クリスマスイブに死んだ母親を一週間だけ生き返らせた話back

クリスマスイブに死んだ母親を一週間だけ生き返らせた話


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1:
12月24日
冬休みの長い一日の時間を潰すため、退屈しのぎに電気ストーブの前に寝転がり宿題で図書室から借りた小説を読んでいた。
内容は、世界中のサンタクロースにまつわる伝記みたいな物から、世界のいろんな作家が書いたものが集まった短編
ひとつひとつの話自体は面白くもつまらなく無い単調とした感じだったけど、その本を借りた理由、興味を持ったのは、
ある外国の女の子が突如として死んでしまったペットのハムスターにもう一度会いたいと願いその願いをサンタクロースが実現させ、一週間という条件付きで彼女のハムスターは蘇る
そしてその一週間、彼女は生きている間にしてやれなかった事をペットのハムスターにしてやるという本の中の一つの短編だった。
確かに、創造の産物、作り話であって出来すぎていると思う、けど。
2:
死んだ物を蘇らせる。
ただ、それに僕は興味を惹かれた
僕はその本の通り願い、そして実行して人を蘇らせた。
僕は一週間だけ死んだ母親を生き返らせた。
4:
12月25日
二日目
起きたのは朝の8時頃
寝るときに付けていた携帯ラジオの電源を付けっぱなしのまま寝てしまったらしく、朝のニュースを滑舌よく喋るキャスターの大声で目が覚めた
冬休みの特権で学校への遅刻はない
母親は茶髪の髪で顔の半分を隠し隣の布団で横になって寝ていた。
もしかして夢なのか?そう思うほどにいつもの現実からかけ離れている光景を無視するように、布団を三つ折りにして部屋の端へ場所を取るように雑に置く
そしていつもの朝のように朝食を作る
冷蔵庫の中身を見ると朝食を作る分くらいには材料は余裕がある
5:
「う?ん、」
料理を始めようとした時に、母親が起きる弱い声が聞こえた
「良い匂い」
茶色い髪をボサボサにして、細くて白い両腕で上半身をおさえて宙に浮いた料理の匂いを嗅いで囁くように
布団から這い出てきて、冷たいキッチンの床の上を余計に歩き周り近寄ってくる
「へぇ、彰って料理できるんだ。」
熱したフライパンの上の焼かれた生卵を覗き込み
少し香水?の匂いが料理の匂いと混じって嫌な匂いに変化させる
「少しだけなら出来る…」
母親は僕の料理を品定めするように部屋をぐるぐる回って盛大に埃を部屋中に舞わせる
9:
「なんかすることなーい?」
ぐるぐるするのにも飽きたと思われ手伝いをしたいらしい
でも、料理はもう出来上がっているので
「じゃあ、テーブルの上に箸とか並べといて」
「わっかりましたー!」
また余計にあっちこっち動き回って埃が舞う
出来上がった料理を皿に雑に盛り付けて料理は完成、机に並べ出来栄えを確認する
目玉焼き チャーハン 野菜
冷蔵庫に今ある材料で作るとこんな物か
昨日、たとえ幽霊だろうとお腹は空くらしいと知り
いつもは一人前作る朝食を二人分作ったから量計算がめんどくさかった。
「わ?、美味しそう、食べて良い!?」」
「うん…。」
二人分作ったのだから当然食べていいのだが
10:
「いただきまーす!」
両手を合わせていただきます、
スプーンでチャーハンをすくい取って、口の中へ
「うーん!美味しい!」
「彰、料理上手だねー」
褒めながらスプーンにチャーハンすくって食べる。
とてもじゃないが行儀が良いとはいえない
僕もエプロンを掛け自分の椅子に座り朝食を食べる。
誰かと一緒に食べる朝食は何年ぶりか
それだけ、そう思うくらいに新鮮味がある朝だった
食べ終わり汚れた食器を片付けるのも僕だった。というより片付けさせたく無かったので
本人はどうしても片付けたそうだったが
皿を洗いながらちらっと後ろを振り向く
母親は昼間っからテレビの前にゴロゴロ寝そべりテレビの画面にに笑いを浮かべている
そうやって、いることが母親なのかは僕には分からないけど、僕にはどうにも実感がなかった。
母親が生き返っている事の前に、こうして、今この世に母親が存在している前に、
僕は母親に対してどうしても今は家族と思えなかった。
11:
12月24日
「あれ?」
目の前にいたのは遺影の写真でしか見たことが無かった母親
僕を見て、首を左に傾げる
「彰?」
僕の名前を疑問付きで尋ねる
少し茶色い髪の毛を胸のあたりまで伸ばしていた
遺影でしか見たことが無かった母親の姿
それが目の前にいるって、不思議で仕方が無い
「…。」
「大きくなったね、今、何歳?」
自分の年齢を自分に尋ねるみたいに僕に聞いてくる
「…、11、」
そう言うと僕はとしては初めて会う人なわけで
つい目を逸らしてしまった
12:
僕の母親
僕が1歳にもならない時に病気で死んだ母親
平 祥子(たいら しょうこ) 
位牌の裏に書いてあるその名前
詳しい死因は聞かされて無い
ただ病気で死んだ、それだけで充分だとは思ったから僕も病名までは聞かなかったし、知ったところで何が分かるわけでも無いと思った
14:
「なんで私…。ここにいるのかな?」
どこか、夏の海で撮られたと思われる遺影の写真と同じようにおどけたように目の前の母親は笑う
遺影でしか姿を見たことが無かった僕にとって、そうやって笑っている方が母親の存在に現実味がある気がした
母親の質問にどうやって説明するかを少し考えたけど
嘘を言ったって意味もないから
冬休みの宿題で借りてきた本の内容通りにしたら生き返った事を正直に言った
僕はサンタクロースを信じていない、だからこうやって母親を生き返らせた事も、僕はサンタクロースのおかげとはこれぽっちも思わなかった。
ただ、なんとなく、それこそ偶然が重なっただけでなんの奇跡も起きていない、そういう風に僕は理解した。
いや、そうやって理解したほうが僕にはわかりやすくて受け取りやすかったっていうのもあるけど、事実そうやって受け止めようともしなかったってのもある。
15:
「へぇー、なんだ、そうか、そういう事なんだね」
僕が生き返らせた事を説明しても
どこか他人事のように、この現実を理解しているのかしていないのか分からないように宙の天井を見上げ言う
数十秒そうやって天井の何かを見て、考えて母親は答えを出す
「それじゃあ、私がまた生きていられる一週間の間、彰にお母さんらしいことしてあげなきゃね!」
16:
12月25日
二日目
こうして今日は、僕が母親を生き返らせてから数えて二日目だった
昨日、生き返った母親
そうやって、また一週間だけ生きていける母親
朝ごはんを食べてから時間は過ぎて
昼、冬休みに借りた小説を半分くらいまで読んだところで
「ねぇ、彰?」
部屋の片隅に三角座りして僕の読書風景を観察していた母親が約二時間ぶりに声を出す。
「どっか外とか行かないの?」
電気ストーブの熱で乾燥した部屋だからか、朝食の時よりも少し乾いた声
しかし、この母親の問は意外だった
「雪が降ってるから外に出たくない…」
自分としてはかなり率直で的確な意見だったと思う
「えー、せっかく雪が降ってるんだから雪遊びしようよー」
三角座り体勢をやめて四つん這いでこちらに顔を近づけ覗き込む
朝から降ってるから雪遊びするのには十分な程溜まっているとは思うけど
「ねぇ雪遊びしようよー」
体を揺らす。左右に揺らされる。文字が揺れる。
18:
「わかったから」
読んでいたページを栞代わりに開いたまま床に置く
「やったー!」
窓は結露して。家の中の方が暖かい
諦めて無駄に厚着をしてからドアを捻って外に出る頃にはちょうど雪は降ってなかったけど、とにかく寒かった。
肌に刺す冷たさ
それなのに母親は雪遊びをしようというのか
母親の方もどこからか引っ張り出してきた薄茶のコートを羽織って外に出る。
「寒いねー」
こう言ってても家に引き返そうと言っても意味ないんだろうな…
ここでは遊べないからと自宅のアパートから近所の駐車場へ移動すると充分すぎるくらいに積もった雪が誰の足跡も残さず白い芝生のように曇り空に反射する
19:
「えいっ」
雪を掴んで誰よりもはしゃぐ母親、まぁ、他には僕しかいないけどさ
「彰も遊ぼうよー」
そう言って遠くで見ていた僕にも雪玉をぶつけてくる。
「はぁ…?」吐く溜め息も白かった
「そーれっ」
雪玉をどんどん作ってはそれを遠くから投げつけてくる
20:
それをくりかえし僕に当てつけるので諦めて足元の雪をかき集める
冷たい…
手袋をつけているからといっても雪の冷たさは手の感覚にまで伝わってくる
手の中で雪を丸めて雪玉を作り
それを力なく投げる
「ははっ、冷たいねー」
当てられても母親は笑ってそう言う
そんな事、雪玉を作った時点で気づいてた思うけどな…
21:
本に書いてあったルールとして、サンタクロースが願いを叶えて蘇らせた物や生物は他の人には見えない
確かに死んだ物を蘇らせるんだから、それぐらいのペナルティはあって当然か、
僕にしか見えない母親、果たして僕は本当に見えているのか
もしかしてこの世界の、僕以外の人たちは見えているフリをしているんじゃないかって思ってしまうほど、鮮明に母親の姿を見ることが出来る
それを思うと、ほかの人には一人、駐車場で雪玉を投げる子供って見られたんだろう。
そう思うと後から凄いバカらしくなってくる
22:
それから一時間弱、二人で雪玉を投げ合って雪合戦をやったり雪だるま作ったり二人の手が軽く霜焼けになった状態で家に帰ってきた
熱風を吐き出す電気ストーブの前に手をかざすと、冷えた手が熱く滲み全体に広がる
「うー、寒む寒む」
同じように母親も両手を擦りながらストーブに手をかざす
「少しは体もあったまった?」
隣で一緒に電気ストーブの前で温まる僕に聞く
「寒い…」
ストーブの火力は十分なはずなのに手は赤く染まったままだった
「じゃあ温めてあげる」
母親はそう言うと僕に抱きつく
後ろから首元に腕を組んで、さながら恋愛ドラマのカップルみたいに
23:
「ねぇ、彰?」
「お母さんね、彰の事が好きなのよ」
背中から耳元で囁かれる。恋愛ドラマのようなセリフ
幽霊のような存在だというのに暖かい
人の温もりを感じる
さながら人ではあるけど、僕は人では無い母親の存在を感じていた
その言葉から無言が続き、その間も僕は抱かれ続け
首元に組まれた腕が重く感じてきた時には後ろから寝息が聞こえてきた
確認するまでもないが確認すると母親は僕を抱いたまま遊ぶのに疲れて寝ていた。
まるで子供だ
24:
僕が母親の体温ですっかり温まり
抱きつくために組まれた腕を起こさないようにすり抜けて母親に毛布をかける
電気ストーブが作る暖かくて乾燥した空気が喉を乾燥させて、部屋を覆うように埋めつくす
それからは母親はずっと夕食も食べないで部屋の中央を陣取ったまま起きないで僕が寝る頃になっても起きなかった
25:
12月26日
三日目
僕が起きると、冬休みの宿題で借りた、人を生き返らせる方法なんかが書いてある短編小説を母親が部屋の隅に座りながら読んでいた
「彰おはよう」
小説に視線を落としながら、僕に向けて朝の挨拶をする
「うん…」
寝癖が立っているのが鏡を見ないでも分かる。
「はぁー、彰って難しい本読んでるね」
読んでいる本を閉じ、寝ぼけ眼の僕に言う
小学生が読む本だからそこまで難しくないと思うけどな
僕がそう思って床に置かれた本の表紙を見ていると
「それでさ、今日はどこ行く?」
出かけることは僕が寝ていた間に決まっていたらしい
「じゃあ、買い物」
「うん、じゃあ行こっか」
ためらいもなく
朝食も取らずに出かける朝9時頃の事
まぁ、どうせ買い物に行かなきゃ行けなかったから良いけどさ
26:
昨日と同じように無駄に厚着をして出かける
「ううっ、寒む」
外気は昨日にもまして冷たさが肌に牙をむく
吐く息が白い。寝起きの体にはきつい
「寒いねー。」
同調する母親も昨日と同じコート着て僕の隣に一緒に歩き
アパートから徒歩20分ほどの所にある近所のスーパーを目的地としてカーナビのようにそれだけを目指す
27:
スーパーまでの道中、雪が路面端に積もられる歩道を僕を先頭に歩いているとき
「今日は私が作ってあげる」
「え?」
その声に後ろを振り返ると雪に反射する光が髪の色をより茶色に染めて反射していた
「最初に言ったでしょ?一週間、彰にお母さんらしいことしてあげるって」
「これまで家事は全部、彰がやってくれたじゃん?だからさー、私が今日、家事も全部します!」
ありがた迷惑というか、無駄な所でやる気が出ている
「でも、全部ってのは…」迷惑なんじゃ、
そう言おうとした時、母親が最後まで言わせないとばかりに
「そう言うこと言わない、家族なんだから」
「頼る時にはお母さんに頼っちゃっていいんだから」
家族という言葉を平然と簡単に母親は使うんだなと僕はこの時に思った
でも、この時は家事をするとか、そんな事よりも、一人、見えない人と話してる可哀想な子供って他人に、近所の人に思われるのが嫌だった
29:
「そこまで言うなら…」
「それじゃあ、彰は何が食べたい?」
「別に、なんでもいい…。」
そんな事を言われても困ると懸命に顔に表情を作る
そんな表情を見も気にもしないで頭の上に浮かぶ調理レシピでも見るかのように空を見上げながら
「うーん、そっかー、じゃあ、何が好きかな?」
好きな物、食べ物か、
「別に食べられれば良い」
いつも自分で作っているからか
食べれればそれだけで良いと思って逆に思いつかなかった
「じゃあ、野菜だけにしちゃうよ?」
「うっ…。」
それは嫌だ、
「じゃあ、ハンバーグ…。」
考えに考えた子供らしい食べ物、それに簡単だし
「OK、まかしといて!!」
茶色い髪の上に手を置き敬礼のポーズで今の気合の度合いを表す
「私、頑張っちゃうから!」
そう言って張り切るのは良いけど迷惑というか、安心ができないのがなんとも
30:
歩道橋を二人して並んで歩いてると
「やっぱり、10年近くも経ってると街も結構変わっちゃうね」
首を上下左右にぐるぐる動かす
他人から見たら一人分距離を開けて歩く迷惑な子供って見られてるんだろうな
それ思うと少し母親との距離を詰める。
ただでさえ狭い歩道橋を道を狭めて歩いて、対向して来るスーパの袋を持った人を避けながら、いつも一人で来るスーパーに到着
なんかここに来るのには、いつもとほぼ同じ時間なのにいつも以上に疲れた気がする
31:
「わー、ここは変わってない!」
外見はボロボロ、中身もそれに応じる年季もの
そんなスーパーの外観を見てはしゃぐ大人
「懐かしいなー」
10年くらい経って見ると見慣れたものも新鮮に見えるのか…、11歳の僕には分からなかった
外見を堪能し終わった母親はスーパーの入口の前を塞ぐように両腕を肩まで上げて深呼吸すると
「じゃあ、買い物しますか」
自動ドア付近に山積みされた買い物カゴを僕が持って精肉売り場に
「うーん、お肉は大きい方がいいよね…」
「じゃあ、これ!」
カゴに突っ込んだのは牛肉
はぁ?
僕はため息を言葉に出さないほど疲れていたのか寝不足だったのか、呆れながら
「高いし、それにハンバーグなんだから合いびき肉」
「そっか、ハンバーグって合いびき肉だよね、」
へへっ、って昨日と同じ笑いを見せながら商品棚へ戻す
「やっぱり彰がいて良かった」
そう言うと今度は合いびき肉をカゴに入れる
それからもハンバーグの材料を買うために店内をウロウロしていると
「ねぇ、このお菓子新しく出たんだって、美味しそうじゃない?」
とか言って、持ってきたお菓子をカゴの中に突っ込みまくり
どうにか必要なものだけをカゴに入れてレジへ
必要経費内を少しオーバーしたけどこれくらいなら許せる
レジ袋に乱雑に入れられる商品を袋の中で整理整頓してスーパーの外へ出る
32:
そうして余計に大きく膨らんだレジ袋を抱えてまた狭い歩道橋を渡り
家に帰る
「あら、彰くんじゃない。」
疲れた僕の名前を呼ぶので後ろを振り向くと
近所のおばさんがホウキと塵取りを片手に持って僕に話かける
「あれ、ヨミおばちゃんじゃない!?」
後ろにいた母親が言う
「こんにちは…」
母親は無視をして、僕は無愛想に返事する
「いつも大変ねぇ、彰くんは頑張って」
手に握ったスーパの袋を見ると、おばさんは決まってそう言う
「そうなんです、彰は偉いんですよ」母親が答える
知らないくせに
「おばさんでも出来る事があったら遠慮なく言ってね」
「はい」
「それじゃあね、」
それを言い終わると僕たちの後ろを歩いていく
「あー行っちゃった、世間話とかしてみたかったのになぁ」
もちろん母親の声は僕以外の人には聞こえていない
「彰はヨミおばあちゃんと仲いいの?」
もう見えない後ろを姿を見ながら
「別に、」
「そっか、いい人だよ、おばあちゃん」
昔、小さい頃に、あの人に母親がいなくて可哀想だと言われてから僕はあの人のことを好きでも嫌いでもなくなっていた
33:
家に帰り母親は長い茶髪の髪を後ろで束ね、エプロンの紐を結ぶ
「どう!これ、私のエプロンなんだよ!」
赤色が薄汚れてシワだらけになっているエプロンの端を両指で摘んで僕に見せびらかす
「かわいい?」
「まぁ、まぁ」
お世辞程度
「そっか、嬉しいなー!」
大げさに喜びつまんだ赤いエプロンを見直す
前置きはこれくらいにして
「じゃあ、早作りますか!」
母親は袖を腕まで捲る
だけれど袖を捲ったまま、買ってきた材料をぞろぞろ机に広げたのを目の前にして硬直し、数秒考えると隣の僕に
「で、まずは何をすればいいんだっけ?」
「はぁ…」
やっぱりというか、当然というか、ハンバーグの作り方を知らないのか
「じゃあ、まずは玉ねぎをみじん切りで切って」
言いながら机に並べられた材料の中から玉ねぎを選び取って硬直した手の中に玉ねぎを握らせる
34:
「はいはい、了解しました先生」
玉ねぎを洗って、指を猫の手にしないで包丁を振り下ろす
「ううっ…」
玉ねぎを涙目にながら切る、もうその声はギブアップ気味
気合はあるが実力が足りていない
「はぁ…」
仕方ない
僕も手を洗い母親の隣で指示を出しながら一緒にハンバーグ作りをする
35:
「こうして一緒に料理作ってると家族みたいだよねー」
視線を下に人参を細かく切りながら母親が言う
「…、そうかな…」
「多分、きっとこんな感じなんじゃないかなぁ…家族って、」
「いやまぁ、多分なんだけどね」
横の母親を見ると、また写真のように全てをごまかせることが出来る、へらへらした笑いを浮かべていた
フライパンが無音で熱を放ち”いつでも”と合図を送っている
「彰は家族ってわかる?」
その質問に考えてみるけど、どうせ僕にはわからないだろう、と、反射的にそう思ってすぐに考えるのをやめた
「分からない…。」
「そっか、そうだよね、私もわからないし」
「多分ね、家族ってあったかいんだよ…」
36:
「イタッ、」
小さな叫び声で隣を見ると人差し指を舐めて
「へへっ、切っちゃた」
最初から危ないとは思ってたけど
「はい、」
僕のエプロンに入っていた絆創膏を渡す
「ありがと、彰」
そう言って髪を撫でられグシャグシャにされた
絆創膏を渡しただけなのに大げさすぎる
37:
「でき上がりー!」
作った料理を机に並べ品定め
「ささっ、食べてみて」
僕の前の席に座り両手を出しておすすめしてくる
正直、気が引けた
「焦げてるところは私が食べるから」
確かに母親が焼いたせいで焦げが多い
頭をコクリと頷くように気を引き締め箸でハンバーグの塊を掴んで、それを口の中へ
「どう?これがお袋の味って奴よ?」
「うん…。」
いつも自分でつくるのと変わらなかった、いやそれよりまずいかも
「じゃあ私も、」
僕の箸より少し大きめの、長い箸でハンバーグを掴んで食べる
「うん、おいしい」
大げさに、美味しそうに僕の目の前の席に座って食べる
「どんどん食べていいよ」
遠慮しがちに食べる僕を見て
「彰は今が成長する時なんだからたくさん食べないと」
と言われたから少し気持ち悪くなるくらい食べ過ぎた
38:
料理を全部食べ終わってから寝るまでの時間、母親は家事を僕よりも二倍近く時間をかけて終わらせ、体育座りで僕の隣に座ってテレビを見ながら本を読む僕に質問をしてきたり
一日が長かったり短かく感じた
今夜は寝るときにラジオから流れる曲を聞きながら開いた目で
カーテンの隙間から空に広がる雲の隙間をすり抜けて光る星が見えた
43:
おいついた、しえん!なかなか面白い
文才あるな。親子愛がテーマかな?はたして感動できるだろうか。
45:
おもしろい
46:
どっかのカップルののろけ話にしか見えんかったわ
56:
12月28日
四日目
結露した水玉が窓から落ちる。
乾燥した空気が僕の喉を痛め、度々僕を咳き込ませる
「ねぇ、彰?」
起きてから朝ごはんを食べると、暇になった僕は三角座りで本を読み、隣に同じように座ってテレビを見ていた時、母親が言った
「どう、ここ」
母親がテレビ画面に映るローカル番組の映像を指差して僕の視線を本から逸らさせる
「水族館?」
ペンギンの施設を後ろに若い女子アナが表情なく仕事をこなしているのが映る
「そう、水族館とか行ってみたくない?」
「…。」
家で本を読んでいる方が疲れないし寒くもないと思う
いつもどおり躊躇していると
「デートしてみない!」
笑って言って、それでいて息子と一緒にデートとは
「はぁ…」
「わかった。」
母親が提案する事をいちいち考えても無駄か、
読んでいたページに栞を挟んで、もう片方の手で閉じる
この数日で僕も諦めるのが早くなったと思う。
57:
最寄り駅から乗り換えてさっきテレビで放送されていた水族館の近くの駅に着くと水族館まで10分もかかるか、かからない位の距離を歩き
料金を一人分だけ払って水族館の中に入る
テレビで放送された水族館っていっても、大規模な施設はあるが、全国的に有名な場所でも無い、だから冬休みって理由をつけるくらいにしか水族館には人がいなかった
58:
「やっぱり、ペンギンって飛べないのかな?」
水の中で飛んでいるようにガラスの向こうで泳ぐペンギンを見る
「鳥なのにね、やっぱり飛んでみたいとか思ってると思うんだけどなー」
「そうなのかな…。」
ペンギンのそんな気持ちなんて考えたことなかった
「そうだよ、きっと」
「空から見る世界って全然違うんだから」
「…。」
答える方が無理だと思う
たまにこうした、答えられない質問をしてくる母親の問いにどう答えれば良いのかいつも分からない
だからいつも無言になってしまう
59:
水族館を母親の言うとおりに歩き回っていると
「ほら、アザラシ」
とか言い出して端から端まで、見ていない動物をパンフレットから見つけだしては見に行き施設の中から外まで、全部の動物を見たと言っても過言では無いほど水族館を歩き回り
母親が満足して家に帰ろうと言ったのは夕方頃だった
60:
帰りも行きと同じ道を歩き
電車が来るまでホーム端のベンチに足を曲げて座る
61:
「いやぁ、いっぱい見れたねぇ」
「やっぱりこうして出かけるのって楽しいよね」
母親は自販機で買った未開封の缶コーヒーを両手で転しながら暖を取る
そのおかげで凄い疲れたのは言うまでもないが
反論する気力もなくベンチの冷たく硬い背もたれに背中を付ける
「こうやって彰と過ごしてると人生楽しんでるって感じがするなー」
3人掛けの占領するくらいに母親は腕を広げて背伸びをする
63:
「そうかな…」
「そうだよ、一度きりの人生楽しまきゃ損だよ」
「あっ、でも私の場合一度じゃないのか」
母親は伸ばした腕を下ろして対抗のホームにいる高校生を見つめ前の言葉を訂正する
その声に続きがあるように母親は続けて何かを言おうとしていたが、到着時間とかけ離れた電車の姿が遠くの線路の上を滑るように、音を大きくして近づいて来るのが見えると、母親はベンチからホームの黄色い線ギリギリに立ち
「まぁ、これが先人の教えってやつですな」
「ちょっと違うか」
母親はいつものように笑ってごまかし
ちょうど目の前に開かれた電車の自動ドアから誰よりも一番に車内に乗り込む
64:
空席が目立つ電車は遅延をしながら、ゆっくり時間をかけて家の近くの駅についたため、家に着いた時には日が暮れていた
帰ってからは料理をする気力も体力も無かったけど、お腹は空いているので冷蔵庫にある材料で軽く作って早く食べる
「やっぱり彰の作った料理は美味しいね、格別だね」
いつだって、僕の作った物を食べた時にはそう言った
66:
一緒に食べることになれたのか、その言葉に最初ほど新鮮味はなかった
食べ終わって汚れた皿を台所で僕がいつもみたく洗っていると
後ろからガサゴソ
「あっ」
その光景に泡がついた平皿は流し台の底へ落ちる。
割れてはいない、シンクのそこへぶつかる鈍い音がした
「片付けなくていいから」
強めに強調して強いアクセント付きで
「うん?…でも」
部屋を見渡と確かにそこまで汚くはないけど片付ける物はある
「いいから」
さっきよりも強く、感情をむき出しにして子供っぽい
「あぁ…、ごめん」
そう言って母親は片付けを中断
お気遣い無くって言葉が最適かどうかは分からないけど
どうしても今日はそうして欲しくなかった
68:
皿を洗い終えた僕はただ部屋の隅で本を読む
その日の夜、世間一般では夜中の時間、一週間ぶりだったか、僕の親が帰ってきた。
死んではいない方と言ったら良いか
でも、僕の住んでるこのアパートの二階の一室は彼にとってはただの場所でしか過ぎなくてたまにしか帰ってこないし決まって酒臭かった
69:
この場所は彼にとって鬱憤を晴らす場所でしかない。
ただでさえ綺麗では無い部屋を彼は物を投げ散らかし部屋の見栄えを悪くする
僕はただ膝の関節を曲げ三角座りをして、いつもの様に僕はただそれを見る
70:
「やめてッ!」
それをひたすらに叫び続け止めようとする母親の声が耳の中に響く
物を投げる威勢の声より大きく聞こえる、でも、それを誰かが聞くことはできない
いくら母親が僕以外の他人に叫ぼうと顔を叩こうとその声は僕にしか聞こえないし母親のぬくもりは僕にしか感じ取れない
71:
母親の声が耳の中でこだまして離れないで耳の奥にツンと響く
何もできない僕はただ三角座りを崩さないようにと腕に少しばかりの力を入れ、虚ろな目をしたまま、彼が部屋を散らかすことに飽きてまたどこかへ行くのを待つ
75:
これ見ると俺の親父はまだ軽い方だったんだなと思う
77:
12月29日
5日目
目が覚め、体を起き上がらせた時に自分が寝ていた事に気づいた
体には毛布がかけられていている
寝違えて痛い首を左右に動かし部屋の中を見渡してみると彼の姿はもうなかった
僕が寝ている間にまたどこかに行ったんだろう
だけど、彼がいなくなるのと一緒に母親の姿も部屋には無かった
いつも枕を抱いて寝て、それでいて寝相が悪いその姿がどこにも
両手を床に付き、よろめき立ち上がると一枚のメモ用紙が机の上に置いてあるを見つけた
79:
『彰へ、用事があるから少しの間出かけます。』
父親の字じゃない綺麗な字だった
この時に僕は初めて母親の字を見たかも知れない
僕はそのメモ用紙を机の上に置いたまま
朝ごはんを食べ終わるとそれからは読みかけの本をただひたすらに、病的に読んで暇な冬休みの長い一日を過ごす
冬休みの課題はまだ残っているけど、それほど量も残っていないので気にしなかった。
本を読むのをに飽きたら違う事をする、それにも飽きたらまた違う事をする
そうしてただ無駄に一日を過ごそうとした
80:
母親を生き返らせてからは毎日どこか一緒に出かけていたせいなのか、暇が長く感じた
夜の9時半頃、夜食も食べ終わってついにやる事がなくなった僕は外に出るためいつもの大げさな服装を着込んで家を出た
最近は母親がいたから控えていたが、暇つぶしと称して月がよく見える雲がない夜にはいつも外を出歩くことにしていた
欠けた月の光が息の白さを照らす
冬の寒い星は乾燥した空気で輝いて見え、僕の視線はオリオン座から冬の大三角、こいぬ座におおいぬ座と流れる
町内の上空を見上げながら迷うような足取りで町内を一周、犬の散歩みたいなコースをぐるっと歩いて家に帰ってくる
時間にしては15分ほどの短い散歩だった
暗い部屋の電気をつけても母親の姿は何処にもない
82:
僕は机の上に今日作った夜食を置いておき
布団を床に敷いて電気を消すと布団からはみ出さないようにと体を小さくして布団の中から星空を見つめる
見えない星を見ようとしたのはいつからだろう。
97:
なんか母ちゃん大切にしようと思ったわ
100:
12月30日
6日目
僕が目を覚ますと母親が起きたばかりの僕の表情を覗き込み
いつもどおりの笑い顔で
「おはよう彰」
「うん…」
上半身を布団から起こし意識を正していく
昨日の夜、僕が寝るまでに母親は帰ってこなかった
102:
「昨日は一日いなくなってごめんね」
母親は僕に対して素直に謝った
いつも僕のそばにいたかのように
103:
「それでなんだけどね、明日で私いなくなっちゃうじゃん?」
「うん…」
蘇らせた物は一週間の間だけまたこの世で生きていける
それはつまり、年を越した日付にまたこの世から消える
そういう事だ
余命宣告にも似た一週間の“期限切れ”それを母親がどう思っているかは知らないけど、母親との残り少しの時間は確実に消えていく
104:
「だから今日は私がまた生きていられる間に彰に教えたいことがあるんだ」
「母親の私から最後に彰に残しておきたいものがあるの」
「どうかな?」
そう言うと母親は僕に目を合わせる
僕はその視線を逸らすように机の上を見ると、昨日置いておいた夜食の皿は綺麗に洗われて水の中に漬けられていた
あえてなにも考えずに無言で頷いた
「それじゃあ行こうか」
106:
僕は何も聞かずに母親の言うとおりに最寄駅から電車に乗って5駅離れた駅に降りた
年末のせいなのか駅構内の大半の人が家族での集まりに思えた
僕達はそんな人混みをかき分けながら改札を通り駅の外を見る
高い建物が小さなスペースに所狭し競うように立ち並び、上空には濁った空が雨をいつ降らせるかを見計らうように上空を漂っていた
そのためか、開店時間前でも店内の電気をつけている店がいくつかあった。
駅を出ると母親について行きまだ見ぬ目的地へ歩いていく
107:
駅を出てから歩いて5分
横断歩道の赤信号を二人並んで待っているとき、僕の背丈より少し高い位置から母親が言う
「彰はさ…私がいなくて寂しかった?」
108:
「…。」
対向の信号機の上には解け切らなかった雪が水滴を集め一定間隔で落ちている
すぐには答えられけど、いつもの答えられない質問では無い
母親の質問を自分に繰り返し聞いて答えを出す
「多分、寂しくなかった」
それを聞いた母親もすこし間を置いてから
「そっか、そうだよね、彰は強いもんね」
そう言い終えると母親は上空の曇り空を見つめる
109:
「…。」
そんな母親を見て少し考える
「僕の事は…どう思ってた?」
「そりゃあ、彰は私のたった一人の子供よ、可愛くないわけないじゃない」
母親は最初から決まっていた事のように空を見上げながら、笑って言う
「そう…」
他人事のように僕は母親から目線を逸らし言った
別に何かを期待して言ったわけじゃない
110:
信号が青になると母親は空を見上げるのをやめて僕に顔向ける
「じゃあ、行こっか。」
111:
そうやって、目的の場所ががわからないまま母親を先頭に歩いて20分
着いたのは海だった
「海…?」
水が黒く反射し、海風が僕の体を叩きつける
そんな悪天候だからか、浜辺には僕達以外に人影はない
「私ね、昔から辛い時とか悲しい事があったらこの海に来てるの」
そう言うと母親は少しずつ海に向かい歩き出す
「彰はさ、辛い時、悲しい時って、どうしてる?」
海の一点を見つめながら母親は言った
112:
「僕は…、」
言葉に詰まる
でも、恥ずかしいとかそういう感情はなかった
「星を見る」
白い息と一緒に吐くように言う
意識をしないと息ができない
「そっか、彰は星を見るのが好きなんだ」
母親はそれを確かめるように浜辺の上にある空をしばらく眺めると
振り返る
「でも、泣きたい時には泣かないとね」
113:
母親は泣いていた
115:
「私ね、ずっと彰のことを見てた」
「死んでからもずっと彰の事を守っているつもりだったけど」
「私って本当になにもできないね」
「彰を幸せにしたいだけなのに」
「生き返ってから彰のことを見ていると、私に似て悲しいことを必死に隠そうとしている彰を見ていて悲しいの」
「だからね、彰」
「お母さんの前では泣きたい時に泣いていいんだよ」
「それが家族なんだから」
116:
見えない星を見るようになったのはいつからだろうか
死んで星になった母親を見ようとして空を眺めるようになってから
見えない星、それが死んだ母親なのかもしれないと
その星に死んだ母親の存在を思って、辛い時はずっと空を見上げていたんだ
117:
それから僕は泣いた
今まで全部の分を出すようにずっとずっと泣き続けた
118:
どのくらいの時間、誰もいない浜辺で泣いたか
「へへっ…泣きすぎてちょっと疲れたね」
母親がそう言った途端に体が疲れた
「疲れたし休憩してから家にかえろっか」
と母親と近くにあった木片に寄り寄り添って座り海の一点を見つめる
「私ね、多分、生きていたとしても良い母親にはなれなかったと思う」
「そんな事…」
これまでの一週間
母親と過ごした短い時間を事細かに思い出す
「私って料理も下手だし、どんくさいし、すぐ調子に乗っちゃうし」
「はぁ…自分で言ってみると本当にひどいや」
119:
「そんな事、なくは無いけど…、それでも僕は」
”母親に生きていて欲しかった”
それを言ってしまえば母親がいなくなるように感じて僕は言えなかった
120:
「ありがとう、あきら」
僕の途切れた言葉の続きを見透かすようにいつもみたく笑いながら立ち上がると
「それじゃあ、家にかえろっか」
「うん…」
服の砂埃を払い
僕達は誰もいない浜辺を出た
121:
帰りの電車が動き出すとすぐ小降りの雨が降って来てたので、最寄り駅からは二人とも雨で濡れながら帰ってきた
122:
悴む手で電気ストーブの電源を入れて着替え終わると
「それじゃあ、お腹も空いたし夕食でも作りますか」
そういうと母親はいつもの赤いエプロンの紐を結ぶ
「うん…」
僕もエプロンの紐を結び一緒に作る
母親は今までと同じように左手を広げたまま包丁を振り下ろす
夕食を食べ終ると二人とも疲れていたのでいつもより早く寝る
123:
電気を消して暗闇になった部屋には蛇口の雫がシンクの底にに落ちる独特のリズムと携帯ラジオから聞こえる洋楽が混じって僕はなかなか寝付けなかった
「ねぇ、彰」
その声に反応し目を開けるが
母親に背中を向けて寝ていたから顔は見えなかった
「なんで私を生き返らせたの?」
少し躊躇しながら母親は言った
携帯ラジオから流れる洋楽を聴きながら考える
「わかんない…」
母親を生き返らせる
それに理由があったのか、自分でいくら考えても分からなかった
「そっか、」
母親は答えを出さないことを残念そうにするでもなく、嬉しそうにするでもなく静かに
「おやすみ、彰」
124:
12月31日
最後の日
今日で母親はいなくなる
あの本の通りに
「おはよー、彰!」
寝ぼけた声が聞こえ、それを補う
「…おはよう」
「それじゃあ、まずは朝ごはんからだ!」
母親はそう言うと、布団を三角に折り畳み茶髪の長い髪を後ろで結ぶ
125:
「今日はうまく出来ましたな」
机に朝食を並べる
今日は朝食を一人で作ると張り切って言ったので、僕は座って見ていただけだった
見た目はいつもと変わらないけど
「おいしい?」
「うん、おいしい…」
「そっか、良かったー、今日は本気出したからね」
その言葉の続きに“明日”が無いことに気づくと食べる度が落ちた
それからも僕が相槌を言わなくても母親が一方的に話かけて朝食中に沈黙することは無かった
126:
「じゃあ、最後はどうしようか?」
朝食を食べ終えた僕を待っていたように母親は話しかけ始める
「やっぱり、最後は彰がやってほしい事をやりたいなって」
「だから、彰は何かやってほしいことある?」
目の前の僕に質問するってより、自分自身が何か忘れていないかを確認するみたいに言う
「僕は、お母さんに…」
考える、昨日のこと、この一週間の事、自分の人生の11年を振りかえる
127:
「僕の願いは、今はもう、叶ってる。」
「だから、お母さんにしてもらいたいことは今は無い」
「だけど、いつか辛い時とか悲しいことがあったらお母さんに頼っても良いかな?」
明日は無い それを知っているから言った
母親はその答えにいつもみたく笑うと
「そっか、じゃあこの一週間の間に私がやり残したことはもうないね」
「いつでも彰のことを見守ってるから」
「お母さんに頼る時にはいつでも遠慮なく頼っちゃってね」
「家族なんだから」
それを当たり前のことのように母親は言った
128:
「あの…お願い…じゃないんだけど、最後にひとつ聞いていい…?」
「なんでも聞いていいよ、さっき遠慮は要らないって言ったじゃない」
最後にどうしても聞きたかった、この世からまた母親が消えてしまう前に
「僕が生まれた時の事を聞かせて…」
129:
僕がそう言うと母親は机の上に乗せていた腕を膝の上に乗せ、少し椅子の背に身を倒すと
「分かった」
そう言って目を閉じ誰かに誓うように話し始める
130:
「私って、昔からすごく病弱でね」
「彰を生む時はすごくすごく大変だったんだ」
「本当に生死を分ける感じでね。」
「お医者さんからは彰を産んだ後は死ぬかもしれないって言われてた」
「でもね、昔っから、いつ死んじゃうか分からないって言われ続けてたから、死ぬことはそんなに怖くは無かった。」
「遅かれ早かれ私は死ぬんだって思ってたから」
131:
「でも彰は守らなくちゃって」
「彰は私の中で生きているんだって思うと、私が死んじゃいけないって、そう思った」
閉じていた目をゆっくりと開くと、僕の目を見る
「私が死んじゃったらいけないって」
「だから、彰が生まれたときに、それで私が死ぬって分かったときにね」
「私が彰を守ってあげなきゃって思ってたんだけど」
「どうしてもダメだった」
「私は彰の親失格なのかもね」
「そんな事、無いよ…」
「僕の母親はお母さんだけだから」
それは僕が生まれる前から決まっていた事だと思うけど
それを言えるのは今だけだろう
132:
「ありがとう、彰」
そう言うと背伸びをして椅子から立ち上がり
「息子にそんな事言われる私はなんて幸せなんだろうねー」
そう言うと朝食の皿を洗い始める
133:
それからは僕と冬休みの宿題をやったりテレビ見たり
一日中母親はありきたりの事しかしなかった
母親に何もしてやることも出来なかった
最後なのに、何もできかった。
134:
午後11時55分
真っ暗な部屋の中、母親と向かい合わせに寝ながら一つのイヤホンを分け合い二人で一緒にラジオを聞く
135:
「この一週間で彰と一緒にいろんな所に行って、いろんな事してさ」
「そうやって最後に普通の親子らしく過ごせて」
「最後にも彰が隣にいる」
136:
「彰、最後に、私と約束してもいい?」
「うん…。」
「一週間だけだったけど」
「とても短かったけど、私は彰と一緒にいれて幸せになれた。」
137:
「だから、彰には私より幸せになってほしい」
「それが私からの約束」
「守ってくれる?」
139:
「うん…。」
「彰はいい子ね。」
「もう会えないのかな…」
自分でも分かっているのに、最後に母親の口から別れを聞きたかった
「そうかもね、お別れかもしれないね…。」
母親の顔を見ることが出来なかったけど、多分、あの、笑った顔をしていると思った
「それでもね、良いんだ私」
「私が彰のお母さんって事には変わりないもの」
「それだけで良い、それだけで私は」
「十分に幸せだから」
140:
そう言い終える母親の姿を僕は見ることができなかった
何も言えなかった。
だけどその言葉はいつまでも僕の心に残っている
141:
こうして僕が母親を生き返らせてからの一週間の話は終わる
僕が母親の姿を見る事はもう無い
そうやって僕が11年を過ごしてきたように、もう二度と母親には会わないだろう。
それでも一週間母親がまたこの世に生きていたことに代わりはない
誰の代わりでもない母親がいた事
それだけで僕は幸せだ
142:
足先が冷たくなる床を歩いて台所へエプロンを取りに行くと
途中、机の上に置いてある小さなメモ用紙が置いてあった。
『彰の幸せを心から願ってます お母さんより』
144:
最後まで見てくれた人ありがとう
145:
面白かったよー
こういうの好きだよー
また書いてね
ありがとう(*´ω`*)
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