女「久しぶりだね」back

女「久しぶりだね」


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1:
生きるっていうのは本当に大変なことだ。
とてもエネルギーを使う。
人は生物の本能として生きたいと感じるらしいが
人体を構成する物質の物理的な本能としては、死にたいと思っているらしい。
生きるっていうのはエネルギーを使うから。
無駄な放出だから。
どっかのお偉い人が言ったらしい。雑学かなんかの本で読んだはずだ。
つまり、人が生きたがりか死にたがりかっていうのは、その個人を支配しているのが、生物なのか物質なのかってことなんだろう。
心で生きているのか、体で生きているのか
俺は体で生きているんだろう。
元スレ
女「久しぶりだね」
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2:
自分の心はなかった。
常に影響を受けるだけ。
波間で漂うビニールのように。
影響を受けた自分と受けていない自分。
どっちも自分ではないような気がした。
もしかしたら心はすでに死んでいたのかも。
3:
いつも何かの本を読んでいないと落ち着かなかった。
なんでもよかった。なにかで俺の心がよみがえるかもしれない。
そう考えていたんだろう。
狂ったように読んでいた。
内容を覚えているものなんかほとんどない。
ドラッグのようなもので、読んでいるときだけ、生きているようなふわふわした感覚になる。やめられないんだ。
気持ちよくって。
登場人物の誰かとシンクロでもしているのかな。
俺はたまたま官能小説を読んでいた。
4:
ヒロインの女は、とても蠱惑的だった。
めったに表に出てこない俺の性欲を、よみがえらせた。
教室でなんか読むんじゃなかった。
俺の前の席に座っている女のことを好きになってしまう。
誰でもいいんだけど。
彼女と彼女の違いがわからなくなっている。
本はドラッグだ。
8:
俺はその日から彼女に夢中だった。
俺は、痴女にたぶらかされた、男だった。
痴女とセックスがしたかった。
獣のように。
俺は体で生きていた。
でも、生物的な本能だ。
もうわけがわからない。
難しいことを考えるほど、俺の頭に余裕はない。
エネルギーの消費を押さえろと、頭にはもやがかかり続けている。
9:
告白しよう。そう思った。
性欲を発散するために。
俺は、忠実だから。なにも考えなくてもかってに体が動いてくれる。
もちろんだめだった。俺と痴女はほとんどしゃべったことがないし、何より痴女の名前すら知らなかった。
痴女はやさしかった。たぶん。
裏で何を言っているのかは知らないけれど、俺が告白したという話は広まっていないようだった。
本を読むのに夢中で定かじゃないけど。
10:
いつのまにか性欲はなくなっていた。
次に発散できるのはいつだろう。
もう2年くらい出来ていない気がする。
俺は高校2年生だった。
盛んなやつなら日に何度もやっているような年ごろなんじゃなかろうか。
俺は、出来なかった。
一人でするにも、二人でするにも、複数でするにも。
している間は本が読めないから。
最も相手なんていないから、するなら一人だろう。
11:
名前を覚えるのが苦手だった。
驚くことに、小学校を卒業するまでずっと自分の名字も間違えていた。
俺の名字はタカタだった。ずっとタカダだと思っていた。
卒業証書に記入するために戸籍通りの表記が必要で、その時父親が書いた読み仮名が、俺の知っているそれとは違った。
高校の同じクラスで名前がわかるやつなんて5人くらいしかいない。
特に仲がいいわけでもないが、世話好きなのか、内申点がほしいのか、俺の世話をしてくれる奴らだった。
中学までさかのぼると覚えている奴なんていない。
友達がいなかった。
13:
俺は電車で通学していた。
特に頭がいいわけではないけれど、遠くの高校を選んだ。
俺は電車が好きだった。
耳栓をつけながら本を読んでいる時間が。
家で読んでいるときよりも、のめり込めるような気がした。
しょっちゅう乗り過ごしていたけれど、気にせずに終点まで本を読むことが多々あった。
そんな時間が好きだった。
乗る列車の時間と、車両は決めていた。
俺のスペースをつくりたかったから。
14:
今日は、ちゃんと目的の駅、自宅からの最寄り駅、で目覚めることができた。
本にしおりをはさんで鞄につめ、電車を出た。
「さよなら。また月曜日。」俺の友達はこいつくらいかもしれない。
今日は金曜日だった。
前を歩く女の鞄についていたお守りが、引っかかって落ちた。
ひもが切れていた。人が多いからか、彼女は気付いていない。
普段の俺ならきっと、どうでもいいことだと、拾いも、教えもしなかっただろう。
でも俺は、優しい人間だった。
さっき読んでいたのは、ボランティアの大切さについて書かれた本だったはずだから。
15:
たくさんの人がいるなか、ちょっと苦労してお守りを拾った。
恋愛成就のお守りだった。
でもこの人ごみの中で、俺と彼女二人が立ち止まったらきっと迷惑だろう。
繰り返すが、俺は優しい。
俺は、ゆっくりと彼女を追いかけ、駅を出るあたりで声をかけた。
「すいません、これ落としましたよ。あなたのですよね?」
彼女は、俺の声に驚いたようだった。
それから頭のよさそうな声と調子で、
「ええ、そうです。どうもありがとう。
それと、タカタ君、久しぶりだね」と。
17:
正直に言うと俺は彼女が誰だか分らなかった。
再三繰り返して申し訳ないけれど、俺は優しい。
だから、知っている人ならしっかりとわかるはずだ。
優しくなってから30分も経っていないけど。
「えっと、知り合いでしたか?」
「やっぱり覚えてないかぁ。けっこう一緒にいたのにね。
まあ、いつも私なんていないようにふるまってたけど。」
忘れられていたにもかかわらず、彼女は楽しそうだった。
「お礼にお茶でも御馳走させてよ。そこでいいよね?」
彼女は俺の腕を引き、全国展開しているカフェに引っ張った。
18:
まず最初に注文方法がわからなかった。
どこの言葉か、どこの量りか知らないけど、そのやり方はおかしい。
日本人がフィート表記で距離を言われても、わかる人は少ないだろうし、すぐにどれくらいの距離なのかわかる人なんてごく僅かしかいないだろう。
彼女は「きたの初めてか。そうだよね。そうだと思っていた。」
いやみには聞こえなかった。予想通り、といつも俺のことを考えているかのように言われた。
「たぶん甘いのは嫌だと思うんだ。あたってる?」
俺はうなずいた。あたっていたから。
「ふふ、やっぱりそうだった。」嬉しそうに言った。
19:
「実は、私たち中学が一緒なんだよ?
覚えていないだろうけど、2年生の時は一緒のクラスだったし、3年生の時は委員会が一緒でした。」
おかしそうに彼女は言った。
俺は3年間図書委員だったので彼女も3年は図書委員だったんだろう。
「図書委員は人気がなかったから、人がいなくて3年の時にはくじ引きであたっちゃったんだ。」
いつも俺は立候補していたから、そんなに人気がないとは知らなかった。
「でも今となっては、一番楽しい1年だったなぁ」
そうぼそっと彼女は言った。
「タカタ君は、水曜日担当だったよね?
その相方が私。」
21:
「私、実はずっと気付いていたんだ。タカタ君があの電車に乗っていること。
いつも同じ席で本を読んでる。
ずっと見てたのに、気付きもしないんだもん。
まあ、私のこと覚えてなかったんだし、しょうがないかもしれないけど。」
全く気付いていなかった。ちょっと申し訳ないなと思った。
「どうやってあの席いつも確保してるの?ずっと不思議だったんだ」
「俺と同じようにいつもあの席に座っている人がいるんだよ。」
「あ〜なるほどね〜。」
こんなに人と話したのはすごく久しぶりだったし、俺のことをこんなに聞かれたのは初めてかもしれない。
少し楽しかった。
こんな気持ちが自分の中にあることが意外だった。
22:
彼女はどうやらここらで一番頭のいい高校へ行ったそうだ。
俺のいるところと迷ったりしたようだったけど、親の薦めで。
俺のところは無難だ。よくもないし悪くもない。
距離も、俺と彼女の住む町からは少し遠いかもしれない。
「ちょっとストーカーみたいだけど、あなたがあの車両にいることを知ってから、私もあそこを使い始めたの。
いつも話しかけようか迷ってたんだ。今日あなたからはなしかれられた時は本当にうれしかった。
あそこ、人が少なくて静かでいいよね。」
23:
俺と彼女はいろいろな話をした。
ほとんど全部彼女の質問に答えるか話を聞いているだけだったけど。
それでも楽しかった。
たぶんこれが楽しいってことなんだろう。
初めて味わった感覚だからよくわからない。
でも、ちょっと疲れてきていた。
あんなに真面目に話を聞いていたのは初めてだったし、
あんなに真面目に話をしたのも初めてだった。
彼女は俺の疲れを察したのだろう。
「今日はそろそろかえろっか?
今度は私から話しかけるから、ね?」
そう言って席を立った。
24:
その日の夜、夢を見た。
俺はビンだった。
波に流されるビン。
誰に見つけられることもなく、ただ海を漂うビン。
きっとこれからもずっと見つけられることはない。
陸が見えたことすらないから、仕方ないのかもしれない。
霧があたりを覆っていたから。
でも、その霧は晴れていくんだ。
ああ、陸が見えた。
27:
こんなにも待ち遠しい月曜日は初めてだった。
こんなにも活字を読めない週末を過ごしたのは初めてだった。
こんなにも晴れ晴れとした空を見たのは初めてだった。
月曜日の授業中、俺は初めてまじめに授業を受けていた。
今日は本を持ってきていなかった。
初めてのことばかりだった。
彼女の乗る駅が待ち遠しかった。
28:
彼女が入ってくると、すぐに席を立った。
彼女はまっすぐに俺のほうを向いていた。
とても驚いた顔をしていた。
「そんなに私と話したかった?」
彼女は意地悪にそう聞いた。
「もちろん。とても楽しいから。」
俺が素直に答えると彼女は、長い横髪で顔を隠した。
少し経ってから、
「うれしいけど、そういうのは誰もいないところで言ってね。」
そう俺にしか聞こえないように言った。
29:
彼女と出会ってから、俺は変わったんだろう。
一番変わったことは、本を読む時間だろうか。
暇さえあればどこだろうといつだろうと読んでいた本。
今ではお風呂から出た後の30分くらいしか読んでいない。
次に変わったといえば、クラスの人たちと話をするようになったこと。
いままでも、授業のことなど話しかけてくれてはいた。
内容なんてなくって、ちょっとしたことばかりだったけど。
俺が返事をすることで、会話になった。
とにかく俺は変わっていった。
クラスの奴らの俺を見る目も変わったんじゃないかな。
元をよく覚えていないから想像だけど。
30:
俺が前に告白した子を覚えているだろうか。
あの痴女のことだよ。
俺が心の中でそう呼んでいただけで、実際には全然そんなことはなかったけど。
痴女はやっぱり優しかったようだ。
俺が告白したことを誰にも話していないようだった。
痴女は俺の前の席だったから、よく話をした。
「変わったよね、最近」
ことあるごとに痴女は俺にそう言った。
言われるたびに俺は誇らしかった。
自分がほめられているから。
もしくは、俺を変えてくれた人をほめられているように感じたからかも。
31:
「前に告白してきたじゃない?
私本当に意外だったんだ。
興味なさそうだったから。恋愛にも、私にも。」
実際に俺は興味なんてなかった。
俺は篭絡された男を演じていただけなんだから。
答えに困っているのに気づいたんだろう。
痴女は、「やっぱりね」そう言って笑った。
「でも今なら、OKしちゃうかもな。
今のキミ、かっこいいもん」
そういった。
33:
それから、痴女と俺は学校の間ずっと一緒にいるようになった。
俺は今まで呼んできた本を思い出せるようになっていた。
最近頭の中に靄がかかっていないからだろう。
とにかく調子が良かった。
痴女は俺にお勧めの本を聞いてきた。
本の感想なども言ってくれた。
俺は、俺の世界を周りの人が知ってくれることがうれしかった。
痴女は俺にいろいろ楽しいことを教えてくれた。
地元の子で、学校の周りで楽しいところをいろいろと紹介してくれた。
カラオケに行ったことがないと俺が言うと、驚き、
「じゃあ今日行こう」
そう誘ってくれた。
行ってから気付いたけど、俺には歌える歌がなかった。
34:
俺が痴女に流行りの曲やお勧めの曲を教えてくれるよう頼むと
「え~とこの曲なんかは結構お勧めかな~」
などど、喜んで教えてくれた。
ipodなるものを買った。
耳栓よりもいいものかもしれない。
俺は歌なんて歌ったことがなかった。
学校ではずっと口パクだった。
歌詞を覚えていなかったから。
だから痴女が「じゃあもう一回カラオケにいこ?」
とても見事な歌を披露できた。
痴女は、申し訳なさそうに笑っていた。
俺も一緒に笑った。
35:
その後も痴女と何回かカラオケに行った。
歌は歌えばうまくなると気付いた。
たぶん人並みになるまではだろうけど。
俺は上達したんだろう。
うたっているときに彼女は笑わなくなった。
その代わりじっと見られていて恥ずかしかった。
洋服なんかも選んでもらった。
今までは書店か図書館にしか行かなかったから、父親のお古を着ていた。
初めて痴女と休日に遊んだときに、怒られた。
36:
痴女の見立てはよかったんだろう。
俺はまたしても人並み程度のものを得た。
歌声に続き容姿。
今まで2着程度しかもっていなかった服が、10倍くらい増えた。
大量に持っていた本はうっぱらって、スペースを確保した。
もう本に依存することはないだろうと確信していたから。
37:
学校でどうも、俺と痴女が付き合っているという噂が流れているようだ。
最近よく話すようになった友達から「付き合っているのか」と何度か聞かれた。
付き合ってはいなかったので、俺は否定した。
俺は、痴女にそのことを話していると、痴女は迷っているようだった。
痴女は決意したように俺を見つめた。
「最近キミは変わったよね。
髪もしっかり整えて学校に来るようになった。
授業もしっかりと受けているし。
人当たりも良くなった。
だからかな最近もててるんだよ、知ってた?
それでね、私焦ってるの。
私も、好きだから。」
その日から、俺たちは付き合い始めた。
40:
別に痴女のことが好きなわけではなかった。
もちろん嫌いでもなかった。
じゃあなんでOKしたのかって言われると、少し恥ずかしい理由なんだ。
初めて人から、素直に好意を向けられたから。
初めて、特別な人だよって言われたから。
嬉しかったんだ。
それに、彼女に自慢できるような気がしていた。
君のおかげで俺はこんなにも変われたんだって。
君のおかげで俺は、人から告白されるようになるまで成長できたんだよって。
41:
もちろん報告した。
彼女は嬉しそうにしていた。
どんなふうに告白されたんだとかどんなところが好きなのかいろいろ聞かれた。
俺は正直に答えていた。
彼女はどこか、ぼおっとしたように俺の話を聞いていた。
その日の彼女はどこか無理をしているように見えた。
体調でも悪かったのだろう。
最近は、いつもあのカフェに誘われていた。
だけど、その日は誘われなかった。
42:
痴女は、腕を組むことが好きだった。
「ねえ、暑くない?」
離してくれない。
痴女は汗をかいているようには見えなかった。俺は違う。
「俺、いっぱい汗かいてるよ。気持ち悪いでしょ?匂いもすると思うし。」
「確かにね。でもしょうがないよ、あつあつだもん。」
痴女は俺のわき腹のあたりで頬をこすった。
「あっつあつ・・・」
43:
痴女は料理が好きだった。
特に、日本食。というより家庭料理?
一般的なものだと思う。
味噌汁とか、煮物とか、焼き鮭とか。
言ってなかったと思う。俺の両親は、家には帰ってこない。
もう6年ほど。
もともと仲は冷めきっていた。
喧嘩すらしない。
いなくなったのは小学校を卒業したときくらいからだろうか。
44:
ご飯なんて作ってもらえたことはなかったし、家にいても会話なんてしなかった。
事務的なやり取りだけ。
家は心地のいい場所ではなかった。
小学校を卒業するまでは、何とか家には帰ってきていた。
週に2度ほど。
それからは知らない。
離婚しているのかどうかすら。
生きているかどうかすら。
おじいちゃんとかおばあちゃんとも会ったことはなかった。
弁護士だとか何だとかよく知らないけれど、家の問題は彼らがやってくれた。
お金は毎月振り込まれていた。
二人から別々に、3人くらいが生活できるほど。
冷めきっていた。何もかも。
45:
だからだろう。
俺はこんな現実からは逃げたかった。
だから本に逃げていた。
そこなら、用意されている席があったから。
今は自分で作ることができる。
その力を、彼女からはもらった。
本当に感謝している。欲を言えば、中学の時に何とかしてほしかったけど。
他力本願。でも、俺にはそうすることしかできなかった。
もう行き詰っていたから。
ビンには蓋がされているものだから。
中から開けることなんてできない。勝手に開いては困る。
49:
夏休み。俺は楽しみだった。
夏の陽気が気持ちよかった。
暑さを肌で感じることができた。
今までは、体の内側で感じていた。
俺は、彼女と同じ大学に進みたかった。
高校は別だから。
彼女ともっと一緒にいたかったから。
彼女は頭がよかった。
俺は今までずっと本を読んできた。
つまり俺は頭がよくないんだ。
50:
「一緒の大学、行きたいと思ってるんだよね。」
「どうして?」
彼女は少し聞き辛そうに言った。
「君といられると、俺は変われるんだ。きっと」
小さな声で「そっか。」といった。
たまにみせる別人のような彼女。俺を混乱させる。
その後、変わらぬ声音で
「教えてあげるよ。あなたの家でなら。」そう言った。
彼女はそれから隔日で俺の家を訪れるようになった。
51:
彼女は本当に頭がよかった。
俺が問題につまると、俺がどこでつまっているのか説明するまでもなく理解していた。
「私も通ってきた道だから。」
彼女は何でもないことのように言った。
彼女は誰かを導けるんだ。俺を導いたように。
教師に向いてる、たぶん。彼女のような優秀な教師は見たことないけど。
あとは、教会とかかな。シスターとか牧師っていうやつ?
日本を出たことがない俺にはなじみがないのでただの想像だけど。
52:
照れ臭かった。
彼女の匂いがした。さわやかな、夏のにおい。
彼女にとっても似合っていた。
俺の隣で、部屋の本を漁って読んでいた。
わざわざ隣で。
においで集中できないよ。
すごく俺を落ち着かせる匂いだけど、ひどく俺を落ち着かなくさせる。
どうしてなのだろうか。
わからなかった。こんな感情は抱いたことはない。
53:
「あなた、今までこんな本を読んでたんだね。
けっこう気になってたの。あなたがどんなものが好きなのか。
前に聞いた時には、わからないって言ってたから、私はあなたの勉強してるね。」
そういって本をずっと読んでいた。
俺は、本当にうれしい。
俺のすべてを彼女には知っていてほしかった。
彼女にすべてさらけ出したい。
55:
俺の成績はみるみる上がっていった。
夏休みが終わった時の試験では、クラスで5番目だった。
今までは30位前後をうろうろしていた。36人中。
痴女は夏休みの間、俺と会う時間が少ないことに不満を持っていたようだった。
勉強しているから会えないといったときにも疑っているようだった。
でも俺の成績が上がっていることを確認し、信用してくれたんだろう。
「良かった。浮気されてたらどうしようかと思ってた。
もう大学受験近いもんね。私も頑張らなきゃ。」
浮気なんてしているわけがないだろ。ずっと彼女といただけなんだから。
当然のように俺は考えていた。
痴女は、一緒に勉強しようとは言いださなかった。
そこが痴女のいいところだと俺は思う。
メリハリがしっかりしている。気持ちの切り替えが上手なんだ。
俺と一緒にいると痴女は、セックスをしたがる。
だから、一緒に勉強しようとは言わなかったんだろう。
そこが痴女のいいところだ。
56:
そうそう、俺にも人並みの性欲が戻ってきた。
彼女と出会ってから、俺は女性に興奮するようになった。
自分の意思で。
いままで、男に興奮していたわけではないよ、もちろん。
ただやっぱり、本を読まなくていいっていうのはいろいろ考える時間ができるってことで、
そんな中考えるのは女性のことだったってだけで。
女性のことを考えると、どうしても興奮する。
なんで、俺はあの官能小説を売ってしまったんだろう。
まだまだいっぱいあるはずだけど、どこにあるかはもうわからない。
売ってしまったかもしれないし、家のどこかで眠っているのかも。
家にはだれも帰ってこないから、スペースは使い放題だ。
57:
夏休みが終わってからも、勉強会は続いた。
そりゃそうだ。一時的に成績を上げたかったわけじゃない。目標があるんだから。
最初は2時間だった。それが2時間半、3時間と伸びていった。
伸びていった時間。ずっと勉強しているのかとういうと、そうではなかった。
一緒にアニメを見たりもした。全然知らなかったけど、彼女はよく見ているようだ。
ちょっと意外だったけど、彼女が近くに感じた。
彼女は、俺になにもつかませてくれないから。
初めてつかめた気がしたから。
彼女は、俺の家から帰るときに必ず掃除をしていった。
頼んだわけじゃない。
「彼女がいるんだから、こういうところにも気を使わなきゃ。
うまくいくための秘訣だよ。浮気しているわけじゃないけど、ね?」
その通りだった。
59:
俺は、どちらかというと、彼女に痴女のにおいを感じられてしまうことを恐れていた。
前に一度、枕から長い髪の毛、ちょっと茶色っぽい毛を彼女は見つけた。
彼女の髪は真黒だ。黒髪ロングってやつ。ラノベで読んだよ。
彼女は、焦っていたように見えた。
別に俺の意見だから正しいとは言えない。
彼女が焦っているところを見た記憶もないから、ただの印象。
あてずっぽうっていうの?そんな感じ。
彼女はその髪についてなにも言わなかった。
勉強をしているふりをして彼女をちらっと見ると、枕のにおいをかいでいた。
俺は焦った。きっと痴女のにおいがするはずだから。
昨日そこで痴女が寝ていたから。
60:
報告したあの日以降、彼女は俺と痴女について聞かなくなっていた。
俺から彼女に経過を報告するのはためらわれた。
あの日の彼女のどこか調子の悪そうな無理をしている顔が忘れられなかった。
俺のせいだと考えていたわけではないけど、ひょっとしたらということも考えられた。
俺は、彼女に好かれていると考えることができなかった。
俺から彼女に何かしてあげた記憶はなく、いつも彼女から。
世の中にはひも男なる人たちが存在するらしいが、
彼女がそんな人がタイプだということでもない限り、彼女が俺を好いてくれる理由が思いつかない。
それを言ったら何故俺は痴女に告白されたのか、ということにもなるのだが。
俺にとって彼女は特別だったというだけなんだろう。
彼女と痴女を同列に扱うことができなかった。
61:
痴女のことを悪く言うつもりはない。
ただ、俺の感じた印象というだけで。
痴女は、きっと世渡りがうまい。
俺と付き合っていなくても、1年後には違う彼氏ができていたんではないだろうか。
痴女にはbetterな方々が多く存在している。たぶん。
もう一度言っておこう。痴女のことを悪く言うつもりはない。
痴女と心の中で呼んでいることにも悪気はない。
でも彼女にはきっとbestしかないんだ。
それらを俺は感じていたから、彼女を特別だと感じるのだろう。
整理してみるとわかることがある。
個人の気持ちっていうのは、読めないものじゃないんだ。
間違っている可能性も当然あるけど。
62:
恋愛だとか、友情だとかってきっとそういうものなんだ。
個々にそれぞれの価値観があって、betterで満足するのか、best以外には興味がないのか。
はたまたそれ以外に答えを求めるのか。
俺はどのタイプなんだろう。
いまだ流されているのだろうか。
陸にはたどり着けないのだろうか。
きっと、もう少しで陸なのに。
陸にはきっと答えがある。
だけど、陸にたどり着くためには答えが必要なんだろう。
矛盾している。
でも、たどりつく。そのための力はもう、生き返っているはずだ。
俺はもう死んでなんかいない。
66:
俺と痴女は別の学校を目指すことになりそうだ。
痴女にもきっと答えがあるんだろう。
それを見つけるための選択なんだろう。
「私はバカだから。一緒のところにはいけなさそう。
だから、自分のやりたいことをやるよ。
キミに料理を作っているとき、とても楽しいんだ。
だから、もっと勉強したい。もっと満足させたいんだ。」
そう、すっきりと誇らしげに語った痴女は、かっこよかった。
俺は相変わらず、必死に勉強している。
陸は近づいている。
そう感じていた。
たどりついたら終わるわけではない。けれど、ひとまずの終末を迎えることができると感じていた。
67:
もう入試まで時間がない。
彼女は泊まり込みで俺と一緒に勉強した。
なんと、彼女に教えを請われることもあった。
無駄に本を読んできたから、国語と社会、それに物理・化学は得意だった。
雑学ってのも馬鹿にならないし、一時期科学書とかを読み漁っていた時期も会った。
その時の俺の気分はどんなだったのか。何とシンクロしていたんだろう。
構造式なんかを見つめながら、つながりを感じていたのかな。
68:
泊りこみといっても間違いはおこらなかった。
俺の家にはあまっている部屋がたくさんある。
だけど、本で埋もれてしまっていたし、掃除なんてしていなかった。
彼女は「同じ部屋でいいよ。一緒に寝よ?」
そういった。
問題が発生した。
寝られない。
彼女は俺の隣で胸を上下に揺らしている。
一定のリズムで呼吸している。
もう寝てしまったんだろうか。
彼女の顔は赤かった。
69:
朝目が覚めると、手に温かみを感じた。
まだ眠かった。もっとずっと寝ていたい。
いいにおいがするし、あたたかい。
頬のあたりに、目線を感じる。
きっと彼女が見ているんだ。
そう思うと、眠気は消えた。
その代わり、瞼を開けなくなってしまった。
寝たふりをしていなければ。
この空気は消えてしまう。
70:
でもずっとそうしているわけにもいかなかった。
起きているよってことを彼女に伝えるために、少し強く手を握った。
彼女はびくっと震えた後、少し強く握り返した後に手を離した。
「おはよ。」
そう言って彼女は立ちあがり、窓を開けた。
もう外は寒い。一気に冷たい空気が流れ込んできた。
あたたかい空気とともに、確かに消えていってしまうものがあった。
「もう寒いね。朝の換気は大事だけど、閉めるね。」
少し笑いながら彼女は言った。
73:
正直試験問題は簡単だった。
俺はそれだけ必死に勉強をつづけられていたんだろう。
試験が終わり彼女と会うと、自信があるぞ、って顔をしていた。
「あなたも余裕そうだね。良かった。一緒の学校に通えそうで。」
「全部君のおかげだよ。」
そう言おうと思ったけど、前に彼女に怒られたことを思い出してやめた。
ここは人が多すぎる。
74:
痴女との関係。
俺が告白して振られた。そのあと告白されて付き合いだした。
文字にしてみると、なんともいい関係に見える。
誰が見ても両思い。
でも最初から破たんしていた。
最初の告白の時、俺は性欲に駆られていただけだったし。
告白を受けたときだって、俺は変われたんだという実感が得られるから。
誰かから好きだって言われたのが初めてだったから。
俺は、別れの時が近づいていることを察していた。
75:
「私は君のこと好きだよ。
でも君はどうなんだろう?
あなたに好きだって言われたこと、ない気がする。」
そう痴女に聞かれた。
俺は、今日で終わるのかと少しさみしい気はしたけど、
「俺、ずっと好きな人がいたみたいなんだ。
今まで抱いたことのない感情だったから気付けなかったけど。
君と付き合ったことでようやく、好きってことがわかったような気がする。
本当にありがとう。
本当にごめん。
今日で別れよう。」
彼女は覚悟していたように、少し笑うと去って行った。
78:
俺って最低なことをしていたんだなって思った。
恋愛小説とかで浮気をする男たちの心理がわかったような気がする。
何とかして痴女も俺のもとに置こうと考えている、そんな考え早く捨ててしまいたい。
高校も終わりが近づいている。
教室であった痴女は何事もなかったようにふるまっていた。
俺にも話しかけてくれた。
付き合う前のころのように。
これでいいんだ。
俺はbestじゃなきゃ満足できないから。
79:
さあ、どうやって彼女に告白しよう。
もう勉強会はなくなってしまった。
次に会うのはいつだろう。
なんか、昔の受験の発表って大学の中に掲示された紙から自分の番号を探すものだったらしいけど、
今はネットで見る。
今日は発表日だった。
午前11時に公開されるという。
80:
俺は合格していた。
彼女も当然。番号は暗記している。
電話がかかってきた。
「やったね。これで春からは一緒の大学だよ?
勉強頑張ったもんね。」
「全部君のおかげだよ。本当にありがとう。
打ち上げとかやろうよ。喫茶店とかでさ。
今から会えない?」
「もちろんいいよ。私から誘おうと思ってたくらい。
12時に駅前でいい?」
81:
「俺、君のこと好きだよ。」
あってすぐに告白した。
ムードとかを考えようとも思っていたけど、俺らしくないっていう感じがした。
というのはいいわけで、我慢が出来なかっただけなんだけど。
彼女は顔を真っ赤にしていた。
俺は、けっこう大きな声で告白したから、立ち止まって経過を見ている人もいる。
ここは駅前だ。人がいっぱいいた。
「やるねーあの兄ちゃん。」そんな声が聞こえていた。
82:
しばらくすると、彼女の返事を待っているのか、いつのまにかギャラリーもしーんとしていた。
彼女は、チラチラと俺を見ていた。
それから周りの人に気付いたようだった。
彼女は俺を少し怒ったように見つめはじめた。
俺は、返事を待っている、そんな顔で見つめ返した。
彼女はあきらめたように下を向き、黙って俺に抱きついた。
歓声が聞こえた。ギャラリーの人が拍手やら声援を送ってくれていた。
「好きだよ。」俺がそういうと彼女は、
「うれしいけど、そういうのは誰もいないところで言ってね。」
そう言って、俺にキスをした。
83:
必死に陸を目指すビンをじっと見つめる少女がいた。
長く黒い髪が美しい、知的な女の子。
ビンは陸にたどりついた。
すぐにビンは彼女に拾われ、蓋を開けられる。
中に入っているのは手紙だろう。
気持ち、心の塊。
長い長い時間、たった一人の少女に見つけてもらうために、漂ってきた心。
84:
彼女はいつから俺のことが好きだったんだろうか。
俺は彼女に聞いてみた。
「中3の秋くらいからかなぁ。図書委員が一緒だったでしょ?
あの時君が優しかったから、ころっと。」
そう言って彼女は笑った。
「俺あの頃は不愛想だっただろうし、優しくなんてなかったと思うけど。
ずっと本を読んでたはずで、君のことすら忘れていた位なのに。」
「あなたはいろいろなものを見ていたよ。根がまじめなんでしょ。
仕事はしっかりとしていたし、困っている人にも丁寧に接していた。
私にもね。覚えてないってことだから、無自覚なんだろうけど。
優しいってさ、自分が判断することじゃないでしょ?
「俺はやさしい、やさしくない」っていうのは違うと思う。
私が優しいって思ったんだから、あなたはやさしいの。」
恥ずかしそうに、パタパタ仰ぎながら言った。
もうあたたかい。春がやってきた。
「すきだよ、ずっと」
手を重ねながら彼女に言った。
彼女は俺の方に頭を乗せたまま、言った。
「これからも、二人きりの時には、たくさん言ってね。」
85:
終わりです
レス本当にありがとうございました
新しいスレを明日にでも建てると思いますので、見かけた際にはよろしくお願いします
86:
おつ
87:

8

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