偽勇者「ククク……勇者どもの手柄をかっさらってやるぜ」back

偽勇者「ククク……勇者どもの手柄をかっさらってやるぜ」


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1:
─ 城下町 ─
ザワザワ…… ガヤガヤ……
町民A「聞いたかよ! ついに勇者様たちが魔王討伐の旅に出るらしいぜ!」
町民B「ああ、聞いた聞いた! 今、王様に謁見してるんだってな!」
町民A「勇者様なら、絶対魔王を倒してくれるぜ!」
町民B「なんたって、かつて魔王を封じた“勇者”の血をひく人だもんな!」
偽勇者「…………」
偽勇者(……ようやくか)
偽勇者(この時を待ってたんだ!)
偽勇者「ククク……勇者どもの手柄をかっさらってやるぜ」
3:
まもなく、勇者たちの出発式が盛大に行われた。
ワアァァァァァ……!
「頼むぞぉっ!」 「しっかりなっ!」 「頑張ってえっ!」
勇者「皆さん、行ってきます!」
戦士「俺の剣技で、必ず魔王を倒してくるぜ!」
魔法使い「ボクの魔法なら、魔王なんてチョチョイのチョイさ」
僧侶「私がこの三人を死なせはしません!」
偽勇者(この四人が、勇者パーティーか)
偽勇者(悪いが、お前たちには俺の踏み台になってもらうぜぇ……)
4:
─ 村 ─
偽勇者(まずは、近くの村に立ち寄った、か……)
村人「お願いします、たびたび村を襲う魔獣をやっつけて下さい!」
勇者「分かりました!」
戦士「俺たちに任せとけ!」
魔法使い「この程度のことなら、ボクだけでも十分だよ」
僧侶「村のために頑張りましょう!」
偽勇者(よし……こいつらが弱らせた魔獣を、俺がブッ倒して手柄にするとするか)
偽勇者(こういうコツコツとした積み重ねが大事だからな)
7:
─ 村の近く ─
魔獣「ガルルル……!」ザッ…
勇者「お前が村を襲う魔獣か! いざ勝負!」チャキッ
戦士「十秒で片付けてやるぜ!」スラッ…
魔法使い「やれやれ、つまらなそうな相手だ」
僧侶「回復はお任せを!」
偽勇者(なんだ、大したモンスターじゃねえな)
偽勇者(これじゃ弱らせる前に終わっちまうだろうな……)
偽勇者(ま、お手並み拝見といくか)
8:
魔獣「ガルァ!」バッ
バシィッ!
勇者「ぐはぁっ!」ドサッ
偽勇者(え?)
化け物「ガルルァ!」
ドゴォッ!
戦士「ぐええっ!」ドサッ…
偽勇者(お前が十秒でやられてるじゃねえか!)
魔法使い「──いたっ!」ガリッ…
魔法使い「呪文唱えようとしたら、舌噛んじゃった……回復して!」
僧侶「あわわ、どうしましょ、どうしましょ?!」
偽勇者(魔法使いも、紅一点の僧侶も役立たずかよ!)
偽勇者(なんなんだ、こいつら!?)
12:
勇者「くそ?っ!」ブンブン
戦士「まだまだァ!」ブンブン
キンッ! ギンッ!
魔獣「ガルルァ!」
偽勇者(あのモンスターの胴体は頑丈だ! あんな剣さばきじゃとても斬れねえ!)
偽勇者(頭を狙えよ、頭を!)
魔法使い「痛いよ……舌が痛いよ……!」シクシク…
僧侶「わ、私、どうしたらいいんでしょ……!」オロオロ…
偽勇者(後方支援のこいつらはこいつらで、パニックになっちまってるし……)
偽勇者(前線はどうしても頭に血が上るんだから、お前らは冷静じゃなきゃダメだろ!)
偽勇者(ああもう、しょうがねえなぁ!)
13:
「勇者と戦士、頭だけを集中して狙え! あと剣を握る時はあまり力むな!」
勇者&戦士「!」ビクッ
勇者「はいっ!」チャキッ
戦士「お、おうっ!」ギュッ…
「魔法使い! 舌噛んだって死にはしねえ! 我慢して、小声で魔法を唱えろ!」
魔法使い「う、うん!」グスッ…
「僧侶! まずは落ちついて深呼吸しろ! お前が落ちつかなきゃ全滅するぞ!」
僧侶「分かりました!」スゥ…ハァ…
勇者「でりゃあああっ!」ブンッ
戦士「どりゃあああっ!」ブンッ
魔法使い「赤き火よ、敵を燃やせ!」ボッ…
ザシュッ! ズバァッ! ボワァッ!
魔獣「グギャアァァ……!」ドサッ
偽勇者(ふう、どうにか倒したようだな……)
15:
勇者「さっきの声……いったいだれだったんだろう?」
戦士「なんにせよ、あの声がなければヤバかったぜ」
魔法使い「ボクも舌噛んだら、血がいっぱい出て死んじゃうと思ってたから……」
僧侶「あの声のおかげで、私も冷静になれましたわ……」ホッ…
偽勇者(オイオイ、マジかよ……)
偽勇者(こいつらについていって、こいつらが魔王を倒すところまできたら)
偽勇者(こいつら四人と魔王の両方を始末して、俺が丸ごと手柄をいただく計画……)
偽勇者(なんだか不安になってきたぞ)
偽勇者(いや、今日はたまたまこいつらの調子が悪かっただけだ、うん)
17:
─ 村 ─
村人「ありがとうございました……!」
村人「おかげで村が救われました! この包帯と薬草を持っていって下さい!」
勇者「助かります!」
勇者「ですが、また村に魔物や魔獣が現れるかもしれないので」
勇者「村の警備を怠らないようにして下さい」
村人「はい!」
偽勇者(ったく、俺だったらもっといいもんよこせって文句つけるがな)
偽勇者(人のいいヤツだ……)
18:
─ 迷いの森 ─
勇者「険しい道だな……。みんな足元に注意して──」
戦士「おう」
魔法使い「いたっ!」ドデッ
魔法使い「っつぅ?……足をすりむいちゃった」
僧侶「今、回復を……」スッ…
偽勇者(バカか!?)
偽勇者(あんなケガでいちいち回復してたら、すぐ魔力切れを起こすだろうが!)
偽勇者(ったく……まるでなっちゃいねえな)イライラ…
19:
「僧侶!」
僧侶「へっ!?」ビクッ
「回復魔法なんか使うな!」
「さっきの村でもらった包帯や薬草を使えばいいだろ!」
「そんなケガで魔法を使ってたら、肝心なところで息切れしちまうぞ!」
勇者「この声は、村で俺たちを助けてくれた……!」
戦士「魔法を使うなっていってるぜ?」
僧侶「どうしましょう?」オロオロ…
勇者「ここは……声のいうとおり、魔力を温存しよう」
勇者「僧侶の回復魔法は切り札のようなものだからね」
僧侶「分かりました……では、私が包帯を巻きますわ!」
魔法使い「魔法でも包帯でもいいから早くしてぇ……」ズキズキ…
21:
僧侶「傷口に薬草を塗り込みましたが……」
僧侶「包帯の巻き方はこんな感じでいいのでしょうか?」グルグル…
勇者「いいんじゃないか?」
戦士「そんなもんだろ」
魔法使い「なんだか、すごく足が締めつけられてるんだけど……」
偽勇者(なんだ、あのメチャクチャな巻き方は!? ふざけてんのか!?)
偽勇者(あんな巻き方じゃ、傷はおかしくなるし、血管は傷めるし、ろくなことねえぞ!)
偽勇者(あぁ?もう!)ダッ
23:
偽勇者「貸せ!」バッ
僧侶「きゃっ!?」
戦士「だれだてめえ!?」チャキッ
勇者「待った! あなたの声は──」
偽勇者「いいか、包帯の巻き方はな……こうしてこうしてこうするんだ」グルグル…
僧侶「なるほど……!」
戦士「すげえ、さっきと全然ちがうぜ!」
魔法使い「わっ、すごく足を動かしやすい!」クイクイッ
勇者「あ、あの……ぜひお名前を!」
偽勇者「名乗るほどのもんじゃねえよ、じゃあな!」ダッ
勇者「行ってしまった……」
25:
勇者「あの後すぐ、巨大植物のモンスターが出てきたけど……」
勇者「僧侶の魔力を温存してたおかげで、どうにか乗り越えられた……」
戦士「あのアドバイスがなかったら、回復が間に合わず全滅してたかもな」
魔法使い「ボクの足も、あの人のおかげですっかりよくなったしね」
僧侶「名前さえ教えてくれませんでしたが、あの人はいったい……」
偽勇者(あの程度の食人植物に手こずりやがって……情けねえ)
偽勇者(俺がかげながら援護してなきゃ、全員食われてたぜ)
偽勇者(しかも、植物モンスターは根を壊さないと復活するっての……)
偽勇者(ま、根は俺が壊してやったけどな)
偽勇者(これも全て、俺が最後に手柄を奪うためだ!)
26:
─ 洞窟 ─
暗闇の中を進む勇者パーティー。
フッ……
勇者「しまった! たいまつの炎が消えてしまった!」
戦士「げえっ! 暗くてなにも見えねえよ!」
魔法使い「ボクも火を出そうにも、もう魔力が……!」ボシュッ…
僧侶「ど、ど、ど、どうしましょう! く、暗いのは怖いです、苦手です!」
ドタバタ……
偽勇者(暗闇で一番やっちゃいけないのは、パニックになることだ!)
偽勇者(ただでさえ目が利かないんだからな!)
偽勇者(なんでこいつら、そんなことも知らないんだよ!)イライラ…
30:
偽勇者「こっちだ! 俺についてこい!」ボッ…
勇者「あっ、あなたは!? 村や森で俺たちを助けてくれた……」
戦士「アンタ、たいまつ持ってたのか……おかげで洞窟を楽に歩けるぜ!」
偽勇者「いや、これは消す」ジュッ…
魔法使い「な、なんでさ!?」
僧侶「そうですよ! この暗闇じゃ、たいまつは必須です!」
偽勇者「お前らが暗闇に慣れるためだ!」
偽勇者「いいか、暗闇では絶対パニックになるな!」
偽勇者「落ちついて、空気の流れや気配を肌で感じ取るんだ!」
偽勇者「そうすりゃ、そのうち外と同じように動けるようになる! 分かったか!」
勇者「は……はいっ!」
33:
ようやく洞窟を抜けた勇者たち。
魔法使い「やったぁ?! やっと洞窟を抜けられたぁ?!」
僧侶「これで暗闇とはお別れですね……だいぶ慣れましたけど」
戦士「太陽がまぶしいぜ……」
偽勇者「少しずつ慣らしていけよ。目がやられちまうぞ」
勇者「あ、あの……ありがとうございました」
偽勇者「あ? 気にすんな。じゃあな」ダッ
勇者「あっ……」
勇者(何者なんだろう……。彼も冒険者だろうけど、俺とは大違いだ……)
勇者「さて、もう少し歩けば“東の王国”だ」
勇者「城に着いたら事情を説明して、魔王討伐に力を貸してもらおう!」
34:
─ 東の王国 城 ─
東国王「ふ?む……おぬしらの魔王討伐に協力、か……」
東国王「どう思うかね、大臣」
東大臣「我が国はまだ魔王軍に侵略されておりません」
東大臣「また、侵略されても問題ありません」
東大臣「彼らが勝手にやっていることです。手助けの必要はないでしょう」
東国王「うむ、余もそう思っていた。我が国は魔王など恐れぬ」
勇者「しかし……! 魔王軍は神出鬼没です! 現に他の国では──」
東国王「もう下がりたまえ。余は忙しいのだ」
東大臣「…………」ニヤッ
偽勇者(こっそりついてきたが……あの大臣、犬歯が妙に長くねえか……?)
偽勇者(……揺さぶってみるか)
38:
「ヘイ、勇者たち! まだ斬らねえのかい!?」
勇者「へ?」
「城内で人間に化けてる魔物を、謁見中に斬り殺すって手はずだったろ!?」
「モタモタしてんなよ!」
戦士(この声はあの人だが……なんの話だ!?)
東大臣「ちいっ……」シュウウ…
勇者「!?」
魔物「まさかバレていたとはなァ……!」シュウウ…
正体を明かす大臣。
東国王「大臣っ!?」
魔物「スキを突いて勇者たちを暗殺し、その後ゆっくり国を乗っ取る予定だったが……」
魔物「さすがは勇者といったところか!」
勇者(ま、まさか大臣が魔物だったなんて……!)
魔物「まぁいい……。まずは勇者、お前から死ねいっ!」シュバッ
42:
キンッ!
魔物「むっ!?」
勇者(俺だって、あの人のようになりたくて特訓してるんだ!)
勇者(力をほどよく抜いて、剣を振るうっ!)
ズバァッ! ザクッ! ザンッ!
魔物「ぐ、はァ……!」ドサッ…
勇者「ふう……なんとか倒せた……」
勇者(あの人がいなかったら……俺たちはみんな殺されてただろう……)
勇者「王様、これでも魔王は恐ろしくない、といえますか?」
東国王「い、いや……余が甘かった。まさか大臣が魔物だったとは……」
東国王「我が国も、全力を挙げて君たちをバックアップさせてもらうよ」
勇者「ありがとうございます!」
43:
─ 宿屋 ─
戦士「いやぁ?、こんな豪華な宿まで用意してもらえて」フカフカ…
戦士「きわどい場面も多いが、旅は絶好調だな!」
勇者「ああ……」
魔法使い「大臣が魔物だったと知って、王様もとたんに態度を変えたからね」
僧侶「でも、本当に危ないところでした」
勇者「うん……」
勇者「ところで、いつも危ないところで俺たちにアドバイスしてくれるあの人は」
勇者「いったい何者なんだろう?」
48:
戦士「俺は最初、勇者の血筋が流れる人間だと思ってたけどよ」
戦士「お前の親戚ってわけでもないんだろ?」
勇者「うん、ちがう。あんな人、見たこともないよ」
僧侶「じゃあ、いったい……」
魔法使い「もしかして、ずっと昔からやってきたかつての勇者、だったりして」
戦士「ああ?……たしかに。あの落ちつき具合は、ベテランって感じだもんな」
僧侶「ロマンがある話ですね」
勇者「勇者……か」
勇者(あの人が何者であれ、実力でいえばあの人こそが勇者に相応しい)
勇者(でもどうして、表舞台に出てこようとしないんだろうか)
勇者(なにか、表舞台に出られない理由があるんだろうか……)
49:
東の王国でも、勇者たちは大人気となった。
ワアァァァァァ……!
東国王「たった数日間滞在しただけで、今や余をもしのぐ人気だ」
東国王「これが勇者殿の持つ人徳というものであろうな」
勇者「いえ、そんなことは……」
東国王「いや……余もおぬしをすっかり気に入ってしまっておる」
東国王「大臣に化けていた魔物を倒してくれたこととは関係なく、な」
東国王「おぬしほど誠実な若者はそうはおらぬ」
勇者「そこまでおっしゃっていただけて、光栄です」
東国王「この国を出れば、すぐ“剣の王国”だ」
東国王「世界でもっとも剣術の栄えた国……きっと魔王討伐の役に立つ情報もあろう」
東国王「ぜひ立ち寄ってみるといい」
勇者「はいっ!」
51:
─ 剣の王国 ─
魔法使い「この国は剣術がとても盛んなんだってね」
僧侶「首都にある闘技場では、今度剣術大会が開かれるそうですよ」
戦士「へぇ……。なあ勇者、俺たちも出てみないか?」
勇者「えぇっ!? 俺たちは魔王退治の旅の途中だぞ!」
戦士「だからこそ、だよ」
戦士「もしここで苦戦するようなら、魔王なんかとても倒せねえぞ?」
勇者「たしかに……」
勇者(おそらくあの人でも、そうするだろうな)
勇者「分かった! 挑戦してみよう!」
偽勇者「…………」
53:
─ 闘技場 ─
キィンッ! ギンッ! キンッ!
闘技者A「ま、参った! ──完敗だ!」
勇者「こちらこそ、いい試合ができたよ」
闘技者B「ぐおおっ……力で押し切られたか」ガクッ
戦士「よっしゃあ!」
ワアァァァ……! オオォォォ……! ワアァァァ……! オオォォォ……!
魔法使い「すごいよ、二人とも! 他の参加者たちを全く寄せつけない!」
僧侶「当然ですよ、過酷な冒険をくぐり抜けてきたお二人ですもの!」
魔法使い「それに、大会が進むにつれて、二人のファンが増えてるね」
僧侶「二人とも、正々堂々相手の力を引き出しつつ、打ち負かしてますからね」
偽勇者(今のあいつらなら、この程度の大会は余裕だろう)
偽勇者(そして……薄々感じてはいたが、やはり奴らは俺とはちがう……)
55:
決勝戦──
ギィンッ!
戦士「ぐっ……降参だ!」
審判「そこまで! 剣の王国闘技大会、優勝者は──勇者!」
ワアァァァァァ……!
戦士「へっ……やられたぜ。さすが勇者」
勇者「こっちこそヒヤッとしたさ。強い仲間を持つことができて、嬉しいよ」
「すごいぞ、勇者!」 「戦士もよく頑張った!」 「二人ともカッコイイぞ!」
魔法使い「勇者も戦士も、もうすっかりヒーローだ……!」
僧侶「お二人の激闘が、剣が盛んな国の人々の心を掴んだんですね」
56:
─ 剣の王国 城 ─
剣国王「君たちが勇者パーティーか。なるほど、みごとなものだ」
勇者「いえ、この国の闘技者たちも、強い人ばかりでした」
勇者「まだまだ修業が足りないことを思い知らされました」
剣国王「いやいや、君たちほど強い剣士を、私は見たことがないよ」
戦士「へへへ、剣の王国のお墨付きだ!」
剣国王「うむ。他に君たちほど強い剣士は──」
剣国王「……いや。一人だけ……いたな」
魔法使い「え?」
僧侶「勇者さんや戦士さん並みに、強い剣士の方がいたんですか?」
剣国王「うむ……強さだけならば、我が国の歴史上でも一番だったかもしれない」
59:
剣国王「だが……剣士としてはあまりにも非道だった」
剣国王「剣を相手を殺すための道具としか見なしておらず」
剣国王「ひとたび戦いとなれば、相手が降参しようと容赦なく命を奪い」
剣国王「名誉欲や支配欲が強く、自分を認めない人間がいると徹底的に攻撃し」
剣国王「喝采を浴びたいがために、人をそそのかして騒動や事件を起こさせ」
剣国王「それを自分で解決するなどといった工作もやっていた」
戦士「とんでもねえヤロウだ……」
魔法使い「力はあるのに、その使い方を間違っちゃったタイプだね」
剣国王「むろん、皆もバカではない」
剣国王「すぐさまそれらの悪事は知れ渡り、奴はこの国に居場所を失った」
剣国王「誰よりも強かったが、誰よりも嫌われていた男だった……」
剣国王「皆に好かれる勇者殿とは正反対──いや、比べることすら失礼かもしれん」
61:
勇者「ところで、その剣士は今どこに……?」
剣国王「……分からん」
剣国王「あの性格を正さぬ限り、どこにいってもやってはいけないだろう」
剣国王「案外今もどこかで、懲りずに悪巧みをしているのかもしれない」
剣国王「いや、これは余計な話をした。どうか忘れて欲しい」
剣国王「今日は我が国を挙げて、優勝者であり英雄である君たちを歓迎しよう!」
戦士「やったぜ!」
魔法使い「ありがとうございます!」
僧侶「剣の王国の王様だけあって、さっぱりした気風の方ですね」
勇者「…………」
63:
─ 剣の王国 城外 ─
偽勇者「懐かしい景色だぜ……」
偽勇者「この国に帰ってくるのも、何年ぶりかな……」
偽勇者「さすがにこの国では顔を知られすぎてて」
偽勇者「ずっとあいつらについてるワケにゃいかねえな」
偽勇者(勇者たちが優勝した闘技大会……)
偽勇者(俺もずっと昔、対戦相手を全員ブッ殺して優勝したが、拍手や喝采はなかった)
偽勇者(あれから俺はどうしても皆に認められたくて、あれこれ策を練ったが)
偽勇者(どれも裏目に出て……この国を追い出されるはめになった)
偽勇者(おっと……イヤなこと思い出しちまった)
68:
剣の王国を出発し、勇者たちの旅はいよいよ佳境を迎えた。
─ 魔王軍基地 ─
勇者「──よし! 魔王軍幹部を討ち取ったぞ!」
戦士「こいつの指揮がなきゃ、俺ら人間界の軍隊がだいぶ有利になるぜ!」
魔法使い「ボクらの旅も……ついに終わりが見えてきたね」
僧侶「もうひと踏ん張りです。頑張りましょう、皆さん!」
偽勇者(まだまだ俺から見りゃ、スキだらけだが──)
偽勇者(こいつら、だいぶやるようになったじゃねえか)
偽勇者(──ん?)
69:
少年魔族「た、助けて……」ガタガタ…
戦士「生き残りがいたのか。気は進まねえが、復讐に来られたら面倒だしな」チャキッ
勇者「待ってくれ、戦士!」
戦士「! なんだよ……? なんで止めるんだよ?」
勇者「俺たちは魔族を滅ぼすために戦ってるんじゃない」
勇者「人間を守るために戦っているんだ……これ以上、血を流す必要はない」
戦士「へっ……分かったよ」スッ…
勇者「おい、君」
少年魔族「は、はい!」
勇者「これは戦いだ……俺たちがやったことを、君に謝るつもりはない」
勇者「だけど、もし恨みを忘れられなかったら、直接俺に挑みにきてくれ」
勇者「俺はいつでも受けて立つ」
勇者「みんな、行こう。魔王城はもう目の前だ!」クルッ
偽勇者「…………」
70:
─ 魔王城付近 ─
勇者「いよいよ明日……魔王城に乗り込む」
勇者「今さら夜襲もないだろう。今夜はぐっすり休んでくれ」
戦士「おうよ!」
魔法使い「念のため、周囲には結界を張っておくけどね」
勇者「ありがとう。それじゃ俺は、少し夜風に当たってくるよ」
僧侶「勇者さんも、早めに眠るようにして下さいね」
一人きりになった勇者。
勇者「…………」ザッ…
勇者「そこにいらっしゃるんでしょう?」
偽勇者「!」ピクッ
74:
偽勇者「俺の気配に気づくとは……ずいぶん成長したな」
偽勇者「なにもかもがド素人だったあの頃が、まるでウソのようだぜ」
勇者「俺が……いや、俺たちが強くなれたのはあなたのおかげです」
勇者「元々俺たちは血筋や学校の成績だけで、魔王討伐を任された四人だったんです」
勇者「素質こそあったんでしょうが、実戦経験はゼロでした」
勇者「あなたがいたから俺たちは強くなることができ、増長することもなかった」
勇者「本当に……感謝しています」
偽勇者「……で、話はそれだけじゃなさそうだな?」
勇者「あなたが何者なのか、俺にはもう分かっています」
偽勇者「……剣の王国で聞いたのか」
勇者「はい」
勇者「あなたがなぜ、俺たちを助けてくれてたのかも、分かったつもりです」
偽勇者「それで……どうするつもりだ?」
偽勇者「邪心を抱く悪党を……この場で倒そうってか?」
偽勇者「俺はかまわんぜぇ?」ニィッ
75:
勇者「いえ……逆です」
偽勇者「?」
勇者「どうか……俺たちの仲間になってくれませんか」
勇者「いや、俺の代わりに勇者になってくれませんか!?」
偽勇者「な……!」
勇者「過去の経歴はどうあれ、あなたの性格がどうであれ」
勇者「俺たちがここまでこれたのは、全てあなたのおかげです」
勇者「それに実力でいえば、まだまだあなたの方が上でしょう」
勇者「現に俺は、魔王には勝てる自信があるが、あなたに勝てる自信はまるでない」
勇者「たとえ他の三人と一緒に戦ったとしても、です」
勇者「世界を救ったという名誉、魔王を倒したという快挙──」
勇者「俺よりも、あなたにこそ相応しい」
勇者「戦士たちも、まちがいなく納得してくれるはずです」
偽勇者「…………」
77:
偽勇者「ありがたい話だが、俺にそんなつもりはねえよ」
勇者「なぜです? ……あなたは、勇者になることを望んでたはずだ!」
偽勇者「そう……そのとおりだ」
偽勇者「俺は誰よりも強くなりたかった。目立つことや褒められることが大好きだった」
偽勇者「だから、体がイカれるほど修業して、あれこれ策を練った」
偽勇者「だが……やり方をミスっちまって、慕われるどころか皆から嫌われて」
偽勇者「残ったのは……放浪生活で得た経験と、剣の腕だけだった」
偽勇者「やがて俺は、勇者の血を引く人間が住むという国に流れ着いた」
偽勇者「俺はこれが最後の大逆転チャンスだと悟った」
偽勇者「魔王とお前らを始末して、魔王を倒した勇者になっちまえば──」
偽勇者「みんなから慕われることができると!」
勇者「そうだ……あなたには資格がある。少なくとも、俺よりずっと!」
偽勇者「そう、俺もそう思ってた」
偽勇者「戦いのイロハも知らねえお前より、俺こそが勇者に相応しいと思っていた」
偽勇者「だが……そうじゃなかった」
78:
偽勇者「お前らは冒険の途中で、大勢の人間に勇気を与えた」
偽勇者「たとえ、活躍に見合わない報酬でも文句一ついわず」
偽勇者「闘技大会では、負かした相手を決して貶めず、称えさえした」
偽勇者「時には、敵である魔族にすら情けをかけた」
偽勇者「これは……とても俺じゃできねえことだ」
偽勇者「剣は殺すもの、弱い奴が死ぬのは当然、ってのが心の根っこにある俺じゃあな」
偽勇者「“勇者”は強いだけじゃダメだ。それがようやく分かったんだよ」
偽勇者「そして──これを俺に教えてくれたのも、お前だ」
偽勇者「もう俺に、お前に取って代わろうなんて気はねえのさ」
勇者「だけどッ!」
偽勇者「もういいッ! これ以上頼まれたら、また野心が戻ってきちまいそうだ……」
偽勇者「行け、勇者!」
偽勇者「明日……魔王をブッ倒してこい!」
勇者「……はい!」
そして、翌日──
80:
─ 魔王城 ─
魔王「ククク……ついに来たか、勇者よ」
魔王「しかし、しょせん人間ではこのワシには勝てぬ!」
魔王「魔族の王たるワシの力と恐ろしさをその身に焼きつけて、地獄にゆけいッ!」
勇者「みんな、行くぞ!」チャキッ
戦士「正真正銘ラストバトルだ! 思う存分暴れさせてもらうぜ!」スラッ…
魔法使い「ボクの魔法には、冒険の途中で出会った人の想いも詰まってるんだ!」ボッ
僧侶「回復はお任せを! 安心して戦って下さい!」
勇者「うおおおおっ!」ブオンッ
魔王「ぬううううっ!」シュバァッ
ガキンッ!
82:
戦士「でやあっ!」シュバァッ
ザシュッ!
魔王「ぐぬうっ……! こしゃくな……!」
魔法使い「さあ、みんなの防御力を上げるよ!」ボァァ…
僧侶「大回復魔法です! これで皆さんの傷は癒えます!」パァァ…
魔王(完璧なコンビネーションだ……よもやここまでやるとは!)
魔王「ぐっ……おのれ、人間どもがぁっ!」
魔王「カァッ!!!」
ズガガガガッ!
勇者「ぐわっ……! まだまだァ!」
84:
勇者「うおおおおっ!」シュバッ
魔王「ぐ……ぬうっ!」シャッ
ギィンッ!
勇者(こうして俺たちが魔王相手に互角以上に戦えているのは──)
勇者(あの人のおかげだ……!)ザッ
戦士「ハァ、ハァ……トドメはくれてやるぜ、勇者!」
魔法使い「いっけえ!」
僧侶「勇者さん、お願いします!」
勇者「うおりゃあああああッ!!!」
魔王「ぐうっ……!」ヨロッ…
偽勇者(……終わらせろ、勇者!)
85:
ザンッ……!
魔王「ぐはっ……! バ、バカな……!」
魔王「このワシが……人間如き、にィ……! ──ごふっ!」
魔王「も、もうし、わけ……」グラッ…
ドサァッ……
勇者「か、勝ったぁ……!」
戦士「よっしゃあああああっ! さすが勇者だぜ!」
魔法使い「やった……やったんだね!」
僧侶「ええ、ついに魔王を倒したんです、私たち!」
偽勇者(どうやら、最終決戦は……俺の出る幕はなかったようだな)
89:
戦士「ところで……いつものあの人はどこにいるんだ?」
戦士「せっかく魔王を倒したんだ。あの人にも来て欲しいぜ」
魔法使い「なんならボクの魔法で探してみるかい?」
僧侶「そうですね、もしかしたら近くにいるかもしれませんし!」
戦士「もし見つけたら、一緒に王国に帰って──」
勇者「いや……やめておこう」
魔法使い「えっ、どうして?」
勇者「あの人は……そういうことは望んでないと思うんだ」
勇者「だから俺たちは、このまま四人で帰るのが一番いいんだ」
僧侶「たしかに……表に出たがるような人ではありませんでしたね」
魔法使い「うん、勇者がそういうのなら……やめとこっか」
戦士「んじゃあ、とっととこんな辛気臭いところからはおさらばしようぜ!」
92:
偽勇者(……あいつらは帰ったか)
偽勇者(魔王を倒したのはまちがいなくお前たちの力だ。胸を張って帰れよ)
偽勇者(これで、俺の偽勇者としての生活も終わりだな……)
偽勇者(またあてもなく旅でもするか……)
偽勇者(──ん?)
魔王「うっ、ぐぐぅ……」ズル…
偽勇者(まだ息があるじゃねえか……)
偽勇者(あいつらの詰めが甘いのか、こいつの生命力がとんでもないのか……)
偽勇者(ま……あれなら放っておいても、すぐくたばるだろうが……)
94:
魔王「ク、クク……」ゲフッ
魔王「憎き勇者どもめ……いまいましい勇者どもめ……」
魔王「奴らは知らぬ……」
魔王「北の大地にて復活を遂げるであろう……大魔王様の存在、を……」
魔王「せいぜい、ワシを倒して浮かれておれ……クククッ……」
魔王「──ガハァッ!」ゲボッ
魔王「…………」ガクッ…
偽勇者「どうやら……まだ終わっちゃいないみたいだな」
96:
一ヶ月後──
─ 城 ─
ワイワイ…… ガヤガヤ……
魔法使い「ふう……。国中、まだどこもかしこもお祭りムードだ。落ちつかないよ」
戦士「いいじゃねえか。もう俺たちが戦う相手はいねえんだしよ!」
僧侶「そうですよ! とことんパーっと楽しみましょう!」
魔法使い「とことん、ねえ……」
勇者「…………」
姫「どうしたのですか? 勇者様?」
勇者「いや、なんでもないよ……姫」
勇者(なんだろう……。なにかとんでもないことが起こるような、胸騒ぎがする)
勇者(いや……もう、すでに起こっているような……)
すると──
100:
兵士「大変です、陛下!」ザッ
国王「どうした?」
兵士「遥か北の大地にて、大量の魔族が現れ、南下を始めたという報告が──」
国王「なにい!?」ガタッ
勇者(やはり……!)
兵士「あったのですが──」
国王「ん?」
兵士「発見者である極北観測人が、もう一度状況を確認しにいったところ」
兵士「南下していたはずの魔族たちが全員死体になっていた、と……」
国王「なんだと……!?」
103:
国王「それはいったい、どういうことだ……!?」
兵士「観測人によると、仲間同士で争ったとしか考えられない、と……」
国王「ふうむ……いずれにせよ助かった」
国王「もし同士討ちが起こらねば、今から勇者たちや兵士らを派遣しても」
国王「大勢の犠牲者が出ることは避けられなかっただろう……」
戦士「なんだよ、ビックリさせやがって……」
魔法使い「でも、ビックリで済んでよかったよ」
僧侶「まだ魔王軍が残っていたなんて……同士討ちしてくれたのは幸運でしたね……」
勇者「…………」
姫「どうしたの? 勇者様?」
勇者「いや、なんでもないよ」
勇者(これはまさか……あの人が……)
105:
その頃──
─ 北の大地 ─
大魔王「ぐぬぬぅ……ありえぬ! 勇者の血を引くわけでもない者が」
大魔王「たった一人で、我が直属の軍団をこうもたやすく壊滅させるとは……」
偽勇者「勇者の冒険は、魔王を倒した時点でもう終わってんだよ」
偽勇者「ようするに、お前は“蛇足”なんだ。ここで人知れず退場してもらうぜ」チャキッ
大魔王「キ、キサマ……何者だァッ!」
偽勇者「あ? 俺か? んなもん、勇者様に決まってんだろ」
偽勇者「ただし──」
偽勇者(勇者……こいつは俺に任せて、お前は仲間と平和になった世界を楽しみな)
偽勇者(こんな北の果てにも、ちゃんと勇者様はいるから安心しろい!)
偽勇者「──ニセモノだけどなあッ!!!」
         ─ 完 ─
115:
面白かったわ
11

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