【オーク】少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」back

【オーク】少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」


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2:
アルラウネ「それで、これからどうするの?」
少女「おじいさんは、川を下ったところに人間の街があるって」
アルラウネ「当面の目標はそこだね」
少女「森から2日くらいの距離だってさ」
アルラウネ「遠いね」
少女「すぐだよ」
アルラウネ「そう?」
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少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」
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4:
少女「でも、いろいろ用意しないと入れない」
アルラウネ「?」
少女「身分証とか、通行証とか、お金」
アルラウネ「ふーん」
少女「だから、乞食のフリする」
アルラウネ「乞食って、きたなくて臭いやつ?」
少女「……そうかも」
5:
アルラウネ「でも、できるの?」
少女「本物の乞食だったから」
アルラウネ「へー」
少女「ボロきれが必要かな。あと動物も」
アルラウネ「なにに使うの」
少女「乞食のきたなさと臭さのためだね」
アルラウネ「乞食にもルールがあるんだ」
少女「そんなとこ」
6:
少女「今日はこのへんで野営しようか」
アルラウネ「火使う?」
少女「隠れるとこがなかったらね」
アルラウネ「見つけよう」
少女「木の上で寝ればいいよ。ちょうどここ、小さな森みたいだし」
アルラウネ「よかった」
少女「この木なんていいかも」
7:
アルラウネ「うん、すごくいい木。まだ若いけど大きくて、どっしりしてる。この人なら虫もあんまり寄ってこないよ」
少女「そっか、分かるんだ」
アルラウネ「植物のことならまっかせなさーい!」
8:
少女「……?」サッサッ
アルラウネ「ごめんね、ちょっと枝一つ借りますね」
サワサワ…
少女「んー」
アルラウネ「? どしたの」
少女「明かり見える」
アルラウネ「だれか近くに住んでるのかな」
9:
アルラウネ「お邪魔してみようか?」
少女「もう遅いから迷惑。朝になったらね」
アルラウネ「そうだね」
37:
少女「ここか」
アルラウネ「立派な家だね」
少女「木で出来てる。人間は木とか石でなにもないところに家を作るらしいから、多分人間かな。住んでるの」
アルラウネ「じゃあ、黙ってるね」
少女「うん。よろしく」
少女「ごめんください」コンコン
「開いてるわよ。どうぞ」
38:
「――昨日から変な魔力が溜まってると思ってたけど、まさか人間だとは思わなかったわ」
少女「変? ですか?」
「あ、ごめんなさい。私は魔女。この森に住んでるの」
少女「女、です」
魔女「それで、この森に住み始めてからずっと平和だったんだけどね」
魔女「あなたのが変わった魔力で、しかも結構な大きさだったから警戒してたのよ」
少女「お騒がせしてごめんなさい」
39:
魔女「でも、取り越し苦労だったみたい。ねえ、どんな魔法を使ってたらそんな魔力になるの? よかったら教えてくれるかしら」
少女「えっと、初、中級の魔法はだいたい使えます」
魔女「初中級? 随分聞いていない区分だわ」
少女「なにかおかしいところがありましたか」
魔女「いえ、単に古いってだけよ。あなたの師匠は相当にお年の方みたいね」
少女「100歳は超えていたはずです」
魔女「あらすごい、それなら納得ね。どんな方?」
40:
少女「物知り、です」
魔女「ふうん……」
少女「どうかしましたか?」
魔女「いえ、人に魔法を教えるくらいだと、大体の人は魔法ばっかりに傾いちゃうから、そういう人はあまりいないのよ。だからすごいなって」
少女「へえ」
魔女「他にも使える魔法はあるかしら?」
少女「状態異常系の魔法が得意です」
41:
魔女「へえ。どんなの? オーソドックスに毒とか盲目かしら」
少女「有名どころはひととおり」
魔女「あら、すごいわね。使って見せて?」コト
少女「水? ですか?」
魔女「ええ。毒の魔法をお願いしていいかしら」
少女「ごめんなさい、生き物にしか使えなくて」
魔女「それなら、私でいいわよ」
42:
少女「えっ……」
魔女「大丈夫大丈夫。ちょっとやそっとじゃ魔女は死なないもの」
少女「ホントにいいんですか」
魔女「構わないわ」
少女「じゃあ弱めに……えいっ」
魔女「……? なにも起きな」ゴボッ
少女「魔女さん!」
43:
魔女(な、に……!? これは!?)
少女「だ、大丈夫ですか!」
魔女(内臓からの出血? いったいどんな毒……)
少女「これ吸ってください! 解毒薬です!」
44:
魔女「――はあ。ありがとう」
少女「ごめんなさい!」
魔女「いいのよ、こっちから頼んだんだから」
少女「本当にすみません!」
魔女「ふう。それにしても強力な毒ね、気軽に頼んだ私が悪かったわ」
少女「いえ」
魔女「見たことも聞いたこともない魔法だけど、いったいどうやって習得したの?」
45:
少女「あの、自分で考えました」
魔女「えっ?」
少女「アルラウネの花粉を研究していたんですが、その過程で出来た魔法なんです」
魔女「アルラウネ!? ってあの妖花アルラウネ?」
少女「そういう呼び方もあるそうですね」
魔女(なんてこと……)
魔女(森林、樹海の奥地に生息し、普通の人間では出会うこともできないと言われるアルラウネ)
46:
魔女(仮に出会ったとしても、その摩訶不思議な力によって瞬時になにもかもわからなくされてしまうという……)
魔女「その、アルラウネを研究しただなんて」
少女「?」
魔女(もしかしたら、この子はとんでもない……)
魔女「ねえ、ウチに住む気はないかしら」
少女「え?」
魔女「私は腐っても魔女よ。あなたのいうところの初中級の魔法以上に上級の魔法も扱えるし、古代魔法や、専門の分野なら最上級の魔法も使えるわ」
47:
少女「そうなんですか」
魔女「見たところ、あなたは優れた才能があるわけでもないし、莫大な魔力を持っているわけでもない。でも、」
少女「でも?」
魔女「アルラウネをベースにした魔法っていう、特異な技術を持ってる。誰も先人がいない道。あなた自身が先駆者になる」
魔女「それは名誉で、とても素晴らしいことよ」
少女「ふうん」
魔女「そのお手伝いを、ぜひ、させてもらいたいの」
48:
少女「どうしようかな」
魔女「どうしようかな……って、え? 興味ないかしら?」
少女「ないです」
魔女「ありゃりゃ」ガコッ
少女「世界を見て回りたいんです。一箇所に立ち止まるのも、ちょっと」
魔女「そっかー」
少女「今いちばん欲しいのは、お金ですけどね」
49:
魔女「お金かぁ。そりゃ、旅にはお金が付きものだものね」
少女「いえ、服と身分証明書が欲しくて」
魔女「あら。お堅い文書はないけど、服ならいくらでもあげるわよ」
少女「ホントですか!」
魔女「私のお古だけど、いいかしら?」
少女「ありがとうございます!」
50:
魔女「こんなところかしら」
少女「ありがとうございます」
魔女「動きやすい服装が好きなのね」
少女「はい」
魔女「でも、いざという時のためにローブも羽織っていったほうがいいわ」
少女「どんな時ですか?」
魔女「寒いところに行く時とか、盗賊から身を隠す時とかね」
51:
魔女「あるにこしたことはないわよ」
少女「そうなんですか」
魔女「私の気持ちよ。受け取って」
少女「ありがとうございます」
魔女「はあ。本当に惜しいわ、あなたなら高名な学者になるのだって夢じゃないのに」
少女「そのときはよろしくお願いします」
魔女「ふふ。でもその欲張らないところが貴女のいいところなのかもね」
52:
アルラウネ「いい人だったねー」
少女「そうだね」
アルラウネ「魔女さん、魔力は感じ取れるのに、私の擬態はバレなかったね」
少女「私とアルラウネの魔力が似てるからかも」
アルラウネ「どういうこと?」
少女「アルラウネをベースにした魔法を使ってたから、魔力の質も似てきたってこと」
アルラウネ「なるほどねー」
53:
少女「じゃ、さっそくだけどこのローブボロボロにしようか」
アルラウネ「なんでー!?」
少女「乞食になるんだよ」
アルラウネ「もったいない」
少女「そう?」
アルラウネ「魔女さんもいろいろ使い道あるって言ってたのに」
少女「魔女なんて人がタダでモノをくれるわけないってお伽噺をしてくれたの誰だっけ」
54:
アルラウネ「それは、そうだけど。お話はお話だし」
少女「それに、なんか仕掛けがあったら嫌だもん。ひと思いにね」
アルラウネ「やっぱり、もったいないなー」
少女「いつでも買えるよ」
74:
少女「ふう」
アルラウネ「準備万端?」
少女「準備万端」
アルラウネ「うまくいくかな」
少女「知らない」
アルラウネ「うん、そうだよね……そういうと思った」
少女「ん」
75:
アルラウネ「どうして街からちょっと離れたところでやるの?」
少女「衛兵がうるさいから」
アルラウネ「なるほどねー」
ガタッ、ゴトッ
少女「ちょうどいいところに馬車が来た」
アルラウネ「作戦実行ー」
ガタッ、ゴトッ
76:
少女「おじ、さん、おじ、さん……」
「ん? なんだ、小汚いガキだな」
「物乞いだろ。ほっとけや」
「そうさな」
「どうした」
「いや、物乞いのガキです。お気になさらず」
少女「まって……たべもの……」
77:
「馬を止めろ」
「は、はい」
「食い物でもやるんですか?」
「よく見たらこのガキ、器量は悪くねえ」
「連れてくんで?」
「縛って荷車に載せとけ」
「へいよ、ボス」
少女(よし)
79:
「おとなしくしてろよ」ジャッ
少女「……」
アルラウネ「……大丈夫?」
少女「平気。上手く潜り込めたね」
アルラウネ「それほどけないの」
少女「ほどける」
アルラウネ「え、どうしてほどかないの?」
80:
少女「街に入ってからほどくよ、怪しまれたくないから」
アルラウネ「ふーん。痛くない?」
少女「全然」
アルラウネ「じゃいいか」
「ん、んぐ」
少女「っ!?」ガタタッ
「おい! おとなしくしてろって言ったろが!」
81:
少女「ご、ごめんなさい」
「全く」
少女「……」
「……」
少女「あなた誰? 奴隷?」
「んんぐ」フルフル
少女「じゃあ身売りされたわけか」
82:
「……」ウルッ
少女「泣かない泣かない」
「……」
少女「口縛られてるから会話が出来ないのかー」
「……」コクコク
少女「うーん、もうちょっと待っててくれたら助けられるよ」
「!」パァァ
83:
少女「そろそろ街に着くはず。……あ、止まった」
「――――」
「――――――」
少女「衛兵と会話してるみたい」
「――――――」
「――!」ガタッ、ゴトッ
少女「通れたっぽいね」
84:
少女「荷物検査なしで通れるってことは、信頼されてる人間なのかな」
「……」
少女「あ、そうだった。こんなものはちょちょっとね」スポッ
少女「ほどいたげる。苦しかったでしょ」
「すはぁ。あ、あの、あなたは」
少女「みなしごの乞食」
「あ、えと、」
85:
少女「話は後。出よ」
「で、出?」
少女「んー、だんだん暗いとこに入ってく。この辺で降りよか」ダキッ
「??」
少女「ほっ」バッ
ドシャァ!!
「ひっ」
86:
少女「だいじょぶ?」
「おい! 今の音何だ!」
少女「ん、見つかる前に逃げよ」
「は、はい」
87:
「助けてくれてありがとう。私はエルフ」
少女「少女です」
エルフ「あなたは……乞食の方?」
少女「そうだよ」
エルフ「私は、エルフの隠れ里に住んでいる酋長、の孫の一人」
少女「へー」
エルフ「この街から抜け出して帰れたら、ぜひお礼をさせて」
88:
少女「え、どうでもいい」
エルフ「どうでもいい!?」
少女「うん」
エルフ「そ、そんな。ですがそれでは私たちの面目が」
少女「じゃあ行く」
エルフ「ええっ!?」
少女「行かないと困るんでしょ」
89:
エルフ「……あなたのような変わったお人は初めて」
少女「私もエルフを見るのは初めて」
エルフ「エルフをご存知で?」
少女「有名だもの」
エルフ「そうですか……。その上でお礼には興味がないと」
少女「あ、でもエルフの里にはちょっと興味ある」
エルフ「本当に変わったお方。そういえば、先ほどもなにか、誰かとお話していたような」
90:
少女「あ、えーっと、あれは、その、ひとりごと」
エルフ「? 誰かと遠距離でお話していたのでは」
少女「違います」
エルフ「そうですか。……」
少女「……」
エルフ「少女さん」
少女「なに」
91:
エルフ「私は里に戻らねばなりません。皆が心配しているでしょうから」
少女「分かった。ばいばい」
エルフ「え、あ。そ、それで、お願いが」
少女「?」
エルフ「あの、私と一緒に来ては頂けないでしょうか。一人では心細いので」
少女「え、うーん」
エルフ「だめ、ですか」
92:
少女「それよりも先に身分証明書が欲しい」
エルフ「え?」
少女「また衛兵すり抜けるの面倒だし」
エルフ「で、でも先ほどは難なく」
少女「奴隷は物扱いだもの」
エルフ「あ……」
少女「どうする?」
93:
エルフ「えっ、と。あなたに、ついていっても?」
少女「いいよ。帰れるまでね」
エルフ「ありがとう」
少女「どうしよっかな。身分証明書」
94:
少女「お待たせ」
エルフ「いえ」
少女「この街の乞食の人に聞いたら、《ギルド》ってところで仮に登録できるみたい」
エルフ「ギルド?」
少女「特定の家を持たない旅人とかのためのサービスらしいよ」
エルフ「そうなんですか」
少女「その代わり制約も多いし、悪いことしたり、ギルドに貢献しなかったら、簡易証明書は即永久取り消しだって」
95:
エルフ「厳しい身分制度なのですね」
少女「そう?」
エルフ「私の里では考えられないほどに」
少女「ま、いっか。エルフも来て」
エルフ「いえ、私は」
少女「登録しなくても出られるけど、面倒だよ」
エルフ「そうなのですか」
96:
少女「そういうシステムだもの」
エルフ「それなら」
少女「うん、行こっか。耳かくしてね」
エルフ「なぜです?」
少女「エルフってバレるよ」
97:
少女「こんにちは」
受付「あらいらっしゃい。かわいい冒険者さんたちね」
少女「簡易登録をお願いしたいのですが」
受付「ギルドに来るのは初めて?」
少女「はい」
受付「文字は読める?」
少女「はい」
98:
受付「じゃあこれ、説明書き。わからないところがあったら聞いてね」
少女「………… ………… はい」
受付「次はこの書類ね。ギルドとあなた個人の契約書よ」
少女「はい」
受付「わからないところは?」
少女「この『職業』って、なんですか」
受付「あなたのお仕事よ」
99:
少女「いえ、なんと書けばいいのですか? なし?」
受付「ああ、具体例ね。たとえば、武器での戦いが得意で体力に自信があるなら戦士、魔法が得意なら魔法使い、って書けばいいのよ」
少女「うーん」
受付「あなたはなにが得意なのかしら」
少女「ひと通り、なんでもできます」
受付「それなら『冒険者』か『見習い』かしらね。旅をしているとか、腕に自信があるなら冒険者。まだへっぽこだと思うなら見習いね」
少女「冒険者にします。書けました」ペラッ
100:
受付「はい。……あら、出身が抜けているけど」
少女「みなしごなんです」
受付「じゃあ、『不明』って書いてくれるかしら」
少女「はい」
受付「……はい、OK。あとは、ここに署名捺印して」
少女「捺印?」
受付「本人証明のために自分の指紋を残すのよ。このインクを使って?」
101:
少女「……こうですか?」
受付「それでいいわよ。あなたの証明書を作ってくるから、ちょっと待っててね」
少女「はい」
102:
受付「少女さーん」
受付「お待たせしました。これがあなたの簡易身分証明書です」
受付「契約書にもあったと思いますが、偽名の発覚、犯罪行為、ギルドへの貢献行為が見受けられないなど、
 規約違反がありましたら即刻こちらは永久失効し、またそれ以外の事象に置いて当局はいっさい責任を持ちませんのであしからず」
少女「大丈夫です」
受付「さっそく依頼を探しますか? それともお仲間を?」
103:
少女「別件があるのでまた後で」
受付「そちらのあなたは?」
エルフ「あの、私も登録します」
受付「じゃ、この説明書きを……」
104:
少女「ん。おっけ、行こか」
エルフ「本当に大丈夫なのですか?」
少女「平気平気。人通りの多いとこに出るから、もう一回耳隠して」
エルフ「分かりました」
105:
衛兵「街の外へ出るのか」
少女「はい」
衛兵「身分証明書の類を見せろ」
少女「どうぞ」
衛兵「そっちもだ」
エルフ「はい」
衛兵「よし。お前ら、今日ギルドに登録したのか」
106:
少女「そうです」
衛兵「死体回収だのなんだの、面倒な仕事を増やしてくれるなよ」
少女「もちろんです」
衛兵「未熟者と女子供は死にやすくて困る。準備は整っているのか?」
エルフ「はい」
衛兵「なら出てよし。また会えるといいがな」
少女「こちらこそ」
107:
エルフ「――なんですか彼は」
少女「衛兵」
エルフ「無礼な人」
少女「どこもあんな感じだよ」
エルフ「それにしたって愛想というものが」
少女「あの人たちもそれなりに苦労してるし」
エルフ「あ、ごめんなさい。愚痴を」
108:
少女「別に」
エルフ「すみません」
少女「そうだ。エルフの里ってどこにあるの」
エルフ「この街があることは知っていました。多分、ここから南西かと」
少女「距離はどのくらい」
エルフ「何日か馬車に揺られて」
少女「じゃあ近いね」
109:
少女「じゃあ近いね」
エルフ「近い? 遠いではなく?」
少女「あの馬車、歩いて追いつけるくらい遅かったし」
エルフ「そうなのですか」
少女「だから、ちょっと急げばすぐだよ」
エルフ「どちらにせよ、私は少女さんに従います」
少女「そう。いいけど」
120:
少女「あはは。それでね――」
エルフ「私にも覚えが――」
少女「……っと。そろそろいい頃合い」
エルフ「なにが?」
少女「野営」
エルフ「まさか、ここで寝泊まりするの!?」
少女「? そうだよ」
121:
エルフ「で、でも危なくない?」
少女「火を焚くか、寝床を見つけるか、木の上で寝るかのどれかだけど」
エルフ「ね、寝床を見つけよう?」
少女「さっきから探してるけど、ないよ」
エルフ「そんな」
少女「もう暗くなるし、ご飯も食べてない。早く決めよ。焚き火と木の上どっちがいい?」
エルフ「そ、それでは焚き火を」
122:
少女「向こうに茂みがあるの見える?」
エルフ「うん」
少女「そこで寝よっか。ご飯は自分で獲りに行ける?」
エルフ「ご飯を? 獲る??」
少女「あ、分かった。じゃエルフの分も獲ってくるから、火を見てて」
エルフ「お、置いてかないで」
少女「どうして?」
123:
エルフ「怖い」
少女「うーん」
エルフ「お願い」
少女「いいよ。その代わり静かにね」
エルフ「ありがとう!」
124:
少女「これくらい茂ってたら、いそうだけど」
エルフ「なにが?」
少女「食べられる動物」
エルフ「自分で狩れるのっ?」
少女「?」
エルフ「あ、私はいつも大人の獲ってきたの食べてるから……」
少女「難しくないよ」
125:
エルフ「本当に?」
少女「――しっ。いる」
エルフ「あれは?」
少女「イノシシ」
エルフ「!? イノシシって凶暴だよね? 大丈夫?」
少女「見てて」スッ…
少女「……」ススス
126:
少女「……」
少女「」ヒュッ
少女「ふ、っ!」ザクッ!
イノシシ「ブギィィーー!!」
ドサリ…
エルフ「す、すごい」
少女「こんなもんかな。今日のご飯これで足りる?」ズルズル
127:
エルフ「え、片手で運んで……」
少女「もうちょっと食べやすいところに行こうか」
エルフ「う、うん」
128:
パチパチ…
少女「んあ、むぐむぐ、んぐ、むぐ」
エルフ「生のまま食べてる……」
少女「焼いて食べるの?」
エルフ「お腹壊しちゃう」
少女「ふうん」ムグムグ
エルフ「食べてみる?」
129:
少女「ん」
エルフ「はい」
少女「むぐ。焼くのも悪くないね」
エルフ「胡椒とか振りかけると、もっと美味しいよ」
少女「胡椒?」
エルフ「乾かした小さくて黒い実で、ベロがピリってするの」
少女「似たようなのは知ってるけど、胡椒は知らない」
130:
エルフ「似たようなの?」
少女「山椒」
エルフ「名前も似てるね」
少女「料理するときに使うと美味しいけど、そのままだと辛いんだよね」
エルフ「料理できるの!?」
少女「? できるよ」
エルフ「じゃ、じゃあどうして生のままお肉を」
131:
少女「料理できるようになるずっと前から生で食べてるよ」
エルフ「そ、そうなんだ」
少女「エルフは?」
エルフ「ぜんぶお母さんがやってる」
少女「ふうん。料理しないの?」
エルフ「できないの」
少女「最初は見てるだけでも、勉強になるよ」
132:
エルフ「やってみる」
少女「うん。……そろそろ寝ようか」
エルフ「本当? 私、もう眠かったんだ」
少女「じゃ、先に寝てていいよ」
エルフ「少女は?」
少女「見張り」
エルフ「火の?」
133:
少女「火以外も」
エルフ「火以外?」
少女「危ない動物とか」
エルフ「いるの!?」
少女「このあたりはいないみたいだけど、いちおう」
エルフ「そうなんだ。先に寝ちゃってごめんね」
少女「いいよ別に。おやすみ」
エルフ「おやすみなさい」
134:
エルフ「んん……ふゎーあ」
少女「起きた?」
エルフ「え? あれ? もう朝?」
少女「朝だよ」
エルフ「も、もしかして寝てない?」
少女「寝てない」
エルフ「ご、ごめん!! 起こしてくれたら見張り代わったのに」
135:
少女「えー、じゃあ今から寝るから見張ってて」
エルフ「本当にごめんなさい」
少女「気持ちよさそうに寝てたし。起こすのもどうかと思って」
エルフ「明日から私も見張りする」
少女「それなら、明日はエルフが眠くなったら替わるから」
エルフ「分かった」
少女「おっけ」ガサッ
136:
エルフ(一瞬で木の上に……)
少女「お腹減ったら起こして。狩りに行こ?」
エルフ「うん」
少女「おやすみ」
エルフ「おやすみなさい」
137:
エルフ(すごいなあ)
エルフ(なんで私はなにも出来ないんだろう)
エルフ(ずっと迷惑かけっぱなしで)
エルフ(人間ってみんな、こんな感じなのかな。いつか私も、少女みたいになれるかな?)
エルフ(……生肉食べるのだけはムリだけど)
138:
少女「アルラウネ?」ボソッ
アルラウネ「なにー?」ボソッ
少女「生きてるか確認しようと思って」
アルラウネ「ひどい」
少女「暇じゃない?」
アルラウネ「植物の精神力をなめちゃいけない。思考は切ってずっと光合成してたぜいぇーい」
少女「おつかれさま」
139:
アルラウネ「エルフの里までどれくらいかな」
少女「あの辺じゃないかなって思ってる」
アルラウネ「どこー?」
少女「あの山と山の間」
アルラウネ「んー、多分あってる。木の生え方が変」
少女「そっか。ちょっと横に逸れちゃったね」
アルラウネ「寝なくていいの?」
140:
少女「寝るよ」
アルラウネ「エルフは平気かな」
少女「知らない。なんとかなるよ、おやすみ」
アルラウネ「ひどいなあ」
141:
エルフ「森の中も、ずいぶん進んできたね」
少女「もう里は近いはずだけど、景色に見覚えある?」
エルフ「ごめん、あまり里から出たことがないんだ」
少女「そっか」
エルフ「でも、なんとなくは」
少女「ねえ」
エルフ「どうしたの?」
142:
少女「あれ誰? エルフの人? 知ってる?」
エルフ「どこ?」
少女「いや、あれ」
エルフ「誰もいないよ」
少女「え、いるよ。おーい!」
「」ピクッ
少女「気づいたみたい。行こ」
エルフ「えっ?? 本当に見えない……」
143:
若い男性「少女さん、この度は本当にありがとうございます」
少女「いいですってば」
若い男性「申し遅れました、私はこの隠れ里の長でございます」
少女「へえ」
長「私の大事な息子を奴隷商から助け出して頂き、本当に……」
長「もうどうしたらよいかと、私は……」
少女「いいですって。大したことしてないですから」
144:
長「ぜひとも、なにかお礼をさせて頂ければ」
少女「うーん、そうですね。里の中見せてください」
長「え?」
少女「里の様子が見たいです」
長「そ、それだけでよろしいのですか」
少女「構いません」
長「ですがそれでは、私たちとしても……」
145:
少女「そう言われても」
長「私たちに出来ることならば」
少女「どうしよっかな」
長「それでは、こうさせて頂けませんか。少女さんにしてさしあげられることを、私どもも一緒に考えます」
長「その間、食事や寝所なども用意させていただきます」
長「何もありませんが、ゆっくりと里をご覧になって頂けるかと存じます」
少女「そうですか」
146:
長「ぜひ何日でも。……昔から若い女性や子供たちがさらわれることはありました。帰ってきた者はいません」
長「もともと里の人数も少ないですから、余計に一大事なのです」
長「半ば諦めかけていたのですが、少し光明が見えた思いです。ありがとうございます」
少女「良かったですね」
里人「長様」
長「はい。では、お部屋の用意ができたようですので、こちらへ」
147:
少女「――違う文化の人の生活を見るのって、楽しいね」
アルラウネ「うん」
少女「もっと色々、見てみたいな」
アルラウネ「これから、たくさん見れるんじゃないかな」
少女「そうだね」
アルラウネ「私も楽しいよ」
アルラウネ「森に住んでたら、絶対見ることのない景色だもん」
148:
少女「ね」
アルラウネ「いろんな人もいるし。いろんな物もあるし。もっと見たいな」
少女「これからなんでしょ?」
アルラウネ「えへへ、そうだね」
少女「あと、食べ物も」
アルラウネ「私はいらないからよく分かんないけど、食べてる少女ちゃん見てて私も楽しかったよ」
少女「料理勉強しようかなって思った」
149:
アルラウネ「すごかったねー、晩ごはん」
少女「なにをどうしたらあんなごちそうになるんだろ」
アルラウネ「勉強勉強」
少女「あとで教えてもらおうかな」
アルラウネ「それがいいよ」
少女「そろそろ寝たいけど」
アルラウネ「どこで寝ればいいんだろうね」
150:
少女「多分、あれ」
アルラウネ「四角くて硬そう」
少女「さっき触ったら、ふかふかだったよ」
アルラウネ「ホント? 私も触りたい」ニュルッ
少女「うわっ」
アルラウネ「なに?」
少女「自分の胸元から緑色の手が出てきたら誰でも驚く」
151:
アルラウネ「ごめんごめん。……本当だ、すっごくやわらかい」サワサワ
少女「なんか気持ち悪いなー」
アルラウネ「ごめんって。今度から出すときは言うよ」
少女「手以外も出せるの?」
アルラウネ「もっちろん! どんな形にも出来るよ」
アルラウネ「その代わり養分とか水とかいろいろ使うし、本体から切り離したらただの植物になっちゃうけど」
少女「ふうん。水使っても平気なの」
152:
アルラウネ「使いすぎるとやばい」
少女「今は?」
アルラウネ「なんともないよ」
少女「よかった」
アルラウネ「でも、たまに水吸わせてほしいな」
少女「おっけ」
153:
エルフ「もう行くの?」
少女「ずっと同じところにいるより、色々なところが見たいから」
エルフ「あのね」
少女「なに」
エルフ「私もつれてって欲しいな」
少女「……」チラッ
長「……」コク
154:
少女「だめ」
エルフ「どうして?」
少女「えーっと、エルフはまだ若いし、危ないから。またさらわれるかも」
エルフ「……そう」
少女「そのかわり、きちんとお父さんの言うことを聞いて、ひとりで自分の面倒が見られるようになったら、いいよ」
エルフ「本当に!?」
少女「お父さんに聞いてみて」
155:
エルフ「お父さん」
長「少女さんの言うとおりだ。焦らなくても、きちんとするべきことが出来るようになればね」
エルフ「……うん!」
長「少女さん、重ね重ね本当にありがとうございました」
少女「こちらこそ」
長「これは、私どもが精魂込めて作った魔除けの腕輪です。どうか受け取ってください」
少女「いいの?」
156:
長「少女さんの為に作ったのですから」
少女「それなら、遠慮なく」
長「あなたの旅に幸多からんことを」
少女「ありがと」
エルフ「……」
少女「エルフ」
エルフ「?」
157:
少女「またね。ばいばい」
エルフ「! ……またね! さようなら!」
少女「ん」ニコ
158:
アルラウネ「この前の街に戻る?」
少女「うん。この距離なら一日あれば戻れるよ」
アルラウネ「ギルドの仕事とかしないといけないんだよね」
少女「今すぐってわけでもないから、出来そうなの探すよ」
アルラウネ「宿? に泊まるお金はどうするの」
少女「しばらくは野宿」
159:
少女「――今日はいい依頼ないなー」
受付「なにかお探しですか?」
少女「ギルドの仕事にも慣れてきたので、ちょっとレベルが上のものを受けてみたいんです」
受付「それでしたら、こちらのボードはどうですか?」
少女「ふうん。変わったのが多いですね」
受付「少しレベルは高いですが、少女さんなら十分こなせると思います」
少女「ありがと。見てみるね」
160:
受付「いえいえ」
少女「どんなのがあるかな……ん」
少女(これ)
【調査依頼。南東の森に魔女がいるとの噂。真偽の確認】
少女(伝えたほうがいい、かな)
161:
少女(魔女とはいえ、いちおうお世話になったし)
少女「うん、行こう」
受付「あら。お仕事は請けないんですか」
少女「ちょっと用ができたので」
受付「では、またのお越しをお待ちしております」
162:
魔女「――ありがと、伝えてくれて」
少女「どうするんですか?」
魔女「そうね、逃げるかとどまるかのどっちかだけど」
少女「とどまるのは」
魔女「厳しいわね。こうしてる間にもいつ追っ手が来るか分からないし」
少女「追っ手?」
魔女「ええ。追われているのよ」
163:
少女「なぜ」
魔女「私、昔は冒険者として魔法使いやってたんだけどね。やらかしちゃって」
魔女「処刑されることになったんだけど、嫌だから逃げて」
魔女「そしたら魔女扱いされたもんだから、本当の魔女になってやろうって」
魔女「ン十年前のことだし、だいぶ遠くまで逃げてきたんだけどね、もう」
魔女「そろそろ忘れられたと思ったのになー」
少女「やらかしたって、なにをですか」
164:
魔女「禁忌」
少女「?」
魔女「人体練成とか、不老の魔薬とか。頼んできたのはとある王様なんだけどさ」
魔女「明るみにバレた瞬間、トカゲの尻尾きり。参っちゃう」
少女「お気の毒です」
魔女「そのかわり、研究の過程で不老にはなれたよ。だから魔女やってるんだけどね」
魔女「あなたも不老薬飲む? 若いままって最高よ」
165:
少女「え、遠慮しておきます」
魔女「そう? 確かにまだ成長期みたいだし、しばらく待っても損はないかもね」
少女「放っといてください」
魔女「あ、そういう意味じゃないわよ」
166:
少女「魔女さん」
魔女「なに?」
少女「もしかしたら、あの依頼は魔女さん個人を狙ったじゃなくて、単に魔女がいるからってことかもしれません」
少女「それでもここを離れてしまうんですか」
魔女「いいのよ、気を遣わなくて」
魔女「魔女って疑われた時点でもうアウト。いくらここが気に入ってても、とどまるわけにはいかないわ」
少女「……」
167:
魔女「さて、っと。準備完了。また住みやすいところを探しに行くわね」
少女「その小さい鞄ひとつでいいんですか」
魔女「生きてく為には最低限のものだけでいいのよ」
少女「魔女さんは」
魔女「?」
少女「人間に交じって暮らそうとは、考えたりしませんか」
魔女「そうね。今ならそれもできるかもしれない」
168:
少女「じゃあ」
魔女「でもね、魔女にされちゃうのはもう懲り懲り。静かに暮らしたいわ」
少女「……」
魔女「今度は山奥にでも暮らそうかしらね」
少女「家や物はどうするんですか」
魔女「運べないから、全部ここにおいて行く。足りないものは新しい家を作ってから適当な街に寄って買えばいいし」
魔女「ここにあるものはもう必要ないわ。貰っていってもいいわよ」
169:
少女「ふうん」
魔女「これなんかどうかしら。あなたにぴったりだと思うわ」
少女「これは?」
魔女「櫛。せっかく可愛い顔してるのに、そんなタテガミみたいな髪じゃもったいないわよ」
少女「どうやって使うんですか」
魔女「こうやって、髪をすくのよ」
少女「へえ」
170:
魔女「私のね、もう思い出の中にしかいない人がくれたものよ」
魔女「何十年も経って未練はなくなったけれど、櫛はとっても良い物だから」
魔女「このまま腐らせるよりも、使ってもらった方が喜ぶと思うわ」
少女「ありがとう」
魔女「じゃ、そろそろ行こうかしら」
少女「お元気で」
魔女「あなたもね。また会いたいわ」
171:
少女「アルラウネのことが研究したくなったら、お邪魔します」
魔女「あはは。是非来て頂戴」
少女「さようなら」
魔女「またね。アルラウネのお嬢ちゃんも」
アルラウネ「ビクッ」
魔女「びっくりしちゃって。かーわいい」
少女「……気づいていたんですか?」
172:
魔女「最初は分からなかったけどね。うまく魔力も隠れてたし」
アルラウネ「ごめんなさい」
魔女「大丈夫、よっぽど鋭い人でもなければ気付かれないわよ。安心して旅を続けて」
アルラウネ「ありがとう」
魔女「うふふ。今度会ったときにはじっくりお話がしたいわ。じゃね」
アルラウネ「ばいばい」
179:
少女「手以外も出せるの?」
アルラウネ「もっちろん! どんな形にも出来るよ」
ひらめいた
180:
オークさん、オーガさん、こいつです
175:
乙です。
エルフって男の子だったのね。
176:

エルフと聞くと女の子を思い浮かべちゃう
177:

エルフが男の子だったことにビックリしたよ
183:
紛らわしいですが、エルフの里の人たちは全員中性的な外見、かつ一人称が全員私です
奴隷商もエルフを女の子と間違えて浚ったというこっそり設定です
>>179
犯罪
189:
アルラウネ「行っちゃったね」
少女「じゃ、行こっか」
アルラウネ「また会えるといいね」
少女「ね。この櫛も、変なものじゃないみたいだし」
アルラウネ「またそれ?」
少女「だーれーがお伽噺で私を怯えさせたんだっけ?」
アルラウネ「ごめんってば」
190:
少女「いいよ別に」
アルラウネ「今のもお伽噺に加えとくよ」
少女「微妙」
アルラウネ「ひどい」
少女「ん……」
アルラウネ「どした」
少女「人来た」
191:
アルラウネ「おっけ、黙ってるね」
少女「よろしく」
少女「すいませーん、そこの人ー」
「ん。君は冒険者か?」
少女「はい」
「そうか。ここに魔女がいるとの依頼を受けてきたのだが、君もか?」
少女「そうです。それらしき家は見つけました」
192:
「本当か!」
少女「でも、もうもぬけの殻でしたよ」
「うっそ……」
少女「あなた方は?」
「ああ、すまない。私は剣士という者だ」
「あたしは魔法使い」
少女「少女です」
193:
剣士「まさか君が魔女だったりしないだろうね」
少女「そう見えますか」
剣士「いや、全然魔女っぽくない」
魔法使い「確かに」
少女「あはは」
剣士「でも一応、証明できるものを見せてくれるかな」
少女「簡易証明書でよければ」
194:
剣士「うん。……君は『冒険者』なのか」
魔法使い「へー。珍しいね」
少女「珍しい?」
魔法使い「冒険者って、けっこう軽く見られがちなのよね。器用貧乏とか言われてるわ」
剣士「こら」
魔法使い「あ、ごめん。ピンからキリまでいるから、一概にそうとは言えないけど」
少女「ふうん」
195:
剣士「僕のイメージとしては、一人旅が多いかな」
少女「私も一人旅ですよ」
魔法使い「そんな感じする」
少女「これからどうするんですか」
剣士「もぬけの殻なんだよね? 街に戻るよ」
魔法使い「そうね、もう用もないし」
少女「確認しないの?」
196:
剣士「だって君の手柄じゃないか」
少女「私は別に。報酬も多くないですし、ゆずります」
魔法使い「じゃ、一緒に報告しようよ」
剣士「僕たちも単に魔女がどんな存在なのか気になっただけだしね」
少女「そういうことなら」
197:
剣士「君……」
少女「?」
魔法使い「強すぎでしょ」
少女「そうですか? よく分かりません」
剣士「指名手配の魔物だよ。確か、それ」
少女「これが? 喋らないし、動物かと」
魔法使い「なんでこんな平和なところに居るのか分からないけど」
198:
少女「この魔物が?」
魔法使い「あなたもよ」
剣士「なぜ君のような女の子が一人旅をしているのか、なんとなく分かったよ」
魔法使い「これだけ強ければ当たり前よね」
少女「……」
剣士「良かったら、僕たちと一緒に旅をしてくれませんか……なんてね」
魔法使い「それだとあたしたちが足手まといになっちゃうわね」
199:
少女「……」
剣士「ん。どうしたの? 具合でも?」
少女「いえ。早く報告に行きましょう」
200:
剣士「本当にありがとう」
魔法使い「まさか魔物討伐の報奨金を全部私たちに譲るなんて」
少女「いいんです」
魔法使い「あなたみたいな冒険者は他にいないわ」
剣士「今後の予定は決まっていないかい?」
少女「いえ、決まっていません」
剣士「それなら、次の街まで一緒に僕たちと行かないか」
201:
少女「いいですけど、なぜ」
剣士「もうすぐ武道大会の開かれる季節なんだ」
少女「武道大会?」
剣士「うん、腕に覚えのある冒険者が集まって、己の力を競う催しだよ」
魔法使い「なるほど。少女ちゃんなら優勝はかたいってわけね」
剣士「僕らも参加する予定なんだけど、良かったら」
少女「それに参加すると、なにかいいことがあるんですか?」
202:
剣士「優勝者には褒賞が与えられるんだ」
魔法使い「法律や大会規則に抵触しないかぎり、望むものが一つ得られるの」
少女「ふうん」
剣士「それに」
少女「?」
剣士「君の戦うところがもっと見てみたいんだ。参考にしたい」
少女「戦い……」
203:
魔法使い「ま、今しなきゃいけないことがないかぎり出ても損はないでしょ」
少女「いいですよ」
剣士「よしっ」
魔法使い「実を言うと、あたしも少女の活躍するところ見てみたいんだよね」
少女「ありがと」
剣士「今日はもう遅い。出発は明日の朝にしよう」
魔法使い「けっこう遠いから、準備しておいて」
204:
少女「分かりました。また明日、ここに集合しましょう」
剣士「じゃまたね」
魔法使い「また明日」
205:
少女「……疲れた」バサッ
アルラウネ「……」
少女「……」
アルラウネ「ねえ」
少女「どうしよう」
少女「魔物、殺しちゃった」
アルラウネ「うん」
206:
少女「森のみんなと、同じ、魔物」
アルラウネ「気にすることないよ」
少女「だって」
アルラウネ「知能も低かったし。正当防衛だよ」
少女「でも」
アルラウネ「同族だろうと何だろうと、襲ってきたのは向こうなんだから」
少女「……魔物と人間の共存って、難しいのかな」
207:
アルラウネ「知らない」
少女「っ」
アルラウネ「って、少女ちゃんならそう言うでしょ」
アルラウネ「森のみんなも私もそうだよ」
アルラウネ「それに状況が状況だもの」
少女「いつか、"喋れる魔物"が出てきたら、襲ってきたら」
少女「そのときは、私、」
208:
アルラウネ「その時に考えればいいだろ」
少女「!」
アルラウネ「でしょ?」
少女「……うん、そうだね」
アルラウネ「今日はもう寝なよ。せっかくいい宿取ったんだから」
少女「おやすみ」
アルラウネ「眠らせたげよっか?」
209:
少女「お願い」
アルラウネ「まっかせなさーい!」フワッ
少女「ありが、と……すぅ……」
210:
剣士「いや、なんというかカルチャーショックというか」
魔法使い「火、あるのに」
少女「?」
剣士「君と旅をしていると驚くことばかりだよ」
魔法使い「どこの世界に生のまま動物を食べる女の子がいるのよ」
少女「え? 二人も焼いて食べるのが好き?」
剣士「好きとかじゃなくそうしないと食べられないんだよ」
211:
少女「ふうん」
魔法使い「お腹壊さないの?」
少女「別に」
魔法使い(いったいどういう生活をしてきたのかしら)
剣士「君はどこの出身なんだい?」
少女「知らない」
魔法使い「知らない……って」
212:
少女「みなしごだし。なんとなく、小さい頃最初に住んでた町は覚えてるけど」
剣士「どんな町?」
少女「うーん、ボロボロの石で出来た建物とか、泥水とか」
魔法使い「荒れてるところだったわけね」
少女「そのあとはいろんな町とか村に行って、追い出されるまで乞食してたよ」
剣士「乞食……」
少女「いつも食べ物のことばっかり考えてたから、そっちの町とか村は覚えてない」
213:
魔法使い「なかなかすごい人生ね」
少女「そう? たいしたことないよ」
魔法使い「たいしたことがないって言える少女が凄いわ」
剣士「僕らぬくぬくと育った人間には、一生わからないかもね」
少女「ぬくぬく?」
剣士「えっと、不自由のない生活をしてきたってことかな。自慢するつもりじゃないけど」
少女「ふうん」
214:
魔法使い「少女には、夢はあるの」
少女「寝てるときに見えるやつのこと?」
魔法使い「こうなりたい、ああしたいっていう願望よ」
少女「ある」
剣士「どんな?」
少女(人間は魔物を恐がってる。それがなくなって、平和になった世界が見たい)
少女(なんて、言えないか)
215:
少女「……秘密」
剣士「そっか」
魔法使い「あたしはね、世界一の大魔法使いになるのが夢かな」
少女「難しいの」
魔法使い「難しいけど、なってみせるわ」
少女「新しい魔法を作り出せば、有名になれるって聞いたけど」
魔法使い「新しい魔法!?」
216:
少女「ダメ?」
魔法使い「ダメもなにも、有名になれるくらい新しい体系の魔法を作り出すなんて」
魔法使い「とてもじゃないけど、出来ないわよ」
魔法使い「既存の魔法を応用して新しい魔法を作り出すのだって苦労するのに」
少女「やってみたら」
魔法使い「よっぽど発想力があるか、なにか元手がないと無理よ。マジックアイテムとか」
少女「ふうん」
217:
魔法使い「でも、それもいいわね。いっそ冒険者やめて研究職になろうかな」
剣士「本気?」
魔法使い「冗談。あ、ちなみに剣士の夢は王国騎士団よ」
剣士「ちょっと! 恥ずかしいからやめて!」
少女「王国騎士団ってなに」
剣士「僕の生まれた国には、人々を守るための騎士団が設置されていたんだ」
剣士「その騎士団の人に命を助けられたことがあってね」
218:
剣士「でも入団試験は難しくて、今はレベルアップの為に旅をしているんだよ」
少女「へえ」
剣士「君くらい強ければ、受かると思うな」
魔法使い「いっそ先輩になってもらったら」
剣士「やめてよ、とても敵わないって」
少女「二人とも、立派な夢があるんだね」
剣士「そうかい? ありがとう」
219:
少女「現実になるといいね」
魔法使い「そうね。努力しなきゃ」
剣士「あはは」
魔法使い「もう寝ましょ。見張りはあたしが最初でいい?」
剣士「お願いするよ」
少女「おやすみなさい」ガサッ
剣士「お、おやすみ」
220:
魔法使い「き、木の上で寝るのね」
少女「うん」
剣士「またもカルチャーショックを感じたよ」
魔法使い「あたしも」
221:
剣士「――さあ、ここが試験会場だ」
魔法使い「気合い入れていくわよ」
少女「うん」
剣士「いちばん早く試合があるのは、少女ちゃんか」
魔法使い「がんばれ」
少女「ん。行ってくる」
少女「……アルラウネ」ボソッ
222:
アルラウネ「なーに」ボソッ
少女「この大会、殺すのはダメなんだって。それで、お願いがあるんだけど」
アルラウネ「?」
少女「あそこの短剣の柄と同じ形の植物編んでくれる?」
アルラウネ「おっまかせー」
少女「あ、ここんとこにトゲつけて」
アルラウネ「わかった。なにに使うの?」
少女「ちょっとね」
223:
司会「さぁー、第一回戦も佳境! 次に二回戦へ進むのはどいつだーっ!!」
司会「今度の試合! 右手に現るのは、ちょっとだけ名の売れてる『傭兵』さんだー!!」
ドォ!!
「がんばれー!」
「ちょっとだけ傭兵ー!!」
傭兵「ちょっとだけ傭兵ってなんだ!!」
司会「対するは、新米冒険者! 少女ちゃん!!」
224:
ドォ!!
「かーわいいー!」
「ちょっとだけ傭兵に負けんなー!!」
少女「よろしくお願いします」
傭兵「わりーがお嬢ちゃん、手加減はしねーよ」
少女「どうぞ」
司会「この試合、勝つのはどっちだー! ちょっとだけ傭兵さん、新米に負けたらカッコ悪いぞー!!」
225:
傭兵「うるせー!」
司会「それじゃ、準備はいいか!? ……試合開始ー!!」
少女「ふっ」ダッ!!
傭兵(いきなり真正面から突っ込んできた!?)サッ
少女「やああっ!」
傭兵(膝にタックルか! こんなんはちょっと引けば)
少女「っ」
226:
傭兵(体制は崩れる! 手が膝にふれる程度に威力は激減!)
傭兵「もらった!」
ヒュッ
傭兵「!? 消え……」
ガッ!!
少女「残念」ピトッ
傭兵「――っ!?」
227:
傭兵(いつの間に首の後ろに回った!? 手が動かせん、肩車のように両足で脇を締められている!!)
傭兵(しかもこの首筋の尖った感触……刃物か! いったいいつどこから出した!?)
少女「降参する?」
傭兵「あ? あ、ああ、こ、降参だ」
少女「ありがと」ストッ
傭兵「……」
司会「い……今のは……」
228:
司会「今のは何だーーっ!!?」
ウォオォォ!!
司会「少女ちゃんが消えたと思ったら、次の瞬間にはちょっとだけ傭兵さんが降参していたーっ!!」
司会「これはとんでもない大型新人が現れたぞーっ!!」
司会「次の試合に期待だーっ! そして負けた傭兵さん、お疲れ様ー!」
「よかったぞー!!」
「次も頑張れよー!!」
司会「さあそれでは気を取り直して参りましょう! 次の試合は――」
229:
アルラウネ「おつかれー」
少女「ありがと」
アルラウネ「あんな使い方もあるのかあ」
少女「武器がないときでも安心」
アルラウネ「これは私の存在価値がますます高まりましたな」
少女「そうでもない」
アルラウネ「何ィーっ!?」
230:
少女「あ」
剣士「……」
魔法使い「……」
少女「ただいま」
剣士「……あ、うん。おかえり」
魔法使い「マジで?」
少女「なにが」
231:
剣士「いや、これ、本気で当たりたくないなー」
魔法使い「あたし、少女と当たったら棄権するわ」
少女「?」
剣士「ちなみに、今のはどうやってやったの?」
少女「足から股の間くぐり抜けたあとひっくり返って、足で脇締めた」
魔法使い「簡単に言わないでよ……」
剣士「なるほど。膝に当てた手を支点に、遠心力を利用したわけか」
232:
魔法使い「なんじゃそりゃ。普通の人間にそんなことできないわよ」
剣士「でも、出来ちゃってるからなあ」
魔法使い「怖いわね」
少女「??」
233:
司会「みなさん! 期待の第三回戦がやってきました!!」
司会「二回戦も一瞬で突破、大型新人冒険者、ここに少女ちゃんの登場だーっ!!」
ウオオオオ!!
「がんばれー! 可愛いぞー!!」
「負けんなよー! 期待してるぞー!!」
少女「はーい」
司会「対するは、毎回安定した突破力を誇る『鎌使い』だー!!」
234:
オオオォ!!
「こらー! 変態野郎ヘンなことしたらただじゃ済まさねえぞー!」
「安定してキモいぜー!!」
鎌使い「よろしくねぇん」
少女「よろしくお願いします」
司会「それじゃ準備はいいかーっ!」
鎌使い「近接戦は得意みたいだけど、遠距離はどぉかしらぁ?」
235:
少女「かまいません」
司会「いいみたいだね!! 試合開始ぃー!!」
鎌使い「うふふ」ジャラ
司会「出たーっ! 鎌使いの本領、鎖鎌だーっ!」
「しょっぱなから使ってんじゃねーぞー!」
「ビビってんのかー!!」
鎌使い「行くわよぉ。そぉれっ」ヒュン!!
236:
司会「そしていったーっ!!」
パシッ
司会「な、なんと、少女ちゃん、」
少女「鎖鎌? っていうんだ、これ」
司会「受け止めたーーっ!!?」
鎌使い「な、なにぃ!?」グッ グッ
少女「ムチに刃つけたみたいな感じ」
237:
司会「鎌使い、引き戻そうとするが動かなーい!!」
鎌使い「くそっ!」バッ
司会「鎖鎌を諦め、鎌を取り出したー! 近接でいいのかー!?」
鎌使い「し、仕方な」
ゴッ!!
鎌使い「っ!? ……」ドサッ
司会「な、な、」
238:
少女「使いづらいなー」
司会「なんと、奪った鎖鎌の分銅部分でノックアウトだー!! すごいすごい、底が見えないー!」
少女「ありがとうございました。これ返します」
司会「そして余裕の退場ー! はたしてこの子の歩みを止める者はいるのかーっ!?」
司会「それじゃ、次の試合だーっ! ――」
239:
剣士「お疲れさま」
魔法使い「おつかれ」
少女「ありがと」
剣士「さすがというか、なんというか」
魔法使い「次の試合も頑張ってね」
剣士「トーナメントは今日のベスト16でシャッフルされるみたいだよ。ドキドキするね」
魔法使い「剣士もがんばれ」
240:
剣士「おざなり!」
魔法使い「ね、少女はこの調子だと楽勝じゃない?」
少女「分かんない。見てて強い人もいるし」
剣士「それはそうだよね」
「こんにちは」
魔法使い「うん?」
少女「……!!」ゾクッ
241:
「少女さん、ですよね?」
少女「……そうです」
「初めまして。わたくしは僧侶と申します」
少女「初めまして」
僧侶「お強いんですね。明日も試合を見るのが楽しみです」
剣士「なぜ少女の試合が?」
僧侶「こんなに強い人は久々に見ました。わたくしとてもワクワクしているんです」
242:
魔法使い「ま、確かに強いわね」
少女「……。あなたも、出場者」
僧侶「はい」
魔法使い「えっ?」
剣士「失礼ですが、あなたのご職業は『僧侶』ですよね」
僧侶「うふふ。そうですよ」
魔法使い「で、でも、出場者って」
243:
僧侶「運が良かったのでしょうか。勝ち進むことができたんです」
剣士「すごいですね、僧侶で戦闘、しかも一対一の戦いをベスト16まで勝ち上がるとは」
僧侶「ありがとうございます。貴方も同じくベスト16だったと記憶していますが」
剣士「私も運ですよ。もしも当たることがあったら、よろしくお願いします」
僧侶「こちらこそ。少女さんも」
少女「……、よろしく」
僧侶「お互い頑張りましょう。それでは失礼いたします」カツカツ…
244:
魔法使い「すごいなー。魔法職としてはあこがれちゃう」
剣士「前衛でも同じだよ。まさか後衛職でありながらベスト16とは」
少女「……」
剣士「どうしたんだい? 少女ちゃん、顔色が悪いようだけど」
魔法使い「ホントだ、ちょっと青いよ」
少女「こわい」
剣士「えっ?」
245:
少女「あの人、怖い」
魔法使い「僧侶さんが? すごくいい人じゃん」
少女「いい人だけど、怖い」
剣士「……? どこが怖かった?」
少女「あんなに悲しそうなのに、顔はすっごく笑ってた」
魔法使い「悲しそう? すごく上機嫌に見えたけど」
少女「……」フルフル
246:
剣士「??」
魔法使い「疲れてるのかも。今日はもう休んだら」
少女「そうする」
剣士「じゃあ、宿に戻ろうか」
247:
少女「明日」
アルラウネ「そうだね」
少女「明日、あの人と当たる気がする」
アルラウネ「さっきの僧侶さん?」
少女「なんだろう」
少女「あの人に、勝てる気がしない」
アルラウネ「そう」
248:
少女「剣士や魔法使いは、あの人の出してる悲しさに気がつかないのかな」
アルラウネ「私も、よく分かんない」
少女「私のまちがいかも」
アルラウネ「明日になれば分かるよ」
少女「アルラウネ」
アルラウネ「なに?」
少女「いつもアルラウネが使ってたムチ、作れる?」
249:
アルラウネ「おっやすい御用!」
少女「ありったけの花粉、練りこんでおいて」
アルラウネ「そんなに強くしていいの」
少女「僧侶さんにしか使わないから」
アルラウネ「僧侶さん、強いんだね」
少女「うん。すごく」
263:
司会「みなさんおはようお元気ですか!? 大会の二日目が始まろうとしています!!」
司会「昨日の予選を勝ち抜いた16名のエントリーを再抽選!」
司会「今日の試合はつわもの揃い、ここからが本番だァーー!!」
ウオオオオオ!!
司会「第一回戦!! 片や堅実な戦いで勝ち抜いてきたベテラン冒険者、『剣士』!!」
司会「片や超攻で相手を片付けてきた期待の大型新人、『少女』!!」
剣士「あはは、まさかしょっぱなから当たるとはね。お手柔らかに」
264:
少女「よろしくお願いします」
司会「なんとなんと、超奇遇!! さきほど聞いたところ、二人はお仲間だそうです!」
司会「おたがいの手の内を知り尽くしている相手にどう戦うのか! 楽しみですね!!」
司会「それでは!! 準備はいいかーっ!!」
剣士「いくよ」
少女「いつでも」
司会「どうやらいいようだ!! 試合ッ、開始ィーーー!!」
265:
剣士「――はああっ!!」ブン! ブン!
少女「……」サッ サッ
剣士「やっ!」
少女「っ」ガキィン!
剣士「おおおおお!!」ガガガガガッ
少女「……」ギギギギギィン!
剣士「せいっ!」
266:
少女「やっ!」ギャリィン!
剣士「強いね、やっぱ」ザッ
少女「ありがと」
司会「すごいすごいすごーいっ!! 息もつかせぬ剣の連撃を、短剣一本でいなしていくぅー!!」
司会「さすがはベスト16! 見ごたえはたっぷりだーー!!」
少女「でも――」
剣士(追いきれな、)
267:
少女「胴ががら空き」
ドゴォッ!
剣士「ぐっ」
司会「強烈な一撃だーっ!!」
ダン!
司会「おおっと、ここで少女が馬乗りになったーっ!」
剣士(凄い力だ、抜けられない!!)
268:
少女「降参する?」
剣士「し、しない!」
少女「ふうん」パッ
剣士(力が、緩ん――)
少女「そりゃっ」ミシッ
剣士「――っっ!!」
司会「うおおおおお!! 華奢な脚から繰り出された蹴りに、重いはずの剣士の体が、」
269:
剣士「!?!?」
司会「宙に浮いたーーーーっ!!?」
少女「ふっ」ヒュッ
剣士(まさ、か、)
少女「やああっ!」
ドゴォォン!!
司会「そしてっ、凄まじい投げでステージに激突させたーーっ!!」
270:
剣士「……」
司会「剣士、完全に沈黙ー!! この試合、少女の勝ちだーーっ!!」
ウオオオオオオオオ!!!
少女「ごめんね」スタッ
司会「全力で激突した両者ともに、拍手ー!!」
司会「さあさあボーっとしてる暇はない、次の試合に行くぞーッ! 対戦カードは――」
271:
少女「大丈夫?」
剣士「……ここは」
少女「医務室」
剣士「そっか、負けちゃったか」
少女「剣士も強かったよ」
剣士「でも、まだまだ敵わなさそうだ」
少女「あはは」
272:
剣士「試合は?」
少女「次で最後」
剣士「決勝か。相手は」
少女「……僧侶さん」
剣士「昨日から僧侶さんの話をすると様子がおかしいけど、何かあったのかい」
少女「ううん、怖いだけ」
剣士「そういえばそう言ってたね」
273:
少女「剣士は怖くないの」
剣士「僧侶さんが? 全然」
少女「私は、怖い」
少女「僧侶さんを見てると、こっちまで悲しくなってくる」
少女「どうしたらあんなふうになるのか」
少女「想像しただけで、怖いよ」
剣士「あんな風……?」
274:
少女「同じような感じの人は見たことがあるけど」
少女「あんなに、冷たいのは初めて」
剣士「よく分からないけど、少女ちゃんが言うならそうなんだろうね」
剣士「がんばれ。応援してる」
少女「ありがと」
275:
魔法使い「……」
少女「ごめん」
魔法使い「剣士をボコボコにしたんだから、絶対勝ちなさいよ」
少女「うん」
魔法使い「剣士もバカね。あそこで降参してればよかったのに」
少女「ううん」
魔法使い「頼りないんだから」
276:
少女「そんなことないよ」
魔法使い「そんなだから騎士になれないのよ」
少女「なれるよ」
魔法使い「なってほしくない」
少女「どうして」
魔法使い「だって剣士が騎士団に入ったら」
魔法使い「一緒に旅が、できなくなっちゃうから」
277:
少女「そっか」
魔法使い「……今の忘れて。あたしのわがままだから」
魔法使い「剣士の夢、ダメにしたくないから」
魔法使い「だから、忘れて」
少女「剣士、起きたよ」
魔法使い「そう」
少女「行ってあげたら」
278:
魔法使い「やだ」
魔法使い「泣き顔、見られちゃう」
少女「そっか」
魔法使い「行かない」
少女「寂しがってたよ」
魔法使い「そう」
少女「私、最後の試合に出てくるね」
279:
魔法使い「負けちゃえ」
少女「かもね。……行ってくる」
魔法使い「……」
魔法使い「頑張れ」タタタッ
少女「うん」
280:
司会「ここまで成り行きを見守ってきたみなさーん!! ついに来ました!!」
司会「決勝戦をこれから、始めたいと思いまーす!!」
ウオオオオオオオオオ!!!
司会「進行は毎度おなじみ、私こと司会がお送りします!」
司会「それでは今大会の主役発表といきましょう!!」
司会「新米にして優勝候補!! 可憐な姿に鋭い攻撃!!」
司会「ついたあだ名が鋼の薔薇、その名も少女だーっ!!」
281:
少女「よろしくお願いします」
ウオオオオオオオオオォオォォォオオオ!!!!
司会「今日は本気か! 今まで使っていなかったムチを持参!!」
司会「一体どのような手捌きを見せてくれるのか!!」
司会「そして、その少女と優勝を争うのは!」
司会「名だたる優勝候補を全て素手で撃破! ニコニコ笑顔が恐ろしい!」
司会「善良にして最強最悪の破戒僧、僧侶だーーっ!!」
282:
僧侶「こちらこそよろしくお願いしますね」
ウオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオ!!!!
司会「こっちも本気! 素手を改め長剣を持参!! いいのか聖職者、いや破戒僧だった!!」
司会「どんな戦いになるのか、今から胸の鼓動が止まらなーーいっ!!」
少女「あなたは、一体」
僧侶「うふふ。わたくしは少女さんのほうが何者なのか知りたいですけれど」
少女「勝ったら教えてくれる?」
283:
僧侶「ええ。構いませんよ」
少女「じゃ」
僧侶「試合を始めましょうか」
司会「軽く言葉を交わし、二人とも臨戦態勢に入ったーーっ!!」
司会「もう準備は万端なようだ!! 気の早い観客の皆さんがキレだす前にはじめましょう!!」
司会「それでは……決勝戦、開幕だーっ!!」
僧侶「甘い」スッ…
284:
少女「っっ!?」
僧侶「そんなに注意力が散漫ではわたくしを倒すことは到底できませんよ」
少女(いつの間に、後ろに……!!)
司会「……」ポカーン
僧侶「うふ」
司会「な、な」
司会「今、何が、」
285:
司会「何が起きたのでしょうかーーーっ!!?」
司会「試合が始まるや否や、僧侶が消えたと思ったら」
司会「少女の背後から喉元に長剣を当てていたーーーっ!!」
司会「あの鋼の薔薇ですら反応できないさ!! これが破戒僧の実力なのかーーっ!!?」
僧侶「それはちょっと言いすぎかもしれませんね」ダラン…
少女「!!」バッ
僧侶「うふふ。怖がらなくてもいいのですよ」
286:
司会「ここで僧侶が長剣をおろし、少女が距離を取った! 今大会でいちばん長いのではないでしょうか!!」
少女「その、剣は」
僧侶「これですか。刀と言うんですよ」
少女「刀」
僧侶「はい。わたくしの大切な友達の大切な形見です」
少女「僧侶さん」
僧侶「なんでしょう?」
287:
少女「あなたの悲しみは、それが原因なんですか」
僧侶「……ふふ。どうしてわたくしが悲しんでいると? 隠していたつもりだったのですけれど」
少女「見ていれば、分かります」
僧侶「さきほど注意力が散漫だと申し上げたのは撤回しますね」
僧侶「少女さんはいい眼を持っています」
少女「ありがと」
僧侶「あとでゆっくりお話しましょう。それまで」トッ
少女(また消え、)
僧侶「いい夢を」
293:
乙です。
この僧侶さんって女性なの?
299:
>>293
女性です
310:
少女「――、」
少女(ここは、)
少女(空がない。荒れた大地。草木一本すらない。川が、黒い)
少女(誰かが叫んでいる)
少女(誰かが笑っている)
少女(誰かが膝をついている)
少女(誰かが倒れている)
311:
少女(僧侶が、泣いている)
僧侶「――――っ!!」
少女(僧侶が手にしてるのは、刀?)
少女(刀を見て、何か呟いている)
少女(叫んでいる誰かも、笑っている誰かも、膝をついている誰かも僧侶を見ている)
312:
少女(僧侶が)
僧侶「……」
少女(刀を、抜いた)
少女(表情は見えない)
少女(笑っていた誰かの口が、閉じた)
313:
少女(僧侶が、猛スピードで突進していく)
少女(笑っていた誰かが魔法を唱えた)
少女(僧侶は止まらない。まっすぐに刀を構えて、笑うのをやめた誰かの喉元を――)
314:
少女「――――」
魔法使い「あ、起きた」
剣士「大丈夫? どこか痛むところはないかい?」
少女「平気」
魔法使い「よかった」
少女「ごめん、負けた」
魔法使い「いいよ」
315:
剣士「僧侶さんが強すぎたんだ」
魔法使い「アレと戦って勝てる人間がいると思わない方がいいわ」
少女「戦ってない」
剣士「? どういうことだい」
少女「あれは、狩り」
少女「私は獲物だった」
少女「それくらい、僧侶さんは強かったよ」
316:
剣士「狩り……」
医師「おお、目が覚めましたか」
少女「医師さん」
医師「痛むところは? 気分は悪くないですか?」
少女「いいえ」
医師「それじゃ、大丈夫でしょう。外傷はありませんから、もう動いても平気ですよ」
少女「どうして私は気絶したんでしょうか」
317:
医師「それが、分からないのです」
医師「意識だけをどうやってかきれいに吹き飛ばしたとしか思えません」
剣士「……化け物だね」
少女「うん」
魔法使い「少女なら、追いつけるよ」
少女「そう思う?」
魔法使い「僧侶さん、見た目どおりの年齢じゃない、って言ってたし」
318:
魔法使い「少女は子供なのにもうかなり強いから」
少女「魔女とか、エルフみたいなものかな」
魔法使い「そうね、存在としては近いかも」
少女「そうかも」
剣士「興味深いね」
少女「……!」ゾッ!!
少女(この、逃げ出したくなるような寒気は)
319:
剣士「ん、どうしたんだい」
少女「あの人が来た」
魔法使い「あの人?」
少女「僧侶さん……」
僧侶「こんにちは」
少女「……こんにちは」
僧侶「手加減はしましたけれどもしなにかあったらと思って」
320:
少女「大丈夫、みたいです」
僧侶「よかった。すでに戒律を破っているとはいえ人殺しはしたくありませんもの」
剣士「席、外そうか?」
僧侶「そのままでもよろしいですよ」
魔法使い「外すわ。話しにくいこともあるでしょ」
医師「では、私どもも」
僧侶「お気になさらなくてもよろしいですのに」
321:
少女「……僧侶さん、あなたはいったい?」
僧侶「その質問を聞くのは二度目ですね。わたくしはいわゆる破戒僧です」
少女「破戒僧?」
僧侶「破戒僧とは僧侶の戒律を破った者のことですよ」
僧侶「わたくしは最悪の形で戒律を破りました。それも三重に」
少女「なにか、理由があるんですよね」
僧侶「はい。詳しい経緯は省かせて頂きますが」
322:
僧侶「私たちは今までにない強敵と戦っていました」
僧侶「生死を掛けた戦い」
僧侶「決着が着くであろうというまさにその時わたくしは最愛の人を失いました」
僧侶「僧侶という存在に恋は許されません」
僧侶「わたくしは彼に蘇生魔法をかけ続けました」
僧侶「しかし戒律を破ってしまったわたくしに最早神の加護を受ける資格はなかったのです」
僧侶「彼は死にました。宿敵の死を目にすることなく」
323:
僧侶「わたくしが出来たことといえば宿敵を刃で貫きそして神を恨むことだけ」
僧侶「つまらないお話でしょう。わたくしはその程度の存在だったと」
僧侶「そういうことなのです」
少女「大切な人を亡くして、立ち直った人だっている」
少女「それなのにあなたが、今でも悲しさを感じているのは」
僧侶「この刀は」
僧侶「悲しみを増幅し悲しみを喰い悲しみによって切れ味を増す」
324:
僧侶「そういう宿命を負った刀なのです」
僧侶「なぜこのような業をもつようになったのかは分かりません」
僧侶「あるいはわたくしが掛けた呪いなのかもしれませんが」
僧侶「なぜでしょうね」
僧侶「それを嬉しく感じてもいるのです」
少女「嬉しく……」
僧侶「少し喋りすぎたかもしれませんね」
僧侶「今度は貴女の番ですよ。うふふ」
少女「あ……」
325:
僧侶「――成程。時代の移り変わりというのは面白いものですね」
少女「そうですか」
僧侶「面白いですよ。貴女がなぜ年に似合わない強さを持つのかと気になっていましたが」
僧侶「わたくしの想像と違い安心しました」
少女「どんな想像をしていたんです」
僧侶「もしもあいつの子孫が人間に紛れて暮らしていたら」
僧侶「今度こそ粉微塵にしようと」
326:
少女「……、」
僧侶「杞憂でしたけれども」
少女「今でも探しているんですか」
僧侶「はい。わたくしがただ一つ償いの為に出来ることですから」
少女「私も、僧侶さんがなぜそんなに強いのか分かった気がします」
僧侶「うふふ。そうですか?」
少女「僧侶さん」
327:
僧侶「なんでしょう」
少女「さっき、時代の移り変わりと言っていましたが」
僧侶「そのままの意味ですよ」
少女「どういうことですか」
僧侶「亜人と魔物が区別されるようになって社会に溶け込み始めた時代だからこそ」
僧侶「あいつの子孫が人に紛れているかもと思って」
少女「えっ? い、今なんて」
328:
僧侶「あいつの子孫が」
少女「そっちじゃなくて」
僧侶「亜人と魔物の区別ですか? 確かにこちらの地方ではまだ数が少ないですが」
少女「も、もっと詳しく教えてください」
僧侶「簡単なことです。亜人は人型で言葉を話す。魔物は魔力をもった動物で言葉を使うこともあります」
僧侶「これらに属さない生物もいますがほとんどはこの枠に収まるでしょう」
少女「じゃ、じゃあ私のお父さんやお母さんたちは」
329:
僧侶「亜人の分類に入るでしょうね」
少女「そうですか!」
僧侶「今でも温厚な種族以外は魔物と似たような扱いですけれど」
少女「温厚な種族?」
僧侶「人魚族やエルフなどですね。巨人や妖精族も含まれましたか」
少女「……知らない種族です」
僧侶「ここに来るまでに亜人の多い街へも立ち寄りましたよ」
330:
少女「本当ですか!?」
僧侶「北東に港町があるのはご存知ですか」
少女「いえ」
僧侶「港町からは様々な場所へ船が出ているのですが」
僧侶「そこから海を渡った北西の大陸に亜人の住む街がありました」
僧侶「雪の降る都市でとても幻想的な街並みでしたよ」
少女「雪……」
331:
僧侶「行かれますか?」
少女「はい。どんな街か見てみたいです」
僧侶「もし良かったらわたくしと一緒に」
少女「え」
僧侶「興味がおありなのでしょう?」
少女「でも」
僧侶「うふふ。もちろん断っていただいて構いませんよ。わたくしが怖いのでしょう?」
332:
少女「……、それは」
僧侶「言わずとも分かりますよ。あなたの生い立ちを鑑みれば当然のことです」
僧侶「野生的な直感力は得体の知れないものを恐怖の対象として捉えますから」
少女「……」
僧侶「どちらにせよわたくしも北西の大陸に用があるのですけれど」
少女「用、ですか」
僧侶「はい。ただのお墓参りですよ」
333:
剣士「――そうか。じゃあここでお別れだね」
魔法使い「名残惜しいわ」
少女「剣士と魔法使いは?」
剣士「僕は王都に戻ることにしたよ。久しぶりの帰郷だね」
魔法使い「あたしも剣士と一緒に行くわ」
剣士「大きい街ではないけれど、200人規模の武道大会でベスト16に上がれたわけだし」
魔法使い「騎士の試験、受けるんだってさ」
334:
少女「そっか」
剣士「僕もいつか君たちくらい、強くなってみせるよ」
魔法使い「それはムリかもね」
少女「魔法使いは」
魔法使い「ん?」
少女「言ってないんだね」
魔法使い「いいのよ」
335:
少女「そっか」
剣士「……?」
魔法使い「王都で研究職を目指すことにしたの」
魔法使い「あなたたちを見てたら、生身じゃ敵わない気がするから」
剣士「ははは、確かにそれは言えてるね」
魔法使い「だから、肉体強化魔法を研究するつもりよ」
少女「そうなんだ」
336:
魔法使い「まだ有用性の認められてない分野だし、あたしでも有名になれるかもって」
少女「騎士のため?」
魔法使い「もちろん」
剣士「え、ええっ!?」
魔法使い「なに驚いてるの。後衛が肉体強化しても意味ないでしょ」
剣士「僕の為に?」
魔法使い「大マジよ」
337:
剣士「ありがとう」
魔法使い「当然でしょ」
少女「頑張って」
剣士「少女ちゃんはこれからどうする? 僧侶さんについて行くのかい」
少女「そのつもり……だけど」
魔法使い「ハッキリしないわね」
少女「まだ少し、怖いから」
338:
剣士「悲しんでいる人が怖いというのはよく分からないけれど」
魔法使い「少女が言うなら、ね」
剣士「気をつけて」
魔法使い「次会うときは騎士さまがあなたをボコボコにするときよ」
剣士「かっ、勘弁してよ!」
少女「あはは」
魔法使い「じゃね」
剣士「元気でね」
少女「うん。ばいばい」
353:
少女がふぇぇとか言ってた時代が懐かしいww
355:
僧侶「準備はもうよろしいのですか?」
少女「できました」
僧侶「では行きましょうか」
少女「手に握ってる紙の束は」
僧侶「依頼のメモですよ」
少女「そんなに、たくさん」
僧侶「船代がかさみますから」
356:
少女「そうなんですか」
僧侶「昔に比べて安くはなりましたが。それでも高いのです」
少女「私も手伝います」
僧侶「どうしてもと言うのなら構いませんが」
少女「自分の船代は自分で稼ぎます」
僧侶「遠慮なさらなくても宜しいですのに」
357:
少女「あんなにあったのに、もう終わるなんて」
僧侶「残りの依頼はここのものだけですね」
少女「ここは」
僧侶「名もなき村といったところです」
少女「元気がない」
僧侶「土地柄のせいもあるでしょう」
少女「ふうん」
358:
僧侶「少女さん。獲物の首は隠しておいてください」
少女「なぜ?」
僧侶「こういった集落では往々にして争いの火種となりますから」
少女「分かりました」
「……ん」
少女「村人さんですか?」
僧侶「こんにちは」
359:
「あんたら、何者だ」
僧侶「旅の僧侶です」
「僧侶さまか」
僧侶「なにかお困りではないでしょうか」
「ねえな。余所を当たってくれ」
僧侶「村長さんはいらっしゃいますか」
「一番でかい家だ」
360:
僧侶「ありがとうございます」
「長居すんなよ」
僧侶「?」
「皆余所もんが嫌えだからな」
僧侶「ご忠告ありがとうございます」
僧侶「どうやら歓迎されてはいないようですね」
少女「みたいです」
361:
村長「外の者が何用じゃ」
僧侶「わたくし達は旅の僧侶。人々を助けて回っているのです」
村長「そりゃご苦労なことだ」
僧侶「なにかお困りのことはございませんか」
村長「何も困っとりゃせんよ」
僧侶「例えば作物が育たないとか」
村長「もともと痩せた土地だ」
362:
僧侶「村人に元気がないとか」
村長「飯がなきゃ元気も無くなるわ」
僧侶「魔物に悩まされている。とか」
村長「……」
僧侶「お邪魔してすみませんでした。行きましょう少女さん」
村長「待て」
僧侶「どうしました」
363:
村長「たいそうな口ぶりだがあんたらは強いのか」
僧侶「女二人で旅をする程度にはですが」
村長「そんなら、頼みがある」
僧侶「わたくしたちに出来ることであれば」
364:
僧侶「――非協力的ですね。現地の人間に直接聞けだなんて趣味の悪い話です」
少女「奥が見えませんね」
僧侶「洞窟に魔物が出ると依頼を受けてきたはいいものの」
僧侶「依頼人が攫われていては本末転倒ですね」
少女「トカゲの魔物でしたか」
僧侶「そうですね。話ができるといいのですが」
少女「魔物とですか」
365:
僧侶「文化的に未発達な地域では魔物に見えたらそれは魔物です」
少女「……」
僧侶「亜人との区別がつかない人々も少なくありません」
僧侶「覚えておいても損はありませんよ」
少女「はい」
僧侶「そろそろ最深部でしょうか」
少女「……?」
366:
僧侶「どうかしましたか」
少女「明かりが見えます」
僧侶「先客ですか」
少女「誰かが先に来ているのかも」
僧侶「もしくは住んでいるのでしょうね」
少女「こんなところに?」
僧侶「魔物でなければ。ですね」
367:
「いんや、すまんねえ。まさが魔物ど間違えられでだどはなぁ」
僧侶「わたくしは僧侶と申します。貴方は?」
「俺はリザードマンだ」
僧侶「リザードマンさんとそちらは」
「わ、わたしは依頼を出した村娘です」
僧侶「だいたいの事情は飲み込めました」
村娘「ま、まだなにも言ってないのに」
368:
僧侶「リザードマンさんと村娘さんは恋人同士なのですね」
リザードマン「な、なぜ分がっだんだ」
僧侶「そして村娘さんは彼が村人の手にかけられる前に依頼を出した」
村娘「そんなことまで分かるの?」
僧侶「『魔物と亜人に詳しい方求む』この文章からある程度は」
僧侶「そして村長は村娘さんについて何一つ触れなかった」
僧侶「そんなところからです」
369:
村娘「そ、それならあたしの言いたいことも分かりますよね」
僧侶「もちろん。それではリザードマンさんには首輪を付けて頂きます」
リザードマン「いいけども、何でだ」
僧侶「捕虜になったふりをしてもらうのです」
370:
僧侶「間違いはありませんね」
村長「間違いない。こいつだ」
村長「いやはやありがたい。で? 金銭は要求したりしないでしょうな? まさか僧侶ともあろうお方が」
僧侶「もちろんです。その代わり」
村長「その代わり?」
僧侶「この魔物はわたくしに引き取らせてもらえませんか」
村長「売れるのか」
372:
僧侶「まさかそんな。ここで”処理”してしまっては村の皆さんに迷惑がかかるでしょう?」
村長「なるほどな。そりゃ是非そうしてほしいね」
僧侶「恐れ入ります」
村長「連れはどうしたんで」
僧侶「臭いが駄目だと言って先に行きました」
村長「そうかい。わしもだよ、さっさと出てって欲しいもんだ」
僧侶「それでは失礼いたします」
373:
少女「しっかり掴まって」
村娘「は、はい」
少女「行くよ」ヒュッ
村娘「きゃあっ」
少女「痛かったら言って」ザザザザザザ!!
村娘(す、すごい、木の上を走ってる)
少女「村長の娘だったっけ」
375:
村娘「はい、」
少女「兄弟は」
村娘「わたし一人です」
少女「飛ぶよ」ヒュッ
村娘「えっ、きゃあああ!」
少女「っと」ストッ
少女「今頃大騒ぎかも」ザザザッ!!
376:
村娘「……」
少女「だから、出来るだけ早く離れないと」
村娘「……はい」
少女「いいの、村を捨てて」
村娘「あんな村、嫌いです」
少女「そっか」
村娘「少女さんは」
377:
少女「みなしご」
村娘「ごめんなさい」
少女「別にいいよ」
少女「そう。拾ってくれた人がいるの」
村娘「?」
少女「すごく好き」
村娘「そう、ですか」
378:
少女「亜人なんだ」
村娘「!」
少女「今は、そこが私のふるさと」
村娘「……」
少女「それだけ」
村娘「……私も」
村娘「なれるでしょうか。その人のように」
379:
少女「知らない」
村娘「え」
少女「そんなの努力次第、でしょ」
村娘「……はい!」
380:
僧侶「お疲れさまです」
村娘「僧侶さん、少女さん、ありがとうございました」
リザードマン「俺がらもお礼を言わしでぐれ」
僧侶「ただお手伝いをしただけですよ」
少女「ほんとにこの町でいいの。亜人の街じゃなくて」
リザードマン「雪さ降るとごに行ったら冬眠しぢまうよ」
少女「あはは」
381:
僧侶「では。わたくしたちは宿へ参りましょうか」
少女「ばいばい」
村娘「本当にありがとう」
リザードマン「ま、まだ会えるといいな」
僧侶「さようなら」
少女「これから報告ですか」
僧侶「はい。早くしないと、獲物の首が」
少女「くさい、です」
僧侶「貴女にはつらい臭いかもしれませんね。腐臭は」
382:
少女「――これが船ですか」
僧侶「うふふ。見るのは初めてですか?」
少女「海も、船もはじめてです」
僧侶「これからしばらくは海と船しか見られませんよ」
少女「どれくらいかかりますか」
僧侶「半月くらいでしょう」
少女「長いですね」
383:
僧侶「航海ではあたりまえのことですよ」
少女「僧侶さん」
僧侶「なんでしょう」
少女「よかったら、稽古を付けてもらえませんか」
僧侶「なぜわたくしに?」
少女「怖い、けど、強いから」
僧侶「……」
少女「だめですか」
僧侶「いいですよ。海の上にいる間はすることもありませんからね」
384:
少女「はっ!!」
僧侶「そうそう。今の筋はいいですね」
少女「やっ!」
僧侶「もう少し重く」
少女「やっ!!」
僧侶「さが抜けてしまいましたよ」
少女「はっ!」
385:
僧侶「いいですね。今日はここまでにしましょうか」
少女「ありがとうございました」
僧侶「お疲れ様です。いつもならこれで終わりますけれど今日はもう一つありますよ」
少女「?」
僧侶「ほら。聞こえませんか」
少女「さっきから聞こえていました。この歌がどうかしたんですか?」
僧侶「セイレーンの歌声です」
少女「セイレーン?」
僧侶「海の男を誘惑し船の航行を妨げる者たちですよ。行きましょうか」
398:
僧侶「甲板からだとはっきりと聞こえますね」
少女「船長さん」
船長「……きれいな歌声だあ」ポーッ
少女「だめです、みんな誘惑されています」
僧侶「航路が逸れてしまいますね」
少女「どうするんですか」
僧侶「アルラウネさん」
399:
アルラウネ「なにー?」
僧侶「誘惑を上書き出来はしないでしょうか」
アルラウネ「やってみる?」
僧侶「お願いします」
アルラウネ「少女ちゃん、こないだ作ったムチあったよね」
少女「うん」
アルラウネ「こーういう風に振って、そのへんに叩きつけてみて?」グルーッ
400:
少女「こう?」パァン!
ボフッ!!
アルラウネ「出た出た。誘惑の花粉」
少女「すごい」
船員「ああ……美しい歌声にいい匂いだぁ……」
アルラウネ「んーでも、そこまで効いてないっぽいね」
僧侶「そうですか」
401:
アルラウネ「もうちょっと干渉できれば主導権握れるけど」
僧侶「耳栓をさせてみましょうか」
アルラウネ「作ってみるね」
402:
少女「元の航路へもどってもらえますか」
船長「もちろんだぁ……」
少女「なんとかなったみたい」
僧侶「植物の繊維で耳を塞ぐとはさすがですね」
アルラウネ「へっへーん! どんなもんだい!」
僧侶「ですが」
少女「?」
403:
バサッ!! バサバサッ!!
僧侶「おいでになったようですよ」
「えーん、どうして私たちの歌を聞いてくれないの〜!?」
「あらあら。小賢しくも耳栓なんてしていますよ」
「耳栓?」
「耳を塞いでいるんです」
「え〜っ!? ゆ、許せなーい!!」
404:
少女「な、なに!?」
僧侶「セイレーンですね。人間の上半身に魚の下半身そして鳥の翼を持つ亜人です」
少女「亜人……」
セイレーンA「あれ? あの人たちも聞こえてない?」
セイレーンB「女性、ですか」
セイレーンA「女の人だと聞こえない?」
セイレーンB「聞こえますが、只の綺麗な歌くらいにしか思わないでしょう」
405:
セイレーンA「そっかー」
僧侶「暢気に会話をしていてもよろしいのですか?」
セイレーンA「感動してくれないひとに興味ないもん」
セイレーンB「男の人だけ貰っていきますよ」
僧侶「ダメです」
セイレーンA「どうして〜?」
僧侶「船員がいないと船が動かせませんから」
406:
セイレーンB「実力行使でもよろしいですかしら」
僧侶「わたくしとやりあうおつもりで?」チャキッ
ズゥ…ン!!
セイレーンB「……!!? な、」
少女(空気が、一気に重く、っっ!!)
アルラウネ「うぅ、っ」
セイレーンA「か」
407:
僧侶「か?」
セイレーンA「かっこいい〜〜っ!!」
僧侶「……はい?」
セイレーンA「そのピカピカ光る棒!! すごくかっこいい!!」
僧侶「こ。これは刀といいます」
セイレーンA「カタナ! 名前もかっこいい!」
僧侶「あの。貴女」
408:
セイレーンA「なに?」
僧侶「なにも感じませんか」
セイレーンA「なにが?」
少女(えっ?)
僧侶「いえ。そうですか」
セイレーンB「セイ……レーン、A!」
セイレーンA「なによう」
409:
セイレーンB「逃げましょう!」
セイレーンA「なんで」
セイレーンB「なんでって……!! そいつの危なさがわかんないのっ?」
僧侶「……」
セイレーンA「よくわかんない」
セイレーンB「もう好きにして下さい!」バサッ
アルラウネ「行っちゃったね」
410:
セイレーンA「ねえねえ!」
僧侶「な。なんでしょう」
セイレーンA「それ、どこにいけばあるの?」
僧侶「東方の国のものだったかと」
セイレーンA「どこ?」
僧侶「東です」
セイレーンA「ありがとう、行ってくる!」
411:
僧侶「ちょっと。ちょっと待ってもらえませんか」
セイレーンA「どうしたの?」
僧侶「先ほどは本当になにも感じなかったのですか」
セイレーンA「だから、なんの話?」
僧侶「……」
僧侶「少女さん」
少女「な、なんですか」
412:
僧侶「この子、連れて行ってもいいですか」ヒソヒソ
少女「え、は、はい。でもなんで」
僧侶「威圧に耐性を持つ数少ない生き物かもしれません。興味があるのです」
アルラウネ「それ、危機感がないってこと?」
僧侶「分かりませんが」
セイレーンA「?」
僧侶「セイレーンさん。わたくしは僧侶と申します」
413:
セイレーン「うん」
僧侶「よろしければわたくし達に東方の国までの道案内をさせて頂けませんか」
セイレーン「え、ほんとっ? ありがとう!」
僧侶「よろしくお願いしますね」
セイレーン「よろしくね!」
僧侶「……ところで元の進路には戻れるのでしょうか」
414:
少女「あ」
セイレーン「進路?」
僧侶「この船の向かっていた方角です」
セイレーン「あー。いつもは取り逃がした船とか、そうだなー、あっちの方に逃げてくよ」
少女「大丈夫そうだね」
423:
少女「ここが、亜人の住む街……」
僧侶「わたくしに出来る道案内はここまでです」
少女「ううん。ありがとう、僧侶さん」
僧侶「こちらこそ」
少女「?」
僧侶「なんといいましょう。昔を思い出しました」
少女「昔を?」
424:
僧侶「少女さんはどことなく雰囲気が似ているのです。彼に」
少女「……」
僧侶「いつもぶっきらぼうな中に時折見える感情の暖かさや型にとらわれない戦い方が。貴女と」
少女「そう、ですか」
僧侶「だからわたくしは彼の剣捌きを思い出せるだけ貴女に教えました」
少女「!」
僧侶「すんなりと馴染んだでしょう?」
425:
少女「はい」
僧侶「剣の世界では随一と当時は謳われていた彼の剣です。役に立つ時が来るかもしれませんね」
少女「ありがとうございます、僧侶さん」
僧侶「あなたにこれを」
少女「これは」
僧侶「わたくしのロザリオです」
少女「どうして私に?」
426:
僧侶「神の加護を失ったわたくしがいつまでも持っていていいものではありませんから。それに」
少女「?」
僧侶「わたくしは。もう僧侶であることをやめると決めたのです」
少女「どうして」
僧侶「貴女のおかげですよ」
少女「私の」
僧侶「いつまでも……あの頃に未練を抱いていたのでしょうね。いつかまた仲間たちの傷を回復できる日が来て欲しかった」
427:
僧侶「もう僧侶ではないのだと自分に言い聞かせながら数多の魔物をこの刀で葬りました」
僧侶「残っているのはわたくし一人だけ。その事実に目を背けながら」
少女「僧侶さん」
僧侶「ですが貴女を見ていて気がついたのです」
僧侶「仲間たちはいつも未来を見ていたと」
少女「未来を」
僧侶「貴女には未来があります。そうでしょう?」
428:
少女「……はい!」
僧侶「貴女の未来が見てみたい。それが今のわたくしの楽しみです」
少女「ありがとう」
僧侶「そのためには彼の死と向き合わなければなりません。墓を立て花をを手向け祈りを捧げることで」
少女「お墓参りって、そういう意味だったんですね」
僧侶「はい。……いつかまた会いましょう。少女さん」
少女「またね。いってらっしゃい」
429:
僧侶「次に会うときを心待ちにしていますよ。さようなら」
アルラウネ「ここでお別れかー」
少女「寂しい?」
アルラウネ「せっかくあんなに強いんだし、心強い味方ができたと思ったのにー」
少女「また会えるよ」
アルラウネ「そのときは敵にだけは回したくないかな」
少女「あはは」
430:
アルラウネ「ね、街のほうに行ってみようよ! セイレーンも!」
セイレーン「えー? カタナはー?」
少女「この港に来ればいつでも東の国に向かえるって僧侶さんが言ってたよ」
アルラウネ「街見てからでも遅くないし! いい刀が交易品に混じってるかもしれないぜぇーっ?」
セイレーン「それホント? じゃ見にいこーよ!」
アルラウネ「ひゃっほーう!」
少女「そういえばアルラウネ、この街の中なら人型に戻っても大丈夫かも」
431:
アルラウネ「あっ、そうだね」
セイレーン「え、人型になれるの? すごーい!」
アルラウネ「でも少女の首にぶら下がってる方が楽だからやらない」
セイレーン「ええー」
少女「たまに動かさないと鈍るよ」
アルラウネ「やだ! 戻らない!」
432:
少女「――本当にいっぱい亜人さんがいる」
セイレーン「みたことない人ばっかだー」
少女「セイレーンが全然目立たないね」
セイレーン「歌えば目立てるかな?」
少女「ダメ」
セイレーン「ケチ」
アルラウネ「すごいねー。思いつくかぎりの亜人を詰め込んだって感じがする」
433:
少女「人間の方が浮いてるかも」
アルラウネ「少女はなにか、したいことあるの?」
少女「宿と仕事が欲しい」
アルラウネ「じゃ、ギルドにれっつごー!」
セイレーン「ギルドって?」
アルラウネ「いろいろ便利なとこだよ」
セイレーン「へー」
434:
少女「そういえば、セイレーンの簡易証明書も作らないと」
セイレーン「それなに?」
少女「ないと街で暮らせない」
セイレーン「ふーん、じゃあ作りに行く!」
435:
受付「それでは、こちらがセイレーンさんの証明書となります」
セイレーン「ありがと〜!」
受付「ほかにご用は?」
少女「依頼を探しているのですが」
受付「わかりました。お仕事ね?」
少女「はい」
受付「今のところは指名手配や討伐の依頼ばかりで、あなたにできそうなものはないかしらね」
436:
少女「それでいいです」
受付「あら。チャレンジするつもりで来たのかしら? ごめんなさいね」
少女「依頼を見せてもらえますか」
受付「はい、今あるのはこの数枚よ」
少女「盗賊、盗賊団、海賊、狂犬、うーん……」
アルラウネ「いいのあった?」
少女「安くて疲れるのばっかり」
437:
アルラウネ「そっかー」
受付「あのね、知ってると思うけどあまり無茶な依頼を受けて死んじゃってもギルドは責任取れないわよ」
受付「失敗したら評判も下がっちゃうし、やめたほうがいいんじゃないかしら」
少女「ん。これ」
アルラウネ「ドラゴン?」
少女「氷竜。北の山脈に生息。人語は解さず知能も低い。時折人里を襲撃する。討伐依頼」
受付「ちょ、ちょっと。私の話聞いてた?」
438:
少女「はい」
受付「それはプロのハンターとかに頼むような依頼で、あなたたちみたいな……」
少女「この依頼を受けます。これ、私の簡易証明書です」
受付「……」
439:
受付「――あなた、すごいのね。その年でギルドのランカーだなんて。はい、証明書返すわ」
少女「ランカー?」
受付「し、知らないの?」
少女「はい」
受付「ギルドにどれだけ貢献したか、っていう上位者ランキングがあるのよ。確認作業中、そのなかにあなたの名前を見つけたわ」
少女「ふうん」
受付「ふうん、って。凄いことなのよ」
440:
受付「誰も彼も有名な冒険者や賞金稼ぎばかりなんだから」
少女「興味ないです」
受付「そ、そう」
少女「依頼の詳細を聞かせてください」
受付「分かったわ。まず、この氷竜は……」
セイレーン「話ながーい。退屈ぅー」
441:
少女「ふうん。思ったよりも近いんだね」
アルラウネ「むこうに見えてるあの山? 少女ならすぐだねー」
セイレーン「え、ホント? すっごく遠く見えるんだけど」
少女「一日なくても着くよ。確かに危ないかも」
アルラウネ「氷竜だっけ」
少女「殺さないで済ませたいな」
アルラウネ「話が通じるといいね」
442:
セイレーン「ドラゴン……」
少女「どうしたの」
セイレーン「ずっと前にお姉ちゃんに聞いたことある。海の中にはドラゴンっていう怖い生き物がいて」
少女「うん」
セイレーン「とっても頭が良くて、ひどい目にあうから絶対に怒らせたらダメなんだって!」
少女「そうなんだ」
セイレーン「ねえ、ホントにだいじょぶなの? ドラゴンが相手なのに」
443:
少女「どうにかなる」
アルラウネ「うんうん」
セイレーン「なんで、だって! ドラゴンだよ? ムリムリ、セイレーン行きたくない!」
少女「じゃ行こっか」
アルラウネ「氷の地面だっけ。いろいろ準備しないとねー」
セイレーン「聞いてよ〜っ!」
「ねえ、君たち」
444:
少女「? なんですか?」
「氷竜の討伐に行くんだってね」
少女「そうですけど」
「よかったら俺を連れてかねえかい」
少女「あなたをですか?」
「おっと紹介が遅れた、俺の名前は傭兵だ。この街を拠点に活動してる」
少女「傭兵さん」
445:
傭兵「おうよ。悪いがさっきギルドで立ち聞きしててね」
少女「人間?」
傭兵「人間だ。嬢ちゃんたちは?」
少女「私は人間」
セイレーン「セイレーンだよ」
アルラウネ「植物でーっす! いぇーい!」
傭兵「お、おう? 三人目の子はどこにいんだ? 姿が見えねえが」
446:
アルラウネ「ここだよー」ニュルッ
傭兵「うおわあ! 顔が!」
少女「予告なしで出ないでってば」
アルラウネ「ごめんごめんー」
傭兵「か、変わった亜人だな」
アルラウネ「それ褒め言葉?」
傭兵「感想だ」
447:
少女「それで?」
傭兵「おう、本題か。俺は話を聞いたとき、こいつらなら氷竜の討伐をやってのけると確信してね。声かけたってワケ」
傭兵「こう見えても役に立つぜ。ここは俺の故郷だ、例の山も登り慣れてっし、準備だって完璧に出来る」
アルラウネ「どうする? 連れてく?」
少女「一割」
傭兵「三割」
少女「一割半」
448:
傭兵「二割」
少女「いいよ。よろしく」
傭兵「サンキュ、まあ氷竜なら二割でも十分だぜ。実際」
セイレーン「今のなに?」
アルラウネ「報酬をめぐる冒険者のきたないやり取り」
449:
傭兵「はあ……っ、はあっ」
少女「休憩する?」
傭兵「お、おう、ちょっと、腰下ろさせてもらうわ」ドサッ
少女「ここまでくると息が白いね」
セイレーン「さむひ」ガタガタ
少女「そろそろ服着よう、セイレーン」
セイレーン「毛皮だけひゃだめだった〜……」
450:
アルラウネ「ひゃっほーぅ!!」
ヒャッホーゥ…
アルラウネ「声が返ってきて面白いぜぇー!」
傭兵「お前ら化け物かよ」
アルラウネ「なにが?」
傭兵「服着てないだとか息一つ切らしてないだとかどうなってんだ」
セイレーン「毛皮あるもん」
451:
アルラウネ「動いてないし」
少女「慣れ」
傭兵「最後の奴!」
少女「慣れ」
傭兵「少女ちゃん上着も着てねえしこのハイペースで息も切らしてねえ。おかしい」
少女「慣れ。よくこれぐらいの高原で遊んでたから」
傭兵「それは俺も同じはずなんだが」
452:
少女「毎日?」
傭兵「月一」
少女「慣れてないね」
傭兵「努力しろと」
少女「うん」
傭兵「参ったなこりゃ」
セイレーン「なんだこれーっ! すごくあったかい!!」モフモフ
453:
アルラウネ「鳥人用の上着が売っててよかったね」
セイレーン「でも下半身寒い」
アルラウネ「人魚用の耐寒装備売ってなかったから……」
少女「平気?」
セイレーン「いちおう。もうちょっとあったかいけど、近くの海に住んでるもん」
傭兵「ふう、サンキュ。そろそろ行こうぜ」
少女「そうだね」
454:
アルラウネ「ひゃっほーぅ!」
ヒャッホーゥ…
少女「どうしたの、いきなり」
アルラウネ「もう一回やっとこうと思って」
455:
ザク… ザク…
傭兵「お前ら、大丈夫か」
少女「平気」
アルラウネ「上着も着てるしね」
セイレーン「限界」
傭兵「応急的に下半身に服着てるとはいえ、翼は丸出しだもんな」
セイレーン「少女におんぶしてもらってなんかすごくあったかいけど」
456:
傭兵「日も出てっからまだマシだが、ちょっと翳れば途端に寒くなる。そろそろ休憩すっか」
少女「どこで」
傭兵「ここをもう少し行くと小屋があんだ。一度そこに行く」
少女「おっけ」
セイレーン「セイレーン、寒いです」
457:
傭兵「おう。ここだ」
少女「誰か人がいるよ」
傭兵「本当か」
少女「たぶん」
傭兵「用心するに越したこたあねえな。いいか?」
少女「入ろう」
ガチャ…
458:
「……」
傭兵「先客さんか。ちょっとお邪魔させてもらうぜ」
「……」
傭兵「おい?」
「……くかー」
傭兵「……」
少女「……」
459:
傭兵「座ったまま寝てるな」
アルラウネ「疲れてるのかなー」
少女「セイレーン、下ろすよ」
セイレーン「ありがと〜……寝かせて」ペチッ
少女「あ、ベッドそっち」
セイレーン「ふぁい」
傭兵「起こすのも悪いし、このまま放っておくか」
460:
傭兵「座ったまま寝てるな」
アルラウネ「疲れてるのかなー」
少女「セイレーン、下ろすよ」
セイレーン「ありがと〜……寝かせて」ペチッ
少女「あ、ベッドそっち」
セイレーン「ふぁい」
傭兵「起こすのも悪いし、このまま放っておくか」
461:
少女「そうだね」
傭兵「それにしても寒いな。明かりだけで、暖炉に火も入ってないし」
少女「薪取ってくる」
傭兵「俺は火起こすわ」
「くかー」
傭兵「……なんだかなー」
477:
「ん……」
傭兵「お、起きたか」
「……誰ですかー?」
傭兵「冒険者だよ」
「へー。ご苦労様です」
傭兵「よく眠ってたな」
「すぐに眠くなっちゃうんですよねえ。惰眠をむさぼるのは楽しいですよぅ」ポタ… ポタ…
478:
傭兵「お、おいアンタ」
「どうしました?」
傭兵「かっ、体溶けてるぞ」
「あ」
傭兵「悪い、すぐ火消すわ。雪女とは思わなかった」
「大丈夫ですよー。ほら」シャキッ!
傭兵「お、おお」
479:
「この通りすぐに凍らせられるので」
傭兵「済まん。魔力の高い人でよかったよ」
雪女「いいですってばあ。ところで、どうして私が雪女だと?」
傭兵「……。普通の人間は溶けない」
雪女「なるほど、確かにー」
480:
少女「へえー。それでこの山小屋に」
雪女「本当、暴れ者で困ってるんですよー」
傭兵「俺達はその氷竜を討伐しにきたんだ」
雪女「ご苦労様ですー」
傭兵「できたら、知ってることを教えて欲しいんだが」
雪女「うーん、あんまりないですけど」
少女「大きさはどれくらい」
481:
雪女「そうですねえ、でっかい木ぐらい高いです」
少女「けっこう大きいね」
傭兵「マジか。俺、非戦闘要員に徹させてもらっていいかな」
少女「もとからそのつもり」
傭兵「だよな、報酬が二割の時点でそうだよ」
雪女「けっこう強いみたいですよう」
少女「どれくらい?」
482:
雪女「吹雪を起こしてもぜんぜんこたえないんですよねえ」
傭兵「そりゃ氷竜だからじゃねえのか……」
雪女「おー。言われてみれば」
アルラウネ「ほかには」
雪女「そうですねえ、翼はないからドラゴンって言うよりはトカゲに近いかも」
少女「飛ばないならすこし楽」
アルラウネ「飛んだら足場とか面倒だしねー」
483:
傭兵「飛ぶことまで視野に入れてたのか」
少女「いちおう」
傭兵「いよいよ恐ろしいな」
雪女「なんでもいいけど討伐お願いしますう。困ってるんですよねえ」
アルラウネ「暴れて?」
雪女「いえ、寝床なんですよ。ドラゴンの巣が」
アルラウネ「……。まさか、雪女さんのですか」
484:
雪女「そうなの。言わなかったです?」
少女「言ってないね」
雪女「協力するから、ぜひ協力してー。こう見えてもつよいよー」
傭兵「悪いがまったく強そうに見えん」
アルラウネ「私も」
少女「同じく」
雪女「ひどいですよう、皆さん」
485:
雪女「そうなの。言わなかったです?」
少女「言ってないね」
雪女「協力するから、ぜひ協力してー。こう見えてもつよいよー」
傭兵「悪いがまったく強そうに見えん」
アルラウネ「私も」
少女「同じく」
雪女「ひどいですよう、皆さん」
486:
傭兵「――じゃ、準備はここまでにしておくか。しっかり寝てくれよ」
少女「うん」
傭兵「俺は添え物だ、討伐のメインはお前さんだかんな。また明日な」
少女「おやすみ」
少女「……――」
僧侶『勝手なお願いで申し訳ありません』
487:
少女『いいですよ』
僧侶『昔は川もあったのですが』
少女『今は、からからに乾いちゃってるんですよね』
僧侶『聞いた話では。セイレーンも一定量の水が必要でしょうし』
僧侶『出来れば連れて行きたかったところですが。ごめんなさい』
少女『一人のほうが、都合いいかもしれませんから。気にしないで』
僧侶『わたくしは地図でいえばここにある村に滞在するつもりです』
488:
僧侶『セイレーンになにか異変が起きたら知らせてください』
少女『心配ですか』
僧侶『はい。格下の相手に威嚇が効かなかったのは初めてですから』
少女『あいつ、って人の子孫を疑ってるんですよね』
僧侶『十中八九はありえませんけれども』
少女『お墓、建てられるといいですね』
僧侶『この手で地にうずめた彼の骨は、この手で探し出しますよ』
489:
少女『……、』
僧侶『少女さん』
少女『なんですか?』
僧侶『ありがとう』
490:
アルラウネ「外の雪、月明かりで光ってて綺麗だね」
少女「起きてたの」
アルラウネ「そりゃあね」
少女「綺麗。雪、近くで見るの初めてだから」
アルラウネ「森には降らなかったもんね」
少女「うん」
アルラウネ「僧侶さんのこと、考えてた?」
491:
少女「もう村に着いたかなって」
アルラウネ「かもね」
少女「あんなに強い人がいるなんてまだ信じられない」
アルラウネ「そうだよね。少女が歯ぁ立たないんだもん」
少女「どうしてあんなに強くなれたんだろう」
アルラウネ「愛する人のためってのもちょっと違うしね」
アルラウネ「復讐、なのかな。いちばんしっくりくるのは」
492:
少女「それに、どんな旅をしてきたのかも知らないし」
アルラウネ「言われてみれば」
少女「今度会ったとき訊いてみようか」
アルラウネ「いつ会うかなぁ」
少女「お墓が出来たら、かな」
493:
雪女「ここです。お家」
少女「冷気が伝わってくる」
傭兵「へえ、氷の洞窟か」
雪女「住み心地がとってもいいんですよう」
アルラウネ「それは魔物も同じってことね」
少女「行こう」
傭兵「俺はお前らが危なくなったら助けに入る」
494:
アルラウネ「よろしくね」
セイレーン「セイレーンは何してればいい?」
少女「氷竜の性別は分かんないから、歌ってみて」
セイレーン「どんな歌?」
少女「寝るのとか、誘惑とか」
傭兵「おいおい、セイレーンの歌って男にだけ効くんだろ?」
アルラウネ「傭兵さんが寝ちゃう」
495:
少女「傭兵さんだけ寝ちゃったら歌うのやめて起こしてあげて」
セイレーン「ドラゴンも寝たら?」
少女「起こさなくても平気」
傭兵「置いてかないでくれよ」
少女「あはは」
アルラウネ「ね。冷気、強くなってきたね」
雪女「できるなら穏便に出て行って欲しいですけどねえ」
少女「そろそろ、だね」
496:
「グルルルル…」
雪女「みなさん、しーっ。あれが氷竜」
傭兵「じゃ俺は隠れてっから」
セイレーン「セイレーンも傭兵さんといるね」
少女「やっぱり、ここだと花粉の魔法は使いづらそう」ボソッ
アルラウネ「ドラゴンに効くぐらい出すには狭いしねー」
少女「私たちは平気だけど」チラッ
497:
雪女「怖いこと言わないでくださいよう」
「……」フシュー
少女「!」
アルラウネ「いつのまに起きたの!?」
少女「今。……ねえ、私の言葉わかる?」
「……」
少女「ここ、この人の家なんだ」
498:
雪女「そうですよう」
「……」
少女「できれば、返してほしい」
「……」
アルラウネ「ダメだ。理解できてないよね、多分」
少女「力でどうにかするしかないか」ポサッ
「! グル…」
499:
アルラウネ「あんまり花粉出さないでね」
少女「分かってる」
雪女「援護しますねえ」
少女「ありがと」
「グルルルル…!」
〜♪ 〜〜♪
少女「セイレーンの歌、」
500:
アルラウネ「効いては、ないみたいね」
少女「ちゃんと傭兵さん起こしたかな、セイレーン」
「グルゥ…!」
アルラウネ「! 少女ちゃん、来るよ!」
「グオオオオオオ!!」
501:
少女「んー……」ズサッ
アルラウネ「花粉なかなか効かないね」
少女「耐性があるのかも」ガッ!
アルラウネ「火の魔法もあんまりこたえてないし」
少女「魔女さんに教えてもらえばよかった。上級魔法」ヒュヒュン!
アルラウネ「ね」
「スゥゥゥゥ…」
502:
少女「! ブレス!」
雪女「氷壁っ」キィン!
「ゴオオオオオオオッ!!」
少女「ありがと、助かった」
雪女「これくらいしか出来ませんからー」
少女「うーん」
アルラウネ「どうやって突破しようか」
503:
少女「ドラゴンと戦うの初めてだけど、思ったよりタフだよね」ヒュン!
ビシィッッ!
「ギャオオオオッ!」
アルラウネ「お、クリーンヒット?」
少女「だった、けど」
「グルルルルルゥ……!!」
少女「怒らせた、みたい」
504:
「ズゴォォォォォオオッッ!!」
少女(まずい、さっきのブレスと溜めが違いすぎる)
少女「まさかっ」
アルラウネ「どしたの」
少女「雪女さん! とびきり厚い壁をあの二人のほうに!!」
雪女「分かりましたぁ!!」
「……ッ」ピタッ
505:
少女(あ、)
「グワアアアァアオオオッ!!」
少女(全体にブレスっっ……こっちが、間に合わなかっ、)
アルラウネ「――はあああっ!!」ズビュッ!!
ゴォォォォ!!
少女「――……」
アルラウネ「だ、いじょうぶ?」
506:
少女「ア、アルラウネ」
アルラウネ「私、のことは気にしないで、はやく」
少女「うんっ、うん」
アルラウネ「もう、養分も、水もないから、壁、出せない、よ」
少女「分かった」
少女「雪女さん! そっちは!」
雪女「へーきっ」
507:
少女(いくらこっちから仕掛けたっていっても、もう手加減しない)
少女(目を潰す)
「ォォォォォ…」
雪女「弱ってる、チャンスですっ」
少女(いまの、うちに)
少女「やああっ!!」
ドシュ!!
508:
「――――ッギャァァァァアアアア!」
少女(もうかたっぽ)ズチュ!
「オオオアアアアアア!!」ドシン! バタン!
少女(これで時間稼ぎにはなる)
少女(その間に、)
少女「水魔法」ヒュルル…
少女(ここにありったけの毒の花粉を、)
509:
少女「えいっ!」
ズルッ…
少女(……く、やっぱり難しい)
少女(二つ同時に魔法、気を抜くとすぐに解けてしまいそう)
少女「雪女さん!」
雪女「なに」
少女「少しの間、氷竜の動きを止められますか」
510:
雪女「氷で? 暴れてるから難しいですねえ」
少女「ほんのちょっとでいいんです、合図したらお願いします」
雪女「分かった」
「グオオオオオオオ!!」
少女(狙うは潰した目玉)タンッ
少女「――今です!!」
雪女「氷撃っっ!!」
511:
ガキィガキィン!!
「グ!? ゴ…」
少女(眼窩から脳天に)
少女「直接ッ、ぶち込んでやるっっ!!」ドチュッ!!!
「グ、アアアアアアアアア――――」
ごぼり。
「――――…………」
ドシャアアアァァン…
532:
少女「アルラウネっ!」
アルラウネ「み、み」
少女「水? 分かった!」
少女(魔法で作った水は飲み水にならない、それなら)
少女(このつららに、)
少女「炎魔法!」ボッ
ポタタタ…
533:
アルラウネ「んぐ、んぐ……」
少女「……っ、」
アルラウネ「ふへぇ〜。生きかえるぅー」
少女「ふぅーーっ。もう、焦らせないでよ」
アルラウネ「お腹減った。養分になりそうなもの、ない?」
少女「干し肉があったはず」
アルラウネ「それでいいや」
534:
少女「はい」
アルラウネ「ありがと」ブスッ
チュウー…
アルラウネ「やー、滋養が体に満たされてくぅー!」シャキーン
少女「大丈夫?」
アルラウネ「壁、本体と繋がったままだったし、かなり痛かったけど。なんとか」
少女「もう無茶しないで」
535:
アルラウネ「こっちのセリフ」
少女「ごめん」
アルラウネ「笑い事じゃないよー」
少女「笑ってないよ」
アルラウネ「さっき笑ってた!」
雪女「みなさん、ちょっと来てください」
少女「?」
アルラウネ「なんだろ」
536:
少女「――……」
アルラウネ「卵、だね」
セイレーン「おいしいかな?」
傭兵「オイオイ」
少女「お母さんドラゴン、だったんだ……」
雪女「なるほど、子育てのために条件の合う場所を住処にしたんですねー」
傭兵「それなら凶暴になってたのも納得が行かぁな」
537:
セイレーン「どうするの?」
傭兵「割るか?」
少女「ちょっと、待って」
傭兵「どうした」
少女「……残してあげたい」
傭兵「なんだって。いいのか? 生まれた子供は人を襲うかも知れんのに」
少女「依頼対象は、氷竜だけだし」
538:
傭兵「ん。まあ、そうだが」
少女「……」
少女「分かってたら、殺さなかったのに」
傭兵「そりゃ勝手だな」
少女「どうして」
傭兵「子供がいるかどうかで生殺与奪を考えてたらキリがねえよ」
少女「だけど」
539:
傭兵「俺達は依頼を受けた、受けたから討伐した、それだけだ」
少女「でも子供は」
傭兵「生き残るかも知れんし、死ぬかもしれん」
少女「やっぱり、殺さない方が良かった。そのほうが子供が生きてる確率は高い」
傭兵「違う」
少女「なにが」
傭兵「こいつは、天敵に出会って、出会った天敵に倒されたんだ」
540:
少女「私たちが、天敵」
傭兵「そうだ。天敵に出会ったら死ぬか逃げ延びるか、それが自然の理ってモンだろ」
少女「……、」
傭兵「子供がどうなるかなんて考えない方がいい」
傭兵「そうしなきゃ冒険者だの傭兵だの、やってらんねえよ」
少女「……そう、だね」
傭兵「ま、俺も無益な殺生はしちゃ寝覚めが悪い。卵は残すか」
541:
少女「……傭兵さん」
傭兵「ん」
少女「ありがと」
傭兵「おう」
アルラウネ「卵を残すのはいいけど、雪女さんの家はどうするの」
雪女「そういうことなら」
セイレーン「別の家さがすの?」
542:
雪女「ドラゴンの子供、育てます」
傭兵「あ?」
アルラウネ「へ?」
雪女「だって、卵のうちに外に放り出したらかわいそうですもんねえ」
傭兵「あー……」
アルラウネ「自分が出てくっていう選択はないのね」
雪女「この洞穴以外に住めるところ知りませんものー」
543:
傭兵「住めそうな広い洞窟ならいくつか知ってるが、教えたほうがいいか」
雪女「でもー、卵動かして平気なんですか」
傭兵「育てるのも確定かよ」
544:
雪女「――みなさん」
少女「なに?」
雪女「家を取り戻してくれて、ありがとう」
少女「どういたしまして」
傭兵「俺、なんもしてないけどな」
セイレーン「セイレーンもー」
雪女「でも、一緒に来てくれたじゃないですかあ」
545:
傭兵「報酬目当てだ」
少女「あはは」
雪女「報酬?」
アルラウネ「下の街の人も氷竜が怖かったみたい。懸賞金がかかってたの」
雪女「なるほどぅ」
傭兵「ドラゴン本体の素材も高く売れるしな。儲けもうけ」
セイレーン「少女のおかげだよね」
546:
傭兵「うるせ」
雪女「報酬……」
少女「?」
雪女「むー、ちょっと待ってください。報酬、用意しますから」
少女「え、気にしないで」
雪女「そんなわけにいかないですよう。確かこのへんに」ゴソ
雪女「あったっ」
547:
アルラウネ「氷?」
雪女「魔力を持った氷です。たまーに見つかるんですよー」
雪女「ここに、ちょちょっと細工をしてー」ピキピキ! ミシ!
バシャアアン!
雪女「できましたっ」
少女「わぁ」
アルラウネ「綺麗」
548:
セイレーン「すごーい」
雪女「氷の指輪の出来上がりぃ」
少女「あったかいところだと溶けちゃいそう」
アルラウネ「せっかく綺麗な細工だし、どうしようか」
傭兵「他の氷と一緒にしておけば溶けにくいぞ。こういうのは」
雪女「心配ご無用ですよう」
セイレーン「え? 溶けないの?」
549:
雪女「これから溶けなくするんです。それっ!」
パキパキ…ッ
アルラウネ「す、凄い」
少女「綺麗な透明になった」
アルラウネ「さっきまでの青色も良かったけど、こっちのほうが素敵かも」
雪女「ぜひ、貰ってください」
少女「いいの?」
550:
雪女「もちろん」
少女「ありがとう!」
雪女「今、全員分作りますからねえ」
551:
キラキラ…
少女「――陽の光に当たると、すごくよく光るね」
アルラウネ「私もここんとこに付けてもらったよ! ほら!」
少女「うん。ちょっとひんやりしてる」
雪女「また来てくださいねえ」
傭兵「俺、たまに様子を見に来るわ。近くに住んでるしな」
少女「私たちは東の国に行くよ」
552:
アルラウネ「また会えるといいね」
雪女「歓迎しますよう」
セイレーン「え、ついにカタナゲットのチャンス!? いぇ〜い!」
少女「気が早いよ」
アルラウネ「氷竜の子がどんな風にそだつのか楽しみにしてるー」
雪女「いい子に育つといいですけどねえ」
傭兵「そろそろ行くか。長居してると降りられなくなっちまう」
553:
少女「指輪、ありがとう」
雪女「いえいえ。こちらこそ」
アルラウネ「ばいばい」
雪女「いつでも来てくださいねえ」
傭兵「またな」
少女「ばいばい」
554:
ザク… ザク…
傭兵「うーん、やっぱダメだな」
少女「どうしたの」
傭兵「雲行きが怪しい。今日は山小屋に泊まろう」
アルラウネ「ありゃりゃ」
セイレーン「セイレーン寒いから! だいさんせーい!」
傭兵「ま、明日明後日には降りられらあ」
少女「しょうがないよね」
555:
少女「――……」
アルラウネ「外、真っ暗だね」
少女「うん」
アルラウネ「きのうは雪が反射してて、綺麗だったよね」
少女「うん」
アルラウネ「気にしてるの?」
少女「……」
556:
アルラウネ「私はさ、傭兵さんの言ったことも正しいと思うよ」
少女「うん」
アルラウネ「どんなことが起こるかわかんない」
アルラウネ「だから、傭兵さんみたいに、覚悟は必要だよ」
アルラウネ「なにかするたびに、こうして参ってたら」
アルラウネ「いつか、身動きが取れなくなるかも」
少女「分かってる」
557:
アルラウネ「人間と亜人はダメで魔物と動物は殺していいなんて言わないけど」
アルラウネ「少女ちゃんがそういうふうに分けてるかぎり、きっと限界が来る」
アルラウネ「あの氷竜みたいに。……」
アルラウネ「ね」
アルラウネ「少女ちゃんは、どうしたいの」
少女「どうしたい、」
アルラウネ「そ。全部、自分しだいだよ」
558:
少女「分かんないよ」
アルラウネ「うん」
少女「ぜんぜん、分かんない」
アルラウネ「そうだよね。ごめん」
アルラウネ「私はね」
アルラウネ「そんなところを気にしても、しょうがないって思ってるんだよ」
少女「え、」
559:
アルラウネ「だってさ」
アルラウネ「本当ならあの森の奥で、次の世代のアルラウネを育てて、そしていつか枯れていく」
アルラウネ「そうなるはずだったんだから」
アルラウネ「でも、外の世界が気になったの。少女ちゃんのおかげでね」
少女「私の?」
アルラウネ「そ。だから、広い世界をちゃんと見るために」
アルラウネ「偏見のない目で、気持ちでいたいんだ」
560:
少女「……」
アルラウネ「難しいよね。なにが良くてなにがダメかって」
アルラウネ「その二つは綺麗に分けられないものだもん」
少女「うん」
アルラウネ「おとぎ話はなら綺麗にまとまるけど、現実は違うものね」
アルラウネ「ひとつづつ、折り合いを付けてくしかないよ」
少女「そう、だね」
561:
アルラウネ「もし、それが難しかったらさ」
アルラウネ「お父さんとお母さんなら、なんて言うか考えてみてもいいかもね」
少女「……!」
アルラウネ「ふわーぁ、ちょっと喋りすぎちゃった。もう寝るね。おやすみ、少女ちゃん」
少女「うん……、おやすみ」
少女「……ありがと。アルラウネ」
アルラウネ「いつでも任せなさい」
562:
少女(そっか)
少女(お父さんとお母さんなら、か)
少女(そうだなぁ)
少女(きっと……)
563:
傭兵「じゃ、元気でな」
少女「本当にいいの?」
傭兵「ドラゴンの素材分まで報酬貰っちまったら実働以上だよ。このウロコ一枚で十分」
少女「そっか」
傭兵「せいぜい、今日は美味いモンでも食いに行くさ」
アルラウネ「お疲れさま」
傭兵「お前らこそな。今度会うときは手ほどきしてくれよ」
564:
少女「あはは」
傭兵「ところで、セイレーンちゃんはカタナとやらを探してるんだったか」
セイレーン「そうだよ!」
傭兵「東方の国に行くんだよな。気をつけろよ」
セイレーン「どうして?」
傭兵「むこうの人間は亜人に理解のないヤツが多いんだよ」
セイレーン「そうなんだ。気をつける!」
565:
傭兵「でな、行くんなら……」バサッ
アルラウネ「地図?」
傭兵「この辺りに、鍛冶の里ってとこがある」
傭兵「ウチの街とも交流があって、偏見もあまりないからな」
セイレーン「ありがと〜、そこ行ってみるね!」
傭兵「ただ、気難しい人間ばっかりだ。そこは上手くやってくれ」
セイレーン「うん!」
566:
少女「ありがとう」
傭兵「雪女にも伝えとくよ。じゃあな」
アルラウネ「ばいばい」
少女「ばいばーい」
515:

傭兵、空気の癖に2割とか取りすぎじゃん
荷物持ちだけなら5厘で十分
568:
クソ長い補足レスです。文中で説明しきれなかった分です。ゴメンナサイ
>>515
報酬は耐寒装備等を彼の所持品分から出しているものにも充てられますし、
そもそも彼が声を掛けなくても少女たちも選択肢として
氷竜の住処までのガイドを探したりするだろう(その場合少女が下手なため少し吹っかけられる)ということでわりあい順当かと。
傭兵は住処にだいたいの目星をつけることができたので山に登ったわけです。雪女は僥倖。
もし少女、アルラウネ、セイレーンだけで行くと仮定すればセイレーンは乙ですwwww
少女もそれほどお金の多さに執着しない(魔女や大会のやりとりを見てください)うえ、
傭兵もぼったくりにならない程度にお金をむしろうと思っているので……と考えて、こうなりました。
むしろこの世界では控えめな価格設定。
いちおう付け加えておくと、ちょっとだけ傭兵さんと彼は別人です。
520:
1雪女が小屋にいた理由が抜けてない?
568:
>>520
雪女は今の洞窟以外に住めるほどの条件の洞穴を知らず、かつこの近辺の人間は亜人に理解があることを知っているので、
山小屋を仮の寝床として新しい住処を探しているところでした。
本文中で説明したらくどいだろーってことではしょりましたです。
ダッシュ入れておけばよかったですね、ごめんなさい
599:
ザザザザーッ!
セイレーン「ねーねー」
少女「なに?」
セイレーン「この船、ほんとに東の国に着けるの? 飛んだ方がよさそう」
少女「知らない」
セイレーン「えー」
アルラウネ「たしかに小さいけどねー」
600:
セイレーン「ぼろいよ」
少女「怒られるよ」
セイレーン「どうして?」
少女「人のものをけなしちゃダメなの」
セイレーン「へー」
アルラウネ「その代わり、すごくいよね」
セイレーン「別のところに着いちゃったりしない?」
601:
アルラウネ「セイレーンが歌わなきゃ平気」
セイレーン「ひど〜い」
少女「この船、魔法で動いてるんだって。だからいみたい」
アルラウネ「こんな使い方あるんだ」
セイレーン「びっくり!」
少女「専用の魔法を、昔の人が創りだしたらしいよ」
アルラウネ「難しいんだよね、魔法を創るのって」
602:
セイレーン「そうなの?」
少女「うん、みたい」
セイレーン「でも、魔法で動いてるのかー。すごいね、魔法って!」
少女「魔力をもった宝石に魔法を使わせてるんだって」
アルラウネ「雪女さんにもらった指輪も、魔力もってるよね」
少女「そういえば、そうだね」
セイレーン「まだかな、まだかな」
603:
少女「出発したばかりだよ」
アルラウネ「セイレーン。気になってたんだけど」
セイレーン「なに?」
アルラウネ「カタナをゲットしてどうするの?」
セイレーン「え? え〜と」
セイレーン「ぜんぜん考えてなかった」
アルラウネ「おいおい」
604:
セイレーン「武器なんだよね?」
少女「うん」
セイレーン「じゃあ、使えるようになりたい!」
少女「頑張って」
セイレーン「僧侶さんがいたら教えてもらえたのに!」
アルラウネ「カタナ作ってるところなんだから、使う人もいるんじゃないかなー」
セイレーン「そっか、じゃあ探す!」
605:
少女「でも亜人に偏見あるんだよね」
セイレーン「偏見ない人探す!」
アルラウネ「難しそう」
少女「刀だけじゃなくて、不思議なものもたくさんあるらしいから」
少女「ゆっくり見てまわろうよ」
セイレーン「それいい! 賛成ー!」
アルラウネ「どんな人がいて、なにがあるかな」
少女「楽しみだね」
606:
少女「……」
アルラウネ「……」
セイレーン「何もないよ」
少女「ないね」
船員「……」クイッ
アルラウネ「そこに小道があるって」
セイレーン「ほんとだ」
607:
少女「獣道だよ」
船員「帰りは別のとこに頼め。じゃあな」ザッ
ザアアーッ…
セイレーン「行っちゃった」
少女「関わり合いになりたくないのかな」
アルラウネ「船員さん、亜人だったしねー」
少女「嫌な思い出でもあるのかな」
608:
セイレーン「へーきへーき! 早く行こ〜よ!」
アルラウネ「能天気だね」
少女「私たちは平気だけど」
セイレーン「いざとなったら逃げるのだ!」
アルラウネ「……セイレーンがいいならいいけど」
609:
ザッ、ザッ
少女「だいぶ開けてきたね」
セイレーン「ウソだー。飛びにくいもん」
アルラウネ「木の上飛べばいいのに」
セイレーン「迷子になる!」
少女「なりそう」
アルラウネ「なりそう」
610:
セイレーン「ひどい」
アルラウネ「カタナまでもう少しだよ」
少女「がんばれ」
セイレーン「がんばる!」
少女「あ、あれかな」
アルラウネ「どこ?」
少女「あっち」
611:
セイレーン「どこー?」バサッ
アルラウネ「飛ぶと撃たれるかもよ、って、聞いてないね」
セイレーン「んー、あれかな。あれだよね?」
バサッ
少女「どう」
セイレーン「家がいくつかあったよ」
612:
アルラウネ「そこかも」
少女「行こう」
アルラウネ「あの傭兵さんの言ったとおりにしてるけどなんか不安だねー」
少女「船員さんも船も着いた場所もいちおう合ってた」
セイレーン「かったな、カタナ〜♪」
アルラウネ「やっぱ不安」
613:
少女「――人、いないね」
アルラウネ「変な家」
セイレーン「カタナどこだろ?」
少女「一軒づつまわってみようよ」
アルラウネ「そうだね」
「おい」
少女「」ビクッ
614:
「あんたら、何モンだ」
少女「ぼ、冒険者です」
「この里になんの用さね」
少女「刀カジという人を探しているんですが」
「あんたがか」
セイレーン「セイレーンが!」
「セイレーン? 西の妖怪なんぞに刀が扱えるもんかね」
615:
セイレーン「えー。ダメ?」
「駄目もヘチマもあるかい。やめときな」
少女「西にも刀を使える人はいました、けど」
「」ピクッ
少女「僧侶という人なんですが」
「知らんな」
少女「おじいさん、なにか知ってるの」
616:
「どうしてさね」
少女「一瞬、反応したから」
「戦士って奴だけだよ。俺が知ってる、西で刀を使える人間はな」
少女「戦士?」
「俺のひい爺さん、そいつに刀を打ったとか何とか。今となっちゃ真偽も分からん」
少女「その戦士って人は」
「そこまで知らんよ」
617:
セイレーン「セイレーンには打ってくれないの?」
「あんたに? 冗談はよしな」
セイレーン「むー……」
少女「おじいさんは、誰ですか」
「ま。お察しの通り、俺が刀鍛冶さね」
少女「あなたが」
刀鍛冶「どっちにせよ、あんたに刀は扱えねえ」
618:
刀鍛冶「さっさと帰んな」
セイレーン「なんで〜!」
刀鍛冶「さもないと、」
「貴様ら何奴! 人の里に魑魅魍魎を立ち入らすとは何事だ、爺!」
刀鍛冶「ほら。面倒なのが来んだよ」
「成敗ッッ!!」シャラン
セイレーン「か、」
619:
セイレーン「カタナだーっっ! かっこいい!!」
「何を戯けた事を! 大人しく斬られろッ!」ヒュッ
ザンッ!
「な」
セイレーン「危ないなー」
「わしの刃を、かわす、などと」
セイレーン「お兄さんもカタナ使いなの?」
620:
「妖怪風情に名乗る道理はない!」ヒュン
セイレーン「わっ」
「ま、また」
セイレーン「セ、セイレーンが悪いことしたなら謝るから」
「うぬっ!」ヒュ
セイレーン「うわっと」
「く、くくっ……」プルプル
621:
セイレーン「落ち着いてよ〜っ! 危ないよ!」
「せいっっ!!」ドシャッ!
セイレーン「うわあ!」サッ
「むむうう……!! おのれ、これ以上の恥はかけぬ、」
「斯くなる上は――」
刀鍛冶「やめときな」
「なっ」
622:
刀鍛冶「お前さんじゃ勝てねえよ」
「なんだと!」
刀鍛冶「見たとこなあ、その妖怪も強いが」
刀鍛冶「そっちの嬢ちゃんのが強いんよ」
「何が言いたいのだ」
刀鍛冶「逆立ちしても勝てっこないわ」
「貴様、愚弄するか」
623:
刀鍛冶「そう、お前さんの目は節穴だって言ってんだよ」
「な、な」
「農民ごときがなんたる物言い!!」
刀鍛冶「程度が知れとるわ。それで勝つつもりかいね」
「貴様ッ!」チャキッ
刀鍛冶「だから、やめときなって」
「まだ言うか!」
624:
刀鍛冶「ちょい。ちょい」
少女「?」
刀鍛冶「こっち来な」
少女「でも」
「爺! 貴様――」
刀鍛冶「この娘は俺の孫でねえ」
「な」
625:
少女「え」
刀鍛冶「今日は妖怪の友達を連れてきたんだわ」
刀鍛冶「悪いが、今日はお引取り願おう」
「〜〜っ!!」
少女「いいんですか」ボソッ
刀鍛冶「あんな阿呆放っときゃいいのよ」
セイレーン「ありがとう、おじいさん!」
刀鍛冶「おうよ」
626:
少女「さっきの人は」
刀鍛冶「浪人っつってなあ、只のろくでなしだわ」
少女「浪人ですか」
刀鍛冶「ほらよ、茶だ」
少女「ごめんなさい、お邪魔して」
刀鍛冶「薄いぞ」
セイレーン「これなに? お湯?」
627:
刀鍛冶「茶だっつの」
セイレーン「チャ? ってなに」
刀鍛冶「そっからかいな」
セイレーン「これ、味しないよ。やっぱお湯だ」
刀鍛冶「貧乏なんだよ、ほっといてくれ」
少女「刀鍛冶さん」
刀鍛冶「おっと、みなまで言うな。分かってら、刀が欲しいんだろ」
628:
セイレーン「うん」
刀鍛冶「やらん」
セイレーン「ええ〜っ!」
刀鍛冶「お願い事は受け付けてねえんだよ。そんなに欲しけりゃ、あの浪人から奪って来な」
セイレーン「行ってくる」
少女「ちょ、ちょっと」
刀鍛冶「かっか、面白え奴だ」
629:
セイレーン「だって欲しいもん」
刀鍛冶「どこが気に入ったんだよ」
セイレーン「ピカピカして、カッコいいとこ!!」
刀鍛冶「光ってるだけなら鉄屑でもいいんだろ」
セイレーン「カッコよくないとやだ」
刀鍛冶「刀が格好いい? そりゃ餓鬼の発想だわな」
セイレーン「ガキじゃないもん!」
630:
刀鍛冶「どこがよ」
セイレーン「むっ……」
刀鍛冶「胸も小せえし、尻もすぼんでら。ま、餓鬼だ」
セイレーン「ばか!!」キィーン!
ビリビリビリッ!!
少女「う、っぐ」ガタッ
刀鍛冶「うお、っ。なんて声出しやがる」
631:
セイレーン「謝れ!!」
刀鍛冶「ま、ま、そう怒んなさんな。悪かったよ」
セイレーン「ほんとだよっ!!」
刀鍛冶「しかし、面白いな」
セイレーン「何が!」
刀鍛冶「お嬢ちゃんの声が、だよ」
セイレーン「……? なにそれ」
632:
刀鍛冶「どこにやったかな、ちょいと待っててくれや」
セイレーン「?? 何なの、もう」
少女(セイレーンの怒ったところ、初めて見た……)
672:
刀鍛冶「――これだよ」
セイレーン「なにこれ。フォーク?」
刀鍛冶「こいつをこう、ぶったたくとな」
ィィィ…ン!
少女「うあ」
刀鍛冶「嫌な音が聞こえるかい」
少女「耳痛い」
673:
セイレーン「なんで? 普通の音だよ」
刀鍛冶「俺はもうジジイだから聞こえないけどよ」
刀鍛冶「コレとお嬢ちゃんの声が似てる気がしてな」
セイレーン「え、ぜんぜんセイレーンの声の方が高いよ」
刀鍛冶「それよ」
少女「どういうことですか」
刀鍛冶「俺が思うに、お嬢ちゃんの声は二種類の音が混じってる」
674:
刀鍛冶「片っぽは俺たちに聞こえねえ声」
刀鍛冶「もう片っぽは聞こえてる声だ」
セイレーン「? よく分かんない」
刀鍛冶「多分、お嬢ちゃんは人間より出せる音が多いんだな」
刀鍛冶「ま、それはどうでもいい」
刀鍛冶「人間の方のお嬢ちゃんはコレの音が嫌だったろ」
少女「は、はい」
675:
刀鍛冶「それをもっと高い音にすると、妖怪の嬢ちゃんの高いほうの声が大きく聞こえて
刀鍛冶「さっきのイヤーな怒鳴り声になるわけだ」
少女「へえ」
セイレーン「それがどうしたの」
刀鍛冶「で、コレなんだがよ」
セイレーン「そういえば、これ何なの?」
刀鍛冶「音叉さね」
676:
セイレーン「音叉?」
刀鍛冶「本当はもうひとつとセットで使うんだわ。ほれ、こうやって」カァンカァン!
少女「うー」
セイレーン「なんか、うなり声みたいなのが聞こえる」
刀鍛冶「面白いだろ」
セイレーン「でも、それがどうかしたの?」
刀鍛冶「人間の嬢ちゃんは耳塞いでな」
677:
少女「? 分かりました」
刀鍛冶「妖怪の嬢ちゃん」
セイレーン「なに?」
刀鍛冶「二つの音叉の音と同じ声を同時に出せるかい」
セイレーン「やってみる」
セイレーン「――――」
少女「……?」
678:
刀鍛冶「思いっきり出してみな」
セイレーン「――――!!」
ビリビリビリッ!!
少女「う、あ、っ」
刀鍛冶「く、やっぱ耳が痛くならあ。聞こえてねえはずなんだが」
セイレーン「もういい?」
刀鍛冶「ああ、いいよ」
679:
セイレーン「なんだったの」
刀鍛冶「嬢ちゃんには、それをやるよ」
セイレーン「これを?」
刀鍛冶「きちんと使えば立派な武器になるはずさね」
セイレーン「いらない」
刀鍛冶「やれやれ。なんでだ」
セイレーン「カタナよりぜんぜんかっこよくない」
680:
刀鍛冶「嬢ちゃんには、この手のものが合ってるんだよ」
セイレーン「どういうこと?」
刀鍛冶「自分に合わない武器を見た目がいいからだとかなんだとか、そういう理由で使っててもすぐに飽きちめえよ」
刀鍛冶「刀に惚れ込んでくれたのは嬉しいがね、お嬢ちゃん」
刀鍛冶「自分の得意な分野を伸ばすのが一番いいんだよ」
セイレーン「でも……」
刀鍛冶「何だよ」
681:
セイレーン「今のままじゃ、守られるだけでやなの」
刀鍛冶「別にいいじゃねえか。仲間の嬢ちゃん、強いだろ。守ってもらえば」
セイレーン「この前思ったのっ!」
セイレーン「ドラゴンと戦った時に、セイレーンはなんの役にも立たなかった」
セイレーン「歌うのだって、男にしか効かないし」
セイレーン「音叉っていうので嫌な声が出せても、周りの仲間にもメイワクだもん」
刀鍛冶「何もできないときは隠れてりゃいい」
682:
セイレーン「隠れられないときは?」
刀鍛冶「逃げりゃいい」
セイレーン「逃げられないときは!? セイレーンが最後の一人になっても、戦えないと意味がないの!! 」
刀鍛冶「そんなに戦いてえのか?」
刀鍛冶「刀は生き物を斬るためのものじゃあない。自分の心を鍛えるためにあるんだ」
刀鍛冶「戦いてえだけなら、ほかの武器がいくらでもあるだろうよ」
セイレーン「……」
683:
刀鍛冶「返す言葉がねえならさっさと諦めて帰んな。こちとら暇じゃねえんだ」
セイレーン「それでも」
セイレーン「それでも、刀がいいの」
刀鍛冶「はあ。わかんねえ奴だ」
刀鍛冶「俺はなあ、どこの馬の骨ともしれねえ奴に自分の刀を渡したくねえんだよ」
刀鍛冶「刀鍛冶にとっちゃ造った刀は自分の子供みてえなもんだ」
刀鍛冶「分かったらさっさと出てってくんな」
684:
少女「私が知っている刀使いは」
少女「右に出るものはいない、それほどの達人でした」
刀鍛冶「ほう」
少女「その人はありあまる悲しみを力に変えて戦う人でした」
刀鍛冶「さぞ冷えて鋭い切っ先だったろう」
少女「はい。なぜ?」
刀鍛冶「刀は使い手の心を映す」
685:
刀鍛冶「悲しみを糧に戦う奴の剣筋は、みんな氷みてえに冷てえんだ」
刀鍛冶「余計な話をした。続けてくれ」
少女「その人は、自分の心を鍛えられたわけじゃないです」
少女「刀に負けてしまっていました」
刀鍛冶「……」
少女「それでも強かった」
刀鍛冶「そんで?」
686:
少女「武器をもつ理由は人それぞれです」
少女「刀鍛冶さん、あなたの考え方はセイレーンに刀を渡さない理由にはならないです」
刀鍛冶「ほう」
少女「私たちは別の刀鍛冶をさがします」
セイレーン「えっ?」
少女「もともと、この国をまわる予定だったから。いいよね、それでも」
セイレーン「そうだけど、でも」
687:
少女「行こう。お茶、ありがとうございました」
刀鍛冶「……」
セイレーン「……、」
刀鍛冶「待ちな」
少女「?」
刀鍛冶「ここまでバカにされて、はいそうですかって帰すと思ってんのか」
少女「剣を抜くなら、お相手しますが」
688:
刀鍛冶「逆だ」
少女「?」
セイレーン「逆って?」
刀鍛冶「ついて来い」
689:
刀鍛冶「――ここが俺の仕事場だ」
セイレーン「せまい」
少女「変な臭いがする」
刀鍛冶「悪かったな。おい、セイレーンとか言ったか」
セイレーン「なに」
刀鍛冶「コイツを見てくれ」
セイレーン「すごく、きれい」
690:
刀鍛冶「俺が今までに打った刀だ。数としてはたいして残っちゃいねえが」
刀鍛冶「好きなの選びな。くれてやるよ」
セイレーン「いいの?」
刀鍛冶「お前さんがたの心意気は受け取った」
刀鍛冶「それに、他の奴に仕事とられちゃかなわんからな」
刀鍛冶「そのかわり、折ったらぶち殺す」
セイレーン「わ、分かった」
691:
刀鍛冶「ほら、早くしろ」
セイレーン「……」
セイレーン「これがいい」
刀鍛冶「見せてみろ」
セイレーン「はい」
刀鍛冶「また癖のある刀を選んだな。こいつは扱いづらいぞ」
セイレーン「そうなの?」
692:
刀鍛冶「切れ味にムラがあるんだ。気まぐれな奴だよ」
セイレーン「それが気に入ったの!」
刀鍛冶「名前、付けるか」
少女「名前? 武器に?」
刀鍛冶「刀には銘を打つっていうしきたりがあんだよ」
刀鍛冶「こいつは打ち終えたばかりでな、まだ名前がないんだ」
刀鍛冶「お前さん、自分で名前つけたいか」
693:
セイレーン「よくわかんない。まかせる」
刀鍛冶「本当に俺が決めちまっていいのか」
少女「いいの」
セイレーン「物に名前つけたことなんてないもん」
刀鍛冶「そうか」
セイレーン「いいよ」
刀鍛冶「そうだな、」
694:
刀鍛冶「お前さん、歌が上手いんだろ」
セイレーン「そうみたい」
刀鍛冶「そんなら、こいつの名前は……」
刀鍛冶「うん、《歌姫》、だ」
刀鍛冶「大切にしてやってくれ」
セイレーン「てきとーな決め方だね」
刀鍛冶「直感が大事なんだよ」
695:
少女「よかったね」
セイレーン「ありがとう。大切にする!」
刀鍛冶「折るなよ」
セイレーン「折らないよ。だって、歌姫は『子供』、でしょ?」
刀鍛冶「かっか。ちゃんと分かってんな」
696:
刀鍛冶「――もう夜も更けたな。今日は泊まって行くか」
少女「いいんですか」
刀鍛冶「つっても、もうセイレーンの嬢ちゃんは寝てるしな」
少女「ごめんなさい」
刀鍛冶「いいんだよ、好意には素直に甘えとけ」
少女「ありがとう」
刀鍛冶「おうよ」
697:
少女「おじいさん」
刀鍛冶「何だ」
少女「どうして、セイレーンに刀を」
刀鍛冶「どうしてだあ?」
刀鍛冶「言ったろ、どこの馬の骨とも知れない奴に刀を渡すかって」
刀鍛冶「俺はいつも、試してるんだよ」
少女「なにをですか」
698:
刀鍛冶「刀を欲しがってウチに来る奴はいくらでもいる」
刀鍛冶「お前さん方みたいにサックリ諦める奴もいれば」
刀鍛冶「いつまでも粘る奴もいる」
刀鍛冶「大体は口八丁手八丁で煙に巻いて帰すんだがな」
少女「ふうん」
刀鍛冶「大事なのは、そいつが信用できそうかどうかだ」
少女「信用」
699:
刀鍛冶「そうだ。あの刀、歌姫はセイレーンの嬢ちゃんが手に取ったとたん生き生きとして見えた」
少女「それだけで?」
刀鍛冶「それだけだよ、そこらのまぬけどもは刃の表情なんて見えちゃいないが」
刀鍛冶「あの嬢ちゃんは自分に合った刀を手に取った」
刀鍛冶「十分さね」
少女「そうですか」
刀鍛冶「お嬢ちゃんはいいのか」
700:
少女「なにがですか」
刀鍛冶「徒手空拳で生き抜けるほど世の中甘くねえぞ」
少女「このナイフがあります」
刀鍛冶「見せてみろ」
刀鍛冶「だいぶ使い込んでるな。刃も痛んでる」
少女「はい」
刀鍛冶「こっちに来な。手入れのしかた教えてやらあ」
701:
刀鍛冶「――よし」
少女「どうですか」
刀鍛冶「いい仕上がりになったよ」
少女「ありがとう」
刀鍛冶「嬢ちゃん、只者じゃねえな」
少女「どうして」
刀鍛冶「何年も動物捌いてなきゃこういう風味にはならねえからな」
702:
少女「そうですか」
刀鍛冶「返すよ」
少女「ありがとう」
刀鍛冶「どんな人生送ってきたんだか知らねえが」
刀鍛冶「あんたにゃ幸せになってほしいね」
少女「……。私はいま、」
少女「すっごく、幸せです」ニコッ
703:
セイレーン「――ありがと、刀鍛冶! またね!」
少女「泊めてくれてありがとう。また会いましょう」
刀鍛冶「おうよ」
少女「じゃ、行こっか」
刀鍛冶「嬢ちゃん」
少女「なんですか」
刀鍛冶「武器は必ずしも生き物や人を殺すだけじゃねえ」
704:
刀鍛冶「そのことを覚えといてくんな」
セイレーン「わかった。ばいばい」
少女「また」
刀鍛冶「おう。きちんと手入れしろよ」
少女「はい。ありがとう」
705:
刀鍛冶「……」
刀鍛冶「空恐ろしいね」
刀鍛冶「どういう日常を送りゃあんな刃になるのかね」
刀鍛冶「あの笑顔も不思議な表情だ」
刀鍛冶「あいつは、大物になるかもしんねえな」
刀鍛冶「次会う時はどうなってるのかねえ」
刀鍛冶「それまで俺も生きちゃいないか。かっか」
706:
少女「――さ、どうしようか」
セイレーン「道もなくなっちゃったね」
少女「見渡すかぎりの平原だね」
アルラウネ「あんまり人が住んでないのかな」
セイレーン「空から見てみる?」
少女「いいね」
「待ていっ!」
707:
セイレーン「お?」
少女「あ、浪人だ」
アルラウネ「こりないね」
浪人「今日こそはぶった斬ってくれる! 覚悟!!」
ガキィン!
セイレーン「ふっふーん」
浪人「な」
708:
ギリギリギリ…
少女「うわー、すごいね」
アルラウネ「こういうの鍔迫り合いって言うんだっけ」
セイレーン「びっくりした? この子、セイレーンの刀だよ」
浪人「きッ、貴様の刀だと」
浪人「妖怪ごときが帯刀するなど笑止千万! 武士の誇りを踏みにじるのもいいかげんにしろ!」
浪人「いますぐたたっ切ってくれるわ!!」
セイレーン「やってみる〜?」
709:
浪人「――ぜえ、ぜえ、はあ、っ」
セイレーン「もうやめたら〜?」
浪人「そッ、そうはいくか! てえええい!」ヘナヘナ
セイレーン「やっぱやめたほうがいいよ、いつでも相手するからまた来たらいいと思う」
浪人「くっ、その、ような、侮辱……」
少女「面白いね」
アルラウネ「刀が?」
710:
少女「うん」
アルラウネ「すごく丈夫だよね」
少女「普通の剣じゃ折れてるかも」
アルラウネ「あんなに乱暴に使ってるのにね」
少女「乱暴なのは、慣れてないからだと思うけど」
アルラウネ「貰ってすぐに使えたらすごいよ」
少女「それもそうだね」
711:
浪人「ッ、はっ!!」
セイレーン「ほっ」
ザクッ!
セイレーン「あーあ。地面に刺さっちゃって、だいじょぶ?」
浪人「敵の、心配を、する、などと」
セイレーン「かわいそうになってきたもん」
浪人「だまれぇいっ!」
712:
少女「まだしばらく続きそうだね」
アルラウネ「あの人もすごい体力だよね」
少女「いつまでやるつもりなんだろう」
アルラウネ「さあ」
713:
浪人「――ぜは、ぜは」
セイレーン「も、もう満足した?」
浪人「ま、だ、まだ」
セイレーン「うごける?」
浪人「動け、る、わい」
セイレーン「あ、明日にしようよ〜、もう疲れたよ」
浪人「ば、莫迦、を、言え」
714:
セイレーン「セイレーン、寝るから、勝負したかったら、起こして」
浪人「き、さま、逃げ、るのか」
セイレーン「に、逃げないってば」
浪人「ぶ、武士の、ほこり」
セイレーン「わかった、から、明日に、しようよ〜」
浪人「よ、よかろう、けして、逃げ、るな」
セイレーン「だから、逃げないって」
715:
セイレーン「う、うあー、ごめんね、二人とも」
少女「……うん」
アルラウネ「……そうね」
セイレーン「ごめ、ね、寝る」
少女「うん」
アルラウネ「おつかれさま」
セイレーン「つかれ、」ポテッ
716:
セイレーン「……、くぅ……くぅ……」
アルラウネ「ね、寝るの、早いね」
少女「わ、私たちももう寝ようよ」
アルラウネ「あの人どうするの」
少女「このあたりまだ暖かいし、死なないよ、たぶん」
アルラウネ「そうだね」
少女「おやすみ」
アルラウネ「おやすみ」
717:
浪人「ぜー、はー、ぜー、はー」
セイレーン「浪人も、タフだね」
浪人「なんのこれしき」
セイレーン「もう満足した?」
浪人「まだまだだッ」
セイレーン「そんなぁ!」
浪人「だが、」
718:
浪人「――参った」
セイレーン「どうしたの? いきなり」
浪人「これ以上続けても無駄だと悟ったのだ」
セイレーン「え?」
浪人「刃を幾度と交えて理解したのだ」
浪人「おぬしの刃は純粋だ」
セイレーン「なに? なんのこと??」
719:
浪人「自分の刃と比べてみてやっと分かった」
浪人「わしの刃は欲にまみれておる」
セイレーン「ね、な、なんの話?」
浪人「わしは自分が恥ずかしい」
浪人「敵討ちに出たものはいいものの」
浪人「ぶらぶらとあてどもなく彷徨うばかり」
浪人「そもそもわしには関係ない話だったのだ」
720:
浪人「たいして顔も知らぬ遠縁の者に身寄りがないからとわしが敵討ちに出ることになったが」
浪人「その者に恩義もない上、相手に恨みもない」
浪人「なんとか手柄だけは上げたいと思っていたが」
セイレーン「え、ちょ、ねえ」
浪人「しかし今、やっと分かった」
浪人「大義や欲のために刀を振るうのではなく」
浪人「おぬしのように純粋でなければならないのだと」
721:
セイレーン「ね、ねえ?」
浪人「恥を忍んで、そなたに頼みごとをさせてほしい」
ザッ
少女「あの格好なに?」
アルラウネ「土下座」
少女「どういうときにするの?」
アルラウネ「最上級の謝罪だったかな」
722:
少女「へえ」
浪人「このとおり。不肖、そなたの旅に同行させて頂きたいで御座る」
セイレーン「え、」
セイレーン「ええ〜!!?」
浪人「どうか」
セイレーン「少女〜っ!!」
少女「うん。なに」
723:
セイレーン「どうしよう!」
少女「なにがー?」
セイレーン「この浪人が仲間になりたいって!! 言ってる!!」
少女「いいよ」
セイレーン「いいの!!?」
少女「多分……うん、多分いいんじゃない」
セイレーン「てきとーっ!!」
724:
浪人「そ、それでは」
少女「うん、別にいいよ。悪いことしなければ」
セイレーン「ええ〜」
浪人「有難き幸せ! 拙者、セイレーン殿に仕えさせていただきとう存じます!」
セイレーン「どういうこと??」
浪人「セイレーン殿の配下にさせて頂けはしないかと」
セイレーン「言葉づかいまで変わってる……」
725:
浪人「どうか!!」
セイレーン「え、えーと、いいよ。よく分かんないけど」
浪人「よろしいのですか!」
セイレーン「あ、うん」
浪人「それではこれより、拙者はセイレーン殿を主君に戴き、配下として仕えさせて頂きます!」
セイレーン「……」
セイレーン「なにこれ」
726:
少女「じゃご飯にしようか」
アルラウネ「そうだねー」
セイレーン「そうだ! ね、ねえ少女! セイレーンこの人どうすればいいの!?」
少女「知らない」
セイレーン「そんなあ!」
アルラウネ「くくくっ」
セイレーン「待ってよー!」
727:
アルラウネ「面白いねー。頑張れ、王様」
セイレーン「えっ!? 主君って王様って意味なの!?」
アルラウネ「たしか」
セイレーン「セイレーンべつに王様になんかなりたくない〜!!」
浪人「セイレーン殿、拙者の考えるところ、王ではなく姫君かと」
セイレーン「そんなのどうでもいいよ〜!! これからどうすればいいの〜!?」
少女「がんばれ」
アルラウネ「うん」
セイレーン「ひどい!」
766:
浪人「セイレーン殿」
セイレーン「なに」
浪人「そのままの格好では少々、この国を歩くのは危険です。亜人と見るや無差別的に襲う人間も多いゆえ」
セイレーン「最初の頃の浪人みたいに?」
浪人「……かたじけない」
少女「でも隠しようがないよ」
浪人「亜人の中には自らの体を変化させることが出来る者もいると聞きました。セイレーン殿にはそのような力はありませぬか」
767:
セイレーン「むり〜」
浪人「むむ。では少女殿、今後のゆくあては」
少女「とくにないけど」
浪人「わしに任せてはくれないだろうか」
少女「あの世以外でおねがい」
浪人「うぐっ」
アルラウネ「あははは、すごい皮肉」
768:
浪人「見境なく刃を向けたこと、本当に申し訳なく思っている」
アルラウネ「そういえば、なんであんなことしたの? なんか理由があるんでしょ」
浪人「友の子供が亜人に連れ去られたゆえ……話を聞き、怒りに身を任せた結果だ」
アルラウネ「それって」
浪人「祈祷師やなにやら、四方に手を尽くしたが見つからず、亜人からなにか情報を得られないかとあのようなことをした次第。許して欲しい」
アルラウネ「大変じゃん、探しに行かなくていいの?」
浪人「もう諦めたそうだ。わしとしても心苦しいがそう言われては何もできん」
769:
少女「探しに行く?」
浪人「いいや、セイレーン殿の用件のほうが先だ。ともかく、わしに任せてくれ」
少女「いいけど」
セイレーン「……」
770:
浪人「――着いたぞ」
アルラウネ「って言われても。ただ森の中にしか見えないんだけど」
少女「なんか」
アルラウネ「?」
少女「人の匂いがする。見えてないけど、けっこうたくさん住んでるよね」
浪人「さすが少女殿」
浪人「ここは忍びたちが住まう隠れ里、その入り口に御座る」
771:
アルラウネ「忍び?」
浪人「違う言い方をすれば、諜報とも。裏方仕事を専門とする者達のことだ」
少女「へえ」
アルラウネ「わかったけど、どうやってその隠れ里に入るの?」
少女「確かにね」
浪人「ここを入り口だと思って『入れば』よい」
少女「? どういうこと」
772:
浪人「思い込めば、それだけで入り口ができるということに御座る。お先に失礼」スッ
アルラウネ「消えたっ!?」
少女「よく分かんないけど言ったとおりにしてみようよ」
アルラウネ「そうね」
少女「セイレーンも」
セイレーン「え? あ、うん」
アルラウネ「ここは入り口ここは入り口ここは入り口ここは入り口……」
773:
少女(入り口だと思い込んで、)
少女(入る?)スッ
少女「――うわあ」
ザアッ…
アルラウネ「おおう……」
少女「この里、鍛冶屋さんの住んでたところよりずっと広いね」
アルラウネ「さっきまで青々と木が茂ってたのに、これって」
774:
少女「魔法かな」
アルラウネ「ちょっと違うかも」
少女「東の国、不思議なものがたくさんあるね」
アルラウネ「あれ? セイレーンは?」
セイレーン「いるよ」
アルラウネ「いるよって」
浪人「無事そろったようで何より」
775:
少女「ん」
アルラウネ「あ、浪人」
浪人「詳しい話は後で。ついて来てもらいたいところがある」
776:
「――バカ野郎、妖怪なんぞ連れてくるんじゃねえ」
浪人「すまぬ」
「よくジジイどもに見つからなかったな」
浪人「そこはそれ、慣れておる」
「てめーのせいで何回俺が処罰くらったと思ってんだ」
浪人「たいした回数ではない」
「あーもー、ああいえばこういう。めんどくせーな」
777:
浪人「はっは」
「で? 今日はなんのご用だ? そっちの妖怪どもに関係があるんだろ?」
浪人「ああ、大変失礼した。こちらはセイレーン殿」
浪人「わしの主だ」
「はあ? お前……」
「いいやつだったのになあ。もともとおかしい頭がとうとう本当におかしくなったか」
ガキッ
778:
青年「痛い」
浪人「こっちは青年。古い知り合いだ」
青年「ん」
浪人「今日は折り入って頼みがある」
青年「なんだよ改まって」
浪人「我が主に、変化の術を伝授してもらいたいのだ」
青年「はああ〜〜??」
779:
浪人「この里の若い人間で、一番の技を持つおぬしなら容易いことだろう」
青年「お前なに言ってるのか分かってんのか」
浪人「無理を承知で頼んでいる」
青年「いや俺は無理じゃねえけどさあ」
浪人「それでは」
青年「無理なのはジジイどもと妖怪のほうだよ」
浪人「というと」
780:
青年「頭のお堅いジジイどもが許すと思えねーし」
青年「そのアホそうな妖怪が変化の術を習得できるとも思わねー」
浪人「そこをなんとか」
青年「お前一年にそこをなんとかって何回言ってると思う?」
浪人「大した数ではない」
青年「大した数だよ! あーもう、いいからついてきな」
浪人「かたじけない!」
781:
少女「なんかよくわかんないけどまとまったみたい」
アルラウネ「もしかして」ボソボソ
少女「?」
アルラウネ「あの人、忍者……!?」
少女「忍びの里って言ってたじゃん」
アルラウネ「そうでした」
少女「……」チラ
782:
アルラウネ「」コク
少女「セイレーン」
アルラウネ「アホって言われたからって落ち込まないで」
セイレーン「え? あ、うん」
アルラウネ「さっきからおかしいよ。調子悪いの?」
セイレーン「大丈夫」
アルラウネ「うーん。それならいいけど」
783:
アルラウネ「なんかあるんだったら言いなよ」
セイレーン「うん」
アルラウネ「ホントに大丈夫かなこれ」
784:
――
青年「そーっと、そーっとな」
少女「うん」
青年「ここ渡れば結界の外だ。ジジイどもの目も届かない」
少女「そういえば」
青年「ん?」
少女「変化の術って」
785:
青年「お察しの通りだよ。見た目を変えられる忍びの技だ」
浪人「この先、セイレーン殿は外見で被害をこうむることがあるかもしれぬゆえ」
青年「とくにこの国じゃ、妖怪を毛嫌いしてる奴も多いしな」
浪人「万が一に備えておいても損はないかと」
セイレーン「ありがとう」
浪人「余計かもしれませぬが」
セイレーン「そんなことないよ」
786:
浪人「ありがたきお言葉」
青年「妖怪。妖怪」
セイレーン「なに?」
青年「名前なんだっけ」
セイレーン「セイレーンだよ」
青年「セイレーンか。ちょっとこっちこい。そこの広い野っ原で練習すっから」
セイレーン「うん」
787:
青年「変化の術を手中にするのは難しいぞ」
セイレーン「うん」
青年「だけど、特定の姿を一つ覚えるだけなら」
青年「素人でもなんとかなるかもしれない」
セイレーン「どういうこと?」
青年「自分の思う通りのどんな姿にでも変わるのは難しいけど」
青年「一つだけならなんとかなるかもしれないってことだ」
788:
セイレーン「へー」
青年「妖怪に教えたことねーからわかんねーけど」
青年「お前の場合、足がないから苦労するかもな」
セイレーン「いいよ」
青年「それから、これだけは訊かせてくれ」
青年「俺にはなりゆきに見えるけど、本当に変化の術を身に着けたいか?」
セイレーン「みんなの為になるなら」
青年「良し。じゃまず、基本の説明からだけど――」
789:
少女「元気そうだね」
アルラウネ「セイレーンが?」
少女「うん」
浪人「少女殿」
少女「?」
浪人「今までずっと気になっていたんだが、誰と喋っているのだ? 守護霊か?」
アルラウネ「出していい?」
790:
少女「いいよ」
アルラウネ「よっと」ニュッ
浪人「うおわ!」
アルラウネ「こんにちはー、アルラウネでーす」
浪人「よよ、妖怪はセイレーン殿だけではなかったのか」
アルラウネ「びっくりした?」
浪人「した、したとも」
791:
アルラウネ「普段は少女の首飾りしてます」
浪人「ほう。一体どうなっているのか、興味が湧くな」
アルラウネ「え、それだけ?」
浪人「これから歩みを共にするのだ。その都度訊きたいことが出れば訊こう」
アルラウネ「さいですか」
浪人「仲間とはそういうものだと、わしは思っている」
アルラウネ「それにしても」
792:
少女「どうしたの」
アルラウネ「何日も守護霊と喋ってると思われてたのかー」
少女「うん、そうだね」
アルラウネ「あっさり」
浪人「すまぬ」
アルラウネ「変な霊媒師かなんかだと思ってたでしょ」
浪人「すまぬ。わしの無知ゆえ」
793:
アルラウネ「浪人さん、言葉遣いかたいよねー」
浪人「そうか? 随分砕けた口調であると思うのだが」
アルラウネ「西のほう行ったらびっくりするんじゃない」
浪人「それはまことか」
アルラウネ「東の方言とはだいぶ違うもん」
少女「うん」
浪人「まあ、なるようになるだろう」
794:
少女「そうだね」
アルラウネ「あっちもね」
青年「――――」
セイレーン「――」
浪人「ふむ。時間がかかりそうだな」
少女「お昼にしようか」
アルラウネ「さんせーい!」
795:
――――
青年「驚いたよ」モグモグ
少女「?」
青年「あの習得スピードは本当に驚いた」
浪人「相当に才能があるのか」
青年「相当に才能がないね。医者が匙を投げるよ」
少女「ありゃ」
796:
浪人「おろ」
青年「言い切れないけどね、やめたほうがいいんじゃない」
少女「どのくらいかかりそうですか」
青年「年単位」
少女「……」
浪人「……」
青年「あきらめるのはまだ早いよ。パッとできるようになるかもしれないし」
797:
少女「がんばってください」
浪人「右に同じく」
青年「でもね、普通の人なら初歩の術はすぐできるようになるんだけど」
青年「それすら危ういとなると」
少女「……」
浪人「……」
青年「一週間がんばってなにも進展がなかったら諦めてもいいかな」
798:
少女「それはもう」
浪人「うむ」
セイレーン「はーっ! そいやーっ!」
少女「……」
浪人「……」
少女「ダメそう」
浪人「右に同じく」
799:
――
セイレーン「ねえ」
少女「なに?」
セイレーン「結局さ、今日もなにもできなかった」
少女「そうだね」
セイレーン「……」
セイレーン「あのさ」
800:
少女「?」
セイレーン「浪人さんのことなんだけど」
少女「うん」
セイレーン「友達の子供が連れ去られて、すごく怒ってたよね」
少女「怒ってたね」
セイレーン「セイレーンもさ」
セイレーン「同じことしてたんだよね」
801:
少女「……」
セイレーン「はじめて知ったよ」
セイレーン「自分がどんな悪いことしてたのか」
アルラウネ「仕方ないよ」
アルラウネ「セイレーンはそうしないと、子供を残せないんでしょ」
セイレーン「でも」
アルラウネ「セイレーンは悪くないよ」
802:
アルラウネ「セイレーンたちは、ずっとそうやって過ごしてきたんでしょ」
アルラウネ「それを、悪いことをしてたなんて言わないで」
セイレーン「でも、浪人は怒ってた」
アルラウネ「よく聞いて」
アルラウネ「確かに人をさらってたのは、人間の価値観から見れば悪いことかもしれない」
アルラウネ「セイレーンがそう感じてるのはヒトのものの見方に触れたからだよ」
アルラウネ「大丈夫。悪くなんかない」
803:
アルラウネ「変えたいと思うなら、変えればいい」
アルラウネ「さらわないで子供を残せるようにすればいいの」
セイレーン「……」
アルラウネ「自分たちに必要なことだからやってたんだもん」
アルラウネ「今変えようとしてるなら、それを咎める人はいないよ」
セイレーン「ほんと?」
アルラウネ「ほんと」
804:
セイレーン「……浪人に」
セイレーン「浪人に、言っておきたい」
アルラウネ「うん」
セイレーン「ついてきて、くれる?」
アルラウネ「もちろん。少女も」
セイレーン「ありがとう」
805:
浪人「――成程」
セイレーン「……、」
浪人「拙者としても複雑な問題で御座る」
セイレーン「じゃやっぱり」
浪人「一朝一夕で自分の考えがまとまるようなものではないと」
浪人「ただ、」
浪人「セイレーン殿には、その文化を受け継ぐかそうでないかの選択肢がある」
806:
浪人「それだけは申し上げておこうと存じます」
セイレーン「……!」
浪人「またいつでも、お呼び立てください」
アルラウネ「こういうのは、話し合うのが大事だもんね」
浪人「まさしく」
セイレーン「ありがとう」
807:
セイレーン「みて〜! できたよ〜!」
浪人「おめでとうございます」
青年「お見事というよりほかにないね」
少女「ほんとに人間みたい」
セイレーン「ありがとう!」
セイレーン「歩くのはまだちょっと苦手だけど」
少女「簡単な術であんなに苦労してたのに、どうしていきなりできるようになったの?」
808:
青年「そうだな」
青年「今までは体全体を変化させようとしていたけど、足と翼の変化だけに留めたんだよ」
青年「それに、セイレーンは術の才能がねーんじゃなくて、『人間の』術を使う才能がなかっただけっぽいんだよな」
青年「変化の術を使う妖怪もいるし、習得が遅れたのはそこを見誤った俺のせいだよ」
少女「なるほど」
セイレーン「どうして浪人はセイレーンから目を逸らしてるの?」
浪人「おなご、しかも自らの主のおみ足を直視するなどもってのほかに御座る」
809:
セイレーン「ヒレだったらいいの? 戻そうか?」
浪人「お気遣いはなさらずにどうぞ」
少女「腕と足以外は変化できないの?」
セイレーン「毛皮がなくなったら寒そうだからできてもやだ」
少女「服着てないもんね」
青年「目の保養」
少女「青年さん」
810:
青年「なにかな。殴らないでくれよ」
少女「私たちのために、本当にありがとうございます」
青年「報酬をくれ、と言いたいところだけど」
青年「彼女の喜ぶ顔がいちばんの報酬さ。こちらこそありがとう」
少女「いえ。青年さんのおかげです」
青年「これで目的は果たされたね。このあとはどうするんだい」
少女「特に目的はありません。しばらくは世界を旅しようかと」
811:
青年「結構なことだ。若いうちにいろいろな経験を積むのはいいことだ、なんてジジイたちなら言いそうだけど」
少女「あはは」
青年「ま、のんびり続けたらいいさ」
少女「ありがとう」
青年「またどこかで会おう。俺も一人前になったら旅をしようと思ってるんだ」
少女「そうですか」
青年「そのときはよろしく、先輩?」
少女「はい。もちろん」
812:
――――
813:
少女「――さあ、次はどこに行こうか」
アルラウネ「地図見てみようよ」
セイレーン「ここ! ここ! あったかい島がいっぱいあるらしいよ?」
浪人「それも悪くないな」
アルラウネ「うん、行ってみる?」
浪人「待てよ、わしはその前にセイレーン殿の故郷を一目でもお目にかかりたいのだが」
アルラウネ「それなら私はこの密林地帯行きたい」
814:
少女「帰るのも悪くないかな」
セイレーン「少女の故郷!? 気になる〜!」
浪人「ふむ。迷いどころだな」
アルラウネ「ま、行き先を決めるのは少女だから」
少女「うん」
セイレーン「ね」
浪人「うむ」
815:
アルラウネ「でしょ」
少女「ふふ」
浪人「どうしたのだ、急に」
セイレーン「なんか面白いこと言った?」
アルラウネ「少女ちゃんのそういう顔、初めて見た」
少女「なんでもない。ただ、」
少女「――こういうのも悪くないな、ってさ」
758:
セイレーンは浪人に俸禄を払えるのか?
816:
お大事にレス、ありがとうございます。
時間をあけてしまったため若干口調が違うのはお許しください。
いつの間にやらこのスレも800レスを超しました。
今回はいったんここでひと区切りとさせていただきす。以降も続きますのでご安心を。まだ終われません!
しばらく書き溜めるので、次回投稿までよろしくお願いします。
年内に投下します。
長い解説です。
>>758
本当の武士道というものは報酬に仕えるのでなく主君に仕えるものです
実情としては立場が
少女≧アルラウネ>セイレーン>>浪人(もう浪人じゃないけど)
ですので、依頼をこなした際、形式的にはリーダーたる少女が報酬を分配する際に
少女がセイレーンに二人分払う→セイレーンが浪人に払う
が適当でしょうか。実際は直接渡しそうですけど。
浪人は対価としてパーティに貢献している感じです
実際与える土地も米もなく、全員が浪人のようなものなので、浪人も細かいことは気にしていません
足軽に格上げ。
817:
本当に毎回面白いわ、このss
できるだけ長く続いて欲しいな
質問なんだけど、この世界には言語の差みたいなのはないの?
818:
>>817
ありがとうございます!
言語の差は文法や発音的にはほとんどありません
語彙の面ではかなり地域差があります。浪人の出身地と少女達の出身地ですが、実は地続きです
薩摩弁と江戸弁で会話するみたいなもので、訛りがひどいと通じなかったりしますが、その辺りはアルラウネが魔法でなんとかしたりしてます
なぜ同一言語なのかについてはのちのち説明があるかもしれません
891:
「最近、再上位ランカーのパーティが狙われてるらしい」
「俺も聞いたよ」
「俺、知ってる」
「何をだ?」
「知り合いにランカーがいるんだ。襲われた」
「それ本当か」
「間違いない。見舞いにも行ったよ」
「集団で襲い掛かられたと言ってた。その時は夜だったらしいが」
「ランカーをいとも簡単にのめす集団か」
「ガセじゃねえのか」
「そんなもんいるわけねえよ」
「それがそうでもないらしい」
「実際に被害も確認されてる」
「いくつかのパーティは壊滅状態だそうだ」
「ギルドのほうでも近々警告と依頼を出すそうだ」
「マジかよ」
「怖えな」
「そんな集団に出会ったら、即、これだ」クイッ
「命乞いは無駄ってわけか」
「だけどよ、再上位ランカーしか狙わねえんだろ?」
892:
「わからん」
「上位が狙われた例もあるらしいからな」
「はー」
「いったい何がしたいんだろうな」
「それがな」
「ん? もうわかってんのか?」
「いや、これは信憑性がないんだが」
「狙われてるのは、亜人ばっかりだって話だ」
「亜人か」
「まあ、亜人が嫌いな奴はいくらでもいるからな」
「最上位ランカーが壊滅状態にあるのは、戦力になる亜人が軒並みやられたからだって話も出てる」
「上のほうの奴らは強いのがわかってるから差別しないもんな」
「なあ。そりゃ亜人もいるだろ」
「じゃあランクが低い奴らの妬みか?」
「どうやって最上位ランカーをのすんだよ」
「あっ、そうか」
「ますます分かんねーな」
「中下層にも強い奴はいるが」
「最上位にゃ届かないだろ」
「だよなあ」
893:
カランカラン
「……」ギィィ
「お」
「よう、女冒険者」
女冒険者「うん」
「お前さんのパーティも最上位だよな」
女冒険者「多分」
「謙遜すんなよ」
「ちょうど話してたとこだ。ちょっと来てくれ」
女冒険者「なに」
「最上位ランカーが狙われてるって話だよ」
女冒険者「知ってる」
「あんたんとこも危ないんじゃないかってな」
「ん? 亜人のメンバーいたっけか?」
女冒険者「亜人が関係あるの」
「なんだかよ、亜人入りの最上位が狙われてるんじゃないかって話でな」
「変わったことはないか聞いとこうと思ったんだが」
女冒険者「狙われてる気配はないかな」
「そっか、悪ぃな」
「こいつのパーティに喧嘩を売ろうっていうのがまず、間違いだしな」
894:
「ははは。言えてら」
女冒険者「マスター。蜂蜜酒」
「あいよ」
「ホントに酒が好きだよな、女冒険者は」
「一日いくら飲んでんだ?」
女冒険者「前払いしてるから分かんない」
「……」
「……」
「財布も腹もザルすぎる……」
女冒険者「マスター、おかわり」
女冒険者(亜人入りのパーティが狙われてるってことは)
女冒険者(当然、亜人を狙う目的があるよね)
女冒険者(亜人を求めてるのか、亜人に関連する何かを求めてるのか)
女冒険者(見かけで判断してるのか、魔法で判断してるのか)
女冒険者(分からないと、対策のしようがない)
女冒険者(……みんなに相談してみよう)コト
女冒険者「ありがと」
ザッ
「ホントによく飲むよな」
「これ、一番強い蜂蜜酒なんだろ?」
「はい。いつも水でも飲むかのように飲んでいかれます」
「……」
「……」
「……強すぎるだろ」
895:
踊り子「へ〜、そんなことがあったんだ」
剣士「物騒な話だな」
女冒険者「踊り子が狙われてたらと思って」
踊り子「へーきへーき」
剣士「しかし」
踊り子「見た目も振る舞いもばっちりだよ」
女冒険者「亜人を見つける魔法があるかもしれないけど」
踊り子「その時は飛んで逃げる」
女冒険者「飛んだら亜人って確信されるよ」
踊り子「踊り子、走るのやだな〜」
剣士「まだ走るのが苦手なのか」
踊り子「仕方ないじゃん、もともと尾ひれだったんだもん」
女冒険者「もう三年も経ってるもんね」
踊り子「三年、かー」
アルラウネ「あっという間だったね」
踊り子「そのあいだにずいぶん名前も売れたもんね」
剣士「女冒険者の腕があれば当然のことだろう」
アルラウネ「剣士のお国なまりも抜けたし」
剣士「ほじくり返さないでくれ」
アルラウネ「一人で話してるとき、何度も聞き返されてたよねー」
896:
剣士「やめてくれ、恥ずかしいんだ」
アルラウネ「ね、女冒険者」
女冒険者「ん」
アルラウネ「帰省は考えてないの?」
踊り子「え、帰っちゃうの〜?」
アルラウネ「二年くらいで一度帰る予定だったんだよね」
女冒険者「うん」
剣士「一度くらいは顔を見せたほうがいいのではないか」
女冒険者「そうだね。弟の顔も見たいかな」
アルラウネ「今まで忙しくて無理だったけど」
アルラウネ「ちょうど落ち着いてきたところだし」
剣士「ふむ。確かにな」
踊り子「踊り子も行ってみた〜い!」
女冒険者「うん。いいかもね、帰省」
アルラウネ「次の予定は特に決まってないんでしょ?」
女冒険者「……ん」
女冒険者(最上位が狙われてる話は引っかかるけど)
女冒険者(ギルドや街から離れるとすれば、襲われる可能性は低くなる)
女冒険者(踊り子がセイレーンだってことは、魔法で見破られるかもしれない)
女冒険者(それなら、ほとぼりが冷めるまでは帰ってたほうが安全なのかな)
897:
女冒険者(……)
女冒険者「そうだね。帰ろうか」
アルラウネ「ほんと!?」
アルラウネ「久しぶりにみんなと会えるぜ! いぇーい!」
剣士「私も一度くらいはお邪魔してみたいものだな」
アルラウネ「なに言ってんの! パーティ行動に決まってるじゃん!」
剣士「ありがとう」
女冒険者「じゃ、支度しようか」
アルラウネ「ここからだと、どのくらいかかるんだろ」
剣士「拠点はどうするんだ?」
女冒険者「きれいさっぱり売り払っちゃってもいいけど」
踊り子「え〜、もったいない!」
剣士「しかし、立つ鳥跡を濁さずという諺もある」
アルラウネ「帰ってから、戻ってくるかどうかだよね」
女冒険者「そっか」
アルラウネ「まー決まらないか」
踊り子「だれか見ててくれる人がいるといいのに」
剣士「使わないのだから、誰かに貸してもよいのでは」
アルラウネ「それだ!」
アルラウネ「部屋は貸す。必要なものは持ってく。あとは売る!」
898:
アルラウネ「名案じゃない?」
踊り子「そっか、そういうやり方もあるよね。頭いい〜」
剣士「では早分ける作業に入ろう」
アルラウネ「なんかさ」
女冒険者「うん」
アルラウネ「剣士って好きだよね。作業」
踊り子「ね」
剣士「そうか?」テキパキ
アルラウネ「うん、すごく手際がいい」
女冒険者「踊り子がいちばん時間かかりそう」
アルラウネ「いちばん物持ちだもんね」
踊り子「剣士手伝って」
剣士「承知した」
アルラウネ「主従関係解消したんじゃないの」
剣士「なかなか抜けないものだ」
踊り子「ね」
アルラウネ「踊り子はもうちょっと働きなさい」
剣士「女冒険者はどうするんだ?」
女冒険者「身に着けてるもの以外は売る」
アルラウネ「お酒は?」
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