春香「人にやさしく」back

春香「人にやさしく」


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1:
続き物


伊織「言いたい事も言えないこんな世の中じゃ」
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2:
【社用車内】
春香「すみません、わざわざ迎えに来てもらって」
P「いいよいいよ、気にするな。 それより春香、ラジオ出演おつかれさん」
春香「はい!」
P「ゴメンな、現場に行けなくて」
春香「いえいえ」
P「そのかわり、ちゃんと移動中に車で聴いてたからな」
春香「なんか恥ずかしいですね」
P「俺なんだから、別に恥ずかしがらなくていいだろ」
春香「プロデューサーさんだからですよぅ」
P「変な春香だな」
春香「……変と恋って似てますよね」
P「は?」
春香「なんでもないです」
3:
春香「もう終わったんですか? 私が出てた番組」
P「うん、春香の出番が終わって少ししてからな」
春香「なぁんだ、ちょっと聴いてみたかったのに」
P「そうだ! CDの宣伝、番組の最後にもう一度やってくれたよ」
春香「ホントですか? やったー!」
P「効果あると良いな」
春香「そうですね!」
『……次のナンバーは、とても元気の出る曲です』
『THE BLUE HEARTSで「人にやさしく」』
P「おっ」
『きーがーくーるーいそぉー』
P「なーなーなーなーなーなーなー!」
春香「わっ! びっくりしたー」
4:
『やさしい歌が好ーきーで……』
P「春香この歌知ってる……よな?」
春香「えぇ知ってますよ! 有名ですから」
P「そっか、少しホッとしたよ」
春香「え? どうしてですか?」
P「いや、こう……年が離れてるとさ、話が噛み合わないときあるじゃん?」
春香「えぇまぁ」
P「ま、歌ならそうでもないだろうけど」
春香「でもプロデューサーさんと噛み合わないことって、そうないですよね」
P「俺もまだまだ若いってことかな」
春香「う?ん、そんな感じでもないですけど」
P「とかなんとか言ってると、小鳥さんに怒られそうだ」
春香「……ですね」
5:
P「……マイクロフォンのなーかからぁー」
春香「ガンバーレって言っているぅー」
『聞こえてほーしーい あなたにも』
P・春香「がんばれぇー!」
P「……とまぁ甲本さんはがんばれと歌ってくれてるけれども」
P「春香の予定は終わったし、今日はもうがんばらなくてもいいよ」
春香「はい」
P「事務所で少しゆっくりしてから帰るといい」
春香「そうします」
P「どっかコンビニでも寄る?」
春香「いえいえ、いいですよ」
P「そうか」
春香「早く戻んないと、プロデューサーさんも仕事があるんでしょ?」
P「……はい」
6:
【事務所】
P・春香「ただいま戻りましたー」
小鳥「お二人とも、おかえりなさい」
真「お疲れ様です! 春香も、おつかれ!」
春香「うん!」
真美「はるるん、兄ちゃん、おかえりんぐー」
雪歩「お、おかえり……なさい」
春香「ただいま!」
P「なんだか今日は熱烈な歓迎を受けてるなぁ」
春香「そうですね」
P「人数多くて、いつもより幾分にぎやかですね」
小鳥「えぇ、おかげさまで今日は寂しくなかったです」
P「いいかげん一人に慣れましょうよ」
小鳥「だってぇ」
7:
春香「雪歩は今日なにしてたの?」
雪歩「私は真ちゃんと一緒で……」
真「雑誌のインタビューだったよ」
春香「そっか……真美は?」
真美「暇だったから遊びに!」
春香「あ、そう……」
真美「ずっと3DSしてたんだけど、充電器忘れちゃって……」
春香「ゲームは一日一時間だよ」
P「小鳥さんは何してたんですか?」
小鳥「主に休憩を」
P「こら」
小鳥「冗談ですよ」
真美「マインスイーパーばっかりしてたよ」
小鳥「違います! ソリティアも…………ぁ」
P「……コラ」
10:
P「じゃ春香、俺仕事に戻るから」
春香「はい! あの……ありがとうございました」
P「どうしたんだ急に礼なんて」
春香「なんとなくです」
P「そっか……ありがとな」
春香「プロデューサーさんもどうしたんですか急に?」
P「俺もなんとなく」
春香「ふふっ」
P「礼を言ってくれてありがとう……かな?」
小鳥「それじゃ私もなんとなく、ありがとうございます」
P「あはは」
春香「うふふ」
小鳥「おほほ」
真美「なにやってんのキミたち?」
11:
小鳥「春香ちゃん、お飲み物用意しましょうか?」
春香「はい! おねがいします」
小鳥「お茶とコーヒー、どっちがいーい?」
春香「えと……コーヒーで!」
小鳥「わかったわ、ソファに座って待っててね」
小鳥「はいどうぞ」
春香「あっ、ありがとうございます」
小鳥「一応ミルクと砂糖は入れたけど……足りなかったら自分でお願いね」
春香「はーい」
小鳥「それじゃ……ゆっくりしていってね!」
春香「……は、はい」
春香「フゥー……フゥー……コク…コク……」
春香「…………」
春香「もうちょっと砂糖入れよ」
12:
春香「…………」
真美「まこちーん早く次のページぃ」
真「ボクが買ったんだからボクのペースで読ませてよ」
真美「だって読むの遅いんだもーん」
真「この後読ませてあげるから」
春香(雑誌? 二人ともなに読んでるのかな……)
真美「一人じゃつまんないよー! 一緒に読むからイイんじゃん」
真「真美は邪魔してるだけでしょ」
真美「そっか……まこちんゴメンね………グスン」
真「あっいや! そ、そんなつもりじゃ……」
真美「真美……もう帰るね」
真「い、一緒に読もうよ! ボク、一人だとつまんないからさ!」
真美「へへっ、やーりぃ!」
真「あー! 騙したなー!?」
真美「記憶にございませーん」
13:
春香「ふふっ、二人とも楽しそ…………二人?」
雪歩「…………」
春香「雪…歩?」
雪歩「…………はぁぁ」
春香(どうしたんだろ……なんだか元気が無いみたい)
真「わーこの服、すっごく可愛い!」
真美「え?? まこちんには似合わないっしょー」
真「そ、そうかな……」
春香(二人とも気付いてないし……)
P「…………」カタカタ
小鳥「…………」カチカチ
春香(プロデューサーさんも小鳥さんも忙しそうにしてる)
雪歩「…………」
春香(ど、どうしよう……)
春香(声……かけようかな)
14:
春香(でも……無理に聞こうとすると、逆にプレッシャーになったりして……)
春香(それで私に苦手意識を持っちゃったりとか……しないかな)
雪歩「…………」
春香(でも、だからってあのまま放っておくわけにもいかないし……)
春香「…………」
春香(でもでも……やっぱり出しゃばらない方がいいのかなぁ)
春香(真だって、いつも雪歩のこと気にかけてる)
春香(それで私がこれ見よがしに雪歩に声をかけたりしたら……)
春香(真は私に……)
春香「…………ぁ」
春香(私……自分のことしか考えてない)
春香(今大事なのは雪歩のことだよ)
春香(雪歩が元気無いから、話を聞こうとしてるのに……余計なことばかり考えてる)
春香(……やっぱり声かけよう)
15:
春香「……よし」
春香(ゆっくり近づいて……)
春香「あ、あの……ゆk――」
真「雪歩? どうかしたの?」
雪歩「えっ……う、うん……ちょっと」
真美「ほうほう、真美さんに話してみなさい」
雪歩「うん……実はね――」
春香「…………」
春香(なにやってんだろ……私)
春香(色々気にかけてるクセに、何も出来ないで時間だけが過ぎて)
春香(力になりたいと思っていても、行動しないのなら思ってないのと一緒だよ……)
春香「…………」
小鳥「春香ちゃんどうしたの? そんなところに立って」
春香「……はぁぁ」
小鳥「???」
16:
春香(雪歩が心配なはずなのに、嫌われたら……とか、出しゃばりたくない……とか)
春香(自分がどう思われるかばかり気にしてる……)
小鳥「春香ちゃん」
春香(それって結局、自分のことしか考えてないってことだよ)
小鳥「はるかちゃーん?」
春香(そもそも周りを気にかけてるのだって……)
春香(自分が気の利く優しい人だって、そう思われたいだけ)
小鳥「…………コホン」
春香(自分を良く見せようとしてるだけなんだ……)
小鳥「春香ちゃん!」
春香「えっ? あ……はい?」
小鳥「なんだか考え込んでるみたいだけど……どうかしたの?」
春香「いえ、なんでもないです」
小鳥「そう……それじゃ私、仕事に戻るわね」
17:
小鳥「…………」
春香(小鳥さん……心配してくれたのかな?)
小鳥「……ふぅ」
春香(小鳥さんは優しいなぁ……真だって、真美だって……みーんな優しい)
春香(でも私は……)
小鳥「…………」
春香(小鳥さん……やっぱり私、違います)
春香(あの時小鳥さんが言ってくれたような、優しい人間じゃない)
春香(私は……わたしは………)
春香「チガウんです」ボソッ
小鳥「え? 何か言った?」
春香「あ、いえ……ち、違うんです!」
小鳥「何が違うの?」
春香「えと……そのぅ……なんでもないですからっ」
小鳥「わ、わかったわ」
18:
春香「…………」
春香(小鳥さんが言ってくれたこと……照れくさかったけど、本当に嬉しかった)
春香(私がそのとおりの人間だったら良かったのに……)
『春香ちゃんは優しい子で、いつも周りを気にかけてる』
春香(私は優しくなんてない……周りを気にしてても、結局は何も出来ない)
『見返りを求めない優しさが春香ちゃんの魅力』
春香(見返りなんて求めてない……けど、自分を良く見せようとしていたのかも)
春香(私はただ、自分に酔ってただけなんだよ)
春香(優しい自分を演じて、自己満足してた……)
春香(褒めてもらいたくて気が利くフリをしていただけ)
春香(そうだよ……私は優しくなんてない)
春香「……はぁ」
19:
ガチャ
小鳥「あっ、おかえりなs――」
律子「アンタはもう少し考えてから行動しなさい」
伊織「してるわよ!」
春香「!?」
律子「よく言うわ」
伊織「大体律子もヘコヘコしすぎよ!」
律子「まったく……誰の所為でヘコヘコしなきゃなんないと思ってるのよ」
伊織「私の所為じゃないでしょー?」
律子「伊織が突っかかるからでしょーが」
伊織「それはアイツ等がウチの悪口を言うからよ!」
律子「確かにそうだけど、だからって……」
春香(……どうしたんだろう?)
20:
伊織「あ、春香!」
春香「へ?」
伊織「春香聞いて! 私、アイツ等に言ってやったわよ!」
春香「あいつら?」
伊織「ほら、前にテレビ局の人に悪口言われて、言い返せなかったって……」
春香「あぁ……あの時の」
伊織「また765プロの悪口言ってたから、今度は言い返してやったの!」
律子「ご丁寧に胸倉まで掴んで……ね」
伊織「そのくらいしないと気がすまないわっ」
律子「元々は相手側に問題があったわけだから、今回は大事にはならなかったけど……」
律子「今度からは、あまり感情だけで動かないこと」
伊織「わかってるわよ」
律子「ま、正直……スカッとしたけどね」
伊織「律子、止めに入るのが遅かったもん……そうだと思った」
律子「ふふっ」
21:
伊織「でも……春香の言ってくれたこと、無駄にしちゃったわね」
春香「私、何か言ったかな?」
伊織「ほら『悔しいと思うことが悔しい』って言ってたじゃない」
春香「あ、うん」
伊織「いちいち気にしなくていいって、頭では分かってるんだけど」
伊織「目の前で悪口言われたら……ね」
春香「そうだよね……行動しなきゃ、意味無いよね」
伊織「……へ?」
春香「思ってても何も行動しなかったら、思ってないのと一緒だもん」
伊織「何の話?」
春香「ううん、コッチの話」
伊織「そ、そう……」
春香「伊織が羨ましいなぁ」
小鳥「…………」
22:
小鳥(春香ちゃん……さっきから少し様子が変ね)
小鳥(何かあったのかしら……)
春香「…………」
小鳥(でも帰ってきたときには、元気が無いってわけでもなかったし)
小鳥(かといって、ここで何か起きたかって言うと……)
真美「いおりん、ひっぱたいてやればよかったのに」
P「おいおい……それだとご褒美になっちゃうだろ」
真美「兄ちゃんって本当に変態だったんだね」
P「ありがとうございますっっ!」
小鳥(……別にいつもどおりだし)
伊織「…………」
春香「…………」
小鳥(ど、どうしよう……)
小鳥(声……かけようかしら)
23:
Prrrrrrrr! Prrrrrrrr!
律子「おっと携帯携帯…………はい、もしもし?」
律子「あっはい! その件でしたら――――」
小鳥(ちょうど律子さんも電話を受けてるし……よし)
小鳥「あ、あのぅ……春k――」
伊織「小鳥、待って」ボソ
小鳥「え?」
伊織「私が言うから……お願い」ボソボソ
小鳥「……あ、うん」
春香「…………」
伊織「…………コホン」
伊織「春香、ちょっと……いいかしら?」
春香「えっ?」
24:
伊織「小鳥、会議室使うわよ?」
小鳥「あっはい、どうぞ」
伊織「行こ? 春香」
春香「いや……あの」
伊織「時間あるわよね?」
春香「……う、うん」
バタン
小鳥「ねぇプロデューサーさん?」
P「はい」
小鳥「春香ちゃん、いつもと違ってたりしませんでした?」
P「……いえ、いつもどおりでしたよ?」
P「むしろいつもより元気に見えましたけど」
小鳥「そうですか……」
25:
【会議室】
伊織「えと……春香」
春香「……うん」
伊織「もし間違ってたら、それはそれでいいんだけど……」
伊織「春香さ、いま……悩みとかってある?」
春香「え? 悩み?」
伊織「そう」
春香「や、やだなぁ?私に悩みなんてあるわけ……」
伊織「ホントに?」
春香「…………」
伊織「春香、最近元気が無いように見えるわ」
春香「そんな風に見える?」
伊織「春香はいつも元気だから、余計にそう感じるのかもしれないけど」
春香「そうだよ、私はいつもどおり元気だよ」
26:
伊織「ま、本人がそう言うのなら……いいわ」
春香「うん」
伊織「ただ、これだけは覚えておいて欲しいってことがあって……」
春香「???」
伊織「…………」
春香「伊織?」
伊織「い、一度しか言わないから……ちゃんと聞いてよね」
春香「うん、わかった」
伊織「えっとぉ、私も……その……は、春香の味方だから」
春香「え?」
伊織「あの時……悪口言われて落ち込んでた時、私は春香のお陰で元気になれた」
伊織「そのお返しってわけじゃないけど、何か嫌なことがあった時には言って頂戴」
伊織「私なんかで役に立つかは分かんないけど……」
伊織「す、少しでも春香の力になれたらいいなって……思ってるから」
春香「伊織……」
27:
伊織「しつこいけど、ホントに何もない? 悩みとか嫌なこととか」
春香「悩みって程じゃないけど、ちょっと……分かんなくなっちゃって」
伊織「分かんない?」
春香「……うん」
伊織「なにが?」
春香「自分が」
伊織「春香が……分かんない?」
春香「そう、私が」
伊織「それってどういう……」
春香「自分がどんな人間なのか、分かんないの」
春香「少なくとも私は、みんなが思ってるような優しい人間じゃない」
伊織「…………」
春香「あの日……小鳥さんにクッキーを渡したとき、小鳥さんがね――」
28:
――――
――
伊織「そう……小鳥がそんなことを」
春香「うん」
春香「優しい子だって言われて、すっごく嬉しかった」
春香「でも私は優しくなんてない」
伊織「そんなことないわよ」
春香「ううん、そんなことある」
春香「さっきだって雪歩が元気無かったのに、何も言ってあげられなかった」
春香「余計なことばかり頭に浮かんで、雪歩のことはそっちのけ」
春香「結局何もしてあげられなくて、逆に自分が落ち込んじゃったり……」
伊織「そうやって落ち込んでることが、春香が優しいって証拠じゃない」
伊織「私なんて……雪歩が元気無いってこと、今春香に聞いて知ったくらいよ?」
春香「それは……」
伊織「気付いてあげられるだけでも、春香はすごいと思うわ」
29:
伊織「うん、なんとなく分かった。 春香のこと」
春香「え?」
伊織「私……こういうの慣れてないから、上手く言えないけど……」
伊織「春香は春香になろうとしすぎてるのよ」
春香「私になろうとしすぎてる……?」
伊織「小鳥が言ったことは間違いじゃないわ」
伊織「春香は優しくて、いつもみんなを気にかけてる」
春香「それは違うよ」
伊織「あら? それを一番実感したのは私よ?」
伊織「あの日、誰が私を大泣きさせたんだっけ?」
春香「あれは……」
伊織「大体、自覚が無いのは当たり前よ。 春香はそれが無意識で出来てるんだから」
伊織「だけど、小鳥に優しさが魅力だと言われたことで、それを自覚してしまった」
春香「…………」
30:
伊織「その所為で……っていうと、小鳥が悪いみたいに聞こえるけど」
伊織「春香は心のどこかで、みんなが思う『優しい春香』でなくちゃいけないって……」
伊織「そう考えてるんじゃないかしら?」
春香「優しい春香……」
伊織「人の期待がプレッシャーになることってあるでしょ?」
春香「うん」
伊織「そんな風に、春香がプレッシャーを感じてるんじゃないかって思うの」
伊織「優しくならなきゃいけない……ってね」
春香「プレッシャー……かぁ」
伊織「それを感じさせてるのは、私達なんだろうけど」
伊織「今の春香は『春香』であることにこだわりすぎて、春香じゃなくなってる」
春香「…………」
伊織「本当に優しい人ってのは、なろうと思ってなれるようなものじゃない」
伊織「人にやさしく……なんて、そんなこと春香は考えなくて良いのよ」
伊織「春香は春香のままで、十分優しいんだから」
31:
伊織「春香の前だから言えるし、みんなも分かってるだろうけど……」
伊織「ぶっちゃけると、アイドルのときの私は猫を被ってるわ」
春香「ま、まぁ……そだね」
伊織「でも、ずっとそれだと疲れちゃうでしょ?」
伊織「だから私は事務所に居るときとか、みんなの前では素の自分で居る」
春香「…………」
伊織「春香は今、必死で『春香』を被ろうとしてる。 そんな必要ないのに」
伊織「だって、そんなの被らなくっても春香は春香じゃない」
春香「……うん」
伊織「段々自分が何言ってるか分かんなくなってきたから、この辺にしとくわ」
伊織「とにかく、もう少し肩の力を抜いたほうが良いんじゃない?」
伊織「春香は私と違って、自然体がいいのよ……多分」
春香「そだね、ありがと伊織」
伊織「どういたしまして。 春香には助けられてばかりだから、たまには……ね」
春香「ありがとう」
32:
伊織「さてと…………小鳥、いるんでしょ?」
春香「えっ」
伊織「そんなコソコソしてないで、入ってきなさいよ。 ちょうど喉も渇いたし」
ガチャ
小鳥「ぬ、盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
伊織「別にいいのよ。 それより、アンタも春香のこと気にしてたんでしょ?」
小鳥「えぇ」
春香「小鳥さん……」
小鳥「春香ちゃん、ゴメンナサイ」
小鳥「私……春香ちゃんに悪いことしちゃったね」
春香「そんなことないですよ! ホントに嬉しかったんですから」
小鳥「でも、その所為で春香ちゃんが……」
春香「それはもう大丈夫です。 伊織のお陰で」
伊織「わ、私は……別に何も」
33:
春香「私、やっと分かった」
小鳥・伊織「えっ?」
春香「私が優しくなれるのは、みんなが優しいから」
春香「人にやさしくされるから、人にやさしくなれるんです!」
春香「…………あれ?」
春香「人にやさしくなれるから、人にやさしくされる……アレ?」
小鳥「いや、言いたいことはすっごく良く分かるわ!」
伊織「えぇ、伝わってるわ!」
春香「そ、そか……よかった」
小鳥「ほら、春香ちゃん言ってたじゃない『笑顔のお返し』って」
春香「あ……はい」
小鳥「優しさも、人に与えて、人から与えられて……」
小鳥「そうやって信頼関係が出来て、絆が生まれるのよ」
伊織「そうね……結構クサい台詞だけど、その通りかもしれないわ」
小鳥「そこ、恥ずかしくなるようなこと言わない。 さっきのアナタも大概よ」
34:
伊織「ささっ、もう戻りましょ」
春香「うん!」
小鳥「私もソリティ……仕事に戻らないとっ!」
ガチャ
雪歩「…………」
小鳥「わっ! びっくりしたぁ」
伊織「雪歩?」
雪歩「あの……春香ちゃん」
春香「えっ、私? どうしたの?」
雪歩「うん…あ、あのね……そのぅ」
真美「ゆきぴょんね、はるるんにおせーて欲しいことがあるんだって!」
春香「教えて欲しいこと?」
雪歩「…………」コクッ
春香「そっか……なーに?」
35:
雪歩「こ、この前クッキー作ったんだけど、失敗しちゃって……」
真「どうしたら春香みたいに上手に作れるのか、教えて欲しいんだって」
春香「あっ、それでずっと元気が無かったんだ!」
雪歩「……うん」
春香「なぁーんだ、そんなことか」
雪歩「ぇ」
春香「あっ……ち、違うよ! すっごく落ち込んでたから……」
春香「何か嫌なことがあったんじゃないかって思ってたの」
春香「だからお菓子のことだって聞いて、ちょっと安心しただけっ!」
伊織「でも、雪歩がお菓子作るなんて珍しいじゃない」
雪歩「やっぱり似合わないよね」
伊織「いや、別に似合わないとかってんじゃなくてっ!」
真美「お二人とも随分と慌ててますなぁ」
春香・伊織「……ウルサイ」
36:
春香「どんな風に失敗しちゃったの?」
雪歩「なんだか硬くなっちゃって……」
春香「う?ん……粉を合わせるときの混ぜ方とかで、そうなったりするかなぁ」
雪歩「混ぜ方?」
春香「うん、あまり混ぜすぎちゃダメだよ」
真「へぇーそうなんだ」
春香「ボールを回しながら、ヘラで切るように混ぜるの」
雪歩「そ、そっか」
真「切るようにってよく聞くけど、いまいち分かんないよね」
伊織「確かに」
春香「そうかな? 分かりやすいと思うけど……」
真美「真美知ってるよ? コの字型でしょ?」
春香「うん、違うよ」
真美「……やっぱり?」
37:
春香「う?ん……言葉じゃ説明しづらいね」
伊織「だったら今から作る?」
春香「えっ?」
伊織「材料揃えてウチで一緒に作れば良いじゃない」
伊織「アンタ達、今日はもう何も無いんでしょ?」
春香「うん、私は無い」
真「ボクと雪歩も」
真美「真美は元々予定なかったし」
伊織「だったらちょうど良いじゃない」
雪歩「で、でも……」
伊織「律子? プロディーサー? 良いわよね?」
律子「えぇ良いわよ」
P「そうだな、楽しんでおいで。 怪我だけはしないように気をつけるんだぞ」
小鳥「わ、私も……」
P・律子「小鳥さんはダメ」
38:
伊織「そうと決まれば、早迎えに来てもらいましょ! 材料もウチで用意させて……」
春香「あっ、材料はみんなで買わない?」
真「うん、そうだね。 そっちの方が楽しいし!」
真美「先生ー! バナナは材料に入りますかー?」
春香「ダメってこともないだろうけど……どうだろ?」
伊織「果物はウチに沢山あるから、買わなくても平気よ」
真「流石は伊織だね」
真美「ねぇねぇ、失敗したとき用の市販クッキーもある?」
春香「失敗するの前提なんだ……」
雪歩「ふふっ」
ガチャ  バタン
P「…………」
小鳥「…………」
律子「…………」
39:
P「なんかシーンとしちゃったな」
律子「そうですね」
小鳥「私はジーンと来ちゃいました………グスッ」
P「泣くほど行きたかったんですか?」
小鳥「いえ……みんな良い子で、みんな仲良しで……」
小鳥「そんなみんなを見てると……すんっ……なんだか涙が出てぎぢゃっで」
P「そ、そう……ですか」
律子「…………」
P「……だいぶいってるからさ、涙腺が緩くなってるんだよ」ボソボソ
律子「荒んだ心に染みるんでしょうね」ボソボソ
小鳥「……聞こえてるんですけど?」
P「ちょっとトイレに」
律子「さぁ仕事仕事ー!」
小鳥「んもうっ! アナタ達はもう少し人にやさしく……」
END
40:
お粗末さまでした
42:
いい話だなぁ

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