薔薇水晶と空魚back

薔薇水晶と空魚


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真紅「へいへいへいっ!」
翠星石「♪つく?しの子がっ 恥ずかしげもなく顔を出すですっ」
雛苺「ひゅーひゅーひゅー!」
三馬鹿『♪もうすぐ は?るですねぇ ちょっと浮かれてみませんか?』
ジュン「うーるーさーいーぞっ! 馬鹿ども! 僕の部屋の中でカラオケは厳禁だと何度言えば分かるんだ!」
翠星石「むっ? いい気分でみんなで歌って浮かれているところに水を差すなですよチビ人間」
ジュン「僕の部屋の中で大声で歌うのは禁止だと、お約束条項にも列記してあるはずだろうが」
真紅「あらやだ。お約束条項って全部、破棄されたはずじゃなかったの?」
雛苺「うぃ!」
ジュン「はぁ!? そんなこと、いつ誰が…」
真紅「いやいやいや、だってほら、先日ジュンが…、あっ!」
雛苺「うにゅ? どうしたのよ真紅ぅ?」
303 :
翠星石「ええ?っ!?」
ジュン「馬鹿かお前は」
雛苺「真紅がもうお約束条項は全部無くなったって言っていたからヒナ達はそれを信じただけなの」
翠星石「そうです! だから翠星石達には罪はないですよ! 悪いのは全部真紅です」
ジュン「……」
真紅「ちょ、ちょっと待って状態! 私のせいじゃないわよ! 私だって夢の中のジュンに
  あんなことを言われなかったら、決して約束を破って大声で歌ったりはしない!」
翠星石「ということは戦犯は夢の中のチビ人間ということでファイナルアンサーですね」
雛苺「うぃ! この場の誰も悪くないの」
真紅「あえて言うなら春の陽気のせいね。春の陽気が私にありもしない夢を見させてしまった。
  全く油断も隙も無い春だわ。春こそが諸悪の根源。消費税が上がるのも春のせいだし
  気になるあの子がいつもより綺麗に見えるのも春のせい、バスタードが未だに再開しないのも春のせい」
ジュン「あのなぁ…」
304 :
翠星石「気持ちの良い夢をたくさん見てしまうのも致し方ないことですぅ」
真紅「あ、でも、その時の夢では、雛苺の鞄を開けてみたら
  なぜかドリアン海王にボコボコにされた加藤が入っていたわ」
雛苺「みょわわっ!? 全然、良い夢じゃないのよっ!」
翠星石「桜田家激震ですね」
ジュン「くだらない夢ばっか見てるんじゃないよ…。ともかく、浮かれて大声で騒ぎたいんだったら
  外に出てやれ、外で。外なら春の陽気も一層、気持ちいいはずだろ?」
真紅「馬鹿おっしゃいジュン。外には春の陽気で活動が活発になった
  野良猫や露出狂が、それこそ雨後の筍のようにひしめいている」
翠星石「そんなところに、浮かれポンチな気分ででかけられるわけがねーだろーがです」
雛苺「ヒナ達の身の危険がデンジャーなの!」
ジュン「ああもう、あー言えばこー言う…」
305 :
ジュン「っ!?」
雛苺「き…?」
翠星石「雪華綺晶!?」
真紅「ど、どうしたのよ、あなた。急に」
翠星石「神出鬼没にも程があるですぅ」
雛苺「何か用なの?」
雪華綺晶「ええ、まあ…。ラーメンを食べに行きませんか?」
真紅「は?」
翠星石「ラー…」
雛苺「メン?」
ジュン「来るのも急だったが、用件も唐突だな。ラーメン?」
307 :
真紅「それは知ってるわ」
雪華綺晶「その後、苗床の人達はオディールのように自らの生活に戻る者もいましたが
   既に現世との時間軸がずれてしまっている者も大勢いました」
雛苺「可哀想なの…」
雪華綺晶「そういった人達については、私がnフィー内で生活や仕事の場を斡旋しています」
ジュン「ふーん…」
雪華綺晶「その中のある人物が、この度、nフィーでラーメンの屋台を始めたのです」
翠星石「だから、わざわざ食べに行ってやろうってことですか?」
真紅「白薔薇にしてはつつましい応援の仕方ね」
308 :
   連絡が取れたのは蒼星石と薔薇水晶と、そして桜田家のお姉様方です」
雛苺「うにゅにゅ? 蒼星石と薔薇水晶はラーメン屋さんに行くのよ?」
雪華綺晶「はい。これから一時間後に待ち合わせをしています」
真紅「なるほど。そういうことだったら私達も行くわ。暇だったし」
雛苺「ねえねえ! ジュンも一緒に行こう!」
ジュン「ええ?? 面倒くさいな。それぐらい真紅達だけで行けばいいだろ。
  それに、僕ラーメンが大好きってワケでもないし、お腹も減ってない」
翠星石「ノリの悪いやつですね。まあいいです。しかし雪華綺晶、翠星石はこう見えてラーメンにはウルサイですよ。
  その苗床ヤローの作るラーメンが美味しくなかったら承知しないですぅ!」
真紅「でも、翠星石が気に入ったラーメン屋はことごとく潰れるというジンクスがあるのよね」
雛苺「うぃ。カップラーメンでも翠星石が気に入った味は一月後にはメーカーが販売中止するの」
ジュン「そう言えばそうだった。翠星石はむしろ行かない方がいいんじゃあないのか?」
翠星石「ばっ! 馬鹿言うなです! そんなの翠星石のせいじゃないですよ!
  むしろ翠星石に対する嫌がらせのために、水銀燈が裏で糸を引いていたに違いないです!」
雪華綺晶「…ええと、とにかくお姉様方は一緒に来てくれるのですよね?」
309 :
  ┌─ /_/_/_/_/_/_/_/_/_∧
 ┏━┓/_/_/_/_/_/_/_/_/_/┬ヽ
  |=ら=|_/_/_/_/_/_/_/_/_/┬┬'ヽ
 |= あ =|_/_/_/_/_/_/_/_/┬┬┬┬ヽ
 |= め =|?.八 ∬    ∬ , || ̄ ̄ ̄ ̄||
  |=ん=|.?|三| _∬___∬_  ||  ||
 ┗━┛?|郎|/ / / / ヽ||,  ||  
 ┌―――――――――――┬―┬───┐ 
 └――――───――――┴―┘  │   
   γ´`ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;γ´`ヽ[======= 
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  ヾ_ノノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヾ_ノノ ̄ ̄ ̄ ̄ 
サブ「らっしゃいっ! ラーメン三郎へようこそ!!」
真紅「ラ、ラーメン三郎…?」
翠星石「どっかで聞いたことあるようなネーミングです」
蒼星石「しかも、この店長さんも…」
雛苺「どこかで見たことあるような気が…」
薔薇水晶「THEレースで、神輿仲間の足をことごとく引っ張っていたサブさんでは?(※)」
※SIMPLEアリスゲーム THEレース参照
310 :
真紅「そう言われれば…」
翠星石「おお…、あの時のミソッカスですか」
サブ「へへへ、その節はどうも」
蒼星石「ちゃんと屋台を切り盛りできているんですか? 見たところサブさん一人だけでやっているようですけど」
サブ「ええまあ、なんとか最近は」
雪華綺晶「当初は、ことあるごとにラーメン屋の命であるスープの入った寸胴鍋を
   ひっくり返していたため、屋台を出していながら客にラーメンを出せない日々が続いていたとか」
真紅「とんでもないドジっ子ね」
雪華綺晶「逆にそれが、まだ誰も食べたことのない伝説のラーメンという噂にもなり、変な注目を浴びたり」
翠星石「何か、それと似たようなシチュのコントを見たことがあるですよ翠星石は…」
サブ「まあまあ、その話はともかく…て、あれ? 来てくれたのはこれで全員ですか」キョロキョロ
雪華綺晶「サブ、今日は黒と金のお姉様は捕まりませんでした。あの二人はまた日を改めて連れてきます」
サブ「すいやせん、雪華綺晶の姉御。お気ばかり遣わせちまって」
雪華綺晶「気にしないでください。この程度、私があなた方苗床の人達から奪ったものに比べれば…」
サブ「それはもう言いっこなしでさぁ、姉御」
雪華綺晶「サブ…」
翠星石「湿っぽい話はそれぐらいにして、さっさとラーメンを出しやがれです!」
雛苺「ヒナ達、お腹が減ってるのー!」
311 :
蒼星石「何だかサブさん、イマイチまだラーメン作りに慣れてないみたいだけど…本当に大丈夫?」
サブ「だ、大丈夫です。こう見えてラーメン屋でバイトしてましたから!」
薔薇水晶「…バイト?」
翠星石「っつーことは、本格的な修行なんざしたことない素人同然ってことじゃねーですか!」
真紅「そんなので、ラーメン屋の屋台を引っ張ってるの!? 屋台をなめてるんじゃなくて、あなた?」
サブ「そ、そんなことは決して…」
雪華綺晶「先ずは実物を食べてみてくださいお姉様方。文句はそれからでも遅くはないはず」
蒼星石「確かに、それもそうだ」
真紅「むむむ、味には自信があるってこと?」
サブ「い、一応…」
雪華綺晶「サブ、それと私の方へは白ライスも大盛りで一つ」
サブ「合点です」
真紅「え? 白ライスがあるの? だったら私にもそれを追加で」
翠星石「ほほう、屋台のくせにライスがあるとは感心ですぅ。翠星石にもライスくれです」
雛苺「ヒナも、ヒナもー!」
蒼星石「じゃあ、僕も」
薔薇水晶「…私も」
サブ「皆さん、お米が好きなんですね…」
312 :
雛苺「わぁい! いっただっきまーす」
蒼星石「いただきます」
薔薇水晶「いただきます」
真紅「どれどれ、最初にスープの味は…?」ズズ
翠星石「むっ! こ、これは! この味は…!」
サブ「ど、どうでしょう? お口に合いますか?」
翠星石「辛からず…、かといって甘からず。そして旨からず…」
薔薇水晶「まずいってことですか?」
サブ「そ、そんな!」
蒼星石「うーん、悪くはない。決してまずくはないんだけど…」
雛苺「めちゃくちゃ美味しいってわけでもないのよね」
真紅「麺もコシが強いようでもあり、弱いようでもあり…」
雪華綺晶「……」
翠星石「良くも悪くも普通ってとこですね。カップ麺よりは気持ち美味しい感じもするです」
雛苺「感動が無いのよ、感動が」
真紅「お腹が減ってたらもっと美味しく感じるかもだろうけど…」
薔薇水晶「空腹は何物にも勝る調味料ですからね」
サブ「ううっ、随分と渋い評価…」
313 :
真紅「ええ。これにラーメンの汁をかけると
  今までぱっとしなかったラーメンのスープの味も見事に立ち上がってくる」
雛苺「うぃ! ヒナ、ラーメンは要らないけど、こっちのご飯だけお代わりするの!」
サブ「そ、それはどうも」
雪華綺晶「…確かに、これは良い米を使っているようですわね」
サブ「実は…他のお客様にも似たようなことを言われていまして」
蒼星石「そうだったんだ」
サブ「いっそ、お米を活かしたお握り屋の屋台に転向したらとも勧められたんですが」
翠星石「ナイスアイディアじゃねーですか。そっちの方が断然もうかるですよ、きっと」
サブ「しかし、あっしはラーメンが好きで屋台を始めたんです!
  なのに、採算が取れないからってお握り屋に転向だなんて…」
蒼星石「ふーん。拘りがあるんだ」
薔薇水晶「まあ、美味しいお米を美味しいご飯に炊き上げられるのですから
   料理自体は下手ではないのでしょうし、そのうちラーメンも美味しくなるのでは?」
翠星石「希望的観測ですねぇ。ここはnフィーだから融通が利くですが
  現世でそんな悠長なこと言ってたら、あっという間に廃業ですぅ。ラーメンは戦争ですよ」
314 :
雪華綺晶「何です? サブ?」
サブ「この米を提供してくれているのは、あっしの旧来の知人の好意によるものでして」
真紅「知人?」
サブ「へい。今は…個人で農家をやっている男なんですが」
蒼星石「個人農家か。ならば、このお米の美味しさにも納得がいく。
  多分、良い出来のところだけ選んでサブさんに提供しているんだ」
翠星石「で、大きな問題ってのは何ですか?」
サブ「あっしは農業には疎いんでよく分からないんですが
  最近春になって、めっぽう暖かくなってきたというのに、水を入れた田んぼが冷たいままだと言うんです」
蒼星石「……」
真紅「そりゃ、春とは言っても水はまだ冷たいわよ。それにnフィーは全体的に薄暗いし」
サブ「その辺を差し引いても異常に冷たいんだそうです。そいつの田んぼは
  日射量の少ないnフィーにも対応して、温かくなりやすいように作ってあるそうでして」
薔薇水晶「……」
雪華綺晶「それは確かに…奇妙な話ですわね」
315 :
雛苺「うみゅみゅ…」
サブ「雪華綺晶の姉御、それに薔薇乙女のお歴々、何か…何でもいいんで解決策はないものでしょうか?
  特に、そちらのお二人は庭師だそうですし、あっしよりも農業には明るいと…」
翠星石「馬鹿言うなですよ、いくら庭師だからって稲作までやるわけじゃあねーです。ですよね蒼星石?」
蒼星石「……」
翠星石「蒼星石?」
薔薇水晶「蒼星石、今のサブさんのお知り合いの農家の方の話…ひょっとして?」
蒼星石「君もピンと来たか薔薇水晶」
翠星石「へ?」
雪華綺晶「何か思い当たることでも?」
蒼星石「確証はまだ無い。が、恐らくこれは冷害虫の一種の仕業だ」
316 :
蒼星石「うん。ただ、実際にそうなのかは現地で調べてみないことには…」
薔薇水晶「それ、私に任せていただけませんか蒼星石?」
翠星石「っ!?」
蒼星石「……」
薔薇水晶「私は以前より蒼星石から庭師の手解きを受けてきました」
真紅「そう言えばそうだったわね。まだ続いていたんだ、それ」
薔薇水晶「はい。今回の冷害虫の仕業と思われる事象、きっと私だけでも解決できます」
サブ「本当ですかい!?」
蒼星石「確かに…。あまり大勢で田んぼに踏み入って調査するよりは、その方が良いかも」
翠星石「ちょ、ちょっと何を勝手に話を進めているですか! 大体、冷害虫って…?」
蒼星石「庭師は心の樹などの幻想植物のケアをする。一方で幻想植物を害する存在もいる。
  ある意味、庭師の永遠の敵、それがいわゆるnフィーの害虫と呼ばれる存在だ」
翠星石「むぅ…」
蒼星石「中には庭師でありながら、心の樹を傷つける黒庭師なんてのもいるが、それはまた別の話だ。今は
  害虫にフォーカスして話そう。…昔の話だがジュン君の樹にも『空蝉』や『飢蛾』がついたことがある」
※薔薇乙女のうた『空蝉ノ影』
※桜田ジュン、飢蛾に遭う。
317 :
翠星石「確かに奴らは害虫以外の何者でもなかったですぅ」
真紅「心の樹に害なす虫…か」
雪華綺晶「では、冷害虫というのは、冷害をもたらす虫であると?」
蒼星石「サブさんの話を聞く限り、そうだ」
サブ「なら、その冷害虫ってぇのを退治すりゃあ」
蒼星石「うん。田んぼは普通の状態に戻る。しかし、退治するんじゃあない」
サブ「?」
蒼星石「害虫というのは、僕達側からの勝手な都合でつけた呼び名で
  彼らは彼らで、ただ生きているだけなんだ。そこの自然には敬意を払わなくちゃあいけない」
サブ「……」
薔薇水晶「下手に退治したりすると逆効果になってしまうこともあるということです」
サブ「はぁ、そういうものなんですか」
蒼星石「よし。この件は薔薇水晶に任せよう」
真紅「ちょちょちょ、ちょっと! だから、勝手に私達をおいてけぼりで話を進めないでよ!」
雛苺「うぃ! ヒナ達を仲間はずれだなんてひどいの!」
雪華綺晶「まあまあ、ここは専門家でもあり、自信もある様子の薔薇水晶に托しましょう。
   大体、お姉様方はそもそも話について来れていなかったのでは?」
翠星石「うぬぬ…。しゃーねーです! しかし、この蒼星石と翠星石の弟子として無様な真似は許さんですよ!
  その冷害虫とかいうのを、きっちり退治してくるまで戻ってくるなですぅ薔薇水晶!」
蒼星石「だから、退治するのは駄目なんだって翠星石…」
薔薇水晶「分かっています蒼星石に翠星石。ではサブさん、そのお知り合いの農家の方の居場所を」
サブ「行ってもらえるんですね! ありがとうごぜぇやす! すぐに地図を書くんで…」
318 :
農夫「よく来てくれた! あなたがサブが紹介してくれた例の…!?」
薔薇水晶「はい。薔薇水晶と申します。まだ、庭師見習いですが…」
農夫「見習いでも何もでいい。サブから先だって送られてきた手紙には、あなたが必ず田んぼを元通りにしてくれると!」
薔薇水晶「そのつもりです。ところで、失礼ですが…サブさんとはどういった御関係で?」
農夫「いや、まあ、その…。お嬢ちゃんのような子供は知らなくていい関係だよ」
薔薇水晶「…?」
農夫「ともかく、要するに腐れ縁だ。長い間、見なかったから死んだのかと思っていたが
  どこかに囚われの身になっていたそうじゃねぇか。それでようやく会えたと思ったら今度はラーメン屋だ」
薔薇水晶「……」
農夫「いや、こんな世間話よりも、先ずは例の田んぼを見てくれ」
薔薇水晶「はい」
319 :
薔薇水晶「…確かに、水が冷たい。用水路の水と比べても明らかに田んぼにたまっている止水の方が」
農夫「だろ? 絶対におかしいぜ、こんなのは。苗を植える季節の前に何とか原因を突き止めなくては」
薔薇水晶「nフィーでの稲作の為に、保温性のある構造の田んぼだと伺っていましたが、どのような工夫を?」
農夫「工夫ってほどのもんじゃあねえが、その答えならもう既に薔薇水晶さんが掴んでいる」
薔薇水晶「?」
農夫「俺は現世にいたころも米を作っていたが、薔薇水晶さんは現世で田んぼを見たことは?」
薔薇水晶「あまり、多くはありません」
農夫「そうか。なら分からないかもしれないが、俺の田んぼは現世の田んぼよりも深く作っている」
薔薇水晶「深く?」
農夫「そうすることで田んぼに溜め込める水の量が増える。水が増えれば保温力も上がる」
薔薇水晶「なるほど…」
農夫「現世でも冷夏の多い地域ではこういう田んぼを作っているらしい」
320 :
薔薇水晶「…空魚(そらうお)という名の冷害虫がいます」
農夫「空魚? 冷害虫? 魚なのか、虫なのか?」
薔薇水晶「厳密に言えばどちらでもありません。もっと生命の根源のアストラル体」
農夫「よく分からねぇが、その空魚が何だって言うんだい?」
薔薇水晶「この空魚、普段はその名の通り空の雲の中で小魚のように生活しています。
   雲に含まれる、微量なアストラル粒子を糧として」
農夫「……」
薔薇水晶「しかし、ある時期になると雨や雪と混じって地に降ってきます。
   そして落ちてきた空魚の食生活は一変する。彼女達の地上での餌は『温度』」
農夫「温度…っ!? ということは、まさか…!」
薔薇水晶「その通り。この田んぼは空魚に温度を食べられている。今、この時も」
農夫「そんなことが」
薔薇水晶「地に落ちた空魚は通常は熊などの大型動物に取りつくのですが、まれに心の大樹などに取りつくこともある」
農夫「俺の田は熊でもなければ、大樹でもないぞ」
321 :
   私も目の当たりにするのは初めてです。田んぼに空魚が棲みつくなど」
農夫「け、けれども、その空魚ってのを見つけ出して退治すればいいだけの話なんだよな!?」
薔薇水晶「…熊などに寄生した場合、空魚は温度を食べながら、栄養体と呼ばれる状態へと変化します」
農夫「栄養体?」
薔薇水晶「キノコのようなものです。そこで空魚は自身の生活環を全うするため準備をする」
農夫「ということは、この田んぼの中からキノコを見つけて引っこ抜けば」
薔薇水晶「それはいけない。空魚は雲の上での生活でアストラル毒を蓄えています。下手に潰せば、田が汚染される」
農夫「そんな! じゃあ、このまま何も…!?」
薔薇水晶「いえ、手はあります。逆に栄養体に温度を与えることで満腹にさせます。
   満腹になった空魚は栄養体から種を空に向かって飛ばして消滅する。それが地に落ちた空魚の生活史」
農夫「……」
薔薇水晶「踏まないように、目を凝らして田んぼの中を探しましょう。細心の注意を払って」
農夫「お、おう!」
322 :
農夫「どこだ どこにいやがるんだキノコ野郎は……」
薔薇水晶(二人で手分けしても、流石にすぐ見つかるものでもないか)
農夫「ちくしょう、原因は分かったんだ! 俺が、俺がキノコさえ見つけてやれば!」
薔薇水晶「…暗くなってきた。今日は切り上げるべきです」
農夫「しかし!」
薔薇水晶「また明日、朝から探しましょう。私も手伝いますから」
農夫「あと少し、あと少しだけ探させてくれ!」
薔薇水晶「あなたが倒れるようなことがあっては、それこそ元も子もないのでは?」
農夫「…分かった。薔薇水晶さんの言うとおりに…ッ?」
薔薇水晶「どうしました? 急にうずくまって?」
農夫「体…が突然…」
薔薇水晶「!?」
農夫「さ…寒い」ガクッ
323 :
農夫「…う!?」むくっ
薔薇水晶「気が付きましたか」
農夫「こ…ここは」
薔薇水晶「あ、立ち上がらないで、そのまま寝ていてください。ここはあなたの家です。
   勝手にですが湯を沸かさせていただきました。これを飲んで落ち着いて」
農夫「俺は気を失っていて? あんたが運んでくれたのか、重かったろうに…」
薔薇水晶「……」
農夫「俺は一体、どれぐらい?」
薔薇水晶「あなたが倒れてから一時間も経っていません」
農夫「しかし、田んぼの真ん中でぶっ倒れるなんて」
薔薇水晶「空魚です。空魚があなたに取り付いたのです」
農夫「!?」
薔薇水晶「ご自身の右足の裏を見て下さい」
農夫「俺の足…? こ、これは、まさか! このイボみたいなのが!?」
薔薇水晶「ええ、それがキノコ、もとい空魚の栄養体です」
農夫「どうして俺の足に!? まさか、うっかり踏んづけて…?」
薔薇水晶「おそらく。田よりも最適の獲物が目の前に現れた。空魚にとっては、そういうことなのでしょう」
   あなたの田靴の底に、小さな穴が空いていました。そこから空魚が入り込んだ」
農夫「……」
薔薇水晶「…では、屋外に出て頂けますか? その足の空魚の栄養体に灸を据えます」
農夫「灸?」
薔薇水晶「私のお父様が配合した特別な灸です。これで空魚に温度を与えるととともに成長を促すのです」
農夫「なるほど」
324 :
農夫「やってくれ」
薔薇水晶「では」
農夫「…ッ!? イボが膨らみ始めた」
薔薇水晶「じき、種を空に飛ばすはず。ここまで急激に成長させられるのも、灸のお陰です」
農夫「…なあ、もし俺がこの手で種が空へ飛ぶのを叩き落としたらどうなる?」
薔薇水晶「空魚の種は、雲の中でしか発芽できません」
農夫「……」
薔薇水晶「かまいませんよ。決定権はあなたにある」
農夫「いや、よそう。今のは冗談だ」
薔薇水晶「……」
農夫「それより、種はまだ飛ばないのか?」
薔薇水晶「飛んでますよ、既に」
農夫「?」
薔薇水晶「灸の煙に混じって飛んでいっています。空魚の種は目に見えないほど小さい。栄養体が規格外に大きいだけです」
農夫「何だよ、それじゃあ俺の手なんかじゃ、まったく抑えることさえ出来ないじゃないか。薔薇水晶さんも意地が悪いな」
薔薇水晶「あなたが遮ろうと遮らまいと、空の雲まで戻れる空魚の種はごく僅か。99.9%は辿り着けず地に落ち、やがて消えます」
農夫「……」
薔薇水晶「空魚は死んでも骸を残すことはない。ただ生きて、生き続けるだけ」
農夫「そうか」
薔薇水晶「…あなたの体の中の空魚もどうやら全て消えたようです。お疲れさまでした」
農夫「ああ、ありがとう」
325 :
  ┌─ /_/_/_/_/_/_/_/_/_∧
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  ヾ_ノノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヾ_ノノ ̄ ̄ ̄ ̄ 
サブ「いやはや! ありがとうございました! 流石っすね薔薇水晶さんは!」
薔薇水晶「……」
蒼星石「少し浮かない顔だね薔薇水晶」
翠星石「そうですか? 薔薇水晶はいつもこんなツラですよ」
真紅「庭師としての仕事も大成功だったんだし、もう少し浮かれてもいいんじゃない?」
雛苺「うぃ! ヒナ達も鼻が高いのよ!」
薔薇水晶「少し、意外だったもので」
雪華綺晶「何がですか?」
薔薇水晶「田んぼにいた冷害虫が空魚だったというのは想定外でした」
蒼星石「薬灸を準備していたのに?」
薔薇水晶「薬灸以外にも道具はいろいろと準備していました。しかし、それでも私は
   空魚に関しては、決して踏みつけたりせずに見つけるべきだと思っていた」
蒼星石「いや、それで正しいと思うよ。今回、農夫さんが踏んづけたにも関わらず
  空魚が毒素を吐き出さず、宿主を田んぼから農夫さんに変えただけっていうのが、ある意味、奇跡的だ」
326 :
真紅「…?」
薔薇水晶「仮に私が空魚を踏んづけていたら、田が汚染されていた」
サブ「そ、それはどうして…?」
薔薇水晶「庭師の事、冷害虫の事、いろいろ勉強して学んでいけばいくほどに
   当たり前の事を見落としがちになってしまっていたのかもしれません」
雪華綺晶「…薔薇水晶?」
薔薇水晶「人間は温かい…という事を」
蒼星石「薔薇水晶…」
翠星石「がーっ! んなことで、いちいちしょげるなですよ! 薔薇水晶!
  だったら翠星石達もラーメンをたらふく食って、熱々になればいいのですぅ!」
サブ「替え玉しますかい? 翠星石さん!?」
翠星石「あ、まだお代わりしたくなるような味じゃねーですから、お前のラーメンは。今のはただの言葉の綾ですぅ」
サブ「くぅぅ…」
薔薇水晶と空魚 完
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2014/03/26(水) 17:34:27コメント(17)ユーザータグ ローゼンメイデン -->
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※109472 :-:2014/03/26(水) 17:45:13乙ゥ※109473 :-:2014/03/26(水) 17:50:08空魚…スカイフィッシュか。ジョジョネタに某漫才ネタまでいれるとはな
スープ終了です!!!! これ誰だっけ?※109475 :-:2014/03/26(水) 18:00:19空高く スカイハイ!※109476 :-:2014/03/26(水) 18:02:04サブェ……※109477 :

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