【俺ガイル】比企谷八幡 「やはり俺は手作りバレンタインに弱い」back

【俺ガイル】比企谷八幡 「やはり俺は手作りバレンタインに弱い」


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1:
【ネタバレ注意】
このSSは原作ラノベに準拠しています。
そのためアニメでは放送されていない描写についても少しではありますが言及があります。
よって少しのネタバレも許せないと言う方は閲覧を控えて下さい。
書き溜めはしていないので、最後どうなるか自分でも不明です。
それでは、次から書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。
2:
俺は甘党だ。
なんせ、コーヒーに練乳を入れるという画期的かつ暴力的なマックスコーヒーを愛飲しているくらいだからな。
それに今の自分超大好き。
ボッチで友達がいないところも孤高でかっこいいし
理数系科目できないのも答えは1つじゃないって悟ってるみたいだし
希望を持たないのもリアリストでクールだし
濁った目も世界を見下してるみたいで偉そうだし
斜に構えたスタイルもアウトファイターみたいでカウンターが怖い。
つまり俺は甘い物が大好きだ。
3:
だがそんな超甘党な俺ですら苦手なものがある。
恋愛。
まず俺の見解を言わせてもらえばあれは甘くない。
恋人がいれば時間も金もかかるし自由もなくなるし機嫌とらなきゃなんないし自分を殺さきゃなんないしちょっとしたことで苛つくし悲しくなるし泣きたくなるし死にたくなる。らしい。
そんな超ハードなことが甘いわけがない。
超ブラック。入社1年目から店長代理やらされるくらいブラック。
だが、しかし、世間の声を真摯に受け入れて百歩譲って恋愛が甘い物だとするならば、
俺は唯一の例外を認めなければならない。
恋愛なんて言うものは大嫌いだ。
4:
俺は恋愛によるごたごたに自分を乱されたくないし自由気ままな生活を送りたい。
それに
希望は失望に変わる。
期待は裏切りを生み出す。
だから俺は他人には何も望まない。
唯一望むとすればそれは俺に対して「無関心」であること。
6:
俺はこれまで一人だったしこれからも一人でやっていく。
それが俺、比企谷八幡のモットーであり信条でありポリシーである。
俺はこれからも一人で生きていく。
誰にも頼らず、誰も許さず。
孤高の戦士、比企谷八幡の戦いはこれからも続く。
   ?完?
「ちょっとお兄ちゃ?ん」
お?天使の囁きが聞こえる。
7:
キッチンでの洗い物を終えてソファに座っている声の主に尋ねる。
「なんだ?」
「小町、もうそろそろ受験なんだよね?」
声の主は世界で10人ほどしかいない、俺との会話をすることができる稀有な存在だ。
まるで俺って世界樹みたい。
んで、妹の小町はその中でも最も俺と喋る機会が多いやつ。
ふむ、こいつが勇者だな。
「知ってるよ、総武高もそろそろだしな」
「それでね、今年はバレンタインのチョコ作ってる暇ないんだ?」
「なにーーーー!?」
8:
毎年、唯一俺にチョコをくれる小町ルートが断たれたとなると今年は0個。
甘党な俺にとっても男としてもショック。
「まあ仕方ないよな、受験だし。そんなこと気にせんで勉強頑張れ、勉強を」
「勉強ももちろん頑張ってるよ。けどお兄ちゃんは今年はチョコもらえないのか?」
え?確定?
もしかしたら貰えるかもしれねえだろ。
階段で困ってる老人を助けたお礼にとか、
チョコもらいすぎて困ってる葉山が俺の目の前で一つ落とすとか、
チョコくわえて「遅刻遅刻?」って走ってる子とぶつかるとか。
うん、0個だな。
9:
「別にいいよ、チョコなんて買えばいいし」
「ちっちっち?甘いな?お兄ちゃんは。あ、今の小町的に座布団1枚」
その採点基準の方が甘いよ。だから俺には5枚くれ。
「貰うのと買ったのじゃ全然違うでしょ??」
まあそうだな。貰ったチョコは胃もたれしそうだ。
トッピングとか想いが重くて。
「しょうがない。情けない兄を持った妹として、ここは一肌脱いであげますか」
「いや、受験前なんだし暖かい格好してろよ」
「小町に任せて!お兄ちゃん」
いや、何をだよ。
11:
だがもう分かってることがある。
絶対に俺にとっていいことじゃないことが起こる。
それは確定事項だ。
小町が動けば俺に厄災が降りかかる。
それは妹を持った兄の宿命なのだ。
だから俺にできることは一つ。
「お手柔らかにお願いしますね」
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12:
気付けば今年も1月が過ぎ、こんなことを後11回したら今年も終わるのかと早くも大晦日の心配をする今日この頃。
放課後になった教室を見回すと、色んなことがあったなと感慨深くなる。
葉山と三浦とはテニス対決をした。
川何とかさんのやってるバイト先に乗り込んで、年齢を暴露するぞと脅して辞めさせた。
事故から飼い犬を救った俺に感謝している由比ヶ浜に、お前の気持ちは勘違いだとお門違いな説教をした。
夏休みには葉山達をけしかけて小学生に消えないトラウマを植えさせた。
文化祭実行委員長になった相模には、構ってちゃんの最底辺だと罵って泣かせた。
告白したいと相談してきた戸部の意中の相手に俺が先に告白した。
うん、最悪だな俺。
13:
けどなんだかんだで葉山と戸部とは喋るようになったし、何より戸塚。
戸塚とかいうクソカワイイ天使と仲良くなれた。
俺らって友達?友達なの?運命?愛し合ってる?
そんくらい戸塚との出会いは俺にとって大切なものだった。
けどもうこのクラスも残すところ1月か。
はー……早く3年にならんかね?。
いや、戸塚とは当然、一緒のクラスにはなりたいよ。むしろ籍も一緒にしたい。
けど後はどうでもいい。
14:
葉山は出木杉君過ぎて鬱陶しいし三浦は怖いし戸部うるさいし。
あとはどうでもいい奴ら。
よって俺にはクラスに対する愛着なんて当然ない。
そんなわけで何とも思わないクラスからは早々に離脱して奉仕部の部室へと向かう。
ってか俺って真面目すぎね?
平塚先生に強制されて入れられた部活に唯々諾々と通うなんて社畜の鑑。
どうやったら平塚先生を説得して奉仕部を辞めることできるか、やっぱりプロポーズしかないのかと悩んでいたら部室に着いた。
扉は案の定開錠されておりスライドして俺の入室を許可した。
「あら比企谷くん。今日は来ないでと思っていたわ」
15:
「『で』があるせいでお前の単なる願望になっちまってるじゃねえか」
「あら、それは違うわ」
ほう?
「これは皆の願いよ」
うぃあーざーわー
うぃあーざーちるどれーん
「へいへい、帰っていいなら帰りますが」
「あら、駄目に決まってるじゃない。
 こんなぬるま湯のような部活でさえ頑張れないのなら、あなたの行きつく先は冷たい土の中しかなくなるわよ」
部活か死か。未だかつてこんな理不尽な選択があっただろうか。
16:
まだ死にたくはないのでとりあえずいつもの席に座って文庫本を取り出す。
ページをめくる音、秒針が刻む音、風がドアを叩く音。
部室はこの3つの音だけが響き、さもすると寂しくなるかのような雰囲気。
だが俺はこの空気が好きだ。
気を遣わず、遣われず。
1人の人間として対等に存在している。
部室は知らぬ間に俺にとって居心地のいい空間になっていた。
79:
だがそこに騒音がやってくる。
「やっはろー!」
「ばっきゃろー」
「バカじゃないもん!!」
ニュアンス似てるからいけると思ったのに。
「馬鹿な会話をしてないで席に座ったらどうかしら」
「あ、うん」
雪ノ下には口答えしないのか。
雪ノ下の勧めで由比ヶ浜がいつもの定位置、雪ノ下の隣に座る。
今度は逆に雪ノ下が立ち上がり紅茶を淹れはじめる。
紅茶飲める部活って何か勝ち組。
雪ノ下が淹れてくれた紅茶をお情けで俺も頂く。
80:
ふむ、こうしてみると雪ノ下はやはり優しいのではないだろうか。
こんな俺なんかに紅茶をくれるくらいなんだし。
なら『正しくて優しい』と評した平塚先生は正しかったということになるだろう。
俺に見せかけだけで優しくする奴なんていない。
ってことは俺に優しい奴は本当に優しい奴ってことだ。
自己PRに書いてもいいよ?
「私はあの比企谷君に対してですら優しくできます」って。
すげえ説得力。ビシビシ俺の心に響いてきてなんだか泣ける。
そんなことを考えていると馬鹿な子が馬鹿なことを言いだした。
「ご相談があります」
その由比ヶ浜の一言に俺と雪ノ下がチラリと彼女を見る。
そして何もなかったと読書に戻る。
「え!?なんで無視すんの?ちょっと!聞いてよ!」
煽りを喰らったのは雪ノ下。
隣にいるせいで肩をガクガク揺らされて読書どころじゃない。
「ちょ、ちょっと。由比ヶ浜さん。止めてちょうだい」
81:
「なら聞いてくれる?」
「ええ、聞きます。聞くから揺らさないで」
雪ノ下から言質を取った由比ヶ浜はとりあえず揺らすのを止めた。
そして姿勢を正し、改まった感じで話し始める。
「ゆきのん、奉仕部に相談があるの」
相談?お前自身も一応部員だろうが。
「ってかヒッキーも聞いてよ!」
何も言われなかったから読書を続けていたら俺まで怒られた。
「それで、相談とは何かしら」
「あたしに料理を教えてほしいの」
さて、読書に戻るか。
本はいい。あるときにはモテモテハーレム主人公になれるし、
またあるときには冒険をしたり、事件を解いたり、ウォール街で荒稼ぎしたりできる。
それに不味い飯を食わされることもないしな。
83:
「………由比ヶ浜さんに料理の意味を教えればいいのね?
 料理とは材料に手を加えて食べ物をこしらえること、またはその食べ物自体を指す言葉よ」
「ちがうよゆきのん、料理の仕方を教えてほしいの」
「……由比ヶ浜さんに、料理の仕方を?」
「そう!」
「……具体的には何を作るのかしら」
「チョコ!!」
「……バレンタインだしな」
俺が何の気なしにぼそっと言うと、由比ヶ浜がそれに反応して机をガタガタ鳴らして立ちあがる。
「ヒ、ヒッキ?……」
由比ヶ浜を見ると顔が真っ赤だった。
そうか、そういうことか。
「すまん、自分で食べる分だなんて恥ずかしいよな」
「ちがうし!そうじゃないし!」
84:
「ならバレンタインなのか?」
「…それも違うし」
バレンタインでもないのか。まあ別にバレンタインじゃなくてもチョコくらい送るか。
「手作りチョコを作るのは簡単よ。
 湯煎して既製商品を溶かして、自分の好きな形に成型して後はトッピングをするだけね」
「ユセン?整形?」
由比ヶ浜の頭の上にハテナが舞い踊る。
「湯煎とは温めたお湯の中にボールなどを入れて、その中に物を入れて溶かすことよ。
 成型は読んで字の如く形を作ることよ」
「なーんだ、簡単じゃん。買ってきたチョコを溶かして整形すればいいんでしょ?」
「ええ、簡単に言えばそうね。だから手作りチョコは意味がないともいえるわね」
「……へ?」
85:
「チョコを一から手作りするのはまずカカオ豆の入手が困難だし、その後にもローストしたり砕いたり、
 カカオマスやカカオバターと混ぜたりと色 々面倒な工程が多いわ。
 けど面倒な工程が多い割には市販品の方が一定のクオリティーが保障されていて、はっきり言って一から手作りする必要性も乏しいわね。
 けれど既製品を使う場合には溶かしてまた固めるだけだから無駄でしかない。
 出来ることと言えば少し手間を加えることと、トッピングと成型くらいかしら」
なるほど、手作りチョコレートとは響きは素晴らしいが、その実破壊とリサイクルでしかなかったのか。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆきのーん!どうしよう!」
「どうしようとは?」
「だって手作りチョコって意味ないんでしょ?」
「まあ過程を重視すればそうなるわね」
「え?なんかヤダな?」
「けどさすがに一から手作りは由比ヶ浜さんには少々重荷ではないかしら」
「む?ん……」
86:
「作るのはチョコレートじゃないといけないの?」
「へ?」
「チョコ味の物だったら手作りできるわよ。
 トリュフやチョコケーキやチョコクッキーなどがそうね」
おいおい、チョコの湯煎さえ出来なさそうな由比ヶ浜になんてタスクを与えてんだよ。
チョコがなくても木炭みたいなクッキーを作ったんだから、チョコなんて入れたら余計黒々とした物ができちまうだろ。
「トリュフ……チョコケーキ……チョコクッキー……
 うん!それだ!それだよゆきのん!それにしよう!」
「そ、そう」
自分でハードルを上げて自分で躓く雪ノ下。
あーあ、俺は知らねえぞ。
俺は別に料理万能じゃねえし、料理を教えるってなったら雪ノ下の分野だ。
87:
「なら具体的に何にしましょうか」
「う?ん…一口にチョコのお菓子って言ってもいっぱいあるし?」
「そうね、それにチョコケーキも色々種類があるわね」
「どうしようゆきのん!?」
「……はあ。
 ならとりあえず明日学校に製菓レシピの本を持って来るから一緒に考えるというのでいいかしら」
「ありがと?ゆきの?ん!」
「ちょっ、抱き付かないで」
抱き付く由比ヶ浜を押す雪ノ下と、離れまいと抵抗する由比ヶ浜。
あらあら、この1年で仲良くなっちゃって。
雪ノ下。お前はもはやボッチ失格だな。
88:
というわけで明日の奉仕部は由比ヶ浜のチョコ料理を何にするか会議することになった。
まあ由比ヶ浜のお悩み相談に応えてるんだから十分部活の範囲内だな。
その後はいつも通り読書2名+携帯ピコピコ1名で時間を潰して解散。
俺も奉仕部部員としてレシピでも暇つぶしに探そうかな?。
じゃないと貰った奴が死ぬかもしれんし。
うん、人命救助のためにもやろう、暇だったら。
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89:
最近の俺は超勤勉。
小町に代わって炊事もしてるしたまに掃除洗濯もする。
俺ってえらい、誰か褒めて。そして婿ってほしい。
まあ今までが小町に甘え過ぎていた。
小町は受験で一応人生の一大事、ターニングポイント、運命の分かれ道を迎えている。
そんな時に家事で小町の時間を奪うことが許されるわけがない!!
と、親父が吠えた。
それはごもっともだけど俺の考えは違った
とか偉そうなことは言えないから、とりあえず受験が終わるまでは俺が小町の代わりをしている。
まあ代わりと言ってもできる事なんて限られてるけど。
92:
とりあえず夕食後の食器洗いも終わってリビングのソファに腰掛ける。
するとリビングの扉がダン!と開け放たれた。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「はいはい、なんですか」
「『はい』は1回!あ、これ明日学校に持って行ってね」
そう言って小町に渡されたのは本が何冊か。
受け取って表紙を見てみるとどれもお菓子の写真が印刷されていた。
「料理レシピ?」
「そ、結衣さんに頼まれたから明日学校で渡してあげてね」
93:
ああ、そういや明日はあいつの作るお菓子を決めるんだったな。
帰ってきて漫画読んでたらレシピを探すの忘れてた。
あやうく人一人の命を散らせるところだった。
「そっか、ありがとうな」
人命救助を心がけず行った心清い妹の頭を撫でる。
「えへへ?もっとほめて!」
「はいはい」
あまり頭のよろしくない妹の脳細胞が出来るだけ死なないように優しくなでりなでり。
「お兄ちゃん、頑張ってね!」
何を頑張れと?
お前はお兄ちゃんが本数冊持っていくのにも苦労すると思ってるのか。
なら代わりに持って行ってください。
鞄が重いと学校行くのも嫌になっちゃうから。
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105:
平塚先生の独身街道まっしぐらをどうやったら阻止できるか、
というどうでもいいような、俺の一生に関わるような問題を考えていたら放課後になっていた。
ふむ、今日も勉強頑張ったな。
人は考える葦である。
暇つぶしをする必要もなくなったから考えることを放棄して部室のほうへと向かう。
部室には先に雪ノ下が来ていたから適当に挨拶をして定位置につく。
しばらく読書をしていると、程なくしてムード&トラブルメーカーもやってきた。
「やっはろー!」
「こんにちは、由比ヶ浜さん」
皆も揃ったところで、今日も今日とて紅茶を淹れてくれる雪ノ下メイド長。
あのゴミを見るような目をしながら御主人様とか呼んでくれないかな。
106:
「で、今日は由比ヶ浜さんが作るお菓子を決めるということだったけれど」
「そう!ゆきのん、どうか救いの手を!」
雪ノ下の手を両手でガッツリ掴む由比ヶ浜。
ふむ、ここで朝チュンとか不自然な光で大事な場所を隠す事態になると居心地が大変悪いから、
いつでも逃げ出せるように俺の用件を済ませてしまおう。
「由比ヶ浜、小町から預かって来た本だ」
そう言って俺は鞄から本を数冊取り出して机の上に置く。
「あ、ありがと?ヒッキー」
そう言って由比ヶ浜が本をペラペラ。
107:
「なら私が持ってきた本も合わせて読んで、その中から選びましょうか」
「うん!」
女子たちが仲良さそうにキャッキャウフフしている場所にいると言うのはなんとも居心地が悪い。
あの女子特有の結束力、排斥力は半端ない。息をするのも苦労する。
「ちょっとヒッキーも手伝ってよ」
「…へ?」
「そうよ、あなたも仮とは言え部員の一人ならば由比ヶ浜さんの相談に取り組むべきだわ」
「つっても俺、料理そんなできないし。てか俺って仮入部だったんだ」
「料理自体には…いえ、あなたには何も期待していないわ。
 けれど本の中から由比ヶ浜さんが作れそうなものを選ぶことくらいはできる…わよね?」
110:
けどそう言うのって1冊の本を二人で読むから楽しいんじゃないのか?
ってか俺が読んだ本の中に、由比ヶ浜が気に入るレシピがあって俺がすっ飛ばしたら二度手間だろ。
けど口答えすると倍以上の言葉と憎悪が返って来るからここは口をつぐむ。
口は災いのものだ。
「あ、ヒッキ?」
「ん?」
「あたしが作れるものかっていうよりかは、できたら食べたい物を選んでほしいな」
「わかった」
というわけで俺が好きで、かつ由比ヶ浜が作っても殺人料理にならないものがないかを探す。
あるの?そんなの。
111:
ペラペラめくっていくと色々なお菓子が目に飛び込んでくる。
プリン、ケーキ、タルト、マカロン、シュークリーム、パンナコッタ、クッキー…etc
どれもこれも甘党な俺にとっては美味そうに見えた。
「あ、おい由比ヶ浜」
「な?に??」
由比ヶ浜は本を見ながら返事だけする。おい、話す時は目を見て話しなさいと習わなかったのか。
と、俺は机の木目を見ながら思った。俺も見てないじゃん。
「俺って甘党なんだけどいいの?お前が送る相手が苦手だったら俺の意見は当てになんねえけど」
「………う、うん。だいじょう、ぶ」
え?歯切れ悪いんですけど。
「どんな料理もあたしにかかれば木炭みたいな奥深い苦みに早変わり」とか自負してんの?
112:
まあ由比ヶ浜がいいってんならそれでいいか。
本をペラペラめくりながら、俺ならどれがいいかを考える……
やばい、貰えないのにもらった体で考えるとか切ない。
「ヒッキーは何が一番よかった?」
「やっぱり普通のチョコレートケーキだな」
そう言って俺は該当ページを開いて由比ヶ浜に見せる。
普通のチョコスポンジの間にチョコホイップが入ってる奴。
「ゆきのんってこういうケーキ作ったことある?」
「これ自体はないけれど、スポンジケーキなら作ったことがあるから応用でいけるわね」
「そっか?、むむむ………」
レシピを見て悩む由比ヶ浜。いや、お前写真くらいしか意味分かんねえだろ。
113:
「決めた!ならチョコレートケーキにする!バレンタインだし気合入れなきゃ」
「え?これバレンタイン用だったのか?」
「え!?あ、う……うん」
「そう、ならバレンタインまであと1週間しかないけれどどうしましょうか。
 練習はするの?それとも前日に頑張るだけでいいのかしら」
いやいや、由比ヶ浜は料理に関しては「やってもできない子」なんだし前日頑張ったところで微妙だろ。
「ゆ、ゆきのん。出来たら練習に付き合ってくれたらありがたいんだけど……」
「ええ、いいわよ。練習場所は私の家でいいかしら」
「いいの!?ゆきのんありがとー!!」
「ちょっと、一々抱き付かないで」
雪ノ下はやっぱり面倒見がいいな。
将来、駄目な男に引っかかりそうで不安だ。代わりに俺はどうですか?
114:
「なら明日からということでいいかしら。材料がないし今日は無理ね。
 それに出来るようになったのならその時点で止めればいいのだし」
「うん、んじゃそうしよう!」
「部活はどうすんだ?その間休止にするか?」
「いえ、当然続けるわ。練習は部活が終わってからね」
いや、休んでもいいんだよ?ほら俺って優しいし、自分に。だから休みをください。
「チョコレートケーキって何入れるの?桃缶?」
「え!?普通はクリームだけか、入れるとしたらオレンジピールとかオレンジマーマレードや苺とかが合うと思うけど…
 由比ヶ浜さんは桃缶に全幅の信頼を寄せ過ぎではないかしら」
仲良さそうにあーだこーだと打合せをする二人。
仲良きことは美しきかな。
けどそんだけ仲睦ましいオーラを出されると3人しかいない部室だと俺がボッチになってしまう。

いつもボッチですけどね。
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115:
あ   という間に1週間が経過。
え?手抜きするなって?
よし、なら俺のこの1週間の出来事を教えてやろう。
学校行って部活行って飯食べて寝て、学校行って部活行って飯食べて寝て、お昼過ぎに起きて飯食ってダラダラして飯食って寝て、お昼過ぎに起きて飯食ってダラダラして飯食って寝て、学校行って部活行って飯食べて寝て、学校行って部活行って飯食べて寝てた。
な、聞くだけ無駄だろ。
というわけで今日は2月14日。単なる平日の、なんてことない平凡な1日である。
今日も単に学校行って食べて寝て終わりだ。
よし、なら今日も一丁頑張ってみるか!
珍しくやる気に満ちている俺は元気よく教室の扉を開く。
116:
「ね?ね?葉山くん❤これ受け取って」
「え?俺にくれるの?ありがと」
「きゃ???❤」
よし、帰ろう。
いやいや、帰っちゃまずいか。出席日数がやばい。
なら我慢してでも出席せねば。
というかあんまりダメージもない。
そりゃ葉山はもてるしチョコもらって当然。
そして俺は何も期待していない。
期待していなければ失望も生まれないし裏切られることもない。
だから負傷もしないし、負傷しないってことは負けないってことだ。
我鉄壁、故無敗也。
うむ、かっこいいな。幟か何か作ろうかな。
117:
というわけでいつも通り目立たないように自分の席に直行し、荷物を片付けて寝たふりをする。
音楽を聞き、視界を遮って自分の世界へと没入していく。
例え周りでチョコが送られていても、カップルが成立していても、一線を教室で越えていても
俺には関係ない。やっぱり最後のやつは気になる。
精神統一ごっこをして時間を潰していると担任が入ってきてSHRが始まる。
後はいつも通り授業を終えればバレンタインなんて関係なし。
ふ、俺の鉄壁を崩す猛者はどこを探してもいないな。
は?常勝無敗とは虚しいものだ。
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118:
休み時間にはチョコを貰った奴を茶化す声だったり
貰ってない者をネタにする声
本気でもらえないことにショックを受けている怨嗟の声
チョコあげてキャーキャー奇声を上げる女
など、とりあえず動物園かと疑いたくなるほど五月蠅かった。
これが昼休みになるとさらにひどい。
昼休み早々、女子が何人もやってきて
「葉山君、受け取って❤」
とか
「隼人君やっべ?わ?」
とか色々うるさい。
あと時間を追うごとに三浦の機嫌が悪くなって怖い。
まあそんなのは寝たふりに定評のある俺にかかったら全部無視だし、
昼休みは教室から出て行ったから関係ないけど。
119:
それやこれやを無視して1日の授業を終え、教室を出る。
廊下を歩いていると俺とは逆走する女子の集団がちらほら。
ふむ、葉山にあげるのかね。
そんなことをぼんやり考えながら校舎を出て自転車置き場へ。
気にしていないとはいえ、あれだけ騒がしかったら無関係な俺でも疲れる。
凝った肩を解しながら自分の自転車の方へと向かっていく。
するとそこにはこの場所では見慣れない女生徒が一人立っていた。
「おう」
「ええ」
雪ノ下との挨拶は、まるで熟年夫婦のようにそっけないものだった。
120:
「今日は部活には来ないのかしら」
「あーなんか疲れちまってな。バレンタインってのは男にとっては気の張るイベントなんだよ」
「そう」
「ってかなんでお前はここにいるんだ?」
「あら?言わないと分からないかしら」
雪ノ下は俺の目を真っ直ぐに見る。
俺は咄嗟に目をそらした。
「誰かさんが怖気付いて逃げないようにここで見張っていたのよ」
「そうか、それはご苦労なこった。じゃあ俺は帰るからな」
「逃げるの?」
「………別に逃げてねえよ」
121:
「いいえ、あなたは逃げているわ。現実から。他人から」
「だから逃げてねえって。今日は疲れたから帰るだけだって言ってんだろ」
「別にいいわ。あなたが自分に甘いのは。
 それはあなたの考え方であって責められるものではないもの。
 私はその考え方に賛同はできないけれど矯正もできないわ」
「そうか。なら疲れた自分を労わるために1日くらい部活さぼったっていいだろ」
「けどね比企谷くん。自分を守るために無暗に他人を傷つけていい理由にはならないわ」
「俺は他人を傷つけたりしねえよ。傷ついたのならそれは自業自得だ。
 ……俺のせいじゃない」
122:
「ええそうね、あなたは積極的に誰かを傷つけたりする人ではないわ。
 でもあなたが何もしないことで逆に傷つく人だっているのよ」
「それこそ俺のせいじゃないだろ」
「いいえ、あなたにも責任があるわ」
「どんなだよ」
「一人がいいと言うのなら誰も傍に置くべきではなかった。
 部活で仕方なく関係を持つしかなかったとしても突き放すべきだった。
 俺はお前のことなんて好きではないんだと明確に拒絶するべきだった」
「誰彼かまわずそんなこと言って回ってたら俺はボッチなだけじゃなくてキチガイ扱いされてるよ」
「別に皆にそう言って回る必要はないわ。言う必要がある人にだけそうすればよかったという話よ」
「その必要があればな。だがそんな奴はいない」
123:
「本当に?」
「あ?」
「本当にそう思っているの?」
「…………………………」
「あなたは彼女の気持ちをなかったことにするの?無視して、踏み躙って、全て見なかったことにするの?」
「……俺の勘違いの可能性だってある」
「それでも彼女が特別な感情を持っている可能性は認識してた。
 なら1人が好きだと言うのなら予め面倒事になる前に間引いておくのが筋じゃないかしら」
「……何が言いたい」
「あなたは彼女を拒絶すべきだった、一人がいいというのなら。
 明確に言葉にしなくとも態度で示すことだってできた。
 それをせずにいたのは、比企谷くん。
 あなたは彼女に甘えていたのよ」
124:
ああ、そうだ。俺は甘えていたんだ。
1人でいいなんて言いながら、俺はあの部室の雰囲気が好きだったんだ。
俺は彼女の明るさに救われていた。
俺は彼女の優しさに甘えていた。
俺は彼女の温もりに癒されていた。
そして、俺は彼女の好意を利用していた。
「彼女の想いがここまで大きくなったのは比企谷くん、あなたが何もしなかったせいよ。
 それなのに自分に不都合になったからと言って彼女の言葉も聞かず、彼女から逃げて、
 彼女を傷つけるというのはあまりに自分勝手じゃないかしら」
125:
「…なら……ならどうしろっって言うんだよ」
「それは比企谷くんが考え…」
「あいつの恩恵に与っていたのは雪ノ下、お前もだろ!
 ここで俺が振って見ろ!もうあの奉仕部は……もうあの3人ではいられないんだぞ!」
「ええ、そうかもしれないわね。けれどもうここまで来てしまったわ。
 後は彼女の気持ちを無視して彼女一人に重荷を背負わせるか、あなたが彼女と向き合うか。
 2つに1つよ」
「…………」
正論だ。
雪ノ下の言うことは確かに正しい。
126:
彼女と向き合うのが嫌ならば初めから拒絶すればよかったし、
それをしなかったから今の事態を招いている。
結局は俺の甘えと行動が引き起こした結果だ。
だから俺が責任をとるべきだと言う論調も納得ができる。
ぐうの音も出ねえ。
「先に言っておくわ。彼女は今日、あなたに全てを伝えるつもりよ。
 例えあなたが家に引き籠っても家まで行くでしょうね」
なら選択肢ないじゃん。
「覚悟を決めなさい。今までみたいに有耶無耶にして無かったことにすることはもうできないのよ」
言いたいことだけ言うと雪ノ下は俺に背を向けて校舎へと入っていった。
127:
「……どうしたもんかねー」
ふと空を見上げて独り言ちる。
その言葉は空高い冬の空に吸い込まれていった。
逃げても駄目なら考えるか。
俺と、由比ヶ浜のことを。
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――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
147:
時刻は6時を少し回ったところ。
春にはまだ早いこの季節だと外はもう真っ暗だ。
学校に俺の居場所なんてなく、家には小町もいる。
だから俺は由比ヶ浜の「会えないかな?」と言うメールに対して、彼女の家の近くの公園を待ち合わせ場所に指定した。
自転車を漕ぎながら今までのことを思い返す。
初めての出会いは高校の入学初日。と言っても俺には記憶がないが。
由比ヶ浜の飼い犬を事故から救ったのが切っ掛けだった。
それから月日は流れて2年になってクラスが一緒になり、彼女と再会した。
まあ俺は由比ヶ浜の存在も認識していなければ、彼女があの犬の飼い主と言うことも知らなかったが。
148:
その後、奉仕部に俺が入り、由比ヶ浜が相談に来て、
気が付いたらいつの間にかあいつまで部員になって………
その後は半年以上、放課後を共に過ごした。
俺は本を読みながら、彼女は携帯を弄りながら。
俺はいつも、彼女を気にしないように気にしていた。
今まで抱いた淡い恋心は、全て俺を切り裂く冷たい刃に変わった。
だから俺は期待することを止めた。
望むことを諦めた。
149:
そんな俺にとって彼女は魅力的で
あの咲き誇るような笑顔も
はにかんだ笑顔も
俺でさえも包み込んでくれる優しさも
全てが俺を惑わせた。
だから彼女の存在は俺にとって喜びだった。
だから彼女の存在は俺にとって邪魔に感じた。
だが、もし、雪ノ下の言うように、彼女が俺に対して特別な感情を抱いているとしたら……
俺はどうすればいい?
今までは相手から好意を抱かられることを期待するなと自戒していただけで済んだ。
だがその先のこと……相手が好意を寄せている場合については考えたこともなかった。
そんなことがなかったから考える必要もなかったのだが。
150:
けど、相手が好意を寄せているのならばこちらが好意を寄せても裏切られることはない、
始めは。
だがいずれ二人はすれ違うだろう。
だがいずれ二人は愛を忘れるのだろう。
そして二人は、いずれは離れていくのだろう。
そうであれば結論は一緒ではないか?
初めから期待するべきでない。
期待すれば裏切られる、失望する。
幸せな期間があるかないかの違いしかそこにはなく、やはり最後には痛みと悲しみが待っているのだ。
151:
ならば俺は変わらない。
俺は何も期待しない。
俺は何も望まない。
俺は他人を必要としない。
俺に必要なのは、一人で生きていく力だけだ。
152:
街頭の灯った公園に、由比ヶ浜がポツリとベンチに腰かけていた。
その姿は実際の彼女よりも小さく見え、まるで迷子の子供のような心細さを感じさせた。
俺は公園入口の脇に自転車を停め、公園の中へと入っていく。
彼女に向かって歩いて行くと、足音で気付いたのか彼女がこちらを認識し、ぱっと立ち上がる。
「ヒ、ヒッキー…」
彼女まで10m……5m……3m。
「よう」
出来るだけ、俺はなんでもないかのように平然と手を上げて挨拶する。
153:
「ご、ごめんね?急に呼び出したりして……」
「ぃ…ごほんっ。いや、大丈夫だ」
俺はいつも通りできて…ないんだろうな。
顔は引きつってるのが自分でも分かるし
喉はカラカラだし
手汗が半端ない。
けれど平然を装う。
「それで、用はなんだ?」
「あ……あの……」
154:
パンツ脱いだ
エロシーンはよ
156:
彼女はベンチに置かれた小さな箱をチラリと見る。
それを手に取って彼女が言う。
「あ、あの。きょ今日バレンタインだしヒッキーには色々お世話になったし今までの感謝って意味を込めてケ、けけケーキ焼いた、の」
おいやめろ、緊張するな。俺にまで伝染するから。
「だ、だから……受け取って?」
そっと、恐る恐る、少しだけ差し出されたその箱を
俺は落とさないように両手でしっかりと受け取った。
「おう、ありがと」
「そ、……それでね?」
く、来るのか!
157:
「で、出来たらケーキ、今食べてほしいんだけど!!」
「……へ?食べる?」
「そ、そう」
「ここで?」
「うん」
公園で?街頭が灯るほど真っ暗な中?
けどそんなことは真剣な、泣きそうな、祈るような彼女の顔を見るとどうでもよくなった。
「ああ、分かった。けどフォークは?」
「あ、中に入ってるから…」
とりあえず箱をベンチに置き、その前に屈んで恐る恐る開けると、
確かにコンビニでもらうようなプラスチックのフォークが脇に置かれていた。
158:
チラリと彼女を見上げる。
すると縋るような彼女の目線とぶつかった。
俺はフォークを袋から取り出し、ケーキを切り分け、一欠けらを口の中に放り込む。
「…ど、どう?あ、不味かったらはっきり言ってねだいじょうぶだから」
待て、まだ咀嚼もしてない。
俺はカラカラな口の中で、纏わりつくスポンジを何とか剥がしながら由比ヶ浜のケーキを飲み込んだ。
「由比ヶ浜」
「は、はい!!」
「すっげえ美味い」
「……へ?」
「いや、美味いよ。このケーキ」
159:
俺はもう一口食べようとケーキにフォークを突き立てる。
さっきは見えなかったけど、切り口からはケーキの中が見えた。
「これって何の果物だ?」
「ダークチェリー!…その、甘くなり過ぎないように……」
なるほど、ダークチェリーの渋みで甘すぎないようにしているのか。
レシピだと普通のスポンジケーキだった。
けど由比ヶ浜は俺に気を遣ってチェリーを入れて調整してくれていた。
それが嬉しかった。それだけで幸せだった。
一口、二口と彼女のケーキを食べる。
決して料理が上手ではない、彼女の手作りケーキ。
彼女はどれだけ失敗したのだろうか。
どれだけ努力したのだろうか。
どれだけ泣きそうに、挫けそうになったのだろうか。
分からない。分からないけど、このケーキには彼女の気持ちが籠っていた。
160:
「めちゃくちゃ美味いわ。ありがとな」
「……よ、よかった??」
彼女は心底、安心したのだろう。
両手を胸にやり、今まで張りつめていた空気をため息と言う形で外に吐き出した。
「ってかもう食ったから片付けていいか?残りは家でゆっくり食いたい」
「え?あ、うん」
由比ヶ浜の許しを得てケーキを箱に仕舞う。
「ね、ヒッキー」
「なんだ?」
まだケーキを納めてる最中だから由比ヶ浜の方を見れない。
「私ね、料理作るの苦手なの」
知ってるよ。何てったってクッキーの種から木炭を作るくらいだしな。
161:
「ゆきのんに教えて貰いながらだったけど全然駄目だったの。
 まずブラックチェリーが入ってる缶は切れないし、スポンジ生地はダマができるし、
 あとは…生クリームは緩かったり、分離しちゃったりするし、
 バニラエッセンスや…砂糖は分量が分からない、し
 クリームも…ヒック…均等にぬれないし」
途中から彼女の声が涙混じりのものになる。
俺は納め終ったケーキの箱をじっと見つめていた。
彼女の方を見る勇気が出なかった。
「なんどもね…グス…ゆきのんに怒られながらね?
 あきれられながらもね?
 何回も練習したんだよ?」
「……ああ」
それ以上、俺は何も言えなかった。
162:
「私……頑張ったかな?」
俺は立ち上がって彼女と向き合う。
「ああ、お前は頑張ったよ」
「ヒッキーの男心、ちょっとは揺れてくれた?」
「ああ、揺れまくりだね」
163:
「……ヒッキー、初めて会ったのは入学初日だったよね」
「あ?ああ、つっても俺には記憶がないけどな」
「ヒッキーは勘違いだって、同情だって言ったけれど。そんなことあたしは思ってない」
「……ああ」
「あたしはあの時、なんてこの人は優しいんだろうって思ったの」
「……お前とは認識してないけどな」
「だからだよ!あたしだって思いながら助けてたら下心かもって思っちゃうけど……
 けどヒッキーは違った!
 全然知らない、あたしのために、サブレのために体を張って助けてくれた!
 だからだよ!だから
 あー、なんて優しいんだろって思ったの」
優しいだなんて小町以外から言われたことあったっけ。
164:
「それからはずっとヒッキーのこと気になってた。
 1年の時はクラスが違ったからすれ違う程度だったけど、いつもヒッキーのこと見てた」
やべ、鼻ほじったりしてなかったかな。
「ずっとお礼を言いたくて、けど言い出せなくて……
 それで気が付いたら2年になってて、けど全然喋れなくて」
まあ俺と喋る奴なんていなかったしな。
「だから奉仕部に相談に行ったときはチャンスだって思ったの。
 だってヒッキー、教室じゃ喋らないのに、ゆきのんとは普通におしゃべりしてたから」
そういや雪ノ下とは普通に喋れたな。
なんでだろ、お互いボッチだったからか?
二人しかいなくて喋らざるを得なかったからか?
165:
「だからあたしも奉仕部に入って、ヒッキーと喋るようになって…
 それからは毎日が楽しかった。毎日、学校に行くのが楽しみになったの」
そっか、俺でも誰かのためになることあるんだな。
「それでもっとヒッキーのことを知りたいと思ったの」
知ってどうする。失望するだけだろ。
「それでヒッキーのこと知って、もっといい人だって、優しい人だって思った」
恋は盲目。お前が見てきたのは俺の幻影であって俺じゃない。
「それでヒッキーのこと嫌いになった」
ほら見ろ。俺なんて所詮そんなもんなんだよ。
167:
「ヒッキーはどうしていつも自分を下に見るの?なんで自分ばっかり犠牲にするの?」
「別に……自己犠牲なんて貴いもんじゃねえよ。単に俺がそうしたかっただけだ」
「…ヒッキーなんて大嫌い……」
「へ、そうかよ」
よかった。嫌われてる方がよっぽどましだ。
いらぬ衝突もないんだから。
「あたしの大好きな人を大切にしない人なんて大っ嫌い…
 あたしが好きな人を傷つける人は許せない。
 たとえそれがヒッキー本人だったとしても」
やめろ、そんな言い回しされたらまた勘違いしてしまう。
168:
「ヒッキー、あたしは…あたしはヒッキーのこと大好き。
 誰も気付かないかもしれないけれどあたしは知ってる!
 ヒッキーがすっごく優しい人だって!頼られたらいやだって言えない人だって!
 自分のことが本当は大嫌いなんだって!」
は?そんなことねえよ。
俺は自分のことが大好きだね。
ボッチで友達がいないところも孤高でかっこいいし
理数系科目できないのも答えは1つじゃないって悟ってるみたいだし
希望を持たないのもリアリストでクールだし
濁った目も世界を見下してるみたいで偉そうだし
斜に構えたスタイルもアウトファイターみたいでカウンターが怖い。
ほら見ろ、俺には自分で誇れる点がいっぱいあるんだ。
だから俺が自分のこと嫌いだなんてあるはずない。
170:
「だから! だからその分あたしが愛してあげる!
 いっぱいいっぱいヒッキーのこと愛してあげる!!
 自分のことが嫌いになったらあたしが好きだって言ってあげる!
 自分のことを信じられなくなったらあたしが信じてあげる!
 自分のことがいらないって思ったらあたしが傍にいる!
 だからヒッキー!
 …グス……あたしと付き合ってください!」
付き合うということは別れがあるということ
愛すると言うことは期待すること
期待は裏切りに変わり
望みは失望に変わり
やがて自分を傷つける。
ならばいっそ
171:
「おう、俺で良ければ」
「………………………………へ?」
「いや、だから。俺で良かったら是非お付き合いさせてくださいってことだ」
「……いいの?」
「俺は付き合いたいと思ったんだが。
 お前がそうじゃないならまたいつも通り片思いで終わりだな」
「へ!?う、ううん。そんなことない!あたしだって付き合いたい!」
「そうか。な、なら俺と付き合ってくれるか?」
172:
「うん!け、けどよかったの?あたしなんかで」
「なんかじゃねえよ。お前だから付き合いたいと思ったんだ」
「そ、そか……けどヒッキー、別にあたしのこと意識してなかったし…」
「はぁ?お前なに見てたんだよ。意識?しまくりだったつうの。
 ってかあんだけアピールされて意識するなってほうが無理あんだろ」
「そ、そか……あー!そう言われたら急に恥ずかしくなってきた!」
いや、結構恥ずかしいことしてましたよ?
「じゃ、じゃあ…ヒッキーはあたしのこと…スキ?」
「……ああ、好きだ」
173:
どうやら俺はこのお馬鹿な子の策略にまんまと嵌められてたらしい。
俺は由比ヶ浜結衣が好きだ。
気付けば、認めればなんて簡単なことなんだろう。
だから俺は彼女の気持ちが同情だと、憐みだと思ってイライラしたんだ。
本当は、あの時から彼女のことが気になっていたのかも知れない。
「ぅ゛???!!恥ずかしい??!!!」
大丈夫だ、俺の方が恥ずかしい自信がある。
「と、いうわけだ。これからよろしくな。由比ヶ浜」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!!」
何かを手に入れれば失う痛みが伴う。
けどそんなこと言ってたら何も手に入れられない。
それに俺は由比ヶ浜由比ヶ浜に惚れてしまってる。今さらなかったことにはできそうもない。
俺自身、彼女のことを望んでいる。
ならどうするか。
決まってる。無くさないように頑張るんだ。それしかない。
174:
その後は少しばかり由比ヶ浜と話をして解散した。
時間も時間だったしな。
俺は叫び出したいほどの喜びを噛み締めながら、自転車を漕いで家に帰った。
「ただいま」
「おっかえり?!!」
いつもはカマクラが「だれ?」って感じで侵入者の偵察に来るだけなのに、
今日に限っては小町が飛んできた。
「おう、ただいま」
「んでお兄ちゃん!!小町になんか報告することあるんじゃない?」
ニヤニヤしながら小町が聞いてくる。
とりあえず靴を脱いで玄関に上がる。
175:
「報告することなんか……ちょっと待て。もしかしてお前…」
そうだ、こいつはなんて言っていた?
『小町に任せて!お兄ちゃん』
『お兄ちゃん、頑張ってね!』
「お?やっと気付いた?そうだよ?。
 小町が結衣さんに教えたんだよ?
 『今年のお兄ちゃんは誰からもチョコもらえなくて寂しがってますよ?』って」
「そうかよ!お前が差し金かよ!」
「差し金だなんてひどい!それにチョコあげるって決めたのは結衣さん自身なんだから」
「まあ貰ったのはチョコじゃなかったけどな」
そういって俺は由比ヶ浜からもらったケーキの箱を小町に渡す。
177:
「ほえ?」
「開けてみろよ」
俺の言葉を受けて小町が箱を開ける。
「うわ??!!!ケーキだ!ケーキだよ!!結衣さん気合い入れすぎ!」
そう言って小町がケーキの上のチョコクリームをなぞって口にパクり。
おい、下品だからやめなさい。
「ケーキだけじゃないぞ」
「へ?他にもなんかもらったの?」
「聞いて驚け。  彼女ができた」
小町の目が点になり、あんぐりと口を開ける。
うわ?このバカ面写真に撮りて?
「……お、」
「お?」
178:
「お母さ???ん!!!!!」
小町が2階へと上がっていく。
いや、お母さんまだ仕事行ったままですよ。
小町をびっくりさせることができてこれで由比ヶ浜と付き合った目的の8割が達成されたな。
あと2割は……内緒だ馬鹿野郎。
その日の小町は興奮が冷めやらぬようで、終始俺と由比ヶ浜のことを聞いてきた。
と言っても付き合ったばっかだから特に何もないんだけど。
けどお年頃なのか小町は興味津々のようだった。
まあ小町にはまだ早いな。あと10年は。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
185:
翌日、今日も今日とて学校に行く。
何だよゆとり世代って。ゆとるなら隔日とか午後から登校にしてくれよ。
教室に入るとすでに由比ヶ浜が教室にいた。
彼女も俺の存在に気づき、胸の前で小さく手を振る。
俺も小さく頷いて返事する。
彼女は特に友達には報告していないらしい。
まあそうだろうな。クラスのボッチと付き合ってるなんて格好のネタだ。
彼女が言ってないのなら俺も公開しないでおこう。
ま、誰にも聞かれねえんだけどな。
186:
そういうわけで特に付き合う前と変わらず、
優等生らしく静かに授業を寝て過ごし、昼休みも別々に食事して、また授業で寝てたら放課後となった。
今日も奉仕部の部室に向かう。
そういや昨日、雪ノ下と言い合いをしちまったな。
少し緊張しながら部室の扉を開く。
「…おう」
「あら比企谷くん、今日も来ないでと思ってたわ」
うぃあーざーわー。いや、もういいよ。
「すいませんね、部活か死を選ばされてるもので」
「そう」
彼女はそれだけ言って読書に戻っていった。
まあ喧嘩したわけじゃねえから仲直りとかすんのも変だしいいか。
187:
俺も文庫本を取り出して読書することにする。
そういや由比ヶ浜は来るんだろうか。なんかソワソワすんな。
文章が頭に入って来ず、目の前を文字がツルツル滑るだけの読書をしていると、由比ヶ浜がやってきた。
「や、やっはろー」
「お、おう」
昨日、彼女と別れてから初めての会話。ちょっと緊張しちまった。
「ほ、ほら!ヒッキー立って!」
「え?え?」
そう言って無理矢理俺の腕を引っ張って立たせる由比ヶ浜。
え?椅子に座るのも許されないの?
付き合ったら彼女の尻に敷かれないとだめなの?
俺がイスになれってこと?
188:
「ゆ、ゆきのん!」
「なにかしら」
「あ、あたし達!つ、つつ付き合うことになったの!」
「………」
うわ?このバカ面写真に撮りて?
小町ほどじゃなけど、雪ノ下もいつも以上に表情をなくしていた。
「ゆ、ゆきのん?」
「……え!?あ、ああ、そう。少し驚いてしまったわ。
 そう、二人がね。由比ヶ浜さん、おめでとう」
そう言って俺には絶対向けられることはないだろう、柔らかな笑顔を浮かべる雪ノ下。
189:
「あの?俺にも祝福の言葉を」
「比企谷くん」
「はい」
「由比ヶ浜さんを泣かせたら……どうなるか分かってるわよね?」
そう言って由比ヶ浜には絶対向けられることはないだろう、レイプ目のような生気を感じさせない目で俺を見る雪ノ下。
「は、はい!誠心誠意、頑張る所存でありまする!」
やっべ?こえぇよ雪ノ下さん。ちょっと漏らしたかも。
「そう、ならいいわ」
そう言って雪ノ下は読書にまた戻っていった。
なら俺達も通常業務に戻るか。
190:
「座ってもいい?」
「え?うん、別にいいけど」
よし、由比ヶ浜にも了解をとった事だし座るか。
よかった、人間椅子に任ぜられなくて。
由比ヶ浜もいつもの定位置、雪ノ下の隣に腰掛ける。
彼氏<雪ノ下
そ、そんなことないよね?習慣だよね?
「ねえねえゆきのん!」
彼女は構ってほしがる犬のように雪ノ下のブレザーを袖をチョンチョンと引っ張る。
「なにかしら」
「ヒッキ?たらね!昨日私にね」
「あーーーーーー!!!」
精一杯の声を出して由比ヶ浜の声を遮断する。
「比企谷くん。お昼に薬はちゃんと飲んだのかしら」
病気じゃねえよ。
191:
「ちょっとヒッキーうるさい!」
「お前!雪ノ下に何言おうとしてんだよ!」
「え?昨日ヒッキーがあたしにしてくれた告白を」
「ぬぉあああーーー!なんでそんな恥ずかしいことバラそうとしてんだよ!」
「え?恥ずかしくないよ。あたしうれしかったもん」
「俺!俺が恥ずかしいの!」
「え?そんなことないよ!昨日のヒッキーすっごくかっこよかったもん!」
え?まじで?いやー?彼女から格好いいとか言われたら嬉しいな?
「ってそういうことじゃねえよ!とりあえずそんなこと暴露されたら俺は恥ずかしいの!」
「え??」
「とりあえず!他人にそういうこと言うもんじゃありません」
「ぶー」
由比ヶ浜は不満そうだがこればっかりは譲れない。
俺が告白したことを他人にバラされるなんて恥ずかしいことこの上ない。
192:
「こほん。二人が仲良しなのはいいことだけれど、できれば二人きりのときだけにしてくれないかしら?
 見てるこちらが恥ずかしくなるわ」
「う…すまん」
「そ!そんなんじゃないよ!ヒッキーが昨日はかっこよかったんだよってことをゆきのんに言いたかっただけなんだから!」
「だから、そういうのが恥ずかしいと言っているの。惚気話なんて犬も食わないわよ。
 けど比企谷くん。これであなたの自己変革は成功したわけだから、私の一勝ということよね」
「はあ?馬鹿言うな。俺は何も変わっちゃいねえよ」
「彼女ができたじゃない」
「彼女がいても友達いなきゃボッチはボッチだろ。
 それに俺は主夫希望を諦めてない。その夢を由比ヶ浜に託しただけだ」
如何に俺の信念が固いかを自信満々に雪ノ下に伝えると、彼女はこめかみのあたりに手をやる。
バファリンいる?
193:
「はあ……本当にあなたは」
「だいじょうぶ!ゆきのん、ヒッキーはあたしが幸せにするから!」
え?もうプロポーズ?
「由比ヶ浜さん、幸せにしてもらうのはあなたよ。頑張ってこのクズ……ゴミを更生させないと」
その言い直し、何か意味あった?
あ、クズよりゴミの方がソフトだよね、言った人としては。
じゃあ雪ノ下の体裁を気にしただけじゃん。
「だいじょうぶ、ヒッキーはやるときにはやる男だから!ね?」
「え?お、おう。俺はやれと言われれば文句を心の中で言いながらも唯々諾々と従う社畜魂を秘めた男だ」
194:
「そんなんじゃないのに……けど、今度からは自分を犠牲にして他人を助けるのはナシだからね」
え??伝家の宝刀取り上げられたら、俺丸腰なんですけど。
「そうね、誰かを助けるために自分を犠牲にするのは奉仕の域を超えているわね」
「そういうこと!あたしが泣いたらゆきのんがヒッキーを怒るから、あたしが泣くようなこと、もうしちゃダメだよ?」
「う……わかったよ」
まあ雪ノ下に怒られるのも嫌だし、由比ヶ浜に泣かれるのも寝覚めが悪い。
今度からは他人を犠牲にして自分が甘い汁を吸えるように賢く生きよう。
「着々と比企谷くんの更生が進んでいるわね」
「ゆきのんのおかげだよ」
なんかペットに躾してる会話みたい。
ふ、俺の中には誰にも飼えやしない、一匹狼の血が流れているのにな(キリッ
195:
「あ、そうそう。ヒッキーがさっき止めたから言えなかったけど。
 ゆきのん、あたしにケーキの作り方教えてくれてありがと。
 ヒッキーも美味しいって言ってくれたよ?」
「あのケーキめちゃくちゃうまかったぞ。
 それにしてもよく由比ヶ浜に料理を教えられたな」
「……ふ」
俺の言葉に雪ノ下が酸いも甘い噛み分けてきた場末のスナックのママのように寂しげに笑った。
「ええ、大変だったわ。まず缶切りが使えない。
 最近の若い子は缶切りを使ったことがないという噂は聞いたことがあったけど、本当にいるなんて…。
 だからまずは缶切りの練習からよ。それを教えるのにどれだけ時間がかかったか。
 他にも卵の殻をことごとく入れるのよ?確かに卵の殻にはカルシウムが豊富だけれど別に殻からとらなくてもいいじゃない」
その後も、珍しく雪ノ下の口は滑らかに動き、延々と如何に由比ヶ浜に料理を教えるのに苦労したのかを滔々と切々と説明された。
あの美味いケーキの裏側にはそんなドラマが隠されていたんだな。
他人の不幸は蜜の味。
俺は雪ノ下の不幸の蜜をいただいていたらしい。
196:
その後も雪ノ下の愚痴を聞き、落ち着いたところで午後のティーブレイクをしていたら下校のチャイムが鳴った。
皆で片づけて部室の外へ。
「では私は鍵を返してくるわね」
「じゃあね、ゆきのん。また明日?!」
「ええ」
ブンブン手を振る由比ヶ浜に、控えめに手を振って雪ノ下は廊下を歩いて行った。
「?今日は一緒に帰らないのか?」
「もう!ヒッキーの馬鹿!鈍感!今日からあたし達が一緒に帰るの!」
「お、おう」
え?付き合ったら一緒に帰らないとダメなの?
ボッチだったし誰も教えてくれなかったよ?
197:
「ほら、じゃあ行こう」
そう言って自然に腕を組むビッチ…いや、彼女にビッチはひどいな。
けど自然とそんなことされたら、そういうことを前にもしてたんじゃないかと考えてしまう。
それが俺の中のちっぽけな独占欲を掻き立てた。
俺も誰かに執着することってあるんだな。
廊下をとことこと歩いていると、向かいから白衣を着た美人(外装のみ)が歩いてきた。
「お?今帰りか。気を付けてな……どうした?肩でも脱臼したのか?」
「先生。先生は知らないでしょうが、これは世間一般で言う『腕を組む』というやつですよ」
俺の言葉を聞いて先生がさっと空いていた右腕を極めてきた。
「いたたたたた!!」
「言葉を慎め比企谷。私だってそのくらい経験はあるんだ」
やめて?そんな低い声で囁かないで!?チビリそう。
198:
「せ、先生!ヒッキーが痛がっているのでやめてあげてください!」
「お、おう。いや、別に私も本気ではないが…ではなぜこんな校舎の廊下で腕を組んでいるんだ?」
「あ、先生も奉仕部の顧問だから一応報告しておきます。
 あたしとヒッキーは付き合うことになりました」
あ、馬鹿。TPOを弁えなさい。
「う……」
先生の顔を見ると涙が両目の縁に溜まっていた。
マスカラ滲みますよ?
「うわわわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
泣き声とも、慟哭とも取れそうな声を上げて先生が走り去っていく。
「先生、どうしたんだろ?」
「さ、さあな」
誰か本当に貰ってあげて!!じゃないと俺が追い掛けて慰めたくなっちゃうから!
199:
先生とのエンカウントをやり過ごすと、そのまま自転車置き場まで。
「あれ?っていうかお前ってチャリ通学なの?」
「え!?ヒッキーそんなことも知らないの!?」
知らねえよ。全校生徒の通学手段をメモるとか変態の極みじゃねえか。
「あたしはバス通学だよ」
「あ?じゃあバス停まで一緒か」
「え?家まで送ってよ」
「俺もバス乗るの?いやいや、無理ですから」
「ちーがーうー!これで」
そう言って由比ヶ浜がベシベシ俺のチャリのサドルを叩く。
200:
「2ケツってことか?道交法違反じゃねえか」
「まあまあ固いこと言わずにさ?」
そう言って荷台部分に由比ヶ浜が横乗りする。
マジかよ………俺が漕ぐのか。
「じゃあ行くぞ?」
「ごーごー!」
馬鹿そうな、楽しそうな声を上げる由比ヶ浜を乗せて自転車を漕ぎ出す。
俺と由比ヶ浜の家は駅2つ分しか離れてないしな。別にそれほど苦労でもない。
小町に比べるとやはり重く感じる。これで「重いな」とか言わない辺り俺は出来る男だ。
ってか制服着て2ケツとか青春って感じだな。
最も俺が馬鹿にして、軽蔑していた行為だ。
まあ、単なる僻みとも言う。
201:
「ねえヒッキー」
「あ?なんだ?」
「……明日から一緒に登校しよっか」
「え?そりゃ無理だ」
「即答!?なんでし!」
「え?だって小町を中学まで送っていかなきゃならん時もあるからな」
「…え?シスコンじゃん」
「シスコンで何が悪い」
「開き直った!!」
ってか俺の背中に2つのマウントユイがちょこちょこ当たって気が気じゃない。
もうちょっと慎みを持ってみてはいかがでしょうか。
202:
そんなどうでもいいような会話をしながら、たまに背中に当たる柔らかにゅう素材に気を取られながら、
自転車を漕いでると由比ヶ浜の家に到着した。
「ほらお前ん家、ここらへんだったろ」
自転車を停めたのは、以前花火大会で由比ヶ浜と別れた場所。
「あ、うん。運転ご苦労さま」
「そう思うなら今度からはお前が漕いでくれ」
「えーーやだよ。それじゃまた明日ね」
「ああ」
「バイバイ」
雪ノ下の時とは違って、少し照れくさそうに胸の前で手を振る由比ヶ浜。
俺もそれに応えて軽く手を上げて自転車を自宅に向けて走らせた。
あ゛?????ってか付き合うって何したらいいの?
俺ボッチだしよく分かんないんだけど。
学校で会って、ちょっと喋って一緒に帰ったらそれだけでいいの?
八幡、よく分かんない。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
211:
バレンタインから2日後、木曜日は特に言及することもなく終わった。
学校に行って部活に行って由比ヶ浜と帰っただけ。
クラスでは相変わらずボッチ(たまに妖精トヅカが囁いてくる)だし、
部活も相談者が来なかったから読書して終わりだし、
帰るのが一人じゃなく由比ヶ浜と一緒になっただけ。
付き合っても特に変化はなく、つつがなく終わった。
そして今日、金曜日も特に何もなく終わろうかとしていた。
今日も今日とて由比ヶ浜を乗せて自転車は進む。
後ろのフカフカシートに背を預けそうになる誘惑を振り切って、何とか今日も目的地に到着。
「着いたぞー」
「あ、うん」
由比ヶ浜が荷台から降りる。
「じゃあまた学校でな」
「え、あ…ちょっと待って!」
213:
「なんだ?」
「えーとね…ヒッキーって明日ヒマ?」
「いや、忙しい」
「あ…そうなんだ」
「撮り溜めてたアニメ見ないとなんないし、漫画も新刊買にいかなきゃならん」
「超ヒマじゃん!」
「え?忙しいっつうの」
「そ、そんなことよりデートしない?」
「そんなこととは何だ。俺にとっては学校よりも大事な仕事だぞ……デート?」
Date
日付け、または会う約束をすること。
214:
「明日……会うのか?」
「え、うん…ヒッキーがよかったら」
「お、おう。いいぞ」
「ほんと?」
「ああ、でも明日は何すんだ?撮り溜めてたアニメでも見るか?」
「見ないし!ん?何するかは後でメールしよ?」
「そうだな。急には決められん」
「じゃあ後でメールするから!」
「ああ」
そう言って由比ヶ浜は家の方へと走って言った。
ふむ、デートか。都市伝説が本当にあったとは。
ならネッシーでも見るためにピクニックに行くとかどうだろう。
とりあえずここにいても仕方ないので自転車を走らせて帰宅することにした。
215:
――――――――――――――――――――――――――――
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――――――――――――――
四角い箱で「デート」について調べる。
色々な情報が出て来るが今一ピンと来ない。
買い物だって二人で行く必要性がないし、ドライブだって免許ないし無理。
食事だってわざわざ高い金払ってまで食いたいとも思わん。
あとは観光だが千葉LOVEの俺にとっては今更感が半端ない。
あとは映画とかゲーセンとかカラオケとか……彼女として楽しいの?
こういう娯楽って一人で楽しめるし、何なら1人の方がより楽しめる。
駄目だ、根本的に俺には「誰かと何かする」という能力が欠如してるし知識もない。
ここは身近な奴に意見を聴いてみるか、俺一人じゃ考えられないし。
そう言うわけで自分の部屋を出て小町の部屋へ。
216:
扉をノックすると小町が出てきた。
「どうしたのお兄ちゃん。さっきご飯食べたでしょ?」
「ボケてねえよ。そんなことより相談があるんだけどよ」
「相談?あ、じゃあリビングの方に行こっか。ついでに休憩したいし」
というわけで小町とリビングに移動。
受験が目前に迫っているため、小町も必死に勉強していたらしい。
邪魔したお詫びにココアを入れてやり、ローテーブルに置いて相談に入る。
「相談ってのはデートについてだ」
「デート?あ、結衣さんと明日デートするんだ」
「おう。そうなんだけどよ、何したらいいのかさっぱりわからん」
「あ?お兄ちゃん、今まで一人でばっか遊んでたもんね」
「ほっとけ。んで、年も近いお前に聞きたいんだが、女はどういうことしたいんだ?」
「ん?なんだっていいと思うよ?」
「いや、何だってよくねえよ。もっと具体的に教えてくれ」
217:
「逆にお兄ちゃんは結衣さんとしたいことないの?」
逆にやりたいことがなさ過ぎてお兄ちゃんは困ってるんだよ。
「ない」
「あ?……結衣さんが不憫だ」
「だって今まで一人で何でもやって来たから急に二人でしろって言われても困んだよ。
 あ、キャッチボールとか?」
そういや壁当てしかしたことないしキャッチボールは俺の憧れの遊びナンバー4だ。
「結衣さん、女の子だしキャッチボールとか楽しくないと思う」
お前がしたいことを言えっつったんだろ。
「お兄ちゃんがしたくて、なおかつ結衣さんが楽しめそうなものってないの?」
「………………………………………………………………………………………………………………………」
「もういいよ!もう!お兄ちゃんは今度から二人で楽しめそうなことを勉強すること!
 とりあえず、今回は小町が一つ教えてあげます!それは……
 ドルドルドルドルドルドル」
「いや、ドラムロールいらねえよ」
218:
「じゃん!サブレちゃんと一緒にデート!」
「え?……いやいや、俺は由比ヶ浜とデートしますし。人間ですし。犬とデートはできないですし」
「もう、そんなことわかってるよ! そうじゃなくて、結衣さんとお兄ちゃんの出会いってサブレのおかげでしょ?」
「ああ、そういやそうだな」
「だから!サブレちゃんも連れて一緒にデートするの! 女の子はそういうのにキュンキュンするの!」
つまり験担ぎが好きってこと?
よし、なら今度から由比ヶ浜とのデートには赤ふんどししていこう。
「それで、サブレも一緒に行ける喫茶店に行ったりペットショップに行ったりするの!
 サブレがいたら気まずい雰囲気にもなりにくいし、一石二鳥だよ!」
ふむ、確かに小町の言うことは理に適ってる。
「それでいいかもな。なら由比ヶ浜に特に希望がなかったら伝えてみるわ」
219:
「うん。あ?小町、最近勉強頑張ってるし糖分とりたいな?
 ショートケーキとかモンブラン食べたい?あ、チーズケーキも!」
「……明日買ってくる」
「わーい!お兄ちゃん大好き❤」
「へいへい」
やばい、鼻の下が伸びまくる。
こいつは絶対、将来パパが5人や6人いることになるだろう。
というわけで、策士に三顧(3個とも言う)の礼を持って策を授けてもらい、小町も勉強に戻ったから俺も自室に引き籠る。
由比ヶ浜にメールで「明日何かしたいことあるか」と聞くと、
返事は「分かんない (´;ω;`)」だった。
いや、泣かなくてもいいよ。
220:
ならばと小町から授かった案を、さも俺が考えたかのように由比ヶ浜に提案する。
ふむ、他人を犠牲にして甘い汁を吸うとの自己変革は早くも結果を出しているな。
すると由比ヶ浜も、常日頃は散歩ぐらいしかしてあげられてないから賛成とのこと。
ふむ、ならば明日は犬っころと1日遊ぶか。
後は待ち合わせ場所と時間を決め、互に行きたい場所を探し合うということで業務連絡は終了した。
よし、明日は結構ハードそうだから早く寝るか!
……その前にペット同伴可能な店探さなきゃ。
やっぱり付き合うのって大変。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
221:
俺は自転車を漕いで由比ヶ浜の家を目指す。
昨日は緊張して眠れなかった…とかそんな純情丸出しエピソードはない。
快眠。危うく二度寝して寝過ごしかけた。
自転車を由比ヶ浜のマンションの駐輪場に止めてメールを入れる。
すると「今行く!」とのメールが程なくして帰ってきた。
ぼ??と待っているとサブレを連れた由比ヶ浜が出てきた。
上はダウンで下はショーパンにブーツ。
ってか女ってなんで寒いのに足出すんだろう。
「おう」
「あ、ごめん。待たせちゃった?」
「いやいや、すぐ出てきたじゃねえか。それよりお前、なんでブーツなんだよ」
「え?寒いから」
ならショーパンやめろ。
「いや、寒いとかこの際どうでもいい。今日はサブレと遊ぶんだろ?汚れちまうぞ」
222:
「え?今日は軽く散歩してお店チラチラ見るだけだと思ってたんだけど」
「え?俺てっきり、堤防とかで思いっきりフリスビーしたりボール投げたりするのかと思ってたわ」
「あ?でもサブレってダックスフンドだし。ボールくらいならいいけどフリスビーは無理かな」
「なんだ、じゃあちょっと散歩させたらいいのか?」
「う?ん……ヒッキーが構ってあげるならボール持ってこようか?」
どうしようかと足元にいるサブレを見ると、「構って!」と言わんばかしに尻尾をブンブン振っていた。
「よし、この動けるボッチにまかせろ。今日は1日構い倒してやる」
「わかった。あ、じゃあボールとってくるからサブレよろしく」
そう言って由比ヶ浜はサブレのリードを俺に渡してマンションに入っていった。
残された俺はサブレとしばし見つめ合う。
サブレは何が嬉しいのか俺の足の周りをグルグルしたり纏わりついたりしてる。
頭を撫でたりしてサブレを構っていたら由比ヶ浜が戻って来た。
「よし、じゃあ行こう!」
223:
「まずどうすんだ?」
「ん??とりあえずサブレ遊ばせるために公園いこっか」
というわけで歩いて行ける公園まで。
リードは引き続き俺が持ってる。
その道中でさえサブレは何が楽しいのか1撃で10人はヒットしそうなほど尻尾をブンブン無双してた。
もう歩いてるだけでこいつ満足してね?
「ほんとサブレってヒッキーになついてるよね?」
「あ?そういやそうだな」
「やっぱり助けてもらったこと覚えてるんだよ」
お犬様がそんなこと覚えてられるのか?まあ臭いとかで判別してるのかもしれん。
224:
そんなこんなで芝生が茂る公園にたどり着いた。
「よし、んじゃヒッキーはサブレと遊んであげて」
そういうと由比ヶ浜が俺にボールを手渡す。
「いや、別にいいけどよ。お前は何すんだよ」
「あたし?パズドラ」
え??別に犬好きだしいいけどよ。
結局サブレとのデートになっちゃってんじゃん。
まあ二人でボールなげても意味ないし、ここはサブレちゃんと思いっきりはしゃぐか。
「ふ、俺が動けるボッチということを証明してやろう」
「うん、見てるから」
おい、スマホをなぞるのやめなさい。
225:
と言うわけでとりあえずはサブレと戯れることに。
サブレはすでにボールがなくとも芝生を駆け巡って大変楽しそうだ。
俺いらなくね?
とりあえずサブレが一通り走り回ってこっちにやって来たから、ボールを見せて注意をひく。
「おいサブ坊。お前はこれを取って来るんだぞ」
そういうとサブレの純粋な目がこちらを凝視する。
犬とは目を合せても緊張しないんだな。
「ほれ!とってこい」
そう言ってボールを遠くの方に投げる。
するとサブレが一陣の風の様に走り出す!
226:
ボールとは逆の由比ヶ浜の方へ……
「きゃ!!サブレ!どうしたの?」
サブレはそのまま由比ヶ浜の胸へダイブ。
いや、そのボールは俺がいずれ取りに行くからお前はゴムボール取りに行けよ。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
233:
30分ほどサブレと遊んで由比ヶ浜が待つベンチの方へ。
「そろそろサブレも満足だろうし次行くか」
「うん、ってかヒッキーてすごいね」
まあな。俺は運動神経に関しては自信がある。
これで由比ヶ浜も俺を惚れ直したか?
まあ学生の内は運動出来る奴=モテルの方程式が成り立つからな。
「犬と遊んでるのにあんな濁った目のままなんて」
「………………………………」
ほっとけ。俺のこの目は生まれつきだ。
アニマルセラピー受けてんじゃねえんだから急に目がキラキラ輝いたりするか。
234:
「で、この後どうすんだ?メシか?」
「ヒッキーはお腹へった?」
「おう、超減った」
「ならご飯にしよっか」
というわけでペット同伴可能なレストランに向けて出発。
サブレも疲れたのか歩き方がヨタヨタしてる。
仕方ない。俺はヒョイとサブレを抱っこする。
「あ…」
隣りで由比ヶ浜がスマホ片手に声を漏らす。
え?抱っこしたかったの?代わりましょうか?
235:
「ほれ見ろ、そんな寒い格好してるからだ。ほら、カイロをやろう」
そう言ってサブレを差し出すが由比ヶ浜は受け取らない。
なんだ?
「……サブレよりヒッキーの方がいいな」
え?サブレ抱っこしてる俺を抱っこするの?
なにそれ、合体マシーンみたいで格好いい。
「俺は自分で歩くよ」
「そ、そうじゃなくて!!」
「あ?んじゃ何だよ」
「………手」
「テ?」
「ヒッキーと手を繋ぎたいの!!」
「…………」
236:
やばい、驚きすぎてやばい。
言葉がやばいくらい出てこないしやばい。
「だ、だって初デートで手を繋ぐくらい普通だって小町で言ってたもん!」
小町?うちの妹?
けどそれなら、小町「が」言っていた、になる。
んじゃあれか?釣り堀小町のこと?
お前も小町頼りかよ。
ああ、だからさっきから携帯ピコピコしてたのかよ。
「……ほれ」
俺はサブレを右腕だけで抱え、空いた左手を由比ヶ浜に差し出す。
ついついぶっきら棒になってしまった。
「……ん」
由比ヶ浜の右手が俺の手に触れる。
由比ヶ浜の手は柔らかくて、温かくて、小さくて、愛おしかった。
237:
二人とも緊張してしまったのか、無言のまま次の目的地に向かう。
手を繋ぐってだけで、こんなにも身近に感じるもんなんだな。
公園を出て10分ほど歩いたところにあるレストランに到着。
見た目はお洒落なログハウス。
テラスにはペット同伴の客専用の席がある。
店員がサブレを見て俺達をテラスの席に案内する。
ここで繋いでいた由比ヶ浜の手をパージ。
手が熱を手放して少し寒く感じる。
二人向かい合ってテーブルに着く。
238:
このレストランは至って普通のイタリアン。
だから俺は明太子とイカの和風パスタを、
由比ヶ浜はチキンとシメジのクリームパスタを、
そして二人で食べるようにジェノぺーゼピザを1枚頼むこととした。
「サブレのどうしよっか」
そう。ここはお犬様専用のメニューがある。
単にチキンやポークやビーフをボイルしたシンプルな物もあれば
犬が食べてもいいようなパスタやリゾット、他にはケーキなんかもある。
「せっかくだし、なんか珍しいのにしないか?」
「ん?じゃあこのサーモンのスープパスタってのにしてみる」
というわけで店員を呼んで以上をオーダー。
239:
店員が去っていくと、由比ヶ浜が話しかけてきた。
「そういやなんで今日はサブレも一緒なの?」
「あ??……俺と由比ヶ浜が会ったきっかけ、だから?」
多分、小町はそういう意味で言っていたはず。
「あ、じゃあサブレは二人のキューピットってことだ!」
キューピットとか。恥ずかしいしやめてくれ。
「じゃあヒッキーと付き合えたのはサブレのおかげだ。
 ありがと?サブレ?!」
そう言って由比ヶ浜がサブレをワシワシと撫でる。
俺もサブレには感謝すべきなんだろうな。
恥ずかしくて言えんが。
240:
「あ、そういやサブレと遊んで結構汚れちまったな。俺は手を洗いに行くけどお前も行くか?」
「あ、うん」
そういうわけで二人して御手洗いに行って、手を洗って戻ってきたらサブレが皿に顔を突っ込んでいた。
「あ、料理もう来てたんだ」
「そうみたいだな。ってかサブレめっちゃ食べてるんですけど」
「あ、気に入ってくれてよかった!じゃあ、あたし達も食べよっか」
「おう」
二人でいただきますしてさっそくパスタを食べる。
一口食べると、醤油の焦げた香ばしい味と、紫蘇とイカ、明太子がめちゃくちゃ合う。
さっき犬っころ相手に本気を出して空腹だったのもスパイスになってる。
「ヒッキー、そっちのパスタはどう?」
「おう、めちゃくちゃうまいぞ。そっちは?」
「うん、こっちも美味しいよ。あ、一口たべる?」
「おう、じゃあ皿を」
241:
「あ?ん」
取り替えましょうという考えはないのでしょうか。
「ん?ほら早く。手が疲れちゃう」
え?これって普通のこと?恥ずかしいとか思っちゃう俺が恥ずかしいの?
周りをキョロキョロ。よし、誰も見てない。
俺は意を決して口を開く。
「あ…あーん」
「はい、あ?ん」
由比ヶ浜がフォークに巻き取ったパスタを口に入れてくれる。
それをもごもご咀嚼する。
あ、レモンの味がする……ファースト(間接)キスがレモン味って本当だったんだ……
242:
「どう?」
「お、おう。うまい、と思う」
「だよね!チキンにかかってるコショウとレモンがいいカンジだよね」
俺のファーストキスはチキンの味……
パスタもピザも食べ終わり、食後の休憩中。
「ってか、あんなちょびっとでサブレ足りてんのか?」
「あ、うん。多分大丈夫だと思う」
「じゃあケーキとかクッキーはまた今度だな」
「え!?あ……うん///」
243:
「? この後はどうするんだ?」
「ん?サブレ連れていくならカフェかペットショップ?」
メシ食ったばっかでカフェはないだろ。
「ペットショップに行ってなんか欲しい物でもあんの?」
「ん?特には……けどおもちゃとか服とかあったら買うかも」
「ふむ、ならペットショップに行ってみるか」
「うん!」
なんてったってサブレ様は恋のキューピット様ですからね。
俺も何か献上の一つでもせねばならんのだろうか。
244:
というわけでちょっと離れたところにあるショッピングモールへと向かう。
サブレも休憩して食事をしたからか、さきほどまでの元気を取り戻していた。
ショッピングモールにつき、ペット同伴が許されているルートをたどってペットショップへ。
自動ドアを潜り抜けるとそこは楽園だった。
色んな種類の子猫や子犬がおり、他にもハムスターや兎なども飼われていた。
俺は動物が好きだから可愛い動物たちを見れて幸せだけど、動物からしたらどうなんだろうといつも心苦しくなる。
動物を飼うなんてのは人間のエゴだろうし、こんな狭いところで生活しなきゃならないってのもストレスだろう。
ペットだと自分で餌を探さなくてもいいというメリットはあるが、どうもこういうのは違う気がする。
まあそんなこと言っても仕方ない。「動物を解放しろ!」と俺が言った所で変わらないだろうし。
245:
サブレは他の動物の匂いがたくさんあるせいか興奮気味だった。
あっちに行っては匂いをクンクン、こっちに行っては匂いをクンクン。
可愛い女性の足元に行っては匂いをクンクン。
いいなあ、俺は来世はペットがいい。餌も心配ないし。
「こらサブレ!すいません?」
由比ヶ浜がうろちょろするサブレを捕まえて、匂いをかがれていた女性に謝る。
「とりあえず目的のペット用品見ねえ?」
「うん」
というわけで犬様関連商品が置かれているエリアへ。
そこには犬のリードから服からおもちゃから色々置かれていた。
246:
「あー!この服とか可愛い!」
そういって由比ヶ浜が手に取ったのはフードを被るとハムスター(リス?ムササビ?)になるものだった。
「いやいや、犬のままでいさせてやれよ」
「フードかぶっても犬は犬じゃん」
ん?こういうのは感性の違いなんだろうか。
フード被って違う動物っぽくするのはそのペットを否定しているようで俺は嫌いだ。
まあ飼い主がいいと言うのならいいのだろう。
「ヒッキーは何かいいと思うのあった?」
「俺?そうだな………」
サブレの方をじっと見る。するとサブレも舌を出しながら俺の方を見る。
あれ?これって通じ合ってる?恋?
つってもずっと飼ってるんだから必要最低限の物は揃ってるだろうし…
ならおもちゃだな。
247:
「なあ、ボールって今日の奴しかないのか?」
「え?うん。持ってるのはあれだけだよ」
そうか。なら
「これとかどうだ?」
俺が選んだのは、小さくてラグビーボールみたいに楕円形をしたボール。
素材は「ふにゃ」っというか「ぐにゃ」っというかまあ噛んだら病みつきになりそうな感じ。
「楕円形?」
「おう、不規則にとんだ方がサブレも面白いかもしれん」
というか普通にバウンドするだけなら簡単に取れるからな。
一度投げたら不規則に跳ねるボールと戯れてほしい。じゃないと肩の爆弾がやばい。
「うん、いいかも」
「お前はどうだ?」
サブレの目の前にボールを出してみる。
248:
サブレは鼻を近づけて匂いをクンクン。
気に入ったのか口を開けて
「おいおい、商品だからやめてくれ。でもまあ興味はありそうだな」
「じゃあそれにしよっか」
「おう」
その後は餌を見たり、シャンプーとかの消耗品も見て回った。
お犬様もおしゃれなんすね。
一通り見て回った結果、由比ヶ浜は服1着とシャンプーを。
俺はさっきのボールを購入した。
「早くそのボール使って遊んであげてね」
「おう、また構い倒してやるよ」
249:
サブレは小型犬だから疲れが心配だ。
店を出てからは再度、俺が抱っこすることとした。
はぁ??あったかい。
ペットの温かさは心が癒されるな。
このまま家に連れて帰りたい。
カマクラは自分が暖をとりたい時だけ近寄って来るから可愛げがない。
「とりあえず行けそうなこと全部行った感じだけど」
「そうだな。さすがにこれ以上サブレを連れ回すのも可哀想だし、今日はここまでにするか」
「うん」
というわけでサブレを抱っこしたまま由比ヶ浜の家まで歩いて行く。
サブレは遊び疲れて眠いのか、大きなあくびをする。
「ふふ。今日一杯遊べてよかったね、サブレ」
由比ヶ浜がサブレの頭を優しく撫でる。
彼女はその時、すごく優しげな表情をしていた。
250:
多分、妹とかいたらめちゃくちゃ可愛がりそうな雰囲気。馬鹿だけど。
「そういやお前って兄弟いないの?」
「うん、一人っ子だよ」
「そっか、じゃあサブレのお姉ちゃんだな」
「お姉ちゃん?」
「あん?妹なの?」
「ん??お姉さんの方がいいかな」
こんな他愛のない会話でも付き合ったばっかの頃って楽しいんだな。
サブレがいたおかげで、間がもたないということはなかった。
本当に策士の言った通りだったな。
まあ策士は策を弄するだけでいいよ。実践は俺がするから。
だからあいつにはデートなんて許さない。絶対にだ。
251:
トボトボと歩いていてもいずれは目的地にちゃんと着く。
由比ヶ浜のマンション下に到着して、サブレを由比ヶ浜に渡す。
「今日はお前もお疲れさん。サブレと一緒にゆっくり休んでくれ」
「うん、ちょっと歩き疲れちゃったかも」
お犬様がいるから車がないと移動手段に困るな。
それに手も繋ぎにくいし。
「じゃあ俺も帰るわ」
「うん、明日は?」
「ん?」
「明日、明日も日曜で休みだけど」
「おう、休みだな」
「……あたしは出来たら会いたいかな?…なんて」
おい、下向きながら言うな。なんか泣かせてるみたいで罪悪感が急上昇だ。
はあ……ケーキ6個必要じゃん。
252:
「わかった。じゃあ明日も会うか」
「うん!」
「で、なにすんの?」
「ん?今日疲れたから明日はゆっくりでいいかな」
「賛成」
「あ?でもでも、明日お父さんいるし」
オトーサン?そんなモンスターがいるダンジョンには行きたくない。
「じゃあ俺ん家でよくね?」
「え!?いいの?」
え!?駄目なの?
だってお前もう1回来てるし、それに自分ん家なら動かなくても済む。
「ああ、別に構わん」
「そ、そっか。な、なら!明日家で何するかはまた後で相談しよ」
「ああ」
出来たら俺が外出しなくてもいい方向でお願いします。
253:
そう言うわけで早くも夕日が沈み始めてきた中、由比ヶ浜と別れて俺は自転車を漕いで帰宅した。
家に帰ってカマクラに買ってきたおもちゃを見せる。
「おい、カマクラ。このボールは重心がずれるからランダムに転がるボールだ。
 これでお前も一人遊びが上手になるぞ」
そう言ってカマクラの目の前にボールを置く。
カマクラはボールをスンスンと匂いだ後、持って帰って来てたナイロン袋に頭から突進していった。
「……スーパーの袋でよかったじゃん」
俺が買ってきたボールは一度も転がされずおもちゃ箱の中に。
やっぱり猫は愛嬌が足らんな。
その点、犬は従順で愛嬌があって可愛い。
それは人も然り、だな。
254:
「あれ?お兄ちゃん帰って来てたんだ」
「おう、たった今な」
小町は俺を見て、周りを見て、冷蔵庫の中を見る。
「あれ?ケーキは?」
「あ……」
忘れてました。テヘペロ☆
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい❤」
「………行ってきまーす」
愛嬌あり過ぎるのも問題だな。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
279:
時刻は12時半過ぎ。
1時には由比ヶ浜が来る。
リビングでぼけ?っとしていると、家では普段だらけた格好をしている小町が外行の格好をしていた。
「あ?出かけんの?」
「これからお父さんたちとお買い物だよ」
あれ?俺は?家族からも爪弾きされるの?
確かにいつもは昼過ぎまで寝てる両親がパジャマじゃなくて洋服を着ていた。
「受験前なのにいいのかよ」
「たまには息抜きも必要なの」
終わってから抜けよ。
280:
「それよりお兄ちゃん、小町にそんなこと言っていいの?」
「なんでだよ」
「…お父さんたちがここにいると結衣さんと会っちゃうでしょ」
小町が小声で小粋に囁く。
あ?そういやそうだ。
何も考えずに誘ったけどこのままだと両親とのエンカウントという気まずいイベントが発生する。
「…そういうことか、すまん。気付かんかった」
「いいよ、お兄ちゃん。けど小町、昨日ケーキ食べたから今度は和菓子かな?」
「……月曜、学校帰りに買ってくる」
等価交換は世の理だ。ボッチといえども世界のルールには拘束される。
281:
「じゃあお兄ちゃん、行ってくるからね。戻ってくるのは晩御飯食べてからだから遅くなると思う」
「へいへい、分かったよ」
そう言って小町と、娘とのお出かけに浮かれる親父たちが出かけて行った。
由比ヶ浜が来るまであともう少し時間がある。
俺はソファーに寝っ転がってテレビを見ることとした。
携帯が鳴っている。
その音で目が覚めた。
携帯を見ると時刻は1時。着信は由比ヶ浜から。
慌てて玄関まで走り、覗き穴を見ると携帯をかけてる由比ヶ浜の姿があった。
俺は急いで玄関の扉を開ける。
「すまん寝てた」
「もう、てっきり時間まちがえちゃったと思ったじゃん」
「すまん」
282:
とりあえず由比ヶ浜を家に上げる。
今日も寒い中ショーパンとは尊敬を通り越して恐れを抱くレベル。
由比ヶ浜がキョロキョロと辺りを見回す。
「どうした?カマクラか?」
「違うし、そうじゃなくて…」
「ああ、家族ならいねえぞ」
「え!?」
「小町含め、皆でお買い物だそうだ」
「そ、そっか……」
283:
そういや、俺だって由比ヶ浜の両親に会いたくなくてこいつの家を断ったんだったな。
思いやりとか配慮が足らんかった、反省だ。
「すまん、前もって言っとくべきだったな」
「う、ううん。別にいいよ」
とりあえず玄関先で話し込んでも仕方ないから階段を上ってリビングへ。
「んで、何か飲み物作るけど、由比ヶ浜は?牛乳?」
「え!?牛乳嫌い!」
牛乳嫌いなのにその胸は何なんだよ。
「じゃあ何がいいんだよ」
「ん?…ココア!」
牛乳じゃん。
そういうわけで由比ヶ浜にはココアを、俺にはコーヒー(練乳はちみつ入り)を。
284:
出来た飲み物をテーブルに置いて、とりあえず俺もソファーに腰掛ける。
「んで、今日何すんの?」
「ん?結局昨日決められなかったしね」
「ってか付き合ってる奴らって何してんの?将棋?」
「将棋とか聞いたことないし。小町で聞いてみる?」
「なんでお前は小町頼りなんだよ。何かやりたいことねえの?」
「ん??……ヒッキーの部屋見たい」
「え、やだよ」
「え!?」
「だって秘密の花園だぞ」
「秘密って……こ、恋人同士なんだし別にいいじゃん!」
「親しき仲にも礼儀ありって言うだろ」
「お願いします」
「お願いしたらいいってもんじゃねえよ」
293:
「じゃあどうしたらいいの!」
まあ別に見られて困る物もないし汚くもないからいいか。
「分かったよ、じゃあとりあえず行くか」
「うん!」
由比ヶ浜がコップを持って立ち上がる。
やばい、俺の部屋に留まる気だ。
俺も一応コップを持って由比ヶ浜を先導する。
自室の扉を開けて由比ヶ浜を招き入れる。
「ほれ、ここが俺の部屋」
「お邪魔しまーす…」
由比ヶ浜が俺の部屋に入ってキョロキョロと見渡す。
「へ?男の子の部屋って汚いと思ってた」
「男は綺麗好きか汚いかが両極端だからな。その点、結構女の方が部屋は汚いらしいぞ」
不動産屋とかだと女の方が部屋を汚すから貸すのを嫌がることもあるらしい。
ソースがネットだから信憑性はないが。
286:
「うわ?リビングも本ばっかだったけど、ヒッキーの部屋にもいっぱいじゃん」
「そりゃそうだろ。たまに読みたくなる一軍はこっちに置いてあるからな。
 置けない2軍がリビング送りにされてるだけだ」
「あたしは部屋に本ないけど」
「学生なんだし本くらい読めよ」
「本読まなくたって立派な大人になれるよ!」
「まあそうだけどよ」
本ほど面白い娯楽もないと思うけど。
小説はその世界感に浸れるし、学問書も先達の財産の上澄みを得られる。
全部自分で体験しなきゃなんないなんて大変すぎて無理。
本読んでわかったふりしてる程度が丁度いい。
「じゃあお前は部屋で一体なにやってんだよ」
「え?優美子とかとラインしたりスマホでゲームしたりネットしたり」
うわー、現代人がいる。
287:
「ほれ、部屋も見たことだしリビングに戻るぞ」
「え??こっちでいいじゃん」
「こっちにはテレビもないしエアコン点けてなかったし寒いだろ」
「けどあたしはこっちの方がいいかな」
他人の生活感あるリビングってのは落ち着かんのかもしれんな。
俺はエアコンを点けて、リビングに戻ってテレビやエアコンを消す。
ついでにお菓子を持って自室に戻って来た。
「あ、ありがと」
「おう、ってかさとりあえず座ったら?」
「え、うん」
フローリングに敷かれたラグに乗り、デスクチェアをチラリと見て、
そして由比ヶ浜が腰を下ろした。ベッドに。
288:
「……なんでベッドなんだよ」
「え?だって椅子はヒッキーが使うかと思って」
ベッドとか寝るときに悶々としちまうだろ。いや、今もするけど。
俺は残された椅子に腰かけて……ぎゅー
いや、彼女いるときまで「くぎゅーーー!!!!!!!」とか言わないよ?
音が鳴った方を見る。と、由比ヶ浜がお腹を抑えて赤くなっていた。
「昼メシ食ってねえの?」
「う、うん」
「そういや俺も食ってなかったな。何か食うか?」
「うん、とりあえずお昼にしよっか」
289:
だが残念なことにボッチの俺は女が喜びそうな店など知らん。
「じゃあ何食いに行くんだ?」
「え?今日は家でのんびりがテーマじゃん。出ちゃダメだし」
え!?もはやサバイバル。
千葉県で遭難とかマジ笑えない。
「じゃあどうすんだよ」
「ん?お菓子?」
俺が持ってきた菓子袋を見ながら言う。
「いやいや、菓子なんかじゃ腹ふくれねえだろ」
「なら自炊するとか」
お前は料理出来ないから「自」炊とか言うな。
290:
「はぁ…分かった。なら簡単な物を作ってそれを食うか」
「うん!」
部屋を出てさっき消したばかりのリビングのエアコンを点けて冷蔵庫を漁る。
中にはざっと見てベーコン、玉ねぎ、にんにく、牛乳、明太子がある
サイドチェストを覗くとホール缶トマトと鷹の爪が。
なら明太子クリームパスタか、にんにくを効かせたトマトパスタか、それともペペロンチーノか…………………………
「ってかなんでついて来てんだよ」
「え?なんか手伝えることないかなって」
ねえよ、猫どころかマリオネットの手を借りてもお前には借りねえよ。
「パスタになりそうだけどいいか?昨日もパスタだったけど」
「うん、問題なし!」
291:
「なら明太子かトマトソースかペペロンチーノかどれがいい?」
「ん?……明太子!」
「クリームは?ありなしどっちだ」
「ありのほうがいいかな」
「ほいよ」
というわけで電気ポットで湯を沸かしてる間に紫蘇を刻み、明太子の皮をとる。
俺が料理をしていると、由比ヶ浜が本棚に仕舞ってあるDVDを見つけ出してきた。
「ヒッキー、これってヒッキーの?」
「いや、DVDは母親か小町のだな」
「ねえね、食事しながら映画みよ?」
「別にいいぞ」
「やった!じゃあどれにしようかな?」
由比ヶ浜は何が楽しいのか鼻歌を口ずさみながら本棚を物色する。
297:
「お前って好きなジャンルとかあんの?」
「恋愛もの!」
マジか。人の、しかも作り物の恋愛見てどうすりゃいいんだよ。
ってか俺と由比ヶ浜は根本的に考え方や趣味が合わない。
これって恋人として重大欠陥な気がする。
「俺は恋愛もの好きじゃねえ」
「え?じゃあどうしよう」
あー…ここにきて八方美人ぶり発揮すんのか。
けど二人で見るんだし俺か由比ヶ浜がイエスマンになるのは何か違う。
298:
「俺はドキュメンタリーとか歴史物が好きだな。恋愛や戦争物は嫌いだ。由比ヶ浜は?」
「あたしは恋愛ものか……あとはコメディかな」
「コメディか、それなら俺でも見られそうだな。じゃあ面白そうなコメディをチョイスしてくれ」
「うん!」
二人であれやこれやと言い合いながら一本の映画を由比ヶ浜が選び出す。
付き合うってはこういうことなのかもしれん。
どちらか一方だけが我慢するのではなく、二人で二人の最適を探して模索していく。
衝突したら調整する。
二人が二人を思い合う。
中々骨が折れそうだけど、だからこそ一緒にいて幸せになれる。
なんてな、彼氏4日目の俺が偉そうに言えたことじゃない。
299:
由比ヶ浜は早くもTVの前のソファに座ってスタンバイ。
早すぎるわ。まだパスタも湯がいてねえよ。
湯が沸いたらパスタを投入して、
その間にフランスパンを切ってレタス、生ハムを挟んでサンドイッチにする。
あと1分で茹で上がる段階になって隣のコンロで生クリームと明太子のソースを作り、胡椒を振る。
パスタが茹で上がればそのままソースのフライパンに投入し、軽く馴染ませて終わり。
仕上げに刻み海苔と紫蘇をトッピングして盛り付けも終了。
「ほへ??ヒッキーって料理めちゃくちゃ上手なんだね」
別に上手くはない。単に面倒くさがりだから効率重視で簡単な料理を同時展開しただけだ。
出来上がった料理をテーブルに並べて、映画を流して食事を開始。
「頂きます」
「ありがと、ヒッキー。じゃああたしもいただきます!」
二人でいただきますをしてさっそく胃袋に投下していく。
300:
「ヒッキー!メチャクチャおいしいよ!」
「そりゃよかったな」
「これどうやって作ったの!?」
見てただろ。
「ソースは生クリームと辛子明太子混ぜて少し胡椒を振るだけだ。だからお前でも失敗せん」
「そんなに簡単なの?じゃあ今度あたしもやってみよ」
「いいか?振るのは胡椒だぞ。間違っても猛威じゃないぞ」
「モウイって?武将?」
武将?毛利のこと?
301:
「まあお前はいらんことせんかったら料理できるのはバレンタインで実証済みだからな。
 だからレシピや基本を大切にしろ。間違ってもオリジナリティとか出そうとするな」
「え??それじゃ誰が作っても同じじゃん」
「同じになるようにレシピがあんだろーが。料理家でもなんでもねえやつは平々凡々な料理を作ってればいいんだよ。それで十分美味いんだし」
「なるほど…料理家か…」
いや、なんでオリジナリティ守るために料理家目指してんだよ。
稀代の料理家、ユイ・ユイガハマが誕生するきっかけになるのかならんのかならんのだろう会話をしながら食事が進む。
由比ヶ浜がパスタとサンドイッチを美味しそうに頬張る。
うん、作った者としてはこんなに美味しそうに食べてくれるのなら作った甲斐があるってもんだ。
302:
見てるのか見てないのかよく分かんない感じで映画も進んでいく。
由比ヶ浜も俺も食べ終わり、食後の紅茶を飲みながら映画鑑賞が続く。
由比ヶ浜は一々笑ったり、涙ぐんだり忙しい奴だった。
映画一つでそんなに感情がコロコロ変わっちまったらさぞ大変だろうな。
結局俺は映画よりも由比ヶ浜を観賞してたらいつの間にかスタッフロールが流れていた。
「映画終わっちまったけどよ、この後どうすんだ?3時だぞ。寝るか?」
「ね、ねる!!?」
「昼寝するにはもってこいな時間だろ。エアコンであったかいし」
「あ、あはは、そうだね…ってダメだし!せっかく一緒にいるのに寝るとか禁止!」
「じゃあ何すんだよ」
303:
「ん?ヒッキーって休みの日は何してんの?」
「アニメ見るか本読むか寝るか」
「ヒッキーまじでヒッキーじゃん」
「外で楽しめるもんがあれば外にも行くがな。だが家の中が一番楽しい」
「けど今日はお家デートだし……一緒に読書とか?」
「俺は本好きだからいいけどよ。お前、本嫌いだろ」
「き、嫌いじゃないし!あたしだって読むよ!」
「例えば?」
「ポップティーンとか!」
「雑誌じゃねえか」
「雑誌も本でしょ!それよりヒッキーのおすすめ教えてよ!」
304:
まあやる気があるんだったらとやかく言う必要もない。
1軍が置いてある自室に行こうとすると由比ヶ浜も立ち上がった。
「俺の部屋で読むか?」
「うん」
というわけでリビングに再度お別れをして自室へ。
「本で好きなジャンルは?」
「恋愛!」
「ない」
「即答!?む?…なら難しくないのがいい」
難しいかはお前の匙加減じゃねえか。
まあけど言い回しがくどい文章とかは俺も好きじゃない。
305:
だから何てことのない日常の1風景を、シンプルな文章によって表現しているお気に入りの作家の本を数冊選び出す。
「俺が一番好きな作家の本だ。全米が泣いたり笑ったりするわけじゃねえけど、俺は好きだ」
「…ヒッキーが1番好きなの…うん!ならこれ読んでみる!」
そう言って由比ヶ浜はベッドに寝っ転がって読書を始めた。
おいおい、無防備通り越して暴力的だな。
まあここで「転がるな」とか言って、変に意識しちゃってるDTと思われるのも嫌だからスルーする。
俺も椅子に腰掛けて読みかけだった本を開く。
紅茶と、お菓子と、本。
なんて贅沢なんだ。
多分俺は今世界で10番目くらいには幸せだね。
ってかこんなんでいいの?彼女と一緒にいるのに喋らないとか。
306:
チラリと由比ヶ浜の方を見てみると、彼女は本当にころころ表情が変わる。
それだけでどんなシーンが描かれているのかが手に取るようにわかる。
こぼれそうなほどの笑顔、嫌な物を見て眉根を寄せる表情、理不尽な出来事に怒る彼女。
その自由奔放な、内から自然とあふれ出る感情を素直に表現できる彼女を俺は愛おしいと思った。
馬鹿とか単純とかじゃない。
これが由比ヶ浜結衣なのだ。
彼女も彼女なりに楽しそうなので俺も自分の読書に戻る。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
307:
気が付くと本の文字が見辛くなるほど日が沈んでいた。
集中して読書してると時間の流れを忘れる。
すっかり冷えてしまった紅茶を飲んで、電気を点けようかと立ち上がって所で座り直した。
俺のベッドで睡眠をとってやがる奴がいる。
電気を点けたら起こしてしまいそうだ。
いつから寝てたんだろうか。
彼女が開いているページを見るとそれほど進んではいなかった。
なら早々にリタイアした可能性が高い。
本によだれが垂れないように栞を挟んで回収する。
308:
起こすべきか放っておくべきか少しの間戸惑う。
由比ヶ浜の寝顔を何の気なしに見てみるとその肌の白さに目を惹かれた。
薄く化粧はしているがそれだって元地を整える程度だ。
ファンデーションは多分使っていないだろう。
続いて気合を入れたのだろうマスカラ、すこし色づいたチークを見る。
女ってのは大変だな。
けど、これだって俺に見せるためにしてくれたと思えれば嬉しい。
俺は彼女に触れてみたいと思った。
309:
寝ている隙にやるなんて卑怯者かもしれんが、誰も見てないんだし問題なし。
俺は彼女の髪に触れてみた。
ゴワゴワな俺の髪とは全く別質の手触りだった。
一房掴んでみてもスルスルと手の上を流れていく滑らかさ。
続いてほっぺを突いてみる。
別段太っていない彼女だが、もちもちとした触感だった。
髪も、頬も、手も、指も、足も、彼女は何から何まで俺とは違った。
同じ人間でありながら、男と女とでは全然違うらしい。
そんなことは知らなかった。
その事実に俺は少し怖くなった。
彼女の細さ、脆さゆえに壊してしまうのではないかと。
また、その事実がより一層彼女を愛おしく思わせた。
この人を守りたいと、柄にもないことを。
310:
髪を撫でながらデコに「肉」か「ビッチ」か、はたまた全然違う文字か…何を書こうかと考えていると
由比ヶ浜が目を覚ました。
俺は慌てて手を引っ込める。けど瞬間移動までは出来ず顔の距離は至近距離。
「よ、よう」
なんで挨拶してんの?俺。
「………あれ?ヒッキー?」
「おう、皆さんご存知ヒッキーとは俺のことだ」
あ、駄目だ。全然テンパってる。
「………っ!!」
由比ヶ浜が目を見開いて俺と距離を置く。
「か、勘違いするな!疚しいことは何一つしてない!」
「へ?あ?そ、そういうことじゃなくて!」
「へ?」
311:
「か、かお」
「顔?」
「…が近くにあったからびっくりしちゃって」
「あ、ああ。すまん」
「ね、寝顔…見た?」
「おう、ばっちり」
その言葉を聞いて由比ヶ浜の顔が真っ赤になる。
「う、う゛???恥ずかしいーー!!
 よだれとか出てなかった!? 変な顔してなかった!?」
「ああ、よだれも大丈夫だったし寝顔もかわい…」
なにさらっと可愛いとか言おうとしてんの、俺。
どこのヤリ○ンだよ。
312:
けど一度口に出した言葉はひっこめられない。
俺の言葉を聞いてますます由比ヶ浜は顔を真っ赤にする。
仕舞いにはベッドの掛け布団で顔を隠し始めた。
なにこれ、めちゃくちゃ可愛いんですけど。
「み、見てただけ?」
「へ?」
「寝顔見てただけ?」
俺は真実は言わんが嘘は吐かん。それが俺の譲れない信条だ。
「すまん、髪撫でたりほっぺた突いたりもした」
「…ほかには?」
「いや、そんだけだ」
マジックで落書きしようとしたのは思っただけで実行には移してないんだし嘘じゃない。
「…………すは?」
「へ?」
313:
「……キス、とかは?」
鱚【きす】
スズキ目キス科の海水魚。沿岸の砂泥底にすむ。全長約30センチ。体は細長く、前方は筒形、後方は側扁する。背側は淡黄灰色で、腹側は白い。
俺は紫蘇を挟んだ握りが一番好きだ。後は天ぷら。
けど、いきなり魚の話をするわけはなくて。
「…そんなことしてねえよ」
「…ヒッキーは、したく…ないの?」
その言葉で俺の視線が彼女の口元に吸い寄せられる。
グロスを塗って妖しげに光る唇から目線を外せなくなる。
314:
「…そういうのは段階踏んでくもんだろ。もっとデートして、手繋いだり、抱き締めあったり、色んなスッテプ踏んでか」
「あたしは…したいな、キス。ヒッキーと」
顔を伏せながらも素直な心情を吐露する彼女。
はあ………
もうダメ、ほんと俺ってダメダメ。こんなこと女の口から言わせるなんてマジでカス、ゴミ。
そんでもってもう駄目。もう我慢なんてできない。
俺だって彼女の唇を奪いたい。
315:
俺はなんとか言葉にしようとしたが、喉に突っかかって上手く吐き出すことができない。
俺は一歩、由比ヶ浜の方へと近づく。
      彼女は逃げない。
更にもう1歩。
      まだ逃げない。
俺もベッドの上に乗り、彼女の目線に合わせる。
彼女は俯いたままだったが、数回深呼吸をして、そして顔を上げた。
彼女の目は閉じられていた。
もう俺の目には彼女の唇しか映らない。
もう俺の欲求は止まらない。
彼女を全て俺のものにしたい。
俺は戸惑いながら、焦りながら、踠きながら、彼女の唇に自分の唇を近づける。
そして
彼女と一つになった。
316:
刹那と言うには長く、永遠とは到底言えない短いキスをして、俺は由比ヶ浜からそっと離れる。
なんだこれ。
口だぞ。
食べ物を流し込む入り口であり、言葉を発するための器官だぞ。
その器官と器官をくっつけるのなんて意味不明だ。
口にはそんな機能、予定にはないはずだろ。
こんなにも無意味で、無力で、無価値なことなのに
なのに俺はすごく今満たされている。
「…ヒッキー、泣いてるの?」
そう言う彼女は滴を瞳から零していた。
俺は自分の頬に手を当てる。
確かに涙にぬれていた。
ああ、泣いている。
俺は今確かに泣いている。嬉しくて。
317:
俺は今誰かに、由比ヶ浜に必要とされていることを実感した。
その事実が、彼女の気持ちが、俺を認めてくれた。
ここにいてもいいんだと、このままでもいいのだと。
今まで満たされなかった、満たそうともしなかった感情が溢れかえってくる。
ああ、そうだ。俺は自分のことが大嫌いだったんだ。
だからあんな自己犠牲染みたことを繰り返していたんだ。
だから他人にも興味を示さなかったんだ。
それを彼女が教えてくれた、分からせてくれた。
それと同時に、俺が必要だと言うことも。
その事実が、俺の胸に温かなものを与えてくれた。
もう駄目だ。
318:
この温かさは手放せない。
こんな優しさを知ったのなら、もう一人になんて戻れない。
失うことの怖さに恐れながら、癒してくれる温かさを望みながら、俺は再度彼女に口づけをする。
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
319:
今日も今日とて学校での激務を終える。
月曜の学校ってすげえ疲れる。
ポキポキ鳴らない肩を回しながら部室へと向かう。
扉を開けて部屋の主に挨拶。
「よう」
「ええ」
今日は罵詈雑言が飛んでこなかっただけマシだな。
いや、ってか挨拶に対して「ええ」っておかしくね?
なんで肯定なんだよ。返せよ、受け流すな。
320:
まあ俺と雪ノ下の関係もよく分からんからな。
一番適確な表現となれば「部長と部員」でしかない。
なら俺の「よう」の挨拶の方が間違ってることになる。
それを責めずに受け流して下さる雪ノ下さんってまじ天使。
よし、脳内会話も空しくなってきたし、今日も今日とて読書に励むか。
どうせ相談者なんか来ないんだし。
部長と部員が二人っきりの部屋で、二人とも読書をする。
やっぱり奉仕部じゃねえよ、ここ。
なんで基本待ちの姿勢なんだよ。求められて助けるのは奉仕なのか?ただのスケット団じゃん。
321:
俺がボッスンで雪ノ下はスイッチだな、などと考えていたらヒメコもやって来た。
「やっはろ?」
「ええ、こんにちは。由比ヶ浜さん」
ああ、俺以外にはちゃんと挨拶するんだ、スイッチ。
雪ノ下が紅茶を用意している間、由比ヶ浜が鞄から本を1冊取り出す。
それを見て雪ノ下が驚愕する。
「由比ヶ浜さん、あなた今日は早く帰りなさい」
「え?え?なんで!?なんか怒らせるようなことあたししちゃった!?」
「いいえ、怒ってなんていないわ。ただあなたのことが心配なの」
「え?なんであたし心配されてるの?あたし元気だけど?」
322:
「ええ、そうね。人って自分が一番分からないのかも知れないわね。だから由比ヶ浜さん、お願いだから私の言うことを聞いてちょうだい」
「もうゆきのん!話聞いてよ!あたし元気なの!」
「ならなぜ本なんて取り出したのかしら……
 ごめんなさい、早合点してしまったようね」
「ふぅ。分かってくれたんならべつにいいよ」
「その厚さなら十分始末できるわね」
おい、なんで俺を見るだよ。
「ちーがーうー。読書するの」
「……由比ヶ浜さんが読書、ですって?」
323:
「もう!ゆきのんってば失礼!あたしだって読書くらいするんだから!」
昨日まではポップティーンくらいだったけどな。
「それは何と言うのかしら…少し意外だわ」
「だってこの人の本おもしろいんだもん」
それは俺が勧めた作者の小説だった。
昨日貸してくれと言うから4冊渡した。
いま彼女が手に取っているのは昨日読んでいたのとは別の物。
なら昨日の本はもう読んだのかもな。
「私が知らない作者の作品ね。どう面白いのかしら」
「超ふつーのことを超ふつーに書いてるの!」
それは俺が抱いている印象を、由比ヶ浜なりに表現したものだった。
324:
「それは…日記なのかしら」
「ううん、作り話だよ」
「そう。それは果たして娯楽として成立しているのかしら」
「うん、おもしろいよ!ゆきのんも読んでみればきっと分かるよ!」
「…そうね、私も今度機会があれば読んでみるわ」
「うん!」
今日も今日とて奉仕部唯一の空気清浄器は順調に稼働しております。
彼女の笑顔を見ていたら、俺まで釣られて笑いそうになる。
持前のポーカーフェイスで乗り切ったけど。
325:
雪ノ下が淹れてくれた紅茶を3人で飲む。
今までとは違って、3人揃って読書をしながら。
いや、だからこれ奉仕部じゃねえよ。
けど楽しそうに読書してる由比ヶ浜を見ていると、そんなことはどうでもよくなった。
今まで読書なんてしてなかった彼女が、俺の好きな作者の本を読んでくれている。
それだけで心が温かくなる。
彼女が俺の好きな物に興味を持ってくれて、一緒に好きになろうとしてくれていることが嬉しい。
俺も彼女をもっと理解したい、もっと近づきたいと思い始めている。
なら俺も由比ヶ浜に倣ってポップティーンでも読みますかね、ギャルの生態を少しでも理解するためにも。
326:
俺は無類の甘党だ。
ケーキとか和菓子や生クリームが好きだし、チョコだって大好きだし
あと自分にも甘いし
それに
由比ヶ浜との恋愛は、彼女が作ってくれたケーキのように甘い。

327:
やっと終わった……
こんなグダグダでクオリティーが下がってく一方のssを見て下さった方がいれば本当に感謝です
最近ssを書き始めたばっかりだから色々試してたけど、やっぱり書き溜めなしは合わないですね
誤字脱字が激しいし展開に振り回される
と、言うわけで次はがっつり書き溜めてから投下したいと思います
また次のssで会えれば幸いです。
読んで下さった方、レス下さった方、本当にありがとうございました。
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