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後輩「先輩より胸が大きくなってしまいました……」


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1:
後輩『……』
先輩『……何見てんだよ』
後輩『先輩って』
先輩『おう』
後輩『……胸ないですよね』
先輩『ていっ』ベシッ
後輩『いった!』
先輩『うっさいなー、お前だって全然ねーだろーが!』
後輩『知ってますよぉ! だから、何て言うか、仲間意識わくなぁ、って言いたかっただけで……』
元スレ
SS報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
後輩「先輩より胸が大きくなってしまいました……」
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2:
先輩『仲間意識ねぇ』
後輩『わきません?』
先輩『わくかなぁ……』
後輩『ワタシ、アナタ、オナジ』
先輩『あはは、誰だよ』
後輩『先輩……、私を置いて勝手におっきくなったら嫌ですよ?』
先輩『前から思ってたけどさ、私も馬鹿だけど、お前すっげー馬鹿だよな』
後輩『えぇ〜――……』



3:



〜昼休み・一年生教室〜
後輩(……――なんて、つい最近もそんな会話をしていたのに……)
後輩(間違いない……)
後輩(……おっぱい、育ってきてる……)
後輩「……」
後輩(……そりゃ、一般的なサイズと比べれば、ですね)
後輩(ちょっと……、いやかなり、見劣りはしますが)
後輩(……先輩と比べると……)
後輩「妖怪・絶壁女だもんなぁ、先輩……」
先輩「だーれが」ガシッ
後輩「フガッ!?」
先輩「妖怪だクソ後輩ぃ……!」メリメリメリ
後輩「いぁらぁぁぁギブギブギブギブ!」
4:
先輩「……ったく」
後輩「せ、先輩……、いつからそこに……」
先輩「お馬鹿な後輩に、妖怪呼ばわりされた辺り」
後輩「いや、すみません……。って、何の用です?」
先輩「ジャンプ貸ーして」
後輩「あー……、まぁ、いいですけど……」ゴソゴソ
先輩「あれ、まだ読んでなかった?」
後輩「いえ、いいですいいです。大体読んだし。後で返してくださいね」ゴソゴソ
先輩「っていうかさぁ、お前、人のこと絶壁女とか言うなよなー」
後輩「はいはい……、あれ……どこだっけ……」ガサゴソ
先輩「お前だって、私と変わんねーサイズなんだからよ」
後輩「」ビクッ
5:
先輩「そんなちんちくりんで人をだなー――……ん?」
後輩「そ、そうですね。アハ、ハハ……」ドキドキ
先輩「後輩?」
後輩「ジャンプ! はいジャンプ! どうぞどうぞ!」
先輩「お……、おう……、サンキュー」
後輩「ほ、ほら先輩! はやく戻らないと昼休み終わっちゃいますよ!」
先輩「……? あ、あぁ、そうね……。じゃ、ありがとなー」
後輩「はい……」ホッ
先輩「……あ、そうだ」
後輩「!」ビク
先輩「お前、今日ヒマ?」
後輩「……普通に部活ですよ」
先輩「終わったら、一緒に帰ろうぜー。待ってるからさぁ」
後輩「結構遅くなっても、大丈夫ですか?」
先輩「いいよ。また図書室にいるからさ、終わったら連絡ちょーだい」
後輩「りょーかいです」
先輩「ヨロシク。んじゃなー」
後輩「はーい」
6:
〜放課後・グラウンド〜
部長「後輩ー! ラスト一周ー!」
後輩「……っ!」ダッ
部長「……はい、オッケー!」
後輩「はぁ……、はぁ……」
部長「休憩したら次、ビルドアップラン行くからね!」
後輩「はい……」ゼェゼェ
部長「返事ー!」
後輩「はいっ!」ゼェゼェ


7:



陸上部員1「……後輩ちゃんってさー」
陸上部員2「ん?」
部員1「カッコいいよね……」
部員2「えっ」
部員1「いや、変な意味じゃなくて!」
部員2「……分かる」
部員1「あっ、やっぱり!?」
部員2「キリッとしててさ。クールで寡黙なアスリート! って感じで」
部員1「そうそう! ストイック、っていうの? いつも真剣な顔で……」
部員2「あ、ほら、後輩ちゃんキリッとした顔してる」
部員1「ほんとだ」
8:
後輩「……」ハァハァ
後輩(うーん……)
後輩(もう、先輩に言っちゃおうか、おっぱいのこと……)
後輩(『ごめんなさーい、成長期きちゃってー』とか。……いや、謝るのもわざとらしいです)
後輩(『先輩よりもナイスバディですよ! ドヤっ』って……)
後輩(先輩なら、笑って済ましてくれるはず)
後輩「……よし」キリッ
部員2「カッコいい」
部員1「ねー」
9:
後輩「……」
後輩(……いや、駄目だ)
後輩(先輩は、胸もないし、男みたいな変な口調だし)
後輩(すぐぶつし、胸もないですけど……)
後輩(実は内面は、とても乙女なんです……)
後輩(自宅にクマちゃんのぬいぐるみとか置いているし)
後輩(私服もワンピースとか、着ることが多いし……)



部員1「でもさぁ……」
部員2「ん?」
部員1「カッコいいだけじゃなくて、可愛いよね、後輩ちゃん」
部員2「……分かる」
部員1「だよね! 顔は基本的に可愛い系っていうかさ、目ぇクリッとしてて」
部員2「そうそう! たまに表情が変わるのが、すっごい可愛くて……」
部員1「あ、ほら、後輩ちゃんシュンとした顔してる」
部員2「ほんとだ」
11:
後輩(……もし)
後輩(もし先輩に、うっかり打ち明けて、下手したら――……)
〜ポワワーン〜
先輩『そんな……、後輩の方がバストあるなんて……』
後輩『ち、違うんです、先輩、これは――』
先輩『仲間だって、言ってたのに……後輩の……後輩の……っ』
後輩『聞いて、先輩! 私は……!』
先輩『後輩の裏切りモノぉーーッ!!』ダッ
後輩『せんぱぁぁーーい!!』
〜ポワワワン〜
後輩(そうなったら……)
後輩「……」
後輩「……せんぱぁい……」シュン
部員1「可愛い」
部員2「ねー」
12:
部員1「……」
部員2「……」
部員1「……私」
部員2「ん?」
部員1「声かけてこようかな」
部員2「えっ、マジ?」
部員1「だ、だってほら、何か後輩ちゃん、困ってるみたいだし」
部員2「あー。あれかな、タイムもあんまり伸びてないみたいだし、最近。それかも」
部員1「で、でしょ! 色々相談とか、乗ってあげられたらなー、って」
部員2「え、じゃあ私も行く!」
13:



後輩(……やっぱり、黙っていよう)
後輩(おっぱいのことは……)
部員1「後輩ちゃん!」
部員2「やっほー」
後輩「……どうも。何か?」
部員1「あ、あのさ、何か悩み事?」
後輩「え……」
部員2「ずっと考え事してたみたいだから」
後輩「え、えっと……」
部員1「困ってることがあるなら、話聞くよ?」
部員2「そうだよー、私たちも、一応部活のセンパイなんだし」
15:
後輩「あの……」
後輩(できるわけないです……)
後輩「そう言ってもらえるのは、すごく、嬉しいですけど」
後輩(おっぱいの相談なんて……!)
後輩「これは、私自身の問題ですから」キリッ!
部員1(カッコいい……!)
部員2(可愛い……!)
後輩(おっぱい……!)
部長「休憩終わりなんだけどねー君たちー」
16:



後輩「……」
後輩「……うぅ」ヨタヨタ
先輩「おーっす」
後輩「先輩!」
先輩「お疲れー」
後輩「遅くなってすみません……」
先輩「ホントだよ。部活長すぎだろ」
後輩「終わった後の、自主トレが……」
先輩「……頑張ってるじゃん。お疲れ」ナデ
後輩「はい……」
先輩「無理すんなよ」
後輩「はい……」
17:



〜夜・帰り道〜
後輩「……――って感じで、最近、全然タイム伸びなくてー」
先輩「ふぅん」
後輩「4000すぎた辺りから、ガクッと息切れしちゃうんですよ」
先輩「体力ねーなぁ、チビだから」
後輩「チビって言わないでくださいよぉ!」
先輩「ひひひ」
後輩「私、前に食事制限して、カロリー絞ってたときには、全然ならなかったんですよね」
先輩「いや、でもアレ、お前ヤバかったじゃん、あの頃。生理来なくなったとか言って」
後輩「そうですけど、やっぱりもうちょっと、体重落としたほうが……」
先輩「やめとけって」
後輩「えぇー……」
先輩「今ちゃんと体作っとけ。先々絶対いいから」
後輩「そうですかぁ……」
18:
先輩「っていうか、お前まだ、あの短距離みたいなフォームやってんの?」
後輩「つま先走法ですよ」
先輩「フォアフットじゃねえだろアレ。前傾過ぎるって」
後輩「アレが一番しっくり来るんですって」
先輩「そうかぁ? ……あ、うどん食ってく?」
後輩「行きます!」
先輩「行きますかー」
後輩「私丸天」
先輩「好きだねー、丸天ー」
後輩「あれ絶対美味しいですって」
19:



〜うどん屋〜
後輩「うどん、丸天ー」
先輩「私もうどんー……あとー……」
後輩「何か面白いの、あります?」
先輩「おっちゃん、これ、この『金のショウガ天』って、何?」
うどん屋「ショウガのぉ〜……」
先輩「……」
後輩「……」
うどん屋「天ぷらぁ……」
先輩「……」
後輩「……」
うどん屋「……」
先輩「……なるほど」
後輩「まったく情報が増えてませんでしたけど」
20:



うどん屋「おまちぃ〜……」
先輩「……」パキッ
後輩「……」パキッ
先輩「いただきます」
後輩「いただきます」
先輩「ん……」ズルルルル
後輩「ん……」ズルルルル
先輩「……」モグモグ
後輩「……」モグモグ
先輩「ハフハフ」
後輩「ハフハフ」
21:



先輩「……」ゴクゴク
後輩「……」ゴクゴク
先輩「……ゲフッ」ゴトン
後輩「……けふっ」コトン
先輩「ごちそーさん」
後輩「ごちそーさん」
先輩「……はぁ」
後輩「どうでした? 金のショウガ天」
先輩「あー……いや、……普通?」
後輩「……ああいうの好きですよね、先輩。変り種というか、イロモノというか」
先輩「人生には冒険心が必要なんだぜ、後輩ちゃんよ」
後輩「しょっぱい冒険心ですね」
先輩「ほっとけ。お前こそ」
後輩「はい」
先輩「いっつも丸天って、飽きるだろ」
22:
後輩「飽きないですよぉ。美味しいもん」
先輩「そうかぁ?」
後輩「そうです。いいですか、丸天はです……ね……ふァ……」
先輩「……」
後輩「ぁふ……」
先輩「……」
後輩「すみません……」
先輩「……またウチ来るか?」
後輩「えー……」
先輩「バス待ってるだけで一時間だろ、お前のトコ」
後輩「うーん……」
先輩「別にどっちでもいいけど」
後輩「……じゃあ」
23:



〜市内アパート・先輩の部屋〜
後輩「おじゃましまーす」
先輩「あー、だっる……」
後輩「先輩、シャワー借りていいですか?」
先輩「後で返せよー」
後輩「来週返します」
先輩「なんで返す気ないのよ。着替えは……」
後輩「下着持ってきてるんで」
先輩「じゃ、勝手に使ってくれー」
後輩「はーい」
先輩「うーい」
24:



ジャーーーーーーーー
後輩「……はふ」
後輩「……」
後輩「……ぁー」
後輩「……」モミ
後輩「……」
後輩「……ぅーん」
ガチャリ
先輩『後輩ー?』
後輩「うひゃあ!」
25:
先輩『変な声だすな馬鹿。スウェット貸すから、ここ置いとくぞー』
後輩「あ、ありがとうございます!」
先輩『おうー』
ガチャリ
後輩「……」
後輩「……ふぅ」
後輩(……あ)
後輩(先輩シャンプー変えてる……)
後輩「……」ワシャワシャ
後輩「……」
後輩「……」ワシャワシャ
後輩(……前の方が好きだな……)
ジャーーーーーーーー
26:



後輩「……ふぅ」
後輩「シャワーいただきましたー」
先輩「おー」
後輩「……シャンプー、変えたんですね」
先輩「ん? ああ。いいだろ別に」
後輩「前のがいいです」
先輩「高いんだよ、前のやつ」
後輩「そっかぁ……」
先輩「私もシャワー行くわ」
後輩「はーい」
27:



先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
\オワカリイタダケタダロウカ……/
先輩「……」
後輩「……」
\ガメンノミギハシニ、ウラメシゲナオトコノカオガ……/
先輩「」ビクッ
後輩「」ビクッ
\コノチデコロサレタモノノオンネンガ……/
先輩「……」
後輩「……」
\ワレワレノマエニスガタヲミセテイル……/
先輩「とでも」
\トデモ……/
先輩「……言うのだろうか……」
後輩「……」
\イウノダロウカ……/
後輩「……」
先輩「……」
28:
\オワカリイタダケタダロウカ……/
先輩「……」
後輩「……」
\シロイキモノヲキタオンナノカゲガ……/
先輩「」ビクッ
後輩「」ビクッ
\モウイチドゴランイタダコウ……/
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「」ビクッ
後輩「」ビクッ
31:
二人とも可愛い
33:



先輩「……」
後輩「……」
先輩「」ビクッ
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「」ビクッ
後輩「せんぱい……」
先輩「……ん」
後輩「なんで……陸上……」
先輩「……」
後輩「やめちゃったんですかぁ……」
34:
先輩「……ほっとけよ」
後輩「わたし……は……」
先輩「……」
後輩「また……せんぱいと……はしり……」
先輩「お前なぁ……」
後輩「……」
先輩「あのな……私は……!」クルリ
後輩「……ムニャー」
先輩「……」
先輩「……寝言かよ!」
後輩「……フニャ」
先輩「馬鹿……、もう……ベッドで寝ろっての……」ガシッ
後輩「……」ポフッ
先輩「……おやすみ」
後輩「……フガ」Zzz
先輩「……」
先輩「……スゥ」
35:



〜先輩の夢〜
部長『……そっか、辞めちゃうんだね』
部長『仕方ないね……。私は、何も言えないけどね』
顧問『どうして退部なんだ? お前なら、もっと上を目指せるはずじゃないか』
顧問『なぁ、理由くらい、話してくれてもいいじゃないか。お前には、期待していたんだが――……』
父親『お前が決めたことなら、俺は文句は言わない』
父親『好きにしろ……』
後輩『どうして……』
後輩『勝手にいなくなっちゃうんですか……』
後輩『どうして……っ』
後輩『先輩なんて……』
後輩『嫌い、だ――……』
36:



先輩「……」
先輩「……」パチ
先輩「……」
先輩「……」ムクリ
先輩「……」
後輩「……グゥ」
先輩「……ぁー」
37:



〜後輩の夢〜
後輩「うぁー……」タユン
後輩「もうおっぱいおっきくなるの嫌だよぉ……」タユンタユン
後輩「神様ぁー」
神「いや、そう言われてもねぇ……」
後輩「おっぱいいらないよぉー」
神「そうなの?」
後輩「だって……、先輩に知られたら……」
神「知られたら?」
38:
後輩「……なんだろ、気まずい?」
神「何それ。自分でもよく分かってないんじゃん」
後輩「とにかく! 嫌なものは嫌なの!」
神「……でもそれ、ビーム出るよ?」
後輩「……マジで?」
神「マジマジ」
後輩「おっぱいビーム!」
神「あ、ちょっと練習、いりますけど」
後輩「おっぱいビーム! おっぱいビーム!」
39:



〜朝〜
先輩「おい、起きろー。おい後輩、おいったら」
後輩「……おっぱいびーむ……」ムニャムニャ
先輩「うわすげー馬鹿だこいつ! おい、いいから早く! 遅刻するだろーが!」
後輩「……ぅ?」
先輩「なーにがおっぱいビームだボケ! そんな胸から出るか!」
後輩「……? ……!」ガバッ
先輩「うぉ……!?」
40:
後輩「……せん、ぱい?」
先輩「おう」
後輩「……おっぱい?」
先輩「は?」
後輩「……見た?」
先輩「見てねーよ馬鹿」
後輩「……おっぱいビームって何……?」
先輩「こっちが聞きてーよクソ馬鹿たれー!」
41:



〜学校〜
後輩「……――だから、もっとギリギリまで寝れましたって」
先輩「やだよ、遅刻するじゃん」
後輩「しませんって、ダッシュで来ればー」
先輩「それが嫌だって。朝からバタバタしたくねーの」
後輩「あと10分は寝れたのにぃ……」
先輩「10分寝たって何も変わらねぇだろ……ほら、教室」
後輩「あ、着いちゃった。……それじゃ、先輩」
先輩「んー、またな」
後輩「……またですー」
42:
後輩「……あ」クルッ
後輩「先輩! 今日……!」
後輩「ほうかご……」
後輩「……」
後輩「……」
後輩「……行っちゃった」
キーンコーンカーンコーン
46:



〜昼休み・一年生教室〜
後輩「……」
ガヤガヤ
ガヤガヤ
後輩「……」
後輩(……ぁー)
後輩(……つまんない)
ガヤガヤ
ガヤガヤ
後輩(……クラスもつまんないし)
後輩(……授業もつまんないし……)
47:
「見た、昨日のドラマー?」
「見た見たー、あれ全っ然面白くないんだけど!」
「分っかる! ヤバいよねー」
後輩(……何で面白くないことの話してるんだろう)
後輩「……ぁー」
後輩(つまんない、つまんない、つまんない……)
後輩(………………走りたい)
級友1「ねぇ、後輩ちゃん」
後輩「……何?」
級友2「あのさ、クラスでカラオケ行こって言ってるんだけど、後輩ちゃんも来ない?」
級友1「なんかー、西高の男子もくるとかでー」
後輩「……ごめん、パス」
48:
級友1「だよね、ごめんごめん」
級友2「部活だもんね」
級友1「やっぱり、1年生エースともなるとね。サボってられないか」
級友2「また今度ー」
後輩「……」
後輩(……何なんだ)
後輩(西高の男子が来るから何だって言うんだろう……)
後輩(……っていうか、だよね、って何だ。だよね、って)
後輩「……」ウズ
後輩(早く走りたい)
49:
後輩「……」ウズウズ
後輩(走りたい、走りまくりたい……)
後輩(走って、走って、走って)
ガヤガヤ
ガヤガヤ
後輩「……」
後輩(走って、走って、そんで先輩に、疲れたぁ、って一緒にうどん屋行って、丸天食べて……)
後輩「……」
後輩(早く放課後にならないかな……)
50:



〜放課後・グラウンド〜
後輩「……ハッ ハッ」ダッダッダッ
後輩「……ハッ ハッ」
部長「後輩ー! ペースすぎるー!」
後輩「……!」ダダッ
部長「はいゴール!」
後輩「……ゼヒッ ゼヒ……」ハァハァ
部長「ちょっと飛ばしすぎだよね。ずっと走りっぱなしだし。ほら、いい加減休憩――」
後輩「……すみま……せ、もう一本タイム……お願いします……」フラ
部長「後輩、ちょっ……」
51:
後輩「……っ」ダッ
後輩「……ハッハッ」
後輩(……先輩、連絡なかったな……)
後輩(もう帰ったかも……)
後輩「……」ダッダッダッ
後輩「……ハッ ゼハ」
後輩(……今日はもう、いないかなぁ……)
後輩「……」ダッダッダッ
後輩(もっと、走りたい)
後輩(……何か今日は)
後輩(……ずっと走ってたい……)
部長「――ぅはい! ――ス! ペースおと――……」
後輩「……ハッ ハッ」ダッダッダッ
52:



部員1「――ゃん! 後輩ちゃん! 聞こえてる!?」
後輩「……ぁ」
部員1「よかった……、座り込んだきり、返事なかったから……」
後輩「……ゲホッ」
部員1「大丈夫?」
後輩「……だいじょう、ぶ、です」スク
部員1「後輩ちゃん!?」
後輩「……」タッタッタッ
後輩(……まだ体動く)
後輩(……もっと、もっと走りたい……)
後輩「……っ!」ダッ
部員1「……」ハラハラ
53:



〜夜〜
顧問「自主トレ組も今日はそこまでー! 解散ー! 今日はグラウンドもう使うなー!」
後輩「……ゼェ ゼェ」
後輩「……」ヨロ
顧問「後輩……? おい……」
後輩「大丈夫です……」
顧問「フラフラじゃないか……、ちょっと後輩……」
後輩「お疲れ様でした……」
後輩(……先輩)
後輩(……図書室にいるかな……)
後輩「……」タッ
54:
後輩「……」タッタッタッ
後輩「……」タッタッ…
後輩「……ハァ ハァ」
後輩(……図書室、電気消えてる)
後輩「……」
ガチャン
後輩(……鍵かかってるし)
後輩「……つまんないの」
後輩「……帰ろう」
55:



〜帰り道〜
後輩「……」トボトボ
後輩「……」
後輩「……」
後輩「……」タッ
後輩(つまんないなぁ……)
後輩「……」タッタッ…
後輩「……」タッタッタッ
後輩(……走りたいな)
後輩(もっと走りたい、もっと走りたい、もっと……)
後輩(走りたい……!)
後輩「……っ!」タッタッタッ
後輩「っ――…………」タッタッタッタッ…
56:



57:



〜翌日昼休み・一年生教室〜
後輩「――こっちがイチゴみるく味でしょ?」
先輩「……うん」モグモグ
後輩「で、こっちがミルクいちご味」
先輩「……はい」モグモグ
後輩「どっちが美味しいです?」
先輩「……」モグモグ
後輩「……」
先輩「変わんねーだろ」
後輩「ですよねー!」
61:
先輩「一緒じゃん」
後輩「ですよね、先輩もそう思いますよね!」
先輩「え、何が違うのよ、これ実際」
後輩「イチゴみるくの方が、10円高いんですよ」
先輩「だったらミルクいちごだけ買えよ……」
後輩「いや、私の舌が馬鹿なだけかなー、と思って」
先輩「頭ほどじゃねーから安心しな」モグモグ
後輩「なにおー!」
先輩「……あ、でも私これ、違い分かるかも」
後輩「マジで?」
先輩「マジマジ」
62:
後輩「じゃ、これ当ててくださいね」
先輩「よっしゃ、こいやー」
後輩「目ぇつぶってー」
先輩「おし」
後輩「……薄目開けてません?」
先輩「開けてない開けてない」
後輩「じゃ、はい、あーん」
先輩「あー」パクッ
後輩「……どうです?」
先輩「……」モグモグ
後輩「……」
先輩「……今何げに」
後輩「はい?」
先輩「すげー恥ずかしいことした気がする……」
後輩「あ」
63:
先輩「……」
後輩「……」キョロキョロ
ガヤガヤ
ガヤガヤ
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……さ、さて……、そろそろ戻るかな」
後輩「は、はい。……あ、先輩、今日放課後暇です?」
先輩「おう」
後輩「一緒に帰りません?」
先輩「お前、遅くなる?」
後輩「あー……、いつも通りかと……。何か用事ありました?」
先輩「や、聞いただけ。また図書室にいるから、終わったら連絡くれな」
後輩「はーい」
キーンコーンカーンコーン
64:
先輩「じゃ、本当に戻るぞ」ガタッ
後輩「はい、それじゃ……っと……あっ」ガタッ フラッ
先輩「お……っと!」ガシッ
後輩「ひゃっ……、す、すみません……」
先輩「何よろけてんだよ、危ねーなぁ……」
後輩「あはは、ちょっと昨日、部活張り切りすぎちゃって足が……、……あ」
先輩「おいおいおい、無理す――」
後輩「っ!」バッ
先輩「?」
65:
後輩「……む」
先輩「む?」
後輩「……胸、触りました……?」
先輩「はぁ?」
後輩「あっ、いや、な、何でもないです……」
先輩「……? まぁいいや。気をつけろよー?」
後輩「はいー……」
66:
〜放課後・グラウンド〜
部長「――でー、来月の大会に向けて、今日からタイムを取っていくからねー」
「「「「はい!」」」」
後輩(うーん……)
後輩(何かの拍子に、うっかり先輩におっぱいを触られたら、アウトだな……)
後輩(……いや、ブラ小さいヤツのままだし……触られたくらいじゃ……)
部長「今回は最初の二週間でメンバー決まるから、みんな気合入れていくこと!」
「「「「はい!」」」」
後輩(当分ブラは変えない方がいいのかな……)
後輩「……」
顧問「……おら後輩ぃ! 聞いてるのかぁ!」
後輩「っ!」ビクッ
67:
顧問「聞いてるのかって言ってんだ! 返事どうしたぁ!」
後輩「っ……すみません! 聞いてませんでした!」
顧問「ボーっとしてるんじゃない! 大会出さねぇぞお前!」
後輩「すみませんでした!」
顧問「しっかりしろお前ぇ!」
後輩「……」
顧問「返事ぃ!」
後輩「はいっ!」
後輩(うぅ……)シュン
68:



〜夜・帰り道〜
先輩「それで、一日中センセイにしごかれた?」
後輩「……はい」
先輩「はは、災難だったなー」
後輩「いっつも居ないくせに、たまに練習来ると怒鳴るんですもん」
先輩「センセイ怒ると怖ぇよな」
後輩「はぁ……、いつもより疲れました……」
先輩「お疲れ」ナデ
後輩「……はい」
69:
先輩「ていうか」
後輩「?」
先輩「珍しいな、後輩がセンセイに叱られるなんて」
後輩「そうですか……?」
先輩「部活中はマジメな方じゃん、お前」
後輩「別に、マジメではないですけど……」
先輩「叱られるほどボサッとしてた、なんて言うからさ。珍しいなー、って思っただけだよ」
後輩「……」
先輩「なんかあったか?」
後輩「え……」
先輩「……」
後輩「べ、別に、何もないですよ?」
先輩「そう?」
後輩「たまたまですって。たまたま、ボンヤリしてただけで」
先輩「……なら、いいんだけどさ。じゃ、うどん食い行こうぜ」
後輩「……はい」
70:
〜うどん屋〜
後輩「うどん、丸天ー」
先輩「私、うどんのー……えーと……」
後輩「何か面白いの、あります?」
先輩「……んー。おっちゃん、この、『三種のネギかき揚げ』って……」
うどん屋「ネギのぉ〜……」
先輩「……」
後輩「……」
うどん屋「かき揚げぇ……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……私も丸天で」
後輩「えっ」
うどん屋「エッ……」
71:



後輩「ネギ、頼んだらよかったのに」
先輩「いや、あれは違うだろ」
後輩「違うって何ですか」
先輩「何つぅの、トキメキ? みたいなのをね、感じないっていうか……分かるだろ?」
後輩「分かりません」
うどん屋「おまちぃ〜……」
先輩「……」パキッ
後輩「……」パキッ
先輩「いただきます」
後輩「いただきます」
72:
先輩「……」ズゾゾ
後輩「……」ズゾゾ
先輩「ハフハフ」
後輩「ハフハフ」
先輩「丸天うまいな」ズゾー
後輩「ですよね」ズゾー
73:



〜別の日、昼休み・二年教室〜
ザァーーー
部長「……雨、やまないねぇ」
先輩「部活お休みですか」
部長「今日は室内練習だね」
先輩「……マジで珍しいですね。部長が二年の教室来るなんて」
部長「三年になってから初めてだからね。……やっぱり、落ち着かないね」
先輩(部長、語尾に『ね』がつく癖、変わってねーなぁ……)
部長「……何ニヤニヤしてんのよ、人の顔見て」
先輩「いえ、別に別に」
ザァーーー
78:
ザァーーー
先輩「……んで」
部長「……後輩さんのことなんだけどね」
先輩「あぁ……」
部長「どうも最近、様子がね……」
先輩「……」
部長「部活中もね、なんだか集中力を欠いてることが多いみたいで」
先輩「うーん……」
部長「……身が入ってないのかと思ったら、別の日には、倒れるまで走り込んだり」
先輩「倒れるまでって?」
部長「そのまんま。倒れるまで」
先輩「うぅーん……」
79:
部長「落ち着いてるようで、性格にムラのある子だけど、この頃は特に、っていうかね……」
先輩(部長、よく見てるなぁ……)
部長「部長としては、やっぱり気になるじゃない。何かあったのかな、って」
先輩「それで私のところに来ますか……」
部長「だってあなた、今もちょくちょく、後輩さんと帰ったりしてるんだよね?」
先輩「ちょくちょくっていうか、まぁ、結構頻繁に」
部長「だからね、あなたの目から、気づくこととかない? 後輩さんの、普段と違うところ」
先輩「うぅん……」
ザァーーーーーー
80:
先輩「普段と……、そう言われると、確かに……」
部長「うんうん」
先輩「最近、ちょっと変……かな?」
部長「……どんな風に?」
先輩「いや、大したことじゃないんすけど……、なんか声かけたり、体触ったりすると、やけにビビッて、変な声出したり」
部長「さ、触る?」ピクリ
先輩「肩叩いたり、転びそうなとこ、支えたりするとか」
部長「ああ、うん、そうね……そうだよね……」
先輩「……あ、あと、胸かな?」
部長「胸?」
先輩「えぇ……、たまにですけど、おっぱいって単語に反応したり、胸を、こう……隠す? ポーズ、よくしたり」
部長「……」
先輩「何なんすかねー、あれ」
81:
部長「……なるほど」
先輩「はい」
部長「男ね」
先輩「はい?」
部長「だから! 好きな男ができたんだよね、きっと! 」
先輩「部長?」
部長「そのせいで後輩さん、ちょっと情緒不安定になってるんだよ」
先輩「はぁ……」
部長「胸のことも、やっぱり好きな男ができたせいで、自分の発育不良な体が気になって、つい意識しちゃってるんだろうね」
先輩「そうかなぁ……。陸上が恋人、って感じですけどねぇ、どっちかっていうと、あいつ」
部長「その陸上がおろそかになってるんだもん。間違いないね」
先輩「そんなもんですかねぇ……」
部長「結構当たるんだよね、私のカン」メガネクイッ
先輩「なるほど……」
82:
ザァーーーーーー
先輩「でも……、そうかそうか、男かぁ……」
部長「何その顔」
先輩「にひひ……、いや、折角だから、どんな男に惚れてるのか、後輩のヤツから聞き出してやろうと思って」
部長「あなたねぇ……」
先輩「何です?」
部長「それ聞き出して、どうするつもり?」
先輩「それは……いや……、別にどうも、しねーですけど……」
部長「だったら、そっとしておいてあげなさいよね」
先輩「えぇー……。でも、水くさいじゃないですか」
部長「でもねぇ」
83:
先輩「それに、」
部長「それに?」
先輩「変な男につかまってたら、嫌ですし。あいつ馬鹿だから」
部長「……そうだとしても、それは後輩さん自身の問題でしょ。私やあなたが、口出していいことだとは思わないけどね」
先輩「いやいや、そこは先輩としてね、言ってやったほうが……」
部長「やめときなさいって」
先輩「……えぇー」
部長「確かに、あなたが陸上部にいたころは、あの子にとって『憧れの先輩』だったけどね、あなた」
先輩「……」
部長「いつもあなたにベッタリで……、私の言うこと全然聞かないのにね、あなたが言うと、すぐ言うこと聞いてね……」
先輩「はは……」
84:
部長「でも、今は違うからね。今は『ただの』『仲の良い先輩』」
先輩「……」
部長「そんな、ただの先輩が、とやかく言える立場かしらね」
先輩「いや、私は、あいつにとって、それでも、先輩だし……」
部長「あのころみたいに?」
先輩「……」
ザァァーーーーーー
先輩「それは……」
部長「キツい言い方だけどね、後輩さんのプライベートに口を挟んで、それで、あなたから後輩さんに、何かしてあげられるの?」
85:
先輩「ぅ……」
部長「今のあなたに」
先輩「今の、私は……」
部長「……」
先輩「……う、うどんとか、打てる」
ザァァーーーーーー
部長「……」
先輩「……」
部長「……手打ち?」
先輩「……はい」
部長「……」
先輩「……部活辞めてから、凝ってて」
部長「……いや、それはそれで、すごいけどね」
86:
先輩「……」
部長「それだけ……?」
先輩「……め、めちゃめちゃ美味しいの作ります……」
部長「……」
先輩「……」
部長「……」
先輩「……丸天も、つけます……」
部長「……」
先輩「……」
ザァァーーーーーー
87:



〜放課後・廊下〜
後輩「――あ、先輩」
先輩「……」
後輩「せんぱーい!」タタッ
先輩「……後輩」
後輩「……どうかしました?」
先輩「……私、絶対日本一のうどん職人になるから……」
後輩「はぁ」
先輩「お前に、最高のうどん食わせてやるからな……」
後輩「うわ馬鹿だこの人……。それより、今日一緒に帰れます?」
先輩「ん? ああ……」
後輩「今日、たぶん室内練習だから、居残りなしなんで。いつもよりは早いです」
先輩「おー。それじゃ、終わったら連絡くれー」
後輩「はいー」
88:
〜夕方・帰り道〜
ザーーーーーーー
後輩「やっぱり、ちゃんと走れないと、ストレスたまるなぁ……」
先輩「犬かお前は」
後輩「あー……、まだ降るのかなぁ」
先輩「……」
後輩「さっさと晴れないかなぁ」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……先輩?」
先輩「……んぁ」
89:
後輩「どうかしました?」
先輩「へ? あぁ、いや、なんでもない。なんでもないよ?」
後輩「そうですか……?」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……先輩!」
先輩「あ、あぁ! うん! 聞いてる聞いてる」
後輩「もう、どうしたんですか! 何か今日、変ですよ、先輩!」
先輩「……んー」
後輩「……?」
先輩「いや」
後輩「先輩……?」
先輩「お前こそ」
92:
後輩「え」
先輩「変だろ、ちょっと。最近」
後輩「そ、そんなこと、ないですよ……」
先輩「そんなことあるって」
ザーーーーーーー
先輩「なぁ……」
後輩「……はぃ」
先輩「なんか、あったんだろ?」
後輩「……!」
93:
先輩「えっと……それってさぁ、やっぱ私にも、言いたくない?」
後輩「……それは」
先輩「……」
後輩「っ……先輩」
先輩「うん」
後輩「あの、わ、私……っ」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……本当に、なんでもないんですってばぁ」
先輩「……」
94:
後輩「あはは、やーだなぁ、もう。何変な顔してるんですか、変な先輩ー」
先輩「……だよなぁ」
後輩「え」
先輩「そーだよなー、隠し事なんて器用な真似、お前には無理だもんなー、馬鹿だからー」
後輩「ちょっとぉ! 何ですかそれぇ!」
先輩「うーるせぇー。あー、心配して損したぁー」ガツッガツッ
後輩「わっ、ちょっと! 傘に傘ぶつけんのやめてください! つめたっ! 雨入る! つめたい!」
先輩「よーし、うどん屋行くぞぉー」ガツガツ
後輩「やーめーてー」
ザァァー…………
95:



〜うどん屋〜
後輩「うどん、丸天ー」
先輩「私はー……」
後輩「……」
先輩「……おっちゃん、この『イカ墨ゲソ天』って何」
うどん屋「イカのぉ〜……」
先輩「……」
後輩「……」
うどん屋「天ぷらぁ〜……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……じゃあそれで」
後輩「……おぉ」
96:



先輩「……」
後輩「……」
後輩(……何で、嘘ついちゃったんだろう)
後輩(私の馬鹿……)
後輩(……完全に、先輩に話すタイミングを失いました……)
後輩「……」
後輩(どうしよう……)
後輩(このまま、先輩に隠し通せるのか――……)
うどん屋「おまちぃ〜……」
先輩「黒っ!」
後輩「うわ黒っ!」
97:
先輩「……」
後輩「……うわぁ」
先輩「……」パキ
後輩「……」パキッ
先輩「……うわ、なんかネチョっとしてる」
後輩「……」
先輩「こ、後輩ちゃん? ちょっといる?」
後輩「いらないです……」
先輩「……」
後輩「……いただきます」
先輩「……」ゴクリ
98:



先輩「……」ゴト
後輩「……」コトッ
先輩「ごちそうさまでした」
後輩「ごちそうさまでした」
先輩「……ぁー」
後輩「……先輩、イカ墨天……」
先輩「めちゃめちゃ美味かった」
後輩「えぇぇ……」
先輩「イカ墨のクセのある塩味が、うどんだしによく馴染んでですね、とろみのある衣が麺に絡みまして」
99:
後輩「マジですかぁー……」
先輩「冒険してみるもんだわぁ」
後輩「明らかに食べちゃいけない感じでしたけどねぇ」
先輩「……今日どうするよ? ウチ来るか?」
後輩「あ、いいですか?」
先輩「いいぜー。そうだ、こないだ、新しいDVD買ったんだよね」
後輩「怖いヤツ?」
先輩「怖いヤツ」
100:



〜夜・先輩の部屋〜
\キャッ……ナニイマノォ……/
先輩「うわ……っ」
後輩「え?」
先輩「いや、今写ったじゃん。人の顔みたいなの」
後輩「嘘、写りましたか?」
先輩「写った写った。見えただろ?」
後輩「えー、どの辺でした?」
先輩「あの辺、画面の左上の……」
101:
\モウイチドゴランイタダコウ……/
先輩「ほら、左上の、あそこにな、もうすぐ写るから」
後輩「は、はい」ゴクリ
\ミギハシニ、オンナノスガタガクッキリト……/
先輩「……」
後輩「……」
102:



先輩「……」
後輩「……」
先輩「」ビクッ
後輩「……ムニャ」
先輩「……あ」
後輩「……グゥ」
先輩「……また寝るし」
先輩「はぁ……」
先輩(なーんで……)
先輩(何も言わねーのかなぁ……)
先輩(……『なんでもない』なんて)
先輩(そんなわけねーだろ、馬鹿……)
103:
後輩「……」Zzz
先輩「……ったく、ベッドで寝ろっての」ガシ
後輩「……フニャ」Zzz
先輩「よいしょっと……」フニッ
後輩「……」Zzz
先輩「……?」
後輩「……」Zzz
先輩「……」モミ
後輩「……ん」
104:
先輩「……」フニフニ
後輩「……ん、ぅ」
先輩「……」モミモミ
後輩「……ぅう〜ん」
先輩「……うぉ」
先輩(……おおきくなってる)
先輩「……」
後輩「……ンヘヘェ」
先輩(……こいつも)
先輩(成長してるんだな……)
105:
先輩(ちんちくりんのままだと思ってたけど、いつの間にか……)
先輩(私の知らないうちに、成長して)
先輩(大人になって、色んなことがあって……、色んな人と出会って)
先輩(私の関係ねーところで)
先輩「……」
先輩(私は……)
先輩(陸上やめて、ただ毎日、だらだら過ごして……)
先輩(なーんにも、成長してなくて……駄目なヤツのまんまで、変わらなくて……)
先輩「……はぁ」
106:
先輩(後輩には、後輩の人生があって)
先輩(その中で、ちゃんと成長してるのに……)
先輩(私は……私の人生って……何だ……?)
先輩「……うぁー」
先輩(……なんか)
先輩(……泣けてきた)
先輩「……」グスッ
後輩「……しぇんぱぃぃ……」Zzz
先輩「なんだよばかぁ」グス
後輩「……ウヘヘ」
先輩「なんの夢だよ……」
109:



110:
〜数日後、昼休み・一年生教室〜
後輩「……」モミモミ
先輩「……」
後輩「……」モミモミ
先輩「……うぁー」
後輩「……」モミモミ
先輩「あっ、そこそこ、もうちょい下」
後輩「どっちですかぁ……」モミモミ
111:
先輩「あー、そこ。そこでいいって。……いや、お前上手いな、肩揉み」
後輩「何が悲しくて、先輩の肩なんて揉まなきゃいけないんですか……」モミモミ
先輩「じゃんけんで負けたお前が悪い」
後輩「うぅぅ……」モミモミ
先輩「うぁー」
後輩「……」モミモミ
先輩「あー、気持ちい」
後輩「おばあちゃんですか」
先輩「うーるせえ」
後輩「……」モミ
先輩「……」
後輩「……?」モミモミ
先輩「……なんだよ」
112:
後輩「いえ……、いつもなら、アイアンクローが飛んでくるところだったので」
先輩「ははっ、しねーよそんなこと」
後輩「そ、そうですか」
先輩「そうですよ。おら、ちゃんと揉めー」
後輩「はーい……」モミモミ
後輩(最近の先輩、……なんだろう)
後輩(優しい? というか、まとも……? いや……)
後輩(なんというか……)
後輩(普通だ……)
113:
後輩「……先輩、今日放課後、一緒に帰ります?」モミ
先輩「おう。あー……いや、今日パス」
後輩「えぇー……」
先輩「えぇー、ってなんだよ」
後輩「つまんないです……」
先輩「だったらたまには、部活のヤツとか、あと色々、一緒に帰ったりさ」
後輩「色々って何ですかぁ」
先輩「色々は色々だろ」
後輩「……」
後輩(それから……)
後輩(あんまり、一緒に帰ってくれなくなったような気がする……)
後輩「……むぅ」
114:



〜夕方・グラウンド〜
部長「後輩ー! ラストー!」
後輩「……っ!」ダッ
部長「はいゴール!」
後輩「……ハァ ハァ」
顧問「後輩! 来い!」
後輩「センセイ……」ゼェゼェ
顧問「お前、どんどんフォームが雑になってる! 何だ最後の一周! ペースも無茶苦茶!」
後輩「……」
115:
顧問「どんどんタイム落ちてるだろーが! 大会本気で出さねぇぞ!」
後輩「はい……」
後輩(……部活なんて)
後輩(全然楽しくないし……)
部員2「後輩ちゃん? 大丈夫……?」
後輩「……っ」ダダッ
部員1「あっ……」
部員2「……」
後輩(大会だって、興味ないし……)
後輩(……私は、ただ走れればいいんだ)
後輩(く走れれば、それはもちろん、うれしいけど……)
116:
後輩「ハァ ハァ」タッタッタッ
後輩(とにかく、走って、走って、走って。走って……、走って)
後輩「ハァ ……っ」タッタッタッ
後輩(あのときの、先輩みたいな……)
後輩「……」タッタッ
後輩(先輩――……)
後輩「……」タッ……
後輩「……」
後輩「……ぁ!」
後輩「あぁ……っ!」
後輩(先輩……! もしかして……)
後輩(気付いた!? 私のおっぱい……)
後輩(おおきくなってることに!)
117:
後輩「あ……ぁ……」
後輩(そうだ……、でも、きっと私を気遣って――……)
〜ポワワワ〜
先輩『お前が悪いわけじゃないさ』
先輩『胸なんて、大きくなるヤツは、勝手に大きくなっちゃうんだから……』
先輩『そんなことで、お前との付き合い方を変えたくないよ』
先輩『分かってる……でも……』
先輩『やっぱり、気持ちの整理を、付けられないんだ……』
先輩『だから、しばらく……距離を置きたい……』
先輩『ごめんな……』
〜ポワワーン〜
118:
後輩「……」
部長「……後輩さん? ちょっと、後輩さん?」
後輩「……っ」ウルウル
部長「えっ!」
部員1「あー……」
部員2「部長が後輩ちゃん泣かしたー……」
部長「えっ!? えぇ!?」
119:



〜夕方・うどん屋〜
先輩「素うどんー」
うどん屋「あい〜……」
先輩「……」
先輩「……ふぅ」
うどん屋「……今日はぁ〜」
先輩「ん」
うどん屋「一緒じゃねぇのか、あのちっさい子ぉ……」
先輩「……まぁね」
120:
うどん屋「……ケンカかい」
先輩「あはは、違うよ。たまたま」
うどん屋「……」
先輩「……ま、私とうどん食ってるだけが、あいつの人生じゃないってことさ」
うどん屋「……そうかいぃ」
先輩「うん」
うどん屋「……」
先輩「……」
うどん屋「……」
先輩「……」
121:
うどん屋「……お待ちぃ〜」
先輩「……何か、乗ってるけど」
うどん屋「サービスぅ〜……」
先輩「いや、サービスじゃなくて、なに……何これ」
うどん屋「塩辛とヌタのぉ〜……」
先輩「……」
うどん屋「天ぷらぁ……」
先輩「……」
うどん屋「……」
122:
先輩「……」パキ
先輩「……いただきます」
うどん屋「……」
先輩「……」ズルルー
先輩「……」モグモグ
先輩「……」
先輩「……ハフ」
先輩「……」モグモグ
先輩「……んグふぉ!?」
先輩「……げほっ、げほ……」
うどん屋「……」
先輩「……」モグモグ
先輩「……ングッ」ゲホッ
うどん屋「……」
123:



〜夜・後輩の家〜
後輩「……」
後輩「……はぁ」
後輩(うどん、食べたくなってきた……)
後輩「……」
後輩「……」
後輩「……」ガタ
後輩「……」
後輩(走ろう……)
後輩(走って、モヤモヤしてるの、全部忘れよう……)
後輩(走って、走って、走って、忘れなきゃ、全部)
124:



後輩「……」タッタッタッ
後輩(走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ)
後輩(走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ)
後輩(走って、走って……)
後輩「……」タッタッタッ
後輩「……っ」ダッ
後輩(走らなきゃ、もっとく)
後輩(もっと、もっと、もっと――……)
後輩「……ハァ ハァ」ダッダッダッ
後輩「……――」
125:



126:



〜別の日・一年生教室〜
先輩「おじゃましまー……あれ」
ガヤガヤ
ガヤガヤ
先輩「……」キョロキョロ
先輩「……?」
先輩「……」
先輩「……ねぇねぇ、ちょっと」
級友1「ひゃ! ご、ごめんなさい!」ビクッ
先輩(なんか謝られた……!)
127:
先輩「いや、大したことじゃないんだけどさぁ」
級友1「私、何かしました……?」ビクビク
先輩「……」
先輩(……露骨にビビられてる……)
先輩「あ〜……、あのね」
級友1「は、はい」
先輩「ちょっと、聞きたいんだけど」ニッコリ
級友1「あ……はい……」ドキ
先輩「後輩のヤツ、どこか知ってる?」
128:
級友1「えっと、後輩ちゃんなら……」
先輩「うん」
級友1「あそこに」チラッ



〜グラウンド〜
後輩「……ゼハ ゼハ」タッタッ
後輩「……っ、……ハァ ハァ」タッタッタッ



先輩「……」
級友1「最近は、昼休みもしょっちゅう、ああしてるみたいで」
先輩「……そっかぁ」
先輩「……」
先輩(後輩……)
129:
ガヤガヤ
ガヤガヤ
級友1「……」
級友2「ちょっと! ねえ!」
級友1「え……?」
級友2「え、じゃないわよ! 何で上級生に絡まれてんの!」
級友1「あ、うん……」
級友2「大丈夫だった? 怖いことされなかった?」
級友1「うん……かっこよかった……」
級友2「はぁぁ!?」
130:



〜放課後・グラウンド〜
後輩「……」
部員1「後輩ちゃん、メンバー選ばれたんだってね!」
後輩「えぇ、まぁ……」
部員2「さすがー。やっぱり、5000は後輩ちゃんがウチで一番だねー!」
後輩「……すみません、走ってきます」
部員1「あ……!」
部員「……行っちゃった」
部長「後輩さん!」
後輩「部長……」
131:
部長「ちょっとね、いいかな」
後輩「はい……」
後輩(いいから早く、走りたいのに……)
部長「今回は、あなたも大会メンバーに選ばれたわけだけどね、最近はタイムも伸びてないじゃない」
後輩「……」
部長「走り方も、分かってないと思うけど、かなり崩れちゃってるし……」
後輩「……」
132:
部長「大会まで日がないしね、メンバーとしてね、一度自分のランを見直す必要がね――……」
後輩「すみません……、そういうの、走りながら考えさせてください」
部長「……あのね、そういうわけにもいかないよね。ちょっと、大会メンバーとしての自覚が足りないんじゃ――……」
後輩「……」ペコリ
部長「あっ、ちょっと! こら!」
後輩「……」タッタッタッ
部長「まったくもう……」
133:
後輩「……ハッ ハッ」タッタッ
後輩「……」
後輩(どうでもいいです、大会なんて……)
後輩(つまんないし、面倒くさいし……)
後輩(部活なんて……)
後輩「……ぁー」タッタッ
後輩(……やめちゃおっかな、部活)
後輩「……」タッ
134:
後輩「……ハッ ハッ」タッタッ
後輩(……そうだ、やめちゃえばいいんだ)
後輩(走るだけなら、いつでも、どこでもできます)
後輩(部活じゃなくても、別によくて)
後輩(そうすれば放課後だって、早く帰れますし、先輩とも――)
後輩「……」タッタッ
後輩「…………」タッタッタッ
後輩(……先輩)
135:



〜夜・公園〜
後輩「……イッチニィ」グッグッ
後輩「……サンシー」グッグッ
後輩(……何かもう……)
後輩(全部どうでもいいや……)
後輩「……」グイーッ
後輩(走ろう。走ります)
後輩(走って、走って……)
後輩(そうすれば、どうでもいいことなんて……)
後輩(全部、忘れて……)
136:
後輩「……ぉし」タッタッ
後輩(……そうだ、こうやって)
後輩(走って、走って、走って……つまんないこと、忘れて)
後輩(先輩のことだって……)
後輩「……ゼッ ゼハッ」ダダッ
後輩(そもそも、先輩のことなんて、最初から気にしなければいいんだ)
後輩(私に何にも言わないで、部活やめちゃうし)
後輩(誘わなきゃ一緒に帰ってくれないし)
後輩(意地悪言うし、すぐぶつし)
後輩(胸ないし)
後輩(先輩なんて……)
後輩「……っ!」ダッダッダッ
後輩「……――っ ――! ――」
137:



138:



部長『はーい、体験入部の一年生は、ここに並んでねー』
ゾロゾロ
後輩『……』
部長『体験入部といってもね、今日は見学だけですけどね。えーっと――……』
後輩『……』
部長『……――で、あっちのメンバーは短距離チームですね。中には長距離もやってる人も――』
後輩『……』
後輩(つまんない、な……)
139:
後輩『……』
後輩(走るだけなら、どこでもできるし……)
後輩(……陸上部、別に入らなくてもいいかもしれません……)
部長『トラックの方はね、今、5000メートルの練習中ですね。って、一人だけですけど――……』
後輩『……』
後輩『…………あ』
先輩『……ハッ ハッ』ダッダッダッ
後輩『……!』
後輩(い……!)
先輩『……っ!』ダダッ
後輩(あの人、すごい……! まだくなるんだ……!)
後輩(それに……)
後輩(すごく、綺麗な走り方……)
140:
後輩『……』
先輩『……ハァ ハァ……、ん……?』
後輩『……』ポケー
先輩『おい、おーい』
後輩『……ハッ』
先輩『……あんた、一年? 体験入部だろ?』
後輩『は、はい!』
先輩『……いいのか? みんなもう、ゾロゾロどっか行っちまったぞ?』
後輩『へェ!?』
141:
先輩『……』
後輩『えっ、あ……!? あれ……どうしよ……っ』キョロキョロ
先輩『……なぁ』
後輩『……は、はい』
先輩『あんた見てただろ、私、走ってるの。ずっと』
後輩『……』コクン
先輩『どうだった?』
後輩『そのっ……き、綺麗でした! それで、すごく迫力あって! あと……』
先輩『っはは、テレビのセールスかよ』
後輩『あっ……』
後輩(笑うと……)
後輩(えくぼ、できるんだぁ……)
142:
先輩『なぁ』
後輩『はい』
先輩『走る? 一緒に』
後輩『え……』
先輩『走りたいんだろ? ずっとこっち見てたし』
後輩『あ……は、はい!』
先輩『よーし、じゃあ行こうぜー』グイッ
後輩『……あっ、あの! 先輩!』
先輩『ん?』
後輩『……もしかして、男の人、ですか……?』
先輩『……』ベシッ
後輩『いたい!』
143:



144:



後輩「……――ゼヒッ ゼヒ」タッタッタッ
後輩「……ゲホ」
後輩「……ぅぐ」
後輩「……」
後輩「……ぉぇぇ」バシャ
後輩「……ハッ ハッ」
後輩「……っ」バシャッ
後輩「……はぁ、ハァ……」
145:
後輩「……ゲホッ」
後輩「……しぇんぱい」
先輩「――後輩?」
後輩「……?」
先輩「え、後輩? は? 何してんだお前」
後輩「……先輩こそ……なにして……」
先輩「いや……コンビニ行こうと思って……、って、お前、なんでこんなとこ……まさか、走って?」
後輩「こんな、とこ……?」
先輩「……いや、ここ」
後輩「……」
先輩「ウチの前……」
後輩「……あ」
151:
後輩ちゃん…
辛いな
でも好きな雰囲気の話だ
153:
後輩「……」
先輩「……」
後輩(本当だ……)
先輩「……ってかお前、モドした? おい、大丈夫かよ、おい」
後輩「……」
先輩「とにかく、ウチ行くぞ。な、歩けるか?」
後輩「……」ヨロッ
先輩「ほら、肩」
後輩「ぁ……」
先輩「行くぞ」
後輩「……」コクリ
154:



〜先輩の部屋〜
先輩「……ほら、水」
後輩「……大丈夫です」
先輩「飲めよ。いいから」
後輩「ありがとう、ございます……」
先輩「……はぁ」
後輩「……」グビ
155:
先輩「ったく、お前は……、嫌なことがあるとすぐそうやって……」
後輩「……」
先輩「ムチャするなよー、本当にー……」
後輩「……」
先輩「っていうかそれ、気は晴れても、問題解決にはならねーんだからな」
後輩「……」
先輩「はは、体育会系ネクラめ」
後輩「……」
156:
先輩「……なぁ」
後輩「……」
先輩「……そんな顔してるくらい悩んでるなら、誰かに相談しろって」
後輩「……」
先輩「……私に言えってことじゃなくてな?」
後輩「……」
先輩「私はさ、本当、駄目だし、どうしようもないからさ」
後輩「……」
先輩「でも、私にじゃなくてもさ。お前の周りは、色んなヤツいるんだから」
後輩「……もん」ボソ
157:
先輩「部活の連中でも、クラスでも、家族でも、何でも――……」
後輩「……――じゃないもん」
先輩「……ん?」
後輩「……先輩、駄目なんかじゃないもん」
先輩「お、おう」
後輩「駄目じゃないもん! だ、駄目じゃない……、先輩、どうしようもなくないもん……!」
先輩「もん、ってお前……後輩、どうした? おい……?」
後輩「先輩は、先輩が……っ、本当は、いちばん……、すごくて……っ、ぅぐ」ポロポロ
先輩「うわっ! ばか、泣くなお前!」
158:
後輩「ェぐっ……、みんなぁ……知らないだけだもん……、しぇんぱいがぁ……どんな人かぁ……しらないんだぁ……ヒック」ポロポロ
先輩「な、何言ってんのこの子は……、分かった、分かったから落ち着いて……!」
後輩「ぜんぱい゛ぃ゛……」ヌギ
先輩「え?」
後輩「ごべんなさ゛い゛ぃ……」ヌギヌギ
先輩「……え、何が。っていうか、え、何で脱いだの? え?」
後輩「わ゛だし゛……、おっぱい゛おっきくな゛っだぁ゛……」ポロポロ
先輩「……うん。え? え?」
後輩「う゛え゛ぇ゛ぇぇん」ポロポロポロ
先輩「……うん、うん? ねぇ待って分かんない私」
159:



〜後輩による赤裸々な事情説明〜



160:
後輩「…………」
先輩「アッハハハハ!! アハハハハハハ!!」
後輩「…………」
先輩「アハハハ!! アーッハッハハハ!!」バンバン
後輩「…………」
先輩「はぁー……、はぁー……」
後輩「…………」
先輩「ふっ……ぶふっ……アハハハハ!!」
後輩「……ちょっと! もう! 笑いすぎですよぉ!」
161:
先輩「はっ、ははっ、わる……悪い……」
後輩「もう……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……ングフッ」
後輩「……」
先輩「……アーハハハハ!」バンバン
後輩「もーおーやぁーだぁー」
先輩「あー腹いて。はぁー……」
後輩「……」
先輩「後輩ちゃーん……」
後輩「……はい」
先輩「ばーか」
後輩「ムカつくっ……」
162:
先輩「お前、胸が大きくなって、気まずいとか……、いやぁー……、お前……」
後輩「……」
先輩「ばっかだなー本当……」
後輩「うるさいなー! こ、こっちは、これでも真剣に悩んでたんですよ!」
先輩「どれどれ、ちょっとよく見せろ」ズイッ
後輩「あ……いや、そんなじっくり見られると、恥ずかしいんですけど……」
先輩「なーに照れてんだ、自分から脱いどいて、……うわー、ブラ痕真っ赤……」
後輩「ブラ、前のサイズのままだったから……、先輩にバレないように……」
先輩「はぁぁ……」
後輩「ため息つかないでください!」
163:
先輩「んじゃ、新しいの買い行こうぜ、週末あたりさぁ」
後輩「あ……」
先輩「あ、でも土曜、部活か」
後輩「ご、午前中で終わるから……」
先輩「じゃあ午後からか。街中の方の駅前でいいかー?」
後輩「はい……、あ……の……」
先輩「ついでに昼もあの辺食べようぜ」
後輩「……あのっ、先輩!」
先輩「ん」
後輩「私……、おっぱいおっきくなっても……、先輩、一緒に遊んでくれるんですか……?」
先輩「…………………………」
後輩「何ですかその表情ー!」
164:
先輩「馬鹿馬鹿しすぎて答えたくないんだけど……」
後輩「あー! またバカって言ったぁ! もうバカっていうの禁止ですー!」
先輩「ばーかばーか」
後輩「うーるさーいー!」
先輩「いい加減服着ろよバカ」
後輩「汗でビショビショなの! 着たくないの!」
先輩「スウェット貸そうか?」
後輩「う、うん……」
先輩「シャワーは?」
後輩「うん……使う……」
165:



166:



〜土曜・市街駅前〜
先輩「……」ボケー
先輩「……」
先輩「…………ふァ」
先輩「はぁ……」
先輩(なーにが、『おっぱいおっきくなったぁ』だ……)
先輩(ばかだなぁ、アイツは……)
先輩「……」
先輩(別に……)
先輩(私だって、そのうち……あのくらいだったら……)
先輩「……」サワサワ
後輩「あっ! 先輩いた! 先輩!」
先輩「うおぉ!?」ビクッ
172:
後輩「すみません! 部活、長引いちゃって……」
先輩「いや、うん、いいのよ、全然」アセアセ
後輩「? どうしま……し…………えぇぇー……」
先輩「な、なんだよ」
後輩「先輩がぁー……、かわいい服着てるぅー……」
先輩「い、いいだろ別に……!」
後輩「やーぁーだー……、私だっさいブレザーだもん、一緒に歩くのやだぁー……」
173:
先輩「何が嫌なんだよ。誰も気にしねーから、そんなこと」
後輩「気にするぅー……、おうち行くー……着替えてくるぅー……」
先輩「うわ、クソ面倒臭いこいつ……」
後輩「臭……、あ……やばい、私、汗くさいかも」スンスン
先輩「大丈夫だっての! ああもう!」
後輩「やだ、これ、先輩と一緒に歩くの嫌です。帰る」
先輩「帰んなバカ! ほら、もうさっさと行くぞ!」グイッ
後輩「やーだーもーうー、一回おうちかーえーるー……」
先輩「行ーくーぞー」グイグイ
後輩「うーあー……」
174:



〜市街・喫茶店〜
先輩「……」
後輩「……」ハムハム
先輩「……」
後輩「……おいっ」
先輩「……」
後輩「っしい……!」
先輩「うまいだろー、この店のミルフィーユー」
後輩「はい!」ハムハム
先輩「よかったなー」
後輩「〜♪」ハムハム
175:
先輩「……」
後輩「……?」ハム
先輩「……」
後輩「……なんです?」
先輩「いや……、すっかり調子戻ったなーって」
後輩「私?」
先輩「うん。こないだは、ビービー泣いてたのに」
後輩「ビービーなんか、泣いてないですよぉ……」
先輩「泣いてたじゃねーか」
後輩「せめて、ピーピーくらいですって」
先輩「変わんねーから。どっちでもいーから」
176:
後輩「いえ、ピーピーの方がまだ可愛げが――……」
先輩「…………お前さ」
後輩「はい?」
先輩「悩んでたのって……、本ッ当に、胸のことだけなの?」
後輩「い……、いいじゃないですか、別に」
先輩「そうじゃなくて。……実はもっと他に、マジで悩んでるとか、ないんだな?」
後輩「えと……、たとえば……?」
先輩「たとえばー……、……好きな男が、できたとか……」
後輩「ブッ!」
先輩「どうなんだ?」
後輩「あははははっ! ないですよ、ないない!」
177:
先輩「……」
後輩「もぉー、マジメな顔で何言い出すのかと思ったらー」
先輩「……そっか」
先輩(部長、大ハズレですよ、アンタのカン……)
後輩「どうしたんですか、急に」
先輩「いや、部長って残念な人だな、って……」
後輩「へ? 何で部長……?」
先輩「いやいや、こっちの話」
後輩「?」
178:
先輩「ま、分かった……けど、後輩」ズイ
後輩「は、はい?」
先輩「お前な、何か悩みができたら、絶対誰かに相談しろよ」
後輩「なんですか急に……」
先輩「黙ってたら、一人で抱え込んで、勝手に落ち込んじゃうだろ、お前」
後輩「う……」
先輩「埒明かなくなって、どうしていいか分からなくて、走り回ってさぁ。どーせ、クソつまんねーことなのにさー」
後輩「また、そうやってバカにするし!」
先輩「本当のことだろー?」
後輩「それは……、まぁー……」
179:
先輩「だから、ひとりで悩まない! お前がさ、もし、言いにくいことでもな、私に――……」
〜〜〜〜
部長「確かに、あなたが陸上部にいたころは、あの子にとって『憧れの先輩』だったけどね、あなた」
部長「でも、今は違うからね。今は『ただの』『仲の良い先輩』」
部長「そんな、ただの先輩が、とやかく言える立場かしらね」
部長「キツい言い方だけどね、後輩さんのプライベートに口を挟んで、それで、あなたから後輩さんに、何かしてあげられるの?」
〜〜〜〜
先輩「……――わ、私にじゃ、なくても、いいんだけど……」
後輩「?」
180:
先輩「とにかく、誰でもいいから、言うこと!」
後輩「ちぇー……、わかりましたよぉ、だ」ハムハム
先輩(くそう……)
先輩(部長め……)
先輩(残念なくせに、妙にグサッと来ること言いやがって……)
後輩「……おいひい」ハムハム
先輩「クリームついてる」
後輩「……」ゴシゴシ
先輩「……食べ終わったら、下着屋行こうな」
後輩「はい」
181:



〜市街・ランジェリーショップ〜
後輩「わぁ……、綺麗なお店ぇ」
先輩「最近できたんだと」
後輩「へぇぇ……、あっ、先輩見て見て! これすごい!」
先輩「うっわ、何それ」
後輩「……ど、どういう仕組みですか、これ」
先輩「……多分、ここが、こう……で、ここが開いて……」
後輩「うわ……」
先輩「うわぁ……」



182:



183:



〜夕方〜
後輩「いっぱい買ったぁ……」
先輩「結局、あちこち周ったなぁ」
後輩「部活のは、スポーツショップ行かないと、ないんで」
先輩「もっと可愛いヤツ、買えばよかったのに……」
後輩「せ、先輩のチョイスだと、フリフリのヤツばっかりなんですもん」
先輩「可愛いじゃん」
後輩「もっとシンプルなのがいいんです!」
先輩「あー、そう」
189:
先輩「……」テクテク
後輩「……」テクテク
先輩「うわー……、結構いい時間になったなぁ……」
後輩「……」
先輩「暗くなるの早ぇなぁ……」
後輩「……」
先輩「……あー」
後輩「……」
先輩「……さみ」
後輩「……先輩」
先輩「ん」
190:
後輩「今日は、ありがとうございました」
先輩「あはは、何だよ、いいよ、そういうの」
後輩「先輩がいてくれて、よかったです……」
先輩「な、何だよ、急に……」
後輩「私、人付き合いとか、下手くそで、苦手で……」
先輩「……」
後輩「……クラスの皆とかも、何を話してるのか、全然分かんないし、部活も……」
先輩「……」
191:
後輩「……距離感? っていうか……何言ったら嫌がられる、とかも……分かんないし……怖いし……」
先輩「バカだもんなー」
後輩「何で茶化すんですかぁ! もう、マジメに言ってのに!」
先輩「ははは」
後輩「……先輩は、先輩なら……」
先輩「ん」
後輩「……そうやって、ばーか、って言って、笑ってくれるから……」
先輩「……」
後輩「先輩には、何でも話していいんだって、思いました、私」
192:
先輩「……別に、私だけじゃないだくて、誰でもそんなもん――……」
後輩「先輩だけですよぉ」
先輩「……」
後輩「先輩は特別なんです!」
先輩「……特別」
後輩「はい」
先輩「部活辞めちゃっても?」
後輩「はい」
先輩「……後輩より胸がなくても?」
後輩「……ええ、一緒に走ってくれなくても、妖怪えぐれ乳でも、私にとって特べ――」
先輩「……」メリメリメリメリ
後輩「いだだだだごめんなざいごめんだざいギブギブギブギブ」
193:
先輩「……お前、人を面白妖怪みたいに言うのやめろな」
後輩「ごべんなさい……」
先輩(特別――……)
先輩(私は、こいつにとって、特別でいられるほど……)
先輩(何かを、してあげられて、いるんだろうか……?)
先輩(何を、してやれるんだろうか……?)
先輩(……)
先輩「……?」
先輩「……あれ?」
194:
先輩(……そもそも、私は何で)
先輩(こいつに、何かしてやりたいって思ってるんだ?)
先輩「……んぁ?」
後輩「先輩?」
先輩(……『特別』でいたいのか? 私は……?)
先輩(……『ただの先輩』じゃなくて……)
先輩「あ、いや、何でもねー」
後輩「変なのー」ケラケラ
先輩「……」
先輩(……あ、そっか)
先輩(違うんだ)
先輩(私は……、)
195:
後輩「じゃ、私バス停こっちなんで」
先輩「……おう。気ぃつけてなー」
先輩(後輩にとって、特別でいたいとか……、)
先輩(そういうわけじゃなくて……)
先輩「……後輩!」
後輩「はい?」
196:
先輩「大会、がんばれよ!」
後輩「えぇー……」
先輩「……何だその顔」
後輩「ダルいです……」
先輩「応援、行くよ。私も」
後輩「本当ですか!」
先輩(私にとって、後輩が――……)
先輩「おう」
後輩「じゃ、ちょっとがんばります」
197:
先輩「おう、優勝したら、うどん奢ってやる」
後輩「しょぼい」
先輩「丸天もつけるから」
後輩「しょぼいですって。もう、別にそんなのなくてもがんばりますから」
先輩(……そうだ)
先輩(そうなんだ)
先輩「がんばれよ」
後輩「うん」
先輩(私、こいつのこと――……)
198:



199:



〜数日後・夕方、うどん屋〜
うどん屋「相手に、何かしてやりてぇ、ってぇ気持ちはぁ〜……」
先輩「……」
うどん屋「そいつに想われたくてぇ、そういう気持ちになるんじゃねぇ……」
先輩「……」
うどん屋「そいつのことを想ってるからぁ、なるもんだぁ……」
先輩「……はぁ」
うどん屋「……」
先輩「いいこというねぇ……」
うどん屋「……」
先輩「……って、何の話だよ」
200:
うどん屋「天ぷらぁ……」
先輩「うん?」
うどん屋「アンタが毎回、オレのスペシャル天ぷら頼むからよぉ〜……」
先輩(スペシャル天ぷら……)
うどん屋「……いつの間にかぁ、アンタに『すげぇ!』って言われたくてぇ……、スペシャル天ぷら作ってたぁ……」
先輩「そ、そうなの……?」
うどん屋「あぁ……、でもなぁ〜……、最近じゃアンタがどう思うかばかり追いかけてぇ……、正直、迷走してたぁ……」
先輩「あー。最近アレだったもんね」
うどん屋「……けど、やっと分かったぁ……」
201:
先輩「……」
うどん屋「アンタの評価は関係ねぇ……、でも、アンタを喜ばすためにぃ、天ぷらぁ……作るぅ……」
先輩「……」
うどん屋「それがぁ……大事なんだってなぁ……」
先輩「な、なんか、照れるな……」
うどん屋「やっとできたぜぇ……、そんな天ぷらがよぉ〜……」
先輩「へぇ」
うどん屋「頼んでみるかい……?」
202:
先輩「どんなヤツ?」
うどん屋「フルーツポンチ天」
先輩「……」
うどん屋「頼んでぇ……」
先輩「……」
うどん屋「みるかいぃ……?」ニイィ
先輩「……」
先輩(これは……)
先輩(試されている……!)
うどん屋「……」
先輩「……」
203:
うどん屋「……」
先輩「……じゃ、それひとつ」
うどん屋「はいよぉ〜……」ニイィィ
先輩(やばい、嫌な予感しかしない)
うどん屋「……」
先輩「……」
うどん屋「……今日もぉ」
先輩「ん」
うどん屋「……一緒じゃ、ねぇんだなぁ、あのちっちゃいの……」
先輩「大会が近いからね。そっちに集中してんだよ」
うどん屋「そうかいぃ……」
204:



205:



〜同時刻・グラウンド〜
後輩「……ハァハァ」ダッ
後輩「……っ!」ダダッ
部長「……」ポカーン
部員1「……」
部員2「うわぁ……」
後輩「……」ダッダッダッ
後輩「……ハッ ハァッ」ダッダッ
後輩(最近の不調の原因……)
後輩(やっと分かった気がする……)
206:
部員1「後輩ちゃん、あんなにかったっけ……」
部員2「いやあれ、調子崩す前より、ずっといよ……」
部長「……なるほど」
後輩「……ハァ ハァ」ダッ
後輩「……」ダッダッ
後輩(腕も振れる……)
後輩(呼吸も苦しくない……)
部長「……やっと、吹っ切れたみたいね」メガネクイッ
部員1「部長?」
部員2「部長?」
後輩「……っ!」ダダッ
後輩(不調だったのは……)
後輩(間違いない……)
後輩(ブラのサイズが合ってなかったから……!)
210:
ブラかよwwww
212:
自分ぴったしサイズの爽快感!!
213:



214:



〜大会前日・うどん屋〜
後輩「じゃあ、私丸て――……」
先輩「後輩ちゃぁ〜ん、今日はこれにしなよぉ〜」ズイッ
後輩「どこから出してるんですか、その気色悪い声」
先輩「うっさいうっさい。いいからこれ、頼めって」
後輩「これって……?」
先輩「フルポン天」
後輩「……」
215:
後輩「……」
先輩「……いや、マジ、すげーから」
後輩「じゃあ、それで……」
先輩「………………」
後輩「な、何ですか……」
先輩「……」ニイィィ
うどん屋「……」ニイィィ
後輩「嫌な予感しかしない!」
216:
先輩「んじゃ、私はー……」
後輩「っていうか、メニューめっちゃ増えてますね……」
先輩「この、海老コーヒーかき揚げで」
後輩「コっ……」
うどん屋「あいよぉ〜……」
後輩「コーヒー……」
先輩「それより」
後輩「はい」
先輩「どうよ、調子の方は」
後輩「それが……」
先輩「?」
217:
後輩「先輩、私多分……」
先輩「おう」
後輩「今、人生で一番足いです……」
先輩「あはは、すごいじゃん」
後輩「いや、本当ですよ? なんか、練習のタイムですけど、去年の県大会の二位の人より、かったみたいですし」
先輩「マジで」
後輩「マジで優勝しちゃうかも……」
先輩「……あんまり、自分にプレッシャーかけすぎんなよ」
後輩「はい」
218:
先輩「……」
後輩「……先輩?」
先輩「……」ナデナデ
後輩「……?」
先輩「なんか……」ナデナデ
後輩「……何です?」
先輩「撫でたくなった」ナデナデ
後輩「? 変な先輩……」
先輩「……明日、ちゃんと見に行くからなー」
後輩「はい、いっぱい応援してくださいね」
先輩「いや、応援はこっそり……」
後輩「いやいやいや! そこはちゃんと、最前列で声出ししてくださいよぉー!」
219:
先輩「ばか、お前、明日学校サボって行くんだからな、私。センセーに見つかったらヤベぇから」
後輩「あ、そっか……」
先輩「念送って応援するわ」
後輩「あはは、絶対効かなそう」
先輩「舐めんな、すげぇ効くから」
後輩「ふふっ……、期待してますねー」
うどん屋「はいぃ……、お待ちぃ〜……」
先輩「お、きたきた」
後輩「フルポン天……」
先輩「……」ニイィ
うどん屋「……」ニイィ
後輩「だから何なんですかそれ!」
220:



〜翌日・陸上競技場〜
先輩「……うわ」
先輩「人いねー……」
先輩(……後輩)キョロキョロ
先輩(……)
先輩(……あ)
先輩(いた……)
後輩「……ハッ ハッ」タッタッ
先輩(……ウォーミングアップ中か)
221:
先輩「……」
先輩「……」
先輩(今の内から念送っとこう)
先輩「……ムムムム」グググ



後輩「……ハァ ハァ」タッタッ
後輩「……」タッタ……
後輩(……あそこで変なポーズ取ってる人……)
後輩(先輩……だよね……)
後輩「……」タッタッ
後輩「……」タッタッタッ
後輩(恥ずかしいから、とりあえず気付かないフリしましょう)
222:
部長「後輩さん」
後輩「はい!」
部長「もうすぐ出番ね」
後輩「はい。行ってきます」
部長「今日のレースは、県の強化選手にもなった西高の部長が出るからね。強敵だけど、がんばって」
後輩「……大丈夫です」
部長「……」
後輩「負けません」
後輩(先輩が、応援してくれてるんだ……)
後輩(がんばろう)
後輩(がんばります)
部長「行ってきなさい!」
後輩「はい!」
223:



パァン
先輩(……はじまった)
先輩「……」
先輩「……あは、超なつかしー」
先輩「……」
先輩「……お」
先輩「……」
先輩「……いいじゃんいいじゃん」
先輩「……」
先輩「よし……」
224:
先輩「……そうだ、逃げ切れ……」
先輩「……お前の得意な展開だろ」
先輩「……」
先輩「……おいおい!」
先輩「……」
先輩「……もっと離さねーと!」
先輩「……」
先輩「……ムムムム」グググ
先輩「……」
先輩「なに、あの金髪、……」
先輩「……」
先輩「……あ、あ」
先輩「……」
先輩「……あーもう!」
先輩「……」
先輩「……っ!」
ダッ
225:



後輩「……ハッ ハッ ハッ」ダッダッ
後輩(抜けない……!)
後輩(この人、いっ……)
後輩「……ハッ ゼッ ゼハッ」ダッ
後輩(やば……)
後輩(もう、息が切れて……)
後輩(足が……)
後輩「……ゼェ ゼェッ」ダッ
226:
後輩(くそ……っ)
後輩「……ゼェッ」
後輩(ダメだ……)
後輩(追いつけない……)
後輩(これ以上は……)
先輩「後輩ーっ!!」
後輩「!」
先輩「いけー!! いけいけいけ! 走れーっ!!」
後輩(先輩……!)
227:
先輩「まだいける! 走れ走れ走れー!! いけー後輩ー!!」
後輩「……ハァ ハァ」ダッ
後輩「……っ!!」ダダッ
後輩(そうだ……)
後輩(まだいける……!)
後輩「……っ」
後輩(だって、あのときの……)
先輩「いけいけいけーっ!! ラストスパートだー!! 走れーっ!」
後輩(あのときの先輩は……)
後輩(もっとかった!)
後輩「……っっ!」



228:



229:



〜夕方・陸上競技場前〜
後輩「……」
後輩「…………」
後輩「…………」ポケー
〜〜〜〜
先輩『まだいける! 走れ走れ走れー!! いけー後輩ー!!』
〜〜〜〜
後輩「……」
後輩「…………」ドクン
後輩(……先輩の応援が)
後輩(耳から離れません……)
230:
後輩(まだ走ってる最中みたいに……)
後輩(心臓、バクバクいってて……)
後輩(顔熱い……)
後輩「……」
後輩「…………」
後輩「………………」
後輩(実際……)
後輩(うすうす、自覚はありましたが……)
後輩(これは……)
231:
後輩(もしかして……)
後輩(私……、先輩のこと……)
先輩「よ」ポン
後輩「うひゃあ!」
先輩「お疲れ」
後輩「せ、せんぱ……」
先輩「……惜しかったな、後輩」
後輩「あ、あ、あ……」カアァ
先輩「でも、ホントあとちょっとだったじゃん」
後輩「あ、あわ、わ、私……」カアァァァ
232:
先輩「今日はな、悔しい思いしたけど、次は絶対――……、……後輩?」
後輩「私、その、えと……先輩……、私……っ」
先輩「どうしたお前? 顔赤くねーか?」ナデ
後輩「あっ、あ……!」
先輩「あ?」
後輩「あ……っ、ご……」
先輩「ご?」
後輩「ごめんなさぁぁぁい!!」ダダダダッ
先輩「何がぁ!?」
ダッダッダッ……
先輩「……」
先輩「……えぇー……」
先輩「今日イチ出てるんだけど、あいつ……」
239:



240:



〜数日後、うどん屋〜
先輩「寒くなってきたなー」
後輩「ですねぇ……」
うどん屋「おまちぃ〜……」
先輩「……」パキッ
後輩「……」パキッ
先輩「いただきます」
後輩「いただきます」
先輩「ん……」ズルルルル
後輩「ん……」ズルルルル
先輩「……」モグモグ
後輩「……」モグモグ
241:
先輩「ぁー……、あったまるー」
後輩「……」
先輩「……」ズルル
後輩「……」
先輩「……うめー」ズルル
後輩「先輩」
先輩「んぐ?」ズルルル
後輩「す、好きです」
先輩「ブハッ……!」
242:
後輩「……」
先輩「……ゲホッ ゲホッ」
後輩「付き合ってください!」
先輩「や、やだ」
後輩「……」
先輩「……」ズルルー
後輩「……」
先輩「ハフハフ」
後輩「……」
先輩「……おい?」
後輩「……うぇぇぇぇん」
先輩「泣いた!?」
243:
後輩「ふーらーれーたーぁー」ポロポロ
先輩「当たり前だバカ」
後輩「何でぇぇー……」ポロポロ
先輩「いや、お前な、うどん啜りながら告白されてな、『素敵、嬉しい!』なんてなるか?」
後輩「?」
先輩「ならねぇからなバカ」
後輩「……シチュエーションが大事ってこと?」
先輩「常識が大事ってことだバカ」
244:
後輩「いっぱいバカって言われました……」グシグシ
先輩「ほら、鼻かめ」
後輩「……」チーン
先輩「うどん冷めるぞ」
後輩「……」モグモグ
先輩「……」モグモグ
後輩「……丸天おいひい」
先輩「そうだな」
245:



〜先輩の部屋〜
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
\コノエイゾウハ、トウコウシャガカゾクデリョコウニ……/
先輩「……」
後輩「……」
\ソノトキ、ブキミナスガタガウツリコンダトイウ……/
先輩「……」
後輩「……」
246:
先輩「……」
後輩「……せんぱぁい」
先輩「……んー?」
後輩「……私のこと、嫌い?」
先輩「……なんで?」
後輩「だってぇ……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……ばーか」
後輩「……」
先輩「……好きだよ」
247:
後輩「ホントに?」
先輩「マジで」
後輩「……どれくらい?」
先輩「ちゅーしたいくらい」
後輩「ちゅ…………!?」
\オワカリイタダケタダロウカ……/
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……後輩」
後輩「……は、はいっ!?」
248:
先輩「ちゅーしていい?」
後輩「え、えっと……っ、あの、それは……っ」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……っ」ンーー
先輩「……ぷ」ペシ
後輩「あぅっ!」
先輩「キス顔おもしれーからやめろ」
後輩「ひ、ひどい!」
\モウイチドゴランイタダコウ……/
後輩「ご覧いただかない!」
先輩「あははは! あはははは!」
後輩「笑うなー!」
249:
先輩「後輩」
後輩「何ですか、もぉー……」
先輩「こっち向いて」
後輩「えっ……」
先輩「……」
後輩「あ……っ」
先輩「ん――……」
後輩「……」
先輩「……」
250:
後輩「……ん」
先輩「……」
251:
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……っは」
先輩「はぁ……」
後輩「……」
先輩「……」ナデ
後輩「せんぱぁい……」
先輩「ん?」
後輩「……私、今までずっと、内緒にしてたんですけど……」
252:
先輩「おう」
後輩「……私ね」
先輩「何だよ」
後輩「先輩のハダカ、実はめちゃくちゃ興奮するんです……」
先輩「……あっはは」
後輩「……」
先輩「ヘンタイー」
後輩「……えへへ」
先輩「……後輩」
後輩「……」
先輩「おいで」
後輩「うん」
253:



254:
〜おわり〜
255:
これで、このSSはおしまいです。
お読みくださった方、ありがとうございました。
コメントくださった方、とても嬉しかったです。ありがとうございました。
256:
おつ!
とってもよかった!
257:
乙ー!
緩急あって楽しめました
エロかわいい
260:
か〜
ええのう
テンポよくて面白かった
266:
おつ!
本当に良かった。
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