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モバP「みくにゃん」


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1:
ちょっと聞いて欲しいことがあるんですよ。
みくにゃんっているじゃないですか。
そう。あの前川みく。
にゃーとかにゃんとか語尾に付けてる15歳。中二病かな。
アイツとの初対面、わかります?
この前営業してたらいきなり絡んできて、ゲリラLIVEバトルになっちゃって。
非常識みくにゃん。猫耳と尻尾がデフォなだけはある。
2:
そのくせ、生意気な奴だなぁと思ってたら、
いざ勝負って段になるとめっちゃ楽しそうにライブするんですよ。天真爛漫。
おかげでこっちまでヒートアップしちゃって、疲れたのなんの。
結局、ギリギリで勝ちを拾ったのはウチのプロダクションでしたけどね。
終わったらみんな疲れ切って座り込んじゃうくらい熱戦で。
で、みくにゃんを見てたら、
アイツも疲れてんのは一緒のはずなのに、
去っていくオーディエンスに大声で
「また来てねーー!!」
とかアピールしてるんですよ。マジメか。
3:
その後、一段落ついてからみくにゃんの所に行ったんです。
そしたら、
「つ、次はゼッタイ負けないにゃ!」
とか目ぇ逸らしながら宣言してきて。
負けたら泣いちゃうとかマジメ?委員長?
しかも、それだけ言ってすぐどっかに行こうとして。俺が何しに来たと思ってんのかと。
そりゃ呼び止めまして。
「……なに」
「ライブの後の挨拶、いつもやってんのか」
「……? そんなのあたりまえにゃ!
ファンを大事にしなきゃ、こんなストリートライブなんて,すぐ忘れられちゃうからにゃあ」
「そうか」
プロダクションに入らない、セルフプロデュースによるアイドル活動でだからこそ身に付いた技。
「でも、それだけじゃないのにゃ」
「?」
「何よりも、みんなの笑顔が見れるでしょ?
それだけで、アイドルみくにゃんははサーベルタイガーにだってなれるのにゃ!」
「た、タイガー……?」
ネコ科だけども。マジかよみくにゃん。
4:
「猫チャンに関する事で、みくに不可能はないにゃ!覚えといてね!」
にゃはは、と笑顔が咲いた。みくにゃんの奴、さっきまで泣きかけだったクセにもう笑ってて。猫かよ。ああ、猫だった。
「みくにゃん」
「にゃ?」
そんな姿を見せられたら、ここは言うしか無いか。マジメか、俺。
「ウチのアイドル達は、レッスン通りの実力を出した。そして、俺らが勝った」
「むむっ……そ、そんな事いちいち言わなくても、」
「でも、それが出来たのはみくにゃんのお陰だ。
お客さんが初めからいいムードだったし、アドリブだってみくにゃんの方が上手かった。客への気遣いも上だ」
「へっ?」
人生経験少ないからか、みくにゃん、いきなり褒められてポカンとして。
こうして見ると意外と小さいな、160も無いか、とか。
そのくせバストは80はあるな、とか考えたりして。職業病だから仕方ない。
「ライブには勝ったけどーー
アイドルとしては、俺らの負けだ」
「ぇ……と…………あ、ありがと、にゃ」
露骨に照れるみくにゃんの顔が、馬鹿みたいに可愛いくて。
あー、こうやってファンを増やしてくんだろうなって直感しましたね。
えげつない可愛さのみくにゃんえげつない。
6:
そんなみくにゃんだから、言わせてもらいました。
「次は、負けないからな。覚悟しとけ」
そして、言うが早いか買っておいたペットのお茶を渡して逃げ去りました。超ハズい。
そしたら、「にゃあっ!ねこぱんちっ」とかかけ声を出しながら、
去りゆく俺の後頭部を叩いてきて。みくにゃんマジ気分屋。
「ゼッタイゼッタイ、ゼ〜〜ッタイ負けないからっ!
首を洗って待ってろにゃ!」
とか一方的に言い残して去ってくし。まったく。
振り向き様に見た顔は、吹っ切ったような笑顔で、カッコ良かった。
マジみくにゃんCuteアイドル。
7:
そんなみくにゃんだから、言わせてもらいました。
「次は、負けないからな。覚悟しとけ」
そして、言うが早いか買っておいたペットのお茶を渡して逃げ去りました。超ハズい。
そしたら、「にゃあっ!ねこぱんちっ」とかかけ声を出しながら、
去りゆく俺の後頭部を叩いてきて。みくにゃんマジ気分屋。
「ゼッタイゼッタイ、ゼ〜〜ッタイ負けないからっ!
首を洗って待ってろにゃ!」
とか一方的に言い残して去ってくし。まったく。
振り向き様に見た顔は、吹っ切ったような笑顔で、カッコ良かった。
マジみくにゃんCuteアイドル。
8:
それからは長いつきあいで、不定期にライブバトルを繰り返したりして。
だんだんみくにゃんとのフッカケ喧嘩ライブも名物になってきたんです。
お互いに良いトコを吸収しあって楽しくやれたし。
でも、やっぱりセルフプロデュースの限界って言うのか、
だんだんウチとみくにゃんの差が開いてきちゃって。
だから、みくにゃんとさよならライブをしようって決めたんです。名目は最終決戦ライブ。
ちょっと良い感じの会場貸し切ったりして。さよなら会に張り切るとか学生レベルか。
あ、みくにゃん学生だった。マジみくにゃん非合法。
さておき、実際のライブ会場の話。
けっこう広告打ったからか、
夜の7時過ぎからだってのに人が来すぎて立ち見が続出。
横断幕まであって。お前らみくにゃん大好きか。
9:
始まる10分くらい前かな、
待ちわびる観客から逆側の舞台袖に視線を向けると、みくにゃんの姿が見えまして。
気合入れてわざわざ借りてきた高めの衣装が、ぴったりと似合ってるんです。
しかも猫の尻尾まで手作りで付けてあるし。みくにゃん歪みねぇ。
眺めてるこっちに気付いたみくにゃんが、ウィンクしてきり。あざとい。
若干呆れてたら、こっちに拳を突き出して何か言ってきたんですよ。
既に場内はざわついてるし、聞こえる訳ないのに。みくにゃんおバカ。
可哀想だから、俺も言い返してやりましたよ。
勝負だ、って。
10:
音楽が始まった。
屋外には無かった音響や照明設備が、観客のボルテージを一層引き上げる。
子供から大人まで、あらゆる人が一つの生き物になったかのような一体感が会場を包んだ。
振り付けを知らなくても、曲の名前を知らなくても。
獣は留まることをせず躍動していく。
30分、1時間。軽いMCを休憩代わりに、アイドルは歌い、踊り、笑った。
そしていよいよ、最後の1曲。
名残惜しさなんて微塵も感じさせない、怒涛のラストスパート。
フィナーレの音が鳴り終わるまで、しっかりと歌いきった。
ステージの上、一番の特等席で熱気を、興奮を受け止める彼女達は、
まるで、魔法でも使ったかのように、きらきらと輝いていた。
11:
「――ってことなんです、ちひろさん」
「へー、そーなんですかー」
この、俺の熱弁を棒読みで返してきた蛍光緑三つ編み女の名前は千川ちひろ。
我がプロダクションのアシスタントだ。
「なんですかその反応。もしかして聞いてなかったとか……」
「いえいえ、完璧に理解してますよ、ふふ」
にっこりと微笑む。お得意の営業スマイルだ。隠し事があるような気がする。
なにか怪しいが、結論を言ってしまうことにした。
「……俺が言いたいのはただ一つ、前川みくを、ウチのプロダクションににスカウトしましょう!」
12:
「具体的な理由を聞いても良いですか?」
相変わらず微妙な反応。乗り気じゃないのか。
「みくは、実力はもちろん、上に行くアイドルになるために必要な2つの物を持ってる。そう思うからです」
ちひろさんの目が細くなる。
「2つ……とは?」
「一つは、確かな人気を掴む能力です。
一発屋で終わらない、長く愛されるための人気を得る力があります」
あのライブ会場を思い出す。わざわざあそこに来てくれた人は、根強いファンであり続けてくれるだろう。
「二つ目は、アイドルを楽しむ心です」
ライブに全力で挑み、失敗すれば泣き、成功したらにっこり笑う。みくなら、それが出来ると思えた。
「なるほど……」
「そして、おまけの一つ。俺はもう――」
俺は彼女と出会った日を思い出しながら、言ってのけた。
「――可愛いみくにゃんの、ファンになっちゃいましたから」
13:
ちひろさんは、俺の覚悟を試すようにじっと見つめてきた。
しかし、俺は知っている。ちひろさんは意外と情に厚いのだ。
やがて、口を開いた。
「自信はあるんですね?」
「みくとなら、……トップアイドルも夢じゃない。そう、信じてます」
それを聞いたちひろさんは、
「……って、言ってますよ?」
と、自分が座っていたソファの後ろに声を掛けた。
「え?」
唖然とする俺の耳に、聞き覚えのある声が届く。元気な声だ。
「こ…こんな事言われたのっ、生まれて初めてにゃ……」
果たしてそこには、
顔を真っ赤に染めた、あの前川みくがいた。
14:
「ち、ちひろさん!?」
「実はですねーー、Pさんが来るちょっと前にやってきて、
相談に乗ってたんですよ♪」
だから反応も棒読みだったのか
なるほど。……じゃなくて!
「相談、というのは……」
聞くと、みくがもじもじしながら答える。
「Pチャンと、まだ、一緒にライブがしたいなって……も、もう!何言わせるにゃ!」
「痛い痛い!叩くな!」
みくは、俺の抗議に手を止めた。
そして次の瞬間、俺に抱きついてきた。
胸のあたりに顔を押し付けてくる。驚く俺に、上目遣いでみくはささやく。
「あそこまで言ったんだから……」
媚を売るような、悪戯っぽく、それでいて憎めない妖艶な笑み。
流石みくにゃん、こんな顔もできるとは――――。
「ちゃぁ〜んと責任、とってよね、Pチャン!」
その微笑みを見て、俺は確信を得ることができた。
みくとなら、どんな夢だって掴み取れる。取らせてみせる。誓いを込めて、心からの返事をした。
「ああ、任せとけ!」
シンデレラガールズプロダクション所属、
Cuteアイドル前川みくの物語は、今もまだ、終わっていない。
 
 完
1

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