小鳥「うわっ…私の年齢、高すぎ…?」back

小鳥「うわっ…私の年齢、高すぎ…?」


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1:
小鳥「……」
こ、こんなの遊びみたいなもんだし?
いったい私のなにがわかるっていうのかしらね? ふふん。
小鳥「婚期絶望……」
ふ、ふふ……。
ああ、悔しいよ! 悔しいですよ!
そこまで言われたら、結婚してやるっての!
そうよ、20代も残りわずか。いつまでもこんなことじゃいけないわ。
よし! 音無小鳥は生まれ変わる!
明日から本気を出す!
3:
律子「独り言はこっちに聞こえないようにお願いします」
小鳥「あ、あら……なにか聞こえましたか?」
心の声を聴かれるなんて……。
律子さんったらニュータイプなのかしら?
律子「いや、だから声に出てますって」
小鳥「え? あはは、失礼しました」
律子「なにに本気を出すつもりか知りませんけど、早く明日が来るといいですね」
小鳥「ぐぬっ……!」
ええ確かに、明日から明日からと言い続けて2X年、明日は来ませんでしたとも。
言ってるだけじゃダメだってことは、よ?くわかってます。
わかってからが難しいんですけどね。
5:
小鳥「たとえばですよ」
律子「はい?」
小鳥「私が律子さんのメガネだったとするじゃないですか」
律子「はあ?」
小鳥「あ、近視用っていう設定で」
律子「はあ」
小鳥「もちろん片時も離れられないほど律子さんのことは大好きです」
律子「へー」
小鳥「でも律子さんは、ある日突然乱視になってしまった……」
律子「なってませんけど」
小鳥「メガネだって、そう簡単に生き方を変えることは出来ません」
律子「……」
小鳥「乱視なんて……今までそんな生き方はしてこなかったのに……」
小鳥「どうすればいいっていうんですか?」
律子「買い換えればいいんでは?」
小鳥「ひどい! 私を捨てるんですか!?」
律子「メガネですよね?」
小鳥「えっ」
律子「えっ」
なんでメガネを買い替えるなんて話に……?
あ、そうそう! 私が婚期絶望で明日から頑張るっていう話だった!
婚期絶望ってひどい言われようですね! あはは。
あはは……。
7:
律子「なに急にたそがれてるんですか」
小鳥「いえ……」
律子「?」
小鳥「律子さん!」
律子「はい?」
小鳥「結婚してください!」
律子「お断りします」
小鳥「……」
律子「……」
あ、あははっ。律子さんってば素で返しちゃって?。
これじゃ私がバカみたいっていうか、危ない人みたいじゃないですか?。
小鳥「も?冗談ですよ?」
律子「冗談でも断固お断りです」
小鳥「ひどっ!」
冗談なのに、冗談のつもりだったのに……ふふっ。
おかしいわね、心が痛いわ……。
8:
P「……」
小鳥「ぷ、プロデューサーさん!?」
P「……おはようございます」
律子「おはようございます」
小鳥「お、おはようございます! って、いつのまに?」
P「音無さんが律子にプロポーズしたあたりですね」
小鳥「」
律子「……」
あんなところを見られてたなんて、事務所内での私の立場が……。
あ、それは今さらか。
でも、よりによってプロデューサーさんに……。
変な誤解をされてなければいいけど。
P「モテモテで羨ましいな、律子は」
律子「なにバカなこと言ってるんですか」
そりゃあ律子さんのことは大好きですよ?
なんだったらマジで嫁に欲しいぐらい。
でもね、私だって女として生まれたからには、花嫁さんになってみたいわけで。
もしも、叶うなら……。
P「ん? なんですか?」
小鳥「え? な、なんでも!」
P「?」
律子「……」
9:
律子「それじゃ、私はあずささんを迎えにいってきますね」
小鳥「あ、もうこんな時間なんですね」
P「気をつけてな」
律子「小鳥さん、ちょっといいですか」
小鳥「はい?」
律子「明日プロデューサー殿は出張で、事務所にいない予定ですよね?」
小鳥「ええ、そうですね」
律子「だったら、今日頑張っておいたほうがいいんじゃないですか?」
小鳥「は……?」
P「?」
小鳥「ちょっ、律子さん!?」
律子「ふふっ、それじゃいってきます」
P「おう、いってらっしゃい」
小鳥「い、いってらっしゃい……」
10:
律子さんにだって話した覚えは無いんだけど……私の気持ち。
ちょっとだけお酒を嗜みすぎたときに、うっかり口を滑らせたとか……?
だとしたら文字通り記憶に、というか記憶が無いわね。
思い当たる節はたくさんあるけど。
って、それはひとまずおいといて、プロデューサーさんに今の……。
P「?」
うん、聞こえてなかったみたい。
ほっとしたような、ちょっとだけ残念のような……。
P「律子、なんですって?」
小鳥「べ、別に大したことじゃ」
P「そうですか?」
小鳥「あ、お茶淹れてきますね!」
P「? はい、お願いします」
11:
落ち着け! 平常心よ小鳥!
私は事務員、みんなのスケジュールはもちろん把握してる。
今日、朝早く来そうな子は……いない。
社長は……出張。
あれ? しばらくはプロデューサーさんと二人っきり?
マジで!?
 パラパラ…
……ん?
待て! この筒は茶葉じゃない、きざみ海苔だ!
小鳥「ぎりぎりセーフね……」
ま、まあこのぐらいなら……。
ふぅ……危うく急須が磯臭くなるところだったわ。
事務所で二人っきりなんて、そんなに珍しいことじゃないし。
いつもなら、ちょっとうれし恥ずかしかったりするんだけど。
小鳥「……///」
ダメだ、顔が火照ってる……。
もー! 律子さんがガラにも無くあんなこと言うからですよ!
でも……。
うん、少しだけ頑張ってみようかな……?
12:
小鳥「ど、どうぞ」
P「ありがとうございます」
湯呑みを持ってると、手の震えがよくわかる。
見られてなければいいけど。
P「いただきます……ん?」ズズ…
小鳥「?」
P「あれ、こぶ茶? 違うな……」ズズ…
小鳥「ぅ……」
P「磯の風味が利いてて変わった味ですね」
小鳥「そ、そうですか? あれ??」
P「でも、これはこれで結構美味しいですね」
小鳥「え?」
P「雪歩に教えてやったら喜ぶんじゃないですか?」
小鳥「そ、そうですね?。あはは」
むしろ怒られるんじゃないかと思います……。
あ、ブチギレた雪歩ちゃんって、ちょっと見てみたいかも。
13:
今度の日曜日は、プロデューサーさんも私もお休み。
もとより土日祝関係無しの職場で、彼は休日返上当たり前の多忙な人……。
ついでに事務所は慢性の人手不足。
一緒にお休みできる機会なんて、一年にそう何度も巡ってこない。
街で偶然出会って、そこから素敵なロマンスが生まれたりとか……。
花束を持った彼が突然訪ねてきて、そこから甘酸っぱい恋物語が始まったりとか……。
それはもう詳細な設定と具体的な人物像を元に、何度もシミュレートしたわ。
でも、そんなときですら私は受身。
自分からはなにも出来ない。
それでも待ってたら、素敵ななにかがある?
ありません。ソースは私の2X年の人生。
……って、私の人生、悪い見本かよ!
いや、大台に乗る前に気づいたのは、不幸中の幸いだったと思おう。
きっと、まだ手遅れじゃないから!
14:
小鳥「あ、あの……」
P「はい?」
小鳥「プロデューサーさんは今度の日曜日、なにかご予定はあるんですか?」
P「日曜ですか? ん?……」
どうしたのかしら? ちょっと微妙な反応だけど。
なにか言いにくいこと?
って、まさか……。
小鳥「もしかして女性と会ったりとか……?」
P「まあ、そうだといえばそうなんですけど」
小鳥「えぇ!?」
私のターン、早くも終了!?
プライベートで女性と会うっていったら、やっぱり……。
小鳥「か、彼女さん……とか?」
P「残念ながら違います」
小鳥「え?」
P「逆に、彼女が出来ないことを心配されて、学生時代からの友人に合コンに誘われてるんですよ」
小鳥「合コン、ですか?」
P「ええ。大きなお世話ですよ、まったく」
小鳥「で、ですよね?」
わかります。
両親から事あるごとにお見合いお見合いと言われて、いいかげん辟易してますから……。
15:
いや、私のことはいいんです。
そんなことより、とても重要な情報が!
今現在、プロデューサーさんはフリー! 仲間!
小鳥「……よしっ!」ボソッ
P「え?」
小鳥「な、なんでもないです。それより……」
P「?」
小鳥「もし……もしもですよ? プロデューサーさんのこと好きな女性がいたとしたら……」
P「いるんですかね?」
小鳥「だから、もしもですって!」
P「そうですね……」
小鳥「……」
P「良い縁があったら考えますが……難しいでしょうね」
小鳥「難しい?」
P「こんな仕事だと、寂しい思いをさせることも多いでしょうからね」
小鳥「ああ……」
この人ほどの仕事人間になると、確かにその点は大いに不安だけど……。
たとえばですよ?
同じ職場なら、一緒にいる時間の埋め合わせは出来ますよね? ね?
16:
P「なにか口実があれば、合コンは断れるんですけどね」
小鳥「口実って言い方はどうかと……」
P「ははは。音無さんは、なにかご予定は?」
小鳥「わ、私のほうはなにも」
P「そういえば、音無さんと休みが一緒なんて珍しいですね」
小鳥「そ、そういえばそうですね」
P「……」
小鳥「……」
この沈黙にどんな意味があるかなんて、私にはわからない。
わかるのは、自分がどうしたいのか。
そうしなければ後悔するってこと。
よし、覚悟は今できた。
17:
小鳥「あの」
P「はい」
小鳥「よかったら、日曜日……一緒にお出かけしませんか?」
言えたよね?
実は心の声でしたなんてことはないよね?
うん、言えたみたい。
プロデューサーさん、不思議そうな顔してるし……。
小鳥「だ、ダメですか……?」
P「ダメなんてとんでもない。まさか音無さんから誘ってもらえるとは思わなかったんで」
小鳥「え?」
P「デートってことでいいんですよね?」
小鳥「そうですね。デート……デート!?」
18:
[デート]
デート(英: date)は、恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、
連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引(あいびき)およびランデヴーとも言う。
具体的には、一般に食事、ショッピング、観光、映画や展覧会・演劇・演奏会の鑑賞、
遊園地・アトラクション、夜景などを楽しむ、といった内容であることが多いが、
これらの行為そのものよりも、それを通して互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とする。
お互いのことをより深く知ることで、交際を深めることができる。
事前に立てられた計画をデートプラン、事前に計画したデートの道筋はデートコース、
デートをする際に適しているとされる場所はデートスポットと呼ばれている。
2人で過ごす時間をただ楽しむためだけではなく、交際を順調に進めるための目的を一方が計画している場合もある。
まだ、お互いが恋人同士と認識していなくてもデートをするということもある。
デートの最中において、恋人同士と認識した交際をしたい旨を正式に申し込む、
初めてのキスをする、プロポーズをすることなどがある。
(引用元:wikipedia)
デートというと、やっぱりこれのことよね?
あまりにも聞きなれない言葉だから、思わず検索しちゃったじゃないですか。
最後のほうとか……いやいや! これはいきなり飛躍しすぎですよ。
私はすでに周回遅れなんで、飛躍してもらっても全然構いませんけど……。
プロデューサーさんの気持ちは……まだ全然わからない。
19:
P「では日曜日は二人でデートということで」
小鳥「は、はい! ……あ、でも」
P「なんですか?」
小鳥「合コンのほう、ほんとにお断りしちゃって大丈夫なんですか?」
P「音無さんほど綺麗な人とのデートなら、みんな納得しますよ」
小鳥「ま……またまた! お上手なんですから、もー///」
P「ははは、日曜日が今から楽しみです」
小鳥「わ、私もです……///」
今日、頑張ってよかった。
明日からなんて言ってたら、きっとこうはならなかったもの。
律子さんが背中を押してくれなかったら……。
言葉だけじゃ足らないけど、ありがとう律子さん!
20:
 同日・夕方 事務所
小鳥「いたたた……なにも、うっちゃらなくてもいいじゃないですか」
律子「いきなり抱きついてくるほうが悪い」
小鳥「それは、私なりの感謝の気持ちをですね……」
律子「気持ちだけいただいておきます」
小鳥「も?、素直じゃないんだから?」
そこが律子さんの可愛いところですけどね!
ああん、もう! やっぱり抱きしめたい!
律子「次は叩き込みますよ?」
小鳥「ちょっ!? 冗談ですよ、冗談!」
律子「まったく……」
[叩き込み]
叩き込み(はたきこみ)とは、相撲の決まり手のひとつである。
突きや押しの攻防の中で、体を開き、相手の肩や背中をはたいて倒す技。
引き落としは体を開かない点でこの技とは異なる。
立合いの際の変化 で叩き込みを決めるケースが多くあり、注文相撲と称されるが、
上位力士に奇襲を仕掛けるような場合でもない限り、あまり誉められた技とは言えない。
(引用元:wikipedia)
21:
私の運動能力をなめないでください。
そんな技食らったら、顔面ダイブで大惨事ですよ。
私には春香ちゃんみたいな若さも特殊技能もないんですからね!
律子「その様子だと、少しは進展があったみたいですね」
小鳥「少し? ふふっ、私を見くびってもらっては困りますね」
律子「ほう?」
小鳥「ふっふっふ……聞きたいですか?」
律子「いや、別に」
小鳥「……」
律子「……」
小鳥「……聞きたくないなら、別にいいですよーだ」
律子「拗ねなくてもいいでしょ……」
小鳥「拗ねてませんよーだ!」
律子「あーもー、この人めんどくさい……」
22:
律子さんってば、ほんとはどうしても聞きたい! って顔してるんだから。
仕方ないから、事細かに地の文付きで説明してあげましたよ。
ちょっと恥ずかしいですけど。うふふ///
小鳥「どうですか!」フフン
律子「うっわ、うざ……」
小鳥「もう律子さんったら、うざいだなんて///」
小鳥「……って、なんだと!?」
律子「いや、そのテンションがね」
小鳥「ぐぬっ……!」
そりゃ浮かれもするさ、2X歳だってな。
いや、むしろ2X歳だからな!
律子「まあ、お二人にしてはなかなかの結果だと思います」
小鳥「私は、やるときはやる女ですから!」フフン
律子「ああ、ドヤ顔はやめてください」
小鳥「ど、ドヤってなんかないですよ!」
23:
律子「少しは安心しました」
小鳥「もっと素直に、祝福の言葉があってもいいと思うんですけど?」
律子「ぬか喜びになったら困るでしょ」
小鳥「縁起でもないこと言わないでくださいよ?」
律子「小鳥さんのことですからねぇ?」
小鳥「ぐぬっ……!」
なんだとこのツンデレ眼鏡っ娘!
きざみ海苔たっぷりの熱い磯茶を振舞ったろか!
律子「まあ、でも……」
小鳥「?」
律子「小鳥さんが幸せになってくれたら、私も嬉しいですよ」ボソッ
小鳥「え……」
律子「……///」
小鳥「ふふっ、もう……」
律子「……///」
小鳥「ありがとう、律子さん♪」
律子「は? なにか聞こえましたか?」
小鳥「いーえ、なにも!」
律子「ならいいです」
小鳥「うふふ♪」
もう、ほんとにツンデレさんなんだから。
大好きですよ、律子さん!
24:
 翌日 事務所
プロデューサーさんは今日から出張で、帰ってくるのは明日の夜。
その分負担が増えて大忙しの律子さんも、一日出ずっぱり。
私も出来る限りフォローはしているので、朝から仕事に追われている。
うちの事務所ではよくあること。
いいかげん慣れたつもりだったけど……やっぱり一人だけ取り残されたみたいで寂しい。
 prrrr…prrrr…
小鳥「はいはい、お電話お電話と……」
忙しいのはいいことよね。
気が紛れるし、時間の経つのも早いから。
小鳥「はい…………はい、よろしくお願いいたします。失礼します」
 ガチャ
いつもだったら煩わしいだけの経理業務も、もうこんなに片付いてる。
少し手が空いたことだし、もう一回確認しておこうかしら。
気を抜くとどうしても……。
小鳥「うふ、うふふふ///」
いけないいけない、仕事中だってば。
集中集中!
25:
二日もプロデューサーさんに会えないのは、もちろん寂しいけど……。
昨日の約束があるから大丈夫。
日曜日は……うん、今日だけで何度確認したかわからないけど、明後日よね。
小鳥「うはっ///」
もう、なに変な声出してるのよ。
誰もいないからって、ここは事務所なんだから……
亜美「……」
真美「……」
小鳥「亜美ちゃん、真美ちゃん!? いたの!?」
真美「う、うん。気づかなかった?」
亜美「おはよー、ピヨちゃん」
小鳥「お、おはよう! おかしいわね、電話中だったからかしら」
亜美「そっかぁ」
真美「あ、真美たちあっちで休んでるね」
小鳥「え、ええ」
見られちゃったみたい……。
あんなよそよそしい二人は初めて見たわ……。
亜美「ねえ、ピヨちゃんさ……」ヒソヒソ
真美「うん、とうとう……」ヒソヒソ
待って! 「とうとう」でも「ついに」でもないから!
それは誤解よ!
26:
 翌日 事務所
プロデューサーさん、出張2日目。帰ってくるのは今日の夜。
状況は昨日とほぼ変わらない。
私の悪い癖で、一人ぼっちでいるとついつい余計なことを考えてしまう。
約束の日はいよいよ明日。
待ち遠しいけど……今になって不安にもなってる。
プロデューサーさん、楽しんでくれるのかな?
つまらない思いをさせて、愛想を尽かされないかな?
本当に……私なんかでいいのかな?
考えても仕方のないことだけど、やっぱりネガティブな性分はそう簡単に変えられない。
こういうとき、自信を裏付ける経験の無さを思い知らされる。
小鳥「はぁ……今日は仕事が捗らないわ」
それでも、やることはやらなきゃね。
プロデューサーさんもみんなも、それぞれの場所で頑張ってるんだから。
 ピンポーン
お客様? 来客の予定なんてあったかしら?
私しかいないんだから、厄介ごとは勘弁ですよ。
小鳥「はーい!」
28:
 ガチャ
女性「失礼します……」
小鳥「あ、はい。どうぞ」
若い女の人ね。
年の頃はあずささんより少し上で、プロデューサーさんと同じぐらい?
おとなしそうな、とても可愛らしい人。
女性「こちらの事務員の方は?」
小鳥「はい、私ですが」
女性「あなたが……」
小鳥「?」
なんだろ? 一瞬だけだったけど、なにか言いたそうな?
顔見知り……じゃないわよね。
うちの取引先の人って感じでもないし。
そもそも、なんで私をご指名?
小鳥「どういったご用件でしょうか?」
小鳥「いえ、失礼ですがどちら様でしょうか?」
女性「私は、こちらでプロデューサーをしているPくんの……友人です」
小鳥「!?」
29:
この女性はプロデューサーさんの学生時代の同窓生……というだけではもちろんなくて。
さすがの私でも、この人が彼に好意を寄せているのはすぐにわかった。
当時から、たぶん今でも。
女性「ずっと彼のことが好きでした。でも、伝えられなかった……」
女性「いい友達でいられれば、いつか振り向いてもらえるんじゃないかって……」
でも、卒業してから次第に同窓生が集まる機会もなくなり、彼が多忙なこともあって最近は連絡も取れなくなった。
女性「諦めようとはしたんです。でも、諦められなくて……」
小鳥「……」
女性「バカみたいですよね。悪いのは自分なのに」
自身を責める彼女の言葉が、私にも突き刺さる。
私も、彼女と同じ弱い人間だから。
30:
女性「それで、彼と共通の友人が心配してくれて……日曜日に彼を呼び出すから、と」
それが件の『合コン』。
もちろん文字通りのものではなく、当事者二人のために用意されたものだ。
小鳥「でも、それなら普通に同窓会でいいんじゃ?」
女性「それだと、なかなか二人きりになれないだろう、って」
小鳥「ああ……」
同窓会なら、彼は迷わず参加していたと思う。
当然、私との約束は無かった……ってことになるけど。
ボタンの掛け違えだったとしかいえない。
女性「そんな騙すみたいなこと、最初は断ろうと思いました。彼だって迷惑だろうし」
女性「でも、そんな機会でもいいから彼に会えるなら……」
プロデューサーさんは知らなかったから仕方のないこと。
誰も彼を責められない。
そう思わないと私まで辛くなる。
31:
小鳥「でも、なぜ私のところに?」
女性「彼から断りの連絡が来たときに友人たちで集まってて、その場に私もいたんです」
女性「それで、友人たちが理由を問いただしたら……」
小鳥「私のことが?」
女性「はい。こちらの事務員さんとデートされるからだと」
小鳥「……」
女性「実は、彼がこちらに勤めだしてから、一度だけ会う機会があったんです」
小鳥「え?」
女性「音無さん……のことは、そのときにも彼から聞いていました」
女性「聞いていたとおりの方ですね」
小鳥「ど、どんなふうにですか?」
女性「それは内緒です。ちょっとだけ悔しいですから」
悔しい? どういう意味かしら。
そういうのは私みたいなのが、あなたみたいな可愛らしい同性に感じるものだと思うけど。
女性「あ、すごく鈍感な人だとは言ってましたよ」
小鳥「えぇっ!?」
女性「ふふっ」
な、なに言ってくれてるのあの人!?
これは、ぜひとも問い詰めたい! ……けど。
まず、この状況が自分の中で整理できていない。
32:
女性「今日はお仕事中に押しかけてしまって、ご迷惑をおかけしました」
小鳥「い、いえ」
女性「音無さんがどんな方なのか……どうしても一度お会いしてみたくて」
小鳥「こんなのでもうしわけないです……」
女性「いえ……お会いできてよかった」
小鳥「はあ」
女性「ふふっ、こんな素敵な人ならしょうがないかな」
小鳥「え?」
女性「音無さん」
小鳥「は、はい」
女性「Pくんのこと、よろしくお願いします」
小鳥「あ、あの……」
女性「それでは、失礼します」
小鳥「……」
声を掛けようとしても、言葉が見つからなかった。
私のほうが泣いてしまいそうだったから。
最後まで気丈に振舞った彼女の気持ちを考えたら、そんな失礼なことは出来ない。
時間が経って思い出話になったら……お酒でも呑みながら泣こう。
33:
 同日・夜 事務所
それから結局仕事が手につかず……。
たっぷりと律子さんのお小言をいただいて、ついでに残業となりました。
今日ばかりは、早めに上がらせてもらうつもりだったのに。
明日のことを考えて……だったけど。
わからなくなっちゃった。
どうすればいいのか。
私は、どうしたいのか。
あの人……彼女はとてもプロデューサーさんとお似合いだと思う。
私なんかよりもずっと長い間、彼のことを想い続けて……。
私も彼女も、仲間から後押ししてもらった。
彼女のほうが、ほんの少し間が悪かっただけだ。
私が横から割り込まなければ、その想いは報われていたかもしれないのに。
34:
私はそれでいいの?
いいわけがない。私だって彼のことが好きなんだから。
そうなっていたら、ひどく後悔していたと思う。
今の彼女が、きっとそうであるように。
それがわかるから、どうしても彼女のことを他人事とは割り切れない。
似たもの同士だから、同じ人を好きになったのかな……。
プロデューサーさんは、たぶんそろそろ帰ってくる。
今日のこと、話すべきだろうか?
ダメだ、考えても混乱するだけ。
自分の気持ちも整理できていないのに。
こんな気持ちのまま、明日を迎えても……。
 ガチャ
P「ただいま戻りました?」
小鳥「あ……」
P「あれ? 音無さん、こんな時間まで残業ですか?」
小鳥「プロデューサーさん……」
どうしよ……。
35:
小鳥「おかえりなさい。出張おつかれさまでした」
P「まさか、待っててくれたんですか?」
小鳥「え? いや、仕事が残ったままなので」
P「そういうことなら手伝いますよ」
小鳥「いえいえ! お疲れのところ悪いですよ」
P「俺がいないぶん音無さんと律子に負担を掛けたんだから、そのぐらいはさせてください」
小鳥「でも……」
P「明日のこともありますから、あまり遅くなられてもね」
小鳥「明日の……」
P「どこから手をつければいいですか?」
小鳥「あ……じゃあ、そちらの書類を」
P「任せてください」
小鳥「……」
彼女のこと、明日のこと。
わからない……。
P「音無さん、こっちの資料は?」
小鳥「それは廃棄分なので、一箇所にまとめておいてもらえれば」
P「わかりました」
仕事をしいてれば、余計なことを考えなくても済む。
このまま終わらなければいいのに……。
36:
P「ふぅ……あらかた片付きましたか?」
小鳥「そうですね。ありがとうございました」
P「どういたしまして」
小鳥「……」
P「どうしました?」
小鳥「え? いえ、なんでも……」
P「……」
小鳥「……」
P「昼間……彼女が来たそうですね」
小鳥「知ってたんですか!?」
P「合コンを持ちかけてきた友人から連絡があって、余計なことをしたと謝られました」
小鳥「?」
P「なんの話かわからなくて、問い詰めたら……」
小鳥「ああ……」
知ってたんだ……。
情けないけど、ちょっとだけ気が楽になった。
37:
小鳥「あ、あの……」
P「はい?」
小鳥「プロデューサーさんは、彼女のことどう思ってるんですか?」
P「……」
聞くのは怖いけど、知らなければなにも決められない。
なにもしない、考えないじゃダメなんだ。
P「彼女の気持ちは?」
小鳥「聞きました」
P「俺もね、あの頃はずっと彼女のことが好きでした」
小鳥「……!」
P「……」
小鳥「だ、だったら両想いじゃないですか」
P「どちらかがもう一歩踏み出すことが出来たら、そうなっていたでしょうね」
なっていた?
今からだって、まだ遅くはないはずですよ。
あなたの気持ちが変わっていないのなら。
38:
小鳥「明日……彼女に会ってあげてください」
P「……」
小鳥「このまま、すれ違ったままなんて……悲しすぎますよ」
P「明日は音無さんとの約束がありますよね?」
小鳥「わ、私のことは気にしないでください」
小鳥「こんなの慣れっこですから。あはは……」
P「……」
小鳥「……」
P「泣かないでください」
小鳥「泣いてません」
今日は泣かないって決めたんですから。
でも、これって彼女のためじゃなく自分のためか。
だったら、いいのかな……?
39:
P「やっぱり彼女には会えません」
小鳥「どうして……ですか?」
P「泣いてる人をほうってはおけないでしょ」
小鳥「泣いてませんってば」
P「そうですか?」
小鳥「万が一泣いてたとしても、同情なんかされたくありません!」
P「同情じゃないですよ」
小鳥「だったらなんですか?」
P「今の自分の気持ちに嘘をついても、後悔するだけですからね」
小鳥「後悔?」
P「わかりませんか?」
小鳥「わかりません!」
P「やっぱり鈍感ですね」
小鳥「プロデューサーさんにだけは言われたくないです!」
P「ははは、たしかに」
小鳥「なにがおかしいんですか!」
40:
小鳥「もう! そんなに泣け泣け言うなら泣きますよ」
P「俺が泣かしたみたいじゃないですか」
小鳥「そうです、プロデューサーさんのせいです」
P「そういわれても」
小鳥「プロデューサーさんのせいです!」
P「はい、ごめんなさい」
小鳥「わかったのなら、ちょっと隣に来て肩を貸してください」
P「かしこまりました」
小鳥「……」
P「さあ、ちょっとといわず遠慮なくどうぞ」
小鳥「どうも」
なんのために泣くんだったっけ?
…………
わかんないけど、まあいいや。
泣いてすっきりしちゃおう。
あはっ、プロデューサーさんの肩、あったかい……。
小鳥「うっ……うぁ……っ」ポロポロ
P「……」
41:
───
──

P「落ち着きましたか?」
小鳥「はい、おかげさまで……」
P「それはよかった」
小鳥「ごめんなさい……肩、汚しちゃって」
P「別に汚れてませんよ」
小鳥「汚れてますよ」
P「汚れてません」
小鳥「汚れてますってば!」
P「……」
小鳥「……ぷっ」
P「ははっ」
小鳥「もう、強情ですね」
P「音無さんこそ」
小鳥「じゃあ、そういうことにしておいてあげます」
P「それはどうも」
小鳥「ふふっ」
P「ははは」
42:
P「明日、楽しみですね」
小鳥「はい、とても」
P「待ち遠しくて、今夜ちゃんと寝付けるか心配です」
小鳥「ふふっ……私もです」
P「それじゃ、帰りましょうか」
小鳥「そうですね、もうこんな時間だし」
P「送りますよ」
小鳥「はい、お言葉に甘えます♪」
43:
 同日・夜 自宅
目覚ましはセットしてあるわよね? OK!
今日のうちに準備できることは全てしておいた。
お気に入りの服を片っ端から引っ張り出して、部屋の惨状と引き換えにコーディネートも済ませておいた。
日付が変わる前だけど、デートに備えて今日は早めに就寝。
あとは明日を待つだけ……。
小鳥「……///」
って、眠れるわけねーーー!
 ジタバタ
今から心臓ドキドキしてるよ、もう。
いい年して異性と交際したことも無い生娘かっつうの。
ああそうだよ、悪かったなチクショー!
だがしかし! そんな自分とも今日でさようなら。
私にも、ついに明日が来る。
小鳥「明日、か……」
明日から始まる毎日は、どこに続いてるんだろう。
居心地のいい今日から一歩踏み出した先には、ちょっとだけ不安もあるけど……。
せっかく歩き出したんだから、信じて歩き続けよう。
同じ人を好きになった彼女に、せめて恥ずかしくないように。
44:
 デート当日・駅前 10:
P「遅く……なりました……」
小鳥「30分遅刻です」
もちろん事前に言い訳の連絡はいただいてましたよ?
例によって取引先からの急な問い合わせがあって、朝から対応に追われてたとか。
別にプロデューサーさんの落ち度じゃないですし。
息を切らせて駆けつけたあなたを見たら、怒る気にはなれませんけど。
P「ほんとに……ごめんなさい……」
小鳥「いえ……それより」
P「はい?」
小鳥「デートなのに、なんでスーツなんですか?」
P「ごめんなさい……」
電話対応に追われている間に、ついいつものクセでスーツを用意していた?
で、気づかないまま慌てて着替えて出てきた?
なるほど、プロデューサーさんらしいといえばらしいですけど……。
45:
小鳥「……」
P「怒ってます?」
小鳥「いーえ」
P「ほんとに怒ってません?」
小鳥「どうでしょうね?」
P「う……」
スーツで来たのは大目に見ます。
どんなお洒落をするよりも、あなたにはこれが一番似合ってて、その……かっこいいですし。
でも、たった30分とはいえ待ってる間はすごく不安だったんですから。
もし来なかったらどうしようって……。
だから、少しだけ意地悪をしてあげます。
小鳥「今、私が一番言ってほしいことを言ってくれたら、許してあげます」
P「え?」
わかりますよね。
デートより、そっちが先でもいいくらいなんですから。
46:
P「……ごめんなさい?」
小鳥「ほんとに怒りますよ?」
P「ああっ、今のは無しで」
小鳥「もう……」
P「ん?……」ジー
な、なんですかマジマジと。
私の表情を伺おうったって、そうはいきませんよ。
P「んん?……」ジー
小鳥「そんなにジロジロ見ないでください!」
P「あ、いや……音無さんの私服姿って滅多に見られないので」
小鳥「え?」
P「とても似合っていて可愛らしいなぁ、と」
小鳥「は?」
可愛らしいってどういう意味だったっけ?
ああ、あれだ。可愛いってことだ。
え?
47:
小鳥「そ、そんな見え透いたこと言ってもダメです!///」
P「そんなつもりじゃないですって」
小鳥「……ほんとですか?」
P「とても可愛らしいですよ」
小鳥「……///」
く、悔しいけど、やっぱりこういう駆け引きじゃ私に勝ち目は無いかも……。
そんなふうに言われて、嬉しくないわけ無いですし///
頑張ってお洋服選んでよかった……ふふっ♪
P「許してもらえました?」
小鳥「半分ぐらいは……///」
P「半分ですか」
小鳥「半分です!」
だって、一番聞きたい言葉はまだ言ってもらってないですから。
あなたから言ってくれないと、私の気持ちが伝えられません。
48:
P「困ったな」
小鳥「え?」
P「これは……今日の最後に言おうと思ってることなんで」
小鳥「最後に?」
P「ええ、最後に」
小鳥「それって、その……?」
P「たぶん、小鳥さんが許してくれるもう半分で間違ってないですよ」
小鳥「あ……」
P「……」
小鳥「そう、ですか……///」
今、音無さんじゃなくて小鳥さんって……。
もう、ほんとずるい人ですね///
そんなずるい人は信用できませんけど、仕方ないから今回だけは信じてあげます!
今回だけ特別ですよ!
信じて待ってて……いいんですよね?
小鳥「そういうことなら……半分は保留ってことでデートしてあげます」
P「光栄です」
49:
P「それじゃ、手を繋いでいいですか?」
小鳥「はい、よろしくお願いします♪」
おわり
51:
セルフ支援絵です
デート仕様の私服にしたかったけど、そのへんのセンスが絶望的なので諦めました
誰か、可愛い私服のピヨちゃんを……
最後にちょっとおまけ
52:
おまけ
春香「うわっ…私の個性、無さすぎ…?」
千早「……」
春香「ねえ、千早ちゃんは?」
千早「え? ちょっ……」
春香「え?と……」
千早「……」
春香「……」
千早「くっ……!」
春香「こ、個性は大切だよね!」
千早「これならまだ無個性のほうがマシだわ」
春香「……」
千早「……」
53:
春香「言っていいことと悪いことがあるんじゃないかな?」
千早「春香に言われたくないわ」
春香「千早ちゃん、必要なことは言わないのに余計なことは言うよね?」
千早「わかりやすい余計な一言をありがとう、春香」
春香「……」
千早「……」
春香「あ?……なんか納得いかないなぁ」
千早「同感だわ」
春香「今からゆっくり話し合おうか?」
千早「そうね。どちらが正しいか、はっきりさせておいたほうがいいわね」
春香「一緒にお菓子でも作りながらね♪」
千早「ふふっ、しかたないわね」
おわり
62:
おつピヨ
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◆以下、おまけ(小ネタ)になります。
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美奈子さんがなんか言ってるwwwwwwwwwww

変なものを見てしまった。

好きな子がいて、話しかけたいんだけど何を話せばいいのかわからない…

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