男「猫ちゃんと意思疎通をとりたい」【後編】back

男「猫ちゃんと意思疎通をとりたい」【後編】


続き・詳細・画像をみる

0:
8月31日 男の部屋
男「猫ちゃん。来てしまったよ」
猫『なにが?』
男「夏休みの最終日だよ。明日から学校が始まるんだ……」
猫『そうなの……。それは残念ね』
男「あれ? いつもなら、まったくヒキコモリね男は、なんて猫ちゃんなら言いそうなものだけど」
猫『だって、学校が始まったらあなたで遊ぶことができないじゃない』
男「……俺で?」
猫『あら、間違えちゃったわ。あなたと、ね』
男「間違いならいいんだ、うん」
猫『ええ、間違いよ。……はぁ、明日から男で遊べなくなっちゃうのね……』
男「また間違ってるよ! 俺と! でしょ!」
猫『あら、ごめんなさい。なにかしらね、深層心理がそうさせるのかしら』
男「心の奥ではそう思ってるんだ……」
猫『ま、今日は今みたいに男で遊べるからいいわ』
男「すでに遊ばれてた!?」
441:
猫『あなたの今日の予定は?』
男「特にないんだよねぇ」
猫『そう。なら私とお話しましょう』
男「いいよー」
猫「ニャーン。ニャーオ」
男「!?」
猫「ニャーン」
男「……にゃーん」
猫『……なに言ってるの?』
男「どうすればよかったの!?」
442:
猫『これくらいわかってくれてもいいんじゃないかしら』
男「ご、ごめんね」
猫『ちなみに、さっきのは男のダメダメなところを言ったのよ』
男「そうなんだ……。ヒキコモリとか?」
猫『あら、よくわかったわね。正解よ』
男「嬉しくないよ!」
猫『まあ、確かに難しかったわよね』
男「もう全然わからなかったよ」
猫『でもね? 男は意思疎通できるようになる前から、私の気持ちを察してくれてたわよ?』
男「そう?」
猫『ええ。例えば…………やっぱりやめとくわ』
男「え、なになに? 教えてよー」
猫『気が変わったの』
男「えー。なんだろう……あ、わかった!」
猫『言わなくていいわ』
男『あれでしょ? お腹空いた時! それはわかったなー』
猫『……当たってるけど。あなたね、デリカシーに欠けるわよ』
男「これは失礼しました」
猫『言っておくけど、それだけじゃないからね?』
男「そうなの? えー、なんかあったかなあ……」
猫(……だっこしてって鳴いたらすぐだっこしてくれたのに。もう。忘れちゃったのかしら)
猫(ま、教えるつもりもないけど。ちょっと恥ずかしいものね)
443:
猫『それはそうと、さっきのあなたのにゃーんは何のつもり?』
男「い、いや、特に意味は」
猫『そう。私の前で言うのはいいけど、外ではやめとくことね』
男「きもかったのは自覚してる!」
猫『あらそう。それなら良かったわ。ええ、心底そう思うわ』
男「……」
猫『ちょっと、拗ねないでよ』スリスリ
男(ちょっと焦ってるのも可愛い)ナデナデ
猫『あなたはにゃーんとか言わなくていいわ』
男「オーケー」
猫『じゃあ、もう一度ね』
男「よし、次は会話を成立させるよ」
猫「ニャーオ、ニャーン」
男「猫ちゃん、朝ごはんはさっき食べたでしょ」
猫『違うわよ!』
444:
猫『やっぱりダメね男は』
男「ごめんねぇ」
猫『男は私のこと全然わかってない!』
男「ん、ん?」
猫『……』
男「……そんなことないって!」
猫『いいえ、わかってないわ! もうあなたなんてうんざりよ……私、この家を出るわ』
男「ちょっと待ってよ猫ちゃん! 話し合おうよ!」
猫『もうあなたには愛想が尽きたの……今までありがとう、そしてさよなら』スタタタ
男「だから待ってって!」ダキ
猫『ちょっと! 離してよ!』
男「嫌だ!」
猫『あなたね……! あ、空にUFOが!』
男「えっ!? どこ!?」パッ
猫『さよならっ!』スタタタタタ
男「はっ! 猫ちゃーん!!」
猫『これくらいテレパシー無しで会話できたら文句なしね』
男「このシチュエーションには文句あるけどね」
猫『あら? やっぱり私には逃げられたくない?』
男「当たり前」
猫『ふふっ、逃げないから安心しなさい』スリスリ
445:
猫『ま、本音を言えばテレパシーで十分すぎるけどね』
男「そうなんだ?」
猫『さっきのも男で遊びたかっただけだもの』
男「また遊ばれてた!? 小悪魔さんめ!」
猫『私、一度は泥棒猫って呼ばれてみたいのよね』
男「泥棒猫かあ……どこかでお魚でも取ってきちゃうのはどう?」
猫『そういう泥棒じゃないわ』
男「あはは、そうだよね」
コンコン ガチャ
妹「お兄ちゃーん! ちょっとお願いがあるんだけどぉ」
男「お断り」
妹「まあそう言わずにさー」
猫『話くらい聞いてあげなさいよ』
男「夏休みの宿題以外の話なら聞こう」
妹「……」
男「……おバカさん!」
妹「うぇーん、だってぇ」
男「何が残ってるの」
妹「……数学」
男「頑張れよ。ほら行った行った」
妹「手伝って!」
男「……しょうがないな、下行くか」スタスタ
猫『私もついていくわ』スタタタ
妹「さっすがお兄ちゃん!」トテテテ
446:
妹「うーん……」カリカリ
男『猫ちゃん、これは泥棒猫って言われるチャンスかもよ』
猫『……なるほどね。でもそれだと妹がかわいそうじゃないかしら』
男『大丈夫、ある程度見てからにするから』
猫『そう。わかったわ。……ちょっと楽しみね』
男『くふふ、俺もだよ』
妹「お兄ちゃん、何ニヤニヤしてるの」
男「おおう!? いやいやなんでもないよ」
妹「ふーん。ところでこれなんだけど……」
男「おいおいこれは俺も楽勝だったぞ? これはだな――」
447:
1時間後
猫「ニャーン!」
男「どうしたの? 猫ちゃん」
猫「ニャーオ」
男「うんうん、オーケーわかったよ」
妹「何がわかったの?」
男「猫ちゃん、お散歩したいんだって。ってわけだから行ってくるわ」
妹「ちょっと待ってよー。まだ宿題残ってる」
男「それは後でまた見てやるから、それじゃな」
猫「ニャーン」
妹「えー! ちょっとお兄ちゃん!」
猫「……ニャーン?」
妹「猫ちゃん? まだお兄ちゃん借りてていいかなー?」
猫「」プイ
男『あはははははは! ナイス演技だね猫ちゃん』
猫『でもなかなか言ってくれないわね』
男「ごめんな妹。可愛い猫ちゃんのお願いは断れないんだ」
猫「」スリスリ
妹「……お兄ちゃんのバカ!」
男「俺!?」
妹「それ以外に誰がいるの!?」
男「いやほら、猫ちゃんもいるじゃん?」
妹「猫ちゃんに言うわけないでしょ!」
男「あぁ……」
猫『これは失敗ね』
448:
男「冗談だよ。宿題見てやるから」
妹「もう! びっくりさせないでよー」
男「はは、悪い悪い」
猫『妹が言わなかったらもう誰も言ってくれないでしょうね』
男『だねー』
猫『男を泥棒するのは簡単なのにね』
男『あはは、確かに。俺、猫ちゃんにメロメロだもんね』
猫『簡単すぎて心配になっちゃうわ。他の猫になびかないか』
男『それは大丈夫だよ』
猫『どうかしらね。前に黒猫を見て目を細めてたじゃない』
男『そんなこともあったかなー?』
猫『もうっ……でもこんな男に盗まれちゃってるのよね、私も』
男『……可愛すぎ!』モフモフ
猫『あっ、ちょっと!』
妹「ちょっとお兄ちゃん! 猫ちゃんもふってないでここ教えてよー!」
456:
9月中旬
男「ただいまー」
猫『おかえり、男』
男「猫ちゃんのお出迎えも日常になったなぁ」
猫『違うけどね。この場所が居心地いいだけだから』
男「そうなんだ?」
猫『……わかってるくせに』
男「あはははは! 可愛いなぁ猫ちゃんは!」ダキ
猫『んっ』
男「それじゃソファーに行きましょうねぇ」スタスタ
猫『それより、あなた着替えてきなさいよ』
男「おっと、それもそうだね。勝負服に着替えてくるね!」タタタ
猫『あなたの勝負服はジャージなのね……』
457:
リビング
男「今日も疲れたなぁ」
猫『最近帰ってくるのが遅いわね』
男「うん。近々、文化祭とかいう謎のイベントがあってね」
猫『謎……?』
男「それの準備やら何やらで忙しいんだ」
猫『ふぅん。あなたは何をやるの?』
男「うちのクラスは、なんか喫茶店的なものだよ」
猫『なんで曖昧なのよ……』
男「猫ちゃんのこと考えててあんまり話を聞いてなくてさー」
猫『私のせいにしないでくれる? でも奇遇ね、私も家であなたのこと考えたりするわ』
男(可愛すぎ!)モフモフ
猫『もう、急にもふるのやめなさいよ』
男「ま、当日は女子がコスプレとかするみたいだから、男は裏方にまわってれば大丈夫だし」
猫『あなたもコスプレしたら?』
男「いやいや猫ちゃん。俺はそれよりバンドとかに憧れちゃうなー」
猫『やればいいじゃない』
男「何も楽器できない……メンバーがいない……」
猫『ダメねぇ』
458:
男「でも文化祭でライブをするっていう妄想は鉄板なんだよね」
猫『妄想なのね……』
男「うん。俺の妄想だと、まず俺はピアノ」
猫『ふぅん?』
男「で、友はドラム。女さんがサックス」
猫『女もいるのね』
男「妄想だから。で、あとベースとかトランペットとかトロンボーンとかを連れてきて」
猫『連れてくるのが大変そうね、あなただと』
男「も、妄想だから。それでビッグバンドをやると」
猫『普通のバンドじゃないのね』
男「スウィングガールズが好きなんだ」
猫『アニメ?』
男「映画だよ」
猫『あなたが映画を見るなんて……アニメ映画?』
男「実写!」
459:
男「それか人数減らして猫ちゃんがボーカル」
猫『私、鳴くことしかできないけど』
男「猫だけにスキャットでいける!」
猫『上手くないわ』
男「うっ」
男「妄想だとめちゃくちゃ楽しいんだけどねぇ」
猫『……』
男「猫ちゃん?」
猫『ごめんなさい。男が不憫で』
男「不憫!?」
猫『ま、何にしても私にはあんまり関係ないわね。行けないし』
男「リュックも難しいだろうしなぁ。ごめんね」
猫『謝る必要なんてないわ。そのかわり、文化祭のことちゃんとお話してね』
男「うん、もちろん」
猫『あなたがトイレに篭ってたとかそういう話はいらないからね』
男「そういう心配!? 大丈夫、ちゃんと参加するから」
猫『それならいいわ』
460:
猫『文化祭が終わるまで帰りは遅くなるのかしら?』
男「あーうん、そうだね。俺はさっさと帰りたいんだけどねぇ」
猫『そうなの。ま、仕方ないわよね』
男「ごめんね」
猫『そう思うなら、私のことをたくさんなでることね』
男「お安い御用だよ」ナデナデ
猫『……これだといつもと変わらないわね』
男「あはは、そうだね」
猫『でも、やっぱりこれが一番なのよね』
男「そっか。まあ、俺の唯一の特技だもんね」
猫『私限定の、ね』
男「でも一回ほかの猫にも試してみたいんだよなぁ」
猫『あなたね、そういうの浮気って言うのよ』
男「う、浮気!?」
461:
翌日 朝
母「あんた時間大丈夫なの?」
男「そろそろ行くよ」
猫『今日も文化祭の準備をするの?』
男『うん、やるだろうねぇ』
猫『そうなの……ま、しっかりやってくるといいわ』
男『うん。でもまあ、そんな夜遅くとかにはならないよ』
猫『そう。……勘違いして欲しくないから言っておくけど、別に寂しいってわけじゃないからね?』
男『わかりやすい! できるだけ早く帰るよ』ナデナデ
猫『ふふっ、無理しなくていいわ。いってらっしゃい』ニャーン
男「うん。いってきます」ガチャ
母「いってらっしゃい」
462:
高校 
ざわざわ がやがや
男「仮にも受験生だよな、俺達」
男友「まあな」
男「それなのにこの文化祭に対する気合の入りよう」
男友「最後だからじゃないの」
男「そうか……」
男友「あ、そういえば俺バンドやるから」
男「はぁ!?」
男友「うっそぴょ〜ん」
男「……」
男友「ま、ちゃっちゃと仕事終わらせて帰ろうぜ」
男「それはいいけど、俺達って何するの?」
男友「……あれ?」
男「まさかのフリーか」
男友「もう帰るかおい」
女「フリーなわけないでしょ」
男「おおう!?」
男友「女さん。しかし仕事が……」
女「今から買い出し行くから、一緒に行こ?」
男、男友「御意」
463:
男「女さんひとり?」
女「うん。本当は友ちゃんを誘おうと思ってたんだけど、男手が二人いるならいいかなって」
男友「ふぅ。助かったな」
男「ああ」
女「なんで?」
男「そこは察しましょう」
男友「我々のようなはずれ者に女子というものは……」
女「あはは、頑張りなよー。意外と話せると思うけどなー」
男、男友「いやいや」
男「ホームセンターに着いたね」
女「よーし! 乗り込めー!」タタタタ
男友「俺、この買い出しが終わったら……どうしよっかな」
男「帰るんだろ」
男友「そうだったわ」
女「ちょっとー、盛り下げないでよー」
男、男友「よっしゃあ行くぜええええええええ!」ダダダダ
女「あっ! 待ってよー!」タタタタ
464:
女「ねぇ、こっちとこっち、どっちの色がいいかな?」
男「飾り付けのやつ?」
女「そうそう。あたしはこっちの――」
男友「待って女さん。ここは一斉に言おう」
男「ふっふっふ! なるほど、俺達の相性が試されるというわけか」
男(前に猫ちゃんとこんなことあったなー。今思い出しても楽しい)
女「面白そう! やろやろ」
男友「よっしゃ。じゃあ行くぞ、せーのっ」
男 「青!」
男友「青!」
女 「ターコイズブルー!」
男、男友「!?」
465:
女「……あのね? あれは商品にそう書いてあったから」
男友「普通は青」
男「青だよなぁ。それか水色」
女「だーかーら! そう書いてあったの!」
男友「ターコイズブルー……」
男「ターコイズブルーなぁ……」
女「……この青色の方でいいね! はい決まり!」
男友「ああ、そのターコイズブルーの方でいいよ」
男「意見自体はみんな一緒だったからね。そのターコイズブルーの方でいいと思うよ」
女「うふふ、ふふふふふふ」
男友「やっべー、女さん怒ってる」
男「俺達顔面ターコイズブルー」
男、男友「ひゃはははははははは!」
女「ほんとに怒るよ!?」
466:
女「よーし、頼まれてた買い物は終了!」
男「おつかれー」
男友「よし、帰るか。……家に」
女「学校にね! ほら、行くよ!」
男、男友「うーっす」
高校
男「ふぃー戻ってきたか」
男友「そしてまた手持ち無沙汰に」
男「やっぱ帰るか」
男友「そうだな」
女「だーめ」
男「女さん。いつの間に背後に……!」
男友「やはり絶を……!」
女「違うからね。ほら、あの辺の飾り付け手伝って」
わいわい がやがや
男「……我々があそこに? いや友はいけるか」
男友「いや、俺もあのサッカー部のグループとは話したことない。あそこはチャラい連中に任せましょうや」
女「もー弱腰だなぁ。ほら! 行くよ!」ガシ
男「あーれー」ズルズル
男友「俺を引きずるとはなんたる膂力……やはり強化系」ズルズル
467:
――
―――――
男「いやー結構遅くなっちゃったな」
男友「でも楽しかったな。あのサッカー部の連中いいやつだったわ」
男「だな。喋ってみると違うわな」
女「でしょ? だからもっと積極的になった方がいいよー」
男友「肝に銘じておきます」
男「右に同じ」
女「うんうん。そうして」
男友「じゃあ俺こっちだから。じゃあなー」
男「おーう」
女「ばいばーい」
468:
女「文化祭楽しみだねー」
男「そうだね。女さんもコスプレするの?」
女「するよー。猫ちゃんみたいな猫耳つけるんだー」
男「へーそうなんだ。見たいかなー?」
女「なんで疑問形なの!? でもちょっと恥ずかしいんだよね、あれ」
男「コスプレってそんなもんじゃない?」
女「着物とか着る子もいるんだよ。それと比べると猫耳はちょっとねー」
男「じゃあ女さんはウボォーギンのコスプレをしよう」
女「ふふ、ふふふふふふ。男くんはそんなにあたしを怒らせたいんだ?」
男「うそうそ!」
男「それじゃあね、女さん」
女「うん、また明日。ばいばーい」
男(ふー。前よりは普通に話せたかな)
男(青春汁が迸るぜまったく)
男(今までが灰色すぎたか)
男(ま、今はそんなことよりも)
男(ダッシュ!)
たったったった――
469:
男「ただいまー!」
猫『おかえり、男。……どうしたのよ、そんなに息荒くして』
男「ちょっと、運動不足解消に、ランニングをば」
猫『……ふふっ。そうなの、いい心がけね』
男「でしょ? ふー、よし着替えてこよ」
猫『早くしなさいよ。私もうお腹ペコペコなんだから』
男「あれ? 待っててくれたの?」
猫『そうよ。だから早く』
男「オーケー。攻で着替えてくる!」
男(走った甲斐があったなー)
猫(待ってた甲斐があったわね)
470:
食卓
男「いただきまーす」
猫「ニャーン」
母「今日は遅かったのねぇ」
男「うん。文化祭の準備があったから」モグモグ
猫『ちゃんと働いたの?』
母「ちゃんとやったの?」
男「ちゃんとやりました! 買い出しとかね」
母「へぇ、あんたがねぇ」
猫『ほんとよね。友達だって男友しかいないのに』
男「今日で仲良くなった人とかいてさ、かなり充実したよ今日は」
猫『あら、すごい進歩ね』
母「それは良かったわ。ようやく友くん以外の友達ができたのね。よよよ」
男「よよよじゃないよまったく」
母「あ、私お風呂入ってくるわ。それ余ったらラップして冷蔵庫に入れといて」
男「うーい」
471:
男「ごちそうさまでしたっと」
男「そういや妹はどうしたんだろう」
猫『部屋にいるわよ』
男「あ、そうなんだ」
猫『何か用でもあるの?』
男「ううん」
猫『そう』
男「そういえばさ、女さんが猫耳つけて接客するんだって」
猫『猫ぶるわけね。まさか男、それに興味が』
男「あるんだよねぇ正直」
猫『それは女だから? それとも猫耳だから?』
男「んー? 両方?」
猫『二股ね』
男「二股!?」
472:
男「女さん、コスプレするの恥ずかしいって言ってたからさ、どんな接客するのか見たいんだよね」
猫『あら、それは面白そうね』
男「でしょ? 普段は元気いっぱいな女さんがやるから面白い」
猫『そうだわ、どうせ猫耳をつけるなら尻尾もつけさせなさい』
男「あーいいねぇ。もしかしたらそれも込みかも」
猫『それで四つん這いになれば完璧よ』
男「それはやらないだろうけどねぇ」
猫『猫を演じるならこれくらいやってもらわないと』
男「でも語尾ににゃんは」
猫『だめ』
男「あはは、こだわるねー」
猫『だって、ねぇ?』
男「うん、わかるよ。でも猫ちゃんがテレパシーでもにゃんにゃん言ってたらすごく可愛いと思うけどなぁ」
猫『……言わないわよ?』
男「ちょっと揺らいだ?」
猫『……ちょっとね』
男「はははっ! 可愛いなぁもう!」ナデナデ
473:
猫『文化祭っていつなの?』
男「明日から二日間だよ」
猫『ふぅん』
男「でも文化祭は準備する時が一番楽しいって言うよね」
猫『あなたもそうなの?』
男「そうだねぇ。結構楽しかったよ」
猫『良かったじゃない。それならもっとその話聞かせてくれる?』
男「もちろん! それじゃ、部屋行こうか」スタスタ
猫『ええ。あなたの布団の上で聞きたいわ』スタタタ
男「今日はそのまま寝る?」
猫『そうしたいわね。男がよければだけど』
男「いいに決まってるよ。もう涼しいし」ガチャ
猫『そう、ありがと。とっても嬉しいわ』
男「あはは、そっか」
猫『これであなたの話が退屈だったらすぐ眠れるもの』
男「そういう理由!? 今日は寝かせないよ!」
猫『ふふっ。期待してるわ』
男「よーし、じゃあ最初は友と女さんとで買い出しに行った話から――」
478:
もふもふもふもふ!
だんだんとリア充になっていってるなぁww
480:
とある夜 男の部屋
猫『ねぇ、男。夏休みが終わってから結構時間経ったわね』
男「そうだね。あぁ、戻りたい夏休みに」
猫『そう。そんなことより、もうだいぶ涼しくなったと思わないかしら』
男「あー確かに。もう半袖一枚だと肌寒いねぇ」
猫『夜なんて特にそうでしょう?』
男「うんうん」
猫『……私と一緒に寝たらあたたかいと思わない?』
男「……くふふふ! 猫ちゃん、随分遠回りしたね?」
猫『うるさいわね。もう暑くないんでしょう?』
男「そうだね。もう全然」
猫『そう。ならこれからは男の布団で寝るから』
男「……」
猫『……だめ?』
男「……あはははは! 可愛すぎ! ダメなんて言うわけないじゃん!」
猫『もう! なら早く答えなさいよ!』
男「だって、猫ちゃんそわそわしてるからさー、それを見てたくてね」
猫『悪趣味ね、男は』ペシペシ
481:
男「いやー、久しぶりってわけでもないけどやっぱり嬉しいなー。猫ちゃんと寝るのは」
猫『ふふっ。これからは毎日よ?』
男「最高だ」
猫『私も嬉しいわ。だから、もう寝ましょう?』
男「えっ? 流石にまだ早い……」
猫『なぁに?』
男「いえいえなんでも。よいしょっと」ゴロン
猫『ふふ』モゾモゾ
男「猫ちゃん、もう眠いの?」
猫『全然眠くないわ』
男「あれ? そうなの?」
猫『ええ。でもいいじゃない別に』スリスリ
男「そうだね。俺が起きてるか寝っ転がってるかの違いだけだもんね」
猫『そうよ。それに、こっちのほうが男が近くていいのよ』
男「ああ、目線の高さとか?」
猫『そう。いつも下から見上げてるから』
男「そっかそっか」ナデナデ
482:
猫『……』モゾモゾ
男「ちょ、ちょっと猫ちゃん、どこに潜り込んでるの」
猫『男のシャツの中? ……あなたなんでこんなダボダボなの着てるのよ』モゾモゾ
男「サイズ間違ったの! くすぐったいよー!」
猫『……ここが出口ね』
男「出口っていうか、俺の首元ね」
猫『ふふっ』カプ
男「ね、猫ちゃん! 首もくすぐったいんだよー!」
猫『あら、ごめんなさいね』ペロペロ
男「わかってやってる!?」
猫『当たり前じゃない』カプ
男「ふぉおおおおおお!」
483:
男「……猫ちゃん?」
猫『なぁに?』
男「いやあの、ずっとそこに居られるとちょっと苦しいかなーって」
猫『あら、私が重いって言うの?』
男「いやいやまさか」
猫『ならいいじゃない』
男「う、うん。……Tシャツの中狭くないの? 猫ちゃん」
猫『ええ、余裕だわ。……なんだかあなたに包まれてるみたいで居心地がいいのよ、ここ』
男(なに言っちゃってるのこの猫ちゃんは!)ギュー
猫『んっ。ちょっと、急に抱きしめないでくれる?』
男「ごめんね! ついね!」
猫『そう。なら私も』カプ
男「ふぉおおおお! だから猫ちゃん! 首はくすぐったいよー!」
猫『ふふっ、ごめんなさい。つい、ね』
484:
猫『ふぅ、堪能したわ』
男「そ、それはよかった」
猫『たまにはこっちに潜りこむのもいいわね』
男「はは、サイズを間違えた恩恵がこんなところにあるとは」
猫『良かったわね。有効利用できて』
男「してるのは猫ちゃんでしょ?」
猫『そうだったわね』
猫『わたし、そろそろ寝るわ』
男「そっか。おやすみ、猫ちゃん」
猫『……なでて?』
男「おっとごめんねぇ」ナデ
猫『ん……おやすみ、おとこ』
男「おやすみ、猫ちゃん」
488:
なんだこのモヤモヤする気持ちは
491:
もふもふもふもふ!
492:
猫ちゃんが発情期に入ったと思ったwww
493:
とある夕方 リビング
男「はぁ、お腹ぺっこりん……」
猫『きもい。いいえ、きもすぎるわ』
男「言いながら自分でもそう思った……」
男「晩ご飯まで1時間はあるよなぁ……」
猫『何か食べたら?』
男「うーん。俺この時間にあんまり間食したくないんだよねぇ」
猫『ふぅん。なら我慢しなさいよ』
男「ごもっとも……何か暇つぶしできないかな」
猫『私とお話してるじゃない』
男「そうだねぇ。これ以上は高望みかなー」
「ただいまー!」
男「お? 妹が部活から帰ってきたみたいだ」
猫『そうみたいね』
男「……よし! 隠れよう!」
猫『なんで?』
男「いいから!」
494:
妹「ただいまーってあれ? 誰もいないの?」
男『……猫ちゃん。声出しちゃダメだよ?』
猫『それはわかってるけど……隠れる意味は?』
男『暇つぶしだよ』
猫『そう。……それにしても、テーブルの下なんてすぐバレそうなものだけど』
男『こういうところがかえって盲点なんだよ猫ちゃん。灯台下暗しって言うでしょ?』
猫『はいはい。そうかもしれないわね』
男『ところで俺のこのポーズ、猫ちゃんと同じじゃない?』
猫『あなたのは土下座してるようにしか見えないわ』
男『!?』
495:
妹「おかしいなぁ。テレビついてるのに」
猫『あなた……隠れる気あるの?』
男『そこまで本気でもないよ。ちょっとしたスリルを味わいたいんだよ』
猫『ふぅん。……でもそうね、少しドキドキしてきたわ』
男『でしょ?』
猫『ええ、あなたと密着してるから』
男『えっ!?』
猫『う、そ』
男『だまされた! 可愛い!』
猫『だいたい、いつもくっついてるじゃない。だっこしたり』
男『確かにねぇ』
猫『見て、すぐ近くに妹の足があるわ。ふふっ。意外とバレないものね』
男『本当だ。くくっ、愚かな妹め』
妹「お兄ちゃん部屋にいるのかな。ま、いっか。テレビ見ようっと」ポフ
496:
猫『……ソファーに座っちゃったけど。あら、スカートが』
男『おかしい。そこに座れば確実に妹の視界に入るはず』
猫『もうバレてるんじゃない?』
男『わかっていてスルーしていると? なるほど、確かに妹はスルーが得意だ』
猫『もう出ましょうよ』
男『でも待って。そうなると出るときに何かしたい』
猫『例えば?』
男『猫ちゃんの声を真似しながら這い出るとか』
猫『なるほどね。いいんじゃないかしら』
男『でもなぁ。妹のスルー力は半端じゃないからなぁ。スルーされたらめちゃくちゃ恥ずかしい』
猫『そうね。滑稽すぎて笑えるわね』
男『だよねぇ。無難にのそっと無言で出ようか』
猫『シュールね。何してるの? って感じだわ』
男『やっぱり何かしらのアクションが必要だろうか』
猫『あなたの好きなようにしなさいよ』
男『うーん。まさかここまで考えさせられるとは……妹、侮りがたし』
猫『早く決断したほうがいいわ、じゃないと――』
妹「お兄ちゃん。いつまでそこにいるの?」
男『!?』
猫『ま、こうなるわよね』
497:
男「妹……わかってたならもっと早く言ってくれても」
妹「だってバレバレなんだもん。かえって言いづらいよ。あれ、猫ちゃんもいるじゃん」
猫『付き合わされたのよ』ニャーン
妹「わたしだけ仲間はずれは嫌だよ。お兄ちゃん、ちょっと詰めて」
男「えっ? みんなで隠れてどうするの?」
妹「お母さん今買い物に行ってるでしょ? ほら、早く」
男「おおう、ちょっと狭くないか?」
妹「狭くない狭くない。くっつけば大丈夫」
男「うーん。狭いなぁ」
猫『男、足がはみ出てるわ』
男『おっと、気を付けないと』
男「というか、いつ帰ってくるんだ……? それまでは隠れなくてもいいんじゃないか?」
妹「だめ!」
男「頑なだなぁ」
ガチャ
「ただいまー」
妹、男(来たっ!)
猫『……おなかすいたわ』
498:
母「……テレビがついてるのに誰もいないのね」
母「ふ……消しときなさいよ、まったく」ピッ
男『今笑わなかった? でもまだバレてないみたいだ』
猫『わからないわよ。さっきの妹みたいにスルーしてるのかも』
男『妹にどの時点でわかったのか聞いとけば良かったね』
猫『もう手遅れね。ここで声を出したら一発よ』
男『そうだね。……しかし狭い。妹がくっつきすぎなんだよなぁ』
猫『狭いからしょうがないじゃない。それより、妹がまずいわ』
男『えっ?』
妹「」プルプル
男『あ、こいつ声出しちゃだめっていう環境で笑いが込み上げてきちゃうタイプだ』
猫『難儀な性格ねぇ』
男『お、母さんが台所に行った。少し休めるね』
499:
台所
母「あー疲れたわ。牛乳が重いのよねぇ」
母「まっ、そんなことより! さっき安く買ってきたスイーツでも食べようかしらね!」
テーブル下
妹「お兄ちゃん、聞いた?」ヒソヒソ
男「ああ。スイーツだってね」ヒソヒソ
妹「お母さん、ずるい」
男「今なら間に合うぞ」
妹「お兄ちゃんはいらないの?」
男「うん。俺甘いのはそんなに」
猫『あれが猫缶だったら飛び出すんだけどね』
男『母さんが猫缶食べてたら俺も飛び出すよ』
妹「うーうー。どうしよう……」
「どっちから先に食べようかしらねぇ。迷っちゃうわぁ。プリン、いえプディングから食べようかしらね!」
男「プリンともう一つ何かあるみたいだぞ、妹よ」
妹「でも、お母さんどっちも食べる気満々だよぉ」
男「今なら片方は救える」
妹「でもでも、ここで出てったら負けを認めたみたいに……」
男「ならないから。行ってこい」
妹「……うん!」ノソノソ タタタ
猫『あなた……行かせたわね?』
男『尊い犠牲も必要なのだ……』
「お母さん! 何買ってきたの?」タタタ
「うふふ、お母さんの勝ちね」
「えっ? ま、まさか、お母さん……!」
「ええ。スイーツなんてないわ。嘘っぱちよ」
「!?」
500:
テーブル下
男『やはりな……母さんの巧みな罠だったわけだ』
猫『ねぇ。それってもう隠れてるのがバレてるってことよね?』
男『そうだね。でもこうなると出るタイミングが――』
「なんてね。スイーツじゃないけど、梨はあるわ」
「あ! 本当だ! わたし梨だいすきなんだよねー」
男『なんだと!?』
猫『男?』
男『梨は俺も大好物なんだ……! 二人占めなどさせん!』タタタタ
猫『ちょっと男、それも罠かも……って聞いちゃいないわね』
「母さん! なんでも梨があるとかないとか!?」
「はいお兄ちゃんも負けー」
「男なんて簡単よ」
「え……じゃあ梨は……」
「「ないよ」」
「…………ちくしょおおおおおおおお!!」
猫『……ばかねぇ』ニャーン
501:
かくれんぼな話でした
そして500突破。これも皆さんのおかげです
503:
乙乙
相変わらずかわええのう
504:
大変乙!!
いいわー
506:
さりげなく妹かわいい
乙!
508:

ほのぼのできるな〜
509:
乙です!
もふもふもふもふ
513:
文化祭
女「お、お帰りなさいませ! ご主人様!」
男「猫耳メイドとは恐れ入る」
男友「すっげーなおい。俺も客として行きたいわ」
女「見てないで働いてよ!」
男友「どれ、ほかのクラスを見て回るか」
男「オーケー」
女「あたしも行くー!」
男、男友「その格好で?」
男「行く先々で注目を浴びるんだけど」
女「宣伝も兼ねてるからね」
男友「堂々としてるな女さんは」
女「最初は恥ずかしかったけどね」
男友「お、お帰りなさいませ! ご主人様!」
男、男友「ひゃはははははは!」
女「怒るよ!?」
男「ライブは欠かせないな」
男友「もう旬すぎてるのにけいおんパロってるのがいるぞ」
女「ねぇねぇ、けいおんって面白いの? 前にCMで見たけど」
男友「いいか、女さん。まず日常系というものの在り方から」
女「あ、始まるよ!」
男、男友「おーっ!?」
「丸の内サディスティックで鍵盤ハーモニカがいないってダメだろ! 誰か代わりはいないのか!?」
女「男くん!」
男友「行けっ!」
男「いやいやなんでよ!」
514:
女「お化け屋敷……こわいよぅ」
男、男友「!?」
女「なんてねー! あたしがこういうの怖がるキャラだと思った?」
男、男友「いや全然」
女「それはそれでなんかなー」
女「じゃ、あたし戻るねー」
男友「おーう」
男「がんばってねぇ」
女「他人事みたいに言ってるけど、男くん達も仕事してよね」
男友「よし、オークション会場に行くぞ。ほら、この覆面持っとけ」
男「おう。……ってオークション?」
男友「知らないのか。こういうイベント時にのみ競りに出される亀郎の写真を」
男「亀郎ブランド!? ってことは……!」
男友「ああ、そういうことだ」
女「これから打ち上げあるみたいだよ! 行くよね?」
男「え? あぁどうしようかな」
男友「男よ。いつもなら帰ってるところだが、今日は積極的に行こう」
男「……だな! 俺達も行くよ、女さん」
女「よしよし! わかってきたね!」
「おーい! 行くぞー!」
女「はーい!」
男、男友「おーう!」
515:
男「って感じだったよ、昨日の文化祭は」
猫『楽しめたみたいでなによりだわ』
男「うん、すごく楽しかったよ。いやーほんとに」
猫『良かったわね。それを聞けて私も嬉しいわ』
男「あはは、そっか」
猫『でもね? 文化祭の最中は心中穏やかじゃなかったわ』
男「え」
猫『男が文化祭で柄にもなくテンションを上げてた時、私はどんな気持ちでいたと思う?』
男「……お腹すいたなーって気持ち?」
猫『ばかにしないでくれる?』
516:
猫『あなたが女の猫耳でハァハァしてる時、私はとっても退屈だったわ』
男「いやあの、ハァハァはしてな」
猫『あなたたちがライブで盛り上がってる時、私は独り寂しくお昼寝してたわ』
男「そ、そっか。あれ、母さ」
猫『男がよくわからない写真を買ってる時、私はあなたを思いながら空に浮かぶ雲を見ていたわ』
男「買ってないよ! っていうか俺をおも」
猫『男が打ち上げで皆と騒いでる時、私はあなたの布団にもぐりこんでごろごろしてたわ』
男「え、それもかわ」
猫『とにかく! 男は文化祭で楽しんだ分、私を楽しませる義務があるわ!』
男「りょ、了解です猫ちゃん。何かして欲しいことある?」
猫『……。そう言われると……』
男「ないんだ! あははははは!」
猫『だって! なでなでとかだっことかいつもしてもらってるから!』
男「そっかそっか。可愛いなぁ猫ちゃんは!」モフモフ
猫『んっ。だからっ! 急にもふらないでって言ってるでしょ!』
男(ヒートアップしてる猫ちゃん可愛すぎ!)モフモフ
517:
猫『だいたい、あなたが考えなさいよ。私が楽しめそうなことを』
男「そうだね。じゃあ公園に散歩しに行かない?」
猫『出たわね。いつもの公園デート』
男「うっ」
猫『まさかいつもと同じってことはないんでしょう? 場所は同じでも』
男「え……? いつもと同じ予定だったけど……?」
猫『あなたね、少しは趣向を凝らしなさいよ。私はいいけど、これが女とか男友とかだったら飽きられちゃうわよ?』ペシペシ
男「それはまずいね! ちょっと待って、何か考える!」
猫『とは言ったけど、私は別にいいのよ? そのいつもやってることが気に入ってるから』スリスリ
男「……優しいなぁ猫ちゃんは」ナデナデ
猫『ま、あなたにそこを期待するのは可哀想だものね』
男「はは、ははははは」
猫『ふふっ』
518:
男「趣向を凝らすとしたらどんな感じだろう」
猫『そうね……ちょっとルートを変えてみるとか』
男「それくらいなら余裕だよ。あ、でもなぁ」
猫『なによ?』
男「いや、あのルートは車とか人通りが一番少ないルートなんだよね」
猫『ふぅん、そうなの』
男「そうなんです」
猫『なぁに? そんなに私とふたりきりになりたいの?』
男「そうだねぇ、それもあるけど、独り言してると思われたくないからねぇ」
猫『あなたね、そこは素直にうなずいておきなさいよ』ペシペシ
男「そう! 猫ちゃんとふたりっきりになりたいからだよ」
猫『もう遅いわよ』
男「ミスったなー! ……もう一回聞いてくれる?」
猫『ふふっ、いやよ』
519:
猫『いつもどおりでいいわよ。公園に行って、ベンチで日向ぼっこ』
男「ここは男のプライドが……!」
猫『というかね、私は早くあなたとお出かけしたいの』
男「よし! これは今後の課題だね! いこっか猫ちゃん」
猫『得意の先送りね』
男「えぇっ!? やっぱり今から考」
猫『今のは私が悪かったわ。早く行きましょ』
男「もー猫ちゃんったら冗談きついんだからー」
猫『きもいわね。先に行くわ』スタタタ
男「あ、待ってよー!」タタタ
「いってきまーす!」
「ニャーン!」
529:
猫漫画と言えば「クレムリン」
531:
9月 夜 男の部屋
男「中秋の名月ってのを見たい」
猫『なによそれ』
男「俺もよく知らないけど、まぁ満月のことだよね」
猫『ふぅん。見ればいいんじゃないかしら。そこの窓から』
男「うん、それもいいんだけど、外に見に行かない?」
猫『あなたが行きたいって言うなら付き合うわよ』
男「そっか、ありがとう!」
猫『ま、あなたが外に出るのはいい傾向だものね』
男「結構出不精は改善してきたと思うけどなぁ」スタスタ
猫『まだまだよ』スタタタ
532:
バタバタバタバタ
男「母さん、ちょっと散歩行ってくる」
母「夜なのに? 物好きねぇ」
猫『ほんとよね』ニャーン
母「ほら、猫ちゃんも同意してくれたわ」
男「そうかもね。……前にもこんなやりとりした気がする」
猫『そうかもね』
母「車に気をつけるのよ」
男「うーい」
男「いってきまーす」
猫「ニャーン」
533:
男「よーし、今日はいつもと違う公園に行こっか。パン屋さん近くの」
猫『あら? ちょっとは趣向を凝らしたの?』
男「ちょっとはね。あっちの公園までの道のりの方が静かでいいんだ」
猫『ふふっ。なんで静かな方がいいのかしら?』
男「そりゃもう、猫ちゃんとふたりっきりがいいからだよ」
猫『キメ顔がきもいわね』
男「いま顔見てなかったでしょ!」
猫『なんだか夜なのに明るいわね』
男「今日は雲が少ないから月明かりで明るいねぇ」
猫『良かったわね。真っ暗だと男の不審者っぽさが増すものね』
男「不審者!?」
534:
男「秋の夜ってなんだか虫の声がよく聞こえるよね。いや夏も聞こえるかな」
猫『そうね』
男「こういうの結構好きなんだよねぇ」
猫『ふぅん。捕まえてきたら?』
男「いやーこれが実際目の前にすると嫌なんだよねぇ」
猫『虫なんて大したことないじゃない』
男「うーん、あれだよ。虫のフォルムが気持ちわるい」
猫『虫好きに怒られるわよ』
男「そんなの羽蛾くらいだよ」
猫『そんなわけないでしょ……っていうか誰よ』
535:
猫『男。女の家よ』
男「うん、そうだね。公園まで行くにはここを通るからね」
猫『ちょっと訪ねてきて』
男「無茶振り! 無理!」
猫『もう。面白くないわね』
男「猫ちゃんとふたりっきりがいいんだよ」
猫『なにかしらね、さっきとニュアンスが違って聞こえるわ』
男「だってまだ慣れてないからさー。それにこんな時間だし」
猫『まったく、キモオタなんだから……時間は仕方ないにしても』
男「うぐっ」
猫『ま、私もあなたとふたりきりの方がいいわ。さっきのは冗談よ』
男「ほっ」
猫『キモオタは冗談じゃないからね?』
男「おふ」
536:
公園
猫『いつも行ってる公園と比べると小さいわね』
男「そうだねぇ。でも、ここにはバスケのゴールがあるんだよ。ほら、あれ」
猫『ほんとうね。妹とここでバスケットをやったりしたの?』
男「うん。最近はないけどね」
猫『女もここで練習とかするのかしらね』
男「やってるかもね。近いし」
猫『男、あそこにベンチがあるわよ』
男「お、じゃあ座ろっか」
猫『あなたが座ってくれないと私の居場所がないわ』
男「あはは、そうだね。……はい、猫ちゃんおいで」ポンポン
猫『ええ』ピョン
男「……静かな夜だね」ナデナデ
猫『そうね』
男「……まるで俺達ふた」
猫『ロマンチストぶってるんじゃないわよ』
男「早くない!?」
537:
猫『で、どうなの? 中秋の名月を見た感想は』
男「うん、満月だねーって感じ。なんかカタツムリ見た日を思い出すね」
猫『ふふ、そうね。母に物好きって言われたりね』
男「そうそう。……あの時は猫ちゃんを怒らせちゃったんだよね」
猫『そうだったわね。でも本気で怒ったのはあの時くらいよ』スリスリ
男「そっか」ナデナデ
男「そういえばさ。喧嘩するほど仲がいいって言うよね」
猫『……そうなの?』
男「らしいよ? 俺と猫ちゃんって喧嘩しないよね」
猫『だって、あなた怒らないじゃない』
男「怒るようなことを猫ちゃんがしないからだよ」ナデナデ
猫『ふぅん? なら何をしたら怒るのかしら?』
男「うーん。やっぱり猫ちゃんと同じで無視かなあ」
猫『あなたの場合、私が無視したら落ち込みそうだけど』
男「確かにー! 普通に凹んじゃうねきっと」
猫『でも安心していいわ。無視なんて私ができないもの』
男(可愛すぎ!)
538:
猫『そもそもね。私、あなたと喧嘩なんてしたくないわ』
男「そうだよね。俺もそうだよ」
猫『その割には私を怒らせるようなことばかり言ってるけど?』
男「あー、それはね?」
猫『なによ?』
男「怒ってる猫ちゃんが可愛いからだよー!」ダキ
猫『なによそれ! って怒りにくくなったじゃない!』
男「すでにちょっと怒ってる! 可愛い!」ギュー
猫『あなたね……! ああもう、どうしたらいいのかしら』
男「あはははは! そのままでいいんだよ、猫ちゃん!」
539:
男「月にかわっておしおきよ!」ビシ
猫『……なに言ってるの?』
男「いや、一度言ってみたくて……」
猫『男なんかに代わられる月が可哀想だわ』
男「そこまで!?」
男「あの人もどこかでこの月を見てるのかな」
猫『そういうのって女の台詞じゃないかしら。さっきのも。きもいわよ』
男「いやー、これも一度言ってみたくて……」
猫『だいたい、あの人って誰よ。女? 男友?』
男「いやいや、特には想定してないよ」
猫『なら私ってことにしておきなさい。はいはい、私も見てるわよ』
男「猫ちゃんは猫だけどね。でも猫ちゃんってことにしておくよ」ナデナデ
猫『それでいいわ。特に嬉しくもないけどね』
男「あ、じゃああの黒猫にしようかな」
猫『それは絶対だめ』
540:
猫『それにしても……月が綺麗ね』
男「……くふふふふふ!」
猫『なに笑ってるのよ』
男「あはははは! いやいや、なんでもないよ!」
猫『ちょっと。怒るわよ』
男「いやほんと、なんでも、ないから。くふふふふ」
猫『なによ……月が綺麗って言っただけじゃない』ペシペシ
男「あははははは! うん、俺も綺麗だと思うよ!」
猫『だから! なに笑ってるのよ!』
541:
男「こう月を見てると、不思議な力が湧いてきそうだよね」
猫『これ以上あなたのヒキコモリパワーが湧いても困るわ』
男「全然不思議な力じゃないよね!?」
猫『なぁに? 狼にでもなるの?』
男「なってみたいねぇ」
猫『あなたはヤドカリとかカタツムリになりそうね』
男「ことごとく篭ってるね!」
猫『私ならそうね……人の姿になったりしないかしら』
男「きっと美人なんだろうなぁ、猫ちゃん」
猫『あなたは猫になっても可愛くないんでしょうね』
男「そんなことないよ! 多分、超キュートだよ!」
猫『あの女でさえもふらないような猫ね、きっと』
男「あの女さんが!? よっぽど可愛くないんだね……」
猫『ふふ、なに落ち込んでるのよ。可愛くなくても私は傍にいてあげるわ』
男「おお……! ここに女神が……!」
猫『パシリとして使ってあげる』
男「パシリ!?」
542:
男「そろそろ帰ろうか」
猫『私はまだここであなたとお話したいわ』
男「おろ? 外でそんなこと言うの珍しいね」
猫『満月だからよ』
男「はは、そうなんだ」
猫『ええ。別に、家に帰ったら男が勉強を始めて私を放置するから、って理由じゃないわ』
男「あ、そういう……」
猫『たまにはあなたを独り占めしてもいいでしょう?』
男「可愛すぎ! もふっていい?」モフモフ
猫『あっ、ちょっと! まだ私なにも言ってない!』
男「ダメだった?」
猫『……いいわよ』
男「きゃっほう!」ギュー
猫『んっ、はしゃぎすぎよ。もう』
543:
Trrrr! Trrrr!
男「ん? メールだ」ゴソゴソ
猫『珍しいわね』
男「確かに珍しいけども! どれどれーって妹か」パカ
From: 妹
Sub: 無題
―――――――――――
梨あるよ。そろそろ帰ってきたら?
お父さんがお兄ちゃんの分も
食べようとしてるよ
男「……」パタン
猫『なんだったの?』
男「梨があるらしい」
猫『家に?』
男「そう」
猫『ふぅん? それで?』
男「いや? それだけだよ。そんなことより、さっきの話の続き聞かせてよ」ナデナデ
猫『ふふ。あなた、無理してない?』
男「無理? はて? 一体何のことやら」
猫『あら? 梨はあなたの大好物じゃなかったかしら?』
男「好みは時間とともに変わっていくからねぇ」
猫『そう。……ねぇ、男? 私、急に眠くなってきちゃったわ』
男「ん? そうなの?」
猫『ええ。だから、そろそろ家に帰りましょう?』スリスリ
男「……本当に猫ちゃんは淑女だよね。参っちゃうな」ナデナデ
猫『ふふっ。ほら、何か返信したら?』
男「そうだね」パカ
544:
妹「あ、メール返ってきた」
From: お兄ちゃん
Sub: Re:
―――――――――――
今から帰るよ
でも俺、歩くの遅いから
そんなにすぐには帰れない。
だから父さんから
梨を守っておいてくれ
妹「……お兄ちゃんってそんなに歩くの遅かったっけ? まぁいっか」パタン
妹「お父さーん。お兄ちゃん今から帰るって。だから食べちゃだめだよ」
557:
10月 男の部屋
男「食欲の秋! 読書の秋! そんな季節だね」
猫『スポーツが出てこないあたりが男よね』
男「ちょ、ちょっと忘れてただけだよ。スポーツの秋もあるよねぇ」
猫『あなたはスポーツとかしたことあるのかしら』
男「あるよ! 遊びでサッカーしたり、妹のバスケに付き合ったり」
猫『ふぅん。でも最近の話じゃないでしょう?』
男「ま、まぁそうだけど。でも猫ちゃん、こう見えて俺、運動神経はそこそこ良かったんだよ?」
猫『過去形ね』
男「うぐっ。いいもん! 俺は本の虫になるもん!」
猫『……男は本を読み始めると私を放置するのよね』
男「え、そんなことないよ」
猫『あるわよ』
558:
男「たまには本気で身体を動かしてみようかな」
猫『本気って。ふふ』
男「なんだい猫ちゃん」
猫『だって、あなたが本気で身体を動かしたら次の日は動けなくなるじゃない。ふふっ、ぽんこつね』
男「ぽんこつ!?」
猫『それが嫌ならへっぽこね』
男「へっぽこ!? ……まぁでもその二つなら」
猫『ゴミとかがいいかしら?』
男「急に辛辣に!?」
コンコン ガチャ
妹「お兄ちゃん、スポーツの秋だよ」
男「いきなりどうした。読書の秋だろ」
猫『私は食欲の秋だと思うわ』
男『食いしん坊な猫ちゃん可愛い』ナデナデ
猫『……』ペシペシ
妹「お兄ちゃん運動不足でしょ。久々にバスケしようよ」
男「えー?」
猫『あなたのそこそこの運動神経が見たいわね』
男「よーし、やってやろうじゃないか」
妹「やった。じゃあ公園いこ」
男「くくくっ! 俺の天才プレーヤーっぷりを見せてやろう」
妹「ふふふふ。望むところだよ、お兄ちゃん」
猫『きっと帰る頃にはヘロヘロになってるでしょうね、男は』
559:
公園
男「ゴールがひとつしかないんだよな、ここ」
妹「そうなんだよね。でも、1on1だからひとつで十分だよ」
猫『あそこにボールを入れるのよね?』
男『そうだよ。これが難しいんだよねぇ』
猫『ふぅん、そうなの』
妹「じゃあお兄ちゃんからの攻撃でいいよ」
男「最初に謝っとく。ごめんな妹、俺は手加減ができないんだ」
妹「自信満々だね、お兄ちゃん」
猫『たまには男の格好いいところが見たいわね』
男『まかせて猫ちゃん! そこで見ててね、俺の勇姿を!』
猫『期待してるわ』
男「よし、行くぜ――!」
560:
男「ぜー……はー……」
妹「お兄ちゃん。汗かきすぎ、息上がりすぎ、ボール取られすぎ、点取られすぎ」
男「は、ははは。いやなに、軽く手加減してやったまで」
猫『最初に手加減できないって言ったのは誰なのかしらね』
妹「はいはい。次はお兄ちゃんだよ」
男「お、おう。だむだむだむ……」ダムダム
妹「それ言わなくていいからね」
男「ふっ!」ダッ
妹「っ」サッ
男「読まれているだと!?」
妹「っていうかお兄ちゃん、右からしか攻めてこないよね」
猫『というか、男は右手しか使えないんじゃないかしら』
男「ならばっ! スリーポインツ!」シュッ
ガコン!
妹「スリーポイントはもっと後ろからだよ、お兄ちゃん」
561:
男「俺はディフェンスで魅せる男」
妹「打たれ弱そうだけどね」
猫『メンタルも弱いわね』
男「ボ、ボールを取れば勝ちだから」
妹「そうだね。でもお兄ちゃん、わたしを止められる?」
男「なめてもらっちゃ困る。さあ来な」
妹「」ダッ
男「ほっ!」ササッ
妹「」クルリ
男「はっ!? なにそのかっこいいターン!」
妹「庶民シュー」パサ
猫『ふふっ、なに棒立ちしてるのよ』
男『あはは。圧倒されちゃったよ』
男「俺もそういう格好良いプレーがしたいなー」
妹「だったらボール見ないでもドリブルできないとね。あと両手どっちも使えないと」
男「基本だよなあ、それは。うーむ、このままじゃ勝てん……」
猫『仕方ないわね。一回だけ私が協力してあげるわ』
男「!」
562:
男『協力とは?』
猫『私が注意を引くから、その間にシュートなりドリブルで抜くなりすればいいわ』
男『どうやって引くの?』
猫『ま、見てなさい』
妹「はい、次はお兄ちゃんだよ」
男「オーケー。今回はやられない」
妹「へぇ? お兄ちゃんの手は全部わかってるよ?」
男「それでも! やるときはやる男、それが」ダダッ
妹「読んでたよ、不意打ち」サッ
男「くっ!」ダムダム
妹「ふふふ、お兄ちゃん、どんどん隅っこに追い込まれてるよ」ジリ
猫「ニャーン!」
妹「え?」
男「今だっ!」ダダッ
妹「あっ!」
ぱさっ
男「鋭いドライブからのレイアップ……完璧だ」
妹「い、今のは猫ちゃんに何かあったのかと思って!」
男「おろ? 言い訳かい妹ちゃーん?」
妹「むかー」
猫『男、かっこ悪いわよ』
男『おふ』
563:
男「俺はその後、妹に嘘のようにボロ負けした」
猫『嘘のようにっていうか、とうぜんよね』
妹「あの一回だけだったね、お兄ちゃん」
男「くっそー。あと一人味方がいれば高さを利用したバスケができるのに……!」
猫『大人気ないわね』
妹「それはずるいよー、お兄ちゃん」
男「使えるものを利用して何が悪いんじゃ!」
妹「それだったらこっちも助っ人呼ぶよ?」
男「おー、みーちゃんでもガリガリ君でも呼べばいいさ!」
妹「」ピッピッ
男「あれ、本当に呼ぶの? じゃあ俺も電話してみるか……」スタスタ
猫『あなたの助っ人は男友かしら?』
男『もちろん。あの巨体を使わない手はないよ』
猫『ほんとうに大人気ないわね……』
男『言わないで!』
564:
男「よし、発信」ピッ
プー プー プー
男「……話し中?」
猫『あら、タイミングが悪かったわね』
男「しょうがない、あとでかけ直すか。どれ、妹は……」
妹「ってわけなんで、来てくれませんか」
『おお、いいぞ。面白そうだし』
妹「助かります! さっき言った公園にいますので」
『おーう。今から行くわー』
猫『電話越しなのに声がよく聞こえたわね。あの声は……』
男「妹よ。まさかとは思うが今の電話の相手は……」
妹「うん、男友さんだよ。お兄ちゃん、世の中早い者勝ちなんだよ」
男「……泥棒猫!!」
猫『!?』
565:
男「ぬあー! 俺の切り札がー!」
妹「早くお兄ちゃんも呼んだら? あ、ごめんね。男友さん以外友達いないんだっけ」
男「そんなことはない! ……ひとり心当たりがある」スタスタ
猫『確かにひとりいるわね』
妹「まさか、お父さんとか言わないよね」
男「言わん!」
男『しかし助っ人として呼ぶのはなかなか……』
猫『呼びなさいよ。友達なんでしょう?』
男『そうだね。……ええい、ままよ!』ピッ
Prrrr! Prrrr!
男『うおおおお、手に汗握る!』
猫『小心者ねぇ』
『もしもしー?』
男「あ、もしもし。今、電話大丈夫? ……そっか、良かった。
いやね、ちょっとお願いしたいことが――」
566:
男友「おーう、妹ちゃん」
妹「夏休み以来ですね、男友さん。相変わらずでかいですね……」
男友「そういう妹ちゃんは大きくなっ……たなー」ワシャワシャ
妹「なんですか今の間は。っていうか縮みます!」
男友「がははははは! そういや男は?」
妹「助っ人を呼ぶために電話を」
男「今し終わったよ。……やぁ、友。楽しそうだね」
男友「おう。男もな」
男「……あっさり妹サイドに寝返りやがって!」
男友「寝返るも何も、俺はフリーだっただろうが」
妹「そうだよお兄ちゃん」
男「まあいい。俺は友以上に強力な助っ人を呼ぶことに成功した」
男友「ほう?」
男「くくくっ! まあ待っていろ」
567:
男「お、来たみたいだ! おーい! こっちこっちー!」ブンブン
猫『笑顔で走ってきてるわね。相変わらず元気なこと』
男友「どれどれ、一体誰が来……」
妹「え? あの人が……?」
女「助っ人見参! ちょっと待たせちゃったかな?」
妹、男友「ちょっと待ったー!!」
女「!? ご、ごめんね?」
猫『そういう意味じゃないと思うわ』
妹「お兄ちゃん、ちょっと来て!」ガシ
男友「そうだ、こっちに来い!」ガシ
男「あーれー」ズルズル
女「?」
568:
男友「おい男! 女さんはずるいじゃないか!」
妹「ちょっとお兄ちゃん! 超可愛い人じゃん! お兄ちゃんの友達なわけないじゃん!」
男「なんでだ! ずるくないし、友達だ!」
男友「ちょっと前まで現役だったバスケ部を助っ人に呼ぶとは……」
妹「バスケ部の人なんですか?」
男友「ああ、そうなんだよ」
男「くくくっ! やるからには本気を出さないとなぁ!」
妹「どこに本気出してるの……。でも! こっちには長身の男友さんがいるんだからね」
男友「とは言っても俺、バスケ自体は別に上手くないからな」
妹「!?」
女「なに話してるんだろうねー。猫ちゃん」ナデナデ
猫『あなたのことでしょうね』ニャーン
569:
男「ごめんね女さん、待たせちゃって。相手チームが女さんを前にビビっちゃってさ」
女「へっへっへ! 怖くない怖くない、大丈夫だよー?」
男友「ビビってないです、大丈夫です」
妹(お茶目な人だなー)
男「女さん、こいつが俺の妹。バスケ部なんだ」ポン
女「バスケ部! あたしと一緒だね。あたし、女って言うの。よろしくね!」
妹「妹です。よろしくおねがいします、女さん。……それでいかほどのお金で助っ人契約を?」
男「お金なんか出してないわい!」
女「あははっ、妹ちゃん面白いねー」
男「俺は傷つくばかりだけどね」
猫『傷ついた男を私が慰める……これは使えるわね』
男『猫ちゃん、思考が漏れてるよ!』
570:
男「そろそろやろうか」
妹「お兄ちゃん、ボロ負けしても泣かないでね」
女「ふっふっふ! あたしが泣かせないよー!」
男友「かっこいいな女さん。それに比べて男ときたら……」
猫『普通逆よね。ほんとうに男は……』
男「何も言い返せない!」
男「よし、じゃあ始めようか。そっちからの攻撃でいいよ」
男友「ジャンプボールしようぜ!」
女、男「勝てるかっ!」
妹「男友さん、手筈どおりに」
男友「おう、任せな!」
女「じゃあスタートだね。はい、妹ちゃん」パス
妹「はい。では、いきますよ――!」
571:
男「ぜー……はー……」
猫『相変わらずへばるの早いわね』
男友「おいおいもうへばったのか?」バタリ
女「男くん、大丈夫? っていうか男友くんもへばってるじゃん……」
妹「お兄ちゃん達、体力なさすぎでしょ」
男「そっちが体力ありすぎ! こんな、動きっぱなしじゃきつい……」
男友「まったくだ……」
女「しょうがないなー。じゃあ妹ちゃん、1on1やろっか」
妹「お願いします! 女さん上手いですから、いろいろ参考にしたいです」スタスタ
女「あはは、そんなに上手くないよー」スタスタ
猫『ちょっとあなた達、情けないわよ』ニャーン
男友「おー猫よ。俺達を労ってくれるのか」
男「情けないって言ってるよ……ってか友はまだ動けるだろ?」
男友「ばっきゃろ、男だけ抜けたら数が合わないだろう」
男「それもそうだ……」
572:
ベンチ
男「おー、二人とも動きにキレがあるなー」
男友「そうだな。ジャンプとか違うよな、なんか」
猫『へっぽこーずは観戦モードなのね』
男『もうへとへとでやんす』
男友「リバウンドを取ろうとしたらさ、女さんが俺の前に入ってくるんだけど」
男「スクリーンアウトってやつな」
男友「なんていうか、緊張したわ」
男「わかる。俺はハイタッチで緊張した」
猫『哀れね……』ニャーン
男友「今、猫に哀れまれた気がする……」
男「当たってるよ……」
男友「お! あの女さんが攻めあぐねてるぞ。いいぞー妹ちゃん! ナイスディフェンス!」
猫『あら、ほんとうね。男も応援してあげたら?』
男『よし、ここはひとつ声を張ろうか』
男「女さーん! そろそろ24秒になるよー! がんばれー!」
「えー!? 計ってるの!?」
「隙ありです!」バシッ
「あっ! もう男くん! どっちの味方なの!?」
男「あははははは! ごめんごめん!」
猫『逆効果になっちゃったわね。ふふっ』
573:
男「何か飲み物でも買ってくるか」スタスタ
男友「そうだな」スタスタ
猫『私も行くわ』トテトテ
男友「……なんで猫ってのは歩いてるだけで可愛いんだろうな」
男「本当にな」
猫『あら、照れるわね』
男「猫ちゃんが歩けばただの道も一瞬でキャットウォークになるな」
男友「うーん……」
猫『また微妙な……』
男「上手くなかったね! 悪かったね!」
男友「お、あったあった。自販機」
男「よし、妹にはアクエリっと。女さんはどうしようか」ガコン
男友「このHOTな缶コーヒーはどうだろう。エメラルドマウンテン」
男「やばい、面白そう」
猫『私も興味あるわね』
男『女さんの反応が気になるよね』
男友「これは俺用として買うか。最初に女さんに渡して反応を見よう」ガコン
男「いいな。じゃあ俺はお茶とアクエリ買っとくわ。女さんに選んでもらおう」
男友「んじゃ、戻るか」
男「おーう」
574:
女「あ、戻ってきたよ」
妹「どこ行ってたの? お兄ちゃん達」
男「ちょっと飲み物を買いにな。ほら、妹」
妹「ありがとう! お兄ちゃん!」
女「良いお兄ちゃんしてるねー男くん」
男友「ほい、そんな女さんにはこれだ」
女「えっ、あたしの分もあるの? ありが……あったかいねこれ! しかもコーヒー!」
男友「あ、だめだったか? ごめんな……」
女「え、あ、ううん! あたしコーヒー好きだから大丈夫だよ!」
猫『男友、いい演技するわね。ふふっ、楽しいわ』
男『ねー。俺も笑いをこらえるのが大変だ』
男友「いや、いいんだ女さん……買い直してくるわ」
女「男友くん! コーヒーで大丈夫だよ! むしろコーヒーじゃなきゃダメなくらい!」
男友「……ぷっ! がはははは! 女さん、冗談だ。女さんのは男がちゃんと買ってきてあるから」
男「くふふ、女さんのフォロー……あははははは!」
女「もー! 普通にだまされちゃったよー! あったかいのはおかしいじゃん!」
猫『ほんとうに素直なのね』
男『そうだねぇ』
575:
男「で、どっちが勝ち越したの?」
妹「女さん。もう全然歯が立たなかったよ」
女「ううん! そんなことないよ! 妹ちゃんもすごく上手かったもん」
男友「確かにどっちも凄かったな。俺達と比べたら」
男「だな」
妹「男友さんはリバウンドいっぱい取ってくれたじゃないですか。すごく助かりました」
男友「そうか? ちょっとでも役に立てて良かったわ」
女「男くんは…………えへへ」
男「誤魔化された!?」
猫『可哀想に……ほら、私のもふもふをかしてあげるわ』ニャーン
男「うぉーん! 猫ちゃーん!」ヒシ
男友「猫に泣きつくなよ……」
妹「お兄ちゃん……」
女「冗談冗談! 男くんはスクリーンが上手だったよーってあれ? 聞いてない?」
猫『ちょっと、いつまで泣き真似してるのよ』
男『うん。もうちょっともふもふしたい』
猫『あなたね……』
576:
男友「でもあれだ。1on1では妹ちゃんが負けたかもしれないけど、チーム戦の時はこっちが勝ってたろ」
女「そうだねー。今回は引き分けかな」
妹「お兄ちゃんがいて助かったー」
男「妹よ、それはどういう意味かね?」
妹「聞きたいの?」
猫『男、聞かないほうがいいわ。あなたが傷つくだけよ』
男『もう傷ついてる!』
男「やはり決着をつけないとだめだな、妹よ」
妹「望むところだよ、お兄ちゃん」
女「あたしもやるよっ!」
男友「なら俺も参加せずにはいられないな」
男「よし! じゃあ今度はこっちから行くぜ――!」
「はい男くん! そこからスリーポイント!」
「いやいや女さん! 無理だって! あっ!」
「男友さん! ダンクお願いします!」
「無理無理! ジャンプ力が……!」
「なら俺がやってやる! とう!」
『かすりもしなかったわよ、男。ふふっ』
577:
バスケットの話でした。これも書いてて楽しかった
579:
やべえな、女さんとの距離が縮まりつつあるな
乙!
580:

猫ちゃん空気回wwこう言うのもありか
588:
10月31日 男の部屋
猫『今日はハロウィンね』
男「お、よく知ってるね」
猫『さっき母と妹が話してるのを聞いたの』
男「そうなんだ」
猫『というわけだからトリック・オア・トリート。お菓子とかいらないからいたずらさせなさい』
男「あれー? なんかおかしくない?」
猫『どうやらお菓子は持ってないようね。ふふっ。さて、どんないたずらをしましょうか』
男「なんだろう……俺も楽しみだ」
猫『今からいたずらされるっていうのにのんきな男ね。なめられてるのかしら』
男「ひぃー! いたずらされたくないよー!」
猫『ふふ、お菓子をくれなかったあなたが悪いのよ?』
男「最初にいらないって」
猫『そういえば、男の携帯にメールが届いていたわよ。女から』
男「えっ? 気付かなかった、どれどれー……って来てないじゃん!」
猫『あら、こんな嘘にだまされてるようじゃ先が思いやられるわね』
男「む」
589:
男「さてと! 気を取り直して勉強でもしようかな!」
猫『勉強は大事だものね。励むといいわ』ペタン
男「……ノートの上に居られると勉強できないなー?」
猫『あら? 気付かなかったわ。ごめんなさいね』トテトテ
男「……教科書の上でも勉強できないよー?」
猫『わがまま言わないでくれる? 私の居場所がなくなるじゃない』
男「わがまま!?」
猫『もう仕方ないわね。ここで我慢してあげるわよ』
男「定位置だね。そこならいいよ」ナデナデ
猫『』モゾモゾ スリスリ
男「ね、猫ちゃん? あんまり膝の上で動かれると集中できないなー?」
猫『あのね? 私も好きでやってるわけじゃないのよ? あなたがお菓子をくれなかったから仕方なくやってるの』
男「最初にいたずらさせなさいって」
猫『ふふふっ。はぁ、楽しいわぁ』
590:
男「んー、なんか飲みたいな。ちょっと猫ちゃんどいてくれる?」
猫『どうしようかしらねぇ』
男「はい、じゃあ俺が下ろしてあげるからねー」ダッコ
猫『あん』
男「これでよしっと。じゃ」スタスタ
猫『』トテトテ
男「猫ちゃんはここに居ていいよ」
猫『私の同伴を断るっていうの?』
男「まっさかー。おいで」
猫『ふふ、ありがと』
男「コーヒーにするか」
「わたしココアよろしくー!」
男「……しょうがないな」
猫『私はお水』
男『了解』
猫『いらないわ』
男「紛らわしいよ!」
「なにがー?」
男「なんでもなーい!」
猫『あなたがテレパシーを声に出しちゃうの久しぶりね。おもしろいわ』
男「むむ」
591:
男の部屋
猫『楽しかったわ。ハロウィンっていい行事ね』
男「それはよかった。そんな猫ちゃんに言いたいことがあります」
猫『なぁに?』
男「トリック・オア・トリート!」
猫『……いろいろとおかしいわね』
男「それは言わないお約束。さぁ! どっち?」
猫『私がお菓子とか持ってるわけないでしょう?』
男「くふふ! じゃあいたずらしちゃうぞー?」
猫『ええ。いいわよ』
男「……おかしい。なんでこんな平然としているのか」
猫『だって、男は私が嫌がることはしないもの』
男「んー、そう言われるとできなくなっちゃうなー」
猫『言わなくてもやらなかったでしょ』スリスリ
男「あはは、参ったな」ナデナデ
592:
男「よし、そろそろ寝ようかな」
猫『あら、早いわね』
男「うん。まあね」ゴロン
猫『それなら私も』モゾモゾ
男「うっそぴょーん! まだ寝ないよー!」ガバ
猫『……ひどいわ、男。いたずらにも限度があるわ』
男「え、あれ? さっきいいって言」
猫『私をもてあそんだのね』
男「ご、ごめんね?」
猫『とりあえず寝て。早く』
男「」ゴロリ
猫『それで私をぎゅーってして?』
男「は、はい」ギュ
猫『んっ……つぎはなでて』
男「はい」ナデナデ
猫『んー……おやすみなさい、おとこ』
男「……おやすみ、猫ちゃん」
男(敵わないなぁ猫ちゃんには)
600:
11月 男の部屋
猫『男、そろそろ起きなさい』
男「うー……」
猫『ちょっと、聞いてるの?』
男「うーん、聞いてる……」
猫『遅刻するわよ?』
男「今起きる……うぅ、今日は寒いねぇ」
猫『今日は暖かいほうだと思うけど』
男「えー……?」
猫『……男。なんだか顔色が悪いわね』
男「え? 顔がイケメン?」
猫『一言も言ってないわ。一言も』
男「そんなに強く否定しなくても。……身体が重いな」
猫『太ったんじゃない?』
男「太ったのかなあ」
601:
コンコン ガチャ
母「ちょっとあんた、時間ないわよ。ってなにその顔」
男「……イケメン?」
母「風邪で頭がおかしくなったのね。学校には電話してあげるから寝てなさい」バタン
男「せめて熱をはかるとかさぁ!」
猫『風邪ひいたの?』
男「そうみたい。言われてみれば風邪の症状だった」
猫『なんでかしらね?』
男「最近寒かったからかな。よくわからない……」
猫『夜は私があたためてあげてるのにね』
男「本当にね。学校でもらってきちゃったのかなあ」
猫『ま、今日はゆっくり休むといいわ』
男「そうする」ゴロン
猫『』モゾモゾ
男「……猫ちゃん。朝ごはん食べた?」
猫『まだだけど?』
男「食べておいでよ」
猫『あなたと一緒に食べるわ』
男「そっか……よし、下行こう」ムクリ
猫『……そういうつもりで言ったわけじゃないのよ?』
男「わかってるわかってる」ナデナデ
602:
男「うーん、やっぱりあんまり食べられなかったなあ」ゴロン
猫『ほんとうに調子悪いのね……大丈夫?』
男「大丈夫だよ。そんなに熱もないし」
猫『そう。ならいいんだけど』
男「そういえば、猫ちゃんに風邪うつったりするのかな。調べよう」パカ
猫『うつるわけないでしょ。人の風邪なんて』
男「いやいやわからないよー…………お、うつらないみたいだ。良かった」パタン
猫『ほらね。だから今日はずっとそばにいてあげる』
男「心強いなぁ。風邪の時って意外と心が弱るからねぇ」
猫『あら? あなたもそうなの?』
男「もちろん。もし一人だったら辛くて泣いてるかも。おーんおん」
猫『きもいわね』
男「おふ」
603:
男「今頃みんなは授業か……」
猫『そうでしょうね』
男「……暇だ」
猫『私はいつもこんな時間を過ごしてるのよ?』
男「そうだよね。でも猫ってさ、こういう時間がいいんじゃないの?」
猫『……ま、そうね。でも、私はあなたと一緒にいる時間が一番だから』
男「はは、嬉しいこと言うなぁ」
猫『だからね。今日は男には悪いんだけど、ちょっと嬉しいの』
男「どうしたの猫ちゃん。今日はやたら可愛いこと言うけど」
猫『あなたが弱ってるみたいだから。そこに付け込もうと思って』
男「小悪魔猫ちゃん!」
猫『ふふっ、淑女はしたたかでもあるのよ?』
男「あはは、ほんと敵わないよ。猫ちゃんには」ナデナデ
604:
男「……」パラ
猫『……』
男「あーダメだ。頭痛い」パタン
猫『漫画なんか読むからよ』
男「そうかもね。ちょっと寝るかー」
猫『そうした方がいいわ。私も一緒に寝てあげる』
男「風邪引いてるから寝相悪くなるかも」
猫『別に気にしないわ』
男「そっか……。じゃあ、おやすみ猫ちゃん」
猫『おやすみなさい、男』
男「……んん」
猫『……』トテトテ
男「うーん……」
猫(うんうん唸ってるわね)
猫『』ペロペロ
猫(早く治しなさいよ)
猫(あなたが元気じゃないと……)
猫(お散歩に出掛けられないじゃない)
猫(……なんてね)
605:
――
――――――
男「ふぁーあ。よく寝た……ような」
男(まだだるいな。頭痛もまだ……)
猫『あら、起きたの』モゾモゾ
男「うん。……布団から顔だけ出してる猫ちゃん可愛い」
猫『よく眠れたかしら?』
男「そうだね。思ったより眠れたかな」
猫『まだお昼だけどね』
男「あれ? もう夜になってるものだと……1時か。どうりで明るいわけだ」
猫『あなたの携帯、何回か鳴ってたわよ』
男「お、どれどれー……男友からのメールか」
猫『どんなメール?』
男「暇だから見舞いに行ってやる、だって。別にいいのに」
猫『ほんとうは嬉しいくせに』
男「まぁ、ね」
606:
男「昼飯も食べたし、薬も飲んだ。そして暇」
猫『なにもしないで横になってなさい』
男「やっぱりそうするべき?」
猫『そうした方がいいんでしょう?』
男「まぁねぇ。でも、ずっとそうしてるのもかえってつらい」
猫『ふぅん。それなら、私をぎゅってしたり、なでたりするといいわ』
男「お? 急に眠気が」
猫『ちょっと!』
607:
男「バカは風邪ひかないって言うよね」
猫『……? それはおかしいわね』
男「俺がバカだからって答えは受け付けてないよ!」
猫『あら、ばかのくせによくわかってるじゃない』
男「ひどい!」
猫『ばかね、冗談よ』
男「またバカって!」
猫『ごめんなさい、今のは無意識だったわ』
男「やっぱり心の奥底ではバカって……」
猫『思ってないわよ、ばかね』
男「思ってるじゃん!」
猫『私の言うことが信じられないの?』
男「俺が悪い流れ!?」
猫『あなたは私の言うことをばか正直に受け取ればいいの』
男「また! またバカって言った!」
猫『あなた、さっきからそればかりね』
男「今もまた! バカって!」
猫『意味が違うでしょ。ばかだからわからないのかしら』
男「確かに今のは俺がバカだった!」
猫『はい、あなたは今自分でばかって認めたわ。よってあなたはばか。
ばかは風邪をひかないなんてのは嘘。なぜならあなたがばかだから。ふぅ、証明終了ね』
男「猫ちゃんのバカ!」
猫『なんですって!?』
608:
男「あー面白かった」
猫『ふふっ、そうね』
男「もうすごいズバズバ言うんだもんなぁ」
猫『本心じゃないから安心しなさい』スリスリ
男(可愛すぎ!)ナデナデ
男「気付けば夕方か。猫ちゃんと話してると時間が早く過ぎるね」
猫『私も同じことを思ってたわ』
男「お、そうなんだ。……そういえば、楽しい時間は早く過ぎるって言うよね」
猫『……? それはおかしいわね』
男「これはおかしくないでしょ!」
猫『あら? さっきの再現じゃないの?』
男「違うよ!」
609:
ピンポーン
猫『何か下で聞こえたわよ』
男「友が来たのかな? しかし本当に来るとは思わなかった」
猫『いい友達じゃない』
男「そうだねぇ」
猫『私、ちょっと見てくるわ』スタタタ
男「はいよー」
猫『あら? 男友ともう一人いるわね』
「えー!? 男に女の子の友達がいたの!?」
「男のお母さん。我々も信じがたい話ですが、現実なんです」
「そんなに大袈裟に言うことかな……?」
「妹から聞いてはいたけど本当だったのね。これからも仲良くしてやってね」
「もちろんです! 男くん達、とっても楽しいですから」
「それは滑稽とかそういう意味じゃないよな?」
「なんでそう取るの!?」
「まあ、とにかく上がっていってー。男も泣いて喜ぶわ」
「「お邪魔しまーす」」
猫『ふふっ。これはおもしろいことになりそうね』
610:
男「……ん? 誰か上にあがってくるな。友かな」ムクリ
猫『男。戻ったわ』ニャーン
男「おかえりー猫ちゃん」
男友「ただいまー」
男「なにヌルっと入ってきてやがる」
女「お邪魔しまーす」
男「!?」
男友「どうだ、驚いたか」
男「……っ……あ」パクパク
猫『声出しなさいよ』
男『なんで女さんが!?』
猫『だから声出しなさいって』
611:
男「どうして女さんがここに!?」
女「え? 男くんのお見舞いに……」
男友「俺が男ん家行くって言ったら、あたしもおちょくりに行くーって」
猫『なるほどね。納得だわ』
男「あー、そういうことか。納得」
女「なんで納得しちゃうの!? 違うからね!?」
男友「案外余裕そうだな」
男「まあな」
女「明日は来れそうなの?」
男「うん。多分行けるよ」
猫『あら、残念』
男『ごめんねぇ』ナデナデ
猫『ばか、冗談よ』
女「相変わらず猫ちゃんと男くんは一緒にいるんだねー」
男友「男よ。束縛する男は嫌われるぞ」
男「してないわい!」
猫『してもいいわよ?』
男(挑発的な猫ちゃん可愛すぎ!)
612:
女「男くん、これ今日のプリント」
男「ありがとう。女さん」
女「あとこれ、飲み物とか」
男「え! そんな、悪いよ」
女「いいのいいの! 前にアクエリ貰ったお返し!」
男「……それじゃ、お言葉に甘えて。ありがとう」
男友「俺からは特に無い」
男「そうかい」
男友「じゃあそろそろお暇するわ」
女「お大事にねー」
男「うん。二人ともありがとう。また明日」
猫「ニャーン」
男友「おーう。じゃあな」
女「ばいばーい」
613:
男「いやーびっくりしたね。二人で来るとは」
猫『母もびっくりしてたわよ。女の子が来たって』
男「あーこれは後でからかわれるなぁ」
猫『でも良かったじゃない。いろいろ持ってきてくれたみたいで』
男「うん、すごく嬉しい。どれ、何のプリントが配られ……あ」
猫『どうしたの?』
男「今気付いたけど、寝る前に読んでた漫画そこに置きっぱなしだった」
猫『そうね』
男「くっそ、よりにもよってなんでToLOVEるダークネスを……! うぁー女さんに見られたー」
猫『そんなに気にしないと思うけど』
男「俺が気にするの! もう寝る! ふて寝する!」
猫『そう。おやすみ』
男「はぁ……枕の下にToLOVEるを入れて寝よう。待ってろヤミちゃん。おやすみ」
猫『キモオタね……』
614:
翌日
猫『男、起きなさい。朝よ』
男「んー……おはよう、猫ちゃん」ムクリ
猫『今日は顔色がいいわね』
男「え? 顔がイケメン?」
猫『はいはい』
男「猫ちゃんの反応が……これは封印しよう」
猫『そんなことより、体調は大丈夫なの?』
男「うん。もう大丈夫だよ」
猫『そう、良かったわ。で、学校の方は大丈夫なの?』
男「お、ちょっと急がないとやばいね。猫ちゃん、朝ごはん食べよっか」
猫『あなたが起きるの遅いから、もう食べちゃったわ』
男「あれ? そっか」
猫『なんてね、嘘よ。ほら、早くしてくれる? 私もうお腹ペコペコなんだから』
男(待っててくれる猫ちゃん可愛すぎ!)
男「よし! 俺が下までエスコートしてあげるよ!」ダキ
猫『んっ、だっこするならもっとちゃんとぎゅってして』
男「はいよー!」ギュ
猫(……やっぱり男は元気な方がいいわね)
624:
12月24日 リビング
TV『クーリスマスが今年もやーってくる――♪』
猫『ねぇ、男。元気出しなさいよ』
男「……」
猫『別にいいじゃない。あなただけ何も予定がなくても』
男「……」
猫『少なくとも私は気にしないわ。男が一人ぼっちで家に居ても』
男「……」
猫『なんてことない一日じゃない。普通は家族や恋人と過ごすみたいだけど』
男「……」
猫『ふふふっ。楽しいわぁ』
男「やっぱりわざと言ってた! 心えぐるようなことばっかり!」
猫『あのね? 私はあなたを元気づけるために言ったのよ?』
男「どんどん落ち込んでくよ!」
625:
男「夫婦は水入らず。妹はクリパとかいう謎の集会。さて、俺は?」
猫『暇なんでしょ』
男「その通りですぅぅぅ」
猫『男友あたりと遊べばよかったじゃない』
男「いや、電話はしたんだよ。そしたら」
男友『なんで野郎と過ごさにゃならんのだ』
男「そう言って切られた。許すまじ……!」
猫『なら女は?』
男「恐れ多すぎて考慮すらしてない」
猫『小心者なんだから……』
626:
バタバタバタバタ
妹「お兄ちゃん、わたしそろそろ行くね」
男「おーう。むしろまだいたのか」
妹「むか。そういうお兄ちゃんもいるじゃん」
猫『妹、男には予定がないのよ』ニャーン
男「俺は夜に女さんとデートだから」
妹「わかりやすい嘘……」
男「哀れむな!」
猫『言ってて悲しくならなかったの?』
男『なりました!』
妹「ねー、早く帰ってきてあげよっか? 寂しいでしょ? お父さんもお母さんもいないし」
男「なーに言ってんだか。しっし」
猫『ふふっ、帰ってきてもらえば?』
男『兄の威厳というものがある』
妹「素直じゃないなあ」
男「でもあんまり遅くなるなよ。中学生なんだから」
妹「わかってますよーだ。お兄ちゃんこそ夜遊びは……あ、無縁だったね」
男「妹きらい」
妹「!? ……ごめんね、ちょっと言い過ぎちゃった」
男「嘘だよ。わかりやすくなかったか?」
妹「……びっくりさせないでよ! ばか!」
男「あはははは! めんごめんご!」
627:
妹「じゃあ行ってくるね」
男「おーう、楽しんできな」
妹「うん、いってきまーす」
男「いってらっしゃい」
猫「ニャーン」
男「俺達だけになっちゃったね」
猫『私はあなたとふたりきりでも寂しくないわよ?』
男「そっかー! 俺もだよ!」ナデナデ
猫『ふふっ、うそつき』
男「いやいや嘘じゃないよ」
猫『ふぅん? それならなんで男友に連絡したのかしら?』
男「そ、それは……」
猫『ねぇ。あなたがお出掛けしてたら、私はここで独りぼっちだったのよ?』
猫『でも仕方ないわよね。私、猫だものね、って自分を納得させたけど』
男「……ごめんね、猫ちゃん。俺、自己中だった……」
猫『……ふふっ。男、冗談だから。そんなに真に受けなくていいのよ』
男「……」
猫『そんな顔しないで。ちょっといじわるしたかっただけなの』スリスリ
男「……」ギュー
猫『んっ。ちょっと、どうしたの?』
男「猫ちゃんのせいだよ!」ギュー
猫『意味がわからないわ!』
628:
男「外が暗くなってきたなぁ」
猫『そうね』
TV『ご覧ください! このイルミネーション! クリスマスイヴの夜を鮮やかに彩って――』
男「へぇ……」
猫『……』
男「猫ちゃん、イルミネーションに興味ある?」
猫『ええ。あるわよ』
男「ちょっと外に見に行こうか」
猫『そんな誘い方、いや』ツン
男「えぇっ!? 急にどうしたの?」
猫『ふふっ、今日は私があなたの恋人役をやってあげる』
男「こんな淑女が恋人って……最高すぎる!」
猫『私の恋人は最低だけど』
男「最低!?」
猫『う、そ』
男「……やばいな、これは」
猫『ふふ、あなたってほんとうに簡単よね』
629:
男「猫ちゃん、綺麗な夜景を見に行かない?」
猫『いや』
男「俺と一緒に聖夜を過ごそう」
猫『だめ』
男「君という女神に俺の時間を捧げたい」
猫『きも』
男「……猫ちゃん、デートしよっか」
猫『ふふっ、喜んで』
男「あれ。こんなんでいいの?」
猫『ええ。別になんでもよかったもの』
男「無駄に言わされた!?」
猫『それにしてもひどいセンスね』
男「しょうがないじゃん! 女の子を誘ったことないんだから!」
猫『あら、じゃあ私が初めてってことでいいのかしら?』
男「えー? 猫ちゃんはノーカウントでしょ」
猫『あなたね、そこはカウントしなさいよ』
630:
玄関
男「よし。準備万端! エスコートしますよ、お姫様」
猫『ええ、お願いね』
ガチャ
男「うわっ、さむっ!」
バタン
猫『……エスコートしてくれるんじゃなかったの?』
男「猫ちゃんはこの寒さに耐えられないだろうから、今回はやめとこうね」
猫『あなたが耐えられないんでしょ』
男「いやいや猫ちゃん、ちょっと外に出てみて」ガチャ
猫『……寒いわよ!』
男「でしょ? やっぱりクリスマスに外出なんて狂気の沙汰」バタン
猫『……残念。あなたとデートしたかったのに』
男(しゅんとしてる猫ちゃん可愛すぎ!)
男「そうだ。膝掛けで猫ちゃんを包んだらマシになるかも」
猫『やってみてくれる?』
男「オーケー。……どう?」
猫『外に出てみないとなんとも言えないわ』
男「よし、出てみようか」ガチャ
男「さむっ。どう、猫ちゃん」
猫『ええ、平気だわ。……すごいわね、この膝掛け』
男「そっか! じゃあ出掛けられるね!」
猫『男は? 寒くないの?』
男「俺は猫ちゃんをだっこしてるから、それだけであったかいよ」
猫『そう。ならいいんだけど』
男「よーし、それじゃ出発!」
631:

男「しかしあれだね。俺、変な目で見られないかな?」
猫『大丈夫よ。みんな私にしか目が行かないから』
男「大部分は膝掛けで包まれて見えないけど」
猫『ミステリアスってことね。私の魅力が上がっちゃうわ』
男「あー、なるほどねぇ」
猫『それで、どこに向かってるの?』
男「適当にふらふらと。ほら、そこらの家でもイルミネーションを飾ってるでしょ?」
猫『そうね。テレビではもっと派手なものだったけどね』
男「そうだねぇ。もっと街の中心に行けばあるだろうけどね」
猫『行かないの?』
男「人が多いからなぁ」
猫『そう。それならいいわ。静かな方がいいものね』
男「さすが猫ちゃん、わかってるぅ」
猫『あなたに合わせてあげたのよ』
男「あはは、そっか。ありがとう」ギュ
632:
公園
男『ん? なんだかいつもより人が多いような……』
猫『そうね』
男『あ! 見て猫ちゃん、あそこにクリスマスツリーがあるよ!』
猫『あら、すごいわね。きらきらしてるわ』
男『どうりでカップルが多いわけだ……』
猫『今気付いたけど、やっぱり公園なのね。あなたのデートって』
男『完全に無意識だった……』
猫『相手が私じゃなかったら……』
男『……どうなる?』
猫『捨てられてたわね』
男『そこまでっ!?』
633:
ベンチ
男『それにしてもあんなツリーがあるとはなあ。今まで知らなかったよ』
猫『あの一番上に飾ってある星がいいわね』
男『いいねー。ほんときらきらしてる』
猫『私、綺麗なものには目がないのよね。ねぇ、男?』
男『……なんだい?』
猫『あれ、取ってきて』
男『無茶振り!』
「あっくん。あそこスペースあるよ」
「お、本当だ」
猫『カップルがこのベンチに座るみたいね』
男『他に空いてるところはなかったのか』
猫『ないから来たんじゃないの。男が独りで座ってるところに』
男『いくらベンチが広めとはいえ……』
「ほら、みほ。お茶」
「ありがと! はぁ、あったかーい」
男『……俺も何か温かい飲み物買ってこようかな』
猫『居たたまれなくなったのね』
男『違います』
猫『ふぅん? 買ってきたらここに戻ってくるの?』
男『もちろんだとも』
猫『テレパシーが震えてるわよ』
「ほら、あっくんも!」
「おわっ、いきなりほっぺに当てんなよ!」
「あははっ、おもしろーい」
男『おもしろーい』ビキビキ
猫『おもしろいわね、あなたの反応が』
634:
男『なんでカップルの会話を聞かなくちゃならないのか』
猫『あなたが勝手に聞いてるんでしょ』
男『聞こえてくるんだからしょうがない』
猫『私達も声出してお話する? ちゃんと鳴いてあげるわよ?』
男『それこそまずいよ……』
猫『ふふっ。それもそうよね』
「ねー、この後どうする?」
「どうしようか」
男『けっ』
猫『けっ、って』
男『この後どうする? 猫ちゃん』
猫『どうしようかしらね?』
「あんまり遅くなるとみほの家族も心配するだろうからなー」
「えー? 別に大丈夫だよぅ」
男『あんまり遅くなると猫ちゃんのお腹がペコペコになっちゃうだろうからなー』
猫『……。えー? 別に大丈夫だよぅ』
男『うん。可愛くないね』
猫『言わせといて! 可愛くないって何よ!』
男『あははははは! いつもの猫ちゃんの方が可愛いってことだよ!』
猫『……そういうことね。なら納得だわ』
男『やっぱり切り替えが早いよね』
635:
「なぁ。ずっと一緒にいような」
「うん。ずっとあっくんと一緒にいる」
猫『ふふふっ』
男『どうしたの? 確かに笑えるけど』
猫『前にね、母が見てたドラマでこんなシーンがあったのよ』
男『ほう?』
猫『でもね、そのうち彼女の方が浮気しちゃうの。それで母が「クズね、この女」って言ってたわ』
男「あはははははっ! そりゃ傑作だわ!」
「「!?」」
男『やべっ。退散だ』ダッ
猫『ふふっ、傑作ね』ニャーン
636:
男「いやー思わず声に出しちゃったよ」
猫『もう、ばかなんだから。私、もうちょっとツリーを見たかったわ』
男「ごめんねぇ。ほら、イルミネーションならそこらの家もやってるよ」
猫『私はあのツリーの星がよかったの』
男「そっか。でも猫ちゃん、空を見上げてごらん。そしたら幾万の星屑が……」
猫『きもいわよ』
男「おふ」
猫『何か他にしたいことはないかしら?』
男「そうだなあ。じゃあ猫ちゃん、ちょっとお手を拝借」ギュ
猫『なぁに?』
男「ふははは、手を繋いで歩こうと思ってね!」
猫『ふふ、私は歩いてないけどね』
男「細かいことはいいんだ。いやー肉球がぷにぷにだなあ」ニギニギ
猫『男、手が冷たいわ』
男「あ、ごめんね」パッ
猫『ううん、そういうことじゃないの。寒くない?』
男「全然寒くないよ! 俺は手だけ冷たいんだ!」
猫『そうなの。ねぇ、それならもう一度手を繋いでくれる?』
男「うん。にぎにぎ」ギュ
猫『ふふっ。なんだか変な感じね』
男「あはは、そうだね」
637:
男「世のカップルどもは何をしているんだろうなぁ」
猫『さあ』
男「お洒落なレストランで食事とかかな」
猫『猫缶も出してくれるかしら』
男「あはは、どうだろうねぇ」
猫『ま、何を食べるかじゃないわ。誰と食べるか、よ』
男「さすがは猫ちゃんだね」
猫『ええ。母と父と妹で食べるごはんはおいしいわ』
男「あれれー? 一人足りなくない?」
猫『ばかね、あなたは一緒にいる前提よ』
男(可愛すぎ!)
猫『決して忘れてたわけじゃないわ。ええ』
男「あれ? ほんとは忘れられてた?」
638:
帰り道
男「いやークリスマスイブがこんなに楽しいのは久しぶりだ」
猫『ふふっ。そう?』
男「うん。こんなに可愛い猫とデートしてるからね」
猫『傍から見たら寂しい男だけどね』
男「それは言わないお約束。俺が楽しいからいいんだ」
猫『そう。私も楽しいわよ』
男「そっか。よかった」
男「あれ、なんか降ってきた……雪か」
猫『私、初めて見たわ』
男「ここらへんはめったに降らないからねぇ」
猫『そうなの』
男「しかし今日降るとは……ホワイトクリスマスか」
猫『雪が降るとそういうふうに言うのね』
男「うん。まぁ、俺にとっては最初からホワイトクリスマスだけどね」
猫『……まさかとは思うけど、私が白いからとか言わないわよね?』
男「……てへっ」
猫『あなたってほんとうにセンスないわね』
男「うぐっ」
猫『今ので今日のデートは全部台無しよ』
男「えぇっ!? そこまでっ!?」
猫『ふふっ、そこまでよ。だから、来年はちゃんと成功させてね?』
男(挽回のチャンスをくれる猫ちゃん可愛すぎ!)
男「っていうか、それって来年も俺は独り身ってこと?」
猫「ニャーン」
男「猫ちゃん!?」
646:
2月14日 リビング
妹「ねー、お兄ちゃん。今日は何の日か知ってる?」
男「さぁ。俺には皆目見当がつかない」
妹「教えてあげよっか?」
男「んー、別にいいです」
TV『今日はバレンタインデーということで、女の子達が――』
猫『バレンタインデーね』
妹「そう、バレンタインデーだよ。お兄ちゃん」
男「……俺は大学の二次試験でそれどころじゃないんだ」
妹「甘いモノを食べると頭に良いらしいよ?」
男「そうかい。あとで砂糖でも舐めとくわ」
妹「ふふふ。わたしがチョコつくってあげる!」
男「溶かして型に入れたものは手作りとは言わんぞ」
妹「なめてもらっちゃ困るよ? 期待してて!」タタタ
男「……普通、前日にはできてるものじゃないのか」
猫『今日はテンション低いわね、どうしたの?』
男『いろいろあるんだ……』
647:
男の部屋
男「」カリカリ
猫『……』
男「」カリカリ
猫『ねえ、いろいろってなに?』
男「いいかい猫ちゃん。そもそもバレンタインデーにチョコを贈るなんていうのは」
猫『ええ』
男「日本のお菓子会社の販促によるもので」
猫『きのう母が、販促とか言っちゃう男の人って恥ずかしいわよね、って言ってたわ』
男「……販促であるとか言われてるけど、起源ははっきりしてないらしいね」
猫『そう』
男「で、俺が本当に言いたいのはここからなんだけど」
猫『ふぅん?』
男「今の世の中には、いわゆる本命チョコ以外に、義理チョコ、友チョコ、しまいには逆チョコなんていうものが存在してるんだよね」
猫『それで?』
男「これもやっぱり販促以外の何ものでもないと思うんだけど」
猫『やっぱり販促批判じゃない』
男「ではなく、これだけ企業がバレンタインデーというものに必死になるということは」
猫『ええ』
男「そのバレンタインデーに縁のない人間にとってはすごく居心地が悪いんだよね。
 街全体がチョコ一色になる勢いだから。クリスマスもそうなんだけど」
猫『テレビもチョコの特集とかしてたものね』
男「そう。だから、もうちょっと慎ましくやっていただきたいなと思うわけ」
猫『母はね、そんなふうにうだうだ言ってる人ほど哀れな人はいない、って言ってたわ』
男「うおおおおおおおおん!!」
648:
男「ま、家に居ればそれは回避できる問題」パラ
猫『妹が何か作ってるけど』
男「あれは例外。それに妹は俺にくれるみたいだし」
猫『やっぱり欲しいんじゃない』
男「そりゃ欲しいよ。妹ってのがなんともあれだけど」
猫『貰えるだけいいじゃない。貰えない人だっているんでしょう?』
男「いやー、家族からも貰えない人ってそうそういないと思うよ」
猫『ふぅん』
男「ま、それより勉強だよ。本命に受からないと、一人暮らしになるかもしれないからね」
猫『ちょっと、初耳よ』
男「あれ? そうだっけ? まあ大丈夫だよ」
猫『ほんとうでしょうね。信じるわよ?』
男「うん、信じていいよ」
649:
猫『私が人だったらあなたにチョコをあげられたのに』
男「あはは、その気持ちだけで嬉しいよ」
猫『お返し目当てでね。3倍返しなんでしょう?』
男「小悪魔的! まあ、でも猫ちゃんになら3倍返しも許せるね」
猫『ふふっ、メロメロね』
男「そりゃもう」
コンコン ガチャ
妹「お兄ちゃん、わたしがチョコを恵んであげます」
男「おうおう随分上から来たな」
妹「いらないの?」
男「いる」
猫『即答しちゃうところがまた……』
男『しーっ』
妹「ふふふ。はい、どうぞ」
男「なんだこの可愛い包装は……すぐ開けるのに」
妹「それだけ心を込めたってことだよ。わかって」
男「そ、そうか」
猫『ふふっ。なに照れてるのよ』
男『ちょっとびっくりした』
650:
男「これは……なんて言うんだ?」
妹「トリュフだよ」
男「それはきのこじゃないのか」
妹「お兄ちゃん……ほんとうに知らないんだね」
男「哀れむな!」
猫『そのきのこに形が似てるからトリュフって言うらしいわよ』
男『合ってるじゃん!』
猫『でも知らなかったんでしょ』
男『うっ』
妹「ね、食べてみて」
男「ああ」パクー
妹「……どうかな?」
猫『どうなの?』
男「おー! 思ったよりうまい!」
妹「やった。っていうか思ったよりってなに!」
猫『ふふ、素直においしいって言えばいいのに』
男『ははっ。なんか、ね』
651:
妹「これで勉強もはかどるでしょ?」
男「そうだな。脳が活性化してるような気がする」
妹「棒読みなのが気になるけど。じゃ、がんばってね」バタン
男「おーう」
猫『よかったわね。ゼロじゃなくて』
男「まぁねぇ。でもたまには家族以外から……」
猫『じゃあ女の家に押しかけましょう』
男「それで貰っても嬉しくないよ! もはや押収だよ!」
猫『ふふ、そうね』
男「よーし、本命に受かるためにますます勉強しないと」
猫『本命といえば……もし私があなたにチョコをあげるとしたら、何チョコだと思う?』
男「えー? 本命といえば、って言ってそれ聞いちゃう?」
猫『聞いちゃう』
男「うーん……あ、そうだ。答えは義理チョコ。なぜならさっき3倍返し目当てって言ってたから!」
猫『……ねえ、男。本音と建前って知ってる?』
男「もちろん知ってるよ?」ナデナデ
猫『ふふっ、そう』
男「くふふ。で、答えは?」
猫『言わなくてもわかるでしょ? だから教えない』
男「あははは! 素直じゃない猫ちゃん可愛すぎ!」ギュー
猫『んっ。ばか、素直じゃないのはあなたでしょ!』
661:
3月 男の部屋
男(猫ちゃんがくつろいでる)
男(たまに動く尻尾が可愛い)
男(あくびとかしちゃって。くくっ)
男(しかしそんな姿にもどこか気品が……)
男(おろ、立った)
男(そして歩いてこっちに……膝に乗ってきた)
猫『ねぇ』
男「んー?」
猫『あんまり見つめないでくれる?』
男「俺は奥にあったごみ箱を見てたんだよ?」
猫『ふぅん……私がいるのにごみ箱を見てたの。男って変わってるわね』
男「はは、うそうそ。猫ちゃんを見てました」ナデナデ
猫『やっぱり。まるでストーカーみたいな目だったわ』
男「ストーカー!?」
662:
男「今日はずっとごろごろしたい気分だ」
猫『そう。私も付き合ってあげるわ』
男「猫ちゃんはごろごろのプロだもんね」
猫『なにかしら。むかつくわね』ペシペシ
男「あはは、怒ってる猫ちゃん可愛い」ナデナデ
猫『もうっ』
男「……」ナデナデ
猫『……』
男「……」ナデナデ
猫『んー……』
男「もふもふだ」
猫『なですぎ。あなたのせいで眠くなったわ』
男「寝ちゃっていいよ」ポンポン
猫『ばか。せっかくあなたを独り占めしてるのに。もったいないわ』
男(可愛すぎ!)ナデナデ
猫『ちょっと、聞いてるの? 眠くなっちゃう!』
663:
男「なんか俺も眠くなってきたなぁ」
猫『さっき起きたばかりじゃない』
男「そうなんだけどねぇ」
猫『寝たら猫パンで起こすわよ』
男「それは怖い! 起きてよう」
猫『そうして』
男「でもちょっと目つぶってるね。寝るわけじゃないけど」
猫『そう』
男「うん……寝るわけじゃないから……」
猫『……』
男「……」
猫『ねぇ』
男「……んー?」
猫『今、寝てたでしょ』
男「いやいや、まさか」
猫『ふぅん』
男「あはは……」
猫『……』
男「……」スー
猫『ちょっと』
男「」zzz
猫(寝ちゃってるじゃない)
猫(……ま、昨日は大騒ぎだったものね)
664:
〜〜
男「やったっ! 本命受かったー!」
母「良かったわね、男! おめでとう!」
男「ありがとう! はー、前期で決まって良かったー!」
母「今日はお祝いしなくちゃね。お父さんにもメール送らなくちゃ」
猫『おめでとう、男。家から通うのよね?』
男『そうだよー! もう最高だ!』ギュー
猫『んー!』
〜〜
665:
猫(その後、女からメールがきて)
猫(そこで初めて男と同じ大学ってことを知ったのよね)
猫(男友は違う大学に行くみたいだけど)
猫(そっちも受かったみたい)
猫(ふふ、のんきな顔しちゃって)トテトテ
猫(でも、私を放置するのはいただけないわね)
猫(……)
猫(……そういえば)
猫(あの猫缶を食べたのって確かこの時期じゃなかったかしら)
猫(……)
猫(ふふっ)
666:
猫『男、そろそろ起きて』
男「……んー、起きる」
猫『もう夕方よ』
男「……あれー? そんなに寝ちゃってたか」
猫『私を放置してね』
男「あ……ごめんね。猫パンで起こしてくれると思ったからさ」
猫『あなたの寝顔を見たら、そんなことする気もなくなったわ』
男「そっか。優しいなぁ、猫ちゃんは。うりうり」ナデナデ
猫『ふふっ、とうぜんでしょう? それより』
男「ん?」
猫『あなたと意思疎通できるようになった日、いつか覚えてる?』
男「んー……3月ってことくらいしか……」
猫『そう。なら教えてあげるわ。去年の今日よ』
男「え、そうなの? じゃあ今日は意思疎通記念日だね」
猫『それもいいけど、私ちょっと考えてることがあるのよ』
男「なに?」
猫『あの猫缶の効果、一年なんじゃないかしら』
男「!?」
667:
男「な、なんでそう思うの?」
猫『なんだか胸騒ぎがするの。もしかしたらテレパシーが使えなくなっちゃうかもって』
男「き、気のせいじゃ……」
猫『……』
男「あれ……? 本当なの……?」
猫『ねえ。私達ならテレパシーなんてなくても意思疎通できるわよね?』
男「……うん。この一年で猫ちゃんがどんなことを思ってるか教えてもらったからね」
猫『ふふ、私のこと、ちゃんとわかったかしら?』
男「うん、とにかく可愛いってこととか」
猫『浅いわね。そんなだからキモオタなのよ』
男「大丈夫。もっと色々わかったから」ナデナデ
猫『……あのね? 最後のテレパシーは、私があなたに対して一番強く思ってることを伝えたいの』
男「うん」
猫『いつ、私に猫缶を食べさせたか、覚えてる?』
男「時間は何故か覚えてるよ。6時ジャスト……ってあと10分しかない!」
猫『そう。じゃあ6時になる直前に伝えることにするわ』
男「なら、それまでお話しようか」
猫『ええ』
668:
男「この一年は本当に楽しかったなぁ」
猫『そう?』
男「うん。友達が増えたし、出不精も改善したし」
猫『私のおかげね』
男「本当にそのとおりなんだよ。全部猫ちゃんのおかげ」
猫『ふふっ、でもキモオタよね』
男「それはいいじゃん!」
猫『私も楽しかったわよ。意思疎通できてからは特に』
猫『たくさんの景色を見せてもらったわ』
猫『桜に、アジサイに、海に。満月やクリスマスツリーもそう』
猫『ぜんぶ、あなたのおかげ』
男「……これからもっといろいろなものが見られるよ。大学生は時間があるから」
猫『ふふ、そうなの。なら見せてね? 新しい景色』
男「うん。もちろん」
669:
17時59分
猫『そろそろね』
男「うん……」
猫『ふふっ、男、なんて顔してるのよ』
男「あれ? 笑顔になってない?」
猫『くしゃくしゃよ。……ばかね、別に私がいなくなるわけじゃないのよ?』
男「……そうだよね。悲しむ必要なんかないよね」
猫『ええ、安心して。私があなたから離れることはないわ』
男「あはは、猫ちゃんはやっぱり可愛いや。……あ」
猫『時間?』
男「うん。あと15秒」
670:
『じゃあ、教えてあげる』
『私があなたに一番伝えたいこと』
『私ね、あなたのこと――』
『大好き』
671:
18時00分
男「……それが最後のテレパシー、か」
男「あはは、そんなの、改めて言葉にする必要なんて」
男「……でも、猫ちゃんらしいかな」
猫「……」
男「猫ちゃん?」
猫「ニャーン」
男「俺も大好きだよ」
672:
『ふふっ、男ってとことん私にメロメロよね』
男「あれ!?」
673:
猫『私の言うことならなんでも信じちゃうのかしら。ふふ』
男「ね、猫ちゃん?」
猫『なぁに、その顔? 間抜けよ?』ペシペシ
男「テレパシーが使えなくなるって……」
猫『使えなくなっちゃうかも、よ』
男「かも……」
猫『それに、使えなくなる根拠もあって無いようなものだったじゃない。ふふっ、胸騒ぎってなによ』
男「……」
男「…………」
男「猫ちゃんっ!」
猫『猫ってきまぐれなのよ? 知らなかった?』
男「気まぐれにもほどがあるよ! 今回は怒るよ!?」
猫『でもね? さっき言ったことはぜんぶ本心よ?』
男「う……あ……い、いや騙されないよ! そうだとしても今回は怒った!」
猫『こんなにあなたのことが大好きなのに……怒っちゃうの?』スリスリ
男「なっ……!」
猫『ふふっ、あなたってほんとうに簡単ね』
男「…………ぷっ、あはははは! ダメだやっぱり猫ちゃんには敵わない!」
猫『男がちょろすぎるのよ』
男「それもあるけど! ……でもさ、なんでこんなことを?」
猫『あなたが私を放置して眠ったから、その罰よ』
男「そんな理由で!?」
674:
男「あーでも良かった。猫ちゃんの冗談で」
猫『ちょっとやりすぎちゃったわね』
男「ほんとだよ。もう、俺、すごく疲れた……」
猫『ふふっ、ごめんなさい。でも、たまにはいいじゃない』
男「えー?」
猫『お互いの愛を確認しあうのも』
男「なんかすごいこと言ってる!」
猫『ふふ、なに猫相手に照れてるの?』
男「照れてないわい!」
猫『ふぅん?』
男「……ええい! もうなんでもいいからもふらせろー!」
猫『んっ! ちょっと!』
おわり。
675:
よかったようう
676:
>>68から始まった後日談もこれにて完結です
ここまで続けられたのも偏に皆さんのレスのおかげです。いや本当に
突っ込みどころとか猫に関しての問題とかいろいろあったと思います。それは申し訳ないです
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました!
677:

猫好きとしていわしてもらおう。

678:
おつおつ
面白かった
679:

そして感謝ヽ(´∀`)ノ.+゚
楽しかった
681:
おつおつ
うちの猫ちゃんも話せるようにならないかなあ
でもずりネタ指摘されるのやだな
682:
超乙!
やばい最後泣きそうになってしまった
終わるのがすごく寂しいな…。
けど約四か月間読んでてすごく楽しかった!
猫ちゃんかわいい!
683:
終わっちゃうのか……
685:

楽しませてもらったよ
686:
終わるのか、寂しくなるな。
とにかく乙でした!
687:
乙!!非常に楽しかったよ!!
68

続き・詳細・画像をみる


れんげ「ほたるんと二人きりの学校なのん」

【悲報】フジテレビ「バイキング」の視聴率がヤバイ件wwwwwwwwww

【CL準々決勝】2nd チェルシー×パリ・サンジェルマン、ドルトムント×レアル・マドリードの結果(動画)

マツコ・デラックスの楽天市場での鯨肉販売禁止にたいしてのコメントがwwwww

お前らが好きなアニメってアニメじゃなくて萌えアニメだよな

【画像】ズッキの幼女時代の写真が流出wwwwwwwww

対立することの多いメイク派とノーメイク派。共存できるはずなのでお互い妥協するべきだと思う

高校生だが八方美人で悩んでる

【画像あり】コンビニが車に突っ込まれすぎててワロタwwwwwwwwww

【悲報】ヤクルト・館山、再び右肘手術… 前半戦絶望

1stガンダム、8巻ないですか・・

兄「妹友をお漏らし調教する」妹友「絶対に許さない!」ウルウル

back 過去ログ 削除依頼&連絡先