ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」back

ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」


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2:
――7月13日、朝――――――…
ドラえもん「こらっのび太!起きろ!遅刻するぞ!」
のび太「…もーいいじゃん行かなくたってさぁ、あと数日で夏休みなんだから…」
ドラえもん「………そのまま起きずに死ねばいいのに」
のび太「…あ?」
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元スレ
ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」
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3:
ドラえもん「大体君は中学生になったというのに、無責任というか無神経というか」
のび太「あ?どっちが無神経だよ。居候の分際で死ねとか言っていいと思ってるの?」
ドラえもん「『あ?』て…誰に向かって口聞いてんのさ。せっかく起こしてあげたのに」
のび太「あ?」
ドラえもん「そんな性格で歴史を都合の良いように変えるなら君は粛清されるべきだと思うよ」
4:
のび太「あ?何言ってんのウスラハゲダヌキ」
ドラえもん「君は歴史の汚物であり僕の人生の汚点だからただちに殺すね」
のび太「お?お?やんのかタヌキ?お?」
ドラえもん「しょうがない奴だなぁ…苦しまないように瞬殺だよ」
ドラえもんが四次元ポケットに手をつっこむと同時に
すかさず押入れにあったスペアポケットに手を伸ばすのび太
のび太〈……何か道具で……距離をとらないとッ…!〉
ドラえもん「熱線銃〜」てってれっててってってーー
5:
のび太「ウワァッ!!?」
のび太が道具を取り出した瞬間、ドラえもんが引き金をひく…!
部屋は眩く光り、家は一瞬にして炭と化した
ドラえもん「ウフフフフフフフ…!」ガラガラガラ・・・
のび太「shitッ!タケコプターで窓から飛び出していなければ死ぬところだった……!」
ドラえもん「shitって……勉強してないくせに、そんな汚い英語はおぼえているんだね」
のび太「しつけが悪いのさ。それよりいいのかい?僕はスペアポケットを持っているんだよ?」
ドラえもん「君は実に馬鹿だなぁ」
ドラえもんの顔がニヤリと歪む
悪寒を感じ取ったのび太はとっさに身構えた
6:
ドラえもん「あははははははは」
ドラえもんは狂気に満ちた笑い声をあげながら
勝ち誇った顔でフラスコ瓶を見せ付ける
ドラえもん「ハイこれ何でしょう」
のび太「それは…『ウソ8OO〈エイトオーオー〉』」
※ウソ8OO〈エイトオーオー〉
言った事が全てウソになる薬
7:
以前、これを飲んだのび太の独り言によって
未来に帰ったドラえもんが再びこの時代に戻ってきた
二人にとって感慨深い道具である
ドラえもんは瓶の蓋を開け、『ウソ8OO〈エイトオーオー〉』をゆっくりと飲み干す…
ドラえもん「のび太君は生きる」
のび太「…!!」
ドラえもん「のび太君は楽しみながら生きるよ」
8:
満面の笑みを浮かべながらドラえもんは続ける…
ドラえもん「のび太君は生き続ける」
ドラえもん「のび太は永遠に生き続けるよ」
のび太「――――――ッ」
ドラえもん「君は…おっと!!」
とどめの決め台詞のひとつや二つ浮かんだのであろうが
ウソ8OO〈エイトオーオー〉の効果でのび太が生き返ってしまっては元も子もない
ニアミスな発言は控えるべく、ドラえもんは衝動を押し殺した
ドラえもん〈これで君は……死んだッ!!!〉
9:
ドラえもん〈ウソ8OO〈エイトオーオー〉を飲んで言った事は必ずウソになる〉
ドラえもん〈この嘘には絶対に逆らう事が出来ない…〉
ドラえもん「……それなのに……君はなんで生きているんだァァーーーッ!!」
動揺するのも無理はない
嘘をついたにも関わらずのび太は平然としていたのだから
のび太「………」
のび太は手帳に何かを書き始める
ドラえもん「答えr……るなッ!!ええい、ややこしいなぁ!!」
ドラえもん「どうやってウソ8OOから逃れたんだッ!?のび太ッ!!!」
11:
のび太「…相当うろたえている様だけど、君が何を言っているのかわからないな。」
のび太はドラえもんの怒鳴りを他所に
持っている缶ジュースの蓋を開けて飲み始めた
ドラえもん〈な…何だのび太のやつ…缶ジュースなんか飲んじゃって…余裕のつもりか…?〉
ドラえもん〈い…いや…ジュースなんていつ買ったんだ?…いつから…缶…?〉
ドラえもん「……缶ジュースだってェェッ!!?」
のび太「2分17秒、気付くまでの時間だ。ドラえもん、『君は実に馬鹿だなぁ』」
12:
ドラえもん「その缶ジュース、『吸音機』だなッ!」
吸音機
周囲の音を全て吸収し、蓄えておくことができる道具である
音が伝わらなければ声を出していないのも同然、ウソのつきようがない
のび太〈君がもし人間なら……『自分の声が聴こえていない』時点である程度の憶測が立てられただろうに……〉
ロボットの場合、自分の声を発する際に内容をプログラムで認識してしまうため
『自分の発した音声を再び拾い処理する』という習慣が疎かになっている……
まして〈自称〉高級ロボット、身体機能の不具合あらば内部で認識できる彼にとって、その習慣ほど不要な物は無い
ドラえもんの盲点を突いたのび太の防衛策であった
ドラえもん〈……驚かされたけど……中身を飲んだ今なら音が伝わるだろう!?甘いねのび太!!〉
ドラえもん「のびた!!生き…」
のび太「『あははははははは』」
ドラえもん「!?」
13:
のび太「『ハイこれ何でしょう』」
ドラえもん「そ…それは!!」
のび太「『それは…ウソ8OO〈エイトオーオー〉』」
ドラえもん「!!?」
のび太の手にはウソ8OO〈エイトオーオー〉
そしてもう一方の手に握られたスペアポケットから『鏡棚』が頭を覗かせていた
14:
ドラえもん「どうしてだ!『フエルミラー』じゃ未来デパートで買った商品は増やせないぞ!?」
のび太「自分の道具をろくに把握できてないくせに、何とかなると思ってるから君は道具の扱いに機転を利かせる事が出来ないんだ」
のび太「これは『フエルミラー』じゃなくて『あべこべ世界ミラー』さ」
※あべこべ世界ミラー
現実と全て反対の『あべこべの世界』へと続く鏡
『あべこべの世界』では現実世界と同じ人間が存在している上に、皆の性格が逆になっている
のび太「さっき君がうろたえている時、『予定メモ帳』にこう書いたのさ」
今日、『あべこべ世界ミラー』の世界から来たドラえもん が
起床前のドラえもん に
押入れ で
『ウソ8OO〈エイトオーオー〉』と『水』をバレないよう交換し、後で鏡越しののび太に渡す
15:
ドラえもん「じゃあさっき僕が飲んだのは…ッ!」
のび太「得意そうにただの水を飲んじゃって。あははははは」
ドラえもんの顔が怒りでみるみる赤くなっていく…!
のび太「書いた予定通りになる『予定メモ帳』、こう使えば不都合無くちょっとした歴史も変えれるのさ。」
のび太「本来ならすぐにでも機能停止させれたんだよ?どんな気分だい?」
16:
生意気な口調で煽り、余裕の表情を見せるのび太だが
内心煮え繰り返っているのは、むしろ彼の方であった
タイムマシンで全て元通りになるとは言え
死ねと言われた挙句、両親と自宅を粉々にされたのだ
ドラえもんのプライドを完膚なきまでにズタズタにしなければ気がすまなかった
のび太「チェックメイトだよドラえもん」
のび太はそう言い終えた後、ウソ8OO〈エイトオーオー〉を飲み干した…
17:
ドラえもん「のび太はshi」
のび太「のび太は死ぬ、アトカラホントは壊れない」
ドラえもん「くっ…」
※アトカラホント
言った事が後で本当になるくちばし
のび太「タンマウォッチは壊れない」
先ほど使ったあべこべ世界ミラーや予定メモ帳をはじめ
地球破壊爆弾、原子核破壊砲、人生やりなおし機、ジャンボガン、ハツメイカーetc…
逆転の手を無くすべく、思いつく限りの危ない道具とその類似品の名前を述べていく
ドラえもんも負けじと『安全ガス』や『相手ストッパー』等を取り出し、反撃の機会を窺ったが
のび太によりあらゆる手段を封じられてしまった
のび太「『のぞみ実現機』も壊れない、ドラえもん、ラストだ」
18:
ドラえもん「ラスト?君、『ラスト』って言ったの?」
ドラえもん「うふ、ウフフフフフフ…くくく…」
ドラえもん「あいかわらず最後に間の抜けたミスをするなぁ」
のび太「……しまったっ!!」
のび太が最期と言ってもそれは最期にならない
ウソ8OO〈エイトオーオー〉の効果が続くかぎり…
ドラえもん〈言った嘘が後で本当になる『ソノウソホント』――――――君はまだこの名を述べてはいないッ!!〉
ソノウソホントを飲み込むドラえもん
19:
のび太「ドラえもんが…!!」
ドラえもん「のび太が…!!」
ドラえもん、のび太「今飲み込んでいない道具の効果は…
ドラえもん、のび太「切れない!!」
お互い道具を封じる為に
全く同じタイミングで言葉が発せられた……!
20:
両者予想外の展開に
精神的な疲労が額に滲み出す……!
のび太〈これで振り出しか……次の手は一体どう出るか……〉
ドラえもん「君がどうあがこうと関係の無い処刑方法を思いついたぞ…!!」
のび太「何ッ!?」
のび太が次の一声を発するより先に
ドラえもんは姿を消した
21:
――7月13日、朝――――――…
ドラえもん「こらっのび太!起きろ!遅刻するぞ!」
のび太「…もーいいじゃん行かなくたってさぁ、あと数日で夏休みなんだから…」
ドラえもん「………そのまま起きずに死ねばいいのに」
のび太「…あ?」
22:
ドラえもん「大体君は中学生になったというのに、無責任というか無神経というか」
のび太「あ?どっちが無神経だよ。居候の分際で死ねとか言っていいと思ってるの?」
ドラえもん「『あ?』て…誰に向かって口聞いてんのさ。せっかく起こしてあげたのに」
のび太「あ?」
ドラえもん「そんな性格で歴史を都合の良いように変えるなら君は粛清されるべきだと思うよ」
23:
のび太「あ?何言ってんのウスラハゲダヌ…うわぁッ!」
のび太が文句を言い終える直前
真上から青い物体が現れ、覆いかぶさって来た
ドラえもん「ぼ…僕がもう一人…!?」
のび太の上にもう一体のドラえもん…
青天の霹靂
状況をいち早く理解したのは現代のドラえもん
ドラえもん「なるほどね。『タイムベルト』を使って僕の手助けをしに来てくれたのか^^」
未来から来たドラえもん「その通りッ!今すぐ殺るんだッ!今なら歴史の修正が出来るッ!」
ドラえもん「のび太君、君は歴史の汚物であり僕の人生の汚点だからただちに殺すね」
24:
のび太「ドラえもん…『タイムベルト』を使って過去に遡るなら…」
未来から来たドラえもん「ウォォォォッ!?」
のび太に覆いかぶさっていた未来のドラえもんが
突如、宙に浮かび上がり消えていく…!
ドラえもん「!?」
のび太「僕の動きを封じてから遡らないと……『現実ビデオ化機』で今日の時間を巻き戻した…ッ!」
のび太「間一髪だ…!過去の自分が殺されちゃったら元も子もない…!」
25:
※現実ビデオ化機
時間をビデオのように早送りしたり巻き戻したり出来る、類似道具多数
この道具の恐ろしい点は、時間を巻き戻しても使用者の記憶はそのままであること…
ドラえもん「のび太…、何回過去を遡った?」
のび太「………」
ドラえもん「『何巡目』かと聞いているんだッ!答えるんだッ!」
ドラえもんが四次元ポケットに手をつっこむと同時に
すかさず押入れにあったスペアポケットに手を伸ばすのび太
のび太〈『過程』は変わった…だけど『結果』は…!?〉
ドラえもん「『熱線銃』だッ!粉々にしてやる!」
26:
直後 部屋が眩く光り、家は一瞬にして炭と化した…
ドラえもん「ウフフフフフフフ……!」ガラガラガラ・・・
のび太「さっきと同じだ…!タケコプターで逃げれるところも…」
ドラえもんとセワシが初めて来たとき言っていた…
のび太がジャイ子と結婚しようが、しずちゃんと結婚しようが
孫の孫であるセワシという存在が生まれてくる『結果』は変わらないのだ
のび太「つまりさっきの時間軸で壊した道具も……故障か何かが原因で壊れるという『結果』は変わらない…」
ドラえもん「ほう、だが少し違うんじゃあないか?君が使うはずの『現実ビデオ化機』も粉々だ」
ドラえもん「この有様じゃあタイムマシンも故障かな、君は時間の逆行が出来ない」
のび太「…!」
ドラえもん「苦しそうだね、余計に悪い『結果』が増えたみたいで良かった」
27:
家が崩れ、眼下の両親が死にきれず悶える様子を見ながら
ドラえもんが不敵に微笑む…
――――――怖い
のび太は先の見えない不安と
今までにないおぞましい表情を見せるドラえもんに恐怖した
圧倒的な天敵が今まさに一つの生命を蹂躙しようとしている…!
非力な動物が本能的に取る行動はひとつしかない
のび太「…うわーん外道ハゲダヌキ〜〜!!」
ドラえもん「親不孝物で臆病者で君はほんとどうしようもない人間のクズだなぁ」
28:
逆転する機会を自身の手で失った事による一時的な戦意喪失と恐慌…
全力で逃げ出すのび太をよそに
ドラえもんは瓦礫に埋もれかけたのび太の両親に銃口を向けた
ドラえもん「Good Night!トーチャン、カーチャン」
ズチュ―――z___ン!
ドラえもん「それにしても実にバカだなぁのび太は。どこでもドアがあればすぐに追いつくことが…」
ドラえもん「…ちっ…ポケットに無い……さては僕が熱線銃を撃ったとき爆風に巻き込ませたな…」
29:
―――裏山―――
のび太「た…たすかった…はやく…ジキルを…」
スペアポケットから『ジキルハイド』を取り出し、それを手のひら一杯に出して飲み干す…
一錠飲めば10分の間、性格が逆になる秘密道具である
のび太が以前飲んだ時は血の気が多い性格になったのだが…
のび太「あそこで逃げたのは臆病ながら良い判断だ…」
のび太「あんなにチャンスがありながら………僕はあまりに未熟だった…」
ドラえもんが日々どれほど不満を募らせていたのか、自分が逃げた後に両親が撃たれたか
今、のび太にとってそんなのはどうでもよかった
これまでにない命の危機に直面し、パニックに陥った今
ジキルハイドは想像以上の効力をもたらし、先刻以上の冷静さと判断力を彼に与えたのだ
30:
のび太「僕がすべきことは…」
のび太「あの暴走したドラえもんを無力化&和解してさっさとこの惨劇を終わらせる事だ…」
のび太「しかし、こんな事になってもタイムパトロール達が未だ出動していない所をみると……」
のび太「このまま何も行動を起こさなければ、都合の良い様に時間を埋め合わされた地獄の日々が待っているのだろう。」
のび太「そんな未来、冗談じゃあない」
のび太「僕は勝つ未来を選ぶ」
31:
のび太はスペアポケットから『とりよせバッグ』を取り出した
のび太「今、一番危険な道具はこの『とりよせバッグ』だ」
のび太「これをとられたら、今この手に持っているスペアポケットや取り出した道具の全てを奪われてしまう…」
のび太「逆に、こいつを先に確保してしまえば…!!」
ゴソゴソ…
のび太「あった…!やったぞ!ドラえもんの四次元ポケットを取り寄せた!」
32:
スペアポケットもドラえもんのポケットも
今やのび太の手の内…
数世紀先から来た未来のロボットと言えど
道具の全てを奪ってしまえば赤子同然である
のび太「とは言え…凶悪な武器が使えなくなるという『結果』は変わらない…」
のび太は試しに四次元ポケットからジャンボガンを取り、引き金を引いたが
カチカチと音を立てるだけであった…
のび太「タイムマシンが壊れたままって事もないだろう、直ったら色々と厄介だ」
33:
タイムマシンが直る前にドラえもんを取り押さえなければならない
例えばドラミが介入し、新たなスペアポケットを補充されると厄介な事になるからだ
そのため、なんとしても道具を四次元ポケットから他の場所へ移さなければならない
34:
『壁紙ハウス』を木に貼り付け
続いて思いつく限りの道具をポケットから次々に取り出していく…
この『壁紙』、中に入ることで絵の中の建物が使えるようになるのだ
のび太「必要な道具はこの『壁紙ハウス』の中に入れておけばバッグでいつでも取り出せる」
のび太「そしてこの道具、故障したとも限らない…これらは今のうちに完全に壊しておこう…」
水圧銃、ショックガン、チッポケット二次元カメラetc…
近いうちに故障する危ない道具とその類似品
そして『四次元ポケットを確保』というベストな結果を歩んだ今、時間を逆行できる道具も必要無いので
一通り取り出して処分していく
のび太「全くあきれるよ。こんなの僕の更生に必要無い道具ばっかりだ。アイツ本当は犯罪者なんじゃないか?」
35:
何時、ドラミの介入があっても対処できる様に
ポケットから必要な道具だけ取り出し『壁紙』に確保しつつ
危険な道具は壊していく
一見順調にいくかと思われたが
妙な違和感と焦りが頬へと駆け巡る…
のび太「おかしいぞ……さっきまで『壁紙ハウス』の中には溢れんばかりの道具が入ってあったのに……」
道具の処分に夢中で気がつかなかったが
壁紙の中に確保してあった道具が明らかに減っていたのだ
36:
考えられる理由…
取り寄せバッグで四次元ポケットを奪う前…
つまり、先ほど自宅から裏山に逃げている間に
ドラえもんもポケットから何か必要な道具を確保していたに違いない
その『何か』
冷静なのび太がまず確保した『とりよせバッグ』と似たような能力の道具……
のび太「『なくし物とりよせ機』だ…あいつ、僕が確保した道具を密かに横取りしているのか!?」
直後、握っていた四次元ポケットが消える…!
のび太の疑念が確信へと変わった…!
37:
のび太「……ドラえもんと話し合って何とか和解したかったけれど……悠長にしている暇は無いようだね……」
のび太「後で修理してやるよ……だからドラえもん!かなり荒っぽいけど……君を『壊す』ッ!!」
のび太はドラえもんの機能を停止させる為
取り寄せバッグの中に手を突っ込んだ!
狙うはもちろん『心臓部分』
ドラえもんの『動力源』である……!
のび太「掴んだぞッ!!ドラえもんの『動力源』ッ!!」
38:
しかし……!
のび太「こ……怖い……!!」
ドラえもんの『動力源』を掴んだにも関わらず
のび太は自分の元へ手繰り寄せる事が出来なかった
のび太「た……ただの恐怖心じゃあ無い…!『他人の内臓』が途轍もなく怖いと感じた………!!」
のび太「ドラえもんの奴……まさか『苦手つくり機』を横取りして僕に動力源を触らせないよう設定したのでは…!?」
※苦手つくり機
一人につき一つ苦手な物をつくる事が出来る
片方のボードに人の名前
もう片方に苦手にさせたい物の名前を書いて機械を作動させると
その人はその物が苦手でたまらなくなる
39:
のび太「な……なら尻尾だ……あいつの尻尾を引っ張れば電源が切れる筈……!」
のび太は再び
取り寄せバッグの中に手を突っ込む……!
のび太「………握れない!『ひらりマント』でも括り付けているのか……!?」
のび太「こ……これじゃあドラえもんを止める事が出来ないじゃないか……!」
のび太「やはり『動力源』を奪うしか………だけど怖いッ!!触りたくもないッ!!」
40:
恐怖心を煽られたのび太だが
先程服用した『ジキルハイド』の効力により、すぐに平常心を取り戻した…!
のび太「……ドラえもんも道具の使い方がなっちゃいないな……!」
のび太「それなら……『苦手つくり機』を奪うまでだ!!」
のび太は恐怖心の元を解く為
今度は『苦手つくり機』を取り寄せようと試みる…
しかし…!
のび太「うおォ!!」
バッグに突っ込んだ手が強力な力に引きずられ
同時に鈍い痛みが襲ってきた!
41:
のび太「こ…これはッ!!マズいぞッ!非常にマズいッ!!」
鈍い痛みが鋭い痛みへと変わる…!
指先の爪が剥がされ、指がねじ折られ、一つ一つの肉が引きちぎられていく!
のび太は勢い良くバッグから腕をひっこぬいた
悲痛な叫び声が裏山に響き渡る…
のび太〈何て事だ…手が引きちぎられてしまったぞ…ドラえもんも自ら確保した道具を守っているーーーッ!!〉
42:
千切られた片手を
『タイムふろしき』で元に戻しながら、のび太は冷静に分析する
『とりよせバッグ』は取り寄せたい物体に対して手一個分まで迫る事が出来る道具
それが瞬時に阻止されたとなると自動操縦〈オートマチック〉型の道具で守られている事になる
のび太〈横取りした道具を含め、ひとつにまとめて置いて『玩具の兵隊』か何かで守っているのか…?〉
※玩具の兵隊
握りこぶし程の小さな兵隊の群れを使用者の命令通りに動かせる道具
43:
機械的な瞬時の感知、手に受けたダメージ…
のび太の仮説はほぼ正解だった
だがそれはもうひとつの不安を意味する
のび太「道具を取り戻そうとしたら体ごと向こうに引きずり込まれてしまうかもしれない…」
のび太「逆にドラえもんはこっちの道具を横取りし放題……立場が逆転した!対処しなければ!」
44:
のび太「道具が奪われても、僕の元に戻ってきてくれれば万事解決だ」
のび太「『あなただけのものガス』を…確保してある道具に吹きかけるッ!」
『あなただけのものガス』のスイッチを捻り、壁紙の中に放り込む事で
『なくし物とりよせ機』による脅威を何とか対処した…
しかし、のび太は焦った…
いくつかの道具をドラえもんに奪われたのは相当の痛手である
恐るべき事態に対処する為、『タイムホールとタイム取り餅』を使い
急いで過去のドラえもんから『なくし物とりよせ機』を奪う必要があった
※タイムホールとタイム取り餅
『タイムホール』で過去の映像を映し出し、さらに映っている物を『タイム取り餅』で奪うことが出来る
※ほぼ同じ効果の類似品として『タイムめがね、タイムてぶくろ』が存在するが
『タイムホール』は場所を指定出来るのに対し、こちらは『タイムめがね』で覗いた物や場所のみ過去を映し出す
45:
ドラえもん「………こんなところにいたのか。一発でビンゴだ!」
のび太「ドラえもん!?どうしてここがわかった!?」
ドラえもん「『玩具の兵隊』で君を引きずり込む事は出来なかったが……付着した土埃から大体の見当はついた……!」
のび太〈遅かった!!先に見つかってしまうとは…!〉
46:
ドラえもん「四手…遅れたようだね。四次元ポケットを奪って慢心するからだよ」
のび太「まさか『なくし物とりよせ機』を密かに確保してるとは思わなかった…」
ドラえもん「だろうね。そこで僕は君の次の手を予想したよ」
ドラえもん「もし君が『タイムホール』を使って、過去の僕から『なくし物とりよせ機』を奪ったら…」
ドラえもん「道具を横取りした過程を全て無かった事に出来るんじゃあないかってね」
47:
――ドラえもんの世界
例えばのび太がテストで悪い点数を取ったので、タイムマシンで過去の自分に答案を渡しに行った場合
答えを渡されたのび太は悪い点を取らなくなるので過去に遡る必要が無くなる。では元ののび太の記憶や存在はどうなるのか?
いくつかの時間旅行を取り扱った作品では、この『パラドックス』を簡潔に説明する為
『過去を干渉されていない世界』と『過去を干渉された世界』に分岐する概念を取り入れているのだが
ドラえもんの世界の場合、パラレルワールドという概念は『もしもボックス』等、並行世界を行き来出来る道具でしか発生しない
タイムマシン等で過去の歴史を変えた場合、『過去を干渉された世界』が基準となり
並行した別世界に分岐するという事が無いのである
そして過去に干渉しても何々が誕生する、発生する等の微妙な『結果』はその限りではないので多少のパラドックスは埋め合わされる事になる
上記の例で言うと、元ののび太の記憶は『テスト前に未来から来た自分に答案を渡されたが
結局、何らかが要因となり過去の自分に答案を渡しに行くはめになった』という新たな記憶に改変される
詳細はタイムマシンを使って過去の自分に干渉してる回とか大魔境とか鉄人兵団とかを参考にね――
ドラえもんは『タイム手袋』を装着し、『タイムめがね』をのび太に向けた
ドラえもん「君は『タイムホール』を使い慣れてない、これなら先に僕が取り出せられる」
のび太は眉ひとつ動かさず、ドラえもんを見据える
ドラえもん「……」
48:
ドラえもんものび太も、お互い微動だにせず睨み合う…
ドラえもんが『タイムめがね』を使って奪うのは間違いなく
のび太が早朝持って行ったスペアポケット
しかし、ドラえもんは結論を出せずにいた
仮にスペアポケットを過去から奪った場合、今朝からの出来事はどうなるのか…
1、自宅で撃った熱戦銃が、のび太を灰にするのか
2、『現実ビデオ化機』で既に何通りか出来事を経験済みであり、何らかの対策で逃げられてしまうのではないか
3、逃げられた場合『なくし物取り寄せ機』に対処したのび太の道具〈あなただけの物ガス〉は『過程』なのか『結果』として扱われるのか
4、埋めようの無い大きなタイムパラドックスが生じる為、タイムパトロールが阻止しに来るのではないか
ドラえもんが優位な事に変わりないが
パラドックスの埋め合わせによっては自滅する恐れがあり、迂闊に行動に移すわけにはいかない……
49:
ドラえもん「どのみち僕が先手を取れるんだ」
先に動いたのはドラえもんの方だった
ドラえもん「一番リスクが少ない手は…これだッ!」
ドラえもんは『タイムめがねとタイム手袋』で先程の のび太から
壁紙ハウスに収納しようとしていた『タイムホールとタイム取り餅』を奪う
そして『タイムホールとタイム取り餅』と自分の持つ『タイムめがねとタイム手袋』をミサイルで破壊した
50:
のび太「タイムパトロールを警戒して消極的になっているね、と言いたいところだけど…」
のび太「その道具を確保していたのか……単純に、無駄なリスクを省いたとも言えるわけだ…」
ドラえもんの使ったミサイル、のび太は見覚えがあった
ドラえもん「そう…この『無敵砲台』さえ確保していれば、どのみち僕に勝てる者はいないからね」
無敵砲台
地球のどこかに砲台を設置しておけば命令ひとつで
二の腕程の小型誘導ミサイルを目の前の敵に撃ち込める
文字通り無敵の道具である
51:
ドラえもん「さぁ!地獄の日々を味あわせてやるッ!!」
ドラえもんの怒声と共に
どこからともなくミサイルが飛来してきた!
のび太「過去を切り取るというのは危険な事だ…」
ドラえもん「!?」
狙いを定めたはずのミサイルがのび太の体をすり抜ける…!
52:
のび太「君は過去の僕から『タイムホールとタイム取り餅』を奪った…」
のび太「おかげでここに至るまで少し違う『過程』を歩んだんだ……」
のび太「草むらに隠しておいた『タイムテレビ』に、僕の立体映像〈ホログラム〉を作らせるよう設定しておいた…!」
ドラえもん「えっ!?」
のび太「つまりここにいる僕は設定しておいた立体映像ってわけさ……本物の僕は既に裏山から逃げたよ!」
ドラえもん「のび太ァ!!」
半狂乱のまま無敵砲台を乱射するドラえもん
山肌は跡形も無く吹き飛んだ…
53:
ジキルハイドを服用した事で冴えていたのび太は
ポケットの道具を壁紙に移す最中、取り出した『タイムホール』が奪われたのを不思議に思い
裏山でこれから起きる出来事をタイムテレビの倍で確認
逃げる準備をしていたのである
目の前でのび太を絶望の淵に堕とす
残酷な手段を用いようとしてドラえもんは愚かにも判断を誤ったのだ
のび太「自分の道具をろくに把握できてないくせに、何とか思ってるから応用力が身につかないんだよ」
ドラえもんに向けておしりを叩きながら立体映像〈ホログラム〉は消えた
ドラえもん「ウワァァァァ!!」
この挑発、タイムテレビを再利用させずに壊してもらう為でもある
ドラえもんは見事、術中にはまってしまった
54:
ドラえもん「くそぉ〜のび太を見失ったッ!!」
ドラえもん「道具の使い方だけ妙に知恵が働くんだアイツはッ!!」
ドラえもんはカンカンに怒っていた
ドラえもん「…今はとりあえずこの半壊した裏山と警察騒ぎをどうにか鎮めなきゃ…」
ドラえもん「現状を覆すにはタイムマシンが一日も早く治ってくれないと…だがのび太もこれを狙っている」
ドラえもん「のび太を消し炭にするには統率された武力!そして道具!……」
55:
ドラえもんは一抹の不安を抱えていた…
現実ビデオ化機など処分された道具を除いても
ウソ8OOを遥かに凌ぐ「起死回生の秘密道具」がポケットにはいくつか存在していた
しかし、ポケットにはその道具が既に無かったのだ
取り寄せバッグをすぐさま回収したのび太の判断力からしてまず見落とすはずがない
この道具の不安要素、そしてたった今見せ付けられたのび太の判断力
ドラえもんも理解していただけに
のび太に対し、安易に近づくわけにもいかなかった
――――大丈夫、捨て駒ならこの町に星の数ほどいる…
おぞましい笑い声が町に響き渡るのを合図に
ドラえもんの追撃が始まった…!
56:
ー中学校、教室ー
キーンコーンカーンコーン・・・
先生「えー…7月13日、出席をとるぞーー」
のび太〈次の一手、ドラえもんにとっても僕にとっても一番やっかいなのは誰かと『協力』することだろう…〉
のび太が次に危惧しているのは『仲間との協力』
お互い相見え、実力が拮抗していると分かった今
五分の状況をひっくり返すには第三者の協力が不可欠である
57:
そして、協力者を得た状況下で最も恐ろしいのは
身内による『裏切り』……
ドラえもんが学校のみんなも視野に入れて狙ってくるのは必至であり
敵の傘下に入った者を引き込むわけにはいかない
先にみんなの理解を得て協力して貰わなければならなかった
のび太「出席なんて待っちゃいられないよ、先生!トイレ行ってもよろしいでしょうか!」
先生「早くしてきなさい」
教室から笑い声とざわめきが起こる
生死をかけている状況の中、彼の耳に嘲笑が入り込む余地はなかった
58:
のび太は焦りと不安で息が弾む…!
教室を出て右の階段を上がれば、源静香のいる教室に続く廊下へと出る筈だった
しかし…
のび太「階段が…無いッ!!?」
寝ぼけているわけではない
朝にあれだけの事が起きたのだから
のび太はドラえもんの攻撃であると即座に理解した
59:
のび太「先手を取られてしまったのか!?くそう……!」
振り返ると今出てきた教室の扉までもが無くなっている
それどころか…
のび太「この学校…生きているのか?廊下が、部屋がッ!!」
見ている先…
さっきまでの面影は既に無く
それどころかみるみると廊下の構造や柱の配置が変わっていくのだ
異質な空間の中、のび太はもう一つの違和感を覚える…
のび太「ぼ…僕自身もグルグルと回っているのか…?い、いや、窓の外の景色が回っている?」
60:
のび太「危険だ、とにかく危険だ!ど…どこでも良い…教室に…部屋に、逃げなければ…ッ!」
のび太「『稲妻ソックス』…!これを履いた足ならすぐ現れては消える扉にも入れるはずだ!」
のび太「いくぞぉぉ!」
めまぐるしく変わる景色によろめきながらも
のび太は目の前に現れた扉に飛び込んだ
61:
ドガァン!―――――…
しずか「…のび太さん!?」
のび太「しずちゃん!?」
とびこんだ部屋は源静香のクラス
幸いにも目的地であった
のび太「……みんな何をしているんだ?窓の外なんか見ちゃってさ」
別のクラスメイトが大きな音をたててなだれ込んだというのに
生徒達は何やら別の事でどよめいている様子である
62:
しずか「それが…外の様子がおかしいのよ」
のび太「外?ああ、ぐるぐる回っているね…」
ドラえもんの道具による攻撃
恐らく、廊下がうごめいている影響だろう…
しずか「回っている?そろどころじゃないわ。下の建物が…」
のび太「下の建物?」
のび太は身を乗り出し
窓の外を覗き込んだ…――――――
63:
のび太「――――――…」
しずか「のび太さん、大丈夫?」
のび太は絶句し、みるみるうちに青ざめていった…
教室は既に
高層ビルの屋上が見えなくなるほどの高度に達していたのだ
のび太「し、下の建物だって…?冗談じゃあない…雲しか見えないじゃないか…!」
64:
のび太〈…いや…これは秘密道具の攻撃なんだ…考えるんだ…〉
しずか「のび太さん…?」
この状況…
学校がロケットのように打ち上げられたのかと思ったがそうではない
窓の外は雲一色でわかりにくいが
下を覗いて見ると校舎の壁が地上まで続いている様子である
教室の高度、廊下の異常な変化…
のび太「まだ直接攻撃されたわけじゃあない…これは僕を閉じ込めておく道具…」
今度こそ、逃がさない為の作戦であろう
ドラえもんの道具には建物の構造を変えてしまうものがいくつかある
65:
のび太「建物の位置がそのままなら…使っている道具は三つ…」
1、建物が回転する道具
2、建物の高度を自由に変化させる道具
3、建物の内部を複雑に変えてしまう道具
のび太「不意打ちで戸惑ったけど…大した道具じゃあない、タネがわかればいくらでも対処できる」
のび太〈かと言って取り寄せバッグで相手の道具を奪うのは危険だ……体ごと向こうに引きずり込むのが狙いかもしれない…〉
のび太「ここはまず、みんなの避難路を確保しよう!」
無生物催眠メガホン
これを向けて命令するとあらゆる無生物に催眠をかける事が出来る
のび太は教室の窓にメガホンを向けた
66:
のび太「『ここは校舎一階の窓だ!』」
のび太「窓に催眠をかけたよ!これでこの窓を飛び出せば一階の外に出る!急ごう!」
クラスメイトにそう呼びかけ、のび太は窓を開けた
――――――ズドドドドドドドォ!!
生徒達「うわあああああああああああああああああ」
窓の外から猛烈な勢いで水が押し寄せる!
のび太「ブフォ!?何だこれ!濁ってるぞ!?」
しずか「のび太さん!!はやく閉めて!このままだと教室が!」
67:
のび太「いや!駄目だ閉まらない!水圧で窓ガラスがッ!!」
他の窓ガラスをも突き破り
教室が一気に浸水していく…!
のび太「『ここは校舎10階の窓ッ!!』」
メガホンにむかって必死に叫ぶのび太
――――――……
のび太「ハァー…ハァー…」
のび太「止まった……」
68:
教室は無残なものだった
流れてきた水のかさは腰のあたりまで達しており
生徒の中にはガラス片に突き刺さり、重傷の者までいた
のび太「み…みんな…」
「オイてめぇ!どういうつもりだ!!」
生徒の一人がのび太の胸倉を掴む
生徒A「普通に廊下に出て逃げりゃあ良かったんじゃあねぇのか!!」
生徒B「そうだそうだ!余計な事してるんじゃねぇ!」
しずか「みんな違うわ!のび太さんは…!」
生徒に続き、次々とのび太に対する野次が飛び交う
69:
のび太〈こ…このわからずや共…僕はその廊下から来たというのに…!〉
廊下は恐らく来た時よりも複雑になっているに違いない…
クラス全員無事に逃げられる保障はゼロと言ってもいいくらいだ
薄情な生徒の野次に対し
のび太はあくまで平常心を保った
そう、これも敵の作戦の内だ
自分に対しての信用を無くす間接的な攻撃なのだ
そう自身に言い聞かせる事によってなんとか怒りを静めた
のび太〈それにしても…一階は浸水しているのか?町はどうなっているんだ?〉
70:
自身の道具に過信していると足元をすくわれる可能性がある
持っている道具を看破されるだけであっという間に逆転されてしまう可能性が出来る
先刻、ドラえもんがそうだったように…
だがのび太は戦慄した
裏山の出来事からわずかに時を刻んだだけである
のび太「たったあれだけのドジから学んだのか…!?……これが『ドラえもん』……!」
ウソ8OOのような無敵には程遠い地味な道具だが
選択肢をひとつずつ確実に減らし、ジワジワと追い詰めてくる
一回凌いだところで、それが決定打にはならない
のび太〈『仲間』?『裏切り』?それ以前の問題じゃあないか…!〉
――――――――――――『現実』
想像よりも、大きな壁が眼前を憚っていた
71:
生徒C「じょーだんじゃねぇぜ!今日の学校はおかしい!みんな帰ろうぜ!」
生徒D「センコーも来ねぇしな!」
生徒達「そうしようぜ!」
のび太「だ…だめだ…廊下に出ちゃあ…」
生徒A「あ?おめぇさっき何したよ?俺達逃げられたかよ?解決できてねーじゃねーか!」
生徒B「おいそんな奴ほっといて行こうぜ!」
生徒達はのび太の静止を振り切り、教室のドアに手をかける…
「――――――ウワアアアアア!!」
72:
他の生徒「!?」
教室のドアに手をかけた生徒達がその場に崩れおちる
クラスメイトの一人が恐る恐る倒れた生徒に駆け寄った…
生徒「し…心臓が…止まってるや…はは……」
「いやああああああああああああああああああああああ!!」
――――――次の瞬間、教室が悲鳴と怒号に包まれた
今、その時まで威勢よく逃げようとしていた生徒が死んだのだ
逃げられない…
焼け焦げた死臭が部屋中に漂いはじめると同時に
絶望と狂気が次第に大きく渦を巻き始めた…
73:
ドラえもんの攻撃はこれまでとは明らかに『異質』なものであった
それはタイムパトロールの介入を怖れず、無関係の人々にまで危害を加えたという点である
のび太〈この攻撃には、明確な『殺意』がある…〉
のび太を殺す為なら誰が巻き込まれてもかまわないという『殺意』……
ドラえもんは無差別テロを起こすつもりで攻撃してきたのだ
のび太〈…思えば、何人殺そうが『タイムマシン』さえ修理すれば後で不都合な歴史を修正出来るし、過去のドラえもん自身と協力して僕を『生け捕り』にする事だって出来る……!!〉
のび太〈不都合な歴史を修正する意志が伴っていれば……これらの出来事は全て改変可能の『過程』として扱われタイムパトロールが介入する理由も無くなる、という事か………〉
のび太〈ドラえもんめ……裏山の失敗から色々悟った様だな……やはり戦いは避けられない…………〉
74:
のび太〈ふぅ……〉
のび太は鬱憤を晴らすように
教室の床を思い切り殴った
バゴォン!!
大きな物音に驚いたのか
静まり返り困惑を見せる生徒達…
のび太〈脱出用の穴を空けたんだけど……やりすぎちゃったか……〉
『スーパー手袋』着用済みである
床に大きな穴が開いてしまった
期待と偏見がはらんだ生徒達の異様な視線がのび太に集まる…
のび太「何だい何だいその腫れ物を触るような感じは!身勝手な奴らだね全く!」
75:
――――ピンポンパンポーン…
気まずい沈黙
堰を切ったのは校内放送である
校内放送「諸君、楽しんでいただけているかな?」
ドラえもんでは無く、男の声であった
校内放送「87名」
のび太「…?」
校内放送「教室から脱出を試みた不届き者だ。全く…ここの教育の程度が伺えるな」
76:
校内放送「『ルームガードセット』と言ってね。私はこの学校を掌握している」
ルームガードセット
建物に設置すればドアロックや監視カメラを好きなように配置できる
先程ドアを開けようとした生徒を襲った電撃もそれである
のび太〈ドラえもんの奴、もう町の誰かを仲間に引き込んだのか?〉
校内放送「今日からこの学校は私の居城とする。あなたがたには即刻退去願いたいのだが…」
校内放送「しかし、出入り口付近は浸水させてあるので外へ出るのは不可能だ」
校内放送「この摩訶不思議な状況を門外に触れ込まれてみろ、軍隊を呼ばれかねないからな」
退去願いたいのに学校から出るな
この矛盾した意見が示す相手の主張はつまり…
77:
校内放送「余興がてら…皆で殺し合いをしてもらおうか」
生徒達「!?」
校内放送「どの道、教室から出ることは出来ないのだ。今、この間にも校舎は高度を上げている」
校内放送「タイムリミットは、そうだな…各々方の教室で天体観測が出来るようになるまで、というのはどうかね」
校内放送「最後の一名に残ることが出来たら出してやらんでもないぞ、ふはははは…」
校内放送「どのみち人は死ぬんだ。存分に楽しみたまえよ!」
―――ぷつん
78:
放送が終わると同時に
のび太は静香の手を掴むと、先程空けた床の穴に飛び込んだ―――
のび太「冗談じゃあないよ…暴動に巻き込まれるのはごめんだ!」
しずか「でも…みんなが…」
のび太「さっきの身勝手な奴らを見ただろう!?何とかなると思う!?」
パチン!
静香はのび太の頬を思いっきりひっぱたいた
のび太「………」
79:
しずか「酷いわよ…自分の命が大切なのはわかるわ…」
しずか「だけどあなたにはみんなを助けられる知り合いがいるじゃない…!」
のび太「……優しいんだね君は…」
のび太は取り寄せバッグからバリヤーポイントとまもり紙を取り出した
のび太「この『バリヤーポイント』は君をあらゆる脅威から完全に守ってくれる道具だ。両親の事が心配なら『守り紙』で守ってあげるといい……」
※バリヤーポイント
半径2メートルのバリアを張り、『あ』のつくもの等、使用者が指定した頭文字と一致するもの以外
全てを遮断する
しずか「のび太さん…?」
のび太「これは…ドラえもんの仕業なんだ…」
80:
しずか「そんな…うそよ…」
のび太「嘘じゃない……だから確かめなきゃいけない…」
しずか「ドラちゃんなわけないじゃない!」
のび太「回路が壊れているなら直してあげたい!」
しずか「!」
のび太「ネジが緩んでいるなら…閉めなくちゃならない」
のび太はかすむ視界をぬぐいながら、何とか声を絞り出した
のび太「じゃあ、行ってくるよ…!」
81:
ー廊下ー
のび太「校内放送ではああ言ってたけど…」
のび太「自分のいる部屋まで宇宙に突っ込ませるなんて間の抜けた敵じゃあないだろう」
のび太「とすれば、かなり低い位置に陣取っている事になるのか…?」
のび太は『迷路探査ボール』を転がした
のび太「どんな迷宮だろうが…このボールの煙は建物を全て把握する…!」
『迷路探査ボール』が作った地図を覗くのび太
遥か下層、4階部分に人間の反応がある不自然な部屋を見つける
のび太「無生物催眠メガホンッ!『ここは四階の放送室!』」
82:
ー放送室ー
のび太「さぁ着いたぞ…!」
少年「コイツ!?予定よりもずっと早いじゃん!?」
のび太「!」
放送室には男…というより小学生がいた
のび太「さっきの放送と声が違うみたいだけど…!」
少年「そりゃあそうさ!」
少年は自慢気に首筋に貼ってあるシールを見せ付ける…
のび太「それは…『階級ワッペン』!」
少年「よく知ってるね!僕は『兵長』の階級を与えられたのさ!」
83:
のび太〈なるほどドラえもんの奴、ワッペンで手下を増やしたのか〉
のび太「さっきの男はどうした?」
少年「さっきの?」
のび太「校内放送してた男だよ」
少年「ああ、『大佐』の事だね」
少年「さあどこいったかなァ〜、もう逃げちゃったかもしれない」
のび太「あまり乱暴な事はしたくないんだけど…!」
84:
少年「おっと!あぶない!」
のび太「!?」
のび太が少年に飛び掛ろうとするも
急にバランスを崩してしまう…!
のび太「な…何だ?足が……変な形に…!」
少年「へっへっへ……!!」ジャ――z___ン!
少年は持っていたスケッチブックをのび太に見せる
中にはのび太の変化した足そっくりの形が描かれていた
85:
少年「描いた絵の通りになる『そっくりクレヨン』ってね」
のび太〈この道具…!スネ夫に使った事あるぞ…!またやっかいな物を…!〉
少年「でもずるいよな、『大佐』なんてこの建物を変えちゃう道具全部貰ってるんだもの」
少年の指差す先
建物を迷宮にする『ホームメイロ』
建物を回転させる『メリーゴーラウンドゴマ』
建物の高度を自由に変える『四次元たてましブロック』
生徒を電撃で襲った『ルームガードセット』、そして…
のび太〈『集中気候装置』!あれで学校の最下層だけ雨で浸水させたのか…!〉
86:
のび太〈そしてなるほど…ワッペンの階級が高いほど持っている道具が優遇されているって訳か…〉
少年「え!?え!?足が治ってる!?なんで!?」
のび太「僕はね、君達より前に君のボスの道具を使い慣らしてきたんだよ?」
のび太「負けるわけないじゃないか…!」
少年「待てーーーッ!うごくんじゃねーーーッ!」
のび太「…!」
少年「右腕を消したッ!次一歩でも近づいたらもう片方の腕も消すッ!」
87:
のび太「僕は…ここの学校の『生徒全員』が助かる方法を考えていたんだ」
少年「…?」
のび太「初めてみんなの為にどうやって道具を使うか考えていたんだ…!」
のび太「だけど君達は…その選択肢を奪ってしまった…!」
のび太「許さないぞ…絶対に許さないぞ…!」
のび太「道具を自分の為だけに道具を使ったら…!」
のび太「どれだけ恐ろしい事になるか教えてやる…!」
少年「今動いたなッ!オメーの左腕を消したッ!僕もうしらねーッ!」
88:
少年「…あれ?」
少年は何度もスケッチブックを覗き込む
確かに『そっくりクレヨン』で腕を無くした胴体を描いたはずである
少年「なのになんでオメーの左腕は消えてねーんだよぉぉぉ!!」
のび太「よそ見してていいのかい?」
少年「ゲェェ!右腕も何ともねぇーーーッ!」
のび太「………」
少年「…待てよ…?そうか!道具だな!?何か『元に戻す』道具!」
89:
のび太「うっ…!」
のび太の胸にバックリと大きな切り傷が開く
少年「僕は『芸術家』になりたいんだッ!今のあんたの傷みたいに永遠に刻まれるようなッ!」
少年「さぁーその傷を治してみろよッ!そんなこと出来たら奇跡ッ!芸術的瞬間だッ!」
のび太は手に持ってあった棒を胸に当てる…
少年「おおお…!」
棒を胸から足、足から地面、地面から少年へとずらして行く
少年「…へ?」
90:
少年「ゴガァッ!?」
少年は驚きのあまり後ろに倒れるも起き上がる事が出来ない
それもそのはず…
腕も、足も、そして胸の傷も
全て自分の描いた絵の通りになってしまったのだ
少年「僕のッ!?僕の体が絵の形にッ!?」
のび太「これは『ずらしんぼ』って言ってね、道具の効果だろうと何でもずらしてしまうのさ。」
少年「痛ぇッ!痛ぇよぉぉぉぉッ!!!傷はあるのに血が出ないッ!!」
のび太「87人も犠牲者が出たんだ!当然の報いだろう!」
91:
のび太は少年から奪ったそっくりクレヨンを圧し折り
『大佐』の5つの道具を破壊した
少年「今『ベキッ』って!まさかクレヨンも壊したの!?元に戻れないじゃん!」
のび太「良かったじゃない…!君自身が『芸術作品』になれたんだ…!」
少年「そんなぁ〜!大佐ーーー!隠れてないで助けて下さいよーーーッ!」
のび太「大佐はもうここにはいないよ。君を当て馬に…」
当て馬にして逃げる…
戦闘結果も確かめずに…?
そもそもどうやってこの迷宮と化した学校から…?
再び身構えるのび太…『大佐』は近くに潜んでいる…!
92:
『ハッハッハッハッハ…ボスからは情けない男と聞いていたんだがね』
『全く大した激情家じゃあないか、せっかくの『尻尾』が台無しになりそうだ』
のび太〈この部屋の中にいたのか!?〉
のび太「そこだッ!!」
スーパー手袋装着済の拳でロッカーを勢いよく殴りつける
中にいようが、常人なら即死級の威力である
しかし…!
のび太「か…硬い!!こいつ…!何か道具を…!」
男「まさかロッカーを殴り飛ばすとは…恐ろしい威力だ…」
へし折れたロッカーの裂け目を破り、大佐が姿を現した…!
93:
のび太「ぐ…拳が…木もひっこ抜くほどの怪力を得る手袋なのに…!」
大佐「無駄な事だ、今の君じゃあ決して私を傷つける事は出来ない」
のび太「ぬかせ!」
大佐「例えば、私がこうやって姿を暗ませると…!」
のび太「!?」
目の前にいた大佐が急に姿を消した
のび太〈透明マント…?いや、裏山の時点で処分した筈だ!これは別の道具!〉
のび太は『警察犬つけ鼻』を付けて大佐のにおいを探った…
94:
のび太「……逃がさないッ!」
背後のドアの方向を勢いよく殴りつけるのび太
拳はドアごと透明になった大佐を廊下に吹っ飛ばした
大佐「ぐっ…!その道具、においを追跡するのか!」
大佐「『甲羅』の効果が切れていれば殺られていた……君は、恐ろしい奴だ…!」
のび太「『甲羅』の効果が切れる?」
――――さっきは『尻尾』がどうとか言っていた…
――――『尻尾』、『甲羅』、そして『透明』の能力…
のび太「そ、その道具はッ!!」
大佐「また会おう!!」
95:
のび太「逃げられた…!こ、この能力…!」
のび太「オ、オエ〜〜ッ!!」
部屋は強烈な悪臭に満たされた……
急いで窓を開けるも『警察犬つけ鼻』をつけている分
臭いは早々離れるものでは無かった
のび太「く…くっそ〜よりによって『屁』をかまされるなんてッ!」
のび太〈完全に仕留め損ねた……恐ろしい敵だ!〉
のび太「オ、オエ〜〜ッ!!」
※動物型逃げ出し錠
それぞれの錠剤でトカゲの尻尾きり、亀の甲羅篭り、カメレオンのステルス
スカンクのガスが使えるようになる
96:
――――あまりに異質な事件
警察はおろか地元のマスコミまで駆けつけ
学校は慌しさを増し、収集がつかない事態へと陥った
その後、体育館にて緊急集会が開かれ
生徒の安全を考えた結果、一時間授業で切り上げ
学校は一足早く夏休みに突入することになった
モブ男「酷い目にあったよ…今も意識が戻らない子もいるみたいだよ」
出木杉「メディアも黙ってはいないだろうね…前代未聞だよ、テロといってもいい」
スネ夫「しずちゃんどうしたの?元気ないね」
しずか「え、ええ……〈のび太さん…どこ行ったのかしら〉」
98:
のび太「体に染み付いたヘンな臭いが消えない……」
のび太「クラスメイトには勝手に重要参考人だと決め付けられ警察に追っかけられるし…」
のび太「今日は人生最悪だよもう!」
のび太「考えたら帰る家も無いじゃあないか!」
のび太「どこか人気の無い場所を探さなきゃいけない!」
のび太「ウワァめんどくさい!昼寝したいよーーー!」
ジャイアン「よう!のび太じゃねえか!無事だったか!」
ジキルハイドの効力も切れ、疲労もピークに達してる中
よりによって今、一番会いたくない男に声をかけられてしまった
99:
のび太「や、やぁジャイアン……」
ジャイアン「む!なんだその嫌そうな顔は」
のび太「べ、別に嫌じゃあないよ!〈道具はあるけど苦手だなぁジャイアンは…〉」
ジャイアン「そうか、それならいいんだが」
ジャイアン「今朝のあの出来事、ドラえもんだろう?」
のび太「え?」
のび太にとって意外なことであった
しずちゃんでも疑うことのなかったのに
あの『暴』若無人のジャイアンが一発でドラえもんの仕業だと見抜いたのだ
100:
ジャイアン「俺は全てお見通しだぞのび太」
ジャイアン「お前らは俺に道具で報復することはあっても死人までは出さなかった」
ジャイアン「おおかた、ドラえもんのやつがおかしくなったんだろ?」
のび太「ジャイアン……」
ジャイアン「悩んでるなら俺たちにも話せよ!水くせぇじゃねぇか!」
ジャイアン「何も言ってないけどよ……スネ夫だってほんとはわかってるんだ!だけど、疑いたくねぇし、知りてぇんだよ!」
ジャイアン「お前が一人抱え込んでちゃ何もわからねえだろうが!」
101:
のび太はジャイアンに全て話した
今朝の日常離れした出来事…
ジャイアンは一言一句頷いて真剣に話を聞いていた
ジャイアン「そんな事があったのか…」
ジャイアン「尚更みんなに知らせて対策を練るべきだぞ!相手はあのドラえもんなんだ!」
のび太「ジャイアン…!」
ジャイアン「そうと決まれば行くぜのび太!スネ夫ん家にみんな集めっぞ!」
のび太「君という奴は……なんでこんな時には頼もしい奴なんだ…!」
102:
ジャイアン「急ぐぞ!」
ガンっ!
のび太が背を向けた瞬間である
鈍い音が響き渡ると共に後頭部に激痛が走った
のび太「――――――っ!」
ジャイアン「…悪いなのび太」
よろめきながらも後ろに振り返るのび太
ジャイアンの右手には『黄金バット』が握られていた
ジャイアン「長い付き合いだ。こんな時、俺が何て言うかわかるだろ?」
103:
のび太〈た…立てない……酷い眩暈だ…体が思うように動…か……〉
ジャイアン「こいつは振りさえすれば周りのもの何でも打っちまうバットさ」
ジャイアンが『黄金バット』を思い切り振り上げる
ジャイアン「安心しろ、お前の背番号は永久欠番にとっておいてやる」
のび太〈ほ……本気だ…振り下ろすつもりだ……!避けられない…!〉
ジャイアン「あばよのび太!!」
104:
のび太「っ………?」
のび太が恐る恐る見上げると
ジャイアンが片手を振り上げたまま必死にもがいていた
ジャイアン「さ…さっきの奴が…!俺にこんなもんを貼り付けて命令しやがった…」
のび太〈それは…『伍長』の階級ワッペン…!〉
ジャイアン「このバットでのび太を始末しろって言われてよ…!」
ジャイアン「いいか…!最初言ったのは…本心だからな……!」
ジャイアン「それが急にドス黒い命令が頭の中で膨れ上がって……!」
106:
ジャイアン「…のび太…もう俺の意識は……何とか…してくれ…」
再び血走った眼に戻るジャイアン
のび太「こ…今度こそ殺されるかと思ったけど…ジャイアン…この時間は無駄にはしないよ…!」
のび太はバッグからチューブを取り出し
中の液体を手に垂らしていく…
のび太「…いくら野球が上手くたって…『黄金バット』でもこいつは打ちようがないぞ…!」
※空気ピストルのもと
この液体を指に垂らせば指一本につき一発だけ空気の弾を放てるようになる
のび太「両手に塗った…!計10発だ!くらえ!」
107:
――――のび太の射撃の腕は本物である
かつて空気ピストルで射撃大会を開いた時も一人勝ち残った程だ
生まれる時代が違えば間違いなく名手として
遠い異国の地で名を刻んでいたであろう――――
スパァァン!!!
破裂音とともに衝撃波が大気を震わせた
108:
のび太「―――……バカな…!全部…全部打ったのか!?」
のび太が撃つ寸前
ジャイアンは後ろに距離をとり
空気ピストルの弾を単発ずつ正確に往なしてみせた
のび太「野球が上手いとかってレベルじゃない…!」
のび太「今のは…何時どの指から発射されるか分かってないと絶対に出来ないぞ…!」
109:
のび太「だ…駄目だ…次に詰め寄られたら……!」
ジャイアンから距離を取る為
のび太はタケコプターを取り出しスイッチを押した
ジャイアン「うははは!道具に引きずられてやがんの!逃がすかよ!」
のび太「この眩暈と…感覚が戻らない事にはどうしようもない……!」
――――――…
110:
片手に掴んだタケコプターの勢いだけでひたすら逃げ続けるも
とうとう住宅街の行き止まりに追い詰められてしまった…
ジャイアン「一々手こずらせやがって…だけどもう終わりだ…」
のび太「これだ…今朝の…この感じ……!」
のび太「この追い詰められた状態を待ってたんだ…!」
111:
のび太はジキルハイドを一錠飲みこんだ
のび太「よくよく考えてみれば逆転できる好機はいくらでもあるじゃない…!」
ジャイアン「血迷ったかのび太!ギッタギタにしてやる!」
のび太「『コエカタマリン』…この液体を飲めば発した声が固体で出てくる…」
のび太「振れば必ず当たる黄金バットでも…『音』に反応できるかい…?」
ジャイアン「俺様に打てない打球は無い!」
のび太「そうかい…!!」ゴク…!
コエカタマリンを飲み干すのび太……
のび太「………『ヨ』!!」
112:
ジャイアン「!?」
のび太は背後の壁に向かって声を発し
跳ね返って来た個体の『ヨ』にしがみついた
ジャイアン「何かと思えば所詮のび太!逃げるだけかよ!」
ジャイアンものび太と同じく『ヨ』の文字にしがみついた
ジャイアン「へへへへ…この字が地に降りた瞬間がのび太の最後だ…!」
のび太「そうそう…君にもこの字にしがみ付いて貰わなきゃ困る」
ジャイアン「何だと!?」
のび太「わざわざ掴みやすい文字にしたんだからね」
113:
のび太「そしてこれでハッキリした事がある、今の君の反応度は『異常』だ」
ジャイアン「…!」
のび太「自分のタイミングで発した文字、僕は稲妻ソックスの足で飛び込んでギリギリだった…」
のび太「それなのに君は跳ね返って来た文字を難なく掴んだ…」
ジャイアン「…お、俺にとっちゃ朝飯前よ」
のび太「さっきもおかしいと思ったよ…空気ピストルを撃つ寸前、君は僕から距離を置いた」
のび太「距離をとるという事は『反射』ではなく僕に『反応』して打っている事になる」
ジャイアン「………」
のび太「その『眼』……何秒先が見えているんだい?」
114:
ジャイアン「な、何のことだか…」
ジャイアンは明らかに焦りを見せていた
のび太「とぼけるんじゃあない。ドラえもんの道具にはそういうのがあるんだ」
のび太「『イマニ目玉』だったっけな。ダイヤルを合わせた分だけ未来が見える」
ジャイアン「のび太の癖に生意気だぞ!ここで叩き落してやろうか!」
ジャイアンはバットを振り上げて脅すも、のび太は微動だにしない
ジャイアン〈こ…こいつ…!ちっとも怯えてねぇ…!〉
のび太「僕が怖いのはジャイアンだ。ワッペンで操られた君じゃあない」
115:
ジャイアン「のび太ァ!!」
のび太「どうやらあまり先の未来をみていないようだね」
ジャイアン「あ!?こんにゃろ!下に飛び降りる気だな!?」
のび太が飛び降りると同時にジャイアンも下に飛び降りた
ジャイアン「海!?」
ザパァアァァン!!
ジャイアン〈あ…あぶねぇ…息継ぎ間に合ったぜ…!〉
116:
ジャイアン「もが……ゴバァ!?」
のび太〈今更気づいても手遅れだよ!〉
のび太「『ア』!!」
のび太の発した声の塊は
ジャイアンを陸地へと叩きつけた
ジャイアン「」ピクピク
のび太〈……いくら予知が出来てもここは海…水の中じゃあ素振りもままならない〉
のび太〈それに水中では地上より数倍早く音が伝わるんだ、今の君じゃ予知出来ても絶対に打てない訳さ…〉
117:
ジャイアン「うう…ここは…」
のび太「ジャイアン!気がついたかい!?」
ジャイアン「ああ…終わったんだな…」
のび太「ワッペンが上着に付いてたおかげで助かったよ。これを脱いでおけばもう大丈夫」
ジャイアン「…面目ねぇ…」
のび太「気にしないでよ。『イマニ目玉』は壊れてたけど『黄金バット』は…回収できた……」
ジャイアン「いいや!俺の気がおさまらねぇ!お前の気がすむまで俺を殴……のび太?」
ジャイアン「寝てやがる……」
ジャイアン「……タケコプター、使わせてもらうぜ」
118:
ピンポーン
スネ夫「はいはい今出ます〈予約した例のゲームが届いたのかな…〉」ガチャ
ジャイアン「よぉスネ夫」
スネ夫「ジャイアン!?それに…のび太なんか担いでどうしたんだい?」
ジャイアン「わけは後で話す、ちょっと上がらせてもらうぜ」
スネ夫「え…ええどうぞどうぞ〈最新ゲームが取られちゃう…〉」
ジャイアン「……今日は何もとらねぇから安心しろ」
スネ夫「…嘘だ!絶対いつもみたいにとる!」
119:
ジャイアン「!おい怪我人を介抱するだけだって…」
スネ夫「許さないぞ!いつもいつも!ジャイアンが悪いんだ!」
ジャイアン「うぉぉ!!」
のび太を背負った無防備のジャイアンに
スネ夫が殴りかかる
スネ夫「『チャンピオングローブ』!!これを付ければどんな相手にも負けない!!」
ジャイアン「や…やろう…!既にワッペンを貼られてたか…!」
スネ夫「ジャイアンは剥がしたのかい?『軍曹』の僕が命令してやろうと思ってたのに」
120:
のび太「うっ…今の衝撃は…」
ジャイアン「のび太、起きたか…どうやらスネ夫も手遅れらしいぜ…!」
のび太「それよりジャイアン……脇腹を…殴られたのかい…?」
ジャイアン「こんなのどうってことないぜ…うぷっ!?」
強がるジャイアンだったが
不意打ちのダメージは相当なものだった
のび太「くそう…僕は…立ち上がる余力も…ない…」
ジャイアン「俺のツケを払う時が来たんだ…!のび太はそこで寝てな」
のび太「む…無茶だ……チャンピオングローブ相手に…」
121:
のび太「せめてこれを…あのグローブと互角に戦える道具……」
のび太は『あいこグローブ』をジャイアンに差し出した
ジャイアン「道具で勝つってのは気にいらないが…相手が使っているんじゃしかたねぇ!」
スネ夫「ジャイアン!プライドを捨てるのかい!?君ほどの男が!」
ジャイアン「見損なってくれるなよ…!全部……お前等の為だぜ!」
咆哮とともに繰り出したジャイアンの拳は
チャンピオングローブのガードを弾きとばした
スネ夫「フリッカージャブか!………腐ってもジャイアン、喧嘩慣れしてやがる…でもね!」
122:
ジャイアン「―――っ!」
ジャイアンがたて続けに繰り出した拳を捌き
チャンピオングローブはジャイアンの頬にめり込んだ
のび太「ク…クロスカウンター……!」
スネ夫「このグローブはあらゆる戦闘技術を体現出来るんだ!」
ジャイアン「くそっ…油断してたぜ…!」
のび太「ス…スネ夫のあの眼…!生体実験をしている科学者の様な…冷静と情熱が入り混じったあの眼は…!」
のび太「『観察』している…!今のダメージがどの程度か観察しているぞ…!」
ジャイアン「スネ夫め……な…生意気なやつだ…その余裕をへし折ってやるぜ!」
123:
のび太「僕も…何とか他の道具で援護を…!」ゴソゴソ
?「ふむ…状況は芳しく無い様だ……」
玄関で倒れているのび太の背後から突如男が現れた
スネ夫「『曹長』!?まだいらしてたんですか!?」
ジャイアン「おめぇは…さっき俺にワッペンを貼りやがった奴…!」
曹長、と呼ばれた男がため息をつきながら応えた
曹長「失態ですね……どうやら服にワッペンを貼るのはいけなかった様で…」
124:
のび太〈スネ夫も服にワッペンが…!〉
曹長「いや〜ボスにお叱りを受ける事になる…『准士官』殿が出木杉という少年の服に貼ったと自慢していたのでつい…」
ジャイアン「なんだと!?出木杉も悪者になっちまったってのか!?」
曹長「それにしても野比氏は抜け目のない…か弱い娘には先に完全バリアを施しているなんてね」
のび太「っ!…ジャイアン!ワッペンの付いたスネ夫の服を破けばこっちの勝ちだ!」
ジャイアン「わかってるけどよ…!それが出来ないからかきたくも無い汗をかいてるんだぜ…!」
曹長「おっと…貴方にはここでゲームオーバーとなってもらいますよ」
125:
チク…タク…チク…タク…
のび太「…え!?」
のび太は音のする方を見上げる…!
ジャイアンの首筋に貼られているシール…
あれは…!
曹長「『チクタクボンワッペン』…時限爆弾、とでも言っておきましょうか」
ジャイアン「俺の首にッ!?」
曹長「それと…野比氏にも特別な物を貼っておきましたよ。君の『ずらしんぼ』が厄介なんでね」
曹長が手首を指差し
侮蔑の微笑を含みながら言った
のび太「こ…この道具は!!!」
126:
のび太の手首には一枚のバンドエイドが貼られていた…
このバンドエイド、『ドジバン』といって
貼られたら何をやろうとしても失敗に終わる
のび太「い…いつの間に貼ったんだ!?」
曹長「ハハハ!爆発に巻き込まれるのは嫌なので外から観察しておきますよ!」
曹長は望遠鏡を覗き込むと姿を消した
※手に取り望遠鏡
望遠鏡で覗き込んだ物を手で掴み、取り寄せられる。木など固定された物を掴むと逆に向こうへ移動できる
のび太「望遠鏡で遠くから貼ったのか…この道具…はやく剥がさないと…」
127:
のび太「『ずらしんぼ』で…バンドエイドを地面にずらす!」
スネ夫「うわぁぁぁぁぁ!!!」
ボキッ!
のび太「っ!?」
ジャイアンと交戦中のスネ夫がこちらに吹っ飛ばされたはずみで
握っていた『ずらすんぼ』が折れてしまった
曹長「フフフフフ…本来なら剛田氏の裏切りを上に報告しに行きたいところですが…」
曹長「人が苦しんでいる様を見逃してしまうのは勿体ない…」
128:
のび太「木の上で高みの見物…いつでも逃げれる準備はしてあるって事か…」
のび太〈マズいぞ…新しい道具を出したら…僕は必ず『失敗』する…!〉
相手はいつでも逃げ出せる位置から『手に取り望遠鏡』で様子を伺っている
今、道具を取り出そうとすれば失敗に終わり
最悪、『取り寄せバッグ』が奪取されてしまうのだ
『あなただけのものガス』を吹きかけてあるとは言え『ドジバン』が付いた今、安全だと保障できるものでは無かった…
のび太〈何とかしてこの状況を切り抜けなければ……!〉
曹長〈…おや?野比氏の手…道具を取り出す素振りは見せていない様でしたが…?〉
曹長が現れる前…
スネ夫と対峙したジャイアンを援護するため
のび太はずらしんぼの他に、もうひとつ道具を取り出していた
129:
のび太〈……しかし、二人はどうやって助ける…?ジャイアンの爆弾をどうやって剥がせばいい?〉
のび太〈今の僕じゃあ……ジャイアンとスネ夫を助ける方法が思いつかない……!〉
曹長「何ですかね、その丸い粒は?」
のび太「ぐっ…!!」
再び部屋の中に戻ってきた曹長は
のび太の手首を踏みながら不敵に微笑んだ…!
曹長「貴方は本当に抜け目の無い人だ」
130:
曹長「この粒のような物を…どうするおつもりで…?」
のび太「……」
曹長「今の貴方は何をやっても失敗してしまうのですよ?」
のび太「……」
曹長「…黙ってないで何か答えたらどうですッ!!!」
のび太「ウガァアアアア!!!」
のび太〈ブーツのかかと…痛すぎる…!!〉
曹長「…よろしい、これは没収します」
のび太「……!!」
131:
曹長「この状況、不自由なあなたが使うのでは無く骨川氏か剛田氏に使うと見ました」
曹長「錠剤かと思いましたが…『肌に付着させる物』なら、今のあなたの状態でも十分使用可能…」
曹長「『ドジバン』と同じく、付着させるとあまりメリットが無い類の物なのでしょう?」
曹長がのび太に歩み寄る
のび太「何を…!!」
曹長「……貴方自身、その身をもって確かめさせてもらいましょうか!!」
132:
のび太「さっきの『ずらしんぼ』は僕が握っていたから『失敗』したんだ…!」
曹長「……?」
のび太「初歩的なミスだね…僕の行いは全て失敗するけど…君なら失敗しないだろう…!?」
のび太は自身の手首に貼ってあった『ドジバン』を剥がした
曹長「えッ?えッ?」
のび太「君が僕に付けたこの粒は『人間ラジコン』の受信機さ…!誰に付けられても良い様に『自動操縦』にしてあったんだ…!」
のび太「自分の意思で動く事は出来ないが…こいつは『善』に全力を尽くす行動をしてくれるからね……!」
のび太「僕の肉体が限界を超えても…君を地の果てまで追い詰めてやるぞ…!」
133:
曹長「は…い!!」
望遠鏡を使い、部屋から瞬く間にいなくなった曹長だが
稲妻ソックスに加え『自動操縦』であるのび太は
寸分狂わず最短距離で曹長に詰め寄る…!
手に取り望遠鏡で移動できる距離では差を広げる事が困難であった
のび太〈体が…軋む…けど!逃がさないぞ!!〉
曹長〈まずい…勝つ見込みがあるとすれば…先程の骨川氏を利用するしか…!〉
のび太「…何だ…?来た道を戻っていくぞ…!」
曹長〈どんどん距離の差を縮めて来ているものの…全力疾走の野比氏も流石に疲労を隠せない様で…〉
曹長「ふむ…肉体の疲労か……良い事を思いつきましたよ!!」
134:
ーとある公園ー
のび太「…はぁ…はぁ……追いついた…」
曹長「上の者に道具を渡された時…私の戦略は『ドジバン』を貼って貴方の自爆を誘うしか道が残されていませんでした」
のび太「……?」
曹長「つまり『ドジバン』を看破された時点で貴方を倒す術が無くなったわけです」
曹長「ですが…その道具を攻略する際、貴方にはひとつの『弱点』が生まれた…!」
曹長「それが……これですッ!!」
のび太「……!!」
曹長は懐から瓶を取り出し、飲んでみせた
135:
のび太「今のは…『トロリン』ッ!?」
曹長「御名答、私の体はこれで『液体』になった。自動操縦の貴方では私を倒す事は不可能…!」
のび太「……それなら何か道具で君を『固体』に戻せば…うぉぉっ!!」
ドゴォン!
人間リモコンはのび太の意思とは裏腹に
液体となった曹長を殴りつけるように体を操った
のび太「無駄だ!畜生!これじゃあダメージは無いんだよっ!」
曹長「ハハハハハ!道具に何を言っても無駄!早く疲弊しきって命乞いをする様を見てみたいものです!」
のび太の必死の訴えも空しく、水溜りごと地を抉る音が
何度も公園に響き渡った…
136:
のび太「はぁ…はぁ………こ、今度は何だ!?足が勝手にッ!?」
曹長「おや?今なら何らかの道具を使えば私を倒せる絶好の機会だというのに…」
のび太の足は水溜りとなった曹長から
どんどん離れていく…!
のび太「バカなッ!?『人間リモコン』!逃げるつもりなのかッ!?僕の意思を汲んではくれないのか!?」
のび太〈いや…人間リモコンの行動は『善』だ…つまりこの目の前の敵を倒す事より大事な用が…〉
のび太「あるわけ無いだろうッ!?今奴を倒さずに何時倒すってんだッ!!」
曹長「長距離走ご苦労様、とでも言っておきましょうか……アハハハハハ!」
のび太〈今の僕じゃあとてもこの状況を突破できる気がしない……!悔しいが…完敗だ…!〉
137:
今朝からの連戦、度重なる疲労、そして敗走…
肉体を酷使し続け、のび太の心身は既にボロボロであった
のび太〈僕は……どこへ行くのだろう……このまま…死ぬのだろうか…〉
人間リモコンによって操られたのび太は歩みを止める
辿り着いたのは一軒のアイスクリーム屋
客、というより近所の子供達に泣きつかれ
店主が困った様な顔をしている…
のび太は操られるがまま、持っていた500円玉を差し出すと
子供達の顔に笑顔が戻った
138:
店主「いやー助かった!こっちも奢りたい気持ちはあれど…一応商売なんでねぇ」
のび太「子供を甘やかしすぎるのも、良くないですもんね…」
店主「まぁそういう事だ。へへへ、ちょっと待ってな…」
店主はのび太に
コーラフロートが入ったジョッキを渡した
この炎天下、今朝から何も口にしていないのび太にとって
これ以上無い施しであったが…
人間リモコンに操られるがまま貪りつくも、内心は躊躇していた
明らかにお釣りの量を超えていたからだ
のび太「あんまり子供を甘やかすなって今言ってた所じゃ…」
店主「情けは巡り巡って自分に返ってくるってのも教育上大切な事だぞ、少年!」
139:
ー30分後ー
曹長「流石は『自動操縦』、こうもあっさり見つかってしまいましたか……」
のび太「何処へ着くかと思ったら……また君か……」
曹長「まさか懲りずに私の元へ来るとは……単純な機械に頼ってしまいましたね」
のび太「ああ……それならもうどうでもいいんだ……」
曹長「とうとう諦めましたか……どちらにせよ、その受信機が付いている限りあなたは何も出来ないでしょうからね」
のび太「二人を助けられなかったのが何より残念だよ……」
曹長「では大人しく貴方がボスから奪った道具を返してもらいましょうか」
140:
のび太「何を言っているんだ?」
曹長「往生際の悪い…ッ!」
曹長「今自身で何と言いましたッ!?勝負などどうでもいいと仰ったでしょう!」
のび太「どうでもいいって言ったのは…この勝負の決着がついたからさ」
曹長「!?」
曹長はのび太の発言にたじろいだ
それはのび太の顔付きがさっきまでの疲弊したものでは無く
清々しい爽やかな顔であったからに他ならない
曹長〈馬鹿な…ハッタリに決まっている…!〉
のび太「もう一度言う。勝負は終わりだよ」
141:
のび太「君は僕の不意打ちに身構えてずっとその姿で隠れていたのかい?」
曹長「……それが、どうしたと言うのです…」
のび太「僕はね、君がそうやって息を潜めている間『休憩』していたんだ」
曹長「……ずいぶんなめられたものですね、お友達が命の危険にさらされているというのに」
のび太「いいや、君が言ったんだ『僕を倒す術が無い』と」
のび太「だからお言葉に甘えて休憩させてもらったよ。君は僕から逃げる事しか出来ないからね」
曹長「ほう、しかし再び私を見つけたところで殴る術は無く……貴方の行動も徒労に終わると思いますが…?」
142:
曹長「さぁ、もうひと運動してもらいましょうか!!」
のび太「もちろんそうさせてもらいたいのは山々なんだけど…」
曹長「………どうした、何故動かない」
のび太「この『人間リモコン』…君を殴らせようとしないんだよ。どういう事かわかるかい?」
のび太「君を『脅威』だと認識しないんだ。今は他の人に助けを求められるまでじっと待っている感じだ」
曹長〈このガキ…!〉
今までの落ち着いた態度から打って変わり
曹長が口調を荒らげる…!
曹長「まだ『トロリン』の効果は続いているんだ!さっさと負けを認めたらどうだ!!」
143:
のび太「それだ……!」
曹長「……!?」
のび太「君のその『トロリン』がいけない……」
曹長「聞き分けの悪い……!!」
のび太「さっき確認したんだけど今日が何月何日で……今、何時か知っているかい?」
曹長「……?」
7月13日の午後2時…
真夏の兆し、プール開き真っ盛りの時期である
144:
のび太「最近授業で耳にした知識なんだけど、人間の体の半分以上は『水分』で出来ているらしいね」
のび太「この、日差しが照りつける中、道路の温度も相当なものだ、君はその上で長い時間水溜りになっていた」
のび太「さっき休憩しながら思ったよ、君の体の水分はもう大分無くなっているんじゃないかってね」
曹長「ばかばかしい……生命維持が困難な程に私の体内の水分が奪われたと?ありえないな!」
のび太「もし『自覚』が無かったとしたら……?」
曹長「………!」
液体となった体に喉が『渇く』という感覚が果たしてあるのだろうか…
そしてのび太を操る人間リモコンの自動操縦が作動していない現実
曹長は自身の顔が不安と恐怖で引きつっていくのがわかった
145:
曹長「く…くそ…そんな、そんな馬鹿な事があるはず…無い!」
のび太「……実体化するならどこか水のある場所をお勧めするよ…」
曹長「そんなハズは無ァい!!!」
のび太「駄目だ!こっちに来たら…!」
曹長「うわぁぁぁぁ!!?」
曹長の体がみるみる蒸発していく…!
曹長「これはッ!?マンホールッ!!?熱いッ!!!か、体がァ!!!」
曹長「アアアアァァァァ……」シュウゥゥゥ…
のび太「……お互い自分の道具に負けるなんて…皮肉なもんだ」
146:
しかし敵を倒したところでのび太は『人間リモコン』に操られるがまま…
先ほどの様な恩を受ける事が今後も無ければ餓死するまで彷徨う事になる……
のび太は再びどこかに向かい走り出した…
のび太〈稲妻ソックスで町を駆け抜けるのは気持ちがいいなぁ…〉
のび太〈けれど道具を使うだけで……自分から何かしようとした覚えがあんまり無いな…………〉
のび太〈ドラえもんも愛想を付かすわけだよ……〉
のび太〈あれは………見覚えのある人影だ……あの下品なヘアースタイル…〉
のび太〈スネ夫みたいな髪だ………スネ夫?〉
のび太「……スネ夫!?スネ夫なのか!?ジャイアンは、ジャイアンはどこだ!?」
147:
のび太の目の前には
泣き崩れたスネ夫がいた
スネ夫「あああ〜のび太〜…ジャイアンを…ジャイアンを助けてくれよぉ〜」
のび太「落ち着いて!…それより君、スネ夫なのか!?元に戻ったんだね!?」
スネ夫「ジャイアンが身を徹して爆発から守ってくれたんだ……」
スネ夫「僕は上着が破れただけで済んだけど…ジャイアンがぁ…うわあああん!」
のび太「僕の額に付いたこの受信機を…外してくれないか?」
スネ夫「そんな物外してどうするんだ……?」
のび太「ジャイアンを……助ける!!」
148:
スネ夫「ほ、本当かい!?ジャイアンは助かるのかい!?今外すよ!」プチッ!
のび太「良し!……腕さえ動かせれば!」
のび太はとりよせバッグからボロボロのジャイアンを取り寄せ
タイム風呂敷を被せた
ジャイアンの傷口がみるみる治っていく…
ジャイアン「……のび太!スネ夫!無事か!」
スネ夫「それはこっちの台詞だよ!」
ジャイアン「おお心の友よ!!」がしっ!
のび太「ちょ、ジャイアン…痛いってば…」
149:
―――敵も諦めたのか
その後、ドラえもんの部下達の猛襲が続くことは無かった。
今朝からの怒涛の追撃をとうとう退けた事を実感した三人は
安堵の胸を撫で下ろすのであった。
151:
ーとある家ー
ドラえもん「誰だい?」
中将「私ですけど……」
ドラえもん「ああ…どうしたんだい中将?」
中将「ターゲットが『大佐』と一戦交えた模様。それと『兵長』と『曹長』から報告がありません、恐らく…」
ドラえもん〈一日で二人もやられたか……のび太め、なかなかやるな……〉
ドラえもん「そうかい。じゃあ次の強襲日を決めておくよ」
中将「……」
ドラえもん「何か言いたげな顔だね…?」
152:
中将「あの……ボス、お言葉ですが…」
ドラえもん「何だい?」
中将「葬るのなら今すぐに全戦力を向けて潰すべきです。」
ドラえもん「ふむ…」
中将「ターゲットの疲労も相当蓄積されているはず。今なら我々で…」
ドラえもん「う〜ん…」
中将「全戦力とは言わずとも、間髪を入れず戦力を投入し続けるべきでは?」
ドラえもん「今すぐってわけにもいかないんだなぁこれが…」
中将「?」
ドラえもん「『階級ワッペン』はいくつあるか知っているかい?」
153:
大将〈ドラえもん〉
中将、少将
大佐〈校内放送の男〉
中佐、少佐
大尉、中尉、少尉
准士官
曹長〈手に取り望遠鏡の男〉
軍曹〈スネオ〉
伍長〈ジャイアン〉
兵長〈そっくりクレヨンの少年〉
上等兵、一等兵、二等兵
中将「17…ですね」
ドラえもん「僕は准士官より低い階級にはワッペンを貼っていない。残りの人選は全て部下に任せている。」
ドラえもん「それと道具の編成も……何名かは僕が選んだけど殆ど君と准士官に任せてる。」
中将「私と面識の無い部下も数名おりますが……よろしいのでしょうか?」
ドラえもん「別にかまわないよ……あまりこういう言い方はしたくは無いが、下の階級の者は『捨て駒』なんだ」
154:
ドラえもん「僕の部下がちゃんと仕事をし終えていたなら…」
ドラえもん「君達、上の階級の者と戦うまでに、のび太は実に10回近い戦闘をこなすことになるだろうね」
中将「実戦による成長度合いは未知数です。あまり経験を積ませない方がよろしいのでは…?」
ドラえもん「いいや逆だよ。戦わせれば戦わせるほどこちらの勝率が上がると言っていい」
中将「?」
ドラえもん「五割の勝率と十割に近い勝率……誰だって後者を選ぶよね?」
中将「……この時間差襲撃の意図は疲労させるのでは無く、ターゲットが持ついくつかの凶悪な道具を消耗させる事にあると……?」
ドラえもん「その通りッ!忌々しい奴を墜とすには『早期決着』ではなく、ある種の『兵糧攻め』にも似た『持久戦』ッ!」
ドラえもん「というわけで、戦いの日までしばらく暇だろう?バカンスでも楽しんできてよ」
中将「…失礼します」
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