千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」back

千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」


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3:
   
――――――――
――――――
――――
――
トクン……
楽「小野寺……?」
小咲「一条くん。私、実はね――」
ドクン
小咲「……私ずっと一条くんのこと――」
楽「小野……寺……?」
ドキン ドキン
小咲「す……す……」
小咲「す――」
ガシャアン!
ニセコイ 11 (ジャンプコミックス)
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4:
   
「うわっやっべー!」「バカ! なにやってんだよ」
「誰だよ今打ったの!」「すいませーん!誰か当たってないですかー!?」
小咲「……」プルプル
楽「……」プルプル
楽「……ったく危ねえな!! 気をつけろよなあんたら!!」
「やべっ! 人いた!!」
小咲「……」バックンバックン
6:
    
楽「……ったく。わりー小野寺。オレちょっと先生呼んでくるわ」
楽「あ、ガラスは触んねー方がいいぞ?」
小咲「へ? あ……はひゃい……」
楽「じゃあ、行ってくる」
小咲「う、うん。お願い」
楽「……そういえば小野寺、今――」クル
小咲「っ!」ビクッ
楽「……なんだ?」
小咲「ご、ごめん。その、一条くん――」
小咲「……ど、どうしてずっと、そんな怖い顔してるの?」
楽「……」
7:
    
楽「いやだって、あいつら……。危ねえなって」
小咲「そ、そうだよね。もう少し気をつけてほしいよね」
楽「ああ……。ケガ、ないよな?」
小咲「うん。大丈夫……」
楽「よかった……。本当に……」
小咲「……?」
楽「それじゃ……」
楽(……ちくしょう。また、かよ)
楽(もう、やめてくれよ……。本当に、これじゃあまるで――)
11:
   
――――――――
――――――
――――
――
プルルル ガチャ
千棘パパ「……私だ。なんだ」
『ビーハイブのボス……、アーデルト・桐崎・ウォグナーですね』
千棘パパ「……君は?」
『私のことなどどうでもいい。用件だけを、伝える』
千棘パパ「……」
『ただちに集英組との抗争を、止めてください。今すぐに、です』
12:
   
千棘パパ「抗争を? それは、無理だな。こうなってしまった以上は――」
『白旗を掲げてでも、です』
千棘パパ「……ふん、集英組の者だったか。切るぞ」
『今の娘さんを見ていて、辛くはないですか?』
千棘パパ「……なんだと?」
14:
   
『あなたの言葉のせいで、娘さんは大変に苦しんでいらっしゃいます。思いつめて、いらっしゃいます』
千棘パパ「……」
『あんなか弱いお嬢さんに、ギャングとヤクザの抗争の抑止を任せるなんて……。あなた、本当に人の親ですか?』
千棘パパ「私はただ、娘が一条 楽と仲直りして、もう一度ニセモノの恋人同士に……」
『そうやってあなたが課した使命が、彼女を苦しめてると言ってるんだ』
千棘パパ「……くっ」
『あなたの娘さんは今、一条 楽どころか……。その彼女である小野寺 小咲、その友人の宮本るりにも、嫌われてしまってるんです』
千棘パパ「なっ!?」
『他に仲の良い友達もいない娘さんは今、それでもたった一人で、あなたから課された使命を、全うしようとしてるんです』
千棘パパ「……そんな、千棘」
『一条 楽との関係も、悪化するばかり。仲直りなんて、到底見込めない状態だ』
『……嘘だと思うなら、クロードのように、直接学校に見に来ます? 娘さんの、悲惨な姿を……』
千棘パパ「ぐっ……。うぅ……」
16:
   
『……娘さんを早く、解放してあげてください』
『これ以上娘さんを苦しめるのは、やめてあげてください……』
千棘パパ「わ、分かった……。集英組には、降伏する。抗争は今日をもって、終戦だ」
『理解していただけたようで。ありがとうございます』
『それでは、私はこれで……。あ、そうそう』
千棘パパ「なんだ。まだ何か、あるのか」
21:
    
『明日から、学校がお休みになるそうです。といってもまあ、抗争が今日で収まるなら、それも短い間でしょうが――』
『どうでしょう。明日は娘さんに、街に出向いてみるよう、勧めてみては』
千棘パパ「な、なにを言ってるんだ君は……」
『娘さんにも気持ちの整理が必要でしょう? 気分転換にでも、ね』
千棘パパ「分かった……。提案してみるよ」
『素敵なことが待ってると、そうお伝えください……』
 
千棘パパ「……君は、何者なんだ? 娘とは、どういった関係で?」
『……ただの友達ですよ。至って普通の、なんでもない……。だけどホンモノの、友達です』
そして、数日後――
  
24:
   
――――――
――――
――
千棘「おっはよ―!」
小咲「おはよー千棘ちゃん。あれ? 千棘ちゃん、それ……」
千棘「うん。髪、短くしてみたの……。どうかな?」
小咲「かわいい……」ボソッ
千棘「えっ?」
小咲「すっごく、似合ってるよ! うわぁ……可愛いなぁ」
千棘「そ、そう?」カァァァ
るり「あら、ほんと。流石千棘ちゃん。どんな髪型でも、似合うわね」
千棘「る、るりちゃんまで……」
25:
ナニコレ怖い
28:
   
集「おーっ! 桐崎さん、イメチェン?」
千棘「あっ。舞子くん。ど、どう?」
集「……これは、ヤバいですなぁ。なんというか、その、抱きしめたい……」
千棘「えっ……!」ビクッ
るり「ごめんね、千棘ちゃん。すぐ殺すから」
集「るりちゃんこわーい」
ガラッ
楽「おはようー」
小咲「あっ。楽くん、見てみてっ! 千棘ちゃんが……」
楽「……おっ」
千棘「……あはは」
33:
    
楽「へぇ。似合ってるじゃん。俺、こっちの方が好きかも」
千棘「ほんと!? ありがとうっ」
楽「そうだ集、昨日借りたCDさぁ」
集「お前、顔真っ赤だな」
楽「昨日借りたCDさぁっ!」
小咲「楽くん……」ムスー
るり「あら、小咲。今の反応、いいわね。すごく恋人同士っぽい」
小咲「るりちゃん!」
千棘「一条くん、いけないんだぁ。小咲ちゃんがいるのにー」
楽「うあぁぁすまんっ! 小咲ぃ!」
千棘「あははっ! あはははっ」
35:
もやもやするよな怖すぎwwwww
36:
    
――
放課後
楽「帰ろうぜ、こさ――」
集「おーっと楽ぅ! そうはさせないぜぇ!」
楽「なんだよ……」
集「お前最近、小野寺とばっかり帰りやがってよぉ。俺が寂しいじゃんかよぉ」
楽「い、いいだろ。恋人同士なんだから」
集「言うようになったじゃん。でも今日ぐらいは、いいだろー?」
楽「……」
小咲「そうだよ、楽くん。たまには舞子くんと、帰ってあげなよ」
楽「小咲が、そういうなら……」
集「きまりぃ!」
38:
  
小咲「あ、るりちゃん。一緒に――」
るり「わったし部活あるからー! 小咲は今日も一条くんと、手をつないで帰りなさーい!」
小咲「あっ、ちょ、ちがっ……。今日は楽くんは、舞子くんと……」
るり「えっ。そ、そうなの……。でも私、本当に部活あるから……」
小咲「えぇー……。じゃあ、千棘ちゃんと……」
るり「もういないわよ」
小咲「あれっ!? は、早いっ!」
るり「……」
小咲「……じゃ、じゃあね、るりちゃん。また明日」
るり「あんたって意外と、友達少ないわよね……」
40:
  
――
帰り道
テクテク
集「全部お前の計画通り、か?」
楽「……はぁ? なんだよいきなり」
集「とぼけんなよぉ。みんなお前の、手のひらの上だったんだろぉ?」
集「ったくよぉ、一番クレイジーなのは結局、お前だよなぁ。楽よぉ」
楽「誰がクレイジーだ……」
集「で、どうなのよ? お前の計画は、達成できたのか?」
楽「……お前には全部、お見通しってか」
楽「ああ、達成された。長い戦いだったが……。ようやく全部、終わったよ」
集「……ほう」
42:
  
集「で、お前の計画って?」
楽「いや、お見通しなんじゃなかったのかよ」
集「まさか。まあなんとなくこうかなぁ、って言う予想はついてるけど」
集「でもお前の口から、聞きたいんだよ。お前がなにを考え、どう行動していたのか……」
楽「……悪趣味なヤツだな。やっぱり、小咲と帰りゃよかった」 
集「つれないねぇ。いいからおしえろよー」
楽「……」
集「……お前は結局、なにがしたかったんだ?」
楽「……俺は、ただ――」
楽「桐崎と、『友達』になりたかっただけだよ」
44:
   
集「桐崎さん……か……」
集「……変わったよな、彼女。性格から喋り方、髪型に至るまで……」
楽「髪型は、あいつが勝手に……」
集「いや、お前が変えたようなもんさ。以前の彼女なら、あんなこと……」
楽「……俺のせいって、言いたいのか?」
集「んー?」
楽「桐崎が変わっちまったのは、俺のせいって……」
集「んー。お前のせいっていうかー……」
集「……お前のおかげ、かな?」
45:
  
楽「そうか。お前はそう、言ってくれるか……」
集「俺は前の彼女より、今の彼女の方が、好きだしね」
楽「……そうか」
楽「俺も前のアイツは、嫌いだった」
集「……別に俺は、嫌いとは」
楽「大嫌いだった」
集「……」
楽「……憎んでさえ、いたんだ」
46:
僕は前の彼女のほうが好きでした!
47:
    
楽「あいつのせいで……。桐崎 千棘のせいで、俺の日常は、崩壊した」
楽「ギャングとの抗争、ニセモノのカップル、クロードの監視――」
楽「あいつが転入してきたあの日から、俺の平穏な日常は、崩れ去った」
楽「そして、いつだって……。あいつが非日常の、中心だった」
集「……」
楽「あいつとニセモノの恋人になってからさ……。何度も思ったよ」
楽「こいつさえいなけりゃ、どんなに俺の世界は平和かって……」
楽「悪口は言うわ、暴力は振るうわ……。おまけにイチャイチャしてるところを見られて、小咲に勘違いされるわ……」
楽「最悪の女だなって。疫病神だなって。思ってた……だけど」
集「……だけど?」
楽「だけど同時に、もしこいつと普通の友達同士でいられたら、どんなに楽しいだろうって、思ったりもした」
50:
    
楽「俺、気づいたんだよ。桐崎が、小咲や宮本……。他のクラスメイトと、話してるところをみて」
楽「こいつも普通に、女の子なんだなって……」
楽「普通に可愛いところもあって、明るくて、話す時は楽しそうに、笑顔をみせて……」
楽「……でも俺と話す時だけは、ぶすっとした顔して、女子らしくない汚い言葉使って、人のこと殴って……」
楽「そんな桐崎が、嫌いだった」
楽「俺にも、俺と話す時にも、あの笑顔を、見せてほしかった」
楽「だから、その性格を『矯正』してやろうって、そう思ったんだよ」
集「『矯正』とはまた……」
楽「あいつを普通の女の子に、変えたかった。そして――」
楽「あいつと普通に、友達になりたかった」
楽「だからあの日、俺はあいつと大喧嘩し、無視を始めた」
楽「『桐崎 千棘 矯正計画』が、始まったんだよ」
53:
   
楽「なにを言われようが、俺は桐崎を無視した」
楽「だんだん弱ってくあいつを見るのは辛かったが、見ないようにして、また無視を続けた」
楽「だけどお前や小咲、宮本がいる前では、無視をやめた。普通に、友達のフリをした」
楽「普通に無視するよりも、あいつの感情を揺さぶるに当たって、効果的だと考えてな。結果は、成功だったと思う」
楽「途中、わざとあいつが俺を殴るように、誘った時もあった」
楽「もちろんその後、あいつに俺を殴ることをやめるように、訴えかけるためにな」
楽「結果、あいつは暴力を振るわなくなった。矯正計画の、大きな成果だ」
楽「それでもあいつは俺に、謝ることはなかったが……。それで、よかった」
楽「あいつが謝るより先に、俺が謝ってやると……。そう心に、決めていたからな」
集「……」
59:
   
楽「どっかのタイミングで、『もやし』って呼び方も、やめさせた」
集「……最近は『一条くん』って、呼んでるよな。正直最初は、違和感バリバリだったが」
楽「まあ、普通に呼び捨てでもよかったが……。なんかナメられそうな気がしたから、くん付けで」
集「それだけかよ……」
楽「とにかくこれも、矯正計画の成果だ。そしてあとはもう、あいつの心を折るだけだった」
集「……はぁ?」
楽「あいつの心をバキバキに折って……。もうどうしようもないぐらい、絶望させて……」
楽「そして最後に俺が、手を差し伸べる。希望を、与える」
楽「突然与えられた希望に、泣きながらすがるあいつを想像して――」
楽「その時のあいつなら、俺の『普通の友達』になってくれるんじゃないかと、そう考えたんだ」
62:
        
――
ブロロロロ……
小野寺(な、なんか一人で帰るの、すごい久しぶりな気が……)
小野寺(……楽くんと舞子くん、今頃どんなお話してるのかなぁ)
キキーッ バタン
小野寺(ま、いっか。また明日学校で、会えるし――)
「小野寺 小咲だな」
小咲「……えっ?」
「一条 楽の、『ホンモノの恋人』の……」
小咲「えっ。あ、あの、どちら、様で……」
「悪く思うな。全ては一条 楽が、招いたことだ――」トンッ
小野寺(えっ……。な、に……。なんか、頭が、くらくらして……)
小野寺(らく、くん……)ドサッ
「……一条 楽。貴様には、罪を償ってもらう」
「お嬢を悲しませた、罪をな……」
67:
  
――
楽「桐崎の心を折るためにまず考えたのが、あいつが小咲に嫌われる方法だった」
楽「小咲が桐崎のことを嫌いになれば、きっと宮本も……。そうすればあいつは、一人になる」
集「……でもさ、小野寺がそう簡単に人のこと、嫌いになるか?」
楽「そうだ。そこが悩みどころだった。でも、俺は小咲を、信じた」
楽「きっと小咲は……。『俺の事』を悪くいうヤツのことなら、嫌いになってくれるんじゃないかって」
集「ほう……」
楽「だから俺は、桐崎の感情を、揺さぶり……。わざとあいつが小咲に、俺の悪口をぶちまけるように、誘導した」
楽「まあ、本当に嫌われたら怖いから、先手は打たせてもらったが」
集「ははっ……。本当に小野寺のこととなると、お前は……」
楽「ああ……。ここが俺の、『弱点』かもな」
69:
    
楽「だから、桐崎に『小咲が俺のことを嫌ってる』っていう話を聞いた時は……。正直、死のうかと思ったね」
集「……ははっ。桐崎さん、そんな嘘を……」
楽「ああ。嘘だったんだ。それが分かったあの時は、本当に、ホッとしたなぁ……」
楽「ったく桐崎のヤツ、あんな嘘、つきやがって……」
楽「だから桐崎には、制裁を加えることにした。わざと小咲には、桐崎の嘘のことは言わなかったんだ」
楽「あいつが勝手に小咲に、バラしてくれると思ったし、その方が小咲にとって、衝撃的だと思ってな」
楽「結果は……大成功だった。小咲は完全に、桐崎のことを、軽蔑するようになった」
楽「同時に、宮本も……。そしてあいつは孤独に、なったんだ。心が折れるのももう、時間の問題だった」
楽「……お前が余計なこと、しなけりゃな」
集「……ははっ」
75:
     
集「仕方ないじゃーん。桐崎さんのこと、見てられなかったんだもん」
楽「……だからって、小咲を悲しませるようなことすんじゃねえよ。鍵、お前が盗んだんだろ?」
集「バレてたかぁ。まあでもあれは結局、桐崎さんに返してもらったんでしょー? なら、よかったじゃん」
楽「別に鍵はもう、いいんだが……。結局お前は、桐崎になにを吹き込んだんだよ?」
集「だからぁ。この鍵を小野寺に返してあげれば、みんなと仲直りができると――」
楽「じゃあ桐崎が言ってた、『勝手に鍵を使って、約束の女の子になろうとした』っていうのは、なんだよ」
集「……そう怒るなよ。俺だって、桐崎さんから作戦を聞いた時は、ぶったまげたんだから」
集「まあ面白そうだったから、協力してあげたんだけどね」
楽「てめーなぁ……」
78:
     
楽「ペンダントがもし開いてたら、どうするつもりだったんだよ。あいつがもし、『約束の女の子』ってことになったら――」
楽「あいつとはもう、『普通の友達』じゃいられなくなる。計画が台無しになるとこだったんだ」
集「『普通の友達』じゃいられなくなる……?」
楽「だってそうだろ。もしそれで俺とあいつが友達になったら、まるで『約束の女の子』だから、そうしたみたいじゃないか」
楽「俺はそれが嫌だった。『約束の女の子』なんて関係ない。桐崎だから、俺は友達になりたいと思ったんだよ」
楽「だから……。お前から、桐崎の大切な鍵を探したことがある、って話を聞いた時……。ギョッとしたよ」
集「はは。まああれも、桐崎さんのためについた嘘だったんだけどな」
楽「嘘だったのかよ……。俺はその話がきっかけで、ペンダントを壊す決心をつけたってのに」
集「……へえ、そうだったんだ」
79:
     
集「そういえばお前、せっかく付き合えたのに、なんで小野寺が『約束の女の子』かどうか、確かめようとしなかったんだ?」
楽「……桐崎の場合と同じだ。小咲が『約束の女の子』だろうがなんだろうが、俺が小咲を好きなことに、変わらないんだから」
集「だから確かめる必要はなかったと?」
楽「……その筈だったんだが、情けないことに俺には、やっぱり確かめたいと思う気持ちも、あったんだ」
楽「だって俺は10年も、あの子のことを忘れられずに、あの約束を胸に、ずっとペンダントを持ち続けていたんだから……」
楽「だから小咲が『約束の女の子』だったら……。やっぱり嬉しかっただろうし、違ったら、残念に思ったんだろうな」
楽「そしてある時、俺は思ったんだ。もし小咲がそうじゃなかったとして……」
楽「……ある日突然、本当の『約束の女の子』が、俺の目の前に現れたら――」
楽「小咲とその子、どっちを選ぶんだろうなって」
集「……」
楽「……答えは、一つしか考えられなかった。だって、だから俺は、小咲に告白したんだから」
80:
   
楽「小咲と『約束の女の子』だったら、絶対に小咲を選ぶ。その気持ちは、絶対だった」
集「はは……。やっぱり桐崎さんのあの作戦は、最初から破綻してたんだ」
楽「だけど、小咲が『約束の女の子』だという可能性も、やっぱりあったわけだし……」
楽「だからペンダントは、まだ捨てられなかった。別に本物が現れたとしても、小咲を好きな気持ちは変わらないんだから、持っててもいいかなって」
集「いやだから、確かめりゃよかったじゃん。付き合えたんなら、機会はいくらでもあったろ」
楽「……いや、その、本当のこと言うと、やっぱりちょっと怖かったし、言いだせなくて」
集「結局それかよ……。まあお前らのことだからな。小野寺の方もどうせ、そうだったんだろう?」
楽「……うぅ」
82:
      
集「それで、俺の話がきっかけで、ペンダントを壊したってのは?」
楽「……最初にペンダントを壊そうと思ったのは、小咲が鍵を失くした時だよ」
楽「小咲……。すごい悲しそうな顔してたからさ。やっぱりあの鍵は、『約束の鍵』だったのかなって、思った」
楽「……そして、小咲を悲しませるような『約束』なら、もういらないんじゃないかとも、思った」
楽「そして、お前の話を聞いて……。桐崎も、鍵を持ってることを知って……」
楽「俺のペンダントさえ無くなれば、小咲が悲しむこともなくなり、桐崎とも、『普通の友達』になれる」
楽「全てが旨くいくと……。そう、考えたんだ」
集「それにしたってまさかお前が、『約束の女の子』との関係を自ら、断ち切るとは……」
集「その子との再会が、夢だったんじゃないのかよ? だからお前はペンダントを、10年も大事に……」
楽「夢だったさ。でも俺には他の、もっと大きな夢があった。その夢のためなら……、仕方がなかった」
83:
   
楽「そういうわけだ。だから小咲が『約束の女の子』だったのかはもう、確かめられないし……」
楽「小咲が違ったとしても、本当の『約束の女の子』とはもう、再会できないだろう。でも、それでいいんだ」
集「……そういえば、例えば桐崎さんが小野寺の鍵を使って、お前のペンダントを開けてたら……。お前は桐崎さんが『約束の女の子』だと、信じたのか?」
楽「小咲がいたら分からんが……。俺一人なら、信じたかもしれないな。お前が余計な嘘をついたせいで」
集「そう言ってもらえると、嘘をついた甲斐があったよ」
楽「本当に、危なかったところだ。小咲ならまだしも、桐崎が『約束の女の子』だなんて……」
集「桐崎さんと、結婚しなきゃならなくなるところだったな」
楽「いや、でも俺は、小咲を選んだんだ。約束を破ることにはなるが、結婚は流石にしねえよ」
集「あはは、でも桐崎さんの方は、錠が開いたら本気で、お前と結婚するつもりだったみたいだけど?」
楽「ははっ……」
楽「……は?」
85:
      
集「いや、結婚とまでは言ってなかったな。でも、ホンモノの恋人同士になりたいとかは、言ってたか」
楽「な、なんだそれ、まるであいつが、俺のことを好きだったみたいな――」
集「そうだよ? 気づいてなかったの?」
楽「……」
『いちじょうくんのことが、すきなのぉっ! だいすきなのぉっ!!』
楽「……あれって、そっちの『好き』だったのか」
集「えっ……。まさか、告白されたの……?」
楽「あっ……。う、うん。まあ……」
集「お前なぁ……。なんでそれで気づかねえんだよ。流石に鈍感過ぎんだろ」
集「ラブコメの主人公じゃねんだからさ……」
楽「……っ!!」
87:
   
楽「……と、とにかく、お前のせいで、大変なことになるとこだったんだからな」
集「はいはい。でも、結果オーライだったろ? その鍵も使えなくなって……桐崎さんは」
楽「ああ……。一度希望が見えた分……この上なく、絶望しただろうな」
楽「その上、抗争も収まって……。俺と関わる理由も、なくなっちまった」
楽「大かた、親にもう一度俺と、ニセコイ関係を築けとかなんとか、言われてたんだろうよ」
楽「じゃなきゃあいつだって俺のこと、無視してりゃよかったんだから」
集「……」
楽「……そして完全に心が折れたあいつを、俺は、助けた」
楽「襲われそうになってたところを、な。まああいつら全員、集英組の者だったわけだが……」
集「……ははっ。お前は、本当に……」
90:
   
楽「桐崎のヤツ、すごい顔してたなぁ。あの顔見た時、計画の完遂を、確信したよ」
楽「正直あの時の桐崎、めちゃくちゃ可愛かったよ。やっと普通の女の子に、なってくれたというか……」
集「……そうだな。俺も今の桐崎さん、すごい可愛いと思う」
楽「ああ。そしてその後俺たちはようやく、『普通の友達』同士になれたんだ……」
楽「まあ、あいつが俺のことを好きだったっていう話は……。うん、置いといてだな」
集「置いとくなよ」
楽「……今は、毎日が楽しいよ。あいつと一緒にいるとすごく楽しいし……」
楽「あいつが転入してきたのは、結構前の話だけど……。でも今また、新しい仲間が、増えたような感じだ」
集「そう、か……」
楽「これが計画の全容だ。長くなったが、これが全てだ」
集「……ほんとに?」
楽「本当だよ。俺は桐崎と、『普通の友達』になりたかった。それだけだ」
集「ふーん……」
92:
   
集「じゃあ、小野寺と付き合ったのは?」
楽「……は?」
集「これも、計画の内だったのか? 桐崎さんとのニセコイ関係を、解消するための……」
集「だとしたら、すごいよな。計画のために、好きな娘に告白するなんて……」
楽「……あのなぁ。集」
集「ていうかお前、そこでフラてたら、どうするつもりだったんだよ」
集「それともあれか? 実は小野寺もグルで――」
楽「いくらお前でも、殴るぞ?」
集「……お前が暴力を振るって、どうする」
95:
    
楽「いつも言ってただろうが……。小咲と付き合うのが俺は、夢だったんだよ」
楽「だからこれは、計画とは関係ない。ただ俺が勇気を出して、告白して、夢を叶えた。それだけの話だ」
集「……そうか。それを聞いて、安心したよ」
楽「当たり前だろうが……。むしろ小咲と付き合うに当たって、桐崎とのニセコイ関係が、どうしても邪魔だったから……」
楽「そこから、『桐崎とただの友達同士になれたらなぁ』と考えたことはあるけどな」
集「やっぱり関係あるじゃん。小野寺に告白したところから、全てが始まったわけだろ?」
楽「まあな……。もし小咲にフラれてたら……。どうしてたかは分からない」
楽「やっぱり桐崎とは『普通の友達』同士になりたいと、思ってたかもしれないし――」
楽「ニセモノの恋人でもいいから……。俺を慰めてほしいと、思ってたのかもしれない」
集「……一つ聞いていいか、楽」
96:
     
楽「なんだ?」
集「前の桐崎さんの方が、変わる前の桐崎さんの方が、やっぱり良かったなって、後悔したことは――」
楽「ない。有り得ない。断じて、ない」
集「……あっそう」
楽「当たり前だろうが。あんなゴリラ女、大っきらいだったよ」
集「……久しぶりに聞いたな。その、ゴリラ女って」
楽「ふん。それに比べて、今の桐崎は、性格もやわらかくなって、優しくなって、純粋になって……」
楽「髪も短くなって、なんというか、よりいっそう――」
楽「――小咲みたいな理想の女の子に近づいて、可愛くなったよなっ!」
集「……」
集「ま、そうかもな……。ははっ」
97:
楽こえぇよ
99:
こっちの方が本作よりも面白いな
100:
     
ヴーヴー
楽「ん、電話だ。……非通知?」
集「……?」
楽「でてみよう。もしもし――」
集(……楽、本当にお前の話は、あれで終わりか?)
集(俺にはお前が、まだ何か隠してるようにしか、思えない)
集(お前の『計画』は、本当に桐崎さんの性格を矯正するためだけの、ものだったのか?)
集(もっと大きな何かを……。お前は、隠してるんじゃないのか?)
集(……分からない。考えても、分からないんだ。だから、いつか、いつでもいいから――)
集(その話の続き、聞かせてくれよ)
楽「……終わりじゃ、なかった」
集「……え?」
103:
  
集「で、電話、もういいのか?」
楽「……終わってなかった」
集「えっ……? ど、どうした楽。汗、すごいぞ……?」
楽「小咲が、さらわれた」
集「はっ!? さ、さらわれた……?」
楽「嘘だろ……。まだこんな……」
楽「こんな……みたいな……」
集「楽……?」
楽「……まだ終わって、なかったんだっ!」ダッ
集「おいっ!? 楽、らくっ――!!」
104:
    
――
桐崎家
千棘「パパ、どうしたの? 急いで帰ってこいだなんて……」
千棘パパ「千棘……これを」
千棘「……手紙?」
『私は一条 楽をどうしても許すことができない。
 ボス、そしてお嬢。勝手な行動を、どうかお許しください
       クロード』
千棘「なに、これ……? クロード……?」
千棘パパ「クロードは……。この手紙だけを残し、忽然と姿を消した」
千棘「……どういう、こと……?」
107:
    
――
とある廃墟
楽「……はぁ、はぁ……」
「ふふっ……。言われた通り、一人で来たな。一条 楽」
楽「小咲には、手を出してないだろうな……」
「ああ。この通りだ。まあ、騒がれると面倒なので、こうして縛ってはいるが」
小咲「んっ……! んーっ!」
楽「小咲……。ごめん、本当に、ごめん……。俺のせいで……」
「そうだ。全て、貴様のせいだ」
楽「てめえ……」
「貴様がお嬢に……。貴様が、貴様が……」
楽「てめえっ! クロードォ!!」
クロード「……くくっ! はははっ! いい顔だなっ! 一条 楽ゥっ!!」
108:
クロードさんすっかり悪役ですね
109:
    
楽「なんでこんなこと……。小咲は、関係ないだろうがっ!」
クロード「関係ない、だと? 貴様の、恋人なのだろう? これ以上関係のある人物が、いるものか」
楽「ぐっ……」
クロード「だから、連れてきたのだ。この娘なら、お前をおびき出す、良い餌になると思ってな」
小咲「んっ……!」
楽「く、そぉ……!!」
クロード「さて、私がお前をここに呼びだした理由は……分かるよな?」
楽「……ああ。分かってるよ」
クロード「ふんっ。その度胸だけは、認めてやろう」
ガチャッ
クロード「そう。お前は今ここで、抵抗も許されず、私に殺されるのだ」
小咲「――っ!?」
112:
    
楽「……ここまで来て、まさかまだこんな展開が待ってるとはな」
クロード「……? ふんっ。諦めろ。貴様は最初からこうなる運命だったのだ」
小咲「んーっ!! んーっ!!」
クロード「くくっ……。助かる道は、ないぞ……。この場所を知る者は、ビーハイブでも私だけだ」
楽「外にいたヤツは……。見張りか?」
クロード「ああ。だから万が一誰かが入口まで来たとしても、ここまでたどり着くことは、ない」
楽「なんだよそれ……。もう俺、助からねえじゃん」
クロード「そうだ。貴様はここで、死ぬんだ」
クロード「自分の行いを、悔いるんだな……!」
楽「……俺が、なにをしたって?」
クロード「とぼけるな。貴様が、お嬢を……」
115:
   
――――――
――――
――
千棘「パパ、私この前、一条 楽のことは嫌いだって、言ったけど……」
千棘「でもどうやら、違ったみたい。本当は、その逆で……」
千棘パパ「……そうか。お前にも男の子に恋をする日が、きたのか」
クロード(お嬢が、一条 楽のことを……!?)
クロード(まさか、あんな、あんなヤツのことを、本気で……!?)
クロード(……ぐっ。しか、し……)
クロード(お嬢が生まれて初めて、本気で好きになった男だ。私が、口を出すわけにはいかない……)
クロード(一条 楽よ。お嬢を、頼んだぞ……)
117:
     
――――――
――――
――
千棘「ねぇっ! クロードっ! 聞いて聞いてっ!」
クロード「お、お嬢、どうなされたので……?」
千棘「あのねっ! 今日、一条くんがねっ……」
クロード(……なんだ? 先ほど街へ出かけると言って、ここを出た時とは……。まるで、雰囲気が……)
クロード(それどころか……。こんなお嬢、見たことがない。いつも私と話すときとも、まるで違う)
クロード(今までお嬢にあった……。そう、『棘』のようなものが、抜けおちてしまったようではないか)
クロード(なんというか……。これではまるで無邪気な、無垢な、子供のような……。一体、街でなにが……)
千棘「でねっ……。私、一条くんとお友達になったの!」
クロード「そうですか。それはそれは――」
クロード「――は? 友達?」
119:
ゲス条さんですな
120:
    
――――――
――――
――
千棘「クロード、聞いてっ! 今日学校でねっ!」
クロード「は、はい。学校は、どうでした?」
クロード(やはり、違う。以前のお嬢は学校での出来事など、私に話すことはなかった――)
千棘「小咲ちゃんや、るりちゃんと、仲直りできたのっ!」
クロード「こ、こさき……? るり……?」
千棘「あっ。私たち、名前で呼び合うことになったの。こさきちゃんが小野寺さんで、るりちゃんが、宮本さん」
クロード「あ、ああ……」
千棘「それでね、一条くんが、よかったねって! 一条くんも、仲直りを手伝ってくれたんだよっ!」
クロード「ほ、ほう……。そうなの、ですか」
千棘「やっぱり優しいなぁ……。一条くん」
クロード(な、なぜ一条 楽のことは……。名前で呼ばない……?)
クロード(くっ! 学校に偵察に行きたいが、その理由もなくなった今、ボスには行くなと止められている……!)
122:
     
――――――
――――
――
千棘「クロードっ! 見てみて!」
クロード「お嬢。どうなされ――っ!?」
クロード「そ、その髪は……?」
千棘「短くしてみたのっ! どうかな?」
クロード「た、たいへん、似合って、おいでで……」
クロード(わ、私の中のお嬢が、崩れていく……)
千棘「ほんとっ!? 一条くん、喜んでくれるかな……」
クロード「……あ、あの、お嬢」
千棘「え、なに?」
クロード「お嬢と一条 楽は……。その、恋人同士に、なられたのですよね?」
千棘「は、えっ!?」
124:
     
千棘「ち、違うよ、そんなこと、一言も言ってないでしょっ!?」
クロード「違うのですかっ!? し、しかし」
千棘「前に言ったじゃんっ! 一条くんと友達になったってっ!」
千棘「わ、わたしが彼の、恋人だなんて……」
千棘「も、もう……。クロードの、ばかぁ」カァァァ
クロード「なっ……!? なっ、なっ……!!」
クロード(こ、こんなの、お嬢じゃ、ないっ!)
クロード「しかしお嬢はっ!! 一条 楽のことが、好きなのではっ!?」
千棘「……えっ」
クロード「……申し訳ございません。この前、ボスとお嬢との会話を、聞いてしまったもので……」
127:
   
千棘「……そうだね。確かにそんな気持ちも、あった気がする」
クロード「……お嬢?」
千棘「でもね。もう、いいんだ。私は彼の恋人には、なれないんだから」
クロード「お嬢っ! そんな、お嬢は……」
千棘「一条くんには、小咲ちゃんっていう素敵な人がいるわけだし……それに――」
千棘「――『こんな私』と、友達になってくれただけでも……。私、すっごく嬉しいよ」
クロード「……なっ!!」
クロード(あれほど強気で、自信に満ち溢れていた、お嬢が……。こんな、ことを、言うなんて……)
千棘「だから私は友達で、十分。一条くんの友達になれて……。私、幸せなの」
クロード「そん、な……。お嬢、お嬢……っ!!」
129:
   
――――――
――――
――
クロード「お嬢を、返せ」
楽「……」
クロード「貴様のせいだ。貴様のせいで、お嬢は変わってしまった……」
クロード「それなのに、責任も取ろうとせず……。他の女と……。この女とっ!」ガチャッ
小咲「――っ!?」ビクッ
楽「やめろっ! 殺したいのは俺だろ!? 小咲を殺したら……。俺はその隙に、逃げるぞっ!」
楽「絶対にお前に見つからないようなところまで、全力で、逃げる! だから――」
クロード「ふはっ……! この女を見捨てて、逃げると? そんなことが、本当にできるのか?」
小咲「……」ガタガタ
楽「……っ! たの、む、やめてくれ……! お前の目的は、俺だろう……っ!」
クロード「そうだな。くくっ。この女を殺しても、仕方がないよな」スッ
楽「はぁ……はぁ……」
132:
   
クロード「殺してやるぞ、一条 楽」ガチャ
クロード「貴様を殺しても、あの頃のお嬢は戻ってこないがな」
楽「……あっちの桐崎の方が好きなヤツも、いたんだな」
クロード「なにか言ったか?」
楽「……別に」
クロード「……お前を殺したら、お嬢は、悲しむかもしれない」
クロード「だけどもう、見ていられないんだ。貴様に変えられていく、お嬢を――」
クロード「それに、今はお嬢は、幸せそうにしていても……」
クロード「貴様はいずれ、お嬢の身に、不幸をもたらすだろう」
クロード「……私は、知っているんだ。以前のお嬢は、貴様と仲直りできないことを、ずっと悩んでおられた……」
クロード「貴様に、一条 楽に、嫌われていると……。そう、言っていたんだ……!!」
楽「……」
135:
    
クロード「お嬢は貴様のせいで、ずっと苦しんでいたんだっ!」
クロード「今は仲直りが出来て、幸せそうなお嬢だが――」
クロード「いつまた貴様が、苦しめることになるかっ! またお嬢を、悲しませることになるかっ!」
クロード「許さんっ……! 貴様は、ここで、殺すっ! 殺さなければ、ならないんだっっ!!」
楽「……ここまで、か」
小咲「んっ!! んーっ! んーっ!!」
クロード「そんなクズである貴様のことも、それでもお嬢は、好きだった……」
クロード「でも、その気持ちをお嬢は、今も、胸の内に押し込めている……っ! 答えろっ! 一条 楽っ!!」
クロード「……貴様にとってお嬢は、なんだっ!!」ガチャッ
楽「……」
楽「――大切な、『友達』だ」
パァン!
139:
    
小咲「ん――っ!?」
クロード「……」
シュウウ
クロード「……きえ、た?」
楽「もう一度言ってやろうか?」
クロード「っ!? うしろ……っ!?」
楽「桐崎 千棘は俺の、大切な、友達だ」
クロード「……なっ、なぜ、ここに……」
千棘「ありがと、ダーリンっ!」
千棘「……なんてねっ」
141:
ここから壮大な学園異能バトルが始まります
142:
   
クロード「お、お嬢……!? そんな、なんで、ここに……!?」
千棘「なんでって……。一条くんと小咲ちゃんを、助けるためにだよ?」
クロード「そ、そうではなく……!! な、なぜここが……お嬢でも、ボスでさえ、この場所は、知らないはず……」
千棘「うん。こんなところ、初めて来たよ。でも、場所自体は、電話で教えてもらったから……」
クロード「はっ……!? 電話って……。い、一体だれが、そんなこと……」
楽「……ありがとうな。桐崎。マジで、助かった。やっぱ持つべきものは、友達だよな」
千棘「っ!!」
千棘(い、一条くんに、よろこんでもらえたぁ……!)
クロード「い、いや、だとしても、外には見張りがいたはず……」
千棘「……見張り? いたっけ、そんなの」
クロード「ぐっ……」
151:
   
クロード「……貴様か? 一条 楽。貴様が、お嬢を呼んだのか」
楽「……そんなわけないだろ。お前に刺激を与えて、小咲に手を出されたら敵わねえからな」
クロード「……くくっ。そうだよなぁ。小野寺 小咲に、手を出してほしくないものなぁ」スチャ スチャ
クロード「――こんな風になぁっ!」
パパァン!
シュウウウ……
クロード「……って、いないっ!! またっ!?」
千棘「小咲ちゃん、大丈夫? 一条くん、縄、解いてあげて」
楽「ああ。ちょっと待ってろ……」
小咲「……」
クロード「な、い、いつの間にそっちにっ!?」
155:
 
クロード「は、すぎる……」
千棘「小咲ちゃんは任せる。私はクロードの相手、するね」
楽「ああ。頼んだぜ、マイハニー」
千棘「ま、マイハニーって、そ、そんなっ。ダメだよっ。小咲ちゃんが見てる前で……」カァァァ
楽「お前が先にダーリンって……」
小咲「んーっ……」ムスー
楽「わっ! ごめん、小咲っ! こ、これは、違うんだっ!」
千棘「ご、ごめんねっ! 小咲ちゃんっ! つ、つい、ノリで……」
クロード「……違う。やめてくれ……違うんだ」
クロード「こんなの、お嬢じゃない。どうしてそんな風に、変わられて……」
千棘「……」
161:
 
千棘「私からしたらクロード、変わったのは、あなたの方だよ」
クロード「えっ……?」
千棘「あなたはこんな卑怯なこと、する人じゃなかったはず。いくら、私のためだとしても……」
クロード「そ、それは……」
千棘「……でもね、クロード。クロードが、変わってしまったのも……」
千棘「全部、私のせい、なんだよね。ごめんね、クロード……」
クロード「違う、お嬢のせいじゃ……」
クロード(謝らないでくれ……。こんなの、お嬢じゃない)
クロード(以前のお嬢に……。強気で、自信に溢れていて――)
クロード(凛々しくて刺々しい、あの頃のお嬢に、どうか、戻って――)
千棘「……だけど」
163:
    
千棘「だけどやっぱり今回は……。クロードも、悪いよね?」
クロード「えっ……?」
千棘「だって、小咲ちゃんを、私の大切なお友達を、こんなところまで、さらってきて……」
クロード「あ、あの」
千棘「一条くんを……。私の大切な、大切な、大切な大切な大切な大切な大切な、お友達を、殺そうとして――」
千棘「――ただで済むだなんて、思ってないわよねぇ?」パキッポキッ
クロード(ああ……)
クロード(あの頃の、お嬢だ――)
千棘「覚悟しなさい……クロードォォ!!」
クロード「ひ、ひいいいいぃぃぃぃ!!」
千棘「――うらぁっ!!」
ドッゴォォン!!
クロード「ぴぐぎゃああああああああああああああ!!」
169:
   
クロード「」ピクピク
千棘「終わった……。はっ!」
千棘(い、一条くんに、見られてなかったかな……。こんなんじゃ私、ゴリラみたい……)
小咲「……ぷはっ!」
楽「だ、大丈夫か? 小咲……」
小咲「はぁっ! はぁっ。ら、らく、くん……」
楽「……お、落ちついて、小咲。もう、大丈夫だから」
小咲「らく、くん――」
千棘「あ、あの、一条くん。こっち、見てなかったよね……?」
楽「……ああ。すまん。縄解くのに必死で、お前の雄姿を見届けられなかった」
千棘「あ、あはは。ざ、ざんねんだなぁー」ホッ
楽「でもすっごい音してたぜ。よっぽど豪快に殴ったんだな」
千棘(音でアウトだった!)ガーン
177:
  
楽「さて、帰るか。桐崎、本当にありがとうな」
小咲「はぁ、はぁ、あの、ら――」
千棘「ううん。あ、私もあとでお礼言っとかなきゃ。彼女のおかげで、ここまで来れたんだし」
楽「そういえば、誰なんだ? その、お前にこの場所を教えたヤツって――」
小咲「らく、くんっ!!」
楽「うぉっ! ごめん。どうした、小咲?」
小咲「ち、ちがうの……。まだ、終わりじゃないの……」
楽「えっ? どういう――」
小咲「私を直接さらったのは、クロードって人じゃないのっ!!」
楽「……えっ!?」
小咲「もう一人、いるのっ!! この建物には、もう一人、別の――」
パァンッ!
190:
    
「やれやれ……。なんて、情けない……。ずっと、聞かせてもらってましたよ」スタスタ
楽「うっ……ぐっ……」
ドサッ
千棘「えっ……?」
「それでもビーハイブの、幹部ですか……? クロード様。あなたはなにも、分かっていない」スタスタ
小咲「らく、くん……?」
「ほら、起きてください……。クロード様」
クロード「……ぐっ。うぅ……。すまん、な。『黒虎(ブラックタイガー)』よ」
「……ふふ。懐かしいですね。その通り名も……」
千棘「ど、うして……?」
千棘「つぐみ……」
鶫「……お久しぶりです。お嬢」
206:
     
鶫「小野寺 小咲様。先程は大変、失礼致しました。そしてお初にお目にかかります、一条 楽様……」
鶫「私、幼少の頃より千棘お嬢様を護衛しております、ボディガード、兼――」
鶫「――ビーハイブの、ヒットマン。かつては『黒虎(ブラックタイガー)』と呼ばれておりました。名を、『鶫 誠士郎』と申します」
鶫「以後、お見知りおきを」ニコッ
小咲「あ……あっ……」ガタガタ
楽「『誠士郎』……? お前……は……。男、か……?」
パァン!
楽「っ!!」
小咲「ひぃっ!!」
鶫「いいえ、女ですよ。あっ。ご安心を。今の発砲は当てるためのものではなく、あなた方に恐怖を植え付けるためのもので――」
クロード「鶫。お前、女だったのか……?」
鶫「……クロード様。あなたって人は……」
210:
      
クロード「それにしてもお前、見張りはどうした? なぜお嬢が、ここにいる」
鶫「いえ、私が呼んだんですから、むしろこの部屋まで、案内させて頂いたぐらいです」
クロード「なっ……。お、お前が……?」
千棘「つぐみ、何してるの……? なんであなたが、こんなこと……?」
千棘「あなた、私に電話で、言ってきたじゃない。『クロード様を、止めてくれ』って……。だから私をここに、呼んだんでしょ?」
鶫「申し訳ございません、お嬢。それは、あなたをここに呼ぶための、嘘だったんです」
千棘「っ!! えっ……? じゃあ、なんで私を……」
パァン!
楽「ぐっぅう!!」
小咲「っ!! い、いやぁぁ!!」
千棘「い、一条くんっ!!」
鶫「ふふっ……。今のは、当てるつもりで撃ちました」
212:
  
楽「はぁ……はぁっ! うぐっ……ちく、しょう、どういう、つもりだ……」
鶫「……ふむ。流石に集英組の跡取りだけはありますね。二発撃ちこまれて、まだそんな目ができるとは」
楽「……はっ! はぁ……っ! 跡なんか、継ぐかよ……俺は――」
鶫「でしょうね。あなたはここで、死ぬんですから」ガチャ
千棘「や、やめてっ! つぐみっ!!」
 
鶫「クロード様っ!!」
クロード「……ちぃっ!!」
ガシッ
千棘「な、なにするの、放してよっ! クロード――」
パァン!
千棘「!!」
215:
   
ポタポタ
楽「が……ああぁ……」
小咲「やだぁ! もうやだよぉ!! やめてぇ!! 楽くんが、死んじゃう――」
鶫「ふふっ。大丈夫ですよ、急所は外してます。死ぬことは、ない」
鶫「そして次も、なるべく急所に当てないように、努力するつもりです。ふふっ。死なないように、ね」
鶫「これを永遠に繰り返します。何度も何度も何度も何度も何度も何度も……」
鶫「何度も、死なないように、気をつけながら……死ぬまで、繰り返す」
小咲「――っ!?」
千棘「はなしてっ! はなしてよぉ!! 一条くんが、一条くんがぁ!!」
クロード「なにをしてるっ! 鶫っ! 殺すなら、早く殺せっ!!」
クロード「モタモタするなっ! これ以上、お嬢を悲しませるなぁ!!」
鶫「……はぁ」
鶫「だからあなたは分かってないと、言ってるんです」
クロード「な、んだと……?」
216:
シリアスすぎて笑ってしまう
217:
これが漫画化したら絶対買うわ
218:
      
鶫「『目の前で一条 楽が死ぬ姿を見てしまったら、お嬢が悲しむ。だからお嬢がここにきたら、中に入れるな』……でしたっけ?」
鶫「じゃあ例えば、お嬢が直接、一条 楽が死ぬ場面を見てしまう。という最悪な状況を、回避できたとして――」
鶫「その後でお嬢が、一条 楽が死んだという報せを受けて……。それで悲しまないとでも、思ったんですか?」
クロード「……っ!」
鶫「『早く殺せ』? 『これ以上お嬢を悲しませるな』?」
鶫「ええ。確かに今すぐにでも、一条 楽の眉間をぶち抜くことは、容易いですよ?」
鶫「……でも、一条 楽が死ぬところを目の前で見てしまったら、やっぱりお嬢は悲しむと思いますよ? あなたはそんな状況を、回避したかったんでしょう?」 
クロード「ではお前は……。なにが、したいのだ……?」
鶫「あなたと同じですよ、クロード様。私はお嬢に、悲しんでほしくない」
鶫「――だからこの男、一条 楽が……。お嬢が悲しむ気すら失せるほど、情けない姿を晒すまで、こうして撃ち続けるんです」
パァンッ!
223:
つぐみちゃんGJ
227:
   
楽「っ!! あしがっ……! いってぇ……!」
鶫「ふふっ……。あなたは地獄以上の苦しみを与えた上で、殺します」
小咲「らく、くん、やだ、やだぁ……!」ガタガタ
千棘「……うっ!! うわぁああ!!」
クロード「ぐっ!! お、お嬢っ!! もう、しわけ、ございません……!!」ガシィ!
千棘「はなして、はなしてぇ!!」
鶫「しっかり押さえててください、クロード様。そしてしっかり見ててください、お嬢」
鶫「この男が、喉を鳴らし、汚い声で命乞いをして、謝罪して、懇願して――」
鶫「腰を抜かし、鼻水を伸ばし、涎を垂らし、涙を流し、小便を漏らすまで、撃ち続けますから」
鶫「その情けない姿を目に焼き付け、是非ともこの男に、存分に、失望してくださいませ」
千棘「――っ!?」
パァン!
232:
  
チュウン!
楽「うっあ! うあぁぁ!!」
鶫「ふふっ。今のは、あえて外しました。どこを撃たれると思いました?」
鶫「次は、どうしましょうか。当てましょうか。外しましょうか」
楽「う、うあぁあぁ」
小咲「もう、やめ、てぇ……」
鶫「ふふっ。当てるなら、どこにしましょうか。どこか希望は、あります?」
楽「ぐっ……あっ、あっあああ」
鶫「ないようなので、こっちで勝手に決めちゃいますね」
鶫「えっと、次は――ここです」
パァン!
チュウン!
楽「うわぁあ! っは、はぁ、はぁ……」
鶫「『床』でした。ふふっ。今度こそ当てられると、思いました?」
237:
 
千棘「はな、せ! はなせぇ!!」ギシッギシッ
クロード「鶫……。もう、限界だ……。早く、早くしろぉ!」ググッ
鶫「そうですね……。一条さん。えっと、ここまででなにか命乞いとか、あります?」
楽「……はぁ、はぁ。あ、ああ、ああ」
鶫「あれ、もうまともに喋れないのか……? お嬢ー。コレ、どうです? 情けないですねぇ?」
千棘「はな、せ。はなして……! クロード、お願いだから……!」
鶫「お嬢、ちゃんと見てくださいよ……。気が動転して、それどころじゃないのか」
鶫「うーん……。もうクロード様も限界のようですし……。仕方がない」
鶫「さっさと殺して、死体を引き裂いてグチャグチャにでもしてしまいましょうかね」
鶫「グロテスクな肉塊に成り果てた一条 楽を見れば、きっとお嬢も失望することでしょう」
千棘「な――っ!?」
241:
    
鶫「――というわけで、殺しますね、一条さん。よかったですね。やっと、死ねますよ」
楽「……はぁ、はぁ」
千棘「なっ……! やめ、やめてぇ!!」
クロード「お嬢、見ては、いけない……!」
小咲「……あ、あ……」ガタガタ
鶫「あ、そうそう。クロード様に言いたいことはほとんど、言われちゃいましたけど……」
鶫「私もあなたを、許しませんから。絶対に、許さないです。絶対絶対絶対絶対絶対死んでも絶対殺しても絶対、許さないです」
楽「はぁっ……はぁっ……」
鶫「……それでは。できるだけ汚らしく死んでくださいね。一条さん――」
鶫「――さようなら」
千棘「やめ――っ!」
パァン!
250:
    
楽「……はぁ、はぁ」
鶫「……」
ポタポタ
楽「はぁ、はぁ……。えっ……?」
鶫「……ふふっ。あははっ」
ポタッポタッ
千棘「そ、んな……」
ポタッ……ポタッ……
鶫「なにを……。なにをなさってるのです? 小野寺 小咲様」
ポタッ
小咲「……うっ、うぅ」ガクッ
楽「……こ、さき」
258:
小野寺厨発狂www
260:
デスノート読んでるみたいwwwww
261:
   
楽「こさき……なんで、俺なんか、かばって……」
小咲「……らく、くん。だい、じょう、ぶ?」
楽「お、俺のことなんか、うっ、ぐっ、い、いいから……こさき、は」
小咲「だい、じょうぶ……」
小咲「……じゃ、ないかも。あは、は……」
楽「っ!! こさきっ!」
小咲「あは、あ、つい……。おなかが、すごく、あつい……」
楽「血が、ちっ、血が……」
小咲「……らくくんだって、ち、が……」
楽「お前の方が、やべえよ! ど、どうしよう、どうしたら――」
小咲「らくくん、わたし……」
小咲「しんじゃう、のかなぁ……」
楽「……っ!!」
268:
    
『小野寺は、小野寺だけは、死んでも俺が守る』
『何があっても、お前を守るから』
楽「な、にが……守るだ……っ! てめぇはっ!」
楽「なっさけねぇ……! この、もやし野郎……っ!! ぜんっぜん、守れてねぇじゃねえか……!!」
楽「うっ……ぐっ……!!」ボタボタッ
小咲「……らく、くん、らくくんは、しんじゃ、やだよ……?」
楽「俺『は』って、なんだよ! お前も、死ぬなよ! だ、いじょうぶ、きっと、助かるから、だから……」
小咲「らくくん、おちついて……?」
楽「落ち着いてなんかいられるかっ! どうしよう、ま、まずは、止血を……」
小咲「……ふふっ。らく、くん……わ、たし、ね……」
小野寺(私ね……。楽くんのそういうところを、好きになったんだよ)
小咲「……す……して……?」
楽「えっ……? 今、なんて……」
小咲「き……す……」
272:
    
楽「……っ!! き、キスって、こんな、こんなときに」
小咲「わた……しに……うっ……」
小咲「……はっ、はぁっ……。わた、し……、にっ……うぅ……」
楽「こ、小咲、もう喋っちゃだめだっ!」
小咲「……わた……に……」
小咲「はじ……を、……さい。……くん」
楽「えっ……」
小咲「はじ、めて、を……っ! うぅ……っ!」
楽「こ、こさきっ――」
小咲「はじめてを、ください……っ! らく、くんっ!」
楽「……っ!!」
楽「わか、った……。やくそく、したもんな……」
楽「『初めて』を、ドキドキを、お前にたくさん、あげるって……」
275:
はじめての心中……
276:
志村ァ!うしろうしろぉ!
284:
    
鶫「私としたことが……。素人の動きにも、気づけないなんて……」
鶫「まさか、一条 楽をかばって、自分が撃たれるとは……」
鶫「やってくれましたね……。私の失態で、無駄にお嬢を、悲しませることになってしまった」
鶫「……もういいです。とりあえず一条 楽だけでも、殺して――」
ドガァッ!
鶫「……っ!? ぐ、はっ……!!」
ドゴォオン
鶫「お、おじょう、なぜ……」
千棘「……」
千棘「許さない。私はあなたを、絶対に許さない」
千棘「つぐみぃっ!!」
鶫「ぐっ……」
クロード「お嬢……。お強く、なられて……。この、クロード……」
ガクッ
288:
    
鶫「お嬢。邪魔を、しないでいただきたい。私は、一条 楽を殺さねば……」
千棘「殺すことなんて、ないっ! なんでよっ!? なんで、つぐみもクロードも、一条くんを殺そうとするの!?」
鶫「……全ては、お嬢のためです」
千棘「私が殺すなって、言ってるのにっ! なにが、私のためなのっ!?」
鶫「あなたはあの男に、騙されてるっ! 確かに『今』は、あなたにとって、私たちは悪者に見えるのかもしれない!」
鶫「あの男が死ねば、お嬢は悲しむのかもしれないっ! でも、それは、『今』だからだっ!」
鶫「生かしておけば、近い未来、必ずヤツはあなたを再び不幸へと陥れる! 私にはそれが、耐えられないっ!」
千棘「そんなの、分からないじゃないっ!! 未来なんて、誰にも――」
鶫「分かるっ!! 現にあなたは今まであの男に、苦しめられてきたじゃないですかっ!!」
千棘「……それ、は」
鶫「殺すべきだ……。お嬢を悲しませるような存在は……。殺す、べきなんだっ!!」
鶫「それが、お嬢……。あなたを幼少の頃よりお守りしてきた、私の役目っ!」
294:
  
ガチャッ!
千棘「……やめなさいってっ! 言ってんでしょうがぁ!!」
ガシィ!
ズザァァ
鶫「ぐっ……! い、いくらお嬢でも、このわ、私を、押さえつけることなど……」
千棘「私を悲しませたくないってんなら……今は、今だけは、おとなしくしてなさいっ!!」
鶫「な、なん、ですって……?」
千棘「あの二人の時間を、邪魔しないであげてっ!! あの二人は、今――」ポロッポロッ
鶫「……っ!? お、お嬢、泣い、て……」
千棘「……うっ。あの、二人は、今……」
千棘「こんな、状況だって、いうのに……」
鶫「お嬢……?」
千棘「すごく、素敵な……。とっても幸せな時間を、過ごしているんだから……」
296:
   
楽「んっ……」
小咲「……っ」
チュッ
(こさきのくちびる、やわらかい……)
(やわらかくて、あったかい……。なんか、あたまが、くらくらする……)
楽「ん、ん……っ」
小咲「……んっ。……っ……」
チュッ チュゥ
(らく、くんの……。くちびる、やわらかい……)
(あったかい……、あつい……。なんだか、からだが、ふわふわする……)
298:
    
チュゥ……
楽「んっ……ぁ、はぁ……、んっ」
(おれ、こさきと、きす、してるんだ……。ゆめ、みたいだなぁ)
(しあわせ、だなぁ……。このじかんがずっと、つづけば、いいのに……)
小咲「……っはぁ……、んっ……」
(らくくんと、きすしてる……。わたし、ほんとに……。ゆめ、みたい……)
(おわって、ほしくないなぁ……。このままじかんが、とまっちゃえば、いいのに、なぁ……)
(……しあわせ、だなぁ……)
チュ…… チュゥ……
303:
   
楽「……ぷはっ……はぁ……はっ」
小咲「っはぁ……。はぁ……」
楽「はぁ……っ。ははっ、こ、さき……。かお、まっかじゃん……」
小咲「らく、くんも、だよ……。ねぇ、らくくん……」
楽「……な、んだ……?」
小咲「おわっちゃ、やだよ……」
楽「こさき……」
小咲「もう、いっかい……」
楽「……そう、だな……んっ」
小咲「んっ……」
チュッ…… チュ……
309:
   
小咲「……」
楽「……」 
小咲「……えへへっ。はじめてきす、しちゃったね……」
楽「そうだな……。人生で初めて、しちまったよ」
小咲「うん……。はじめて……。はじめてで、さいごの……」
楽「なに言ってんだよ。俺たちは付き合ってるんだから、またいつかすることも、あるだろうさ」
小咲「そう……だね……。ふふっ。るりちゃんにきょうのこと、なんてはなそうかなぁ……」
楽「俺も集に、なんて言おうかな……。あいつら、ビックリするぜー? 何年かかるんだぁとか、言ってやがったもんなぁ」
小咲「そうだね……。でもちょっとはなすの、はずかしいかも……」
楽「かもな……。でもそこは自信満々に、たっぷりと、自慢してやろうぜ。どうだ、やってやったぜっ! ってな」
小咲「あはは……ねえ、らく、くん」
楽「どうした? 小咲」
小咲「ありがとう……。私に、たくさんのはじめてを、おしえてくれて……」
315:
  
楽「ははっ。なに言ってんだよ。これから、だろ」
小咲「うん……。あれ、らくくん、ないてるの……?」
楽「お、おまえだって、泣いてんじゃん。なんだよ。ははっ。これから、だろ?」
小咲「うん……。これからもっと……」
楽「これからもっと二人で、いろんな『初めて』を、経験していくんだろ?」
小咲「うん……」
楽「そうやって二人で成長して……。大人になっていくんだろ? なぁっ!」
小咲「う……ん……」
317:
  
楽「うっ……だからさ、泣くなよっ! そうだ。明日また、デートしようぜ? 今度は、どこへ行こうか――」
小咲「……っ……」
楽「この前のデートも、楽しかったもんなっ! こんどは、どうしようか、て、ていうか――」
楽「あ、あしたも、学校だったな、そういや。ははっ。な、なに言ってんだろ、俺――」
小咲「……」
楽「が、学校……。なぁ、明日もまた、弁当……。なぁっ。なぁっ……こさきっ。こさきっ……」
小咲「……」
楽「こさ、きぃ……」
320:
小野寺逝ったぁあああ(笑)
324:
     
『私たちって、その……。付き合うことに、なったんだよね?』
楽「う、うっ、う、うぅ……」
『じゃあ今日から恋人だね。なんか、恥ずかしいな……』
『えっと……楽、くん?」
楽「……う、うあぁぁ……」
『……楽くん。これからは下の名前、だよ?』
『楽くん。あの、今日も一緒に、帰ろう?』
楽「こさき……こさきぃ……」
『じゃ、じゃあ私明日から、頑張るね! 料理下手だけど、頑張る!』
『たくさんあるから、もっと食べてね、楽くん』
楽「ふっ……。うぅっ……ひっく……こさ、きぃ……!」
『だって私、楽くんのことが――』
『――大好きだもんっ!』
330:
  
楽「……こさき……こさきっ! いやだ、こさき、うわ、ああああああぁ……!」
『私に、教えてね。もっとたくさんの、『初めて』を』
楽「うああぁぁあぁ!! うわぁあぁあっ!!」
楽「うあぁあぁ!! うっ! げほっ!」
ボタッ ボタッ
楽「う、うあぁ……。あ、ああああ」
楽「ああああああああああああああああああっ!!!」
336:
 
楽「あっ……あぁ……」
楽「なん……だったんだよ……。俺が今まで、してきたことは……」
楽「俺は……っ! 俺が……、まちがっていたのか……?」
楽「おれの……せい……?」
楽「おれの、せいで……こさきが……。うわ……、あああああっ!」
楽「あぁぁあぁ……あ、う、あぁあぁ……」
楽「うぁぁぁぁ! う、わあぁぁぁ……!!」
クロード「……一条、楽」
342:
 
楽「うっ……。ひっく……。なんだよぉっ! てめぇ、てめぇらが、こさきを……」
楽「返せよっ! 小咲を、返しやがれっ!!」
クロード「……返してほしければ、まず我々にその娘を、預けろ」
楽「はぁ……? なに、いって……」
クロード「助けてやると言ったんだ。その娘をな。まだ、死んではいない。気を失っているだけだ」
楽「……はっ? たす、かるの、か……?」
クロード「知らん。期待はするな。既に、ビーハイブの医療班は呼んである」
クロード「私がその娘を、運び出そう」
楽「……」
347:
  
グイッ
クロード「……いいな。連れてくぞ? もしも敵である我々が、信用できないというのなら――」
楽「信用する。俺の敵でも、小咲の、味方なら……」
楽「……小咲を、助けてください。おねがい、します……」
クロード「……ふん。それでいい」
楽「……その、俺も、ついていって、いいかな」
クロード「勝手にしろ。……私の部下に殺されたとしても、責任はとらんがな」
楽「ああ……。その、ありがとう……」
クロード「……貴様もボロボロだな。ついでに、治療してもらうがいい」
楽「でも、殺される恐れもあるんだよな……?」
クロード「……さっさと行くぞ」
349:
  
千棘「クロード……」
鶫「なっに、を……! 血迷ったかっ!?」
鶫「クロード様っ! 早くそいつを、殺してくださいっ!!」
鶫「私がお嬢を引きつけているうちにっ! 早く、一条 楽をっ!」
クロード「……すまん。弾切れだ……。どうやら、撃ちすぎたな」
鶫「……っ! あんたまだ二発しか、撃ってないでしょうが……!!」 
鶫「もういいっ……! 私が……っ!」スッ
千棘「あんたは私を引きつけるんでしょ? つぐみっ!」バッ
鶫「ぐっ……お嬢……!」
千棘「……今のうちに」
クロード「お嬢、感謝いたします」
楽「ありがとう、桐崎……」
352:
 
千棘「さーて。ここを通りたければ、私を倒していきなさい、つぐみっ!」
鶫「……お嬢とは戦いたく、ありません。そこを、どいてください」
千棘「ふーん。怖いの? 私と戦うのが……。かつての『黒虎』とも、あろう者が……」
千棘「まぁそうよね? あんたはこれまでに、たくさんの人と戦ってきて、勝ち抜いてきて、殺し続けてきたんでしょうけど……」
千棘「でも、それまで一番近くにいた私とは、一度も戦ったこと、なかったものね?」
鶫「当たり前でしょう……。あなたは護衛対象で、私はボディガードなんだから」
千棘「ま、それもそうね」
鶫「……そして、護衛対象がボディガードより強いなんてことも、ありえない」ガチャ
ポイッ
千棘「……銃、捨てちゃうの?」
鶫「あなたを殺すわけには、いかないですから」
鶫「でも少し、少しだけ……。手荒な真似をさせていただくことを、お許しください」
千棘「……そうこなくっちゃね」
359:
     
鶫「はっきり言います。あなたは私には勝てない」
鶫「なぜなら私は幼少の頃より特殊な訓練を受けた、ビーハイブ屈指のヒットマン、かつての『黒虎』であり――」
鶫「――それに対してあなたは、ただの女子高生でしかないからです」
千棘「……でも私、さっきクロードに勝ったけど?」
鶫「あの方はお嬢に甘過ぎる。きっと知らず知らずのうちに、どこかで手を抜いてしまったのでしょう……」
鶫「だけど私は違う。お嬢のためならば、例えお嬢が相手でも、容赦はしない」
千棘「ふーん。怖いわね」
鶫「それに、戦ったことはないとは言っても……。私はずっと、何年も、あなたを見てきているのです」
ヒュッ
ドガッ!
千棘「うっ……!?」
鶫「あなたの戦闘能力ぐらいは、容易に分析できるのですよ」
361:
   
千棘「う、ぐ……。や、やるじゃない。今度は、こっちの番――」
鶫「いえ、もう終わりです」
ヒュッ グイッ
千棘「うっうしろ……!? うぐっ!」
鶫「このまま落として、終わりです」
ギュウウ
千棘「う、ぐっ……。く、くるし……」
鶫「……」
ギュウウ
千棘「うっ……ぐっ……! うぅ……」
鶫「悪く思わないでください。お嬢……」
ギュウ
千棘「くっ……うぐっ……」モゾモゾ
千棘(ど、こに……。『アレ』は、どこ……?)
363:
 
ギュウゥ……
千棘(もう、限界……。どこ? どこに、あるの?)
鶫「……お嬢。なにをして――」
千棘「――っ!!」
千棘(見つけた……。ここ、だっ!)
ムニュッ!
鶫「ひゃんっ!?」
千棘「……っ!」
バッ
千棘「うっ、げほっ! う、げ、ほぉっ!」
千棘「えほっ! げほっ……! ふ、ふん、つぐみ、あんたもやっぱり、女の子ね」
鶫「なっ……。なっ……」
千棘「結構……。『ある』じゃない。多分、私よりも……」
367:
 
鶫「ふ、ふふ……。まさか、そんな作戦に、出るとは……」
千棘「ただ後ろ手におっぱい揉んだだけだけど」
鶫「ですが今のはただ、不意をつかれたために、変な声が、出てしまっただけです……」
鶫「もう、同じ手は食いませんよ。今度こそ絞めて落として、おしまいです」
千棘「ふん。そうかしら? そっちがそうくるなら、私もまた、同じ手でいくつもりだけど」
鶫「ぐっ……。いいでしょう。あなたを気絶させる方法など、他にいくらでもあるんですよ」
千棘「おっぱい揉まれるのはやっぱり、嫌なのね」
370:
 
鶫「……言ったでしょう? あなたの戦闘能力は既に、分析済みなのです」
鶫「あなたは確かに、強い……。女子高生とは思えないパワーと、能力を、その身体に秘めている」
千棘「……」
鶫「お嬢……。あなたは昔から、スポーツや運動がお好きでしたよね」
千棘「まあね」
鶫「あなたが走りまわったり、とび跳ねたり、スポーツを嗜まれている姿を、私はよく、眺めていたものです……」
鶫「……眺めていて私が思ったことは、『お嬢は運動神経が良いなぁ』。それだけです」
千棘「……あっそ」
鶫「確かにあなたの運動神経はズバ抜けて高く、オリンピック選手に匹敵するほどではないかと、思うほどでしたよ」
鶫「……でも、オリンピック選手だろうがなんだろうが、所詮は人間。その域を、出てはいない」
千棘「……」
374:
  
鶫「『運動神経が良い』だなんて、所詮は人間レベルでの話……。人間を超越してようやく、この世界に立つことができるのです」
千棘「知らないわよ……。あんたら化物の世界になんて、立つつもりないっての」
鶫「お嬢では私に勝てないと、言ってるのです。『人間の中では運動神経が高い方』でしかない、あなたではね……」
千棘「ふん……」
鶫「さて、私がなぜ『黒虎』などと呼ばれていたか……。もう、お分かりいただけましたか?」
鶫「私の本当の『スピード』は……。もう人間の域を、とっくに越えてしまっている、ということです」
千棘「……あんたね。その『バトル漫画』みたいな台詞回し、いい加減やめてくれない?」
鶫「……そう言われましても私、これが自然体ですので……」
千棘「そう。だったらとことん付き合ってあげるわよ。あんたが『トラ』だっていうなら――」
千棘「――こっちは、『ゴリラ』よっ!」
376:
こっから能力者バトルが始まるんですね。
わかります
379:
ジャンプ作品特有の現象きたな
380:
 
鶫「ふっ……。それはそれは、お強そうなことで……」
千棘(自分で言ってて辛い……)
鶫「本気で、いかせてもらいます。今度は先ほどのように、ノロくはありませんよ」コキッ
千棘「さっきだってかったじゃん……。えっ、もっとくなるの?」
鶫「ふふっ……。『人外』の私のスピードに、ついてこられますかね?」
千棘「いやだから、さっきだってついていけてなかったわよ! なのになんでもっと、スピード上げるのよ!?」
鶫「いきますよ……。お嬢っ!」
千棘「わーっ! 待って、待って――」
ビュゥッ!
390:
 
カツン カツン
クロード(三発だよ、鶫)
『……すまん。弾切れだ……。どうやら、撃ちすぎたな』
『……っ! あんたまだ二発しか、撃ってないでしょうが……!!』
 
クロード(私が撃ったのは、三発だ)
クロード(……といっても二発目と三発目は、二丁の銃で同時に、発砲したのだが)
クロード(しかしお前は二発しか撃ってない、と言ったな……。ということはお前は、恐らく――)
クロード(聞こえてきた『銃声』の数で、私が撃ったであろう弾数を、数えていたのだな)
クロード(同時に撃った時の、重なった二つの銃声までは、聞き分けがつかなかったようだが……。つまり、だ)
クロード(つまり、お前は……。私とお嬢の戦いを、直接、その目で、見ていたわけでは、ないのだろう?)
クロード(……ならば、お前の負けだ。鶫)
クロード(『アレ』を、二度……。いやせめて、一度でも見ていたのなら、お前ならもしかしたら、捉えられたかもしれないが――)
クロード(初見で『アレ』を見切ることは、不可能だ。例え『黒虎』だろうが、『人外』だろうが、な……)
397:
 
鶫「……」
千棘「……私の勝ちね、つぐみ」ガチャリ
鶫「……なにが、起きた……?」
鶫「なぜ私は仰向けに倒れていて、お嬢は私の上に乗っていて……」
鶫「……そしてなぜ、私の眉間に向けて、銃口を突き付けているのですか?」
千棘「あんたを気絶させる方法なんて、思い浮かばないし。だとしたら勝つ方法なんて、これぐらいしかないじゃない」
鶫「……」
千棘「……なによ。あんたが私を殺したくないだとか言って、銃を捨てるのは、勝手だけど――」
千棘「――私は、それを拾って使わないだなんて、言った覚えはないわよ?」
鶫「……」
鶫「……そう、ですね」
403:
 
鶫「……いいでしょう。私の、負けです」
千棘「よかった。素直に負けを認めてくれて。私だってあんたを殺したくなんかないもん」
鶫「ですが一つだけ、教えてください。一体なにが、起きたのですか?」
千棘「……別に、簡単な話よ」
千棘「あんたが私に向かって、ものすっごいスピードで飛びかかってきたから、慌てて避けて、そこに落ちてた、あんたの銃を拾って――」
千棘「私が元いた場所であたふたしてるあんたを、思いっきり蹴飛ばして、仰向けに倒して、銃を突きつけた。そして、今に至る」
鶫「……なんですか、それ。私の動きを見切った上で、さらに私よりもく、動いたと?」
鶫「ありえない。そんなの、人間業じゃないです」
千棘「……失礼ね。ちゃんと人間よ」
406:
  
千棘「あんたの動きを見切れたのは、あんたが私をずっと見てきたように、私もあんたをずっと見てきたから、よ」
鶫「……。『黒虎』時代の、私もですか?」
千棘「うん。あんた昔よく、私が見てる前で、自信満々にそのスピードを披露してくれたじゃない」
鶫「そ、そうでしたっけ……」
千棘「そうよ。見飽きたぐらいだわ……。まあ、あの頃から全然衰えてなかったから、ビックリしたけどね」
鶫「……では、その全盛期に近い『黒虎』よりもく動けたのは、なぜですか?」
鶫「私はあなたのことをずっと見てきた……。でも、そのような化け物じみたスピードは、動きは、見たことがない」
千棘「……あんた昔、私が動きまわってる姿を見て、『運動神経が良いなぁ』って、思ってたんですって?」
千棘「じゃあその時、私の方は……。動きまわりながら、なにを考えてたか……。教えてあげようか」
鶫「……? お嬢が、なにを考えてたか……?」
千棘「『この髪、長くて重くてうっとうしくて、すっごく動きづらい』って……。ずっとそう、考えてたわ」
410:
 
鶫「か、髪を、短くしたから、ですか!? それだけで、あんなにく……!?」
千棘「まっ。他にも背負ってるものだとか、環境だとか、いろいろとあの頃とは違うじゃない?」
千棘「そういう色々なものが積み重なっての、あのさよ。おわかり?」
鶫「そんな適当なっ! お、お嬢っ! もう既に髪の短い私は、どうすればこれ以上く動けるように……」
千棘「知らないわよ。坊主にでもすれば?」
鶫「ええっ!」ガーン
千棘「さっさと私たちも行くわよ。小咲ちゃん、どうか無事で……」グイッ
鶫「お、お嬢、私も行くのですか!? 私は一体どんな顔して、彼らの前に――」
千棘「あんたはまず、傷を負わせた二人に、土下座して詫びなさい」
鶫「は、はいぃ……」
421:
 
鶫(お嬢、あなたはクロード様の言ってた通り、変わっておられた……)
鶫(……正直、最初はショックでした。同時にお嬢をこんな風にした、一条 楽に、激しい憎悪を覚えました)
鶫(でもなぜかお嬢は……。前よりもずっとよく笑うようになったし、なにより、幸せそうだ)
鶫(……これでいいんですね? お嬢。未来なんて誰にも分からないのだから……。そんなものに、怯えるくらいなら――)
鶫(今を……。幸せな今を、精一杯楽しもうって……。そうお考えなんですよね? お嬢は)
鶫(ならばつぐみはもう、なにも言いません。出過ぎた真似をいたしましたことを、深く、反省します)
鶫(変わってしまったお嬢も、素敵ですよ。とても可愛らしくて、女の子らしくなって……)
鶫(……でもやっぱり、寂しいと思う気持ちも、つぐみにはあるのです)
鶫(だって私は以前のお嬢に、憧れを抱いていたのですから。私なんかと比べて、可愛らしくて、女の子らしくって、その上強かった、以前のお嬢に……)
鶫(ボディガードが護衛対象に憧れを抱くのも、おかしな話ですかね……)
424:
マミーの霊圧が…消えた…?
425:
 
鶫(だから今日、少しだけ、以前のお嬢が戻ってきてくれて、嬉しかったです)
鶫(そして、楽しかった……。お嬢との初めての戦闘が、楽しくて、しかたがなかった)
鶫(いずれ、もう一度――などとは勿論、言いません。だって、もう――)
鶫(――あちらのお嬢がまた戻ってくることは、ないのでしょうから)
鶫(戦いは終わり……。町には平和が訪れたのですから。もうお嬢が戦うことも、ないのですから)
鶫(――って、この言い方だとまるで、お嬢が抗争に参加してたみたいになっちゃってますが……)
鶫(でも少なくとも、今日みたいなことがお嬢の周りで起きることは、もうないでしょうから)
鶫(もし、今回のようなことが、今度は他の誰かの手によって、起こるようなことがあれば――)
鶫(私、鶫 誠士朗が、必ずやお嬢を、そしてお嬢の大切なお友達を、守ってみせます)
鶫(それをどうか、今日私が犯してしまった罪の、償いとさせてください――)
429:
 
――
ビーハイブ医療施設
楽「許すわけないだろ」
鶫「……ごめんなさい」ドゲザ
楽「なにが、償いだ。お前に守られたくなんかない。そんなことで償いになるだなんて、思ってんじゃねえ」
鶫「では、私は、どうすれば……」
楽「二度と俺たちの前に姿を現すな。俺たちに関わるな。それがお前にできる、償いだ」
鶫「……はい。本当に、申し訳ありませんでした……」
鶫「小野寺様の無事を、祈っております」
楽「どの口が、そんなこと……」
千棘(……)
437:
 
鶫「ところで一条様の、お怪我の方は……」
楽「俺は治療してもらったからまあ、大丈夫だ。こうしてベッドで安静にしてれば、な」
鶫「私は、なんてひどいことを……」
楽「……お前さ、そういえば――」
千棘「一条くんっ!」
楽「……桐崎」
千棘「ごめん、鶫……。外して、くれるかな」
鶫「……はい。それでは」
千棘「一条くん、あの……」
楽「……」
438:
 
千棘「あ、の、私……」
楽「……」
千棘「ごめん、なさい。本当に……」
楽「……」
千棘「小咲ちゃんが、一条くんが、こ、んなことに、なったのは……」
千棘「わ、私の、せいで……。クロードやつぐみは、私の、ために……」
千棘「私の、せいな、の、私のせいで、一条くんは、こんなに、酷い怪我を……」
千棘「こ、さきちゃん、死んじゃう、かも……。ごめん、ごめんね……」
千棘「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
千棘「……私のこと、また嫌いになったよね……?」
楽「……」
444:
      
千棘「いち、じょうくん。私も、もう、あなたたちと、関わらない方が、いいのかなぁ」
楽「……」
千棘「ごめんねっ……。嫌いに、なったよね……? 私、もう、あなたと、関わらないからぁ」
千棘「かかわらないから……。で、でもやっぱり、き、きらいには、なら、ないで……」
楽「……桐崎」
千棘「も、もう、きらわれたく、ないよぉ。いちじょうくんや、こさきちゃんから、きらわれたく、ない……」
千棘「ごめんなさいっ! あやまるから、だから、きらいに、ならないで……」
楽「……だから、前に言っただろ? 俺はお前のことが好きなんだって」
千棘「でも、きらいに、なった、でしょ……?」
楽「なってねえよ。今もお前のこと、好きだよ」
千棘「……ほんと?」
445:
 
楽「それに、お前のせいじゃない。むしろ、クロードや鶫が動いたのは、俺が原因だろ」
千棘「一条くんは、なにもわるくな――」
楽「ごめん、本当に。俺のせいで、こんなことに……」
千棘「……」グスッ
楽「ごめん、ごめんな……。また、お前を泣かしちまった」
千棘「う、ううん。私が勝手に泣いただけだもん。へへ……」
千棘「……でも、嬉しいな。一条くんが今も私のこと、好きって言ってくれて……」
楽「……お前は俺のこと、どう思ってる?」
千棘「えへへ、もちろん、好きだよ」
楽「違う、そうじゃない」
千棘「……え?」
448:
 
楽「俺のこと、本当は……。その、別の意味で、好き、だったんだろ?」
千棘「……っ!?」
楽「そう、例えば、俺が小咲のことを、好きなように……」
千棘「な、な、そ、そんな、こと……」カァァァ
楽「……でもお前はあの時、そのつもりで俺に、好きって言ってたんだろ?」
楽「ごめん。俺、鈍感だからさ……。あれ、『友達』としての好きだって、思ってたんだ」
楽「でも、違ってたんだな。本当は、本当は――」
千棘「う、ううぅ……」
千棘(な、なんで今更、一条くん、そんなこと言うの……)
千棘(胸の奥にしまってたのに……。一生しまっておこうって、思ってたのに……)
千棘(これじゃ、こんなんじゃ、私、ダメだよぉ……)
451:
      
楽「……あのさ、だから、俺、あの時、勘違いしてたわけだからさ……」
楽「その、お前の真剣な気持ちを、勘違いしてた、わけ、で、だから、その……」
千棘(……一条くん。すっごい慌ててる。あはは、なんか可愛い)
千棘(そっか。そういうことなんだね。一条くんが、今この話を、私にしてくれたのは――)
千棘(もう一回、ちゃんと、あの時の『やり直し』を、させてくれるって、ことなんだね……)
楽「あの、えっと……」
千棘「一条くん」
楽「な、なに?」
千棘「私は、桐崎 千棘は、あなたのことが、大好きです」
458:
 
千棘「困ってる人がいたら、放っておけない、誰かのために自分の身を犠牲にして必死になれる、優しい一条くんが、私は大好きです」
千棘「……私を助けてくれた一条くんが、私は、大好きです」
千棘「もしよかったら、私と、付き合ってください。お願いしますっ!」
楽「……」
楽「……嬉しい。ありがとう。でも――」
楽「――ごめん、桐崎。俺、他に、好きな人がいるんだ」
楽「だからお前とは、付き合えない」
千棘「――っ!!」
千棘「う、んっ……。そっ、かぁ……」ポロッポロッ
千棘(あはは……フラれちゃった……)
460:
 
千棘(でも、よかった。スッキリした)
千棘(ちゃんと告白できて、よかった。ちゃんとフラれることができて、よかった)
千棘(このしまっていた気持ちを、全部出しきることができて、本当に――)
楽「お前とは、付き合うことは、できない。恋人同士にも、なれない」
楽「……だけどお前は俺の、一番の、『親友』だ」
千棘「……」
千棘「しん、ゆう……?」
466:
       
楽「俺を、小咲を、助けてくれて、ありがとう」
楽「お前が来てくれなかったら、本当に、危なかった。来てくれて、すごく嬉しかった」
楽「これからも俺を、俺たちを、助けてほしい。お前に、頼らせてほしい」
楽「……だからお前も俺を、頼れ。お前が困っている時は、俺が助けてやる」
楽「『親友』のお前を必ず、助けて、やる」
千棘「わたし……。いちじょうくんの、しんゆう……?」
楽「ああ……。お前は、その、俺と小咲の、命の恩人、だからな」
楽「もう『普通の友達』じゃ、いられない」
楽「俺はお前のことが、『親友』として、大好きだぜ」
千棘「あはは、うれしい。わたしたち、しんゆう、なんだ……」
千棘「そんなこといわれたの、はじめてだなぁ……。しんゆうだなんて、はじめて、だなぁ……」
千棘「ありがとう……っ! これからもよろしくね、一条くんっ!」
474:
    
――
クロード「小野寺 小咲の容体は依然として、危険な状態だ」
クロード「しかし必ず、私の優秀な部下たちが、貴様の大切な人の命を、救うだろう」
クロード「だから、安心して今は、眠るがいい。お前の怪我も、命に別状はないとはいえ、重傷に近いのだから」
楽「……あんたって、そんなに俺に優しかったっけ」
クロード「ふ、ふんっ! 別にお嬢から『私、一条くんと親友になったのーっ!』と笑顔で言われたところで、貴様の評価が上がったりはしないんだからなっ!」
楽「さ、さっそく言いふらしてんのかあいつは……」
クロード「それでは、さらばだ。といってももう、二度と会うことはないかもしれんがな」
楽「……あんたビーハイブ、やめるの?」
クロード「ああ。大人は失敗をしたら、責任というものを、取らねばならぬのだ。まだ子供の貴様には、分からんだろうがな」
楽「そっか……。まだまだ俺は、子供だったんだな……」
クロード「……迷惑をかけたな。では、お嬢をよろしく頼んだぞ。一条 楽よ――」
476:
クロードさん学校の用務員とかお似合いですよ
477:
クロードさんのツンデレとか誰得
479:
    
――
千棘「一条くん、今日私、ここに泊ろうかと――」
楽「い、いいよそんな。明日だって、学校あるだろ?」
千棘「……そっか。そういえば今日も、学校あったんだよね……。なんだか、おかしな気分」
楽「そうだな……。いろいろなことが、ありすぎて……。でも明日からは、また平和な日々が、待ってるだろうよ」
千棘「……一条くん。早く、戻ってきてね。せっかく親友に、なれたんだから」
楽「ああ……。小咲と一緒に、必ず。そしたら学校でまた、楽しくお喋りしようぜ」
千棘「うんっ……。待ってるね。一条くん」
楽「……それ、やめないか?」
千棘「えっ……?」
楽「いや、俺が言いだしたことなんだけどさ……。でも親友になった今じゃ、その呼び方だとなんだか、おかしいだろ?」
千棘「そう、かな……。じゃあ、なんて呼べば……」
楽「下の名前で、呼んでくれよ」
千棘「えぇっ!?」
482:
    
楽「これからは『楽』ってさ……。呼んでくれよ」
千棘「そ、そんなの、小咲ちゃんに悪いよ……」
楽「小咲だってきっとお前なら、納得だろ。むしろ、あいつなら――」
楽「『二人は名前で呼び合えるくらい仲良くなれたんだね』って、一緒になって喜んでくれる。そういう女の子なんだ、小咲は」
千棘「……そっか。そうだよね」
楽「『千棘』……。学校で会ったら、またよろしくな」
千棘「っ! あはは……」
千棘「……『楽くん』っ! 私ずっとずっと、るりちゃんや舞子くんと一緒に、待ってるからっ!」
千棘「また、お話ししようねっ! いっぱいいっぱい、遊ぼうねっ!」
千棘「だって私たちは、『親友』、なんだからっ!」
楽「ああっ……。必ず……っ!」
488:
    
――
鶫「失礼します。お体の方は、どうですか」
楽「……まあ、ぼちぼちだ」
鶫「……今日は本当に、すいませんでした。謝っても、許されることではないのですが……」
鶫「お約束の通り、私は今後、あなた方とは一切、関わりません。姿を見せることも、ないでしょう」
楽「……そうしてくれると、助かる」
鶫「それでは……お大事に」
楽「待った。そういえばさっきお前に、聞きそびれたことが、あったんだ」
鶫「……なんでしょう?」
楽「……なんというか、変な質問なんだけど、いや多分、そんなバカなことは、有り得ないんだろうけど――」
鶫「……?」
楽「……」
楽「お前もしかして、俺らの学校に転入してくる予定とか、あったりした?」
494:
 
鶫「……えっ」
楽「いや、まさかな。悪いないきなり。こんな、突拍子もない……」
鶫「なぜそれを、知っているのです?」
楽「……なに?」
鶫「私はクロード様に、あなたの魔の手からお嬢をお守りするよう、転入生としてあなた方の学校に潜入するよう、命じられていたのです」
楽「魔の手て……」
鶫「といってもまだ先の予定ではありましたし……。もちろん今日のことで、その予定もなくなりましたし」
楽「……そうか。そりゃそうだ。俺らとはもう、関わらないって約束だからな」
鶫「……しかし、なぜそれをあなたが、知っているのです? この任務は現時点ではまだ、極秘のはずなのに……」
楽「……」
楽「いや、なんとなくお前を見てると、『転入生っぽい』なぁって」
鶫「……は?」
498:
    
楽「その中性的な容姿と言い、『黒虎』とかいう通り名といい、桐崎のボディガードだっていう設定といい……」
鶫「せ、設定って……。ていうかなんですか。『転入生っぽい』って」
楽「なんていうかさ……。えっと、桐崎を俺から守るために、転入してくる予定だったって?」
楽「じゃあなんかお前、転入してきてすぐ、俺に攻撃してきたりしそうだよな。そんで『決闘』とかいって、戦いを申し込んできそう」
鶫「……は、はい?」
楽「『お嬢を賭けて』……、とか言ってな。そんで、俺がまともにお前と戦っても勝てるわけないから、俺はただ校内を、逃げ回るだけで……」
鶫「一条様……?」
楽「そうだな……。そんで散々逃げ回った挙句、俺はお前を巻き込んで、窓からプールへ飛びこむんだ」
鶫「な、なにを言ってるんですか。そんなこと、できるわけ……。そもそも、私から逃げることなど、不可能ですよ」
楽「だからこれは、俺のただの妄想だよ……。そんでプールに飛び込んだショックで伸びちまったお前を介抱するために、俺はお前の服を脱がすんだ」
鶫「は、はぁっ!?」
楽「そこでお前が女だと、発覚するわけだ。お互い、顔真っ赤にしてさ」
鶫「な、にを……」
鶫「なにを、言っておられるのですか、一条様……?」
504:
    
鶫「なんですか、それ……? 一体、何の話を――」
楽「それからは……。桐崎とかに言われて、お前もちょっとは女の子らしくするようになって……」
楽「桐崎からリボンとかもらって……。可愛い服とかも、貸してもらって、それをお前が着て……」
鶫「……」
楽「次第にもっと女の子らしくなって……。そしてとうとう、誰かに『恋』なんか、するようになって――」
鶫「……ふざけるな」
楽「……」
鶫「それは私への、侮辱ですか? 今まで女を捨て、お嬢のために尽くしてきた、私に対する……」
楽「違うって。そんなつもりはない。ただお前を見てたら、そんな妄想が」
鶫「それが侮辱だというのだっ! 私が女の子らしくっ? 『恋』をするっ? そんなこと、あるはずがないっ!」
511:
    
楽「……だから、分かってるよ。ただ、俺は――」
楽「そんな可能性も、そんな未来も、もしかしたらあったのかなって、思っただけだ」
鶫「……」ゾクッ
鶫「あなたは……。あなたは、一体……なにを……」
鶫「一条様……。あなたには一体、なにが……視えてるんですか?」
鶫「なにを……考えているのですか? 私はあなたの言っていることが、さっぱり――」
楽「……もしかしたら、こことは違う、どこか別の、世界で――」
楽「お前が俺たちのクラスにやってきて、お前が俺たちの仲間になって、一緒に話して、笑い合って、どこかに遊びに行ったりして――」
楽「ヒットマンでもなんでもない、普通の女の子として、リボンをつけて、可愛い服を着て、誰かに恋をしたり、しなかったり……。」
楽「……そんな世界がこの広い宇宙のどこかには、あるのかもしれないって……」
楽「そう、思っただけだ」
鶫「……」
鶫「きもち、わるい……」
515:
キモイじゃなくてきもちがわるい
517:
これはきもちわるいwww
518:
きもち、わるい
526:
   
楽「……」
鶫「私はもう、二度と、あなたとは、関わりません。関わりたく、ありません」
楽「そうかい。俺もだ」
鶫「……そんな世界はきっと、どこにもありません。有り得ませんから」
楽「当たり前だろ。全部俺の妄想なんだから」
楽「『黒虎』の異名を持つ、ヒットマンであるお前が、学校なんかに通って、友達を作って、恋をするなんて――」
楽「……そんな、『漫画』みたいな……。世界、あるわけがない」
鶫「……」
鶫「……さよう、なら。一条様。どうかお嬢を、よろしくお願いします――」
楽「ああ……。分かってる。じゃあな、鶫――」
長い一日が、終わり――
一条 楽の戦いも、終わりを迎えようと、していた――
603:
   
――――――――
――――――
――――
――
千棘「おっはよー! 楽くんっ!」
楽「なんだよ千棘。今日は一段とテンション高いな」
千棘「あったりまえだよぉ! だって今日という日を私は、ずっと心待ちにしてたんだよっ!?」
楽「……ああ。まあ、俺もだ」
千棘「そのわりには、楽くん、テンション低くない?」
楽「そんなことねえけど。まあ俺は既に一回、会ってるし」
集「よう。桐崎さんと、今日という日が楽しみすぎて二日寝てない一条くん」 
楽「う、うるせえ! 言うなっ!」
るり「まあ、楽しみだったのは、みんな一緒ってことね」
「おい、今日ってさ……」「あいつらが騒いでるってことは、そうだよな?」
楽「はは。みんなソワソワしてる。ったく落ち着きがねえ……」ガタンガタン
集「お前が言うな」
606:
  
ガラッ
「「!!」」
小咲「……」
小咲「みんな……。えっと、ただいま?」
楽「……お――」
るり「おかえりっ! こさきぃ!」ダッ
千棘「おかえりぃっ! こさきちゃぁん!」ダッ
楽「あれっ!? お前らが先行くの!?」
607:
        
「うおおおおおっ! 小野寺が、戻ってきたぞぉ!」「やったぁあ!!」
「イヤッホーゥ!! 宴だお前らぁ!」「踊れ踊れぇ!!」
小咲「あ、あはは、みんな、大げさだよ」
ダキッ
小咲「あっ……」
るり「大げさなんかじゃないっ! あんた、死にかけてたのよっ!?」
千棘「そうだよっ! で、でもよかったぁ……! やっと退院、できたんだね……!」
小咲「あはは……。ごめんね、心配かけて」
るり「ばかぁ! もう、放さないんだから!!」
千棘「私だって! 小咲ちゃん! 小咲ちゃぁん!」
ギュウウ
小咲「あはは。く、くるしい……」
609:
  
ワイワイ ガヤガヤ
楽「……えっと」
集「おかえりぃっ! こさきちゃぁん!」ダッ
楽「お前が抱きついて良いわけないだろ」ガシッ
集「ちぇっ……。そう言うお前は寂しそうですなぁ、楽くん?」
楽「別に……。ていうか俺は退院する時に一回、会ってんの。でもみんなは小咲と会うの、久しぶりなわけだろ?」
楽「だからここはみんなに譲るさ……。みんなだって、小咲が帰ってきて、嬉しいんだから――」
小咲「楽くんっ!」
楽「!?」ビクッ
小咲「楽くん、ただいまっ!」
楽「あ、あれ……? みんなは――」
るり「まあ一番良いところは、一条くんに譲るわ」
千棘「恋人、だもんねっ!」
「ひゅーひゅー! なんか言ってやれぇ一条ぉ!」「感動の再会だぞー!」
610:
  
楽「あ、あいつら、ったく……」
小咲「楽、くん。あの……心配かけちゃって、ごめんね」
楽「えっ。あ、ああ。別に、そんな……」
小咲「……が、学校で会うのは、久しぶり、だよね。あはは」
楽「そう、だな。だからかな。なんか今、俺、ちょっと緊張して……」
小咲「わ、私も。あはは。あっ、そういえば今日、お弁当作ってこれなかったの……」
楽「い、いいよそんな。病み上がりなんだから……。またそのうち、食べさせてくれれば」
小咲「う、うん。まずは料理の勘を、取り戻さなきゃ……。あっ、ま、また美味しくないお弁当になっちゃったら、ごめんね」
楽「別に小咲の作った物なら、何でも食べるよ俺は……。あ、あはは」
小咲「あはは……」
るり「……なんかガッチガチじゃない? あの二人」
集「ああ……。しばらく会わなかったせいか、付き合い始めの頃に戻ってるような……」
611:
  
集「ここはいっちょ、俺がほぐしてやるか」
るり「あんたまた、余計なことを……」
集「いいからいいからっ」
楽「あ、あのさぁえっと、入院中って、暇だったろ? なにして時間潰してたんだ?」
小咲「え、えっと、なんだろ、楽くんのこと、考えたりとかやだわたしなにいってんだろ」カァアァ
楽「あ、あの、えっと、な、なんかないかな。いや、話したいことは、山ほどあるんだけど、どれにしようか――」
集「じゃあお兄さん。初チュウの話とか、いかがっすか?」
楽「よ、よしきた。そ、そう、俺たちの初チュウは、とある廃墟で――」
楽「って言えるかばかぁ!!」
小咲「……」カァァァ
集「あは、はっははは!」
るり「もっと固めてどうすんのよ……」
617:
    
集「じょ、冗談だよ、冗談」
楽「ったく、こんな教室のど真ん中で、できるかっての、そんな話」
小咲「で、でも、るりちゃんと舞子くんには、報告、しようって」
楽「い、いや、別に今じゃなくても、いいだろ?」
小咲「そ、そうだね、あはは……」
るり「……? なに言ってのよ、あんたら?」
小咲「えっ?」
集「はは。しかし冗談で言ったものの、この調子じゃ二人の初チュウなんか、いつになることやら……。なあ、楽よ」
楽「は、はぁ? だから、チュウ自体はもう、したっての」
集「はは、またまたー……、えっ?」
集「ま、マジ?」
楽「ああ、まあ……」
620:
  
集「えぇえええええぇえええっ!?」
るり「う、うそぉ!? うそでしょっ!?」
「あ? 今あいつら、チュウしたっつったか?」
「はは、いやまさか……。あの二人にはまだ、早いだろ」
千棘「あれ、知らなかったの? 楽くん、話してなかったんだ」
集「なんで桐崎さんは知ってるのっ!?」
楽「ていうかあの日のことはほとんど、ひた隠しにしてきたからな……」
小咲「そ、そうなんだ。それにしてもみんな、驚きすぎじゃあ……」
「う、うそだーっ!! 本当にしたのかぁ!!」
「くっそー! やりやがった、一条のヤツぅ!!」
楽「お前らな……」
624:
  
集「く、詳しく教えろっ! どんな、どんな感じだった!?」
楽「だ、だからそれはまた今度……」
るり「小咲……。ついに……。ついに……やったのね……」ウルウル
小咲「る、るりちゃんが泣くなんて……」
「桐崎さん、教えてくれよ! 知ってるんだろ!?」
「ていうかなんで桐崎さんにだけ話してんだよ、一条のヤツ!」
千棘「えっ。ていうか私、その場にいたし……」
「「ど、どういうこと!?」」
楽「話をややこしくするなぁっ!!」
ワイワイ ガヤガヤ
626:
――
    
放課後
集「……すげーじゃん。そんな状況で、キスなんて……」
るり「まるで、映画じゃない……」
楽「け、結局全部話すことになるとは……」カァァァ
小咲「ま、まあ他のみんなはもう、帰っちゃったから……」カァァァ
千棘「……」カァァァ
楽「なんでお前まで赤くなってるんだ」
るり「ていうかそれでよく生きてたわね、小咲……。あんた展開の流れ的に、完全に死ぬとこだったじゃない」
小咲「て、展開の流れってなに!?」
集「たしかに。いや、生きてて本当によかったけど、もし映画とかドラマだったら、絶対死んでたぜ?」
るり「そうね。もしかして二人してそれらしい台詞とかも言ってたり?」
小咲「え、お、覚えてないなぁ」ドキッ
楽「……」
628:
      
小咲「で、でも私も、あの時は、ああ、死んじゃうんだなぁって、思ったよ……」
るり「……そうよね、ごめん。思い出させちゃって。本当に、危ないところだったんだもんね……」
千棘「小咲ちゃんが無事で、よかった……。私もあの時は、もうダメかと……」
小咲「るりちゃん……。千棘ちゃん……」
集「そうだな……。小野寺が助かって、戻ってきてくれて、よかった。だよな、楽」
楽「ああ……。なんていうか、確かにあの時小咲が死んじまってたら、『映画』や『ドラマ』みたいだったんだろうけど――」
楽「――でも、人は誰もが劇的に死ねるわけじゃない。何でもないことで死ぬこともあれば、ここぞって時に死ねないこともある」
楽「ここは、『現実』なんだから。『映画』でも『ドラマ』でも『小説』でも『アニメ』でも『ゲーム』でも、ましてや――」
楽「――『漫画』の世界でも、ないんだから。そんな都合よく、人は死ねないってことだな」
集「……!」
635:
     
楽「で、もういいか? そろそろ、帰ろうぜ」
集「……そうだな。初チュウ話も聞けたことだし」
千棘「今日は五人で帰れるね。ふふっ。小咲ちゃん、手、つなごうよー」
楽「はっ、千棘よぉ。いくら女同士といえど、小咲が俺以外と手なんか」
小咲「千棘ちゃんの手、あったかいねっ」
楽「もうつないでる!」
集「ん? こっちの手は俺が握っていいの?」
楽「『ん?』じゃねえボケ!」ガスッ!
集「うげっ!」
るり「……」バキッ!
集「うげげっ! コンボ!?」
637:
   
小咲「じゃあかえろっか」
楽「あ、あの、小咲。ちょっと……」
小咲「えっ?」
るり「……」
るり「小咲、また忘れ物ー? しょうがないわね。私たち、先に行ってるからね」
小咲「え、あ、うん」
集「るりちゃん結構、無理やりだね……」
るり「うっさい」
千棘「あっ、私、待ってようか?」
るり「いいから行くわよド天然」パコォン
千棘「あいたー!?」
小咲(千棘ちゃんの扱いが、私みたいになってきてる……)
640:
  
――
小咲「それで、どうしたの? 楽くん」
楽「いや、今更なんだけど……。朝、言い忘れてたことがあって」
小咲「なに、かな」
楽「……おかえり、小咲」
小咲「……ふふっ。ただいまっ。楽くん」
楽「……本当にさ、お前……。よかったなぁ。無事に、退院できて」
小咲「うん……」
楽「俺、あの時、小咲が死ぬって……、思って、そんで、ものすごく、悲しくなって……」
楽「怖くて、震えが止まらなくて……。明日から、どうやって生きていこうって……」
楽「小咲がいない世界を、どうやって生きていこうって……考えたら、涙があふれてきて……」
小咲「でも、私はここに、ちゃんといるよ? ちゃんと、戻ってきたよ?」
楽「ああ、そうだな……。戻ってきてくれて、ありがとう」
楽「……生きててくれて、ありがとう……」
643:
  
小咲「……私も、死んじゃうかと思った。もう二度と楽くんと、会えなくなるんじゃないかって」
小咲「でもこうしてまた学校で、楽くんと会えて……。明日も学校に来れば、楽くんがいて……」
小咲「当たり前のことなのに、すっごく、幸せだなぁって……。思うの。生きてることが、すごく幸せ」
楽「はは……。俺も、幸せだよ……」
小咲「……本当に生きてるよね? 私」
楽「えっ……?」
小咲「もしかして、実は幽霊だったり?」
楽「なんだそりゃ……。そんなわけないじゃん」
小咲「確かめて、ほしいな」
楽「……えっと」
小咲「……」
小咲「う、うわぁあ……」カァァァ
647:
  
ギュッ
楽「こ、こう……?」
小咲「あ、ありがとう……。ご、ごめんね。私、普通に言えば、いいのに……」
楽「ああ……。あったかい。こんなあったかい幽霊、いるわけないよ」
小咲「うん……」
楽「……」
小咲「……」
楽「あ、あの――」
小咲「あのっ!」
楽「はいっ!?」
小咲「あの時は最後だなんて、言っちゃったけど……」
楽「え……?」
小咲「も、もういっかい、して、ほしいなぁ……。なんて……」
楽「……ぷっ」
649:
  
小咲「ちょっ、わ、笑わないでよぉ……」
楽「くくっ。だ、だから言ったろ? 『またいつかすることもある』ってよ」
小咲「……うんっ!」
楽「あれが最後なわけないだろ? ほら、だってまたこうして……」
小咲「うんっ……! うんっ……!」
楽「……また、こうして」ドクン ドクン
小咲「うん……っ」ドクン ドクン
楽「ん……っ」
小咲「……んっ」
チュゥ
650:
Anotherなら文句なく死んでただろうに
http://www.amazon.co.jp/dp/B009WOZYPG/
652:
   
チュッ……チュゥ……
……
……
小咲「二回目でもやっぱり、ドキドキするね……」
楽「ああ……。でも、すごく、幸せだった」
小咲「私も、だよ……。ねえ、楽くん」
楽「うん?」
小咲「今度は『初めて』だけじゃなくて……。『二回目』も、『三回目』も、その先も、私に教えて?」
楽「それじゃ、キリがないじゃん」
小咲「……これからもずっと一緒にいようね、ってこと!」
楽「……ああ。もちろん。小咲と一緒なら、その先も、キリがなくたって、どこまでだって……」
小咲「……」ニコッ
楽「……どこまでだって、いける気がするよ」
ギュッ……
655:
   
――
楽「すまん、遅くなって」
千棘「あっ、忘れ物、みつかったー?」
小咲「う、うん。あったよー」
るり「……したと思う?」ヒソヒソ
集「まあ、時間的に……」ヒソヒソ
楽「よく聞こえなかったけど、お前らの内緒話は絶対ろくなこと話してないよな……」
千棘「じゃ、かえろっか」
集「……あれ、俺も、忘れ物してたわ」
るり「……はぁ?」
集「すまん。取ってくるわ―。あ、楽もこい」グイッ
楽「ちょ、なんだよっ!?」
るり「……? あいつ、本人に確認する気なの?」
657:
  
――
教室
集「楽しい時間は一旦お預けだぜ、楽」
楽「なんだよ、集……。早く、忘れ物を」
集「そんなもんねえよ。分かってんだろ? 話の続きだよ、ほら」
楽「初チュウの話ならあれで終わりだよ。続きなんてない」
集「とぼけるな。お前の『計画』についての話だ。前に、話してくれただろ?」
楽「……」
660:
   
楽「……その話ももう、あれで終わりだよ。続きなんて――」
集「俺に隠してることが、あるだろう? あの『計画』の話は、その一部にすぎない。もっと大きな、なにかを……」
楽「……」
集「教えてくれよ。お前はその目で、この世界を、どう見てるのか」
楽「世界……? なに言ってんだ?」
集「お前にはこの世界が、どう視えてるのか……。お前にとって、この世界は――」
楽「頭狂ったか、集。こえーよお前」
集「……頭が狂ってるのはお前だろ? 俺はお前が怖い。なぁ、楽よ――」
集「――お前マジでこの世界が、『漫画』の中の世界だとか、思っちゃってんの?」
664:
  
楽「……思ってねえよ。そんなわけあるか」
集「なら『思ってた』が正しいか? 今までずっと……。そうだな、お前が『計画』を思いつく、直前ぐらいまでか?」
楽「……帰っていいか?」
集「ダメだ。お前はずっと、そう感じてたんだろ? この世界は、何かがおかしいと」
集「もしくは、自分の周り、自分を取り巻く環境が、どこか、イカれてるって……」
集「そう、感じてたんだろうが。なあ。全部教えろよ、楽。お前は一体、なにを見て、なにを感じてきた」
楽「……」
集「……教えてくれよ。俺たち、親友だろ?」
楽「俺の親友は桐崎 千棘、ただ一人だ。お前とはただの、『腐れ縁』だよ」
集「……そっか」
楽「でも、もういい。そこまでバレてんなら……全部教えてやるよ」
集「っ!」
666:
  
『ギャアァーーーーーー!!!』
『あっ……! ごめん! 急いでたから!』
楽「まず、俺は別にこの世界が『漫画』の中だと、本気で信じてるわけではない」
楽「そんなはずはない。ここは、俺たちがいる世界は、紛れもなく、現実だ」
楽「ただ、あいつが……。千棘が転入してきた、あの日……」
『初めまして! アメリカから転入してきた桐崎 千棘です』
楽「……現実を疑ったのは、確かだ」
『あーーーーーーーーーーーーーー!!!』
『あなたさっきの……』
『さっきの暴力女!!』
楽「『漫画』みたいな展開だなって思ったのは、確かだ」
集「……」
668:
 
楽「……でも、その時は、それだけだったんだ。こんな展開、現実でもあるんだなぁって、そう思っただけだった」
楽「だけど、あいつ……。桐崎 千棘は帰国子女で、金髪で、美少女で、運動神経抜群で、転入生だった」
楽「……すごいステータスの持ち主だな、と思った。それだけならな。だけどあいつは、それだけじゃなかった」
楽「『暴力女』だった。『ゴリラ女』だった。それに性格も刺々しくて、俺のこと『もやし』とか呼んできやがった」
楽「……『漫画のキャラ』みたいなヤツだった。ていうか昔実際に、『漫画』で似たようなキャラを見た覚えがあった」
集「……いるよな。女の子なのに、やたら力が強くて、ツッコミとか照れ隠しとかで、主人公をぶん殴るヒロイン」
楽「まさしく『漫画』の世界から出てきたみたいな、女だった……」
楽「そんな『漫画みたいな女』が目の前に現れて……。俺の日常に変化が起きない、わけがなかった」
楽「……毎日が苦労の連続だった」
楽「だがその日、俺の運命は変わった」
楽「そう、その日から、さらに凄まじい苦労の、連続となったんだ」
670:
  
『お前ら二人には明日から……3年間恋人同士になって貰う』
楽「家に帰ったら突然親父から、そんなことを言われた……。あれは千棘と出会って、何日目のことだったか」
楽「……なんだよ。ヤクザとギャングの抗争を止めるために、ニセモノの恋人同士になれって……」
楽「『漫画』だったら……。結構面白そうな、展開だよな……」
集「……まあ確かに、傍から見てて面白かったけどさ」
楽「しかも、その相手が、その千棘だった。あいつはあのステータスに加え、集英組の敵、ビーハイブの、令嬢でもあったんだ」
楽「……そもそも俺だって、集英組の跡取り……。ヤクザの、息子だ。俺だって、『漫画』のキャラみたいなステータスを、持ってたんだ」
楽「そこに気づいた時……。俺の考えは、歪んだ」
楽「そしてその後、俺に降りかかった数々の出来事が、さらに俺の考えを、歪ませた」
集「……まさか」
『ラブコメの主人公でもあるまいし……』
671:
       
楽「千棘とのデート中、俺がポロっと小咲の名前をこぼした時に……『偶然』、本当にそこに、小咲が現れた」
楽「『ちょうど』千棘が後ろから、『ダーリン』と俺を呼びながら現れ、小咲に思いっきり誤解された」
楽「小咲と廊下で会った時があった。『たまたま』誰かが小咲にぶつかって、小咲は俺の前で鍵を落とした」
楽「放課後、千棘が友達ノートなるものを作っているところを見てしまった。『奇しくも』俺も過去に同じノートを、作ったことがあった」
集「……」
楽「……勉強会の時に、千棘と蔵に閉じ込められたことがあったな。もうこの時点で、アレだが……」
楽「でも梯子もあったし窓もあったし、普通に出られるだろうと思ったら……『都合良く』、千棘が閉所恐怖症だった」
集「いや、彼女も女の子だし……」
楽「普段は強気で自信満々で、実際に女子とは思えないほど強い筈の、千棘が、『都合悪く』過去にトラウマがあって、恐怖症だった」
楽「だからあいつ、後ろから抱きついてきてさ……。おかげで良い思いができたよ」
楽「まるで、ラブコメの主人公みたいにな」
673:
     
楽「しかもあいつ、その後体制崩して俺に、覆いかぶさってきてさ……」
集「そんな『絶好のタイミング』で、蔵が開けられて……。また小野寺に、勘違いされたんだよな」
集「確かに……。『ラブコメ漫画』のワンシーン、だよな」
楽「プールに行った時も……。更衣室の鍵が、『なぜか』妙に小咲の持ってた鍵に似ててさ……」
楽「千棘にはぶん殴られ……。小咲には、また誤解された」
楽「そうやって小咲に誤解されるたびに俺は、心が締め付けられる思いをしてきた」
楽「最初は千棘やビーハイブの連中を、憎んだりもしたよ……。でもきっとこれは、誰も悪くなくて、誰のせいでもなくて――」
楽「世界が……。この世界が、おかしいんだろうなって……思った」
集「……」
楽「そして、後に起こった二つの出来事が、俺のそんな考えを、さらに膨らませた」
675:
     
楽「一つ目は、宮本の頼みで水泳の試合に出ることになった時だ」
楽「……千棘が泳いでる最中に、両足を攣って、溺れた」
集「それは桐崎さんが、準備運動を怠ったからだろ?」
楽「俺もそう思った。そう思いながらも俺はプールに飛び込み、必死にあいつを助けた」
楽「だけどさ……。俺は確かに、千棘を助けるつもりで……。自分の意志で、千棘を助けたつもりなのに」
楽「周りから拍手が起こって、歓声が上がったその時に……。俺は、愕然としたよ」
楽「まるで俺、物語の『ヒーロー』みたいだって」
楽「俺は自分の意志で動いた筈なのに、まるでそうなるように仕組まれてるような……」
楽「『ヒロイン』を助けるために操られた、都合の良い、物語上の『ヒーロー』みたいだなって……」
集「ヒーローね……」
楽「……そして、もう一つの出来事は……。俺の心を完全に砕いた、その出来事は……っ」
楽「小咲と二人きりで、教室にいた時に、起きたんだ……っ!」
676:
    
楽「小咲と二人きりで教室で、話しててさ……」
楽「すごくいい雰囲気になったんだ。そしたら小咲が、顔を真っ赤にして、俺に何か伝えようとして……」
集「へえ……。そんなことが」
楽「正直、告白されるのかと思った。めちゃくちゃドキドキした。そして小咲が、何かを伝えようとした、まさにその瞬間――」
楽「野球部の打ったボールが、教室の窓ガラスを割り、飛んできたんだ」
集「……そりゃあ……タイミング的にはもはや、『奇跡』に近いな」
楽「……小咲が伝えようとしてたことを、聞きそびれちまったのは、残念だった」
楽「だけどそれ以上に……。俺は、許せなかった……っ!」
集「……許せなかった? 誰を? 野球部の連中か?」
楽「……お前、言ったよな。『奇跡』に近いって。俺は、そんな奇跡的なタイミングでボールが飛んできたことに――」
楽「――誰かの、あるいはもっと大きな『なにか』の、意志を……。感じざるを得なかった」
681:
    
楽「……その『なにか』にとって、小咲が俺に伝えようとしていたことは、都合が悪かったのかもしれない」
楽「だから、それが俺に伝わるのを阻止しようとして……。そんな絶妙なタイミングでボールが飛んできたんだ」
楽「その『なにか』が、奇跡を起こしたんだ」
集「……段々、とんでもない話になってきてるぞ」
楽「おかしなこと言ってるのは分かってる……。だけど俺には、そうとしか思えないんだよ」
楽「そして俺はその『なにか』を、許せねえ……」
楽「どんな目的があったのか……。そこにどんな意志があったのかは、知らねえけど……」
楽「もしそのボールが、小咲に当たってたら、どうすんだよ……っ!」 
集「……」
楽「俺の周りで起き始めていた『漫画のような展開』は、とうとう二人を危険な目に、あわせた」
楽「それに、耐えられなくて……。俺の心は、砕けた」
楽「……あの日から――」
683:
     
楽「千棘が転入してきたあの日からずっと、俺の周りには、『非日常』があふれていた」
楽「『漫画』みたいな出来事で、あふれていた」
楽「人の意志では、力では、到底引き起こせないような事象が、平然と起こっていた」
楽「……俺の周りで、だけだ」
集「……」
楽「俺の考えは、歪んだ。もしかしたら、この世界は、この地球は――」
楽「――俺を中心に、回ってるのかって」
集「お前、そんなこと考えてたのかよ」
楽「考えたさ。そしてそんな考えさえも、また次第に変わっていった」
楽「……こんな『漫画』みたいな世界の、中心にいる俺は――」
楽「ひょっとしたら、『主人公』なんじゃないかって」
集「……ははっ。なに言ってんの?」
687:
 
楽「だとしたら……。俺が主人公だから、ヒーローだから、ヒロインである二人が、危険な目に遭ったのかもしれないって」
集「それはもう、ただの自惚れだろう。主人公って、『漫画』のかよ?」
楽「知らねえよ……。『漫画』かもしれないし、他の『なにか』かもしれない」
楽「俺は『なにか』の主人公に抜擢されちまったんだ……って、考えるようになった」
集「……よかったじゃん。主人公になれて」
楽「……なんだと?」
集「お前が羨ましい、って言ったんだよ。お前が主人公だとすれば、俺はどう見ても『脇役』だからな」
集「いや、俺なんかまだマシな方だ。『主人公の友達』というポジションの俺は、まだな」
集「例えば隣のクラスの、名前も知らねえし話したこともないような連中は、脇役ですらないんだろうな」
集「『モブキャラ』ってやつかな? ったく、自分が『モブキャラ』だということにも気づかずに生きている連中に、俺は同情するぜ」
楽「……で、俺のなにが羨ましいって?」
集「『脇役』でも『モブキャラ』でもないところだよ」
688:
  
集「お前、自分がなに言ってるのか分かってるのか?」
集「『自分は特別な人間で、周りの人間は皆、取るに足らない存在』。そう言ってるのと同じなんだぞ?」
楽「……」
集「他の人間は全員、お前の引き立て役か? 主人公である、お前の」
集「お前は桐崎さんや小野寺が、『自分のせい』で危険な目に遭ったと、そう思ってるのかもしれない」
集「だけど、その二人を『悲劇のヒロイン』だと、認めるということは……っ!」
集「……二人まで、主人公のお前の、引き立て役でしかないって、認めることにもなるんだぞっ!」
集「お前はそれで、いいのかよっ!? この世界は『漫画』で、お前はその『漫画』の主人公で、後は全員お前のために動く、都合のいい駒か!?」
690:
 
楽「……そんなわけ、ないだろ」
集「……」
楽「ここは『漫画』の世界なんかじゃない。『現実』だ。だから皆自分の意志で、自分のために動いてるし、俺のためになんか動いてくれない」
集「お前……、ここが現実だって……。今、そう言ったか……?」
楽「……」
集「でもお前は……。一度思っちまったんだろ……? 自分は主人公だって。この世界は、自分を中心に動いてるって」
集「……なあ、楽。俺、お前の話を聞いてさ……。少しだけだけど、考えちまったんだよ」
楽「……なに?」
集「自分はただの、『引き立て役』でしかないんじゃないかって……。『脇役』なんじゃないかって 」
692:
      
集「俺だってちゃんと、自分の意志で、お前の恋を応援したり、サポートもしてきたつもりなのに……」
集「それも全部、お前を引き立てるための、『なにか』の意志によるものだったのかな……?」
楽「だから、言ってるだろうがっ! この世界は、『漫画』なんかじゃないっ!!」
楽「おれは『漫画』の主人公なんかじゃないっ!」
楽「お前は『漫画』の脇役なんかじゃないっ!」
楽「小咲も千棘も宮本も、引き立て役なんかじゃないっ!!」
集「なに、言ってんだよ……。だってお前、さっき――」
楽「だからっ! だから俺は、『計画』を考えたんだっ!」
楽「このクソみたいな世界を否定する、その『計画』をなっ!!」
695:
  
――
小咲「二人とも、どうしたんだろうね。男の子同士で、話し合いたいことがあったのかな?」
千棘「えっ? 忘れ物を取りに行ったんでしょ?」
小咲「えっ。あ、うん……」
るり(この子、小咲以上の逸材だわ……)
小咲「あっ、そうだ……。千棘ちゃんに、聞きたいことが、あったんだけど……」
千棘「? なあに?」
697:
 
小咲「そ、その……。楽くんのこと、なんだけど」
千棘「うん。楽くんのこと、好きだよ」
小咲「えっと、千棘ちゃんは、楽くんのことどう思って――」
小咲「――っ!?」
千棘「今、言ったよ?」ニコッ
るり(この子……。逸材どころじゃないわ……)
699:
     
小咲「好き、だったんだ……。やっぱり……」
千棘「うん。告白も、しちゃった」
小咲「え、ええぇえぇ!? そ、そんな、いつ……?」
千棘「結構最近。少なくとも、小咲ちゃんと楽くんが付き合い始めて、からだよ」
小咲「え……っ。と、ということは」
るり「あなたは小咲から、一条くんを奪おうとしてたわけだ」
小咲「る、るりちゃん。そんな言い方……」
千棘「まあでも、そうなるよね。既に恋人がいる人に告白するって、そういうことだもん」
小咲「……」
700:
      
小咲「……それで、楽くんの返事は」
千棘「『お前は一番の親友だ』だって。いやぁ。あの時はすっごく嬉しかったなぁ」
るり「あんたそれ、フラれてるじゃない」
千棘「まぁ、ね。やっぱり楽くんは私より、小咲ちゃんの方が好きだったみたい」
小咲「……どうしてそんなに、明るく話せるの?」
千棘「えっ?」
小咲「だって千棘ちゃん、失恋したってことでしょ? ショックじゃなかったの?」
るり「こさき……っ!」
千棘「そうだね。私、失恋したの。でも親友って言ってもらえたし、そんなにショックじゃなかったかな」
小咲「……」
千棘「――なんて、言えるわけない」
704:
 
千棘「ショックだったに、決まってるよ……。家帰ってから部屋で、大泣きしたもん」
小咲「……」
千棘「……でも、スッキリして、気持ちよかったよ」
るり「それは、大泣きしたことが?」
千棘「ううん。はっきり気持ちを伝えられて、ちゃんと失恋できたことが」
小咲「っ!!」
千棘「……小咲ちゃん。ごめんね。あなたの彼氏に、勝手に告白なんかして」
千棘「でも、どうしても、伝えたかったの。我慢、できなかったの……」
小咲「……すごい」
千棘「えっ?」
小咲「すごいよ……、千棘ちゃん。尊敬、しちゃうよ……」
るり「……小咲」
るり(そうか……。小咲も……)
706:
     
小咲「私も……。前に楽くんと千棘ちゃんが、恋人同士のフリをしてたこと、あったでしょ?」
千棘「あはは……。あったね、そんなことも。なんか、懐かしい」
小咲「……フリをしてたってことが、分かった時には、私、ホッとしたけど……」
小咲「でも、その前は、本当に二人は、付き合ってるものだと思ってたから……。お似合いだなって、思ってたから」
小咲「だから……、辛かった。その時から、もっと前から、私は楽くんのことが、好きだったから」
千棘「……」
小咲「それでもるりちゃんは、背中を押してくれて……」
小咲「『相手に好きな人がいるからって、アタックしちゃいけない決まりなんて、ない』って……」
るり「……」
 
小咲「だけど結局私は楽くんに、アタックできなかったなぁ……」
707:
  
小咲「……でも千棘ちゃんは、告白、できたんだね」
小咲「楽くんに好きな人がいるって、分かってても……。恐れずにちゃんと、告白できたんだ」
小咲「私ができなかったことを……やってのけたんだね」
千棘「……私も本当は、ずっとこの気持ちを、胸の奥に押し込めておくつもりだったの」
千棘「だけど私にも、背中を押してくれる人がいたから……。だから、勇気を出して、告白できたの」
小咲「そうなんだ……。千棘ちゃんは誰に、背中を押してもらったの?」
千棘「……楽くん」
小咲「えっ。楽くん?」
千棘「そっ。告白する相手に、背中押されちゃったの。ふふっ。おかしいよねっ」
小咲「あははっ。でも楽くんは、そういう人だから」
千棘「そうそうっ。そうだ、この前、楽くんがね――」クスッ
るり「あっ」
るり(……今の、千棘ちゃんの、顔)
るり(一条くんのことを話す時の……。小咲に、そっくり……)
710:
     
小咲「……そういえばるりちゃんは、楽くんのこと、どう思ってるの?」
るり「はぁ? 私は別になんとも……。ただのへたれじゃないとは、思ってるけど」
千棘「もしかして、るりちゃんも楽くんのこと、好きだったりして」
るり「急展開すぎるでしょ……」
小咲「じゃあ、舞子くん?」
るり「バカなの?」
小咲「ごめんなさい……」
千棘「えー。じゃあ、誰だろう……」
るり「あのね……。私には好きな人なんていないの。ていうかなんで急に、私の話に――」
小咲「だってるりちゃんはずっと、私の恋を応援してくれてたでしょ」
小咲「そのおかげもあって、私の恋は、実を結んだんだから……」
小咲「今度はるりちゃんの恋を、私が応援する番かなって!」
るり「……ふふっ。なによそれ」
713:
  
るり「じゃあ私もやっぱり一条くんのことが好きかなぁ? ほら、応援してよ」
小咲「えぇ!? ど、どうしよう。あの、私も、その、好きなんだけど……」
るり「だからあんたらは付き合ってるんでしょうが」
るり(少しは成長したと思ったけど……。やっぱり小咲は、小咲だ)
千棘「はーいっ! 私も楽くんのこと、好きー!」
るり「さっき聞いたから」
千棘「ねぇ、三人とも楽くんのことが好きなら、誰が一番多く、楽くんの好きなところを挙げられるか、勝負しようよっ!」
るり「いや、あんたらに勝てる気がしない」
716:
小咲「は、はいっ! 友達が風邪で休んだ時、その子の分までノートをとってあげるところ!」
千棘「やるねっ! 私が漢字を間違えて使ってた時、バカにせずにさりげなく正しい漢字を教えてくれるところっ!」
るり「……」
るり(しっかしまあ、この二人といると……)
小咲「るりっ!」
千棘「ちゃんはっ!?」
るり「いや私、そんな具体的なエピソード持ってないんだけど……」
るり(……退屈、しないわ)
720:
    
――
楽「ここは確かに現実だ……。誰もかれもがみんな、平凡な生活を送って、退屈そうにしてる。当たり前だ。現実なんだから」
楽「……なのに、なぜか俺の周りでは、現実とはかけ離れた、『非日常』が多すぎる……」
楽「『漫画』のような展開が、次々にやってきて……。いつになったって、終わりが見えない」
楽「……以前までの俺は、そんな『展開』がやってくる度に、ただそれに流されるばかりだった。俺は結局、なにもできなかったんだ」
楽「そりゃそうだ。『展開』に逆らうってことは……。『運命』に抗うってことだ。そんな方法、思いつくわけない」
楽「だけど、それじゃダメだったんだよ……。それじゃあここが『漫画』の世界だと……。認めてしまうことになるから」
楽「みんなが『なにか』によって動かされる、都合のいい駒だと……認めてしまうことに、なるから……」
楽「そんなはずないのに……。みんなちゃんと、自分の『意志』を持って、この世界を生きているのに……」
楽「小咲も、千棘も、宮本も……。お前だって、そうだろ? ちゃんと『自分の意志』で、俺の恋を応援してくれてたんだろ?」
集「ああ……」
楽「……だからそれを証明するために……。俺は『運命』に、『展開』に、逆らわなければならなかった」
楽「ここが『現実』だと……証明しなければならなかった」
721:
    
集「へえ。じゃあお前は俺たちのために今まで、頑張ってくれてたの?」
楽「……」
集「俺たちが駒じゃないと証明するために……。ひゅー。かっこいいー。まるで――」
楽「違う。そんな『主人公』みたいなこと、俺がするかよ」
楽「俺は……そんなのじゃない。現実に主人公なんて、いるものか」
集「……はっ。じゃあ聞かせてくれよ。お前はなんのために、この世界が『漫画』であることを否定しようとしたんだ?」
楽「俺はただの平凡な一般市民だからな……。たいした理由なんか、ないぜ?」
楽「誰でもやってることだ。誰でも知らず知らずのうちに、やっていることを……。みんなと同じように、やってただけだ」
集「……」
楽「俺はただ……。自分の『夢』を叶えようと、努力してただけなんだ」
集「……夢?」
723:
    
楽「ああ……。俺には、叶えたい夢があった。そのまま流され続けてたら絶対に、叶わない夢が」
楽「……『運命』に抗わなければ決して、叶わない夢が、あった」
集「お前の夢って、『小野寺と付き合う』ことだろ? それはすぐに、叶ったじゃないか」
楽「もちろん、それも夢だったさ。でも、それだけじゃない……」
楽「……もう一つ、俺には叶えなければならない、夢があったんだ」
集「……そうか。『あっち』の方か」
楽「『一流大学を卒業して、堅実な公務員』になる。俺のもう一つの、大切な、夢だ」
724:
   
集「忘れてたよ……。そんな現実的な夢も、確かにお前には、あったんだったよな」
楽「そう。この上なく現実的で、平凡で、全く面白みのない夢だ。だけど決して簡単には叶わない。そんな夢だ」
楽「……そして、この夢を叶えるために最も重要なプロセスが……。『勉強』ってやつだ」
集「急に話がつまらなくなってきたぞ……」
楽「そりゃそうだろ。で、『勉強』するためにはやっぱり時間も必要だし、ある程度の気力も必要なんだ。精神状態も、大きく左右するな」
集「……」
楽「……それらを維持するために必要なのは、『平穏な日常』だ」
楽「『非日常』なんていらない。派手な『展開』もいらない。過酷な『運命』なんて、疲れるだけだ」
楽「『漫画』の主人公なんかには絶対になれないもの。それが、『公務員』だ」
集「……いや、『漫画』だったら何にでもなれるだろ」
731:
     
楽「……でも俺はこのままじゃダメだと思った。俺の夢は両方とも、このままじゃ叶わないって」
楽「千棘とのニセコイ関係のせいで、『小咲と付き合う』という夢は叶わなくなり」
楽「それも含めたいろいろな『非日常』に巻き込まれるたびに、勉強する体力と時間が失われ、『公務員になる』夢も、遠ざかっていった」
楽「……だから俺は、決めたんだ。『平穏な日常』を取り戻して、夢を叶えてやるって」
集「それは……誰のためだ?」
楽「もちろん、全部自分のためだ。俺は自分の夢に向かって進む決心を、つけたんだ。そして、その次の日に――」
楽「俺は小咲に告白して、一つ目の夢を叶えた」
楽「……そしてそこから全てが、始まった」
集「……」
楽「『平穏な日常』を取り戻し、自分の『夢』を叶えるための……」
楽「この世界が『漫画』じゃなくて、『現実』だということを証明するための……。俺の計画が、始まった」
732:
    
楽「『現実』を証明するための、計画……。この世界が『漫画』であることを、否定するための、計画」
楽「それが『桐崎 千棘 矯正計画』の、実態だ」
楽「といっても最初は『桐崎 千棘 矯正計画』は、千棘を『普通の女の子』に矯正して、『普通の友達』になってもらうための、計画だった」
楽「その内容はまあ、前に話した通りだな」
集「……いや、今思い返すとまた、だいぶ印象が変ってくるよ」
集「お前はてっきり、桐崎さんに殴られるのが嫌だから、悪口を言われるのが嫌だから、そしてそんな桐崎さんが嫌いだったから、その人格を矯正しようとしてたんだと思ったが……」
楽「もちろん、それもある。だけどこの計画の真の目的は――」
楽「あいつを『漫画のようなキャラ』から、『平凡な人間』に、矯正することだった」
集「……ペンダントを壊したのも」
楽「それも前に話した通りだが……。まあ結果的に、あいつを『漫画のキャラ』から遠ざけることになったな」
楽「隣の席に座る転入生が、ビーハイブの令嬢が、喧嘩ばかりしてたその相手が、ニセモノの恋人が――」
楽「実は『約束の女の子』だったなんて、そんなの現実的に考えて、有り得ないもんな」
734:
  
楽「ただ一つ、前に話した『ペンダントを壊した理由』と、相違があるとすれば……」
楽「ペンダントを壊す決心をつけたのは、お前の話を聞いた時なんかじゃなくて……、『計画』を考えたその時、だったってとこか」
集「はぁ……? ってことはお前……」
集「……初めっから、ペンダントは壊すつもりだったと……?」
楽「そうだな。ちなみに『決心をつけた』のがその時ってだけで、この世界が『漫画』だとか考え始めた辺りから、いつか壊そうとは思ってた」
楽「だけどほら……。いきなり壊しちまったら小咲が悲しむだろうし、タイミングが分からなかったんだ」
楽「……そんな時にお前が小咲の鍵を盗んでくれて……。あいつ最初は、悲しんでたけど……。でも最終的に俺がペンダントを壊したら、逆に喜んでくれたよ」
楽「お前のおかげだ、ありがとう」
集「お前……この前と、言ってることが……」
736:
    
集「それに……。夢だったんだろ……? 『約束の女の子』との、再会が……」
楽「さっき言ったろ。俺の夢は、二つだけだよ」
楽「それに『約束の女の子』なんて、『漫画のキャラ』そのものだし、『十年前の約束』なんて、物語そのものじゃないか」
楽「そんなものはいらない。現実の世界にそんな幻想的な人物は、いちゃいけないんだよ」
集「なに、言って……。お前はずっと、あの子を想って……」
楽「ああ、そうだったな……。あの時の自分を、殺してやりたいよ」
集「なっ……」
737:
  
楽「付き合う前とはいえ、小咲という想い人がいたってのに……。いつまでたってもそんな『約束』に、縛られて……」
楽「なにが『もしも小野寺があの子だったら』だ……。じゃあもし全然違うヤツが『あの子』だったら、どっちを選ぶ気だったんだっての」
集「だからお前は、小野寺を選んだんだろ? そんで本当の『約束の女の子』が現れても、その気持ちは変わらないんだろ?」
楽「ああ。だけど、本音を言ってしまえば……。二度と俺の前に現れてほしくなんか、ないけどな」
集「はぁ……!?」
楽「もう会うことはないだろうな。顔は覚えてないし、ペンダントはもうないし……」
楽「完全に俺の中で、『約束の女の子』は死んだよ。これでようやく、『漫画のキャラ』が一人減ったわけだ」
集「……そうか、お前にとっては、『約束の女の子』も――」
742:
 
集「……しかし、分からねえぞ。小野寺が……。もしかしたら桐崎さんが、本当はそうなのかもしれねえ」
楽「違う。そんな偶然は、現実では起こり得ない」
集「……そうかよ」
楽「……だけど小咲がいつだったか、『あの子』と重なって見えたことは、あったか」
集「ほう。その時、お前は――」
楽「邪魔だなって、思ったよ」
楽「あれっきりもう、『あの子』の姿はどこにも、見えないな……」
集「……」
743:
はい死んだ!マミーいま完全に死んだよ!
744:
     
楽「あとは……。やっぱり一番厄介だったのが、『ニセコイ関係』ってやつだったな」
楽「小咲と付き合ったことで、千棘と喧嘩したことで、一旦は解消できたが……」
楽「『抗争』そのものを止めなければ、それも時間の問題だった」
集「……まさかとは思うが、お前が抗争を止めたのか?」
楽「いや、この件に関してはほとんど、千棘の功績だよ。俺がしたことと言えば――」
楽「電話を一本、かけたことぐらいか」
集「……電話? 誰に」
楽「アーデル……桐崎……なんだっけ。あの時はメモを見ながらだったからなぁ。まあ、要するに――」
楽「千棘の親父さんに、電話をかけたわけだ。『抗争を止めろ』って」
楽「『娘の苦しむ姿を見たくなければ、降伏してでも、止めろ』ってな……」
集「……その娘が苦しんでたのは、お前の計画のせいだろうが」
747:
 
      
楽「そう。つまり『桐崎 千棘 矯正計画』は、『約束の女の子』を消すための計画でもあり、抗争を止めるための計画でもあったんだ」
集「誇らしげに言うな」
楽「しかし本当に、ふざけんなって感じだよ。結局お前ら、『ニセコイ関係』なんかなくても、抗争を終わらせることができたんじゃねえか」
楽「なにが『この戦争を回避する方法は一つだけ』だ……。てめえらがちょっと頭下げりゃ、済む話じゃねえか」
楽「なにが『お前らが付き合えば若いヤツらも水を差すわけにはいかなくなる』だ。『だから抗争も止まる』って、そんなバカな話があるか」
楽「なにが『こっちも命がかかってる』だ。てめえらクズの命を救うために、何で人生に一度しかない、俺たちの『青春』をかけなきゃならねえ」
集「クズってお前……」
楽「ヤクザなんかみんなクズだろうが。しかもその上、バカばっかりだ」
楽「なんせあんな素人同然の演技でまんまと騙されて、本当に抗争をやめちまうんだもんな」
楽「見込みがあったのは、クロードぐらいかな……。そう言えばあいつには、小咲を助けてもらった恩もあったか」
楽「まぁだとしても、二度と会いたくないが。そもそもあいつのせいで、この上なく『漫画』っぽい展開に巻き込まれることになったし」
集「……」
749:
     
楽「でも結局最後まで俺らの関係を怪しんでたのも、クロード一人だった」
楽「人を傷つけて、殺めることしか能の無い、クズどもが……」
楽「……それでもあの中で一人ぐらい、気づいてたヤツはいなかったもんかね」
楽「みんなして口揃えて、『二人はラブラブっすねー』だの、『いいなー青春だなー』だの、『坊っちゃんにもとうとう彼女が』だの……」
楽「一人ぐらいおかしいと思ってたヤツはいなかったのかよ。周りのヤツらと同じこと言うだけで、全く疑おうともしねえで」
楽「ああいうヤツらのことを、『漫画』じゃ『モブキャラ』っていうんだろうな。別にセリフが同じなら、誰でもいいようなヤツ」
楽「……ま、今回の抗争でその『モブキャラ』も、だいぶ人数が減ったみたいだけどな」
集「……今更だけどお前、本当に一条 楽か?」
楽「他の誰だってんだよ」
757:
 
楽「まあ結局抗争も終わり、ニセコイ関係も、必要が無くなり……」
楽「おまけにビーハイブと集英組、双方の構成員も、だいぶ数が減ったしな。ビーハイブはもちろん、集英組も、もう当分の間はおとなしくなるだろう」
楽「早く家を飛び出したいなんて思ってたけど……。その必要も、無くなったかな」
楽「その後は無事に『桐崎 千棘 矯正計画』も完遂し……。千棘は『普通の女の子』になった」
楽「……と思ったけど、全然『普通』じゃなかったな。想像以上に、可愛い女子になっちまった」
集「いや、最初から桐崎さんは可愛いかったと思うが」
楽「『外』はな。『中』はゴリラだったし。でもその『中』が変わったことで、ここまで理想的な女の子になるとは」
集「……『漫画のキャラ』みたいに、か?」
楽「まさか。『漫画のキャラ』なんかよりずっと可愛いよ。今のあいつは」
集「そうきたか……」
760:
 
楽「ただ……。あの事件の時のあいつはちょっと、流石に『バトル漫画』し過ぎて、引いたがな」
集「小野寺がさらわれた時か……。俺はいなかったから、分からんけども」
楽「あの時だけは、前の『ゴリラ女』が戻ってきたみたいで、ちょっと嫌だったけど……でもあいつもそれを、気にしてるみたいだったし」
楽「それに、俺や小咲を救うためだったわけだし……。仕方がないよな。あの時間だけは何もかもが、『漫画』みたいだったし」
楽「……俺の『計画』は完遂したと思ってたのに、まさかまだあんな展開が待っていたとは……。クロード……。それに、鶫のヤツめ……」
集「『つぐみ』……?」
762:
    
楽「だけど今度こそ、全て終わった。俺の周りにはもう、そんな展開の元凶になるような……。『漫画のキャラ』のような、厄介なヤツはいない」
楽「『桐崎 千棘』『約束の女の子』『クロード』『ビーハイブ』『集英組』……。ついでに、『鶫 誠士郎』もな」
集「だからそいつ、だれだよ?」
楽「……ああ、そうか。お前は知らないよな。ビーハイブのヒットマンで、千棘のお付きで……。『黒虎』とか呼ばれてたヤツだ」
集「そりゃあまた……とんでもないヤツだな」
楽「そんなヤツがウチの学校に転入してくる予定だったってんだから……。本当に、たまったもんじゃない」
763:
 
集「へえ、そうだったんだ。もしそうなってたら、全部台無しだったな」
楽「下手したら千棘よりも『漫画のキャラ』だもんな……。本当に転入の話がなくなって、よかったよ」
楽「もしかしたら広い宇宙のどこかに、あいつがちゃんと転入してくる世界もあるのかもしれないが……」
楽「俺は絶対にそんな世界は、ゴメンだな。あんな恐ろしいヤツと、学校生活を送るなんて……。命がいくつあっても、足りん」
集「まあ、『黒虎』じゃあな」
楽「その世界がもし『ラブコメ漫画』の世界だったら、意外とあんなヤツでも普通の女の子らしくなって、俺たちとよろしくやってたりすんのかもしれないけど……」
集「……女の子らしく? ちょっと待て。そいつ、女なのか?」
楽「ああ。あんな名前だけどな。顔も中性的な感じだけど……。でも結構、美人だぜ」
集「……ちょっと興味出てきたな。いいなぁ。別の世界の俺」
楽「やめとけ。その世界のお前はきっと、鶫に悪戯かなんかして怒らせて、殺されかけてる」
集「……やっぱり平和なこの世界が、一番だな」
765:
    
楽「小咲を撃ったのも鶫だし……。本当に、許せねえヤツだよ」
楽「だけどもうそいつとも、二度と会うことはない。とんでもないことに巻き込まれちまったが、ようやく俺の計画は、戦いは、終わったんだ」
楽「同時にこの世界が『現実』であると、証明された。その証拠に、小咲はちゃんと助かって、生きている」
集「それのなにが証拠になんだよ」
楽「さっきも言ってたろ……。この世界が『漫画』だったら、小咲はあの場面で、絶対に死んでた」
楽「だけどよかったよ……。小咲が生きててくれて。小咲が証明してくれた。ここは、『現実』なんだって……」
集「……」
楽「本当に、よかった……。小咲はちゃんと今も、いてくれてる。何してるんだろうな今は。二人と楽しくお喋りしながら、俺らを待ってくれてるのかな」
楽「……ていうか、長く喋りすぎたか。もういいだろ? そろそろ行こうぜ――」
集「……待てよ。最後に一つ、聞かせろ」
767:
    
楽「……なんだよ?」
集「小野寺が証明してくれた、だって? ってことはお前まさか、試したのか?」
楽「はぁ……?」
集「小野寺が本当に死ぬのかどうか、ここが『漫画』なのか『現実』なのか、試してたんじゃないかって、聞いてんだよ」
楽「……それを試すために、俺が小咲を殺そうとしたとでも、言うのか?」
集「撃ったのはその『つぐみ』ってヤツなんだろ?」
集「それにいくらなんでも、お前がそこまでするようなヤツだとは、思ってねえよ。ただ――」
集「小野寺が死にそうになって、苦しんでる時にも……。お前はそんなバカなことを考えてやがったのかって、聞いてんだ」
楽「……」
集「そんで、小野寺が助かった時も……。そのことよりも先に、ここが『現実』だと分かったことに、喜んでやがったんじゃないのか」
楽「……それ以上言うと、流石に怒るぞ?」
集「よかったなぁ。小野寺が助かって。ここが『現実』だって、証明されてよぉ」
集「小野寺も、撃たれた甲斐があったよなぁ……っ! 映画やドラマみたいな台詞を言いながら、お前とキスをした甲斐が、あったよなぁっ!」
集「お前の実験台にされた甲斐が、あったよなぁ!!」
ガタァンッ!!
770:
    
楽「……そうか」グイッ
集「離せよ……」
楽「そうか。そう言えばお前がまだ、残ってたな」
集「……はっ。そうだな……。一番厄介なヤツを、残しちまってたな」
集「しかし残念だったな……。そうだ。実は俺が、ラスボスだったんだよ」
楽「現実世界にラスボスなんかいるか」
集「親友がラスボスっていうのも、実に『漫画』っぽくて、いいじゃないか」
楽「だからてめえは親友じゃなくて、『腐れ縁』だっての」
楽「……まあその縁も今、切れそうだがな」
集「くくっ……」
楽「……本当にお前は、嫌なヤツだよ……。やけに静かに人の話を聞いてると思ってたら……。まさか、そんなところをついてくるとは」
772:
   
楽「お前、一体……。何がしたいんだよ? 俺を怒らせて……」
楽「それに、千棘の計画に協力した時もそうだ。なぜ俺と小咲の関係を、壊すようなこと……」
集「……別に。どっちも面白そうだったから、ってだけだよ」
楽「バレバレの嘘をつくな。何年の付き合いだと思ってる」
集「……」
楽「……俺を、許せなかったんだろ?」
集「……はっ。別にそういうわけじゃねえよ」
集「ただ俺は、お前のことが……。分からなくなってた、だけだ」
楽「分からなく……?」
773:
 
集「お前が桐崎さんを無視してた時……。なにやってんだろうこいつは、って思ったよ」
集「いつも喧嘩してた仲とはいえ……。結局なんだかんだで仲は良いんだろうなって、思ってたから」
集「それに、お前があんなことするようなヤツだなんて……。知らなかったからな」
楽「……」
集「だけどお前にはなんか考えがあるんだろうな……って。じゃなきゃこんなことしないだろうなって……。俺は信じた」
集「……だからいつか絶対こうして、話を聞いてやろうって……。問い詰めてでも、聞いてやろうって、考えてた」
集「まあ、想像以上の話を、聞くことになっちまったが……」
楽「……それで結局、お前はなにがしたかったんだよ。千棘に協力した理由は、なんだよ?」
集「……確かめたかったんだよ。お前の小野寺への、愛をな」
775:
     
集「お前に何か考えがあるって……『計画』のようなものがあるって気づいた時にさ……」
集「……もしかしたら小野寺へ告白したことも、『計画』のうちなのかって、思っちまってよ」
楽「前にも言ってたな、そんなこと」
集「だから確かめたかった。お前が小野寺を、本当に好きなのかどうか」
集「……そして桐崎さんに協力したのは、お前が小野寺と『約束の女の子』、どちらを選ぶのかを試したかったからだ」
集「俺だって、お前と同じことを思ってたんだよ。小野寺じゃない、本当の『約束の女の子』が、もし現れたらって――」
集「……お前は、小野寺を選んだな。確かにお前の小野寺への愛は、本物だった」
780:
 
集「だけど……。今また、俺はお前が、分からなくなってきている」
集「言っただろ? 想像以上だったんだ、お前の話は」
集「……俺には今のお前は、狂ってるようにか見えない。いつもの楽じゃ、ないみたいだ……」
楽「……」
集「お前が小野寺を選んだのは、納得だった。だけどだからって、お前がまさか『約束の女の子』に対して、あんなことを言うなんて……」
集「あんなに想ってた、『あの子』に対して……。あれほど大切にしてた、『約束』だったのに……」
集「教えてくれよ、楽。お前は本当に、小野寺のことが、好きなのか……?」
楽「当たり前だ」
集「本当か……? いや、今はそうなんだとしても、いつか……そのうち――」
集「『約束の女の子』のように……。今は大切に思っていても……。いつか、小野寺のことも――」
楽「そんなわけねえだろうがっ!!」 
782:
 
集「……楽?」
楽「それだけはありえない。お前は一体、なにを今まで聞いてたんだよ……。俺が計画を始めたのは、夢を叶えるためなんだよっ!」
楽「そして計画は完遂した……。夢を叶えるための準備は、環境は、世界は、整ったんだ。これから、なんだよっ!」
集「でも、『公務員』の方はともかく……。もう一方の『夢』は、既に叶えたじゃないかっ!」
集「叶った後の『夢』は、どうなるんだよ!? 消えてくもんじゃねえのかよっ!? 忘れていくんじゃ、ねえのかよっ!!」
集「月日が流れて、そのうち新しい夢が、できて……。昔叶えた夢なんか、見ていたことすら、忘れちまうんじゃねえのかよっ!?」
楽「……忘れない」
楽「――なんて、言えないよな……。人間は、バカだから。口ではそう言っても、どんなことでもいつかはきっと、忘れちまうもんだ」
集「……だったら」
楽「だけど小咲を好きな気持ちを忘れるなんてことは、有り得ない。この気持ちはずっと、どこまでも、キリがないほど、続いていくんだ」
集「なんで、そんなこと、言い切れるんだよ……。それこそ、口だけかもしれねえだろうが」
楽「なら、教えてやるよ。たった今できた、俺の新しい『夢』を」
集「新しい夢……?」
楽「『小咲と一緒に幸せになること』だっ! 分かったら腐れ縁らしく、一生俺たちを見守ってやがれっ! このクソ野郎がっ!!」
785:
 
集「……ははっ」
集「いいね、楽。今の台詞、なかなか主人公っぽかったよ」
楽「てめえ、まだそんなこと……」
集「うるせえ。お前は勝手に終わった気でいるみたいけどなぁ。俺からしたら今のお前だって、十分漫画の主人公みたいだぜ」
楽「……」
集「……羨ましいよ。お前が。ちゃんと夢を叶えて、好きな人と結ばれることができた、お前がさ……」
楽「集……?」
集「……本気、なんだな。楽。さっきまでのお前はなんだか、別人みたいで、少し怖かったけど――」
集「――だけど小野寺のことが好きって気持ちに、嘘や偽りは、ないんだよな?」
楽「ああ。俺は小咲が好きだ。この気持ちだけは、譲れない」
集「……よかった。俺が応援していた恋は、ちゃんとホンモノだったんだな……」
787:
 
楽「……ちっ」
楽「あの時の電話では泣いちまって、上手く伝えられなかったからよ……。この際だから今、言わせてもらうぜ」
集「……なんだ?」
楽「ありがとう。中学の時からずっと、俺の恋を応援してきてくれて……。見守ってきてくれて、ありがとう」
集「っ!!」
楽「でもまだまだ俺たちは、未熟なカップルだからよ……。俺たちが成長していく姿を、これからも見ていてくれよ」
集「……はっ。どうせ『腐れ縁』だしな。ここまできたら、仕方がねえ。お前らがどこまでいくのか、見届けてやるよ」
楽「……ありがとう、集」
集「ただし、条件がある」
楽「条件……?」
集「俺がお前の恋を応援してきたように……。お前も俺の恋を、応援してくれよ」
楽「えっ……。お前、もしかして」
集「俺、好きな人がいるんだ」
792:
 
楽「……そ、そうだったのか」
集「安心しろよ。桐崎さんのことじゃないぜ。もちろん、小野寺でもない」
楽「……」
集「……それが誰なのかはまだ、言えねえが……。でもいつかさ。その時が来たら――」
集「今度はお前が『脇役』になって、俺を引きたててくれよ。俺だって、『主人公』になりてえんだ」
楽「……はっ。分かったよ。そん時はお前の背中、ぶっ蹴とばしてやる」
集「頼んだぜ。……んじゃ、そろそろ行くか」
楽「ああ。あいつら、待ちくたびれてるかも。走ろうぜ」
集「楽っ!」
楽「ああっ?」
集「……小野寺を、幸せにしてやれよっ!」
楽「……ああっ!」
794:
 
集(楽……。全部話してくれて、ありがとうな)
集(だけど一つだけ、納得がいかないことがあるんだ)
集(お前が『計画』を実行したのは……。本当に、自分のためだったのか?)
集(本当は……。やっぱり俺らが『駒』なんかじゃないと……。『自分の意志』で生きてる、『人間』なんだと証明しようとしてくれてたんじゃないか?)
集(お前は……いつも人のことになると、必死になっちまう、そんなヤツだったもんな)
集(……なんてな)
集(お前言ったよな。『俺は主人公じゃない』って。だから結局お前には、そんな主人公みたいな、『漫画』みたいな理由なんて、ないんだよな)
集(……そうだよな。そういうことにしとかないと、お前のしてきたことを、全部台無しにしちまうことになるもんな)
集(……全く。やっぱりよく分かんねえよ、お前のことは)
集(話聞いて、お前の印象もだいぶ変わっちまったよ……。お前、そんなヤツだったのかよ……)
集(だけど……。俺とお前の『腐れ縁』、こんなことがあっても結局、切れなかったなぁ。楽よ――)
797:
    
――
千棘「あっ、やっときた! おーいっ!」
集「いやぁ申し訳ない。忘れ物探しに行ったのはいいけど、なにを忘れたのかを忘れちゃって」
千棘「もーっ! 舞子くんってば、ドジなんだから……」
集「あはは……ん?」
るり「……」ゲッソリ
集「ど、どしたの、るりちゃん」
るり「いや……。この二人に、変なゲームに付き合わされてね……」
楽「……」
小咲「あっ楽くん。おかえりっ」
楽「……お、おう。小咲。みんなも、もう帰ろうぜ」
千棘「あ、一条くん、あのね。二人がいない間に、三人で話してたんだけど――」
千棘「次の休日に、小咲ちゃんの退院祝いの、パーティをしないかって」
799:
  
楽「……パーティ?」
千棘「うんっ! 私の家で、どうかな」
楽「あ、ああ……。えっと……」
集「おおーっ! いいじゃん! やっぱりお祝いは、しないとなぁ!」
小咲「い、いいのかな。そんな……」
るり「ふふっ。そりゃ、そうでしょ。みんなあんたのことを、待ってたんだから。お祝いぐらい……」
千棘「ビーハイブのみんなはもちろん、集英組の人たちも、呼んでさっ!」
楽「そ、そんな、大丈夫か……? 敵対組織同士を……」
千棘「大丈夫だよっ! だって抗争はもう、終わったんだから!」
800:
  
千棘「どうかな……?」
集「……楽よぉ」
楽「……んだよ」
集「これもお前にとっては『非日常』で、『漫画』みたいな展開か?」
楽「……」
千棘「……?」
楽「……そんなわけ、ないさ。こんなイベント、『平穏な日常』そのものじゃないか」
楽「桐崎、どうせなら、俺の家でやろう。小咲の退院祝いなら、俺に取り仕切らせてくれ」
千棘「ほんとっ? じゃあ、任せるね!」
小咲「……楽くん。私、楽しみにしてる」
楽「ああ。盛大なパーティに、してやるぜ」
集「……ははっ」
るり「……」クスッ
801:
 
0時くらいから再開して、ここまででちょうど半分くらいです……
あとはまとめとオチなんですが、流石に完結まで行けそうにないんで、寝かせてください。
残りは昼ぐらいに、新しくスレ立てて、そこでやりたいと思います。SS報が落ちてなければ、そっちで、無理ならこっちで立てます。
楽「俺、小咲と結婚することになったから」ってスレタイで立てようと思ってます。ここが残ってれば誘導しますし、なくてもスレは立てるので、検索してみてください。
グダグダと続けてしまいすいません。よかったら結末まで見てください。ありがとうございました。
802:
おつおつ
楽しみにしとるで
807:

待ってるよ!
811:
おつかれ!
まだ半分だと・・・?
81

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