楽「俺、小咲と結婚することになったから」back

楽「俺、小咲と結婚することになったから」


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1:
最初から→楽「俺、小野寺と付き合うことになったから」千棘「!?」
前作→千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」
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7:
 
――――――――――
――――――――
――――――
――――
『おかえりなさい』
   
   
   
  
   
   
   
    
    
本命アンサー
8:
      
『――』
『――?』
『――』
『あなた――』
『頑張ったから――』
『――』
『――大丈夫?』
『――』
『久しぶり――』
9:
待ってました
10:
    
――――――――
――――――
――――
――
楽(……)
楽(……っ!)
ガバッ
楽「……」ボーッ
楽(……夢?)
楽(夢、か……。そうか……。うーん)
楽(思いだせん……。だけど、なんだか――)
楽(――なんだかすごく、幸せな夢だった……。そんな気がする……)
12:
 
楽(今日は、何日だっけ……? えっと……、あ、そうだそうだ)
楽(今日は大事な日だったな。とっとと準備しねえと)
「「坊っちゃん、おはようございやすっ!!」」
楽「おはようお前ら。さぁ、モタモタしてる時間はねえ。早準備に取り掛かるぞっ!」
「「へいっ!!」」
楽「今日は小咲の……退院祝いだっ! 思い出に残るような、盛大なパーティに、するぞっ!」
「「うおおおおおっ!!」」
13:
  
――
ワイワイ ガヤガヤ
楽「では、長かった入院生活を終え、小咲がこうして無事に退院できたことを、祝しまして――乾杯っ!!」
「「かんぱーいっ!!」」
「おらーっ! 飲め飲めーっ!」「酒をもってこーいっ! ありったけの酒だぁ!」
「おうビーハイブのぉ。意外とイケるじゃねえか」「集英組のぉ。まだまだこんなもんじゃねえぜ?」
ガヤガヤ
楽「ははっ……。あいつら結局、仲良く酒飲んでんじゃん」
千棘「うおぉーっ! 酒をもってこーいっ!」
楽「未成年だろうが」パシン
千棘「いたいっ」
15:
      
クロード「貴様ぁ、一条 楽ぅ! お嬢を叩くとは、なにごとかぁ!」
千棘「ちょ、クロードっ! そんな怒るようなことじゃ……」
   
楽「ていうかお前、なんでここにいるんだよ……。大人の責任とやらは、どうした」
クロード「うるさぁいっ! お嬢がボスに、頼み込んでくれたのだっ! くぅーっ、お嬢、面目ない……」
千棘「も、もう、それはいいから……」
クロード「ありがとうございますお嬢っ! いつまでもあなたにお仕え致しますっ! ッオイ! 一条 楽ぅ!」
楽「な、なんだよ」
17:
        
クロード「私はお嬢のそばにできる限りいるつもりだが、しかし例えば学校などでは、それができない。つまりどういうことか、分かるよなぁ?」
楽「……分かってるよ。お前なんかいなくたって、俺が千棘を守る。それが『親友』である俺の、役目だからな」
千棘「楽くん……」
クロード「分かってんならよぉし! 貴様も飲むかっ!?」
楽「飲まねえよ……。ていうか、肩を組むんじゃない」
楽(……こいつとはもう、関わりたくなかったんだが……。まあ、いいか。今のこいつはもう、ただの執事みたいなもんだし)
楽(ていうかこいつ酔っぱらうと、こんな風になんのか……。知らなかったな――)
19:
      
千棘「もーっ! こっちいくよ、クロード! 楽くん、またあとでね」
クロード「お嬢、お待ちくださいっ! こやつとはこれから、お嬢の魅力を語り合いながら、飲み明かすのですからっ!」
千棘「そ、そんなことしなくていいからっ! もうっ!」グイッ
クロード「お嬢ー……」ズルズル
楽「はは……」
「あの、一条様……」
楽「……ん?」
「その……。お久しぶりで、ございます」
楽「えっと……」
「……鶫、でございます」
楽「つぐみ……? お、お前、その格好……」
鶫「はい……。その、どうでしょう、か……」
楽「……しばらく見ないうちに随分、女の子らしくなったじゃないか」
22:
        
楽「スカートなんか履いて……。髪も、伸びたか……? それに、そのリボン……」
鶫「はい……。お嬢から、頂きました……」
楽「……」
鶫「……あの」
楽「二度と俺たちの前に現れるなって、言ったよな?」
鶫「……っ! は、はい。申し訳ありません。本来私のような者がパーティに出席することすら、おこがましいことだというのに……」
鶫「……ですがどうしてももう一度、あなたにお会いしたくて……。本当に、申し訳ありません。……ごめんなさい」
楽「……いいよもう、今日は。流石に今から帰れだなんて、言わねえよ」
鶫「ありがとうございます……」
24:
     
楽「だけど、俺に会いたかったってのは、聞き捨てならねえな」
鶫「……」
楽「お前、俺のこと気持ち悪いって言ってたじゃないか。もう二度と関わりたくないって、言ったじゃないか」
鶫「……はい、あの時は、気が動転してしまってて……。一条様に、失礼なことを……。大変申し訳ありませんでした」
鶫「ですが私はどうしても、この姿をあなたに、見せたかったんです。あなたに見て、もらいたかったんです……」
楽「……どういうことだ? お前は俺の妄想話を聞いて、侮辱だとか、女を捨てたとか、そんなこと言ってたじゃないか」
楽「それなのに、なんだその格好は。俺の妄想が具現化したみたいな、姿しやがって……」
鶫「それは……」
27:
   
鶫「……確かにあの時、あの話を聞いた時は、あなたに怒りを覚えました」
鶫「ありもしない話をまるで事実であるかのように語って……。私を使って、勝手に妄想して」
鶫「だけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、その話を聞いて……。『いいなぁ』って、思ったりもしたんです」
楽「……『いいなぁ』?」
鶫「私があなた方の学校に転入して、みなさんの仲間になって、笑い合って、ヒットマンのくせに、楽しい学校生活を送って……」
鶫「次第に普通の女の子みたいになっていって……。可愛い服を着たり、リボンをつけたりして……。ヒットマンのくせに、ただの女の子になって」
鶫「そして、ヒットマンのくせに……。いつか誰かに、こ、『恋』を、してみたりだとか……。そ、そんな、世界も――」
鶫「そんな世界も、そんな私も、『いいなぁ』って、思ってしまったんですっ!」
楽「……」
28:
やばい今の俺すっごいニヤニヤしてる
29:
      
鶫「……転入は、なかったことに、なっちゃいましたけど……」
鶫「だけど私、頑張りました。お嬢にも手伝ってもらって、必死に女の子らしくなろうって、努力しました」
鶫「……途中で、私は何をやってるんだろうって、思ったりもしましたけどね……。こんな姿、かつての『黒虎』が聞いて呆れますよ」
鶫「でもお嬢は、言ってくれました……。『あなたはもう、戦う必要はないんだから、これでいい』って……。そう言ってこのリボンを、くださいました」
楽「……」
鶫「……こうして私は、変わることができたんです。そして、変わった私を、どうしてもあなたに見せたかった。だって――」
鶫「私が変わろうと思えたのは……」
鶫「あんな『漫画』みたいな気持ち悪い妄想を、恥ずかしげもなく私に話してくれた、あなたのおかげなんですから」
楽「やっぱり気持ち悪いとは、思ってたのかよ」
鶫「……ど、どうですか?」
楽「……あ?」
鶫「私、どうですかっ!? 今の私は……。変わった私は、どうでしょうかっ!?」
楽「超可愛い」
鶫「ひゃいっ!? あっ、えっと、うえぇ!?」
34:
       
楽「いや、めちゃくちゃ可愛いと思うよ。今のお前がもし転入してきたら、多分うちのクラスの男子はお祭り騒ぎだな」
鶫「そ、そんなっ。あ、え、あの、うわぁ……」カァァァ
楽「照れてる姿はより一層、女の子だな。すげーよお前、そんな一面もあったのか」
鶫「み、見ないで、くださっ……」
楽「俺に見てほしくて、ここに来たんだろ?」
鶫「そっ、ですが……っ」
楽「……変わったな、鶫。もう立派な、可愛い『女の子』じゃん。ビックリしたよ、俺」
鶫「い、いちじょう、さまぁ……」
鶫「わたし、うれしいですっ……! まさかいちじょうさまに、ほめていただけるなんて……っ!」
楽「……そうか。頑張ったな。鶫」
鶫「えへへ……っ」
38:
  
集「よーっ、楽ぅ! 盛り上がってるぅー? ……って、うおっ!? なんだこの美少女っ!?」
鶫「っ!?」ビクッ
楽「ああ、こいつは舞子 集ってんだ。悪いヤツじゃねえよ」
鶫「あっ。一条様の、ご友人ですか……」
楽「そんで集。こいつが前話した、『鶫 誠士郎』だよ」
集「えっ。この子が……? おいおい、なーんか話とちがくなーい?」
楽「はぁ?」
集「もっと怖いヤツかと思ってたら、全然普通の可愛らしい女の子じゃーん!」
集「こんな娘がウチに転入してくる予定だったのかぁ……。くーっ! ちくしょう、神様のバカぁ!」
楽「……ほらな?」
鶫「はいっ……!」
39:
    
集「えっと、鶫ちゃん? よかったらこっちで俺と二人で、お喋りしない?」
鶫「えぇ!? え、えっと、あの……」
楽「あっちにクロードと千棘がいるから、そっちにいくといいよ」
鶫「は、はい。では、私はそちらの方に……」
集「えー。つれないなぁ」
楽「前の鶫だったらお前、死んでたからな」
41:
     
鶫「あ、あの、一条様、今日はこうしてまたお会いできて、嬉しかったです。ありがとうございました」
鶫「……私はもう、満足です。これからは約束通り、二度とあなたの前には――」
楽「鶫」
鶫「は、はい?」
楽「……『また』な」
鶫「……は、はいっ!」
楽(『鶫 誠士朗 矯正計画』、完了っと……)
楽(――なんて、もちろんそんな計画は、なかったけども。あいつは自分で頑張って、変わったんだ。自分から普通の女の子に、なろうとしたんだ)
楽(俺は鶫を許さない……。許すわけにはいかない……。だけどその努力ぐらいは、認めてやらなきゃな――)
42:
もうレールから外れてるわけだしな
46:
     
るり「一条くん。こんにちは」
楽「おう、宮本じゃん」
集「あれー。るりちゃん。俺に会いにきてくれたのー? いじらしいなぁ」
るり「私は一条くんに挨拶したのだけれど」
集「ちぇっ。るりちゃんもつれないなぁ」
るり「……ねぇ一条くん。小咲とはもう、話した?」
楽「いや、あいつはこのパーティの主役だし、ヤクザの間でもすっかり人気者だからな。まだそんなに、話せてないんだ」
るり「そう。じゃあその分後でたっぷりと、二人の時間を楽しみなさい」
楽「おう……。ていうかお前にも、礼を言わないとな」
るり「……? なにがよ」
楽「俺らの恋を応援してくれて、ありがとうな。俺の知らないところで、お前もいろいろとサポートしてくれてたんだろ?」
るり「……別に。小咲がモタモタしてるのが見てらんなかっただけよ。ようやくくっついてくれて、私も安心だわ」
48:
      
集「うん。これでようやく自分の恋に専念できるねぇ、るりちゃん」
るり「あの二人に言われるのはいいけど、あんたに言われると本気で、腹立つわ……」
楽「えっ!? 宮本、お前にも好きな人がっ……!?」
るり「いないっての。ったく、私はこのバカと同じで、裏方に徹するのが性に合ってるの。自分の恋なんて、考えたこともないわ」
集「んー? 一緒にしないでよ、るりちゃん。俺にだって好きな人は、いるよー?」
るり「……へぇ。意外ね。誰よ」
52:
      
集「……教えなーい」
るり「はぁ?」
集「楽にだって言ってないんだから。るりちゃんなんかに、教えるわけないじゃーん?」
るり「……ムカつく」
集「へ?」
るり「ムカつくわ……。ちょっと、こっちに来なさい」グイッ
集「おっ。一緒に飲んでくれるの?」
るり「今日中に、吐かせてやるわ。私の尋問に、耐えられるかしらね」
集「あっはは。怖いなぁー、るりちゃんは」
楽(……集、宮本。本当に、ありがとうな。俺が夢を叶えられたのは、お前らのおかげだ)
楽(だけど、いつまでも裏方にいる必要はないんだぜ。お前らだっていつかは、表舞台に立つ時が来るだろう)
楽(その時は、俺も小咲も、お前らを応援するから……。これまでお前たちが、そうしてきてくれたように――)
53:
※未成年者の飲酒は法律で固く禁じられています
54:
    
千棘「楽くん。おっす!」
楽「おっす。……って、あなたはっ……」
千棘パパ「……やあ、楽くん。久しぶりだね」
楽「……千棘の、お父さんじゃないですか」
千棘パパ「千棘がいつも、お世話になってるね……」
楽「いえ、そんな……。千棘には俺も、いろいろと助けられてるんで……」
千棘パパ「……娘はね。家に帰るといつも私に、君の話をしてくれるんだ」
楽「えっ……」
千棘「ちょ、ちょっと、パパっ!」
千棘パパ「キラキラと目を輝かせてね……。すごく楽しそうに、君のことを、話すんだよ」
楽「……そう、なのか」チラッ
千棘「うぅ……」カァァァ
千棘パパ「前の千棘はいつも、君のことを話すときは、怖い顔をしてたんだけどね……」
58:
    
千棘「ぱ、パパ……」
千棘パパ「……でもそんな千棘を変えてくれたのはやっぱり、他でもない、君なんだろうね」
楽「そんな……。俺は、別に何も」
千棘パパ「千棘をよろしく頼むよ。『親友』として……。これからも娘に笑顔を、与えてやってくれ」
千棘パパ「私も父として……。二度と娘の笑顔を絶やさせないと、誓う」
楽「……はいっ!」
千棘「も、もう、パパ……。あ、あっち行っててよ……っ!」
千棘パパ「ははっ。そうだ楽くん。君にはこれを、渡しておくよ」
62:
     
楽「……?」
千棘パパ「私の連絡先が、書いてある。なにかあれば、ここに連絡してくれ」
楽「は、はぁ……」
千棘パパ「……ふふ、次に電話する時は……。声色を変える必要は、ないぞ」
楽「っ!!」
千棘パパ「では、娘を頼んだよ……」
楽(千棘の親父さん、か……。抗争が止まったのも結局、この人の決断があったからだ)
楽(……もしかして俺の『計画』にも気づいていたなんてことは……。まあ、ないよな)
楽(千棘は俺に任せてください。あなたの娘を変えた責任は、俺にあるのだから……。必ず、この笑顔を守り抜きます――)
64:
     
千棘「ご、ごめんね。パパが、変なことを……」
楽「いや、別に。ていうか単純に嬉しいよ。千棘が俺のこと、家で話してくれてたなんて」
千棘「うっ……。な、何でそういう恥ずかしいこと、平気な顔で言うかなぁ……」
楽「さあ。お前ってなんか、話しやすいし」
千棘「……そう?」
楽「ああ。なんでだろうな……。初めて出会った日から、そんなに経ってないはずなのに……」
千棘「私たち……。親友なんだから、過ごした時間の長さなんて、関係ないんじゃないかな」
楽「……お前も結構平気で恥ずかしい台詞、言うよな」
千棘「へ、平気じゃないよぉ……」
66:
     
千棘「……私と親友になってくれて、ありがとう。楽くん」
千棘「私今が、とっても楽しいよ。楽くんのおかげで、みんなのおかげで、毎日が、楽しい」
楽「そうか……。そりゃよかった」
千棘「……うん。でもね、私、ときどき思い出すの」
楽「……?」
千棘「楽くんに無視されてた日々のこと、ときどきだけど、思い出すの」
楽「……っ!」
千棘「……毎日が楽し過ぎて……。忘れちゃうときもあるけど……。本当はそうやって、完全に忘れちゃえればいいんだけど――」
楽「……忘れちゃダメだよ」
千棘「えっ?」
楽「なかったことにしちゃ、いけない。俺がお前にしてきたことは……。決してなかったことには、できないんだから」
千棘「……そう、だよね」
『俺、小野寺と付き合うことになったから』
67:
     
千棘「あの時は、ビックリしたなぁ……。私全然、気づかなかったもん。楽くんが小咲ちゃんのこと、好きだったなんて……」
千棘「……でも私とのニセコイ関係はなんだかんだで、続いてくんだと思ってた……。だってそうしないと、抗争がまた、始まっちゃうから……」
千棘「……だけど」
『ひ、久しぶりね、もやし。あの事件の後しばらく、学校お休みになっちゃったものね』
『……』
『……む、無視してんじゃ、ないわよ』
千棘「あの日から、私への無視が始まって……」
『ちょっと、聞いてる!?』
『……』
千棘「ニセコイ関係はおろか、まともに話すことすら、できなくなって……」
『ね、ねえ……。本当に、さぁ。もう、やめましょうよ、こういうの』
『……』
千棘「……私、本当に、傷ついたんだよ? 楽くんに、無視されて」
楽「……ごめん」
千棘「……でも――」
68:
    
『お前が襲われそうになってたら、助けるに決まってるだろ。誰が見てようが、なかろうが』
千棘「……あの時は、嬉しかったなぁ」
千棘「かっこよかったよ。楽くん」
楽「……」
千棘「……そして――」
『今までずっと無視してきて、ごめん。俺が、悪かった』
千棘「私だって悪いのに……。楽くんが先に、謝ってくれて――」
『なぁ桐崎。俺たちさ……』
『友達に、なれないかな……?』
千棘「……こんな私と、友達に、なってくれて――」
『お前は俺の、一番の、親友だ』
千棘「親友に、なってくれて――」
71:
      
楽「……ごめんな。本当に。お前のことを、無視し続けて……」
千棘「ううん。言ったでしょ? 私だって、悪いんだから……」
千棘「……それに、今の私があるのはやっぱり、あの日々が、あったからで……」
千棘「……私が『変われた』のは、やっぱり楽くんの……、おかげだったからで……」
楽「……っ!!」
千棘「私、今がすごく幸せなんだよ。 一条くんと親友になれて、みんなとももっと、仲良くなれて……。本当に――」
千棘「変わってよかったなって! そう、思うのっ!」
楽「そう、か……。ありがとう、千棘。変わってくれて……」
千棘「あはは、楽くんがお礼を言うのは、おかしいよ?」
千棘「……私を変えてくれてありがとうっ! 楽くんっ!」
楽(……ああ)
楽(俺の『計画』は……。俺の『戦い』は……。今――)
楽(――報われた……)
75:
     
「楽くーんっ!」
楽「……小咲が呼んでる。ちょっと行ってくるわ」
千棘「うん。ばいばい、楽くん」
楽「……そうだ。千棘、お前はさ」
千棘「?」
楽(……俺は自分を、『漫画の主人公』なんじゃないかって、そう考えていた)
楽(じゃあ……『漫画のヒロイン』のようだった、こいつは――)
楽「お前はこの世界が実は、『現実』なんかじゃなくて――」
楽「――『漫画』の中の世界なんじゃないかって……。考えたこと、ないか?」
千棘「えっ……?」
78:
    
楽「……どうだ? 例えばお前が転入してきた、あの日とかさ――」
千棘「ないよ?」
楽「……」
楽「……だよな。アホなこと聞いて、すまなかった」
千棘「ううん……。でもちょっと面白かったかな。やっぱり楽くんは、冗談が上手いなぁ」
楽「ははっ……。またあとで、話そうな」
千棘「うんっ……」
79:
最近ニセコイss立ちすぎだろ
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81:
    
ワイワイ ガヤガヤ
千棘「……そっかぁ」
千棘「楽くん『も』、そんなこと、考えてたんだね……」
千棘「……だって少なくとも、ニセコイ関係を築いていた頃の、私と楽くんは……」
千棘「『漫画』の『主人公』と『ヒロイン』、そのものだったもんね……」
千棘「……だけどきっとこの世界は、『現実』だ」
千棘「だから楽くんはちゃんと、私なんかじゃなくて……。本当に好きな小咲ちゃんと、結ばれることができた」
千棘「でももしこの世界が、本当に、『漫画』だったら……」
千棘「私と楽くんが結ばれる……。『ホンモノの恋人同士』になる……。そんな結末も、あったのかなぁ」
千棘「……なんてね」
84:
    
千棘「……だけどそうじゃないから。ここはちゃんと『現実』で、『漫画』なんかじゃないから」
千棘「だから……」
チャリン
千棘「日記の間に挟まってた、この『鍵』も……」
千棘「……あはは。今更こんなもの、見つけてもなぁ……」
千棘「でも、この『鍵』もきっと……。なんでもない、ただの倉庫とかの、『鍵』なんだろうね……」
千棘「……楽くん。私最近ね、思い出しことがあるの」
千棘「私も、『約束』をね……。昔、してたの。男の子と……」
千棘「……もちろん、その男の子が楽くんだなんて、私、思ってないよ。そんな偶然、あるわけないもんね」
千棘「……だけど、いいよね?」
千棘「それが本当に楽くんだったらいいなぁ、なんて……。そんな奇跡があったらいいなぁって……。そんな夢を、見るぐらいは……」
87:
      
千棘「……あはっ。楽くんがペンダント捨てちゃったから、もう確かめることはできないけどね」
千棘「……」
千棘「……でももしかしたら、この『言葉』を伝えたら、楽くんは何か、反応してくれるのかな?」
千棘「もし、楽くんがこの『言葉』を知っていたら……。私が『約束の女の子』だっていう証明に、なるのかな?」
千棘「……なんてそんなこと、しないけどね。あなたは小咲ちゃんを『恋人』に選んだんだから……。そして――」
千棘「私を『親友』に、選んでくれたんだから……。その選択を否定する気なんて、私にはないんだから」
千棘「だって私は本当に、楽くんがくれた今が……。すごく、幸せだから」
千棘「だからこんな『鍵』はもういらないし……。この『言葉』ももう、捨てちゃうね」
千棘「……ううん。捨てるのは、もったいないか。どうせなら二人に、あげちゃおっかな」
千棘「……『ザクシャ イン ラブ』」
千棘「愛を、永遠に――。楽くん、小咲ちゃん。お幸せにね……」
88:
     
――
楽「よう、小咲」
小咲「楽くん。ごめんね、後回しみたいになっちゃって……。みんなとも、話したくて」
楽「いいよ別に。今日はお前が主役なんだから。脇役の俺は――って」
「……」ビクッ
楽「あれ……。もしかして、その子」
小咲「うん。ほら、挨拶して?」
「あ、あの……えと……」
楽「……春ちゃん、か?」
「っ! は、はい……。妹の、春です……」
楽「おぉーっ! そうか、君が……」
春「お、お姉ちゃんがいつも、お世話になってます……」
90:
     
楽「そうか、話には聞いてたけどさ。いやぁ、小咲そっくりだなぁ!」
春「う、え、えっと……」
小咲「……ごめんね。春はあまり、男の人と話したことがなくて……」
楽「そ、そっか。俺、一条 楽。お姉ちゃんの……。その、彼氏、です」
春「は、はい……。聞いてます……」
楽「……怖く、ないよ?」
春「でも……。ヤクザの息子さん、なんですよね……?」
楽「そ、それを言われると……」
小咲「こら、春。楽くんは優しい人だよ? いつも言ってるでしょ?」
春「うん……。それはもう、聞き飽きたよ……」
小咲「はるー……」
92:
    
小咲「だ、だから、会って確かめたかったんでしょ? どう、楽くん。優しいでしょ」
春「いや、まだよく分からない、っていうか……」
楽「あはは……。そういや春ちゃんって、もう中三なんだよな?」
春「そうですけど……。よく、知ってますね」
楽「小咲から聞いてるからな。ってことは来年は、俺たちの学校に来るのか?」
春「は、はい。そのつもりですが」
楽「そうか、楽しみだなぁ。あっ、分からないことがあったら、聞いてくれていいからな」
春「はぁ……。あの」
楽「いやぁ。ということは俺、とうとう先輩になるのかぁ。もう二年生だもんなぁ。『一条先輩』かぁ。ふふ、なかなか――」
春「あのっ!」
楽「ん?」
春「……一条、さん」
楽「……」
春「一条、さん……は、お姉ちゃんのどこを、好きになったんですか?」
94:
     
楽「はいっ!?」
小咲「は、はるっ!?」
春「……どうなんですか? 答えて、ください」
楽「いや、そんなもん、全部だよ……。多すぎて、答えられねえよ」
春「そんなの、『逃げ』の常套句じゃないですか。どれか一つを選んで、挙げてください」
楽「……じゃあ、俺がケガした時に、絆創膏を貼ってくれる、思いやりのあるところ」
小咲「っ! ら、楽くんっ!」カァァァ
春「ほう……。では、もう一つ」
95:
 
春「ほう……。では、もう一つ」
楽「俺のために料理を練習して、毎朝弁当を作ってきてくれる、頑張り屋なところ」
春「いいですね。それ以外で、もう一つ」
楽「えっとじゃあ、いつもはおしとやかな感じだけど、焦ると結構あたふたして、可愛いところ」
春「あー、分かります。お姉ちゃんこれでも結構、抜けてることあるからなぁ……」
小咲「ちょっ、二人とも……っ。その辺に」
春「じゃあもう一つ」
97:
    
――
楽「清潔感があるところ。なんというか、白のワンピースが似合いそうというか」
春「あーっ。あります、あります。お姉ちゃん、着てくれないかなぁ」
楽「良い匂いがするところ。未だに慣れなくて、その香りが鼻をつく度にドキドキしちまうよ」
春「ですねぇ。なんかいっつも良い香り漂わせてますよねぇ」
楽「えーと、あとは……。そう、笑顔がめっちゃ可愛い。特にクスっと微笑んだ時なんか、やばいよな」
春「やばすぎですっ! ていうかお姉ちゃんってそもそも、めちゃくちゃ美人ですよね?」
楽「そうなんだよ。まさに美少女っていうか……。目は大きくて、顔は小さくて……。それに肌も白いし」
春「そうそう。いやぁ。妹として誇らしいというか……。あとお姉ちゃん、意外とスタイルも――」
小咲「も、もういいですっ!」
楽「……え?」
春「お姉ちゃん?」
小咲「も、もういいですから……」シュー
98:
    
春「ご、ごめんお姉ちゃんっ! お姉ちゃんの話してるのに、お姉ちゃんを置いてけぼりにして……」
小咲「ち、ちがっ……。私の話は、もう、いいから……。楽くんの、ことを……」
春「えっ? あ、あー……」
小咲「ど、どう? 良い人、でしょ?」
春「……まあ、お姉ちゃんのことが好きなのは、本当みたいですね」
楽「そこを疑ってたのかよ……」
春「ええ、まあ……。仕方がないですよ。だって」
春「あなたはもともとは桐崎さんと……。恋人関係、だったんでしょ?」
楽「……ニセモノの、な」
100:
          
春「……私、最初は、一条さんのこと、怖い人なんだろうなって、思ってたんです」
春「だって、ヤクザの息子さんだなんて……。普通の男の人でさえ、私、苦手なのに……」
楽「……」
春「だけど、お姉ちゃんはそんな人のことを、好きだなんて……」
小咲「……」
春「しかもその人には、他に付き合ってる人がいるって……。それも金髪で、外国人みたいで、美人さんの……」
春「……怖かったんです。あなたのイメージが、どんどん私の中で、出来上がって……。そして、思ったんです」
春「お姉ちゃんはその男に、騙されてるって」
春「お姉ちゃんはそんな人を、好きになってはいけないって……。ごめんなさい。私、思いこみが、激しくて……」
楽「……そりゃ、一度も君と会ったことはなかったからな。仕方ないよ」
春「……だから、ビックリしましたよ。お姉ちゃんから、『今日、一条くんから告白された』って話を、聞かされた時は……」
102:
    
春「それに、桐崎さんとの関係は全部、ニセモノだったって……。本当に好きだったのは、お姉ちゃんのことだったって……」
春「『夢が叶った』って……。お姉ちゃんが喜んでる姿を見て……。そんなイメージ、吹き飛んじゃいましたよ」
春「そんなにお姉ちゃんは、その『一条くん』のことが、好きだったんだなって……」
春「お姉ちゃんがそんなに好きになった人なら、悪い人な筈がないって……」
春「……だけど、本当にお姉ちゃんのことが好きなのかどうかは……。好きなんだとしたら、どれくらい好きなのか……」
春「それだけは、直接会って、確かめたかったんです」
楽「……で、どうだった?」
春「さっき言ったでしょ。全く、私のお姉ちゃんトークについてこれるなんて……。どんだけ好きなんですか……」
春「……あなたになら、お姉ちゃんを任せても、いいかもしれないです。合格です。あなたを、認めてあげます」
楽「……妹さんに認めてもらえて、よかったよ」
103:
     
春「それで、後は私たちの両親だけですね?」
小咲「は、春……」
楽「そうだな。いつかは、挨拶に行かねえと……」
春「いつでもどうぞ……。では、後はお二人で、ごゆっくり」
小咲「えっ? 春、どこに行くの?」
春「さっき、その桐崎さんに呼ばれちゃって……。あの人も実際に会ってみると、意外と接しやすい人だね」
春「やっぱり人をイメージだけで判断しちゃ……、ダメだね」
小咲「……」
104:
        
春「では、一条さん……。来年から、よろしくお願いしますね。いろいろと、迷惑をかけちゃうかもしれませんが……」
楽「ああ。……そうだ、春ちゃん。その前にさ」
春「はい?」
楽「もうすぐウチの学校で、文化祭が、あるんだけど。良かったら、見にこないか?」
春「本当ですか? それは是非、行きたいですね」
楽「ああ……。案内、してやるよ。迷子になったら、大変だしな」
春「あはは。子供じゃないんですからそんな、迷子になんて」
小咲「でも春、私の中学の文化祭に来た時、迷子になったところを、着ぐるみの人に助けてもらったって……」
春「い、いいからその話はっ!」
楽「着ぐるみ……? じゃあ俺も、手を引いて案内してやろうか」
春「いらないですっ!」
小咲「あ、じゃあ私が逆側の手を……」
春「なんで恋人同士の二人に挟まれて、歩かなきゃならないんですか!」
107:
      
春「そ、それでは……。あっ。お姉ちゃん」
小咲「……?」
春「素敵な人だね。一条さんって」ボソッ
小咲「は、春っ?」
春「お姉ちゃんが好きになったのも、分かる気がするなぁー」
小咲「も、もぉ……」
楽「ん? 二人して何話してるんだ?」
春「秘密ですよ。一条『先輩』っ!」
楽「えっ」
春「私、今から楽しみにしてますっ! 一条先輩やお姉ちゃんがいる学校に、通う日が来るのをっ!」
楽(……春ちゃんか。小咲と違って結構、活発な感じな子だけど……。まさか彼女の入学がきっかけで、俺の日常が崩れることも、ないだろう)
楽(それどころか、結構仲良くやっていけそうだな……。気が合いそうというか……。特に小咲の話なんか、すごい盛り上がったし)
楽(もしかしたら俺と春ちゃんは、意外と趣味や好みが似てたりとか……。だとしたら良い友達に、なれそうだ――)
112:
    
ガヤガヤ ガヤガヤ
小咲「……二人に、なっちゃったね」
楽「……ちょっと、外でないか?」
小咲「えっ?」
楽「いや、えっと、よ、酔っちまってさ。風に当たりたいなぁって」
小咲「ら、楽くん、お酒飲んでたの?」
楽「の、飲んでないけど……」
小咲「……」
小咲「ふふっ。いいよ、いこっ?」
楽「お、おうっ」
114:
    
――
小咲「わぁ……。星が、きれい……」
楽「だなぁ……。雲一つ、ねえじゃん」
小咲「……」
楽「……」
小咲「……今日は、ありがとう。私のために、こんな大きなパーティを、開いてくれて……」
楽「いや、えっと……。ど、どうだった? 楽しめたか?」
小咲「うんっ……。すっごく、楽しかったよ。ヤクザの人たちも、怖い人たちばかりかと思ったら、みんな優しい人たちばかりだったし」
楽「そうなのか……。なら、よかったよ」
小咲「一生の思い出だよ。私、こんなにたくさんの人とパーティなんて、したことなかったし……」
楽「……『初めて』、か?」
小咲「うん。『初めて』をありがとう、楽くん」
楽「喜んでもらえて、嬉しいよ」
117:
    
小咲「……」
楽「……て、てを、にぎっても……?」
小咲「……ふふっ。どうぞ?」
ギュッ……
楽「……あったかい」
小咲「うん……」
楽「……」
小咲「……」
楽「……」
楽(幸せ、だなぁ……)
楽(俺、本当に、叶えたんだなぁ……夢を)
119:
         
楽(……つってももう一方の夢は、まだだけどな)
楽(『一流大学を卒業して、公務員』かぁ……。今まで後回しにしてたけど、こっちも頑張らないとなぁ)
楽(はぁ……。明日からまた勉強かぁ……。今この時間が、永遠に、続けばいいのに……)
楽(でもやらなきゃしょうがないよなぁ……。ていうか今の俺の学力って、どうなんだろ? ちゃんと良い大学に、行けるんだろうか)
楽(千棘に勉強教えてもらうか。あいつあれで結構、頭いいしな――)
小咲「楽くん?」
楽「うおっ!?」
小咲「どうしたの? ぼーっとして」
楽「い、いや、なんでも……」
小咲「へんな楽くん」クスッ
楽「あ、あはは……」
楽(か、かわいい……)
120:
ここでマミー転校オチとか世にも奇妙な物語すぎる
121:
     
楽(なんだよこれ……。幸せすぎんだろ……)
小咲「楽くん。何考えてたの?」
楽「い、いやぁ? えっと……」
楽(こんな可愛い娘が……。俺の、彼女なんだよな? ゆ、夢じゃ、ないんだよな……?)
小咲「うーん。あっ、分かった。挨拶のこと、考えてたんでしょ? 私のお父さん、お母さんへの、挨拶」
楽「え、あっ。えーと」
楽(い、今の、顎に指を当てて、考えてる時の仕種……。『分かった』って、閃いた時の表情……)
楽(ぜ、全部かわいいっ! いちいちかわいいっ! こ、このペースで来られたら、俺の身体がもたねぇ……っ!)
小咲「ふふっ。別に急がなくても、いいんだよ? 私たちまだ、付き合いたてだし……」
楽(そうっ! その『ふふっ』ってヤツ……っ! それが、かわいいんだよなぁ……っ!)
小咲「……ううん。もう付き合いたてでも、ないかな。私たち、もうそろそろ……」
小咲「立派な恋人同士に、なれたのかな? なんて……」
楽「……た」
小咲「た?」
楽(たまんねえ……っ!!)
124:
      
楽「たっ! たぶん、まだ、その、立派ってほどでは、ないかも?」
小咲「そ、そうかな?」
楽「お、おうっ! だけど、それでいいじゃん! まだまだこれからだよっ! 俺たちはこれから、立派になっていくんだからっ!」
小咲「……そうだよねっ! あの、これからもよろしくね、楽くんっ!」
楽「おうっ! よろしくな、小咲っ!」
楽(死んでまうわ……。ドキドキしすぎて、死んでしまう……)
125:
     
楽(毎回毎回……。小咲の言うとおり、もう付き合いたてでもないんだから……。いい加減慣れろよ、俺)
小咲「……それで、当たり?」
楽「え? あ、ああ……。俺が、何を考えてたか、だっけ……。ううん、外れ」
小咲「あれ。じゃあ、正解は?」
楽「小咲は可愛いなぁって、ずっと考えてた」
小咲「……」
小咲「もぉ……」カァァァ
楽(うがぁっ! 可愛い過ぎるっ! 慣れるかこんなもんっ!)
126:
    
小咲「な、なに言ってるの、楽くん……」
楽「悪い悪い、でも、ホントだから……」
小咲「……うぅ」
楽(かわいいなぁ……。小咲は、ほんとに)
楽(そうだ……。小咲は、どうなんだろう)
楽「……小咲」
小咲「は、はいっ!?」
楽「あ、あのさ、えっと……」
小咲「ど、どうしたの?」
楽「小咲は、さ……。その……」
楽「……小咲には『夢』とかって、ある?」
129:
      
小咲「夢……?」
楽「そう……。夢……」
小咲「……夢ならもう、叶っちゃった」
楽「……そっか」
小咲「……だけど私、今日……。新しい夢を、見ちゃったの」
楽「っ! えっ!?」
小咲「すっごく、幸せな夢だったなぁ……。起きるのが、もったいないくらいに」
楽「起きる……? ああ、そっちの夢か……。ちなみに、どんな夢?」
小咲「……知りたい?」
楽「そりゃあ、まあ」
小咲「じゃ、じゃあちょっと、恥ずかしいけど……。教えて、あげるね」
楽「恥ずかしい……?」
小咲「楽くんと結婚して、夫婦になって、一緒に暮らしてる……。そんな夢を、見たの」
131:
     
『おかえりなさい。あなた』
楽「……」
小咲「あはは……。す、すごく、幸せな夢だったよ……。なんで、起きちゃったのかなぁ」
『お食事の準備、出来てますよ。お風呂もわいてるけど……どっちがいい?』
小咲「なんか、け、結婚記念日だったみたいで……。料理、作って……。あんな豪華な料理、私作れないよ……」
『えへへ……あなたの為に、頑張ったから』
楽「……」
133:
          
小咲「ワンちゃんも、飼ってたの。楽くんには懐いてなかったみたいだけど……。そういえばあの子、誰かに似てたような」
『あらあら大丈夫? やっぱりあなたにはなつかないわね、この子……』
小咲「そ、それで、えっと、そ、その後は……」
『ねぇ、あなた。良かったら、ご飯の後……』
『久しぶりに……一緒にお風呂に入らない……?』
小咲「ご、ごめんっ! これ以上は……っ!」
楽「一緒に風呂に、入った……?」
小咲「えっ……?」
135:
    
ドクン
楽「……俺も、見た。その夢」
小咲「えっ!? う、うそ……」
楽「そうだ。思いだした。そうだよ、すっげぇ幸せな夢だった、ってことは、うっすら覚えてたんだが……」
楽「小咲と俺、夫婦になってたっ! そんで、幸せそうに、一緒に暮らしてたんだっ!」
小咲「う、うん……。あの……」カァァァ
楽「それでっ! その後小咲が、一緒に風呂に入ろうって、言い出して……」
小咲「わ、わぁーっ!」ボンッ!
138:
       
楽「それで、それで……。えっと……」
楽「……あれ? 思いだせない……。あ、そうか」
楽「ここで俺、起きちまったんだ……。そうか。ちくしょう……。俺のバカ……」
小咲「そ、そっか……。楽くんはそこで、目が覚めちゃったんだね」
楽「……楽くん『は』?」ピクッ
小咲「え」
楽「こ、小咲は続きを見たのかっ!? 教えてくれっ! 一体どんな――」
小咲「わーっ! ひみつ、ひみつですっ!」
140:
世にも奇妙な物語のエキストラ思い出すな
141:
      
楽「……でも、そうか。俺ら二人して、同じ夢を……」
楽「同じ……夢を……」
楽(……見ていた……?)
小咲「そうだね。これって、すごいことだよね。こんなの、まるで――」
小咲「――えっと、なんだろ……?」
楽「……」
楽(……まさか)
小咲「あ、そうだっ!」
楽(まさか……そんな――)
 
小咲「まるで……、『漫画』みたい、だよねっ!」
147:
    
ドクンッ
楽「……」
小咲「すごいなぁ。あはは、もしかして『なにか』、『不思議な力』が、働いたのかな?」
小咲「なんて――楽くん?」
楽「こ、さき……」
小咲「ど、どうしたの? 楽くん。あっ。汗が……。ちょっと待って、今ハンカチを」
楽「……どうし、よう」
小咲「えっ?」
楽「この世界は、やっぱり本当に……『漫画』の中なのかも、しれない……」
148:
     
楽「は……はは……」
楽「……なんだ、よ、ちくしょう……っ!」
楽「あんまりだろ、そんなの……。じゃあ俺が今までやってきたことは、なんだったんだよっ!」
楽「やっと全部、終わったと思ったのに……。なんだよ、まだなにか、あるってのか……?」
小咲「楽くん……? どうしたの? この世界が、『漫画』の中……?」
楽「小咲、聞いてくれ……。これからまたなにか、おかしなことが、起きるかも……」
小咲「えっ。な、なんで……?」
楽「この世界が、『漫画』だからだっ! 『なにか』の……いや――」
楽「『作者』の都合で、異常なことも、不自然なことも、平気で起きる、狂った世界だからだ……っ!」
155:
       
小咲「……そ、そんなこと」
楽「だって、おかしいだろっ!? だって、だって――」
楽「二人して、全く同じ夢を見るなんて……っ! そんなの現実的に考えて、おかしいじゃないか……っ!」
小咲「……」
楽「くそっ……! で、でも、安心してくれ。お前は俺が、守るからっ!」
楽「今度は、絶対に……っ! お前を危険な目に遭わせたり、しないからっ! 何があっても、お前は俺が――」
ダキッ
楽「……えっ?」
ギュッ……
157:
     
小咲「……楽くんは」
楽「……」
小咲「多分、きっと、私の知らないところで……。ずっと『なにか』と、戦ってきたんだね……」
楽「こさき……」
小咲「でも、もういいんだよ……。ごめんね。私が変なこと、言ったせいで……」
小咲「この世界は『漫画』なんかじゃないよ。私たちは、『漫画』の登場人物なんかじゃない……」
小咲「だって、聞こえるでしょう……?」
ドクン 
ドクン
小咲「私たちは、生きてる」
楽「……うっ、うぅ……」
161:
     
楽「じゃ、じゃあ……」
小咲「二人して同じ夢を見るなんて……。そんな『珍しいこと』も、あるんだね」
楽「えっ……」
小咲「私はただ……。『漫画みたい』、って、言っただけだよ? 『漫画そのもの』だなんて、言ってない」
小咲「今回は……。ただ『漫画みたい』に珍しいことが、起きただけなんだよ」
楽「……」
小咲「それに……『事実は小説よりも奇なり』って言葉も、あるでしょ?」
小咲「じゃあ、『現実は漫画よりも』……。どうなのかな」
楽「っ!!」
小咲「ふふっ。『漫画みたい』なことだって、そりゃ平気で起こるよ……。だってここは――」
小咲「『現実』、なんだから」
楽(……そうか。なんで俺は、気付かなかったんだ)
楽(こんな簡単なことに……。なんで今まで、気付かなかった……?)
楽(『現実』ってのは、俺が思ってたほど……。退屈でつまらない世界なんかじゃなかったって……。それだけのこと、だったんだ)
165:
    
ギュッ
小咲「『現実』だから、『漫画』みたいなことも、『夢』みたいなことも、起きるんだよ……。こんな風に」
楽「うん……。確かに、夢みたいだ」
小咲「ふふっ……。あったかいね」
楽「ああ……。それになんだか、良い香りだ……」
小咲「ら、楽くん、恥ずかしいよ……」
楽「はは……。でももう少しだけこうしてても、いいかな」
小咲「あはは……。でも誰か、来ないかな」
楽「……来ない」
楽「――とは、言い切れないか。『現実』はそう、甘くないもんな」
小咲「うん……。来ちゃったら……。その時に、考えよっか」
楽「そうだな……」
ギュ……
166:
    
ワイワイ…… ガヤガヤ……
楽(遠くで声が聞こえる……。あいつら、まだまだ元気だなぁ……。これなら誰もこっちになんか、来ねえだろうな)
小咲「……」
楽「……」
小咲「えっとね、楽くん。つまりね、そういうことなの」
楽「ん?」
小咲「私の、新しい夢。今朝見た夢が、そのまま……。私の叶えたい、新しい夢だよ」
楽「……なるほど。実は最近俺にも、新しく叶えたい夢ができたところなんだよ」
『なら、教えてやるよ。たった今できた、俺の新しい夢を』
『小咲と一緒に幸せになることだっ!』
小咲「そうなの? どんな夢?」
楽「小咲と、同じだよ」
168:
          
小咲「……そっか。じゃあまた私たち、同じ夢を、見てたんだ」
楽「はは……」
小咲「あはは……」
楽「……」
小咲「……」
ドクン
ドクン
ドクン……
……
……
楽「……結婚しよう、小咲」
172:
      
小咲「……っ」
楽「……」
小咲「……」ポロッ
楽「……」
小咲「……グスッ」ポロッポロッ……
小咲「はい……っ!」
174:
         
        
一条 楽と桐崎 千棘の『偽恋物語』は、幕を閉じ――
一条 楽と小野寺 小咲の『恋物語』は、続いていく
そして……
一条 楽と愉快な仲間たちの、『物語』と言うほどでもない、平凡で、平穏な、ただの日常は――
まだ、始まったばかりだ――
――――――――――――
182:
    
そして――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
楽「――でもそこが逆にすごいよな。あんなもん、どうやったら思いつくんだよ」
千棘「でもね、あの作者さんって結構、そういう展開が好きみたいなの」
楽「いやぁ、それにしても。あの展開はマジで予想つかなかったなぁ。ここでそうくるかっ! っていう」
千棘「そうそうっ! でも結構伏線とかは、3巻ぐらいからあったりするんだよ?」
楽「そうなのかっ!? 帰ったら読み返してみるか……」
小咲「あれ、二人とも。何の話?」
楽「漫画だよ。千棘から、借りてな」
集「へぇー、楽。お前、漫画読んでんのか」
楽「最近また読むようになったんだ。しっかし面白いもんだな。あー。続きが気になるー」
るり「あんた、勉強は……?」
     
185:
            
千棘「小咲ちゃんにも今度、貸してあげるねっ!」
小咲「ほんと? 私も漫画あまり読まないんだけど、楽しめるかな?」
千棘「大丈夫大丈夫っ! ちょっとグロいけど、大丈夫だよっ!」
小咲「グロいのっ!?」
楽「やめろ。小咲はああいうのは読まねえよ。お前とは違うんだ」
千棘「えーっ。私がゲテモノ好きみたいに言うの、やめてよぉー」
集「ふーん。楽が、漫画をねぇ……。こりゃ進歩かもね、るりちゃん」
るり「そんな分かったような顔で言われても、なにが進歩なのか私にはさっぱりなんだけど……」
ガラッ
先生「よーしみんな、席につけー」
188:
        
先生「はい、注目ー。今日はお前らに、特に男子に、嬉しい知らせがあるぞーっ」
「なにー? せんせー」
「もしかして、転入生とかー?」
楽(転入生ねぇ……)
先生「お、当たりだ。しかもすっげぇ美人だぞ」
「マジ? やったーっ! また転入生だーっ!」
「俺このクラスでよかったぁー!」
千棘「ね、ねぇ! 転入生だって! 同じ転入生同士だし、仲良くなれるといいな……」
楽「……」
楽「……は?」
191:
      
ザワザワ 
楽(てん、にゅう、せい……?)
千棘「……? どうしたの、楽くん」
楽(なんで……。鶫……? いや、そんなはずは……。あいつは、だって……)
楽(鶫じゃない……。だとしたらじゃあ、一体、誰――)
先生「それじゃ入って、『橘』さん」
「はい」
シャラン……
楽「……っ!?」
「……皆さん初めまして」
万里花「橘 万里花と申します。何卒よろしくお願いします」
          
195:
         
ザワッ
「うおおおおおおお! かわいいーっ!!」「モデル!? モデルなの!?」
ワーワー パチパチ
楽「……」
楽(なんだ、こいつは……? 誰、だ……?)
楽(分からない……。いやでも、この娘……)
楽(昔、どこかで、会ったことがあるような……?) 
万里花「……」
万里花「……っ!!」
198:
       
万里花「楽様????????!!」
楽「……はっ?」
万里花「ずっとお会いしたかったですわ?????!!」
ダキッ
ギュウッ
楽「……」
楽「はぁ……!?」
204:
         
「うおおおおなんだぁあ!?」「転入生が一条に抱きついた??!!」
キャー キャー
小咲「へ……?」
千棘「……え、えっと」
るり「……」
集「……おいおい」
ギュッ……
万里花「楽様……! 私ずっとこの瞬間を、夢見て来ました……!」
楽「な……」
ワーワー ギャーギャー
楽(なんだこれは……?)
208:
       
万里花「楽様……っ! 楽様ぁっ!」
楽「……離せ」
万里花「えっ……?」
楽「早く、離してくれ……! 小咲が、見てる……っ!」
万里花「こさき……?」
楽「お前、なんなんだ……? 俺のこと、知ってんのか……?」
万里花「……」
万里花「知ってるもなにも……」
万里花「私は楽様の、許嫁でございますよ」
213:
         
楽「いっ……!?」
「許嫁ぇ!?」「どぉ??いうことだ一条!!」
「これ、小野寺さんにライバル登場ってこと!?」「修羅場!? 修羅場なの!?」
小咲「……らく、くん……?」
千棘「い、許嫁、って……」
るり「なにこれ……。うっそでしょ……?」
集「……は、ははっ。くくっ……!」
万里花「楽様ぁ……。大好きですわ……っ!」スリスリ
楽「……」
楽「……勘弁してくれよ、もう」
217:
        
      
そして一条 楽と愉快な仲間たちの、平凡で、平穏な、ただの日常は――
――今この瞬間に、終わりを迎えた
新たにまた、愉快な仲間が加わり……
今日ここから始まるのは、果たして――
楽「俺、小野寺と付き合うことになったから」千棘「!?」
千棘「私、一条くんと親友になったのーっ!」クロード「!?」
楽「俺、小咲と結婚することになったから」
?fin?
231:
全く削ることなく、書きたいこと全部書けました。
マミーはどうしてもオチで使いたかったので、ここまで出せませんでした。ファンの方すいません。
感想くださった方も、ありがとうございます。これを見て原作の印象が変わった、っていうのが特に嬉しかったです。
長くなってしまいましたが、最後までお付き合いただいて、ありがとうございました。
またいつか他のスレでお会いできれば、幸いです。あと千棘ファンの方々には土下座して謝罪します。
219:
これで終わりか乙
224:
乙乙すごく乙
よくがんばった
225:
面白かったよ乙
238:
俺もこういうの一度考えてみたいわ
245:
乙つ
>>1はニセコイの作者で編集者への鬱憤晴らしと見た
248:

面白かったけど千棘の性格改変が洗脳されたっぽく感じて
最後までのめりこみきれなかった
252:
おつ
>>248
いや、ぽいじゃなくて洗脳そのものだろ
236:
久々の良SSでよかった!乙
25

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