刃牙「俺と親父と兄さんと梢江でちゃぶ台を囲むことになった」back

刃牙「俺と親父と兄さんと梢江でちゃぶ台を囲むことになった」


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1:
─ 刃牙の家 ─
刃牙(いやァ……)
刃牙(やってみなきゃワカらない、なんて言葉があるけど──)
刃牙(まさしくあれは真実だったんだな)
刃牙(正直いって、“やってみた”俺自身がまだ信じ切れてないんだから)
刃牙(半ばダメ元で、三人を誘ってみたけど……)
刃牙(まさか実現するとはね……)
刃牙(俺と親父と兄さんと梢江で、食事をすることになるなんて……ッッ)
元スレ
ニュース報(VIP)@2
刃牙「俺と親父と兄さんと梢江でちゃぶ台を囲むことになった」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1388247820/
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5:
刃牙「お待たせ……ようやく食事ができたよ」
梢江「三人ともさっき来たところよ」
梢江「前もっていってくれれば、私も手伝ったのにさ……」
刃牙「イヤ、いいんだよ……今日は梢江もお客なんだから」
ジャック「…………」
勇次郎「…………」
刃牙(うおッ!)
刃牙(なんて重たい空気……ッ! なんか喋れよ……梢江、可哀想じゃん……)
8:
刃牙(ご飯に味噌汁……キャベツの千切り……焼き魚(サンマ)……)
刃牙(ど真ん中には生姜焼き……)
刃牙「ま、親父や兄さんにはチト物足りない量かもしれないけど……」
刃牙「あいにくこのちゃぶ台、小さいしさ……」
刃牙「もし足りなかったら、あとは各自で夜食でもどうぞ……ってことで」
シ〜ン……
刃牙「…………ッッ」ゴクッ…
刃牙「じゃ、いただきまァ〜す」
梢江「いただきます」
ジャック「ああ……」
勇次郎「…………」ペコッ…
10:
モニュ…… モグ…… ズル…… ソボ…… モニュ……
サクッ…… モニュ…… ゴクッ…… ズズ…… ゴキュッ……
刃牙(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ)
刃牙(会話……ゼロ! メシだけがただただ減っていく……)
刃牙(気まずい……)
刃牙(ある意味、バチバチやり合ってる時よりもずっと苦痛だ……ッッ)
刃牙(ここはこの団らんの主催として──)
刃牙(俺が──)
刃牙(この俺が何とかしなければッッッ!)
13:
刃牙「…………」コホン…
刃牙「兄さん……味はどうかな……?」
ジャック「ウマい……」モニュ…
刃牙「ア、アリガト……」
刃牙「…………」
刃牙「親父……どう?」
勇次郎「うむ……」ズズ…
刃牙「“ウマかった”と取っちまうぜ……?」
勇次郎「好きにしろ」
刃牙「ハハ、ハ……」
刃牙(終わっちまった!!!)
16:
刃牙「梢江……どうかな?」
梢江「うん……オイシイ」モグ…
梢江「私が手伝ってたら、かえって足手まといになってたかも」
刃牙「ンなことないってェ〜」
刃牙「今度は梢江の手料理を、二人に振舞ってやりなよ」
他愛ない恋人同士の会話であった。
しかし、今刃牙の心の中はというと──
18:
刃牙(俺は──逃亡(にげ)たッッッ!)
刃牙(親子喧嘩を通じて多少は心が通じたとはいえ、まだまだ高い壁である親父と)
刃牙(親父以上に肉親らしい会話なんて交わしたことはなかった兄さん──)
刃牙(俺はこの二人から逃げ、気心の知れた梢江へと避難したッッッ!)
刃牙(なんという卑怯さ……ッッ)
刃牙(なんという醜態……ッッ)
刃牙(この四人で親交を深めたいと、一家団らんを呼びかけたのは俺なのに──)
刃牙(その義務を放棄し、安易な安らぎを追い求めてしまった!)
刃牙(ダメだ! このままじゃダメだッッッ!)
21:
刃牙(俺が……ッッ)
梢江「あの……ジャック、さん……」
ジャック「ン……?」
刃牙(梢江!?)
梢江「もしかして……まだドーピング、やってるんですか?」
ジャック「ああ……やっている」
刃牙(梢江……なんという勇気! 俺以上に兄さんとは接点がないのに……ッッ)
22:
梢江「たとえ明日を捨てても強くなりたい……っていう、ジャックさんの生き方……」
梢江「だれにも否定することはできません」
梢江「でも……どうかご自愛下さい」
梢江「あなたが死んでしまったら、悲しむ人が大勢いるのだから……」
ジャック「…………」
ジャック「優しいんだな、キミは……」
ジャック「あの東京ドーム地下闘技場で行われたトーナメントでもそうだった」
ジャック「キミは……ステキな女性だ」
23:
弟である刃牙ですら、わずか一言しか引き出せなかったジャックから、
より多くの言葉を引き出した。
しかも、ごく自然(ナチュラル)に──
刃牙(梢江……)
刃牙(梢江ッッッ!)
刃牙(やっぱ君ってサイコーの女だ!)
ジャック「だが……俺は継続(つづ)けるしかないんだ。強くなりたいからな」
梢江「ジャックさん……」
26:
勇次郎「フン……」
刃牙「!」ビクッ
勇次郎「血が薄いから、ステロイドなどに頼らざるをえなくなる」
勇次郎「不甲斐ないにも程がある」
刃牙(お、親父……ッッ! ここにきて……ッッッ!)
刃牙(兄さんにとってはキツイ言葉だろう……)チラッ
ジャック「そう……父よ」
ジャック「たしかに俺は出来がワルい」
ジャック「日に二度敗れるバカ……そのバカを二度もやったのだからな……」
ジャック「だが──」グニャア…
刃牙(兄さんの空気が変わった!)
刃牙(まさか、ここで闘争(ファイト)!?)
28:
ジャック「俺にはああするしかない」
ジャック「どんなになじられても、ああするしかないんだ」
ジャック「父よ……俺だってやれるんだ……ッッ」
刃牙(や、やる気!?)
刃牙(どうする!?)
刃牙(止めるか──イヤ、外に出てもらうか!? 家、壊れちゃうし──)
刃牙(イヤイヤ、それより梢江の安全を確保するのが先だろうがッ!)
刃牙(なに自分のことばかり考えてやがる、俺はッ!)
勇次郎「ふむ……」
30:
勇次郎「強さを追い求めるという行為──これは料理にも似る」
勇次郎「より美味なる食材を集め──」
勇次郎「より美味なるタイミングでかけ合わせ──」
勇次郎「より美味なるスピードで仕上げる」
勇次郎「しかし、これだけは足らぬ」
勇次郎「味の追求には、視野の広さも欠かせぬ」
勇次郎「あえて未体験の食材を、使用(つか)ってみる……」
勇次郎「あえて未経験の調理法を、試行(ため)してみる……」
勇次郎「ウマイかマズイか二の次だ。そのハートこそが偉大なのだ」
勇次郎「効率だけではない。あらゆるものを受け入れる度量の深さこそが肝要なのだ」
33:
勇次郎「ゆえにキサマも、俺や刃牙に並びたいというのなら──」
勇次郎「キサマが使用(つか)っている薬物の味を楽しむぐらいの度量を身につけろ」
勇次郎「そうすれば、多少はマシになるやもしれぬ」
勇次郎「もっとも……なったらなったで喰らうまでだがな」
ジャック「…………」
ジャック「父よ……アリガトウ」
勇次郎「フン」
刃牙(オオ……ッ!)
刃牙(兄さんと親父が……マトモな会話を……!)
刃牙(なんだか俺まで嬉しくなってきちまった!)
38:
梢江「ところで……」
梢江「勇次郎さんの好物って、なんですか?」
勇次郎「好物か……」
勇次郎「色々あるが……最近ではメフンがウマかったな」
ジャック「メフンというのはなんだ?」
勇次郎「メフンも知らねェとは……」
勇次郎「やはりおめェには、未体験に手を出す度量が足りねェらしい」
ジャック「面目ない……」
勇次郎「メフンってのは、鮭の内臓の塩辛だ」
ジャック「鮭(サーモン)か……覚えておく」
40:
梢江「私もメフンって、テレビで見たことしかないんですけど──」
梢江「いったいどんな味なんですか?」
勇次郎「まァ……こういうのは口で説明するもんでもねェが……」
勇次郎「メフンは古来より珍味として珍重されている」
勇次郎「塩味がきいており、とろりとした舌触りと濃厚な味わいを存分に楽しめる」
勇次郎「一言でいや、鮭の持つ生命力を凝縮した一品……ってとこか」
梢江「へぇ〜」
ジャック「ホウ……」
41:
刃牙がついに一言も発さなくなった
42:
ジャック「そこらで食えるものじゃ、なさそうだな」
勇次郎「うむ……」
勇次郎「最近じゃ、スーパーなどでも購入できるが」
勇次郎「やはりメフンの神髄を味わいたくば、ホンモノでなくてはな」
梢江「ホンモノって……例えばどこへ行けばいいんですか?」
勇次郎「メフンは北海道の郷土料理だ」
勇次郎「だから北に行くか……あるいは光成に頼むのもアリかもな」
勇次郎「なんなら……ハナシをつけてやってもいい」
梢江「本当ですか? ぜひお願いします!」
44:
ジャック「父は……グルメなんだな」
勇次郎「食通を気取るつもりはねェが──」
勇次郎「闘争も食事も……どうせ喰らうならウマイもんに限るからな」
梢江「そういえば、バキ君に作ってたお味噌汁もおみごとでした」
勇次郎「フン……」ムス…
刃牙(嗚呼……親父たちが普通の会話をしている……)
刃牙は感動していた。
父と兄と恋人が、仲むつまじく会話をしているのが嬉しかった。
しかし、同時に──もう一つの感情をも覚えていた。
47:
刃牙(なんだろ……この微妙なイラ立ちは……)
刃牙(俺でさえ、親父と真っ当な会話をするのにはかなりの時間を要した……)
刃牙(出会うたびに殴りかかり、ブッ飛ばされ──そんな関係だった)
刃牙(なのに、俺より親父と関わった時間が圧倒的に少ないこの二人が──)
刃牙(すでに普通の会話をしている!)
刃牙(てゆーか、メフンってなんだよ! 俺には話してくれたことないじゃんッッッ!)
50:
刃牙「!」ハッ
刃牙(まさか……嫉妬(ジェラシー)!?)
刃牙(俺は親交を深めるためにこの三人を誘っておいて、いざ親交が深まったら)
刃牙(嫉妬してしまっているのか!?)
刃牙(バカなッッッ!)
刃牙(俺は今日、引き立て役で終わっていいと心に誓っていたハズだ!)
刃牙(なのに……ッッ)
52:
刃牙(イヤ……たしかにそうだ)
勇次郎「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ジャック「〜〜〜〜〜〜」
梢江「〜〜〜〜」
勇次郎「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
梢江「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ジャック「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
刃牙(さっきから、会話が全然頭に入ってこない。つーか、三人とも俺を見てない……)
刃牙(俺だけ……蚊帳の外……ッッ)
55:
刃牙(こんな……こんなことがあっていいのか!?)
刃牙(今日、この四人で食事しようって提案したのは俺なのに……)
刃牙(俺を差し置いて……イチャイチャしやがって……ッッ)
刃牙は時として、自分にウソをつく。
子供の頃は、オモチャを買ってもらうとすぐに興味なさそうに隠れてしまった。
ピクルの存在を知った時も、そうであった。
本当はピクルに惚れていたのに、興味がないとウソをついていた。
56:
他の三人が楽しんでいるのなら──自分は蚊帳の外でもいい。
自分は主役じゃなくていい。
引き立て役で、脇役でかまわない。
こう誓ったはずの刃牙であったが、これらは全てウソであった。
本当は──真実(ホントウ)は、範馬刃牙がこの食卓の中心でいたい!!!
そして──
自分につき続けたウソは──ストレスへと変化(かわ)り、爆発するッッッ!
64:
バンッ!
三人を振り向かせるため、ちゃぶ台に平手を叩きつける刃牙。
勇次郎「!」ピク…
ジャック「!」
梢江「!」ビクッ
一斉に己に振り向いた三人を見て、刃牙はすぐさま冷静さを取り戻した。
刃牙(バカッ……!)
刃牙(俺はなんてことを……ッッ)
67:
勇次郎「なんだ」
ジャック「どうした……バキ?」
梢江「どうしたの? ビックリしちゃった……」
刃牙「いやァ〜あの……えぇ〜っと……」
何一つプランを立てていないのに、
嫉妬(ジェラシー)のままに行動し、三人の注目を浴びてしまった刃牙。
その刃牙の目に入ったのは──
70:
刃牙(サンマ……!)
刃牙(俺が焼いた……みんなで食べた……サンマ……!)
刃牙「…………」ゴクッ…
思いついてしまったからには──言うしかない!
もう後戻りはできない!
今の刃牙の心境は、道を間違え、
誤って高道路に入ってしまったマヌケなドライバーの心境にも似て……ッッ
72:
刃牙「今日、俺たちサンマを食べたけどさ……」
刃牙「今ここに、俺と親父とジャック兄さんがいるじゃん……」
刃牙「範馬が三人で……サンマ……なんちって」ボソッ…
刃牙(言っちまったァ!)
シ〜ン……
刃牙(恥ずかしいッッッ!)
視界に映ったサンマから、ふと連想してしまった一発ギャグ──
ハッキリいってしまえば、意味不明である。
しかし、少年は言うしかなかった。
78:
ジャック「バキ……」
ジャック「なかなか面白かったぞ」
梢江「……フフッ」
刃牙(気遣われたッッッ!)
ジャック・ハンマーのジャックらしからぬ気遣い──
松本梢江の梢江らしい気遣い──
これを刃牙はあえて素直に受け止めた。
刃牙(アリガトウ……二人とも……)
82:
しかし──
勇次郎「クスッ」
刃牙「!?」ギクッ
勇次郎「クスクスクスクスクス……」
勇次郎「見え透いてるぜ……刃牙よ」
勇次郎「オマエを置いてきぼりに、談笑する父と兄と恋人に」
勇次郎「嫉妬(ジェラシー)を覚え……」
勇次郎「プランも立たぬのに、テーブルを叩いて気をひいたものの──」
勇次郎「なにを話していいかすらワカらず」
勇次郎「勢いに任せ、咄嗟に苦笑モノのジョークをかましちまった……ってとこか」
刃牙「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
87:
勇次郎「エフッ」
勇次郎「エフッ、エフッ、エフッ!」
勇次郎「アハハハハハハハハハハハッッッ!!!」
勇次郎「アハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」
ジャック(なんという……なんというサディストッ!)
梢江(ひどい……)
刃牙「…………」
88:
範馬刃牙、18歳──
地上最強の父を手こずらせ、地上最強を差し出されるほどの雄(おとこ)ではあるが、
今の彼は──彼に憧れる鮎川ルミナ少年よりも縮小(ちい)さくなっていた。
刃牙(もう俺……黙ってよう)
この後、刃牙が食事終了までに発した台詞は「ごちそうさま」のみであった。
89:
食事が終わり──
梢江「今日はごちそうさま!」
梢江「じゃあまた明日、学校でね!」
梢江「今度は私が料理、作るからね!」
刃牙「ああ、楽しみにしてるよ」
刃牙(梢江……君がいなきゃ、今日はどうなっていたことか……)
刃牙は改めて、梢江がイイ女だと理解していた。
92:
ジャック「バキ……」
刃牙「兄さん!」
ジャック「今日は感謝している……」
刃牙「こっちこそ……来てくれてありがとう」
ジャック「だが俺たちは……いずれはやり合わねばならない」
刃牙「うん……ワカってる」
刃牙(だって俺たちは……格闘技やってんだもん……)
全く振り返らずに立ち去るジャック。
刃牙には、その兄の姿が誇らしかった。
95:
勇次郎「フン……」ザッ…
刃牙「親父……どうだった?」
勇次郎「……こんなことはもう二度とねェぞ」
刃牙(二度とない、か……そりゃそうか……)
勇次郎「あんな小さなちゃぶ台を四人で囲むなんざ……狭苦しいったらねェ」
勇次郎「こんなことは二度もやるもんじゃねェ」
勇次郎「次は……もっとでかいテーブルを用意しておけ」
刃牙「ハハ……ワカったよ、親父!」
         < 完 >
96:
乙、
97:
乙 面白かった
98:

連載再開しても範馬家周りはこんなノリでいいや
99:
>>98
スピンオフで有りそうだな
101:

10

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