キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」【前半】back

キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」【前半】


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1:
キリコ「所詮、遊びだ」 セシリア「何ですって?」【前半】
キリコ「所詮、遊びだ」 セシリア「何ですって?」【後半】
の続き
あらすじ
アストラギウス銀河を二分した百年戦争末期、通称レッドショルダーと呼ばれるAT部隊に所属していたキリコ・キュービィーは、敵兵器偵察の作戦に参加する。
その時、地球の女性にしか操縦できない、ISと呼ばれる条約により戦争での使用を禁じられた兵器を、キリコは偶然にも動かしてしまう。
それが原因となり、キリコはIS学園と呼ばれるIS操縦者養成所に転属させられ、死んだはずの義理の姉、織斑千冬、そして、自らの忌まわしい過去を知る女、篠ノ之箒と出会う。
その二人の出会いに、自らの過去を蒸し返され苦悶しながらも、キリコはセシリア・オルコット、凰鈴音、シャルル・デュノアらと監視者の干渉を撥ね退け、仲間と呼べる関係になっていく。
そして、新たな干渉者が一人、キリコの前に現れた。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女は復讐に燃え、キリコを執拗に挑発し、戦いの中で殺そうとしていた。
そして訪れた戦いの場。復讐者はキリコの仲間、セシリアと共に立ち塞がる。
互いの信念を内に秘め、泥中の蓮であるはずの学園は、硝煙と鉄の臭いを発し、戦場と化そうとしていた。
キリコ・キュービィー、その異能の輝きに感応し――。
3:
キリコ「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
セシリア「……」
ラウラ「ふっ、まさか……一戦目から当たるとはな……待つ手間が省けた」
キリコ「あぁ……俺も、お前が他のヤツにやられないか、冷や冷やしないで済む」
ラウラ「減らず口を……」
キリコ「……」
ウォッカム(わざわざ彼らが勝つのを眺めている道理も無い……一戦目から全力でやって貰おうではないか……)
ウォッカム(そして、キリコ……お前は、自分と同じ因子を持つ者によって乗り越える……)
ウォッカム(人間を……)
ウォッカム「……ふっ……」
4:
『両チームスタンバイ』
キリコ「……」
ラウラ「せいぜい、死なないように気をつけることだ……」
シャル(セシリア……なんで……)
セシリア「……」
『5、4、3、2……』
キリコ「……」ジャキンッ
ラウラ「……」ガチッ
『スタート!』
ラウラ「来いっ!」
キリコ「……」キュィイイイッ
5:
――
 第九話
 「邪曲」
――
6:
キリコ「……」バシュウッバシュウッ
ラウラ「ふん、開幕早々のソリッドシューターか……無駄だとわかっているはずだ!」キュウウンッ
フッ…… カランカランッ
ラウラ「ふっ……」
キリコ「……」キュィイイッ
シャル『やっぱり強いね……キリコ、どうする?』
キリコ「……まずは、セシリアを倒すぞ」
シャル『……了解』
キュィイイッ
セシリア(やはり、私に狙いを定めてきますか……)
セシリア「……ブルー・ティアーズ」シュンシュンッ
キリコ「……」キュィイイイッ
セシリア「……行きますっ!」
――
7:
セシリア「……お待たせしました」
シャル「あ、セシリア」
キリコ「……来たか」
セシリア「申し訳御座いません、遅くなってしまって……」
シャル「良いよ良いよ、気にしないで」
キリコ「……それより、早特訓をするぞ」
セシリア「は、はい」
シャル「よし……じゃあさ、キリコ。そろそろ作戦内容を教えてよ」
キリコ「……言ったはずだ。実戦で教える」
シャル「えっ、じゃ、じゃあ僕はどんな動きを……」
キリコ「……俺の援護をしてくれ。前には出なくて良い」
シャル「それだけ?」
キリコ「あぁ。今はな」
セシリア「わ、私には、何か指定等はありますか?」
キリコ「いや、無い。俺達を墜とす気でかかって来てくれれば、それで良い」
セシリア「そ、そうですか」
シャル(それが一番大変だと思うけどね……)
8:
キリコ「……よし、やるぞ」
シャル「うん。じゃあ僕も本気で行くからね」
セシリア「えぇ。私も、対複数戦には若干の覚えがあります。二人掛かりでも、そう簡単に倒せると思わないように」
キリコ「……俺がコインを投げる。それが地面についたらスタートだ」
シャル「わかった」
セシリア「了解ですわ」
キリコ「……」
ピーンッ
キリコ「……」
シャル「……」
セシリア「……」
ポトッ
キリコ「……」キュィイイッ
シャル「行くよ!」ギュンッ
セシリア「……」ヒュンッ
……
9:
バキンッ
セシリア「きゃあっ!」ドサッ
シャル「よしっ! 一本取れた!」
キリコ「……」フィウウンッ……
セシリア「くっ……さすがですわね……」
キリコ「作戦通りには行ったな」
シャル「うん、咄嗟に合わせただけだったけど、この作戦なら行けると思う。あの兵器も、セシリアのブルー・ティアーズ並の集中力が必要だと思うから」
キリコ「あぁ」
10:
セシリア「しかし、キリコさんが回避役を務めるのは良いとして……本当に大丈夫なのでしょうか」
キリコ「問題無い。こいつの機動力なら、あいつのAICの範囲外、なおかつこちらにくぎ付けにする距離を保ちながら攻撃を避ける事は可能だ」
シャル「ブルー・ティアーズのビット四機を相手に一発も当たらなかったからね……」
セシリア「えぇ……キリコさんに集中し過ぎて、シャルルさんの攻撃を避け切れませんでしたわ……。
  また腕が上がりましたわね、キリコさん」
キリコ「……あぁ。こちらに集中してくれれば、棒立ちになる場面もあるだろう。そこを突く」
セシリア(集中力、ですか……)
キリコ「……それと」
シャル「それと?」
11:
キリコ「……少し、武器に細工をしたい」
シャル「細工?」
キリコ「もし、ヤツのタッグが強敵だった場合、それぞれ一対一で相手せざるを得ないだろう。
 その時の対処に、な」
シャル「細工か……うん、ちょっとデュノア社を利用してみるよ。まだ僕の正体がバレた事、報告してないからね。
 その代わり、細工する武器のデータやらも送る事になっちゃうけど……」
キリコ「機体の性能なんて知られても構わない。好きにすると良い」
シャル「わかった。細工の件については、夜にでも聞かせて」
キリコ「あぁ」
シャル「ふぅ……じゃあ、少し休憩挟んでもう一回やろうか」
キリコ「そうだな」
セシリア「……」
12:
シャル「セシリアも、それで良いよね?」
セシリア「……」
シャル「セシリア?」
セシリア「……あっ……え、えぇ。そうしましょう」
シャル「何か気になる点でもあった?」
セシリア「いえ、何でもありません。さぁ、他の方の邪魔にならないように、あちらで休みましょうか」
シャル「そうだね。あ、キリコ。ちゃんとドリンク持ってきたから安心してね」
キリコ「……助かる」
シャル「あはは、良いって良いって」
セシリア「……」
セシリア(私の……弱点……)
――
13:
キリコ「……」キュィイイッ
シャル(キリコが真っ向からセシリアに突っ込んでる……)
シャル(一緒に訓練をして、セシリアの癖や弱点なんかはわかっているから、セシリアを狙うのは定石だね)
シャル(ビットを動かしている最中は、どうしても隙ができる。そこを突いて、先にセシリアを倒さないと)
ラウラ「くっ……アイツめ……」
シャル「……」
シャル(でも……今回は二対二……ラウラもいる)
シャル(……もしかしたら、セシリアが作戦をバラしている可能性もある……)
シャル(けど……)
14:
ラウラ「キリコ! 何処へ行く! 貴様の相手は私だ!」ジャキンッ
シャル「おっと!」ズガガガッ
ラウラ「くっ」キュウウンッ
シャル「二人してキリコキリコ……少しは僕の相手をしてくれてもいいんじゃないかな」
ラウラ「えぇい邪魔だ!」ズギュウンッ
シャル「そんなデカイ攻撃、当たらないよ!」ヒュンッ
シャル(ここはキリコの作戦を信じて、僕に出来る事をしなきゃね)
シャル(……どっちも回避に徹しないといけないから……長期戦になりそうだけど)
シャル(……キリコ、頼んだよ)
15:
箒「キリコ対セシリア、シャル対ラウラという形になったか……」
鈴「えぇ……まずは弱点を知ってる相手から、って事でしょうね」
箒「厄介な事になったな……」
鈴「えぇ……」
キュィイイッ
キリコ「……」ズガガガッ
セシリア「ふっ!」ビュンビュンッ
セシリア(ある程度の距離をとって、牽制のマシンガン……)
セシリア「当たりなさい!」シュンシュンッ
キリコ「……」ヒュンヒュンッ
セシリア(そしてブルー・ティアーズの回避も怠らない……訓練の時と同じですわね)
16:
セシリア(ビット二機だけではキリコさんは止められない。シャルルさんの相手はあの方に任せましょう……)
セシリア(……ブルー・ティアーズの弱点は知られている。ひきつけてミサイルを撃っても、キリコさんにはもう通用しない)
セシリア(……しかし、やるしかありませんわ)
セシリア(いつまでも、以前の私と思わないように……)
セシリア「四機でお相手致します!」
キリコ(来たか……)
キリコ「バルカンセレクター」カチッ
セシリア(単発に切り替えましたか……作戦の通りなのですね)
セシリア(……ですが……)
セシリア「行きますわよ!」
キリコ「……」キュィイイッ
セシリア「避け切れるなら、避けて見て下さい!」
キリコ(作戦、開始だ……)
17:
バシュンバシュンッ
ヒュンヒュンッ
キリコ「……」キュィイッ
セシリア(相変わらずの凄いターン回避ですこと……あの耐圧服も、あの回避時のGに耐える為のものなのでしょう)
セシリア「まだまだ!」シュンシュンッ
キリコ「……」ヒュッ
セシリア「てやぁっ!」
キリコ(ビットの軌道は複雑だ……避けるので精一杯だな……)
キリコ(だが、集中力では俺の方が上だ)
キリコ(……もう少し、我慢するんだ)
セシリア「……」シュンシュンッ
セシリア(そろそろ、ですわね……)
18:
キリコ「……」キュィイイッ
セシリア「……」シュンシュンッ
キリコ「くっ……」ヒュンッ
キリコ(よし、この間合いだ)
キリコ「……」カチッ
キリコ(後は距離をとりつつ……)
キリコ「……」キュィイイッ
シュンシュンッ
バシュンバシュンッ
キリコ「……」
19:
シュンッ……
キリコ(ビット三機が方向転換した……一機を避け、当てる!)
バシュンッ
キリコ「……」ヒュッ
キリコ(今だ!)
20:
セシリア「……甘い、ですわね」
キリコ「っ!」
ズギュウンンッ
キリコ「ふぉっ!」バゴンッ
鈴「あぁっ!」
箒「キ、キリコ!」
キリコ(ば、馬鹿な……)
21:
シュウウッ……
セシリア「ライフルが来るとは、思っていなかったようですわね……まだ行きますわよ、ブルー・ティアーズ!」シュンシュンッ
キリコ「くっ……」キュィイイッ
キリコ(……ヤツは確かにビットに集中していた、ビットが動いていたはずなんだ……なのに何故セシリアはライフルで俺を狙えた……)
セシリア「……」
キリコ(何故だっ!)
シャル「キリコ!?」
ラウラ「何処を見ている!」ビュンッ
シャル「くっ……」ヒュンッ
シャル(横目でしか見てないけど……セシリアがビットを動かしながらライフルでキリコを狙撃した……)
シャル(もしかして……セシリアは……)
シャル(……これは、マズイね……)
22:
箒「以前見た時とは、全く違う動きだった……ビットを動かしている時に、セシリアはそう射撃をしていなかったはずだ」
鈴「……弱点を、克服したって事なんでしょうね」
箒「……」
鈴「どういうつもりかわかんないけど……セシリア、本気でキリコを倒すつもりよ……」
箒「……セシリア……」
キリコ「くっ……」フィウウンッ……
セシリア「驚いてらっしゃいますの? この私が、ブルー・ティアーズを繰りながら、精密に射撃をした事を」
キリコ「……」
セシリア「……いつまでも、自分の弱点をそのままにしておくほど、進歩の無い人間ではありませんの……」
キリコ「……何故だ」
セシリア「……」
23:
キリコ「何故お前がヤツと組んでいる。タッグの申し込みをせず、偶然組まされたのか」
セシリア「いえ……私が望んだ事です」
キリコ「……何故裏切った」
セシリア「裏切った訳ではありません……ただ私は……キリコさん、貴方と戦いたかった」
キリコ「どういう事だ」
セシリア「始めた貴方と戦ったあの日の事……覚えていらっしゃいますか?」
キリコ「あぁ……俺が初めてコイツに乗った日だからな。多少は覚えている」
セシリア「あの日……私は、貴方に負けました」
キリコ「……お前の勝ちだったはずだが」
セシリア「いえ……判定なんてものではなく……私は、貴方に睨まれた時点で負けていた……一流の戦士として感じてはいけない、恐怖を感じて」
キリコ「……」
セシリア「それ以来……私は貴方に対して、名状しがたい感情を抱いていました。
  好意、恐怖、友情、畏怖……そんなものが入り混じったものを……」
キリコ「……」
24:
セシリア「お慕いしている殿方に、そんな感情を抱き……好意で訓練に誘って下っても、あの目が私を震えさせる……。
  私は、完全に貴方を、一種のトラウマとして認識してしまっていたのです」
キリコ「……トラウマ」
セシリア「……好きなのに、怖い……そんな不安定な心情でキリコさんに接していては、他の方にとられる事はおろか、無礼なのです。
  それなのに、私はそれに立ち向かわず、他の事で挽回しようだなどと考えていました。まぁ、そちらは散々でしたが」
キリコ「……そうだな」
セシリア「……ですが、この前……キリコさんがついに、私を必要として下さった……。
  こんな私に、頭を下げてまで……」
キリコ「……」
セシリア「私はその時気付きました……キリコさんは今までに無い程に真剣なのだと。そして……今が、立ち向かうべき時だと。
  全力で来る方に、全力で挑めるようにしなければと……」
キリコ「……」
セシリア「箒さん、鈴さんの仇を撃つ為に本気になったキリコさんと戦い、そして勝ち、あの目を払拭する……。
  これは、裏切りでも、友人の為でも無い……私の覚悟の戦いですの」
キリコ「……覚悟」
セシリア「……全力で来て下さい。私は貴方の敵、それ以上でもそれ以下でもありません。
  私も、今は貴方をそうとしか見ていないのですから」
キリコ「……」
セシリア「……」
25:
キリコ「……良いだろう。お前は、俺の敵だ」ジャキッ
セシリア「……」ビクッ
セシリア(そう、この目……この目を見て、私はキリコさんに惹かれた)
セシリア(夜の虫が、火につられて飛び込んでゆく……私のこの感情は、それに等しいのかもしれません)
セシリア(……ですが、私は立ち向かわなければならない。この方と対等の人間になれるように)
セシリア(一人の男性として、何の迷いも無く好きでいられるように)
セシリア「……だから……」
セシリア「……ブルー・ティアーズ!」シュンシュンッ
セシリア(……私は、貴方に勝つ!)
キリコ「……」キュィイイッ
26:
セシリア(私は、もうその目に怖じる事なんてありません!)
セシリア「せやぁっ!」ズギュウンッ
キリコ「くっ……」ヒュッ
セシリア「まだまだ!」シュンシュンッ
キリコ「つっ……」バゴンッ
キリコ(ビット四機に、本体からの射撃か……マズイな)
キリコ(スモークも、あのビットで素早くかき消される。かと言って接近戦を挑めばあのミサイルが待っている……)
キリコ(……ソリッドシューターは、もう用済みか……)
キリコ「……これで行く」
キュィイイイッ
27:
キリコ「……ソリッドシューター」ジャキッ
セシリア(ミサイルを警戒しての中距離武器ですか……しかし、あのリニアガンはそこまで弾はくは無いはず……)
キリコ「……」ドシュドシュッ
セシリア「甘いですわ!」ヒュンヒュンッ
セシリア(こちらの攻撃をかわしながら故、狙いもそこまで正確ではない……こちらも武器に集中しなければなりませんが、
  元々狙いが不正確なものを避けるのは容易いですわ)
キリコ「……」ドシュドシュッ
セシリア「ふっ!」ヒュンッ
セシリア(行きますわよ!)
セシリア「はぁっ!」ズギュウウンッ
キリコ「……」キュウウンッ
ヒュンッ
セシリア(流石ですわね。ビット四機と私の射撃に対しても、もう慣れてくるとは……)
28:
セシリア「しかし、こちらが優勢なのは変わりませんわ!」シュンシュンッ
キリコ「くっ……」バゴンッ
キリコ(マズイな、シールドエネルギーが半分を切ったか)
キリコ「……」ドシュドシュッ
セシリア「当たりませんわよ!」ヒュンッ
キリコ「……」カチッカチッ
キリコ(弾切れか……)
29:
セシリア「弾切れですか! らしくありませんわね!」
キリコ(だが……準備は整った)
セシリア(キリコさんのあの装甲ならば……既にシールドエネルギーは半分を切っているはず……)
キリコ(アイツは、ここで仕掛けてくるだろう)
セシリア(ならば……)ジャキンッ
キリコ「来たか……」
セシリア「行きますわよ!」
セシリア(このミサイルで……)
ドシュンッ
ゴォオオッ
30:
キリコ(……これが、最後のチャンスだ……)
キリコ(ここで仕留めなければ、ラウラとの戦いができなくなる)
キリコ(……だが……俺にも奥の手が無い訳じゃない)
キリコ(コイツの真の機動力を、発揮する時だ)
キュィイイイッ
セシリア「逃げ切れると思って!」シュンシュンッ
キリコ「……」
箒「ま、マズイ……追尾ミサイルとドット、同時だなんて……避け切れる訳が!」
鈴「キリコ! 逃げるなり撃ち落とすなりでもしなさい!」
31:
キリコ(仕掛けられるのは、一回だけだ……)
セシリア(これで決めるっ!)
バシュンバシュンッ
ゴォオオッ
キリコ「……」ヒュンヒュンッ
セシリア「……」
キリコ「……」キュィイイッ
ピタッ
セシリア(止まった!)
セシリア「貰いましたわっ!」ジャキッ
32:
箒「キリコッ!」
鈴「ヤバイ……」
鈴(ミサイルも目前、ビットがとり囲んで、セシリアのライフルはキリコを捉えてる……)
鈴(一発でもどれかに当たれば、もう連弾で決められちゃう……)
セシリア(これで……キリコさんに勝てる……)
セシリア(あの目を……あの目の恐怖を捨て去り、キリコさんと対等な関係になれる!)
セシリア「……これでっ!」
33:
キリコ「今だっ!」
ヒュンッ……
ドガァアアンッ
セシリア「なっ!」
セシリア(あ、あの加は!)
セシリア(い、イグニッション・ブースト!)
鈴「あ、あのスピードは!」
箒「凄い……ミサイルの間を抜けたぞ!」
34:
キュィイイッ
キリコ「……」キュィイイッ
セシリア「くっ……(奥の手を用意していただなんて……)」
セシリア(あの度ではすぐに間合いを詰められる……しかし、幸いキリコさんは弾切れの武器を装備中……。
  武器を変える隙に一旦距離を……)
ドゴンッ
セシリア「ぐはっ……」
35:
セシリア(な……何ですの、このダメージは……)
セシリア(な、何かが飛んできた? そ、そんなはずは……)
セシリア「……こ、これはっ!」
箒「た、弾切れのソリッドシューターをアームパンチで撃ち出したぞ!」
鈴「よし! 胴体命中! 動きが止まった!」
キュィイイッ
ヒュンッ
キリコ「……」
セシリア「なっ!(も、もう目の前に!)」
キリコ「これで、トドメだ」
36:
バキンッ
セシリア「っ……」
ズドンッ
セシリア「ぐっ……」
ヒュウウウッ……
ズドォオオンッ
箒「よし!」
鈴「やったぁっ!」
37:
キリコ「はぁ、はぁ……」
セシリア「くっ……」
『シールドエネルギー0。試合続行不可』
セシリア「……そ、そんなっ……」
ワァアアアアアッ
箒「セシリアを倒した!」
鈴「ふぅ……なんとかなったわねぇ……」
38:
キリコ「……」
セシリア「そんな……私が……弱点の無いブルー・ティアーズが、負けた?」
セシリア(そ、そんなはずは……)
セシリア(そんな……)
セシリア(わ、私は……あの目に、恐怖せず、立ち向かったのに……)
セシリア(……)
キリコ「……」
恐ろしい程の強敵。あの時、俺の判断が一瞬でも遅れていれば、こちらが負けていただろう。
そして、最後の彼女が崩れた姿を見た時、俺は彼女の戦う理由を、本当に理解した。
彼女は、真に自分の為に戦っていたのだと。彼女の強さは、その信念に裏打ちされたものだと。
何よりも尊い戦士の誇りの為に戦い、そして自分の知らない所で、恐怖を払拭していたのだと、俺は知ったのだ。
39:
キリコ「……」
「キリコーッ!」
キリコ「……シャルル」
シャル「セシリア倒して疲れてるのはわかるけどさ! ちょ、ちょっと援護してくれないかな!
 今僕に巻きついてるこのアンカーを撃ち落とすとかさ!」ギリギリッ
キリコ「……」ジャキッ
ズキュウウンッ
ブチッ
シャル「よっと……はぁ、助かったよ」
キリコ「……セシリアは片付けた」フィゥウンッ……
シャル「うん、やったね……それじゃあ後は……」
40:
ラウラ「ふん、自分からタッグを組ませろと言ってきた癖にアッサリ負けるとは……使えんヤツだ」
キリコ「……お前だけだラウラ・ボーデヴィッヒ」
47:
キリコ「……」
シャル「ふぅ……なんとか早めに決着ついてくれて助かったよ。こっちも結構ピンチだったから」
キリコ「すまないな」
シャル「ふふっ、良いって事。さて、それじゃあ……メインイベントだ……」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「ふっ、先程の……イグニッション・ブーストと奇をてらう攻撃……中々やるものだなキリコ・キュービィー」
キリコ「……御褒めに預かり、光栄だ」
ラウラ「しかし、あれは貴様の奥の手と見たが……良かったのか、あんな凡骨に使って。
 私にはもう、あの手は利かんぞ」
キリコ「……さぁな。こっちの策は、あれだけじゃない。油断しない事だ」
ラウラ「御忠告感謝しよう……」
キリコ「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
……
48:
ウォッカム(普通の人間が、あの三人の中に躍り出てきた結果は……まぁ、こうなるだろうな。正直役者不足だ)
ウォッカム(異能生存体、ヤツらの各能力は人間のそれを凌駕する)
ウォッカム(……しかし、今回は異能生存体の能力を観察することが主では無い。
  確かめる順序は逆だろうが、それは今問題では無い)
ウォッカム(完璧な兵士、その条件は腕、運、機械への適応能力だけでは足りないのだ)
ウォッカム(精神すら、常人を超えねばならない……)
ウォッカム(キリコ・キュービィー……貴様はこれから、過去を乗り越える)
ウォッカム(そして、完璧な兵士となるのだ……)
ウォッカム(私の、崇高なる野望の、為に……)
……
49:
キリコ「……作戦通りに行くぞ」
シャル「……うん」
ラウラ(……来るか)
キュィイイッ
ラウラ(……何を企んでいるのかはわからんが……油断はできんな)
キリコ(少し、シールドエネルギーを使い過ぎた。それはシャルルも同様だろう)
シャル(僕もキリコも、あまりシールドエネルギーは無い……さっさと片付けないと)
ラウラ「はぁっ!」ガキンッ
ヒュンヒュンッ
シャル「おっと!」ヒュッ
キリコ「……」ヒュッ
シャル(あのアンカーは、セシリアのブルー・ティアーズみたく、死角からも狙ってこれる……。
 だけど、ちゃんとそれも踏まえてセシリアと特訓したんだ。二人掛かりならもう当たらないよ!)
50:
キリコ「……」ズガガガッ
シャル(よし、キリコが特定の間合いに入った。AICで機体ごと止められない、かつ離れ過ぎる事の無い間合い)
キリコ(俺はここでヤツの攻撃を引きつけ、ヤツの隙を窺う。そして、わざと懐に突っ込み、ヤツのAICに捕まる)
シャル(キリコが突っ込む時は、ラウラの視界が僕から完全に離れた時。キリコが突っ込んだら、そのまま狙い撃てばいい)
キリコ(ヤツのAICは、セシリアのブルー・ティアーズ以上に集中力がいるだろう。止められる方向及び対象は一つだけと見た)
シャル(だから、ガラ空きになった後ろを狙えば良い……けど……)
シャル「……」ズガガガッ
ラウラ「ふっ、無駄だ……」キュウウウンッ
パスパスッ……
ラウラ「何か作戦があるのかと思って身構えていたら、ただの斉射か……弾薬数が増えれば貫通するとでも思ったか!」ガキンッ
シャル「くっ……」ヒュンッ
キリコ「……」ヒュッ
51:
シャル(とまぁ、こんな感じで……ちょっと油断させないとね……)
シャル(それに……)
ラウラ「喰らえっ!」ジャキンッ
ズキュウウンッ
シャル「うわっと……どこ狙ってるのかな!?」ヒュッ
シャル(キリコが細工した兵器もある……既にその準備は終わってるんだけど、そっちが本当の奥の手……)
シャル(……それまでに、なんとか倒したいけどね)
キリコ「……」キュィイイッ
ラウラ(AICを警戒しての間合い管理か……馬鹿め、私がお前達二人から目を離すと思うのか?)
ラウラ「片腹痛い!」ビゥウンッ
キリコ(ブレード……接近戦か)
ラウラ(近づけば、貴様のあのデカイターン回避もさして怖くは無い……)
52:
ラウラ「行くぞ!」ギュンッ
キリコ(接近戦か……)
ラウラ「はぁっ!」ビュンッ
キリコ「……」ガキンッ
ラウラ「だぁっ!」ビュンッ
キリコ「ふっ」ガキンッ
シャル(凄い、ブレードを殴りで返してる……)
ラウラ「……」ビュビュビュンッ
キリコ「……」ガキガキガキンッ
鈴「す、凄い応酬……」
箒「なんてさだ……」
53:
ラウラ(ちっ……接近戦には弱いと思ったが、私と同等レベルの動体視力を持っているらしいな……)
ラウラ「せやっ!」ビュンッ
キリコ「そこだ」ガキンッ
ラウラ「何っ!」
ラウラ(弾き返されただと!)
キリコ「……」ブンッ
ラウラ「ちっ」キュウウンッ
キリコ「くっ……」ピタッ
ラウラ「ふふっ……やるな。まさか常人がここまでの動体視力を持っているとは思わなかったぞ」
キリコ「……」
ラウラ「だが、これでトドメだ!」ジャキンッ
54:
シャル「僕を忘れてなぁい!?」ズガガガガッ
ラウラ「なっ!」バゴンッ
シャル「ふふっ、油断大敵……だね」
ラウラ「くっ……雑魚共がぁ!」ガキンッ
シャル「おっと……アンカーはもう避け慣れてるよ!」
キリコ(一度、また距離をとるか)キュィイイイッ
ラウラ「クソッ……」
ラウラ(ちっ……キリコに集中し過ぎたか……あんなヤツの攻撃を喰らうとは……)
ラウラ(……ヤツらめ、まさかこのAICの弱点を……)
ラウラ「ちぃっ!」ガキンッ
シャル『やったねキリコ』
キリコ「あぁ。どうやら、俺の見立て通りらしい」
シャル『このまま作戦通りに押し切ろう。回避は辛いだろうけど、頼むよ』
キリコ「任せろ」
……
55:
山田「キリコ君、また腕を上げてますね……わ、私……もう追いこされちゃったんじゃ……」
千冬「ふっ、だからウカウカしてられないと言ったんだ」
山田「それにしても……キリコ君とデュノア君のコンビネーション、素晴らしいですね。とても上手く連携が取れてます」
千冬「あぁ。短期間で合わせたにしては、良い連携だ。デュノアも、さすがは専用機持ちと言った所だな」
山田「本当に、凄い二人です……」
千冬「……あぁ」
千冬(ラウラ……義憤に燃えるのは良い。しかし、そいつはそんなもので倒せるような、チャチなヤツでは無い)
千冬(キリコ……アイツは……)
千冬(人間という枠で括れるような者じゃ、無いのだからな……)
……
56:
ラウラ「はぁっ!」ビュンッ
キリコ「……」ヒュッ
ラウラ「クソッ!」ジャキンッ ズキュウンッ
キリコ「……」キュィイイッ
ラウラ(何故だ……何故当たらん……)
ラウラ(キリコに負けたあの凡骨でさえ、何度もアイツに攻撃を当てていた……)
ラウラ(なのに……なのに……)
ラウラ(……くっ……)
ラウラ「キィリコォーッ!」ズキュウウンッ
キリコ「……」ヒュッ
ラウラ「ちぃっ……」
シャル「また忘れてるでしょ、僕の事!」ズガガガッ
ラウラ「くっ……」カキンカキンッ
シャル「やぁああっ!」ズガガガッ
ラウラ(やはりそうだ……コイツら、AICの弱点を知っている!)
57:
ラウラ「クソがぁっ!」ビュンッ
シャル「おっと!」ヒュッ
シャル(ふふっ、慌ててる慌ててる)
ラウラ「この最低野郎共がぁ!」
キリコ「……」キュィイイッ
ラウラ「突っ込んで来ても、AICがあるわっ!」キュウウンッ
キリコ「……シャルル!」
シュンッ
シャル「……ふふっ、ちゃんともう懐に入ってるよ!」
58:
ラウラ「なっ……(い、いつの間に懐に!)」
シャル「ほうら、ショットガンの味でも堪能してよ!」ズガンッ
ラウラ「ぐはっ!」バキンッ
ラウラ(な、何故だ……確かにヤツは一瞬私の視界から消えた……しかし、距離はあったはずだ……)
シャル「よし……初めてやったけど、案外上手くいくもんだね」
ラウラ「くっ、貴様……まさかイグニッション・ブーストを……」
シャル「御名答。キリコの真似をしただけなんだけどね……」
ラウラ(コイツ……そんなものが使えるなんてデータは無かった……まさか、この戦いの中で覚えたというのか!)
ラウラ「このっ……雑魚がぁっ!」ジャキンッ
ドガァアアンンッ
ラウラ「ぐはっ……」
キリコ「二連装ミサイルの味も、良いものだろう」
ラウラ「ぐっ……キリコ、貴様ぁっ!」ガキンッ
キリコ「もう、アンカーは見えるぞ」ヒュッ
59:
シャル「だから、僕からも目を離しちゃダメだって!」シュンッ
ラウラ(ま、また懐に!)
シャル「そうら、パイルバンカーだ!」ガキンッ
ラウラ「っ……ぬはっ!」ドゴォッ
シャル「そらそら、そらっ!」ガキンッガキンッ
ラウラ「ぐっ、あっ……」ドゴンッドゴンッ
箒「よし! もう勝ったも同然だ!」
鈴「ドンドンやっちゃいなさいシャルル!」
60:
ラウラ(ま、ける……負けるのか? この私が?)
ラウラ(こんな……こんなレッドショルダーと取り巻きなんかに?)
ラウラ(教官に深い傷を負わせた……こんなヤツらに……)
ラウラ(私が……私が……)
ラウラ(……)
ラウラ(負けるものか……)
ラウラ(負ける訳にはいかん……)
ラウラ(こんな……こんな……)
――
61:
『希有遺伝子実験体C0037、お前の新たな識別名は……ラウラ・ボーデヴィッヒだ』
いつ誰が始めたのかわからない、そんな百年戦争の真っただ中。私は生を受けた。
巨大陣営に組すること無く、戦争に不干渉という立場を決め込んでいた、この地球で。
しかし、そんな惑星で私はただ、戦う為だけに、生まれ、鍛え、育てられた。
日々、訓練、訓練、訓練……全てにおいて、私は最高レベルを出し、そして維持し続けていた。
射撃、対人格闘、AT……あまつさえ、猟兵の様な訓練さえ受けた。
私の技量は、あのアストラギウス銀河最強のAT部隊と噂される、レッドショルダーにも引けを取らない。
私はそれ程の評価を受けていた。
……世界最強の兵器、ISが世に出るまでは。
62:
すぐに私もISへの適合能力を高める為に、左目にナノマシンを埋め込まれた。
しかし……結果は燦々たるものだった。
私の身体はISに適合しきれず、結果も出しきれず、私は出来そこないの烙印を押された。
そんな時、私はあの人に出会った。
彼女は、極めて有能な教官だった。
わずかな時間しか私は指導を受けられなかったが、私はIS専門の部隊で……また最強の座に君臨した。
私は、その人に聞いた。何故それ程までに強いのか、と。
最初は教えてくれなかった。しかし、私は何度も聞いた。
そして……ついに、彼女はこう答えてくれた。
63:
戦争が、レッドショルダーが憎いからだ、と。
力無き者は全て失う、戦争が憎いからだ、と。
もしまた戦争が起きても、抗えるように、と。
64:
その時、その人がした顔は……悲痛なものだった。
私は、何を失ったのかと聞いた。
ただ一言、家族、そう答えてくれた。
私は、その時決心した。
私も、この人の様にならねばならない。
私は……戦争の道具、兵士ではある。だが、それとは違う。
気高い戦士にならねばならない、そう私は決心した。
そして、私は念願叶い、教官のいるIS学園に転属される事となった。
軍よりは基礎訓練の質は落ちるだろうが、教官の指導をまた直接受けられる。
私は心躍らせていた。
あの連絡が来るまでは――。
65:
プルルルルッ
ガチャッ
『ラウラ・ボーデヴィッヒか』
『……誰だ』
『貴様がこれから行くIS学園に、キリコ・キュービィーという男がいる。そいつは、織斑千冬の義理の弟だ』
『……何故、貴様が教官の事を知っている』
『そいつは……レッドショルダー隊員だ』
『っ!』
『織斑千冬が長期間住んでいたサンサを襲撃したのも、レッドショルダーだ。その時、彼女の家族は死んだ。
 その、キリコ・キュービィーを除いてな』
『……』
『そして、そいつはこの前の第三次サンサ攻略にも参加したのだ。自らの故郷を、自らの仇である部隊に所属し、壊滅させたのだ』
『……』
『……この事実を、君は知った。これをどうするかは、君に任せよう……だが、これだけは言える。
 私も、戦争というものは早く終わらせたい。だから、君の協力が必要だ』
『……ヤツを……殺せというのか』
『……そうだ……』
66:
『……断る』
『何故だ』
『卑怯な手で殺しては……ソイツと同じだ……私は……』
『……』
『戦士として、戦いの中でソイツを殺す……』
『……そうか。まぁ、どの道結果は同じだ。協力感謝する』
『協力では無い……これは、仇討ちだ』
『……そうか。では、私はこれにて失礼する』
ツーツー
『……』
67:
教官の家族でありながら……教官の家族を殺したレッドショルダーに入った男、キリコ・キュービィー。
私は、生まれて初めて、明確な殺意を覚えた。
そして、私はここに来たのだ。
なのに……。
なのに……。
力が、欲しい……。
己の信念を達せられる、強い力が。
人の皮を着た悪魔を穿てる、強い力が。
……。
……。
っ……?
68:
なんだ、この音楽は……。
軍歌か?
しかし、どこかで聞き覚えが……。
……。
……そうか。
これは、あの忌まわしい部隊の……。
レッドショルダーの……。
69:
『汝、力を欲するか』
欲しい。
『人の皮を着た悪魔を滅する、力が』
あぁ。
『……ならば、授けよう。しかし、悪魔を穿つには、悪魔になるしかない……』
……構わん。
自分の姿など、知った事か。
70:
『……良いだろう』
――
71:
ラウラ「――うわぁああああっ!」
ジジジジジッ
シャル「うわぁあっ!」ガキンッ
箒「な、何だ!」
鈴「何よあれ!」
ラウラ「ぬうううう……あぁあああっ!」ジジジジッ
ウォッカム(来たか……)
キリコ「大丈夫か、シャルル」
シャル「う、うん……でも、一体何が……」
72:
テーテーテテッテー
ツタタタタッタッタ ツツタタタッタッタッタ
キリコ「……!?」
シャル「な、何? 何この音楽?」
ウォッカム(……素晴らしい)
鈴「ちょ、ちょっと何よこれ……全部のスピーカーから大音量で流れてくるけど……」
箒「……こ、これは……この曲は……」
キリコ「レッド、ショルダー……」
73:
ラウラ「うううううっ……がぁあああっ!」ブクブクブクッ
シャル「あ、あれは……ラウラのISが溶けて、変形してる!?」
ガクッ
キリコ「や、やめろ……」
シャル「ど、どうしたのキリコ!」
キリコ「この曲を、やめさせろ……」
シャル「キリコ……」
シャル(そ、そうか……この曲は、あの部隊の……)
ラウラ「ああぁああっ!」ブクブクッ
シャル(溶けたISが、完全にラウラを包んだ……い、一体、何が起きてるんだ……)
74:
箒「……う、うぅ……」ガクッ
鈴「ど、どうしたの箒? だ、大丈夫!?」
箒(な、なんでこの曲が今……)
箒(レッド、ショルダー……)
箒(人が燃える……)
箒(皆、皆……)
山田「……こ、これは一体……」
千冬「……」
山田「お、織斑先生!」
千冬「……」
山田「織斑先生っ!」
千冬「……あ、あぁ……警戒態勢を、最高にまで上げろ」
山田「は、はいっ!」
76:
ジジジジッ
ブクブクブクッ
シャル(な、なんだ? 何か、形を作ろうとしている?)
キリコ「やめろ……」
山田「……」カタカタッ
千冬「どうした山田先生。早く警報を」
山田「……ダメです! 反応しません!」
千冬「なんだと!?」
山田「一切、こちらの指示が……ダメです、弾かれます!」
千冬(クソッ……セキリュティもまた一新したはずだ……なのに、またこうもアッサリ……)
ウォッカム(……警報などさせるものか。ここでゆっくりと見ることが出来なくなるではないか……)
ウォッカム(まぁ、これは篠ノ之博士の分野だ。安心して眺めるとしよう)
77:
ジジジジッ……
シャル(形が……成った……)
シャル(あれは……まさか……)
キリコ「う、うぅ……」
キリコ(あ、あれは……)
キリコ(AT……ATの形か?)
キリコ「……」
キリコ(いや……)
キリコ(ただのAT……じゃない……)
キリコ(あの、肩は……)
78:
鳴りやまぬ忌まわしい音楽。そんな中、俺の敵は姿を変えた。
三つ目のレンズ。鉄の棺。そして……あの、赤い右肩……。
あの、吸血鬼……レッドショルダーに……。
79:
キリコ「はぁ……はぁ……」
『……』ガインッ
キリコ「はぁ、はぁ……」
『……キ……リ、コ……』
キリコ「やめろ……」
『メルキア、方面軍……第24……戦略機甲歩兵団……』
キリコ「言うな……」
『特殊任務班、X?1……レッドショルダー所属……』
キリコ「やめろ……やめるんだ……」
『キリコ・キュービィー曹長……』
80:
セシリア「!」
シャル「……」
山田「!?」
千冬「っ……」
鈴「レッド……ショルダー……」
箒「……キリコ、が?」
81:
キリコ「はぁ、はぁ……」
『忘れた、とは……言わせ、ん、ぞ……』
キリコ「言うな!」ズガガガッ
『第三次、サンサ攻略、戦……貴様、は……確かに、サンサにいた……レッド、ショルダーとして……』キュウウンッ
シャル(AIC!?)
キリコ「やめろぉっ!」ズガガガッ
『貴様は……自らの、手で……故郷を、燃やし、尽くした……』
キリコ「やめろ……」
『自分の家族を、殺した……レッド、ショルダーに、入り……』
キリコ「……やめろ……」
『貴様は……殺戮を、楽しんでいた!』
キリコ「……違うっ……お、俺は……」
『貴様は……吸血鬼……レッドショルダーだ!』
キリコ「っ……」
……
82:
鈴「そ、そんな……」
箒「……」
鈴「……キ、キリコが……レッドショルダー、だったなんて……」
箒「……」ガクガクッ
鈴「ね、ねぇ箒……」
箒「はぁ、はぁ……」ガクンッ
鈴「ど、どうしたの箒?」
箒「……うぶっ!」タタタッ
鈴「ちょ、ちょっと箒! どこ行くのよ!」
タタタッ
箒「はぁ、はぁ……」
箒「……っ……おぇえええっ……」バシャッ
83:
箒「……はぁ、はぁ……」
箒(キリコが、レッドショルダー?)
箒(嘘だ……嘘だ、嘘だ……)
箒(嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!)
箒(嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だぁっ!)
箒(嘘に……決まっているっ!)
箒(何でっ……そんなはずはない……キリコが……キリコが一番良く知っているはずだ……)
箒(レッドショルダーが私達に何をしたのか……記憶に無くとも、わかるはずだ……)
84:
箒(キリコが……)
「お前から離れる訳には、いかなくなった」
箒(キリコがっ……)
「俺は、お前が良いと言った」
箒(嘘だっ……)
「そうすれば、俺はお前の恋人にでも、何にでもなろう」
箒(嘘だ……)
85:
「……待っていろ」
箒「……うそだっ……」
箒「こんな……こんなの……」
箒「せっかく……せっかく……キリコに、あえたのに……」
箒「キリコを……またすきになれたのに……」
箒「こんなのっ……」
箒「こんなの……ひどすぎるっ……」
箒「キリコォッ!」
箒「キリコ……」
箒「キリ、コ……」
箒「……」
……
86:
『いくら、味方の血肉を、喰らった……』
キリコ「違う……」
『いくら、罪無き人を殺めた……』
キリコ「……違うっ!」
『この、最低野郎がぁっ!』
キリコ「……うわぁああっ!」
キュィイイイッ
シャル「! キ、キリコ! 突っ込んじゃダメだ!」
キリコ「……くっ」ジャキッ
ズガガガガッ
『……』キュィイイイッ
キュウウンッ
パスパスッ……
シャル(AICがまだ生きてる……)
キリコ「はぁ、はぁ……」キュィイイッ
87:
『……』キュィイイッ
シャル「キリコ! 一旦退くんだ!」
キリコ「や、やめろ……この曲も、貴様の戯言も……」
シャル「キリコッ!」
『……』カチッ
ズガガガッ
シャル「くっ……(イグニッション・ブーストで……)」
ヒュンッ
パシッ
シャル(よし、キリコを回収した!)
88:
キリコ「……やめろ! 放せ!」
シャル「キリコ! しっかりしてよ!」
キリコ「……ヤツを……ヤツを止めなければ!」
シャル「そんなことより、今はとにかく体勢を立て直さないと!」
キリコ「うぅ……止めろ……」
何故だ……何故……。
未だに鳴り響いているあの曲。
レッドショルダーの行進曲、戦騎達の行進するあの音が、俺を蝕む。
甲高いローラー音、土を踏みしめる音が、脳髄から喉へ流れていく。
何だ、この異様な不快感は……。
俺はついこの間、この曲を聞き、そしてあの部隊にいたはずだ。
あの時には何も感じなかったはずなのに……なのに、何故今頃……。
89:
キリコ「はぁ……はぁ……」
シャル「キリコ! ねぇ!」
吸血鬼と罵られた。人殺しと。
それは、事実だろう。
今までは、何とか堪えられた。
なのに……何なんだ……この震えは。この絞首のような喉の嗚咽は――。
キリコ「……やめ、ろ……」
シャル(駄目だ……完全に錯乱してる……)
シャル(こ、このままじゃ……)
「シャルルさん!」
90:
シャル「!? こ、この声は……」
セシリア「シャルルさん! キリコさんをこちらに!」
シャル「セシリア……ここにいちゃ危ない! 君も逃げるんだ!」
ズガガガガッ
シャル「くっ……」シュンシュンッ
セシリア「シャルルさん! いいから早く! このままでは二人共やられてしまいますわ!」
シャル「っ……」
シャル(イグニッション・ブーストも使える限度がある……)
『……キ、リコ……』ズガガガッ
シャル(狙いも、さも、ATにしてはかなりの性能だ。元がISだからか……)
シャル(それに、AICも死んでない……かなり厄介だ)
シャル「……くっ……セシリア! エネルギーもう無いと思うけど、IS展開してもっと離れて! 牽制してからキリコを渡す!」
セシリア「はいっ!」
91:
シャル(二人やられるよりは……仕方が無い!)
シャル「てやぁっ!」ズガガガッ
『……』キュウウンッ
シャル「つっ……(走行しながらAICを展開してる……厄介どころじゃないねこれは)」
シャル(……もうこっちのエネルギー切れちゃうけど……)
シャル(……賭けだ!)キュイイインッ
ヒュンッ
『……』ズガガガッ
シャル(イグニッション・ブーストで一旦近づいて……)カキンカキンッ
92:
ヒュンッ
シャル(追いこす!)
『……』キュィイイイッ
シャル「来たね……」ズサァッ
シャル(もう一度!)ヒュンッ
『……』ズガガガッ
シャル「ふっ!」ヒュンヒュンッ
シャル(よし、距離を開けられたぞ!)
シャル「セシリアァーッ!」
セシリア「準備良いですわ!」
シャル「頼んだよぉっ!」ブンッ
93:
ゴォオオッ
セシリア「っ……」
バシッ
セシリア「くっ……」ズササァッ
ズサァッ……
セシリア「はぁ……(な、なんとか受け止められましたわ……)」
キリコ「……やめろ……俺の過去を蒸し返すな!」
セシリア「キリコさん! お気を確かに!」
キリコ「や、やめろ……」
セシリア「……」
セシリア(一体、キリコさんの身に何が起きていると言うんですの……)
94:
『……』キュィイイッ
シャル「君の相手は僕だよ!」ズガガガガッ
『……』キュウウンッ
シャル「くっ……やっぱり効かない、か……」
シャル(マズイな……二人ならAICに対処できるけど、タイマン戦じゃ無敵過ぎだよあれ……)
シャル(……何か、弱点じゃなくても良い。まずは特徴を掴むんだ)
シャル「……」ズガガガッ
『……』キュウウンッ
シャル(……一つだけ、特徴発見)
シャル(AT形態になってから、地上のみを走行してる。ある程度空に逃げれば、なんとかなりそうだ……)
シャル(だけど、あまり離れ過ぎると……キリコの方に向かっていく。きっと……)
シャル(さて、ここからどうしたものか……)
95:
『……』ジャキンッ
シャル「っ! ミサイルか!」
『……』ドシュドシュッ
シャル「くっ……」
『……』ズガガガッ
シャル(ぐっ、まずい……バルカンまで……)
ゴォオオッ
シャル「くっ……」ヒュンヒュンッ
ドガァアンッ
シャル「ぐあっ!」
シャル(くっ、全段回避は無理か!)
『……』ジャキンッ
シャル(早く戻って来てよ! キリコ!)
96:
キリコ「くっ……あ、頭が……」
セシリア「大丈夫ですかっ」
キリコ「はぁ、はぁ……(何故だ……何故今になって、この発作が……)」
セシリア「キリコさん……」
キリコ「俺は……俺は……」
セシリア「……」
シャル「うわぁああっ!」
セシリア「!? シャルルさん!」
シャル「つ、つつっ……」
シャル(ま、まずい……あと一発でも何か貰えば……エネルギーがお陀仏だ……)
シャル「……」
シャル「……キリコッ!」
シャル「早く戻ってきてよ! このままじゃ……」
『……』ズガガガッ
シャル「うわぁっ!」
97:
セシリア「シャルルさん!」
セシリア(わ、私に、シールドエネルギーが残ってさえいれば……)
セシリア「……」
キリコ「……違う……俺は、もう違うんだ……」
セシリア「……キリコさん」
キリコ「望んだ訳じゃない……俺は……俺は!」
セシリア「キリコさんっ」
キリコ「違う……」
セシリア「キリコさん!」
キリコ「違うっ!」
セシリア「……」
98:
バチンッ
キリコ「……」
セシリア「……」
キリコ「セシ、リア……」
セシリア「シールドはまだ残っているから、痛くもかゆくもないでしょう」
キリコ「……」
セシリア「……何を恐れているのです」
キリコ「……俺は……」
セシリア「今、シャルルさんが貴方を庇い、必死になって戦っているのです。自分のシールドエネルギーも残り少ないのに……。
  キリコさんを守ろうと、必死になって……」
キリコ「……」
セシリア「レッドショルダーが、一体なんですの!」
キリコ「……」
セシリア「確かに、レッドショルダーと言えば、味方の血肉を啜る吸血部隊と揶揄されている部隊です。
  ですが、それとキリコさん自身の人間性と、何の関わりがあると言うのです」
99:
キリコ「……お前には、わかるまい」
セシリア「えぇ、わかりませんわ。ハッキリ言って、私にとってその事実はさして興味の無い事です。
  貴方の過去がどうであろうと、私は軽蔑しませんから」
キリコ「……」
セシリア「……自分が否定されるのが嫌ですの?」
キリコ「……」
セシリア「……ならば、安心して下さい。私は絶対に貴方を否定しません。
  今戦っているシャルルさんも、箒さんも、鈴さんも、絶対に貴方を否定しません」
キリコ「……」
セシリア「……それでも、忌まわしい過去を否定したいのであれば、立ち向かいなさい」
キリコ「……」
セシリア「違うと言うのなら……自らが吸血鬼で無いと言うのならば、あの赤の騎兵に立ち向かいなさい!
  立ち向かい、勝ち、そして自分は違うと証明なさい!」
キリコ「……セシリア……」
100:
セシリア「私も、貴方に立ち向かった……私は負けましたが、しかし……今は貴方の事を怖いだなんて微塵も思いません」
キリコ「……」
セシリア「立ちあがりなさい。貴方は、私を一瞬で恐怖させる程の、あの目を持った殿方なのです。
  それが、あんな出来そこないのレッドショルダー等に、負けるはずはありません」
キリコ「……」
セシリア「武器をしっかり持って、戦いなさい。勝って、貴方はやはり違うのだと、私達に思い知らせて下さい」
キリコ「……」
セシリア「……」
101:
ジャキッ
キリコ「……」
セシリア「……そうです。武器は、戦う為の物……そして、自らの信念を乗せる物です……」
キリコ「……すまない、セシリア」
セシリア「謝るのは、勝ってからにして下さいまし」
キリコ「……そうだな」
セシリア「……」
キリコ「……俺は、レッドショルダー……そして、このIS学園の生徒……」
キリコ「キリコ・キュービィーだ」
102:
キュィイイッ
セシリア「……」
セシリア(勝って下さい……)
セシリア(貴方が何者であろうと、貴方を支え続ける人達の為にも……)
セシリア「必ず……」
シャル「ぐっ……」ドサッ
『……』ジャキンッ
シャル「ちっ……」ズガガガッ
『……』キュウウウンッ
シャル「……」カチッ カチッ
シャル(……弾切れ……)
シャル(万事休す、か……)
『……』
シャル(……キリコッ!)
103:
ズガガガガッ
『……!?』カキンカキンッ
シャル「っ……こ、これは……」
キリコ「……待たせたな」
シャル「……遅いよ、キリコ……」
キリコ「……すまない」
『……キリコッ!』ズガガガッ
キリコ「……つかまれ」パシッ
シャル「おわっ!」
キリコ「イグニッション・ブースト……」
ギュンッ
シャル「くっ……(ぼ、僕のリバイヴよりい……さすがは軽装だ)」
104:
キリコ「……セシリア」フィゥウンッ……
セシリア「はい!」
キリコ「シャルルを、頼む。もうコイツのシールドエネルギーは0に等しい」
シャル「……ゴメン、キリコ」
キリコ「謝るのは、俺の方だ。よく持ちこたえてくれた」
シャル「……キリコ」
『キリコ……キリコォーッ!』キュィイイッ
キリコ「……」
シャル「……あれは、過去の自分、なんだね」
キリコ「……あぁ……俺は、行く。アイツの始末は、俺がつけねばならない」
シャル「……負けないで」
キリコ「……あぁ」
キュィイイイッ
105:
キリコ「……」キュィイイッ
『キリコォーッ!』キュィイイッ
キリコ(AICを一人看破するのは、ほぼ不可能に等しいだろう)
キリコ(弾薬も残り少ない……)
キリコ(……だが、まだ活路はある)
キリコ(仕掛けた罠は……まだ生きている)
キリコ(本当にATを模しているなら……装甲はそこまで厚くないはずだ……)
キリコ(一か八か……賭けるしかない)
『死ねぇっ!』ズガガガッ
キリコ(主武装はヘヴィマシンガン、副武装に二連装ミサイル、バルカンか……六連装ミサイルは既に弾切れの様だが……。
 一応スモークもあるようだ、警戒しておこう)ヒュンヒュンッ
『……』キュィイイッ
キリコ(足の接地面の狭さを見るに、ジェット機構もあるだろう……レッドショルダーカスタムか、趣味が悪い……)
『……』ギュィイイッ ズギュウウッ
キリコ(早来たな……)
106:
『くたばれっ!』ズガガガッ
キリコ「……」ヒュンヒュンッ
キリコ(流石にいな……地上での性能は、元のそれを上回っているだろう。このセイバードッグにも劣らない……)
キリコ「……」ズガガガッ
『……』キュウウンッ
キリコ(そして言うまでも無く、あのAICがネックだ……)
『……』キュィイイッ
キリコ「……」
キリコ(……やるぞ)
キュィイイイッ
セシリア「キリコさん、突っ込んで行きますわ……」
シャル「何か考えがあるんだ……」
シャル(……頑張って、キリコ……)
107:
キリコ「……」キュィイイッ
『突っ込む気か! 無駄無駄ぁっ!』ズガガガッ
キリコ「……」ヒュンヒュンッ
『……』キュィイッ
キリコ「……一人でも、やりようはある」ジャキッ
ズガガガッ
ドシュドシュッ
ズバババッ
『ふんっ、斉射した所で同方向なら無駄よ!』キュウウンッ
キリコ「……」カチッ
『今の攻撃で……ほとんど弾切れのようだな……』
キリコ「……そのようだな」
『……』
キリコ「……」
『……もう飽きた、貴様には死んでもらうぞ!』
108:
キリコ(あぁ、こちらもそうだ……準備は整った)
『……これが、貴様の最期だ』
バシュウウウッ……
モワァアアッ
キリコ(スモークか……)
キュィイイッ
キリコ(……)
キリコ(見える……)
キリコ(……赤の軌跡が、目で追える……)
キリコ(あの忌まわしい騎兵は……目晦まし等で、誤魔化せるような物じゃない……)
キュィイイッ
キリコ(だが……)
キリコ(俺は、避けない)
109:
『死ねぇっ!』
キリコ「……」ズガガガッ
『無駄だと言ったはずだ!』キュウウンッ
キリコ「……」
『はぁっ!』グワッ
キリコ「ふぉっ!」バキンッ
『……ようやく捕まえたぞ、レッドショルダー……』ググッ
キリコ「ぐっ……」
『……』
シャル「スモークが晴れた……っ! キリコ!」
セシリア「そ、そんな!」
110:
キリコ「……」
『ふっ、お仲間の見ている前で、貴様は殺してやるぞ……お前が、昔サンサの住人にしたように!』ギリギリ
キリコ「くっ……」
『この、人殺し……』
キリコ「……」
『吸血鬼……』
キリコ「……」
『レッドショルダーがっ!』
キリコ「……ふっ」
『……何がおかしい』
キリコ「……そうだ。俺は確かにレッドショルダーだ」
『……』
111:
キリコ「……だがな、俺は望んでなった訳じゃない。レッドショルダーの総指揮者に盾突き、俺はここにいる……」
『……』
キリコ「俺は、誰にも従わない」
『……』
キリコ「俺は……神にだって、従わない……」
『……』
キリコ「貴様の戯言にも、もう惑わされない……俺には、仲間と呼べるものができてしまったようだからな……。
 そいつらの言葉にしか、もう耳は傾かない」
『……貴様っ……』
キリコ「……」
『……殺してやる!』ギリギリ
キリコ「ぐっ……」
『この場で……大衆の前で、レッドショルダーとしての最期をくれてやるっ!』ギリギリ
キリコ「た、大層な事だな……そんな、お前に……一つ良い事を教えてやる……」
『何っ?』
キリコ「……足元を、見てみろ」
『……』チラッ
112:
『……こ、これは……』
『(ソリッドシューターの……弾……)』
『(こいつが一番最初に撃ってきたものだ……)』
キリコ「……終わりだ」ジャキッ
『……っ! ま、まさか貴様っ!』
キリコ「……」
ズギュウウンッ
113:
バゴォオオンッ
『ぐはっ!』ドガァアンッ
キリコ「……ぐっ」ドサッ
シャル「や、やった! 決まった!」
セシリア「い、今の爆発は……」
シャル「あぁ……僕たちが、一番最初にしかけた罠だよ……」
『……』ジジジジッ……
キリコ「……搭乗者が丸見えだな」
ラウラ「……う、うぅ……」
キリコ(……作戦は成功した)
114:
キリコ(訓練を開始した際、ソリッドシューターの弾に、ある細工をするようシャルルに依頼しておいた)
キリコ(大きな衝撃が加わると、クレイモア地雷のように一方向に向けて内部につめた弾薬が、爆散するように……)
キリコ(コイツは、余裕を見せ必ずAICで止めるはず……そう踏んで、敢えて止めさせ、地上に落とさせた……)
キリコ(そして、位置に誘い込み、爆散させる)
キリコ(競技用ではなく、本物の対物兵器向けの仕様だ。ISでも、一たまりもないだろう)
キリコ「……」
ラウラ「……」
キリコ(……今の衝撃でなく、元から気絶していたようだな)
キリコ(……機体が、コイツの感情を暴走させたのか……わからないが、今はとにかくコイツを確保した方が良いだろう)
キリコ「……」グイッ
ラウラ「うっ……」
キリコ(……良し、これで無力化できたはずだ)
115:
シャル「……」
セシリア「か、勝った……」
シャル「うん……」
セシリア「キリコさんが……勝った……」
シャル「うんっ」
セシリア「勝ちましたわ!」
シャル「うんっ!」
セシリア「やりましたわっ!」
シャル「あぁ! やったんだ! キリコが、やった!」
セシリア「キリコさん!」タタタッ
シャル「あ、セシリア待って!」タタタッ
キリコ「……」シュウンッ……
116:
セシリア「キリコさーん!」
キリコ「……セシリア……」
セシリア「良かった……本当に、良かった……」
キリコ「……あぁ」
シャル「はぁ……やったね、キリコ!」
キリコ「あぁ、何とかな」
シャル「……ラウラも、確保できたみたいだね」
ラウラ「……」スースー
キリコ「……寝ているがな」
セシリア「何と言うか、まぁ……」
シャル「あはは、お姫様だっこなんてされて……緊張感無いね……」
キリコ「あれを操っていたのは、コイツではないらしい」
117:
セシリア「と、言うと……」
キリコ「……機械が、何らかの反応を起こし、勝手にコイツの憎しみを利用したのだろう。よくは、わからないが」
シャル「……そっか」
セシリア「……でも、本当に良かったですわ……」
キリコ「あぁ……ISも強制解除されてしまった……また、数日の間使用禁止だろうな」
シャル「あはは……そうだね。でも、それだけで済んで良かったよ」
キリコ「あぁ……」
ラウラ「……ん……うぅ……」
キリコ「……気がついたか」
セシリア「ラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴女という人は!」
シャル「ま、まぁまぁ……落ちついて……激戦終わって早々なんだからさ……」
118:
ラウラ「こ、ここは……」
キリコ「……アリーナだ。試合は、俺とシャルルの勝ちだ」
ラウラ「……そうか。私は、負けたか」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「……」
キリコ「……」
ラウラ「……キリコ、お前に――」
『……かえ、せ……』
119:
キリコ「っ!」
シャル「!?」
『かえせぇっ!』ズギュウンッ
ラウラ「っ!」
ラウラ(た、弾が……私に……)
ラウラ(し、死ぬのか……)
ラウラ(わ、私が……)
ガバッ
ラウラ「っ……」
120:
バスッ……
ラウラ「……」
ラウラ「……」
ラウラ「……ん……?」
「……ぐっ……」
ラウラ(い、痛く、ない……)
ラウラ(じゃ、じゃあ、今の反動は……)
121:
「キリコォーッ!」
ラウラ(キリコ……)
「キリコさぁんっ!」
ラウラ(……キリコ!)
スッ カチャッ
ズギュウウウンッ
――
122:
「ヤツらが来る!」
「ダメだ! この研究成果を……こんな所でヤツらに!」
「燃やせ! ヤツらの手に渡らないように!」
「うわぁっ!」
「せめて……せめてキリコだけは逃がすんだ! あの子だけは!」
「あの子をヤツらにとられては、絶対にいかん!」
「父さん! 母さん!」
「千冬は! 千冬はどこへ!」
「早くっ!」
123:
「なんで……なんでよ……」
「もっと……もっと早くこれを完成させていれば!」
「これを……」
「……」
「お願い……逃げて……なんとか、してみせるから」
「だいじょーぶ! なんてったってこの天才篠ノ之束さんが大丈夫って言ってるんだから、絶対逃がして見せるよ!」
「だから……キリコちゃんは、逃げて……ね?」
124:
「ほのおが、こんなところまで……」
「あ、あの音だ……あの、高い音……」
「キリコッ! 早くこっちに!」
「手を、はなさないで……」
「絶対に……」
125:
「きゃあっ!」
「ダメ! キリコッ!」
「キリコッ!」
「キリコーッ!」
ここは……。
「こっちだ! 俺は、ここにいる!」
この、炎は……。
「手をっ!」
ここは……あの時の……サンサの……。
「あぁ、絶対に放さない。俺が、お前を守る」
「……放さないで、キリコ……」
「わかってる……」
126:
「箒……」
127:
そうか……。
思い出した……。
俺の、過去を……。
全ての始まりを……。
俺の、宿命を――。
――
128:
何処からか、声が聞こえた。
誰かの名を、必死で呼ぶ声が、二つ。
嗚咽に塗れ、声にならない声で、倒れている者の名を呼んでいた。
私は、その時多分、銃を握っていた。
その、倒れている者の銃だ。
私は無我夢中でそれを引きぬき、撃った。
何を撃ったかはわからない。ほぼ、反射的に体が動いていた。
だから、私は銃を握っていたのだ。
まるで、それが夢なのか、現実なのかわからない、その二つに生じた薄い境界線で起きた出来事の様に。
私は、この一部始終を、ただ眺めていた。
まるで、傍観者の様に。
129:
「……」
「はっ!」ガバッ
「はぁ、はぁ……」
「……起きたか、ラウラ」
ラウラ「……はぁ、はぁ……きょ、教官、ですか……」
千冬「……そうだ」
ラウラ「こ、ここは……一体……」
千冬「安心しろ。ただの学園の医務室だ」
ラウラ「……そう、ですか……」
千冬「……お前は、無事のようだな」
ラウラ「……はい」
130:
千冬「……VTシステム……」
ラウラ「……え?」
千冬「ヴァルキリー・トレースシステムだ」
ラウラ「……何ですか、それは」
千冬「これがお前のISに積まれていた。対象物の戦闘データをコピーし、そのまま再現するプログラムだ。
 どこの誰が入れたのやら……レッドショルダーのデータが入っていたらしい……」
ラウラ「……」
千冬「あれの発生条件はな、搭乗者及び機体のダメージ、そして搭乗者の意志……いや、願望と言った方がいいな。
 それらが揃うと反応して、発動するようになっていたらしい」
ラウラ「願望……」
千冬「血を血で洗うレッドショルダーを殺せるのは、レッドショルダーだけ……そんなつまらん事でも考えたのだろう」
ラウラ「……」
千冬「全く、悪趣味なヤツだよ……」
ラウラ「あ、あのっ!」
千冬「……何だ」
ラウラ「キリコは……キリコ・キュービィーは、何処へ」
千冬「……ここには、もういない」
ラウラ「そ、それは……」
131:
千冬「ん……あぁ、言い方が悪かったな。今ヤツは、市内の病院にいる」
ラウラ「そ、それで! ヤツは!」
千冬「……軽傷だそうだ。命に別条は無い」
ラウラ「……そ、そう、ですか……」
千冬「胴体を、ATの武器で撃ち抜かれたのにな……」
ラウラ「っ!? ……ど、どうして……」
千冬「ヤツは、突如再起したあの機体の攻撃を受けた。お前を、庇ってな」
ラウラ「わ、私を……庇って……」
千冬「そうだ……吸血部隊と呼ばれた部隊にいた癖に、人を庇うとは……面白いヤツだろう、キリコは」
ラウラ「……」
千冬「……」
ラウラ「……教官――」
132:
千冬「ヤツを……許してやってくれ」
ラウラ「っ……」
千冬「……アイツは、確かにレッドショルダー隊員だった。だが、もうヤツは違う。だから、許してやってくれ」
ラウラ「し、しかし教官っ」
千冬「そもそも、ヤツを恨む起因となったのは私だろう。その私が許せと言っているんだ。
 キリコの事は、もう追うな」
ラウラ「……」
千冬「それにな、貴様は実際に、あのサンサの地獄を経験した訳でも無い。
 私からすれば、実害を被っていない貴様がヤツを恨むなど……片腹痛い事だ」
ラウラ「……そう、ですか……」
千冬「……いや、違うな……」
ラウラ「……違う?」
千冬「アイツは、そもそもレッドショルダーじゃないんだ」
ラウラ「……はっ?」
133:
千冬「確かに、アイツはレッドショルダーに配属されはした。しかし訓練は怠け、上官には盾突き……。
 挙句の果てには、お前のような小娘を銃弾から庇った。ヤツは、レッドショルダー失格者だ。故に、違うんだ」
ラウラ「……」
千冬「なりたくてなった訳じゃない……ヤツもそう言っていた。最初は信じていなかったが……まぁ、今回の事で信じてやる事にしたよ。
 だから、レッドショルダーじゃないアイツを、お前が恨む必要は無いんだ」
ラウラ「……恨む……必要は無い……」
千冬「……あぁ」
ラウラ「……」
千冬「……すまなかった」
ラウラ「……えっ?」
千冬「お前を、こんな風にしたのは……私だ。教え子を復讐者などに仕立て、義弟の命を危険に晒した……。
 悪いのは、全て私だ」
ラウラ「ち、違います……そんなことは……」
千冬「いや、そうだ……だから、今までの過ちを背負い、生きていくのは……私だけで良い。
 お前は、これから気兼ねなく、学生生活を楽しめ。それが、お前の新たな役目だ」
ラウラ「……」
134:
ラウラ「……」
千冬「……いや、楽しむと言っても、あまり遊び呆けないように。適度に遊び、適度に励め。
 そうでないと、私のように堅物になってしまうからな。お前は、そうはなるな」
ラウラ「……」
千冬「……お前は、お前。私は、私だ。お前は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。お前の生き方を、模索しろ」
ラウラ「……私の、生き方……」
千冬「お前は……暴走したあの化け物に、自分でトドメをさした……自分の、残留思念に、トドメをな。
 だからお前はもう、過去を捨てたんだ。復讐者という過去に、お前はケジメをつけた。もう、忘れろ」
ラウラ「……」
千冬「少しの間、お前にはこの医務室で寝て貰う。その暇な間に、見つけてみろ。お前の、生き方を」
ラウラ「……」
千冬「さて、私はもう戻るぞ。忘れ去られた者が起こした事故のせいで、後始末がたんまりとあるからな」
ラウラ「教官……」
千冬「……学校では、先生と呼べ」
ラウラ「……先生」
千冬「よろしい。ではな」
プシューッ
135:
ラウラ「……」
ラウラ(私の、生き方……)
ラウラ(……私は、どうすれば良い……)
ラウラ(……私は、どうすれば赦される……)
ラウラ(……赦し……)
ラウラ(赦し、か……)
ラウラ(……これしかない)
ラウラ(私は、ラウラ・ボーデヴィッヒ……)
ラウラ(今までの罪を清算し……)
ラウラ(そして、あの人と共に……今より先の事を模索してみたい……)
ラウラ(……やる事は、一つ……)
ラウラ「……」
ラウラ「キリコ……キュービィー……」
――
136:
鈴「この馬鹿! また勝手に命を危険に晒して!」
キリコ「……」
シャル「ま、まぁまぁ落ちついて鈴……キリコは怪我人なんだから、優しくしてあげないと……」
鈴「この、馬鹿っ……命知らず!」
キリコ「……俺は、元レッドショルダーだからな」
鈴「そ、そういう話をしてるんじゃないわよ!」
セシリア「ほら鈴さん。キリコさんが困ってらっしゃいますわ。少し抑えて」
鈴「ぬぐっ……はぁ、もういいわよ。馬鹿は死ななきゃ治らないからね」
キリコ「……そうか」
シャル「でも、本当に良かったよ……弾が運良く、器官を傷つけずに貫通して。もう奇跡に近いよ」
セシリア「えぇ……本当に、良かったですわ……」
シャル「意識も、病院についてすぐ戻ってくれたし……キリコの回復力は凄いね。もしかしてトカゲかなんかじゃないの?」
キリコ「ふっ……かもな」
鈴「……キリコが、笑った……それに冗談も言ってる……」
キリコ「……俺にだって、そういう時もある」
シャル「ふふっ、そうかもね」
セシリア「えぇ、そうですわね」
鈴「……うん、そっちの方が、断然良いよ」
キリコ「……そうか」
137:
シャル「入院期間もたったの一週間だしね。本当に凄いよ」
キリコ「あぁ……一つ、聞いて良いか」
シャル「何?」
キリコ「箒は、来ていないのか」
鈴「箒ねぇ……よくわかんないけど、あの化け物が出た直後に、なんか顔青くしてどっかに行っちゃったきり見てないんだよねぇ……」
キリコ「っ……そうか」
シャル「箒に、お見舞いに来て欲しかったんだ」
キリコ「……そんなところだ」
シャル「お、正直だねぇキリコ」
鈴「ちょ、ちょっとキリコ。あたしもいるのよ!」
セシリア「わ、私もいますわ!」
キリコ「あぁ……来てくれて、嬉しいよ」
鈴「……」
セシリア「……」
138:
キリコ「……どうした」
鈴「どうしたの? やっぱ撃たれた時に頭やっちゃった? なんかキャラ変わってるじゃない……」
セシリア「な、何と言うかその……直球と申しますか……」
キリコ「……別に、変わってなんかいないさ。それと、セシリア、シャルル」
セシリア「はい?」
シャル「ん、何? キリコ」
キリコ「あの時、お前達がいてくれて、本当に助かった……礼を言う。おかげで……俺は過去を、払拭できた」
シャル「な、何言ってるのさ!」
セシリア「そ、そうですわ! 私は……ただ、偉そうな事を言って、頬を叩いただけですもの……」
キリコ「いや、あれが効いたんだ。おかげで、平静に戻る事ができた。
 そして、シャルル、お前の援護のおかげで、俺は冷静にアイツと対峙できた」
シャル「い、いやぁ……なんか、キリコにそう言われると、照れちゃうな……」
鈴「むぅ……あたしにはなんか無いのぉ? あたしも一応ここまで運ぶの手伝ったんだけど」
キリコ「あぁ……ここまで運んでくれて、感謝している。鈴」
鈴「うっ……ま、まぁ……わかれば、いいのよね……」
キリコ「……」
シャル「あはは、何照れてるの鈴」
鈴「て、照れてなんかないわよ! べ、別に……そんなんじゃ……」
セシリア「ふふっ……」
鈴「あ、アンタまで笑うんじゃないわよ!」
セシリア「はいはい。照れ隠しもそこまでですわよ」
鈴「くんぬっ……」
キリコ「……」
139:
シャル「……あぁー、ちょっといきなりで悪いんだけど……キリコと反省会したいから、二人きりにさせて貰えるかな?
 10分くらいで良いからさ」
鈴「え、えぇ? 別にそれ今じゃなくても良いんじゃないの?」
セシリア「お二人共お疲れなのですから、また後日でも大丈夫なのでは?」
シャル「い、いやぁ……こういう事は早めに済ませておいた方が良いかな、と思って……」
セシリア「そ、それは熱心で良い事だとは思いますけど……」
キリコ「……鈴、セシリア……少し、席を外してくれないか。俺も、少しシャルルに話がある」
鈴「……ま、まぁ……キリコがそう言うなら……」
セシリア「あまり、無理はしないで下さいね」
キリコ「あぁ、すまない」
プシューッ
キリコ「……」
シャル「……」
140:
キリコ「……何か、重要な話でもあるのか」
シャル「……うん……結構、重い話、かな」
キリコ「そうか。何でも、話してみろ」
シャル「……えへへ、わかった……」
キリコ「……」
シャル「……僕ね、この学園にいる事にする」
キリコ「……むしろ、出ていく気だったのか」
シャル「あ、あはは……まぁ、考えはしたけどね……」
キリコ「……俺は、良いと思うぞ。ここにいた方が」
シャル「そ、そっか……そうだよね、やっぱり」
キリコ「……」
シャル「……僕は、ここにいたい。セシリアや鈴、それに箒みたいな、大切な友達もできたし、それに……」
キリコ「それに?」
141:
シャル「キリコが、証明してくれたから……」
キリコ「証明?」
シャル「うん……自分の過去に何があろうと、絶対に立ち向かえるんだって事、見せてくれたから」
キリコ「……」
シャル「だから……これからはシャルロットって呼んで?」
キリコ「……シャルロット?」
シャル「うん……それが、僕の本当の名前。お母さんがつけてくれた、本物の……」
キリコ「……そうか、シャルロット」
シャル「えへへ、早呼んでくれたね……」
キリコ「……」
シャル「……先に、キリコに教えたのは……この名前を、この学園で最初に呼んで貰いたかったから」
キリコ「……皆にも、本当の自分を見せるのか」
シャル「うん、そうするつもり。鈴やセシリアが、キリコの過去を受け入れてくれたように……。
 本当の僕も、きっと皆は受け入れてくれると思うから」
キリコ「……そうか」
シャル「だから僕は、怖がらずに、自分をさらけ出す。キリコがそうしたように」
142:
キリコ「……俺は、別にやりたくてやった訳じゃないがな」
シャル「あはは、まぁそうだけどね。でも、僕に凄く勇気をくれたよ」
キリコ「……お役に立てて、なによりだ」
シャル「ふふっ、男子生徒は二人共、脛に傷持つ感じになっちゃったね」
キリコ「……そうだな」
シャル「……クラスの子とかが、受け入れてくれるか心配?」
キリコ「……それも、ある」
シャル「大丈夫だよ。きっと、皆は優しいから」
キリコ「そうか……そうだと、良いな」
シャル「……うん、きっとそうだよ」
キリコ「……そうだな」
シャル「……ありがとう、キリコ。君は、僕の生き方を変えてくれた、大切な人だよ」
キリコ「お前も、な」
シャル「……うんっ」
143:
胸のつっかえが取れたように、俺の心は平静を取り戻していた。
レッドショルダーだった事を受け入れ、そして、俺はあの日の記憶を全て思い出したのだ。
俺は、地獄を呑み込んだ。あの地獄を、俺は克服したのだ。
最も傍にいて欲しい人物を、腕から離した状態で。
キリコ(……箒……)
――
144:
ウォッカム「……これで良い」
ウォッカム(奴はこれで……完璧な兵士に近づいた……)
「ウォッカム閣下、御怪我はありませんか」
ウォッカム「えぇ、勿論。あの生徒達が必死に我々を守ってくれた賜物でしょう。実に良い生徒達だ」
「は、はい……恐縮です」
「閣下、我々もそろそろ……」
ウォッカム「……そうだな。では、私はこれにて……事件の真相が、掴めると良いですな」
「は、はい……」
バタンッ
ブォオオッ
ウォッカム「……」
プルルルッ
ガチャッ
145:
ルスケ『はい、閣下』
ウォッカム「ルスケ、ラストチェックの準備をしろ。残すは、あのボーデヴィッヒのチェックのみだ」
ルスケ『……かしこまりました』
ピッ
ウォッカム「……」
ウォッカム(ここまで、私の胸を躍らせるとは……)
ウォッカム(これが、異能の魅惑というものか……)
ウォッカム(しかし、それに易々と魅入られ、落とされる虫では無い)
ウォッカム(用意は、全て整っている……)
ウォッカム(……)
ブォオオッ……
――
146:
驚異的なさで、俺は怪我を治した。一刻も早く治し、箒に会いたいという意志の賜物なのか、それはわからない。
それからわずか三日後、俺はその早朝に一人で学園に戻った。
そして俺は、箒の部屋の前にいた。
キリコ「……」
トントンッ
キリコ「……」
キリコ「箒、俺だ。いるんだろう」
キリコ「……」
トントンッ
キリコ「……」
147:
キリコ「俺は、思い出した……三日前の、昏倒の中で。サンサで何が起きたのか、俺は誰を知っているのか……。
 お前が、俺にとって……大事な存在なのだと……思い出したんだ」
キリコ「……」
キリコ「……聞こえているのかは、わからない」
キリコ「……一つだけ、言っておく」
キリコ「本当に……すまなかった……」
キリコ「お前を、忘れていた事……お前を、傷つけた事……」
キリコ「……レッドショルダーに、入った事……」
キリコ「……」
キリコ「……すまない、箒……」
キリコ「……本当に……」
キリコ「……」
キリコ「……また、来る……」
キリコ「……」
148:
セシリア「あっ……キリコさん……」
キリコ「……セシリアか」
セシリア「……箒さん、まだ出てきませんのね……」
キリコ「……あぁ」
セシリア「この三日間、一度も外に出ていない様子で……私も心配になって来たんですが……」
キリコ「……ご覧の通りだ」
セシリア「……」
キリコ「……教室に、行こう」
セシリア「で、ですが……箒さんが……」
キリコ「遅刻するぞ」
セシリア「……し、しかし……」
キリコ「……今はあまり、触れてやらない方が、良いのかも知れない」
セシリア「……はい」
スタスタ
149:
キリコ「……」
セシリア「箒さん……何か悪い病気にでも罹ったのでしょうか……」
キリコ(……俺の、せいだ……)
キリコ(俺が、彼女の事を忘れていたからだ……)
キリコ(俺が、レッドショルダーだと言う事を知ったからだ……)
キリコ(……俺が……)
セシリア「キリコさん」
キリコ「……」
セシリア「キリコさん!」
キリコ「ん……ど、どうした」
セシリア「大丈夫ですか?」
キリコ「い、いや……何でもない。ところで、他の連中はどうなんだ」
セシリア「他の……シャルルさんや鈴さんの事ですか?」
150:
キリコ「あぁ……それと、ラウラだ」
セシリア「は、はぁ……昨日お見舞いに行きましたから、シャルルさんと鈴さんは御存じでしょうが……。
  ラウラさんは、そうですわね……簡単に言うと、大人しくなりましたわ」
キリコ「大人しく?」
セシリア「えぇ……今までの喧騒が嘘のように。真面目に授業を受けて、普通に生活をしている……そんな感じです」
キリコ「……そうか」
セシリア「ですが、たまに……ソワソワしている様子も見受けられたので、まだ用心した方が良いかも知れません」
キリコ「……わかった」
プシューッ
キリコ「……」
「お、キリコ君だ。おはよー」
「キリコ君とセッちゃんおはよー」
152:
セシリア「セ、セッちゃんはおやめ下さい!」
「キリコ君もう怪我大丈夫なのー?」
キリコ「あ、あぁ……」
「ん、どうかした?」
キリコ「……俺が怖くないのか?」
「怖いって、何が?」
「あぁ、この前のあれじゃない? レッドショルダーの」
「キリコ君の前いた部隊でしょ?」
キリコ「……そうだ」
「でも、あんまり関係ないよね」
「IS強いのは、そんなところにいたからなんだーって思ったけど、そこまで気にすることじゃないと言うか」
「キリコ君はラウラさんを庇ったから怪我したって聞いたし」
「キリコ君が優しいのは、皆知ってるもんね」
キリコ「……」
セシリア「……キリコさん」
153:
キリコ「……何だ」
セシリア「私達も、そう思っています」
キリコ「……セシリア」
セシリア「私達は、既に仲間なんですよ。今更そんな過去を聞かされて見限るような人は、いません。そうですわよね?」
「うんうん!」
「女子高生は人情がなきゃやってられないもん」
「そうなの?」
「そうなの」
「そっかー」
セシリア「ほら……だから、もう気にする事はありません」
キリコ「……」
セシリア「貴方は、IS学園の生徒、キリコ・キュービィーですのよ」
キリコ「……そうか」
キリコ(……)
キリコ(だが……しかし……)
154:
山田「はーい、席についてくださーい。今日は……えっと……皆さんに転校生を紹介、します……」
「え、また?」
「最近、多すぎじゃないの?」
「千冬様が毎朝市場でセリ落としてんじゃないの?」
「へいマグロが安いよー!」
山田「し、静かに!」
キリコ「……あいつか」
山田「そ、それでは、どうぞ……」
スタスタ
155:
シャル「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
「……」
「……」
山田「え、えっと……デュノア君は、デュノアさん……という事でした」
セシリア「……はいー?」
「えっと……つまり、デュノア君って、女?」
「おかしいと思ってたんだよねー。美少年じゃなく、美少女だったんだ」
「あ、あれ? キリコ君同室だからもしかして……」
キリコ「あぁ、知っていた」
「「えぇーっ!」」
「し、知ってて一緒にいたの!?」
キリコ「あぁ。まぁな――」
ドゴォオオンッ
156:
キリコ「っ!?」
セシリア「な、何ですの!」
鈴「キーリコォーッ!」
キリコ「……り、鈴」
鈴「あ、アンタ……一体どういう事よ!」
キリコ「何がだ」
鈴「し、知ってて……隠してたのかって聞いてんのよ!」
キリコ「シャルロットの事か。あぁ、そうだ」
鈴「ぐっ……妙に仲良いと思ったら、そう言う事か。成程……それを良い事に……部屋であんな事やこんな事をしてたからかぁ!」キュウウンッ
キリコ「……おいっ!」
鈴「このムッツリスケベがぁっ!」キュウウウンッ
キリコ「……鈴!」
バキュウンッ
キュウウンッ
キリコ「……」
「「……」」」
157:
キリコ「……」
キリコ(……何とも、無い……だと?)
ラウラ「危なかったな……」キュゥウウンッ
キリコ「……お前は……」
ラウラ「……」クルッ
キリコ「……理由はよくわからんが、おかげで助かっ――」
ギュムッ
158:
ラウラ「うー、うー」
キリコ「……何のつもりだ」
ラウラ「ほ、ほまふぇはふぁたひぃのひょめにふう!」
キリコ「……何?」
ラウラ「ふぁふぁらひょめは!」
キリコ「……何を言ってるのかサッパリわからないが」
ラウラ「ほ、ほおはらへをはなへ」
キリコ「……何もしないな」
ラウラ「ひない」
キリコ「……良いだろう、放してやる」スッ
ラウラ「……ふぅ……全く、中々強引だな、嫁よ」
キリコ「……何?」
ラウラ「だから、嫁は強引だと言ったのだ……ま、まぁ……それも、悪くは無いが」
キリコ「……」
キリコ(……かわいそうに……あの時の対戦の悪影響が、まだ……)
ラウラ「すー……はー……」
キリコ「……」
159:
ラウラ「……お前は、私の嫁にするっ!」
キリコ「……」
ラウラ「決定事項だ! 異論は認めん!」
キリコ「……は?」
鈴「……え、何この子何言ってんの」
セシリア「……言葉って、難しいですわね……」
キリコ「……つまり、何が言いたいんだ」
ラウラ「……? だから、良いか? 順を追って説明するぞ?」
キリコ「……いや、やはりいらん」
ラウラ「まずお前だ」
キリコ「……」
ラウラ「聞いてるか?」
キリコ「……あぁ」
160:
ラウラ「お前は私の嫁だろ?」
キリコ「……あ、あぁ」
ラウラ「それでな」
キリコ「……ま、待て」
ラウラ「何だ」
キリコ「……いや、続けろ」
ラウラ「そうか。だから、キスしようとしたんだ」
キリコ「……」
ラウラ「そしたらお前が、恥じらいなのかよくわからんが、止めたろ?」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「で、今の状況に至る。わかるか?」
キリコ「……いや、わからないな……」
ラウラ「まぁ、それでも構わん。とりあえずキスをだな……」
キリコ「やめろ」
ラウラ「ほら、遠慮するな」
キリコ「や、やめろ」
ラウラ「恥ずかしがるな嫁よ。他の者にも見せつけねばならん」
キリコ「……」
タタタッ
161:
鈴「あ、逃げた」
ラウラ「ま、待て! 待ってくれ嫁!」ギュンッ
ドゴォオンッ
鈴「あぁーあー……穴二つになっちゃったよ……ったく……」
「そうだな……で、誰と誰があけたんだこの穴は……」
鈴「そりゃあたしとラウラだけど……あっ」
千冬「……そうか……」
鈴「……あ、あははっ……ど、どうもー……」
千冬「……二百周だ」
鈴「はい」
162:
シャル(なんだか、また賑やかになったなぁ……)
シャル(あの子も、もうキリコを恨んではいないみたいだし……)
シャル(キリコも、何だか普通の高校生って感じになってきた……)
シャル(僕も……ありのままで、生きていける……)
シャル(それって……)
シャル(……とっても、良い事、だよね)
――
163:
カーテンから漏れてくる光だけが、部屋を照らす。
濾された光が、小さな黒い斑点を映しながら、私の足元を照らしていた。
その光に映されるように、脳裏にあの情景が廻る。
頭に鳴り響くあの曲。肉の焼け爛れた臭い。
土と人を踏みにじるあの音。喉に血の味が貼り付く。
瓦礫は人の墓となり、骸が脚に絡み付く。
私は恐怖で止まらないように、掴んだ手を、握り締める。
164:
掴んだ手を……。
絶対に離すものかと、掴んだあの手が……。
血に塗れていた。
それは本人の血じゃない。
他人の血だった。
私の、母と、父の血もあった……。
あれは……サンサの、血だ。
165:
怖い。
信じたはずのあの人が、私の全てを壊した存在になっていた。
わからない。どうして良いのか。
私はどうすれば良い? なんでこんな事になった?
何であの人はあの部隊に入った? それなのにあの人は私と、そんな事は知らぬと、いつも話していたのか?
166:
吐き気がする。眩暈も。食欲も無い。
ただ口の中に広がるのは、擦り切れた血の味と、空を漂う鉄の臭いだけだ。
涙も、もう出ない。
「……キリコ……」
信じた人の名を口に出す。
また吐き気がした。私はトイレに駆け込んで、吐いた。
また名を呟いた。吐いた。
吐いた。名を。またトイレに。吐いた。
名を――。
――
167:
人の世に、変わらず流れるもの。生を営み、感情を発し、命を芽吹かせ、笑みを交わす。
それは、絶える事の無い不変と呼ぶに等しい光景だろう。
だが、不変と呼ばれるものは、生きている者にこそ程遠いと思い知るが良い。
変わらぬと言う事は、死ぬという事なのだ。
次回、「日常」
生の充足は、死をもって満たされる。
――
178:
トントンッ
キリコ「……」
キリコ「……箒」
キリコ「……もう、五日だ」
キリコ「出て来て、くれないか……」
キリコ「……」
キリコ「……俺の事を、嫌いになってくれても良い」
キリコ「赦してくれなくてもいい……」
キリコ「ただ、このまま出て来て、少しでも話を……させてくれるなら……」
キリコ「……」
キリコ「……俺に会いたくないというのなら、せめて他のヤツらに顔を見せてやってくれ。俺以外にも、心配しているヤツはいるんだ」
キリコ「……」
キリコ「……また、来る」
179:
あの事件から五日。学園内では、あの事件についての盛り上がりも薄れてきた頃、俺はまた箒の部屋を訪ねていた。
人気すら感じさせない扉の向こうに、幾度となく話しかけた。
しかし俺の声は、誰も通らない廊下の奥に、沈んでいくだけだった。
赦してくれとは言わない。
だが、もう一度、お前の顔を見せてくれ。
そうすれば、俺は完全に、あの忌まわしい記憶から……。
シャル「……まだ、箒は出て来ないんだね」
キリコ「……シャルロット」
シャル「おはよう。部屋に行ったんだけどいなかったから、ここだろうと思ってさ。はい、ジュースだけど」
キリコ「……すまない」
シャル「……あれから五日、か」
キリコ「あぁ……」
シャル「ルームメイトの子は気を遣って他の部屋に退避しちゃってるし、中の様子がわからないのがね……」
キリコ「……」
シャル「……」
180:
キリコ「……俺は、一旦部屋に戻る」
シャル「じゃあ、今度は僕がここで箒を呼んでみるよ」
キリコ「……なら、やはり俺も残るか」
シャル「それはダメ」
キリコ「……」
シャル「キリコ、こっちに帰ってから碌に寝てないでしょ? 僕ともう違う部屋になったからっていっても、それくらいわかるんだからね?
 まだ教室に行くまでは一時間半くらいあるから、それまで寝てなよ」
キリコ「……」
シャル「時間になったら、ちゃんと起こしに行くからさ」
キリコ「……わかった」
シャル「……自分の体も、労ってね? 心配なのはわかるけど、また病院送りになったらどうするの?」
キリコ「……あぁ」
シャル「……自分だけの体じゃないんだからさ……また、皆心配するから」
キリコ「……」
シャル「じゃあ、また後でね」
キリコ「……あぁ」
スタスタ
シャル「……キリコ……」
181:
――
 第十話
 「日常」
――
182:
キリコ「……」
寝る意味も無い。結局、寝ようと思っても、彼女の事をとやかく考える時間になるだけだ。
意識は蝋の火のように、弱く、断続的に続くのだ。
寝る、意味は無い。
ガチャッ
キリコ「……」
シャルロットが部屋を移動し、一人きりになった部屋。
以前はそれが心地よく感じただろう。
しかし、この部屋にいると、ついこの間の事を思い出す。
彼女が、この部屋にいた時の事を。
ガサゴソ
キリコ(ん?)
キリコ(俺の布団に……誰かいる?)
183:
キリコ「……」カチャッ
キリコ(……刺客か)
キリコ(まだ来るというのか……)
キリコ「……そこから出て、両手を上げろ」
「んん……」
ファサッ……
キリコ「……お前は」
ラウラ「おぉ、やっと帰ってきたか……嫁よ……」
184:
キリコ「……人のベッドで、素っ裸になって何をしている」
ラウラ「何って……嫁が夫より遅く起きてはならないらしいから、起こしに来てやったのだが?」
キリコ「……何?」
ラウラ「だから、起こしに来てやった……あれ、待てよ……これでは私が先に起きてしまっているのではないか?」
キリコ「……」
ラウラ「ふん、まぁいい。私はこれから寝るから、起こしてくれ。そうすれば正しいだろう」
キリコ「……一つ聞くが」
ラウラ「何だ」
キリコ「……俺は、お前の嫁なのか」
ラウラ「そう何度も言っているだろう」
キリコ「嫁と言う呼び方は、通常女性に向けて使う言葉だと思うが、その辺はどうなんだ」
ラウラ「そうなのか? この日本では、気に入った相手を自分の嫁と言うらしいが……」
キリコ「……そうなのか?」
ラウラ「そうだ」
キリコ「……そうか」
185:
ラウラ「だからお前は私の嫁だ」
キリコ「……もう好きにしろ」
ラウラ「ふむ……嫁よ」
キリコ「……何だ」
ラウラ「我々は夫婦だ」
キリコ「いつそうなった」
ラウラ「だから同じベッドで寝る義務がある。どうだ、ほら嫁も私と寝ろ」
キリコ「……夫婦でも、寝室は同じでも違うベッドで寝る事はある」
ラウラ「そうなのか?」
キリコ「あぁ」
ラウラ「そうか」
キリコ「だから、お前はそっちのベッドでも使っていろ」
ラウラ「まぁ嫁が言うならそうしよう」
キリコ「あぁ」
ラウラ「良いな、私より遅く起きてはならんぞ」
キリコ「……あぁ。早く寝ろ」
186:
ラウラ「……キリコ」
キリコ「……何だ」
ラウラ「起きたら、話がある」
キリコ「……話?」
ラウラ「そうだ。大事な、話だ」
キリコ「……昼休みで良いか。今は、そんな気分じゃない」
ラウラ「あぁ、それで構わない」
キリコ「なら、昼休みに屋上へ来い」
ラウラ「わかった」
キリコ「……わかったなら、もう寝ろ。ちゃんと起こしてやる」
ラウラ「あぁ、お休み」
キリコ「……」
ラウラ「……」スースー
キリコ(……早いな)
187:
キリコ「……はぁ」ボフッ
キリコ(俺は、どうすれば良い……)
キリコ(今更、こんな事で悩むなんて、自分でも思わなかった……)
キリコ(兵隊になった意味も忘れ、戦いに明け暮れる毎日……)
キリコ(そんな精神が麻痺しそうな日々の中、俺はここに来た)
キリコ(そして、どういう因果か……箒と再会した)
キリコ(大切な……人と……)
キリコ(なのに、俺は……)
キリコ「……」
キリコ(銃の、手入れでもするか……)
キリコ(まだ、監視者は俺を見ている)
キリコ(仲間と、箒の為にも……気は、抜けない)
キリコ(……まさかこの俺が、人を守る為に戦おうだなんてな……)
キリコ(……今は、悩むよりも先に、警戒せねばならない)
188:
キリコ「……」カチャッ
キリコ(ヨラン・ペールゼン……)
キリコ(ヤツが、俺を監視しているのか)
キリコ(……来るなら来い)
キリコ(俺は、お前の実験動物なんかじゃない……)
キリコ(俺は、IS学園一年一組……)
キリコ(キリコ・キュービィーだ……)
――
189:
鈴「あ、なんだ。こんな所にいたのか」
キリコ「……」
セシリア「もう、屋上で食べるなら、言って下さいまし。私達も御供しますから」
シャル「そうだよキリコ」
ラウラ「そうだぞ嫁よ」
セシリア「そうで――ラ、ラウラさん!? い、いつの間に……」
ラウラ「何だ、いちゃ悪いのか。というかそもそも、屋上でキリコと会う約束をしていたのは私だ」
セシリア「な、何ですって!?」
鈴「いや、アンタさ……つい数日前まで、キリコの命を明らかに狙ってた癖に、どういう風の吹きまわし?」
ラウラ「ま、まぁ……これには事情があるのだ」
鈴「どういう事情よ。キリコがレッドショルダーだった時に、なんか恨みでもあったっての?
 それで、まだ懲りずにいるって訳か……」
シャル「ま、まぁまぁ落ちついて。ラウラも、基本悪い子じゃないみたいだしさ」
鈴「どうだか……」
190:
ラウラ「私は、別にお前達と争いをしに来た訳じゃない。私は嫁に……どうしても言いたい事があってここに来ている」
セシリア「きぃ?……先程からキリコさんを嫁、嫁と……一体どういう関係ですの!?」
キリコ「……その点については放っておけ」
鈴「で、話って何よ」
ラウラ「……なぁ、キリコ」
キリコ「……何だ」
ラウラ「すまなかった」
キリコ「……」
鈴「……」
セシリア「まぁ……」
シャル「……」
ラウラ「お前の顔から、生気があまり感じられない……睡眠、食事もちゃんと摂っている様子も無い。
 もしかしたらこの前の事件で、私がお前にトラウマか何かを思い出させたんじゃないかと思ってな……」
鈴「……それとは、ちょっと違うんだけどね」
ラウラ「……どういう事だ?」
191:
鈴「……今、箒って子が、部屋から出て来ないの。それで今キリコは悩んでる。
 直接話は聞いて無いけど、あの騒動の直後に塞ぎこんだから、キリコがRSにいた事に何か関係がある。
 それをバラしたのはアンタ……今ので、ちょっとはどういう状況かわかった?」
ラウラ「……そうか……すまない」
鈴「……話、まだあるなら続けて」
ラウラ「……」
シャル「大丈夫、もう茶々入れないから。ね?」
ラウラ「……わかった……キリコ」
キリコ「何だ」
ラウラ「……お前には、話しておこう。私が、お前の命を狙った理由を。それで、赦して貰おうとは思わないが、聞いて欲しい。
 それに……」
キリコ「それに?」
ラウラ「……お前に伝えておかなければいけない案件がある」
キリコ「……」
ラウラ「あまり、良い話ではないが」
キリコ「……皆、少し外してくれ」
ラウラ「……いや、お前達にも話す。今思えば、お前達にも相当な迷惑をかけたからな」
セシリア「ラウラさん……」
シャル「……」
鈴「……はぁ……わかったわよ。聞いてあげるから、さっさと話しなさい。ご飯食べる時間無くなるからさ」
ラウラ「キリコ、それでも良いか」
キリコ「……わかった。お前がそう言うなら、俺は構わない。話してくれ」
192:
ラウラ「すまない……はぁ……」
キリコ「……」
ラウラ「私はここに来る前は、ドイツ軍のIS部隊に所属していた。できた当初は、私はISに適応できず、所謂落ちこぼれだった。
 しかし、そんな時私は教官に出会った。そんな落ちぶれた私を指導して下さり、そして部隊で最強の座にまでのし上げてくれた」
鈴「教官って、織斑先生の事?」
ラウラ「そうだ。そして……教官との訓練が終わった時に聞いたのだ。教官の過去を」
キリコ「……」
ラウラ「レッドショルダー……吸血部隊と言われたあの部隊に、教官の家族が殺された……私はそれを聞いて、義憤に駆られた。
 私の恩人である教官の過去を、メチャクチャにしたレッドショルダーを赦さないと。
 そして、ここに来る直前の話だ。私は、何者かからの密告を受けた」
キリコ「……俺が、レッドショルダー隊員だったと、言われたのか」
ラウラ「そうだ。そしてヤツは、お前を殺せと言ってきた。私は……口では否定したが……戦いの場で殺すと言ってしまった。
 そして私は、知っての通り、幾度となくお前達を挑発した」
セシリア「そ、そんな事が……」
シャル「……その、密告者って誰かわかる?」
ラウラ「いや、わからない。逆探知もできず、変声機で声を変えていたからな」
鈴「何よ、それ……裏で糸引いてるヤツがいるっての?」
ラウラ「あぁ……私は、まんまとそれに乗せられ、復讐者を気取った訳だ……」
193:
シャル(僕とキリコがアリーナで襲撃を受けた事も、今回の事件も……その黒幕の計略だったって事?)
鈴「もしかして……私とキリコが戦ってる時に、妙な兵器送りこんできたのもソイツなんじゃ……」
ラウラ「そんな事もあったらしいな……私見だが、まず同じと見て間違いないんじゃないか」
鈴「……くっ……」
ラウラ「そして、私はあんな化け物を生んだ……何より、今もまだキリコを悩ましている……。
 お前達にも、無意味な暴力を振るった……ただ頭を下げるだけじゃ、赦されないのはわかっている……。
 だが、これだけは何度でも言わせて欲しい」
キリコ「……」
ラウラ「……本当に、すまなかった」
シャル「ラウラ……」
セシリア「ラウラさん……」
鈴「……」
キリコ「……」
ラウラ「……話は、以上だ」
キリコ「……」
194:
鈴「……それで?」
ラウラ「……そ、それで、とは……」
鈴「いや、謝るのは良いけどさ。それで、アンタはこれからどうするの? というか、どうしたいの?」
ラウラ「……」
鈴「……考えて無かったの?」
ラウラ「わ、私は……」
鈴「……」
195:
ラウラ「……私は、償いがしたい」
キリコ「……」
ラウラ「実際にその痛みを知っている訳でも無いのに、自らの浅い義を振りかざし、人を傷つけた……。
 何もわかっていない癖に、正義の代弁者面していた自分を払拭し、守るべき者を、守りたい。
 だから、私は……今度は逆に、キリコを守りたい。キリコの命を狙っているヤツはまだいる……だから……」
鈴「……」
キリコ「……」
ラウラ「私は、お前を守る」
キリコ「……」
196:
鈴「……はぁ、なんだか、大きく出たわねぇ……キリコに負けた癖に、守るだなんて」
ラウラ「そ、それは、そうだが……」
鈴「……キリコはそれで良いの?」
キリコ「……別に、謝る必要も無いが……ラウラ、お前が……それで気が済むと言うならな」
ラウラ「……あぁ、そうさせてくれ。もう私は、復讐者の過去を金輪際出さない。お前と共に……これから先の事を、模索したい。
 それが、私に課せられた、義務なのだから」
セシリア(う、うーん……)
シャル(……これって遠回しな告白なんじゃ?)
ラウラ「……頼む」
キリコ「……」
ラウラ「私は、お前の為なら、何だってやる」
197:
キリコ「……そこまでは、望んでいない」
ラウラ「……」
キリコ「だが……俺は、お前を赦す」
ラウラ「……キリコ……」
キリコ「お前のせいか、お前のおかげか……俺はようやく、忌まわしい過去と向き合う事ができた。
 そして、俺は仲間がいると自覚できたんだ……お前が与えてくれたものは、大きい」
ラウラ「……そ、そう、なのか……」
キリコ「だから、お前を赦す」
ラウラ「……」
キリコ「これで、良いのか」
ラウラ「……あぁっ」
シャル(……ふふっ、良い笑顔だね)
198:
鈴「さて、辛気臭い話も終わったみたいだし、ご飯食べましょご飯」
セシリア「ちょ、ちょっと鈴さん……いきなりそれは……」
鈴「良いの良いの。ラウラ、あんたも食べるでしょ?」
ラウラ「……い、良いのか?」
鈴「キリコが赦したんだし、別に良いじゃないの? それとも、あたし達とあんまり仲良くしたくないとか?」
ラウラ「い、いや、そういう訳じゃないんだが……」
シャル「あはは。まぁ突然だけどさ、ラウラも僕達と一緒に食べようよ」
ラウラ「いや……だが……」
シャル「皆もう怒ってないし、それに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」
ラウラ「は、恥ずかしくは、無いんだが……」
シャル「なら、遠慮せずに。ね?」
ラウラ「うっ……そ、そうか……」
199:
セシリア「まぁ、反省したようですし、あんまりいじめるのもアレですしね。では、新しい仲間の歓迎に、私の料理を……」
鈴「それがイジメって言うのよセッちゃん」
セシリア「冗談ですわよ。さすがにもう自覚してますから……」
鈴「……ゴメン」
セシリア「いえ、良いんですのよ……ふふっ……ふふふっ……」
鈴「……今度教えてあげるから、元気だしなよ」
セシリア「……ありがとうございます」
シャル「……とまぁ、こんな感じに遠慮しないで良いからね」
ラウラ「……そうか。た、楽しい連中だな」
キリコ「……」
200:
シャル「ねぇキリコ」
キリコ「何だ」
シャル「ラウラが仲間に入った事だしさ、ちょうどよく明日は休みだからラウラの歓迎会って事で、皆で外に出てみない?」
ラウラ「ふぇっ?」
キリコ「……外に?」
シャル「うん。それに、帰って来てからのキリコも、なんだか元気無いし。外に出て遊べば、少しは元気になるかなぁと思って……」
キリコ「……」
シャル「……箒へのプレゼントとかも買ってさ」
キリコ「……箒……」
シャル「箒との間に何があったかはわからないけど、キリコからのプレゼントならきっと喜ぶと思うよ。
 今は外に呼べるような状況じゃないけど、プレゼントを持って行けば、また出て来てくれるかも……」
キリコ「……」
鈴「シャルロットは性別カミングアウト後でも相変わらず気が利くわねぇ……。
 キリコ、プレゼント選びならあたし達も手伝うからさ、久しぶりに外出てみましょうよ」
セシリア「えぇ。箒さんを心配するのもわかりますが、キリコさんも息抜きをしなければ壊れてしまいますわよ?
  貴方は人で……そしてここは、もう戦場では無いのですから」
キリコ「……そうか」
201:
ラウラ「ほ、本当に私も行って良いのか?」
シャル「ラウラの歓迎会って言ったよ? だから、主役が来ないと始まらないでしょ?」
ラウラ「し、しかし……」
シャル「あ、もしかして、嫌だった?」
ラウラ「そ、そういう訳じゃ……」
鈴「……はい、気をつけ!」
ラウラ「……」ザッ
202:
鈴「これから、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に任務を与える」
ラウラ「はっ!」
鈴「えぇーこれより、キリコ・キュービィー曹長、シャルロット・デュノア伍長、セシリア・オルコット二等兵。
 そしてこの私、凰鈴音大佐計四名と共にとある任務について貰う」
ラウラ「はっ、了解しました。作戦の内容は」
鈴「このIS学園外の偵察だ。この日本という島国は、大陸に無い文化を多数持っている。
 それを観察し、この学園内での生活を滞りなく進められるようにするのだ。異論はあるか!」
ラウラ「ありませんっ!」
鈴「よろしい! では明朝九時に、必要と思われる装備を整え正門前に集合せよ!」
ラウラ「了解っ!」ビシィッ
鈴「……とまぁ、こんな感じで……九時じゃちょっと早い?」
シャル「……なんというか……あれだね。鈴は人の転がし方が上手いね……」
鈴「あんま褒めなさんなって」
シャル「は、半分半分、かな……」
セシリア「なんで私が二等兵なんですの!」
キリコ「……」
203:
ラウラ「……はっ、私は何を……」
セシリア「鈴さん! なんで貴女が大佐で私が二等兵なんですかと聞いています!」
鈴「いやぁ、なんとなく」
セシリア「納得行きませんわ! 私のような清廉された人物は、情報将校、せめて中尉あたりにして欲しい所ですわ」
鈴「……なんかそれ暗殺者っぽい」
セシリア「何の偏見ですか!」
シャル「ま、まぁまぁ落ちついて……」
ラウラ「……おい、貴様」
鈴「何? あたし?」
ラウラ「貴様……何故私の階級を知っていた」
鈴「階級? え、あんた少佐なの?」
204:
ラウラ「そうだ。ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼ所属、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」
鈴「へ、へぇー……あんたそんな偉い人間だったの……ゴメン、適当こいたら当たったわ」
ラウラ「そうか……どうやら、密告者ではないようだな」
鈴「な、何疑ってんのよ!」
キリコ「……お前……」
鈴「ちょ、キリコまで……」
セシリア「いつも人を小馬鹿にしているから、疑われて当然ですわね」
鈴「うぇっ」
シャル「あんまり悪い事はできないねぇ、鈴」
鈴「うわぁーん! イジメよイジメー!」
キリコ「……ふっ……」
シャル(あ、笑った)
205:
セシリア「そういえば……再来週に臨海学校でしたわね……」
鈴「放置しなさんな!」
シャル「あっ、そうだった……僕、女子用水着も買いに行かないと……怪しまれるからって言われて、持って無いんだよね……」
セシリア「私も買いたいと思っていましたので、一緒に見ましょう」
シャル「本当? じゃあ僕のも見立てて欲しいなぁ」
セシリア「お任せ下さい。このセシリア・オルコットが、完璧なコーディネートして差し上げますわ!」
鈴「あたしはどうなんのー?」
セシリア「昆布でも巻いてたらどうです?」
鈴「ようし、わかった……臨界学校で覚えてなさいよ……」
セシリア「あまりそういう事に関しては興味が無いので、忘れてしまうかも知れませんわ」
206:
セシリア「あまりそういう事に関しては興味が無いので、忘れてしまうかも知れませんわ」
シャル「ねぇラウラ」
ラウラ「な、何だ」
シャル「ラウラは水着は持ってるの? なんか持って無さそうだったけど」
ラウラ「この学校の指定水着は持っているぞ」
シャル「そ、それは……あれだね……危ないねちょっと」
ラウラ「そうなのか」
シャル「ラウラの水着も、皆で見てあげるよ」
ラウラ「そ、そうか……しかし、そんなに重要なものか?」
シャル「じゃあ簡単に言うよ?」
ラウラ「あぁ」
シャル「そんな水着を来て海に行ったらキリコはドン引きして、ラウラは嫌われちゃいます」
ラウラ「」ズキューンッ
シャル「オッケー?」
ラウラ「……あ、あぁ……」
シャル「よろしい」
シャル(と言うか、キリコ自身も水着持って無さそうだけど……)
207:
キリコ「……何だ、シャルロット」
シャル「え? あ、あぁとその……キリコは水着とかは持ってるの?」
キリコ「持っていないが」
シャル「うーん……じゃあ良い機会だし、キリコのも買っちゃおうか」
キリコ「そうか」
シャル「……ちなみに、私服は? 結構持ってかないと、途中で洗って使う事になるよ?」
キリコ「私服……耐圧服の事か」
シャル「」
鈴「」
セシリア「」
キリコ「……何だ」
ラウラ「耐圧服……あの服は大概の気候にも対処できる装備だ。それを普段から着用するとは、良いセンスだ。さすがは私の嫁だな」
鈴「このっ……バカ軍人共っ……」
キリコ「?」
ラウラ「?」
208:
シャル「」
鈴「あのシャルロットが、まだドン引きしてる……」
セシリア「お気を確かに! シャルロットさん!」
シャル「……はっ! ぼ、僕は一体何を……」
鈴「キリコの私服はたいあつふくー」
シャル「」
セシリア「鈴さん人で遊ばない! シャルロットさん! シャルロットさん!」
シャル「……はぁっ! ぼ、僕の常識が、音を立てて壊れていくぅっ……」
セシリア「はぁ……と、とにかく、皆さんの水着と、キリコさんの私服、そして箒さんへの贈り物を、皆で選びましょう」
シャル「そ、そうだね……うん、そうしよう絶対に。うん、絶対に服買おう」
キリコ「……何か問題があるのだろうか」
ラウラ「さぁ……」
セシリア「あ、明日の九時に正門集合です。遅刻しないように、わかりましたね!」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「了解した」
鈴「はーい」
シャル「う、うん……まだ頭がクラクラする……」
209:
鈴「じゃあご飯にしましょっか。今日も多めに作ってあるから、ラウラが食べる分もあるわよー」カパッ
ラウラ「ほう……旨そうだな、何だこれは」
鈴「空芯菜を炒めたヤツと、油淋鶏よ。おいしいんだから」
ラウラ「た、食べてもいいのか」
鈴「セッシーの料理には負けるかもしれないけど、おいしいから食べてみなさいって」
セシリア「鈴さん!」
ラウラ「そうか、では……ん……うん、旨い。旨いぞ」
鈴「そうでしょそうでしょ。まぁ、セシリアさんのりょうりにはまけるけどなー」
セシリア「二度も言わないでよろしい!」
ラウラ「そうか……是非セシリアの料理も食べてみたいな」
セシリア「ぬぐっ……」
シャル(こ、懲りないなぁ鈴も……)
キリコ(……胃腸薬を三人分買っておくか)
――
210:
山田「デザート・スキャンダル。この事件は、ギルガメス艦と思われる艦が不可侵宙域を侵犯し、地図に見える砂漠に墜落した事件です。
 地球につく前に、艦の故障が起き、炎上してしまったので何事も無く済みましたが……。
 IS技術を盗もうと画策したのではないか、との嫌疑が出ましたが、当局は否定しています」
キリコ「……」
キリコ(プレゼント、か……)
キリコ(箒は……一体どんな物が好きなのか……)
キリコ(……竹刀か、防具か……)
キリコ(……一体、何が良いか……)
キリコ(……)
キリコ(箒……)
キリコ(今思うと、俺はアイツを……よく知らない)
キリコ(確かに記憶は、思い出したが……そういう所だけすっぽりと、大きな事を前にして抜け落ちている)
キリコ(……クソッ……)
キリコ(アイツの笑顔、アイツの手……それは思い出せるのに……)
キリコ(……俺は……)
211:
「キリコ君!」
キリコ「……」
山田「キリコ君! 聞いてますか?」
キリコ「……な、何だ」
山田「68ページの百年戦争現代史の三行目です。しっかり集中しないとダメですよ。さぁ、読んで下さい」
キリコ「は、はい……現在も、ミヨイテやロウムス、また辺境の交易惑星マナウラで戦火は続いている。
 終戦が囁かれる中、両陣営は攻撃の手を緩めないでいるが――」
キリコ(……)
――
212:
鈴「いやぁー、外出てこうやって電車乗って街来るのも、久しぶりな感じがするねー」
シャル「そうだねー……最近色々あったからね……」
セシリア「そうですわね……こうして、皆さんで出掛けられる事が、とても幸せに感じます」
ラウラ「早水着売り場に行こう」
キリコ(……結局、まだ見当つかず、ここに来てしまった……)
キリコ(何か、思い出せ。あの事件の事じゃない、もっと些細な事だ……)
シャル「はいはい。じゃあ、最初に水着見ちゃおっか……あれ、キリコー? どうしたのー、行くよー?
キリコ「……ん……あ、あぁ」
セシリア「水着……腕が鳴りますわね」
鈴「音出せるとか器用な腕ね」
セシリア「貴女……使い方が正しい言葉でも、本当に揚げ足取るのが上手いですわね」
鈴「それ程でも」
セシリア「……もう何も言いません」
シャル(完全にセシリアは鈴のオモチャだね……)
ラウラ(頭の回転がいというのは、ああいう事を指すのだろうか……)
213:
鈴「んー、じゃあそうねー……キリコちゃんをズキュンと悩殺しちゃうようなの買っちゃおうかしら」
セシリア「……」ジーッ
鈴「どこ見てんのよ」
セシリア「……ふっ」
鈴「鼻で笑ったな! 鼻で笑ったでしょう今! 胸見てさ!」
セシリア「さぁ? というか、無いものを、どうやって見るんですの?」
鈴「ようし、わかった……殴り合いましょう。ね? 外出ましょうよ、ね?」
ラウラ「……」
シャル「ら、ラウラも自分の見なくて良いから……ラウラはかわいいから、そんなの気にしなくてもきっと似合うのがあるよ」
ラウラ「わっ、私が、かわいい、と言うのか……」
シャル「うん。素材が良いから、何だっていけるよ。そう思うよね、キリコ」
キリコ「……そうだな」
シャル(……今の微妙な間は……)
214:
ラウラ「そ、そうか……そうなのか……そうか……」
シャル「あ、ラウラ赤くなってる」
ラウラ「っ! い、いや、これは……その……」
シャル「あははっ、かわいいなぁ」
ラウラ「あう……な、なんだこの辱めは……」
シャル「ラウラかわいいっ」
ラウラ「っー! ……も、もうそれは言うなー!」タタタッ
シャル「あらら……走って逃げちゃった……ちょっとからかい過ぎちゃったか」
キリコ「……難儀だな」
鈴「よし、キリコ! あたしが水着選んであげるから、覚悟しなさい!」
セシリア「何を仰いますの? キリコさんの水着は、私が見ますの。そうですわよね?」
キリコ「……」
鈴「ほら見なさい。セシリアがそんな事言うからキリコ困ってるじゃない」
セシリア「あーら、それは鈴さんの方じゃなくって?」
鈴「なぁにぃ?」
セシリア「何ですの?」
215:
シャル「い、いやぁ……せっかく皆で来たんだから、皆で見ようよ……」
キリコ「……そうだな」
鈴「……まぁ、キリコとシャルロットがそう言うなら、それで良いか」
セシリア「そうですわね」
シャル「あ、あはは……(これツッコミ待ちでわざと喧嘩してるんじゃ……)」
キリコ「……」
シャル「そ、それじゃあ、そこの子供服コーナーで隠れながらこっちを窺ってるラウラを呼び戻そうか……」
鈴「……軍人らしくカバーするのかと思ったらあれね、ひょっこりコッチ見てるわね」
セシリア「……小動物のようですわね」
シャル「ラウラー! 戻ってきてー!」
モ、モウアノコトバハイワナイナー
シャル「言わないから戻っておいでー」
ウ……ワ、ワカッタ……
トコトコ
ラウラ「……」
シャル「よし、偉い偉い。じゃあ水着を見よっか」
216:
ラウラ「わ、わかった」
シャル「ちゃんと似合うの選んであげるからね」
ラウラ「……あぁ」
キリコ(……俺はあそこに引っ提げてある緑ので良いか)
鈴「んー……ねぇキリコ」
キリコ「何だ」
鈴「やっぱさ、アンタは他のとこ見て来てくれる?」
キリコ「……何故だ?」
鈴「いやぁ、今見ちゃうとあれじゃない? だからさ、お楽しみは当日って事で」
キリコ「……?」
シャル(あぁ……確かにそっちの方が良いかな……)
セシリア「ふん……そうですわね……キリコさん、私も鈴さんの意見に賛成ですわ」
キリコ「……そうか。なら、俺はそこのベンチにでも座っている。終わったら言ってくれ」
217:
ラウラ「おい、嫁を仲間外れにするつもりか」
シャル「ラウラ、それは違うよ」
ラウラ「では何だ」
シャル「水着っていうのはね、いつもと違う自分を魅せる服なんだ」
ラウラ「そうなのか」
シャル「うん。いつもと違う自分を見せる事で、相手をドキッとさせる効果もあるんだけど……」
ラウラ「けど?」
シャル「でも、そういうものってさ、事前にそういうのを着るって知られてたら、効果半減でしょ?」
ラウラ「ふむ……確かにな。仕掛けた罠も、相手に知られては意味が無い」
シャル「そう、それと同じなんだよ。相手にどんな罠を仕掛けたのかわからないようにして、効果を存分に発揮させるんだ」
ラウラ「おぉー」
シャル「だから、キリコに僕達がどんな水着を着るのか知られないように、少しの間だけ外して貰うように、鈴は頼んだって訳」
ラウラ「そうか……成程。私は、兵法としての基礎中の基礎を見落としていたようだ……見直したぞ、凰鈴音」
鈴「長ったらしいから鈴で良いわよ。セシリアも呼び捨てか、セッシーかセッちゃんって呼んでいいから」
セシリア「後ろ二つは余計ですの!」
ラウラ「そ、そうか……」
218:
鈴「まぁ、慣れないなら良いけどさ。じゃあ、早見ましょっか。早く決めないと、キリコ帰っちゃうわよ」
セシリア「そ、そうですわね」
シャル「よーし、頑張って見るぞー」
ラウラ「私も、遅れは取らんぞ」
……
219:
ラウラ「嫁よ、終わったぞ」
キリコ「……そうか」
鈴「よーし、じゃあ今度はキリコの番……あれ、何その袋」
キリコ「あぁ、これか。お前達が選んでいる内に、俺のを買っておいたんだ」
セシリア「……はいー?」
鈴「ちょ、ちょっと。それじゃあ意味無いじゃん! せっかくあたし達が選んであげようとしてたのに!」
キリコ「お前達を待つのも暇だったからな。その間に、済ませておこうと思ったんだ」
ラウラ「流石は嫁だ。時間を有効に使う術を知っている」
シャル「あ、あはは……か、買っちゃったんだ……」
シャル(もう……折角選んであげようと思ったのになー……)
キリコ「で、次はどうするんだ」
鈴「……はぁ……まぁ良いわ。どうせアンタは私服を選ぶってのも残ってる訳だし、そっちをやっちゃいましょう」
セシリア「……そうですわね」
キリコ「……別に、あれでも良いだろう」
シャル「ダメ!」
セシリア「ダメですわ!」
鈴「ダメに決まってんじゃん!」
ラウラ「おぉ、何だこの台は。じゃんけんのマークが出てるぞ。これを押すのか」ポチッ
キリコ「……」
220:
鈴「……戻って来なさい」ガシッ
ラウラ「あうっ……」ズルズル
鈴「……よいっしょ、と……はぁ、この様子だと、アンタもあんまり私服持ってないんでしょう……ついでにそっちも見ますか」
ラウラ「私は別に大丈夫だが」
鈴「お黙りなさいっ、このバカ軍人」
ラウラ「バ、バカとは何だ」
セシリア「今の変な声の出し方は何ですの? ……私の真似ですか!」
鈴「さぁ、なんのことー?」
シャル(鈴凄いなぁ……二人同時にコケにするもんなぁ……)
キリコ「……」
シャル「じゃ、じゃあ、紳士服売り場は階が違うから、あっちに行こっか……終わったらお昼御飯食べよう。ね?」
鈴「そうね。まぁ、キリコは身長あるし、大概似合うでしょ」
セシリア「そうですわね」
ラウラ「耐圧服でも良いと思うがな」
鈴「お黙りなさいっ、このバカ軍人」
セシリア「おやめなさい鈴さん!」
キリコ「……」
シャル「あ、あはは……」
……
221:
キリコ「……しかし、だいぶ買ったな」
シャル「そうだね……でも、良いの? 自分の荷物くらい僕らも持つよ?」
キリコ「一番力のあるヤツに、持たせれば良いだろう。お前らは、楽にしていろ」
シャル「そ、そう……キリコは紳士さんだね」
セシリア「えぇ、素晴らしいですわ」
ラウラ「流石は嫁だな」
鈴「どうせ、日常でも筋力の鍛錬がーって言うんでしょう」
ラウラ「日常でも筋力の鍛錬……貴様っ!」
鈴「なっ、何よ……ビックリするじゃない」
シャル(ラウラはもう強制的にこの軍団に馴染まされたね……)
キリコ「……ごちそうさま」
シャル「ん、早いキリコ。僕も食べないと」
キリコ「あまり急ぐ事はない。ゆっくり食え」
ラウラ「ふむ……上手いな。これは」
鈴「まだこれから買い物あるのに、焼餃子をチョイスするとは思わなかったわ……」
セシリア「……こ、これは食べにくいですわね……け、ケチャップが……」
鈴(こっちはキリコが頼んでたものだからたまにはジャンクフードを、とか言って頼んでたけど……浅はかねぇ)
セシリア「むっ……今鈴さん小馬鹿にしましたわね」
鈴「な、なんのことでしょうか」
セシリア「目でわかりますわよ。顔色窺いは、ある意味礼儀の基本ですのよ」
鈴「ぐぬっ」
223:
シャル「ねぇキリコ。箒へのプレゼントは考えついた?」
キリコ「……まだだ」
シャル「……ふーむ……そっかぁ……」
キリコ「……シャルロット」
シャル「何?」
キリコ「……箒の誕生日は、確か夏だったはずだが」
シャル「じゃあ、もう近いって事か」
鈴「あぁ、その話なら確かしたわよ。確か……いつだったっけな……」
キリコ「……7月7日だ」
鈴「あぁーそうそう。七夕よね、七夕」
ラウラ「たなばた?」
224:
シャル「季節の節目の一つだよ。日本では短冊っていう長い紙に願いごとを書いて、笹にそれをつるす。
 そして、その日が晴れたら、その短冊に書いた願い事が叶うっいう言い伝えがあるんだ」
セシリア「まぁ、よく知ってらっしゃいますわね」
シャル「えへへ、まぁね」
ラウラ「ほう……日本らしい風習だな」
鈴「ついでに言うと、牛郎織女、まぁ織姫と彦星も有名よね」
ラウラ「な、なな、何だ? その、ぎゅうろうしょくじょと言うのは」
鈴「ん? まぁ簡単に言うとさ、神様が娘を嫁がせたんだけど、その後その娘が機織りするのやめたから神様が怒って、田舎に帰ってこーいって怒ったの。
 それで、神様は一年に一度だけ、娘がその結婚相手と会う事を許した。それが7月7日ってわけ」
ラウラ「ほー……何だか、複雑だな」
鈴「まぁ、あたしもぼんやりとしか覚えてないけどね」
キリコ「……俺の、誕生日でもある」
鈴「あらっ、そうなんだ」
セシリア「凄い、偶然ですわね……」
キリコ「……あぁ」
225:
ラウラ「ふん……では、その箒というヤツが織姫で、キリコが彦星というヤツか。
 ……機織りは、続けさせるようにな」
鈴「論点がズレてるわっ」
シャル「……なる、ほど……」
セシリア「……シャルロットさん、どうかされましたか?」
シャル「そうだっ」
キリコ「……どうした」
シャル「それにちなんでさ、星にちなんだアクセサリ、なんて良いんじゃない?」
キリコ「……星?」
ラウラ「おぉ、それは良いな」
鈴「星、かぁ……」
セシリア「星の形は……けっこう、うるさい感じがしますから、難しいような……。
  それに、箒さんのイメージもありますし……」
シャル「ふふん、実はもう目星はついてるんだ」
鈴「……えぇ?」
226:
シャル「ふふっ、ちょっと皆が目を離してる隙に、まぁ色々とね」
鈴「はぁ……やるわねアンタ……」
セシリア「まぁ……」
ラウラ「ふぅ……ごちそうさまだ。では、その店に行くぞ」
鈴「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ食べてるんだから」
セシリア「そ、そうですわ」
ラウラ「作戦行動中は食事を早く済まさんか!」
鈴「ひぃっ」
ラウラ「ほら急げ急げ」パンパンッ
シャル「手拍子しなくても良いんじゃ……」
セシリア「む、むぐぐ……」
227:
シャル「あぁ、ほら喉に詰まらせた……ほら、セシリア水」
セシリア「ごくごく……はぁ、も、申し訳ありません……早く食べるのに、あまり慣れてなくて……」
シャル「だ、大丈夫だよ焦らなくても……ほらラウラ、あんまり急がせたらダメだよ。キリコも言ってあげて?」
キリコ「……ラウラ、焦らなくても良い。時間は、まだある」
ラウラ「むっ……そ、そうか。すまなかった」
シャル「はぁ……じゃあ、僕達が食べ終わって少し休憩したら、行ってみようか」
キリコ「そうだな」
鈴「んー、それでおねがーい」ズルズル
セシリア「わかりました」
ラウラ「了解した」
――
247:
シャル「ほら、こっちこっち」
鈴「ふーん、マジのアクセサリショップね……」
セシリア「いつの間にこんな所を……」
シャル「えっとねぇ……あ、あった。これだよ、これ」
鈴「どれよどれよ」
シャル「ほら、これこれ」
鈴「……ふんっ……」
セシリア「……まぁっ……これですか?」
鈴「へぇー……これかぁ……」
ラウラ「ど、どれだ……私にも見せろ……」ピョンピョンッ
248:
キリコ「……それか」
シャル「これ、どうかな? キリコ」
キリコ「……」
シャル「……」
鈴「……」
セシリア「……」
ラウラ「……見えない」
249:
キリコ「……良いんじゃないか?」
シャル「そ、そう思う?」
キリコ「あぁ、この色なら、箒にも似合うだろう」
鈴「うん、良いんじゃない? 星っていっても、リングの中にちっちゃく浮いてるって感じで、うるさくないし」
セシリア「えぇ。とてもかわいらしいですわ」
シャル「これなら、シルバーで品を出しながら、かわいらしさを出せると思う。凛々しいけど、乙女な箒に似合うんじゃないかな」
鈴「なんか後半はあれだけど、まぁ確かにこれなら良いんじゃない?」
ラウラ「嫁、私にも見せてくれ」
キリコ「……あぁ、こっちに来い」
ラウラ「うむ……おぉ、これか。シャルロットの言った通り、星があるな。ネックレスか」
シャル「うんうん。値段も、まぁ安い方だと思うし。それに僕もお金出すからさ」
セシリア「あら、ならば私も出しましょう」
鈴「この流れはあたしもみたいね」
ラウラ「……私もか」
鈴「アンタは、まぁ……詫び代みたいなもんじゃない」
ラウラ「……そうだな。これくらいで許されるなら、いくらでも出そう」
鈴「じゃあアタシの分も」
セシリア「薄情者」
鈴「さすがに冗談よ。それくらいの甲斐性はあるって」
250:
キリコ「……いや、いい。これは、俺一人で買う」
鈴「まぁまぁ。友達の回復願って皆で買うんだから。別に、アンタに気を遣ってるわけじゃないわよ」
セシリア「そうですわ」
シャル「そういう事、ね? キリコ」
キリコ「……」
ラウラ「……私達全員の、贈り物、と言う訳か」
シャル「うん」
キリコ「……すまないが……俺一人で買わせて貰えないか」
シャル「……」
鈴「兵隊って言っても給料安かったんでしょ? こういう時くらい甘えなさいって」
キリコ「そういう、問題じゃない……わがままだが、俺が、アイツに、送りたいんだ」
セシリア「……キリコさん……」
シャル「キリコ……」
鈴「……」
ラウラ「……」
251:
キリコ「……選んで貰っておいて、勝手な言い草かも知れんが……これだけは、やらせてくれ」
ラウラ「……嫁よ」
キリコ「何だ」
ラウラ「……大切なのだな、その、彼女が」
キリコ「……あぁ」
ラウラ「なら……行ってこい。それまで、私達はここで待っている」
鈴「ラウラ……」
キリコ「……わかった」
スタスタ
252:
ラウラ「……」
セシリア「……あれは……そういう、意味ですわよね」
セシリア(キリコさん……ペアで頼みに行くつもりですわね……)
シャル「うん……そうだろうね」
シャル(まぁ、元からそういう風になるようにって応援はしてたけど……いざこうなると、あれだなぁ……)
鈴「……はぁ……」
鈴(負けちゃった、かなぁ……)
ラウラ「さて、お前達は何か見る物は無いのか」
鈴「いやさすがに切り替え早いわ!」
ラウラ「……嫁に華を持たせてやるのも、夫の役目だからな」ドヤァッ
鈴(う、うわぁっ……)
セシリア(あれの意味が……わかってらっしゃらないのですね……)
シャル(無知は……時に罪だね……)
253:
ラウラ「ふっ……では行くぞ、凰分隊。洋服売り場に急行だ」
鈴「えっ、あたし分隊長なの?」
ラウラ「自分で大佐と言ったではないか、隊長殿」
鈴「……そ、そっか……」
ラウラ「あぁ」
鈴「で、では行くぞ。凰分隊、俺様に続けー! きゅぃいいっ」
ラウラ「お、ATか。負けんぞ!」
セシリア「……何してますのあの人達」
シャル「……さぁ……ショックで錯乱してるんじゃない……」
ラウラ「オルコット二等兵! 無駄口を叩かずに来い! デュノア伍長もだ!」
シャル「え、えぇっ?」
セシリア「そ、そのパイロット姿勢をやりますの?」
ラウラ「当たり前だっ! 操縦桿を握らずしてどうやって機体を駆る!」
254:
シャル「え、えぇーっ……」
セシリア「い、いややりませんわよ?」
シャル「え、でも、こう……腕を出して……」
セシリア「ダ、ダメです! 流されてはいけません!」ガバッ
シャル「えぇっ? で、でも……」
セシリア「でももストもありません! お気を確かに!」
シャル「きゅ、きゅぃいいっ……」
セシリア「シャルロットさん! 正気に戻って下さい! シャルロットさん!」
シャル「……はっ! ぼ、僕は何を……」
鈴「……アホらし」
ラウラ「む、なんだやらないのか。敵前逃亡だぞ」
鈴「いや、そもそも敵を認知できないわよ……」
ラウラ「敵は洋服売り場にあり!」
鈴「無理。今更だけど、流石に恥ずかし過ぎるわこれ」
ラウラ「……」
鈴「……どうしたのよ」
ラウラ「あっ……そ、そう、だな……た、確かにこれは……は、恥ずかしいな……」
鈴「……あんた……今頃気づいたの?」
ラウラ「う、うぅ……」
255:
鈴「はいはい。まぁ今のは気の迷いというか……無かった事にして……キリコー? 買ったー?」
キリコ「……あぁ、一応ペアで買った。ところで……」
鈴「そっか。給料何カ月分?」
キリコ「……さぁな、数えていない。ところで……」
鈴「これから洋服選びに行くから、覚悟しなさいよー? また荷物増やしてやるんだから」
キリコ「あぁ……ところで……」
鈴「ところでの先は言わない。オーケー?」
キリコ「……お前ら、ATの真似なんてして何やってたんだ」
鈴「言いたくない」
キリコ「ローラー音を出してたのはお前か」
鈴「知らない」
キリコ「俺様に続けと言ったが、どこへ行く気だったんだ」
鈴「聞きたくない」
キリコ「……大佐」
鈴「あぁーうるさい! うるさいうるさい! それ以上聞かない! わかった!?」
キリコ「……わかった」
鈴「はぁ、はぁ……」
キリコ「……」
鈴「ふぅ……よし、落ちついた」
256:
キリコ「そうか……で、何処へ行くんだ大佐」
鈴「やめてぇ! あたしが悪かったからもうやめてぇ……」
シャル「あ、あはは……」
シャル(キリコ……案外意地が悪いね……)
セシリア「良い気味ですわねぇ、鈴さん」
鈴「そこ! 口を慎みなさいルーキー!」
セシリア「二等兵じゃありません!」
シャル(鈴いると暇しないな……暇欲しいくらいだけど……)
キリコ「……で……服も、買うのか」
シャル「勿論だよ。本日のメイン三つめなんだから」
キリコ「……そうか」
シャル「ほら、鈴、ラウラ。真っ赤になってないで行くよ」
鈴「うぅ……」
ラウラ「あうっ……」
セシリア「まぁまぁ……先程まで威勢はどこへやら……」
――
257:
ガタンガタンッ
鈴「……」スースー
ラウラ「……」スースー
セシリア「ん……」スースー
シャル「ふふっ……三人とも眠っちゃったね」
キリコ「……そうだな」
シャル「まぁ、一番騒いでた三人だもんね……軍人さんだけどラウラは、ちょっと張り切り過ぎちゃったのかも」
キリコ「……あぁ」
シャル「ふふっ、寝顔は本当にかわいい……」
キリコ「……あまり、言ってやるなよ」
シャル「えぇー? でも、本当にかわいいのに、恥ずかしがっちゃって……」
キリコ「……」
258:
シャル「どうしたのキリコ。夕日見て黄昏ちゃってさ」
キリコ「……こういうのも、良いな」
シャル「え?」
キリコ「こうやって、馬鹿をやって、騒いで……笑うというのは」
シャル「……うん。そうだね」
キリコ「……久しく、こういう事が無かったからな……すっかり、忘れていた」
シャル「……うん」
キリコ「……後は、箒が戻って来るだけだ」
シャル「そうだね……早く、元気になってほしい……箒が来て初めて、皆って感じだから」
キリコ「……あぁ」
シャル「……」
キリコ「……」
259:
ニバンセンニ、キュウコウガマイリマス
オノリカエノオキャクサマハー
プシューッ ガコンッ
キリコ「……」
シャル「……ねぇ、キリコ」
キリコ「……何だ」
シャル「箒の事、どれくらい好き?」
キリコ「……」
シャル「……」
260:
キリコ「……夢も、真実も、俺はいらない」
シャル「……」
キリコ「この腕に、かき抱けるだけの、もので良い……」
シャル「……」
キリコ「だから、全てを投げうっても良い程に……彼女は好きだ」
シャル「……そう……中々、臭いセリフを言ってくれるね……」
キリコ「……」
シャル「まぁ、一言で言うと、愛してるってヤツだね」
キリコ「……あぁ」
シャル「良いなぁ、そういうの……」
キリコ「……だが……」
シャル「ん?」
キリコ「俺は……そんな彼女を、裏切った」
シャル「……」
キリコ「彼女と俺は、サンサで出会った」
シャル「サンサ……もしかして……」
キリコ「あぁ……そして……レッドショルダーが、俺達を襲った」
シャル「……」
261:
キリコ「俺と箒が知り合って、一年程経ったくらいの話だ……ヤツらが来たのは」
シャル「……」
キリコ「ヤツらは俺のいた施設を焼き、俺の里親を焼き……そして俺と箒は、二人で逃げた」
シャル「……」
キリコ「手を繋ぎ、炎を縫い、俺達は走った……互いの、手を握って……」
シャル「……」
キリコ「……まるで、その手が……唯一の拠所だったかのように……俺達は、手を離さず、逃げた」
シャル「……それで……」
キリコ「……ヤツらが、追ってきた。俺達の目の前まで」
シャル「ど、どうなったの」
キリコ「……俺は、箒を逃がした」
シャル「キリコは……」
262:
シャル「キリコは……」
キリコ「……逃がす為の、盾だ」
シャル「っ……」
キリコ「俺は、全身を炎で焼かれた。全身を……」
シャル「……」
キリコ「……箒は、それを見ていた。さぞ、ショックだっただろう」
シャル「……だから、キリコがレッドショルダーって聞いた時に……」
キリコ「あぁ……アイツは……信じたはずの人間が、恨みべき相手になったと思っているのだろうな」
シャル「……」
キリコ「……アイツも、家族を焼かれたのかもしれない。もしかしたら見えないだけで、どこかにあの時受けた傷があるのかもしれない。
 もしかしたら……俺を、深く恨んでいるのかも、しれない……」
シャル「……」
キリコ「……俺は、こんな大事な事をつい先週思い出した。今も、昔も、彼女しか拠所は無かったというのに……俺は……」
シャル「……」
キリコ「あの手があったから……俺も、箒も……生きられたというのに……」
シャル「……」
キリコ「俺は……」
263:
シャル「もう、良いんだよ。キリコ」
キリコ「……」
シャル「もう十分、伝わったから……」
キリコ「……」
シャル「……」
キリコ「……そうか……」
シャル「……」
キリコ「……俺も、少し寝る」
シャル「うん。ついたら、起こすから」
キリコ「……すまない」
シャル「平気平気。じゃ、お休み」
キリコ「あぁ」
シャル「……キリコッ」
キリコ「……何だ」
シャル「……応援、してるから」
キリコ「……あぁ」
シャル「うん、それだけ……じゃあ、今度こそお休み」
キリコ「……」
シャル「……」
シャル(……これは……勝負どころの話じゃないね……三人共)
シャル(まぁ僕も、淡い期待を抱いてちゃってたけど、さ……)
シャル「……」
シャル「織姫と、彦星……か……」
ガタンガタンッ
ガタンガタンッ
ガタンッ……
――
264:
トントンッ
キリコ「……箒」
キリコ「いるのか?」
キリコ「……」
キリコ「今日は、話だけをしに来た訳じゃない」
キリコ「……今日は、お前に渡したい物があって来た」
キリコ「……」
キリコ「気に入って貰えるかは、わからない……」
キリコ「……だが、受け取って欲しい」
キリコ「……」
キリコ「……箒」
キリコ「……本当に、すまなかった」
キリコ「俺は……入りたくて、あの部隊に入った訳じゃない」
キリコ「言い訳なのだろうが、自分から入った訳じゃない事は、言っておく」
キリコ「……こんな物を渡して、許されるとも思っていないが……」
キリコ「出て来て、これを受け取ってくれ……」
キリコ「俺は……お前を――」
ガチャッ
265:
「……」
キリコ「……箒」
「……」
キリコ「箒、お前に……」
「……帰れ」
キリコ「っ……」
「お願いだっ……帰ってくれ……」
キリコ「箒、俺は……」
「帰れっ……」
キリコ「……俺は……」
「……お願いだよ……帰ってくれよぉ……」ガクッ
キリコ「……」
266:
「もう、ダメなんだ……もう……何を考えても、お前が出てくる。
 何をしても、お前しか浮かばない……お前の事が、好きなはずなのに……」
キリコ「……」
「なのに……死ぬ程、辛いんだ……」
キリコ「……」
「もう、何も考えたくないのに……何も、見たくないのに……」
キリコ「……」
「私は……もうっ……」
キリコ「……」
「……」
キリコ「箒――」
「帰れ」
キリコ「っ……」
「……」
キリコ「……」
「……帰るんだ、レッド……ショルダー……」
キリコ「……わか、った……」
「……」
267:
ギィーッ…… ガチャンッ
キリコ「……」
キリコ「箒っ……」ギリッ
キリコ「……」
ピンポンパンポーン
『……キリコ・キュービィー、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、以上の三名は、早急に職員質に集合せよ。
 繰り返す――』
キリコ「……」
268:
「あっ、キリコ」
キリコ「……」
シャル「キリコ、放送で呼ばれて、る……」
キリコ「……」
シャル「……どうしたの?」
キリコ「……」
シャル「っ……何か、言われた?」
キリコ「……あぁ」
シャル「……」
キリコ「……だが、彼女がしっかり生きている事は、確認できた……それ以上は、望まない」
シャル「キリコ……」
キリコ「……放送で、呼ばれたんだったな」
シャル「……うん」
キリコ「……行こう」
シャル「……うん……」
タタタッ
269:
彼女の傷は、俺の思っていたものよりも、深かった。
もしかしたら、俺が忌避し続けていた傷よりも、遥かに深いのかもしれない。
それなのに、何もできない俺がいた。
人を負かし、人を殺す技量を持っていても、人を癒す事はできないのだ。
俺が今まで必死で成してきた事は、無意味だった。俺は、そう痛感していた。
「……キリコ……」
……
270:
ラウラ「遅いぞ、嫁よ」
キリコ「……すまなかった」
シャル「お、遅れてすみません」
千冬「……よし、揃ったか。明日、お前達に海外に行ってもらう」
シャル「か、かい……」
ラウラ「海外……どこですか」
千冬「ジュネーブにある、ギルガメス共同の研究施設だ」
キリコ「……ギルガメス?」
千冬「あぁ……メルキアが出資した金で動いている研究施設だ。この前の大会で、お前達の試合を見ていたお偉いさんが酷く興味を持ったようでな。
 お前達の機体と能力のデータを取りたいそうだ……」
ラウラ「……何故、ギルガメスの研究施設が……そのような事を」
千冬「……この不可侵宙域は、要するに、両陣営から保護されているというだけだ。ヤツらは幅を利かせているのさ、ここでも」
ラウラ「……」
キリコ「……」
千冬「安心しろ。技術はそもそも外に出ないし、新しい物も作る事はできない。純粋な研究機関だ」
ラウラ「……そう、ですか」
千冬「私も、何度か見に行った事がある。間違い無い」
ラウラ「……教官がそう仰るなら」
271:
シャル「んー……あれ、でも……なんでセシリアは抜きなんでしょうか……あの時、セシリアもいたのに」
千冬「さぁな。指名されたのはお前達三人だけだ」
キリコ「……その、お偉いさんというやつの、名は……」
千冬「ん……名前までは知らんが……この書類を見るに、情報省の人間だな。軍部じゃない、まぁそこは安心して良いだろう」
キリコ(……ペールゼンでは無い?)
千冬「それと……お前達のISは、こちらで預からせてもらう」
キリコ「……」
千冬「お前達は、来週臨海学校だろう。だから、先に機体だけでもあちらに送り、少しでも研究時間を減らすようにしたんだ。
 まぁ、それでもこちらに着く頃には、臨海学校初日の昼以降になっているだろうが……」
シャル「あぁ、ちゃんと配慮して下さってるんですね」
千冬「まぁな。案外話のわかる所で助かったよ。さて、じゃあISを預かる。お前達は渡航の準備をしろ。
 明日の朝七時に、正門に集まれ」
ラウラ「はっ」
シャル「了解です」
キリコ「……了解」
突然の渡航命令。心の蟠りを振り払う事もできず、俺は海外に旅立たされようとしていた。
二度と、あの手を握る事が無いのではないか、そんな、一抹の不安を抱きながら。
――
272:
そして、何もできないまま、翌日が来た。
シャル「んしょっ……ふぅ……キリコ、忘れ物は?」
キリコ「……無いはずだ」
シャル「臨海学校用の荷物も持って行かないといけないんだからね? ちゃんと買った物持ってきた?」
キリコ「……あぁ、全て持ってきた」
シャル「よろしい」
ラウラ「嫁よ。アーマーマグナムは持って来たな」
キリコ「あぁ」
ラウラ「よろしい」
シャル「いや、別にまた戦いに行く訳じゃないんだからさ……」
ラウラ「戦士は、片時も武器を離してはならん。何時、誰が、何処から攻めてくるかなど、わからんのだからな」
シャル「ま、まぁそりゃそうだけど……」
キリコ「……」
273:
「おーい! 三人ともー!」
キリコ「……」
シャル「あ、鈴とセシリアだ」
鈴「ふぅ……いやぁ何とか間に合ったか」
セシリア「キリコさん達が海外に行かれると聞いて、お見送りしようと思ったのですが……この方が寝坊したおかげで、遅れてしまいました」
鈴「良いじゃん、間に合ってんだから。いやー、しかし……腕を買われて海を渡るなんざ、カッコいいじゃん三人共」
シャル「え? え、えへへ……そうかな……」
ラウラ「これも、教官とキリコ、そして不断の努力のおかげだ」
キリコ「……さぁな」
鈴「……キリコ」
キリコ「何だ」
鈴「箒に……あれ、渡せた?」
キリコ「……いや」
鈴「そ、そっか……まぁ、臨海学校があるって! その時雰囲気でも作って渡せば良いからさ!」
キリコ「……」
鈴「安心なさいって! 箒は引きずってでも臨海学校に連れてくから」
キリコ「……鈴」
鈴「……何よ」
274:
キリコ「……これを、箒に渡してやってくれないか」
鈴「こ、これって……あの時のじゃない。自分で渡しなさいよ」
キリコ「……俺は、渡せそうにない」
鈴「何よ。怖気づいたっての?」
キリコ「……」
鈴「え、マジで?」
キリコ「……もう、執拗に……彼女を傷つけたくない」
鈴「……」
キリコ「俺からは渡せない……」
鈴「……」
キリコ「だから、頼む」
鈴「……」
キリコ「……」
鈴「何よっ、それ……」
キリコ「……」
鈴「……はいはい、わかりましたよ。あたしから渡しておくから、さっさと海外逃亡でも何でもしなさいこの腑抜け」
キリコ「……すまない」
鈴「……はぁ……」
シャル(キリコ……それは少し残酷だよ……)
275:
キキィイッ
ガチャッ
山田「おはようございます皆さん。ちゃんと時間通りですね」
シャル「あ、おはようございます」
山田「では、これから空港までお送りしますね」
キリコ「……」
シャル「あれ、山田先生が送ってくれるんですか?」
山田「えぇ。自分が担当している生徒の、門出ですから。私がやりたいってお願いしたんです」
シャル「か、門出……」
山田「はいっ」
シャル「ま、まぁ……そういう事なのかな……」
キリコ「……行くか」
ラウラ「そうだな」
山田「あ、荷物は後ろに乗せて下さいね。席はお好きな所にどうぞ」
シャル「はーい」
ラウラ「……よし」ドサッ
キリコ「……」
シャル「うんしょ」
276:
山田「さて、じゃあ忘れ物はありませんね?」
キリコ「問題無い」
ラウラ「右に同じ」
シャル「左に同じです」
キリコ「……」
山田「あの……席は、助手席も、後ろにもあるんですけど……狭くないですか?」
ラウラ「嫁の隣に夫が座るのは当然」
シャル「こっちの方がお喋りしやすいので、これで大丈夫です」
キリコ「……俺が、助手席に行くか」
山田「あ、いえいえ。そういう事なら、気を遣わないで大丈夫ですよ」
キリコ「……」
山田「さて、じゃあシートベルトを閉めて……では、しゅぱーつ」
ブルゥウウンッ
鈴「キリコー! シャルロットー! ラウラー! ちゃんとお土産買って来なさいよー!」
セシリア「あちらでのお話も聞かせて下さいねー!」
シャル「うーん! バイバイ皆ー!」
ラウラ「土産は任せろー!」
キリコ「……」
ブルゥウウンッ……
277:
鈴「……」
セシリア「……」
鈴「あーあ、行っちゃった……」
セシリア「ですわね……臨海学校までの間、寂しくなりますね……」
鈴「……こんな物まで押し付けてくれちゃってさ……」
セシリア「……」
鈴「……まっ、それだけ信用されてるって事か……」
セシリア「……そうですわね」
鈴「……朝ご飯でも、食べに行きますか。一応、ダメもとで箒も誘って」
セシリア「……えぇ」
鈴「……ペアネックレスの片方……ねぇ……」
――
278:
キィイイイインッ……
シャル「わぁーっ……見てよキリコ! あれエベレストじゃない?」
キリコ「エベレスト?」
シャル「地球で一番標高の高い山だよ! わぁー……あんな遠くでも見えるのか……いや、違うのかな」
ラウラ「しかし、チャーター便の豪華仕様とはな……まるで、VIPにでもなった気分だ」
シャル「うん。ハリウッド映画で大統領とかが乗ってるようなヤツだよね……ホント、凄いなー……」
キリコ「……」
シャル「IS以外で、こうやって空飛ぶのも、案外良いものかもね」
ラウラ「ふむ……嫁よ。飲みものがあるぞ……お前は、酒か?」
キリコ「……酒は、飲めない」
ラウラ「そうか。案外強そうに見えるがな……まぁいい、嫁よ、コーヒーを入れてくれ」
シャル「え、そうなるんだ……」
キリコ「……わかった」
ラウラ「ふむ……しかし、快適だ。軍用機とは、雲泥の差だな」
シャル「そうだねー……」
……
279:
機長「……」
ザザーッ
ピーッ
機長「ん……はい、聞こえています……」
機長「……」
機長「え、今からですか?」
機長「……」
機長「はい……わかりました。航路、変更します」
……
280:
シャル「あ、キリコ。これで映画見れるよ……えっと、こうやって……」
ウィーンッ
シャル「おぉ、スクリーンが出てきた」
ラウラ「ここは定番の、プライベート・ライアンでも見るか」
シャル「えぇー……もうちょっと他の見ようよ……」
ラウラ「……おぉ、地獄の黙示録とブレードランナーがあるじゃないか」
シャル「い、いやぁ……だからこう、もっと柔らかいのを……ね?」
ラウラ「なら何が良いのだ」
シャル「えぇ? う、うーん……まぁ、無難に……これは? 最高の人生の見つけ方」
ラウラ「そんなものは自分で見つける」
シャル「い、いやこれはタイトルで……」
281:
キリコ「……」
ラウラ「嫁は何か見たい物があるか」
キリコ「いや、好きにすると良い」
ラウラ「そうか。ならばやはり地獄の黙示録を……」
シャル「ひぃ……キ、キリコー……止めてよぉ……」
ラウラ「よし、これで操作をす――」
ガクンッ
ラウラ「っ!」
キリコ「!?」
シャル「うわっ!」
282:
ラウラ「な、何だ! 何事だ!」
キリコ「ぐっ……」タタタッ
シャル「うわっ……うわぁっ!」
ドンドンッ
キリコ「おい、機長! どうした!」
機長『わからん! 突然エンジンが止まった! 何とかするから、しっかり捕まっていろ!』
キリコ「くっ……」
ラウラ「キリコ! どうした!」
キリコ「わからない! だが、何かに掴まるんだ!」
シャル「わ、わかった!」
キリコ「……」
283:
ヒュウウゥンッ……
急落下する飛行機。そんな中、身を揺らされ、震えながら、俺達は地へと向かっていた。
地面を抜け、その下に広がる地獄が口を開けて待っている光景が、サブリミナルのように、ちらつく。
平穏など、俺には無いのか……。
――
284:
安らぎの日々が終わる。枕に仕掛けられた不発弾が爆ぜ、平穏は空虚な音を立てて崩れ落ちた。
急転直下、千錯万綜、崩壊の勢いは止まる事を知らない。
手をかざし、いくらその儚さを渇仰しても、あの砂と同じく、掌から抜け落ちてゆく。
砂時計のように、無慈悲にも落ちてゆくしかない。時も、友も、愛さえも。
次回、「帰還」
平穏など、始めから幻想に過ぎぬ。
――
294:
キリコ「くっ……機長! どうだ!」
機長『ダメだ! 上がらん! エンジンが完全にイカレている! 翼も言う事を聞かん!』
グラグラッ
シャル「キ、キリコッ……」
キリコ「……」
ラウラ「機長! パラシュートは無いのか!」
機長『あぁ、ある! 誰か、そこのドアの前に立っているなら、そこの横にある扉がそうだ!』
キリコ「……これかっ!」
機長『計五つあるはずだ!』
ラウラ「わかった! お前達も早くこっちに来い!」
機長『し、しかし……』
ラウラ「制御が効かん船など降りろ! ここで判断を誤れば皆死ぬぞ!」
機長『わ、わかった! 我々もそちらに行く!』
295:
キリコ「……よし」カチッ
ラウラ「キリコ! 二つ回してくれ」
キリコ「わかった……一つずつ投げる。しっかり取れ」
ラウラ「任せろ」
キリコ「……」ヒュッ
ラウラ「……」パシッ カチャッ
キリコ「できたな。シャルロットにも回せ」
ラウラ「わかった」
キリコ「っ……」ガタンッ
ラウラ「今だ!」
キリコ「……」ヒュッ
ラウラ「よしっ」パシッ
296:
シャル「くぅっ……」グラグラッ
ラウラ「(あの様子では投げるのは無理だな……)シャルロット、今そちらに行く。しっかりそこに掴まっていろ!」
シャル「う、うんっ!」
ラウラ(くっ……揺れも酷いが、機体が少しだが横に傾いていてきている……急がねば……)ガタンッ
ラウラ「……」ガシッ
ラウラ(少ないが、椅子を頼りにつたっていくしかない)
ラウラ「……」
シャル「ラウラ……」
ラウラ「もう少しだ、落ちついていろ」
グラッ
ラウラ「なっ!」
機長『マズイ! 落ちるぞ! 何かに掴まれ!』 
キリコ「っ……」
297:
ガタガタッ
ラウラ「うわぁあっ!」
キリコ「ラウラ!」
ガシッ
シャル「……」
ラウラ「はぁ、はぁ……」
シャル「ラウラ! 大丈夫!?」
ラウラ「あぁ……(な、何とか椅子に掴まる事ができたか……)」
ガタンッ
シャル「うわぁっ!」
ラウラ「くっ! 今行くぞ!」
298:
機長『皆持ちこたえてくれ!』
キリコ「……」
ラウラ「はぁ、はぁ……(よし、あと少しだ……)」
シャル「ラウラ! 手を!」
ラウラ「あ、あぁ!」
シャル「ぐっ……」
ラウラ「もう……少しだ……」
ガタンッ
ラウラ「っ……(し、しまった……手が……)」
パシッ
299:
シャル「よし! 掴んだ!」
ラウラ「か、間一髪だな……」
シャル「ぐっ……離さないでね……引き、あげるから……」
ラウラ「あぁ……」
シャル「ふんっ」グイッ
ラウラ「……よし、もう大丈夫だ。すまない……受け取れ」
シャル「こ、これはどうやって……」
ラウラ「まず普通に背負え。そして合図を出したら、そこの紐を引くんだ」
シャル「わ、わかった!」
キリコ「ラウラ! お前達はそっちのドアを開けて脱出しろ!」
シャル「えぇ!? で、でも!」
ラウラ「キリコ! 生身での降下作戦訓練は!」
キリコ「受けた! 早くしろ!」
ラウラ「よし! では先に行く! 何か目印になりそうな場所があったら、それを頼りに来い! 我々もそこを目指す!」
キリコ「わかった!」
300:
シャル「えぇ!? ら、ラウラ!」
ラウラ「もたもたしてる時間は無い! このドアを開けるのを手伝ってくれ!」
シャル「……わかった!」
キリコ「機長! 機体を水平に戻せないか!」
機長『横にまわらないようにするだけで精一杯だ!』
キリコ「……できないなら早く来い!」
ガチャンッ グイッ
ゴォオオオッ
シャル「くっ……す、凄い風……」
ラウラ「私に掴まれ! 同時に出る! 聞こえたか!」
シャル「う、うん!」
ラウラ「行くぞっ!」
シャル「……」
バッ
ゴォオオオオッ
301:
シャル(……じ、地面が遠い……けど……迫って来てる……)
ラウラ(下は……砂漠か……何かあるよりはまだマシか……)
ヒュウウウウッ
ラウラ(くっ……ゴーグル無しでは周りの確認しづらいな……)
ラウラ(ん……あれは……)
ラウラ(……よし……)
ラウラ(シャルロットに合図を出す……)クイクイッ
シャル(あ、あれは……パラシュートを引けって事か……)
シャル(わかった!)
シャル「……」カチャッ
グイッ
バサッ
シャル「うわぁっ!」
ラウラ「……」バサッ
302:
シャル「はぁ、はぁ……(な、何とか……助かった?)」
ラウラ「シャルロットーッ! 聞こえるかーっ!」
シャル「う、うーんっ!」
ラウラ「あっちに何か船らしき物が見える! そこに着陸するぞ!」
シャル「ど、どうやって!?」
ラウラ「左右の紐で操作するんだ!」
シャル「こ、これーっ!?」
ラウラ「そうだ!」
シャル「わ、わかった!」
ラウラ(くっ……キリコも、早く脱出してくれ……このままでは合流すらできなってしまう……)
……
303:
キリコ「何をしている! 早く来い!」
ガチャッ
機長「あ、あぁすまない……」
副機長「パ、パラシュートは!?」
キリコ「これだ! 出るぞ!」
ガチャンッ グイッ
ゴォオオオッ
キリコ「くっ……」
機長「よし、つけたぞ!」
キリコ「……行くぞ!」
バッ
ゴォオオオッ
304:
キリコ「……」
キリコ(……目印……何も無い……砂漠だけだ……)
キリコ「ぐっ……」
キリコ(……ん? あ、あれは……)
キリコ(……よし、あれだ)
グイッ
バッ
キリコ「……はぁ……」
副機長「はぁ、はぁ……」
機長「な、何とかなったな……」
キリコ「あそこに、船の残骸が見えるな?」
機長「ん? ……あぁ、あれか」
キリコ「あれを目指す。あれだけの大きさなら、ラウラ達からも見えた事だろう」
機長「わかった。救難信号も出ているはずだ。管制も認知しているだろう、すぐに救助が来る」
キリコ「……だと良いがな」
305:
副機長「くそっ……な、何で俺がこんな目に……」
機長「泣き事は帰ってからにしろ……見ろ、どこを見ても砂しか無い……」
キリコ「……」
機長「上も地獄、下も地獄だ……」
副機長「……」
キリコ「……そうらしいな」
墜落する飛行機から何とか脱出したものの、俺達は離れ離れになってしまった。
炎熱地獄を眺めながら、俺達はゆらゆらと、風に流されている。
地平線すら、砂と同化したこの世界で。
306:
――
 第十一話
 「帰還」
――
307:
キリコ「機長。あの墜落船は一体何だ」
機長「あれか。恐らく、デザート・スキャンダルで沈んだ船だろう。調査が終わった後は、ATの類は撤去されて、うち捨てられたらしい」
キリコ「……そうか」
機長「……あそこに行っても、何も無いだろうが……」
キリコ「だが、仲間と合流する目印にはなる」
機長「……そうだな。もしかしたら、何か使える物がまだ残っているかもしれん」
副機長「一応、咄嗟に水を持ってきたので、何とか……」
機長「おぉ、でかしたぞ」
キリコ「……着陸の用意をしろ」
ボサッ
カチャッ
キリコ「……」
機長「はぁ、やっとか……まさか、地上がこれ程恋しくなるとはな……」
副機長「えぇ、本当です……」
キリコ「……行くぞ。無駄口は叩くな。余計な体力を使いたくなければな」
機長「……あぁ」
キリコ「……」
ザッ ザッ
――
308:
ウォッカム「……」
ルスケ「キリコ達を乗せた船は、墜落しました。搭乗者全員、脱出には成功したようです」
ウォッカム「それは聞くまでもないが……で、今はどういう状況だ」
ルスケ「はっ。デュノアとボーデヴィッヒが、キリコ達とはぐれたようです」
ウォッカム「ふん……二組になったか……」
ルスケ「そして……国籍不明の揚陸機が二機、あの砂漠に上陸したようです」
ウォッカム「バララントか」
ルスケ「恐らくは。流しておいた情報に食い付いたようです」
ウォッカム「ふん……ヤツらも、あの時の対戦を見て、奪いに来ようとようやく思ったか……。
  わざわざ情報を掴ませたのだ。働いてもらわねばな」
ルスケ「……しかし、よろしいので? もしバララント側にキリコ達が奪われては……」
ウォッカム「ヤツらは、所詮ATしか持たぬ雑魚だ。だが、実験には利用できる、放っておけ。
  万が一捕縛されるような事があっても、こちらにはゴーレムがある」
ルスケ「わかりました。では、このままゴーレムで監視を続けさせます」
ウォッカム「あぁ。周囲に何者も近づけさせないようにしろ、そのバララント隊以外はな」
ルスケ「はっ……」
ウォッカム(……これで決まる……)
ウォッカム(異能の遺伝子は、本当に遺伝が可能なのか。異能とは、遺伝以外でも作成する事ができるのか)
ウォッカム(……キリコは、確かに異能生存体だ。それは疑う余地は無い)
ウォッカム(しかし……一人では足りぬ)
ウォッカム(力は、より強大でなければならぬ。得ようとするものが、大きければ……)
ウォッカム(……)
――
309:
ザッ ザッ
キリコ「はぁ、はぁ……」
機長「はぁ、しかし……熱いな……」
副機長「君は、そんな、厚着で大丈夫、なのか?」
キリコ「耐圧服は、ある程度の環境変化にも対応できる。それと、あまり喋らない方がいい。体力は温存しろ」
機長「……」
キリコ(この丘を、登り切れば……)
副機長「はぁ……ひ、日陰すらない……」
ザッ ザッ
310:
キリコ「……見えたぞ」
機長「んん?」
キリコ「あれが、空から見えた船だ」
副機長「……あれが……」
キリコ「……」
そこには、小さなビル程の炎の消炭が、風と砂に晒されていた。
ギルガメスの大型輸送艇が、広大な砂漠にポツリと突き刺さっている。
あそこに、仲間がいるはずだ。
キリコ「……」
機長「ニュースでは見た事はあるが……本当にあるとはな……」
キリコ「あぁ……移動装置が一機でも残っていれば、幸いなんだがな」
機長「ついでに、水もな」
キリコ「……あぁ」
副機長「しかし、盗賊なんかが荒らしていなければ良いが……」
機長「この辺は、最も街から離れた場所らしいが……どうだろうな……」
副機長「最も街から離れた場所、ですか……ははっ、絶望的だ……」
キリコ「……行くぞ。距離はもう、1kmも無い」
311:
ズササッ……
キリコ「……」
機長「おおっと……」
副機長「……」
キリコ「……」
ザッ ザッ
キリコ「……」
機長「……」
副機長「……はぁ、ひぃ……」
312:
ザッ ザッ
……ィイッ
キリコ「……」
機長「……」
副機長「……」
ザッ ザッ
……ュィイイッ
キリコ「……っ!?」
機長「ん、どうした」
副機長「お、オアシスでも見つかったのか?」
キリコ「静かにしろ……」
……ュィイイイッ
キリコ(この音は……)
313:
キリコ「マズイ……ATだ」
機長「AT? そんな馬鹿な……」
キリコ「走れ!」
ダッ
機長「お、おい!」
副機長「ま、待ってくれ!」
ザッザッザッ
キリコ「はぁ、はぁ……」
キュィイイイッ
機長「な、なんの音だ!」
副機長「だ、誰かが助けに来てくれたんじゃ……」
キリコ「馬鹿を言うな! いいから走れ!」
314:
ザッザッザッ
キュィイイイッ
キリコ「くっ……」
ズガガガッ
副機長「ひぃーっ!」
機長「ぐっ……クソッ! 撃って来やがった!」
キリコ「まだ距離はある! 全力で走るんだ!」
キリコ(横から来たか……マズイな……このままだとかち合う……)
キリコ(マグナムで、やれるだろうか……)カチッ
キリコ「……」
キリコ(やるしかないか……)
キリコ(幸い、周囲にはあの艦が落とした破片がある。カバーする事はできる)
キリコ「あそこの瓦礫に隠れろ! 絶対に頭を出すんじゃないぞ!」
機長「わ、わかった!」
315:
ズガガガッ
副機長「がっ……」バシュゥンッ
機長「お、おい!」
キリコ「振り返るな! 走れ!」
機長「くっ……そっ!」
キリコ「はぁはぁ……」
バッ
機長「はぁ、はぁ、はぁ……」
キリコ(何とか隠れられたが……圧倒的に不利なのに変わりはない)
キリコ(コイツで、持ちこたえなければ……)
機長「し、死んだ……アイツが、死んだぞ!」
キリコ「黙っていろ」
機長「だが!」
キリコ「黙れと言った……死にたいなら、そのまま喋っていても良いが……」
機長「……うぅ……」
キリコ「……」
316:
ズガガガッ
カキンカキンッ
キリコ「くっ……」
機長「ひぃっ!」
キリコ「……」
『撃ち方やめ!』
シュウウッ……
キリコ「……」
機長「う、うぅ……」
キリコ(……攻撃が止まった?)
317:
『キリコ・キュービィー! キリコ・キュービィーはいるか!』
キリコ(……俺?)
『貴様が投降すれば、他の者の命は保障する! 我々は、貴様を保護しに来ただけだ!』
キリコ(あのAT……バララントか……)
キリコ「何故だ! 俺は、ただの学生だ! 今俺はISも持っていない、ただの人間だ!」
『知らん。ただ我々は、貴様を確保する為に来ただけだ。貴様の道理などは関係無い!』
キリコ「ちっ……話にならないか……」
機長「な、何なんだ一体!」
キリコ「……さぁな。どうやら、俺の能力とやらが、必要らしい」
機長「……なら……」
キリコ「俺が出て行っても、アンタは口封じで殺される。不可侵宙域で奴らは軍事行動をとっているんだからな」
機長「……」
キリコ「余計な事は考えるな。俺が援護する、アンタはあれに向かって走れ。良いな」
機長「……わかった」
キリコ「……」
機長「……」
318:
『……30秒以内に出て来い! そうすれば、助けてやる!』
キリコ「……」
機長「……」
『10、9、8……』
キリコ「……」
機長「……お、おい」
キリコ「黙れ」
『5、4、3、2』
キリコ「今だ!」
ザッ
キリコ「くっ」ズキュンズキュンッ
『うお!』パリーンッ
キリコ「走れ!」
機長「はぁっ、はぁっ!」
319:
ズガガガッ
キリコ「くっ……」
機長「ひぃっ!」
『発砲は抑えろ! ヤツを生け捕りにするんだ!』
キュィイイイッ
キリコ「くっ……(敵は五体か……恐らく、まだいるのだろうが……)」
ズガガガガッ
キリコ「……」バッ
カキンカキンッ
キリコ「……」カチッ
ズキュンズキュンッ
パリンパリーンッ
『ちぃっ! レンズをやられた!』
キリコ(ISのおかげか、生身での射撃がやりやすくなったな……)カチャカチャッ
『雑魚は後で良い! ヤツを捕えろ!』
320:
キリコ「……」ジャキッ
バッ
キリコ「……」ザッザッザッ
キュィイイイッ
キリコ「……」バキュンバキュンッ
『うおっ!』パリーンッ
キリコ(レンズを潰すので精一杯か……)
『このっ!』キュィイイッ
キリコ「……」バキュンッ
『うぉおおっ!』カキンッ
キリコ(くっ……この距離では……)
『こいつっ!』グワッ
321:
ガシッ
キリコ「ぐっ……(し、しまった……)」
『隊長! 標的を捕えました!』
『よし、よくやった!』
キリコ「ちっ……(あの船まで、もう少しだと言うのに……)」
『ちっ、そんなチンケな銃でよくやる気になったもんだ』
キリコ「……」
『ISが無きゃただのガキよ……なぁ?』
『あぁ、そうだ』
『へっ、手こずらせやがって――』
322:
ズギュウウウンッ
『うぉっ!』バキンッ
フラッ
キリコ「ふっ!」バッ
『な、なんだ! どこからの攻撃だ!』
ズギュウウンッ
『うわぁああっ!』ドガアンッ
キリコ(カタパルトランチャーを狙った精密射撃……まさか……)
『追え! 逃がすな!』
323:
ズギュウウンッ
『うぉおっ!』ドガァアンッ
キリコ(……ラウラか!)
ラウラ「……」シュウウッ……
シャル「キリコは!?」
ラウラ「無事だ。シャルロット、弾を」
シャル「う、うん! はい!」
ラウラ「……」キュイキュイッ
シャル「あ、キリコと一緒にいた人が船の中に入ったよ!」
ラウラ「一人か」キュイッ
シャル「う、うん」
ラウラ「……そうか」
324:
ラウラ(もう一人は、やられてしまったか……)
ラウラ(無理も無い、か……)
ジャキッ
ラウラ「……」
ピーッ ピーッ ピーッピーッ
ラウラ「……」
ピーピーピーピーピピピピピッ
ラウラ「……」
ズギュウウンッ
325:
『うわぁっ!』バシュウンッ
『くっ……』
『(レンズが壊された為に、レンズを上にあげていた兵をそのまま撃ち抜くか……やるな……)』
『一旦あの船から距離を取れ! 本隊と合流するまで、ヤツらをくぎ付けにしろ!』
『了解!』
ラウラ(キリコの船までの距離、およそ100……近いが、この状況では遠いな……)
ラウラ(今の射撃で、良い威嚇にはなっただろうが……この距離では、こいつの有効射程範囲ギリギリと言ったところか……)
ラウラ(さて……どうする……)
ラウラ「……シャルロット、カバーしていろ」
シャル「えっ? う、うん……」
ラウラ「……」
326:
ズガガガガッ
カキンカキンッ
シャル「わぁっ! こ、こっち撃ってきた!」
ラウラ「……」
ラウラ(現状、敵のATは三体か……まぁ、それだけではあるまい)
ラウラ(この地球で、あまり目立った行動はできない。少数に分け、動いているのだろう……ヤツらは斥候と言った所か……)
ラウラ(この攻撃は、本隊が来るまでの時間稼ぎだ。我らを釘付けにするための……)
ラウラ「……シャルロット! 船の中からまだ使えそうなものが無いか探して来てくれ!」
シャル「わ、わかった!」
カキンカキンッ
ラウラ(今のうちに、あの斥候だけでも残滅せねばなるまい……)
ラウラ「……キリコ、早く来い」
327:
キリコ「……」カキンカキンッ
キリコ(俺への集中が回避されて、幾分やりやすくなったが……)
『おらおら出て来い!』ズガガガガッ
キリコ(依然、釘付けなのは変わらず、か……)
『俺のレンズを割りやがって……早く出てきやがれ!』
キリコ(レンズ無し、肉眼での確認の為に体が丸見えだ……)
『そらそらそら!』ズガガガガッ
キリコ「……」
『ちっ、弾切――』カチッカチッ
ズキュウンッ
『はうっ!』バシュウンッ
キリコ「その隙が、命取りだ……」シュウウッ……
『くっ……クソ、がっ……』ガクッ
キリコ「……」
328:
バッ
ザッザッザッ
キリコ「はぁ、はぁ……」
キリコ(もう、目の前だ……)
『おい! ヤツが逃げるぞ!』
『くっ……過度な攻撃はやめろ! 本隊が間もなく到着する、それまで威嚇射撃を続けるんだ!』
ズギュウウンッ
『ぐおっ!』ドガンッ
『おい! 無事か!』
『う、腕を破壊されました!』
『残骸に隠れろ! 外に出ていては、動いていても当ててくるぞ!』
『りょ、了解!』
『(ちっ、標的が船に入ったか……)』
329:
キリコ「はぁ、はぁ……」ザッザッザッ
シャル「キリコーッ! こっちーっ!」
キリコ「シャルロット! 無事だったか!」
シャル「うん! ラウラも無事だよ! 上の階にいる!」
キリコ「あぁ、だろうな。あの射撃はヤツだろう」
シャル「うん。さっ、キリコ、中に入って!」
キリコ「機長はどこだ」
シャル「機長さんなら、上に行って休んでる。武器を探さないといけないから、早く!」
キリコ「わかった」
330:
ラウラ(キリコが船に到着したか……一人でATも撃破しているし、さすがは我が嫁と褒めよう……)
ラウラ(……この対AT用ライフルでも、やりようはある……)
ラウラ(ISが無くとも、兵士、戦士は戦わねばならない……)
ラウラ(そこが……戦場ならば……)ジャキッ
ピーッ ピーッ ピーッピーッ
ラウラ(瓦礫と瓦礫の間……隙間より見えるカタパルトランチャー……)
ピーピーピーピーピピピピピッ
ラウラ(外しは……せんっ!)
ズギュウウンッ
33

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