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幽霊「殺されました」


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1:
このSSには殺人、流血、カニバリズム等の表現が含まれています。
基本的にゆっくりとしたガールズトークです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376149194
2:

幽霊「殺されました」
女「はい」
幽霊「なので」
女「はい」
幽霊「仇をとってください」
女「丁重にお断りさせていただきます」
3:

幽霊「何故です」
女「その前に、言葉遣い崩していいですか? 丁寧語は苦手なもので」 
幽霊「お構いなく」
女「ありがとう。で、まずあなた誰?」
幽霊「これは失礼。生前は佐野舞子と名乗っていました。戒名はまだです」
女「あたしは樋口ゆかり。佐野さんは最近死んだばかりなの?」
幽霊「そうです、七日前に」
女「ここらへんで殺人事件とか事故とか、なかった気がするんだけど」
幽霊「発覚していないだけです」
女「マジか」
幽霊「マジです」
4:

女「佐野さんは人知れず死んで、遺体もまだ見つかっていないと」
幽霊「そうなりますね」
女「それは……まあ、御愁傷様です」
幽霊「いえいえ。もう終わりましたから」
女「うわぁ…なんというか胸が苦しい」
幽霊「そんなに気にしないでください。こちらも困りますので」
女「どこで死んだの?」
幽霊「え?」
女「犯人を捕まえることはできないかもだけど、身体ぐらいなら発見して通報できるよ」
幽霊「ありがとうございます。でも、ちょっと難易度が高いですよ」
5:

女「山? 海?」
幽霊「それならまだ良かったんですけどね」
女「というと?」
幽霊「犯人のおなかの中です」
女「お、おなか」
幽霊「はい」
女「おなかって、ぽんぽんのことだよね?」
幽霊「ぽんぽんですね」
女「それってつまりはカニバリズム……!」
幽霊「ソニー・ビーン一族とかアルバート・フィッシュのあれですね」
女「いや知らないけど」
6:

幽霊「知らなくてもちゃんと生きていけますので問題ないです」
女「はぁ」
幽霊「骨はまだかろうじて残っているんでしょうかね。後は煮込まれたり焼かれたり」
女「おええぇぇ」
幽霊「ごめんなさい。ああ、さする手がないのは不便ですね…」
7:

女「復活。だけどトラウマ間違いなし」
幽霊「どうもすみませんでした」
女「とにかく、ここまでの話を整理しよう」
幽霊「ええ」
女「犯人はカニバリズム趣味を持ち、佐野さんは殺されて食べられている」
幽霊「そうなりますね」
女「佐野さんの身体は犯人の家にあるってことでいいの?」
幽霊「はい」
女「ますます仇とか討ちたくないよ…。食べられちゃうじゃん」
幽霊「しかし、早めに対処しないといずれ樋口さんも食べられるんじゃないかと」
8:

女「なぜに私が」
幽霊「犯人、このアパートの隅っこに暮らしていますから」
女「それって」
幽霊「あなたの隣の隣に住んでいることになります」
女「嘘だと言ってよバーニィ」
幽霊「残念ながらこれ現実なんですよね」
女「あの人温厚で優しいのに…そんなことするようには思えない」
幽霊「しかし実際に私は殺されてしまったわけですし」
女「というか、気づかなくてごめんなさい」
幽霊「いいえ。声潰されてましたから叫べませんでしたし、距離だって一部屋ぶんあいてますし」
女「いろいろ重い」
9:

幽霊「今まであなたに手を出していないのは、新たな失踪者がこのアパートから出るとまずいんからだと思いますよ」
女「私が突然いなくなったら警察がこのアパートを調べたり聞き込みをしたりするからかな」
幽霊「おそらくは」
女「あれ?」
幽霊「はい?」
女「新たな失踪者って、まさか佐野さんの前にも何人か…」
幽霊「いました。犯人が自分で五人殺したと言っていましたし」
女「し、新聞! アイフォンでもいいや! どこだ!」
幽霊「散らかってますからねぇ」
女「ない! どこにいったんだアイフォン!」
幽霊「ここに」
女「サンキュ!」
幽霊「いえいえ」
10:

女「えっと記事は…これか。この市と、隣の市町の失踪者の数……この半年で四人。警察は事件性があるとみて捜査を……ありありだよ!」
幽霊「あれ、失踪者リストに私も含まれているみたいですから数が合わないですね」
女「もしかしたら誰かの捜索願が出されてないだけかもしれない。うわぁ、どうしよう」
幽霊「失踪事件の犯人が同じアパートに住んでいるってどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち?」
女「塩撒くぞ」
幽霊「ごめんなさい」
女「分かればいい」
幽霊「ありがたきしあわせ」
11:
10
女「うわああ、もう無理無理無理、これからどうやってあの人と話せばいいの」
幽霊「腹をくくるしかありません。私は首をくくられましたが」
女「それジョークだと思ったら大間違いだからね?」
幽霊「やはり。死んでからというものの急激に空気が読めなくなりました」
女「まあ現世から卒業したようなものだからね…」
幽霊「早く常世に行きたいものです」
女「成仏しないの?」
幽霊「犯人に仕返しするまではこの世界にしがみ付いて見せます」
女「そうですか」
12:
11
女「警察に通報…しても信じてもらえないか」
幽霊「証拠があれば一発なんですけど」
女「よしちょっと自分の体持ってきてよ」
幽霊「それが出来たら苦労しません」
女「ですよねー」
幽霊「あの人たまに食べきれない部分とかをゴミ出ししているんですよ。そこを激写してゴミ袋開けて」
女「可憐な乙女に死体の入った袋を開けろと申されるか」
幽霊「ふぁーいとっ! たたかうっきみっのうたをっ!」
女「この野郎、人ごとだと思いやがって…」
幽霊「じゃあなんですか、犯人に直接インタビューですか」
女「なんでキレてるの?」
幽霊「ちょっと殺された時のことを思い出して無性に腹が立ちました」
13:
12
女「まあ、その気持ちはわかるかもしれない」
幽霊「食べられながら殺されたといいますか、殺されながら食べられたといいますか」
女「一思いに死にたいものだね」
幽霊「まったくです」
女「はあ……写真の件は、ゴミの日は明後日だからちょっと考えさせてよ」
幽霊「はい」
女「あたしはあたしなりに調べる。佐野さんがあたしの幻覚って言うこともあり得るから」
幽霊「なんと変なところで疑い深いお方」
女「じゃあ、夜も遅いからまた明日ね。おやすみ」
幽霊「はい、おやすみなさい」
21:
13
幽霊「樋口さんはお休み中です、と誰にともなく呟いてみます」
幽霊「ん…こんばんは」
幽霊「えっと。どちらさまでしょうか、武者のお方」
幽霊「!?」
幽霊「は、話せばわかります! 話せば分かりますから! だから刀を下ろしてください!」
幽霊「違います、私悪いものじゃありません。はい、はいそうです」
幽霊「分かってもらえて何よりです…」
幽霊「見る限り…あなた様は樋口さんの守護霊ですか?」
幽霊「ああ、ご先祖様ですか。これはどうもです」
22:
14
幽霊「樋口さんは私のことが見えていますが、あなた様は?」
幽霊「見えるけど普段は隠れている? それはまた、どうして」
幽霊「…子供の時に大泣きされたからですか。もう彼女は大人ですけど…」
幽霊「嫌われるのが怖いと。見た目と違ってかなりナイーブな方なのですね」
幽霊「私ですか? 年が近くて同性だからかと思われます」
幽霊「はい」
幽霊「霊の性転換とか誰の得になるんですか」
幽霊「落ち着いてください」
幽霊「『こっちのほうの刀はもう使わない』?」
幽霊「下品なネタはやめてください」
23:
15
幽霊「落ち着かれたようで何よりです」
幽霊「…え?」
幽霊「それは、その……」
幽霊「確かに、彼女を犯人を捕まえるために使うのは心苦しいです」
幽霊「危険だって…あるかもしれません。だけど」
幽霊「あの男、樋口さんを」
女「んー…」
幽霊「……寝相変えただけですね。びっくりした」
幽霊「あ、はい。続けます。樋口さんも狙っているみたいで」
幽霊「そう話してました。私の肉削ぎながら」
幽霊「痛いというか、そのころにはもう感覚なかったんで」
24:
16
幽霊「『彼女の肉もおいしそう』とか言ってたんです」
幽霊「そうですね、変態です」
幽霊「時期が来たら、いずれ私――私たちと同じように食べられてしまうでしょう」
幽霊「だから、これ以上あんな思いする人を出してはいけないから」
幽霊「警告半分、見つけてほしい半分で樋口さんに接触したわけです。触れてはいませんが」
幽霊「…私のせいで彼女が死んだ場合?」
幽霊「その時は…私が責任を持ちます」
幽霊「どうやって? それは……」
幽霊「……」
幽霊「そうですね。すべては樋口さんの判断にゆだねます」
幽霊「彼女が拒否したなら、私はもう関わりません。警告だけして去ります」
幽霊「はい」
幽霊「お気遣いありがとうございます」
幽霊「――もうすぐ朝ですね。寒そうな天気です。もう分からないのが残念ですが」
幽霊「分かりました、よろしく言っておきます」
25:
17
女「ふわ…」
幽霊「早起きですね」
女「あのさ」
幽霊「どうしましたか」
女「胸の上で正座するのだけはやめて」
幽霊「体育座りは」
女「そういう問題じゃない。どけぃ」
幽霊「所詮霊魂ですからぶつかりませんし、無視して起き上がってもいいかと」
女「気分の問題」
幽霊「そういうものですか」
女「そういうものです」
26:
18
女「ともあれ、おはよう」
幽霊「おはようございます」
女「あ…幻覚が未だに消えていない」
幽霊「まだそれを言いますか」
女「正直そろそろ現実から目背けるのも無理な気がしてきたんだよね」
幽霊「といいますと」
女「悲しいけどきみを幽霊として認定しよう」
幽霊「わーい」
女「とりあえず朝ごはん食べよう。牛乳っと…あれ、牛乳がない」
幽霊「そんな絶望的な顔をしなくても」
女「牛乳のないコーンフレークなんてただのぱりぱりしたコーンフレークだ!」
幽霊「コンビニに買いに行けばいいじゃないですか」
女「せっかくの休みは引きこもるって決めていたのに…」
幽霊「ダメ人間ですね」
女「自覚はしている」
27:
19
女「うー、寒い……」
幽霊「寒いですか。私にはさっぱり分か――…犯人の登場です」
女「お、おはようございます」
犯人「ああ、樋口さんおはようございます。寒いですね」
女「寒い、ですね」
犯人「学生はもう冬休みなんでしょうね。僕ら社会人としては羨ましいことです」
女「ですね…とても、うらやま、しい、です」
犯人「どうかしたんですか?」
女「あ、その、ガス止めたか気になってきちゃって」
犯人「あはは、確認してきたほうがいいですよ。じゃあまた」
女「はい、また」
28:
20
女「これほど自分の家に入って安堵したことない!」
幽霊「おつかれさまでした」
女「もうなんなの、ミステリー小説で最初から犯人分かってるみたいなこの感じ!」
幽霊「事実その通りでしょう」
女「もうお外出たくない怖い」
幽霊「それで、牛乳はどうするんですか?」
女「あっ」
幽霊「……」
女「……どうする?」
幽霊「私には関係ありませんし」
女「うううー、買いに行こう…」
幽霊「よっぽどパリパリが駄目なんですね」
29:
21
女「で」
幽霊「はい」
女「剛球で帰ってきました」
幽霊「お帰りなさい」
女「はいただいま。でもついてきてたよね」
幽霊「ついていきましたね」
女「とにかくこれであたしは朝食を食べられる」
幽霊「良かったです」
女「まったくだ。終わったらネットしよ」
幽霊「このあと激写用カメラ買いに行きましょうよ」
女「低月給にそんな高価な物買わせるんじゃありません!」
幽霊「申し訳ない」
女「犯罪の瞬間を撮ることだってできる。そう、アイフォンならね」
幽霊「写りも綺麗なんですよね、それ。私も変えておけばよかった…」
33:
22
女「……」
幽霊「なにか」
女「はい、チーズ」
幽霊「チーズ」
女「やっぱり写らないなぁ」
幽霊「肉体ないですから」
女「射影機なら写せるかもしれない」
幽霊「除霊はやめてください」
女「『祭』!」
幽霊「超チートのアレですね」
34:
23
女「やはりぺにょぺにょのコーンフレークは美味しい」
幽霊「私はパリパリとヘナヘナの中間あたりが好きでした」
女「あれもなかなかイケるよね」
幽霊「そういえば、樋口さんの守護霊さんがよろしくと言ってました」
女「あたしに守護霊いたの?」
幽霊「影からそっと見守っています」
女「ふぅん、どんな人?」
幽霊「ガチムチの身体に鎧を着けて刀を下げたおじさんです」
女「最強すぎるだろあたしの守護霊」
35:
24
幽霊「中身は非常にナイーブですが」
女「なにそのギャップ」
幽霊「樋口さん大事にされていますね。私は危うく死ぬところでした」
女「ツッコむべき?」
幽霊「出来れば」
女「もう死んでるじゃん」
幽霊「そうでした」
女「こちらとしては非常に反応困るからさそれ…」
幽霊「気を付けます」
36:
25
女「うー」
幽霊「寝ころびながらネットで動画を見る未婚のOLの図」
女「やかましいわ!」
幽霊「元気ですね」
女「空元気だからねこれ。殺人犯が近くにいて平静保つのでやっとだから」
幽霊「でも、さっき出かけたきり帰ってきていませんよ」
女「じゃあ仕事かな? でも結局はここに帰ってくるからなぁ…」
幽霊「ここからいったん離れたらどうです? 実家に帰るとか、ホテルに行くとか」
女「実家は新幹線で二時間だから出勤無理だし、ホテル住まいのお金なんてない」
幽霊「困りましたね」
女「あー、今日中にどっかでポカして逮捕されてくれないかなー」
幽霊「そんな都合のいい話などあるわけないでしょう」
女「あっさり否定された」
幽霊「つい」
37:
26
女「そういえば」
幽霊「どうしました」
女「あなた食べられたんだよね」
幽霊「はい」
女「それにしては今の姿がきれいだなと。傷一つないじゃん」
幽霊「本気出しましたから」
女「出したんだ」
幽霊「片目と腕と足がなくて肋骨がむき出しで内臓が半分出ている幽霊に話しかけられたくないでしょう?」
女「あー…なんかごめん」
幽霊「もう終わったことですから」
38:
27
女「強いね」
幽霊「ただの諦めです」
女「諦め」
幽霊「はい。もうどうしようもないので」
女「……」
幽霊「だから、せめて残った身体だけでも家族のもとに帰したいんです」
女「そうだよね」
幽霊「ごめんなさい。こんな話」
女「ううん、いいよ」
39:
28
幽霊「結局ネットで午前中終わりましたね」
女「やっているときは楽しいけど、ふと何してるんだろう自分って虚しくなる」
幽霊「わあきつい」
女「お昼はパンにしよう」
幽霊「ラピュタパンにしないんですか?」
女「あれ食べにくい」
幽霊「なるほど」
女「それに目玉焼きに醤油かけないと死ぬ病気にかかってるから」
幽霊「めんどくさい病気ですね」
40:
29
女「食パンと醤油って合うのかなぁ…」
幽霊「試してみないと何とも言えません」
女「試してみよう」
幽霊「感想をお願いします」
女「…いけなくもない」
幽霊「つまりは微妙だと」
女「そういうことになる」
41:
30
幽霊「テレビ見ないんですか?」
女「見たい?」
幽霊「久しぶりに」
女「おっしゃ。スイッチ・オン」
幽霊「そいやそいや」
女「何してるの?」
幽霊「ボタンぐらいなら触れるだろうかと思いまして」
女「それでついたらマジもんのホラーだからやめて」
幽霊「つけた本人が見えているからいいじゃないですか」
女「幽霊がテレビつけるところから怖いんだってば」
44:
31
幽霊「お昼ですからワイドショーぐらいしかないですね」
女「そうだねー。なんかみたいのある?」
幽霊「この姑と愛人のバトルが見たいです」
女「佐野さんはわりとえげつないもん好きなのね」
幽霊「あんまり興味はありません」
女「おい」
幽霊「おっと鋭い右ストレートだ」
女「再現ドラマでわざわざ殴り合わなくてもいい気がする」
46:
32
幽霊「綺麗な左シャブです」
女「もうなんだこれ。なんだこれ」
幽霊「なにがすごいって、この一連の事件はあんまり関係ないところですよね」
女「もうただ殴りあわせたいだけじゃねーのコレ」
幽霊「お茶の間に刺激を与えたいんでしょうか」
女「衝撃しかないよ」
幽霊「ですね」
47:
33
女「あ、行方不明事件のことやってる」
幽霊「みたいですね」
女「…まだちゃんとした犯人像はできてないのかな」
幽霊「二十代ほどの男性っていう目撃情報だけですからね。ずいぶん念入りにやってんだあの人」
女「犯人は男か女、年齢は二十代から三十代それか四十代から五十代とかいうのよりマシじゃない?」
幽霊「日本人もしくは外国人である」
女「そうそうそれ。あれネタだっけ」
幽霊「だと思います。…たぶん」
女「犯人が犯行当時に生きていたっていうのが最も重要な情報」
幽霊「あはは、違いありません」
48:
34
女「さて」
幽霊「さて?」
女「夕方になったし、夜の買い出しに行くか」
幽霊「朝はあんなに外に行くこと渋っていたのに」
女「余裕がちょっとできた」
幽霊「できたんですか」
女「なんかあったら報告よろしく」
幽霊「分かりました。ところで」
女「え、なに。さっそくなんかあるの?」
幽霊「お風呂場の蛇口の締めが甘いです」
女「そういうことは早く言おうよ!」
幽霊「もしかしたらわざとなのかと…」
女「どういうわざとさなの!?」
49:
35
幽霊「雪が降りそうですね」
女「この地方じゃめったに降らないよ」
幽霊「今年はちょっとだけ降るとか」
女「マジでか」
幽霊「私、雪が好きなんですよね。小さい時から」
女「ふぅん」
幽霊「だから家族旅行でスキーとか行くのがすごく楽しみでした」
女「ああ…そうなんだ」
幽霊「どうしましたか」
女「佐野さんの家族は佐野さん待ってるのかなって…」
幽霊「そう…ですね。連絡なしに消えましたから…」
女「うん、決めた」
幽霊「決めた?」
女「絶対に佐野さんをおうちに帰してあげるから」
51:
36
幽霊「いきなりどうしたんです」
女「そこは『きゃーかっこいい』ぐらい言ってよ」
幽霊「きゃーかっこいい」
女「今まで、幽霊の助けとか訴えとか聞かないふりして生きてたんだ」
幽霊「私が見えてるから霊感はあるのは知っていましたが、そこまでですか」
女「うん、怖くて仕方がなかった。でもさ、みんな戻るべきところに戻りたいんだよね。佐野さんの話を聞いて思ったの」
幽霊「樋口さん…」
女「だから、最初に佐野さんを救う」
幽霊「…無理はしない範囲で、お願いしますね?」
女「ええー、出鼻くじくようなこと言うなよー」
幽霊「あはは、でも」
女「ん?」
幽霊「ありがとうございます」
52:
37
女「ただいま」
幽霊「おかえりなさい」
女「大家さんから煮物のおすそ分けをもらいました」
幽霊「近所づきあいのあるアパートですね」
女「少ない住居人のうちの一人だしねぇ」
幽霊「たしかにここ少ないですけど、どのくらい入居しているんですか?」
女「…部屋数の半分」
幽霊「すくなっ」
女「ここら辺治安悪めだし、駅から遠いし、表がオンボロだからしかたないんだけどね」
幽霊「治安悪いんですか」
女「っていっても夜中にヤンキーが喧嘩して警察にしょっ引かれたりだけどね」
幽霊「よく独り暮らしできますね」
女「家賃やすいから…」
幽霊「それだけで決めるというのはいかがなものか…」
53:
38
女「さて、夕飯を作ります」
幽霊「はい」
女「肉を焼きます」
幽霊「離脱します」
女「えっ」
幽霊「その、ちょっと…自分の身体を使って料理させられたことがフラッシュバックしまして」
女「ごめん、小声で聞こえなかった。もっかい言って」
幽霊「幼少時に生肉食べておなか壊した記憶がよみがえりました」
女「ワイルド!」
幽霊「お肉焦げますよ」
女「うわ、やばい」
54:
39
女「できました」
幽霊「見事な出来栄えです」
女「そんなに褒められても困っちゃう」
幽霊「ただ盛り付けを頑張ってください」
女「どうせあたし一人しか食べないんだからいいじゃん…」
幽霊「ここで変な癖作るとお嫁に行ったときに癖出ますよ」
女「うちのママンか」
55:
40
幽霊「なんというか」
女「ん?」
幽霊「まともな材料でまともに作られた料理ってこんなに美しいんですね」
女「大げさだよ…」
幽霊「もうこの数か月の食卓は赤赤赤で…」
女「オッケーいいかあたしは今ご飯中だえぐい話はやめよう」
幽霊「私の妹はスプラッタ映画みながら朝ごはん食べられる子でした」
女「いやすぎる」
幽霊「さすがに怒りましたけどね」
56:
41
女「ごちそうさまでした」
幽霊「おそまつさまでした――って、私は作っていませんけどね」
女「とりあえず隣隣人をなんとかする作戦を立てようと思う」
幽霊「電話のベルみたいですね。リンリン」
女「さっそくだけど、強いの?」
幽霊「強いですね。筋肉があるというか、ポイントを押さえてますから」
女「ちからタイプじゃなくてわざタイプか…」
幽霊「樋口さんはなにか武道習ってました?」
女「ないんだなぁそれが」
幽霊「ではとにかく接触しないようにしないといけませんね」
女「そうだね。もし明日、例の捨ててるところを写真に撮れたら言うことないけど」
幽霊「うまくいくといいのですが」
女「わりと運とかいいからね、あたし」
幽霊「運に頼るんですか…」
女「所詮この世は運ゲー」
幽霊「その通りですけど」
57:
42
女「幸いなことにあたしは隣隣人のゴミを出すタイミングを知っています」
幽霊「ストーカーですか」
女「断じて違う。いつも同じ時間帯に出しているんだよね」
幽霊「わざと時間をずらしてシャッターチャンスを狙うと」
女「そういうこと」
幽霊「うまくいきますかね」
女「コラ、立案者がそんな弱気でどうすんの」
幽霊「ごめんなさい」
女「とりあえずなんとしてでもやり遂げて見せます」
幽霊「その意気や良し」
女「そういう訳で」
幽霊「はい」
女「お風呂に入ってきます」
幽霊「いってらっしゃい」
59:
43
幽霊「あ、守護霊さん」
幽霊「なんですか? はい、彼女は今お風呂ですが」
幽霊「もう一度言ってください」
幽霊「いえ、そんな相談されても困るんですけれども」
幽霊「そもそも彼女は見えますから、ばっちり分かると思います」
幽霊「……」
幽霊「覗きなんかしたら悪霊認定されますよ」
幽霊「え?」
幽霊「…よくわかりました。近々除霊しに行くように樋口さんに言っておきます」
60:
44
女「ほかほか」
幽霊「ちゃんと髪を乾かしましょう」
女「めんどくさいんだもん」
幽霊「風邪ひきますよ」
女「しぶしぶ」
幽霊「擬音祭りですか」
女「佐野さんもなんか擬音言ってみてよ」
幽霊「ふよふよ」
女「すごいしっくりくる」
幽霊「ぷよぷよ」
女「好きだったよそのゲーム」
幽霊「私もです」
61:
45
女「あれっ」
幽霊「もうちょっとで日付替わりそうですね」
女「いつのまにこんな時間が進んでいたのだろう」
幽霊「押入れから洋服引っ張り出そうとして漫画を見つけたことが始まりですね」
女「だって懐かしいやつだったから…」
幽霊「お目当てのものは見つけられたんですか?」
女「うん。このセーターかわいいでしょ」
幽霊「かわいいですね」
女「この歳でかわいいセーターはいいのだろうか」
幽霊「まだまだセーフですから安心して着てください」
女「セーターだけにセーフ?」
幽霊「まったく意味が分かりません」
女「ですよねー」
62:
46
幽霊「寝るんですか」
女「寝ますね」
幽霊「おやすみなさい」
女「おやすみ…ん?」
幽霊「どうしましたか」
女「なんか外から物音しなかった? 変な音」
幽霊「そうですか? 私には何とも」
女「まあいいや、ちょっと気になるから出てみるよ」
幽霊「危ないですよこんな夜中なのに。治安悪いんでしょう?」
女「大丈夫だよ。ちょっとドア開けてあたりの様子うかがうだけ」
幽霊「私が見ますから」
女「いいってそんなことしなくても。…音が近いね、足音か」
幽霊「――まさか! 待って樋口さん!」
63:
47
犯人「おや」
女「え」
犯人「こんな時間まで起きているんですね。こんばんは」
女「な、なにしてるんですか、あなた」
幽霊「ドアを閉めてください!」
犯人「見たとおり女の子を抱っこしているだけだよ。担いでいるのほうか正しいか」
幽霊「早く!」
女「その子、どうしたんですか?」
犯人「ちょっと寝ているんだ」
女「怪我してるじゃないですか、その女の子!」
犯人「別にいいんだよ」
女「あなたはよくてもその子は――」
幽霊「樋口さん、逃げて!」
犯人「結構うるさい人なんだね、君は」
女「が……! …ッ」
犯人「痛いよね。ちょっと黙ってて、引きずっちゃうけどすぐそこだから」
幽霊「ど、どうしよう…。私じゃ何にも…!」
64:
48
犯人「樋口さんは、どこから食べようかな」
72:
48

幼少時女「それでね、あのね」
友人「…ねえ、ゆかりちゃん」
幼少時女「なにー?」
友人「さっきから誰と話しているの?」
幼少時女「誰って、みやちゃんだけど」
友人「そこなんにもないじゃん」
幼少時女「いるよ?」
友人「いないよ! おかしなゆかりちゃん!」
幼少時女「……」

73:
49

中学時女「……」
男性「あの女が」
中学時女「……」
男性「俺を殺したんだ。事故死に見せかけて」
中学時女「それで、どうしてそれをあたしに?」
男性「頼む、あいつのやったことを警察に言ってくれ!」
中学時女「無理だよ。あたしは赤の他人だもの」
男性「きみしかいないんだ!」
中学時女「幽霊がそう証言してますって!? 信じてくれるわけないじゃない!」
男性「まったく使えないんだな…! 話しかけて損したよ」
中学時女「……」

74:
50

高校時女「……」
女子「ん? 樋口さん、なんか顔についてる?」
高校時女「ううん、なんにもないよ」
女子「ふうん?」
高校時女「……」
高校時女「血まみれの動物が周りにいっぱいいる以外は……」

75:
51
見えないほうが幸せだったかもしれないってずっと思ってた。
76:
52
女「あいったぁ…みぞおちか…」
女「よく吐かないで済んだもの……あれ」
女「これは困りましたねー後ろ手に縛られてますよー」
女「どうしよ…」
亡霊「妬ましい……きれいな身体……」
女「っ!?」
亡霊「生きてる…妬ましい…すべてそろってる…」
女「まっ、ちょっと待って」
亡霊「わたしとおなじに…」
女「いや……!」
77:
53
幽霊「樋口さん!」
武者「―――!」
亡霊「ぎゃあああぁああぁぁああ!!」
幽霊「大丈夫ですか、樋口さん!」
女「さ、佐野さん、その隣の今しがた亡霊斬った人は誰?」
幽霊「この方は先ほど説明した守護霊さんです」
女「はじめまして?」
武者「――――」
幽霊「恥ずかしがり屋さんみたいなので挨拶できないみたいです」
女「は、はぁ……」
78:
54
幽霊「それより、来るの遅れてすいません。あの男にされたことを思い出してしまいまして起動停止してました……」
女「そうなんだ…佐野さん、ちょっとあたしの周りの状況を説明してくれる?」
幽霊「後ろ手に手錠と、手錠には重しがついてます。この部屋は窓が封鎖されていますから明かりは電気のみ、床と壁には防音措置がとられていますね」
女「ずいぶんと詳しいね…」
幽霊「だって私、ここの前の住人でしたから」
女「お、おう」
幽霊「あの冷凍庫は……まあ関係ないでしょう。早くここを出ませんと」
女「……どうやって出ようか」
幽霊「そこなんですよね…」
女「あたしこんな鉄を引きちぎるなんてできないし」
幽霊「そんなことが出来たらまずこんなことになっていない気が」
女「ですよねー」
79:
55
幽霊「しかし真面目にどうしましょう。私も何度か脱走は試みていましたが」
女「いましたが?」
幽霊「ご覧のとおりです。ことごとく失敗に終わっては――はい」
女「だ、大丈夫? 今思考を放棄したような顔だったけど」
幽霊「気のせいです。今、あの男の意識は別のところにいってますから動くチャンスなんですよね」
女「それってどういうこと?」
幽霊「……」
女「佐野さん?」
幽霊「あの女の子の相手をしている、ということです」
女「そんな! 助けなきゃ!」
幽霊「やめてください。今は樋口さん、あなたが助かる方法を探さないと」
女「でも……」
幽霊「本当に、やめてください。助かる確率を自分から下げてどうするんですか」
女「なんでそんなこと言うの!?」
幽霊「他人を助けようとして殺された前例がいるからですよ!」
80:
56
女「っ」
幽霊「私と一緒に捕まってた人が! 偶然自由になれて、逃げようって言って!」
女「佐野さ――」
幽霊「結局見つかって殺されたんですよ!? あのまま逃げればよかったのに!」
女「佐野さん」
幽霊「…ごめんなさい。少し高ぶってしまいました」
女「こちらこそ、ごめん」
幽霊「……」
女「……」
幽霊「逃げる云々よりもまずは手錠何とかしないといけませんでしたね」
女「そうだね。そこらへんに鍵とかあったらいいのに」
幽霊「うぅん、ないですね…基本的にあの男がもっているはずです」
女「それってどうあがいても絶望じゃん…」
幽霊「希望をもってください――私が言うとまるで説得力ないですが」
81:
57
女「こう、重しをぶら下げたままダッシュを」
幽霊「ドア開けられます?」
女「なにも手にこだわらなくてもいいんだぜ」
幽霊「重しをつけたまま安全な場所まで走れそうですか?」
女「ちょっとやってみ……重くない?」
幽霊「そりゃあ、重しというぐらいですから」
女「しかも手錠がすごく食い込んで痛い。人体はもろいね」
幽霊「もろいですよねぇ」
女「でも死ぬよりはマシだと思って――」
武者「――――!」
幽霊「! 樋口さん、座って!」
女「え? うん」
犯人「―――あ、もう起きてたんだ。ごめんね待たせちゃって」
87:
58
女「高橋、さん……」
犯人「寝間着姿じゃこの部屋寒いよねえ。まあ、凍死はしないと思うけど」
女「あなたは、なんでこんなことを」
犯人「こんなことって?」
女「あたしやあの女の子に何の恨みがあるんですか」
犯人「恨み、ね。別にそんな感情を持ってはないよ」
女「じゃあなんで」
犯人「食べたかったから――だけど。それだけじゃだめなのかい?」
女「そ、それだけって。どうして」
犯人「きみだって肉を食べるために買うだろう? まさか生肉を鑑賞するとかそういう趣味はないと思うけど」
女「ない、ですけど」
犯人「現物を自分で捌くか、パック詰めのものを買うかの違いだよ」
88:
59
女「あたしは…食べ物じゃありません」
犯人「鳥も豚も牛もみんなそう言うと思うよ?」
女「同族を食べるなんておかしいですよ」
犯人「ねえ、『同族』として見られていると思ってる?」
女「え?」
犯人「なんというのかなぁ…他人を同じ種族として見ることが出来ないんだよね、僕」
幽霊「……」
女「え…」
犯人「自分が神だとかそういうのは思ってないさ。だけど、どうしても『違う生き物』としてしか見ることが出来ないんだ」
女「…狂ってますよ」
幽霊「トチ狂ってます」
犯人「うん、ここに来たみんなそう言ったよ。…ん? みんなか?」
幽霊「私は初耳ですけどね。この話」
犯人「あ、そうか。佐野ちゃんはすぐ声潰したからこんな会話しなかったんだっけ」
女「佐野ちゃんって」
幽霊「私です」
犯人「あれ、知り合いだった? あの子すごい綺麗な人でさ。脂肪も程よかったし」
89:
60
女「高橋さんは何人食べてきたんですか。これまで、何人殺してきたんですか」
犯人「五人」
女「そんなにさらってきたんですか」
犯人「最初は妹だからさらってはないよ。記憶補正だろうけど、柔らかくて舌が蕩けそうだった」
幽霊「この男、身内にまで手をかけていたなんて!」
女「妹って! 兄妹じゃないですか!」
犯人「さっきも言ったじゃないか、同じ生き物として見れないって。家族だって例外じゃないさ」
女「でも血を分けているわけでしょう!? どうして手にかけるづぁっ!」
犯人「多少騒いでも大丈夫だけどさー、ちょっと静かにしようね?」
女「い…いた…」
犯人「ハンマーっていたいでしょ? 釘も大変だよね」
幽霊「樋口さん、樋口さん大丈夫ですか!」
犯人「声が好みだから今のところ何もしてないけど、目に余るようなら潰すよ」
女「あなたは…最悪だ…」
犯人「あと、きみ以外にもう一人いるんだ。知ってるだろうけど」
女「!」
90:
61
犯人「下手なことすれば――ねっ」
幽霊「やっぱりそう来ましたか…どこまで外道なんですかこいつ」
犯人「ああ、もうあっちも暴れだした…余裕をもつことって大事だよね」
女「……」
犯人「じゃあ恒例のゲームだ。ここに手錠の鍵がある」
女「本物ですか?」
犯人「もちろん。でもそれおもしろそう、次やるか」
女「それで、それは…?」
犯人「忘れ物した。ちょっと待ってて」
女「―――つつっ、頭いたぁ……血出てる?」
幽霊「いえ、今のところは出ていません。酷いことをする」
女「あの人出ていったけど、何が起きるか分かる?」
幽霊「鍵を目の前でちらつかせるんですよ。鍵を手に入れて逃げれるものならやってごらんって」
女「佐野さんはどうだったの?」
幽霊「タイムオーバーでした。あの時痛みに耐えていればもしくは――終わった話ですが」
91:
62
犯人「元気な子って時に困りもんだよねー。一回殴っても静かにならないんだもん」
女「あの子に何をしたんですか!?」
犯人「まだ生かしてるから心配ないよ。もう一度寝てもらっただけ」
女「あなたって人は…」
犯人「それより、ドーン。こちら水を張った洗面器です」
女「まさか、その中から取れと。口か足で」
犯人「正解。入れておくよ」
女「思ったよりも鍵が小さい…」
犯人「時間は十分ね。あっちのほう見てくるからひとりでファイト」
女「……」
犯人「ほら、時間なくなっちゃうじゃん」
女「ぶっ!?」
犯人「あはは、ぶくぶく言ってる。がんばれー。じゃ」
92:
63
女「げほっ! かふっ、マジ、許すまじ、かふっ」
幽霊「さっきから大丈夫を乱用していて申し訳ありません…大丈夫ですか」
女「なんとか」
幽霊「改めてみると洗面器って深いんですね…」
女「恨めしいわほんと。さて、こっからとっとと取り出さなきゃ」
幽霊「もう一度潜るんですか?」
女「まさか」
幽霊「では、どうやって」
女「取り出せればいいんでしょ? じゃあこうだ!」
幽霊「足で洗面器ひっくり返したー!」
93:
64
女「ざまぁみやがれってんだ」
幽霊「ま、まあ結果的に呼吸止めたりして体力落とさなくて済みましたが」
女「すごく冷たかったんだよこれ。心臓止まりかけた」
幽霊「最低な人ですね」
女「マジで同意だよ。さて、足でこっちまですべらせて…ああああ」
幽霊「ど、どうしたんですか!?」
女「おしり濡れたかもしれない」
幽霊「それは、その、おつかれさまです…」
100:
65
女「ここまで足で…」
幽霊「見えないところは任せてください」
女「任せた。鍵何処に行ったか分かる?」
幽霊「右手のそばにあります」
女「これ?」
幽霊「はい。そこから上に。鍵穴はもう少し横…行き過ぎです」
女「どこにあるの…」
幽霊「もうちょっと下。いえ、右に行ってください」
女「むむ」
幽霊「ちょい左」
女「お、入ったみたいだね」
幽霊「そこから時計回りに手首を捻れば行けるはずです」
女「よっしゃ!」
幽霊「やった!」
101:
66
女「さて、逃げようか」
幽霊「……」
女「? その冷凍庫気になるの?」
幽霊「あ、いえ! なんでもありません、早く逃げましょう」
女「まずあの女の子がどこにいるかなんだけど…」
幽霊「…どうしても彼女を助けるつもりですか」
女「やっぱり、見捨てるわけにはいかないよ」
幽霊「樋口さん…」
女「だから行くよ」
幽霊「――はい」
102:
67
女「えっと、ドア引くの? 押すの?」
幽霊「押します」
女「ありがと。よいし、うわ!?」
武者「――!!」
幽霊「守護霊さん!? どうしたんですか!」
女「ドアの向こう側に…?」
犯人「あれ? 自動ドアだーって思ったらなんだ、樋口さんかぁ」
女「な、もう十分がたって…」
犯人「僕の体感では十分のはずだけど」
幽霊「本当に…なんてやつ…」
犯人「立ってるってことはちゃんと取れたんだね。結構すごいじゃん」
女「がっ!?」
幽霊「樋口さん!?」
犯人「あー、女の子のお腹は蹴っちゃいけないって言われてたような」
女「いっつぅ…」
犯人「ごめんねー。分かってたかもしれないけど、手錠外れてもなんのクリアにもならないんだよね」
女「じゃあ、なん、で、あんなこと」
犯人「前菜みたいな? 僕さ、絶望した女の子の顔が好きなんだよ」
女「……」
犯人「っていうと、中二病みたいだけどね」
103:
68
幽霊「樋口さん、しっかりして! 気絶しては駄目です!」
女「ゆかりって…呼んで」
幽霊「へ?」
女「この人と同じ呼びかたされるとさ、混乱しちゃうから…」
犯人「…よくわかんないけど、樋口さんなんか見えてるの?」
女「あなたの殺した、佐野舞子の霊が、そこにいるんですよ…」
犯人「……ふーん。電波? それとも狂ってきてる?」
幽霊「ゆ、ゆかりちゃん…いいんですか、そんなこと言って」
女「ここまで来たらどう転ぼうか知ったこっちゃないわ、舞子ちゃん」
犯人「佐野ちゃん。いるんだね?」
幽霊「……」
犯人「僕も見えたらよかったのに。お化けになったならちゃんと声出てるのかな?」
幽霊「見えるのがゆかりちゃんだけで良かった。死後もこの男に追い回されるなんて嫌です」
女「うん、そうだね」
104:
69
犯人「教えてよ。佐野ちゃんはなんて言ってる?」
女「分かってるんじゃないですか?」
犯人「吹っ切れたみたいだね。反抗的な眼じゃん。嫌いじゃないよ」
幽霊「よく聞いてください。この部屋には見ての通り逃げ場はありません」
女「どうせ抉るんでしょう? 彼女みたいに」
犯人「やっぱ見えるんだ? あの子はどんな格好してるの?」
幽霊「ただ、あの冷凍庫の中に一応武器となるものはあります」
女「綺麗な身体をしてますよ。あなたに汚される前の」
犯人「そっち系はやってないよ。口に入れるものに自分の性液が混ざってるとか最悪だからさ」
幽霊「だからその冷凍庫をあけて、中のものを投げてください」
女「…あの、ゆかりさん? あの中何が入ってるとかの説明は?」
幽霊「早く! ひるむかもしれないから!」
女「――もう!」
犯人「あっ」
105:
70
女「つぅ…」
犯人「ほら、お腹痛いのに走るから」
女「誰のせいだと…」
犯人「とりあえずそっから離れてよ。君には関係ないものがあるだけだから」
幽霊「気にしないで結構です。冷凍されたお肉は固いって聞きます」
女「に、肉かぁ。入ってるの」
幽霊「それを思いっきり投げつけるなりなんなりしてください。もう私たちには関係ありません」
女「人ごとみたいにー!」
犯人「ほら、もういいでしょ? どうせ君は逃げられない――」
女「しゃー!」
犯人「いたっ」
幽霊「噛んだ!」
106:
71
女「ふ、ふふん。開けるのが人間よ!」
幽霊「何ですかその理論」
女「見せなさいよ――何を仕舞っているのか」
犯人「待っ――」
幽霊「……」
女「っ!?」
幽霊「驚くのも無理はありません。ですが今は落ち着いてください」
女「あ、う、な、生首……!?」
幽霊「……お久しぶり、『私』。ですかね」
112:
72
女「これっ、舞子ちゃんのっ……!?」
幽霊「よけて!」
女「くっ」
犯人「…ちぇ。これじゃ冷凍庫蹴ったただの変な人じゃん僕」
女「十分変な人ですから安心してどうぞ」
犯人「首を抱きかかえてる樋口さんも人のこと言えないけどね」
女「…彼女の首をどうするつもりだったの?」
犯人「んー。どうしようかなぁ」
幽霊「うわ、私の顔全体的に霜が降りてますね。酷い有様です」
女「実況はやめて」
113:
73
犯人「最初はさ、脳みそってどんな味かなって思ったんだ」
女「は? …はぁ」
犯人「『ハンニバル』で、脳の活け作りのシーンがあるんだけどね。あれが美味しそうで」
女「おいし…そう…?」
幽霊「相手の思考はおかしいですから。聞き流すだけでいいですよ」
犯人「でも半分以上が脂肪なんだって。健康上にはあんま良くないよね」
幽霊「人肉食べてる時点で健康云々は語ってほしくないですね」

女「うん」
犯人「だからどうにも足踏みしちゃってさ。観賞するとしても目ん玉くりぬいちゃったから見栄え悪いんだよね」
女「知らないですよそんなの…」
幽霊「見栄えが悪いとは失礼な」
犯人「樋口さん、食べてみる?」
女「はい?」
犯人「それをさ」
女「そんなのお断りですよ!」
犯人「なんで?」
女「なんでって、人間だから! あたしはちゃんと人を人と見ているんです!」
114:
74
犯人「死んだ人間は、もう人間じゃないだろう? ただの、肉だ」
女「そんなこと…っ」
犯人「現に君が抱きしめているその凍り付いた首だってそうだ。生命活動を止めた人間なんて肉でしかないんだよ」
女「肉じゃないもの…この子の身体は、死んでも“佐野舞子”なの!」
犯人「それじゃあパック詰めの肉にもひとつひとつ付けられた名前があると?」
女「知らないわよもう! 同族だから食べない、それだけ!」
犯人「思考の放棄だね」
女「ええそうよ! あなたみたいな人にいつまでも構ってられない!」
幽霊「ゆかりちゃん。立って」
女「今度こそ帰ります。彼女と帰るって約束してますから」
犯人「彼女? 佐野ちゃんのことかい? もう死んでいるのに」
幽霊「凍ったお肉は結構固いですよね」
女「そうだね」
幽霊「だから、そのままいっちゃってください」
女「いいの?」
幽霊「どうぞ」
115:
75
犯人「やれやれ…この騒ぎ、大家さんにさすがにバレるかな」
女「安心してください。すべてばれますから」
犯人「ずいぶん余裕そうだね? もしかして不死身?」
女「まさか。そんなことないじゃないですか」
幽霊「いきますよ。気持ち悪いでしょうが、私の頭をしっかり持ってください」
女「こちらには武器がありますからね」
犯人「武器? 君は何にも持って―――え?」
幽霊「大きく振りかぶって! 狙うは鼻です!」
女「ウラァァァアア!!」
犯人「ぐぶ!」
116:
76
幽霊「手錠! 早く手錠で拘束!」
女「アイサー!」
犯人「????!!」
女「おとなしく、してください…よっしゃ!」
幽霊「ふぅ……」
女「行きましょう。鼻血すごいですけどちょっと我慢しててください」
幽霊「窒息しないですかね」
女「…そうなる前に警察とか来るといいね」
幽霊「はい。ぜひ生きてもらわないと」
117:
77
女「どこにいるのかな…」
武者「―――」
女「あ、守護霊さん」
幽霊「そっちに?」
武者「―――」
女「いた! ねえ、あなた! 大丈夫!?」
少女「……ん」
幽霊「生きてますね」
女「なんで手足の関節ごとに縛ってあるのこれ…」
幽霊「私もやられました。血流止めて壊死させるんですよ」
女「うえ。でも早い段階で見つかって良かった…これほどくべき?」
幽霊「クラッシュ症候群がちょっと怖いですけど…」
女「百十九番の指示を仰いどこうか。よいしょ、肩貸してあげるから…あつっ」
幽霊「ゆかりちゃん!?」
女「なんか体中痛い。事情説明が先か、睡魔が先か」
幽霊「もうちょっと、もうちょっとですから」
118:
78
女「もうゴールするね…?」
幽霊「あかん、これからや。これからや言うとるやろ」
女「……」
幽霊「……」
女「茶番はここまでにしといて」
幽霊「はい」
女「うう、裸足で外は寒いなぁ…」
幽霊「吐く息真っ白ですね」
女「ふふ。生首もって、女の子抱えた寝間着の女なんて怖いだろうなぁ」
幽霊「怖いですねぇ」
女「……でも、終わったんだ」
幽霊「……そうですね」
女「完全に警察の手に渡さないと安心できないけど」
幽霊「それはそうですね」
119:
79
女「これで、舞子ちゃんは自由になれる?」
幽霊「はい。おうちにも帰れますし、どこにでも行けます」
女「そう、よか…った…」
幽霊「ゆかりちゃん!? ゆかりちゃん!」
女「身体が、だるくて……眠いわ…睡魔には勝てなかった…よ…」
120:
80
知らないほうが幸せ。
見えないほうが幸せ。
聞こえないほうが幸せ。
121:
81
本当に?
122:
82
もしかしたら、この考えは間違えているのではないか。
そう思った。
だから、目を開けた。
だから、耳を開いた。
123:
83
それからしばらくすると。
「殺されました」なんて凄いことを言い出す幽霊があたしの横に立っていた。
124:
84
女「あ……」
幽霊「ゆかりちゃん!」
女「見知らぬ天井だわ…」
幽霊「まあまあ大丈夫そうですね」
女「ここは、病院? しかも個室だ。じゃなくて、うまくいったの?」
幽霊「はい。女の子も助け出されて、あの男も捕まりました」
女「よかったぁ……」
幽霊「三日間」
女「ん?」
幽霊「三日間寝ていましたね」
女「…マジ?」
幽霊「マジです」
女「夜勤も日勤も無断欠勤だ…!」
幽霊「分かってくれるでしょうからそう悲観なさらずに…」
125:
85
女「そうだ、あなたの身体はどうなった?」
幽霊「無事に家族と会えました。…お母さんは失神して倒れましたが」
女「そっか…」
幽霊「これから大忙しですね。事情聴取に、マスコミから逃げたり」
女「なにそれ。え? ちょっとまって、どうなってるの?」
幽霊「すっごいニュースになっていますよ。病院とご家族さんが対応してなかったらマスコミここまで雪崩れ込んでいましたもん」
女「なんで!?」
幽霊「カニバリズム男といい、失踪事件といい、生首もって発見されたといい、いいネタですよ」
女「うわああぁぁ、頭が痛い」
幽霊「ご愁傷様ですね…」
女「同じアパートに住んでいながら事件を防げなかったとかでも祭り上げられそう…」
幽霊「知らなかったのは仕方ありません。私も隣の隣の部屋の物音なんか聞こえませんでしたし」
女「うううフォローありがとう」
126:
86
幽霊「でも」
女「ん?」
幽霊「申し訳ありませんでした。私があんなことお願いしたから」
女「いいんだよ。そもそも、舞子ちゃんが現れなくてもああなっていたはずなんだから」
幽霊「でも…」
女「この話はおしまい。あたしは助かった、舞子ちゃんは願いを叶えられた。それでいいじゃない」
幽霊「…ありがとうございます」
女「さて、起きたってこと報告しにいかないとだめかな」
幽霊「動かないでください。あなた、肋骨とかにヒビ入っているみたいなんです」
女「割と重症…!」
127:
87
幽霊「ナースコール押したほうがいいんじゃないですかね」
女「そうだね」
幽霊「あ、ここに」
女「ありがとう。――あ…!」
幽霊「どうしました?」
女「ほら、窓見て。雪が降ってるよ!」
幽霊「わあ…」
女「これ積もるかな。どう思う?」
女「あれ……」
女「舞子ちゃん……?」
武者「探すな」
女「なんかいた! しゃべった!」
武者「……」
女「なんかごめんなさい泣かないでください」
128:
88
武者「…あれは自分から去った。潮時だと思ったんだろう」
女「どうしてです? どうしてあたしから」
武者「我のような守護する立場なら良い。だが、小娘は地縛霊だ」
女「それが、なんの…」
武者「このまま居続けていればいつしか悪霊になる可能性もあったということだ。それを小娘も分かっていたのだろう」
女「だからって、こんないきなり消えなくてもいいのに!」
武者「察してやれ。お前は大人だろう?」
女「……」
武者「別れることは辛い。その感情すらも現世に魂を繋ぎ止めてしまう」
女「舞子ちゃん…」
武者「墓参りに行ってやれ。小娘も喜ぶだろう」
女「はい……」
武者「よっし話せた」
女「何か?」
武者「いや」
138:
89
女「もう春なんだねぇ」
女「あれから仕事辞めて実家に戻ってニート街道まっしぐらですよ」
女「法廷に出るのも疲れたし」
女「…お墓の下と冷凍庫、どっちが寒いんだろう」
女「考えてみると石の中に閉じ込められるんだから怖いよね」
女「でも、そこではゆっくり眠れるのかな」
女「……」
女「マスコミをどうにか振り切って、この前佐野家に行ってきたんだよ」
女「案の定泣かれてね」
139:
90
女「なんであなたは生き残れたのにあの子はだめだったのって、泣かれた」
女「気持ちはわかるかな」
女「関係のない人間よりか娘に生きてもらいたいもん」
女「あたしだって生きていてほしかった。今までの犠牲者の子たち、みんな」
女「でもさ――あたし、舞子ちゃんが生きていたなら死んでたんだよね」
女「舞子ちゃんが幽霊にならなければ、今頃あたしは……」
女「……」
女「どんな展開ならあたしたちは一緒に生きていられたんだろうね…」
140:
91
女「まあ、落ち着いた佐野ママに『一緒にあの子を出してくれてありがとう』って言われてさ」
女「お礼を言うのはこっちなのに」
女「…舞子ちゃんがいたからあたしはここにいるのにね」
女「それで、しばらく話して」
女「お墓の場所聞いてそれでここにいるってわけ」
女「あ、幽霊が見えるってことは言ってないよ? さすがにそれはイタイ子だから…」
女「ねえ。今どこにいるの?」
女「千の風になってるのかな。千の舞子ちゃん」
女「それは軽くホラーだわ……」
141:
92
女「さてと。そろそろ時間だから、行くね」
女「バイバイ」
武者「……」
女「守護霊さんも行きましょうよ」
武者「む…」
女「どうかしたんですか」
武者「小娘は…ここにはいない」
女「いない?」
武者「意味は直に分かるだろうな」
女「何それ怖い」
142:
93
女「ええと……電車の時間から逆算して…」
女「ん?」
幽霊少女「ううう…」
女「……」
女「あなた。どうしたの?」
幽霊少女「え、え? わたしが見えるの?」
女「はっきりくっきりぼやけて見えるよ」
幽霊少女「どういうこと…」
女「なんでこんなところで泣いているの?」
幽霊少女「この道路が」
女「うん」
幽霊少女「こわいから…わたれない」
143:
94
武者「…そこに花が供えられているな。比較的新しい」
幽霊少女「!?」
女「なるほど。この子のかな」
幽霊少女「誰ですかこのおじさん!?」
女「守護霊さん。ま、それはさておき」
幽霊少女「さておいちゃうんだ…」
女「怖いならあたしと渡ろう」
幽霊少女「なんで?」
女「傷つきますわーこれは傷つきましたわー」
幽霊少女「ご、ごめんなさい」
144:
95
女「冗談だよ。この横断歩行、わたらないといけないんでしょ?」
幽霊少女「う、うん。おうちが向こうにあるの」
女「じゃあ帰らなきゃ。あたしと一緒なら怖くない、かもね?」
幽霊少女「帰れるかな?」
女「帰れるよ。ほら行こう」
幽霊少女「う、うん」
女「しっかしトラック多いね。これはもうちょっと道をなんとかしたほうが――」
145:
96
「ほら、言ってる傍から危ないですよ」
146:
97
見えないほうが幸せだったかもしれないってずっと思ってた。
147:
98
女「え――」
「もう…見ているだけでおっかないです」
女「まさか…」
武者「矢張りかえってきたのか」
幽霊少女「?」
148:
99
でも、見えてよかったと初めて思えた。
見えていてもあたしは楽しかったから。
ありがとう。
149:
100
幽霊「お久しぶりです。驚きました?」
女「…驚いたよ、もう」
150:
101
生死をこえた友達というのも、なかなか面白いかもしれませんね。
151:
幽霊「殺されました」   
       おわり
おそまつさまでした。
ご都合主義や急展開は申し訳ありません
擬音&地の文無ししばりはやっぱりきつかった…
それでは
152:

よかった
154:

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