勇者「用件を聞こうか……」剣豪「私と決闘してくれないか?」back

勇者「用件を聞こうか……」剣豪「私と決闘してくれないか?」


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1:
─ スラム街 ─
ヒュゥゥゥゥ……
金髪「この俺を殺すだと?」
金髪「ちっ、金庫から金をくすねてたのがボスにバレちまったか……」
金髪「だがよ、俺は組織きっての剣の使い手なんだ。やれるもんなら、やってみな」チャキッ
黒剣士「剣は強力な武器だ……。剣を持てば、どんな人間でも気が大きくなる」
金髪「なにをゴチャゴチャぬかしてやがるっ!」シュバッ
キンッ! ギンッ! ガキンッ!
黒剣士「しかし」シュッ
パキンッ!
金髪「お、俺の剣が……折れた……!」
5:
黒剣士「…………」ザッ…
金髪「わ、わ、わ、待ってくれ!」ズザッ
金髪「た、頼むっ……見逃してくれっ! 金ならちゃんと返すからさ……!」
黒剣士「どんなに優秀で勇敢な剣の使い手であろうと」チャキッ
黒剣士「剣が折れれば──」
ズンッ……!
金髪「ごふっ……」ドサッ…
黒剣士「心も折れる」
7:
第 一 話 『 剣 が 折 れ る 時 』
【 PART1 黒い鎧の剣士 】
─ マフィアのアジト ─
< ボスの部屋 >
ボス「よくやってくれた、黒剣士!」
ボス「ウチのもんにやらせたら、まんまと逃げられる可能性もあったからな」
ボス「プロに任せて正解だったってもんだ」
ボス「報酬だ、とっておいてくれ」ポンッ
黒剣士「…………」スッ…
8:
ボス「ところで、一度アンタに聞いておきたかったんだが」
黒剣士「なんだ?」
ボス「今回消してもらった金髪も、剣を折られてたそうだが……」
ボス「なぜアンタはいつも、標的(ターゲット)の剣をへし折ってから殺すんだ?」
黒剣士「単なるクセだ……特に意味はない」
ボス「そうかねえ? 俺にはただならぬ執念のようなものが感じられるんだが……」
黒剣士「…………」ジロッ
ボス「おっと! 悪かったよ……誰にだってクセの一つや二つ、あるってもんだ」
黒剣士「失礼する」ザッ…
ボス「始末して欲しい奴がいたら、またアンタに連絡させてもらうぜ」
9:
─ 売春宿 ─
娼婦「あおお?っ!」
娼婦「おおおおお?っ!」
黒剣士「…………」
娼婦「今日のアンタ、いつもより燃え上がってるじゃないのさ……」
娼婦「いったいどうしたっていうんだい?」
黒剣士「……少し昔を思い出しただけだ」
娼婦「いいことじゃないか……思い出すような過去があるってのは幸せなことさ」
娼婦「あたいにゃ、そんなものありゃしないしさ……」
黒剣士「…………」モゾッ…
娼婦「あああああ?っ!」
黒剣士(三年前のあの日のことは……今でも夢に見る……)
12:
【 PART2 苦い記憶 】
三年前──
─ 某国 ─
< 貴族の屋敷 >
貴族「ワシを狙うテロリストが、屋敷周辺に潜伏しているという情報が入ったが」
貴族「おぬしのようなエリート剣士に護衛してもらえるならば心強い」
白剣士「はっ、我が国のエリート兵にのみ与えられるこの白い鎧は、私の誇りです」
白剣士「必ずや閣下の御身をお守りいたします!」
貴族「ホッホッホ、頼もしいのう」
白剣士(これは俺の武名を上げる絶好のチャンスだ!)
14:
ピピーッ!
「侵入者だっ!」 「は、いぞっ!」 「捕えろーっ!」
ワァァ……! ワァァ……! 
白剣士「来たか……閣下には指一本触れさせんぞ!」
白剣士「閣下は巻き込まれぬよう、私の後ろに下がっていて下さい」
貴族「う、うむ!」スッ…
勇者「…………」ザッ…
白剣士「キサマが侵入者か! テロリストめ、この俺が叩き斬ってくれる!」チャキッ
15:
キィンッ! ギィンッ! キンッ!
白剣士(は、いっ! ──この俺が受けるのがやっとだとッ!?)
勇者「…………」シュバッ
パキィンッ……!
白剣士(け、剣がっ……!)
白剣士「あっ、ああ、あっ……!」ヘタ…
勇者「…………」ダッ
貴族「ひ、ひいいっ! だ、だれか──」
ドシュッ……!
貴族「ぐええっ……」ドザァッ…
勇者「…………」ダッ
「待てえっ!」 「逃がすなっ!」 「追えーっ!」
ワァァ……! ワァァ……!
白剣士「…………!」
白剣士(閣下を殺され、しかも賊には逃げられてしまう、とは……!)
16:
< 兵舎 >
上官「白剣士君、非常に残念な報告が届いている」
白剣士「!」
上官「皆が見ていたよ。侵入者を目の前にしながら、腰を抜かす君の姿をね」
白剣士「そ、それは……!」
上官「君には期待していたんだがねぇ……」フゥ…
上官「荷物をまとめて、即刻立ち去りたまえ」
?
黒剣士(剣を折られ、大勢の前で戦意喪失した俺に、もはや居場所はなかった……)
黒剣士(栄光あるエリート兵としての道は永遠に断たれ)
黒剣士(過去を塗りつぶすという意味を込めて、あえて黒い鎧を身につけ)
黒剣士(裏社会に身を投じるしかなかった……)
黒剣士(しかし、収穫もあった)
17:
パキィンッ!
盗賊「わわわっ、剣が折れた……!」
?
バキンッ!
チンピラ騎士「し、しまった!」
?
ベキィッ!
眼帯剣士「なっ、俺の剣が……!? ひいいっ!」
?
黒剣士(俺はあの敗北で、剣が折れれば心も折れるということを知ることができた)
黒剣士(あれから三年……俺は殺し屋として、それを証明し続け)
黒剣士(ようやく自信を取り戻した……!)
黒剣士(あとは……あの屈辱を晴らすチャンスさえ来れば……!)
19:
【 PART3 黒剣士への依頼 】
─ マフィアのアジト ─
< ボスの部屋 >
ボス「おおっ、来てくれたか!」
黒剣士「緊急事態とのことだが……いったいどんな用件だ?」
ボス「実はアンタに、俺のボディガードを頼みたいんだ」
黒剣士「ボディガード……?」
ボス「先日、ある対抗組織を潰したんだが……」
ボス「その残党どもが、俺に復讐をするためプロを雇ったって情報を入手したんだ」
ボス「このプロを迎え撃ち……消して欲しい!」
21:
黒剣士「気が進まんな……俺の剣は標的を斬るものであって、誰かを守るものではない」
黒剣士「それにここら一帯を牛耳るアンタの組織力なら──」
黒剣士「自分の身を守るぐらいは十分にできるだろう」
ボス「たしかに、相手が並みのプロなら、高い金払ってアンタに頼みはしねえ」
ボス「だが……今度の相手は並みじゃねえんだ」
黒剣士「残党が雇ったという、プロの正体を知っているのか?」
ボス「ああ……奴らが雇ったのは、“勇者”だ」
黒剣士「!」ピクッ
ボス「その反応、やはりアンタも知っているようだな」
22:
ボス「どんな困難な依頼をも成し遂げることから」
ボス「勇気ある者、“勇者”と呼ばれるようになった超A級のプロフェッショナル……」
ボス「こいつを消してくれたら、いつもの倍額……いや三倍払う!」
ボス「頼む、俺を守ってくれっ!」
黒剣士「……いいだろう、引き受けよう」
ボス「おおっ、ありがてえ!」
黒剣士「ただし、俺の持ち場については指図しないでもらいたい」
黒剣士「あと、俺がガードにつくことはくれぐれも口外するな」
黒剣士「勇者に俺のことを知られていない方が、それだけ勝率も上がるからな……」
ボス「分かったよ。アンタの好きなようにやってくれ」
ボス「アンタがいりゃあ、勇者だって怖かねえ! 枕を高くして眠れるってもんだ!」
黒剣士「…………」
黒剣士(ついにこの時が来た……)
23:
黒剣士(エリート兵の座を追われた後、俺が裏社会に身を投じた理由は二つ)
黒剣士(一つは、俺の剣をへし折った剣士の正体を知るため……)
黒剣士(おかげでほどなくして、あの剣士が勇者と呼ばれるプロだと分かった)
黒剣士(そしてもう一つは──)
黒剣士(マフィアのような犯罪組織のお抱え剣士になっておけば)
黒剣士(いつか必ず……奴と再び戦えると思ったからだ!)
黒剣士(俺の過去を知った同業者の中には)
黒剣士(勇者と剣を交えて生き残っただけでも勲章モノだ、という奴もいたが)
黒剣士(あの時、奴が俺を殺さなかったのは)
黒剣士(俺にトドメを刺すより、仕事を片付けた方がいいと判断したからにすぎない)
黒剣士(そういう……“目”だった)
黒剣士(ようするに、俺のことなどどうでもよかったのだ……!)
黒剣士(許せるものか……!)
黒剣士(勇者の剣と心をへし折り命を奪うことで、俺の復讐はようやく完成する!)
24:
【 PART4 秘密兵器 】
─ 田舎町 ─
< 鍛冶屋 >
黒剣士「おい、頼んでおいた品はできているか?」
鍛冶屋「へい、できております」
黒剣士「これか」ズシッ…
鍛冶屋「この重量、この硬度、コイツならどんな剣にも絶対打ち負けませんぜ!」
黒剣士「うむ、注文通りだな」
黒剣士「ところで、試し斬りをしたいのだが……」
鍛冶屋「へへへ、それじゃあ店の裏で──」
27:
ザンッ……!
鍛冶屋「な、なん、でっ……!?」ドサッ…
黒剣士「すまんな……」
黒剣士「お前の口からこの剣の情報がもれるとも限らんのでな……」
黒剣士(田舎マフィアのボスの殺害……)
黒剣士(奴にとっては赤子の手をひねるような仕事だろう)
黒剣士(しかし、こんな剣を注文した客が、近くの町にいたなどと奴の耳に入ったら)
黒剣士(いらぬ警戒をされかねないからな……)
黒剣士(万全を期さねば、勇者には勝てん!)ジャキッ
29:
【 PART5 襲撃 】
─ マフィアのアジト ─
< ボスの部屋 >
側近「近くの町で、勇者を目撃したという報告が入りました」
ボス「来たか……。いいか、必ず始末しろ! このアジトに一歩も入れるんじゃねえ!」
側近「ご安心下さい」
側近「組織のメンバーを総動員して、ボスをお守りいたします」
ボス(こいつらに加えて、俺には黒剣士がついてる! 負けるわけがねえ!)
30:
─ アジト外 ─
「いたぞぉっ!」 「矢で応戦しろっ!」 「やれえっ!」
ワアァァァ……! ウオォォォ……!
勇者「…………」チャキッ
ザシュッ! ズバッ! ザンッ! ドシュッ! ジャッ!
「ぎゃああっ!」 「ぐおおっ!」 「ぐふっ……」
ガサッ……
黒剣士(一人につき一太刀で殺している……! やはり恐ろしい腕前だ!)
黒剣士(そして……あの時と同じく、装備はロングソード一振りのみ!)
黒剣士(一匹狼のプロとして、機動力を優先したゆえの判断だろう、が……)
黒剣士(今日に限ってはその判断が命取りだ!)
33:
─ マフィアのアジト ─
< 廊下 >
「こっちだぁっ!」 「囲め、囲めえっ!」 「なんてさだ!」
ザンッ! ズシャッ! ザクッ!
「つ、強すぎ……る……」 「ぐはっ……!」 「うぎゃあっ!」
部下A「どこに行きやがった! まるで幽霊(ゴースト)だ!」
部下B「くっ、くそぉっ!」
勇者「…………」スッ…
シュババッ!
部下A&B「うぐぁ……」ドササッ…
34:
< ボスの部屋 >
ギィィ……
勇者「この組織のボス、だな……?」ザッ…
ボス&側近「!」
ボス「まさか……勇者か!?」
側近「あの警備を突破してきたというのか!? ……し、信じられん!」
側近「くっ、おのれえっ!」シュッ
ザンッ!
側近「ぐ、は……っ!」ドサッ…
36:
勇者「…………」チャキッ…
ボス「ふっ、ふはははっ! 広いもんだなぁ、世の中ってのは!」
ボス「まさか、あの黒剣士でさえ歯が立たない奴がいるなんてよ!」
勇者「…………」
ボス「そう慌てんなって。最後に一服する時間ぐらいくれたって──」スッ…
ボス「死ねっ!」シェッ
勇者「…………」ザウッ
ザシュッ……!
ボス「がふっ……! 俺の考えてることなんざ……お見通しってか……」
ボス「これが……勇者、か……」ドサッ…
勇者「…………」
勇者(黒剣士……)
37:
【 PART6 白刃の行方 】
─ アジト外 ─
黒剣士「仕事は終わったようだな……待っていたぞ」
勇者「お前が……黒剣士、か」
黒剣士「ほう、なぜ俺の名前を?」
黒剣士「しかも、まるで俺が待ち伏せてることを知っていたような口ぶりだな」
勇者「お前のボスが、名前を口にしていた……」
勇者「それにさっきから、マフィアではない何者かの視線を感じていたんでな……」
黒剣士「なるほど……さすがだな」
黒剣士「ボスの依頼は放棄してしまったが……これもお前に勝つためだ」チャキッ
勇者「…………」チャキッ
38:
黒剣士「はあああっ!」ブンッ
勇者「…………」シュッ
ガキンッ! キィンッ! ギンッ!
黒剣士(くっ、なんてスピードだ! やはりまともにやっては到底勝てん!)
黒剣士(だが、剣に……剣だけに狙いを定めればっ……!)ブンッ
ガキンッ! ピシッ……!
勇者「!」
黒剣士(やはり! ヒビが入った!)
黒剣士(武器破壊に特化した俺の剣に加え──)
黒剣士(勇者の剣は大勢のマフィアどもを斬ったため、強度が落ちている!)
黒剣士(ボス……アンタらは役に立ってくれたよ。俺の復讐のな!)ザッ
勇者「…………」ザッ
黒剣士(次の一撃で、叩き折るっ!)ビュアッ
40:
パキンッ!
黒剣士「や、やった──」
ザクッ!
黒剣士「がっ……!?」ヨロッ…
黒剣士(俺の首に……折れた勇者の剣、が……!)ブシュッ…
黒剣士(こっ、こいつ……刃が飛ぶ方向を計算して、俺に剣を折らせたのか!?)グラ…
ドサァッ……
黒剣士「が、がはっ……」ゴフッ…
勇者「…………」
黒剣士「こ、こんなはずはない……! こんなのは……偶然だ!」
黒剣士「剣が折れれば……心も折れるはず、だ……!」ガフッ…
42:
勇者「刃が折れようと……剣は剣、だ」
黒剣士「!」
黒剣士(な、なるほどな……勇者にとっては……)
黒剣士(たとえ刃が半分になろうと、いや……柄や破片だけになろうと……)
黒剣士(剣は剣、ということ、か……)
黒剣士(だから、剣が折れても心は動じないし……)
黒剣士(剣も、最後の最後まで……持ち主のために、最善の働きをして、みせる……)
黒剣士(ふふっ……俺は最初から勇者の相手では、なかったん、だな……)ガクッ…
勇者「…………」ザッ…
<END>
47:
─ 剣豪の家 ─
< 玄関 >
剣豪「では行ってくるよ」
妻「行ってらっしゃい、あなた」
バタン……
妻「…………」
妻(今の主人の顔……)
妻(傭兵時代や剣闘士時代、戦いに向かう時の顔をしていたわ……)
48:
第 二 話 『 ラ ス ト ・ コ ロ シ ア ム 』
【 PART1 剣豪の依頼 】
─ 闘技場 ─
 剣技の盛んな国には、闘技場(コロシアム)と呼ばれる
 剣闘士が技を競い合う娯楽施設が存在する。
 剣闘士たちの戦いは観客に感動と興奮を与え、
 特にすぐれた剣闘士は“英雄”として民衆から尊敬を集めることもあるという……。
勇者「…………」ザッ…
剣豪「あなたが……勇者か?」
勇者「…………」
勇者「用件を聞こうか……」
49:
剣豪「実は……あなたに殺して欲しいのは、この私なのだ」
勇者「……どういうことだ?」
勇者「俺に自殺の手伝いをしろ、ということか……?」
剣豪「いや、そうではない……」
剣豪「勇者よ、私と決闘してくれないか?」
剣豪「場所と日時を決めて……正々堂々と!」
勇者「……理由を聞かせてもらおうか」
剣豪「私はかつて戦場や闘技場で、傭兵や剣闘士として剣を振るい──」
剣豪「いやしくも“英雄”と称されるまでになった」
剣豪「私自身、剣にかけては自分に及ぶ者はない、と自負していた」
剣豪「しかしある時、私はあなたという存在を知ってしまった……」
剣豪「裏の世界においてナンバーワンといわれる剣士である“勇者”を……!」
勇者「…………」
50:
剣豪「私はこれまで剣一筋に生きてきた……」
剣豪「こと剣に関しては、やり残しがないようにしておきたい……!」
剣豪「だからぜひ、あなたと対決したいのだ! 我が名誉にかけて!」
勇者「断る……」
剣豪「!」
勇者「俺は兵士や競技者ではない……。名誉や力比べに興味は、ない……」
勇者「この話はなかったことにしてもらおう」
51:
剣豪「ま、待ってくれ!」
勇者「…………」
剣豪「で、では……もし、私が剣を持ち、この場であなたに斬りかかったら……?」
勇者「らしくないマネはよすんだな……」
勇者「戦場で奇襲をかけてきた相手にさえも、堂々と名乗りを上げる」
勇者「俺の知る“剣豪”とは、そういう男だ……」クルッ
剣豪「!」
勇者「…………」ザッザッザッ…
剣豪(勇者は背中を見せるのを嫌う、と聞いていたが──)
剣豪(同じ剣士として、私への“敬意”ということなのか……?)
52:
【 PART2 剣豪と妻 】
─ 剣豪の家 ─
< 玄関 >
剣豪「ただいま」
妻「お帰りなさい」
剣豪「…………」
妻「どうしたの?」
剣豪「いや、なんでもないよ。そろそろ肌寒い季節になってきたねえ」
妻「そうねえ……」
53:
< 剣豪の部屋 >
剣豪(あの目、あの気配、あの身のこなし……)
剣豪(彼は私が今までに出会った剣士の中で、まちがいなく一番強い)
剣豪(それに、彼は冷酷で血も涙もない機械のような男と聞いていたが……)
剣豪(たしかに彼は必要とあらば、女子供とてためらわずに斬るだろう)
剣豪(しかし……私の性質を理解し、敬意まで払ってくれた彼は──)
剣豪(明らかに機械とはちがう……)
剣豪(彼は、すばらしい戦士だ!)
剣豪(彼と……“勇者”と戦いたい……)
剣豪(私の命と誇りをかけて、彼と思う存分剣を交えたい……!)
54:
翌日──
< 庭 >
剣豪「…………」コォォ…
剣豪「ぬんっ!」ブンッ
ザンッ!
妻「おみごとね」
妻「剣闘士をやめて、第一線からは身を引いたけど、剣の腕はまったく衰えていないわ」
剣豪「……ああ」
剣豪(毎朝欠かさず行っている、鉄板を剣で切り裂く“斬鉄”……)
剣豪(しかし、私には分かる)
剣豪(近い将来、私の腕が衰え、この“斬鉄”ができなくなることを……)
剣豪(それまでに勇者と戦いたい……たとえ命を失うことになろうとも!)
56:
【 PART3 異変 】
数日後──
< リビング >
妻「すぐお夕飯の支度するわね」
剣豪「ああ」
妻「うっ……?」グラッ…
剣豪「どうした?」
妻「ごほっ、ごほっ、ごほっ!」
剣豪「お、おい、しっかりするんだ! 大丈夫か!?」
妻「ええ、大丈夫……ごほっ! ──ううっ!」ガクッ
剣豪(すぐ病院に連れて行かねば!)
59:
─ 病院 ─
< 病室 >
妻「すぅ……すぅ……」
医者「容体は安定しました。ひとまずは大丈夫です」
剣豪「かたじけない……」
医者「ところで……奥様のお体について、お話しせねばならないことがあります」
剣豪「家内の体に……なにか?」
医者「ここではなんですので、場所を移しましょう……」
62:
< 診察室 >
剣豪「なんだって……!?」
医者「はい……。奥様は……もってあと半年、といったところかと……」
剣豪「そんな……まさか妻がそんなに悪くなっていただなんて……!」
医者「おそらく……夫であるあなたに、心配をかけたくなかったのでしょう」
医者「なので、ずっと我慢し続けていたのでしょう……」
医者「あの状態では、普段からずっと激痛にさいなまれていたはずです」
剣豪「…………!」
剣豪(妻よ……すまない!)
剣豪(私は君のことなど考えず、自分のことばかり考えていた!)
剣豪(自分は死んでもいいから、勇者と戦いたいなどというワガママを……)
剣豪(私はなんてバカな男だったんだ!)
剣豪(なにがやり残しがないように、だ……!)
剣豪(せめて……せめてもの償いとして、これからの人生全てを……君に捧げる!)
63:
【 PART4 夫婦の時間 】
─ 剣豪の家 ─
< キッチン >
剣豪「…………」トントン…
剣豪「う?む、なかなか剣を扱うようにはいかんなぁ」
妻「あなた、ご飯の支度なら私がやるわよ」
剣豪「いや、いいんだ。たまにはこういうことをしたくなる時もあるのさ」
妻「そう……ならお言葉に甘えさせてもらうけど……」
65:
< リビング >
妻「とてもおいしいわ、あなた」モグモグ…
剣豪「ハハッ、ありがとう」
剣豪「なぁ……今度、二人で旅行でも行かないか?」
妻「えっ……。でも、あなた……剣の鍛錬はいいの?」
剣豪「私ももう年だ。そろそろ剣を振るうのはやめようかと思っていてね」
妻「そんな……私が倒れたからってそんなことしなくていいのよ」
剣豪「いや、あくまで自分のためさ」
剣豪「我々には子供もいないし、二人でのんびり余生を満喫するのもいいと思ってね」
剣豪「それだけの蓄えはあるつもりだしな」
妻「そう……とても嬉しいわ!」
剣豪「…………」
剣豪(これでいい……これでいいんだ)
剣豪(今まで散々好き勝手してきた分を、少しでも妻に返さねば……)
67:
数日後──
─ 海岸 ─
ザザァン……
剣豪「昔……一度だけ二人でここに来たね」
妻「ええ、懐かしいわ」
剣豪「……君と出会ってから、私は傭兵として各地を転戦し」
剣豪「傭兵を辞めてからも剣闘士として闘技場に入り浸っていた」
剣豪「家で待つ君のことなどちっとも考えず……」
剣豪「私は最低の夫だ……本当にすまない」
妻「いいえ、最高の夫だわ」
剣豪「えっ……」
妻「だって私は、剣一筋に生きるあなたに惚れたんですもの」
妻「みんなの“英雄”になったあなたは、私にとっても誇りだったのよ」
剣豪「……ありがとう」
69:
【 PART5 悲劇は突然に 】
─ 剣豪の家 ─
< 玄関 >
剣豪「ただいま」
シ?ン……
剣豪(おかしいな、いつもなら妻が出迎えてくれるはずなのに)
剣豪(鍵は開いていたから、外出しているわけでもない……)
剣豪「おい、どうしたんだ? 寝てるのか?」スタスタ…
71:
< リビング >
剣豪「!!!」
剣豪(妻が倒れて……)
剣豪(妻の胸に……ナイフが……)
剣豪「おい、しっかりしろっ! 目を開けてくれっ!」グイッ
剣豪「…………!」
剣豪「くうっ……なぜだ!」
剣豪「せっかくこれからせいいっぱい妻に恩返しをしようと思っていたのに……」
剣豪「なぜ妻が死ななければならないんだっ!?」
剣豪「なぜなんだぁっ!!!」
72:
─ 警察署 ─
警官「奥様のご遺体を調べた結果、死因は胸に刺さっていたナイフで間違いありません」
警官「問題は、誰があのナイフを刺したかですが──」
警官「残念ながら、指紋は拭き取られておりました」
剣豪「そうか……」
警官「あと……気になる点がひとつ」
剣豪「気になる点?」
警官「奥様の左手薬指に指輪の跡があったのですが……肝心の指輪はありませんでした」
剣豪「!」ハッ
剣豪(そうだ……妻には闘技大会での優勝賞品である指輪を結婚指輪として渡していた)
剣豪(宝石の類には疎いが、かなり高価な品だったはず……)
剣豪(となると、それ目当てで妻は殺されたということか……?)
剣豪(ゆ、許せん……!)
剣豪(警察に任せてはおれん……。私が……私がこの手で妻の仇を討ってやる!)
73:
【 PART6 メッセージ 】
─ 剣豪の家 ─
剣豪「……今日も無駄足だったな」
剣豪(あれから一週間……あちこちで情報収集したが、まるで手がかりがない)
剣豪(警察署にも何度も寄ったが、同じく捜査に進展なし……)
剣豪(このまま、妻を殺した犯人に逃げられてしまうのか……?)
剣豪(くそっ……!)ダンッ
74:
カサッ……
剣豪「──ん、ポストに手紙が……」ガサ…
剣豪「差し出し人が書いてないな。なんだこれは」ガサガサ…
剣豪「!」
剣豪(『妻を殺した犯人を知りたくば、今夜18時に酒場へ来い』……だと!?)
剣豪(いったいだれがこんなものを……)
剣豪(なにかの罠か……それとも……)
剣豪(いや……罠だろうとなんだろうと、行ってみるしかあるまい!)
剣豪(もはや私が妻にできることは、犯人を討つことだけなのだから!)
76:
─ 酒場 ─
ギィィ……
剣豪(時間通りについたが……それらしき人間は……)
少年「ねえねえおじさん、さっきこれ渡してって頼まれたんだ!」サッ
剣豪「!」
少年「じゃあね!」タタタッ
剣豪(今度は……『19時に町外れにある風車小屋に来い』……か)
─ 風車小屋 ─
剣豪(置き手紙……)ガサ…
剣豪(次は……『この手紙を読んだら、河原へ来い』)
剣豪(いいだろう、どこまでも追いかけてやる!)
78:
─ 廃屋 ─
ガタッ……
剣豪(あれからたらい回しにされること、数時間……)
剣豪(メッセンジャーにされていた人も、本当になにも知らない人ばかりだった)
剣豪(さて、ここにはなにが──)
剣豪「!」ピクッ
ザウッ!
剣豪(人の気配!)チャキッ…
剣豪「誰だ……ゆっくりと出てきたまえ」ジリ…
勇者「…………」ザッ…
剣豪「勇者!?」
79:
剣豪「な……なぜあなたが、ここにいるんだ!?」
剣豪「もしや、一連のメッセージは全てあなたが!?」
剣豪「どうして、こんな回りくどい方法で私をここに呼んだのだ……!?」
剣豪「!」ハッ
剣豪「まさか……まさか、妻を殺したのはあなたなのか!?」
剣豪「私に恨みを持つ人間の依頼か!? 指輪を抜き取ったのもあなたか!?」
勇者「…………」
勇者「明朝5時、あの闘技場(コロシアム)で待つ……」スッ…
剣豪「!」
剣豪「ま、待っ──」
剣豪(勇者……!)
81:
【 PART7 コロシアムの決闘 】
翌日 早朝──
─ 剣豪の家 ─
ザンッ!
剣豪(“斬鉄”……成功)
剣豪(さて、行くとするか……観客のいない、彼だけが待つ闘技場へ)スッ
剣豪(もう君はいないけれど……)
剣豪(あえて、いつものようにいわせてもらうよ)
剣豪「では行ってくるよ」
ザッ……
82:
─ 闘技場 ─
ザッ…… ザッ……
剣豪「…………」
勇者「…………」
剣豪「我が名は剣豪なり!」スラッ…
剣豪「勇者よ、我が妻のため、我が命と誇りをかけて、貴公に決闘を申し込む!」
剣豪「いざ、尋常に勝負!」チャキッ
勇者「…………」チャキッ
剣豪「はあっ!」シュバッ
勇者「…………」シェッ
ガキィンッ!
85:
剣豪「…………」ビリビリ…
勇者「…………」ビリビリ…
剣豪(たった一合打ち合っただけで、これほどの衝撃……)
剣豪(これが勇者か!)チャッ
勇者「…………」ダッ
キィンッ! ギンッ! キィンッ! ガキンッ! ギャリッ!
ビシュッ!
剣豪「ぐ……!」ササッ
勇者「…………」チャキッ
剣豪(一太刀浴びせても、うかつに飛び込んではこない、か……)
剣豪(虎(タイガー)のような鋭い牙を持ちながら)
剣豪(兎(ラビット)のような慎重さをも兼ね備えている……)
剣豪(ならば、今度はこちらから!)ジリ…
87:
剣豪「はっ!」ビュオッ
キィンッ!
剣豪(勇者の剣は、スピーディーで、容赦がなく……一切の無駄がない)
剣豪(極限まで研ぎ澄ませた……カミソリのような剣技だ)
剣豪(ならば──緩急をつけた戦法で攻めてみるか!)スッ…
剣豪「…………」ユル… ユラ…
勇者「!」
ギュアッ! ザシィッ!
89:
勇者「…………」ブシュッ…
剣豪(脇腹を斬っただけか……しかも浅い! なんという瞬発力と反射神経だ!)
剣豪(一流の剣士でも、仕留められたであろう一撃だったのだが……)ジリ…
勇者「…………」ザリ…
剣豪(この短い時間で──)
剣豪(私が彼の剣をある程度理解したように、彼も私の剣を理解しただろう……)
剣豪(互いに動けなくなった、な……)
90:
……
…………
………………
勇者「…………」
剣豪(すさまじい集中力と殺気……。睨み合っているだけで心身を削られるようだ……)
勇者「…………」
剣豪(このまま時が経てば、スタミナでは劣るであろう私が不利……)
勇者「…………」
剣豪(呼吸を整えてから──)スゥ…
94:
勇者「…………」ダッ
剣豪「む!?」
ガキンッ! ──ザシッ! ザシュッ……!
勇者「…………!」ブシュウ…
剣豪「フ……フフ……」
剣豪「みごと、だ……」ヨロッ…
ドサァッ……
剣豪「仕掛ける瞬間を……読み切られ、たか……」
剣豪「私の、完敗だ……」
勇者「たしかに読み切ったが……俺も一撃もらった……」
勇者「すばらしい動きだったよ……」
剣豪「そう、いってもらえれば……こ、光栄だ……」
95:
剣豪「長い戦いの人生……剣に生きた人生……」
剣豪「最後に……最高の戦いが、できた……」
剣豪「最後の相手が……“勇者”で、よかった……」
剣豪「ありが、とう……」
剣豪(妻よ……)
剣豪(闘技場で待つ、と……勇者に告げられた瞬間……)
剣豪(私は……全てを、理解した……よ……)
剣豪(あり、が……と……う……)
勇者(…………)
99:
【 PART8 伴侶として 】
一週間前──
─ 剣豪の家 ─
勇者「依頼内容は理解した……理由を聞かせてもらおう」
妻「私はもう……長くはありません」
妻「直接告げられたわけではありませんが……分かるのです。自分の体ですから……」
勇者「…………」
妻「そして、それ以上に……私は主人のことが分かるのです」
妻「主人……剣豪は、私と出会った頃からいつだって剣一筋でした」
妻「もちろん、主人の私への愛が偽りであるというつもりはありません」
妻「しかし、それでもやはり……主人にとっての一番は剣なのです」
100:
妻「数年前、後身に道をゆずるため剣闘士を引退し」
妻「今また私のために剣を捨てようとしていますが……分かるのです」
妻「あの人は剣に生き、剣に死にたい、と思っていることが……」
妻「ならば私も……妻として主人の足を引っ張りたくはありません」
妻「あの人が最後まで剣一筋に生きたいと願うのと同じく」
妻「私も最後まで“剣豪の妻”として生きたいのです!」
勇者「その結果……剣豪が死ぬことになっても、か……?」
妻「……はい」
勇者「…………」
妻「もちろん、このような依頼があなたのルールにないことは理解しています」
妻「ですから、報酬はこの指輪と──」スッ
妻「私の残り少ない命を……差し上げます」
妻「どうか……どうか夫と剣を交えて下さい! 正々堂々の決闘という形で!」
妻「私は主人の願いを叶えてあげたいのです! この命にかえても!」
101:
勇者「分かった……引き受けよう……」
妻「ありがとうございます……!」
妻(あなた……あとはどうか……存分に剣を振るって下さいな……)スッ…
グサッ……! ドサッ……
妻(人生最高の……好敵手、と……)
勇者(…………)
103:
【 PART9 “英雄”は語り継がれる 】
─ 大型馬車の中 ─
ガラガラガラガラ……
勇者「…………」
観光客A「そういや、この辺りにはたしか……闘技場の英雄が住んでたはずだ」
観光客B「英雄?」
観光客A「ああ、昔は傭兵として華々しい活躍をして」
観光客A「その後は剣闘士として世界各地の闘技場を渡り歩いて、無敗を誇り」
観光客A「まだまだやれたはずなのに、惜しまれながら引退しちまったんだよなぁ……」
観光客B「闘技観戦マニアのお前がそこまでいうなら、相当強かったんだろうな」
観光客B「で、名前は?」
10

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