みく「魔人偶像高峯のあ」back

みく「魔人偶像高峯のあ」


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1:
注意点
・シンデレラガールズのメンバーでネウロやってみた
・ >>1 は初スレ立て
・元ネタの都合上、アイドルが死んだり、犯人になったり、DCSになる可能性あり
・地の文が混ざることあり
2:
追記
・この中に出てくる『輝』『偶像』の読み方は特別な場合を除き『かがやき』『アイドル』に固定されています。
3:
???「…私の心のスキマは…この世界では充たされない。そう、ならば求めるわ、地上(うえ)、へ…最も脆弱で、…最も華麗で…最も美味な…究極の『輝』を」
4:
…混乱は、日常を通して突然やってくる。
「Pのやつ、何だって殺されたんだろな」
「まあ、こんな業界だ。叩いて埃の出ない人間なんていやしないさ」
私は今…そのただ中にいる。
ちひろ「みくちゃん」
みく「ちひろさん」
ちひろ「酷い顔になってるわよ、少し仮眠室で休んできなさい。あとは私がやっておくから」
みく「…うん、じゃあ、お願いします」
早苗「あ、みくちゃん」
みく「早苗さん、何処にいたんですか?」
早苗「元同期が一課だったからちょっと話聞いてたのよ、あまり芳しくないみたいだけどね…、それよりも酷い顔じゃない、ちゃんと寝てる?」
みく「えへへ、ちひろさんにも言われちゃって…少し休もうかなって」
早苗「そんな顔しないで、Pくんのことは警察に任せて今は休みなさい。何、日本の警察も無能じゃないからチャッチャと犯人見つけてくれるわ」
みく「はい、ありがとうございます、早苗さん」
ちひろ「…みくちゃん、偉いですね。こんな中、しっかり耐えて」
早苗「…耐えられてるのかな。少なくとも、みくにゃんを保つ元気も残ってないんだから」
6:
先輩P「お、みく、大丈夫か?」
みく「はい、大丈夫です。ちょっと休憩しようかなって」
先輩P「そうか、あんまり眠れてないみたいだからな。社長も対応に追われてるし、しばらくは事務所も動かないだろ。ゆっくり休んでおけ」
みく「…はい、ありがとうございます」
Pちゃんが殺されてからの時間はよく覚えていない。どんなことを話したのかも、どんなことがあったのかも。
ただ、もう私は輝けない。大切な人を失って、どう輝けばいいのか分からない。いつも隣にあった日常が、こんなにも滅茶苦茶になるなんて考えたこともなかった。
みく「ネコミミ…もう、着けられないな」
7:
…頭がぐちゃぐちゃで眠れない。
壁にかかったアイドルのポスターを見て、また涙が溢れてくる
みく「Pちゃぁん…」
抑えきれなかった涙が一滴、仮眠室の床に落ちた。
???「…なぜ、泣いているのかしら」
みく「…決まってるじゃん、大切な人が殺されたんだよ」
???「…それはおかしいわ、…貴方は泣くのではなく笑うべきよ」
みく「そんな…って誰!?」
仮眠室は静まりかえっている。
みく「…空耳? …幻聴を聴くなんて、本当に不安定なんだな」
???「…近くにとても美味しそうな『輝』があるのよ? 私なら歓喜の渦に呑まれ、涎を垂らすかもしれないわ」
みく「!?」
眼を…疑った。壁に向かって垂直に女の人が立っている。かかっていたポスターは全て歪み、おかしな笑顔を浮かべている。
これ以上、混乱が襲ってくることなんて、…これから一生無いにちがいない。
9:
???「かぐわしい匂い、地上で最初に遭遇した『輝』にしては…及第点ね」シュタッ
みく「だ、誰なの、あなた」
???「…そう、貴女達は伝えなければ届かないのね。私の名前はのあ、"高峯のあ"、『輝』を食べて生きる、…魔界の『偶像』よ」グニャリ
そう言うと彼女の顔は角の生えたウサギに変わる。
夢か現実か分からない…、でも、目の前に現れた彼女は、明らかに人間ではなかった。
のあ「これもまた、導かれた運命 。…そこの貴女、マエカワミク、ね。私を手伝いなさい」
みく「…て、手伝うって、何を」
のあ「…説明が必要かしら、いいわ、案内しなさい」
みく「ど、何処に」
のあ「二人きりで、心を交わせる場所へ。貴女に『輝』の美味しさを…教えてあげるわ」
14:
前川みく(15)
片桐早苗(28)
高峯のあ(24)
19:
何が起こっているのかなんてさっぱり分からない。…でも、今二つだけ言えることがある。
一つめは私を担当してくれていたPちゃんが殺されたこと。
…そして二つめは私がもっと大きな何かに巻き込まれようとしていることだ。
みく「…で、喫茶店に来たわけだけども」
のあ「…」ジュゴー
みく「何で水しか飲んでないの?」
のあ「…? 貴女と違って泥水は飲まないわ」
みく「何でみくが泥水飲む前提なの!」
のあ「…! ごめんなさい、気がつかなくて。次からは生ゴミを用意しておくわ」
みく「ランクダウン!?」
改めて見ると目の前の化け物は結構な美人だ。無機質な表情がその整った顔によく似合っている。
みく「で、こんなとこに案内させて一体なんなの? ご飯ならおごるからそれで見逃してくれない?」
のあ「…分かっていないのね、私はただ私の食事を手伝ってほしいだけ。それだけよ」
みく「だからそれが分かんないんだって!」
のあ「…私は魔界の生物の中でも変種中の変種、貴女がフレンチトーストを食べるように、…私は『輝』を食べるの」
みく「だから『輝』ってなんなの!? 分かりやすく言ってよ!」
のあ「…そうね、その目で確認した方がいい。そろそろこの店内で、…殺人が起きる」
みく「!?」ブッ
のあ「…汚いわ」
みく「冗談止めてよ! あー、もう、コーヒー吹いちゃった…」
汚れた服を拭こうとハンカチを取り出したその時。
男「」ゲボァ
私の後ろに座っていた男の人が、ゴプゴプゴプとどう見ても助からないであろう量の血を吐いて、床へと滑り落ちていく。
男「」ゴカァアアアン!
みく「…!」
のあ「言ったでしょう? …とても美味しそうな『輝』ね」
無機質な表情が心底嬉しそうに微笑んでいる。
…これが私、前川みくが魔人、高峯のあと初めて遭遇した『輝』だった。
21:
みく「ねえ! 」
のあ「…何かしら」
みく「一体『輝』って何なの!? 殺人予知の能力!?」
のあ「『輝』とは、生物が持つエネルギー、…誰しもが持っている物であると同時に誰もが使うことはできない」
みく「どういうこと?」
のあ「…『輝』は生のエネルギー、その持ち主が強い感情…例えば『熱意』『劣情』、それを持ったときに初めてその存在を知らせる。…その中で最も良質で最も美味な『輝』は、『悪意』。だから私は此処にいるの。…つまり私の食事はその感情の中からエネルギーを解き放ち、喰らうこと」
みく「???」
のあ「…分からないのね、それでも構わないわ。貴女は貴女の役割を果たしてくれればいいのだから、ミク」
みく「役割って…」
???「ハイハイ、ちょっと通るわよ…またひどいわね」
???「せーんぱーい、待ってください、ってあれ、あなた、CGプロの」
みく「あ、刑事さん。えーっと」
???「服部瞳子、で、こっちが工藤忍よ」
忍「天下のアイドルみくにゃんに名前を覚えてもらうなんて光栄だね! あれ、そちらの方は?」
みく「あ、そうだ、刑事さん、この人化けもフニャッ!」
のあ「(みくの喉に手刀)出会うのは初めてね…私は高峯のあ。この名探偵みくにゃんの助手よ」
瞳子「名探偵?」
のあ「ええ、…ネット上で有名な探偵よ。本来は表に出ないから助手を勤めている私ですら正体は知らなかったわ、今回は無理を言って会ってもらったの。そうしたらアイドル、『前川みく』が現れた、…さすがに驚いたわ」
忍「へえ、凄いんだね。みくにゃん」
みく「(声にならない抗議)」
のあ「…それじゃあみくにゃん、彼女たちを阻害しないよう大人しくしていましょう」
瞳子「前川さん、とりあえず初動捜査が終わったらそっちの事件に戻るから、ちょっとだけ待っててね」
22:
みく「ちょっと! 名探偵って一体どういうこと!? だいたい私推理なんて全然できないからね!」
のあ「…問題ないわ、『輝』を食べるのは私なのだから。ただ貴女は私の隠れ蓑になってほしいの」
みく「やだよそんなの! もう手刀なんてされても絶対やらないんだから!」
のあ「そう、…仕方ないわね。ならもう一度喉を抉らせてもらうわ」
そう言うと一瞬で銀の刃に変わった彼女の手が私の喉元に向けられる。…分かった、そもそも拒否権なんて無かったのだ。
みく「や、やります」
のあ「…感謝するわ。ところでなのだけどみく、何故貴女はみくにゃんと呼ばれているのかしら」
みく「…別に今はいいじゃん、そんなこと」
のあ「…そう」
みく「(あ、これ後で問い詰められるパターンだ)」
23:
瞳子「毒物が入っていたのはコーヒーで間違い無いのかしら?」
鑑識「ええ、カップから毒物の反応が見られます」
忍「で、あなたが被害者と同席してたんですね」
会社員「は、はい。で、でも刑事さん、俺、殺してなんかいないですよ!」
忍「まあまあ、ちょっとカバン見せてくださいね」
瞳子「めぼしいものはなし、か。それじゃああとは座席の何処か、この隙間なんか…あ、何かある」
忍「瓶に入った錠剤ですね、鑑識さん、これって毒?」
鑑識「あー、モロ毒だね」
会社員「ゲーッ!? え、ちょっと、ま、待って!」
瞳子「すいません、被害者って途中で席を外しませんでしたか?」
ウエイトレス「…え、ええ、常連さんなんですけど、いつも食後のコーヒーの前にトイレに立たれます」
忍「じゃあ辻褄が合っちゃいますね、先輩」
瞳子「そうね、貴方はトイレに立った被害者のコーヒーに毒物を入れ、それを隠した。何も知らない被害者はそのコーヒーを飲んで死亡、そんなところじゃないの?」
会社員「そんな、ち、違います! 俺以外の誰かがコーヒーに毒を」
忍「だったら誰が? ウエイトレスさんは調べたけどそんなもの持ってなかったし、証言から隠す時間もなかった。厨房のスタッフなら可能かもしれないけど、コーヒーは二人とも同じ物を頼んでる。特定の一人を狙うのは不可能だよ」
会社員「ち、違う。俺じゃ、俺じゃない!」
24:
みく「ねえ、のあ、もう刑事さん達が犯人見つけちゃったんだけど」
のあ「…そうね、のあにゃんと呼びなさい」
みく「何で!?」
のあ「理由があるか無いか…それを決めるのは貴女よ、みく」
みく「わけが分からない…ってそれより!」
のあ「…貴女にはあれが真実に見えるのかしら、…いいわ、情報を探す手段は貴女達より少しだけ多いの。…顔を隠していなさい、みく」
みく「へ?」
質問する暇もなく、のあ…にゃんは顔を魔人のそれに変形させた。
のあ『不揃いな指人形(イビルストーカー)…』
のあにゃんの口から粘液にまみれた奇妙な生物が滑り落ちてきた。蛍光グリーンの体に不細工な顔、どこか猫にも似ている。
のあ「…この『輝』は非常に単純よ。「誰」が「何」で殺したか、ただそれだけ」
奇妙な生物たちはその短い手足を動かして店中に散らばっていく。
人形「ぴにゃぴにゃっ…」
のあ「…綻びを見つけたわ、…これでもうすでに、この『輝』は私の『物』(しょくりょう)よ」
みく「え、もう!?」
のあ「…貴女は少し待っていなさい。…ちょっと、みくにゃんに聞いてほしいと頼まれたのだけど。…ありがとう」
のあにゃんが私の頭をぐいと掴んだ。ちょっと痛い。
のあ「…貴女の出番よ、みく」
みく「ちょっと、私何も」
のあ「考えなくてもいいわ。貴女はただ私の合図で伝えればいい、…『犯人はお前だ』と」
みく「だから、って!!!」
25:
忍「先輩、他のお客さんの連絡先も一応聞いておきました」
会社員「違う、違うんだ、俺じゃ…!」
瞳子「はい、では悪いのだけど続きは署の方で聞かせてもらうわ…っ!?」ドカッ
出ていこうとする服部刑事達に私が盛大にぶつかる。というより…投げられた。
のあ「…みくにゃん、そんなに焦らなくてもいいのよ」
忍「いたた…何するの!」
のあ「…みくにゃんは聞いてもらいたいようよ…この事件の全貌を」
瞳子「全貌も何も、もう解決しているでしょ。素人が出てくる場面じゃないわ」
のあ「…まずは彼にかかっている嫌疑を晴らしましょう。みくにゃんの推理によれば、彼が毒を盛ったというのには違和感があるわ」
忍「違和感?」
のあ「そう、それは…」
そう言うとおもむろにのあにゃんは毒薬の瓶を取り出した。
瞳子「え、…い、いつの間に!」
そしてそのまま、錠剤をコーヒーの中に落とす。
のあ「何故、粉薬でなく簡単にコーヒーに溶けない『錠剤』を使ったのか…、ということ」
のあにゃんが見せるコーヒーカップの中には白い錠剤がはっきりと見える。
忍「…! そうか、そんなに分かりやすい物を入れたら飲む前に気づいちゃうんだ」
のあ「そう…トイレにかかる時間なんて長くても5分、この錠剤、それくらいでは溶けそうにはないわ」
瞳子「…現場に顆粒タイプの毒薬はなかった。溢されたコーヒーの中にも、もちろん、彼のカバンの中にも」
のあ「…服部刑事、別の椅子を調べてみなさい」
瞳子「…? え、これって同じ毒薬!?」
のあ「盲点ね…ひとつ見つかれば他のところは探さない。…おそらく全ての椅子に仕掛けられているでしょう」
瞳子「毒薬がこの錠剤じゃないとしたら…」
忍「…じゃあ、一体何処に毒があったの!?」
のあ「そう、それがこの事件を解決する鍵となるピース…そうでしょ、みくにゃん?」
みく「え、…?」
のあにゃんの瞳が色を変え、脳内に声が流れ込んでくる。
のあ「(『輝』を手にいれるわ)」
のあ「みくにゃんには全て分かっている、…さあ、犯人を指し示して、みくにゃん」
意思とは関係なく手が上がっていく。これは…のあにゃんの意思!?
のあ「(さあ、告げなさい、みく。『輝』をその指で)」
みく「は…犯人はお前だ!」
29:
服部瞳子(25)
工藤忍(16)
34:
私の指が指し示したのは…。
ウエイトレス「…! わ、私!?」
さっきのあにゃんが話を聞いていた、ポニーテールのウエイトレスさんだった。
のあ「…違うのかしら?」
忍「ちょっと待って! アタシ達も毒を混入できそうな人は全員ボディチェックもしたんだから!」
瞳子「その通りよ、そしてその結果は何も出なかった…明確な理由もなく疑うのなら、承知しないわ」
のあ「…みくにゃんの推理によれば、コーヒーに毒を混入したのは被害者自身よ」
忍「…、それって自殺じゃん!」
のあ「…貴女、さっきみくにゃんの指示で私がした質問を覚えているかしら」
ウエイトレス「え、『被害者は甘党だったか』、と…」
のあ「そう、そして貴女はこう答えた…『ええ、いつもコーヒーにスティックシュガーを一本丸々入れていました』…と」
瞳子「…そうか、毒を入れていたのはそれね!」ガシャガシャ
のあ「…証拠はそこにはないわ、服部刑事。…証拠品の中にもスティックシュガーに関係するゴミは残ってないはず。…貴方、被害者は砂糖を入れていたかしら?」
会社員「…はい! 確かに一本全部入れていました!」
忍「でもその証拠がないなら…」
のあ「では考えを変えましょう、この中で、被害者が甘党だと知る可能性があり、…なおかつ、スティックシュガーを増やしても怪しまれない人間は?」
瞳子「ウエイトレス以外にはいない…か」
ウエイトレス「ま、待ってよ…! 黙って聞いてれば、全部憶測じゃない! 確かに私ならできるかもしれない、でも、…そうよ! そもそも、砂糖に毒が入ってたって証拠すらないじゃない!」
のあ「…ところで貴女、どうしてポニーテールにリボンを二本も巻いているの?」
ウエイトレス「え…!?」
人形「ぴにゃにゃ」スルッ
のあ「…証拠を隠す時間はない。ゴミ箱に捨てていれば折角のトリックが台無しになるかもしれない。…そして、持っているわけにもいかない。なら分かりにくく身に付ければいい」スッ
瞳子「これは、砂糖の包み紙? …リボンに隠していたのね」
のあ「あとはここから反応が検出されれば幕引き。…まさかこのゴミを気に入って持っていた、なんて言わないでしょう?」
35:
ウエイトレス「」ドサッ
敗北を悟った彼女が床に崩れ落ちた。
――次の瞬間。
のあ「…いただきます」
何かがこの場から消失した気がした。
さっきまでこの空間にあった何かが、ここにはもうないのだ。
のあ「…流石ね、みくにゃん。貴女の言う通りに語ったら、…すっかり解決したわ」ペロッ
『輝』を、食べた…!?
瞳子「…立つ瀬が無いわね」
忍「本当に名探偵みたい…」
瞳子「さて、署の方で事情聞かせてもらえるかしら?」
ウエイトレス「殺されて…当然なんです、アイツは私から全てを奪ったんだから。…始まりは、十年前の冬です」
彼女が彼女なりの動機を語り出す…。
だけどその時、のあにゃんは彼女に対する興味を、…全く失っていた。
のあ「行きましょう、みくにゃん」
…だんだん分かり始めてきた、のあにゃんの興味の対象はあくまでも『食事』であって『人間』ではない、もうすでに思いは次の『食事』へ向かっているのだ。
そして、彼女が次に狙う『食事』は。
のあ「…まだ私のスキマは満たされない。さあ、行きましょう、みく。貴女の『輝』を、…私に頂戴」
私がその時、魔人高峯のあに抱いた感情は、恐怖と、それと同量の期待だった。
人間ではないこの化け物が、その食欲が、私の『輝』を掻き消す、悪意の『輝』を食べてくれるのかもしれないと…。
36:
早苗「みくちゃんが探偵、ねえ…才能ってのは分からないわね」
みく「え、えへへ…」
ちひろ「でもよかった、Pさんがあんな事になったから、心配だったのよ?」
先輩P「しかも何だ? その助手さん、えらく美人じゃないか。こんな時じゃなければスカウトしてるんだけどな」
のあ「…私なんてみくにゃんのファンの一人に過ぎないわ。私が望むのはただ、みくにゃんがより高みに昇ること…それが、私の喜びでもあるのだから」
ちひろ「じゃあ、お茶でも用意しますね。えーっと…」
のあ「高峯のあ、のあでいいわ」
ちひろさん達はお茶の準備をするため給湯室に向かう。
みく「…で、本当に食べるの? 私達の『輝』を」
のあ「答えるまでもないわ…ああ、一体どのような味がするのかしら。楽しみね」
みく「あのねえ、人の不幸を何だと…」ピンポーン
先輩P「はいはい…ああ、刑事さん」
瞳子「失礼します…、前川さん、先程は協力有り難う。無事犯人は引き渡したわ」
忍「いや、本当にスゴいね! アタシ、ビックリしちゃったよ」
早苗「そんなにスゴかったの? 瞳子?」
瞳子「…ええ、悔しいけどね。あと、元同期だからって仕事中は名前で呼ばないで、早苗」
みく「あ、知り合いって服部刑事の事だったんですか」
早苗「うん、瞳子はあたしがアイドルになったとき一番驚いてたのよ、『あなたみたいな人間がアイドルなんて世も末ね』って。失礼だと思わない?」
みく「あ、あはは…」
のあ「…ところで服部刑事、もう少しここにいることはできないかしら?」
服部「…? もともとそのつもりだったけど、どうしてかしら?」
のあ「みくにゃんが言ったのよ、…30分あれば、この事務所で起こった事件を解決できると…」
全員「!?」
みく「!?」
服部「…それは不、」
忍「先輩! いっぺんやってもらってはどうです? みくにゃんの能力は先輩も見たでしょう?」
服部「工藤、それとこれとは話が、」
忍「いいじゃないですか! その代わり、みくにゃん、現場を無意味に荒らさないでね。はい、手袋」
服部「ちょ、ちょっと、そういったってね、工藤」
工藤「30分だけだよ!」
服部「…はぁ。すいません、千川さん、応接室等はありますか」
ちひろ「ええ、こちらへ」
のあ「では、行きましょう。みくにゃん」
みく「ちょ、ちょっと待つにゃ!」
先輩P「…どう思いますか、早苗さん」
早苗「そうね、…事件なんて解けなくてもいいんじゃないかな」
先輩P「その心は?」
早苗「あたしの担当なんだから悟ってほしいなあ。…みくちゃんは今、現実と前向きに向き合おうとしているんだと思うよ。…ちょっと変わった形だけどね」
先輩P「…そうですね、気づきました? アイツ久しぶりに語尾が「にゃ」になってましたよ」
早苗「さて、私達も引っ込んでよっか」
37:
みく「…ねえ、のあにゃん。いいの? あんな無責任な事言って」
のあ「ここが事件現場ね…『輝』の気配を感じるわ…堪らない、地上に出る価値は確かにあった」
みく「…聞いちゃいないにゃ…ん?」
のあ「…どうかしたの、みく…表の自動販売機のスキマに落ちた十円玉でも察知したのかしら、…ノミ蟲のように意地汚いわね」
みく「風評被害も甚だしい! いや、そうじゃなくて、どうしてのあにゃんは地上に出てきたのかなって。こんな風にコソコソ回りくどい事をせずに大人しく、魔界で『輝』を食べていればよかったんじゃないの?」
のあ「…伝えた通り、私の唯一のエネルギー源は『輝』のエネルギー。それはその主となる感情、情動が強ければ強いほどカロリーも多く、味も素晴らしい物となる。…けれど魔界の『輝』は弱く、微々たるもの…それゆえに私は私のスキマを埋める過程で、…魔界の全ての『輝』を喰らい尽くしてしまったの。そんな世界に生きる意味などないわ。だから私は地上へと来た。『輝』を食べるために…」
みく「…!」ゴクリ
…どうやら、私の目の前の化け物は、私の予想を遥かに超えた、とんでもない奴らしい。
のあ「…まずは捜査資料を手にいれましょう」
みく「刑事さん呼ぶの?」
のあ「それは却って不都合ね…ここは倉庫かしら」
みく「一応衣装とか小道具置き場ってことになってるけど…」
のあ「…このパソコンは生きているの?」
みく「多分大丈夫だと思うにゃ」
のあ「そう、…なら丁度いいわ、直接奪い取りましょう」
みく「奪い取るって、そんな簡単にはいかないでしょ?」
のあ「人間の常識で私を語ることに意味はないわ…」
のあにゃんの手が蟲の脚に近い何かに変わる。
のあ『囚われない毒蛾(イビルバグ)…』
そしてそのまま、ドライブに腕を突っ込み、何やら操作をし始める。
みく「…」アゼン
のあ「いかに堅固な防壁でも、必ず穴はある…、蜘蛛の巣も、縦糸を辿ってしまえば捕らわれることはない。…ほら、開いたわ」
38:
「捜査資料○月△日…
第一発見者は事務員千川ちひろ、連絡の取れない被害者を探していたところ、発見。通報した。
当時現場にいたのは、千川氏と事務所職員の先輩P。所属アイドルである片桐早苗は発見直後に出勤、同じく前川みくは学校で不在。
ちひろ『先輩Pさん、Pさんと早苗さんに連絡取れましたか?』
先輩P『早苗さんは渋滞で少し遅れるそうです、Pの奴は…繋がらないですね』
ちひろ『そういえば小道具置き場に鍵がかかってました。もしかしたら中で寝ちゃってるかもしれないですね、鍵束も見当たらないし』
先輩P『あー、ありうる。アイツ鍵かける癖ありますもんね。全く、家には帰れって言ってるのに仕事人間だな、アイツも』
ちひろ『そう決まったわけじゃないですけどね。…マスターキーどこでしたっけ、しばらく使ってないから忘れちゃいました』
先輩P『えーっと、ああ、ここです。うえ、結構埃被ってるな』
ちひろ『近いうちに大掃除しましょうか。それじゃあ、ちょっと見てきますね』
ちひろ『Pさん、いますか? 入りますよー。ああ、もう、ちゃんと荷物置かないから入るスペースが…って、…え、Pさん? ちょ、ちょっと、Pさん! Pさん! …いや、イヤァァァ!!!』
先輩P『どうしたんですか、ちひろさん…! …おい、P! P! 冗談は止めろよ! P!』
ちひろ『きゅ、救急車、あと、警察を』
早苗『おはよーございまーす、ってどうしたの? …え、どうしてPくんが倒れてるの?』
先輩P『早苗さん…Pが、死んでるんです』
殺害されていたのは同事務所職員のP、死因は絞殺。首を絞められ殺害された遺体は奇妙なことに、扉も窓も施錠された密室の中にいた。
最後に被害者と職員が接触したのは午前1時頃、解剖の結果、死亡推定時刻は午前1時から3時の間。
部屋の鍵は被害者が所持しており、マスターキーも埃の積もり具合から発見当日まで手を触れられていないものと判断された。
また、被害者の指輪、現金が無くなっているため、強盗殺人の可能性も考慮される。
39:
みく「…」
のあ「…素晴らしいわ。しかし、密室の特性上犯人の特定は比較的容易ね。…これも私の求める究極の『輝』ではない…か。…どうしたの、みく。この楽しい一時に」
みく「…のあにゃんには分からないだろうね。思い出したら、またヘコんできちゃってさ」
のあ「凹む? 見たところどこも凹んではいないわ」グリグリ
みく「痛い痛い! そういう物理的なのじゃなくて! …覚えてないんだ。最後にPちゃんと話した言葉。だって、今まではPちゃんが私をからかって、それが日常で、当たり前すぎて…!もう、あの頃に戻れないんじゃないかって…!」
のあ「…」ガサゴソ
みく「ねえ、…のあにゃん」
のあ「…何かしら」
みく「本当に食べてくれるの? この、暗い暗い『輝』を」
のあ「…私を誰だと思っているの? 魔界の『輝』を全て食べ尽くした『偶像』よ…たとえ貴女が泣いて懇願しても、私は食事を止めないわ。さあ、…関係者を全員呼んできなさい」
みく「え? も、もう解けたの?」
のあ「始めましょう、みく。この『輝』はすでに、私の『物』よ…」
40:
のあ「全員揃ったわね。…さっきと同じく私がみくにゃんの推理を説明するわ。その解答に…みくにゃんがわざわざ関わる必要はないもの」
瞳子「ちょっと待ちなさい、解決ってことは…一から十まで全て解ったってこと?」
のあ「…ええ」
喫茶店の時と同じように私の腕が自然に上がる。
のあ「みくにゃんによれば、この中に…みくにゃんのプロデューサーを殺した、憎き犯人がいるそうよ」
全員「…!?」
先輩P「おい、みく。本気か!?」
忍「みくちゃん、こういうことは冗談じゃ済まないんだよ?」
みく「のあにゃん…!」
のあ「(構わないわ。…真実を知りたければ叫ぶのよ。その指を降り下ろし、…『犯人はお前だ』と)」
私は心を決め、指を降り下ろす。…日常を、取り戻すために。
みく『犯人は…お前だ!』
44:
私の指が示す先は…。
???「!?」バッ
???「!?」バッ
早苗「え、…あ、あたし!? 冗談キツいわよ、みくちゃん…!」
のあ「工藤刑事も言ったわ…冗談で済むことではないと。…貴女が犯人よ。片桐早苗」
みく「…!」
のあ「(意外そうな顔をしないで、貴女はあたかも自分が解いたように胸を張っていなさい)」
瞳子「待ちなさい、あんまり勝手なことを言うと…」ビシッ
のあ「服部刑事、…古い友人を疑いたくない気持ちは理解できるわ。…推理を全て聞いてからでも遅くはないんじゃないかしら?」
瞳子「…」
のあ「…みくにゃんいわく、今回の事件には密室にするメリットはない、…現場には障害となる人間はおらず、鍵も無造作に置かれている。物盗りの犯行に見せかければすむ話だもの…」
忍「だったら何で密室に?」
のあ「問題はそこ…こう考えてはどうかしら、密室にしたかったのではなく、密室にせざるをえなかった、と。…服部刑事、この近隣の防犯カメラの設置箇所は?」
瞳子「西にすぐのコンビニに通り全体を見れる物が一台。車道を挟んだ向こうの通りに二台…もちろん、不審な人物なんて映ってはいなかったけど」
のあ「駅の方角ね…帰っていく三人の姿は?」
瞳子「映っていたわ」
のあ「では次に…工藤刑事。近隣でつい最近、ダミーのカメラを取り付けた場所はなかったかしら。…特に事務所の面する通りの東側に」
忍「何で知ってるの!? すぐ隣のビルが三日前にダミーカメラを設置したってこと!」
のあ「…つまり、この事務所に訪れるためには、そのどれかのカメラに引っかかる必要がある。…この状況がここの密室を作る、大きな密室となった…」
忍「…?」
のあ「解説が必要のようね…一度駅に向かう姿を撮影させておいて、その後迂回し、変装などを行ったうえであらかじめ確認していた監視カメラのないルートを通り、物盗りの犯行にでも見せかける。…これが犯人の立てた筋書きだったはず」
忍「そうか! だけど新しく設置されたダミーカメラに当日になって気がついたから」
のあ「ええ、カメラとカメラの間隔は100メートルもない。怪しまれると思ったのでしょうね…そこで犯人は作戦を切り替えた。多少無理はあるものの、顔を特定されるよりは煙のように消えた人間を演じようとしたのよ…」
瞳子「…待って、消えるも何も、この事務所から逃走するにはどうしたってどれかに映らなくてはいけないわ、犯人があのカメラをダミーと知らなければ尚更に」
早苗「…そうよ、それにその論理でどうやって、あたしが犯人という結論に辿り着くの?」
のあ「まだみくにゃんの推理は終わっていないわ。…密室を作らなければならないあと二つの理由、…そして、その密室トリックが全てを教えてくれる…では検証をしてみましょう。密室が発生したトリックを」
45:
のあ「では、二人とも、…当日と同じように事件現場に入ってきてくれるかしら?」
ちひろ「え、…構いませんけど」
瞳子「私達はどうすればいいのかしら? あれ、…前川さんは? 」
のあ「外から様子を見ていて。みくにゃんには片桐早苗役を担当してもらっているの…私は死体を担当するわ」
ちひろ「死体…。えっと、まず私が鍵を開けて入りました」
忍「入るスペース小さいですね」
先輩P「物に溢れてますから、つっかえるんですよ、で、俺が悲鳴を聞きつけて部屋に飛び込む」
みく「…」
ちひろ「ここで早苗さんが遅れて登場したんですけど、そう、みくちゃんがこうしているみたいに…? どうしたんです、刑事さん?」
瞳子「前川さん…あなた今、『何処から現れたの』?」
先輩P「へ? そんなものドアからに」
のあ「違うわ。…みくにゃんが現れたのは『ドアと壁の隙間』よ」ムクリ
ちひろ・先輩P「!?」
忍「ああ、この隙間か! 荷物でできたスペース。…先輩、段ボールの上に人が乗ったみたいな凹みがありますよ!」
のあ「このトリックが可能なのは最後に入ってきた人物のみ。…貴女は事件の夜、逃走を諦め、事務所に残ることを選択した。…堂々と犯行現場に残り、死体に他の発見者が気を取られている内に現れ、…最後の発見者を装うことに」
忍「でも密室にする必要は」
のあ「…この建物は完全防音ね?」
ちひろ「は、はい。全ての部屋に防音加工がされていて、聞こえるのはノックかノブを回す音ぐらいです」
のあ「事務所には各個室以外隠れられるような場所は無い…出てくるタイミングを計るためにはこの室内にいる必要があった…」
瞳子「それが密室を作り出した理由…。だから煙のように消えるというわけか、でもカメラはダミーだった。そのせいで不可解な密室が発生したのね」
忍「じゃ、じゃあ窓からは?」
のあ「…窓から出たとしても出ることが可能なのは前の通りだけ。本末転倒よ」
先輩P「し、しかしだな! まだ早苗さんが犯人だという確定的な証拠は無いだろ!」
のあ「ええ、…密室を作る最後の理由でその発言を否定してみせるわ。ねえ、…みくにゃん?」
46:
早苗「みくちゃんには残念だけど、証拠なんて存在しないわよ」
のあ「みくにゃんは目ざといの…貴女、首に傷が付いてるけど…どうしたのかしら」
早苗「…ちょっと剃刀で間違えちゃったのよ、そんなことより、」
のあ「密室を作らなくてはいけなかった最後の理由…それは、貴女が隠した物よ、片桐早苗」
ちひろ「隠した?」
のあ「ええ、…木を隠すなら森の中、幸いにもここは小道具室。下手に動きたくないであろう貴女にはうってつけの場所だったはずよ…」ガシャアン! カラカラ…
先輩P「ちょっと! そのドレッサーも中身もレプリカとはいえそんな乱暴に扱ってもらっちゃあ、…あ、それって…!」
早苗「…!」
のあ「見覚えがあるようね。これが…貴女を犯人と断定する最後の証拠。…この『血の付着した指輪』は、誰のものかしら?」
みく「…私が、Pちゃんにあげたものだよ」
のあ「おそらく、抵抗されたときに付いたのね、…警察の目がなくなった頃を見計らって回収するつもりだったのでしょう? でも密室の意味を考えればみくにゃんがこれを発見するのは当然よ…質問するわ」
早苗「…!」プルプル
…魔人高峯のあが、『輝』を追い詰めていく。
のあ「…この密室トリック、なおかつこの血について鑑定結果が出たとき、貴女は何か新たな説明をできるかしら?」
早苗「くッ…!」
のあ「もしできないというのなら…『貴女が犯人よ』片桐早苗」
50:
早苗「…解いたのはみくちゃんね。ホンット、…大した才能だわ」
瞳子「!!!」
先輩P「そんな、嘘だろ…?」
のあ「…さあ、食事の時間よ…!」
『輝』を構成するエネルギーが崩れ去る瞬間、解き放たれる膨大なエネルギー…!
のあ「ああ…!」
それこそが変種の私にとっては、何物にも変えられない美味…!
のあ「いただきます…」ゴクン
のあ「(…急ごしらえの物にしては手がかかっているわね、何より今日は二種類も楽しめたのだから。…これ以上望むのは贅沢)…みくにゃん、変わらぬ名推理だったわ。…これで終演…」
みく「何で!?」
のあ「…」
みく「何で! 何でですか早苗さん! 何で早苗さんがPちゃんを…!」
早苗「…ねえ、みくちゃん。人が最も輝いている時っていつだか分かるかしら?」
みく「何を…?」
早苗「あたしね、昔交通課にいたときたくさんの事故に出会ったわ。色んな被害者、加害者にもあった。…そこでね、一つ気づいたの」
みく「…!」
早苗「理不尽な理由で、大切なものを失った悲劇的な状況にいる人間ってね。スッゴく輝いているの…!」
顔を上げた早苗さんの顔は恍惚の表情に歪んでいた。絶頂が訪れたように瞳孔は開き、涙と涎を垂れ流している。
早苗「不注意で事故を起こし、人生を棒に振った善良な加害者! 脇見、飲酒、居眠り、一方的な過失で家族を失った被害者! そんな悲劇を見るたびあたしは涙を流しそうなほど感動したわ!」
みく「そんな…そんな理由で!」
早苗「何を言っているの、みくちゃん。この世界に入ったのはね、あなたみたいな子達をもっと輝かせるためなのよ? そう、あたしの発見した輝きを、世界に広めるために!」
瞳子「そこを動かないで、早苗。あなたを逮捕するわ」
早苗「イヤよ! あたしはまだまだ人を輝かせ続ける! 今回は失敗したけど、次はもっと綺麗な悲劇(ステージ)でもっと美しく人を輝かせてみせるわ! そう、あたしはこの世界で最も輝きを産み出す、演出家(プロデューサー)になるのよォ!!!」
早苗さんがその表情のまま、弾丸のように私に突っ込んでくる。
早苗「その第一号はあなたよ! P君を失ったあなたはこれまでにないほど輝いていた! あなたをあたしの最初の悲劇女優(アイドル)にしてあげるわ! みくちゃァん!!!」
避けきれない、目を思わずつぶってしまう。
感じたのは…明確な、悪意。
51:
のあ「…くだらないわ」ガシッ
早苗「えッ…!?」
響いた声に眼を開けると、のあにゃんが片手で早苗さんを受け止めていた。
のあ「…みくにゃんはこれから貴女がいなくても輝いていくわ。貴女の作る輝きなど…模造品に過ぎないほどにね」
早苗「何を言っているの? 離しなさいよ、あたしの夢(ひげき)はこんなところで終わらないの!」
のあ「…その腐った夢に溺れていなさい」ギュンッ
早苗「何を訳の分からないことを…」
早苗さんが私に向き直る。その時、早苗さんが見た光景は私には分からない。ただ…。
早苗「あ、ああ、アァァァァァァァァァァァ!!!!! いいわ、そう、そうなの、それが、あたしの望んでいた悲劇(ステージ)なのよォ!!!」
のあにゃんが手を離した瞬間、早苗さんの眼球はぐるぐると回り、窒息しそうなほどの涙と涎を溢れさせ、部屋を飛び出していったのだ。
瞳子「…! 追うわよ!」
忍「は、はい!」
52:
みく「…のあにゃん、早苗さんに何かしたでしょ」
のあ「…夢を見させてあげたのだけど、少々刺激が強かったかしら」
早苗「…そう、そう。イイわぁ、…スッゴく」ヘラヘラ
のあ「…貴女も見てみたいの?」
みく「…遠慮しておく」
のあ「…ところで、喜ばないのかしら」
みく「何を?」
のあ「…貴女の望んだ毎日は…おそらくこれで戻ってくるのよ」
みく「のあにゃん…」
振り向いたそこにはもうのあにゃんの姿はなかった。
のあ「(…もっとも、もう私の用事は済んだのだけど)」
ちひろ「みくちゃん」
先輩P「…すまん、みく。俺の監督不行き届きだ。早苗さんがあんな大きな闇を抱えていることに気づけなかった」
みく「先輩Pちゃんのせいじゃないよ。だから謝らないで」
ちひろ「あれ、のあさんはもう帰っちゃったの?」
みく「うん…そうみたいだにゃ」
ちひろ「…ふふ、やっぱりみくちゃんはその方が似合ってるわよ」
みく「…うん、やっと元に戻ったんだにゃ、日常に」
その夜、事務所のみんな…といっても帰ってきた社長を含めて四人でこれからのこと、そしてPちゃんのことについて話し合った。
結局その日は、先輩Pちゃんが私達の静止を振り切り、責任を取る形でプロダクションを辞め、私達は明日からどうするのか分からないという不安を抱えつつ解散した。
53:
時計「」ppppp…
みく「にゃー…」
色々あったというのに私はその夜、数日ぶりに、ぐっすり眠れた。のあにゃんの求めた『輝』の美味しさは分からないけど、それが解き放たれた瞬間の感情は少し理解できた気がする。
みく「…」
ネコミミを手に取る。のあにゃんが取り返してくれた日常、それを今はありがたく受け止めることにしよう。
みく「…にゃ、にゃーッはッはッはッは! キュートなアイドルみくにゃん、完全復活なのにゃ!」
事務所の前に立つ。私がこれからどうなるのかは分からない。でも、のあにゃんは言った。『輝』は生のエネルギーだと、だったらアイドルとして輝くことで、誰かにそのエネルギーを与えることだってできるんじゃないだろうか。
そんな思いを胸に秘め、私は事務所のドアを、新しい日常の扉を開ける。
みく「おっはよーございますにゃー!」
のあ「おはよう、みくにゃん」
みく「なんでや」
その扉を開けた先に立っていたのは、メイド服を着こなしたのあにゃんだった。
ちひろ「あ、おはようございます。みくちゃん」
みく「ち、ちひろさん、これはいったいどういうことにゃ!」
ちひろ「実はあのあと、のあさんから連絡があって」
のあ「…貴女を見ているとアイドルに興味が湧いたの、みくにゃん」
ちひろ「そこで社長とお話をしたんだけど、のあさんプロデューサーとしても高い能力を持っているらしくってね、社長がその場でプロデューサー兼アイドルとして即日契約しちゃったの」
みく「待って。ということはみくの新しいプロデューサーって…」
ちひろ「のあさんよ」
のあ「(…『輝』は感情のエネルギー、悪意はその最たるものだけど、多くの人を楽しませ、熱狂させる『偶像』、それも私にとっては重要な食糧源なの…みく、貴女の『輝』はまだ微弱だけど、いつか究極の『輝』になる可能性を秘めているわ…つまり貴女をトップアイドルにすることでも私のスキマは満たされる…そのためにも探偵、アイドル共々これからよろしくね、みく)」キラッ
みく「ふにゃあ?…」
世界にはまだまだ『輝』が残っている。魔人高峯のあが私を手離すのは、当分先のことになるらしい…。
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