女「工場での高給バイト?」back

女「工場での高給バイト?」


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1:
新人「おはようございます」
先輩「…………」
新人「あれ、無視ですか? もしかしてもうイジメはじまってます? いびりはじまってます?」
先輩「ん。もしかしてお前か? 新入りって」
新人「わたしが間違った職場に来ていなければ、ですけど。どうも、新入りです」
先輩「三十分以上遅刻してる。初日からバックレたと思ってた」
新人「いやいやしょうがないですよ。同じようなドアが並び過ぎですよ。なんなんですかこの工場」
先輩「なんなんだろう、ほんとに」
新人「わあ。適当だあ……先輩なんでしょう?」
先輩「俺もお前と同じバイトだから。ここがなんの工場かはよく知らん」
新人「初出勤早々、上司の無能っぽさに懸念を抱かざるをえません」
先輩「ひどい言い草だな」
新人「正直なもので」
4:
新人「で、わたしは何をすればいいんでしょう?」
先輩「ん、そうだな。仕事内容を説明しよう。ベルトコンベアを潜ってこっちにこい」
新人「はいはい」
先輩「部屋の両端に、暖炉のような洞穴のようなのがあるだろう?」
新人「ですね。そこからベルトコンベアで繋がってますね」
先輩「右側の穴から、いろいろなものが流れてくる。それにこのスプレーを吹きかける」
新人「ほうほう」
先輩「スプレーを噴射し終わったら、それをまたコンベアに乗せて、左側の穴に吸い込まれていくのを見送る」
新人「それで?」
先輩「それだけ」
新人「……それだけ?」
先輩「それだけ」
新人「それで時給2800円?」
先輩「ああ」
新人「ちょろっ!!」
6:
新人「いろいろなものってなんですか? やっぱり死体とかですか?」
先輩「そういうのはあまりない」
新人「あまりないってことは、あるんですね」
先輩「いや、目に見えて『死体だなあコレ』っていうのが流れてきたことはない。なんか、肉っぽいものとかはたまにあるが」
新人「やっぱり人肉ですか」
先輩「わからん。何の肉なのかは知らん」
新人「イノシシとかだったら食べたいなあ」
先輩「お前の出身地ではイノシシを食べるのか」
新人「はい。シカとかカモとかも食べますよ。先輩は?」
先輩「俺は生まれてこの方、肉といえば牛か豚か鶏のものしか知らん」
新人「都会っこですねえ。他にはどんなものが?」
先輩「大体はガラクタ。ガラスでできたペットボトルみたいな容器とか、傘の骨組みらしきものとか」
新人「わたしたちはなんのために、そんな不可解な作業をするんでしょう」
先輩「知らん」
7:
新人「やっぱり戦争のこととなにか関係あるんでしょうか」
先輩「かもしれんな」
新人「いやな世の中ですね、ほんとに。だいたい何なんですかこのスプレー。ラベルになにも書いてないし」
先輩「お前に割り当てられてるのは新品だぞ」
新人「ちょっと誇らしげに言わないでくださいよ。別に嬉しくないですし」
先輩「来たぞ」
新人「え?」
先輩「コンベア見てみろ」
新人「ん? なにあれ? ちっさ!」
先輩「瓶ビールの蓋だな。よし、お前やってみろ」
新人「えっ! えっと、これにこのスプレーを吹きかければいいんですか?」
先輩「そうだ」
8:
新人「…………」シュー
先輩「よし、それじゃコンベアにもどせ。それ」
新人「はい」
先輩「もう一人前だな」
新人「ちょろいなあ」
先輩「俺がお前に教えられることはこれですべてだ」
新人「初勤務開始七分で一人前になっちゃいましたか、わたし」
先輩「ガラクタは、三時間休みなく流れてくることもあれば、一日流れてこないこともある」
新人「なんかストイックな作業ですね」
先輩「コンベアが停止したらその日の作業はおしまい。なんか質問は?」
新人「はい!」
先輩「なんだ」
新人「この作業、絶対ふたりも要りませんよね」
11:
先輩「割ともっともな指摘だが、ふたりでやるのにもそれなりのメリットはある」
新人「たとえば?」
先輩「いつでもトイレに行ける。いつでも食事に行ける。いつでもサボれる」
新人「正直なひとだなあ」
先輩「お前はあれだな、真面目ってやつだな」
新人「そうですかね」
先輩「ここで働こうという人間にしては、いろいろと細かいことを気にする」
新人「ええ、まあ。暇ですからね、人生」
先輩「お前のように人間味溢れる人間は久しぶりに見た」
新人「愛嬌があってなかなかかわいいでしょう?」
先輩「いや、面倒くさい。から辞めて欲しい」
新人「うわ、いびられた」
13:
新人「うーん」
先輩「どうした」
新人「いや、このスプレーラベルのモスグリーンですけどね、いかにも軍関係っぽいなあと思って」
先輩「好奇心旺盛なやつだな」
新人「やっぱり気になるじゃないですか。自分がどこのどなたさまからお金をもらうのかって」
先輩「俺にはない発想だ」
新人「先輩ってどうしてここで働くことになったんですか?」
先輩「忘れた」
新人「ぜったい、うそでしょ」
先輩「まあ」
新人「いえ、話したくないことを無理に聞くつもりはないんですが」
15:
先輩「お前はどうなんだ」
新人「別に、普通ですよ。ちょっとお金に困って、ついでに生きるのにも困ってたら黒服の人がやってきて」
先輩「普通だな」
新人「『今日から君は政府の監視下に入る』だのなんだの言われて、ふと気づけば何語かもよくわからない契約書にサインしてました」
先輩「そうか」
新人「あれって都市伝説じゃなかったんですね。有事の煽りを喰らって、どうにも立ち行かない人間に救いの手を差し伸べてくれる黒服さんの話」
先輩「今時珍しい話じゃないと思うが」
新人「それって都市部の話でしょう? わたしが住んでた田舎ではそんなことめったになかったんですよ」
先輩「田舎ってどのへんだ」
新人「西のほうです。ずっとずっと西のほう」
先輩「ああ。あまり被害者が多くないところだな」
新人「はい。よりによって、わたしの周りであんなことが起こらなくてもいいのに」
先輩「ご愁傷様」
新人「いえいえ」
17:
新人「あ、またなんか流れてきた」
先輩「看板だな」
新人「ブリキ看板って、久しぶりに見ましたよ。わたしの郷里でも、もうほとんど見かけません」
先輩「そうか」
新人「こういう看板の定番と言えば、やっぱりオロナミンCですよね」
先輩「なんだそれ」
新人「えっ!? 先輩オロナミンC知らないんですか!?」
先輩「まったく」
新人「飲み物ですよ。真っ黄色で、えーと、あれは何味という表現がいいんだろう」
先輩「尿みたいな感じか?」
新人「身もふたもないこと言いますね。見た目のイメージとしては間違ってませんが」
先輩「いいから早くスプレーしろ」
新人「はあい」
19:
数時間後
先輩「コンベアの作動が止まったな。今日はこれで終わりだ」
新人「つかれたー! ……と言いたいところですけど、全然疲れませんねこれ」
先輩「基本的に大体なにもしてないからな」
新人「こういうの、一人でやってるといつか狂っちゃうそうですね。なにかの本で読んだことがあります」
先輩「ああ、だから二人いるのかな。この部屋」
新人「ねえ、先輩。ここに来るまでに似たようなドアたくさん見ましたけど、他の部屋でもわたしたちと同じようなことしてるんでしょうか?」
先輩「さあ」
新人「気にならないんですか?」
先輩「特には。ああ、そうだ。いくら気になろうとも、他の部屋を覗いたりはしないほうがいい」
新人「どうしてですか?」
先輩「どうもそのほうが『身のため』になるかららしい。俺の先輩だったひとが言ってた」
新人「先輩にも先輩がいたんですかあ」
先輩「ああ」
20:
二日目
新人「おはよございます」
先輩「今日も遅刻だ」
新人「いやはやまた迷ってしまいまして」
先輩「3B78Q6432室だって言ってあるだろ」
新人「そんな部屋の名前パっと出てきませんって。だいたいなんで、3B78Q6432室の隣の部屋が16F92室なんですか。法則性がわかりませんよ」
先輩「すらすら部屋番号出てくるじゃないか」
新人「5ケタが限界なんですよう」
先輩「いいからこっちきて座れ。俺はトイレに行きたい」
新人「大ですか? 小ですか?」
先輩「緑だ」
新人「色できたかー」
21:
新人「はふ……」
先輩「眠そうだな」
新人「だって先輩、わたしの住んでる区域、昨日夜の2時半くらいに第八次避難待機かかったんですよ」
先輩「それで?」
新人「それでもなにも、待機しましたよ。民間支給品抱えて、動きやすい服装で、靴まで手元に準備して」
先輩「馬鹿正直だな」
新人「え?」
先輩「この辺に住む人間からすれば、第四次くらいまでの避難勧告は、キジバトの鳴き声ほどの意味も持たん」
新人「……うわあ。同じ田舎でも、軍の御膝元は感覚が違いますね」
先輩「第八次くらいで馬鹿正直に避難準備行動取ってたら、一日の睡眠時間が二時間切るぞ」
新人「切ったんですよわたしは、昨晩。馬鹿正直に。ああ眠……」
先輩「寝とけ」
新人「いや別にそこまで寝たいわけではないんですが」
先輩「そうか」
23:
新人「まあでも、そんなものなのかもしれませんね」
先輩「なにが」
新人「感覚が麻痺するって話です。なんなんでしょうね、この戦争は」
先輩「さあな」
新人「一体なにと戦ってるんだって話ですよ、我が国は。なんでしたっけ? 宇宙人? 異星人?」
先輩「高次生命体」
新人「ようするに得体の知れない知的生命体ってことですよね。そんなの、宇宙人ですよ宇宙人」
先輩「それと同時に、人間同士でも戦争してる」
新人「はちゃめちゃですね。危機があり過ぎて危機感鈍りますよ」
先輩「もっともだ」
新人「本格的交戦に発展する発展するって、もう二十年前から言ってるわけでしょう? そんなの、緊張疲れしちゃうに決まってるのに」
先輩「でもお前は、ちゃんと危機感持って避難待機してたんだろう?」
新人「わたしの居たところでは避難待機勧告なんて珍しいものだったんですよ。田舎者特有の性ってやつですね」
24:
先輩「お前、いつからこっちに来たんだ」
新人「一昨日ですよ。ここも田舎ですけど、こんなの比べものになりませんよ。わたしの田舎」
先輩「そうか」
新人「飲み屋に駐車場があるか否かが、田舎度を測る上で重要なファクターになるって話があるんですけどね」
先輩「初めて聞く」
新人「わたしから言わせれば、そんなのは本当の田舎を知らないやつの言い草ですよ。本当の田舎には、飲み屋がありません」
先輩「想像もできんな」
新人「でしょう? 貨幣が流通する場所なんて、診療所と郵便局を除けば、あとはもう死にかけの老人がやってる商店か自販機しかありません」
先輩「一応店はあるのか」
新人「ええ。棚にある商品の四割が、賞味期限切れでほこり被ってるような場所を、店と呼んでいいなら……ですけど」
先輩「やっぱり想像もできんな」
26:
新人「先輩って無口ですよね」
先輩「お前がよく喋るだけだ」
新人「わたしのコミュ力は、涙ぐましい過去に由来しているのでしょうがないです」
先輩「そんな過去があるのか」
新人「ええ。と言っても、このご時世においては割とありがちな悲劇なんですけど」
先輩「そうか」
新人「聞いてくださいよ。こっちは喋る気満々なんですから」
先輩「あまり悲話を詮索するのは良くないかと思って」
新人「別にいいんですよ。話のタネにでもしなきゃ、わたしの不幸が浮かばれません」
先輩「そんな無理して喋ることを見つける必要はないだろう」
新人「だって、おしゃべりでもしてないと退屈じゃないですか。ここの仕事」
先輩「まったくだ」
27:
新人「学校から帰ってきたら両親が死んでたんです」
先輩「ありがちだな」
新人「ええ。不審死……今は不明死って言うんですかね。それでした」
先輩「『宇宙人』の仕業か」
新人「だと思います。なにがどうなって、どういう仕組みで死んだのかよくわからないってお医者さん言ってましたから」
先輩「死にざまもなにもまったく違うのに、全部ひっくるめて不明死って言うんだよな」
新人「わたしが思うに、宇宙人からしたら人類なんて蟻のようなものだと思うんですよね」
先輩「蟻?」
新人「はい。わたしたちが路傍で蟻の群れを踏んづけて大量に殺しちゃったとしましょう。わたしたちは何故蟻が死んでしまったのか知ってます」
先輩「自分で踏んづけたんだからな」
新人「でも蟻からしたらきっと、なにが起こったのかさっぱり分からないでしょう? 『気づいたらなんか、同胞が大量に死んでた』って感じだと思うんですよね」
先輩「自分たちより高次の何者かになにかをされても、低次側はそれを知覚できないってことだな」
新人「ですね。まあそんな感じで死んでたわけですよ、両親。『なんかよくわからないけど』死んじゃってたんです」
29:
新人「そこからはまあ、お決まりのパターンですね。孤児となったわたしは親戚の家をころころとしました」
先輩「それはおそらくころころじゃなくて、転々だ」
新人「知ってますよジョークですよ。で、まあこのご時世なんでやっぱり、どこの家でも嫌な顔されちゃうんですよね。わたし。みんな自分のことに必死ですから」
先輩「しょうがないことではあるが」
新人「三件目にお世話になることになったお家は、快く受け入れてくれたんですよね。ぶるぶると震えるわたしに向かっておじさんが
 『もう大丈夫だよ』とか、穏やかな笑みを浮かべて言うわけです。めちゃくちゃ嬉しかったなあ。三日後にはレイプされそうになってたんで逃げだしましたが」
先輩「大丈夫だったのか」
新人「え、なんですか先輩。わたしの貞操が気になるんですか」
先輩「一応聞いておこうかと」
新人「処女厨、ってやつですか」
先輩「いや別にどうでもいいんだが」
新人「処女ですよ」
先輩「いや別にどうでもいい」
31:
新人「そんなこんなで他人の世話になることに嫌気がさして、ホームレスしてたら黒服さんが来て、今に至るといった具合です」
先輩「苦労したんだな」
新人「ええまあ、普通に。先輩はなんか苦労とかしてなさそうな顔つきですよね」
先輩「お前それはひどいだろう」
新人「いえこれ純粋に褒めてるんですよ。ほんとです」
先輩「どこをどうしたら『苦労してなさそう』が褒め言葉になるんだ」
新人「ほら、戦争始まって以来、大体の人は隠忍自重の人生を強いられてるじゃないですか。苦労してない人間なんてほとんどいないじゃないですか」
先輩「まあそうだな」
新人「そうなるとなんかもう、みんな顔に張り付いちゃってるんですよね。『苦労してますよ』感。そういうの、わたし好きじゃないんですよ」
先輩「しょうがないことだろうに」
新人「ほんとつまらない顔してるんですよ、どいつもこいつも。困ったもんです」
33:
新人「先輩は自分の過去とか話さなそうですね」
先輩「そういうことをする予定はないな」
新人「いえ、いいんですけど。わたしだけ過去を喋っちゃってなんか不公平だなー、とか思ってませんよ」
先輩「お前が喋りたいって言ったんだろ」
新人「いや、ほんと思ってませんって。むしろ話さないでいてくれたほうが気楽なもんです」
先輩「そういうものなのか」
新人「はい。だってなんか、その人の過去とか聞いちゃうとなまじ人間扱いしちゃうじゃないですか」
先輩「してくれよ」
新人「いやですよ。先輩は無口でなんかぼやっとしてるからいろいろ喋りやすいんです。棒に向かって話してるみたいで」
先輩「壁ですらないのか」
34:
三日目
新人「なんですか? あまりじろじろ見られると恥ずかしいんですけど」
先輩「いや、お前、歳いくつくらいなんだ?」
新人「どうしてそんなこと聞くんですか」
先輩「ここで働く人間は若いやつが多いらしいが、それにしてもお前は若いなと思って」
新人「いくつに見えます?」
先輩「15くらいか」
新人「先輩」
先輩「なんだ」
新人「女性は老けて見られるのが嫌だと俗に言いますが、あまり若い年齢を言われるのもそれはそれで複雑なんですよ」
先輩「割と当たってると思ったんだが」
新人「複雑です」
先輩「そうか。悪かった」
35:
新人「そういう先輩はいくつなんですか」
先輩「ああ、ええと」
新人「…………」
先輩「…………」
新人「……まさか、忘れたとか言いませんよね」
先輩「27だ。多分。おそらく」
新人「アラサーと言う言葉が一番効果的に胸に響く年頃ですね」
先輩「そうなのか」
新人「想像ですけど」
先輩「適当だな」
新人「先輩に言われたくはないです」
37:
新人「ここで働く人間には若者が多いと言いましたけど」
先輩「ああ、あと老人もそこそこ」
新人「つまりそういうことなんでしょうね」
先輩「なにが」
新人「成熟してなくて、なんの技術も知識も持たない人間。老いぼれて使えなくなった人間が多いってことです」
先輩「ああ」
新人「こんな仕事内容でこの高給とくれば、馬鹿でも気づきます。つまりこの仕事、事情を知る人間からすれば絶対にやりたくないものなんでしょうね」
先輩「そうかもしれないな」
新人「身寄りもなく、独りで生きていくにも何も生み出さず、どうしようもなくなった人間がここに連れて来られるんです」
先輩「自虐的だな」
新人「先輩もですよ。ええと、つまり、わたしたちは捨て駒みたいなものです」
先輩「ああ」
新人「わたしでは及びもつかないような危険性をこの作業ははらんでいる。その秘密はスプレーにあるのかコンベアにあるのかはたまた工場そのものにあるのか土地がまるごと危険なのか」
先輩「よく考えるな、そういうの」
新人「暇なんですよ。放射線でも出てるんですかね、この辺り」
40:
先輩「そういうこと考えてる割に落ち着いてるんだな」
新人「だって、仮にここから逃げ出したってわたしにはすることもやりたいこともやらなきゃいけないこともありません。稼がなきゃ暮らしていけないし」
先輩「そうか」
新人「こんなこと言ってますけど、不満は特にありませんよ。なにかやばそうだなとは思うけど、なにがやばいのか全然わかりませんし」
先輩「わかったときには手遅れになってそうだな」
新人「でしょうね。でも手遅れにならなきゃ気づかないんですよね、わたし」
先輩「阿呆だな」
新人「ひどいなあ……あ、またなんか流れてきましたよ」
先輩「肉だな」
新人「ぽいですね。イノシシだといいなあ」
42:
新人「どうみてもイノシシではないですね」
先輩「だな」
新人「っていうかぐちゃぐちゃになってますけど、どうみてもこれ人間ですよね。人間の頭部ですよね」
先輩「かもしれないな」
新人「事故とか殺人でこういう風にはならないですよねえ」
先輩「人間の頭部がそのまま出てきたらショッキングだろうから、とりあえず砕いてわかんなくしちゃえって意図が感じられるな」
新人「ぜったい、良心の方向性が間違ってますよね」
先輩「とりあえずスプレーしとくか」
新人「これ、まんべんなく噴こうと思ったら難しいですよ。持ちづらいし」
先輩「こういうのは適当でいいんだ」シュー
新人「そうなんですか? 怒られたりしないんですか?」
先輩「そういう経験はないな」
新人「適当ですねえ」
43:
新人「このコンベアはどこに繋がってるんでしょうか」
先輩「さあ」
新人「っていうかこの工場はどんな場所に立ってるんでしょうか」
先輩「わからないな」
新人「徹底して秘密主義ですよね。通勤し辛いんですよ。何キロメートルも前から地下道で、工場に直通って」
先輩「バスもなにも走ってないしな」
新人「いかにも軍道って感じなんですよねえ。暗くて、自転車が漕ぎ辛いったらないですよ」
先輩「工場内部も入り組んでて迷いやすいしな」
新人「嫌味ですか。今日は遅刻しなかったでしょう」
先輩「そうだな。進歩が見られる」
新人「なんといっても、七分で一人前になったわたしですからね」
44:
七日目
新人「そろそろ落ち着きましたかね」
先輩「今日は忙しかったな」
新人「長靴、掛け時計、携帯ゲーム、でかいライター、猫、窓枠……ノンジャンルにもほどがありますよ」
先輩「猫はまだちょっと生きてたもんなあ」
新人「不憫でしたね」
先輩「情が沸くか?」
新人「いえ、全然。わたし猫嫌いなんですよ」
先輩「それならよかった」
新人「先輩は?」
先輩「俺?」
新人「そろそろわたしに情が沸いてくるころですか?」
先輩「ああ、いや、全然だ」
新人「ですよねえ」
46:
先輩「情が沸いてるほうがよかったのか?」
新人「いや、まさか。そんな人間味のある先輩ぜったい、やですよ」
先輩「利害が一致しててなによりだ」
新人「あ、コンベア止まりました」
先輩「じゃあ終わりだ」
新人「はい。先輩って家でなにしてるんですか?」
先輩「なにも」
新人「わたし好みの良い答えです」
48:
十日目
新人「あ、あれってもしかして本ですか?」
先輩「珍しいな。本の形を保って出てくるのは」
新人「わあ。『老人と海』だ」
先輩「有名な本なのか?」
新人「ヘミングウェイですよ。アメリカ文学の古典です」
先輩「よくわからんが、好きなのか?」
新人「大して好きじゃないです。うわあ、なんか懐かしいなあ」シュー
先輩「言いつつスプレーか」
新人「はい。大して好きじゃありませんし」
先輩「お前なんか好きなものあるのか?」
新人「んー……お酒ですかね」
先輩「高級品だな」
新人「はい。人生で二度ほど舐めた程度です」
先輩「それで『好き』か」
50:
新人「ここのお給料出たら、お酒飲もうと思います」
先輩「好きにすればいい」
新人「一緒に飲みます?」
先輩「俺は酒は飲まん」
新人「最高!!」
先輩「なにが」
新人「嗜好品に興味ありません的な答えが、わたし好みです」
先輩「お前よく変わってるって言われないか」
新人「ええまあ、学校に行ってたころは浮いた存在でしたが」
先輩「想像できる」
新人「だめですよ先輩。そういう発言、藪から棒にトラウマを呼び起こしちゃいますよ」
先輩「呼び起こされたのか?」
新人「いえ別に」
52:
新人「あ、でもですね」
先輩「ん」
新人「ヘミングウェイもフィッツジェラルドも嫌いですが、読書自体は割と好きですよ」
先輩「そうなのか。じゃあ明日から本持って来い」
新人「え?」
先輩「退屈だろう。どうせなにもしれない時間が八割なんだから、読書でもしてろ」
新人「やですよそんなの」
先輩「なんで」
新人「先輩とお喋りしてれば暇は潰せます。本はいちいち何読もうか迷わせてくるので別にいいです」
先輩「そうか」
新人「なので、先輩も本とか持ってこないでくださいよ。喋る相手がいなくなります」
先輩「俺は本は読まん」
新人「でしょうね」
54:
十三日目
新人「先輩テレビとか見ます?」
先輩「戦況報道は確認する」
新人「戦況報道って、ニュースとしての役割を果たしてないですよね」
先輩「まあ」
新人「いつ見ても、ただの人類殺戮ショーですよ。戦況ってのは好転したり悪化したりするから戦況なのであって、悪化する一方のものはもう戦況とは言いませんよ」
先輩「じゃあなんて言うんだ?」
新人「戦々恐々」
先輩「ギャグか」
新人「面白かったですか?」
先輩「面白くはない」
新人「ですよね。まあ蟻が人間に喧嘩売ってるような状況を、戦争と呼んで憚らない人類の意地はすごいと思いますけど」
先輩「そっちじゃなくて、国家間の戦争のほうはどうだ」
新人「どうだと言われましても。最近なんか動きあったんですか?」
58:
先輩「この一週間で、国が二つなくなったな。新しい国は七つほどできたらしい」
新人「あらあら、それはまあ、平和な一週間だったんですね」
先輩「だな」
新人「この状況で一致団結できない人類って、ある意味めちゃくちゃ誇り高いですよね」
先輩「そういう見方もできる」
新人「わたし、人間あんまり好きじゃないですけど、人間のそういうところは結構好きだなあ」
先輩「そうか」
新人「先輩はどうですか? 人間好きですか?」
先輩「好きなときもある」
60:
新人「…………」
先輩「なんだ」
新人「いや驚いてるんですよ。先輩らしくもない」
先輩「なにが。彼女がいたこともある」
新人「うわ。なんか裏切られた気分」
先輩「微妙に失礼だな」
新人「彼女ってあれですか。有機物ですか。サボテンですよね?」
先輩「サボテンも有機物だと思うが」
新人「あ、煙草の吸殻流れてきた」
先輩「そうだな」
新人「先輩って煙草吸いますか?」
先輩「吸わない」
新人「ああよかった。先輩だ」
62:
十七日目
新人「これ、なんなんですかね」
先輩「さあ」
新人「生き物ですかね」
先輩「そういう風にも見えるな」
新人「こういう瞬間が来ること、想像はしてたんですけどね」
先輩「想像してたのか」
新人「ええ、だから、思いのほか冷静です」
先輩「お前はいつも冷静に見える」
新人「先輩みたいな人が言うなら、相当なんでしょうね」
先輩「早くスプレーしとけ」
新人「はあい」シュー
先輩「適当でいいから」
新人「おっけーです………………どう見ても、地球上の生き物じゃないですよねえ」
先輩「そうかもな」
64:
三十二日目
新人「生理がきません」
先輩「そうか」
新人「うわあ冷たい」
先輩「俺には覚えがない」
新人「まあそうでしょうね。先輩わたしに指一本触れたことないですもんね」
先輩「ああ」
新人「わたし結構、心も身体強いんですよ」
先輩「それで」
新人「生理不順って、精神やられてるときとかに来るらしいんですけど」
先輩「そうなのか」
新人「わたし、なったことないんですよね」
先輩「今なってるだろう」
新人「はい。ですので、祝、初生理不順です。やった!」
先輩「喜ぶところなのか」
65:
新人「もしかしてあれですかね」
先輩「なんだ」
新人「毎晩、飲んだくれてるのが良くないんですかね」
先輩「飲んだくれてるのか」
新人「ええそりゃもう。酒を飲むか飲まれるかすったもんだの大騒ぎで」
先輩「よくそれでけろっと仕事してられるな」
新人「不思議ですよねえ。お酒ってのは飲むと酔っぱらうものだと思ってましたが」
先輩「酔わないのか」
新人「全然」
先輩「強いんだな」
新人「これが酒豪ってやつですか」
先輩「かもな」
新人「いくらでも飲めそうなんですよね。味もなんかすっごく薄いし」
先輩「そうなのか」
新人「はい」
69:
新人「そういうもんですか? 昔お酒を口にしたときは、結構味したんですけど」
先輩「知らん。飲まないから」
新人「ですよね」
先輩「……どうした」
新人「んー……いや、なんでもないですよ」
先輩「なんか声が震えてるが」
新人「いや、これはですね、新しいダイエット法なんですよ」
先輩「そうなのか」
新人「ええ。なんでも、都のほうでは大流行らしいですよ。ダイエットし過ぎて死んじゃった人までいるとか」
先輩「物騒だな」
新人「物騒でしょう? それくらい効き目があるんですよ。良薬は口に苦いんです」
先輩「覚えておこう」
新人「別にいいですよ。忘れても」
75:
四十三日目
新人「こんな世に生まれた身として、常々考えるんですが」
先輩「ああ」
新人「人はもうちょっと、ドラマチックに死ぬんだと思ってたんですよね」
先輩「そうか」
新人「子供の頃はそう信じてたんですよ。こんなわたしにも、かわいらしい少女期があったんです」
先輩「そうなんだろうな」
新人「父と母に愛され愛され愛されて、友達と縄跳びとかして、定時の町内放送がなったら帰ってご飯を食べてたんです」
先輩「今時町内放送もないよな」
新人「田舎ですから。それでまあ、平々凡々と日々を過ごしてたんですけどね。幼心に、幸せってこういうことだなって思ってたんですけどね」
先輩「ませたガキだ」
新人「幸せな内容ある日々を送ってるんだから、それを終えるときはそりゃもう大層価値ある終わりを迎えるんだと思ってました。
 お世話になった人に今際の言葉を告げて、孫なんかに見送られながら、安らかに逝くんだろうなって」
先輩「今の時勢、そういう最期を送れるのは十人に一人だ」
新人「ええ、分かってなかったんですよ。田舎ボケですね。自国の戦争も、やっぱり対岸の火事だと思ってたんです」
77:
新人「なんか長くなっちゃった。要するにですね、父と母が丸型のテーブルに突っ伏して、白子みたいになった腸を吐きだしてたのを見たときに、
 純粋だったわたしはようやく気づいたんですよ。いくら意味ある人生を構成しても、それで死までもが美化されるわけじゃないなあって」
先輩「白子みたいになってたのか」
新人「はい、真っ白でしたよ。ちょっときつかったですね。白子大好きだったんですが、あれ以来食べられなくなりました」
先輩「そういう死に方もあるんだな」
新人「ナイーブでしょう? わたし」
先輩「そうだな」
新人「そうなんです。あ、先輩は白子好きですか?」
先輩「好きでも嫌いでもないが、ちょっと嫌いになった」
新人「先輩もナイーブですね。ナイー部です。部長はわたし」
先輩「部長だけでやってほしい」
新人「つれないですね、ほんと」
先輩「そういうつもりはないんだが」
新人「そういうつもりでつれない人にはつられませんよ、わたし」
先輩「なにを言ってるのかわからん」
新人「なにを言ってるんでしょうね」
78:
五十日目
新人「やっぱり生理きませんよ」
先輩「大変だな」
新人「閉経しちゃったんでしょうか」
先輩「かもしれないな」
新人「まだ処女だったのに」
先輩「残念だな」
新人「なんか悔しい。もったいない」
先輩「そう言うのは意外だな」
新人「え、意外ですか? っていうか意外って言われたのが意外なんですけど」
先輩「どうして」
新人「意外っていうことは、つまり先輩はわたしに対して何かしらの定点的評価があるわけでしょう?」
先輩「そういうことになるな」
新人「意外だ……」
先輩「なにがだ」
79:
新人「先輩の目からは、わたしとサボテンが同じに見えてるんだと思ってたんです」
先輩「俺をどういう人間として見てるんだ」
新人「そういう人間ですよ」
先輩「サボテンにはサボテンで、定点的評価を与えてる。お前にもそうしてるだけだ」
新人「あ、なるほど。安心安心」
先輩「安心?」
新人「いや、わたしは『わたしに無関心な先輩』が好きなんですよ。万が一愛されてたらどうしようかと」
先輩「お前俺のことが好きだったのか」
新人「ええ、大好きです。人間味がないところが。だからですね、先輩」
先輩「なんだ」
新人「ぜったい、わたしのこと好きにならないでくださいね」
先輩「ああ、安心しろ」
新人「はい」
82:
五十八日目
新人「お腹すいたー」
先輩「昼飯行ってくるか?」
新人「さっきもう食べちゃいました」
先輩「あのメロンパンか」
新人「あれで今日の昼食終了でーす」
先輩「ダイエットでもしてるのか」
新人「ああ、そういえばダイエット中でした……いえ、そうではなくてですね、金欠なんですよ」
先輩「ここで稼いで、それでもなお金欠になるのか。なんに使うんだ、そんなに」
新人「本とお酒と薬ですねー」
先輩「クスリか。そりゃ金欠にもなる」
新人「先輩なにか勘違いしてるでしょう。ただの風邪薬ですよ」
先輩「風邪なのか」
新人「なんかずっとだるくて。超ブルーですよ」
先輩「大変だな」
85:
新人「薬と言えばですね、先輩」
先輩「なんだ」
新人「ここ、出勤したときになんか変な薬みたいなの飲まされるでしょう? あれって先輩も飲んでるんですか?」
先輩「ああ」
新人「ですよねえ。なんか最近の体調不良は、あれのせいじゃないのかって思ったんですけど」
先輩「違うのか」
新人「だって先輩はぴんぴんしてるじゃないですか。同条件の実験結果として、あの薬と体調不良に因果関係を見出すことはできませんよ」
先輩「俺は身体が丈夫なほうだ」
新人「わたしもですよ」
先輩「多分、俺はお前の百倍くらい身体が丈夫なんだ」
新人「すごいですね。超人ですね。人を超えし者ですよ」
先輩「そう。俺は人を超えし者なんだ」
新人「あはは。先輩でも冗談言うんですね。全然面白くない」
先輩「それは悪かった」
87:
新人「わたし、先輩がわたしのこと好きでもいい気がしてきました」
先輩「そうなのか」
新人「いやいや冗談ですよ。なにマジになっちゃってるんですか」
先輩「悪かった」
新人「わきまえてください。先輩みたいな無愛想と、かわいいかわいいわたしが両想いになんて、なるわけないでしょ」
先輩「そういうものか」
新人「おまけに生理もこないので避妊もいりません。処女です。完璧です」
先輩「そうだな」
新人「先輩が冗談言ったので、冗談で返してみただけです…………っ!」
先輩「どうした」
新人「いや、なんか今…………頭がちょっと痛くなりました。ちょっとだけ」
先輩「そうか。風邪かな」
新人「風邪ですね。たぶん」
89:
六十三日目
新人「…………」
先輩「…………」
新人「…………ふぁ」
先輩「…………」
新人「……すみません、寝てました」
先輩「寝てたな」
新人「なんか生まれ変わって、結局流産した気分です」
先輩「死んでるな、それ」
新人「最近寝ても寝ても寝たりなくて」
先輩「暇だからな。眠たくなるのもわかる」
新人「もう三日ですか。なにも流れて来なくなってから」
先輩「四日だ」
新人「こういうこともあるんですか?」
先輩「俺の知る限りでは最長記録だな」
90:
新人「暇で暇で寝そうです……なんか面白い話してください」
先輩「なんかってなんだ」
新人「なんでもいいです」
先輩「お前、テレビ見てるか」
新人「ほとんど見てないです。どこも戦況報道と『避難勧告が発令されたら』しかやってないので」
先輩「それじゃあ知らないだろうな」
新人「なにを?」
先輩「戦争が終わったこと」
新人「へえ、知りませんでした。戦争って、国家間戦争? それとも宇宙戦争のほうですか?」
先輩「国家間の方だ」
新人「どこが勝ったんです?」
先輩「この国だ」
新人「あー、やっぱり大国強しですねえ。何個くらい国無くなったんです?」
先輩「28国消えて、2国に統一された」
新人「植民地政策の始まりだあ」
92:
先輩「目は覚めたか?」
新人「まったく覚めません。寝てます。寝てますよわたし」
先輩「別に寝ててもいいぞ」
新人「そういうわけにはいきません。先輩のお顔をよく見ておかなければ」
先輩「なんで」
新人「残り少ない人生、好きな人の横でこうして居られるのって幸せなことじゃないですか?」
先輩「そういうものか」
新人「そういうもんです。あー、良い感じ良い感じ。ちょっとドラマチック」
先輩「よくわからんな」
新人「できればそのまま一生わかんないままでいてくれるとありがたいです。ね、先輩、なんか面白い話してください」
先輩「特に思いつかん」
新人「そんなことないでしょう? とっておきの一つや二つ、人間だれしも持ってるものですよ」
先輩「俺は人間じゃないからな。宇宙人だ」
新人「あは。最高! 全然面白くない!!」
97:
新人「それじゃなんですか、先輩。今世界がこんな有様になっちゃってるのは、先輩と先輩のお仲間の仕業なんですか」
先輩「いや、そうじゃない。俺たちはこの星に友好的な種族だ」
新人「宇宙人にも種類があるんですか?」
先輩「人間にも国籍があるだろう」
新人「なるほど。で、宇宙人の先輩はなんで、こんなところで時給2800円のアルバイトなんてしてるんです?」
先輩「この国の人間に捕まった」
新人「ださ! 高次生命体じゃなかったんですか!」
先輩「それは今この星を植民地にしようとしてるほうの宇宙人だ。俺たちの文明レベルはここより少し進んでるくらいだ」
新人「へえー。異星人まで働かせるなんて、よっぽど人手が足りてないんですねこの工場。宇宙人の手でも借りたいくらい」
先輩「俺たちはこの施設内で監視されてるんだ」
新人「監視?」
先輩「そもそも俺たちはこの星に、技術を与えにきた」
新人「味方なんですか」
先輩「そう、味方だ」
102:
先輩「今この星に攻撃をしかけている種族は、そもそも掟破りの種族なんだ」
新人「ああ、スターウォーズとかで見たことありますよ。横並びー、の停戦協定和平条約」
先輩「この星は文明的に未だ成熟していない。植民地にするに易い文明水準に達した後、各星で領土を割譲しようという取り決めだったんだ」
新人「なんだかんだ言って、結局は支配するんですね」
先輩「その取り決めを無視して、圧倒的軍事力にものを言わせ、抜け駆けしたのが今この星に攻撃を仕掛けている種族だ」
新人「止めてくださいよー。同盟国……や、同盟星なんでしょう?」
先輩「やってはいる。が、根本的にこの星が抗戦できていないとそれは難しい」
新人「それで技術を、ですか」
先輩「ああ。この星の各国がそれを手にして抗戦すれば、蟻から猫くらいにはなれる。だが」
新人「ああ、いいですよもう。大体わかりました」
先輩「わかったのか」
新人「ええ。この星一番の大国にまずコンタクトを取ってみたら、その国がその技術を独占して国家間の戦争に転用したって言うんでしょう?」
先輩「正解だ。お前はたまに、ものすごく察しが良いな」
新人「いえいえ、ただの阿呆で馬鹿ですよ。でも、こんなのこの世界に生きてりゃ馬鹿でもわかります」
先輩「その価値観が俺たちにはわからなかった」
103:
新人「先輩、世間知らずですもんね」
先輩「この国の文化には疎い」
新人「いや、多分元の星に帰っても無愛想の教養なしで通ってると思いますよ先輩」
先輩「そうかもしれん」
新人「さっき『俺たちはここで監視されてる』とかなんとか言ってましたけど、ここには先輩のお仲間が他にも収容されてるんですか?」
先輩「わからない」
新人「先輩に惚れてるわたしとしては聞いておきたいんですけど、『彼女』ってのはやっぱり宇宙人なんですか?」
先輩「いや、この星の人間だ」
新人「ふうん。じゃあ『先輩の先輩』だったひとって言うのは?」
先輩「同一人物だ」
新人「まあ、予想はしてました。死んだんですか?」
先輩「ああ」
新人「わたしと同じようになって?」
先輩「ああ」
107:
新人「なるほどなあ」
先輩「お前はもうここに来ない方がいい」
新人「でも生活があるんですよねえ」
先輩「この工場は」
新人「わかってますよ。何かしらの軍事工場なんでしょう? こんな意味不明の作業にも、単純作業をロボットにやらせないことにも、なにかしらの意味があるんでしょう?」
先輩「ああ」
新人「ビール瓶の王冠も、なにかの肉にも、時計にも窓枠にも、宇宙人の死体にも、軽々しく触れちゃいけない何かがあったんでしょう?」
先輩「そうだ」
新人「なんて工場だ」
先輩「本当に」
新人「時給2800円が妥当に思えてきました」
先輩「妥当なのか」
新人「ええ、先輩に会えたことで、時給プラス二億は行ってますからね。合計で時給二億二千八百円です」
先輩「大金だな」
新人「はい。この星では、大金ですね」
109:
先輩「だからお前は、逃げたほうがいい」
新人「逃げたらわたし治るんですか? これ」
先輩「見込みがないことはない」
新人「もうそれ、ないって言ってしまったほうが楽ですよ」
先輩「可能性はあるんだ」
新人「はいはい。細菌兵器みたいなものですか? これ。それともあの変な薬の副作用?」
先輩「どっちもだ。そもそもあの薬を飲んでいなければ、とっくに死んでいる」
新人「どっちもかあ。あの薬激甘でしたからね。良薬じゃないですね、やっぱり」
先輩「細菌ではなく、ウィルテセキュリだ」
新人「なんですか、それ」
先輩「この星には代替する概念がない」
新人「うわ、なんかむかつく。無教養のくせに」
先輩「悪かった」
111:
新人「わたしの両親が死んだのも、そのウィルテセキュリのせいなんですか」
先輩「おそらく」
新人「不明死した人たちみんなそう?」
先輩「だろうな」
新人「全然死に方違うじゃないですか。いきなりバーンて弾け散った人もいるんですよ」
先輩「腸が白子のようになるのも身体がはじけ飛ぶのも、ウィルテセキュリがフォッシブにサリステルしただけだ。我々から見れば、全部同じ現象に見える」
新人「この星に代替する概念が存在しない言葉使わないでください。なんか異星人みたいですよ」
先輩「それで合っている」
新人「ああ、わたしの初恋、相手異星人かあ。いきなりハードル高いなあ。外人と交流したこともないのに」
先輩「すまない」
新人「ほんとですよ…………あ」
先輩「もう時間がない。逃げろ」
新人「しつこいなあ。言われなくても帰りますよ。コンベア止まりましたよ」
先輩「お前は」
新人「もう上がりなんで、続きは明日にしてください。えっと、お疲れ様でした。大好きです」
112:
六十四日目
新人「おはようございまーす」
新人「昨日久々にテレビ見てみたんですけど、いや、ほんとだったんですね。戦争終わってますね」
新人「世界情勢に疎いわたしが、人のこと無教養とか言えないですね。いや、反省反省」
新人「今日は久々に体調良いんですよ。良いニュースを見たからかな。これなら、毎日世界は幸せなニュースを流して欲しいですね」
新人「先輩今日は一段と無口ですね。新しい冗談ですか?」
新人「昨日のは結構ひどかったですからね。つまらないお話をべらべらと。もう眠くて眠くて仕方なかったですよ」
新人「でも今日はなんか気分がいいんで、いいですよ。つまらない冗談、いくらでも聞いたげます。さあ、どんとこい!」
新人「やだな先輩、ひかないでくださいよ。わたしにだってこれくらいのテンションの日はあるんですよ。ブルーの反対だから、レッドですかね? わたし超レッドです!」
新人「せんぱーい」
新人「おーい!」
新人「せんぱいせんぱいせんぱーい!!」
新人「ああ、ずっとフリだと思ってたんですけど、もしかして違いましたか」
新人「ここでフリだったら、最高に面白かったんですけど、相も変わらずセンスないですねー」
新人「ねえ、先輩。ほんとに死んでるんですね、それ」
117:
新人「はあ…………」
新人「朝からテンション下がるなあ……」
新人「余計なことべらべら喋るからですよ、先輩」
新人「口封じされちゃったじゃないですか、先輩」
新人「昨日、わたしになにを言おうとしたんですか、先輩」
新人「……テンション下がるなあ」
新人「最高ですよ、先輩。最高につまらない冗談です」
新人「ねえ、先輩。そんなにわたしに助かって欲しかったんですか?」
新人「自分は殺されてもいいって思ったんですか?」
新人「迷惑だなあ」
新人「わたしのこと、ぜったい好きにならないでくださいって言ったじゃないですか」
新人「…………めんどくさいなあ」
新人「急に眠くなってきました。わたし、ちょっと寝ますね」
新人「最近暇だから、ちょっとくらい大丈夫ですよね? 先輩」
新人「おやすみなさーい」
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