……》
《え?》
《だけど》
《……》
《だけど! どんなに軽くても小さくても!! 生きていること自体が輝きなんだよ!!
それはどの世界だって変わらねえ!!》
《!!》
《うおおおおおおおおおおおおお!!!》
 江頭は叫びながら拳を振るう。
《甘いですよって!!》
 岡村(大猿)は異常に長い腕(前足)を振るって江頭の身体を横から弾き飛ばす。
《ぬわっ!!》
 勢いのついた衝撃が江頭の右半身を襲う。
 そして建物に激突する。
 レンガ造りの家はすぐに倒壊した。
 体内をかけめぐるアドレナリンの影響か、痛みはほとんど感じない。
 だが、衝撃で視界がくらくらする。
566:
 今までの巨人とは違う。
 圧倒的に違う“何か”を感じる。
《くっそ》
 すばやく立ち上がる江頭。
 その江頭の頭上に大きな拳が振り下ろされていた。
《ぬおっ!》
 寸でのところでかわす江頭。
 ドスン、とまるで鉄球が落ちた時のような衝撃。
 潰れかけた民家が完全に押しつぶされてしまった。
《江頭さん! 圧倒的な力になす術もなくやられる気持ちってわかりますか》
《ぐおっ!!》
 まるでヌンチャクのように飛んでくる、異常に長い岡村の両腕。
 それが容赦なく工場都市の建物を破壊する。
 中に誰も住んでいないことは知っているけれど、整然とした建物が次々に壊されていく
光景を見るのはそんなに気分の良いものではない。
《僕はね、江頭さん。この世界では神にも近い能力を発揮できるんです! 髪だって
あなたよりもフサフサです》
《髪どころじゃねえだろうが!》
 今の岡村は頭だけでなく全身もフサフサであった。
567:
《はあーはっはっは!! 逃げないと死にますよ! それとも死ぬよりも辛い痛みを
御所望ですか》
 岡村のサディスティックな笑いが夜空に響く。
 正直、線の細い江頭にとって肉弾戦は大の苦手。
 プロレス(ハッスル)に出場した時も、命がけであった。
 よく知らない者は、プロレスなんて八百長だから平気、と思っているかもしれない。
 だがそれは間違いだ。
 極限まで鍛えた男同士のぶつかり合い。
 これほど危険なものはない。生半可な気持ちで立てる舞台ではないことは、
レイザーラモンHGだってわかっている。
(とにかく、今はこのやたら長い両腕の攻撃を掻い潜って)
 そう思った江頭だが、まるで鞭のようにしなり、そして素早く動く岡村の両腕に、
上手く近づけない江頭。
 それどころか動きを見切られ、江頭の正面に拳が飛んできた。
(しまった――)
 とっさに腕を十字に組んで衝撃に備える江頭。
 だが、岡村の拳の衝撃はそのガードの上を越えて、江頭の腹の底にドスンと落ちる。
《ごお……》
 何とか後ろに吹き飛ぶことは避けた江頭だった、思わずその場に膝をついてしまった。
568:
《やっとまともに入りましたか。ガードが無ければ即死でしたのに》
《うぐ……》
 まともに声が出ない。
 と言うか、息もできない。
 しっかりとガードしたつもりなのにこの衝撃。
 本当に死んでしまいそうだ。
「エガちゃああああん!!」
 遠くで少年たちの声が聞こえてきた。
「頑張れえ! エガちゃあああああん!!」
「エガシラ!!!」
「師匠おおおお!!!」
(応援の声……?)
 エレンたちだ。
 彼らはいつも応援してくれた。
《さあ、トドメです江頭さん!》
(そうだ、応援の声)
 江頭は思い出す。
 うつ病に悩まされた日々を。
 眠れない夜が何度も続いたあの日々を。
 死にたい。
569:
 毎日そう考えていた。
 1990年代後半、空前の江頭ブームの到来。
 そしてその終結。
 21世紀に入るころ、江頭は極度の精神疾患に悩まされていた。
 本気で引退を考えていた。
 実際に精神を病んで引退する芸人は後を絶たない。
 江頭の先輩も、多くの後輩たちも芸能界を去った。
 自身も、芸の限界を感じて引退を考える。
 だが引退後の人生設計が浮かばない。
 ずっとお笑いばかりやってきた江頭にとって、お笑い以外のものは考えられない。
 だったら死のう。そう考えていた。
 だが、全身に力がはいらず無気力になって江頭は、自殺するということすら億劫になっていた。
 辛うじて生きている、そんな日々が続いていた。
 
 そんな江頭のもとに、事務所から手紙が送られてきた。
 ファンからの手紙だ。
 症状が安定してきた江頭は、その手紙を何度も何度も読み返す。
 かつてテレビに出ている時は、苦情や罵倒の言葉が並んでいた手紙。
 だがこの時は違っていた。
 励ましの言葉、応援の言葉。
570:
 そんな言葉を並んでいた。
 障害を持った男の手紙があった。
 意外にも芸能人やスポーツ選手からの手紙も。
 頑張ってください江頭さん。エガちゃんが出なくなってからテレビがつまらなくなった。
 また大暴れして欲しい。伝説を残してくれ。落ち込んだ時に、エガちゃんの芸を見ると元気が出る。
 一つ一つの言葉が江頭の心に突き刺さる。
 俺の芸は万人受けするもんじゃない。
 差別されたり、虐げられたり無視されたり。
 そんな連中が喜んでくれる芸があってもいいじゃねえか。
 江頭はもう一度立ち上がる決意をする。
 誰よりもお笑いが好きで、誰よりも舞台やテレビが苦手。
 そんなお笑い芸人。
「俺は立派な人間じゃない。ましてや、タケシさんタモリさんみたいな大物でもない」
 だけど――
《そんな俺でも、人の期待には少しでも応えたいと思っている》
 江頭は立ち上がった。
571:
《そのまま寝ていればよかったものを》
《俺の命はクソみたいに小さいもんだ! だけどな、そいつをタダでくれてやるほど、
俺は贅沢者じゃねえ》
《強がりは死んでから言ってください》
 そう言うと、岡村は再び長い腕を振るう。
 だが、
《な!!》
 鞭のようにしなり、魔法のように伸びる岡村の腕を江頭はいつの間にか掴んでいた。
《岡村くん。キミは何のためにお笑いをやっている》
《何を言ってはるんですか、江頭さん》
 岡村は掴まれていないもう一方の腕で江頭を攻撃する。
 しかし江頭は左手だけでその拳を止めてみせた。
《ど、どういうことや。僕の攻撃は100トン以上の衝撃があるはずやのに……!》
《消えろ“偽物”》
《!?》
《うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!》
 江頭は抱えた腕を投げ捨てると、岡村に向かって距離を詰める。
《来るなああ!!》
《でりゃあああああ!!!!》
572:
 拳、ではなく頭突き。
 ダッシュの勢いを利用して岡村の額に江頭は頭突きをかます。
《ぐっ……》
 一瞬怯む岡村。
 そこに今度は拳を見舞う。
《だあああああ!!!》
 拳が潰れた。痛みはないが、そんな感覚が江頭を襲う。
《まだ左手もある!!》
 今度は蹴り、そしてまた頭突き。
《うわあああああああ!!!!》
《おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!》
 精神も肉体も、ボロボロになってもいい。
 それでも求めるものが自分にはある。
《どりゃああああ!!!!》
 最後は勢いをつけたヒップアタック、通称“江頭アタック”だ。
《どわあああああああ!!!!》
 不思議な力が発動したのか、岡村(大猿)はその場から数十メートル後ろに吹き飛ぶ。
 一際大きな建物が大きな音とともに潰れた。
「エガちゃあああ!!!」
573:
「やったあああ!!」
 遠くから若者の声が響いた。
 江頭は振り返りたかった。
 振り返ってその歓声に応えたいと思った。
 だが、その時彼はそれを我慢する。
(俺は、戻らない)
 そう思い、彼は前に進む。
《トドメを、刺さないのですか……。江頭さん》
 大猿の岡村は言った。
 何かを諦めたような瞳が江頭を見据える。
《どういうことだ》
《ここでトドメを刺しておかないと、再び僕はあなたに牙をむくかもしれませんよ》
《……岡村くん》
《……》
《ガッペムカツク!》
《!?》
《キミもお笑い芸人なら、たとえ殺してやりたいほど憎い相手でも、笑わせてやるだけの
度量を見せたらどうだ》
《……プッ》
 思わず吹き出す岡村。
574:
 大猿だった岡村の顔が、次第に人間に戻っていく。
 ただ、大きさはまだ巨人のままだ。
《クックック。江頭さん。僕の負けです。やっぱりあなたは凄いです》
《……》
《戻りましょう。元の世界へ》
《岡村くん》
《この世界よりも、もっとひどい現実が待っているかもしれませんけど》
《覚悟の上だ》
《一生苦しみ続けますよ》
《死ぬまで苦しんでやるさ。お笑いのためならな》
《……わかりました》
 
 *
575:
「――がしらさん」
「……」
「江頭さん!」
「え?」
 気が付くと、江頭は自動車の後部座席に座っていた。
 大川豊興業が所有するワゴン車だ。
「もう、江頭さん。どうしちゃったんですか」
「クリスタ?」
「はあ? 何を言ってるんですか。私は来栖です。誰ですかクリスタって」
 江頭の隣りには、小柄な来栖マネージャーが座っていた。
 よく見るとクリスタに似ているかもしれない、と江頭は思う。
「ちょっと、何を見ているんですか気持ち悪い」
「おお、悪い」
 クリスタと比べて、マネージャーは思ったことをすぐ口に出す。
「大丈夫なんですか? 江頭さん」
576:
「何が?」
「何がじゃないですよ、今日の舞台」
「ん? ああ」
「エガちゃん。疲れてるの? 昨日飲み過ぎたんじゃないの?」
 前の席に座ってた、同じ事務所の寺田体育の日がニヤニヤしながら言ってきた。
「そんなに飲んでないけど」
「それより江頭さん。今日の舞台ですけど」
「わかっている」
 この日、江頭は陸前高田市にいた。
 数年前の震災で大きな被害を受けた地域だ。
 被災地での営業は決して珍しくない。
 江頭は窓の外を眺める。
 そこには、多くの更地が広がっていた。
 ほんの数年前まで、ここには店や家がたくさん立ち並んでいた。
 それがあの日、一瞬でなくなっている。
(俺の故郷がこうなったら、どう思うだろう。多分、凄く落ち込むだろうな。
 落ち込んでいる人たちに俺ができることは――)
 ふと、そんなことを考える江頭。
「江頭さん。何か秘策とかあります?」
577:
 来栖は聞いた。
「秘策ってなんだよ」
「この前みたいに危険なネタはやめてくださいよ」
「俺が危険なことをやらないで、誰がやるんだよ」
「やり過ぎてもらっても困るんです」
「そうだ。最初からタイツ履かないで出てみようか」
「バカなことを言わないでください」
「登場曲以上にスリルだぜ?」
「却下です」
「それじゃあさ――」
 江頭を乗せた車は会場まで向かう。
 今日も江頭は営業や舞台に精を出す。
 年に何回かテレビに出て、後はひたすら営業。
 派手な芸風に反して地味な日常だが、それでも彼はそんな日々に命をかける。
 今日もどこかで。
 おわり
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面白かった
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乙です
583:

良かった・・・もうほんと、面白かった
584:

最高に面白かった
最後の方は読んでて涙が出てきた
585:
面白かったー!ありがとうありがとう
586:

きれいまとまったわ
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